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東京大学大学院総合文化研究科 教授
2026年は西側先進国の首脳が中国を多く訪れる年になろう。イギリスやカナダ、そしてドイツはグリーンランド問題で軋轢のあるアメリカへのヘッジを意識して北京に赴く。アメリカも、自らへの最大の挑戦者が中国である以上、対話は不可欠というのが基本的な考え方だろう。だが、トランプ大統領の訪中に際し、中国が台湾問題や軍事安全保障面の「ディール(取引)」を持ちかけるのに対して、トランプ大統領が安保と経済とを直接ディールするとは考え難い。例えば、台湾を含む第一列島線を中国に委ねたりすることには国防総省などからの反発もあろう。ただ、従来から行ってきた台湾に売却する武器の内容や時期の調整などは想定される範囲内だ。
中国は目下、台湾、憲法(改正)、歴史(靖国)、安保三文書などを重点とし、日本が「軍国主義化」しているという一大キャンペーンを張っている。殆ど全てが根拠に乏しい「宣伝」だ。しかし、例えば集団的自衛権をめぐる存立危機事態という言葉が法律用語だということを世界の殆どのメディアがわからなかったように、先進国のメディアでさえ、事実を確定し難い状況にあるのではないか。日本政府は、中国の真似事をする必要はないが、しっかりと中国の宣伝に対抗するカウンター・ディスコースを世界に伝えるべきだ。特に、中国が力を入れているグローバルサウス諸国へ説明は重要だ。「お天道様がわかってくれる」という時代ではないのではないか。
中国は希少金属などをはじめとする戦略物資を交渉道具として使いながらアメリカとの交渉を有利に進め、結果的に対米関係の管理に成功しつつある。トランプ大統領の訪中は安定した米中関係の演出に使われるだろう。他方で、イギリス、カナダなどはトランプ政権へのヘッジとして中国との対話を進める。このままいけば、2026年はアメリカだけでなく、他のG7諸国も中国と一定程度関係改善する趨勢になろう。結果として、G7首脳声明などでロシアを批判しても、中国については特段問題視しない方向づけになる可能性もある。日本としては、このような趨勢の中でいかに対中関係を位置付けるのかが問われれている。
台湾の存在が日本にとって重要なことは言を俟たない。他方で、現実的な中国の台湾周辺での軍事行動、台湾への圧力だけでなく、台湾の頼総統の発言に見られるように、中国と台湾との間で極めて活発な言論戦が展開されていることは看過してはならない。この言論戦の只中にいる中国は、日本と台湾との間の距離に極めて敏感になっており、その「物差し」で対日関係を見極めている。高市政権成立後、日台関係に具体的に大きな変化があったわけではない。だが、日台首脳間のSNSでのやり取りや総理の国会発言などを、中国は上記の「言論戦」に基づいて理解し、高市政権が極めて「台湾寄り」だと独自に解釈し、日々苛立ちを露わにしているのである。
中国は2025年10月の高市早苗自民党総裁誕生、また高市政権誕生時の頼清徳総統からの祝辞の表現、またSNSという媒体での発信に強く抗議し神経を尖らせた。この一連の祝辞こそが、当時、習近平国家主席からの、あるいは中国から高市新総理への祝電がなかったことの原因だったと考えられる。11月7日の総理の国会での発言への中国側の反応もその延長上にあると見ていいだろう。そして、今回の衆議院選に関する高市総理への頼総統の祝辞に対する反応からも、中国がいかに高市ー頼関係に注目しているのかがわかる。高市総理、あるいは高市政権の台湾との関係こそ、中国が最も関心を有している点の一つであることは念頭においていいだろう。
欧州諸国がいわばアメリカへの「ヘッジ」として中国との関係を調整しつつある。決して中国との関係を「改善」しようとしているのではなく、その姿をアメリカに見せ、牽制しようとしている面もあろう。この記事に書かれているように、日本は欧州諸国との関係性を中国に先んじて強化し、欧州諸国の対中懸念の受け皿を提供するとともに、アメリカに対しては「日本は重要だ」と思わせ、中国に対しても少なくとも言葉の上では交渉の窓口は開かれているという対話姿勢を貫く必要があろう。2026年、先進国は中国への言動を多少緩めるだろう。不透明な状況の下、日本は決して「しなやか」で「柔軟」な外交を行えるかが問われている。
この選挙結果を中国から見れば、第一に公明党などの関係が良好な政党の後退は大きな打撃であろう。第二に、他方で、中国では、今回の選挙の結果を、安全保障政策や移民政策などだけでなく、すぐに憲法改正、歴史認識問題などと結びつけて考える傾向があり、警戒心が高まるだろう。第三に、中国には「強い政権」とは交渉をするという傾向が指摘されることもあるが、現在の習近平政権にとりすでに日本はそうした配慮をする対象ではないかもしれない。間も無く旧暦の「新年」を迎える中国では、まずは高市第二次内閣の姿勢を見極め、ついで3月の高市総理の訪米の成果を次第で対応を決めるものと思われる。
中国人観光客、とりわけ団体観光客の減少と同時並行的に中国系航空会社の減便が続いている。ただ、東京地区と関西地区などとの大きな差異には一定の意図があろう。中国が、自民党が公明党との連立を解消し、大阪地区が地盤の維新との閣外連立を嫌っていることが影響しているとの見方とか、関西地区や地方から高市政権批判の声が上がることを期待しての措置だという見方もあろう。ただ、いずれも根拠があるわけではない。いずれにせよ、中国による航空便減便の「格差」もまた、東京とそれ以外の地域での印象を変える、日本社会に対する中国の「分断工作」の一環として理解していいのではないだろうか。
集団的自衛権をめぐる存立危機事態をめぐっては、集団的自衛権を行使する対象はアメリカであるというのが基本線な筈だが、11月7日の国会答弁ではそこまで明確にしていなかった。今回の発言でそれがクリアになったと言えるだろう。「米軍の出動」の有無が存立危機事態成立の鍵になるということだ。他方で、「台湾問題の平和的解決」とは何かという論点に即していえば、米中含めて皆定義を曖昧にしていた中で、存立危機事態をめぐる高市総理の一連の発言は「台湾問題の平和的解決とはどのような状態か」ということを定義しようとしている面もある。この点に中国が敏感になっている面もあろう。
今回の『解放軍報』の書き振りは、前回の何衛東、苗華の時とやや異なっている。前回は、腐敗を強調していて金額が巨額であるとか腐敗の度合いを強調していたが、今回は「政治と腐敗」の双方が問題であるとされており、必ずしも腐敗の度合いが問題とはされていない。依然調査が進んでいないからだけなのかもしれないが、今回の方が中央軍事委員会の指導体制そのものにとって問題だというトーンが強くなっており、政治問題であったことを窺わせる。(公表されない可能性も大きいが)具体的に何が問題になったのかということについて今後とも注意が必要だ。
2025年11月を最後に消息不明だった張又侠の失脚が報じられた。12月にはある行事への参加記録もあったが実際には欠席だったという。張の失脚という「噂」は確かに広がっていた。しかし、張又侠と習近平とは父親同士も関係が近く、まさに竹馬の友であった。だが、張又侠は習近平の3歳上で、2027年で74歳になるため引退が想定され、後継者争いが熾烈になっていた。だが、張の失脚まではないだろうとの見方が強かった。この人事が習近平の軍隊掌握の最終形態なのか、それとも中央軍事委員会と各戦区との間の連携の混乱を生むのかは不明だが、これまでの幹部の粛清も含め、目下のところ軍事行動の混乱は見られていないと思われる。
2020年、アメリカが国内の知的財産を「盗んでいる」などとしてテキサス州ヒューストンにある中国総領事館の閉鎖を命じた。これに対して中国政府は四川省成都市のアメリカ総領事館の閉鎖を命じた。「米国の館員が中国の内政に干渉し、安全を損なう活動をした」ことが理由だった。今回の日本の重慶総領事をめぐるアグレマン問題については、この2020年の事例を彷彿とさせる。日本政府は、中国政府による重慶総領事館の閉鎖命令が出た場合の対処方法とともに、総領事館が閉鎖されない場合でも、次の中国の駐日総領事人事にいかに対処するのか対処方法を定めておく必要があろう。いずれにしても粛々、淡々と対応することが求められる。
中国政府の財政は厳しい。中央政府でも社会保障費、軍事費、科学技術関連予算が増大し、地方政府はより深刻で、コロナの時期にはボーナスの支払いが滞ったところもある。他方で、この記事の指摘する「層層加碼」も深刻だ。中央の指示を拡大解釈して過剰反応し、自己防衛を図る傾向が地方や政府機関にある。茅台酒は高級酒であり、かつては公的な場でも多く使われ、「投機」の対象にもなった。しかし、「倹約と浪費反対に関する条例」が出て公費での飲酒は困難になり、今年の改正で「アンタッチャブル」になったのだろう。ただ、山村の貧困問題もまた習近平政権の主要政策だ。主要政策同士の矛盾を習近平政権はいかに調整するのだろうか。
今後の政治日程を考えれば、1月23日の通常国会冒頭で衆議院を解散し、例えば2月8日に選挙があるとすれば、春節が2月17日なので、中国の春節休みに入ろうとする時期に選挙がなされることになり、もし自民党が選挙に勝てば、春節後に日本の有権者からの支持を受けた第二次高市政権が誕生しているということになる。軍民両用の物品、レアアースもちらつかせても、意図と正反対の結果が出る事態に直面し、中国がさらに拳を上げれば、今度は4月のトランプ大統領訪中前に日中関係が更に悪化することになる。2026年は台湾の地方選挙の年でもある。国内での政治手法を対外的に用いても、国内同様の結果が出るわけではないであろう。
中国では2010年代後半から急速に出生率が低下している。一つの原因は二人目を出産する人の大幅減少が理由だとも言われる。現在の中国の人口動態は大きな問題が二つある。第一に、目下、就職活動をしている大学生の学年人口が依然多く、経済の低迷もあり失業率が極めて高いことだ。2010年代後半以降の人口が減った学年が就職活動する頃には人口比の問題で就職状況は改善するかもしれないが、当面は失業問題が深刻になろう。第二に、一人っ子政策が1980年代から始められたことから、2030年代に一人っ子世代が50代を超えるため、3世代が一人っ子になるということがある。これは社会保障に深刻な問題を生むだろう。
台湾は2016年に成立した民進党の蔡英文政権が明確に経済貿易の脱中国を進め、2024年に成立した同党の頼清徳政権も同様の政策を進めてきた。これまで対中投資は大きく減少してきたが、貿易面では中国依存が見られていた。しかし、2025年に台湾の輸出先としてアメリカが中国を抜いたということだ。民進党政権の政策が功を奏したということでもあろう。ただ、他方で台湾の対米輸出が増加し、黒字が大幅に伸びたということを、トランプ政権が問題視する可能性も否めない。台湾としては経済貿易関係の多角化が課題になるであろう。
中国が日本への「制裁」を強めている。2025年、APECに際して習近平国家主席と高市総理との間の首脳会談にゴーサインを出した王毅外相、外交部の立場は中国政府内部で極めて厳しい。それだけに、いつもは関係改善に向けて(中国の中央の中では)前向きに動く外交部が動けない。他方で、中国は先進国から自らへの制裁から学び、その手法を吸収しつつ、先進国などに意趣返しをする。経済安保にしても、何にしても、先進国が中国、北朝鮮、イランなどにやっていることが先進国自らに向かってくるということだ。これも中国の経済力、昨今の技術力があってのことであり、日本としても今後のことも想定して対処法を講じねばならないだろう。
「中国が東シナ海・南シナ海で活動を活発化させている。」このような言葉が過去のものになりつつある。中国は第一列島線を超えた軍事活動を恒常化している。レーダー照射事件も沖縄の南東で生じたし、2025年末の台湾周辺での演習も台湾の東側への軍の展開が主眼だっただろう。沖縄から台湾にかけての第一列島線は、中国により東西から挟まれている状態だ。これに加えて、圧倒的な中短距離ミサイルの装備、そして核弾頭の増強がある。中国の経済規模は日本の4倍前後になっている。東アジアの軍事安全保障はまさに「新時代」を迎えている。日米同盟の強化だけでなく、情勢認識を共有する他国といかに連携できるのかが問われる。
記事中にあるように、ここで記されている内容は中国外交部の公式発表、中国メディアの報道に基づいているようだ。文中にある、「李氏も「中国の核心的利益と重大な関心を尊重し、『一つの中国』を堅持する」と述べた」というのも中国外交部のウェブサイトにある内容だ。韓国は、中国の「一つの中国原則」、特に台湾に関連する部分に対しては、1992年の中韓国交正常化以来、「尊重する」といっており、その原則を受け入れてはいない。李在明大統領も事前のインタビューで「尊重」を使っており、「『一つの中国』を堅持する」とはいっていない。これから公表されるであろう韓国大統領府、外交部による公式の会見記録を併せて見るべきだろう。
大統領の「我々は当然、中国の大きな懸案である台湾問題で『一つの中国』を尊重するという立場に変わりはないと考える」という言葉は、1992年の韓中国交正常化の際の韓国政府の言葉と基本的に変わらない。そもそも中国には一つの中国「原則」があり、先進各国には一つの中国「政策」がある。中国の「一つの中国原則」では台湾を中国の不可分の一部とするが、日本はそれを十分理解し尊重するとし、韓国は「尊重する」としている。韓国もまた中国の「一つの中国原則」を全面的に承認してはいないということだ。ただ、「1992年の時と変わらない」ではなく、「尊重する」と直接述べることで中国への配慮を示しているとも見ることができる。
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川島真
東京大学大学院総合文化研究科 教授
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【注目するニュース分野】アジア政治、中国外交
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