[go: up one dir, main page]

朝日新聞デジタル

本好きの人。文章を書く人。100パー読んだらいいけど、読まれたくない。『文体のひみつ』

INTERESTS
2026.01.13

|

  • 佐藤友美
    ライター・エッセイスト

    書籍ライターとして、ビジネス書、実用書、教育書等のライティングを担当する一方、独自の切り口で、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆している。さとゆみビジネスライティングゼミ主宰。卒ゼミ生によるメディア『CORECOLOR』編集長。 著書に『書く仕事がしたい』(CCCメディアハウス)、子育てエッセイ『ママはキミと一緒にオトナになる』(小学館)、『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)など。1976年北海道知床半島生まれ。

インターネットで検索すれば瞬時に欲しい情報が得られ、様々な動画があふれている。こんな時代に、こんな時代だからこそ、本と向き合いたい。ライター・エッセイストの佐藤友美(さとゆみ)さんが、おすすめの本を紹介します。

「本当は教えたくない名店」とか「内緒にしておきたい隠れ家」とか、よくあるじゃないですか。あれはまあ、そう言っとけば気を引けるでしょう的な、手あかのついた常套句(じょうとうく)だと思ってた。

だけどね! この本は! この本は本当にそれ系なの。
本好きの人、文章がうまくなりたい人、もれなく全員読んだほうがいい。だけど、やっぱり読んでほしくない。紹介したくない……。その葛藤に、この原稿の締め切り前日までもだえてました。
ライターのさとゆみと申します。

ええとまず、この本の何が面白いか。

私、最初はだいぶひねた気持ちで読んだんです。この本。
だってね、三宅香帆さん、ここ数年、本売れすぎ。本出すぎ。noteもコラムも日々続々。テレビにYouTubeに、「紅白」にまで出演されていたではないか。
読むことさえ追いつかないのに、いつ書いてるの? 次から次へどこにそんなにネタがあるの? って思うじゃないですか。
そしていじわるく考えるわけです。そんなに量産したら、内容薄まるんじゃないかしら。クオリティ落ちるんじゃないかしら。
だから、どこの姑(しゅうとめ)だよってくらいのいじわるさで、読んだわけです。この新作。『文体のひみつ』。

ところがどっこい。

有名作家やコピーライター、ブロガーなどの文体の特徴を、三宅流で解説していくこの本、私、ずぶっずぶに読み込んでしまった。

蛍光ペンで線を引きまくり(インクが途中できれた)、本は書き込みだらけ。
なるほど! だから私たちは「しいたけ.」さんの文章に心をつかまれ、星野源さんの言葉にふにゃっとなって、さくらももこさんに笑ってしまうのか!! 
この目線で読むと、読んだことある本はもう一度新鮮だし、読んだことない本はめっぽう読んでみたくなる。ときどき自分の意見も言いたくなるところ含めてもう、三宅さんの手のひらの上でころりんこですよ。

私だけの「ひみつ」にしたい

そして、同時ににんまりしてしまった。もう、読んでる間じゅう、ずっとにまにましてたよね。だって私、この先のライター寿命、10年くらいはのびたんじゃね?と思ったからです。
いやもちろん、文章を書く仕事をしているから、「うまい人」の文章は線をひきながら読んできた。だけど、こんなふうに抽象化したり類型化するまでは分析できていない。

会話割り込みモデル、使ってみよう。
過剰口語モデル、ここまでやると小気味よいのか。
炎上回避モデル、知りたい of 知りたかった技術がここに!
結末省略モデル、いや、これな。これよな!

もう、ひとモデル紹介されるごとに、武器をひとつずつ渡される心持ちだ。
うわああ、みんなにしゃべりたい。これ、読書好きの人たちと語りたい。絶対読書が楽しくなるやつじゃん! 文章を書く人たちとすり合わせしたい! あの文章もこの文章も肥やしにしたい!

そして、ハッとなった。
「これ……。私だけのひみつにしておきたい……オレだけスーパーサイヤ人になりたい……」

だいぶ葛藤したのは冒頭のとおり。でも、どうせ私が書こうが書くまいが、この本絶対売れちゃうんだ。独り占めできるはずないんだ……。
だったら、もう、みんなと一緒に語り合ったほうが楽しい……。楽しいはず……。
くうぅ。←イマココ

では、三宅香帆さん自身の文体のひみつは?

ところで、この本には、52個の文体の特徴が紹介されている。
そしてその特徴にはそれぞれネーミングがついている。
「かっぴーの弱気力」とか、「村上春樹の音感力」とか、「堺雅人のスライド力」とか。

だけど、みなさん、お気づきか?
一番すごいのは、「文章構造解説」というお堅い内容を、バラエティ番組ですかってくらいに一気に読ませてしまう三宅香帆さんだよ。

と、思ったので、私も三宅さんにならって三宅さんの文体のひみつを「◯◯力」って紹介したい。

最初に思いついたのは「横並び力」。
三宅さんの文章って、絶対に「上から目線」にならない。ずーっと横並びで、「あのね、こんなふうに考えたんだけど、どうかなあ、アリ? ナシ?」って目線で話してくる。
「上のものを下におろす」教師的な書き方ではなく「遠いものを近づける」友達的な書き方。自身の書き方を明文化してもらえたこと、ありがてえ。

そして、もうひとつ思ったのは「我田引水力」。
我田引水って、良い意味で使う言葉じゃないから失礼かもだけど、三宅さんは我田引水力がすさまじいと思う。
これだけたくさんの書き手の文体のひみつを分析して、そのエキスをちゅうちゅう吸って、みんなに読まれる文章を書いてしまうのだ。
これほどまでに、本という水脈から自分の田んぼに水を引いている人もいないと思う。いま、いちばん潤ってる田んぼ!

しかも、それだけじゃない。「我田」から、一気にドバッと水も養分も放流して人の田んぼまでじゃぼじゃぼ潤わせる。
三宅さん経由で誰かの書籍を読んだ人、どれほど爆誕しているだろう。家に「三宅推し積ん読棚」がある人、この指止まれ。

幸せの循環。
これが、大量に書いても、枯渇しない書き方かあ、と思う。

今年も読みます! 

フォトギャラリー(写真をクリックすると、詳しくご覧いただけます)

REACTION
COMMENT
TAGS
SHARE

FOR YOU
あなたにおすすめの記事

FOOD
&Travel

700種もの銘柄が。ビール大国・ドイツで「ノンアル」「ラードラー」人気上昇中 〈ドイツビール紀行③〉

INTERESTS
&Travel

予約がとれない大人気の韓国地方伝統火祭り「咸安落火ノリ」。日本の観光客だけの特別な夜

RECOMMEND
おすすめの記事

0
利用規約

&MEMBER(登録無料)としてログインすると
コメントを書き込めるようになります。