以下、本発明を詳細に説明する。
<1>本発明の目的タンパク質の製造方法
本発明の目的タンパク質の製造方法は、ゲンチオビオース等の発現誘導物質とタラロマイセス・セルロリティカス(Talaromyces cellulolyticus)を利用した目的タンパク質の製造方法である。同方法に利用されるタラロマイセス・セルロリティカスを「本発明の微生物」ともいう。
<1-1>発現誘導物質
発現誘導物質は、本発明の微生物において目的タンパク質の発現を誘導できるものであれば、特に制限されない。発現誘導物質としては、グルコースを構成糖として含む、2残基またはそれ以上の長さの糖が挙げられる。発現誘導物質は、典型的には、グルコースのみを構成糖として含んでいてよい。発現誘導物質として、具体的には、グルコースの二糖(2分子のグルコースで構成される二糖)、セロオリゴ糖、セルロースが挙げられる。二糖としては、β結合性の二糖が挙げられる。β結合性のグルコースの二糖として、具体的には、ゲンチオビオース、セロビオース、ラミナリビオース、ソホロースが挙げられる。セロオリゴ糖としては、例えば、セロビオース、セロトリオース、セロテトラオースが挙げられる。セルロースとしては、例えば、炭素源として用いられ得るセルロース系基質が挙げられる。セルロース系基質として、具体的には、例えば、微結晶セルロース(アビセル)、ろ紙、古紙、パルプ、木材、稲わら、麦わら、籾殻、米ぬか、小麦ふすま、サトウキビバガス、コーヒー粕、茶粕が挙げられる。セルロース系基質は、水熱分解処理、酸処理、アルカリ処理、蒸煮、爆砕、粉砕等の前処理に供してから発現誘導物質として利用してもよい。市販の好適なセルロース系基質としては、ソルカフロック(International Fiber Corp, North Tonawanda, NY, U.S.A)が挙げられる。発現誘導物質としては、特に、ゲンチオビオース、セロビオース、セルロースが挙げられる。発現誘導物質として、さらに特には、ゲンチオビオースが挙げられる。発現誘導物質としては、1種の物質を用いてもよく、2種またはそれ以上の物質を組み合わせて用いてもよい。発現誘導物質は、発現に用いるプロモーターの種類や本発明の微生物が有する改変の種類等の諸条件に応じて適宜選択できる。いずれの場合にも、発現誘導物質としては、例えば、ゲンチオビオースを選択してよい。また、本発明の微生物が改変株である場合には、発現誘導物質としては、例えば、本発明の微生物が有する改変と発現誘導物質の利用との組み合わせにより目的タンパク質の生産が増大するものを選択してよい。
発現誘導物質は、例えば、それ自体が目的タンパク質の発現を誘導してもよく、別の物質に変換されて目的タンパク質の発現を誘導してもよい。発現誘導物質は、具体的には、例えば、GH1-2タンパク質の作用により、またはGH1-2タンパク質と他の酵素の組み合わせの作用により、別の物質へと変換されて目的タンパク質の発現を誘導してもよい。他の酵素としては、例えば、セルラーゼが挙げられる。別の物質としては、例えば、ゲンチオビオースやセロビオース等の二糖が挙げられる。別の物質としては、特に、ゲンチオビオースが挙げられる。すなわち、具体的には、例えば、ゲンチオビオース以外の発現誘導物質は、GH1-2タンパク質の作用により、またはGH1-2タンパク質とセルラーゼの組み合わせの作用により、ゲンチオビオースに変換されて目的タンパク質の発現を誘導してもよい。
<1-2>本発明の微生物
本発明の微生物は、目的タンパク質生産能を有するタラロマイセス・セルロリティカスである。なお、本発明の微生物の説明において、本発明の微生物またはそれを構築するために用いられるタラロマイセス・セルロリティカスを「宿主」という場合がある。
<1-2-1>タラロマイセス・セルロリティカス
本発明の微生物は、タラロマイセス・セルロリティカスである。タラロマイセス・セルロリティカスの旧名は、アクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)である。すなわち、アクレモニウム・セルロリティカスは、系統分類の改訂により、タラロマイセス・セルロリティカスに再分類された(FEMS Microbiol. Lett., 2014, 351:32-41)。タラロマイセス・セルロリティカスとして、具体的には、C1株(特開2003-135052)、CF-2612株(特開2008-271927)、TN株(FERM BP-685)、S6-25株(NITE BP-01685)、Y-94株(FERM BP-5826)、およびそれらの派生株が挙げられる。なお、「タラロマイセス・セルロリティカス」とは、本願の出願前、出願時、および出願後の少なくともいずれかの時点でタラロマイセス・セルロリティカスに分類される真菌を総称する。すなわち、例えば、上記例示した菌株等のタラロマイセス・セルロリティカスに一旦分類された菌株は、仮に将来的に系統分類が変更された場合にも、タラロマイセス・セルロリティカスに属するものとして扱うものとする。
S6-25株は、2013年8月8日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(郵便番号292-0818、日本国千葉県木更津かずさ鎌足2-5-8 122号室)に原寄託され、2013年11月15日に、ブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号NITE BP-01685が付与されている。同株は、TN株(FERM BP-685)より得られた株であり、高いセルラーゼ生産能を有する。Y-94株は、1983年1月12日に、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(現、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に原寄託され、1997年2月19日に、ブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-5826が付与されている。
これらの菌株は、例えば、各菌株が寄託された寄託機関から入手することができる。
本発明の微生物としては、上記例示した菌株等のタラロマイセス・セルロリティカスを、そのまま、あるいは適宜改変して用いることができる。すなわち、本発明の微生物は、例えば、上記例示した菌株であってもよく、上記例示した菌株に由来する改変株であってもよい。本発明の微生物は、具体的には、例えば、S6-25株またはY-94株に由来する改変株であってもよい。
<1-2-2>目的タンパク質生産能
本発明の微生物は、目的タンパク質生産能を有する。「目的タンパク質生産能を有する微生物」とは、発現誘導物質の存在下で目的タンパク質を生産する能力を有する微生物をいう。「目的タンパク質生産能を有する微生物」とは、具体的には、発現誘導物質を含有する培地で培養した際に、目的タンパク質を発現し、回収できる程度に培養物中に蓄積する能力を有する微生物であってよい。「培養物中への蓄積」とは、具体的には、培地中、菌体表層、菌体内、またはそれらの組み合わせへの蓄積であってよい。なお、目的タンパク質が菌体外(例えば、培地中や細胞表層)に蓄積する場合を、目的タンパク質の「分泌」または「分泌生産」ともいう。すなわち、本発明の微生物は、目的タンパク質の分泌生産能(目的タンパク質を分泌生産する能力)を有していてもよい。目的タンパク質は、特に、培地中に蓄積してよい。目的タンパク質の蓄積量は、例えば、培養物中への蓄積量として、10 μg/L以上、1 mg/L以上、100 mg/L以上、または1 g/L以上であってよい。本発明の微生物は、1種の目的タンパク質の生産能を有していてもよく、2種またはそれ以上の目的タンパク質の生産能を有していてもよい。
本発明の微生物は、本来的に目的タンパク質生産能を有するものであってもよく、目的タンパク質生産能を有するように改変されたものであってもよい。本発明の微生物は、典型的には、本来的にセルラーゼ生産能(発現誘導物質の存在下でセルラーゼを生産する能力)を有するものであり得る。また、本発明の微生物は、本来的に有する目的タンパク質生産能が増強されるように改変されたものであってもよい。目的タンパク質生産能を有する微生物は、例えば、上記のようなタラロマイセス・セルロリティカスに目的タンパク質生産能を付与することにより、または、上記のようなタラロマイセス・セルロリティカスの目的タンパク質生産能を増強することにより、取得できる。目的タンパク質生産能は、例えば、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物の導入、その他目的タンパク質生産能が向上する改変の導入、またはそれらの組み合わせにより、付与または増強できる。
本発明の微生物は、少なくとも目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を有することに依拠して、目的タンパク質生産能を有する。本発明の微生物は、具体的には、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を有することにより、あるいは目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を有することと他の性質との組み合わせにより、目的タンパク質生産能を有していてよい。すなわち、本発明の微生物は、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を有する。本発明の微生物は、1コピーの目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を有していてもよく、2コピーまたはそれ以上の目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を有していてもよい。本発明の微生物は、1種の目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を有していてもよく、2種またはそれ以上の目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を有していてもよい。目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物のコピー数および種類数は、それぞれ、目的タンパク質遺伝子のコピー数および種類数と読み替えてもよい。
本発明の微生物において、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物は、プラスミドのように染色体外で自律複製するベクター上に存在していてもよく、染色体上に組み込まれていてもよい。すなわち、本発明の微生物は、例えば、ベクター上に目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を有していてよく、言い換えると、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を含むベクターを有していてよい。また、本発明の微生物は、例えば、染色体上に目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を有していてよい。本発明の微生物が2つまたはそれ以上の目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を有する場合、それら遺伝子構築物は、目的タンパク質を製造できるように本発明の微生物に保持されていればよい。例えば、それら遺伝子構築物は、全てが単一の発現ベクター上に保持されていてもよく、全てが染色体上に保持されていてもよい。また、それら遺伝子構築物は、複数の発現ベクター上に別々に保持されていてもよく、単一または複数の発現ベクター上と染色体上とに別々に保持されていてもよい。
本発明の微生物は、本来的に目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を有するものであってもよく、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を有するように改変されたものであってもよい。本発明の微生物は、典型的には、本来的にセルラーゼの発現用の遺伝子構築物を有するものであり得る。また、本発明の微生物は、本来的に有する目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物に代えて、あるいは加えて、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物が導入されたものであってもよい。目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を有する微生物は、上記のようなタラロマイセス・セルロリティカスに目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を導入することにより取得できる。
「目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物」とは、発現誘導物質の存在下で目的タンパク質を発現できるよう構成された遺伝子発現系をいう。目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を「目的タンパク質の発現系」、「目的タンパク質の発現ユニット」、または「目的タンパク質の発現カセット」ともいう。目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物は、5’から3’方向に、発現誘導物質による誘導性プロモーター配列および目的タンパク質をコードする塩基配列を含む。プロモーター配列を単に「プロモーター」ともいう。アミノ酸配列をコードする塩基配列を「遺伝子」ともいう。例えば、目的タンパク質をコードする塩基配列を「目的タンパク質をコードする遺伝子」または「目的タンパク質遺伝子」ともいう。目的タンパク質遺伝子は、プロモーターの下流に、同プロモーターによる制御を受けて目的タンパク質が発現するよう連結されていればよい。また、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物は、目的タンパク質を発現させるために有効な制御配列(オペレーターやターミネーター等)を、それらが機能し得るように適切な位置に有していてもよい。なお、本発明において、「目的タンパク質遺伝子の発現」、「目的タンパク質の発現」、「目的タンパク質の生成」、「目的タンパク質の生産」は、特記しない限り、互いに同義に用いることができる。目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物は、目的タンパク質の種類等の諸条件に応じて適宜設計できる。
プロモーターは、タラロマイセス・セルロリティカスで機能する、発現誘導物質による誘導性のものであれば、特に制限されない。プロモーターは、1種の発現誘導物質による誘導性のものであってもよく、2種またはそれ以上の発現誘導物質による誘導性のものであってもよい。プロモーターとしては、少なくとも選択した発現誘導物質による誘導性のものを用いる。「タラロマイセス・セルロリティカスにおいて機能するプロモーター」とは、タラロマイセス・セルロリティカスにおいてプロモーター活性、すなわち遺伝子の転写活性、を有するプロモーターをいう。「発現誘導物質による誘導性プロモーター」とは、直下流に連結された遺伝子を発現誘導物質の存在下で誘導発現するプロモーターをいう。「発現誘導物質の存在下」とは、具体的には、培地中に発現誘導物質が存在することであってよい。「遺伝子が発現誘導物質の存在下で誘導発現される」とは、発現誘導物質存在下における遺伝子の発現量が、発現誘導物質非存在下における遺伝子の発現量よりも高いことをいう。「遺伝子が発現誘導物質の存在下で誘導発現される」とは、具体的には、例えば、発現誘導物質存在下における遺伝子の発現量が、発現誘導物質非存在下における遺伝子の発現量の、2倍以上、3倍以上、または4倍以上であることであってもよい。「遺伝子が発現誘導物質の存在下で誘導発現される」ことには、発現誘導物質非存在下では遺伝子が発現しないが、発現誘導物質存在下では遺伝子が発現する場合も包含される。プロモーターからの遺伝子発現は、例えば、発現誘導物質により直接的に誘導されてもよく、発現誘導物質から生じる別の物質により間接的に誘導されてもよい。
プロモーターは、宿主由来のプロモーターであってもよく、異種由来のプロモーターであってもよい。プロモーターは、目的タンパク質遺伝子の固有のプロモーターであってもよく、他の遺伝子のプロモーターであってもよい。プロモーターとしては、発現誘導物質でセルラーゼ生産が誘導される微生物のセルラーゼ遺伝子のプロモーターが挙げられる。プロモーターとして、具体的には、タラロマイセス・セルロリティカスのセルラーゼ遺伝子のプロモーターが挙げられる。セルラーゼ遺伝子としては、cbhI遺伝子(cbh1遺伝子ともいう)やcbhII遺伝子(cbh2遺伝子ともいう)が挙げられる。すなわち、プロモーターとしては、cbhI遺伝子のプロモーターやcbhII遺伝子のプロモーターが挙げられる。cbhI遺伝子のプロモーターを「cbhIプロモーター」または「cbh1プロモーター」ともいう。cbhII遺伝子のプロモーターを「cbhIIプロモーター」または「cbh2プロモーター」ともいう。これらのプロモーターは、いずれも、例えば、上記例示した発現誘導物質から選択される1種またはそれ以上の物質による誘導性プロモーターとして機能し得る。これらのプロモーターは、いずれも、具体的には、少なくともゲンチオビオース、セロビオース、および/またはセルロースによる誘導性プロモーターとして機能し得る。これらのプロモーターは、いずれも、より具体的には、少なくともゲンチオビオースによる誘導性プロモーター(ゲンチオビオース誘導性プロモーター)として機能し得る。タラロマイセス・セルロリティカスのcbhIプロモーターおよびcbhIIプロモーターの塩基配列を、それぞれ、配列番号49および50に示す。すなわち、プロモーターは、例えば、上記例示したプロモーターの塩基配列(例えば配列番号49または50の塩基配列)を有するプロモーターであってよい。また、プロモーターは、上記例示したプロモーター(例えば配列番号49または50の塩基配列を有するプロモーター)の保存的バリアントであってもよい。すなわち、例えば、上記例示したプロモーターは、そのまま、あるいは適宜改変して用いることができる。「cbhIプロモーター」および「cbhIIプロモーター」という用語は、上記例示したcbhIプロモーターおよびcbhIIプロモーターに加えて、それらの保存的バリアントを包含するものとする。プロモーターの保存的バリアントについては、後述するgh1-2遺伝子の保存的バリアントに関する記載を準用できる。例えば、プロモーターは、元の機能が維持されている限り、配列番号49または50の塩基配列に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有する塩基配列を有するDNAであってもよい。なお、発現誘導物質による誘導性プロモーターについての「元の機能」とは、直下流に連結された遺伝子を発現誘導物質の存在下で誘導発現する機能をいう。発現誘導物質による誘導性プロモーターの機能は、例えば、培地への発現誘導物質の供給による遺伝子の誘導発現を確認することにより、確認することができる。遺伝子の誘導発現は、例えば、レポーター遺伝子を用いて確認することができる。
目的タンパク質は特に制限されない。目的タンパク質は、宿主由来のタンパク質であってもよく、異種由来のタンパク質(異種タンパク質)であってもよい。本発明において、「異種タンパク質」(heterologous protein)とは、同タンパク質を生産するタラロマイセス・セルロリティカスにとって外来性(exogenous)であるタンパク質をいう。目的タンパク質は、例えば、微生物由来のタンパク質であってもよく、植物由来のタンパク質であってもよく、動物由来のタンパク質であってもよく、ウィルス由来のタンパク質であってもよく、人工的にアミノ酸配列をデザインしたタンパク質であってもよい。目的タンパク質は、特に、ヒト由来のタンパク質であってもよい。目的タンパク質は、単量体タンパク質であってもよく、多量体タンパク質であってもよい。多量体タンパク質とは、2またはそれ以上のサブユニットからなる多量体として存在しうるタンパク質をいう。多量体において、各サブユニットは、ジスルフィド結合等の共有結合で連結されていてもよく、水素結合や疎水性相互作用等の非共有結合で連結されていてもよく、それらの組み合わせにより連結されていてもよい。多量体においては、1つまたはそれ以上の分子間ジスルフィド結合が含まれるのが好ましい。多量体は、単一の種類のサブユニットからなるホモ多量体であってもよく、2またはそれ以上の種類のサブユニットからなるヘテロ多量体であってもよい。なお、「目的タンパク質が異種タンパク質である」とは、目的タンパク質がヘテロ多量体タンパク質である場合にあっては、多量体を構成するサブユニットの内、少なくとも1つのサブユニットが異種タンパク質であればよい。すなわち、全てのサブユニットが異種由来であってもよく、一部のサブユニットのみが異種由来であってもよい。目的タンパク質は、分泌性タンパク質であってもよく、非分泌性タンパク質であってもよい。分泌性タンパク質は、天然で分泌性であるタンパク質であってもよく、天然では非分泌性であるタンパク質であってもよいが、天然で分泌性であるタンパク質であるのが好ましい。なお、「タンパク質」には、オリゴペプチドやポリペプチド等の、ペプチドと呼ばれるものも包含される。
目的タンパク質としては、例えば、酵素、生理活性タンパク質、レセプタータンパク質、ワクチンとして使用される抗原タンパク質、その他任意のタンパク質が挙げられる。
酵素としては、例えば、セルラーゼ、トランスグルタミナーゼ、プロテイングルタミナーゼ、イソマルトデキストラナーゼ、プロテアーゼ、エンドペプチダーゼ、エキソペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、コラゲナーゼ、およびキチナーゼ等が挙げられる。
本発明において、「セルラーゼ」とは、セルロースに含まれるグリコシド結合を加水分解する反応を触媒する酵素の総称である。セルラーゼとしては、エンド型セルラーゼ(エンドグルカナーゼ;EC 3.2.1.4)、エキソ型セルラーゼ(セロビオヒドロラーゼ;EC 3.2.1.91)、セロビアーゼ(β-グルコシダーゼ;EC 3.2.1.21)が挙げられる。また、セルラーゼは、活性測定に用いられる基質に応じて、アビセラーゼ、フィルターペーパーセルラーゼ(FPアーゼ)、カルボキシメチルセルラーゼ(CMCアーゼ)等とも呼ばれる。セルラーゼとしては、例えば、Trichoderma reeseiやTalaromyces cellulolyticus等の真菌やClostridium thermocellum等の細菌のセルラーゼが挙げられる。
トランスグルタミナーゼとしては、例えば、Streptoverticillium mobaraense IFO 13819(WO01/23591)、Streptoverticillium cinnamoneum IFO 12852、Streptoverticillium griseocarneum IFO 12776、Streptomyces lydicus(WO9606931)等の放線菌や、Oomycetes(WO9622366)等の糸状菌の分泌型のトランスグルタミナーゼが挙げられる。プロテイングルタミナーゼとしては、例えば、Chryseobacterium proteolyticumのプロテイングルタミナーゼが挙げられる(WO2005/103278)。イソマルトデキストラナーゼとしては、例えば、Arthrobacter globiformisのイソマルトデキストラナーゼが挙げられる(WO2005/103278)。
生理活性タンパク質としては、例えば、成長因子(増殖因子)、ホルモン、サイトカイン、抗体関連分子が挙げられる。
成長因子(増殖因子)として、具体的には、例えば、上皮成長因子(Epidermal growth factor;EGF)、インスリン様成長因子-1(Insulin-like growth factor-1;IGF-1)、トランスフォーミング成長因子(Transforming growth factor;TGF)、神経成長因子(Nerve growth factor;NGF)、脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor;BDNF)、血管内皮細胞増殖因子(Vesicular endothelial growth factor;VEGF)、顆粒球コロニー刺激因子(Granulocyte-colony stimulating factor;G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte-macrophage-colony stimulating factor;GM-CSF)、血小板由来成長因子(Platelet-derived growth factor;PDGF)、エリスロポエチン(Erythropoietin;EPO)、トロンボポエチン(Thrombopoietin;TPO)、酸性線維芽細胞増殖因子(acidic fibroblast growth factor;aFGFまたはFGF1)、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor;bFGFまたはFGF2)、角質細胞増殖因子(keratinocyto growth factor;KGF-1またはFGF7, KGF-2またはFGF10)、肝細胞増殖因子(Hepatocyte growth factor;HGF)が挙げられる。
ホルモンとして、具体的には、例えば、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン(somatostatin)、ヒト成長ホルモン(human growth hormone;hGH)、副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone;PTH)、カルシトニン(calcitonin)、エキセナチド(exenatide)が挙げられる。
サイトカインとして、具体的には、例えば、インターロイキン、インターフェロン、腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor;TNF)が挙げられる。
なお、成長因子(増殖因子)、ホルモン、およびサイトカインは互いに厳密に区別されなくともよい。例えば、生理活性タンパク質は、成長因子(増殖因子)、ホルモン、およびサイトカインから選択されるいずれか1つのグループに属するものであってもよく、それらから選択される複数のグループに属するものであってもよい。
また、生理活性タンパク質は、タンパク質全体であってもよく、その一部であってもよい。タンパク質の一部としては、例えば、生理活性を有する部分が挙げられる。生理活性を有する部分として、具体的には、例えば、副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone;PTH)の成熟体のN末端34アミノ酸残基からなる生理活性ペプチドTeriparatideが挙げられる。
「抗体関連分子」とは、完全抗体を構成するドメインから選択される単一のドメインまたは2もしくはそれ以上のドメインの組合せからなる分子種を含むタンパク質をいう。完全抗体を構成するドメインとしては、重鎖のドメインであるVH、CH1、CH2、およびCH3、ならびに軽鎖のドメインであるVLおよびCLが挙げられる。抗体関連分子は、上述の分子種を含む限り、単量体タンパク質であってもよく、多量体タンパク質であってもよい。なお、抗体関連分子が多量体タンパク質である場合には、単一の種類のサブユニットからなるホモ多量体であってもよく、2またはそれ以上の種類のサブユニットからなるヘテロ多量体であってもよい。抗体関連分子として、具体的には、例えば、完全抗体、Fab、F(ab’)、F(ab’)2、Fc、重鎖(H鎖)と軽鎖(L鎖)からなる二量体、Fc融合タンパク質、重鎖(H鎖)、軽鎖(L鎖)、単鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、diabody、VHHフラグメント(nanobody(登録商標))が挙げられる。抗体関連分子として、より具体的には、例えば、トラスツズマブやニボルマブが挙げられる。
レセプタータンパク質は、特に制限されず、例えば、生理活性タンパク質やその他の生理活性物質に対するレセプタータンパク質であってよい。その他の生理活性物質としては、例えば、ドーパミン等の神経伝達物質が挙げられる。また、レセプタータンパク質は、対応するリガンドが知られていないオーファン受容体であってもよい。
ワクチンとして使用される抗原タンパク質は、免疫応答を惹起できるものであれば特に制限されず、想定する免疫応答の対象に応じて適宜選択すればよい。
また、その他のタンパク質として、Liver-type fatty acid-binding protein(LFABP)、蛍光タンパク質、イムノグロブリン結合タンパク質、アルブミン、細胞外タンパク質が挙げられる。蛍光タンパク質としては、Green Fluorescent Protein(GFP)が挙げられる。イムノグロブリン結合タンパク質としては、Protein A、Protein G、Protein Lが挙げられる。アルブミンとしては、ヒト血清アルブミンが挙げられる。
細胞外タンパク質としては、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン、オステオポンチン、ラミニン、それらの部分配列が挙げられる。ラミニンは、α鎖、β鎖、およびγ鎖からなるヘテロ三量体構造を有するタンパク質である。ラミニンとしては、哺乳類のラミニンが挙げられる。哺乳類としては、ヒト、サル、チンパンジー等の霊長類、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ等のその他の各種哺乳類が挙げられる。哺乳類としては、特に、ヒトが挙げられる。ラミニンのサブユニット鎖(すなわち、α鎖、β鎖、およびγ鎖)としては、5種のα鎖(α1~α5)、3種のβ鎖(β1~β3)、3種のγ鎖(γ1~γ3)が挙げられる。ラミニンは、これらサブユニット鎖の組み合わせによって種々のアイソフォームを構成する。ラミニンとして、具体的には、例えば、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン211、ラミニン213、ラミニン221、ラミニン311、ラミニン321、ラミニン332、ラミニン411、ラミニン421、ラミニン423、ラミニン511、ラミニン521、ラミニン523が挙げられる。ラミニンの部分配列としては、ラミニンのE8断片であるラミニンE8が挙げられる。ラミニンE8は、具体的には、α鎖のE8断片(α鎖E8)、β鎖のE8断片(β鎖E8)、およびγ鎖のE8断片(γ鎖E8)からなるヘテロ三量体構造を有するタンパク質である。ラミニンE8のサブユニット鎖(すなわち、α鎖E8、β鎖E8、およびγ鎖E8)を総称して、「E8サブユニット鎖」ともいう。E8サブユニット鎖としては、上記例示したラミニンサブユニット鎖のE8断片が挙げられる。ラミニンE8は、これらE8サブユニット鎖の組み合わせによって種々のアイソフォームを構成する。ラミニンE8として、具体的には、例えば、ラミニン111E8、ラミニン121E8、ラミニン211E8、ラミニン221E8、ラミニン332E8、ラミニン421E8、ラミニン411E8、ラミニン511E8、ラミニン521E8が挙げられる。
目的タンパク質遺伝子は、そのまま、あるいは適宜改変して、利用することができる。目的タンパク質遺伝子は、例えば、望みの活性を得るために改変することができる。目的タンパク質遺伝子および目的タンパク質のバリアントについては、後述するgh1-2遺伝子およびGH1-2タンパク質の保存的バリアントについての記載を準用できる。例えば、目的タンパク質遺伝子は、コードされる目的タンパク質のアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、及び/又は付加が含まれるよう改変されてもよい。なお、由来する生物種で特定されるタンパク質は、当該生物種において見出されるタンパク質そのものに限られず、当該生物種において見出されるタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質およびそれらのバリアントを包含するものとする。それらバリアントは、当該生物種において見出されてもよく、見出されなくてもよい。すなわち、例えば、「ヒト由来タンパク質」とは、ヒトにおいて見出されるタンパク質そのものに限られず、ヒトにおいて見出されるタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質およびそれらのバリアントを包含するものとする。また、目的タンパク質遺伝子は、任意のコドンをそれと等価のコドンに置換したものであってもよい。例えば、目的タンパク質遺伝子は、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてもよい。
目的タンパク質は、上記例示したような目的タンパク質のアミノ酸配列に加えて、他のアミノ酸配列を含んでいてもよい。すなわち、目的タンパク質は、他のアミノ酸配列との融合タンパク質であってもよい。「他のアミノ酸配列」は、所望の性質の目的タンパク質が得られる限り、特に制限されない。「他のアミノ酸配列」は、その利用目的等の諸条件に応じて適宜選択できる。「他のアミノ酸配列」としては、例えば、シグナルペプチド(シグナル配列ともいう)、ペプチドタグ、プロテアーゼの認識配列が挙げられる。「他のアミノ酸配列」は、例えば、目的タンパク質のN末端、若しくはC末端、またはその両方に連結されてよい。「他のアミノ酸配列」としては、1種のアミノ酸配列を用いてもよく、2種またはそれ以上のアミノ酸配列を組み合わせて用いてもよい。
シグナルペプチドは、例えば、目的タンパク質の分泌生産に利用できる。シグナルペプチドは、目的タンパク質のN末端に連結されてよい。すなわち、一態様において、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物は、5’から3’方向に、発現誘導物質による誘導性プロモーター配列、シグナルペプチドをコードする塩基配列、および目的タンパク質をコードする塩基配列を含んでいてよい。その場合、目的タンパク質をコードする核酸配列は、シグナルペプチドをコードする核酸配列の下流に、同シグナルペプチドとの融合タンパク質として目的タンパク質が発現するよう連結されていればよい。なお、そのような融合タンパク質において、シグナルペプチドと目的タンパク質とは隣接していてもよく、していなくてもよい。すなわち、「目的タンパク質がシグナルペプチドとの融合タンパク質として発現する」とは、目的タンパク質がシグナルペプチドに隣接して同シグナルペプチドとの融合タンパク質として発現する場合に限られず、目的タンパク質が他のアミノ酸配列を介してシグナルペプチドとの融合タンパク質として発現する場合も包含される。シグナルペプチドを利用して目的タンパク質を分泌生産する場合、通常、分泌時にシグナルペプチドが切断され、シグナルペプチドを有さない目的タンパク質が菌体外に分泌され得る。すなわち、「目的タンパク質がシグナルペプチドとの融合タンパク質として発現する」または「目的タンパク質がシグナルペプチドを含む」とは、目的タンパク質が発現時にシグナルペプチドとの融合タンパク質を構成していれば足り、最終的に得られる目的タンパク質がシグナルペプチドとの融合タンパク質を構成していることを要さない。
シグナルペプチドは、タラロマイセス・セルロリティカスで機能するものであれば特に制限されない。「タラロマイセス・セルロリティカスにおいて機能するシグナルペプチド」とは、目的タンパク質のN末端に連結された際にタラロマイセス・セルロリティカスにおいて目的タンパク質の分泌をもたらすペプチドをいう。
シグナルペプチドは、宿主由来のシグナルペプチドであってもよく、異種由来のシグナルペプチドであってもよい。シグナルペプチドは、目的タンパク質の固有のシグナルペプチドであってもよく、他のタンパク質のシグナルペプチドであってもよい。シグナルペプチドとしては、微生物の分泌性セルラーゼのシグナルペプチドが挙げられる。シグナルペプチドとして、具体的には、タラロマイセス・セルロリティカスの分泌性セルラーゼのシグナルペプチドが挙げられる。分泌性セルラーゼとしては、cbhI遺伝子にコードされるCbhIタンパク質(Cbh1タンパク質ともいう)やcbhII遺伝子にコードされるCbhIIタンパク質(Cbh2タンパク質ともいう)が挙げられる。すなわち、シグナルペプチドとしては、CbhIタンパク質のシグナルペプチドやCbhIIタンパク質のシグナルペプチドが挙げられる。CbhIタンパク質のシグナルペプチドを「CbhIシグナルペプチド」または「Cbh1シグナルペプチド」ともいう。CbhIIタンパク質のシグナルペプチドを「CbhIIシグナルペプチド」または「Cbh2シグナルペプチド」ともいう。タラロマイセス・セルロリティカスのCbhIシグナルペプチドのアミノ酸配列を、配列番号51に示す。すなわち、シグナルペプチドは、例えば、上記例示したシグナルペプチドのアミノ酸配列(例えば配列番号51のアミノ酸配列)を有するシグナルペプチドであってよい。また、シグナルペプチドは、上記例示したシグナルペプチド(例えば配列番号51のアミノ酸配列を有するシグナルペプチド)の保存的バリアントであってもよい。すなわち、例えば、上記例示したシグナルペプチドは、そのまま、あるいは適宜改変して用いることができる。「CbhIシグナルペプチド」および「CbhIIシグナルペプチド」という用語は、上記例示したCbhIシグナルペプチドおよびCbhIIシグナルペプチドに加えて、それらの保存的バリアントを包含するものとする。シグナルペプチドの保存的バリアントについては、後述するGH1-2タンパク質の保存的バリアントに関する記載を準用できる。例えば、シグナルペプチドは、元の機能が維持されている限り、配列番号51のアミノ酸配列において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するペプチドであってよい。なお、シグナルペプチドのバリアントにおける上記「1又は数個」とは、具体的には、好ましくは1~7個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~3個、特に好ましくは1~2個を意味する。また、例えば、シグナルペプチドは、元の機能が維持されている限り、配列番号51のアミノ酸配列に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するペプチドであってもよい。なお、シグナルペプチドについての「元の機能」とは、目的タンパク質のN末端に連結された際に目的タンパク質の分泌をもたらす機能であってよい。シグナルペプチドの機能は、例えば、タンパク質のN末端への連結による同タンパク質の分泌を確認することにより、確認することができる。
ペプチドタグとして、具体的には、Hisタグ、FLAGタグ、GSTタグ、Mycタグ、MBP(maltose binding protein)、CBP(cellulose binding protein)、TRX(Thioredoxin)、GFP(green fluorescent protein)、HRP(horseradish peroxidase)、ALP(Alkaline Phosphatase)、抗体のFc領域が挙げられる。ペプチドタグは、例えば、発現した目的タンパク質の検出や精製に利用できる。
プロテアーゼの認識配列として、具体的には、HRV3Cプロテアーゼ認識配列、Factor Xaプロテアーゼ認識配列、proTEVプロテアーゼ認識配列が挙げられる。プロテアーゼの認識配列は、例えば、発現した目的タンパク質の切断に利用できる。具体的には、例えば、目的タンパク質をペプチドタグとの融合タンパク質として発現させる場合、目的タンパク質とペプチドタグの連結部にプロテアーゼの認識配列を導入することにより、発現した目的タンパク質からプロテアーゼを利用してペプチドタグを切断し、ペプチドタグを有さない目的タンパク質を得ることができる。
最終的に得られる目的タンパク質のN末端領域は、天然のタンパク質と同一であってもよく、天然のタンパク質と同一でなくてもよい。例えば、最終的に得られる目的タンパク質のN末端領域は、天然のタンパク質と比較して、1又は数個のアミノ酸を余分に付加された、あるいは欠失したものであってもよい。なお上記「1又は数個」とは、目的の目的タンパク質の全長や構造等によっても異なるが、具体的には、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個を意味する。
また、目的タンパク質は、プロ構造部が付加したタンパク質(プロタンパク質)として発現してもよい。目的タンパク質がプロタンパク質として発現する場合、最終的に得られる目的タンパク質はプロタンパク質であってもよく、そうでなくてもよい。すなわち、プロタンパク質はプロ構造部を切断されて成熟タンパク質になってもよい。切断は、例えば、プロテアーゼにより行うことができる。プロテアーゼを使用する場合は、最終的に得られるタンパク質の活性という観点から、プロタンパク質は一般には天然のタンパク質とほぼ同じ位置で切断されることが好ましく、天然のタンパク質と完全に同じ位置で切断され天然のものと同一の成熟タンパク質が得られるのがより好ましい。従って、一般には、天然に生じる成熟タンパク質と同一のタンパク質を生じる位置でプロタンパク質を切断する特異的プロテアーゼが最も好ましい。しかしながら、上述の通り、最終的に得られる目的タンパク質のN末端領域は、天然のタンパク質と同一でなくてもよい。例えば、生産される目的タンパク質の種類や使用目的等によっては、天然のタンパク質に比較してN末端がアミノ酸1~数個分長いあるいは短いタンパク質がより適切な活性を有することがある。本発明において使用できるプロテアーゼには、Dispase(ベーリンガーマンハイム社製)のような商業的に入手できるものの他、微生物の培養液、例えば放線菌の培養液等から得られるものが含まれる。そのようなプロテアーゼは未精製状態で使用することもでき、必要に応じて適当な純度まで精製した後に使用してもよい。
目的タンパク質遺伝子は、例えば、クローニングにより取得することができる。クローニングには、例えば、目的タンパク質遺伝子を含むゲノムDNAやcDNA等の核酸を利用することができる。また、目的タンパク質遺伝子は、例えば、その塩基配列に基づいて全合成することによっても取得することができる(Gene, 60(1), 115-127 (1987))。取得した目的タンパク質遺伝子は、そのまま、あるいは適宜改変して、利用することができる。すなわち、目的タンパク質遺伝子を改変することにより、そのバリアントを取得することができる。遺伝子の改変は公知の手法により行うことができる。例えば、部位特異的変異法により、DNAの目的の部位に目的の変異を導入することができる。部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))や、ファージを用いる方法(Kramer,W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))が挙げられる。あるいは、目的タンパク質遺伝子のバリアントを全合成してもよい。また、取得した目的タンパク質遺伝子に対して、適宜、プロモーター配列の導入等の改変を行い、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を取得することができる。なお、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物の他の構成要素(例えば、プロモーター配列)や目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物も、目的タンパク質遺伝子と同様に取得することができる。
遺伝子の改変は公知の手法により行うことができる。例えば、部位特異的変異法により、DNAの目的部位に目的の変異を導入することができる。部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))や、ファージを用いる方法(Kramer,W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))が挙げられる。
目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物をタラロマイセス・セルロリティカスに導入する手法は特に制限されない。「目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物の導入」とは、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を宿主に保持させることをいい、具体的には、目的タンパク質遺伝子を発現可能に宿主に導入することであってよい。「目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物の導入」には、特記しない限り、予め構築した目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を宿主に一括して導入する場合に限られず、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物の一部が宿主に導入され、且つ宿主内で目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物が構築される場合も包含される。例えば、宿主が本来的に有する目的タンパク質遺伝子のプロモーターを発現誘導物質による誘導性プロモーターに置換することにより、染色体上で目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を構築してもよい。また、例えば、宿主が本来的に有する発現誘導物質による誘導性プロモーターの下流に目的タンパク質遺伝子を導入することにより、染色体上で目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を構築してもよい。
目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物は、例えば、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を含むベクターを用いて宿主に導入できる。目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を含むベクターを「目的タンパク質の発現ベクター」ともいう。目的タンパク質の発現ベクターは、例えば、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物をベクターと連結することにより、構築することができる。また、例えば、ベクターが発現誘導物質による誘導性プロモーターを備える場合、目的タンパク質の発現ベクターは、当該プロモーターの下流に目的タンパク質遺伝子を連結することによっても、構築することができる。目的タンパク質の発現ベクターで宿主を形質転換することにより、同ベクターが導入された形質転換体が得られる、すなわち、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を宿主に導入することができる。ベクターは、宿主の細胞内において自律複製可能なものであれば特に制限されない。ベクターは、1コピーベクターであってもよく、低コピーベクターであってもよく、多コピーベクターであってもよい。ベクターは、形質転換体を選択するためのマーカー遺伝子を備えていてもよい。ベクターは、目的タンパク質遺伝子を発現するための発現誘導物質による誘導性プロモーターやターミネーターを備えていてもよい。
また、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物は、宿主の染色体に導入されてよい。染色体への遺伝子の導入は、相同組み換えを利用して行うことができる。具体的には、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を含む組換えDNAで宿主を形質転換し、宿主の染色体上の目的部位と相同組み換えを起こすことにより、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を宿主の染色体上に導入することができる。相同組換えに用いる組換えDNAの構造は、所望の態様で相同組換えが起こるものであれば特に制限されない。例えば、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物を含む線状DNAであって、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物の両端に染色体上の置換対象部位の上流および下流の配列をそれぞれ備える線状DNAで宿主を形質転換して、置換対象部位の上流および下流でそれぞれ相同組換えを起こさせることにより、置換対象部位を目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物に置換することができる。相同組換えに用いる組換えDNAは、形質転換体を選択するためのマーカー遺伝子を備えていてよい。なお、目的タンパク質遺伝子や発現誘導物質による誘導性プロモーター等の、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物の一部の染色体への導入も、目的タンパク質の発現用の遺伝子構築物全体の染色体への導入と同様に行うことができる。
マーカー遺伝子は、宿主の栄養要求性等の形質に応じて適宜選択できる。例えば、宿主がpyrF遺伝子またはpyrG遺伝子の変異によりUracil要求性を示す場合、pyrF遺伝子またはpyrG遺伝子をマーカー遺伝子として用いることにより、Uracil要求性の相補(すなわちUracil非要求性)を指標として、目的の改変が導入された株を選抜することができる。また、マーカー遺伝子としては、ハイグロマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子を用いることができる。
形質転換は、例えば、カビや酵母等の真核微生物の形質転換に通常用いられる手法により行うことができる。そのような手法としては、プロトプラスト法が挙げられる。
<1-2-3>その他の性質
本発明の微生物は、目的タンパク質生産能が損なわれない限り、所望の性質(例えば改変)を有していてよい。所望の性質を有する本発明の微生物は、例えば、上記例示した菌株等のタラロマイセス・セルロリティカスを改変することにより取得できる。改変としては、タラロマイセス・セルロリティカスの目的タンパク質生産能が向上する改変が挙げられる。改変として、具体的には、GH1-2タンパク質の活性が低下する改変、GH1-2タンパク質に変異を導入する改変、β-グルコシダーゼの活性が低下する改変、CreAタンパク質の活性が低下する改変、YscBタンパク質の活性が低下する改変が挙げられる。これらの改変は、単独で、あるいは適宜組み合わせて、利用することができる。本発明の微生物を構築するための改変の実施順序は特に制限されない。
本発明の微生物は、例えば、GH1-2タンパク質の活性が低下するように、且つ/又はgh1-2遺伝子が「特定の変異」を有するように、改変されていてよい。本発明の微生物は、具体的には、非改変株と比較して、GH1-2タンパク質の活性が低下するように改変されていてよい。本発明の微生物は、より具体的には、例えば、gh1-2遺伝子の発現が低下するように改変されていてもよく、gh1-2遺伝子が破壊されるように改変されていてもよい。GH1-2タンパク質の活性が低下するように、且つ/又はgh1-2遺伝子が「特定の変異」を有するように、タラロマイセス・セルロリティカスを改変することにより、タラロマイセス・セルロリティカスの目的タンパク質生産能を向上させることができる、すなわち、発現誘導物質の存在下でのタラロマイセス・セルロリティカスによる目的タンパク質の生産を増大させることができる。GH1-2タンパク質の活性が低下するように、且つ/又はgh1-2遺伝子が「特定の変異」を有するように、タラロマイセス・セルロリティカスを改変することにより、具体的には、発現誘導物質による目的タンパク質の発現誘導が増強されてよい。「発現誘導物質による目的タンパク質の発現誘導が改変により増強される」とは、例えば、改変株における発現誘導物質による目的タンパク質の生産の増大の程度(例えば量や比率)が、非改変株における発現誘導物質による目的タンパク質の生産の増大の程度(例えば量や比率)と比較して高いことを意味してよい。
以下、GH1-2タンパク質およびそれをコードするgh1-2遺伝子について説明する。なお、以下の説明は、本発明の微生物において活性が低下するGH1-2タンパク質に加えて、本発明の二糖の製造方法に利用されるGH1-2タンパク質の説明を兼ねる。本発明の微生物において活性が低下するGH1-2タンパク質は、GH1-2タンパク質であって、改変されるタラロマイセス・セルロリティカスが有するものである。
GH1-2タンパク質は、β-グルコシダーゼ(beta-glucosidase)である。GH1-2タンパク質は、具体的には、Glucoside Hydrolase family 1(GH1)に分類されるβ-グルコシダーゼであってよい。また、GH1-2タンパク質は、具体的には、細胞内局在型のβ-グルコシダーゼであってよい。GH1-2タンパク質は、糖原料から二糖を合成(生成)する反応を触媒する活性および/または二糖を加水分解してグルコースを生成する反応を触媒する活性を有する。前者の活性を「二糖合成活性(二糖生成活性)」または「糖転移活性」ともいう。後者の活性を「二糖加水分解活性」ともいう。GH1-2タンパク質は、典型的には、二糖合成活性および二糖加水分解活性の両方を有していてよい。
ここでいう「二糖」とは、グルコースの二糖(2分子のグルコースで構成される二糖)をいう。二糖としては、β結合性の二糖が挙げられる。二糖として、具体的には、ゲンチオビオース、セロビオース、ラミナリビオース、ソホロースが挙げられる。二糖としては、特に、ゲンチオビオースが挙げられる。
ここでいう「糖原料」とは、グルコースを構成糖として含む糖をいい、グルコース自体も包含する。糖原料は、典型的には、グルコースのみを構成糖として含んでいてよい。糖原料としては、例えば、グルコース、セロオリゴ糖、セルロースが挙げられる。セロオリゴ糖としては、例えば、セロビオース、セロトリオース、セロテトラオースが挙げられる。セルロースとしては、例えば、上記のようなセルロース系基質が挙げられる。糖原料としては、特に、グルコース、セロビオース、セルロースが挙げられる。糖原料として、さらに特には、グルコースが挙げられる。
GH1-2タンパク質は、糖原料から1種の二糖を合成する反応を触媒する活性を有していてもよく、糖原料から2種またはそれ以上の二糖を合成する反応を触媒する活性を有していてもよい。また、GH1-2タンパク質は、1種の糖原料から二糖を合成する反応を触媒する活性を有していてもよく、2種またはそれ以上の糖原料から二糖を合成する反応を触媒する活性を有していてもよい。GH1-2タンパク質は、例えば、少なくとも、糖原料からゲンチオビオースを合成する反応を触媒する活性を有するものであってよい。また、GH1-2タンパク質は、例えば、少なくとも、グルコースおよび/またはセロビオースから二糖を合成する反応を触媒する活性を有するものであってよい。GH1-2タンパク質は、特に、少なくとも、グルコースから二糖を合成する反応を触媒する活性を有するものであってよい。GH1-2タンパク質は、さらに特には、少なくとも、グルコースおよび/またはセロビオースからゲンチオビオースを合成する反応を触媒する活性を有するものであってもよい。GH1-2タンパク質は、さらに特には、少なくとも、グルコースからゲンチオビオースを合成する反応を触媒する活性を有するものであってもよい。
なお、GH1-2タンパク質は、単独で糖原料から二糖を合成する反応を触媒する活性を有していてもよく、他の酵素との併用時に糖原料から二糖を合成する反応を触媒する活性を有していてもよい。よって、GH1-2タンパク質の活性において言及される「糖原料」とは、糖原料そのものに限られず、例えば、糖原料が他の酵素により変換されたもの(例えば糖原料の分解物)であってもよい。すなわち、一態様において、「二糖合成活性」とは、糖原料またはその分解物から二糖を合成する反応を触媒する活性であってもよい。他の酵素としては、例えば、セルラーゼが挙げられる。具体的には、例えば、セルロースを糖原料として用い、GH1-2タンパク質とセルラーゼを併用する場合、セルラーゼにより糖原料が分解され、GH1-2タンパク質により糖原料の分解物から二糖が生成してもよい。
GH1-2タンパク質は、1種の二糖を加水分解する反応を触媒する活性を有していてもよく、2種またはそれ以上の二糖を加水分解する反応を触媒する活性を有していてもよい。GH1-2タンパク質は、例えば、少なくとも、ゲンチオビオースおよび/またはセロビオースを加水分解する反応を触媒する活性を有するものであってよい。GH1-2タンパク質は、特に、少なくとも、ゲンチオビオースを加水分解する反応を触媒する活性を有するものであってよい。
本発明の微生物の説明における「GH1-2タンパク質の活性が低下する」とは、特記しない限り、少なくともGH1-2タンパク質の二糖加水分解活性が低下することを意味する。すなわち、本発明の微生物において活性が低下するGH1-2タンパク質は、少なくとも二糖加水分解活性を有する。GH1-2タンパク質の二糖加水分解活性が低下する場合、GH1-2タンパク質の二糖合成活性は、低下してもよく、しなくてもよい。GH1-2タンパク質の二糖加水分解活性が低下する場合、典型的には、GH1-2タンパク質の二糖合成活性も併せて低下し得る。すなわち、「GH1-2タンパク質の活性が低下する」とは、典型的には、GH1-2タンパク質の二糖加水分解活性および二糖合成活性の両方が低下することを意味してもよい。
なお、GH1-2タンパク質の活性が完全に消失するようにタラロマイセス・セルロリティカスを改変することにより、特に、ゲンチオビオースの存在下での目的タンパク質の生産を増大させることができる。GH1-2タンパク質の活性が完全に消失するようにタラロマイセス・セルロリティカスを改変することにより、具体的には、ゲンチオビオースの存在下での目的タンパク質の発現誘導が増強されてよい。GH1-2タンパク質の活性が完全に消失するようにタラロマイセス・セルロリティカスを改変することにより、より具体的には、ゲンチオビオースの存在下での目的タンパク質の発現誘導が選択的に増強されてよい。よって、GH1-2タンパク質の活性が完全に消失するように本発明の微生物が改変されている場合には、発現誘導物質としては、例えば、ゲンチオビオースを選択してよい。本発明の微生物の説明における「GH1-2タンパク質の活性が完全に消失する」とは、特記しない限り、少なくともGH1-2タンパク質の二糖合成活性が完全に消失することを意味する。GH1-2タンパク質の二糖合成活性が完全に消失する場合、GH1-2タンパク質の二糖加水分解活性は、完全に消失してもよく、しなくてもよい。GH1-2タンパク質の二糖合成活性が完全に消失する場合、典型的には、GH1-2タンパク質の二糖加水分解活性も併せて完全に消失し得る。すなわち、「GH1-2タンパク質の活性が完全に消失する」とは、典型的には、GH1-2タンパク質の二糖合成活性および二糖加水分解活性の両方が完全に消失することを意味してもよい。
gh1-2遺伝子およびGH1-2タンパク質としては、Talaromyces cellulolyticus等の真菌やその他の微生物等の各種生物のものが挙げられる。各種生物が有するgh1-2遺伝子の塩基配列およびそれらにコードされるGH1-2タンパク質のアミノ酸配列は、例えば、NCBI(National Center for Biotechnology Information)等の公開データベースから取得できる。Talaromyces cellulolyticus Y-94株のgh1-2遺伝子(イントロンを含む)の塩基配列、及び同遺伝子がコードするGH1-2タンパク質のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号1および23に示す。また、Talaromyces cellulolyticus Y-94株のgh1-2遺伝子のcDNAの塩基配列を配列番号22に示す。すなわち、gh1-2遺伝子は、例えば、配列番号1または22に示す塩基配列を有する遺伝子であってよい。また、GH1-2タンパク質は、例えば、配列番号23に示すアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。なお、「(アミノ酸または塩基)配列を有する」という表現は、当該「(アミノ酸または塩基)配列を含む」場合および当該「(アミノ酸または塩基)配列からなる」場合を包含する。
gh1-2遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示したgh1-2遺伝子(例えば配列番号1または22に示す塩基配列を有する遺伝子)のバリアントであってもよい。同様に、GH1-2タンパク質は、元の機能が維持されている限り、上記例示したGH1-2タンパク質(例えば配列番号23に示すアミノ酸配列を有するタンパク質)のバリアントであってもよい。そのような元の機能が維持されたバリアントを「保存的バリアント」という場合がある。本発明において、「gh1-2遺伝子」という用語は、上記例示したgh1-2遺伝子に限られず、その保存的バリアントを包含するものとする。同様に、「GH1-2タンパク質」という用語は、上記例示したGH1-2タンパク質に限られず、その保存的バリアントを包含するものとする。保存的バリアントとしては、例えば、上記例示したgh1-2遺伝子やGH1-2タンパク質のホモログや人為的な改変体が挙げられる。
「元の機能が維持されている」とは、遺伝子またはタンパク質のバリアントが、元の遺伝子またはタンパク質の機能(活性や性質)に対応する機能(活性や性質)を有することをいう。すなわち、「元の機能が維持されている」とは、gh1-2遺伝子にあっては、遺伝子のバリアントが、元の機能が維持されたタンパク質をコードすることをいう。また、「元の機能が維持されている」とは、GH1-2タンパク質にあっては、タンパク質のバリアントが、二糖合成活性および/または二糖加水分解活性を有することをいう。なお、或るGH1-2タンパク質とそのバリアントにより合成または加水分解される二糖および基質として用いられる糖原料は、いずれも、互いに同一であってもよく、なくてもよい。
二糖合成活性は、酵素を基質(グルコース等の糖原料)とインキュベートし、酵素および基質依存的な産物(ゲンチオビオース等の二糖)の生成を測定することにより、測定できる。二糖加水分解活性は、酵素を基質(ゲンチオビオース等の二糖)とインキュベートし、酵素および基質依存的な産物(グルコース)の生成を測定することにより、測定できる。産物の生成は、イオン交換クロマトグラフィー等の、化合物の検出または同定に用いられる公知の手法により確認することができる。
以下、保存的バリアントについて例示する。
gh1-2遺伝子のホモログまたはGH1-2タンパク質のホモログは、例えば、上記例示したgh1-2遺伝子の塩基配列または上記例示したGH1-2タンパク質のアミノ酸配列を問い合わせ配列として用いたBLAST検索やFASTA検索によって公開データベースから容易に取得することができる。また、gh1-2遺伝子のホモログは、例えば、タラロマイセス・セルロリティカス等の生物の染色体を鋳型にして、これら公知のgh1-2遺伝子の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより取得することができる。
gh1-2遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示したGH1-2タンパク質のアミノ酸配列(例えば、配列番号23に示すアミノ酸配列)において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。なお上記「1又は数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、具体的には、例えば、1~50個、1~40個、1~30個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個を意味する。
上記の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、及び/又は付加は、タンパク質の機能が正常に維持される保存的変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加には、遺伝子が由来する生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
また、gh1-2遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示したGH1-2タンパク質のアミノ酸配列(例えば、配列番号23に示すアミノ酸配列)全体に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。尚、本明細書において、「相同性」(homology)は、「同一性」(identity)を意味する。
また、gh1-2遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示したgh1-2遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号1または22に示す塩基配列)の相補配列又は同相補配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであってもよい。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、より好ましくは68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、好ましくは2~3回洗浄する条件を挙げることができる。
上記プローブは、例えば、遺伝子の相補配列の一部であってよい。そのようなプローブは、公知の遺伝子の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、これらの塩基配列を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。プローブとしては、例えば、300 bp程度の長さのDNA断片を用いることができる。そのような場合、ハイブリダイゼーションの洗いの条件としては、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
また、gh1-2遺伝子は、任意のコドンをそれと等価のコドンに置換したものであってもよい。すなわち、gh1-2遺伝子は、コドンの縮重による上記例示したgh1-2遺伝子のバリアントであってもよい。例えば、gh1-2遺伝子は、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。
2つの配列間の配列同一性のパーセンテージは、例えば、数学的アルゴリズムを用いて決定できる。このような数学的アルゴリズムの限定されない例としては、Myers and Miller (1988) CABIOS 4:11-17のアルゴリズム、Smith et al (1981) Adv. Appl. Math. 2:482の局所ホモロジーアルゴリズム、Needleman and Wunsch (1970) J. Mol. Biol. 48:443-453のホモロジーアライメントアルゴリズム、Pearson and Lipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. 85:2444-2448の類似性を検索する方法、Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877に記載されているような、改良された、Karlin and Altschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264のアルゴリズムが挙げられる。
これらの数学的アルゴリズムに基づくプログラムを利用して、配列同一性を決定するための配列比較(アラインメント)を行うことができる。プログラムは、適宜、コンピュータにより実行することができる。このようなプログラムとしては、特に限定されないが、PC/GeneプログラムのCLUSTAL(Intelligenetics, Mountain View, Calif.から入手可能)、ALIGNプログラム(Version 2.0)、並びにWisconsin Genetics Software Package, Version 8(Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Drive, Madison, Wis., USAから入手可能)のGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA、及びTFASTAが挙げられる。これらのプログラムを用いたアライメントは、例えば、初期パラメーターを用いて行うことができる。CLUSTALプログラムについては、Higgins et al. (1988) Gene 73:237-244、Higgins et al. (1989) CABIOS 5:151-153、Corpet et al. (1988) Nucleic Acids Res. 16:10881-90、Huang et al. (1992) CABIOS 8:155-65、及びPearson et al. (1994) Meth. Mol. Biol. 24:307-331によく記載されている。
対象のタンパク質をコードするヌクレオチド配列と相同性があるヌクレオチド配列を得るために、具体的には、例えば、BLASTヌクレオチド検索を、BLASTNプログラム、スコア=100、ワード長=12にて行うことができる。対象のタンパク質と相同性があるアミノ酸配列を得るために、具体的には、例えば、BLASTタンパク質検索を、BLASTXプログラム、スコア=50、ワード長=3にて行うことができる。BLASTヌクレオチド検索やBLASTタンパク質検索については、http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。また、比較を目的としてギャップを加えたアライメントを得るために、Gapped BLAST(BLAST 2.0)を利用できる。また、PSI-BLAST(BLAST 2.0)を、配列間の離間した関係を検出する反復検索を行うのに利用できる。Gapped BLASTおよびPSI-BLASTについては、Altschul et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389を参照されたい。BLAST、Gapped BLAST、またはPSI-BLASTを利用する場合、例えば、各プログラム(例えば、ヌクレオチド配列に対してBLASTN、アミノ酸配列に対してBLASTX)の初期パラメーターが用いられ得る。アライメントは、手動にて行われてもよい。
2つの配列間の配列同一性は、2つの配列を最大一致となるように整列したときに2つの配列間で一致する残基の比率として算出される。なお、アミノ酸配列間の「同一性」とは、具体的には、特記しない限り、blastpによりデフォルト設定のScoring Parameters(Matrix:BLOSUM62;Gap Costs:Existence=11, Extension=1;Compositional Adjustments:Conditional compositional score matrix adjustment)を用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味してよい。また、塩基配列間の「同一性」とは、具体的には、特記しない限り、blastnによりデフォルト設定のScoring Parameters(Match/Mismatch Scores=1,-2;Gap Costs=Linear)を用いて算出される塩基配列間の同一性を意味してよい。
なお、上記の遺伝子やタンパク質のバリアントに関する記載は、目的タンパク質等の任意のタンパク質およびそれらをコードする遺伝子にも準用できる。
GH1-2タンパク質の活性は、例えば、gh1-2遺伝子の発現を弱化することにより、またはgh1-2遺伝子を破壊することにより、低下させることができる。また、一態様においては、GH1-2タンパク質の活性は、例えば、gh1-2遺伝子を「特定の変異」を有するように改変することにより、低下させることができる。このようなGH1-2タンパク質の活性を低下させる手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて、用いることができる。
本発明の微生物は、gh1-2遺伝子が「特定の変異」を有するように改変されていてよい。
「特定の変異」は、タラロマイセス・セルロリティカスの目的タンパク質生産能を向上させる変異である。「特定の変異」とは、gh1-2遺伝子にあっては、gh1-2遺伝子の塩基配列における変化を意味してよい。「特定の変異」により、コードされるGH1-2タンパク質のアミノ酸配列において変化が生じ得る。よって、「特定の変異」とは、GH1-2タンパク質に対しては、gh1-2遺伝子における「特定の変異」により生じるGH1-2タンパク質のアミノ酸配列における変化を意味するものとして使用されてもよい。すなわち、「gh1-2遺伝子が「特定の変異」を有する」とは、該遺伝子にコードされるGH1-2タンパク質が「特定の変異」を有すると読み替えてもよい。
「特定の変異」を有するGH1-2タンパク質を、「変異型GH1-2タンパク質」ともいう。また、変異型GH1-2タンパク質をコードする遺伝子、すなわち「特定の変異」を有するgh1-2遺伝子を、「変異型gh1-2遺伝子」ともいう。
「特定の変異」を有さないGH1-2タンパク質を、「野生型GH1-2タンパク質」ともいう。また、野生型GH1-2タンパク質をコードする遺伝子、すなわち「特定の変異」を有さないgh1-2遺伝子を、「野生型gh1-2遺伝子」ともいう。野生型gh1-2遺伝子または野生型GH1-2タンパク質としては、例えば、上記例示したgh1-2遺伝子またはGH1-2タンパク質、およびそれらの保存的バリアントが挙げられる。
「特定の変異」は、同変異がタラロマイセス・セルロリティカスの目的タンパク質生産能を向上させる限り、特に制限されない。「特定の変異」は、例えば、GH1-2タンパク質の活性を低下させる変異であってよい。「特定の変異」は、例えば、少なくともGH1-2タンパク質の二糖加水分解活性を低下させる変異であってよい。また、「特定の変異」は、例えば、GH1-2タンパク質の活性を完全には消失させない(すなわち、GH1-2タンパク質の活性が残存する)変異であってよい。「特定の変異」は、例えば、少なくともGH1-2タンパク質の二糖加水分解活性を完全には消失させない(すなわち、少なくともGH1-2タンパク質の二糖加水分解活性が残存する)変異であってよい。
「特定の変異」として、具体的には、以下の変異が挙げられる:
(A)野生型GH1-2タンパク質の267位のシステイン残基(C267)が他のアミノ酸残基に置換される変異;
(B)野生型GH1-2タンパク質の363位のトリプトファン残基(W363)が他のアミノ酸残基に置換される変異;
(C)野生型GH1-2タンパク質の449位のトリプトファン残基(W449)が他のアミノ酸残基に置換される変異。
上記各変異において、改変後のアミノ酸残基は、同変異がタラロマイセス・セルロリティカスの目的タンパク質生産能を向上させる限り、改変前のアミノ酸残基以外のいずれのアミノ酸残基であってもよい。改変後のアミノ酸残基として、具体的には、K(Lys)、R(Arg)、H(His)、A(Ala)、V(Val)、L(Leu)、I(Ile)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、P(Pro)、F(Phe)、W(Trp)、Y(Tyr)、C(Cys)、M(Met)、D(Asp)、E(Glu)、N(Asn)、Q(Gln)の内、改変前のアミノ酸残基以外のものが挙げられる。改変後のアミノ酸残基としては、特に、C267についてP(Pro)、W363についてF(Phe)、W449についてF(Phe)が挙げられる。すなわち、「特定の変異」としては、特に、C267がP(Pro)に置換される変異(C267P変異)、W363がF(Phe)に置換される変異(W363F変異)、W449がF(Phe)に置換される変異(W449F変異)が挙げられる。
任意の野生型GH1-2タンパク質における「C267」、「W363」、および「W449」とは、それぞれ、「配列番号23に示すアミノ酸配列の267位のシステイン残基に相当するアミノ酸残基」、「配列番号23に示すアミノ酸配列の363位のトリプトファン残基に相当するアミノ酸残基」および「配列番号23に示すアミノ酸配列の449位のトリプトファン残基に相当するアミノ酸残基」を意味してよい。これらのアミノ酸残基の位置は相対的な位置を示すものであって、アミノ酸の欠失、挿入、付加などによってその絶対的な位置は前後することがある。例えば、配列番号23に示すアミノ酸配列において、X位よりもN末端側の位置で1アミノ酸残基が欠失した、または挿入された場合、元のX位のアミノ酸残基は、それぞれ、N末端から数えてX-1番目またはX+1番目のアミノ酸残基となるが、「配列番号23に示すアミノ酸配列のX位のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基」とみなされる。また、「C267」、「W363」、および「W449」は、それぞれ、通常はシステイン残基、トリプトファン残基、およびトリプトファン残基であるが、そうでなくてもよい。すなわち、「特定の変異」には、「C267」、「W363」、および「W449」がそれぞれシステイン残基、トリプトファン残基、およびトリプトファン残基でない場合に、当該アミノ酸残基を上述した変異後のアミノ酸残基に置換する変異も包含されてよい。
任意のGH1-2タンパク質のアミノ酸配列において、どのアミノ酸残基が「C267」、「W363」、または「W449」であるかは、当該任意のGH1-2タンパク質のアミノ酸配列と配列番号23に示すアミノ酸配列とのアライメントを行うことにより決定できる。アライメントは、例えば、公知の遺伝子解析ソフトウェアを利用して行うことができる。具体的なソフトウェアとしては、日立ソリューションズ製のDNASISや、ゼネティックス製のGENETYXなどが挙げられる(Elizabeth C. Tyler et al., Computers and Biomedical Research, 24(1), 72-96, 1991;Barton GJ et al., Journal of molecular biology, 198(2), 327-37. 1987)。
変異型gh1-2遺伝子は、例えば、野生型gh1-2遺伝子を、コードされるGH1-2タンパク質が「特定の変異」を有するよう改変することにより取得できる。改変の元になる野生型gh1-2遺伝子は、例えば、野生型gh1-2遺伝子を有する生物からのクローニングにより、または、化学合成により、取得できる。あるいは、変異型gh1-2遺伝子は、野生型gh1-2遺伝子を介さずに取得することもできる。変異型gh1-2遺伝子は、例えば、変異型gh1-2遺伝子を有する生物からのクローニングにより、または、化学合成により、直接取得してもよい。取得した変異型gh1-2遺伝子は、そのまま、あるいはさらに改変して利用してよい。遺伝子の改変は公知の手法により行うことができる。例えば、部位特異的変異法により、DNAの目的部位に目的の変異を導入することができる。改変の元になる野生型gh1-2遺伝子または変異型gh1-2遺伝子は、宿主に由来するものであってもよく、そうでなくてもよい。
gh1-2遺伝子が「特定の変異」を有するようにタラロマイセス・セルロリティカスを改変する手法は特に制限されない。「gh1-2遺伝子が「特定の変異」を有するようにタラロマイセス・セルロリティカスが改変される」とは、具体的には、生来(native)の野生型gh1-2遺伝子に代えて変異型gh1-2遺伝子を有するようにタラロマイセス・セルロリティカスが改変されることを意味してよい。「タラロマイセス・セルロリティカスが生来の野生型gh1-2遺伝子に代えて変異型gh1-2遺伝子を有する」とは、タラロマイセス・セルロリティカスが、変異型gh1-2遺伝子を有するが、正常に機能する生来の野生型gh1-2遺伝子をもはや有さない(すなわち、生来の野生型gh1-2遺伝子が正常に機能しないように改変されている)ことを意味してよい。「生来の野生型gh1-2遺伝子」とは、タラロマイセス・セルロリティカスにもともと存在する野生型gh1-2遺伝子を意味してよい。例えば、変異型gh1-2遺伝子をタラロマイセス・セルロリティカスに導入することにより、gh1-2遺伝子が「特定の変異」を有するようにタラロマイセス・セルロリティカスを改変することができる。その場合、タラロマイセス・セルロリティカスの染色体等に存在する生来の野生型gh1-2遺伝子は、変異型gh1-2遺伝子の導入との組み合わせによりタラロマイセス・セルロリティカスの目的タンパク質生産能が向上するように改変(例えば、破壊や欠損)されるものとする。例えば、生来の野生型gh1-2遺伝子は、変異型gh1-2遺伝子で置換されてもよく、変異型gh1-2遺伝子の導入とは独立に破壊または欠損してもよい。あるいは、例えば、タラロマイセス・セルロリティカスの染色体等に存在する野生型gh1-2遺伝子(例えば、生来の野生型gh1-2遺伝子)に「特定の変異」を導入することにより、gh1-2遺伝子が「特定の変異」を有するようにタラロマイセス・セルロリティカスを改変することができる。変異は、例えば、自然変異、変異処理、または遺伝子工学により、染色体等に存在する遺伝子に導入することができる。
また、本発明の微生物は、例えば、β-グルコシダーゼの活性が低下するように改変されていてよい。本発明の微生物は、具体的には、非改変株と比較して、β-グルコシダーゼの活性が低下するように改変されていてよい。本発明の微生物は、より具体的には、例えば、β-グルコシダーゼ遺伝子の発現が低下するように改変されていてもよく、β-グルコシダーゼ遺伝子が破壊されるように改変されていてもよい。「β-グルコシダーゼ」とは、二糖合成活性および/または二糖加水分解活性を有するタンパク質(酵素)をいう。β-グルコシダーゼは、典型的には、二糖合成活性および二糖加水分解活性の両方を有していてよい。β-グルコシダーゼの活性については、GH1-2タンパク質の活性についての記載を準用できる。例えば、本発明の微生物の説明における「β-グルコシダーゼの活性が低下する」とは、特記しない限り、少なくともβ-グルコシダーゼの二糖加水分解活性が低下することを意味する。すなわち、本発明の微生物において活性が低下するβ-グルコシダーゼは、少なくとも二糖加水分解活性を有する。β-グルコシダーゼの活性が低下するようにタラロマイセス・セルロリティカスを改変することにより、タラロマイセス・セルロリティカスの目的タンパク質生産能を向上させることができる、すなわち、発現誘導物質の存在下でのタラロマイセス・セルロリティカスによる目的タンパク質の生産を増大させることができる、と期待される。
β-グルコシダーゼは、細胞内局在型であってもよく、細胞外分泌型であってもよい。β-グルコシダーゼとしては、GH1-2タンパク質以外のβ-グルコシダーゼが挙げられる。GH1-2タンパク質以外のβ-グルコシダーゼとしては、BGL3Aタンパク質が挙げられる。Bgl3Aは、具体的には、Glucoside Hydrolase family 3(GH3)に分類されるβ-グルコシダーゼであってよい。また、Bgl3Aタンパク質は、具体的には、細胞外分泌型のβ-グルコシダーゼであってよい。
β-グルコシダーゼ遺伝子およびβ-グルコシダーゼとしては、Talaromyces cellulolyticus等の真菌やその他の微生物等の各種生物のものが挙げられる。各種生物が有するβ-グルコシダーゼ遺伝子の塩基配列およびそれらにコードされるβ-グルコシダーゼのアミノ酸配列は、例えば、NCBI(National Center for Biotechnology Information)等の公開データベースから取得できる。Talaromyces cellulolyticusのbgl3A遺伝子のcDNAの塩基配列及び同遺伝子がコードするBGL3Aタンパク質のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号48および38に示す。すなわち、β-グルコシダーゼ遺伝子は、例えば、配列番号48に示す塩基配列を有する遺伝子であってよい。また、β-グルコシダーゼは、例えば、配列番号38に示すアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。β-グルコシダーゼ遺伝子およびβ-グルコシダーゼは、それぞれ、上記例示したβ-グルコシダーゼ遺伝子およびβ-グルコシダーゼの保存的バリアント(例えば、上記例示したbgl3A遺伝子およびBGL3Aタンパク質の保存的バリアント)であってもよい。β-グルコシダーゼ遺伝子およびβ-グルコシダーゼの保存的バリアントについては、gh1-2遺伝子およびGH1-2タンパク質の保存的バリアントについての記載を準用できる。なお、「元の機能が維持されている」とは、β-グルコシダーゼにあっては、タンパク質のバリアントが、二糖合成活性および/または二糖加水分解活性を有することをいう。
なお、上記β-グルコシダーゼに関する説明は、本発明の微生物において活性が低下するβ-グルコシダーゼに加えて、本発明の二糖の製造方法に利用されるβ-グルコシダーゼの説明を兼ねる。本発明の微生物において活性が低下するβ-グルコシダーゼは、β-グルコシダーゼであって、改変されるタラロマイセス・セルロリティカスが有するものである。
また、本発明の微生物は、例えば、CreAタンパク質の活性が低下するように改変されていてよい。本発明の微生物は、具体的には、非改変株と比較して、CreAタンパク質の活性が低下するように改変されていてよい。本発明の微生物は、より具体的には、例えば、creA遺伝子の発現が低下するように改変されていてもよく、creA遺伝子が破壊されるように改変されていてもよい。creA遺伝子は、カタボライトリプレッションに関与する転写因子をコードする遺伝子である。creA遺伝子は、糸状菌において、セルラーゼの発現に関与していることが知られている(Mol Gen Genet. 1996 Jun 24;251(4):451-60、Biosci Biotechnol Biochem. 1998 Dec;62(12):2364-70)。CreAタンパク質の活性が低下するようにタラロマイセス・セルロリティカスを改変することにより、タラロマイセス・セルロリティカスの目的タンパク質生産能を向上させることができる、すなわち、発現誘導物質の存在下でのタラロマイセス・セルロリティカスによる目的タンパク質の生産を増大させることができる、と期待される。
Talaromyces cellulolyticus S6-25株のcreA遺伝子の塩基配列を配列番号47に示す。すなわち、creA遺伝子は、例えば、配列番号47に示す塩基配列を有する遺伝子であってよい。また、CreAタンパク質は、例えば、配列番号47に示す塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。creA遺伝子およびCreAタンパク質は、それぞれ、上記例示したcreA遺伝子およびCreAタンパク質の保存的バリアントであってもよい。creA遺伝子およびCreAタンパク質の保存的バリアントについては、gh1-2遺伝子およびGH1-2タンパク質の保存的バリアントについての記載を準用できる。なお、「元の機能が維持されている」とは、CreAタンパク質にあっては、タンパク質のバリアントが、カタボライトリプレッションに関与する転写因子としての機能を有することであってよい。
また、本発明の微生物は、例えば、YscBタンパク質の活性が低下するように改変されていてよい。本発明の微生物は、具体的には、非改変株と比較して、YscBタンパク質の活性が低下するように改変されていてよい。本発明の微生物は、より具体的には、例えば、yscB遺伝子の発現が低下するように改変されていてもよく、yscB遺伝子が破壊されるように改変されていてもよい。YscBタンパク質は、プロテアーゼである。「プロテアーゼ」とは、タンパク質を加水分解する反応を触媒する活性を有するタンパク質をいう。また、同活性を「プロテアーゼ活性」ともいう。YscBタンパク質の活性が低下するようにタラロマイセス・セルロリティカスを改変することにより、タラロマイセス・セルロリティカスの目的タンパク質生産能を向上させることができる、すなわち、発現誘導物質の存在下でのタラロマイセス・セルロリティカスによる目的タンパク質の生産を増大させることができる、と期待される。
Talaromyces cellulolyticus S6-25株のyscB遺伝子(イントロンを含む)の塩基配列、及び同遺伝子がコードするYscBタンパク質のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号62および69に示す。すなわち、yscB遺伝子は、例えば、配列番号62に示す塩基配列を有する遺伝子であってよい。また、YscBタンパク質は、例えば、配列番号69に示すアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。yscB遺伝子およびYscBタンパク質は、それぞれ、上記例示したyscB遺伝子およびYscBタンパク質の保存的バリアントであってもよい。yscB遺伝子およびYscBタンパク質の保存的バリアントについては、gh1-2遺伝子およびGH1-2タンパク質の保存的バリアントについての記載を準用できる。なお、「元の機能が維持されている」とは、YscBタンパク質にあっては、タンパク質のバリアントが、プロテアーゼ活性を有することをいう。
プロテアーゼ活性は、酵素を基質(タンパク質)とインキュベートし、酵素依存的な基質の分解を測定することにより、測定できる。また、プロテアーゼ活性は、市販のプロテアーゼ活性測定キットを用いて測定できる。
<1-2-4>タンパク質の活性を低下させる手法
以下に、GH1-2タンパク質やBGL3Aタンパク質等のβ-グルコシダーゼ、CreAタンパク質、YscBタンパク質等のタンパク質の活性を低下させる手法について説明する。
「タンパク質の活性が低下する」とは、同タンパク質の活性が非改変株と比較して低下することを意味する。「タンパク質の活性が低下する」とは、具体的には、同タンパク質の細胞当たりの活性が非改変株と比較して低下することを意味する。ここでいう「非改変株」とは、標的のタンパク質の活性が低下するように改変されていない対照株を意味する。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。非改変株として、具体的には、タラロマイセス・セルロリティカスの説明において例示した株が挙げられる。すなわち、一態様において、タンパク質の活性は、タラロマイセス・セルロリティカスS6-25株と比較して低下してよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、タラロマイセス・セルロリティカスY-94株と比較して低下してよい。なお、「タンパク質の活性が低下する」ことには、同タンパク質の活性が完全に消失している場合も包含される。「タンパク質の活性が低下する」とは、より具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が低下していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が低下していることを意味してよい。すなわち、「タンパク質の活性が低下する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。なお、「タンパク質の細胞当たりの分子数が低下している」ことには、同タンパク質が全く存在していない場合も包含される。また、「タンパク質の分子当たりの機能が低下している」ことには、同タンパク質の分子当たりの機能が完全に消失している場合も包含される。タンパク質の活性の低下の程度は、タンパク質の活性が非改変株と比較して低下していれば特に制限されない。タンパク質の活性は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を低下させることにより達成できる。「遺伝子の発現が低下する」とは、同遺伝子の発現が非改変株と比較して低下することを意味する。「遺伝子の発現が低下する」とは、具体的には、同遺伝子の細胞当たりの発現量が非改変株と比較して低下することを意味する。「遺伝子の発現が低下する」とは、より具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が低下すること、および/または、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が低下することを意味してよい。「遺伝子の発現が低下する」ことには、同遺伝子が全く発現していない場合が含まれる。なお、「遺伝子の発現が低下する」ことを、「遺伝子の発現が弱化される」ともいう。遺伝子の発現は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
遺伝子の発現の低下は、例えば、転写効率の低下によるものであってもよく、翻訳効率の低下によるものであってもよく、それらの組み合わせによるものであってもよい。遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子の発現調節配列を改変することにより達成できる。「発現調節配列」とは、プロモーター等の、遺伝子の発現に影響する部位の総称である。発現調節配列は、例えば、プロモーター検索ベクターやGENETYX等の遺伝子解析ソフトを用いて決定することができる。発現調節配列を改変する場合には、発現調節配列は、好ましくは1塩基以上、より好ましくは2塩基以上、特に好ましくは3塩基以上が改変される。遺伝子の転写効率の低下は、例えば、染色体上の遺伝子のプロモーターをより弱いプロモーターに置換することにより達成できる。「より弱いプロモーター」とは、遺伝子の転写が、もともと存在している野生型のプロモーターよりも弱化するプロモーターを意味する。より弱いプロモーターとしては、例えば、誘導型のプロモーターが挙げられる。すなわち、誘導型のプロモーターは、非誘導条件下(例えば、誘導物質の非存在下)でより弱いプロモーターとして機能し得る。また、発現調節配列の一部または全部の領域を欠失(欠損)させてもよい。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、発現制御に関わる因子を操作することによっても達成できる。発現制御に関わる因子としては、転写や翻訳制御に関わる低分子(誘導物質、阻害物質など)、タンパク質(転写因子など)、核酸(siRNAなど)等が挙げられる。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のコード領域に遺伝子の発現が低下するような変異を導入することによっても達成できる。例えば、遺伝子のコード領域のコドンを、宿主においてより低頻度で利用される同義コドンに置き換えることによって、遺伝子の発現を低下させることができる。また、例えば、後述するような遺伝子の破壊により、遺伝子の発現自体が低下し得る。
また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子を破壊することにより達成できる。「遺伝子が破壊される」とは、正常に機能するタンパク質を産生しないように同遺伝子が改変されることを意味する。「正常に機能するタンパク質を産生しない」ことには、同遺伝子からタンパク質が全く産生されない場合や、同遺伝子から分子当たりの機能(活性や性質)が低下又は消失したタンパク質が産生される場合が含まれる。
遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子を欠失(欠損)させることにより達成できる。「遺伝子の欠失」とは、遺伝子のコード領域の一部又は全部の領域の欠失をいう。さらには、染色体上の遺伝子のコード領域の前後の配列を含めて、遺伝子全体を欠失させてもよい。遺伝子のコード領域の前後の配列には、例えば、遺伝子の発現調節配列が含まれてよい。タンパク質の活性の低下が達成できる限り、欠失させる領域は、N末端領域(タンパク質のN末端側をコードする領域)、内部領域、C末端領域(タンパク質のC末端側をコードする領域)等のいずれの領域であってもよい。通常、欠失させる領域は長い方が確実に遺伝子を不活化することができる。欠失させる領域は、例えば、遺伝子のコード領域全長の10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または95%以上の長さの領域であってよい。また、欠失させる領域の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。リーディングフレームの不一致により、欠失させる領域の下流でフレームシフトが生じ得る。creA遺伝子の場合、具体的には、例えば、配列番号47の3262~4509位に相当する部分を欠失させることにより、同遺伝子を破壊することができる。
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域にアミノ酸置換(ミスセンス変異)を導入すること、終止コドン(ナンセンス変異)を導入すること、あるいは1~2塩基の付加または欠失(フレームシフト変異)を導入すること等によっても達成できる(Journal of Biological Chemistry 272:8611-8617(1997), Proceedings of the National Academy of Sciences, USA 95 5511-5515(1998), Journal of Biological Chemistry 26 116, 20833-20839(1991))。
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域に他の塩基配列を挿入することによっても達成できる。挿入部位は遺伝子のいずれの領域であってもよいが、挿入する塩基配列は長い方が確実に遺伝子を不活化することができる。また、挿入部位の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。リーディングフレームの不一致により、挿入部位の下流でフレームシフトが生じ得る。他の塩基配列としては、コードされるタンパク質の活性を低下又は消失させるものであれば特に制限されないが、例えば、マーカー遺伝子や目的タンパク質生産に有用な遺伝子が挙げられる。
遺伝子の破壊は、特に、コードされるタンパク質のアミノ酸配列が欠失(欠損)するように実施してよい。言い換えると、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、タンパク質のアミノ酸配列を欠失させることにより、具体的には、アミノ酸配列を欠失したタンパク質をコードするように遺伝子を改変することにより、達成できる。なお、「タンパク質のアミノ酸配列の欠失」とは、タンパク質のアミノ酸配列の一部または全部の領域の欠失をいう。また、「タンパク質のアミノ酸配列の欠失」とは、タンパク質において元のアミノ酸配列が存在しなくなることをいい、元のアミノ酸配列が別のアミノ酸配列に変化する場合も包含される。すなわち、例えば、フレームシフトにより別のアミノ酸配列に変化した領域は、欠失した領域とみなしてよい。タンパク質のアミノ酸配列の欠失により、典型的にはタンパク質の全長が短縮されるが、タンパク質の全長が変化しないか、あるいは延長される場合もあり得る。例えば、遺伝子のコード領域の一部又は全部の領域の欠失により、コードされるタンパク質のアミノ酸配列において、当該欠失した領域がコードする領域を欠失させることができる。また、例えば、遺伝子のコード領域への終止コドンの導入により、コードされるタンパク質のアミノ酸配列において、当該導入部位より下流の領域がコードする領域を欠失させることができる。また、例えば、遺伝子のコード領域におけるフレームシフトにより、当該フレームシフト部位がコードする領域を欠失させることができる。アミノ酸配列の欠失における欠失させる領域の位置および長さについては、遺伝子の欠失における欠失させる領域の位置および長さの説明を準用できる。
染色体上の遺伝子を上記のように改変することは、例えば、正常に機能するタンパク質を産生しないように改変した破壊型遺伝子を作製し、該破壊型遺伝子を含む組換えDNAで宿主を形質転換して、破壊型遺伝子と染色体上の野生型遺伝子とで相同組換えを起こさせることにより、染色体上の野生型遺伝子を破壊型遺伝子に置換することによって達成できる。その際、組換えDNAには、宿主の栄養要求性等の形質にしたがって、マーカー遺伝子を含ませておくと操作がしやすい。破壊型遺伝子としては、遺伝子のコード領域の一部又は全部の領域を欠失した遺伝子、ミスセンス変異を導入した遺伝子、ナンセンス変異を導入した遺伝子、フレームシフト変異を導入した遺伝子、トランスポゾンやマーカー遺伝子等の挿入配列を導入した遺伝子が挙げられる。破壊型遺伝子によってコードされるタンパク質は、生成したとしても、野生型タンパク質とは異なる立体構造を有し、機能が低下又は消失する。
相同組換えに用いる組換えDNAの構造は、所望の態様で相同組換えが起こるものであれば特に制限されない。例えば、任意の配列を含む線状DNAであって、当該任意の配列の両端に染色体上の置換対象部位の上流および下流の配列をそれぞれ備える線状DNAで宿主を形質転換して、置換対象部位の上流および下流でそれぞれ相同組換えを起こさせることにより、1ステップで置換対象部位を当該任意の配列に置換することができる。当該任意の配列としては、例えば、マーカー遺伝子を含む配列を用いることができる。
マーカー遺伝子は、宿主の栄養要求性等の形質に応じて適宜選択できる。例えば、宿主がpyrF遺伝子またはpyrG遺伝子の変異によりUracil要求性を示す場合、pyrF遺伝子またはpyrG遺伝子をマーカー遺伝子として用いることにより、Uracil要求性の相補(すなわちUracil非要求性)を指標として、目的の改変が導入された株を選抜することができる。また、例えば、sC遺伝子(sulfate permiase遺伝子)の変異によりMethionine要求性を示す場合、sC遺伝子をマーカー遺伝子として用いることにより、Methionine要求性の相補(すなわちMethionine非要求性)を指標として、目的の改変が導入された株を選抜することができる。また、マーカー遺伝子としては、ハイグロマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子を用いることができる。
また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。
タンパク質の活性が低下したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。GH1-2タンパク質やBGL3Aタンパク質等のβ-グルコシダーゼ、およびYscBタンパク質の活性は、例えば、上述したように測定できる。CreAタンパク質の活性は、例えば、カタボライトリプレッションの程度を測定することにより、測定できる。カタボライトリプレッションの程度は、例えば、グルコースを炭素源として含む培養条件でのセルラーゼ生産を測定することにより、測定することができる。すなわち、CreAタンパク質の活性が低下したことは、具体的には、例えば、グルコースを炭素源として含む培養条件でのセルラーゼ生産の向上を指標として、確認できる。
タンパク質の活性が低下したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が低下したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が低下したことは、同遺伝子の転写量が低下したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が低下したことを確認することにより確認できる。
遺伝子の転写量が低下したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を非改変株と比較することによって行うことが出来る。mRNAの量を評価する方法としては、ノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR、マイクロアレイ、RNA-seq等が挙げられる(Sambrook, J., et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual/Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001)。mRNAの量(例えば、細胞当たりの分子数)は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
タンパク質の量が低下したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことが出来る(Sambrook, J., et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual/Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001)。タンパク質の量(例えば、細胞当たりの分子数)は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
遺伝子が破壊されたことは、破壊に用いた手段に応じて、同遺伝子の一部または全部の塩基配列、制限酵素地図、または全長等を決定することで確認できる。
形質転換は、例えば、カビや酵母等の真核微生物の形質転換に通常用いられる手法により行うことができる。そのような手法としては、プロトプラスト法が挙げられる。
<1-3>目的タンパク質の製造方法
発現誘導物質と本発明の微生物を利用して、目的タンパク質を製造することができる。具体的には、発現誘導物質の存在下で本発明の微生物を培養することにより、目的タンパク質を製造することができる。すなわち、本発明の目的タンパク質の製造方法は、具体的には、発現誘導物質を含有する培地で本発明の微生物を培養することを含む、目的タンパク質の製造方法であってよい。発現誘導物質により、本発明の微生物による目的タンパク質の生産を誘導することができる。
使用する培地は、発現誘導物質を含有し、本発明の微生物が増殖でき、目的タンパク質が生産される限り、特に制限されない。培地としては、例えば、発現誘導物質に加えて、炭素源、窒素源、リン酸源、硫黄源、その他の各種有機成分や無機成分から選択される成分を必要に応じて含有する培地を用いることができる。培地成分の種類や濃度は、当業者が適宜設定することができる。具体的な培地組成については、例えば、タラロマイセス・セルロリティカスに関する既報(特開2003-135052、特開2008-271826、特開2008-271927等)に記載の培地組成や、トリコデルマ・リーゼイ等のその他各種セルラーゼ生産微生物用の培地組成を参照することができる。
炭素源は、本発明の微生物が資化して目的タンパク質を生成できるものであれば、特に制限されない。炭素源としては、例えば、糖類やセルロース系基質が挙げられる。糖類として、具体的には、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、スクロース、ラクトース、セロビオース、廃糖蜜、澱粉加水分解物、バイオマス加水分解物が挙げられる。セルロース系基質として、具体的には、例えば、微結晶セルロース(アビセル)、ろ紙、古紙、パルプ、木材、稲わら、麦わら、籾殻、米ぬか、小麦ふすま、サトウキビバガス、コーヒー粕、茶粕が挙げられる。セルロース系基質は、水熱分解処理、酸処理、アルカリ処理、蒸煮、爆砕、粉砕等の前処理に供してから炭素源として利用してもよい。市販の好適なセルロース系基質としては、ソルカフロック(International Fiber Corp, North Tonawanda, NY, U.S.A)が挙げられる。炭素源としては、1種の炭素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の炭素源を組み合わせて用いてもよい。なお、発現誘導物質自体も炭素源として利用され得る。発現誘導物質が炭素源として利用される場合、発現誘導物質は、唯一炭素源(sole carbon source)として利用されてもよく、そうでなくてもよい。発現誘導物質は、通常、他の炭素源と併用されるのが好ましい。
窒素源として、具体的には、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカー、大豆タンパク質分解物等の有機窒素源、アンモニア、ウレアが挙げられる。窒素源としては、1種の窒素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の窒素源を組み合わせて用いてもよい。
リン酸源として、具体的には、例えば、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸等のリン酸ポリマーが挙げられる。リン酸源としては、1種のリン酸源を用いてもよく、2種またはそれ以上のリン酸源を組み合わせて用いてもよい。
硫黄源として、具体的には、例えば、硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩等の無機硫黄化合物、システイン、シスチン、グルタチオン等の含硫アミノ酸が挙げられる。硫黄源としては、1種の硫黄源を用いてもよく、2種またはそれ以上の硫黄源を組み合わせて用いてもよい。
その他の各種有機成分や無機成分として、具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類;鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム等の微量金属類;ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12等のビタミン類;アミノ酸類;核酸類;これらを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆タンパク質分解物等の有機成分が挙げられる。その他の各種有機成分や無機成分としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
培養条件は、本発明の微生物が増殖でき、目的タンパク質が生産される限り、特に制限されない。培養は、例えば、糸状菌等の微生物の培養に用いられる通常の条件で行うことができる。具体的な培養条件については、例えば、タラロマイセス・セルロリティカスに関する既報(特開2003-135052、特開2008-271826、特開2008-271927等)に記載の培養条件や、トリコデルマ・リーゼイ等のその他各種セルラーゼ生産微生物用の培養条件を参照することができる。
培養は、例えば、液体培地を用いて、好気条件で行うことができる。好気条件での培養は、具体的には、通気培養、振盪培養、撹拌培養、またはそれらの組み合わせで行うことができる。培養温度は、例えば、15~43℃であってよく、特に約30℃であってよい。培養期間は、例えば、2時間~20日であってよい。培養は、回分培養(batch culture)、流加培養(Fed-batch culture)、連続培養(continuous culture)、またはそれらの組み合わせにより実施することができる。なお、培養開始時の培地を、「初発培地」ともいう。また、流加培養または連続培養において培養系(発酵槽)に供給する培地を、「流加培地」ともいう。また、流加培養または連続培養において培養系に流加培地を供給することを、「流加」ともいう。また、培養は、前培養と本培養とに分けて実施してもよい。例えば、前培養を寒天培地等の固体培地上で行い、本培養を液体培地で行ってもよい。培養は、例えば、培地中の炭素源が消費されるまで、あるいは本発明の微生物の活性がなくなるまで、継続してもよい。
本発明において、各培地成分は、初発培地、流加培地、またはその両方に含有されていてよい。初発培地に含有される成分の種類は、流加培地に含有される成分の種類と、同一であってもよく、そうでなくてもよい。また、初発培地に含有される各成分の濃度は、流加培地に含有される各成分の濃度と、同一であってもよく、そうでなくてもよい。また、含有する成分の種類および/または濃度の異なる2種またはそれ以上の流加培地を用いてもよい。例えば、複数回の流加が間欠的に行われる場合、各回の流加培地に含有される成分の種類および/または濃度は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。
発現誘導物質は、培養の全期間において培地に含有されていてもよく、培養の一部の期間においてのみ培地に含有されていてもよい。すなわち、「発現誘導物質を含有する培地で本発明の微生物を培養する」とは、発現誘導物質が培養の全期間において培地に含有されていることを必ずしも意味しない。例えば、発現誘導物質は、培養開始時から培地に含有されていてもよく、いなくてもよい。発現誘導物質が培養開始時に培地に含有されていない場合は、培養開始後に培地に発現誘導物質が供給される。供給のタイミングは、培養時間等の諸条件に応じて適宜設定できる。例えば、菌体が生育してから発現誘導物質を培地に供給してもよい。供給のタイミングは、具体的には、例えば、培養開始の3時間後以降、6時間後以降、10時間後以降、または20時間後以降であってよい。また、「一部の期間」とは、例えば、培養の全期間の10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または95%以上の期間であってよい。発現誘導物質は、培養中に消費されてもよく、されなくてもよい。いずれの場合にも、発現誘導物質は、追加的に培地に供給されてよい。発現誘導物質を培地に供給する手段は特に制限されない。発現誘導物質は、例えば、発現誘導物質を含有する流加培地の流加により、培地に供給することができる。そのような流加培地は、発現誘導物質のみを含有していてもよいし、そうでなくてもよい。そのような流加培地は、例えば、発現誘導物質に加えて、グルコース等の炭素源を含有していてよい。培地中の発現誘導物質濃度は、目的タンパク質の生産が誘導される限り、特に制限されない。培地中の発現誘導物質濃度は、例えば、0.0005g/L以上、0.001g/L以上、0.003g/L以上、0.005g/L以上、0.01g/L以上、0.05g/L以上、0.1g/L以上、0.5g/L以上、1g/L以上、5g/L以上、または10g/L以上であってもよく、100g/L以下、50g/L以下、10g/L以下、5g/L以下、2g/L以下、1g/L以下、または0.5g/L以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。発現誘導物質は、培養の全期間において上記例示した濃度範囲で培地に含有されていてもよく、そうでなくてもよい。発現誘導物質は、例えば、培養開始時に上記例示した濃度範囲で培地に含有されていてもよく、上記例示した濃度範囲となるように培養開始後に培地に供給されてもよい。培養が種培養と本培養とに分けて行われる場合には、目的タンパク質は少なくとも本培養の期間に生産されればよい。すなわち、発現誘導物質は、本培養の期間(すなわち、本培養の全期間または本培養の一部の期間)に培地に含有されていればよく、種培養の期間には培地に含有されていてもよく、いなくてもよい。このような場合、「培養期間(培養の期間)」や「培養の開始」等の培養に関する用語は、本培養に関するものとして読み替えることができる。
発現誘導物質としては、市販品を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよい。発現誘導物質の製造方法は、特に制限されない。発現誘導物質は、例えば、化学合成、酵素変換、またはそれらの組み合わせにより製造することができる。具体的には、例えば、ゲンチオビオース等の二糖は、糖原料からの酵素変換により製造されたものであってよい。すなわち、本発明の目的タンパク質の製造方法は、さらに、糖原料からの酵素変換によりゲンチオビオース等の二糖を製造することを含んでいてもよい。糖原料からの酵素変換によるゲンチオビオース等の二糖の製造方法については後述する。
発現誘導物質等の各種成分の濃度は、ガスクロマトグラフィー(Hashimoto, K. et al. 1996. Biosci. Biotechnol. Biochem. 70:22-30)やHPLC(Lin, J. T. et al. 1998. J. Chromatogr. A. 808: 43-49)により測定することができる。
上記のようにして本発明の微生物を培養することにより、目的タンパク質が発現し、目的タンパク質を含む培養物が得られる。目的タンパク質は、具体的には、培地中、菌体表層、菌体内、またはそれらの組み合わせへ蓄積してよい。目的タンパク質は、特に、培地中に蓄積してよい。
目的タンパク質が生産されたことは、タンパク質の検出または同定に用いられる公知の方法により確認することができる。そのような方法としては、例えば、SDS-PAGE、Western blotting、質量分析、N末アミノ酸配列解析、酵素活性測定が挙げられる。これらの方法は、1種を単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を適宜組み合わせて用いてもよい。以下、セルラーゼの場合について例示する。セルラーゼが生産されたことは、例えば、培養物や培養上清等の適当な画分のセルラーゼ活性を測定することにより確認できる。セルラーゼ活性は、公知の手法により測定することができる。具体的には、例えば、微結晶セルロース(アビセル)やろ紙等のセルロースを基質として酵素反応を行い、生成する還元糖量を指標として、アビセラーゼ活性(アビセル分解活性)やFPアーゼ活性(ろ紙分解活性)等の基質に対応したセルラーゼ活性を算出することができる。還元糖量は、ジニトロサリチル酸(DNS)法やソモギーネルソン法等の公知の手法により測定することができる。
生成した目的タンパク質は、適宜回収することができる。すなわち、本発明の目的タンパク質の製造方法は、生成した目的タンパク質を回収することを含んでいてよい。具体的には、目的タンパク質は、目的タンパク質を含む適当な画分として回収することができる。そのような画分としては、例えば、培養物、培養上清、菌体、菌体処理物(破砕物、溶解物、抽出物(無細胞抽出液)等)が挙げられる。菌体は、例えば、アクリルアミドやカラギーナン等の担体で固定化した固定化菌体の形態で提供されてもよい。
また、目的タンパク質は、所望の程度に分離精製されてもよい。目的タンパク質は、遊離の状態で提供されてもよいし、樹脂等の固相に固定化された固定化酵素の状態で提供されてもよい。
培地中に目的タンパク質が蓄積する場合、目的タンパク質は、例えば、菌体等の固形分を遠心分離等により培養物から除去した後、上清から分離精製することができる。
菌体内に目的タンパク質が蓄積する場合、目的タンパク質は、例えば、菌体を破砕、溶解、または抽出等の処理に供した後、処理物から分離精製することができる。菌体は、遠心分離等により培養物から回収することができる。細胞の破砕、溶解、または抽出等の処理は、公知の方法により行うことができる。そのような方法としては、例えば、超音波破砕法、ダイノミル法、ビーズ破砕、フレンチプレス破砕、リゾチーム処理が挙げられる。これらの方法は、1種を単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
菌体表層に目的タンパク質が蓄積する場合、目的タンパク質は、例えば、可溶化した後、可溶化物から分離精製することができる。可溶化は、公知の方法により行うことができる。そのような方法としては、例えば、塩濃度の上昇や界面活性剤の使用が挙げられる。これらの方法は、1種を単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
目的タンパク質の精製(例えば、上記のような上清、処理物、または可溶化物からの精製)は、タンパク質の精製に用いられる公知の方法により行うことができる。そのような方法としては、例えば、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、等電点沈殿が挙げられる。これらの方法は、1種を単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
なお、培養物には、目的タンパク質とともに、他の酵素、例えば、セルラーゼや、キシラナーゼ、キシロビアーゼ(β-キシロシダーゼ)、アラビノフラノシダーゼ等のヘミセルラーゼ、も生成蓄積し得る。目的タンパク質は、そのような他の酵素との混合物として回収されてもよく、そのような他の酵素と分離して回収されてもよい。
回収した目的タンパク質は、適宜、製剤化してもよい。剤形は特に制限されず、目的タンパク質の使用用途等の諸条件に応じて適宜設定することができる。剤形としては、例えば、液剤、懸濁剤、散剤、錠剤、丸剤、カプセル剤が挙げられる。製剤化にあたっては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定化剤、矯味剤、矯臭剤、香料、希釈剤、界面活性剤等の薬理学的に許容される添加剤を使用することができる。
目的タンパク質の用途は特に制限されない。以下、セルラーゼの場合について例示する。セルラーゼは、セルロースの分解に利用できる。例えば、セルラーゼを利用して植物バイオマスに含まれるセルロース成分を糖化することにより、グルコースを含有する糖化液が得られる。また、セルラーゼがキシラナーゼ等のヘミセルラーゼ活性を有する場合(例えば、セルラーゼがヘミセルラーゼとの混合物として得られる場合)には、セルラーゼは、ヘミセルロースの分解にも利用できる。例えば、セルラーゼを利用して植物バイオマスに含まれるヘミセルロース成分を糖化することにより、キシロースやアラビノースを含有する糖化液が得られる。このようにして得られた糖化液は、例えば、炭素源として微生物の培養に利用することができる。さらに、一態様においては、微生物を培養することにより、L-アミノ酸等の目的物質を製造することができる。セルラーゼによる植物バイオマスの糖化および得られた糖化液の利用については、例えば、特開2016-131533の記載を参照できる。
<2>本発明の二糖の製造方法
本発明の二糖の製造方法は、二糖合成酵素を利用した二糖の製造方法である。本発明の二糖の製造方法は、具体的には、二糖合成酵素を利用した糖原料からの酵素変換による二糖の製造方法であってよい。すなわち、本発明の二糖の製造方法は、言い換えると、二糖合成酵素を利用して糖原料を二糖に変換することを含む、二糖の製造方法であってよい。酵素変換は、具体的には、二糖合成酵素を糖原料と接触させることにより実施することができる。すなわち、本発明の二糖の製造方法は、より具体的には、二糖合成酵素を糖原料と接触させることにより二糖を生成することを含む、二糖の製造方法であってもよい。酵素変換により糖原料から二糖を生成する反応を「変換反応」ともいう。
ここでいう「二糖」とは、グルコースの二糖(2分子のグルコースで構成される二糖)をいう。二糖としては、β結合性の二糖が挙げられる。二糖として、具体的には、ゲンチオビオース、セロビオース、ラミナリビオース、ソホロースが挙げられる。二糖としては、特に、ゲンチオビオースが挙げられる。本発明においては、1種の二糖が製造されてもよく、2種またはそれ以上の二糖が製造されてもよい。二糖は、例えば、少なくとも、ゲンチオビオースを含んでいてよい。言い換えると、本発明においては、例えば、ゲンチオビオースが単独で製造されてもよく、ゲンチオビオースと他の1種またはそれ以上の二糖の組み合わせが製造されてもよい。
ここでいう「糖原料」とは、グルコースを構成糖として含む糖をいい、グルコース自体も包含する。糖原料は、典型的には、グルコースのみを構成糖として含んでいてよい。糖原料は、製造される二糖以外の糖から選択される。糖原料としては、例えば、グルコース、セロオリゴ糖、セルロースが挙げられる。セロオリゴ糖としては、例えば、セロビオース、セロトリオース、セロテトラオースが挙げられる。セルロースとしては、例えば、上記のようなセルロース系基質が挙げられる。糖原料としては、特に、グルコース、セロビオース、セルロースが挙げられる。糖原料として、さらに特には、グルコースが挙げられる。糖原料としては、1種の糖原料を用いてもよく、2種またはそれ以上の糖原料を組み合わせて用いてもよい。糖原料は、例えば、少なくとも、グルコースを含んでいてよい。言い換えると、糖原料としては、例えば、グルコースを単独で用いてもよく、グルコースと他の1種またはそれ以上の糖原料を組み合わせて用いてもよい。
<2-1>二糖合成酵素およびその製造
「二糖合成酵素」とは、糖原料から二糖を合成する反応を触媒する活性を有するタンパク質(酵素)をいう。同活性を、「二糖合成活性」ともいう。二糖合成酵素をコードする遺伝子を、「二糖合成酵素遺伝子」ともいう。二糖合成酵素は、糖原料から目的の二糖を合成する反応を触媒する活性を有するものであれば特に制限されない。二糖合成酵素は、糖原料から1種の二糖を合成する反応を触媒する活性を有していてもよく、糖原料から2種またはそれ以上の二糖を合成する反応を触媒する活性を有していてもよい。また、二糖合成酵素は、1種の糖原料から二糖を合成する反応を触媒する活性を有していてもよく、2種またはそれ以上の糖原料から二糖を合成する反応を触媒する活性を有していてもよい。二糖合成酵素は、例えば、少なくとも、糖原料からゲンチオビオースを合成する反応を触媒する活性を有するものであってよい。また、二糖合成酵素は、例えば、少なくとも、グルコースおよび/またはセロビオースから二糖を合成する反応を触媒する活性を有するものであってよい。二糖合成酵素は、特に、少なくとも、グルコースから二糖を合成する反応を触媒する活性を有するものであってよい。二糖合成酵素は、さらに特には、少なくとも、グルコースおよび/またはセロビオースからゲンチオビオースを合成する反応を触媒する活性を有するものであってもよい。二糖合成酵素は、さらに特には、少なくとも、グルコースからゲンチオビオースを合成する反応を触媒する活性を有するものであってもよい。二糖合成酵素としては、1種の二糖合成酵素を用いてもよく、2種またはそれ以上の二糖合成酵素を組み合わせて用いてもよい。二糖合成酵素としては、β-グルコシダーゼが挙げられる。β-グルコシダーゼとしては、GH1-2タンパク質やBGL3Aタンパク質が挙げられる。GH1-2タンパク質やBGL3Aタンパク質については上述した通りである。これらのβ-グルコシダーゼは、例えば、Talaromyces cellulolyticus等の真菌に見出され得る。また、β-グルコシダーゼとしては、特開2010-227032やWO2004/035070に記載のものが挙げられる。各種生物の二糖合成酵素のアミノ酸配列およびそれらをコードする遺伝子の塩基配列は、例えば、NCBI等の公開データベースから取得できる。
二糖合成酵素遺伝子および二糖合成酵素は、それぞれ、例えば、上記例示した遺伝子およびタンパク質等の公知の遺伝子およびタンパク質の塩基配列およびアミノ酸配列を有していてよい。また、二糖合成酵素遺伝子および二糖合成酵素は、それぞれ、上記例示した遺伝子およびタンパク質等の公知の遺伝子およびタンパク質の保存的バリアントであってもよい。二糖合成酵素遺伝子および二糖合成酵素の保存的バリアントについては、gh1-2遺伝子およびGH1-2タンパク質の保存的バリアントに関する記載を準用できる。なお、「元の機能が維持されている」とは、二糖合成酵素にあっては、タンパク質のバリアントが、二糖合成活性を有することをいう。或る二糖合成酵素とそのバリアントにより合成される二糖および基質として用いられる糖原料は、いずれも、互いに同一であってもよく、なくてもよい。
なお、二糖合成酵素は、単独で糖原料から二糖を合成する反応を触媒する活性を有するものであってもよく、他の酵素との併用時に糖原料から二糖を合成する反応を触媒する活性を有するものであってもよい。よって、二糖合成酵素の活性において言及される「糖原料」とは、糖原料そのものに限られず、糖原料が他の酵素により変換されたもの(例えば糖原料の分解物)であってもよい。すなわち、一態様において、「二糖合成活性」とは、糖原料またはその分解物から二糖を合成する反応を触媒する活性であってもよい。二糖合成酵素は、糖原料から二糖を製造できる限り、単独で用いてもよく、他の酵素と併用してもよい。二糖合成酵素は、例えば、糖原料から二糖を製造できるように他の酵素と併用してもよい。具体的には、例えば、セルロースを糖原料として用い、二糖合成酵素とセルラーゼを併用する場合、セルラーゼにより糖原料が分解され、二糖合成酵素により糖原料の分解物から二糖が生成してもよい。
二糖合成酵素は、二糖合成酵素遺伝子を有する宿主に二糖合成酵素遺伝子を発現させることにより製造できる。なお、二糖合成酵素遺伝子の発現を、「二糖合成酵素の発現」ともいう。二糖合成酵素遺伝子を有する宿主は、二糖合成酵素遺伝子を発現可能に有していればよい。二糖合成酵素遺伝子を有する宿主は、1コピーの二糖合成酵素遺伝子を有していてもよく、2コピーまたはそれ以上の二糖合成酵素遺伝子を有していてもよい。また、二糖合成酵素遺伝子を有する宿主は、1種の二糖合成酵素遺伝子を有していてもよく、2種またはそれ以上の二糖合成酵素遺伝子を有していてもよい。
また、二糖合成酵素は、二糖合成酵素遺伝子を無細胞タンパク質合成系で発現させることによっても製造できる。
二糖合成酵素遺伝子を有する宿主は、本来的に二糖合成酵素遺伝子を有するものであってもよく、二糖合成酵素遺伝子を有するように改変されたものであってもよい。
本来的に二糖合成酵素遺伝子を有する宿主としては、上記のような二糖合成酵素が由来する生物、例えば、Talaromyces cellulolyticus等の真菌、が挙げられる。
二糖合成酵素遺伝子を有するように改変された宿主としては、二糖合成酵素遺伝子が導入された宿主が挙げられる。本来的に二糖合成酵素遺伝子を有さない宿主に二糖合成酵素遺伝子を導入することにより、同宿主の二糖合成酵素活性を増大させる(同宿主に二糖合成酵素活性を付与する)ことができる。
また、本来的に二糖合成酵素遺伝子を有する宿主を二糖合成酵素活性が増大するように改変して用いてもよい。すなわち、二糖合成酵素遺伝子を有する宿主は、例えば、二糖合成酵素活性が増大するように改変された宿主であってもよい。
宿主は、機能する二糖合成酵素を発現できるものであれば特に制限されない。宿主としては、例えば、細菌、真菌、植物細胞、昆虫細胞、および動物細胞が挙げられる。好ましい宿主としては、細菌や真菌等の微生物が挙げられる。
細菌としては、グラム陰性細菌やグラム陽性細菌が挙げられる。グラム陰性細菌としては、例えば、エシェリヒア(Escherichia)属細菌、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌、パントエア(Pantoea)属細菌等の腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に属する細菌が挙げられる。グラム陽性細菌としては、バチルス(Bacillus)属細菌、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌等のコリネ型細菌、放線菌が挙げられる。エシェリヒア属細菌としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)が挙げられる。エシェリヒア・コリとしては、例えば、W3110株(ATCC 27325)やMG1655株(ATCC 47076)等のエシェリヒア・コリK-12株;エシェリヒア・コリK5株(ATCC 23506);BL21(DE3)株やRosetta 2(DE3)pLysS株等のエシェリヒア・コリB株;およびそれらの派生株が挙げられる。コリネ型細菌としては、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)やコリネバクテリウム・アンモニアゲネス(コリネバクテリウム・スタティオニス)(Corynebacterium ammoniagenes (Corynebacterium stationis))が挙げられる。
これらの菌株は、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所12301 Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852 P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)より分譲を受けることが出来る。すなわち各菌株に対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることが出来る(http://www.atcc.org/参照)。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。また、これらの菌株は、例えば、各菌株が寄託された寄託機関から入手することができる。また、これらの菌株は、例えば、市販品を入手することができる。
以下に、二糖合成酵素等のタンパク質の活性を増大させる手法(二糖合成酵素遺伝子等の遺伝子を導入する方法も含む)について説明する。
「タンパク質の活性が増大する」とは、同タンパク質の活性が非改変株と比較して増大することを意味する。「タンパク質の活性が増大する」とは、具体的には、同タンパク質の細胞当たりの活性が非改変株と比較して増大することを意味してよい。ここでいう「非改変株」とは、標的のタンパク質の活性が増大するように改変されていない対照株を意味する。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。非改変株として、具体的には、宿主の説明において例示した株が挙げられる。なお、「タンパク質の活性が増大する」ことを、「タンパク質の活性が増強される」ともいう。「タンパク質の活性が増大する」とは、より具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が増加していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が増大していることを意味してよい。すなわち、「タンパク質の活性が増大する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。また、「タンパク質の活性が増大する」とは、もともと標的のタンパク質の活性を有する菌株において同タンパク質の活性を増大させることだけでなく、もともと標的のタンパク質の活性が存在しない菌株に同タンパク質の活性を付与することを含む。また、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、宿主が本来有する標的のタンパク質の活性を低下または消失させた上で、好適な標的のタンパク質の活性を付与してもよい。
タンパク質の活性の増大の程度は、タンパク質の活性が非改変株と比較して増大していれば特に制限されない。タンパク質の活性は、例えば、非改変株の、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、非改変株が標的のタンパク質の活性を有していない場合は、同タンパク質をコードする遺伝子を導入することにより同タンパク質が生成されていればよいが、例えば、同タンパク質はその酵素活性が測定できる程度に生産されていてよい。
タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を上昇させることによって達成できる。「遺伝子の発現が上昇する」とは、同遺伝子の発現が野生株や親株等の非改変株と比較して増大することを意味する。「遺伝子の発現が上昇する」とは、具体的には、同遺伝子の細胞当たりの発現量が非改変株と比較して増大することを意味してよい。「遺伝子の発現が上昇する」とは、より具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が増大すること、および/または、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が増大することを意味してよい。なお、「遺伝子の発現が上昇する」ことを、「遺伝子の発現が増強される」ともいう。遺伝子の発現は、例えば、非改変株の、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、「遺伝子の発現が上昇する」とは、もともと標的の遺伝子が発現している菌株において同遺伝子の発現量を上昇させることだけでなく、もともと標的の遺伝子が発現していない菌株において、同遺伝子を発現させることを含む。すなわち、「遺伝子の発現が上昇する」とは、例えば、標的の遺伝子を保持しない菌株に同遺伝子を導入し、同遺伝子を発現させることを含む。
遺伝子の発現の上昇は、例えば、遺伝子のコピー数を増加させることにより達成できる。
遺伝子のコピー数の増加は、宿主の染色体へ同遺伝子を導入することにより達成できる。染色体への遺伝子の導入は、例えば、相同組み換えを利用して行うことができる(Miller, J. H. Experiments in Molecular Genetics, 1972, Cold Spring Harbor Laboratory)。相同組み換えを利用する遺伝子導入法としては、例えば、Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))等の直鎖状DNAを用いる方法、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法、ファージを用いたtransduction法が挙げられる。遺伝子は、1コピーのみ導入されてもよく、2コピーまたはそれ以上導入されてもよい。例えば、染色体上に多数のコピーが存在する配列を標的として相同組み換えを行うことで、染色体へ遺伝子の多数のコピーを導入することができる。染色体上に多数のコピーが存在する配列としては、反復DNA配列(repetitive DNA)、トランスポゾンの両端に存在するインバーテッド・リピートが挙げられる。また、目的物質の生産に不要な遺伝子等の染色体上の適当な配列を標的として相同組み換えを行ってもよい。また、遺伝子は、トランスポゾンやMini-Muを用いて染色体上にランダムに導入することもできる(特開平2-109985号公報、US5,882,888、EP805867B1)。
染色体上に標的遺伝子が導入されたことの確認は、同遺伝子の全部又は一部と相補的な配列を持つプローブを用いたサザンハイブリダイゼーション、又は同遺伝子の配列に基づいて作成したプライマーを用いたPCR等によって確認できる。
また、遺伝子のコピー数の増加は、同遺伝子を含むベクターを宿主に導入することによっても達成できる。例えば、標的遺伝子を含むDNA断片を、宿主で機能するベクターと連結して同遺伝子の発現ベクターを構築し、当該発現ベクターで宿主を形質転換することにより、同遺伝子のコピー数を増加させることができる。標的遺伝子を含むDNA断片は、例えば、標的遺伝子を有する微生物のゲノムDNAを鋳型とするPCRにより取得できる。ベクターとしては、宿主の細胞内において自律複製可能なベクターを用いることができる。ベクターは、マルチコピーベクターであるのが好ましい。また、形質転換体を選択するために、ベクターは抗生物質耐性遺伝子などのマーカーを有することが好ましい。また、ベクターは、挿入された遺伝子を発現するためのプロモーターやターミネーターを備えていてもよい。ベクターは、例えば、細菌プラスミド由来のベクター、酵母プラスミド由来のベクター、バクテリオファージ由来のベクター、コスミド、またはファージミド等であってよい。エシェリヒア・コリ等の腸内細菌科の細菌において自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pUC19、pUC18、pHSG299、pHSG399、pHSG398、pBR322、pSTV29(いずれもタカラバイオ社より入手可)、pACYC184、pMW219(ニッポンジーン社)、pTrc99A(ファルマシア社)、pPROK系ベクター(クロンテック社)、pKK233‐2(クロンテック社)、pET系ベクター(ノバジェン社)、pQE系ベクター(キアゲン社)、pCold TF DNA(タカラバイオ社)、pACYC系ベクター、広宿主域ベクターRSF1010が挙げられる。コリネ型細菌で自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pHM1519(Agric. Biol. Chem., 48, 2901-2903(1984));pAM330(Agric. Biol. Chem., 48, 2901-2903(1984));これらを改良した薬剤耐性遺伝子を有するプラスミド;pCRY30(特開平3-210184);pCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KE、およびpCRY3KX(特開平2-72876、米国特許5,185,262号);pCRY2およびpCRY3(特開平1-191686);pAJ655、pAJ611、およびpAJ1844(特開昭58-192900);pCG1(特開昭57-134500);pCG2(特開昭58-35197);pCG4およびpCG11(特開昭57-183799);pVK7(特開平10-215883);pVK9(US2006-0141588);pVC7(特開平9-070291);pVS7(WO2013/069634)が挙げられる。
遺伝子を導入する場合、遺伝子は、発現可能に宿主に保持されていればよい。具体的には、遺伝子は、宿主で機能するプロモーター配列による制御を受けて発現するように導入されていればよい。プロモーターは、宿主由来のプロモーターであってもよく、異種由来のプロモーターであってもよい。プロモーターは、導入する遺伝子の固有のプロモーターであってもよく、他の遺伝子のプロモーターであってもよい。プロモーターとしては、例えば、後述するような、より強力なプロモーターを利用してもよい。
遺伝子の下流には、転写終結用のターミネーターを配置することができる。ターミネーターは、宿主において機能するものであれば特に制限されない。ターミネーターは、宿主由来のターミネーターであってもよく、異種由来のターミネーターであってもよい。ターミネーターは、導入する遺伝子の固有のターミネーターであってもよく、他の遺伝子のターミネーターであってもよい。ターミネーターとして、具体的には、例えば、T7ターミネーター、T4ターミネーター、fdファージターミネーター、tetターミネーター、およびtrpAターミネーターが挙げられる。
各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネーターに関しては、例えば「微生物学基礎講座8 遺伝子工学、共立出版、1987年」に詳細に記載されており、それらを利用することが可能である。
また、2つまたはそれ以上の遺伝子を導入する場合、各遺伝子が、発現可能に宿主に保持されていればよい。例えば、各遺伝子は、全てが単一の発現ベクター上に保持されていてもよく、全てが染色体上に保持されていてもよい。また、各遺伝子は、複数の発現ベクター上に別々に保持されていてもよく、単一または複数の発現ベクター上と染色体上とに別々に保持されていてもよい。また、2つまたはそれ以上の遺伝子でオペロンを構成して導入してもよい。「2またはそれ以上の遺伝子を導入する場合」としては、例えば、2またはそれ以上のタンパク質をそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、単一のタンパク質複合体を構成する2またはそれ以上のサブユニットをそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
導入される遺伝子は、宿主で機能するタンパク質をコードするものであれば特に制限されない。導入される遺伝子は、宿主由来の遺伝子であってもよく、異種由来の遺伝子であってもよい。導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーを用い、同遺伝子を有する生物のゲノムDNAや同遺伝子を搭載するプラスミド等を鋳型として、PCRにより取得することができる。また、導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて全合成してもよい(Gene, 60(1), 115-127 (1987))。取得した遺伝子は、そのまま、あるいは適宜改変して、利用することができる。すなわち、遺伝子を改変することにより、該遺伝子のバリアントを取得できる。遺伝子の改変は公知の手法により行うことができる。例えば、部位特異的変異法により、DNAの目的部位に目的の変異を導入することができる。すなわち、例えば、部位特異的変異法により、コードされるタンパク質が特定の部位においてアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、及び/又は付加を含むように、遺伝子のコード領域を改変することができる。部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))や、ファージを用いる方法(Kramer,W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))が挙げられる。また、遺伝子のバリアントを全合成してもよい。
なお、タンパク質が複数のサブユニットからなる複合体として機能する場合、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、それら複数のサブユニットの全てを改変してもよく、一部のみを改変してもよい。すなわち、例えば、遺伝子の発現を上昇させることによりタンパク質の活性を増大させる場合、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全ての発現を増強してもよく、一部の発現のみを増強してもよい。通常は、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全ての発現を増強するのが好ましい。また、複合体を構成する各サブユニットは、複合体が目的のタンパク質の機能を有する限り、1種の生物由来であってもよく、2種またはそれ以上の異なる生物由来であってもよい。すなわち、例えば、複数のサブユニットをコードする、同一の生物由来の遺伝子を宿主に導入してもよく、それぞれ異なる生物由来の遺伝子を宿主に導入してもよい。
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の転写効率を向上させることにより達成できる。また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の翻訳効率を向上させることにより達成できる。遺伝子の転写効率や翻訳効率の向上は、例えば、発現調節配列の改変により達成できる。「発現調節配列」とは、遺伝子の発現に影響する部位の総称である。発現調節配列としては、例えば、プロモーター、シャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)、およびRBSと開始コドンとの間のスペーサー領域が挙げられる。発現調節配列は、プロモーター検索ベクターやGENETYX等の遺伝子解析ソフトを用いて決定することができる。これら発現調節配列の改変は、例えば、温度感受性ベクターを用いた方法や、Redドリブンインテグレーション法(WO2005/010175)により行うことができる。
遺伝子の転写効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のプロモーターをより強力なプロモーターに置換することにより達成できる。「より強力なプロモーター」とは、遺伝子の転写が、もともと存在している野生型のプロモーターよりも向上するプロモーターを意味する。より強力なプロモーターとしては、例えば、公知の高発現プロモーターであるT7プロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、thrプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、tetプロモーター、araBADプロモーター、rpoHプロモーター、msrAプロモーター、Bifidobacterium由来のPm1プロモーター、PRプロモーター、およびPLプロモーターが挙げられる。また、コリネ型細菌で利用できるより強力なプロモーターとしては、人為的に設計変更されたP54-6プロモーター(Appl. Microbiol. Biotechnol., 53, 674-679(2000))、コリネ型細菌内で酢酸、エタノール、ピルビン酸等で誘導できるpta、aceA、aceB、adh、amyEプロモーター、コリネ型細菌内で発現量が多い強力なプロモーターであるcspB、SOD、tuf(EF-Tu)プロモーター(Journal of Biotechnology 104 (2003) 311-323, Appl Environ Microbiol. 2005 Dec;71(12):8587-96.)、lacプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーターが挙げられる。また、より強力なプロモーターとしては、各種レポーター遺伝子を用いることにより、在来のプロモーターの高活性型のものを取得してもよい。例えば、プロモーター領域内の-35、-10領域をコンセンサス配列に近づけることにより、プロモーターの活性を高めることができる(国際公開第00/18935号)。高活性型プロモーターとしては、各種tac様プロモーター(Katashkina JI et al. Russian Federation Patent application 2006134574)やpnlp8プロモーター(WO2010/027045)が挙げられる。プロモーターの強度の評価法および強力なプロモーターの例は、Goldsteinらの論文(Prokaryotic promoters in biotechnology. Biotechnol. Annu. Rev., 1, 105-128 (1995))等に記載されている。
遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のシャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)をより強力なSD配列に置換することにより達成できる。「より強力なSD配列」とは、mRNAの翻訳が、もともと存在している野生型のSD配列よりも向上するSD配列を意味する。より強力なSD配列としては、例えば、ファージT7由来の遺伝子10のRBSが挙げられる(Olins P. O. et al, Gene, 1988, 73, 227-235)。さらに、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域、特に開始コドンのすぐ上流の配列(5’-UTR)における数個のヌクレオチドの置換、あるいは挿入、あるいは欠失がmRNAの安定性および翻訳効率に非常に影響を及ぼすことが知られており、これらを改変することによっても遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。
遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、コドンの改変によっても達成できる。例えば、遺伝子中に存在するレアコドンを、より高頻度で利用される同義コドンに置き換えることにより、遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。すなわち、導入される遺伝子は、例えば、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。コドンの置換は、例えば、DNAの目的の部位に目的の変異を導入する部位特異的変異法により行うことができる。また、コドンが置換された遺伝子断片を全合成してもよい。種々の生物におけるコドンの使用頻度は、「コドン使用データベース」(http://www.kazusa.or.jp/codon; Nakamura, Y. et al, Nucl. Acids Res., 28, 292 (2000))に開示されている。
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の発現を上昇させるようなレギュレーターを増幅すること、または、遺伝子の発現を低下させるようなレギュレーターを欠失または弱化させることによっても達成できる。
上記のような遺伝子の発現を上昇させる手法は、単独で用いてもよく、任意の組み合わせで用いてもよい。
また、タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、タンパク質の比活性を増強することによっても達成できる。比活性の増強には、フィードバック阻害の低減および解除も含まれる。比活性が増強されたタンパク質は、例えば、種々の生物を探索し取得することができる。また、在来のタンパク質に変異を導入することで高活性型のものを取得してもよい。導入される変異は、例えば、タンパク質の1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、又は付加されるものであってよい。変異の導入は、例えば、上述したような部位特異的変異法により行うことができる。また、変異の導入は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。また、in vitroでDNAを直接ヒドロキシルアミンで処理し、ランダム変異を誘発してもよい。比活性の増強は、単独で用いてもよく、上記のような遺伝子の発現を増強する手法と任意に組み合わせて用いてもよい。
形質転換の方法は特に限定されず、従来知られた方法を用いることができる。例えば、エシェリヒア・コリ K-12について報告されているような、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel, M. and Higa, A.,J. Mol. Biol. 1970, 53, 159-162)や、バチルス・ズブチリスについて報告されているような、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法(Duncan, C. H., Wilson, G. A. and Young, F. E.., 1997. Gene 1: 153-167)を用いることができる。あるいは、バチルス・ズブチリス、放線菌類、及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法(Chang, S. and Choen, S.N., 1979. Mol. Gen. Genet. 168: 111-115; Bibb, M. J., Ward, J. M. and Hopwood, O. A. 1978. Nature 274: 398-400; Hinnen, A., Hicks, J. B. and Fink, G. R. 1978. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 75: 1929-1933)も応用できる。あるいは、コリネ型細菌について報告されているような、電気パルス法(特開平2-207791)を利用することもできる。
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が上昇したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が上昇したことは、同遺伝子の転写量が上昇したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が上昇したことを確認することにより確認できる。
遺伝子の転写量が上昇したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を野生株または親株等の非改変株と比較することによって行うことができる。mRNAの量を評価する方法としてはノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR、マイクロアレイ、RNA-seq等が挙げられる(Sambrook, J., et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual/Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001)。mRNAの量(例えば、細胞当たりの分子数)は、例えば、非改変株の、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。
タンパク質の量が上昇したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことができる(Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。タンパク質の量(例えば、細胞当たりの分子数)は、例えば、非改変株の、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。
上記したタンパク質の活性を増大させる手法は、二糖合成酵素の活性増強や二糖合成酵素遺伝子の導入に限られず、任意のタンパク質の活性増強や、任意の遺伝子、例えばそれら任意のタンパク質をコードする遺伝子、の発現増強に利用できる。
二糖合成酵素遺伝子を有する宿主を培地で培養することにより、二糖合成酵素を発現することができる。その際、必要に応じて、二糖合成酵素遺伝子の発現誘導を行うことができる。遺伝子の発現誘導の条件は、遺伝子の発現系の構成等の諸条件に応じて適宜選択することができる。
培地組成や培養条件は、二糖合成酵素遺伝子を有する宿主が増殖でき、二糖合成酵素が生産される限り、特に制限されない。培地組成や培養条件は、宿主の種類等の諸条件に応じて適宜設定することができる。培養は、例えば、細菌や真菌等の微生物を培養に利用される通常の培地を用いて通常の条件で実施することができる。細菌を培養するための具体的な培地組成や培養条件については、例えば、E. coliやコリネ型細菌等の細菌を利用した各種物質生産に利用される培地組成や培養条件を参照することができる。また、真菌を培養するための具体的な培地組成や培養条件については、例えば、Talaromyces cellulolyticusに関する既報(特開2003-135052、特開2008-271826、特開2008-271927等)に記載の培地組成や培養条件、あるいはTrichoderma reesei等のその他各種セルラーゼ生産微生物の培養に利用される培地組成や培養条件を参照することができる。また、培地組成や培養条件については、例えば、培地が発現誘導物質を含有しなくてよいこと以外は、本発明の目的タンパク質の製造方法における培地組成や培養条件を参照することもできる。
培地としては、例えば、炭素源、窒素源、リン酸源、硫黄源、その他の各種有機成分や無機成分から選択される成分を必要に応じて含有する培地を用いることができる。培地成分の種類や濃度は、当業者が適宜設定することができる。炭素源は、二糖合成酵素遺伝子を有する宿主が利用できるものであれば、特に限定されない。炭素源としては、例えば、糖類やセルロース系基質等の上述したものが挙げられる。また、炭素源としては、例えば、酢酸、フマル酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸類、グリセロール、粗グリセロール、エタノール等のアルコール類、脂肪酸類も挙げられる。その他の培地成分としては、上述したものが挙げられる。
培養は、例えば、液体培地を用いて、好気条件で行うことができる。好気条件とは、液体培地中の溶存酸素濃度が、酸素膜電極による検出限界である0.33ppm以上であることをいい、好ましくは1.5ppm以上であることであってよい。酸素濃度は、例えば、飽和酸素濃度の5~50%、好ましくは10%程度に制御されてもよい。好気条件での培養は、具体的には、通気培養、振盪培養、撹拌培養、またはそれらの組み合わせで行うことができる。培地のpHは、例えば、pH3~10、好ましくはpH5~8であってよい。培養中、必要に応じて培地のpHを調整することができる。培地のpHは、アンモニアガス、アンモニア水、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の各種アルカリ性または酸性物質を用いて調整することができる。培養温度は、例えば、20~40℃、好ましくは25℃~37℃であってよい。培養期間は、例えば、10時間~120時間であってよい。培養は、回分培養(batch culture)、流加培養(Fed-batch culture)、連続培養(continuous culture)、またはそれらの組み合わせにより実施することができる。培養は、例えば、培地中の炭素源が消費されるまで、あるいは宿主の活性がなくなるまで、継続してもよい。
上記のようにして二糖合成酵素遺伝子を有する宿主を培養することにより、二糖合成酵素が発現し、二糖合成酵素を含む培養物が得られる。二糖合成酵素は、例えば、宿主の菌体内に蓄積し得る。「菌体」は、宿主の種類に応じて、適宜「細胞」と読み替えてよい。尚、使用する宿主及び二糖合成酵素遺伝子の設計によっては、ペリプラズムに二糖合成酵素を蓄積させることや、菌体外(例えば菌体表層や培地中)に二糖合成酵素を分泌生産させることも可能である。
二糖合成酵素は、二糖の製造に使用可能な任意の形態で使用することができる。二糖合成酵素は、具体的には、糖原料に作用できる任意の形態で使用することができる。二糖合成酵素は、例えば、所望の程度に単離された形態で使用されてもよく、素材に含有された形態で使用されてもよい。言い換えると、「二糖合成酵素」とは、所望の程度に精製された二糖合成酵素(精製酵素)であってもよく、二糖合成酵素を含有する素材であってもよい。
二糖合成酵素を含有する素材は、二糖合成酵素が糖原料に作用できるように二糖合成酵素を含有する限り、特に制限されない。二糖合成酵素を含有する素材としては、二糖合成酵素を含有する、培養物、培養上清、菌体、菌体処理物(破砕物、溶解物、抽出物(無細胞抽出液)が挙げられる。二糖合成酵素を含有する素材としては、特に、二糖合成酵素を含有する菌体が挙げられる。二糖合成酵素を含有する素材として、さらに特には、二糖合成酵素を含有するE. coli菌体が挙げられる。菌体は、例えば、そのまま(培養物に含まれたまま)、あるいは培養物から回収して、二糖の製造に使用することができる。菌体は、例えば、遠心分離により培養物から回収することができる。また、培養物やそれから回収した菌体は、例えば、適宜、洗浄、濃縮、希釈等の処理をしてから、二糖の製造に使用してもよい。このように、菌体は、例えば、所望の程度に単離された形態で使用されてもよく、素材に含有された形態で使用されてもよい。また、菌体は、例えば、アクリルアミドやカラギーナン等の担体で固定化した固定化菌体の形態で使用されてもよい。また、二糖合成酵素は、所望の程度に分離精製されて使用されてもよい。二糖合成酵素の分離精製については、目的タンパク質の分離精製についての記載を準用できる。二糖合成酵素は、遊離の状態で利用されてもよいし、樹脂等の固相に固定化された固定化酵素の状態で使用されてもよい。
上記のような形態の二糖合成酵素は、1種の形態で用いてもよいし、2種またはそれ以上の形態を組み合わせて用いてもよい。
<2-2>二糖の製造方法
二糖合成酵素を利用して変換反応を実施することにより、二糖を製造することができる。
変換反応は、適当な液体中で実施できる。変換反応が実施される液体を「反応液」ともいう。具体的には、変換反応は、適当な反応液中で二糖合成酵素(例えば二糖合成酵素を含有するE. coli菌体等の上記例示したような形態のもの)と糖原料とを共存させることにより実施できる。変換反応は、例えば、バッチ式で実施してもよく、カラム式で実施してもよい。バッチ式の場合は、例えば、反応容器内の反応液中で二糖合成酵素と糖原料とを混合することにより、変換反応を実施できる。変換反応は、静置して実施してもよく、撹拌や振盪して実施してもよい。カラム式の場合は、例えば、固定化酵素や固定化菌体を充填したカラムに糖原料を含有する反応液を通液することにより、変換反応を実施できる。反応液としては、水や水性緩衝液等の水性媒体(水性溶媒)が挙げられる。
反応液は、糖原料に加えて、糖原料以外の成分を必要に応じて含有してよい。糖原料以外の成分としては、pH緩衝剤や培地成分が挙げられる。反応液に含有される成分の種類や濃度は、二糖合成酵素の種類や使用形態等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
変換反応の条件(反応液のpH、反応温度、反応時間、各種成分の濃度等)は、二糖が生成する限り特に制限されない。変換反応は、例えば、酵素や菌体を利用した物質変換に用いられる通常の条件で行うことができる。変換反応の条件は、二糖合成酵素の種類や使用形態等の諸条件に応じて適宜設定してよい。反応液のpHは、例えば、通常6.0~10.0、好ましくは6.5~9.0であってよい。反応温度は、例えば、通常15~50℃、好ましくは15~45℃、より好ましくは20~40℃であってよい。反応時間は、例えば、5分~200時間であってよい。カラム法の場合、反応液の通液速度は、例えば、反応時間が上記例示した反応時間の範囲となるような速度であってよい。また、変換反応は、例えば、細菌等の微生物の培養に用いられる通常の条件で行うこともできる。その際、菌体が生育してもよく、しなくてもよい。すなわち、変換反応の条件については、菌体が生育しなくてもよいこと以外は、二糖合成酵素遺伝子を有する宿主の培養条件の記載を準用してもよい。その場合、菌体を取得するための培養条件と、変換反応の条件は、同一であってもよく、なくてもよい。また、二糖合成酵素を菌体の形態で用いる場合、変換反応中に菌体が溶菌してもよい。反応液中の糖原料の濃度は、例えば、1g/L以上、10g/L以上、50g/L以上、100g/L以上、200g/L以上、300g/L以上、または500g/L以上であってもよく、飽和濃度以下、800g/L以下、700g/L以下、600g/L以下、または500g/L以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。糖原料としてグルコースと他の糖原料を組み合わせて用いる場合、糖原料の総量に対するグルコース量の比率は、例えば、1%w/w以上、10%w/w以上、30%w/w以上、50%w/w以上、70%w/w以上、または90%w/w以上であってもよく、99%w/w以下、90%w/w以下、70%w/w以下、50%w/w以下、30%w/w以下、または10%w/w以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。反応液中の二糖合成酵素の濃度は、二糖合成酵素を菌体の形態で用いる場合、OD600nmに換算して、例えば、1以上であってもよく、300以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。
変換反応の過程において、二糖合成酵素、糖原料、およびその他の成分を単独で、あるいは任意の組み合わせで、追加的に反応液に供給してもよい。例えば、二糖の生成に伴う糖原料の減少または枯渇に応じて反応液に糖原料を追加的に供給してもよい。これらの成分は、1回または複数回供給されてもよく、連続的に供給されてもよい。
また、反応条件は、変換反応の開始から終了まで均一であってもよく、変換反応の過程において変化してもよい。「反応条件が変換反応の過程において変化する」とは、反応条件が時間的に変化することに限られず、反応条件が空間的に変化することを含む。「反応条件が空間的に変化する」とは、例えば、カラム式で変換反応を実施する場合に、反応温度や二糖合成酵素充填密度等の反応条件が流路上の位置に応じて異なっていることをいう。
このようにして二糖合成酵素を利用して変換反応を実施することにより、二糖を含有する反応液が得られる。
二糖が生成したことは、化合物の検出または同定に用いられる公知の手法により確認することができる。そのような手法としては、例えば、HPLC、UPLC、LC/MS、GC/MS、NMRが挙げられる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。
二糖を含有する反応液は、そのまま、あるいは適宜、濃縮や希釈等の処理をしてから、利用することができる。
また、生成した二糖は、適宜回収することができる。すなわち、本発明の二糖の製造方法は、生成した二糖を反応液から回収することを含んでいてよい。生成した二糖の回収は、化合物の分離精製に用いられる公知の手法により行うことができる。そのような手法としては、例えば、イオン交換樹脂法、膜処理法、沈殿法、および晶析法が挙げられる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。二糖の精製は、所望の程度に行うことができる。また、二糖が反応液中に析出する場合は、遠心分離又は濾過等により回収することができる。また、反応液中に析出した二糖は、反応液中に溶解している二糖を晶析した後に、併せて単離してもよい。
尚、回収される二糖は、二糖以外に、例えば、二糖合成酵素、糖原料、反応液成分、水分等の成分を含んでいてもよい。回収された二糖の純度は、例えば、30%(w/w)以上、50%(w/w)以上、70%(w/w)以上、80%(w/w)以上、90%(w/w)以上、または95%(w/w)以上であってよい。
二糖は、滅菌等の処理をしてから利用してもよい。滅菌は、例えば、加熱やフィルター滅菌により実施できる。
生成した二糖の用途は特に制限されない。二糖は、例えば、Talaromyces cellulolyticus等のセルラーゼ生産微生物によるセルラーゼ生産の誘導のために用いることができる。また、二糖は、例えば、本発明の目的タンパク質の製造方法に用いることができる。
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこの
実施例により限定されるものではない。
(1)T. cellulolyticusのセルラーゼ生産に必須な遺伝子gh1-2の同定
本願発明者らは、T. cellulolyticusのセルラーゼ生産に深く関与する遺伝子として、Glucoside Hydrolase family 1(GH1)型のbeta-glucosidaseと予測されるタンパク質をコードする遺伝子を見出した。以下、この遺伝子を「gh1-2」と記す。また、gh1-2遺伝子にコードされるタンパク質を「GH1-2」と記す。
(1-1)T. cellulolyticus F09Δgh1-2株とF09pyrF+株の作製
T. cellulolyticus F09株(特開2016-131533)を親株として、以下の手順により、gh1-2遺伝子(配列番号1)を破壊し、F09Δgh1-2株を作製した。F09株は、T. cellulolyticus S6-25株(NITE BP-01685)を親株として得られたpyrF遺伝子に変異(一塩基置換)を有する株である。F09株は、pyrF遺伝子の変異により、Uracil要求性を示す。
はじめに、T. cellulolyticusのgh1-2遺伝子上流領域、pyrF遺伝子マーカー、gh1-2遺伝子下流領域の順に連結された塩基配列を有するgh1-2破壊用DNA断片を以下の手順に従って作成した。
T. cellulolyticus Y-94株(FERM BP-5826)のゲノムDNAを鋳型として、プライマー(配列番号2と3)を用いたPCRによりgh1-2遺伝子の上流領域を、プライマー(配列番号4と5)を用いたPCRによりgh1-2遺伝子の下流領域を、それぞれ増幅した。また、T. cellulolyticus Y-94株(FERM BP-5826)のゲノムDNAを鋳型として、プライマー(配列番号6と7)を用いたPCRにより、pyrF遺伝子の全領域(プロモーターとターミネーターを含む)を増幅した。PCR産物はWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いてそれぞれ精製した。精製したPCR産物をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)によりキット付属のpUCプラスミドに組み込み連結した。反応物でE. coli JM109を形質転換し、LB寒天培地(100 mg/L アンピシリンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させた。得られた形質転換体から、Wizard Plus Miniprep System(Promega)を用いてgh1-2破壊用DNA断片が組み込まれたpUC-gh1-2::pyrFプラスミドを得た。pUC-gh1-2::pyrFプラスミドを鋳型として、プライマー(配列番号2と5)を用いたPCRにより、gh1-2破壊用DNA断片を増幅し、エタノール沈殿により濃縮および精製した。
次に、F09株を12 g/L Potato Dextrose Broth(Difco)、20 g/L Bacto Agar(Difco)を含む培地(以下、「PD培地」という)に接種し、30℃で培養を行った。形成されたコロニーの端付近をストローで打ち抜いて得たアガーディスク1個を、24 g/L Potato Dextrose Brothを含む培地に接種し、30℃、220 rpmで2日間旋回培養した。菌体を遠心分離(5000 rpm、5分間)で回収し、10g/L Yatalase(タカラバイオ)、10 mM KH2PO4、0.8 M NaClを含む水溶液(pH6.0)を30 mL加え、振とうしながら30℃で2時間反応させ、細胞壁を消化しプロトプラスト化した。ガラスフィルターで残渣を除いた後、遠心分離(2000 rpm、10分間)でプロトプラストを回収し、1.2 M Sorbitol、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)にて1 mLに懸濁しプロトプラスト溶液を調製した。200 μLのプロトプラスト溶液に、精製したgh1-2破壊用DNA断片を10μgと、400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を50 μL加え、氷上で30分間放置した。その後さらに1 mLの400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を加えて混合し、室温で15分間放置し形質転換を行った。遠心分離(2000 rpm、10分間)で回収したプロトプラストを、1 M Sucroseを含む最少培地(表1)に播種し、30℃で7日間培養することで、Uracil要求性が相補された株を選抜した。出現したコロニーを最少培地に接種し、30℃で4日間培養した後、gh1-2遺伝子がpyrF遺伝子で置換されていることを確認し、F09Δgh1-2株を得た。
また、コントロール株として、以下の手順により、F09株にpyrF遺伝子を相補し、Uracil要求性が相補されたF09pyr+株を作製した。
T. cellulolyticus Y-94株(FERM BP-5826)のゲノムDNAを鋳型として、プライマー(配列番号8と9)を用いたPCRにより、pyrF遺伝子の全領域(プロモーターとターミネーターを含む)を増幅した。PCR産物はWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いて精製した。精製したPCR産物をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)によりキット付属のpUCプラスミドに組み込み連結した。反応物でE. coli JM109を形質転換し、LB寒天培地(100 mg/L アンピシリンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させた。得られた形質転換体から、Wizard Plus Miniprep System(Promega)を用いてpyrF遺伝子の全領域(プロモーターとターミネーターを含む)が組み込まれたpUC-pyrFプラスミドを得た。pUC-pyrFプラスミドを鋳型として、プライマー(配列番号7と8)を用いたPCRにより、pyrF遺伝子相補用DNA断片を増幅し、エタノール沈殿により濃縮および精製した。
次に、F09株をPD培地に接種し、30℃で培養を行った。形成されたコロニーの端付近をストローで打ち抜いて得たアガーディスク1個を、24 g/L Potato Dextrose Brothを含む培地に接種し、30℃、220 rpmで2日間旋回培養した。菌体を遠心分離(5000 rpm、5分間)で回収し、10g/L Yatalase(タカラバイオ)、10 mM KH2PO4、0.8 M NaClを含む水溶液(pH6.0)を30 mL加え、振とうしながら30℃で2時間反応させ、細胞壁を消化しプロトプラスト化した。ガラスフィルターで残渣を除いた後、遠心分離(2000 rpm、10分間)でプロトプラストを回収し、1.2 M Sorbitol、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)にて1 mLに懸濁しプロトプラスト溶液を調製した。200 μLのプロトプラスト溶液に、精製したpyrF遺伝子相補用DNA断片を10μgと、400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を50 μL加え、氷上で30分間放置した。その後さらに1 mLの400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を加えて混合し、室温で15分間放置し形質転換を行った。遠心分離(2000 rpm、10分間)で回収したプロトプラストを、1 M Sucroseを含む最少培地に播種し、30℃で7日間培養することで、Uracil要求性が相補された株を選抜した。出現したコロニーを最少培地に接種し、30℃で4日間培養した後、変異型のpyrF遺伝子が野生型のpyrF遺伝子で置換されていることを確認し、F09pyr+株を得た。
(1-2)セルロースを炭素源とするフラスコ培養上清サンプルの調製
T. cellulolyticus F09Δgh1-2株およびF09pyr+株によるセルラーゼ生産を、セルロース基質であるSolka-Floc(International Fiber Corporation)を炭素源とするフラスコ培養によって評価した。
<フラスコ培養>
F09Δgh1-2株およびF09pyr+株を、それぞれ、1/2PDAプレート(表2)に接種し、30℃で3日培養した。形成されたコロニーの端付近をストローで打ち抜いて得られたアガーディスク1個を、SFフラスコ培地(表2)に接種し、30℃、220 rpmで7日間旋回培養した。適宜サンプリングを行い、0.22 μmのシリンジフィルターで菌体を除き、得られた培養上清を酵素液とした。
(1-3)フラスコ培養上清サンプルの電気泳動
サンプル溶液をSDS-PAGEとCBB染色に供した。具体的には、Any kDTM Mini-PROTEAN(登録商標)TGXTMPrecast Protein Gels(BIO-RAD)とPowerPacTMBasic Power Supply(BIO-RAD)を用いて泳動し、Bio-SafeTM Coomassie Stain(BIO-RAD)で染色した。
結果を図1に示す。コントロール株であるF09pyr+株ではセルラーゼと推測されるタンパク質の分泌が認められたのに対し、F09Δgh1-2株ではタンパク質の分泌がほとんど認められなかった(図1左)。また、培養液を24時間静置して観察すると、F09pyr+株と異なり、F09Δgh1-2株では、基質として加えた固形分であるSolka-Flocの沈殿が観察された(図1右)。これらの結果から、F09pyr+株と比較して、F09Δgh1-2株では、セルラーゼの分泌生産能およびセルロースの資化能が著しく低下していることが示された。
(1-4)T. cellulolyticus F09Δgh1-2株の各種炭素源での生育と分泌セルラーゼのハロアッセイ
F09Δgh1-2株においては、セルラーゼの分泌生産能およびセルロースの資化能が著しく低下していることが示されたので、各種炭素源を用いた際の生育とセルラーゼの分泌生産を評価した。手順を以下に示す。
F09Δgh1-2株およびF09pyr+株を、それぞれ、最少培地に接種し、30℃で3日間培養を行った。形成されたコロニーの端付近をストローで打ち抜いて得たアガーディスク1個を、各種炭素源を含む最少培地およびPD培地それぞれに静置し、30℃で培養を行って生育を観察した。各種炭素源とは10g/Lのグルコース、セロビオース、Solka-Floc(International Fiber Corporation)、およびSodium carboxymethyl cellulose(average Mw 約250,000, SIGMA, 以下「CMC」という)である。
結果を図2に示す。glucoseを炭素源とする最少培地とPD培地では、F09pyr+株とF09Δgh1-2株で生育に差が認められなかった。一方、セルロース基質であるセロビオース、Solka-Floc、またはCMCを炭素源とする最少培地では、F09pyr+株と比較して、F09Δgh1-2株においてコロニー生育の低下や菌糸の粗密化が観察された。
また、CMCを含む寒天培地は、セルラーゼによって一部分解を受けたCMCがCongo-redにより染色されにくくなることを利用して、分泌セルラーゼを評価するハロアッセイに用いることが出来る。F09Δgh1-2株およびF09pyr+株を、それぞれ、上記と同様の手順でCMCを炭素源とする最少培地上で生育させた。培養後、50 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)と2 mg/mlのCongo Red(ナカライテスク)を10:1で混合したCongo red溶液をプレート一面に行渡るように加え、室温で30分間静置した。その後、プレート上のCongo red溶液を取り除き、リン酸ナトリウム緩衝液(50 mM, pH 7.0)をプレート一面に行渡るように加えた。再度、室温で30分間静置した後、プレート上のリン酸ナトリウム緩衝液を取り除き、プレート表面を軽く乾燥させ、ハロを観察した。
結果を図2に示す。F09pyr+株においてはコロニー外部にハロが観察されたのに対し、F09Δgh1-2株においてはコロニー外部にハロが観察されなかった。
これらの結果から、gh1-2遺伝子がコードする、GH1型のbeta-glucosidaseと予測されるタンパク質(GH1-2)は、T. cellulolyticusのセルラーゼの分泌生産とセルロースの資化に重要な遺伝子であることが示された。
(2)gh1-2遺伝子がコードするタンパク質の発現および機能解析
(2-1)gh1-2遺伝子のcDNAの取得とE. coliでの発現
T. cellulolyticus Y-94株の菌体からRNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN)を用いてRNA溶液を調製し、同RNA溶液からSMARTer(登録商標)RACE 5’/3’ kitを用いて完全長cDNA溶液を調製した。
このcDNA溶液とgh1-2遺伝子領域内部に設計した5’/3’RACE解析用のプライマー(配列番号10と配列番号11)を用いて、キットの説明書通りに、転写産物の5’端と3’端を解析した。その結果、gh1-2遺伝子の転写開始点は開始コドンの上流90~60塩基の領域に集中し、転写終結点は終止コドンの下流60~180塩基の領域に散在していた。ここでいう開始コドンおよび終始コドンは、配列番号22のcDNA配列(後述)の開始コドンおよび終止コドンである。gh1-2遺伝子の完全長cDNAにおいて、配列番号22のcDNA配列の外側には、適切な開始コドンおよび終止コドンの候補は見つからなかった。
次に、上記のcDNA溶液を鋳型として、プライマー(配列番号12と13)を用いたPCRにより、gh1-2遺伝子のcDNA断片を増幅した。また、pET24aプラスミド(Novagen)を鋳型として、プライマー(配列番号14と15)を用いたPCRにより、pET24aを増幅した。PCR産物はWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いてそれぞれ精製した。精製したPCR産物をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)により連結した。反応物でE. coli JM109を形質転換し、LB寒天培地(50 mg/L カナマイシンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させた。得られた形質転換体から、Wizard Plus Miniprep System(Promega)を用いて、gh1-2遺伝子のcDNA断片が組み込まれたpET24a-gh1-2-His6プラスミドを得た。pET24a-gh1-2-His6プラスミドによれば、GH1-2はC末端にHisタグが付加された形態で発現する。プライマー(配列番号16, 17, 18, 19, 20, 21)を用いてpET24a-gh1-2-His6プラスミドのシークエンス解析を行い、gh1-2遺伝子のcDNA配列(gh1-2遺伝子のコード領域のcDNA配列;配列番号22)とそれにコードされるGH1-2のアミノ酸配列(配列番号23)を決定した。同アミノ酸配列には分泌シグナル配列が含まれておらず、よって、GH1-2は細胞内に局在するタンパク質であることが示唆された。
pET24a-gh1-2-His6プラスミドをE. coli RosettaTM2(DE3)pLysS Competent Cells(Novagen)に形質転換し、LB寒天培地(50 mg/L カナマイシンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させた。形成されたコロニーをLB寒天培地(50 mg/L カナマイシンを含む)に画線し、シングルコロニーを取得することでEcGHH6株を得た。
E. coli EcGHH6株を試験管内の3 mlの50 mg/Lカナマイシンを含むLB培地に植菌し、37℃、120 rpmで一晩振とう培養した。培養液を、50 mlの坂口フラスコ内の50 mg/Lカナマイシンを含むLB培地に1/100量植菌し、OD600が0.8になるまで37℃、120 rpmで振とう培養した。次に、坂口フラスコを13℃のボックスシェーカー内に移して、13℃、120 rpmで1時間振とう培養した。その後、1 mMになるようにIPTGを添加し、さらに17時間培養した。培養後、4℃、5000 rpmで5 min遠心して菌体を回収し、-20℃のフリーザーで1時間凍結させた。その後、Ni-NTA Fast Start Kit(QIAGEN)を用いて非変性条件で菌体から可溶化タンパク質を抽出し、キットに付属のNi-NTA アフィニティカラムと洗浄バッファー、溶出バッファーを用いてC末端にHisタグが付加されたGH1-2を精製した。精製GH1-2を含む溶出画分は、Amicon Ultra-15 30 kDa cut off(Merck Millipore)限外ろ過膜フィルターと50 mM リン酸ナトリウムバッファー(pH=6.5)を用いて脱塩および濃縮した。その後、SDS-PAGEとPierce Fast Western Blot Kit(Thermo Fisher Scientific)とHisタグ抗体Anti-His-tag mAb-HRP-DirecT(MLB)を用いたWestern解析を行った。精製されたGH1-2が単一バンドであること(図3)を確認し、以降の実験に用いた。
(2-2)GH1-2による高濃度グルコースからの反応生成物の同定
精製されたGH1-2を40 % glucose水溶液に1.4 g/Lになるように添加し、24時間、40℃で反応させ、サンプルを得た。このサンプルをイオン交換水で1000倍に希釈してイオン交換クロマトグラフィーに供し、反応生成物を分析した。イオン交換クロマトグラフィーの条件を表3に示す。その結果、GH1-2によるゲンチオビオース等のβ結合性のグルコースオリゴ糖類の生成が確認された(図4)。
このように、GH1-2を用いることにより、ゲンチオビオース等のβ結合性のグルコースオリゴ糖類を高濃度のグルコースから生成できることが示された。すなわち、GH1-2は、糖転移活性を有していることが示された。
(3)T. cellulolyticusにおけるβ結合性グルコースオリゴ糖のセルラーゼ生産誘導能の評価
(3-1)各種β結合性グルコースオリゴ糖による分泌セルラーゼのハロアッセイ
GH1-2により生成されるβ結合性のグルコースオリゴ糖のT. cellulolyticusにおけるセルラーゼ生産誘導能について検証した。手順を以下に示す。
濃度が1mMになるように各種β結合性のグルコースオリゴ糖(セロトリオース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラミナリビオース、ソホロース)をそれぞれ添加した、CMCを炭素源とする最少培地(CMC最少培地)を作製した。グルコースを炭素源とする最少培地でF09pyr+株とF09Δgh1-2株をそれぞれ3日間生育させた。形成されたコロニーの端付近をストローで打ち抜いて得たアガーディスク1個を、上記の各種β結合性のグルコースオリゴ糖を添加したCMC最少培地に静置し、30℃で36時間生育させた。培養後、50 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)と2 mg/mlのCongo Red(ナカライテスク)を10:1で混合したCongo Red溶液をプレート一面に行渡るように加え、室温で30分間静置した。その後、プレート上のCongo red溶液を取り除き、リン酸ナトリウム緩衝液(50 mM, pH 7.0)をプレート一面に行渡るように加えた。再度、室温で30分間静置した後、プレート上のリン酸ナトリウム緩衝液を取り除き、プレート表面を軽く乾燥させ、ハロを観察した。
結果を図5に示す。T. cellulolyticusにおいて、ゲンチオビオースは、gh1-2遺伝子の欠損によるセルラーゼの分泌能の低下を強く相補することが示された。特に、ゲンチオビオースは、その濃度を1/100量の0.01mMにしても、他のβ結合性グルコースオリゴ糖類より強くセルラーゼの分泌能の低下を相補した。一方で、一般にセルラーゼ分泌の誘導剤とされるセロビオースは、殆どセルラーゼの分泌能の低下を相補できないことが示された。これらの結果から、T. cellulolyticusにおいて、ゲンチオビオースは、強いセルラーゼ生産誘導能を示すことが明らかとなった。
(3-2)GH1-2によるセロビオースからの反応生成物の同定
gh1-2遺伝子の欠損によるセルラーゼ分泌能の著しい低下を、セロビオースが相補できなかったことを受け、beta-glucosidaseと予測されるGH1-2がセロビオースに作用することでセルラーゼ分泌に関与している可能性を検討した。
精製されたGH1-2を、2%のセロビオース水溶液に30 μg/mLになるように添加し、40℃で1~60分間反応させた反応液をサンプル溶液とした。このサンプル溶液を、3μlずつ、層厚が200 μmで20×20 cmサイズ、平均細孔径が60オングストロームのシリカ層を持つ薄層クロマトグラフィープレート(Merck)にスポットして展開した。展開溶媒の組成は体積比でクロロホルム:メタノール:純水=30:20:5とした。発色検出には、還元基を検出するアニリンフタレート法を用いた。展開後に展開溶媒を十分に蒸発させた後、水飽和ブタノールにフタル酸とアニリンを溶解させた発色液をガラススプレーで噴霧し、ホットプレートを用いて150℃以上で十分な発色が得られるまで加熱した。その結果、GH1-2とセロビオースの反応生成物の中には、加水分解活性による生成物であるグルコースだけではなく、β結合性のグルコースオリゴ糖であるセロトリオース、ゲンチオビオース、ソホロース、およびラミナリビオースが含まれていることが確認された(図6)。このように、GH1-2は、加水分解活性のみならず、糖転移活性を有していることが改めて示された。
また、このサンプル溶液をイオン交換水で10倍希釈し、実施例(2-2)に記載の条件でイオン交換クロマトグラフィーに供し、反応生成物を分析した。その結果、GH1-2によるゲンチオビオース等のβ結合性のグルコースオリゴ糖類の生成が改めて確認された(図7)。
これらの結果から、T. cellulolyticusのGH1-2は、細胞内においてセロビオースからゲンチオビオースを含むβ結合性のグルコースオリゴ糖類を糖転移により生成できることが示唆された。
(4)ゲンチオビオースを用いたセルラーゼ生産培養評価
ゲンチオビオースを添加してT. cellulolyticusの液体培養を行い、セルラーゼ生産における効果を検証した。手順を以下に示す。
(4-1)T. cellulolyticus F09ΔsC株の作製
T. cellulolyticus F09株(特開2016-131533)を親株として、以下の手順により、sC遺伝子を破壊し、F09ΔsC株を作製した。sC遺伝子は硫酸塩資化経路のSulfate permeaseをコードする。sC遺伝子を欠損すると、Methionine要求性になるが、セレン酸に対して耐性を獲得する。
はじめに、T. cellulolyticusのsC遺伝子上流領域、pyrF遺伝子マーカー、sC遺伝子下流領域の順に連結された塩基配列を有するsC破壊用DNA断片を以下の手順に従って作成した。
T. cellulolyticus Y-94株(FERM BP-5826)のゲノムDNAを鋳型として、プライマー(配列番号24と25)を用いたPCRによりsC遺伝子の上流領域を、プライマー(配列番号26と27)を用いたPCRによりsC遺伝子の下流領域を、それぞれ増幅した。PCR産物はWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いてそれぞれ精製した。精製したPCR産物をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)によりキット付属のpUCプラスミドに組み込み連結した。反応物でE. coli JM109を形質転換し、LB寒天培地(100 mg/L アンピシリンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させた。得られた形質転換体から、Wizard Plus Miniprep System(Promega)を用いsC破壊用DNA断片が組み込まれたpUC-dsCプラスミドを得た。pUC-dsCプラスミドを鋳型として、プライマー(配列番号24と27)を用いたPCRにより、sC遺伝子破壊用DNA断片を増幅し、エタノール沈殿により濃縮および精製した。
次に、F09株をPD培地に接種し、30℃で培養を行った。形成されたコロニーの端付近をストローで打ち抜いて得たアガーディスク1個を、24 g/L Potato Dextrose Brothを含む培地に接種し、30℃、220 rpmで2日間旋回培養した。菌体を遠心分離(5000 rpm、5分間)で回収し、10g/L Yatalase(タカラバイオ)、10 mM KH2PO4、0.8 M NaClを含む水溶液(pH6.0)を30 mL加え、振とうしながら30℃で2時間反応させ、細胞壁を消化しプロトプラスト化した。ガラスフィルターで残渣を除いた後、遠心分離(2000 rpm、10分間)でプロトプラストを回収し、1.2 M Sorbitol、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)にて1 mLに懸濁しプロトプラスト溶液を調製した。200 μLのプロトプラスト溶液に、精製したsC遺伝子破壊用DNA断片を10μgと、400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を50 μL加え、氷上で30分間放置した。その後さらに1 mLの400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を加えて混合し、室温で15分間放置し形質転換を行った。遠心分離(2000 rpm、10分間)で回収したプロトプラストを、1 M Sucrose、1 mM セレン酸、30 mg/L L-methionine、1 g/Lウリジン、1 g/Lウラシルを含む最少培地に播種し、30℃で14日間培養することで、セレン酸に対して耐性の株を選抜した。出現したコロニーを30 mg/L L-methionine、1 g/Lウリジン、1 g/Lウラシルを含む最少培地に接種し、30℃で4日間培養した後、Methionine要求性を示すこととsC遺伝子が欠損していることを確認し、F09ΔsC株を取得した。
(4-2)T. cellulolyticus F09Δgh1-2ΔsC株の作製
T. cellulolyticus F09ΔsC株を親株として、以下の手順により、gh1-2遺伝子を破壊し、F09Δgh1-2ΔsC株を作製した。
pUC-gh1-2::pyrFプラスミドを鋳型としてプライマー(配列番号2と5)を用いたPCRによりgh1-2破壊用DNA断片を増幅し、エタノール沈殿により濃縮および精製した。
次に、F09ΔsC株をPD培地に接種し、30℃で培養を行った。形成されたコロニーの端付近をストローで打ち抜いて得たアガーディスク1個を、24 g/L Potato Dextrose Brothを含む培地に接種し、30℃、220 rpmで2日間旋回培養した。菌体を遠心分離(5000 rpm、5分間)で回収し、10g/L Yatalase(タカラバイオ)、10 mM KH2PO4、0.8 M NaClを含む水溶液(pH6.0)を30 mL加え、振とうしながら30℃で2時間反応させ、細胞壁を消化しプロトプラスト化した。ガラスフィルターで残渣を除いた後、遠心分離(2000 rpm、10分間)でプロトプラストを回収し、1.2 M Sorbitol、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)にて1 mLに懸濁しプロトプラスト溶液を調製した。200 μLのプロトプラスト溶液に、精製したgh1-2破壊用DNA断片を10μgと、400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を50 μL加え、氷上で30分間放置した。その後さらに1 mLの400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を加えて混合し、室温で15分間放置し形質転換を行った。遠心分離(2000 rpm、10分間)で回収したプロトプラストを、1 M Sucrose、30 mg/L L-methionineを含む最少培地に播種し、30℃で7日間培養することで、Uracil要求性が相補された株を選抜した。出現したコロニーを30 mg/L L-methionineを含む最少培地に接種し、30℃で4日間培養した後、Methionine要求性を示すこととgh1-2遺伝子がpyrF遺伝子で置換されていることを確認し、F09Δgh1-2ΔsC株を得た。
(4-3)T. cellulolyticus F09Δgh1-2ΔpyrF株の作製
T. cellulolyticus F09Δgh1-2ΔsC株を親株に、gh1-2遺伝子領域に挿入されているpyrF遺伝子をsC遺伝子と置換することで、F09Δgh1-2ΔpyrF株を作製した。
T. cellulolyticus Y-94株(FERM BP-5826)のゲノムDNAを鋳型としてプライマー(配列番号2と28)を用いたPCRによりgh1-2遺伝子の上流領域を、プライマー(配列番号29と5)を用いたPCRによりgh1-2遺伝子の下流領域をそれぞれ増幅した。また、T. cellulolyticus Y-94株(FERM BP-5826)のゲノムDNAを鋳型としてプライマー(配列番号30と31)を用いたPCRにより、sC遺伝子の全領域(プロモーターとターミネーターを含む)を増幅した。PCR産物はWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いてそれぞれ精製した。精製したPCR産物をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)によりキット付属のpUCプラスミドに組み込み連結した。反応物でE. coli JM109を形質転換し、LB寒天培地(100 mg/L アンピシリンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させた。得られた形質転換体からWizard Plus Miniprep System(Promega)を用いcreA破壊用DNA断片が組み込まれたpUC-dgh-sCプラスミドを得た。pUC-dgh-sCプラスミドを鋳型としてプライマー(配列番号2と5)を用いたPCRによりgh1-2破壊用DNA断片を増幅し、エタノール沈殿により濃縮および精製した。
次に、F09Δgh1-2ΔsC株を12 g/L Potato Dextrose Broth(Difco)、20 g/L Bacto Agar(Difco)を含む培地(以降、PD培地に接種し、30℃で培養を行った。形成されたコロニーの端付近をストローで打ち抜いて得たアガーディスク1個を、24 g/L Potato Dextrose Brothを含む培地に接種し、30℃、220 rpmで2日間旋回培養した。菌体を遠心分離(5000 rpm、5分間)で回収し、10g/L Yatalase(タカラバイオ)、10 mM KH2PO4、0.8 M NaClを含む水溶液(pH6.0)を30 mL加え、振とうしながら30℃で2時間反応させ、細胞壁を消化しプロトプラスト化した。ガラスフィルターで残渣を除いた後、遠心分離(2000 rpm、10分間)でプロトプラストを回収し、1.2 M Sorbitol、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)にて1 mLに懸濁しプロトプラスト溶液を調製した。200 μLのプロトプラスト溶液に、精製したpyrF破壊用DNA断片を10μgと、400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を50 μL加え、氷上で30分間放置した。その後さらに1 mLの400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を加えて混合し、室温で15分間放置し形質転換を行った。遠心分離(2000 rpm、10分間)で回収したプロトプラストを、1 M Sucrose、1 g/L L Uridine、1 g/L Uracilを含む最少培地に播種し、30℃で7日間培養することで、Methionine要求性が相補された株を選抜した。出現したコロニーを1 g/L L Uridine、1 g/L Uracilを含む最少培地に接種し30℃で4日間培養した後、Uracil要求性を示すと同時にMethionine要求性が相補されていること、およびgh1-2遺伝子領域に挿入されたpyrF遺伝子がsC遺伝子で置換されていることを確認し、F09Δgh1-2ΔpyrF株を得た。
(4-4)T. cellulolyticus F09ΔcreA株とF09Δgh1-2 ΔcreA株の作製
T. cellulolyticus F09株およびF09Δgh1-2ΔpyrF株を親株として、以下の手順により、creA遺伝子を破壊し、F09ΔcreA株およびF09Δgh1-2ΔcreA株を作製した。
creA遺伝子は、カタボライトリプレッションに関与する転写因子をコードする遺伝子である。creA遺伝子は、糸状菌において、セルラーゼの発現に関与していることが知られている(Mol Gen Genet. 1996 Jun 24;251(4):451-60、Biosci Biotechnol Biochem. 1998 Dec;62(12):2364-70)。creA遺伝子の破壊により、T. cellulolyticusのセルラーゼ生産能を向上させることができる(WO2015/093467)。
はじめに、T. cellulolyticusのcreA遺伝子上流領域、pyrF遺伝子マーカー、creA遺伝子下流領域の順に連結された塩基配列を有するcreA破壊用DNA断片を以下の手順に従って作成した。
T. cellulolyticus Y-94株(FERM BP-5826)のゲノムDNAを鋳型として、プライマー(配列番号32と33)を用いたPCRによりcreA遺伝子の上流領域を、プライマー(配列番g号34と35)を用いたPCRによりcreA遺伝子の下流領域を、それぞれ増幅した。また、T. cellulolyticus Y-94株(FERM BP-5826)のゲノムDNAを鋳型としてプライマー(配列番号36と37)を用いたPCRにより、pyrF遺伝子の全領域(プロモーターとターミネーターを含む)を増幅した。PCR産物はWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いてそれぞれ精製した。精製したPCR産物をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)によりキット付属のpUCプラスミドに組み込み連結した。反応物でE. coli JM109を形質転換し、LB寒天培地(100 mg/L アンピシリンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させた。得られた形質転換体から、Wizard Plus Miniprep System(Promega)を用いてcreA破壊用DNA断片が組み込まれたpUC-creA::pyrFプラスミドを得た。pUC-creA::pyrFプラスミドを鋳型として、プライマー(配列番号32と35)を用いたPCRにより、creA破壊用DNA断片を増幅し、エタノール沈殿により濃縮および精製した。
次に、F09株およびF09Δgh1-2ΔpyrF株をそれぞれPD培地に接種し、30℃で培養を行った。形成されたコロニーの端付近をストローで打ち抜いて得たアガーディスク1個を、24 g/L Potato Dextrose Brothを含む培地に接種し、30℃、220 rpmで2日間旋回培養した。菌体を遠心分離(5000 rpm、5分間)で回収し、10g/L Yatalase(タカラバイオ)、10 mM KH2PO4、0.8 M NaClを含む水溶液(pH6.0)を30 mL加え、振とうしながら30℃で2時間反応させ、細胞壁を消化しプロトプラスト化した。ガラスフィルターで残渣を除いた後、遠心分離(2000 rpm、10分間)でプロトプラストを回収し、1.2 M Sorbitol、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)にて1 mLに懸濁しプロトプラスト溶液を調製した。200 μLのプロトプラスト溶液に、精製したcreA破壊用DNA断片を10μgと、400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を50 μL加え、氷上で30分間放置した。その後さらに1 mLの400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を加えて混合し、室温で15分間放置し形質転換を行った。遠心分離(2000 rpm、10分間)で回収したプロトプラストを、1 M Sucroseを含む最少培地に播種し、30℃で7日間培養することで、Uracil要求性が相補された株を選抜した。出現したコロニーを最少培地に接種し30℃で4日間培養した後、creA遺伝子がpyrF遺伝子で置換されていることを確認し、F09ΔcreA株とF09Δgh1-2ΔcreA株を得た。
(4-5)ゲンチオビオースを含む糖液の調製
精製したGH1-2、およびGH1-2を発現したE. coli菌体を用いて、ゲンチオビオースを含む糖液を調製した。手順を以下に示す。
560 g/L glucose溶液に、実施例(2-1)で得た精製したGH1-2を1.4 g/Lになるように添加し、反応液とした。反応液を均一になるように撹拌した後、室温で52時間静置した。その後、反応液を95℃で10min加熱し、ゲンチオビオースを含む糖液とした。糖液には、上記のイオン交換クロマトグラフィーによって35.04 g/Lゲンチオビオースが含まれていることが確認された。
また、E. coli EcGHH6株を試験管内の3 mlの50 mg/Lカナマイシンを含むLB培地に植菌し、37℃、120 rpmで一晩振とう培養した。その菌体を、50 mlの坂口フラスコ内の50 mg/Lカナマイシンを含むLB培地に1/100量植菌し、OD600が0.8になるまで37℃、120 rpmで振とう培養した。次に、坂口フラスコを13℃のボックスシェーカー内に移して、13℃、120 rpmで1時間振とう培養した。その後、1 mMになるようにIPTGを添加し、さらに17時間培養した。培養後、4℃に冷却した遠心機内で5000 rpmで5min遠心して菌体を回収し、5 mlの培養上清に再懸濁した。この5 mlの菌体懸濁液を700 g/L glucose溶液100 mlに投入し、菌体反応液とした。菌体反応液を均一になるように撹拌しつつ、室温で144時間反応させ、継時的にサンプリングした。この過程で、時間経過とともに菌体が溶菌したことで菌体反応液は透明に変化した(図9左)。サンプリングした糖液は、95℃で10min加熱し、1000倍に希釈して上記のイオン交換クロマトグラフィーで分析した。その結果、ゲンチオビオースが継時的に生成していることが確認された(図8)。144時間の反応後の糖液を、95℃で10min加熱し、560 g/L glucose溶液相当になるように蒸留水を加水し、ゲンチオビオースを含む糖液とした。
また、同様に調製した菌体反応液を、撹拌せずに室温に静置した場合についても、同様の手順で評価した。その結果、撹拌しない場合も、時間経過とともに菌体が溶菌したことで菌体反応液は透明に変化した(図9左)。
各菌体反応液について、0.22 μm孔径のフィルターで濾過したものと濾過していないものをSDS-PAGEに供し、Bio-SafeTM Coomassie Stain(BIO-RAD)を用いてCBB染色し、Pierce Fast Western Blot Kit(Thermo Fisher Scientific)とHisタグ抗体Anti-His-tag mAb-HRP-DirecT(MLB)を用いてWestern解析を行った。その結果、細胞内に発現させたC末端にHisタグを付加したGH1-2が菌体懸濁液中に漏れ出ていることが示された(図9右上)。また、0.22 um孔径のフィルターで濾過した各菌体反応液中をイオン交換水で希釈して、上記のイオン交換クロマトグラフィーで分析し、ゲンチオビオースを定量した。その結果、撹拌の有無で生成するゲンチオビオースの量に差は見られなかった(図9右下)。
(4-6)ゲンチオビオースを用いたセルラーゼ生産培養
T. cellulolyticus F09ΔcreA株およびF09Δgh1-2ΔcreA株を、それぞれPD培地に接種し、30℃で培養を行った。形成されたコロニーの端付近をストローで打ち抜いて得たアガーディスク1個を、20 mL の20 g/L グルコース、24 g/L KH2PO4、5 g/L (NH4)2SO4、2 g/L Urea、1.2 g/L MgSO4・7H2O、0.01 g/L ZnSO4・7H2O、0.01 g/L MnSO4・5H2O、0.01 g/L CuSO4・5H2O、1 g/L Corn steep liquor(C4648, SIGMA)、1 g/L Tween 80を含む液体培地に接種し、30℃、220 rpmで5日間旋回培養にて前培養を行なった。次に、15 mLの前培養液を、ジャーファーメンター中の300 mLの15 g/L グルコース、12 g/L KH2PO4、10 g/L (NH4)2SO4、1.2 g/L MgSO4・7H2O、0.01 g/L ZnSO4・7H2O、0.01 g/L MnSO4・5H2O、0.01 g/L CuSO4・5H2O、5 g/L Corn steep liquor、1 g/L Tween 80、0.5 mL/L ディスホームGD(日油)を含む液体培地に植菌し、培養温度を30℃、通気量を1/2 vvmとし、撹拌により溶存酸素濃度を飽和濃度に対し5%以上に制御し、アンモニアガスを用いて培養pHを5に制御しながら、72時間の流加培養を行った。流加液は培養開始22時間後から連続的に培地中のグルコース濃度が5~10 g/Lの範囲に維持されるように流加した。培養開始72時間後に培養液をサンプリングし、遠心分離(15000 rpmで5分間)して上清を得た。得られた上清を酵素液とした。
流加液は8種類で、そのうち2種類は上に記した、精製したGH1-2を用いて調製した560 g/L glucose相当のゲンチオビオースを含む糖液(以下、「+GH1-2精製酵素」ともいう)と、E. coli EcGHH6株の菌体を用いて調製した560 g/L glucose相当に加水したゲンチオビオースを含む糖液(以下、「+GH1-2発現E. coli菌体」ともいう)である。残りの6種の流加液の組成を表4に示す。
得られた酵素液のろ紙分解活性(FPU/ml)を以下の手順で測定し、各酵素液が得られた培養において消費した糖の量から炭素源当たりの活性収率を計算した。
<ろ紙分解活性(FPU/mL)>
6 mm×10 mmに裁断したろ紙(Whatman No. 1、GE Healthcare)を含む100μlのクエン酸緩衝液(50 mM、pH 5.0)に、50μlの適宜希釈した試料を加え、50℃で1時間反応を行った。なお、反応を行わないサンプルを用意し、ブランクとした。次に300 μlのDNS溶液(1 % ジニトロサリチル酸、20 % 酒石酸ナトリウム・カリウム、0.05 % 亜硫酸ナトリウム、1 % 水酸化ナトリウム)を加え、95℃で5分間反応後、氷上で5分間冷却した。反応後の溶液を混合し、遠心(12000 rpmで5分間)し、100μlの上清を回収した。その後、上清の540 nmの吸光度を測定し、ブランクの値を差し引き、吸光度の増加量を算出した。次に、段階的に希釈したグルコース濃度と540 nmの吸光度で作成した検量線を用いて、反応溶液中に生成された還元糖量をグルコース換算で算出した。同様の操作を異なる希釈率の試料で行い、希釈率とグルコース生成量の検量線を作成し、0.2 mgのグルコースに相当する還元糖を生成するのに必要な試料の希釈率を求め、希釈前の試料のろ紙分解活性(FPU/mL)を算出した。活性単位は、1分間に1μmolのグルコースに相当する還元糖を生成する酵素活性を「1 U」とした。
その結果、流加液中のglucose以外の炭素源としてゲンチオビオースを用いることで、セロビオースを用いる場合よりも、効率の高いセルラーゼ生産を実現できることが示された(図10)。
さらに、gh1-2遺伝子を破壊すると、ゲンチオビオースを含む流加液の添加によるセルラーゼ生産効率を向上できることが示された(図11)。
加えて、精製したGH1-2を用いて調製した560 g/L glucose相当のゲンチオビオースを含む糖液と、E. coli EcGHH6株の菌体を用いて調製した560 g/L glucose相当のゲンチオビオースを含む糖液も、80 g/Lのセロビオースを含む流加液を用いた場合に匹敵する高い効率でセルラーゼ生産を実現できることが示された(図12)。
(5)細胞外分泌型のβ-glucosidase BGL3Aによるゲンチオビオースの生成
細胞内に局在するβ-glucosidaseであるGH1-2を用いてゲンチオビオースを調製する方法は上で述べた。以下に、細胞外に分泌される、GH1-2と別の主要なβ-glucosidaseであるBGL3A(配列番号38)を用いてゲンチオビオースを調製する方法を示す。
(5-1)bgl3A遺伝子破壊株の作製
T. cellulolyticus、F09株(特開2016-131533)を親株として、以下の手順により、BGL3Aをコードするbgl3A遺伝子を破壊し、F09Δbgl3A株を作製した。
はじめに、T. cellulolyticusのbgl3A遺伝子上流領域、pyrF遺伝子マーカー、bgl3A遺伝子下流領域の順に連結された塩基配列を有するbgl3A破壊用DNA断片を以下の手順に従って作成した。
T. cellulolyticus Y-94株(FERM BP-5826)のゲノムDNAを鋳型として、プライマー(配列番号39と40)を用いたPCRによりbgl3A遺伝子の上流領域を、プライマー(配列番号41と42)を用いたPCRによりbgl3A遺伝子の下流領域を、それぞれ増幅した。また、T. cellulolyticus Y-94株(FERM BP-5826)のゲノムDNAを鋳型として、プライマー(配列番号43と44)を用いたPCRにより、pyrF遺伝子の全領域(プロモーターとターミネーターを含む)を増幅した。PCR産物はWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いてそれぞれ精製した。精製したPCR産物をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)によりキット付属のpUCプラスミドに組み込み連結した。反応物でE. coli JM109を形質転換し、LB寒天培地(100 mg/L アンピシリンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させた。得られた形質転換体から、Wizard Plus Miniprep System(Promega)を用いてbgl3A破壊用DNA断片が組み込まれたpUC-bgl3A::pyrFプラスミドを得た。pUC-bgl3A::pyrFプラスミドを鋳型として、プライマー(配列番号45と46)を用いたPCRにより、bgl3A破壊用DNA断片を増幅し、エタノール沈殿により濃縮および精製した。
次に、F09株をPD培地に接種し、30℃で培養を行った。形成されたコロニーの端付近をストローで打ち抜いて得たアガーディスク1個を、24 g/L Potato Dextrose Brothを含む培地に接種し、30℃、220 rpmで2日間旋回培養した。菌体を遠心分離(5000 rpm、5分間)で回収し、10g/L Yatalase(タカラバイオ)、10 mM KH2PO4、0.8 M NaClを含む水溶液(pH6.0)を30 mL加え、振とうしながら30℃で2時間反応させ、細胞壁を消化しプロトプラスト化した。ガラスフィルターで残渣を除いた後、遠心分離(2000 rpm、10分間)でプロトプラストを回収し、1.2 M Sorbitol、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)にて1 mLに懸濁しプロトプラスト溶液を調製した。200 μLのプロトプラスト溶液に、精製したbgl3A破壊用DNA断片を10μgと、400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を50 μL加え、氷上で30分間放置した。その後さらに1 mLの400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を加えて混合し、室温で15分間放置し形質転換を行った。遠心分離(2000 rpm、10分間)で回収したプロトプラストを、1 M Sucroseを含む最少培地に播種し、30℃で7日間培養することで、Uracil要求性が相補された株を選抜した。出現したコロニーを最少培地に接種し30℃で4日間培養した後、bgl3A遺伝子がpyrF遺伝子で置換されていることを確認し、F09Δbgl3A株を得た。
(5-2)酵素液の調製
T. cellulolyticus F09Δbgl3A株およびF09pyr+株が生産するセルラーゼ酵素液を、セルロース基質であるSolka-Floc(International Fiber Corporation)を炭素源とするフラスコ培養によって調製した。
<フラスコ培養>
F09Δbgl3A 株およびF09pyr+株を、それぞれ、1/2PDAプレートに接種し、30℃で3日培養した。形成されたコロニーの端付近をストローで打ち抜いて得られたアガーディスク1個を、SFフラスコ培地(表2)に接種し、30℃、220 rpmで7日間旋回培養した。適宜サンプリングを行い、0.22 μmのシリンジフィルターで菌体を除き、得られた培養上清を酵素液とした。これにより、BGL3Aが含まれていないF09Δbgl3A株由来の酵素液(以下、「-BGL3A」ともいう)と、BGL3Aが含まれているF09pyr+株由来の酵素液(以下、「+BGL3A」ともいう)を調製した。
(5-3)セルロース基質からのゲンチオビオースの生成
実施例(5-2)で得られた2種の酵素液を用いて、ある程度の濃度のglucoseを含む条件下でセルロース基質であるSolka-Floc(International Fiber Corporation)を分解し、生成物を分析した。反応は、10gの反応液(表5)を50mlチューブに入れ、50℃で24時間、チューブを90rpmで振とうしながら実施した。
結果を図13に示す。BGL3Aが含まれていないF09Δbgl3A株由来の酵素液を用いた場合には、ゲンチオビオースの生成は殆ど見られずセロビオースの蓄積が観察された。一方、BGL3Aが含まれているF09pyr+株由来の酵素液を用いた場合には、セロビオースの蓄積が低下し、グルコース蓄積の増加とゲンチオビオースの生成が確認された。また、セルロース基質を添加していない条件においても、glucoseを含む条件においてはgentiobioseの生成が確認されたことから、BGL3Aは濃度依存的にglucoseからgentiobioseを生成できることが示された。このように、GH1-2と別の主要なβ-glucosidaseであるBGL3A酵素を含む酵素液を用いて、ゲンチオビオースを調製することが出来ることが示された。
(5-4)セロビオースからのゲンチオビオースの生成
同様に、セルロース基質の分解産物であるセロビオースを用いて、BGL3Aを用いたgentiobiose生成の検討を行った。
実施例(5-2)で得られた2種の酵素液を用いて、ある程度の濃度のglucoseを含む条件下でセルロース基質の分解産物であるcellobioseを分解し、生成物を分析した。反応は、10gの反応液(表6)を50mlチューブに入れ、50℃で24時間、チューブを90rpmで振とうしながら実施した。
結果を図14に示す。BGL3Aが含まれているF09pyr+株由来の酵素液を用いた場合には、セロビオース基質の分解産物であるセロビオースからゲンチオビオースの生成が確認できた。一方、BGL3Aが含まれていないF09Δbgl3A株由来の酵素液を用いた場合には、セロビオースの分解が低下するばかりか、ゲンチオビオースの生成も確認されなかった。この結果から、BGL3Aはセロビオースからゲンチオビオースを生成することが示された。また、実施例(5-3)の結果と併せて、BGL3Aを含むT. cellulolyticusの菌体培養液を用いることで、セルロース基質からセロビオースを介してゲンチオビオースを生成できることが示された。
(6)GH1-2活性弱化株によるセルラーゼ生産培養評価
実施例(4-6)において、gh1-2遺伝子を破壊することにより、ゲンチオビオースの添加によるセルラーゼ生産効率を向上できることが示された。そこで、次に、gh1-2遺伝子産物(GH1-2)の活性を低下させることにより、各種条件におけるセルラーゼ生産効率を向上できるかを検討した。
(6-1)変異型GH1-2の調製
実施例(2-1)で作製したpET24a-gh1-2-His6を鋳型として、プライマー(配列番号52と53)を用いたPCRにより増幅したPCR産物を、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いて精製した。精製したPCR産物をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)により連結した。反応物でE. coli JM109を形質転換し、LB寒天培地(50 mg/L カナマイシンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させた。得られた形質転換体から、Wizard Plus Miniprep System(Promega)を用いて、GH1-2の363位のトリプトファンがフェニルアラニンに置換されるW363F変異を有する変異型gh1-2遺伝子のcDNA断片が組み込まれたpET24a-gh1-2(W363F)-His6プラスミドを得た。また、プライマー(配列番号54と55)を用いて、同様の手順によって、GH1-2の449位のトリプトファンがフェニルアラニンに置換されるW449F変異を有する変異型gh1-2遺伝子のcDNA断片が組み込まれたpET24a-gh1-2(W449F)-His6プラスミドを得た。
pET24a-gh1-2(W363F)-His6プラスミドとpET24a-gh1-2(W449F)-His6プラスミドを、それぞれ、E. coli RosettaTM 2(DE3)pLysS Competent Cells(Novagen)に形質転換し、LB寒天培地(50 mg/L カナマイシンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させた。形成されたコロニーをLB寒天培地(50 mg/L カナマイシンを含む)に画線し、シングルコロニーを取得することでEcGHW363FH6株とEcGHW449FH6株を得た。
EcGHW363FH6株とEcGHW449FH6株を、それぞれ、試験管内の3 mlの50 mg/Lカナマイシンを含むLB培地に植菌し、37℃、120 rpmで一晩振とう培養した。培養液を、50 mlの坂口フラスコ内の50 mg/Lカナマイシンを含むLB培地に1/100量植菌し、OD600が0.8になるまで37℃、120 rpmで振とう培養した。次に、坂口フラスコを13℃のボックスシェーカー内に移して、13℃、120 rpmで1時間振とう培養した。その後、1 mMになるようにIPTGを添加し、さらに17時間培養した。培養後、4℃、5000 rpmで5 min遠心して菌体を回収し、-20℃のフリーザーで1時間凍結させた。その後、Ni-NTA Fast Start Kit(QIAGEN)を用いて非変性条件で菌体から可溶化タンパク質を抽出し、キットに付属のNi-NTA アフィニティカラム、洗浄バッファー、および溶出バッファーを用いてC末端にHisタグが付加された2種の変異型GH1-2をそれぞれ精製した。精製GH1-2を含む溶出画分は、Amicon Ultra-15 30 kDa cut off(Merck Millipore)限外ろ過膜フィルターと50 mM リン酸ナトリウムバッファー(pH=6.5)を用いて脱塩および濃縮した。SDS-PAGEで精製された2種の変異型GH1-2が単一バンドであることを確認し、以降の実験に用いた。
(6-2)変異型GH1-2の活性評価
精製された2種の変異型GH1-2と実施例(2-1)で得た精製された野生型GH1-2の加水分解活性を比較した。まず、野生型GH1-2および変異型GH1-2の酵素溶液のタンパク質濃度を揃えた。そして、反応後サンプルの波長410 nmにおける吸光度が検量線にのるように酵素溶液を希釈し、希釈酵素液を得た。希釈酵素液10 μlを、1 mlの基質液(10 mMのp-Nitrophenyl-β-D-glucopyranoside(Wako Pure Chemical Industry)を含有する50 mMリン酸ナトリウムバッファー (pH 6.5))に添加し、10分間、45℃でインキュベートした。その後95 ℃で10分間インキュベートすることで酵素を失活させ、室温まで冷却したあと、波長410 nmでの吸光度を測定した。インキュベートをせず、95 ℃で10分間の失活処理のみを行ったサンプルの測定結果をバックグラウンドとして差し引いた。検量線は、p-nitrophenol(Fluka Chemical Corp)を50 mMのリン酸ナトリウムバッファーに希釈して吸光度を測定することで作成した。p-nitrophenolの生成量を加水分解活性の指標として、各GH1-2の加水分解活性を、野生型GH1-2の加水分解活性を100%とする相対値として算出した。その結果、2種の変異型GH1-2(W363FおよびW449F)は、いずれも、加水分解活性が低下していることが示された(図15)。
また、精製された2種の変異型GH1-2と実施例(2-1)で得た精製された野生型GH1-2のcellobioseと反応させた際の加水分解物と糖転移生成物を比較した。実施例(3-2)に記載の方法で、反応液をTLCで展開および発色させた。結果を図16に示す。2種の変異型GH1-2(W363FおよびW449F)は、いずれも、cellobioseに対する加水分解活性が低下していることが示された。W363F変異型GH1-2を、より多く(5倍)用いた場合には、野生型GH1-2を用いた場合と近い展開のパターンが観察され、糖転移生成物の生成も同様に低下していると示唆された。W449F 変異型GH1-2を用いた場合には、ほぼcellobioseの加水分解と糖転移が観察されず、ごく僅かにcellobioseを加水分解してglucoseを生成していることが観察された。
野生型GH1-2を用いた際の上記の反応液を実施例(2-2)に記載の条件でイオン交換クロマトグラフィーに供し、反応生成物を分析することでcellobioseの加水分解物および糖転移生成物の経時的変化を観察した。その結果、野生型GH1-2の場合、gentiobioseよりも先にcellotrioseやcellotetraoseが生成すること、およびgentiobioseよりも先にcellobiose等のセロオリゴ糖が分解することが示された(図17)。
同様に、W363F変異型GH1-2を用いた際の上記の反応液を実施例(2-2)に記載の条件でイオン交換クロマトグラフィーに供し、反応生成物を分析することでcellobioseの加水分解物および糖転移生成物の経時的変化を観察し、野生型GH1-2を用いた場合と比較した。その結果、W363F変異型GH1-2の場合、cellobioseの加水分解効率が低下していることに加え、cellotrioseやgentiobioseの生成が遅延していることが示された(図18)。すなわち、W363F変異型GH1-2は、cellobioseに対する加水分解効率のみならず、糖転移生成物の生成効率も低下していることが示された。
このような変異型GH1-2を有する株においては、細胞内に取り込まれたcellobioseやその糖転移生成物がglucoseに加水分解されにくく、以て細胞質中での存在量が増大するものと考えられる。すなわち、このような変異型GH1-2を有する株においては、セルラーゼ遺伝子の発現を誘導するgentiobioseをはじめとした糖転移生成物が安定的に供給され、以てセルラーゼの発現が向上すると推測される。対して、野生型GH1-2を有する株においては、細胞質中でcellobioseから糖転移生成物を生成する効率が高い一方で、その基質であるcellobioseや糖転移生成物を加水分解する効率も顕著に高いゆえに、セルラーゼ遺伝子の発現を誘導するgentiobioseをはじめとした糖転移生成物の供給が不安定になり、以てセルラーゼの発現が制限されると推察される。
(6-3)T. cellulolyticusの過去の育種におけるgh1-2遺伝子内の有効変異C267Pの発見
T. cellulolyticus Y-94株(FERM BP-5826)、TN株(FERM BP-685)、およびF09株のゲノムDNAを鋳型として、プライマー(配列番号16, 17, 18, 19, 20, 21)を用いてgh1-2遺伝子領域のシークエンス解析を行った。その結果、Y-94株からTN株が構築される育種の過程において、GH1-2の267位のシステインがプロリンに置換されるC267P変異がgh1-2遺伝子に導入されていることが明らかになった(図19)。特開2011-193773において、TN株は2513個の変異候補箇所が存在することが報告されている。しかし、特開2011-193773には、このC267P変異に関する言及はない。
(6-4)T. cellulolyticus Y-94株のgh1-2遺伝子へのC267P変異の導入
T. cellulolyticus のTN株(FERM BP-685)のゲノムDNAを鋳型として、プライマー(配列番号56と57)を用いたPCRにより、C267P変異を含むgh1-2遺伝子の上流4 kbから下流4 kbまでのDNA断片を増幅した。PCR産物はWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いて精製した。精製したPCR産物をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)によりキット付属のpUCプラスミドに組み込み連結した。反応物でE. coli JM109を形質転換し、LB寒天培地(100 mg/L アンピシリンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させた。得られた形質転換体から、Wizard Plus Miniprep System(Promega)を用いて上記DNA断片が組み込まれたpUC-gh1-2TNプラスミドを得た。
次に、pUC-gh1-2TNプラスミドを鋳型として、プライマー(配列番号58と59)を用いたPCRにより、pUC-gh1-2TNプラスミドをgh1-2遺伝子の終始コドンの下流約0.5kb部位で開裂させた断片を増幅した。また、pcDNA3.1/Hygro(+)プラスミド(Invitrogen)を鋳型として、プライマー(配列番号60と61)を用いたPCRにより、ハイグロマイシン耐性遺伝子カセット領域(プロモーターとターミネーターを含む)を増幅した。PCR産物はWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いてそれぞれ精製した。精製したPCR産物をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)によりキット付属のpUCプラスミドに組み込み連結した。反応物でE. coli JM109を形質転換し、LB寒天培地(100 mg/L アンピシリンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させた。得られた形質転換体から、Wizard Plus Miniprep System(Promega)を用いて、C267P変異を含むgh1-2遺伝子の上流約4kbから下流約4kb領域およびハイグロマイシン耐性遺伝子が組み込まれたpUC-C267Prepプラスミドを得た。pUC-C267Prepプラスミドを鋳型として、プライマー(配列番号56と57)を用いたPCRにより、gh1-2遺伝子領域を置換するためのDNA断片を増幅し、エタノール沈殿により濃縮および精製した。
次に、Y-94株をPD培地に接種し、30℃で培養を行った。形成されたコロニーの端付近をストローで打ち抜いて得たアガーディスク1個を、24 g/L Potato Dextrose Brothを含む培地に接種し、30℃、220 rpmで2日間旋回培養した。菌体を遠心分離(5000 rpm、5分間)で回収し、10g/L Yatalase(タカラバイオ)、10 mM KH2PO4、0.8 M NaClを含む水溶液(pH6.0)を30 mL加え、振とうしながら30℃で2時間反応させ、細胞壁を消化しプロトプラスト化した。ガラスフィルターで残渣を除いた後、遠心分離(2000 rpm、10分間)でプロトプラストを回収し、1.2 M Sorbitol、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)にて1 mLに懸濁しプロトプラスト溶液を調製した。200 μLのプロトプラスト溶液に、精製したgh1-2遺伝子領域を置換するためのDNA断片を10μgと、400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を50 μL加え、氷上で30分間放置した。その後さらに1 mLの400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を加えて混合し、室温で15分間放置し形質転換を行った。遠心分離(2000 rpm、10分間)で回収したプロトプラストを、1 M Sucroseを含む最少培地(表1)に播種し、30℃で1日間培養したあと、0.5 g/L Hygromycin Bと1 M Sucroseを含む最少培地(表1)で重層し、30℃で7日間培養することで、ハイグロマイシン耐性を獲得した株を選抜した。出現したコロニーを0.5 g/L Hygromycin Bを含む最少培地に接種し、30℃で4日間培養した後、gh1-2遺伝子領域がC267P変異を含むgh1-2遺伝子領域で置換されていることを確認し、C267Prep株を得た。
(6-5)フラスコ培養によるC267Prep株のセルラーゼ生産評価
Y-94株、C267Prep株、およびTN株によるセルラーゼ生産を、実施例(1-2)に記載の手順で、セルロース基質であるSolka-Floc(International Fiber Corporation)を炭素源とするフラスコ培養によって評価した。培養上清中の総タンパク質濃度をセルラーゼ生産量の指標とした。その結果、C267Prep株およびTN株は、親株であるY-94株に比較して、セルラーゼの分泌生産能およびセルロースの資化能が顕著に上昇していることが示された(図20)。
(6-6)ハロアッセイによるC267Prep株のセルラーゼ生産評価
Y-94株、C267Prep株、およびTN株によるセルラーゼ生産を、実施例(1-4)に記載の手順で、セルロース基質であるCMCを炭素源とするハロアッセイによって評価した。その結果、C267Prep株およびTN株は、親株であるY-94株に比較して、セルラーゼの分泌生産能およびセルロースの資化能が顕著に上昇していることが改めて示された(図21)。
(6-7)T. cellulolyticus Y-94株のgh1-2遺伝子へのW363F変異およびW449F変異の導入
T. cellulolyticus Y-94株(FERM BP-685)のゲノムDNAを鋳型として、プライマー(配列番号56と57)を用いたPCRにより、gh1-2遺伝子の上流4 kbから下流4 kbまでのDNA断片を増幅した。PCR産物はWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いて精製した。精製したPCR産物をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)によりキット付属のpUCプラスミドに組み込み連結した。反応物でE. coli JM109を形質転換し、LB寒天培地(100 mg/L アンピシリンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させた。得られた形質転換体から、Wizard Plus Miniprep System(Promega)を用いて上記DNA断片が組み込まれたpUC-gh1-2WTプラスミドを得た。
次に、pUC-gh1-2WTプラスミドを鋳型として、プライマー(配列番号58と59)を用いたPCRにより、pUC-gh1-2WTプラスミドをgh1-2遺伝子の終始コドンの下流約0.5kb部位で開裂させた断片を増幅した。また、pcDNA3.1/Hygro(+)プラスミド(Invitrogen)を鋳型として、プライマー(配列番号60と61)を用いたPCRにより、ハイグロマイシン耐性遺伝子カセット領域(プロモーターとターミネーターを含む)を増幅した。PCR産物はWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いてそれぞれ精製した。精製したPCR産物をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)によりキット付属のpUCプラスミドに組み込み連結した。反応物でE. coli JM109を形質転換し、LB寒天培地(100 mg/L アンピシリンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させた。得られた形質転換体から、Wizard Plus Miniprep System(Promega)を用いて、gh1-2遺伝子の上流約4kbから下流約4kb領域およびハイグロマイシン耐性遺伝子が組み込まれたpUC-WTrepプラスミドを得た。
さらに、pUC-WTrepプラスミドを鋳型として、プライマー(配列番号52と53)を用いたPCRにより増幅したPCR産物を、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いて精製した。精製したPCR産物をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)により連結した。反応物でE. coli JM109を形質転換し、LB寒天培地(50 mg/L カナマイシンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させた。得られた形質転換体から、Wizard Plus Miniprep System(Promega)を用いて、W363F変異を含むgh1-2遺伝子の上流約4kbから下流約4kb領域およびハイグロマイシン耐性遺伝子が組み込まれたpUC-W363Frepプラスミドを得た。また、プライマー(配列番号54と55)を用いて同様の手順によって、W449F変異を含むgh1-2遺伝子の上流約4kbから下流約4kb領域およびハイグロマイシン耐性遺伝子が組み込まれたpUC-W449Frepプラスミドを得た。
pUC-W363FrepプラスミドおよびpUC-W449Frepプラスミドを、それぞれ鋳型として、プライマー(配列番号56と57)を用いたPCRにより、gh1-2遺伝子領域を置換するためのDNA断片を増幅し、エタノール沈殿により濃縮および精製した。
次に、Y-94株をPD培地に接種し、30℃で培養を行った。形成されたコロニーの端付近をストローで打ち抜いて得たアガーディスク1個を、24 g/L Potato Dextrose Brothを含む培地に接種し、30℃、220 rpmで2日間旋回培養した。菌体を遠心分離(5000 rpm、5分間)で回収し、10g/L Yatalase(タカラバイオ)、10 mM KH2PO4、0.8 M NaClを含む水溶液(pH6.0)を30 mL加え、振とうしながら30℃で2時間反応させ、細胞壁を消化しプロトプラスト化した。ガラスフィルターで残渣を除いた後、遠心分離(2000 rpm、10分間)でプロトプラストを回収し、1.2 M Sorbitol、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)にて1 mLに懸濁しプロトプラスト溶液を調製した。200 μLのプロトプラスト溶液に、精製したgh1-2遺伝子領域を置換するためのDNA断片を10μgと、400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を50 μL加え、氷上で30分間放置した。その後さらに1 mLの400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を加えて混合し、室温で15分間放置し形質転換を行った。遠心分離(2000 rpm、10分間)で回収したプロトプラストを、1 M Sucroseを含む最少培地(表1)に播種し、30℃で1日間培養したあと、0.5 g/L Hygromycin Bと1 M Sucroseを含む最少培地(表1)で重層し、30℃で7日間培養することで、ハイグロマイシン耐性を獲得した株を選抜した。出現したコロニーを0.5 g/L Hygromycin Bを含む最少培地に接種し、30℃で4日間培養した後、gh1-2遺伝子領域がW363F変異またはW449F変異を含むgh1-2遺伝子領域で置換されていることを確認し、W363Frep株およびW449Frep株を得た。
(6-8)フラスコ培養によるW363Frep株およびW449Frep株のセルラーゼ生産評価
Y-94株、C267Prep株、W363Frep株、およびW449Frep株によるセルラーゼ生産を、実施例(1-2)に記載の手順で、セルロース基質であるSolka-Floc(International Fiber Corporation)を炭素源とするフラスコ培養によって評価した。培養上清中の総タンパク質濃度およびセルラーゼ比活性をセルラーゼ生産量の指標とした。その結果、W363Frep株およびW449Frep株は、親株であるY-94株に比較して、セルラーゼの分泌生産能およびセルロースの資化能が顕著に上昇していることが示された(図22)。
(6-9)ハロアッセイによるW363Frep株、W449Frep株、およびC267Prep株のセルラーゼ生産評価
Y-94株、W363Frep株、W449Frep株、およびC267Prep株を、それぞれ、実施例(1-4)に記載の手順で、CMCを炭素源とする最少培地上と、1 mMのgentiobioseを含むCMCを炭素源とする最少培地上で、5日間生育させた。培養後、50 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)と2 mg/mlのCongo Red(ナカライテスク)を10:1で混合したCongo red溶液をプレート一面に行渡るように加え、室温で30分間静置した。その後、プレート上のCongo red溶液を取り除き、リン酸ナトリウム緩衝液(50 mM, pH 7.0)をプレート一面に行渡るように加えた。再度、室温で30分間静置した後、プレート上のリン酸ナトリウム緩衝液を取り除き、プレート表面を軽く乾燥させ、可視化されたハロの直径と幅を測定した。
結果を図23に示す。W363Frep株、W449Frep株、およびC267Prep株は、親株であるY-94株に比較して、gentiobioseを添加しない場合および添加した場合のいずれにおいても、分解ハロの直径と幅が顕著に拡大しており、セルラーゼの分泌生産能およびセルロースの資化能が顕著に上昇していることが改めて示された。また、W363Frep株、W449Frep株、およびC267Prep株は、親株であるY-94株に比較して、gentiobioseの添加による分解ハロの直径と幅の拡大の程度が増大していることが示された。この結果から、gentiobioseの添加とgh1-2遺伝子におけるこれらの変異の組み合わせにより、セルラーゼの分泌生産が相乗的に向上することが示された。
(7)GH1-2およびBGL3A二重破壊株におけるゲンチオビオースを用いた培養
(7-1)F09ΔGHΔBGL3A株の作製
実施例(4-3)で作製したT. cellulolyticus F09Δgh1-2ΔpyrF株を親株として、以下の手順により、BGL3Aをコードするbgl3A遺伝子を破壊し、F09Δgh1-2Δbgl3A株を作製した。
まず、実施例(5-1)で作製したpUC-bgl3A::pyrFプラスミドを鋳型として、プライマー(配列番号45と46)を用いたPCRにより、bgl3A破壊用DNA断片を増幅し、エタノール沈殿により濃縮および精製した。
次に、F09Δgh1-2ΔpyrF株をPD培地に接種し、30℃で培養を行った。形成されたコロニーの端付近をストローで打ち抜いて得たアガーディスク1個を、24 g/L Potato Dextrose Brothを含む培地に接種し、30℃、220 rpmで2日間旋回培養した。菌体を遠心分離(5000 rpm、5分間)で回収し、10 g/L Yatalase(タカラバイオ)、10 mM KH2PO4、0.8 M NaClを含む水溶液(pH6.0)を30 mL加え、振とうしながら30℃で2時間反応させ、細胞壁を消化しプロトプラスト化した。ガラスフィルターで残渣を除いた後、遠心分離(2000 rpm、10分間)でプロトプラストを回収し、1.2 M Sorbitol、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)にて1 mLに懸濁しプロトプラスト溶液を調製した。200 μLのプロトプラスト溶液に、精製したbgl3A破壊用DNA断片を10μgと、400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を50 μL加え、氷上で30分間放置した。その後さらに1 mLの400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を加えて混合し、室温で15分間放置し形質転換を行った。遠心分離(2000 rpm、10分間)で回収したプロトプラストを、1 M Sucroseを含む最少培地に播種し、30℃で7日間培養することで、Uracil要求性が相補された株を選抜した。出現したコロニーを最少培地に接種し、30℃で4日間培養した後、bgl3A遺伝子がpyrF遺伝子で置換されていることを確認し、F09Δgh1-2Δbgl3A株を得た。
(7-2)GH1-2およびBGL3A二重破壊株のセルラーゼ生産プレートハロアッセイ評価
実施例(1-1)で作製したF09pyrF+株とF09Δgh1-2株、実施例(5-1)で作製したF09Δbgl3A株、および実施例(7-1)で作製したF09Δgh1-2Δbgl3A株を、それぞれ、実施例(1-4)に記載の手順で、CMCを炭素源とする最少培地上と、1 mMのgentiobioseを含むCMCを炭素源とする最少培地上で、5日間生育させた。培養後、50 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)と2 mg/mlのCongo Red(ナカライテスク)を10:1で混合したCongo red溶液をプレート一面に行渡るように加え、室温で30分間静置した。その後、プレート上のCongo red溶液を取り除き、リン酸ナトリウム緩衝液(50 mM, pH 7.0)をプレート一面に行渡るように加えた。再度、室温で30分間静置した後、プレート上のリン酸ナトリウム緩衝液を取り除き、プレート表面を軽く乾燥させ、可視化されたハロの直径と幅を測定した。
結果を図24に示す。二重破壊株であるF09Δgh1-2Δbgl3A株は、F09pyrF+株、F09Δgh1-2株、およびF09Δbgl3A株に比較して、gentiobioseを添加した場合における分解ハロの幅が拡大しており、セルラーゼの分泌生産能が上昇していることが示された。この結果から、gentiobioseの添加とgh1-2遺伝子とbgl3A遺伝子の二重破壊の組み合わせにより、セルラーゼの分泌生産が相乗的に向上することが示された。すなわち、gentiobiose等の発現誘導物質の添加およびGH1-2の活性低下と、BGL3A等の他のβ-glucosidaseの活性低下との組み合わせにより、セルラーゼの分泌生産が相乗的に向上することが示唆された。
(8)異種タンパク質の発現
(8-1)Talaromyces cellulolyticusのyscB遺伝子欠損株F09ΔyscBの構築
Talaromyces cellulolyticus F09株(特開2016-131533)を親株として、以下の手順によりyscB遺伝子(配列番号62)を破壊し、T. cellulolyticus F09ΔyscB株を構築した。
はじめに、T. cellulolyticusのyscB遺伝子の上流領域、ハイグロマイシン耐性遺伝子、T. cellulolyticusのyscB遺伝子下流領域の順に連結された塩基配列を有するyscB遺伝子破壊用DNA断片を以下の手順に従って作成した。
T. cellulolyticus Y-94株(FERM BP-5826)のゲノムDNAを鋳型としてプライマー(配列番号63と64)を用いたPCRによりyscB遺伝子の上流領域を、プライマー(配列番号65と66)を用いたPCRによりyscB遺伝子の下流領域をそれぞれ増幅した。また、ハイグロマイシン耐性遺伝子が搭載されたpcDNA3.1/Hygro(+)(Life Technologies)を鋳型としてプライマー(配列番号67と68)を用いたPCRにより、ハイグロマイシン耐性遺伝子(プロモーターとターミネーターを含む)を増幅した。PCR産物はWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いて精製した。精製したPCR産物をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)によりキット付属のpUCプラスミドに組み込み連結した。反応物でE. coli JM109を形質転換し、LB寒天培地(100 mg/L アンピシリンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させた。得られた形質転換体からWizard Plus Miniprep System(Promega)を用いyscB遺伝子破壊用DNA断片が組み込まれたpUC-yscB::hygプラスミドを得た。pUC-yscB::hygプラスミドを鋳型としてプライマー(配列番号63と66)を用いたPCRによりyscB遺伝子破壊用DNA断片を増幅し、エタノール沈殿により濃縮および精製した。
次に、F09株を12 g/L Potato Dextrose Broth(Difco)、20 g/L Bacto Agar(Difco)を含む培地に接種し、30℃で培養を行った。寒天培地上に形成させたコロニーの端付近をストローで打ち抜いて得たアガーディスク1個を、24 g/L Potato Dextrose Brothを含む培地に接種し、30℃、220 rpmで2日間旋回培養した。菌体を遠心分離(5000 rpm、5分間)で回収し、10g/L Yatalase(タカラバイオ)、10 mM KH2PO4、0.8 M NaClを含む水溶液(pH6.0)を30 mL加え、振とうしながら30℃で2時間反応させ、細胞壁を消化しプロトプラスト化した。ガラスフィルターで残渣を除いた後、遠心分離(2000 rpm、10分間)でプロトプラストを回収し、1.2 M Sorbitol、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)にて1 mLに懸濁しプロトプラスト溶液を調製した。200 μLのプロトプラスト溶液に、精製したyscB破壊用DNA断片を10μgと、400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を50 μL加え、氷上で30分間放置した。その後さらに1 mLの400 g/L PEG4000、10 mM CaCl2を含むTris-HCl緩衝液(pH7.5)を加えて混合し、室温で15分間放置し形質転換を行った。遠心分離(2000 rpm、10分間)で回収したプロトプラストを1 M Sucrose、1 g/L Uracil、1 g/L Uridineを含む最少培地(10 g/L Glucose、10 mM NH4Cl、10 mM KH2PO4、7 mM KCl、2 mM MgSO4、0.06 mg/L H3BO3、0.26 mg/L (NH4)6Mo7O24・4H2O、1 mg/L FeCl3・6H2O、0.4 mg/L CuSO4・5H2O、0.08 mg/L MnCl2、2 mg/L ZnCl2、20g/L Bacto Agar)に播種し、30℃で1日間培養した後、0.5 g/L Hygromycin B、24 g/L Potato Dextrose Broth、7 g/L Bacto Agarを含む培地を重層し、さらに30℃で3日間培養することでハイグロマイシン耐性株を選抜した。出現したコロニーを0.5 g/L Hygromycin Bを含む最少培地に接種し、30℃で4日間培養した後、yscB遺伝子がHygromycin耐性遺伝子で置換されていることを確認し、F09由来yscB破壊株(F09ΔyscB株)を得た。
(8-2)ヒト血清アルブミン(HSA)発現株の構築
T. cellulolyticus F09株およびF09ΔyscB株を親株として、以下の手順によりヒト血清アルブミン(HSA)発現株を構築した。
はじめに、T. cellulolyticusのcreA遺伝子上流領域、T. cellulolyticusのcbh2遺伝子上流領域(cbh2プロモーター;配列番号50)、T. cellulolyticusのcbh1分泌シグナルコード配列(配列番号70)、HSA遺伝子(配列番号71)、T. cellulolyticusのcbh2遺伝子下流領域(cbh2ターミネーター;配列番号72)、T. cellulolyticusのpyrF遺伝子マーカー(配列番号73)、T. cellulolyticusのcreA遺伝子下流領域の順に連結された塩基配列を有するHSA発現用DNA断片を以下の手順に従って作成した。
T. cellulolyticus Y-94株(FERM BP-5826)のゲノムDNAを鋳型としてプライマー(配列番号74と75)を用いたPCRによりcreA遺伝子の上流領域を、プライマー(配列番号76と77)を用いたPCRによりcbh2遺伝子の上流領域を、プライマー(配列番号78と79)を用いたPCRによりcbh1分泌シグナルコード配列を、プライマー(配列番号80と81)を用いたPCRによりcbh2遺伝子の下流領域を、プライマー(配列番号82と83)を用いたPCRによりpyrF遺伝子マーカーを、プライマー(配列番号84と85)を用いたPCRによりcreA遺伝子下流領域をそれぞれ増幅した。また、ユーロフィン株式会社より購入した全合成遺伝子を鋳型としてプライマー(配列番号86と87)を用いたPCRによりHSA遺伝子を増幅した。PCR産物はWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いて精製した。精製したPCR産物を2種類ずつ混合したものを鋳型とし、再度PCRを行い連結することを繰り返した後、In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)によりキット付属のpUCプラスミドに組み込んだ。反応物でE. coli JM109を形質転換し、LB寒天培地(100 mg/L アンピシリンを含む)で37℃一晩培養することでコロニーを形成させた。得られた形質転換体からWizard Plus Miniprep System(Promega)を用いHSA発現用DNA断片が組み込まれたpUC-creA::Pcbh2-HSA-pyrFプラスミドを得た。pUC-creA::Pcbh2-HSA-pyrFプラスミドを鋳型としてプライマー(配列番号76と85)を用いたPCRによりHSA発現用DNA断片を増幅し、エタノール沈殿により濃縮および精製した。なお、HSA発現配列の両端にcreA遺伝子の上流および下流配列を連結することにより、ゲノム上のランダムな位置ではなくcreA遺伝子領域を狙ってHSA発現配列を挿入することを可能にしている。
次に、F09株およびF09ΔyscB株を(8-1)と同様の手法で培養、プロトプラスト化し、精製したHSA発現用DNA断片で(8-1)と同様に形質転換を行った。遠心分離(2000 rpm、10分間)で回収したプロトプラストを1 M Sucroseを含む最少培地に播種し、30℃で7日間培養することでUracil要求性が相補された株を選抜した。出現したコロニーを最少培地に接種し30℃で4日間培養した後、creA遺伝子領域がHSA発現配列で置換されていることを確認し、F09株およびF09ΔyscB株由来HSA発現株を得た。
(8-3)ヒト血清アルブミン(HSA)発現株のgentiobioseを用いた培養
F09ΔyscB株由来HSA発現株を、gentiobioseを添加しつつ培養した際のHSAの分泌生産を確認するため、流加培養を行った。
T. cellulolyticus F09ΔyscB株由来HSA発現株を、PD培地に接種し、30℃で培養を行った。形成されたコロニーの端付近をストローで打ち抜いて得たアガーディスク1個を、20 mL の20 g/L グルコース、24 g/L KH2PO4、5 g/L (NH4)2SO4、2 g/L Urea、1.2 g/L MgSO4・7H2O、0.01 g/L ZnSO4・7H2O、0.01 g/L MnSO4・5H2O、0.01 g/L CuSO4・5H2O、1 g/L Corn steep liquor(C4648, SIGMA)、1 g/L Tween 80を含む液体培地に接種し、30℃、220 rpmで5日間旋回培養にて前培養を行なった。次に、15 mLの前培養液を、ジャーファーメンター中の300 mLの15 g/L グルコース、12 g/L KH2PO4、10 g/L (NH4)2SO4、1.2 g/L MgSO4・7H2O、0.01 g/L ZnSO4・7H2O、0.01 g/L MnSO4・5H2O、0.01 g/L CuSO4・5H2O、5 g/L Corn steep liquor、1 g/L Tween 80、0.5 mL/L ディスホームGD(日油)を含む液体培地に植菌し、培養温度を30℃、通気量を1/2 vvmとし、撹拌により溶存酸素濃度を飽和濃度に対し5%以上に制御し、アンモニアガスを用いて培養pHを5に制御しながら、45時間の流加培養を行った。流加液は培養開始22時間後から連続的に培地中のグルコース濃度が5~10 g/Lの範囲に維持されるように流加した。培養開始45時間後に培養液をサンプリングし、遠心分離(15000 rpmで5分間)して上清を得た。得られた上清を培養上清サンプル溶液とした。流加液は2種類で、組成を表7に示す。
Albumin ELISA Quantitation Kit, Human(Bethyl Laboratories, inc.)を用いELISAによるHSAの定量を行った。その結果、cellobioseを流下した場合より、gentiobioseを流下した場合の方が、HSA分泌生産量が増加していることが確認された(図25)。この結果から、gentiobioseの添加によりゲンチオビオース誘導性プロモーターの制御下による異種タンパク質の分泌生産が向上することが示された。