JP4480921B2 - むだ時間を有するプロセス系に対する離散時間スライディングモード制御装置及び方法 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、むだ時間を有するプロセス系に対する離散時間スライディングモード制御に関する。
【0002】
【従来の技術】
PID制御がプロセス系の制御方法として広く採用されている。一般にプロセス系はむだ時間要素を有するが、PID制御のゲインの調整などにより、そこそこ望ましい制御特性を達成することができる。
【0003】
ここで、従来からPID制御が適用されてきたプロセス系の一例として、半導体製造装置においてウェハの高速冷却に用いられているクーリングプレートを挙げる。図1は、そのようなクーリングプレートの一構造例の大まかな断面図である。
【0004】
図1に示すクーリングプレート1は、内部に冷却水路をもった円板形の水冷板2と、その上に重ねられた、ペルチェ効果を利用して電力で熱を片面から反対面へと移動させる円板形の熱電変換モジュール3と、その上に重ねられた、熱伝導率の良い円板形の表面プレート4とを有する。表面プレート4の上面の数箇所には微小高さのシム6があり、それらのシム6の上に半導体ウェハ5が載置されることになる。シム6は、半導体ウェハ5を表面プレート5から微小高さだけ持ち上げて支えることになる。表面プレート5内には、温度センサ7が埋め込まれている。
【0005】
図1に示すクーリングプレート1は例えば次のように制御される。一定流量で冷却水が水冷板2に流され続ける。このクーリングプレート1上に、(例えば150℃程度の)熱い半導体ウェハ5が載置される。その半導体ウェハ5を高速かつスムーズに目標温度(例えば23℃程度)まで冷却するように、図示しない制御装置が、温度センサ7から表面プレート4の温度をフィードバックし、そのフィードバック値に応じて熱電変換モジュール3の入力電力(又は電流値)を操作し、それにより、表面プレート4の温度を制御する。
【0006】
図2は、上記の制御が目指す、ウェハ5の温度(以下、ウェハ温度という)と表面プレート4の温度(以下、プレート温度という)と熱電変換モジュール3の入力電力(以下、操作量という)の時間的変化の軌跡を示している。図2において、温度値Tcは、ウェハ温度をその目標値に維持するためのプレート温度の目標値である。
【0007】
図2に示すように、ウェハが載置された時点で、まず、最大の操作量-maxで冷却が行われ、ウェハ温度を速やかに降下させる。プレート温度が目標値Tcより所定値Tmだけ低い温度Tc-Tmまで低下した時点で、プレート温度のフィードバックPID制御が開始される。このフィードバックPID制御により、プレート温度は目標値Tcに向かって上昇していき、それに伴い、ウェハ温度はその目標温度に向かって降下していく。そして、プレート温度とウェハ温度は、理想的には図示のようにスムーズに、それぞれの目標温度に到達し整定する。なお、以下の説明では、図2に示すプレート温度の軌跡において、温度Tc-Tmに達した点、つまり、下降から上昇に転じる点を、「折り返し点」と呼ぶ。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上述した従来のクーリングプレート1のPID制御には次のような問題がある。
【0009】
(1) ウェハ冷却整定時間(=図2に示す、ウェハを載置してからウェハ温度が目標温度に整定するまでの時間)を短縮したいという要求がある。例えば、従来はウェハ冷却整定時間に30秒程度かかっているところ、これを20秒未満に短縮したいという要求がある。図2の操作量の軌跡から分かるように、ウェハ冷却整定時間のうち、フィードバックPID制御が利くのは最後の部分だけである。ウェハ冷却整定時間を例えば18秒程度まで短縮したとしたならば、フィードバックPID制御を利かすことができる期間は最後のわずか数秒間程度になる。よって、この数秒間という短時間に制御量を確実に目標値に整定させる制御能力が必要になる。そのためには、プロセス系のもつむだ時間をきちんと考慮した制御系を設計が必要である。しかし、従来のPID制御系の設計では、むだ時間は曖昧に取り扱われている。よって、上述の要求を満たすことは難しい。
【0010】
(2) 図1に示したクーリングプレート1に流れる冷却水の温度は、例えば15℃〜30℃位の範囲で変動する。この冷却水温の変動により、このクーリングプレート1のシステムパラメータが大きく変動する。システムパラメータが変わった場合、PID制御では、制御パラメータを調整しない限り、制御特性が悪化してしまう。例えば、冷却水温が高くなると、プレート温度軌跡にオーバーシュートが現れ、逆に低くなるとアンダーシュートが現れてしまう。そこで、制御パラメータを調整することなしにシステムパラメータの変動に対応できるというロバスト安定性、及び、常に希望の制御軌跡にきちんと拘束させ得るという適応制御性において、より優れた制御系が望まれている。従来、ロバスト安定性と適応制御性に優れた制御手法の一つとして、スライディングモード制御が知られている。しかし、スライディングモード制御においても、上記(1)で述べたようなむだ時間を正面から取り扱った制御は従来知られていない。
【0011】
(3) ウェハの初期温度も、例えば70℃〜150℃位の範囲で変動する。つまり、大きさの異なる初期外乱が存在する。図2を参照して説明した従来の制御では、プレート温度が折り返し点(温度Tc-Tmの点)に達した時点でフィードバックPID制御を開始している。つまり、それ以前におけるウェハの初期温度の影響は何も考慮していない。そのため、ウェハの初期温度が違えば、プレート温度が折り返し点に到達するまでの時間が変わってしまい、よって、ウェハ冷却整定時間が変わってしまう。このように、従来の制御は、初期外乱に対する適応制御性の面でも問題がある。
【0012】
(4) 図1に例示したクーリングプレート1は、1入力1出力系である。しかし、プレートの表面領域が複数のゾーンに分割されていて、各ゾーンごとに動特性及び外部からの熱外乱の大きさが異なり、各ゾーンごとに別の制御系を適用する必要があるような、多入力多出力系のクーリングプレートが存在する。このような多入力多出力系の制御において、制御パラメータの調整なしに、全ての出力を均しく制御できるような制御系も望まれている。
【0013】
従って、本発明の目的は、むだ時間を有するプロセス系に対する、ロバスト安定性及び適応制御性に優れた離散時間スライディングモード制御系を提供することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、多入力多出力のプロセス系に対する、制御パラメータの調整なしに、全ての出力をできるだけ均しく制御できるような制御系を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の観点に従う制御装置は、制御対象を表した線形の伝達関数のモデルに対して設計された離散時間スライディングモード制御装置であって、そのモデルは、制御対象の持つむだ時間要素を線形近似した線形近似式を含んでいる。そして、この離散時間スライディングモード制御装置は、制御対象の入力と出力から前記モデルの状態変数と外乱を推定する外乱オブザーバと、与えられた目標値と制御対象の出力と前記外乱オブザーバからの状態変数の推定値とに基づいて、制御対象への制御入力を演算するスライディングモード演算部とを備える。この制御装置は、むだ時間を有するプロセス系に対して、ロバスト安定性と適応性制御性に優れた制御を行うことができる。
【0016】
制御入力の演算では、目標値と制御対象の出力との偏差を積分した積分値が用いられる。好適な実施形態では、制御対象の出力に基づいて上記積分値についての安定値を計算して、プロセス中の所定の時点で上記積分値を前記安定値に設定することにより、高速な制御が計られる。
【0017】
また、好適な実施形態は、プロセス中に、外乱オブザーバからの外乱の推定値の履歴に基づいて、目標値を最適化するオンライン最適化機構を更に備える。これにより、外乱に対する適応制御性を向上する。
【0018】
また、好適な実施形態は、外乱オブザーバが、むだ時間を線形近似することによる近似差を演算する近似誤差システムを有し、その近似誤差と前記制御対象の出力とに基づいて状態変数及び外乱を推定する。これにより、近似誤差に起因するチャタリングなどが抑制され、ロバスト安定性が向上する。
【0019】
好適な実施形態では、外乱オブザーバは、所定の最適極配置アルゴリズムによって定められたゲインを持つ。
【0020】
本発明の制御装置は、1自由度の非常にシンプルな制御構造であり、また演算負荷も小さいにもかかわらず、従来法と比較して、目標値応答特性を大幅に改善することができる。
【0021】
本発明の第2の観点に従う制御装置は、多入力多出力のプロセス系に対するものであり、その多入力多出力系を構成する複数の単入出力系の中から選ばれた1つの基準系を表したモデルに対して設計された離散時間スライディングモード制御装置と、基準系以外の他の各系を表したモデルに対して設計された離散時間スライディングモード制御装置とを備える。そして、他の各系に対する離散時間スライディングモード制御装置は、上記基準系のモデルを規範モデルとするモデル規範形の制御装置として構成されている。
【0022】
本発明の第3の観点に従うオブザーバ設計方法は、制御対象を表した線形の伝達関数のモデルであって、制御対象の持つむだ時間要素を線形近似した線形近似式を含んだモデルの状態変数と外乱を、制御対象の入力と出力から推定する外乱オブザーバの極(例えば後述の最適極)を所定の最適極配置アルゴリズムを用いて算出するステップと、算出した極を用いて外乱オブザーバのゲインを定めるステップとを有する。
【0023】
本発明の第4の観点に従うコンピュータプログラムは、制御対象を表した線形の伝達関数のモデルであって、制御対象の持つむだ時間要素を線形近似した線形近似式を含んだモデルの状態変数と外乱を、制御対象の入力と出力から推定する外乱オブザーバの極(例えば後述の最適極)を算出する算出ステップをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムである。
【0024】
好適な実施形態では、上記算出ステップは、外乱オブザーバの推定速度の制限の観点から作成された条件を基に上記極を算出する。
【0025】
また、好適な実施形態では、上記コンピュータプログラムは、算出した極を用いて外乱オブザーバのゲインを定めるステップを更にコンピュータに実行させる。
【0026】
本発明の制御装置は、専用ハードウェア、プログラムされたコンピュータ、又はそれらの組み合わせのいずれによっても実現することができる。
【0027】
【発明の実施の形態】
A. 第1の実施形態
図1に示した構造をもつクーリングプレート1の温度制御に適用した本発明の一実施形態について説明する。
【0028】
A.0 制御系の設計仕様
本実施形態が目指した設計仕様は、一例として下記の通りである。
【0029】
1) ウェハを150→23[℃]に冷却、ウェハ面内の温度分布±0.2[℃]、冷却水温=25[℃]の条件下で、ウェハ冷却整定時間を18[s]以内とする。因みに、従来のPID制御の製品では、同条件下でのウェハ冷却整定時間は30秒近くである。
【0030】
2) 水温の変動幅15〜30[℃](時変系;静特性および動特性が大きく変動)に対して、適応性・ロバスト性を確立し、制御パラメータの調整なしに上記1)と同等の冷却性能を実現する。因みに、従来のPID制御の製品では、ウェハ冷却整定時間は25〜35[s](製品のバラツキ含む)程度の範囲で大きく変動する。
【0031】
3) ウェハ初期温度の変動幅70〜150[℃](大きさの異なる外乱)に対して、適応性を確立し、制御パラメータの調整なしに上記1)と同様の冷却整定時間を実現する。
【0032】
A.1 制御対象システムのモデリング
図1に示した構造における熱電変換モジュール3の動特性は大きな非線形性を有し、物理モデルの作成が困難である。そこで、ここでは、他のプロセス系に対する汎用制御機器への応用も考えて、システムを下記(1)式に示すような「一次遅れ+むだ時間」で近似し、そのシステムパラメータを閉ループ遂次最小2乗法により推定する。
【0033】
A.1.1 パラメータ遂次推定
【数1】
【0034】
まず、(1)式をサンプリング間隔Tsで離散化した次の(2)式を考える。
【数2】
ここで、kは離散時間系におけるむだ時間を示しており、L>kTsを満足する最大整数を表す。
【0035】
さらに、(2)式に対応した次の(3)式を考える。
【数3】
ここで、kmはむだ時間の最小推定値を示しており、mとkmはkm<k<km+mを満足するように設定する。次に、(3)式におけるパラメータ
【数4】
を以下の遂次最小2乗法により推定する。
【0036】
【数5】
ここで、ωは忘却係数で、0<ω<1として与える。ε(t)は予測誤差信号を示している。また、
【数6】
は未知パラメータθの推定値である。ψ(t−1)はデータベクトルであり、次式により与えられる。
【数7】
【0037】
このとき、前記数4に示したシステムパラメータの推定値を用いると、プロセスゲイン
【数8】
、時定数
【数9】
およびむだ時間
【数10】
は次式により計算できる。
【0038】
【数11】
【0039】
A.1.2 設計用モデル
図1の構造をもつ或る具体的なクーリングプレートについて、その動作点(23[℃]/平衡点;25[℃])近傍でのステップ応答(目標温度を22℃から28℃へステップ上昇、及び28℃から22℃へステップ降下)について比例制御(P=13.0[%/℃])を施した実験結果をベースにして、上記の遂次パラメータ推定を実際に行った。その結果、プロセスゲイン、時定数およびむだ時間の大きな変動が存在することがわかったが、このパラメータ推定結果に関して目標温度をステップ変更した時からプレート温度が整定するまでの区間の値を平均すると以下のようになった。
【0040】
【数12】
【0041】
よって、平均的に動作点近傍の制御対象は次の(10)式のように表される。
【0042】
【数13】
【0043】
さらに、設計用モデルとして(10)式のむだ時間要素に一次のパディ近似を適用した次の(11)式を考える。
【0044】
【数14】
【0045】
次に、(11)式を状態方程式と出力方程式の対に書き換えると次の(12)式になる。
【0046】
【数15】
【0047】
(12)式は、正準系への座標変換xa=Txによって次の(13)式のようになる。
【0048】
【数16】
【0049】
(13)式は連続時間系であるので、サンプリング間隔h=0.05[s]で離散時間系に変換すると次の(14)式のようになる。ただし、系の不確かさd(k)を含む。ここで、kは、(前述の(2)式などに示した連続時間系における無駄時間ではなく)時間t=Khを満足する値である
【数17】
【0050】
また、上記プレート温度y≡Tpに対して、ウェハ温度の動特性は、次の(15)式で表される。
【数18】
ここで、Cwはウェハの熱容量、αwはプレート/ウェハ間の等価熱伝達率、Swはプレート/ウェハ間の等価熱伝達面積、α∞は大気への熱伝達率、T∞は大気温度である。また、λは外乱を入力uと同様の単位に換算する係数、αcは水冷板への熱伝達率、Scは水冷板への熱伝達面積、Tcは冷却水温である。
【0051】
(15)式において、ウェハからの熱外乱dwおよび時変の水冷板への放熱・吸熱dcは、下記(16)式の定義により、マッチング条件を満たす。
【数19】
ここで、Hmaxは所定の上限値である。
【0052】
A.2 制御系設計
非線形、パラメータ変動、時変、未知外乱を有する系に対して、スライディングモード制御と外乱推定オブザーバを併用した制御系を以下のように構築する。
【0053】
A.2.1 サーボ系の離散時間スライディングモード制御
まず、(14)式において、1型のサーボ系を設計する必要がある。そこにおいて、(14)式の状態変数に目標値rと出力yとの差の積分値zを付加した拡大系を用いる。観測できない状態変数は外乱推定オブザーバによる推定値を用いる。
【数20】
ここで、σ(k)は切換関数である。
【0054】
A.2.1.1 等価制御系の設計
離散時間系のスライディングモードにおいては、σ(k)=σ(k+1)=σ(k+1)=…から、等価制御入力ueq(k)は外乱を考慮しないとすれば、
【数21】
となり、等価制御系は次式で表される。
【数22】
【0055】
A.2.1.2 超平面の設計
切換え行列Sの決定には、安定余有(等価制御系の固有値の実部が−ε以下)を指定する設計法を適用する。すなわち、次の離散系代数リカッチ方程式の解Pを用いて超平面の切換え行列Sを決定する。
【数23】
【0056】
ここでは、Q=I、ε=0.075とし、設計されたSによる等価制御系の固有値は以下となる。
【数24】
【0057】
A.2.1.3 スライディングモードコントローラの設計
制御入力uは、次の(22)式のように、線形制御入力ulと非線形制御入力unlの2つから構成される。
【数25】
ここで、線形制御入力ulは前述の等価制御入力ueqとする。β(k)は、非線形制御入力のうちの外乱抑圧項である。
【0058】
ここで、外乱の影響を考える。(17)式のサーボシステムに対して、マッチング条件を満たす外乱が次のように入るとする。
【数26】
【0059】
このとき、β(k)≡0とすると状態の切換面からの偏差は次の(24)式
【数27】
の関係を持つ。(24)式の
【数28】
がほぼ一定とみなせる場合には、0<η<2ならば
【数29】
となる。よって、ηは安定な範囲で大きくすれば、定常偏差は減少する。また、一般にサンプリング周期を十分小さくしていくと、Γの要素も比較的小さくなることから、定常偏差も小さくなり、外乱に対してロバストになる。
【0060】
A.2.2 離散時間外乱推定オブザーバの構成
前述の(14)式において、外乱推定オブザーバを構成する。この外乱推定オブザーバの目的は、ウェハからの熱外乱および冷却水温の変動を入力に重畳した外乱として推定し、外乱の熱履歴を考慮した状態を推定・フィードバックすることである。
【数30】
【0061】
オブザーバゲインGは、シミュレーションにおいて試行錯誤的に極配置を行なて、例えば以下とする。
【数31】
【0062】
A.2.3 ブロック線図
図3に、以上のようにして設計された最終的な離散時間スライディングモードコントローラのブロック線図を示す。
【0063】
図3において、ブロック11は、制御対象システム(この実施形態では図1に示したクーリングプレート1)を示す。外乱オブザーバ12は、制御対象11の出力y(図1のセンサ7で検出されたプレート温度)を入力して、上述の(26)式に従い、システムの状態(状態変数x1,x2と外乱d)を推定し、その推定値
【数32】
を出力する。スーパバイザ13は、後述するように、サーボ系積分値z(k)の安定値を供給する機構とプレート温度軌跡をオンラインで最適化する機構とを有し、制御対象システムの出力(プレート温度)yと外乱オブザーバ2からの外乱(d)推定値とを入力して、z(k)の安定値と最適化されたプレート温度の目標値rとを出力する。
【0064】
ブロック14〜23は、前述の(22)式等に基づくスライディングモードコントローラである。ブロック15は積分器であり、差分器14からプレート温度目標値rとプレート温度yとの偏差を入力して、その積分値z(k)を出力する。ブロック16はベクトル化器であり、積分器15からの積分値z(k)と、外乱オブザーバ12からの状態変数x1,x2の推定値とをベクトル化して(つまり、前述の(17)式における切換関数σ(k)を計算するためのベクトルxs(k)を生成して)出力する。ブロック17は、前述の(21)式に示した切り換え行列Sとの乗算器であり、(17)式に示したように、切り換え行列Sにベクトル化器16からのベクトルxs(k)を乗じて切換関数σ(k)の値を求める。ブロック18は平滑関数であり、(22)式に示した非線形制御項のうちの||σ(k)||・sgn[σ(k)]に実質的に相当する値を計算する。ブロック19は、平滑関数8の計算値を入力して、(22)式に示した非線形制御項unl(k)を計算する。ここでは、(22)式の非線形制御項unl(k)内の外乱抑圧項β(k)は、β(k)≡0としている。ブロック20〜22は、(22)式の線形制御項ul(k)を計算する。ブロック23にて、(22)式の制御入力u(k)=ul(k)+unl(k)が求まる。
【0065】
A.2.4 高速冷却制御のためのサーボ系積分値z(k)の安定化機構
図3に示した制御ブロック線図において、スーパバイザ13は、前述したように、サーボ系積分値z(k)の安定値を積分器5に供給する機構を有する。前述のように積分器15は、差分器14から入力されるプレート温度目標値rとプレート温度yとの偏差を積分するが、プレート温度yが図2に示した温度Tc-Tmに達した時点で、積分値(z)を、スーパバイザ13から供給されるz(k)の安定値に強制的に設定する。それにより、ハンチング現象の生じない高速冷却制御が達成される。
【0066】
図4は、このスーパバイザ13がもつサーボ系積分値z(k)の安定値供給機構の動作の流れを示す。
【0067】
図4に示すように、プレート温度yが図2に示したウェハの冷却目標温度Tc(例えば23℃)より例えば0.2℃以上高くはないときには(ステップS1でYes)、この機構は、プレート温度yが冷却目標温度Tcに整定しているとみなし、プレート温度の目標値r(k)を冷却目標温度Tcから平衡点の温度25℃を差し引いた値に設定する(ステップS2)。なお、コントローラは、目標値r(k)の原点を平衡点温度25℃にしているので、ステップS2は、目標値r(k)を冷却目標温度Tcに設定することを実質的に意味する。
【0068】
プレート温度yが図2に示した(ウェハの)冷却目標温度Tc(例えば23℃)より例えば0.2℃以上高くなると(ステップS1でNo)、この機構は、クーリングプレート上にウェハが載置されたとみなし、プレート温度の目標値r(k)を図2に示した折り返し点の温度(つまり、冷却目標温度Tcから平衡点温度25℃を差し引いた値から更に所定温度Tmを差し引いた値)に設定する(ステップS3)。その後、プレート温度がその折り返し点に達した時点で(ステップS4でYes)、この機構は、ステップS5へ進み、z(k)の安定値として
z(k)=-(S2/S1)×(r(k)/Ω01)-0.65 (28)
を計算して、この値を図3に示すように積分器15に出力する。(28)式で、右辺の第1項は、プレート温度yが初めからずっと上記設定値Tc-Tmであったと仮定したときの積分値z(k)の値であり、その内のS1 、S2は(21)式に示した切り換え行列Sの最初と2番目の要素値であり、Ω01は前述の(26)式における
【数33】
の行列の1番目(左端)の要素値である。(28)式の右辺の第2項である-0.65は、制御をより安定化させるために、プレート温度が上記設定値Tc-Tmよりも更に若干低かったように修正を加える役目をする調整値である。
【0069】
A.2.5 ウェハ温度の最短時間冷却整定のためのプレート温度軌跡オンライン最適化機構
図3に示したスーパバイザ13は、また、前述したように、プレート温度軌跡をオンラインで最適化する機構を有する。すなわち、スーパバイザ13のこの最適化機構は、冷却水温(水冷板からの熱外乱)およびウェハ初期温度(ウェハからの熱外乱)の変動に応じて、ウェハ温度を最短時間で冷却目標温度に整定させるための最適なプレート温度軌跡を、プロセス中にオンラインで決定する。より具体的には、この機構は、図3に示した外乱推定オブザーバ12で推定される熱外乱d(k)の履歴を、水冷板からの熱外乱dc(k)とウェハからの熱外乱dw(k)に分離し、それぞれに対して、図5に示す手順で、三次元的に最適なプレート温度軌跡(つまり、図2に示す折り返し点を決める温度Tmの最適値)を決定する。これにより、冷却水温やウェハ初期温度の変動による図2に示したウェハ温度の最短時間冷却整定が実現できる。
【0070】
図5に示すように、この最適化機構は、初期に、温度Tm(以下、「折り返し点の高さ」という)を所定のデフォルト値に設定する(例えば、1.5℃)(ステップS11)。その後、プレート温度が図2に示したウェハの冷却目標温度Tc(例えば23℃)より例えば0.2℃以上高くはないとき(ステップS12でNo)であって、且つ、プレート温度が定常状態にある(ステップS13でYes)ときには、この機構は、現在の状態を、前回のウェハ冷却プロセスでプレート温度が定常状態になってから次の新ウェハが載置されるまでの間の状態であるとみなし、このときには、水冷板からの熱外乱dc(k)を、外乱オブザーバにより推定された熱外乱d(k)の平均値として算出する(ステップS14)。その後、プレート温度はまだ冷却目標温度Tc(例えば23℃)より0.2℃以上高くはなっていない(ステップS12でNo)が、プレート温度が定常状態ではなくなったなった(ステップS13でNo)ならば、この機構は、現在の状態を、新しいウェハがクーリングプレートに載置された当初で、まだウェハからの熱外乱の影響がプレート温度に現れていないときであるとみなし、このときには、水冷板からの熱外乱dc(k)を、その直前の最後の上記ステップS14で決定された水冷板からの熱外乱dc(k)の値に設定する(ステップS15)。
【0071】
その後、プレート温度が冷却目標温度Tc(例えば23℃)より0.2℃以上高くなると(ステップS12でYes)、この機構は、現在の状態を、クーリングプレート上に新しいウェハが載置され、そのウェハからの熱外乱の影響がプレート温度に現れ出した後の状態であるとみなし、このときには、ウェハからの熱外乱dw(k)を、今まで推定された熱外乱d(k)の最大値に設定する(ステップS16)。そして、この機構は、ステップS17へ進み、所定の計算式を使って、ウェハからの熱外乱dw(k)の現在の設定値と水冷板からの熱外乱dc(k)の現在の設定値とに基づいて、所定の計算式を使って、折り返し点の高さTmを計算する。
【0072】
ステップS17で使う計算式は、シミュレーションおよび実験により試行錯誤的に決定されたものであり、例えば、次の(29)式に示すようなものである。
【数34】
【0073】
ウェハが載置されてからプレート温度が折り返し点に達するまで(ステップS18でNoとなっている間)、上記ステップS17で計算した折り返し点の高さTmを維持する。プレート温度が折り返し点に達すると(ステップS18でYes)、最初のステップS11に戻って、折り返し点の高さTmをデフォルト値にする。
【0074】
A.3 実験結果
上述のスライディングモードコントローラを用いて、その性能を実験的に調べた。この実験は、ウェハ冷却目標温度を23.0[℃]とし、ウェハ初期温度を70〜180[℃]の範囲で、冷却水温を15〜30[℃]の範囲でそれぞれ変化させて、ウェハ面内の17点の温度を計測することにより、ウェハ面内温度分布を含めたウェハ冷却整定時間(ウェハ載置から、ウェハ面内温度分布の平均値が23.00±0.05[℃]の範囲内になるまでの時間)を測定した。その結果を次の表1に示す。
【表1】
【0075】
この表から、ウェハ面内温度分布の平均値で評価した場合、上記のコントローラにより、この実施形態の説明の最初に示した制御系設計仕様をほぼ満足していることがわかる。
【0076】
以上のように、むだ時間を有するプロセス系に対して適応性・ロバスト性を有する本発明に従うスライディングモードコントローラを半導体製造装置用クーリングプレートに応用した本実施形態によれば、冷却水温およびウェハ初期温度が変化し動特性が大きく変化する場合においても、制御パラメータの調整を行うことなしに、希望の仕様をほぼ満足する短いウェハ冷却整定時間を実現することができる。
【0077】
B. 第2の実施形態
上述した第1の実施形態は1入力1出力系のクーリングプレートに本発明を適用したものであるが、この第2の実施形態は多入力多出力系のクーリングプレートに本発明を適用したものである。図6は、この第2の実施形態における多入力多出力系のクーリングプレートの大まかな断面構造(中心から片側のみ)を示す。
【0078】
図6に示すクーリングプレート100は、円形の平面形状を有し(図中の左端が中心位置)、その平面領域は複数のゾーン、例えば3つのゾーンZ1〜Z3に分かれている(勿論、2ゾーンでも、4以上のゾーンでもよい)。例えば、第1ゾーンZ1は中央の円形ゾーンであり、第2ゾーンZ2は第1ゾーンZ1を包囲するドーナツ形ゾーンであり、第3ゾーンZ3は第2ゾーンZ2を包囲する最も外側のドーナツ形ゾーンである。これらのゾーンZ1〜Z3には、電気回路的に互いに独立した熱電変換モジュール3-1〜3-3と、プレート温度を検出する温度センサ7-1〜7-3がそれぞれ設けられている。
【0079】
B.0 制御系設計仕様
図6に示したゾーン分割された多入出力系(ゾーンごとに、動特性および外部からの熱外乱dz1〜dz3が異なる)に対して、制御パラメータの調整なしに、各ゾーンの軌跡(昇降温軌跡、負荷変動軌跡等)を同一にする。ただし、制御対象たるクーリングプレート100は、ゾーン間の相互干渉が無視できるように設計されているとする。また、温度制御の場合、上記仕様から、3つのゾーンのプレート温度が等しい(Tz1=Tz2= Tz3)ならば、他のゾーンからの熱外乱はゼロ(dz12=dz23= dz13=0)とみなすことができる。
【0080】
B.1 積分形超平面を付加したモデル規範形適応制御系の構成
図6に示した複数のゾーンZ1〜Z3のうち1つのゾーンを基準ゾーンとする。基準ゾーンに対しては、第1の実施形態と同様の離散時間スライディングモード制御系を構築して、これを適用する。その他のゾーンに対しては、以下に詳述するようにして、基準ゾーンを規範モデルとする状態誤差システムを作成し、離散時間スライディングモードモデル規範形適応制御系を構築して、これを適用する。このモデル規範形適応制御系の構築では、定常誤差を消去するために、対象モデルと規範モデルの状態誤差の積分項を、超平面に加えて設計する。
【0081】
B.2 制御系設計
B.2.1 基本設計
対象システム(基準ゾーン以外のゾーン)は、次の(30)式の離散時間系の状態方程式と出力方程式で表す。
【数35】
【0082】
一方、規範モデル(基準ゾーン)は、次の(31)式の状態方程式と出力方程式で表す。
【数36】
【0083】
(30)、(31)式に対して、状態誤差システムを作成するため、以下の(32)式の変換をおこなう。
【数37】
【0084】
ここで、Ωm1Xm1=Ω1X1, Ωm2Xm2=Ω2X2,…を仮定すると、
【数38】
となる。これより、対象システムの状態変数x(k)と規範モデルの状態変数xm(k)は、正則行列Tによって、
【数39】
の関係にある。ただし、この線形変換によって、特性方程式も伝達関数行列も不変である。
【0085】
ここで、対象システムの(30)式を(34)式を用いて変換すると、新たな状態変数x’(k)で表された次の(35)式に示す対象システムが作成される。
【数40】
【0086】
具体的にxi,xmi;i=1,2すると、以下のようになる。
【数41】
【0087】
よって、状態の誤差は、次の(37)式のように定義される。
【数42】
【0088】
これより、状態誤差システムは、次の(38)式のように表される。
【数43】
【0089】
ここで、対象システムと規範モデルの状態誤差の積分項を付加した誤差空間での切換超平面は、サンプリング間隔をh[s]とすると、
【数44】
で与えられる。σ(k)=σ(k+1)=…より、
【数45】
であるから、行列SΓ’は正則行列とすると、等価入力は、以下のようになる。
【数46】
【0090】
また、スライディングモードコントローラは、次の(42)式で示すようになる。
【数47】
【0091】
B.2.2 ブロック線図
図7に、本実施形態の制御ブロック線図を示す。図7において、ブロック200は、基準ゾーン(規範モデル)の離散時間スライディングモードコントローラであり、図3に示したものと同じ構成である。ブロック300は、基準ゾーン以外のゾーンの離散時間スライディングモードモデル規範形適応コントローラであり、上述の(42)式で表されたものである。
【0092】
この離散時間スライディングモードモデル規範形適応コントローラ300において、ブロック60〜66は(42)式に示す線形制御入力ulfを生成する部分であり、ブロック54〜59が(42)式に示す非線形制御入力unlfを生成する部分である。
【0093】
B.2.3 3ゾーンをもつクーリングプレートへの適用
上述の制御系を、図6に示した3ゾーンに分割され、各ゾーンごとに動特性および外部からの熱外乱が異なる具体的なクーリングプレート100に適用する。図8に、このクーリングプレート100を用いたウェハ冷却プロセスにおけるプレートの理想的な温度軌跡を示す。ここで、中央の第1ゾーンZ1を基準ゾーンとする。図8に示すように、第2ゾーンZ2は、ウェハからの熱外乱特性が中央の第1ゾーンZ1に類似しているので、第1ゾーンZ1に類似した制御軌跡をとることになる。最も外側の第3ゾーンZ3は、エッジ効果によって、熱外乱による温度上昇が小さくなる。
【0094】
B.2.3.1 モデリング
クーリングプレート100は、前述したように、ゾーン間の相互干渉が無視できるように設計されているとする。また、図8に示したように、各ゾーンのプレート温度を等しくする(Tz1=Tz2=Tz3)ことを制御目的とするので、他ゾーンからの熱外乱dz12=dz23=dz13=0と考えることができる。よって、各ゾーンを単入出力システムとしてみなして各ゾーンの動特性を同定し、その結果は、第1〜第3ゾーンZ1〜Z3の動特性はそれぞれ例えば次の(43)〜(45)式のように与えられる。
【数48】
【0095】
また、各ゾーンZ1〜Z3に与えるウェハからの熱外乱dz1〜dz3の大きさも、第1実施形態の(15)式におけるdwの熱伝達係数λαwSwに対して、第1ゾーンZ1のそれは例えば4.14[%/℃]、第2ゾーンZ2のそれは例えば3.70[%/℃]、第3ゾーンZ3のそれは例えば2.00[%/℃]というように、ゾーンごとに異なる。
【0096】
2.3.2 制御系設計パラメータ
基準ゾーンである第1ゾーンZ1のコントローラは、第1実施形態と同様の方法で設計する(ただし、超平面の設計は、オーバーシュート波形を得るために、極配置法を用いる)。一方、第2と第3のゾーンZ2、Z3のコントローラは、この第2実施形態の上述の項目2.で説明した方法で行う。それぞれの設計パラメータおよび制御入力は例えば以下のようである。
【0097】
第1ゾーンZ1の設計パラメータおよび制御入力は、例えば、
【数49】
のようになる。
【0098】
第2ゾーンZ2の設計パラメータおよび制御入力は、例えば、
【数50】
のようになる。
【0099】
第3ゾーンZ3の設計パラメータおよび制御入力は、例えば、
【数51】
のようになる。
【0100】
B.2.3.3 第2、第3ゾーンのスーパバイザ
第3ゾーンZ3に関して、ウェハからの熱外乱が第1のゾーン(基準ゾーン)Z1に比べて非常に小さく、温度上昇が小さいため、ウェハ載置直後には状態誤差e(k)が過大になる。これにより、ウェハ載置直後の第3ゾーンZ3の操作量が過大(消費電力も増加)になってしまう。よって、第3ゾーンZ3に対しては、以下のようなスーパバイザを適用することが望ましい。
【数52】
また、第2ゾーンZ2ついても、同様のスーパバイザを適用することができる。
【0101】
B.3 実験
以上の設計パラメータをもったコントローラを用いて(上述の第2、第3ゾーンのスーパバイザも組み込んで)、実験を行った結果を図9に示す。この実験では、ウェハ初期温度を150[℃]、冷却水温を25[℃](流量3.0[l/min])とした。そして、ウェハ面内の17点の温度及びプレートの3ゾーンの温度を計測することにより、ウェハ面内温度分布を含めた整定時間を測定した(ウェハ冷却目標温度は23.0[℃])。図9から、ウェハからの大きな熱外乱により生じるプレートの温度分布が、プロセス中に速やかに解消されていることがわかった。また、図9には示してないが、ウェハ面内温度分布も目標温度23。0[℃]に到達する以前に±0。2[℃]以下に収束していた。また、ウェハ初期温度を40[℃]、冷却水温を25[℃](流量3.0[l/min])として実験をおこなった場合も、図9に示したと同様の良好な結果が得られた。
【0102】
以上のように、相互干渉の少ない多入出力系である半導体製造装置用クーリングプレートに本発明を適用したこの第2の実施形態によれば、各ゾーンの動特性の違いおよび各ゾーンに加わる熱外乱の大きさの違いに対して、制御パラメータの調整をおこなうことなしに、各ゾーン間の温度分布を速やかに十分小さい値に収束させることが可能である。
【0103】
C. 第3の実施形態
第1及び第2の実施形態では、むだ時間をパディ近似にてモデル化し、これに対して、離散時間スライディングモード制御系を構成している。しかし、この手法では、パディ近似によるマッチング条件を満足しないモデル化誤差のために、ロバスト性をさらに向上させることができない(チャタリングが生じてしまう)。そこで、この第3の実施形態では、パディ近似誤差を補償した本発明に従う制御系設計手法を採用し、ロバスト性の更なる向上を図る。具体的には、以下に説明するパディ近似誤差補償形外乱オブザーバを併用して、制御系設計を行う。
【0104】
C.1 パディ近似誤差補償形外乱オブザーバ
パディ近似モデルをサンプリング間隔h[s]にて離散時間系に変換した第1実施形態の(14)式において、出力方程式にパディ近似誤差epd(k)を付加した外乱オブザーバを構成すると、
【数53】
となる。ここで、epd(k)はパディ近似誤差システムの出力として、次の(59)式のように表される。
【数54】
ここで、
【数55】
は制御対象システム(第1実施形態の(1)式)を離散時間系に変換することにより得られる。
【0105】
図10にパディ近似誤差補償形外乱オブザーバの構成を示す。図10において、ブロック400が上記(58)式で示したパディ近似誤差補償形外乱オブザーバであり、その中のブロック80が上記(59)式で示したパディ近似誤差システムである。このパディ近似誤差システム80で計算された近似誤差epd(k)と制御対象11の出力Y(k)に基づいて、上記の(58)式に従って図示のように状態変数x1、x2及び外乱dが推定される。
【0106】
C.2 スライディングモード制御系設計
第1実施形態で述べた(3)式から、第1実施形態と同様の手法でスライディングモードコントローラの設計をおこなう。ここで注目すべき点は、スライディングモード制御は、線形制御とは根本的に異なり、通常の状態方程式と出力方程式の対
【数56】
からなる状態空間モデルに代わって、状態方程式と切換関数の対
【数57】
からなるモデルとして表されるため、「出力方程式においてパディ近似誤差を補償する提案手法は、スライディングモード制御系の構成には、全く影響を与えない」ことである。
【0107】
設計パラメータおよび制御入力は次の(60)〜(62)式に示す通りである。ただし、切換超平面の設計は、希望の過渡応答特性を得るために極配置法を用いている。
【数58】
【0108】
C.3 シミュレーション
この第3の実施形態(パディ近似誤差補償形外乱オブザーバを用いたスライディングモードコントローラ)と第1の実施形態(パディ近似誤差補償機能をもたない外乱オブザーバを併用したスライディングモードコントローラ)について、ステップ状の目標入力rとステップ状の外乱dを与えてシミュレーションを行った。外乱抑圧項β(k)はいづれもβ(k)≡0とした。両コントローラのシミュレーション結果の比較を表2に示す。
【表2】
【0109】
表2から分かるように、パディ近似誤差補償形外乱オブザーバを用いることでロバスト安定性が一層向上する。
【0110】
D. 第4の実施形態
第3の実施形態で用いたパディ近似誤差システム(パディ近似誤差補償)を実プロセスに適応した場合、分布定数系であるプロセスを集中定数のむだ時間システムにて近似したことによるモデル化誤差によって、必ずしも十分に良好な性能が得られない。そこで、この第4の実施形態では、パディ近似誤差システムに用いる実プロセス表現を、むだ時間の有限次元近似を用いたモデルに変更する(つまり、パディ近似誤差補償だけを、「一次遅れ+むだ時間」ではなく、有限次元近似を用いて行う)。これにより、プロセスをより精度良く表現できる。
【0111】
具体的には以下の通りである。
【0112】
すなわち、第3の実施形態における(59)式のyreal(k)を、むだ時間の有限次元近似した表現にする。むだ時間の有限次元近似は、以下のようである。
【数59】
【0113】
また、上記(63)式を状態方程式に変換し、サンプリング間隔h[s]で離散化することにより、
【数60】
が得られる。新たなパディ近似誤差システムは、
【数61】
となる。
【0114】
E. 第5の実施形態
上述した第1の実施形態では、既述のように、オブザーバゲインGは、シミュレーションにおいて試行錯誤的に極配置を行う。これは、第3の実施形態でも同様である。
【0115】
そこで、この第5の実施形態では、以下に説明するように、最適極配置アルゴリズムにより、外乱推定オブザーバの適切な(実質的に最適な)極を求め、それにより、オブザーバゲインGを求めることが可能である。
【0116】
E.1 制御系設計
スライディングモード制御とオブザーバを併用した制御系を構成するが、制御対象(例えば(1)式のように与えられるもの)には、第1の実施形態の説明からわかるように、パラメータの不確かさが含まれているため、通常のオブザーバではなく、不確かさを外乱とみなす外乱推定オブザーバを用いる。
【0117】
また、さらに、この第5の実施形態では、むだ時間をパディ近似するだけでなく((1)式のむだ時間要素に一次のパディ近似を適用するだけでなく)、離散時間系で記述されたオブザーバの最適極配置アルゴリズムを示す。
【0118】
E.2 離散時間スライディングモード制御
E.2.1 1型サーボ系の構成
(14)式にあるx(k+1)を表した式の状態変数に、目標値r(k)と出力y(k)との差の積分値z(k)を付加した拡大系を用いて、スライディングモードサーボ制御系を設計する。
【数62】
ここで、切換関数σ(k)は、次式のように定義する。
【数63】
なお、観測できない状態変数x1(k),x2(k)は、外乱推定オブザーバにより推定する。
【0119】
D2.2 等価制御系の設計
離散時間系のスライディングモードにおいては、σ(k)=σ(k+1)=σ(k+2)=・・・から、等価制御入力ueq(k)は、外乱を考慮しないとすれば、
【数64】
となり、等価制御式は、次式(71)で表される。
【数65】
切換超平面の設計は、等価制御系の極λ1,λ2を希望の特性に指定することができる極配置法を適用する。
【0120】
D1.3 スライディングモードコントローラの設計
制御入力u(k)は、次式(72)のように、等価制御入力ueq(k)と非線形制御入力unl(k)の2つの独立した制御入力から構成されているとする。
【数66】
ここで、Hmaxは、外乱の最大推定値である。このとき、スライディングモードが存在する条件
【数67】
を満足する。
【0121】
以上をまとめてブロック線図で表すと、図3のようになる。スーパバイザは、過渡状態にて制御入力u(k)が飽和するような場合でも、目標値r(k)近傍となったとき、適切な積分値z(k)を供給するよう構成されている。そのときに供給されるr(k)は、ある小さな実数α(例えば、任意に又は或るシミュレーションによって適切と思われる値に設定された値)を用いて、
【数68】
のように表される。
【0122】
E.3 離散時間外乱推定オブザーバ
(14)式にあるx(k+1)を表した式において、外乱推定オブザーバを構成すると次式(76)〜(80)のようになる。
【数69】
ここで、
【数70】
は、入力に重畳した外乱
【数71】
を含む状態の推定値、
【数72】
は、出力の推定値である。また、オブザーバゲインGは、以下に説明する最適極配置アルゴリズムにより求める。
【0123】
E.4 外乱推定オブザーバの最適極配置アルゴリズム
この実施形態での最適極配置アルゴリズムは、実システム(1)式と、外乱推定オブザーバ(76)〜(80)式の位相曲線とゲイン曲線を用いて、その極p=[p1 p2 p3]Tの数値最適解を、以下の(i)〜(iii)の三段階の探索にて求められるアルゴリズムである。ただし、pの探索範囲は、
【数73】
とする。
【0124】
(i)ノイズに対する感度の考慮
この第一段階の探索条件は、外乱推定オブザーバの推定速度を高くしすぎないように制限するという観点から作成したものである(外乱推定オブザーバの推定速度を高くしすぎると、ノイズの影響等により、正確にシステムの状態を推定できない)。具体的には、ノイズに対する切換関数σ(k)の感度を考えることにより、ある小さな正の実数γn(例えば、任意に又は或るシミュレーションによって適切と思われる値に設定された値)を用いて、次式(85)のように表される。
【数74】
ここで、δmaxは、ノイズ成分の最大値である。
【0125】
(ii)各周波数π/hにおける位相ずれ
上記(85)式を満足した極のみを考える。この第二段階の探索条件は、外乱推定オブザーバの推定速度を低くしすぎないように制限するという観点から作成したものである(外乱推定オブザーバの推定速度を低くしすぎると、フィルタがかかった状態のようになり、正確にシステムの状態を推定できない)。具体的には、外乱推定オブザーバの推定速度を高くしていっても(すなわち、極をz-領域の単位円中心に近づけていっても)、各周波数π/hにおける離散化された実システムの位相ずれ
【数75】
と、外乱推定オブザーバの位相ずれ
【数76】
との差の絶対値は、ある正の値ψmin以下にならないことを利用する。よって、本探索条件は、ある小さな正の実数γp(例えば、任意に又は或るシミュレーションによって適切と思われる値に設定された値)を用いて、次式(86)のように表される。
【数77】
【0126】
(iii)各周波数1/L≦ω≦ωgにおけるゲイン
上記(85)式及び(86)式を満足した極のみを考える。この第三段階の探索条件は、外乱推定オブザーバの適切な推定速度が選ばれた中で最適なもの(具体的には、パディ近似したことによる状態推定の誤差を最小にできるもの)を探索するという観点から作成したものである。具体的には、むだ時間系の重要な周波数帯域である1/L近傍における離散化された実システムのゲイン
【数78】
と、外乱推定オブザーバのゲイン
【数79】
との差の2乗積分Jを用いる。そして、Jが最小となる極を最適とする。ただし、ωgは、h及びL/Tに依存する値である。
【数80】
【0127】
E.5 具体例
(1)式で表される制御対象として、例えば次式(88)を考える。
【0128】
【数81】
上記(88)式において、上述した最適極配置アルゴリズムを得るための制御系を設計する。ここでは、例えば、サンプリング間隔h=0.05[s]とする。
【0129】
まず、切換超平面の設計を行う。これには、希望する特性として、等価制御系の極λ1,λ2を、0.970±0.023jに配置する。これにより、
【数82】
となる。そして、β(k)=0とする。
【0130】
次に、外乱推定オブザーバの極を最適極配置アルゴリズムにより求める。この場合の設計パラメータは、以下の通りである。
【数83】
この設定パラメータのとき、上記(81)〜(87)式により、最適極p及びオブザーバゲインGは、
【数84】
となる。
【0131】
このように、上記のような最適極アルゴリズムから外乱推定オブザーバの極を求め、その極を用いてオブザーバゲインを求める(外乱推定オブザーバを設計する)と、パディ近似誤差が生じても、比較的低い周波数領域だけでなく比較的高い周波数領域でも実システムの状態を推定できる。
【0132】
また、上記のような最適極アルゴリズムから得た極を用いてオブザーバゲインを求めれば、試行錯誤的に極配置を行って得た極からオブザーバゲインを求めるよりも、容易に、実システムのゲイン曲線に接近したオブザーバのゲイン曲線を得ることができる。すなわち、好適な外乱推定オブザーバの設計が容易になる。
【0133】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をこれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、他の様々な形態でも実施することができる。図1や図6に示したクーリングプレートの温度制御は本発明が適用される例に過ぎず、他の様々なプロセス系にも本発明は適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】クーリングプレートの一例の大まかな断面図。
【図2】クーリングプレートの温度制御が目指すウェハ5の温度(以下、ウェハ温度という)と表面プレート4の温度(以下、プレート温度という)と熱電変換モジュール3の入力電力(以下、操作量という)の時間的変化の軌跡を示す図。
【図3】本発明の一実施形態にかかる外乱オブザーバ付きの離散時間スライディングモード制御系のブロック線図。
【図4】スーパバイザ3がもつサーボ系積分値z(k)の安定値供給機構の動作の流れを示す図。
【図5】スーパバイザ3がもつプレート温度軌跡をオンラインで最適化する機構の動作の流れを示す図。
【図6】第2の実施形態における多入力多出力系のクーリングプレートの大まかな断面図。
【図7】第2の実施形態の基本的な制御ブロック線図を示す。
【図8】図6に示したクーリングプレート100のウェハ冷却プロセスにおけるプレートの理想的な温度軌跡を示す図。
【図9】第2の実施形態の性能を試験した実験結果を示す図。
【図10】パディ近似誤差補償形外乱オブザーバの構成を示すブロック線図。
【符号の説明】
1、100 クーリングプレート(制御対象システム)
11 制御対象
12 外乱オブザーバ
13 スーパバイザ
14〜23 離散時間スライディングモードコントローラ
200 基準ゾーン(規範システム)の離散時間スライディングモードコントローラ
300 他のゾーンの離散時間スライディングモードモデル規範形適応コントローラ
400 パディ近似誤差補償形外乱オブザーバ
80 パディ近似誤差システム
Claims (9)
- 制御対象を表した線形の伝達関数のモデルに対して設計された離散時間スライディングモード制御装置であって、
前記モデルは、前記制御対象の持つむだ時間要素を線形近似した線形近似式を含んでおり、
前記制御対象の入力と出力から前記モデルの状態変数と外乱を推定する外乱オブザーバと、
与えられた目標値と前記制御対象の出力と前記外乱オブザーバからの前記状態変数の推定値とに基づいて、前記制御対象への制御入力を演算するスライディングモード演算部と
を備え、
前記外乱オブザーバが、前記むだ時間要素と、前記むだ時間を線形近似した線形近似式との間の近似誤差を演算する近似誤差システムを有し、この近似誤差システムからの前記近似誤差と前記制御対象の入力と出力とに基づいて前記状態変数及び前記外乱を推定する、
むだ時間を有するプロセス系に対する離散時間スライディングモード制御装置。 - 前記スライディングモード演算部は、前記制御入力を演算するために、前記目標値と前記制御対象の出力との偏差を積分する積分器を含んでおり、
プロセス中の所定の時点で前記積分器の出力を、前記目標値と前記制御対象の出力との偏差の積分値についての安定値に設定する安定値供給機構をさらに備え、
前記制御対象の出力は、前記制御対象の温度であり、
前記安定値は、前記制御対象の温度が初めからずっと(Tc−Tm)であったと仮定したときの積分値であり、
前記Tcは、前記制御対象の冷却目標温度であり、
前記Tmは、所定温度である、
請求項1記載の制御装置。 - 前記制御対象の出力は、前記制御対象の温度であり、
プロセス中に、前記外乱オブザーバからの前記外乱の推定値の履歴に基づいて、前記制御対象の温度を最短時間で冷却目標温度に整定させるために前記目標値を最適化するオンライン最適化機構を更に備えた請求項1又は2記載の制御装置。 - 前記外乱オブザーバは、所定の最適極配置アルゴリズムによって定められたゲインを持つ請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の制御装置。
- 多入力多出力の制御対象を構成する複数の単入出力系の中から選ばれた1つの基準系を表したモデルに対して設計された請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の離散時間スライディングモード制御装置と、
前記複数の単入出力系の中の前記基準系以外の他の各系を表したモデルに対して設計された離散時間スライディングモード制御装置と
を備え、
前記他の各系に対する離散時間スライディングモード制御装置が、前記基準系のモデルを規範モデルとするモデル規範形の制御装置である
多入力多出力系のプロセス系に対する離散時間スライディングモード制御装置。 - 制御対象を表した線形の伝達関数のモデルに対して設計された離散時間スライディングモード方法であって、
前記モデルは、前記制御対象の持つむだ時間要素を線形近似した線形近似式を含んでおり、
前記制御対象の入力と出力から前記モデルの状態変数と外乱を推定する外乱オブザーブステップと、
与えられた目標値と前記制御対象の出力と前記外乱オブザーブステップからの前記状態変数の推定値とに基づいて、前記制御対象への制御入力を演算するスライディングモード演算ステップと
を備え、
前記外乱オブザーブステップでは、前記むだ時間要素と、前記むだ時間を線形近似した線形近似式との間の近似誤差を演算する近似誤差ステップを行い、この近似誤差ステップによって出力された前記近似誤差と前記制御対象の入力と出力とに基づいて前記状態変数及び前記外乱を推定する、
むだ時間を有するプロセス系に対する離散時間スライディングモード制御方法。 - 多入力多出力の制御対象を構成する複数の単入出力系の中から選ばれた1つの基準系を表したモデルに対して請求項6記載の離散時間スライディングモード制御方法を行うステップと、
前記複数の単入出力系の中の前記基準系以外の他の各系を表したモデルに対して離散時間スライディングモード制御を行うステップと、
を備え、
前記他の各系に対して離散時間スライディングモード制御を行うステップでは、前記基準系のモデルを規範モデルとするモデル規範形の制御を行う
多入力多出力系のプロセス系に対する離散時間スライディングモード制御方法。 - 制御対象を表した線形の伝達関数のモデルに対して設計された離散時間スライディングモード方法であって、
前記モデルは、前記制御対象の持つむだ時間要素を線形近似した線形近似式を含んでおり、
前記制御対象の入力と出力から前記モデルの状態変数と外乱を推定する外乱オブザーブステップと、
与えられた目標値と前記制御対象の出力と前記外乱オブザーブステップからの前記状態変数の推定値とに基づいて、前記制御対象への制御入力を演算するスライディングモード演算ステップと
を備え、
前記外乱オブザーブステップでは、前記むだ時間要素と、前記むだ時間を線形近似した線形近似式との間の近似誤差を演算する近似誤差ステップを行い、この近似誤差ステップによって出力された前記近似誤差と前記制御対象の入力と出力とに基づいて前記状態変数及び前記外乱を推定する、
むだ時間を有するプロセス系に対する離散時間スライディングモード制御方法
を、コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。 - 多入力多出力の制御対象を構成する複数の単入出力系の中から選ばれた1つの基準系を表したモデルに対して請求項8記載の離散時間スライディングモード制御方法を行うステップと、
前記複数の単入出力系の中の前記基準系以外の他の各系を表したモデルに対して離散時間スライディングモード制御を行うステップと、
を備え、
前記他の各系に対して離散時間スライディングモード制御を行うステップでは、前記基準系のモデルを規範モデルとするモデル規範形の制御を行う、
多入力多出力系のプロセス系に対する離散時間スライディングモード制御方法を、
コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
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