一般に、(1)車輌の制動時のトルクステア低減トルクと(2)車輌の駆動時のトルクステア低減トルクとを同時に発生させなければならない状況や、(3)車輌のオーバーステア状態を低減する挙動悪化低減トルクと(4)車輌のアンダーステア状態を低減する挙動悪化低減トルクとを同時に発生させなければならない状況は生じない。
これに対し例えば車輌がまたぎ路を旋回する場合の如く、(1)車輌の制動時のトルクステア低減トルクと(3)車輌のオーバーステア状態を低減する挙動悪化低減トルク又は(4)車輌のアンダーステア状態を低減する挙動悪化低減トルクとを同時に発生させなければならない状況や、(2)車輌の駆動時のトルクステア低減トルクと(3)車輌のオーバーステア状態を低減する挙動悪化低減トルクと(4)車輌のアンダーステア状態を低減する挙動悪化低減トルクとを同時に発生させなければならない状況は発生することがある。
しかるに上述の如き従来の電動式パワーステアリング装置用制御装置に於いては、左右輪の制駆動力差に起因するトルクステアを相殺する方向への操舵を促進するトルクステア低減トルクを発生すると共に、車輌のオーバーステア状態又はアンダーステア状態を低減する方向への操舵を促進する挙動悪化低減トルクを発生するよう電動式パワーステアリング装置を制御する場合に於いて、トルクステア低減トルク及び挙動悪化低減トルクの両者を発生させる必要がある際に、電動式パワーステアリング装置を如何に制御すべきかについて検討がなされておらず、この点で改善の余地がある。
尚上述の改善されるべき点は、例えば車輌がまたぎ路を走行する際に左右輪の制駆動力差に起因する車輌挙動の変化を低減すべく、左右輪の制駆動力差に起因する車輌挙動の変化を低減する方向への操舵を促進する挙動変化低減トルクを発生するよう電動式パワーステアリング装置が制御される場合についても同様である。
本発明は、左右輪の制駆動力差に起因するトルクステアを相殺し又は左右輪の制駆動力差に起因する車輌挙動の変化を低減する方向への操舵を促進する制駆動力差影響低減トルクを発生すると共に、車輌のオーバーステア状態又はアンダーステア状態を低減する方向への操舵を促進する挙動悪化低減トルクを発生するよう電動式パワーステアリング装置を制御する場合に於ける上述の如き技術的課題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、制駆動力差影響低減トルク及び挙動悪化低減トルクに基づいて電動式パワーステアリング装置を適正に制御することにより、左右輪の制駆動力差に起因するトルクステアや車輌挙動の変化を効果的に低減すると共に車輌のオーバーステア状態又はアンダーステア状態を効果的に低減することである。
上述の主要な課題は、本発明によれば、少なくとも操舵トルクに基づいて基本アシストトルクを演算する手段と、車輌に対する左右輪の制駆動力差の影響を低減する方向への操舵を促進する制駆動力差影響低減トルクを演算する手段と、車輌のオーバーステア状態又はアンダーステア状態を低減する方向への操舵を促進する挙動悪化低減トルクを演算する手段と、前記基本アシストトルク及び前記制駆動力差影響低減トルク若しくは前記挙動悪化低減トルクに基づき目標アシストトルクを演算する目標アシストトルク演算手段とを有し、前記目標アシストトルクに基づいて電動式パワーステアリング装置を制御する電動式パワーステアリング装置用制御装置にして、前記目標アシストトルク演算手段は前記制駆動力差影響低減トルクの大きさが基準値以上であるときには前記基本アシストトルク及び前記制駆動力差影響低減トルクの和に基づき前記目標アシストトルクを演算することを特徴とする電動式パワーステアリング装置用制御装置(請求項1の構成)、又は少なくとも操舵トルクに基づいて基本アシストトルクを演算する手段と、車輌に対する左右輪の制駆動力差の影響を低減する方向への操舵を促進する制駆動力差影響低減トルクを演算する手段と、車輌のオーバーステア状態又はアンダーステア状態を低減する方向への操舵を促進する挙動悪化低減トルクを演算する手段と、前記基本アシストトルク及び前記制駆動力差影響低減トルク若しくは前記挙動悪化低減トルクに基づき目標アシストトルクを演算する目標アシストトルク演算手段とを有し、前記目標アシストトルクに基づいて電動式パワーステアリング装置を制御する電動式パワーステアリング装置用制御装置にして、前記目標アシストトルク演算手段は前記制駆動力差影響低減トルクの大きさが基準値以上であるときには前記挙動悪化低減トルクに比して前記制駆動力差影響低減トルクの重みを大きくした前記基本アシストトルク、前記制駆動力差影響低減トルク、前記挙動悪化低減トルクの重み和に基づき前記目標アシストトルクを演算することを特徴とする電動式パワーステアリング装置用制御装置(請求項2の構成)、又は少なくとも操舵トルクに基づいて基本アシストトルクを演算する手段と、車輌に対する左右輪の制駆動力差の影響を低減する方向への操舵を促進する制駆動力差影響低減トルクを演算する手段と、車輌のオーバーステア状態又はアンダーステア状態を低減する方向への操舵を促進する挙動悪化低減トルクを演算する手段と、前記基本アシストトルク及び前記制駆動力差影響低減トルク若しくは前記挙動悪化低減トルクに基づき目標アシストトルクを演算する目標アシストトルク演算手段とを有し、前記目標アシストトルクに基づいて電動式パワーステアリング装置を制御する電動式パワーステアリング装置用制御装置にして、前記目標アシストトルク演算手段は前記制駆動力差影響低減トルクの大きさが基準値未満であるときには前記基本アシストトルク、前記制駆動力差影響低減トルク、前記挙動悪化低減トルクの和に基づき前記目標アシストトルクを演算することを特徴とする電動式パワーステアリング装置用制御装置(請求項4の構成)によって達成される。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1または2の構成に於いて、前記目標アシストトルク演算手段は前記制駆動力差影響低減トルクの大きさが基準値未満であるときには前記基本アシストトルク、前記制駆動力差影響低減トルク、前記挙動悪化低減トルクの和に基づき前記目標アシストトルクを演算するよう構成される(請求項3の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至4の構成に於いて、前記目標アシストトルク演算手段は前記目標アシストトルクの大きさが上限基準値を越えているときには前記目標アシストトルクの大きさを前記上限基準値に制限するよう構成される(請求項5の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至5の構成に於いて、前記制駆動力差影響低減トルクは左右輪の制駆動力差に起因するトルクステアを相殺する方向への操舵を促進するトルクステア低減トルクであるよう構成される(請求項6の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至5の構成に於いて、前記制駆動力差影響低減トルクは左右輪の制駆動力差に起因する車輌挙動の変化を低減する方向への操舵を促進する挙動変化低減トルクであるよう構成される(請求項7の構成)。
一般に、車輌がまたぎ路を走行する際のトルクステアやこれに起因する車輌挙動の変化は、車輌がオーバーステア状態又はアンダーステア状態になることによる車輌挙動の悪化よりも急激に進行する。また車輌がオーバーステア状態又はアンダーステア状態になることによる車輌挙動の悪化は車輪の制動力の制御により低減可能であるが、トルクステアに起因する車輌挙動の変化を車輪の制動力の制御により低減しようとすると、摩擦係数が高い側の車輪の制動力を低下させなければならず、車輌の制動距離の増大を招来する。従って制駆動力差影響低減トルク及び挙動悪化低減トルクの両者を発生させる必要がある場合に於いて、これらの何れかを選択するとすれば、制駆動力差影響低減トルクが選択されることが好ましい。
上記請求項1の構成によれば、制駆動力差影響低減トルクの大きさが基準値以上であり、トルクステアに起因して車輌の挙動が急激に変化する虞れがあるときには、基本アシストトルク及び制駆動力差影響低減トルクの和に基づき目標アシストトルクが演算されるので、挙動悪化低減トルクよりも制駆動力差影響低減トルクを優先して目標アシストトルクを演算し、これによりトルクステアに起因して車輌の挙動が急激に変化することを効果的に防止することができる。
また上記請求項2の構成によれば、制駆動力差影響低減トルクの大きさが基準値以上であり、トルクステアに起因して車輌の挙動が急激に変化する虞れがあるときには、挙動悪化低減トルクに比して制駆動力差影響低減トルクの重みを大きくした基本アシストトルク、制駆動力差影響低減トルク、挙動悪化低減トルクの重み和に基づき目標アシストトルクが演算されるので、目標アシストトルクの大きさが過剰になる虞れを低減しつつトルクステアに起因して車輌の挙動が急激に変化することを効果的に防止することができる。
また上記請求項4の構成によれば、制駆動力差影響低減トルクの大きさが基準値未満であるときには基本アシストトルク、制駆動力差影響低減トルク、挙動悪化低減トルクの和に基づき目標アシストトルクが演算されるので、車輌がオーバーステア状態又はアンダーステア状態になることによる車輌挙動の悪化を効果的に防止しつつ、トルクステアに起因して車輌の挙動が急激に変化することを効果的に防止することができる。
また上記請求項5の構成によれば、目標アシストトルクの大きさが上限基準値を越えているときには目標アシストトルクの大きさが前記上限基準値に制限されるので、目標アシストトルクの大きさが過剰になることを確実に防止することができると共に、かかるガード処理が行われない場合に比して、左右輪の制駆動力差に対する制駆動力差影響低減トルクの大きさの比及び車輌のオーバーステア状態又はアンダーステア状態の程度に対する挙動悪化低減トルクの大きさの比を大きくすることができ、これにより制駆動力差影響低減効果及び挙動悪化低減効果を高くすることができる。
また上記請求項6の構成によれば、制駆動力差影響低減トルクは左右輪の制駆動力差に起因するトルクステアを相殺する方向への操舵を促進するトルクステア低減トルクであるので、トルクステアの影響を低減し、これにより車輌の挙動が急激に変化することを効果的に防止することができる。
また上記請求項7の構成によれば、制駆動力差影響低減トルクは左右輪の制駆動力差に起因する車輌挙動の変化を低減する方向への操舵を促進するトルクステア低減トルクであるので、左右輪の制駆動力差の影響を低減し、これにより車輌の挙動を効果的に安定な状態に維持することができる。
[課題解決手段の好ましい態様]
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至5の構成に於いて、制駆動力差影響低減トルクを演算する手段は車輌に対する左右輪の制動力差の影響を低減する方向への操舵を促進する制動力差影響低減トルクと、車輌に対する左右輪の駆動力差の影響を低減する方向への操舵を促進する駆動力差影響低減トルクとの和として制駆動力差影響低減トルクを演算するよう構成される(好ましい態様1)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至5の構成に於いて、挙動悪化低減トルクを演算する手段は車輌のオーバーステア状態を低減する方向への操舵を促進するオーバーステア時挙動悪化低減トルクと、車輌のアンダーステア状態を低減する方向への操舵を促進するアンダーステア時挙動悪化低減トルクとの和として挙動悪化低減トルクを演算するよう構成される(好ましい態様2)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至5又は上記好ましい態様2の構成に於いて、挙動悪化低減トルクを演算する手段は車輌の旋回方向とは逆方向への操舵を促進する補助操舵トルクとしてオーバーステア時挙動悪化低減トルクを演算するよう構成される(好ましい態様3)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至5又は上記好ましい態様2の構成に於いて、挙動悪化低減トルクを演算する手段は操舵反力を増大する補助操舵トルクとしてアンダーステア時挙動悪化低減トルクを演算するよう構成される(好ましい態様4)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様4の構成に於いて、挙動悪化低減トルクを演算する手段は車輌のアンダーステア状態の程度が第一の基準値以上であり且つ第二の基準値以下であるときには操舵反力を低減する補助操舵トルクとしてアンダーステア時挙動悪化低減トルクを演算するよう構成される(好ましい態様5)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1又は2の構成に於いて、目標アシストトルク演算手段はトルクステア低減トルクの大きさが基準値以上と基準値未満との間に変化するときには目標アシストトルクの変化率を低減する漸近処理を行うよう構成される(好ましい態様6)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2の構成に於いて、目標アシストトルク演算手段は制駆動力差影響低減トルクの大きさが大きいほど制駆動力差影響低減トルクの重みを大きくするよう構成される(好ましい態様7)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1の構成に於いて、制駆動力差影響低減トルクを演算する手段は左右輪の制動力差及び路面状況に応じて制動力差影響低減トルクを演算するよう構成される(好ましい態様8)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様8の構成に於いて、路面状況は車輌の減速度に基づいて判定されるよう構成される(好ましい態様9)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様8の構成に於いて、車輌の減速度が小さいときには車輌の減速度が大きいときに比して制動力差影響低減トルクの大きさを小さくするよう構成される(好ましい態様10)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様8の構成に於いて、左右輪の制動力差は少なくとも左右前輪の制動力差に基づいて判定されるよう構成される(好ましい態様11)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様8の構成に於いて、左右輪の制動力差は左右前輪の制動力差と左右前輪の制動力差よりも重みが低減された左右後輪の制動力差との和に基づいて判定されるよう構成される(好ましい態様12)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様8の構成に於いて、制駆動力差影響低減トルクを演算する手段は少なくとも一つの車輪についてアンチスキッド制御が実行されている状況に於いて左右輪の制動力差及び路面状況に応じて制動力差影響低減トルクを演算するよう構成される(好ましい態様13)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様9の構成に於いて、路面の摩擦係数が高い側の路面の摩擦係数が高いほど制動力差影響低減トルクの大きさを大きくするよう構成される(好ましい態様14)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様10の構成に於いて、路面状況は少なくとも一つの車輪についてアンチスキッド制御が実行されている状況に於ける車輌の減速度に基づいて判定されるよう構成される(好ましい態様15)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様11の構成に於いて、車輌の減速度が下限基準値以下であるときには制動力差影響低減トルクを0に制御するよう構成される(好ましい態様16)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様10又は好ましい態様16の構成に於いて、車輌の減速度が上限基準値以上であるときには制動力差影響低減トルクを0に制御するよう構成される(好ましい態様17)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様11の構成に於いて、左右輪の制動力差は少なくとも左右前輪の制動圧差に基づいて判定されるよう構成される(好ましい態様18)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様12の構成に於いて、左右輪の制動力差は左右前輪の制動圧差と左右前輪の制動圧差よりも重みが低減された左右後輪の制動圧差との和に基づいて判定されるよう構成される(好ましい態様19)。
図1は本発明による電動式パワーステアリング装置用制御装置の実施例1を示す概略構成図である。
図1に於いて、10FL及び10FRはそれぞれ車輌12の従動輪である左右の前輪を示し、10RL及び10RRはそれぞれ車輌12の駆動輪である左右の後輪を示している。操舵輪でもある左右の前輪10FL及び10FRは運転者によるステアリングホイール14の転舵に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン式の電動式パワーステアリング装置16によりタイロッド18L及び18Rを介して操舵される。
図示の実施例に於いては、電動式パワーステアリング装置16はラック同軸型の電動式パワーステアリング装置であり、電子制御装置20により制御される。電動式パワーステアリング装置16は電動機22と、電動機22の回転トルクをラックバー24の往復動方向の力に変換する例えばボールねじ式の変換機構26とを有し、ハウジング28に対し相対的にラックバー24を駆動する補助転舵力を発生することにより、運転者の操舵負担を軽減する操舵アシストトルクを発生する。
各車輪の制動力は制動装置30の油圧回路32によりホイールシリンダ34FR、34FL、34RR、34RLの制動圧が制御されることによって制御されるようになっている。図には示されていないが、油圧回路32はリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各ホイールシリンダの制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル36の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ38により制御され、また必要に応じて電子制御装置40により制御される。尚電子制御装置20及び電子制御装置40は相互に必要な情報の授受を行い、電子制御装置40は車輌の挙動が悪化した場合に、電子制御装置20と共働して当技術分野に於いて公知の要領にて所定の車輪の制動力を制御することにより、車輌の挙動を安定化させる挙動制御を行う。
ステアリングシャフト42には操舵角θを検出する操舵角センサ44及び操舵トルクTsを検出するトルクセンサ46が設けられ、車輌12には車速Vを検出する車速センサ48、車輌のヨーレートγを検出するヨーレートセンサ50、車輌の前後加速度Gxを検出する前後加速度センサ52、車輌の横加速度Gyを検出する横加速度センサ54が設けられている。尚操舵角センサ44、トルクセンサ46、ヨーレートセンサ50、横加速度センサ54は車輌の左旋回方向を正としてそれぞれ操舵角θ、操舵トルクTs、ヨーレートγ、横加速度Gyを検出する。
図示の如く、操舵角センサ44により検出された操舵角θを示す信号、トルクセンサ46により検出された操舵トルクTsを示す信号、車速センサ48により検出された車速Vを示す信号は電子制御装置20に入力され、ヨーレートセンサ50により検出されたヨーレートγを示す信号、前後加速度センサ52により検出された前後加速度Gxを示す信号、横加速度センサ54により検出された横加速度Gyを示す信号は電子制御装置40に入力される。尚図には詳細に示されていないが、電子制御装置20及び40は例えばCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続された一般的な構成のマイクロコンピュータを含んでいる。
電子制御装置20は、図2に示されたフローチャートに従い、操舵トルクTs及び車速Vに基づき運転者の操舵負担を軽減するための基本アシストトルクTabを演算し、左右輪の制駆動力差に起因するトルクステアを相殺する方向への操舵を促進するトルクステア低減トルクTtsを演算し、車輌のオーバーステア状態又はアンダーステア状態を低減する方向への操舵を促進する挙動悪化低減トルクTvsを演算し、トルクステア低減トルクTtsの大きさが基準値未満であるときには基本アシストトルクTab、トルクステア低減トルクTts、挙動悪化低減トルクTvsの和に基づき目標アシストトルクTaを演算し、トルクステア低減トルクTtsの大きさが基準値以上であるときには基本アシストトルクTab及びトルクステア低減トルクTtsの和に基づき目標アシストトルクTaを演算し、目標アシストトルクTaに基づいて電動式パワーステアリング装置16を制御し、これにより操舵アシストトルクを制御する。
特に図示の実施例に於いては、電子制御装置20は、目標アシストトルクTaの絶対値が基準値よりも大きくその大きさが過大であるときには、目標アシストトルクTaの大きさを基準値に制限するガード処理を行うと共に、トルクステア低減トルクTtsの大きさが基準値未満である状況と基準値以上である状況との間に変化したときには、目標アシストトルクTaの大きさの急激な変化を防止する漸近処理を行う。
また図示の実施例に於いては、電子制御装置20は、左右輪の制動力差に起因するトルクステアを相殺する方向への操舵を促進する制動時トルクステア低減トルクTbtsと、左右輪の駆動力差に起因するトルクステアを相殺する方向への操舵を促進する駆動時トルクステア低減トルクTdtsとの和としてトルクステア低減トルクTtsを演算する。
また電子制御装置20は、車輌のオーバーステア状態を低減する方向への操舵を促進するオーバーステア時挙動悪化低減トルクTovsと、車輌のアンダーステア状態を低減する方向への操舵を促進するアンダーステア時挙動悪化低減トルクTuvsとの和として挙動悪化低減トルクTvsを演算する。
尚、フローチャートとして図には示されていないが、電子制御装置40は各車輪の車輪速度Vwiに基づき当技術分野に於いて公知の要領にて車体速度Vb及び各車輪の制動スリップ量SBi(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、何れかの車輪の制動スリップ量SBiがアンチスキッド制御(ABS制御)開始の基準値よりも大きくなり、アンチスキッド制御の開始条件が成立すると、アンチスキッド制御の終了条件が成立するまで、当該車輪について制動スリップ量が所定の範囲内になるようホイールシリンダ内の圧力を増減するアンチスキッド制御を行う。
また電子制御装置40は各車輪の車輪速度Vwiに基づき当技術分野に於いて公知の要領にて車体速度Vb及び左右後輪の加速スリップ量SAfrl及びSArrを演算し、加速スリップ量SArl若しくはSArrがトラクション制御(TRC制御)開始の基準値よりも大きくなり、トラクション制御の開始条件が成立すると、トラクション制御の終了条件が成立するまで、当該車輪について加速スリップ量が所定の範囲内になるようホイールシリンダ34FL、34FR内の圧力を増減するトラクション制御を行う。
更に電子制御装置40は車輌の走行に伴い変化する車輌状態量に基づき車輌のスピンの程度を示すスピン状態量SS及び車輌のドリフトアウトの程度を示すドリフトアウト状態量DSを演算し、スピン状態量SS及びドリフトアウト状態量DSに基づき車輌の挙動を安定化させる挙動制御の各車輪の目標制動力又は目標スリップ率を演算し、高圧の圧力源の圧力を使用して運転者の制動操作に関係なく目標制動力又は目標スリップ率に応じて各車輪の制動圧を制御し、これにより所定の車輪に制動力を付与して車輌の挙動を安定化させる。
例えば電子制御装置40は車輌がスピン状態にあるときには、旋回外側前輪に制動力を付与して車輌にスピン抑制方向のヨーモーメントを与えることによりスピンを抑制し、車輌がドリフトアウト状態にあるときには、左右の後輪に制動力を付与して車輌を減速すると共に車輌に旋回補助方向のヨーモーメントを与えることによってドリフトアウトを抑制する。アンチスキッド制御、トラクション制御、挙動制御自体は本発明の要旨をなすものではないので、これらの制御はそれぞれ当技術分野に於いて公知の任意の要領にて実行されてよい。
次に図2乃至図4に示されたフローチャートを参照して実施例1に於ける操舵アシストトルク制御について説明する。尚図2に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、イグニッションスイッチが開成されるまで所定の時間毎に繰返し実行される。
まずステップ10に於いては操舵角θを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いては操舵トルクTsの大きさが大きいほど基本アシストトルクTab′が大きくなるよう、操舵トルクTsに基き図5に示されたグラフに対応するマップより基本アシストトルクTab′が演算され、ステップ30に於いては車速Vが高いほど車速係数Kvが小さくなるよう、車速Vに基づき図6に示されたグラフに対応するマップより車速係数Kvが演算され、ステップ40に於いては車速係数Kvと基本アシストトルクTab′との積として車速係数にて補正後の基本アシストトルクTabが演算される。
ステップ50に於いては図3に示されたフローチャートに従ってトルクステア低減トルクTtsが演算され、ステップ80に於いては図4に示されたフローチャートに従って挙動悪化低減トルクTvsが演算される。
ステップ100に於いてはトルクステア低減トルクTtsの絶対値が基準値Ttso(正の定数)よりも大きいか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ110に於いて基本アシストトルクTab、トルクステア低減トルクTts、挙動悪化低減トルクTvsの和として目標アシストトルクTaが演算され、肯定判別が行われたときにはステップ120に於いて基本アシストトルクTab及びトルクステア低減トルクTtsの和として目標アシストトルクTaが演算される。
ステップ200に於いては上記ステップ100に於ける判別が否定判別と肯定判別との間にて切り替わったことにより目標アシストトルクTaの演算がステップ110と120との間に切り替わった場合に、目標アシストトルクTaの値が急激に変化することを防止すべく、例えば変化率ガード処理やフィルタ処理により目標アシストトルクTaの値が切り替わり前の値より切り替わり後の値に漸次変化するよう、必要に応じて目標アシストトルクTaの漸近処理が行われる。
ステップ210に於いては目標アシストトルクTaの絶対値が基準値Tao(正の定数)よりも大きいか否かの判別、即ち目標アシストトルクTaの大きさが過大であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのままステップ230へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ220へ進む。
ステップ220に於いてはsignTaを目標アシストトルクTaの符号として、目標アシストトルクTaがTao・signTaに設定され、ステップ230に於いては目標アシストトルクTaに対応する制御信号が電動機22へ出力され、これにより運転者に必要な操舵力を軽減する操舵アシストトルク制御が実行される。
図3に示されたトルクステア低減トルクTts演算ルーチンのステップ52に於いては例えばマスタシリンダ圧力Pmが基準値以上であるか否かの判別により、運転者により制動操作が行われているか否かの判別、即ち制動中であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ60へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ54へ進む。
ステップ54に於いては例えば左右前輪の制動圧の差Pfl−Pfrとして左右輪の制動圧差ΔPが演算される。尚左右輪の制動圧差ΔPは左右後輪の制動圧差に対する重みをKr(例えば0.5の如く0よりも大きく1よりも小さい正の値)として、左右輪の制動圧差ΔPは下記の式1に従って左右前輪の制動圧差に対し左右後輪の制動圧差の重みが低減されたこれらの重み和として演算されてもよい。
ΔP=Pfl−Pfr+Kr(Prl−Prr) ……(1)
ステップ56に於いては少なくとも一つの車輪についてアンチスキッドが行われているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ60へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ58へ進む。
ステップ58に於いては車輌の減速度Gbx(=−Gx)が下限基準値Gbx1よりも大きく上限基準値Gbx2よりも小さいか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ60に於いて制動時トルクステア低減トルクTbtsが0に設定され、肯定判別が行われたときにはステップ62へ進む。
尚下限基準値Gbx1は重力加速度をgとして−0.2g程度の値であり、圧力センサの検出誤差や制動圧と制動力との間の関係のばらつき等に起因して、車輌には抑制すべきほどのトルクステアや挙動変化が発生していないにも拘らず、左右輪の制動力差に基づいて電動式パワーステアリング装置が不必要に制御され、不必要なトルクステア低減トルクが発生されることを防止するための基準値である。また上限基準値Gbx2は高い減速度が生じている状況に於いて左右輪の制動力差が大きくなることはないので、かかる状況に於いて左右輪の制動力差に基づいて電動式パワーステアリング装置が不必要に制御され、不必要なトルクステア低減トルクが発生されることを防止するための基準値である。
ステップ62に於いては左右輪の制動圧差ΔPの大きさが大きいほど制動時トルクステア低減トルクTbtsの大きさが大きくなると共に、車輌の減速度Gbxが高いほど制動時トルクステア低減トルクTbtsの大きさが大きくなるよう、左右輪の制動圧差ΔP及び車輌の減速度Gbxに基づき図7に於いて太線にて示されたグラフに対応するマップより制動時トルクステア低減トルクTbtsが演算される。
ステップ64に於いてはトラクション(TRC)制御中であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ68へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ66へ進む。
ステップ66に於いては当技術分野に於いて公知の要領にて駆動輪である左右後輪の駆動力差ΔFdrが推定されると共に、左右後輪の駆動力差ΔFdrの絶対値が基準値ΔFdro(正の定数)よりも大きいか否かの判別、即ち駆動時のトルクステアが過大になる状況であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ68に於いて駆動時トルクステア低減トルクTdtsが0に設定され、肯定判別が行われたときにはステップ70に於いてKdtsを正の一定の係数として駆動時トルクステア低減トルクTdtsがKdtsとΔFdrとの積として演算される。
ステップ72に於いては制動時トルクステア低減トルクTbts及び駆動時トルクステア低減トルクTdtsの和としてトルクステア低減トルクTtsが演算され、しかる後ステップ80へ進む。
図4に示された挙動悪化低減トルクTvs演算ルーチンのステップ82に於いては、横加速度Gyと車速V及びヨーレートγの積γVとの偏差Gy−γVとして横加速度の偏差、即ち車輌の横すべり加速度Vydが演算され、横すべり加速度Vydが積分されることにより車体の横すべり速度Vyが演算され、更に車体の前後速度Vx(=車速V)に対する車体の横すべり速度Vyの比Vy/Vxとして車体のスリップ角βが演算される。
ステップ84に於いてはK1及びK2をそれぞれ正の定数として車体のスリップ角β及び横すべり加速度Vydの線形和K1β+K2Vydとしてスピン量SVが演算されると共に、ヨーレートγの符号に基づき車輌の旋回方向が判定され、スピン状態量SSが車輌の左旋回時にはSVとして、車輌の右旋回時には−SVとして演算され、演算結果が負の値であるときにはスピン状態量は0とされる。尚スピン量SVは車体のスリップ角β及びその微分値βdの線形和として演算されてもよい。
ステップ86に於いてはスピン状態量SSの大きさが大きいほどオーバーステア(OS)時挙動悪化低減トルクTovsの大きさが大きくなるよう、スピン状態量SSに基づき図8に示されたグラフに対応するマップよりオーバーステア時挙動悪化低減トルクTovsが演算される。
ステップ88に於いては操舵角θに基づき前輪の実舵角δが演算され、HをホイールベースとしKhをスタビリティファクタとして下記の式2に従って目標ヨーレートγeが演算されると共に、Tを時定数としsをラプラス演算子として下記の式3に従って車速V及び操舵角θに基づく車輌の推定ヨーレートγtが演算される。尚目標ヨーレートγeは動的なヨーレートを考慮すべく車輌の横加速度Gyを加味して演算されてもよい。
γe=Vδ/{(1+KhV2)H} ……(2)
γt=γe/(1+Ts) ……(3)
ステップ90に於いては下記の数4に従ってドリフトバリューDVが演算されると共に、ヨーレートγの符号に基づき車輌の旋回方向が判定され、ドリフトアウト状態量DSが車輌の左旋回時にはDVとして、車輌の右旋回時には−DVとして演算され、演算結果が負の値であるときにはドリフトアウト状態量は0とされる。尚ドリフトバリューDVは下記の数5に従って演算されてもよい。
DV=(γt−γ) ……(4)
DV=H(γt−γ)/V ……(5)
ステップ92に於いてはドリフトアウト状態量DSの大きさが大きいほどアンダーステア(US)時挙動悪化低減トルクTuvsの大きさが大きくなるよう、ドリフトアウト状態量DSに基づき図9に示されたグラフに対応するマップよりアンダーステア時挙動悪化低減トルクTuvsが演算される。
尚図9に示されている如く、アンダーステア時挙動悪化低減トルクTuvsは、ドリフトアウト状態量DSの大きさが第一の基準値DS1以上であり且つ第二の基準値DS2以下であるときには、操舵反力を低減する方向のアシストトルクとして演算され、これにより運転者に車輌がアンダーステア状態の限界に近づいていること操舵反力の低下により知らされる。
ステップ94に於いてはオーバーステア時挙動悪化低減トルクTovs及びアンダーステア時挙動悪化低減トルクTuvsの和として挙動悪化低減トルクTvsが演算され、しかる後ステップ100へ進む。
かくして図示の実施例1によれば、ステップ20〜40に於いて操舵トルクTsの大きさが大きいほど大きさが大きくなり且つ車速Vが高いほど大きさが小さくなるよう、操舵トルクTs及び車速Vに基づき基本アシストトルクTabが演算され、ステップ50に於いて左右輪の制駆動力差に起因するトルクステアを相殺する方向への操舵を促進するトルクステア低減トルクTtsが演算され、ステップ80に於いて車輌のオーバーステア状態又はアンダーステア状態を低減する方向への操舵を促進する挙動悪化低減トルクTvsが演算される。
そしてステップ100〜120に於いてトルクステア低減トルクTtsの大きさが基準値Ttso未満であるときには基本アシストトルクTab、トルクステア低減トルクTts、挙動悪化低減トルクTvsの和に基づき目標アシストトルクTaが演算され、トルクステア低減トルクTtsの大きさが基準値Ttso以上であるときには基本アシストトルクTab及びトルクステア低減トルクTtsの和に基づき目標アシストトルクTaが演算され、ステップ230に於いて目標アシストトルクTaに基づいて電動式パワーステアリング装置16が制御されることにより操舵アシストトルクが制御される。
従ってトルクステア低減トルクTtsの大きさが基準値Ttso以上であり、トルクステアに起因して車輌の挙動が急激に悪化する虞れがあるときには、挙動悪化低減トルクTvsよりもトルクステア低減トルクTtsを優先して目標アシストトルクTaが演算されるので、トルクステアに起因して車輌の挙動が急激に悪化することを効果的に防止することができる。
特に図示の実施例1によれば、トルクステア低減トルクTtsの大きさが基準値Ttso以上であるときには、挙動悪化低減トルクTvsが考慮されることなく基本アシストトルクTab及びトルクステア低減トルクTtsの和に基づき目標アシストトルクTaが演算されるのでトルクステア低減トルクTtsの大きさが基準値Ttso以上である状況に於いても挙動悪化低減トルクTvsが考慮される場合に比して、左右輪の制駆動力差に対するトルクステア低減トルクTtsの比を高くしても目標アシストトルクTaの大きさが過剰になる虞れが低く、従って左右輪の制駆動力差に対するトルクステア低減トルクTtsの比を高くしてトルクステアに起因して車輌の挙動が急激に悪化することを確実に且つ効果的に防止することができる。
図11は本発明による電動式パワーステアリング装置用制御装置の実施例3に於ける操舵アシストトルク制御のメインルーチンを示すフローチャートである。尚図11に於いて図2に示されたステップと同一のステップには図2に於いて付されたステップ番号と同一のステップ番号が付されている。
この実施例3に於いても、ステップ10〜110及びステップ200〜230は上述の実施例1及び2の場合と同様に実行され、ステップ110が完了すると、ステップ210が実行され、これにより目標アシストトルクTaは常に基本アシストトルクTab、トルクステア低減トルクTts、挙動悪化低減トルクTvsの和として演算される。
かくして図示の実施例3によれば、トルクステア低減トルクTtsの大きさに基づく目標アシストトルクTaの演算の切り替えは行われないので、目標アシストトルクTaの値が急激に変化すること及びこれに起因して運転者が異和感を感じることを確実に防止することができ、また上述の実施例1及び2に於けるステップ200の漸近処理を省略することができると共に、電子制御装置20の演算負荷を低減しその構成部品に要求される性能を低下させることができる。
尚図示の各実施例によれば、ステップ210及び220に於いては目標アシストトルクTaの大きさが基準値Taoを越えないようガード処理されるので、目標アシストトルクTaが基本アシストトルクTab、トルクステア低減トルクTts、挙動悪化低減トルクTvsの和として演算される場合にも、目標アシストトルクTaの大きさが過剰になることを確実に防止することができると共に、かかるガード処理が行われない場合に比して、左右輪の制駆動力差に対するトルクステア低減トルクTtsの大きさの比及び車輌のスピン状態量SS又はドリフトアウト状態量DSに対する挙動悪化低減トルクTvsの大きさの比を大きくすることができ、これによりトルクステア低減効果及び挙動悪化低減効果を高くすることができる。
また図示の各実施例によれば、ステップ52〜62に於いて左右輪の制動力差に起因するトルクステアを相殺する方向への操舵を促進する制動時トルクステア低減トルクTbtsが演算され、ステップ64〜70に於いて左右輪の駆動力差に起因するトルクステアを相殺する方向への操舵を促進する駆動時トルクステア低減トルクTdtsが演算され、ステップ72に於いてこれらのトルクの和としてトルクステア低減トルクTtsが演算されるので、左右輪の制動力差に起因するトルクステア及び左右輪の駆動力差に起因するトルクステアの何れが生じてもトルクステアを効果的に低減することができる。
また図示の各実施例によれば、ステップ82〜86に於いて車輌のオーバーステア状態を低減する方向への操舵を促進するオーバーステア時挙動悪化低減トルクTovsが演算され、ステップ88〜92に於いて車輌のアンダーステア状態を低減する方向への操舵を促進するアンダーステア時挙動悪化低減トルクTuvsが演算され、これらのトルクの和として挙動悪化低減トルクTvsが演算されるので、車輌がオーバーステア状態及びアンダーステア状態の何れの状態になっても車輌の挙動悪化を効果的に低減することができる。
また図示の各実施例によれば、アンダーステア時挙動悪化低減トルクTuvsは、ドリフトアウト状態量DSの大きさが第一の基準値DS1以上であり且つ第二の基準値DS2以下であるときには、操舵反力を低減する方向のアシストトルクとして演算されるので、車輌がアンダーステア状態の限界に近づいていることを操舵反力の低下により運転者に知らせることができる。
また図示の実施例1及び2によれば、ステップ200に於いて必要に応じて目標アシストトルクTaの漸近処理が行われるので、目標アシストトルクTaの演算がステップ110とステップ120又は130との間に切り替わった場合に、目標アシストトルクTaの値が急激に変化すること及びこれに起因して運転者が異和感を感じることを効果的に防止することができる。
また図示の各実施例によれば、制動時トルクステア低減トルクTbtsは、左右輪の制動圧差ΔPの大きさが大きいほど制動時トルクステア低減トルクTbtsの大きさが大きくなると共に、路面の摩擦係数の指標値である車輌の減速度Gbxが高いほど制動時トルクステア低減トルクTbtsの大きさが大きくなるよう、左右輪の制動圧差ΔP及び車輌の減速度Gbxに基づいて演算され、車輌の減速度Gbxは路面の摩擦係数が高いほど高くなるので、路面の摩擦係数が高く左右輪の制動力差に起因するトルクステアの大きさが大きくなるほど制動時トルクステア低減トルクTbtsの大きさを大きくすることができる。
従って路面の摩擦係数が低く車輌の減速度が小さい状況に於いて制動時トルクステア低減トルクの大きさが過剰になることを防止しつつ、路面の摩擦係数が高く車輌の減速度が大きい状況に於いて確実に必要な大きさの制動時トルクステア低減トルクを発生させることができ、左右輪の制動力差のみに応じて制動時トルクステア低減トルクを演算する場合に比して、制動時トルクステア低減トルクを適正に制御することができる。
また図示の各実施例によれば、制動時トルクステア低減トルクTbtsは車輌の減速度Gbxが高いほど制動時トルクステア低減トルクTbtsの大きさが大きくなるよう演算され、結果的に路面の摩擦係数は車輌の減速度Gbxに基づいて判定されるので、路面の摩擦係数に対応する路面状況を容易に判定することができる。
また図示の各実施例によれば、左右輪の制動圧差ΔPの大きさが基準値ΔPo以下である場合のみならず、車輌の減速度Gbxが下限基準値Gbx1以下又は上限基準値Gbx2以上であるときにも、制動時トルクステア低減トルクTbtsが0に設定され、制動時トルクステア低減トルクTbtsは発生されないので、制動時の実際のトルクステアが高くないにも拘らず圧力センサ52iの検出誤差等に起因して左右輪の制動圧差ΔPの大きさが基準値ΔPo以上である状況に於いて、制動時トルクステア低減トルクTbtsが不必要に発生されることを確実に防止することができる。
また図示の各実施例によれば、制動時トルクステア低減トルクTbtsは少なくとも一つの車輪についてアンチスキッド制御が実行されている状況に於いて左右輪の制動圧差ΔP及び車輌の減速度Gbxに基づいて演算されるので、アンチスキッド制御が実行されているか否かが考慮されない場合に比して正確に路面の摩擦係数に応じて制動時トルクステア低減トルクTbtsを制御することができる。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の各実施例に於いては、車輌に対する左右輪の制駆動力差の影響を低減する方向への操舵を促進する制駆動力差影響低減トルクとして、制動時トルクステア低減トルクTbtsと駆動時トルクステア低減トルクTdtsとの和であるトルクステア低減トルクTtsが演算されるようになっているが、制駆動力差影響低減トルクはトルクステア低減トルクTtsに代えて、左右輪の制駆動力差に起因する車輌挙動の変化を低減する方向への操舵を促進する挙動変化低減トルクTvbとして演算されてもよい。
この場合制動時挙動変化低減トルクTbvbは例えば図7に於いて細線にて示されている如く左右輪の制動圧差ΔP及び車輌の減速度Gbxに基づいて演算され、駆動時挙動変化低減トルクTdvbは例えばステップ70に於ける係数Kdtsよりも大きい係数Kdvbと左右輪の駆動力差ΔFdrとの積として演算され、挙動変化低減トルクTvbは制動時挙動変化低減トルクTbvbと駆動時挙動変化低減トルクTdvbとの和として演算され、或いは車輌の制動時には制動時挙動変化低減トルクTbvbが挙動変化低減トルクTvbとして演算され、車輌の駆動時には駆動時挙動変化低減トルクTdvbが挙動変化低減トルクTvbとして演算されてよい。
また上述の各実施例に於いては、制動時トルクステア低減トルクTbtsと駆動時トルクステア低減トルクTdtsとの和としてトルクステア低減トルクTtsが演算されるようになっているが、車輌の制動時には制動時トルクステア低減トルクTbtsがトルクステア低減トルクTtsとして演算され、車輌の駆動時には駆動時トルクステア低減トルクTdtsがトルクステア低減トルクTtsとして演算されるよう修正されてもよい。
また上述の各実施例に於いては、スピン状態量SS及びドリフトアウト状態量DSは電子制御装置20により演算されるようになっているが、電子制御装置40がスピン状態量SS及びドリフトアウト状態量DSを演算し、これらに基づいて制駆動力の制御による挙動制御を行う場合には、スピン状態量SS及びドリフトアウト状態量DSは電子制御装置40より通信により電子制御装置20へ入力されるよう修正されてもよい。
また上述の実施例1及び2に於いては、ステップ200に於いて必要に応じて目標アシストトルクTaの漸近処理が行われ、また上述の各実施例に於いては、ステップ210及び220に於いては目標アシストトルクTaの大きさが基準値Taoを越えないようガード処理されるようになっているが、ステップ200若しくはステップ210及び220の処理が省略されてもよい。
また上述の各実施例に於いては、左右輪の制動圧差ΔPは圧力センサにより検出される左右輪の制動圧に基づいて演算されるようになっているが、各車輪の制動圧Piがホイールシリンダに対するオイルの給排に基づいて推定され、推定された左右輪の制動圧に基づいて演算されるよう修正されてもよい。
また上述の各実施例に於いては、車輌の減速度Gbxが下限基準値Gbx1よりも大きく上限基準値Gbx2よりも小さい場合に左右輪の制動圧差ΔP及び車輌の減速度Gbxに基づいて制動時トルクステア低減トルクTbtsが演算されるようになっているが、車輌の減速度Gbxが上限基準値Gbx2よりも小さいか否かの判定は省略されてもよい。
また上述の各実施例に於いては、左右輪の制動圧差ΔPの基準値ΔPoは路面の摩擦係数、従って車輌の減速度Gbxに拘らず一定であるが、路面の摩擦係数が高く、車輌の減速度Gbxが高いほど小さくなるよう、路面の摩擦係数又は車輌の減速度Gbxに応じて可変設定されるよう修正されてもよい。
また上述の各実施例に於いては、目標アシストトルクTaは基本アシストトルクTab及びトルクステア低減トルクTts若しくは挙動悪化低減トルクTvsの和として演算されるようになっているが、これらのトルクに加えて例えばステアリング系の収束性を向上させるダンピングトルクの如く他の制御トルクが加算された値として目標アシストトルクTaが演算されるよう修正されてもよい。
更に上述の各実施例に於いては、車輌は後輪駆動車であるが、本発明が適用される車輌は前輪駆動車や四輪駆動車であってもよく、また操舵アシストトルクを任意に制御し得る限り電動式パワーステアリング装置は当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。