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JP2025180061A - アルミニウム合金鍛造材 - Google Patents

アルミニウム合金鍛造材

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JP2025180061A JP2024087138A JP2024087138A JP2025180061A JP 2025180061 A JP2025180061 A JP 2025180061A JP 2024087138 A JP2024087138 A JP 2024087138A JP 2024087138 A JP2024087138 A JP 2024087138A JP 2025180061 A JP2025180061 A JP 2025180061A
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Abstract

【課題】高強度化と耐応力腐食割れ性の向上とを両立することができるアルミニウム合金鍛造材を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金鍛造材11は、Mg:0.50質量%以上1.25質量%以下、Si:0.40質量%以上1.40質量%以下、Cu:0.50質量%以上1.00質量%以下、Fe:0.05質量%以上0.40質量%以下、Ti:0.005質量%以上0.10質量%以下、を含有するとともに、Mn及びCrから選択される少なくとも1種を、Mn:0.50質量%以上1.20質量%以下、Cr:0.20質量%以上0.33質量%以下、の範囲で含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる。また、マトリックスと、円相当直径が1.0μm以上であるAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物と、の最大電位差の平均値[ΔVmax平均]が、144mV以下である。
【選択図】図1A

Description

本発明は、アルミニウム合金鍛造材に関する。
従来より、車両における乗員の安全性向上が求められており、係る目的のために車体の強度を向上させてきた。一方、地球温暖化問題等の深刻化を背景に、自動車の燃費改善の動きが加速している。燃費改善には車体の軽量化が有効であることが知られている。そこで、サスペンションなどの足回り部品の材料として、高強度高靱性であり、耐食性も比較的優れている6000系アルミ合金鍛造材が使用されてきている。近年、車体をより一層軽量化するために、車体に使用される部材を、従来と比較して更に薄肉化したうえで、高強度化や高靱性化することが求められている。
例えば、特許文献1~5には、強度向上に有効な添加元素であるCuの含有量が適切に制御された自動車足回り部品又はアルミニウム合金鍛造材が提案されている。
特許第5110938号公報 特許第5863626号公報 特許第5837026号公報 特許第5901738号公報 特許第6445958号公報
しかしながら、上記特許文献1~特許文献5に記載の部品又は鍛造材においては、高強度化にともなって、耐応力腐食割れ性が劣化するという課題がある。したがって、強度と耐応力腐食割れ性のいずれもが優れた部材を得ることは困難であった。
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、輸送機などの強度部材、特に、自動車の足回り部材に好適に用いられ、高強度化と耐応力腐食割れ性の向上とを両立することができ、これにより、軽量化による燃費改善を実現することができるアルミニウム合金鍛造材を提供することを目的とする。
上記の目的は、本発明に係る下記[1]又は[2]のアルミニウム合金鍛造材により達成される。
[1] Mg:0.50質量%以上1.25質量%以下、
Si:0.40質量%以上1.40質量%以下、
Cu:0.50質量%以上1.00質量%以下、
Fe:0.05質量%以上0.40質量%以下、
Ti:0.005質量%以上0.10質量%以下、を含有するとともに、
Mn及びCrから選択される少なくとも1種を、
Mn:0.50質量%以上1.20質量%以下、
Cr:0.20質量%以上0.33質量%以下、の範囲で含有し、
残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金鍛造材であって、
マトリックスと、円相当直径が1.0μm以上であるAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物と、の最大電位差の平均値[ΔVmax平均]が、144mV以下であることを特徴とする、アルミニウム合金鍛造材。
[2] Mg:0.50質量%以上1.25質量%以下、
Si:0.40質量%以上1.40質量%以下、
Cu:0.50質量%以上1.00質量%以下、
Fe:0.05質量%以上0.40質量%以下、
Ti:0.005質量%以上0.10質量%以下、を含有するとともに、
Mn及びCrから選択される少なくとも1種を、
Mn:0.50質量%以上1.20質量%以下、
Cr:0.20質量%以上0.33質量%以下、の範囲で含有し、
残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金鍛造材であって、
円相当直径が1.0μm以上であるAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物において、下記(条件1)及び(条件2)の少なくとも一方を満足することを特徴とする、アルミニウム合金鍛造材。
(条件1)下記式(1)により算出される平均Mn濃度[Mn]avが0.465超である。
・・・式(1)
(条件2)下記式(2)により算出される平均Cr濃度[Cr]avが0.125以上0.235未満である。
・・・式(2)
ただし、上記式(1)及び上記式(2)において、
Fe(i)は、所定の測定領域において特定されたAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物のうち、円相当直径が1.0μm以上であるn個の領域を測定対象とした場合における、i番目(1≦i≦n)の領域内の平均Fe濃度を原子%で表した値である。
Mn(i)は、所定の測定領域において特定されたAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物のうち、円相当直径が1.0μm以上であるn個の領域を測定対象とした場合における、i番目(1≦i≦n)の領域内の平均Mn濃度を原子%で表した値である。
Cr(i)は、所定の測定領域において特定されたAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物のうち、円相当直径が1.0μm以上であるn個の領域を測定対象とした場合における、i番目(1≦i≦n)の領域内の平均Cr濃度を原子%で表した値である。
また、アルミニウム合金鍛造材に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[3]に関する。
[3] 0.2%耐力が390MPa以上であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のアルミニウム合金鍛造材。
本発明によれば、高強度化と耐応力腐食割れ性の向上とを両立することができ、これにより、軽量化による燃費改善を実現することができるアルミニウム合金鍛造材を提供することができる。
図1Aは、アルミニウム合金鍛造材からの試験材の採取位置を示す平面図である。 図1Bは、図1AのA-A線に沿う断面図である。 図2は、アルミニウム合金鍛造材から採取した引張試験片の形状を示す平面図である。 図3は、アルミニウム合金鍛造材から採取した応力腐食割れ試験片の形状を示す断面図である。
アルミニウム合金の応力腐食割れ(SCC:Stress Corrosion Cracking)のメカニズムに関しては、これまでいくつかの説が提案されている。例えば、腐食が優先的に粒界に沿って起こる陽極溶解説、粒界に拡散した水素による脆化で起こる水素脆化説、粒界に沿った不働態皮膜の破壊による不導体皮膜説が挙げられる(箕田正、戸次洋一郎:軽金属、72(2022)、431-440.)。本願発明者らは、これらの説のうち、腐食は陽極溶解説によって生じていると推測し、耐応力腐食割れ性(耐SCC性)の影響組織因子の調査について、鋭意検討を行った。その結果、化合物とアルミニウム母相(マトリックス)との間の電位差と、結晶粒の形態が、耐SCC性に影響を及ぼしていることを見出した。
陽極溶解説とは、電気化学的要因として、化合物とアルミニウム母相との間において、ある値以上の電位差を持つことで、SCCの起点となる孔食が発生すると考えられる。さらに、力学的要因として、孔食が発生した箇所に応力が集中することによって、割れが発生して進展し、SCCが生じると考えられる。そこで、本願発明者らは、耐応力腐食割れ性を表す破断寿命と、化合物とアルミニウム母相間との電位差との関係について検討を行った。その結果、所定の化合物が形成されている領域とアルミニウム母相(マトリックス)との間の最大電位差の平均値[ΔVmax平均]が小さい方が、破断寿命が長くなる傾向にあり、高強度化と耐SCC性を両立することができることを見出した。また、本願発明者らは、耐SCC性を向上させるために、所定の領域内におけるMn濃度やCr濃度を規定することが有効であることも見出した。本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。
[アルミニウム合金鍛造材]
本実施形態に係るアルミニウム合金鍛造材は、以下に示す特定の元素を所定の含有量の範囲で含有する。以下、本実施形態に係るアルミニウム合金鍛造材に含有される元素及びその含有量の限定理由を詳細に説明する。なお、以下の説明において、アルミニウム合金鍛造材を、単に鍛造材ということがある。
(Mg:0.50質量%以上1.25質量%以下)
Mgは、人工時効硬化処理により、Si、CuとともにMgSi(β''相、β'相)やQ相として析出する。このため、Mgは、鍛造材の0.2%耐力を高めるために必須の元素である。
鍛造材中のMg含有量が0.50質量%未満であると、時効硬化量が低下して、鍛造材の0.2%耐力が低下する。また、耐SCC特性も低下する。したがって、鍛造材中のMg含有量は、鍛造材全質量に対して0.50質量%以上とし、0.80質量%以上であることが好ましく、0.90質量%以上であることがより好ましい。
一方、鍛造材中のMg含有量が1.25質量%を超えると、0.2%耐力が高くなりすぎて、鋳塊の鍛造性が低下する。また、溶体化処理後の焼き入れ途中に多量のMgSiやQ相が析出しやすくなる。このため、粒界上に存在するMgSi、Q相や、Al、Si、Mn、Cr、Feが選択的に結合したAl-Fe-Si-(Mn、Cr)系化合物の平均粒径が小さくならず、これらの化合物同士の平均間隔を大きくすることができない。その結果、鍛造材の耐食性が劣化する。したがって、鍛造材中のMg含有量は、鍛造材全質量に対して1.25質量%以下とし、1.20質量%以下であることが好ましく、1.10質量%以下であることがより好ましい。
(Si:0.40質量%以上1.40質量%以下)
SiもMg、Cuとともに、人工時効硬化処理により、MgSi(β''相、β'相)として析出する元素であり、鍛造材の0.2%耐力を高めるために必須の元素である。
鍛造材中のSi含有量が0.40質量%未満であると、時効硬化量が低下して、鍛造材の0.2%耐力が低下するとともに、耐食性が低下する。したがって、鍛造材中のSi含有量は、鍛造材全質量に対して0.40質量%以上とし、0.80質量%以上であることが好ましく、0.90質量%以上であることがより好ましい。
一方、鍛造材中のSi含有量が1.40質量%を超えると、鍛造時及び溶体化処理後の焼き入れ途中で、粗大な単体Si粒子が晶出及び析出する。また、Siが過剰となり、粒界上に存在するMgSi、Q相や、Al、Si、Mn、Cr、Feが選択的に結合したAl-Fe-Si-(Mn、Cr)系化合物の平均粒径が小さくならず、これらの化合物同士の平均間隔を大きくできない。その結果、上記Mgと同様に、鍛造材の耐食性が低下する。したがって、鍛造材中のSi含有量は、鍛造材全質量に対して1.40質量%以下とし、1.30質量%以下であることが好ましく、1.20質量%以下であることがより好ましい。
(Cu:0.50質量%以上1.00質量%以下)
Cuは、固溶強化によって、鍛造材の0.2%耐力を向上させる効果を有する元素である。また、Cuは、人工時効硬化処理において、MgやSiとともにQ相を形成し、鍛造材の時効硬化を著しく促進する効果を有する元素でもある。
鍛造材中のCu含有量が0.50質量%未満であると、上記効果を十分に得ることができず、0.2%耐力が低下する。したがって、鍛造材中のCu含有量は、鍛造材全質量に対して0.50質量%以上とする。また、これらの効果を安定的に得るために、鍛造材中のCu含有量は、鍛造材全質量に対して0.60質量%超であることが好ましく、0.65質量%以上であることがより好ましい。
一方、鍛造材中のCu含有量が1.00質量%を超えると、鍛造材の組織の応力腐食割れや粒界腐食の感受性が著しく高くなり、鍛造材の耐食性が低下する。したがって、鍛造材中のCu含有量は、鍛造材全質量に対して1.00質量%以下とし、0.90質量%以下であることが好ましく、0.85質量%以下であることがより好ましい。
(Fe:0.05質量%以上0.40質量%以下)
Feは、鋳造時の生産性の向上及び再結晶の抑制のために、鋳塊中に添加される元素である。しかし、鍛造材中にFeが含有されることにより、AlCuFe、Al12(Fe、Mn)Cu、(Fe、Mn)Al、Al-(Fe、Mn、Cr)-Si系の晶出物や析出物が生成される。これらの化合物は、破壊や腐食の起点となり、靱性、疲労特性及び耐応力腐食割れ性などを劣化させる。
特に、鍛造材中のFe含有量が0.40質量%を超えると、粒界上に存在するAl-(Fe、Mn、Cr)-Si系化合物の平均粒径が大きくなり、また、化合物同士の平均間隔が小さくなる。その結果、靱性及び耐食性が低下する。したがって、鍛造材中のFe含有量は、鍛造材全質量に対して0.40質量%以下とし、0.30質量%以下であることが好ましい。
一方、鍛造材中のFe含有量が0.05質量%未満であると、鋳造時の割れや、異常組織などが発生する。したがって、鍛造材中のFe含有量は、鍛造材全質量に対して0.05質量%以上とし、0.10質量%以上であることが好ましい。
(Ti:0.005質量%以上0.10質量%以下)
Tiは、鋳塊の結晶粒を微細化し、鍛造時の加工性を向上させるために、鋳塊中に添加される元素である。
鍛造材中のTi含有量が0.005質量%未満であると、結晶粒微細化効果を得ることができない。したがって、鍛造材中のTi含有量は、鍛造材全質量に対して0.005質量%以上とし、0.01質量%以上であることが好ましい。
一方、鍛造材中のTi含有量が0.10質量%を超えると、粗大な晶出物が形成されて、鍛造時の加工性が低下する。したがって、鍛造材中のTi含有量は、鍛造材全質量に対して0.10質量%以下とし、0.05質量%以下であることが好ましい。
本実施形態においては、上記Mg、Si、Cu、Fe及びTiの他に、Mn及びCrから選択される少なくとも1種の元素を所定の範囲で含有する。Mn及びCrの含有量の限定理由について、以下に説明する。
(Mn:0.50質量%以上1.20質量%以下)
Mnは、均質化処理時に、Al-(Fe、Mn、Cr)-Si系化合物を形成し、更に均質化処理時及びその後の熱間鍛造時に、分散粒子となるAlMnを形成する。このような分散粒子は、粒界移動を防止する効果を有するため、微細な結晶粒や、亜結晶粒組織を得ることができる。鋳塊中に所定量のMn及び後述するCrの少なくとも一方が含有されていることにより、結晶粒界や亜結晶粒界の移動を阻止し、結晶粒の微細化や亜結晶粒化の効果を得ることができる。その結果、鍛造材の破壊靱性や疲労特性などを向上させることができる。さらに、Mnは、Al-(Fe、Mn、Cr)-Si系化合物と、アルミニウム母相(マトリックス)との間の電位差を低減する効果を有する。この電位差を低減することにより、腐食環境における応力腐食割れの起点となるAl-(Fe、Mn、Cr)-Si系化合物と、アルミニウム母相との界面でのピット及び孔食の発生を抑制して、耐SCC性を改善することができる。
鍛造材中のMn含有量が0.50質量%未満であると、上記化合物とアルミニウム母相との間の電位差を低減する効果を十分に得ることができず、耐SCC性が劣化する。したがって、鍛造材中にMnを含有させる場合に、鍛造材中のMn含有量は、鍛造材全質量に対して0.50質量%以上とし、0.60質量%超であることが好ましく、0.70質量%以上であることがより好ましい。
一方、鍛造材中のMn含有量が1.20質量%を超えると、粗大なAlMn、(Fe、Mn)Al、Al-(Fe、Mn、Cr)-Siなどの晶出物を形成し、破壊の起点となるため、鍛造材の靱性などが低下する。したがって、鍛造材中のMn含有量は、鍛造材全質量に対して1.20質量%以下とし、1.10質量%以下であることが好ましく、1.00質量%以下であることがより好ましい。
(Cr:0.20質量%以上0.33質量%以下)
Crは、均質化処理時に、Al-(Fe、Mn、Cr)-Si系化合物を形成し、更に均質化処理時及びその後の熱間鍛造時に、Al-Cr系などの分散粒子を形成する。このような分散粒子は、再結晶後の粒界移動を妨げる効果を有するため、微細な結晶粒や亜結晶粒組織を得ることができる。鋳塊中に所定量のMn及びCrの少なくとも一方が含有されていることにより、鍛造材の破壊靱性や疲労特性などを向上させることができる。さらに、CrはAl-(Fe、Mn、Cr)-Si系化合物とアルミニウム母相との間の電位差を低減する効果を有する。この電位差を低減することにより、腐食環境における応力腐食割れの起点となるAl-(Fe、Mn、Cr)-Si系化合物と、アルミニウム母相との界面でのピット及び孔食の発生を抑制して、耐SCC性を改善することができる。
鍛造材中のCr含有量が0.20質量%未満であると、上記化合物とアルミニウム母相との間の電位差を低減する効果を十分に得ることができず、耐SCC性が劣化する。したがって、鍛造材中にCrを含有させる場合に、鍛造材中のCr含有量は、鍛造材全質量に対して0.20質量%以上とし、0.22質量%以上であることが好ましく、0.25質量%以上であることがより好ましい。
一方、鍛造材中のCr含有量が0.33質量%を超えると、上記化合物の電位を低下させる効果が低下し、Al-(Fe、Mn、Cr)-Si系化合物とアルミニウム母相との間の電位差が増大することから、耐SCC性が劣化する。したがって、鍛造材中のCr含有量は、鍛造材全質量に対して0.33質量%以下とし、0.32質量%以下であることが好ましく、0.30質量%以下であることがより好ましい。
なお、本実施形態においては、Mn及びCrから選択される少なくとも1種の元素を上記の範囲で含有するものとするが、Mn及びCrのうち、Mnを含有することがより好ましい。
(残部:Al及び不可避的不純物)
本実施形態に係るアルミニウム合金鍛造材の残部は、Al及び不可避的不純物である。不可避的不純物としては、例えば、B、C、Na、Ni、Hf、V、Cd、Pb、Sn、Zn、Zrなどが挙げられる。これらの不可避的不純物は、各々が鍛造材全質量に対して0.05質量%以下であることが好ましい。また、不可避的不純物の合計は、鍛造材全質量に対して0.15質量%以下であることが好ましい。不可避的不純物の含有量が上記の範囲内であれば、本発明の効果を妨げない。
次に、本実施形態に係るアルミニウム合金鍛造材において、所定の化合物とアルミニウム母相(マトリックス)と間の電位差の限定理由について、詳細に説明する。
([ΔVmax平均]:144mV以下)
主に、標準電極電位が高いFeを含むAl-Fe-Si系化合物は、標準電極電位が低いアルミニウム母相との電位差が大きい。このため、腐食環境下において、化合物とアルミニウム母相との間の界面で孔食が生じやすくなる。そこで、本実施形態においては、マトリックスと、円相当直径が1.0μm以上であるAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物と、の最大電位差の平均値[ΔVmax平均]を規定している。
最大電位差の平均値[ΔVmax平均]が144mVを超えると、化合物とアルミニウム母相との間の界面でピットや孔食が発生し、腐食環境において応力腐食割れが発生する。したがって、マトリックスとAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物との最大電位差の平均値[ΔVmax平均]は144mV以下とし、140mV以下であることが好ましく、135mV以下であることがより好ましい。
ここで、マトリックス及びAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物の電位差分布と、化合物の対応付けの方法について説明する。電位差分布と化合物の対応付けの方法は、特定の方法に限定されず、種々の態様が考えられるが、例えば、以下の(I)~(III)の工程により行うことができる。
(I)電子プローブマイクロアナライザー(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)による取得データ及び機械学習を用いた化合物の同定を行う。
(II)表面電位顕微鏡(KFM:Kelvin Force Microscope)による取得データを用いた電位差分布の評価を行う。
(III)電位差分布と化合物の対応付けを行う。
上記(I)~(III)の具体的な工程は、以下のとおりである。
(I)EPMAによる取得データ及び機械学習を用いた化合物の同定
EPMAを用いて元素濃度分布の測定を行い、EPMAによる元素濃度分布のデータより、機械学習を用いて化合物やアルミニウムマトリックスを同定する。EPMAによる取得データ及び機械学習を用いた化合物の同定法については、特開2023-103800号公報の段落[0024]~[0030]に記載の<取得工程>、段落[0031]~[0035]に記載の<元素領域特定工程>、及び段落[0036]~[0041]に記載の<不純物領域特定工程>に倣って実施することができる。なお、本実施形態においては、種々のサイズの化合物のうち、分解能等を考慮して、円相当直径が1μm以上であるAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物のみに着目するものとする。
(II)表面電位顕微鏡(KFM:Kelvin Force Microscope)による取得データを用いた電位差分布の評価
KFMによる取得データを用いて電位差分布を評価する。評価方法については、特開2023-103800号公報の段落[0024]~[0030]に記載の<取得工程>、及び段落[0042]~[0045]に記載の<電位差領域特定工程>に倣って実施することができる。なお、KFMを用いた電位差分布の評価については、『升田博之,表面科学,「KFMを用いた金属表面の腐食反応の解析」,Vo1.18,No.2,pp.72-78,1997』p.73-74の“3.実験”や、『Y.Takara,T.Ozawa,M.Yamaguchi,Japanese Journal of Applied Physics,61,2022),SL1008』pSL1008-2の”2.2 Characterization”に記載されている。
(III)電位差分布と化合物の対応付け
上記(I)により同定された化合物と、上記(II)により得られた電位差分布との対応付けを行う。対応付けの方法については、特開2023-103800号公報の段落[0046]~[0052]に記載の<座標系一致工程>に倣って、元素濃度分布図と電位差分布図とを同一座標となるように調整し、対応付けを行う。
上記のとおり、EPMAを用いて元素濃度分布の測定を行う方法や、KFMによる取得データを用いて電位差分布を評価する方法については、公知の方法を用いることができる。また、上記の工程においては、機械学習を用いたデータ取得及び解析を行っているが、手動による方法を用いることもできる。手動による方法を用いる場合には、Al-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物を構成する各元素が存在する座標を特定し、円相当直径が1μm以上であるAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物の領域のみを抽出する。その後、この化合物の領域における電位と、マトリックスの領域の電位と、から最大電位差の数値データを読み取り、各化合物で得られた最大電位差の平均値を算出する。このように、手動による方法でも、上記最大電位差の平均値を算出することができる。
さらに、本実施形態に係るアルミニウム合金鍛造材において、(条件1)及び(条件2)に規定されるMn濃度やCr濃度の限定理由について、詳細に説明する。
上述のとおり、標準電極電位が高いFeを含む化合物は、標準電極電位が低いアルミニウム母相との電位差が大きい。そこで、FeとAlとの間の標準電極電位を持つMnやCrを、Al-Fe-Si系化合物に固溶させることによって、化合物とアルミニウム母相との間の電位差を低減させることができる。具体的には、化合物中のMn、Cr組成を所定の範囲に制御することによって、化合物とアルミニウム母相との間の電位差を低減でき、耐SCC性の向上を実現することができる。本実施形態においては、円相当直径が1.0μm以上であるAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物において、下記(条件1)及び(条件2)の少なくとも一方を満足するものとする。
((条件1):平均Mn濃度[Mn]av:0.465超)
本実施形態において、平均Mn濃度[Mn]avとは、以下の式(1)により算出される値である。
・・・式(1)
ただし、上記式(1)において、
Fe(i)は、上記(I)及び(II)における測定領域において特定されたAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物のうち、円相当直径が1.0μm以上であるn個の領域を測定対象とした場合における、i番目(1≦i≦n)の領域内の平均Fe濃度を原子%で表した値である。
Mn(i)は、上記(I)及び(II)における測定領域において特定されたAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物のうち、円相当直径が1.0μm以上であるn個の領域を測定対象とした場合における、i番目(1≦i≦n)の領域内の平均Mn濃度を原子%で表した値である。
Cr(i)は、上記(I)及び(II)における測定領域において特定されたAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物のうち、円相当直径が1.0μm以上であるn個の領域を測定対象とした場合における、i番目(1≦i≦n)の領域内の平均Cr濃度を原子%で表した値である。
上記式(1)により算出される平均Mn濃度[Mn]avが0.465超であると、Al-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物における領域の電位を低下させ、化合物とアルミニウム母相との間の電位差を低減させることができる。その結果、耐SCC性の向上を実現することができる。したがって、上記式(1)により算出される平均Mn濃度[Mn]avは0.465超とし、0.480以上であることが好ましく、0.500以上であることがより好ましい。
((条件2)平均Cr濃度[Cr]av:0.125以上0.235未満)
本実施形態において、平均Cr濃度[Cr]avとは、以下の式(2)により算出される値である。
・・・式(2)
上記式(2)におけるFe(i)、Mn(i)、Cr(i)は、上記式(1)と同様である。
上記式(2)により算出される平均Cr濃度[Cr]avが0.125以上であると、Al-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物における領域の電位を低下させ、化合物とアルミニウム母相との間の電位差を低減させることができる。その結果、耐SCC性の向上を実現することができる。したがって、上記式(2)により算出される平均Cr濃度[Cr]avは0.125以上とし、0.130以上であることが好ましく、0.135以上であることがより好ましい。
一方、平均Cr濃度[Cr]avが0.235以上になると、化合物とアルミニウム母相との間の電位差を低減させる効果が得られなくなる。この原因については定かではないが、化合物中のCr濃度が増加することで、化合物の構造などが変化し、それに伴い電位が変化するのではないかと推測される。したがって、上記式(2)により算出される平均Cr濃度[Cr]avは0.235未満とし、0.230以下であることが好ましく、0.220以下であることがより好ましい。
(0.2%耐力:390MPa以上)
従来の鍛造材においては、高強度化に伴って、耐応力腐食割れ性が劣化するという問題点があった。これに対して、本実施形態に係るアルミニウム合金鍛造材は、高強度化と耐応力腐食割れ性の向上とを両立することを目的としている。具体的には、本実施形態によれば、0.2%耐力が390MPa以上の範囲であっても、耐SCC性を所望の値まで向上させることができる。なお、鍛造材の0.2%耐力は、390MPa以上であることが好ましく、395MPa以上であることがより好ましい。
以上、本実施形態によれば、軽量なアルミニウム合金鍛造材において高強度化と耐応力腐食割れ性の向上とを両立することができる。したがって、輸送機などの強度部材、特に、自動車の足回り部材に好適に使用することができ、軽量化による燃費改善を実現することができる。
[アルミニウム合金鍛造材の製造方法]
次に、本実施形態に係るアルミニウム合金鍛造材の製造方法について説明する。なお、本発明に係るアルミニウム合金鍛造材の製造方法は、特に限定されず、種々の態様が考えられる。以下に示す製造方法は、好ましい製造方法の一例である。
<鋳造工程>
鋳造工程は、上述の化学成分組成に溶解調整された溶湯を鋳造して、鋳塊を製造する工程である。鋳造の方法としては、連続鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)、ホットトップ鋳造法等の通常の溶解鋳造法を使用することができ、これらの鋳造方法のうち、適宜選択して鋳造する。鋳塊の形状は、丸棒などのインゴットやスラブ形状などがあり、特に制限されるものではない。
<均熱工程>
均熱工程は、上記鋳造工程により得られた鋳塊に、均質化処理を施す工程である。均質化処理の炉としては、空気炉、誘導加熱炉、硝石炉等を適宜使用することができる。鋳塊を均質化処理する際の保持温度は、400℃~570℃とすることが望ましい。また、保持時間は3時間以上とすることが好ましい。
<鍛造前の加熱工程>
上記均熱工程後の鋳塊に対して、鍛造工程の前に、2回目の加熱工程を実施することも望ましい。この加熱工程により、Al-Fe-Si系化合物にMn、Cr原子の固溶が更に促進され、マトリックスとAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物との電位差を低減することができる。その結果、高強度で耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金鍛造材を製造することができる。鍛造前の加熱工程の温度は、均熱工程の到達温度よりも高温とすると、より一層高い効果を得ることができる。また、均熱工程後に、一度冷却し、その後に再加熱する2回の熱処理工程としても、均熱工程において所定の温度に保持した後に、更に温度を上げる2段の熱処理工程としてもよい。
<鍛造工程>
鍛造工程は、均熱工程後、又は鍛造前の加熱工程後の鋳塊(鍛造素材)を加熱して、熱間鍛造を施す工程である。鍛造工程においては、メカニカルプレスや油圧プレスなどにより、鋳塊又は押出棒等の鍛造素材を熱間鍛造する。鍛造素材に対して熱間鍛造を施す際の開始温度(鍛造開始温度)が450℃以上であれば、鍛造組織における亜結晶粒組織の割合が増加し、亜結晶粒径が微細化するため、アルミニウム合金鍛造材の強度、靱性及び耐食性が向上する。したがって、鍛造開始温度は、450℃以上とすることが好ましい。
また、鍛造素材に対して熱間鍛造を施す際に、高温で塑性加工することによって、動的回復を促進し、加工後の転位密度を下げることができる。その結果、再結晶による結晶粒粗大化を抑制することができる。鍛造素材に対して熱間鍛造を施す際の終了温度(鍛造終了温度)が400℃以上であれば、動的回復が抑制され、Al合金鍛造材の強度、靱性、耐食性が向上する。したがって、鍛造終了温度は、400℃以上とすることが好ましい。
<調質工程>
調質工程は、上記鍛造工程後の部材に対して、溶体化処理と人工時効硬化処理を行う工程である。溶体化処理の保持温度は、520℃~570℃の範囲で行うことが好ましい。また、溶体化処理の保持時間は、20分~20時間、昇温速度は、100℃/hr以上とすることが望ましい。溶体化処理後に焼入れ処理を行ってもよい。焼入れ処理の方法としては、溶体化処理後の部材を、水中、温湯中に浸漬する方法等が挙げられる。焼入れ処理時の冷却速度は、40℃/秒以上とすることが望ましい。
人工時効硬化処理として、具体的には、T6(520~570℃での溶体化処理後、最大強さを得る人工時効硬化処理)、T7(上記溶体化処理後、最大強さを得る人工時効硬化処理条件を超えて過剰に処理を行う過剰時効処理)、T8(上記溶体化処理後、冷間加工を行い、更に最大強さを得る人工時効硬化処理)等が挙げられる。人工時効硬化処理は、上記T6、T7、T8の調質処理材となる条件(最大強さ)を考慮しながら、170℃~200℃の温度で、4時間~9時間の範囲から選択することが好ましい。
以下に実施例を挙げて本実施形態を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
<アルミニウム合金鍛造材の製造>
まず、種々の組成を有するアルミニウム合金の鋳塊から、直径Φが23mmであり、高さhが23mmである円柱形状のサンプルを切り出した。次に、得られたサンプルに対して、均質化処理を行った後、室温まで空冷した。その後、2回目の加熱工程を実施した後、水冷を行った。さらに、熱間加工により円柱軸方向に圧縮加工を行い、直ちに室温まで水冷した。その後、調質処理として、溶体化処理を行なった後、直ちに40℃の温湯で冷却し、人工時効硬化処理を実施することにより、円柱形状のアルミニウム合金鍛造材を得た。アルミニウム合金鍛造材中の各成分の含有量を下記表1に示し、人工時効硬化処理の条件を下記表2に示す。
(均質化処理)
昇温速度:167℃/時間
到達温度:500℃
保持時間:4時間
(2回目の加熱工程)
昇温速度:167℃/時間
到達温度:520℃
保持時間:1時間
(熱間加工)
昇温速度:10℃/秒
到達温度:450℃
保持時間:300秒
歪速度:6.5/秒
加工率:74%
(調質処理)
溶体化処理の昇温速度:167℃/時間
溶体化処理の到達温度:555℃
溶体化処理の保持時間:3時間
<試験による測定>
(引張試験)
得られたアルミニウム合金鍛造材から、引張試験片を採取した。図1Aは、アルミニウム合金鍛造材からの試験材の採取位置を示す平面図であり、図1Bは、図1AのA-A線に沿う断面図である。また、図2は、アルミニウム合金鍛造材から採取した引張試験片の形状を示す平面図である。
図1A及び図1Bに示すように、得られたアルミニウム合金鍛造材11は、平面図における円形状の直径Φが約45mmであり、軸方向(圧縮方向)の高さT1は約6mmであった。このアルミニウム合金鍛造材11の中心軸Oからメタルフロー方向(L方向)に3mm離隔した領域R1から、図2に示す引張試験片14を採取した。なお、引張試験片14は、引張方向がL方向に対して平面視で垂直方向(LT方向)になるように、アルミニウム合金鍛造材11の圧縮方向(ST方向)の中心部より切り出した。引張試験片14の厚さは1.6mm、平行部14aにおけるL方向の幅は4mm、LT方向の長さは10mm、つかみ部14bにおけるL方向の幅は6mmとした。
その後、採取した引張試験片14を用いて、評点間距離を10mm、引張速度を1mm/分として、引張試験を実施し、0.2%耐力を測定した。
(応力腐食割れ試験(SCC試験))
得られたアルミニウム合金鍛造材から、応力腐食割れ試験片を採取した。図3は、アルミニウム合金鍛造材から採取した応力腐食割れ試験片の形状を示す断面図である。図1A及び図1Bに示すように、アルミニウム合金鍛造材11における領域R1よりも径方向外側から、図3に示す断面U字型形状のSCC試験用の試験片13を採取した。なお、底部となる湾曲部13bがアルミニウム合金鍛造材11の中心軸O側、一対の平行部13aの端部がアルミニウム合金鍛造材11の径方向外側となるように、採取する位置を設計した。
試験片13の厚さは0.5mm、平行部13aにおけるL方向の長さは5mm、湾曲部13bの内側の曲率半径rは2mmとし、平行部13aの端部から2.5mmの位置に、ジグを挿入するための穴13cを設けた。
SCC試験においては、まず、上記試験片13の穴13cにボルト等を装着することにより、0.2%耐力の80%の応力をST方向に負荷し、この状態で、95℃のクロム酸水溶液に浸漬する浸漬法で行った。クロム酸水溶液は、3g/リットルのNaClと、33g/リットルの酸化クロムと、30g/リットルのニクロム酸カリウムとを混合することにより調製した。
割れの発生については、クロム酸水溶液に浸漬後、2時間、4時間、6時間、24時間毎に、試験片13における応力腐食割れ発生の有無を目視で観察することにより判定した。また、浸漬前に、試験片13のR部にひずみゲージを貼付し、試験中のひずみの時間変化をデータロガーにより測定した。そして、目視による応力腐食割れの発生時間までに観測された、割れ時の急激なひずみの変動の発生時間を破断時間とした。
(平均Mn濃度[Mn]av及び平均Cr濃度[Cr]avの測定)
(最大電位差の平均値[ΔVmax平均]の測定)
上記SCC試験用の試験片13における湾曲部13bを用いて、以下の(I)~(III)の工程により、平均Mn濃度[Mn]av及び平均Cr濃度[Cr]avの測定、並びに最大電位差の平均値[ΔVmax平均]の測定を行った。
(I)EPMAによる取得データ及び機械学習を用いた化合物の同定
特開2023-103800号公報(特許文献1)の段落[0024]~[0030]に記載の<取得工程>の手順に倣って、EPMA(日本電子株式会社製:JXA8530F PLUS)により、元素濃度(原子%)の分布を画像データとして取得した。試験片としては、図3に示す試験片13を使用し、細い間隔のハッチングで示す湾曲部13bに対して測定した。なお、画像の範囲を120μm×120μmとし、ステップを0.24μmとした条件で測定し、Fe、Mg、Si、Cu、Mn、Crの6枚の画像データを得た。
次に、Feを含む化合物に着目し、特開2023-103800号公報(特許文献1)の段落[0031]~[0035]に記載の<元素領域特定工程>の手順に倣って、機械学習を用いて化合物の特定を行った。化合物の特定は、非負値行列因子分解ソフト直交制約(NMF-SO)による次元削減手段を手法として引用することによって実施した。NMF-SOについては、『S.Muto and M.Shiga,Microscopy,Volume69,Issue2,April2020,pp.110-122』に記載されているとおりである。その結果、Al-Fe-Si系、Al-Fe-Mn-Si系、Al-Fe-Mn-Cr-Si系、Al-Mg-Si系等の化合物が特定された。Cuについては、ほぼ固溶状態にあり、化合物を形成していないことが分かった。これらの化合物が特定された領域のうち、Feを含む領域、すなわち、Al-Fe系、Al-Fe-Si系、Al-Fe-Mn系、Al-Fe-Cr系、Al-Fe-Mn-Cr系、Al-Fe-Mn-Si系、Al-Fe-Cr-Si系及びAl-Fe-Mn-Cr-Si系の化合物が形成されている領域を抽出した。
次に、それぞれの領域毎に、重心及び円相当直径を求め、得られた値のうち、円相当直径が1.0μm以上を満たす領域のみを抽出した。その後、円相当直径が1.0μm以上を満たすそれぞれの領域について、Fe濃度の平均値Fe(i)、Mn濃度の平均値Mn(i)、及びCr濃度の平均値Cr(i)を算出し、原子%で表した。なお、iは、円相当直径が1.0μm以上であって、各試験片において、Al-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物が特定されたn個の領域のうち、i番目の領域(1≦i≦n)を表す。
すなわち、Fe(i)は、測定領域において特定されたAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物のうち、円相当直径が1.0μm以上であるn個の領域を測定対象とした場合における、i番目(1≦i≦n)の領域内の平均Fe濃度を原子%で表した値である。
Mn(i)は、測定領域において特定されたAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物のうち、円相当直径が1.0μm以上であるn個の領域を測定対象とした場合における、i番目(1≦i≦n)の領域内の平均Mn濃度を原子%で表した値である。
Cr(i)は、測定領域において特定されたAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物のうち、円相当直径が1.0μm以上であるn個の領域を測定対象とした場合における、i番目(1≦i≦n)の領域内の平均Cr濃度を原子%で表した値である。
さらに、得られたFe(i)、Mn(i)、及びCr(i)を用いて、下記式(1)により算出される平均Mn濃度[Mn]av、及び下記式(2)により算出される平均Cr濃度[Cr]avを算出した。
・・・式(1)
・・・式(2)
(II)KFMによる取得データを用いた電位差分布の評価
特開2023-103800号公報の段落[0024]~[0030]に記載の<取得工程>に倣って、KFM(株式会社日立ハイテクサイエンス製:AFM5300)を用いて、電位差分布を評価した。なお、電位差分布は、EPMAによる化合物の同定を行った試験片と同一の視野において、ステップを0.23μmとした条件で測定した。その後、電位分布を画像データとして、それぞれの試験片毎に1枚の画像データを取得した。さらに、得られた電位の値からマトリックスの電位を減ずることにより、電位差分布図を取得した。
(III)電位差分布と化合物の対応付け
特開2023-103800号公報の段落[0046]~[0052]に記載の<座標系一致工程>に倣って、Feの元素濃度分布を用いて、上記(I)により同定された化合物と、上記(II)により得られた電位差分布との対応付け(座標系の一致)を行った。具体的には、上記(I)により得られた元素濃度分布の画像データと、上記(II)により得られた電位差分布の画像データに対して、平行移動、回転、拡大縮小を行い、両者の2次元座標系を一致させた。2次元座標系を一致させる手法としては、Perona and Malik拡散法により、A-KAZEのアルゴリズムを用いて、行った。A-KAZEについては、『ALCANTARILLA et al.:Fast Explicit Diffusion for Accelerated Features in Nonlinear Scale Spaces』に記載のとおりである。
上記のようにして2次元座標系を一致させることにより、元素濃度分布図(Fe、Mg、Si、Cu、Mn、Cr)の6枚と、これに対応する電位差分布図の1枚とを対応付けた。具体的には、上記(I)において特定された、円相当直径が1.0μm以上である、Al-Fe系、Al-Fe-Si系、Al-Fe-Mn系、Al-Fe-Cr系、Al-Fe-Mn-Cr系、Al-Fe-Mn-Si系、Al-Fe-Cr-Si系及びAl-Fe-Mn-Cr-Si系の化合物が形成されている領域と、上記(II)において測定された電位差分布図とを対応付けた。そして、上記化合物が形成されている各領域について、マトリックスとの最大電位差[ΔVmax](mV)を求めた。さらに、n個の領域の最大電位差[ΔVmax](mV)より、各試験片における最大電位差の平均[ΔVmax平均](mV)を求めた。
円相当直径が1.0μm以上である化合物における平均Mn濃度[Mn]av、平均Cr濃度[Cr]av、及び最大電位差の平均値[ΔVmax平均]、並びに、各試験による測定結果を、下記表2に合わせて示す。なお、下記表2に示すように、本実施例において、各試験材で抽出された化合物の個数nは、30個から74個の間であった。
上記表1及び表2に示すように、発明例No.1~4は、鍛造材中の各成分の含有量が本発明で規定する範囲内であるとともに、円相当直径が1.0μm以上である化合物における最大電位差の平均値[ΔVmax平均]が本発明で規定する範囲内であった。また、発明例No.1~4は、平均Mn濃度[Mn]av及び平均Cr濃度[Cr]avの少なくとも一方が、本発明で規定する範囲内であった。したがって、0.2%耐力を390MPa以上に維持した状態で、比較例と比較して破断時間が長くなり、強度と耐応力腐食割れ性の向上との両方を満足するアルミニウム合金鍛造材を得ることができた。
一方、比較例No.1は、Cu含有量が本発明で規定する下限値未満であるとともに、Mn及びCrの含有量が、いずれも本発明で規定する下限値未満である。また、最大電位差の平均値[ΔVmax平均]が、本発明で規定する上限値を超えていた。さらに、平均Mn濃度[Mn]avが、本発明で規定する下限値以下であるとともに、平均Cr濃度[Cr]avが、本発明で規定する下限値未満であった。したがって、特に0.2%耐力が低下し、破断時間も発明例と比較して短いものとなった。
比較例No.2は、Mn及びCrの含有量が、いずれも本発明で規定する下限値未満である。また、最大電位差の平均値[ΔVmax平均]が、本発明で規定する上限値を超えていた。さらに、平均Mn濃度[Mn]avが、本発明で規定する下限値以下であるとともに、平均Cr濃度[Cr]avが、本発明で規定する下限値未満であった。したがって、破断時間が短くなり、耐SCC性が著しく低下した。
比較例No.3は、Mn含有量が、本発明で規定する下限値未満であるとともに、Cr含有量が、本発明で規定する上限値を超えている。また、最大電位差の平均値[ΔVmax平均]が、本発明で規定する上限値を超えていた。さらに、平均Mn濃度[Mn]avが、本発明で規定する下限値以下であるとともに、平均Cr濃度[Cr]avが、本発明で規定する上限値を超えていた。したがって、破断時間が短くなり、耐SCC性が著しく低下した。
11 アルミニウム合金鍛造材
13 試験片
14 引張試験片

Claims (3)

  1. Mg:0.50質量%以上1.25質量%以下、
    Si:0.40質量%以上1.40質量%以下、
    Cu:0.50質量%以上1.00質量%以下、
    Fe:0.05質量%以上0.40質量%以下、
    Ti:0.005質量%以上0.10質量%以下、を含有するとともに、
    Mn及びCrから選択される少なくとも1種を、
    Mn:0.50質量%以上1.20質量%以下、
    Cr:0.20質量%以上0.33質量%以下、の範囲で含有し、
    残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金鍛造材であって、
    マトリックスと、円相当直径が1.0μm以上であるAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物と、の最大電位差の平均値[ΔVmax平均]が、144mV以下であることを特徴とする、アルミニウム合金鍛造材。
  2. Mg:0.50質量%以上1.25質量%以下、
    Si:0.40質量%以上1.40質量%以下、
    Cu:0.50質量%以上1.00質量%以下、
    Fe:0.05質量%以上0.40質量%以下、
    Ti:0.005質量%以上0.10質量%以下、を含有するとともに、
    Mn及びCrから選択される少なくとも1種を、
    Mn:0.50質量%以上1.20質量%以下、
    Cr:0.20質量%以上0.33質量%以下、の範囲で含有し、
    残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金鍛造材であって、
    円相当直径が1.0μm以上であるAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物において、下記(条件1)及び(条件2)の少なくとも一方を満足することを特徴とする、アルミニウム合金鍛造材。
    (条件1)下記式(1)により算出される平均Mn濃度[Mn]avが0.465超である。
    ・・・式(1)
    (条件2)下記式(2)により算出される平均Cr濃度[Cr]avが0.125以上0.235未満である。
    ・・・式(2)
    ただし、上記式(1)及び上記式(2)において、
    Fe(i)は、所定の測定領域において特定されたAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物のうち、円相当直径が1.0μm以上であるn個の領域を測定対象とした場合における、i番目(1≦i≦n)の領域内の平均Fe濃度を原子%で表した値である。
    Mn(i)は、所定の測定領域において特定されたAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物のうち、円相当直径が1.0μm以上であるn個の領域を測定対象とした場合における、i番目(1≦i≦n)の領域内の平均Mn濃度を原子%で表した値である。
    Cr(i)は、所定の測定領域において特定されたAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物のうち、円相当直径が1.0μm以上であるn個の領域を測定対象とした場合における、i番目(1≦i≦n)の領域内の平均Cr濃度を原子%で表した値である。
  3. 0.2%耐力が390MPa以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のアルミニウム合金鍛造材。
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