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JP2010188933A - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents

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JP2010188933A JP2009036993A JP2009036993A JP2010188933A JP 2010188933 A JP2010188933 A JP 2010188933A JP 2009036993 A JP2009036993 A JP 2009036993A JP 2009036993 A JP2009036993 A JP 2009036993A JP 2010188933 A JP2010188933 A JP 2010188933A
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Abstract

【課題】運転者に車両の横滑り状態を正確に感知させることができる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】操舵トルク検出手段14で検出した操舵トルクに基づいて操舵補助指令値を演算する操舵補助指令値演算手段21と、前記操舵補助指令値に基づいて前記ステアリング機構に操舵補助力を付与する電動モータを駆動するモータ制御手段29と、タイヤのグリップが失われた度合を表すグリップロス度を検出するグリップロス度検出手段23と、検出したグリップロス度の変化分を演算するグリップロス度変化分演算手段24と、前記グリップロス度及び前記グリップロス度変化分に基づいて横滑り指標を演算する横滑り指標演算手段25と、演算した横滑り指標の増加に応じて操舵力の抜け感を与えた後に操舵力のストッパ感を与えるように前記操舵補助指令値を補正する指令値補正手段26とを備えた。
【選択図】 図2

Description

本発明は、車両のステアリング機構に対し、電動モータにより操舵補助力を付与するようにした電動パワーステアリング装置に関し、特に、タイヤのグリップが失われた場合であっても、車両挙動を安定させることが可能な電動パワーステアリング装置に関する。
従来、ステアリング装置として、運転者がステアリングホイールを操舵したときの操舵トルクに応じて電動モータを駆動することにより、ステアリング機構に操舵補助力を与える電動パワーステアリング装置が普及している。
また、このような電動パワーステアリング装置において、操舵性能の向上やコーナリング時の車両の挙動を安定させるために、タイヤのグリップ状態を考慮して操舵制御を行うようにしたもの等も提案されている。
例えば、前輪の横力利用率を算出し、この横力利用率が大きく、グリップ限界に近いときほど、車速と手動操舵トルクとに基づいて決定される通常の補助操舵トルク指令値をより小さく補正することで、車両特性が限界に至る以前に操舵力を重くする等して運転者にこれを知らしめることにより、路面状況に応じて車両挙動の変化を抑制するようにしたもの(例えば、特許文献1参照)、また、例えば規範ヨーレートと実ヨーレートとの偏差をタイヤのグリップ状態相当の値とし、規範ヨーレートと実ヨーレートとの偏差が大きくグリップ力が小さいと予測されるときほど運転者に作用する反力が大きくなるように、操舵補助トルクを補正することで走行安定性を向上させるようにしたものも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
特許第3730341号明細書 特開2006−264392号公報
しかながら、上述のように、横力利用率から路面状況を推測して操舵補助トルク指令値の補正を行うようにした場合、タイヤの特性を考慮していないためロバスト性が低く、また、路面状況の推測精度が比較的低いことから、的確に車両挙動変化を抑制することができない可能性がある。
また、上述のように、規範ヨーレートと実ヨーレートとの偏差をグリップ状態相当の値として用いた場合、これらヨーレートの偏差は、グリップ状態を表すものの、実際のグリップ状態との誤差は比較的大きい。
また、このようにタイヤが車両の横滑り状態が大きくなってグリップ限界に近づくほど操舵反力を大きくすると、運転者のステアリングホイールの切増しを抑制することはできるが、運転者が横滑り状態が発生しているか否かを判断することができないという未解決の課題がある。
そこで、本発明は上記従来例の未解決の課題問題点に着目してなされたものであり、運転者に車両の横滑り状態を正確に感知させることができる電動パワーステアリング装置を提供することを目的としている。
上記目的を達成するために、請求項1に係る電動パワーステアリング装置は、車両のステアリング機構に入力される操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、前記操舵トルクに基づいて操舵補助指令値を演算する操舵補助指令値演算手段と、前記操舵補助指令値に基づいて前記ステアリング機構に操舵補助力を付与する電動モータを駆動するモータ制御手段とを備えた電動パワーステアリング装置の制御装置であって、タイヤのグリップが失われた度合を表すグリップロス度を検出するグリップロス度検出手段と、該グリップロスド検出手段で検出したグリップロス度の変化率を演算してグリップロス度変化率演算手段と、前記グリップロス度検出したグリップロス度及び前記グリップロス度変化率演算手段で演算したグリップロス度変化率に基づいて横滑り指標を演算する横滑り指標演算手段と、該横滑り指標演算手段で演算した横滑り指標の増加に応じて操舵力の抜け感を与えた後に操舵力のストッパ感を与えるように前記操舵補助指令値を補正する指令値補正手段とを備えたことを特徴としている。
また、請求項2に係る電動パワーステアリング装置は、前記横滑り指標演算手段は、前記グリップロス度にゲインを乗じた値及び前記グリップロス度変化率にゲインを乗算した値の和及び積の何れか一方で横滑り指標を算出することを特徴としている。
また、請求項3に係る電動パワーステアリング装置は、前記指令値補正手段は、前記横滑り指標が増加始めて所定閾値迄の間で、操舵力の抜け感を与えるために、前記操舵補助指令値を急増させてから通常値へ復帰させる補正値を算出する指令値増加補正部を有することを特徴としている。
また、請求項4に係る電動パワーステアリング装置は、前記指令値補正手段は、前記横滑り指標が所定閾値を越えると、横滑り指標の増加に応じて前記操舵補助指令値を減少させる補正値を算出する指令値減少補正部を有することを特徴としている。
また、請求項5に係る電動パワーステアリング装置は、前記指令値減少補正部は、前記補正値が所定値を超えたときに一定値に保持するように構成されていることを特徴としている。
また、請求項6に係る電動パワーステアリング装置は、車両に作用するセルフアライニングトルクを演算するセルフアライニングトルク検出部を有し、前記グリップロス度検出手段は、路面から生じるセルフアライニングトルクを車両運動モデルに基づいてセルフアライニングトルク推定値として推定するセルフアライニングトルク推定部と、前記セルフアライニングトルク検出部で検出されたセルフアライニングトルク検出値及び前記セルフアライニングトルク推定部で推定されたセルフアライニングトルク推定値の偏差に基づいて前記グリップロス度を算出するグリップロス度検出部とを備えることを特徴としている。
また、請求項7に係る電動パワーステアリング装置は、路面から前記ステアリング機構に入力されるセルフアライニングトルク検出するセルフアライニングトルク検出手段と、前記ステアリング機構の急操舵状態を検出する急操舵検出手段とを有し、
前記指令値補正部は、前記セルフアライニングトルク検出部で検出したセルフアライニングトルク検出値に基づいて前記操舵補助指令値に対してセルフアライニングトルク補償を行なうセルフアライニングトルク補償手段を有し、該セルフアライニングトルク補償手段は、前記セルフアライニングトルク検出値に対して、帯域フィルタ処理する帯域通過フィルタ処理部と、ゲイン調整するゲイン調整部とを少なくとも有し、前記急操舵検出手段で急操舵状態を検出したときに、前記帯域通過フィルタ処理部及び前記ゲイン調整部の少なくとも一方をセルフアライニングトルク補償値を低減する方向に補正する補償値補正手段を備えていることを特徴としている。
また、請求項8に係る電動パワーステアリング装置は、前記急操舵検出手段は、モータ角速度の絶対値が所定値を越え、且つ前記操舵トルクの絶対値が所定値を超えたときに急操舵状態と判断するように構成されていることを特徴としている。
本発明によれば、グリップロス度及びグリップロス度変化率に基づいて車両の横滑り指標を演算し、この横滑り指標が増加し始めたときに、運転者に先ず操舵力の抜け感を与えた後に操舵力のストッパ感を与えるように操舵補助指令値を補正するので、運転者に横滑り指標が大きくなったことを確実に認識させることができるという効果が得られる。
さらに、運転者が急操舵したときに、この急操舵状態を検出して、セルフアライニングトルクに基づく操舵補助指令値の補償値を抑制することにより、急操舵を確保することができるという効果が得られる。
本発明を適用した電動パワーステアリング装置の概略構成を示す図である。 コントローラの具体的構成を示すブロック図である。 コントローラの操舵補助電流指令値演算部で使用する操舵補助電流指令値算出マップを示す特性線図である。 セルフアライニングトルクの説明に供する模式図である。 SAT補償値演算部の具体的構成を示すブロック図である。 タイヤの進行方向とスリップ角によるセルフアライニングトルク及び横力の関係を示す図である。 横力の着力点とトレールとの関係を示す図である。 スリップ角の変化に対する、横力及びセルフアライニングトルクの変化を示すグラフである。 セルフアライニングトルク検出値SATdとセルフアライニングトルク推定値SATpとの関係を表すグラフである。 電流指令補正部で使用する補正値算出マップを示す特性線図である。 コントローラの処理手順の一例を示すフローチャートである。 操舵補助トルク/操舵トルクの伝達関数を示す特性線図である。 本発明におけるコントロールユニットの他の例を示すブロック図である。 操舵角δとセルフアライニングトルクの推定値SATpとの関係を表す特性図である。 本発明におけるコントロールユニットのさらに他の例を示すブロック図である。 ブラシ付きモータを適用した場合の実施形態を示すブロック図である。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態を示す全体構成図であって、図中、SMはステアリング機構である。このステアリング機構SMは、ステアリングホイール1に運転者から作用される操舵力が伝達される入力軸2aとこの入力軸2aに図示しないトーションバーを介して連結された出力軸2bとを有するステアリングシャフト2を備えている。このステアリングシャフト2は、ステアリングコラム3に回転自在に内装され、入力軸2aの一端がステアリングホイール1に連結され、他端は図示しないトーションバーに連結されている。
そして、出力軸2bに伝達された操舵力は、2つのヨーク4a,4bとこれらを連結する十字連結部4cとで構成されるユニバーサルジョイント4を介して中間シャフト5に伝達され、さらに、2つのヨーク6a,6bとこれらを連結する十字連結部6cとで構成されるユニバーサルジョイント6を介してピニオンシャフト7に伝達される。
このピニオンシャフト7に伝達された操舵力はステアリングギヤ機構8を介して左右のタイロッド9に伝達され、これらタイロッド9によって左右の転舵輪WL,WRを転舵させる。ここで、ステアリングギヤ機構8は、ギヤハウジング8a内に、ピニオンシャフト7に連結されたピニオン8bとこのピニオン8bに噛合するラック軸8cとを有するラックアンドピニオン形式に構成され、ピニオン8bに伝達された回転運動をラック軸8cで車幅方向の直進運動に変換して、タイロッド9に伝達する。
ステアリングシャフト2の出力軸2bには、操舵補助力を出力軸2bに伝達する操舵補助機構10が連結されている。この操舵補助機構10は、出力軸2bに連結した減速ギヤ等の減速機11と、この減速機11に連結された操舵補助力を発生する例えばブラシレスモータで構成される電動モータ12とを備えている。
また、減速機11のステアリングホイール1側に連接されたハウジング13内に操舵トルクセンサ14が配設されている。この操舵トルクセンサ14は、ステアリングホイール1に付与されて入力軸2aに伝達された操舵トルクを検出するもので、例えば、操舵トルクを入力軸2a及び出力軸2b間に介挿した図示しないトーションバーの捩れ角変位に変換し、この捩れ角変位を磁気変化や抵抗変化として検出し、それを電気信号に変換するように構成されている。
そして、操舵トルクセンサ14から出力される操舵トルク検出値Tは、図2に示すように、例えばマイクロコンピュータで構成されるコントローラ15に入力される。このコントローラ15には、トルク検出値Tの他に車速センサ16で検出した車速検出値V、電動モータ12に流れるモータ電流Ia〜Ic及びレゾルバ、エンコーダ等で構成される回転角センサ17で検出した電動モータ12の回転角θmも入力されている。
このコントローラ15では、入力されるトルク検出値T及び車速検出値Vxに応じた操舵補助力を電動モータ12で発生させる操舵補助電流指令値Irefを算出し、算出した操舵補助電流指令値Irefに対して回転角θmに基づいて算出するモータ角速度ωm及びモータ角加速度αmに基づいて収斂性補償、慣性補償、セルフアライニングトルク補償等各種補償処理を行ってからd−q軸指令値に変換し、これらd−q軸指令値を2相/3相変換してモータ電流指令値Iaref〜Icrefを算出し、算出したモータ電流指令値Iaref〜Icrefに基づいて電動モータ12に流れる電流Ia〜Icをフィードバック制御し、電動モータ12を駆動制御する。
すなわち、コントローラ15は、操舵トルクT及び車速Vxに基づいて操舵補助電流指令値Irefを演算する操舵補助電流指令値演算部21と、この操舵補助電流指令値演算部21で算出した操舵補助電流指令値Irefを補償する指令値補償部22と、タイヤのグリップが失われた度合を表すグリップロス度gを検出するグリップロス度検出手段としてのグリップロス度検出部23と、このグリップロス度検出部23で検出したグリップロス度gを例えば微分してグリップロス度変化率Δgを算出するグリップロス度変化率演算手段としてのグリップロス度変化率演算部24と、グリップロス度gとグリップロス度変化率Δgとに基づいて横滑り状態の度合いを表す横滑り指標を演算する横滑り指標演算手段としての横滑り指標演算部25と、演算した横滑り指標に基づいて操舵補助指令値を補正する横滑り指標認識用補正値を演算する指令値補正手段としての横滑り指標認識補正部26と、指令値補償部22で補償した補償後操舵補助電流指令値Iref′に基づいてd−q軸電流指令値を算出するd−q軸電流指令値演算部27と、このd−q軸電流指令値演算部27から出力されるd−q軸指令値を2相/3相変換してモータ電流指令値Iaref〜Icrefを算出する2相/3相変換部28と、この2相/3相変換部28から出力されるモータ電流指令値Iaref〜Icrefに基づいてモータ電流Ia〜Icを生成するモータ電流制御部29とで構成されている。
操舵補助電流指令値演算部21は、操舵トルクT及び車速Vxをもとに図3に示す操舵補助電流指令値算出マップを参照して電流指令値でなる操舵補助電流指令値Irefを算出する。
この操舵補助電流指令値算出マップは、図3に示すように、横軸に操舵トルクTをとり、縦軸に操舵補助電流指令値Irefをとると共に、車速Vxをパラメータとした放物線状の曲線で表される特性線図で構成され、操舵トルクTが"0"からその近傍の設定値Ts1までの間は操舵補助電流指令値Irefが"0"を維持し、操舵トルクTが設定値Ts1を超えると最初は操舵補助電流指令値Irefが操舵トルクTの増加に対して比較的緩やかに増加するが、さらに操舵トルクTが増加すると、その増加に対して操舵補助電流指令値Irefが急峻に増加するように設定され、この特性曲線が車速の増加に従って傾きが小さくなるように設定されている。
指令値補償部22は、回転角センサ17で検出されるモータ回転角θを微分してモータ角速度ωmを算出する角速度演算部31と、この角速度演算部31で算出されたモータ角速度ωmを微分してモータ角加速度αmを算出する角加速度演算部32と、角速度演算部31で算出されたモータ角速度ωmに基づいてヨーレートの収斂性を補償する収斂性補償部33と、角加速度演算部32で算出されたモータ角加速度αmに基づいて電動モータ12の慣性により発生するトルク相当分を補償して慣性感又は制御応答性の悪化を防止する慣性補償部34と、転舵輪側に発生するセルフアライニングトルク(SAT)を演算するSAT検出部35と、このSAT検出部35で演算したセルフアライニングトルクに基づいてセルフアライニングトルク補償を行うセルフアライニングトルク補償値SATcを算出するSAT補償部36とを備えている。
ここで、収斂性補償部33は、車速センサ16で検出した車速Vx及び角速度演算部31で算出されたモータ角速度ωmが入力され、車両のヨーの収斂性を改善するためにステアリングホイール1が振れ回る動作に対して、ブレーキをかけるように、モータ角速度ωmに車速Vxに応じて変更される収斂性制御ゲインKvを乗じて収斂性補償値Icを算出する。
また、SAT検出部35は、操舵トルクT、角速度ωm、角加速度αm及び操舵補助電流指令値演算部21で算出した操舵補助電流指令値Irefが入力され、これらに基づいてセルフアライニングトルクSATを演算する。
このセルフアライニングトルクSATを算出する原理は、路面からステアリングまでの間に発生するトルクの様子を図4に示して説明する。すなわち、運転者がステアリングホイール1を操舵することによって操舵トルクTが発生し、その操舵トルクTに従って電動モータ12がアシストトルクTmを発生する。その結果、車輪Wが転舵され、反力としてセルフアライニングトルクSATが発生する。また、その際、電動モータ12の慣性J及び摩擦(静摩擦)Frによってステアリングホイール1の操舵の抵抗となるトルクが生じる。これらの力の釣り合いを考えると、下記(1)式のような運動方程式が得られる。
J・αm+ Fr・Sign(ωm) + SAT = Tm + T …(1)
ここで、上記(1)式を初期値ゼロとしてラプラス変換し、セルフアライニングトルクSATについて解くと下記(2)式が得られる。
SAT(s) = Tm(s) + T(s) − J・αm(s) − Fr・Sign(ωm(s)) …(2)
上記(2)式から分かるように、電動モータ12の慣性J及び静摩擦Frを定数として予め求めておくことで、モータ角速度ωm、モータ角加速度αm、アシストトルクTm及び操舵トルクTよりセルフアライニングトルクSATを演算することができ、このセルフアライニングトルク検出値をSATdとする。ここで、アシストトルクTmは操舵補助電流指令値Irefに比例するので、アシストトルクTmに代えて操舵補助電流指令値Irefを適用する。
また、SAT補償部36は、図5に示すように、SAT検出部35から入力されるセルフアライニングトルク検出値SATdに対し帯域通過フィルタ処理を行なう帯域通過フィルタと位相調整部とを有してシミー、ブレーキジャッタ、路面振動等のステアリング振動を抑制するセルフアライニングトルク補償値を演算する制振制御部36aと、この制振制御部から出力されるセルフアライニングトルク補償値に対するゲインKsを調整するゲイン調整部36bと、操舵トルクセンサ14で検出した操舵トルクTと角速度演算部31で演算したモータ角速度ωmとに基づいて急操舵状態を検出する急操舵状態検出手段としての急操舵検出部36cと、この急操舵検出部36cで急操舵状態を検出していないときにゲイン調整部36bに対して比較的大きなゲインKs1を設定し、急操舵状態を検出しているときにゲインKs1より小さいゲインKs2を設定するゲイン設定部36dとを備えている。
そして、ゲイン調整部36bから出力されるセルフアライニングトルク補償値と後述する横滑り指標認識補正部26から横滑り指標認識用補正値SAとが加算器37で加算され、この加算器37の加算出力と収斂性補償部33で算出された収斂性補償値Icとが加算器38で加算され、この加算器38の出力と慣性補償部34で算出された慣性補償値とが加算器39で加算され指令補償値Icomが算出され、この指令補償値Icomが操舵補助電流指令値演算部21から出力される操舵補助電流指令値Irefに加算器40で加算されて補償後操舵補助電流指令値Iref′が算出され、この補償後操舵補助電流指令値Iref′がd−q軸電流指令値演算部27に出力される。
また、グリップロス度検出部23は、前述した指令値補償部22のSAT検出部35から入力されるセルフアライニングトルク検出値SATdとセルフアライニングトルクを推定するSAT推定部41から入力されるセルフアライニングトルク推定値SATpとに基づいてタイヤのグリップが失われた度合を表すグリップロス度を算出する。
ここで、SAT推定部41でセルフアライニングトルク推定値SATpを推定する原理は、以下の通りである。
タイヤが横滑りしながら転動する車両運動の様子をモデル化したものを、図6及び図7に示す。
図6では、タイヤが接地面全体において発生する横力はトレッド部の横方向への変形面積(斜線部)となり、セルフアライニングトルクSATがスリップ角を減少させる方向に働く様子を示している。また、図7は、横力の着力点(接地面の中心点)がタイヤの中心線より後方にあることを示している。そして、ニューマチックトレールとキャスタトレールとの加算値がトレールとなる。
図6及び図7より、セルフアライニングトルクSATは横力Fyとトレールとの積(横力Fy×トレール)であることがわかる。すなわち、トレールをεnとすると、セルフアライニングトルクSATは次式(3)で算出することができる。なお、この(3)式で算出されるセルフアライニングトルクを、セルフアライニングトルクの推定値SATpとする。
SATp=εn・Fy ……(3)
なお、重心から後輪までの距離をL2(固定値)、車両重量をm、横加速度をGy、車両慣性モーメントをMo、ヨーレートγの微分値をdγ/dt、ホイールベースをLとしたとき、横力Fyは次式(4)により算出することができる。
Fy=(L2・m・Gy+Mo・dγ/dt)/L ……(4)
一方、図8は横力FyとセルフアライニングトルクSATの特性をスリップ角に対して示す特性図であり、横力FyとSATとはスリップ角に対して非線形な特性となっている。そして、SATは横力Fy×トレールεnであり、キャスタトレールは固定値であることから、セルフアライニングトルクSATの横力Fyに対する非線形特性はニューマチックトレールの変化を直接表すことになる。また、セルフアライニングトルクSATの横力に対する特性は、図7における滑り域が増大し、ニューマチックトレールが減少することによって生じる。
さらに、セルフアライニングトルクSATは横力Fyとトレールεnとの積であり、線形領域では滑り域は増加せず、ニューマチックトレールは一定値であることから、線形領域でのニューマチックトレールとキャスタトレールとの和、つまりトレールεnで横力FyをセルフアライニングトルクSATの次元に合わせてセルフアライニングトルク推定値SATpとして図示すると図9のようになる。
ここで、ニューマチックトレールが一定であれば、セルフアライニングトルク検出値SATdとセルフアライニングトルク推定値SATpとは同じ軌跡を辿るが、滑り域が増大してニューマチックトレールが減少するとセルフアライニングトルク検出値SATdとセルフアライニングトルク推定値SATpとに差が生じる。この差はグリップが失われた度合を表し、これを本発明では「グリップロス度」とする。上記(2)式で算出されたセルフアライニングトルク検出値SATdと、上記(3)式で算出されたセルフアライニングトルク推定値SATpとを次式(5)により比較する。
g=SATp−SATd ……(5)
この(5)式で算出されるgがグリップロス度であり、このグリップロス度gにより車両におけるタイヤのグリップ力が失われた度合を推定することができる。
図9は、セルフアライニングトルク検出値SATdとセルフアライニングトルク推定値SATp(横力Fy×トレールεn)とを比較して示す特性図であり、スリップ角が大きくなるにしたがって、セルフアライニングトルクSATが失われる様子を示しており、上記(5)式から算出されるセルフアライニングトルク検出値SATdとセルフアライニングトルク推定値SATpとの差をグリップロス度g(図中網かけ部)として示している。
このため、車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサ42と車両の横加速度を検出する横加速度センサ43とを設け、これらヨーレートセンサ42で検出したヨーレートγと横加速度センサ43で検出した横加速度Gyとを横力検出部44へ入力し、この横力検出部44で前記(4)式の演算を行って横力Fyを算出し、算出した横力FyをSAT推定部41に入力して、このSAT推定部41で前記(3)式の演算を行うことにより、セルフアライニングトルク推定値SATpを算出する。
そして、SAT検出部35で演算したセルフアライニングトルク検出値SATdとSAT推定部41で推定したセルフアライニングトルク推定値SATpとをグリップロス度検出部23に入力し、このグリップロス度検出部23で前記(5)式の演算を行うことにより、タイヤのグリップが失われた度合を表すグリップロス度gを算出し、算出したグリップロス度gをグリップロス度変化率演算部24に入力するとともに、横滑り指標演算部25に出力する。
横滑り指標演算部25は、グリップロス度検出部23で検出したグリップロス度gに車速に応じて変化するゲインKg1を乗算するゲイン調整器25aと、グリップロス度変換率演算部24で演算したグリップロス度変化率Δgに車速応じて変換するゲインKg2を乗算するゲイン調整器25bと、ゲイン調整器25aの出力とゲイン調整器25bの出力とを加算して横滑り指標Siを算出する加算器25cとで構成されている。
また、電流指令補正部26は、入力される横滑り指標Siに基づいて補正値算出マップを参照して操舵補助電流指令値Irefに対して補正する電流指令補正値Aiを算出する。ここで、補正値算出マップは、図10に示すように、横軸に横滑り指標Siをとり、縦軸に電流指令補正値Aiをとった2次元マップ構成とされ、横滑り指標Siが“0”であるときには電流指令補正値Aiも“0”となり、横滑り指標Siが“0”正方向に増加すると所定値Si1迄の間に横滑り指標Siの増加に応じて電流指令補正値Aiが正方向に急増し、次いで横滑り指標Siが所定値Si1を超えて増加すると、所定値Si2までの間で横滑り指標Siの増加に応じて電流指令補正値Aiが急減して“0”に復帰し、さらに横滑り指標Siが増加すると、所定値Si3までの間で横滑り指標Siの増加に応じて電流指令補正値Aiが負方向に急減し、横滑り指標Siが所定値Si3を超えると電流指令補正値Aiが負の一定値となるように特性線が設定されている。
そして、電流指令補正値Aiが指令値補償部22のセルフアライニングトルク補償部36から出力されるセルフアライニングトルク補償値が入力された加算器37に供給する。
また、d−q軸電流指令値演算部27は、補償後操舵補助電流指令値Iref′とモータ角速度ωmとに基づいてd軸電流指令値Idrefを算出するd軸電流指令値算出部61と、電気角変換部30から入力される電気角θe及びモータ角速度ωmに基づいてd−q軸誘起電圧モデルEMF(Electromotive Force)のd軸EMF成分ed(θ)及びq軸EMF成分eq(θ)を算出する誘起電圧モデル算出部62と、この誘起電圧モデル算出部62から出力されるd軸EMF成分ed(θ)及びq軸EMF成分eq(θ)とd軸電流指令値算出部61から出力されるd軸電流指令値Idrefと補償後操舵補助電流指令値Iref′とモータ角速度ωmとに基づいてq軸電流指令値Iqrefを算出するq軸電流指令値算出部63とを備えている。そして、d軸電流指令値算出部61で算出されたd軸電流指令値Idref及びq軸電流指令値算出部63で算出されたq軸電流指令値Iqrefが2相/3相変換部26に供給される。
この2相/3相変換部26では、入力されるd軸電流指令値Idref及びq軸電流指令値Iqrefを電気角変換部30から入力される電気角θeに基づいて2相/3相変換して3相モータ電流指令値Iaref、Ibref及びIcrefを算出し、算出したモータ電流指令値Iaref、Ibref及びIcrefをモータ電流制御部29に出力する。
モータ電流制御部29は、電動モータ12の3相コイルに供給されるモータ電流Ia、Ib及びIcを検出するモータ電流検出部70と、2相/3相変換部26から入力されるモータ電流指令値Iaref,Ibref及びIcrefからモータ電流検出部70で検出したモータ電流Ia、Ib及びIcを個別に減算して各相電流偏差ΔIa、ΔIb及びΔIcを求める減算器71a、71b及び71cと、求めた各相電流偏差ΔIa、ΔIb及びΔIcに対して比例積分制御を行って電圧指令値Va、Vb及びVcを算出する電流制御部72と、この電流制御部72から出力される電圧指令値Va、Vb及びVcに基づいてデューティ演算を行って電動モータ12の各相のデューティ比を算出してパルス幅変調(PWM)信号でなるインバータ制御信号を形成するパルス幅変調部73と、このパルス幅変調部73から出力されるインバータ制御信号に基づいて3相モータ電流Ia、Ib及びIcを形成して電動モータ12に出力するインバータ74とを備えている。
次に、コントローラ15での動作を図11のフローチャートを参照して説明する。
まず、トルクセンサ14からの操舵トルクT、車速センサ16からの車速Vx、回転角センサ17からのモータ回転角θm、ヨーレートセンサ42からのヨーレートγ、横加速度センサ43からの横加速度Gyを読込む(ステップS1)。次いで、入力した操舵トルクT及び車速Vxに基づき図3に示す操舵補助電流指令値算出マップを参照して操舵トルクT及び車速Vxに応じた操舵補助電流指令値Irefを算出し(ステップS2)、回転角センサ17からのモータ回転角θmに基づいて電動モータ12の角速度ωmを演算すると共に、角加速度αmを演算する(ステップS3)。
次いで、操舵トルクT、操舵補助電流指令値Iref、モータ角速度ωm及びモータ角加速度αmをもとに前記(2)式の演算を行ってセルフアライニングトルク検出値SATdを演算する(ステップS4)。また、操舵トルクTの絶対値|T|が所定値Ts以上で且つモータ角速度ωmの絶対値|ωm|が所定値ωms以上である急操舵状態であるか否かを判定し(ステップS5)、急操舵状態ではないときにはSAT補償ゲインKs1を選択し(ステップS6)、急操舵状態であるときにはSAT補償ゲインKs2を選択する(ステップS7)。そして、セルフアライニングトルク検出値SATdを帯域通過フィルタ処理するとともに位相調整処理を行い、さらに選択された補償ゲインを乗算してセルフアライニングトルク補償値SATcを算出する(ステップS8)。さらに、ヨーレートγ、横加速度Gyをもとに前記(4)式の演算を行って横力Fyを算出し、算出した横力Fyとトレールεnとに基づいて前記(3)式の演算を行うことにより、セルフアライニングトルク推定値SATpを算出する(ステップS9)。
続いて、セルフアライニングトルク検出値SATd及びセルフアライニングトルク推定値SATpの偏差からグリップロス度gを演算出し(ステップS10)、次いで、グリップロス度gを微分してグリップロス度変化率Δgを演算し(ステップS11)、次いで、車速Vxに基づいてゲインKg1及びKg2を演算する(ステップS12)。
続いて、下記(6)式に基づいて横滑り指標Siを算出する(ステップS13)。
Si=Kg1・g+Kg2・Δg …………(6)
次いで、算出した横滑り指標Siをもとに図10の補正値演算マップを参照して電流指令補正値Aiを算出し(ステップS14)、次いで、モータ角速度ωmに基づいてヨーレートの収斂性を補償する収斂性補償値Icを算出すると共に、モータ角加速度αmに基づいて電動モータ12の慣性により発生するトルク相当分を補償して慣性感又は制御応答性の悪化を防止する慣性補償値Iiを算出し(ステップS15)、収斂性補償値Ic及び慣性補償値Iiを加算すると共に、電流指令補正値Ai及びセルフアライニングトルク補償値SATcを加算して補償値Icomを算出し(ステップS16)、算出した補償値Icomを操舵補助電流指令値Irefに加算して補償後操舵補助電流指令値Iref′を算出する(ステップS17)。
次いで、算出した補償後操舵補助電流指令値Iref′に基づいてd軸電流指令値Idrefを算出すると共に、q軸電流指令値Iqrefを算出し(ステップS18)、次いでd軸電流指令値Idref及びq軸電流指令値Iqrefを電気角θeに基づいて2相/3相変換して3相モータ電流指令値Iaref、Ibref及びIcrefを算出する(ステップS19)。
次いで、3相モータ電流指令値Iaref、Ibref及びIcrefからモータ電流検出部70で検出したモータ電流Ia、Ib及びIcを減算して電流偏差ΔIa、ΔIb及びΔIcを算出し(ステップS20)、算出した電流偏差ΔIa、ΔIb及びΔIcに対してPI制御処理を行って電圧指令値Va、Vb及びVcを算出し(ステップS21)、算出した電圧指令値Va、Vb及びVcをパルス幅変調してパルス幅変調信号を形成し、形成したパルス幅変調信号をインバータ74に出力する(ステップS22)。
これにより、インバータ74から3相のモータ駆動電流Ia、Ib及びIcが電動モータ12に出力され、電動モータ12が駆動制御されることにより、操舵トルクT及び車速Vxに応じた最適な操舵補助力を発生し、この操舵補助力が減速機11を介してステアリングシャフト2に伝達されて軽い操舵を行うことができる。
したがって、ステアリングホイール1を中立位置に保持して車両が直進走行状態であるときには、操舵トルクセンサ14で検出される操舵トルクTが略“0”であり、操舵補助電流指令値演算部21で演算される操舵補助電流指令値Irefも略“0”となる。
また、SAT検出部35で演算されるセルフアライニングトルク検出値SATd及びSAT推定部41で推定されるセルフアライニングトルク推定値SATpが略“0”となり、これに応じてグリップロス度検出部23で検出されるグリップロス度gが略“0”を維持し、グリップロス度変化率演算部24で演算されるグリップロス度変化率Δgも略“0”を維持する。このため、横滑り指標演算部25で算出される横滑り指標Siも略“0”となり、電流指令補正部26で算出される電流指令補正値Aiも略“0”となる。
一方、直進走行状態ではセルフアライニングトルク検出値SATdが略“0”であるので、SAT補償部36で演算されるセルフアライニングトルク補償値SATcも略“0”となる。
このため、加算器40で算出される補償後操舵補助電流指令値Iref′も略“0”となって、d−q指令値演算部27から出力されるd軸電流指令値Idref及びq軸電流指令値Iqrefも略“0”となり、2相/3相変換部28で変換された3相電流指令値Iaref、Ibref及びIcrefも略“0”となる。また、電動モータ12も回転停止していることからモータ電流検出部70で検出されるモータ電流Ia、Ib及びIcも略“0”となることから、減算器71a,71b及び71cで演算される電流偏差ΔIa、ΔIb及びΔIcも略“0”となり、PI電流制御部72から出力される電圧指令値Va、Vb及びVcも略“0”となることからパルス幅変調部73からパルス幅変調信号がインバータ74に出力されず、インバータ74から出力されるモータ電流Ia、Ib及びIcが略“0”となって電動モータ12が停止状態を維持する。
この直進走行状態から、比較的旋回半径が大きいカーブを走行する状態となると、ステアリングホイール1を比較的緩やかに操舵することにより、操舵トルクセンサ14で比較的小さい操舵トルクTが検出されることになり、操舵補助電流指令値演算部21で比較的小さい値の操舵補助電流指令値Irefが演算される。
これと同時にSAT検出部35でも比較的小さい値のセルフアライニングトルク検出値SATdが算出されるとともに、SAT推定部41でも横力Fyに基づいて比較的小さい値のセルフアライニングトルク推定値SATpが算出される。
この場合でも、セルフアライニングトルク検出値SATdとセルフアライニングトルク推定値SATpとが略等しいことになり、グリップロス度検出部23で検出されるグリップロス度gは略“0”を維持し、グリップロス度変化率演算部24で演算されるグリップロス度変化率Δgも略“0”を維持することになり、横滑り指標演算部25で算出される横滑り指標Siも略“0”を継続し、電流指令補正部26で算出される電流指令補正値Aiも略“0”を継続する。
一方、SAT補償部36では、セルフアライニングトルク検出値SATdが比較的小さい値であるとともに、操舵トルクTが所定値Ts未満で、且つモータ角速度ωmが所定値ωms未満であるので、急操舵状態とは判断されないことにより、比較的大きなゲインKs1が選択されてこれがゲイン調整部36cに供給される。このため、ゲイン調整部36cからブレーキジャッタ、路面振動を抑制するセルフアライニングトルク補償値SATcが出力され、これが指令値補償部22の各補償値Ii及びIcに加算される。
そして、電流補償部22で算出される補償値Icomが操舵補助電流指令値演算部21で算出された操舵補助電流指令値Irefに加算されて操舵状態に最適な指令値補償が行われ、運転者のステアリングホイール1の操舵操作を的確に補助することができる。
ところが、旋回半径の小さいコーナーを走行したり、中位の旋回半径ではあるが高速で旋回したりすることにより、車両に横滑りが発生する状態となると、操舵補助電流指令値演算部21から出力される操舵補助電流指令値Irefが増加し、さらに、前述した図9に示すように、SAT推定部41で車両の横力Fyに基づいて推定されるセルフアライニングトルク推定値SATpに比較してSAT検出部35で演算されるセルフアライニングトルク検出値SATdが減少し始めることになり、グリップロス度検出部23で検出されるグリップロス度gが正方向に増加し始めるとともに、グリップロス度変化率演算部24で演算されるグリップロス度変化率Δgも正方向に増加する。
このため、横滑り指標演算部25で、前記(6)式の演算が行われて、横滑り指標Siが“0”より正方向に増加することになり、電流指令補正部26で図10に示すように、電流指令補正値Aiが横滑り指標Siに基づいて急増することになる。
そして、電流指令補正値Aiが操舵補助電流指令値Irefに加算されることにより、補償後操舵補助電流指令値Iref′が急増することになるため、d−q軸電流指令値演算部27で算出されるd軸電流指令値Idref及びq軸電流指令値Iqrefが増加して、2相/3相変換部28で変換された3相電流指令値Iaref〜Icrefが増加する。これに応じて、電流偏差ΔIa〜ΔIcが増加することにより、PI電流制御部72から出力される電圧指令値Va〜Vcも増加し、インバータ74から出力されるモータ電流Ia〜Icが増加されて電動モータ12が通常の回転速度より速い回転速度で回転されて、大きな操舵補助力を発生する。この大きな操舵補助力が減速機11を介してステアリングシャフト2bに伝達されることにより、操舵が急に軽くなって、運転者に操舵力の抜け感を与える。
その後、さらに横滑り指標Siが増加して所定値Si1を超えると、電流指令補正値Aiが急減して所定値Si2で“0”に復帰することにより、通常の操舵補助状態に復帰するが、その後にさらに横滑り指標Siが増加すると、電流指令補正値Aiが負方向に減少する。このため、操舵補助電流指令値演算部21で算出される操舵補助電流指令値Irefから電流指令補正値Aiが減算されることになり、補償後操舵補助電流指令値Iref′が減少して、電動モータ12で発生される操舵補助力が通常時の操舵補助力より減少されることにより操舵反力を増加させ、運転者にストッパ感を与えて操舵限界にあることを確実に認識させることができる。
このように、横滑りが大きくなると、横滑り指標Siの増加に応じて、一旦操舵力の抜け感を与えた後に操舵力のストッパ感を与えるので、運転者に横滑りの限界状態を確実に認識させることができ、安全な運転支援を行うことができる。
一方、車両の走行状態で、運転者が先行車両の急制動により先行車両との衝突を避けたり、対向車の急接近による衝突を避けたりする場合に、運転者の意志で急操舵を行う場合には、急操舵検出部36bで急操舵状態が検出されると、ゲイン調整部36cのゲインが通常時のゲインKs1から小さい値の非常時ゲインKs2に変更される。このため、SAT補償部36で算出されるセルフアライニングトルク検出値SATdに基づくシミー、ブレーキジャッタ、路面振動を抑制するためのセルフアライニングトルク補償値SATcが減少補正されることになり、この分操舵補助電流指令値Irefに対する補償値が減少されるので、運転者の意志による急操舵を妨げることなく、高い操舵応答性を確保することができる。
この場合の、ゲイン変更による操舵補助トルク/操舵トルクの伝達関数は図12に示すようになり、通常時ゲインKs1である場合に比較して非常時ゲインKs2を選択した場合には応答特性を改善することができる。
ここで、操舵トルクセンサ14が操舵トルク検出手段に対応し、図11の処理が制御手段に対応し、このうちステップS2の処理が電流指令値演算部に対応し、ステップS4の処理がSAT検出部35(セルフアライニングトルク検出手段)に対応し、ステップS5の処理が急操舵検出部36c(急操舵検出手段)に対応し、ステップS6及びS7の処理がゲイン設定部36dに対応し、ステップS8の処理がSAT補償部36(セルフアライニングトルク補償手段)に対応し、ステップS9の処理がSAT推定部41に対応し、ステップS10の処理がグリップロス度検出部23(グリップロス度検出手段)に対応し、ステップS11の処理がグリップロス度変化率演算部24(グリップロス度変化分演算手段)に対応し、ステップS12及びS13の処理が横滑り指標演算部25(横滑り指標演算手段)に対応し、ステップS14の処理が電流指令補正値演算部26(指令値補正手段)に対応し、ステップS15〜S17の処理が指令値補償部22に対応し、ステップS18の処理がd−q軸電流指令値演算部25に対応し、ステップS19の処理が2相/3相変換部26に対応し、ステップS20の処理が減算器71a〜71cに対応し、ステップS21の処理がPI電流制御部72に対応し、ステップS22の処理がパルス幅変調部73に対応している。
なお、上記実施形態においては、グリップロス度gとグリップロス度変化率Δgとの和で横滑り指標Siを演算する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、図13に示すように、グリップロス度gにゲインKg1を乗算した値とグリップロス度変化率ΔgにゲインKg2を乗算した値とを乗算器80で乗算して、両者の積によって横滑り指標Siを演算するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、グリップロス変化率Δgを演算する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、グリップロス変化率に代えてグリップロス変化量を適用するようにしてもよい。
さらに、上記実施形態においては、SAT補償部36で急操舵でないときに通常時ゲインKs1を選択し、急操舵状態で非常時ゲインKs2を選択する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、帯域通過フィルタのフィルタ特性を変更することにより、シミー、ブレーキジャッタ、路面振動などの制振制御を抑制するようにしてもよい。
なお、上記実施形態においては、電流指令補正部26で横滑り指標Siに基づいて電流指令補正値Aiを算出する図10の補正値算出マップの特性線が線形に設定されている場合について説明したが、これに限定されるものではなく、特性線を非線形に設定するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、車両の横加速度を横加速度センサ43で検出する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ステアリング機構SMの操舵角と車速Vxとに基づいて横加速度を推定するようにしてもよい。
さらに、上記実施形態においては、ヨーレートγ、横加速度Gy及び車両運動モデルに基づいて横力Fyを推定し、この横力Fyに基づいて実際に車両に作用するセルフアライニングトルクを推定する場合について説明したが、ハブ等に横力センサを設け、この横力センサで直接横力を検出し、これを用いてセルフアライニングトルク推定値SATpを算出してもよい。
また、横力Fyを用いずに、水平面における車両運動モデルと、車速Vx及び操舵角δとを用いてセルフアライニングトルクを推定してもよい。
つまり、ヨーレートγとスリップ角βと車速Vxと操舵角δとの関係は、次式(7)及び(8)で表すことができる。
mVx・(dβ/dt)
=−[mVx+[(Kf・Lf−Kr・Lr)/Vx]]・γ−(Kf+Kr)・β+Kf・δ/n
……(7)
I・(dγ/dt)
=−[(Kf・Lf2+Kr・Lr2)/Vx]・γ+(−Kf・Lf+Kr・Lr)・β
+Kf・Lf・δ/n
……(8)
なお、(7)及び(8)式中の、mは車両重量、Iは車両重心を通るZ軸回りの慣性モーメント、Lはホイールベース(L=Lf+Lr)、Lf,Lrは、前,後車軸から重心までの水平距離、Kf,Krは、前,後タイヤのコーナリングパワー、nはオーバーオールステアリングギア比、δ/nは前輪実舵角、βは車体重心のスリップ角、Vxは車速、γはヨーレートである。
セルフアライニングトルクはヨーレートγとスリップ角βの関数として表すことができることから、ヨーレートγとスリップ角βとを車速Vxと操舵角δとの関数として整理すれば、セルフアライニングトルク推定値SATpを求めることができる。車速Vxと操舵角δよりセルフアライニングトルク推定値SATpを求めると、図14に示すようになる。この特性は実験によって車両毎の特性値を測定してから、車両運動モデルを用いてシミュレーションによって作成してもよい。
したがって、この場合には、図15に示すように、車速センサ(車速検出手段)21で検出した車速Vxと、図示しない操舵角センサ(操舵角検出手段)で検出した操舵角δとをSAT推定部41に入力し、このSAT推定部41で、図14の特性図にしたがってセルフアライニングトルク推定値SATpを算出すればよい。
さらに、上記実施形態においては、モータ角速度ωm、モータ角加速度αm、操舵トルクT及び操舵補助電流指令値Irefに基づいてセルフアライニングトルクSATを演算する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、操舵補助電流指令値Irefに代えて、モータ電流検出部70で検出したモータ電流Ia〜Icを3相/2相変換してq軸電流Iqを算出し、このq軸電流Iqとモータ角加速度αmとに基づいて下記(9)式の演算を行って算出したモータアシストトルクTmaを適用するようにしてもよい。
Tma= Kt・Iq−Jm・αm ……(9)
ここで、Ktはモータのトルク定数、Jmはモータのロータ部の慣性モーメントである。
この他、電動モータ12の出力軸、減速機11の入出力軸等のトルク伝達軸に磁歪式トルクセンサなどのトルクセンサを配設し、このトルクセンサで検出したモータアシストトルクTmaを適用するようにしてもよい。
さらにまた、上記実施形態においては、ステアリングシャフト2に減速機11を介して電動モータ12を連結したコラム形式の電動パワーステアリング装置に本発明を適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ステアリングギヤ機構8に減速機を介して電動モータを連結するピニオン形式の電動パワーステアリング装置やラック軸に減速機を介して電動モータを連結するラック形式の電動パワーステアリング装置にも本発明を適用することができる。
なおさらに、上記実施形態においては、本発明をブラシレスモータに適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ブラシ付きモータに適用する場合には、図16に示すように、角速度演算部31でモータ電流検出部70から出力されるモータ電流検出値Im及び端子電圧検出部90から出力されるモータ端子電圧Vmに基づいて下記(10)式の演算を行ってモータ角速度ωmを算出すると共に、d−q軸電流指令値演算部25を省略して補償後操舵補助電流指令値Iref′を直接モータ電流制御部27に供給し、さらにモータ電流制御部27を夫々1つの減算部71、電流制御部72、パルス幅変調部73とインバータ74に代えたHブリッジ回路91で構成すればよい。
ωm=(Vm−Im・Rm)/K0 …………(10)
ここで、Rmはモータ巻線抵抗、K0はモータの起電力定数である。
1 ステアリングホイール
2 ステアリングシャフト
12 電動モータ
14 操舵トルクセンサ
15 コントローラ
17 回転角センサ
19 車速センサ
21 操舵補助電流指令値演算部
22 指令値補償部
23 グリップロス検出部
24 グリップロス度変化率演算部
25 横滑り指標演算部
26 電流指令値補正部
27 d−q軸電流指令値演算部
28 モータ電流制御部
35 SAT検出部
36 SAT補償部
41 SAT推定部
42 ヨーレートセンサ
43 横加速度センサ
44 横力検出部

Claims (8)

  1. 車両のステアリング機構に入力される操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、前記操舵トルクに基づいて操舵補助指令値を演算する操舵補助指令値演算手段と、前記操舵補助指令値に基づいて前記ステアリング機構に操舵補助力を付与する電動モータを駆動するモータ制御手段とを備えた電動パワーステアリング装置の制御装置であって、
    タイヤのグリップが失われた度合を表すグリップロス度を検出するグリップロス度検出手段と、
    該グリップロスド検出手段で検出したグリップロス度の変化分を演算してグリップロス度変化分演算手段と、
    前記グリップロス度検出したグリップロス度及び前記グリップロス度変化部演算手段で演算したグリップロス度変化分に基づいて横滑り指標を演算する横滑り指標演算手段と、
    該横滑り指標演算手段で演算した横滑り指標の増加に応じて操舵力の抜け感を与えた後に操舵力のストッパ感を与えるように前記操舵補助指令値を補正する指令値補正手段と
    を備えたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
  2. 前記横滑り指標演算手段は、前記グリップロス度にゲインを乗じた値及び前記グリップロス度変化率にゲインを乗算した値の和及び積の何れか一方で横滑り指標を算出することを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
  3. 前記指令値補正手段は、前記横滑り指標が増加始めて所定閾値迄の間で、操舵力の抜け感を与えるために、前記操舵補助指令値を急増させてから通常値へ復帰させる補正値を算出する指令値増加補正部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング装置。
  4. 前記指令値補正手段は、前記横滑り指標が所定閾値を越えると、横滑り指標の増加に応じて前記操舵補助指令値を減少させる補正値を算出する指令値減少補正部を有することを特徴とする請求項3に記載の電動パワーステアリング装置。
  5. 前記指令値減少補正部は、前記補正値が所定値を超えたときに一定値に保持するように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の電動パワーステアリング装置。
  6. 車両に作用するセルフアライニングトルクを演算するセルフアライニングトルク検出部を有し、
    前記グリップロス度検出手段は、路面から生じるセルフアライニングトルクを車両運動モデルに基づいてセルフアライニングトルク推定値として推定するセルフアライニングトルク推定部と、前記セルフアライニングトルク検出部で検出されたセルフアライニングトルク検出値及び前記セルフアライニングトルク推定部で推定されたセルフアライニングトルク推定値の偏差に基づいて前記グリップロス度を算出するグリップロス度検出部とを備えることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置の制御装置。
  7. 路面から前記ステアリング機構に入力されるセルフアライニングトルク検出するセルフアライニングトルク検出手段と、前記ステアリング機構の急操舵状態を検出する急操舵検出手段とを有し、
    前記指令値補正部は、前記セルフアライニングトルク検出部で検出したセルフアライニングトルク検出値に基づいて前記操舵補助指令値に対してセルフアライニングトルク補償を行なうセルフアライニングトルク補償手段を有し、該セルフアライニングトルク補償手段は、前記セルフアライニングトルク検出値に対して、帯域フィルタ処理する帯域通過フィルタ処理部と、ゲイン調整するゲイン調整部とを少なくとも有し、前記急操舵検出手段で急操舵状態を検出したときに、前記帯域通過フィルタ処理部及び前記ゲイン調整部の少なくとも一方を、セルフアライニングトルク補償値を低減する方向に調整する補償値補正手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
  8. 前記急操舵検出手段は、モータ角速度の絶対値が所定値を越え、且つ前記操舵トルクの絶対値が所定値を超えたときに急操舵状態と判断するように構成されていることを特徴とする請求項7に記載の電動パワーステアリング装置。
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