本発明の圧電体素子は、ノズルに連通する開口部が設けられた圧力室部材と、開口部を覆うように圧力室部材上に設けられた振動板と、この振動板上に設けられた下電極と、この下電極上に設けられた圧電体と、この圧電体上にあって、開口部と対向する領域の内側に設けられた上電極と、圧電体上にあって、上電極から延伸され上電極よりも幅が狭いリード電極とを備え、圧電体は、開口部の縁部に沿って所定の領域に設けられた溝部と、この溝部以外の領域であって、開口部の縁部に沿って設けられた、圧電体素子として実質的に機能しない非能動領域(圧電体非能動部)を備え、この非能動領域にリード電極を配置、延伸するようにしたものである。
この構成によって、振動拘束部(圧力室孔の縁部)を跨いで延伸されるリード電極に対する応力を緩和し、クラック等の破壊を防止することができる。
また本発明は、ノズルに連通する開口部が設けられた圧力室部材と、開口部を覆うように、圧力室部材上に設けられた振動板と、この振動板上に設けられた下電極と、この下電極上に設けられた圧電体と、この圧電体上にあって、開口部と対向する領域の内側に設けられた上電極と、圧電体上にあって、上電極から延伸され開口部の縁部を跨ぐ、上電極よりも幅が狭いリード電極とを備え、リード電極が開口部の縁部を跨ぐ領域の近傍を除き、圧電体には開口部の縁部に沿う領域に溝部が設けられ、この溝部のリード電極に面する側の端部を、リード電極側が凸となる曲線形状としたものである。
この構成によって、振動拘束部(圧力室孔の縁部)を跨いで延伸されるリード電極に対する応力を緩和し、クラック等の破壊を防止することができる。
また本発明は、上述した溝部を、開口部の縁部とオーバーラップする領域に、少なくとも下電極の表面まで到達する深さで設けている。
この構成によって、圧電体素子の高密度化を可能にし、圧電体素子の駆動による振動板の変位効率を向上させ、更に振動拘束部(圧力室孔の縁部)近傍の圧電体の振動による応力を緩和し、圧電体のクラック等による破壊を防止することができる。
また本発明は、開口部の縁部の形状を、略楕円形状としたものである。
この構成によって、実質的に圧電体素子として機能する圧電体能動部の形状も、事実上楕円形状となり、この形状にはエッジ部分が存在しないため、応力集中による圧電体素子の破壊を防止することができる。
また本発明は、上述の溝部の端部を、リード電極に面する側において、溝部よりも幅の広い略円形状としたものである。
この構成によって、振動拘束部(圧力室孔の縁部)を跨いで延伸されるリード電極に対する応力を緩和し、クラック等の破壊を防止することができる。
また本発明は、上電極から延伸されて配置されたリード電極の側方に、圧電体を除去した凹部を設けたものである。
この構成によって、圧電体素子の高密度配列を保ったまま、圧電体非能動部に内在する応力が開放され、振動拘束部の近傍での振動が抑制され、クラック等の破壊を防止することができる。
また本発明は、上述の圧電体を除去した凹部と、上述の溝部とを連通させたものである。
この構成によって、振動拘束部の近傍での振動が更に抑制され、クラック等の破壊を防止することができる。
また本発明は、開口部と対向する領域の外側において、上電極と圧電体の間、または圧電体と下電極の間のいずれかに、絶縁体層を備えるものである。
この構成によって、絶縁体層が積層された領域の境界に生じる段差部が、実質的に圧電体素子の駆動時の振動の影響を受けない領域に配置されることにより、段差部を起点とするクラック等の破壊が起こらない。また、リード電極は絶縁層を介して圧電体上に延伸されていることにより、リード電極部の絶縁性を確保され、更に、リード電極の蓄電容量を低減させて圧電体素子の駆動時の信頼性と性能を向上させることができる。
また本発明は、溝部の端部と上電極から延伸されたリード電極の間に、開口部の縁部を跨ぐように振動抑制部を設けたものである。
この構成によって、振動拘束部近傍の圧電体非能動部の応力を抑制することができる。
また本発明は、振動抑制部を、圧電体よりヤング率の高い材料で構成したものである。
この構成によって、圧電体非能動部の剛性や強度を向上させ、更に振動を抑制することができる。
また本発明は、振動抑制部を、上電極と同じ材料で構成したものである。
この構成によって、振動抑制部を圧電体素子の製造工程において上電極と同時に形成することができ、素子製造工程が簡略化される。
また本発明は、振動抑制部を、水分を透過しない金属、無機材料、もしくは、吸水率0.1%以下の防湿性材料で構成したものである。
この構成によって、圧電体非能動部の圧電体が、水分の侵入、吸着により劣化し、物性変化によりクラック等の破壊が起こりやすくなるのを防ぐことができる。
また本発明は、振動抑制部を、気相成膜法により形成したものである。
これによって、振動抑制部を均一に高精度に形成することができる。
また本発明は、リード電極が引き出される方向における、上電極の端部と開口部の縁部までの水平距離をNとし、リード電極が引き出される方向と反対の方向における、上電極の端部と開口部の端部までの水平距離をMとするとき、N>Mの関係を満たすようにしたものである。
この構成によって、圧電体素子の駆動による振動板の変位効率を低下させずに、振動拘束部における応力を低減させることができる。
また本発明は、圧電体の厚みをtとし、圧電体の上に設けられたリード電極と溝部までの最端距離をWとするとき、W>2tの関係を満たすようにしたものである。
この構成によって、圧電体非能動部の効果が有効に発揮され、振動拘束部の応力を低減することができる。
また本発明は、縁部を跨ぐリード電極の幅をwとするとき、更に(2W+w)≧3tの関係を満たすようにしたものである。
この構成によって、リード電極の幅が、圧電体非能動部の効果を有効に発揮させる幅となり、圧電体素子の高密度化と振動拘束部の応力の低減を両立させることができる。
また本発明は、上電極から延伸されたリード電極の端部に表面実装用のパッド部が形成され、このパッド部の側方に、圧電体を除去した凹部を形成したものである。
この構成によって、圧電体の除去により内部応力を解放し、隣接するパッド部間で圧電体層を不連続としてFPC実装時の押圧による圧電体層のクラック、特に、パッド部を横断するクラックの発生を防止することができる。
また本発明は、振動板と下電極とを兼ねる導電性部材を備え、溝部を、開口部の縁部とオーバーラップする領域に、導電性部材の表面まで到達する深さで設けたものである。
この構成によって、圧電体素子の駆動による振動板と下電極を兼ねる導電性部材の変位効率を向上させ、更に振動拘束部(圧力室孔の縁部)近傍の圧電体の振動による応力を緩和し、圧電体のクラック等による破壊を防止することができる。
また本発明は、振動板が圧縮応力になるように形成したものである。
この構成によって、振動エネルギーの有効活用と、圧電体の応力調整により振動拘束部のクラックの発生を防止することができる。
また本発明は、振動板と下電極と圧電体と上電極からなる積層体の内部応力の総和が圧縮応力になるように形成したものである。
この構成によって、圧電体を含む積層体の応力調整により振動拘束部のクラックの発生を防止することができる。
また本発明は、上電極の縁部と圧電体との段差部を覆う絶縁体を形成したものである。
この構成によって、圧電体と上電極の密着性の向上が図れ、長期駆動における信頼性が向上する。
また本発明は、絶縁体を圧電体層よりヤング率の低い材料で形成したものである。
この構成によって、圧電体の振動特性を阻害することなく、長期駆動における信頼性が向上する。
また本発明は、絶縁体を、水分を透過しない無機材料、もしくは、吸水率0.1%以下の防湿性材料で構成したものである。
この構成によって、圧電体と上電極の界面剥離の進行を防止することが出来、振動特性を阻害することなく、長期駆動における信頼性が向上する。
また、本発明の圧電体素子を備えるインクジェットヘッドは、駆動耐久性が高く、長期信頼性が確保できる
また、本発明の圧電体素子を備えるインクジェット式記録装置は、高性能で信頼性が向上したものとなる。
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子を示す平面図である。
図2は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の断面図であり、図1のII−II線に沿った断面を図示したものである。
図3は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の断面図であり、図1のIII−III線に沿った断面を図示したものである。
図1〜図3に示すように、平板状の圧力室部材Aには、圧力室2を形成する複数の楕円形(図1に一点破線で示してある)の圧力室孔1が設けられている(圧力室孔1は圧力室部材Aに設けられた開口部である)。圧力室部材Aの一方の面には、圧力室孔1を覆うように振動板3が設けられている。
なお、圧力室部材Aにおいて、振動板3が設けられる面と反対側の面には、後述するように、ノズル108(ノズル開口)が設けられる(図18を参照。図18において、符号108がノズルを示し、符号102が圧力室を示す。そしてノズル108と連通して、開口部である圧力室孔101が設けられている)。
楕円形の圧力室孔1(圧力室2)は、圧力室部材Aの長手方向に所定の間隔で配列され、この圧力室孔1を覆うように(あるいは塞ぐように)振動板3が設けられ、この振動板3の上に下電極4が設けられ、更に下電極4上に圧電体5が設けられ、更に圧電体5上に上電極6が設けられ、この上電極6からリード電極7が延伸されている。なお、振動板3、下電極4、圧電体5、上電極6は後述するようにスパッタ法によって積層体として形成される。
楕円形の圧力室孔1とその周壁2bとの境界(以降、「開口部の縁部2a」と呼称する)の上方の圧電体5は、開口部の縁部2aに対向(より具体的には開口部の縁部2aとオーバーラップ)するように、所定幅で下電極4の深さまで、即ち下電極4の表面に到達する深さまで除去されている。即ち、圧力室孔1の平面領域内に楕円形の半島状の圧電体能動部9を形成する(囲む)所定幅の楕円状の溝部12が設けられている。即ち、溝部12は環状に設けられる。
なお、振動板3と下電極4は1つの導電性部材(例えばCrをスパッタリングして形成する)によって兼用することができる。この場合、上述した溝部12は、開口部の縁部2aとオーバーラップする領域に、この導電性部材の表面まで到達する深さで設けられることとなる。
なお、溝部12の深さは、少なくとも、下電極4あるいは振動板3と下電極4を兼用する導電性部材の表面に到達する深さに設けられていればよく、下電極4あるいは振動板3と下電極4を兼用する導電性部材の内部にまで及ぶ深さであってもよい。圧電体素子の製造プロセスにおいて、エッチング等によって圧電体5のみを除去しようとしても、実際は下電極4等まで溝部12の深さが及ぶ場合があるが、本発明はそのような状況を除外するものではない。
また、振動板3によって、上電極6側へのインクの浸透等を防ぐことが可能であれば、下電極4を除去しても支障は起こらない。即ち、このとき溝部12は下電極4を貫通し、振動板3に到達する深さに構成されている。
この溝部12によって、上電極6と下電極4の間に圧電体5を備える領域と、下電極4と圧電体5は備えるが、上電極6が設けられない「残存する圧電体部60」が分断される(図2参照)。
ここで、上電極6と下電極4の間に圧電体5を備える領域は、圧電体能動部9を構成する。圧電体能動部9とは実質的に圧電体素子として機能する部分であり、下電極4と上電極6に電圧を印加することで、その間に挟まれた圧電体5が変形する。その結果振動板3が圧力室2側に凸に変形し、振動板3によって覆われた圧力室2に対して圧力が付与される。そして、圧力室2に充填されたインク(図示せず)をノズル(図示せず)から吐出する。
図1に明瞭に示されるように、溝部12は開口部の縁部2aの全領域にわたって設けられているわけではない。即ち、上電極6から延伸するリード電極7が配置された領域には溝部12は設けられていない。この溝部12が設けられていない領域は、実質的に圧電体素子として機能しない非能動領域(以降、圧電体非能動部11と呼称する)であり、図1に示すようにリード端子7で分断されているという意味で不連続な領域となっている。
また楕円形の上電極6が、圧電体能動部9の平面領域内に設けられている。
溝部12の不連続部(圧電体非能動部11)は圧電体5が除去されていない領域であり、圧電体能動部9における圧電体5と溝部12の外の圧電体5を繋ぐ領域である。
さて、リード電極7は、楕円形の上電極6の一端部から上電極6の幅より狭い幅で延伸され、このリード電極7は圧電体非能動部11上に配置され、開口部の縁部2aを跨いでFPCを実装するパッド部8まで延設されている。
このような構成において、開口部の縁部2aは圧電体5の振動拘束部10となっている。即ち、開口部の縁部2aを境に、上電極6の側は圧電体素子として変位し、一方のパッド部8の側は変位しない。よって振動拘束部10は圧電体素子の変位による屈曲が集中する部位であり、金属疲労等に基づくクラックが生じやすい。
圧電体素子を高密度化するためには、素子間隔を狭くする必要があり、更に、千鳥配列等の複数列の配列にすると、一部の素子間にリード配線(図示せず)を設ける必要がある。溝部12は、高密度化の程度によってその溝幅が決まるが、エッチング工程の精度や位置精度の面から、少なくとも圧電体5の層厚(膜厚)より溝幅を広くするのが望ましい(図2は、デフォルムされて溝幅が膜厚より狭く描かれている)。
図22は、本発明の実施の形態1における溝部12の他の構成例を示す断面図である。
図22に示すように、溝部12の断面形状は上電極6側の開口部が広く、下電極4側に向かって狭くなる略台形状となっていることが好ましい。このとき、残存する圧電体60および圧電体5の断面形状は下電極4側が広いテーパー状となる。
また、溝部12の環が途切れる端部においても、圧電体非能動部11に面した溝部12の断面は略台形状であり、ここでも圧電体5の断面はテーパー状をなす。
このように、溝部12の側面は圧電体非能動部11の一部をなすが、圧電体能動部9が振動した場合、上電極6側から下電極4側にかけて、圧電体5を末広がり状のなだらかな斜面を持つ(即ちエッジ部分を持たない)ように構成すると応力緩和が図れ、圧電体5の端部のクラックを防ぐのに非常に有効である。このとき図22に示すように、圧電体5の斜面が下電極4と接する部分が、開口部の縁部2aの内側に収まる範囲でないと逆に振動の拘束点ができてクラックが増加してしまう場合があるため、圧電体5に設けられた斜面が下電極4と接する部分を、開口部の縁部2aの内側に設けることが望ましい。
また、圧電体素子を千鳥配列等の複数列の配列にすると、圧電体素子と圧電体素子の間の「残存する圧電体60」の上にリード電極7を設ける必要がでてくる。ここで溝部12の断面形状が逆(順テーパー状)とすると、「残存する圧電体60」において強度が不足し、製造時のばらつきを考慮すると、圧電体素子およびリード電極7の配置等の高密度化に支障をきたす可能性がある。
また、配線部や隣接する圧電体素子に影響を及ぼさない位置まで溝部12の幅を広げてもよい。
なお、溝部12を開口部の縁部2aの外側に設けることも考えられるが、そのように構成した場合、開口部の縁部2aとオーバーラップする領域には圧電体5が配置されることとなる。従って開口部の縁部2aとオーバーラップする圧電体5の領域は全て振動拘束部となるため、この部分にクラックが生じる場合がある。また、振動拘束部が増え、圧電体5の発生圧力を効率的にインクに伝えることができない。
また圧電体5に電界を印加し、振動させた場合には、残存する内部応力もクラックや発生圧力に影響を与える。特に振動板3はインクに有効にエネルギーを伝えるため、圧縮の内部応力を持つように形成することが好ましい。これは伸びきった弦で弓を引くより、緊張状態の弦で弓を引く方が、矢はより遠くに飛ばせるのに例えられる。更に振動板3の内部応力は圧電体5にも影響を及ぼし、振動板3として圧縮応力を備える膜を形成することで圧電体5のクラック、特に振動拘束部10を防ぐことが可能となる。
これは一般的に振動板3は圧電体5よりヤング率が大きく、膜厚も厚いため、圧電体素子を構成する上電極6と下電極4も含めた積層体の中で応力制御を行う役目も担い、結果的に圧電体5に有効な圧縮応力を与えることとなる。圧電体5は通常高温状態で成膜されるが、たとえばシリコンのようなPZTより線膨張係数が低い基板を使い、この基板上にPZTで圧電体5を形成すると、室温に戻したときに線膨張係数の差により引っ張り応力となる。引っ張り応力の薄膜は一般的にクラックが入りやすいが、振動板3に圧縮応力を付与し、圧電体素子をこの振動板3を含む積層体として捉えて、全体で応力調整を行うと、クラックが防止できることがわかった。なお振動板3を含めず、下電極4と上電極6と、これらに挟まれた圧電体5からなる積層体の内部応力の総和が圧縮応力になるように形成されている場合も同様の効果が示される。この場合振動板以外の電極に圧縮応力の一部を肩代わりさせるような応力配分が好適である。
なお、振動板3が圧縮応力を備えるようにするには、振動板3を形成する際のスパッタ条件において、イオンの打ち込みエネルギーを大きくするような方法が一般的に用いられる。例えば基板温度を維持したままで、スパッタガス圧を低下させ、高出力でスパッタリングすればよい。具体的な条件は後述する。
実施の形態1によれば、上電極6に覆われた圧電体能動部9の周縁部の殆どの圧電体5を、溝部12により除去しているので、圧電体素子の駆動による振動板3の変位効率が向上するとともに、圧電体素子間の変位ばらつきが小さくなっている。更に圧電体能動9における振動拘束部となり得る部分の圧電体5は、溝部12によって除去されているので、環状に形成された溝部12の周囲の圧電体5にクラックが発生することはなく、高い信頼性を確保することが可能となる。
さて上述のように、リード電極7は開口部の縁部2aを跨いでパッド部8へと延伸されており、リード電極7において、開口部の縁部2aの真上に位置する振動拘束部10は、圧電体5の変位の拘束点になるため、応力により圧電体5にクラックの破壊が生じやすい。そこで、リード電極7を上電極6より幅を狭くし、実質的に圧電体素子として機能しない領域である圧電体非能動部11にリード電極7を延伸して、リード電極7にかかる応力を緩和している。
次に、図14〜図17を参照して、実施の形態1の圧電体素子の製造方法を説明する。
図14(a)は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の積層工程を示す説明図、(b)は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の圧力室孔形成工程を示す説明図、(c)は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の接着剤の付着工程を示す説明図である。
図14(a)に示すように、基板120上に順に(ただし図面上は、上下を逆に記載している)、密着層121、上電極103、層状の圧電体110(図1における圧電体5に相当)、絶縁体層115を積層形成する。絶縁体層115は、リード電極7およびパッド部8(共に図1等を参照)を覆うように所定の形状にパターンニングする。更に、下電極112および振動板111を、スパッタリング法により成膜、積層する。
密着層121は、基板120と上電極103との密着性を高めるために、基板120と上電極103との間に形成するものであり、これらの間の密着性が高いのであれば必ずしも密着層121を形成する必要はない。密着層121は、後述するように、基板120と同様に除去される。振動板111の素材はCrである。
基板120は、18mm角に切断したSi基板であるが、この基板120は、Si基板に限られるものではなく、ガラス基板、金属基板またはセラミックス基板を用いてもよい。また、基板サイズも18mm角に限られるものではなく、Si基板であれば、φ2〜φ10インチのウエハを用いてもよい。
密着層121は、Tiターゲットを用い、基板120を400℃に加熱しながら100Wの高周波電力を印加し、1Paのアルゴンガス中で1分間成膜することにより得られる。
この条件において、密着層121の膜厚は0.02μmとなる。なお、密着層121の素材は、Tiに限られず、タンタル、鉄、コバルト、ニッケルまたはクロム、もしくは、それら(Tiを含む)の化合物であってもよい。また、膜厚は、0.005μm〜0.2μmの範囲であればよい。
上電極103は、Ptターゲットを用い、基板120を600℃に加熱しながら、1Paのアルゴンガス中で、200Wの高周波電力で12分間成膜することにより得られる。
この条件において、上電極103の膜厚は0.2μmとなり、(111)面に配向する。なお、上電極103の素材は、Pt、イリジウム、パラジウムおよびルテニウムの群から選ばれた少なくとも1種の貴金属、もしくは、それらの化合物であればよく、膜厚は、0.05μm〜2μmの範囲であればよい。
圧電体110は、多元スパッタ装置を用いて形成する。ターゲットには、化学量論組成よりPb量の多いPZT(Zr/Ti=53/47、Pbが20モル%過剰)の焼結体ターゲットを用いる。真空中で予めヒーターにより基板加熱を行い、基板120の温度580℃で、アルゴンと酸素の混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=15:5)において、真空度0.3Pa、高周波電力250Wの条件で180分間成膜することにより、3μmの膜厚を堆積させる。
なお、圧電体110のZr/Ti組成は、Zr/Ti=30/70〜70/30であればよく、膜厚は、1〜5μmの範囲であればよい。また、圧電体110の素材としては、PZTにLa、Sr、Nb、Al等の添加物を添加したもの等、PZTを主成分とする圧電材料を用いてもよく、PMNやPZNであってもよい。
圧電体110は、上述したスパッタ条件で作成したものを、断面SEM観察を行うと、結晶粒が柱状構造を有しており、その柱状粒子径は、0.2μmであった。
絶縁体層115は、感光性ポリイミド樹脂をスピンコート法により塗布し、露光および除去により所定形状にパターン化した後、所定温度により焼成、硬化させる。他の方法として、SiO2等の無機材料をスパッタリング法により成膜することも可能である。
下電極112は、Ptターゲットを用い、室温において1Paのアルゴンガス中、200Wの高周波電力で10分間成膜することにより得られる。
この条件において、下電極112の膜厚は、0.2μmとなる。なお、層状の下電極112の素材は、Ptに限られず、導電性素材であればよく、膜厚は、0.1μm〜0.4μmの範囲であればよい。
振動板111は、Crターゲットを用い、室温において1Paのアルゴンガス中、200Wの高周波電力で6時間成膜することにより得られる。
この条件において、振動板111の膜厚は3.0μmとなる。振動板111の素材は、Crに限られず、ニッケル、アルミニウム、タンタル、タングステン、シリコン、もしくは、これらの酸化物または窒化物(例えば、二酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、窒化シリコン)等であってもよい。また、振動板111の膜厚は、1μm〜10μmであればよい。
なお上述したスパッタ条件により、振動板3は圧縮応力を付与した状態で形成される。成膜された膜が圧縮応力を備えるか否かは上記したものと同一条件で所定の基板(たとえばフラットなシリコン)上に成膜してみて、基板の反りを測定することで判断できる。膜面を上にして基板が上に凸状態であれば、その膜は圧縮応力を備えると判断でき、反り量から内部応力の計算を行い、好適な範囲で成膜条件を制御する。また実施の形態1において、振動板111まで積層した状態で反り量を測定すると、膜面を上にして凸形状となっており、成膜前の状態から比較すると圧縮応力となっていることが確認できた。
一方、図14(b)に示すように、圧力室部材Aを形成する。
図19は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の圧力室部材が形成される基板を示す説明図である。
図19に示すように、圧力室部材Aは、上述の基板120よりも大きいサイズ、例えば、4インチウエハのSi基板130を用いて形成する。
具体的には、まず、Si基板130(圧力室部材用)に対し、複数の圧力室孔101形状をパターンニングする。このパターンニングは、図14(b)に示すように、4つの圧力室孔101を1組とし、各組を区画する区画壁102bの厚さを、各組内の圧力室孔101を区画する周壁102aの厚さの約2倍の厚さとしている。
次に、パターンニングされたSi基板130を、ケミカルエッチングまたはドライエッチング等でエッチング加工し、長手方向に複数の圧力室孔101を配列形成した圧力室部材Aが得られる。
次に、成膜後の基板120と圧力室部材Aとを接着剤を用いて接着する。この接着剤の付着は電着による。即ち、まず、図14(c)に示すように、圧力室部材Aの接着面としての圧力室の区画壁102bおよび周壁102aの上面に、接着剤114を電着により付着させる。
具体的には、図示はしないが、区画壁102bおよび周壁102aの上面に、下地電極膜として、光が透過する程度に薄い数百ÅのNi薄膜をスパッタ法により形成し、次に、このNi薄膜上に、パターンニングされた樹脂接着層となる接着剤114を形成する。
電着液としては、アクリル樹脂系水分散液に0〜50重量部の純水を加えてよく攪拌混合した溶液を用いる。Ni薄膜の膜厚を光が透過するほど薄くするのは、Si基板130(圧力室部材A)に樹脂接着剤が完全に付着したことを容易に視認できるようにするためである。
実験によれば、電着条件は、液温約25℃、直流電圧30V、通電時間60秒が好適であり、この条件下で約3〜10μmのアクリル樹脂を、Si基板130(圧力室部材A)のNi薄膜上に電着させる。
図15(a)は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の成膜後の基板と圧力室部材との接着工程を示す説明図、(b)は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の縦壁の形成工程を示す説明図である。
図15(a)に示すように、成膜後の基板120と圧力室部材Aとを、電着された接着剤114により接着する。基板120に成膜された中間層113を基板側接着面として接着する。
また、成膜用の基板120は18mm角のサイズであり、圧力室部材Aを形成するSi基板130は、4インチサイズと大きいので、図19に示すように、複数個(図19では14個)の基板120を1個の圧力室部材A(Si基板130)に貼り付ける。この貼り付けは、図15(a)に示すように、各基板120の中心が圧力室部材Aの区画壁102bの中心に位置するように位置決めされた状態で行われる。
基板120を貼り付けた後、圧力室部材Aを基板120側に押圧して密着させ、接着部の液密性を高める。更に、接着した基板120および圧力室部材Aを加熱炉内で徐々に加熱昇温し、接着剤114を完全に硬化させる。硬化後、プラズマ処理を行ない、接着部から圧力室孔101側にはみ出た接着剤114を除去する。
なお、上記では、成膜後の基板120と圧力室部材Aとを接着したが、圧力室孔101を形成する前の段階で、Si基板130(圧力室部材用)を成膜後の基板120に接着するようにしてもよい。
次に、図15(b)に示すように、圧力室部材Aの各区画壁102bおよび周壁102aをマスクとして、中間層113をエッチングし、各区画壁102bおよび周壁102aに連続する縦壁形状に仕上げる。
なお、この周壁102aの縁部が、図3等を用いて説明した開口部の縁部2aに相当する。
図16(a)は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の成膜用基板および密着層の除去工程を示す説明図、(b)は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の上電極層の個別化工程を示す説明図である。
図16(a)に示すように、成膜用の基板120および密着層121をエッチングにより除去する。
次に、図16(b)に示すように、上電極103層をフォトリソグラフィー技術を用いてエッチングし、圧力室部材Aの各圧力室孔101の上方に形成される各圧電体能動部9(図1等を参照)に対応させて個別化する。このとき同時に、各上電極103(図1の符号6が対応する)から延長されるリード電極7およびパッド部8(いずれも図1等を参照)を、エッチングにより所定形状に形成する。なお、図16(b)では、リード電極7およびパッド部8は図面に垂直な方向に形成されており、図面上は省略されている。
図17(a)は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の圧電体の個別化工程を示す説明図、(b)は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の圧力室部材の切断工程を示す説明図である。
図17(a)に示すように、圧電体110が複数の半島状の圧電体能動部9(図1参照)および半島の幅狭の付け根部(圧電体非能動部11(図1参照))の形状になるように、感光性樹脂を塗布、除去してパターンニングし、ドライエッチングにより溝部12(図1等を参照)を設ける。既に説明したように、溝部12は下電極112に到達する深さまで形成される。圧電体能動部9は、圧力室孔101の平面領域内に形成され、各上電極103および各圧電体能動部の中心が、対応する各圧力室孔101の中心に高精度で一致するように形成される。
なお、図17(a)、(b)においては、図面が複雑になることを避けるために、分断された各圧電体110の間に本来は残存する圧電体(図2に示す「残存する圧電体60」)の記載を省略しているが、実際は図2の記載に従う。
なお、エッチングによる溝壁形状は、前述したように断面形状は上電極側の開口部が広く、下電極側に向かって狭くなる略台形状となっている(図22を参照)。また、エッチングは、ドライエッチングとしたが、ウェットエッチングでもよい。以上のようにして、上電極層103および圧電体110を圧力室孔101毎に個別化して圧電体素子を形成する。なお、実施の形態1では、接着により圧力室部材を形成したが、振動板形成後に、Niメッキ等により、振動板上に直接、圧力室部材を形成してもよい。
また、実施の形態1では、成膜用の基板120に対し順に、上電極103以下の膜を積層し、積層後、成膜用の基板120を除去したが、圧力室部材Aの上に振動板111を形成し、順に、下電極112、絶縁体層115、圧電体110、上電極103を成膜してもよい。また、絶縁体層115は、圧電体110と上電極103の間に形成してもよい。
図18は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子を用いたインクジェットヘッドの要部の構成を示す構成図である。
図18に示すように、圧力室部材Aには、その厚さ方向(上下方向)に貫通する圧力室孔101が形成されている。圧力室孔101の上部を覆うように、圧電体素子部Bが配置され、圧力室孔101の下部を覆うように、インク流路部材Cが配置されている。圧力室孔101は、その上下を圧電体素子部Bおよびインク流路部材Cにより閉塞され、圧力室102となっている。
インク流路部材Cは、各圧力室102が共用する共通液室105と、共通液室105のインクを各圧力室102に供給するための各供給口106と、圧力室102内のインクを吐出させるためのインク流路107とを有している。インク流路部材Cの下側に貼付されたノズル板Dには、インク流路107に連通するノズル108が形成されている。
次に、図20を参照して、実施の形態1に係る圧電体素子を用いたインクジェットヘッドの製造方法を説明する。
図20(a)は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子を応用したインクジェットヘッドのインク流路部材およびノズル板の形成工程を示す説明図、(b)は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子のインク流路部材とノズル板の接着工程を示す説明図、(c)は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の圧力室部材とインク流路部材の接着工程を示す説明図、(d)は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子を応用したインクジェットヘッドの完成した状態を示す説明図である。
図20(a)に示すように、インク流路部材Cに、共通液室105、供給口106およびインク流路107を形成するとともに、ノズル板Dにノズル108を形成する。
次に、図20(b)に示すように、インク流路部材Cとノズル板Dとを接着剤109により接着する。
次に、図20(c)に示すように、圧力室部材Aの下面またはインク流路部材Cの上面に接着剤(図示せず)を転写し、圧力室部材Aとインク流路部材Cとのアライメント調整を行ない、両者を接着剤により接着する。
以上により、図20(d)に示すように、圧力室部材A、圧電体素子部B、インク流路部材Cおよびノズル板Dを備えるインクジェットヘッドが完成する。
なお、図20(c)、(d)においても分断された各圧電体110の間に本来は残存する圧電体(図2に示す「残存する圧電体60」)の記載を省略しているが、実際は図2の記載に従う。
図4は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の変形例1を示す平面図である。
変形例1においては、圧力室孔1の平面領域内に半島状の圧電体能動部9を形成する(囲む)所定幅の環状の溝部12が、その端部を除いて同じ溝幅で上電極6の周縁部に沿って形成されている。
変形例1の最大の特徴は、溝部12の端部12aが、端部12aを除く溝部12の溝幅より幅の広い略円形に形成されている点である。
上記の形状により、溝部12の端部12aの応力集中が緩和される。圧電体素子を高密度に配列しようとすると、インクジェットヘッドの長手方向(圧電体素子が列上に配列される方向)において、溝部12の溝幅を狭くする必要があるが、溝部12の端部12aは、隣接する圧電体素子間のいわばデッドスペースに設けられることになるため、圧電体素子の配列上の制約を受けない。
また、溝部12の端部12aは、圧電体能動部9と圧電体非能動部11(いずれも図1参照)の中間領域ともいえる領域であり、応力集中が大きい部分なので、上記のような形状にすると、端部12aの応力集中を有効に防ぐことができる。
なお、既に説明したように、変形例1においても、溝部12は開口部の縁部2aとオーバーラップする領域に設け、溝部12の深さは下電極4(図2参照)に到達する深さまで設けることが望ましい。
ただし、変形例1の技術的効果は、端部12aの形状に直接的に由来するものである。従って、溝部12は開口部の縁部2aと完全にオーバーラップして設ける必要はなく(即ち、開口部の縁部2aに沿うようにして設けても十分である)、また溝部12の深さは、下電極4の深さまで到達していなくてもよい。
また、変形例1では溝部12の端部12aの形状を略円形としているが、変形例1の目的は圧電体能動部9と圧電体非能動部11の中間領域における応力緩和であり、従って応力緩和に実質的に有効な形状であれば、いずれの形状を採用してもよい。
即ち、リード電極7が開口部の縁部2aを跨ぐ領域の近傍を除き、圧電体5に、開口部の縁部2aに沿う領域に溝部12を設け、この溝部12aのリード電極7に面する側の端部12aを、リード電極7側が凸となる曲線形状に構成すればよい。このようにすれば、溝部12の端部12aには、応力が集中する部位(エッジ部)が実質的になくなるため、圧電体素子の信頼性が大幅に向上する。
また、実施の形態1では上電極6、および溝部12によって囲まれる圧電体能動部9の形状を略楕円形としているが、圧電体能動部9を構成する圧電体5の外縁に作用する応力を緩和するという目的を達せられれば、他の形状であってもよい。即ち、平面形状(トップビュー)としてエッジ部が存在しないような形状であればよく、例えば小判様の形状、あるいは競技場におけるトラック様の形状であっても構わない。また、圧電体能動部9の形状は、長方形に近いものであってもよい。即ち、圧電体能動部9の基本形状を長方形とし、かつその各頂点部分を滑らかな曲線に置き換えた形状であっても構わない。
なお、このとき圧電体能動部9の形状に合わせて(圧電体能動部9の周囲に沿うように)溝部12を構成することが望ましい。更に、開口部の縁部2aの形状も同様に構成することが望ましい。即ち、開口部の縁部2a、溝部12、圧電体能動部9の形状を、相互に相似形とすることが望ましい。
図5は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の変形例2を示す平面図である。
変形例2においては、溝部12の両端部12aの外方(開口部の縁部2aの外側)であって、リード電極7の延伸方向側方の圧電体5(この部分も圧電体素子として実質的に機能しない領域であり圧電体非能動部11に該当する)に、圧電体5(図示せず)を除去した凹部としての穴13を形成してある。穴13は、圧電体素子配列の高密度化の程度によって穴面積が決められ、隣接する圧電体素子への影響が出ない程度の面積、形状に形成する。
なお、穴13の深さは下電極4(図2参照)に到達する深さまで設けることが望ましい。
図6は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の変形例3を示す平面図である。
変形例3では、上述した変形例2において、圧電体5(図示せず)を除去した穴13と溝部12の両端部12aを連通させている。
図6では2ヶ所を連通させているが、1ヶ所のみを連通させても圧電体5の応力が低減される。
図7は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の変形例4を示す平面図である。
図8は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の変形例4を示す断面図であり、図7のIV−IV線に沿う断面図である。
図7、図8に示すように、絶縁体層14は、圧力室孔1の平面領域の外側の領域に積層形成され、リード電極7およびパッド部8の領域を覆うように形成される。
図8に示すように、変形例4では絶縁体層14を、圧電体5と下電極4の間に形成しているが、絶縁体層14を、リード電極7およびパッド部8と圧電体5との間に形成してもよい。絶縁体層14は、圧電体素子毎に個別に形成しても、平面的に連続させて圧電素子全体の領域に形成してもよい。
図9は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の変形例5を示す平面図である。
変形例5では、圧電体非能動部11(溝部12の端部12aとリード電極7の間)の表面、つまり圧電体5(図示せず)の表面に、圧力室孔1と周壁2bの境界である開口部の縁部2a上を跨ぐように、振動抑制部15が形成されている。
振動抑制部15は上電極6と同一の素材(Pt)で形成されている。また振動抑制部15は、上電極6のパターンニング工程と同一の工程で形成することができる。
振動抑制部15を設けることにより、圧電体能動部9の駆動時に発生する振動によって振動拘束部10に集中するたわみ変形を緩和することができる。
変形例5では、圧電体素子の製造工程の簡略化を図るために、振動抑制部15は、上電極6と同一の素材、同一の膜厚としている。上電極6と同一の膜厚でも十分な効果が得られるが、膜厚を増加させてもよい。また、振動抑制部15を、上電極6とは異なる素材で形成してもよく、好ましくは、圧電体5よりヤング率の大きい素材にする。
振動抑制部15を構成する材料としては、例えば、Pt、Ti/Ptの多層膜、Ni、Cr、Ir、Ir合金等とすればよい。ヤング率が大きい素材を用いることにより、薄膜でも十分な振動抑制効果が得られる。また、振動抑制部15の形成方法としては、剛体やシート状のものを接着剤等により貼付けたり、メッキ等の手法を用いて直接形成してもよい。形成精度のばらつきをなくし均一にするためには、気相成長法により形成することが好ましい。
さて、「気相成膜法」とは、物理蒸着法(PVD法)と化学気相成膜法(CVD法)とを総称したものである。物理蒸着法の具体例としては、抵抗加熱真空蒸着法、電子ビーム加熱真空蒸着法、高周波誘導加熱真空蒸着法、蒸着重合法、プラズマ蒸着法、MBE(分子線エピタキシ)法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法(高周波励起イオンプレーティング法)、スパッタリング法、反応性スパッタリング法等がある。化学気相成長法の具体例としては、プラズマCVD法、熱CVD法、ガスソースCVD法等がある。
また、振動抑制部15の更に好適な素材として、水分を透過しない金属や無機材料、もしくは、吸水率0.1%以下の防湿性物質を用いるとよい。吸水率0.1%以下の防湿性物質は、金属や無機材料にほぼ近い性能が得られ、圧電体5に対する水分のバリア層としての機能を発揮する。
圧電体5には、一般的に、圧電性セラミック材料が用いられており、高湿度環境下において微小な欠陥部等から水分が浸入し、ヤング率の低下等、材料の劣化が起こる可能性がある。
圧電体非能動部11は、圧電体材料により構成されているため、高湿度環境下に長期間曝されたり、高湿度環境下で電圧印加され駆動されると、材料の劣化が進行し、変形によって生じる応力によってクラックや割れ等が発生し、長期的な信頼性が確保できない。特に、PZTに代表される鉛系の圧電性セラミックは、高い圧電特性等、種々の優れた特性を有するが、鉛が水分と電気化学的な反応を起こして材料特性が変質する。
振動抑制部15に用いる材料としての金属は、ピンホール等の物理的な欠陥が生じない膜厚と膜質とすれば、水分の透過を防ぐことが可能である。吸水率0.1%以下の防湿性物質の例としては、例えば、ソーダガラス、白板ガラス、青板ガラス、石英ガラス、アモルファスカーボン、アモルファスシリコン等の無機非晶質材料、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ゲルマニウム等の無機酸化物、窒化ホウ素、窒化シリコン、窒化アルミニウム等の窒化物等がある。
また、吸水率が0.1%以下の有機材料も用いることができる。
ここでいう「吸水率」は、ASTMD570−81(24h試験)に基づいて決定される。具体例としては、ポリエチレン(吸水率0.015%以下)、ポリプロピレン(吸水率0.01%以下)、ポリテトラフルオロエチレン(吸水率0.00%)、ポリクロロトリフルオロエチレン(吸水率0.00%)、ポリパラキシレン等の高分子有機材料がある。
図9に示す変形例5の圧電体素子を実施の形態1で説明した製造方法と同様な方法で製作し、従来の技術との比較を行った。変形例5に係る圧電体素子は、上電極6にPtを用い、パターンニングを行う際に、上電極6と振動抑制部15を同一材料で同時に形成し、400個の圧電体素子を製作した。圧電体素子は、楕円形の長軸が1.2mm、短軸が0.15mmの上電極により形成される。
圧電体素子の上電極6と下電極4の間に、周波数20kHzで、電圧が0V〜40Vに変化する矩形波を10日間印加した。試験後、400個の圧電体素子の外観に変化はなく、圧電体5にもクラックが生じなかった。また、直後に、DC35Vの電圧を印加してリーク電流の有無を調べた。全ての素子において、5×10-7(A/cm2)以下であり、リークは発生しなかった。
図10は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の変形例6を示す平面図である。
変形例6の圧電体素子は、上電極6のリード電極接続点7aから開口部の縁部2a(振動拘束部10)までの水平距離Nを、上電極6の、リード電極接続点7aの反対側の端部7bから振動拘束部10の反対側の縁部2aまでの水平距離Mよりも大きくしている。
即ち、変形例6では、リード電極7が引き出される方向における、上電極6の端部(リード電極接続点7a)と開口部の縁部2aまでの水平距離をNとし、リード電極7が引き出される方向と反対の方向における、上電極6の端部と開口部の縁部2aまでの水平距離をMとするとき、N>Mの関係を満たすようにしている。
通常、上電極6で覆われた圧電体能動部9は、駆動時に生じるたわみ変形で生じた圧力を有効に圧力室2内に伝えるために、圧力室2上の平面領域内でなるべく面積を大きくするほうがよい。従って、圧力室2と周壁2bの境界(開口部の縁部2a)から全周に亘って略等距離の間隔をあけて上電極6のパターンを形成することにより、圧力室2内の発生圧力の最大化と、圧力分布や共振の均一性が得られる。
一方、振動拘束部10には、圧電体能動部9の変位による撓み応力が集中するため、圧電体能動部9で得られる発生圧力を大きくすることと利害が相反することとなる。変形例7の圧電体素子は、圧電体能動部9で発生するトータルの発生圧力を極力落とさずに、耐久性を高めたものである。
即ち、振動拘束部10からリード電極接続点7aまでの水平距離Nを、上電極6の、リード電極接続点7aの反対側の端部7bから振動拘束部10の反対側の縁部2aまでの水平距離Mに対して相対的に長くし、圧電体能動部9の変位による撓み応力が振動拘束部10で緩やかにかかるようにする。幅の狭いリード電極7が延長されるが、圧電体能動部9の駆動面積の減少はわずかであり、圧電体能動部9での発生圧力の減少は極力小さく抑えられている。振動拘束部10の応力を低減することにより、クラックや割れ等が防止され、耐久性が向上する。
図11(a)は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の変形例7を示す平面図、(b)は、同断面図であり、図11(b)は図11(a)のV−V線に沿う断面図である。
なお、図11(b)におけるV−V線の位置は、環状の溝部12の両端部12a間に挟まれた圧電体非能動部11の幅が最も狭くなっている位置である。
変形例7では、圧電体5の層厚(膜厚)をtとし、圧電体非能動部11におけるリード電極7の幅方向端部から環状の溝部(の端部12a)12までの最小距離をWとしたとき、W>2tとなるようにしている。
圧電体非能動部11におけるリード電極7の幅方向端部から溝部12の側壁までの部分は、リード電極7が振動してその周囲に応力が発生する場合に、圧電体非能動部11で最も弱い部分となっている。圧電体非能動部11のクラックや絶縁破壊の原因の一つとして、上電極6と下電極4との間に電圧を印加した場合に、リード電極7の幅方向に漏れ出す電界によって圧電体非能動部11が影響を受けるが、この影響度合は、圧電体5の膜厚tに依存することが確認された。
変形例7のように、W>2tとなるように圧電体非能動部11を形成することにより、圧電体非能動部11の応力が軽減されてクラックや割れ等が防止され、耐久性が向上する。なお、変形例7は、最小距離Wを、リード電極7の両側で同一としたが、同一でない場合は、小さい方を最小距離Wとする。また、W>2tの範囲で応力軽減効果は十分であるが、W>3tとすれば、更に良好な結果が得られる。
更に、図11に示すようにリード電極7の幅(変形例7ではリード電極7の幅を全長に亘って同一幅としているが、ここでは特に振動拘束部10における幅をいう)をwとすると、(2W+w)≧3tとなるようにしてもよい。
リード電極7は、振動拘束部10(縁部2a)までの領域では、圧電体素子の駆動時に、下電極4との間に電圧がかかり、圧電体5の撓みにより圧電体非能動部11に応力が発生する。このように(2W+w)≧3tとすることにより、リード電極7に印加される電圧により圧電体非能動部11に発生する応力を低減してクラックや割れ等を防止し、耐久性を向上させることができる。
図23は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の変形例8を示す平面図である。
図24は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の変形例8を示す断面図であり、図23のV−V線に沿う断面図である。
図23に示すように、変形例8では上電極6の縁部と圧電体5との段差部を層状に覆う絶縁体20が形成されている。上電極6の縁部は上電極6と圧電体5の密着性が弱い場合、振動により微小な界面剥離が起こった場合、長期の連続駆動を行うとそれが進行する場合がある。そうなれば上電極6端部の領域(即ち、上電極6の縁部)は電界強度の低下を引き起こし、圧電体能動部9が十分機能しなくなる。
そこで実施の形態1の変形例8では、上電極6の縁部と圧電体5を絶縁体20で覆うようにした。これによって、上電極6と圧電体5の密着性の向上が長期間保証でき、長期の連続駆動も問題なく可能となる。また絶縁体20は圧電体能動部9をも一部覆うため、圧電体5よりヤング率の低い材料で形成されていることが好ましい。これにより振動特性を阻害することを防止できる。また、更に絶縁体20は、水分を透過しない無機材料、もしくは、吸水率0.1%以下の防湿性材料で構成することが好ましい。圧電体5と上電極6の界面は水分等の侵入が起きやすく、界面に水分が侵入すると、界面剥離が更に進行しやすくなる。なお図23、図24では絶縁体20は上電極6の縁部のみを覆う構成としたが、振動特性等に影響を及ぼさなければ上電極6をすべて覆う構成としてもよい。またそれ以外の領域を覆う場合も圧電特性等の機能に影響が及ばなければ特に限定しない。
図12は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子の配線部を含めて示す平面図である。
実施の形態1においては、上電極6から延伸された配線部であるリード電極7の端部に、図示しないFPC(フレキシブルプリント回路)基板を実装するパッド部8を形成し、パッド部8の両側方に、圧電体5を除去した凹部としての穴16を形成している。
この穴16は、既に説明した溝部12と同様に、下電極4(図2参照)に到達する深さまで到達するように形成することが望ましい。
パッド部8にFPC基板を接合するとき、FPC基板を加熱し、パッド部8に押圧するが、押圧時に、圧電体5に割れやクラック等が発生することがある。圧電体5に割れやクラック等が発生した場合、実装部でショートや断線等の不具合が発生する。パッド部8の両側方の圧電体5を除去することにより、パッド部8周辺の圧電体5の応力が解放され、押圧時のクラック発生が防止される。
また、二つのパッド部8間にクラックが発生した場合に、圧電体5が除去されているので、パッド部8に到達するような横断的なクラックの発生が防止され、FPC基板実装時の良品率が向上する。なお、実施の形態1では、パッド部8の両側方部分のみ圧電体5を除去したが、パッド部8の周囲に沿ってコ字形に圧電体5を除去するようにしてもよく、更に、パッド部8に接続するリード電極7の両側に沿うように、圧電体5を除去する領域を広げてもよい。
図13は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子にFPCを実装する際の状況を示す説明図である。パッド部8にFPC基板を接合するときは、パッド部8および圧電体5上に異方導電性フィルム(ACF)17を貼付しておき、FPC基板をパッド部8のパターンにアライメントし、加熱、押圧する。具体的には、FPC基板を150〜200℃に加熱し、FPC基板にシリコンシートを介して3.3MPaの押圧荷重をかけて接合する。
図13に示すように、実施の形態1では、ACF17の貼付領域を、絶縁体層14の積層領域より狭くしている。FPC基板のリード線部がパッド部8から圧電体5上にはみ出した部分で異物を噛み込むと、FPC基板の押圧時に圧電体5にクラックや割れが生じる確率が非常に高くなる。
異物を噛み込んだ状態で、ACF17に形成された異方導電性樹脂が圧電体5に押し込まれたり、異物が金属等の導電性材料の場合、FPC基板のリード線部と下電極との絶縁不良が生じ、リーク電流が発生する。ACF17の貼付領域を、絶縁体層14の積層領域より狭くすることにより、異物の噛み込み等が起こった場合にも、FPC基板のリード線部と下電極との絶縁を保つことができるので、製品の良品率を向上させ、信頼性を確保することができる。
なお、以上述べてきた実施の形態1、変形例1〜変形例8、配線部の構成、FPC実装のための構成は、適宜結合した態様で実施できることは言うまでもない。
図21は、本発明の実施の形態1に係る圧電体素子を搭載したインクジェット式記録装置を示す斜視図である。
インクジェット式記録装置27は、図18に示したインクジェットヘッド28を複数個備えている。インクジェットヘッド28の圧力室に連通するノズルから圧力室内のインクを記録媒体(記録紙等)29に吐出させて記録を行う。
インクジェットヘッド28は、主走査方向Xに延設されたキャリッジ軸30に懸架されたキャリッジ31に搭載され、キャリッジ31がキャリッジ軸30に沿って往復動することにより、主走査方向Xに往復動する。キャリッジ31が、インクジェットヘッド28と記録媒体29とを主走査方向Xに相対移動させる移動手段を構成している。
また、インクジェット式記録装置27は、記録媒体29を、インクジェットヘッド28の主走査方向X(幅方向)と直交する方向の副走査方向Yに移動させる複数のローラ32を備えている。複数のローラ32は、インクジェットヘッド28と記録媒体29とを副走査方向Yに相対移動させる移動手段を構成している。なお、図21中、Z方向は上下方向である。
インクジェットヘッド28が、キャリッジ31の移動により、主走査方向Xに移動しているときに、インクジェットヘッド28のノズルからインクを記録媒体29に吐出させ、主走査方向Xの一走査の記録が終了すると、ローラ32により、記録媒体29を副走査方向Yに所定量移動させ、次の主走査方向Xの一走査の記録を行う。
実施の形態1に係る圧電体素子を用いたインクジェット式記録装置27は、良好な印字性能と耐久性を有している。