2026年の株式市場の展望(第一生命経済研究所首席エコノミスト・熊野英生)
2026年01月05日12時00分
半導体サイクルの行方
2025年の日経平均株価は、トランプ相場だった。4月初にトランプ関税の発表で3万1000円台まで下がり、その後は11月初まで一本調子で上昇した。そのトレンド線で考えると、26年前半のどこかで5万5000円まで行ってもおかしくはない(図表1)。トランプ大統領は、11月に中間選挙を控えているから、26年前半に大きな業績を稼ごうと必死になっている。目前のテーマとして、①ウクライナとロシアの停戦合意②意中のFRB次期議長を送り込んで、利下げを何回か実施させようとすること③南米ベネズエラのマドゥロ政権へ強硬姿勢をみせて、合成麻薬フェンタニル撲滅に向けた成果―などが挙げられる。おそらく、トランプ大統領の頭の中のリストには、米株価も入っていて、利下げを何回か追加できれば、思った通りに株価上昇を演出できそうだと考えているはずだ。
日経平均株価は、ナスダックとS&P500との連動性が高い。もしも、トランプ大統領の思惑通りに米株価上昇を演出できれば、日本株にもその恩恵は大きいだろう。
さて、上記のような見通しを語ると、懐疑的な見方をする人からは、きっと次のような反論が出てくると考えられる。「AI・半導体のブームはいつまでも続かない。もうすでに、AIブームの陰りが見え始めている」との批判である。実のところ、筆者の関心事はこの批判の妥当性にある。11月初に筆者が米国の金融関連の行事に参加して目にしたのは、このAIブームに関する話題一色であったことだ。もちろん、超楽観論から懐疑論まで人それぞれであった。筆者の想像では、マーケットの潜在的不安心理が大きいから、これほど関心が高いのだろう。そして、直感するのは、「このAIブームにけん引された株価が果たして、26年中ずっと維持できるのか?」という不安である。
少しずつ変調が感じられる
日本では、新しい首相として高市早苗氏が選ばれてから、日経平均株価が上振れしている。前掲のトレンド線(図表1)でも、10月4日に自民党総裁選があり、高市氏の当選後に株価が大きく上昇する場面があった。首相就任後、思っていた通り、高市首相は強烈な財政拡張と税制見直しに着手した。インフレ圧力を助長させる各種政策は、企業収益を押し上げるので、やはり株価上昇要因になる。
国内的な視点でみれば、“高市相場”という表現で一くくりにされてしまうが、筆者は日経平均株価がそうした国内要因よりもはるかに強く米株価の影響を受けるとみている。これは日々の相場を見ていれば分かることだ。先に、ナスダックとS&P500との連動性が高いと述べたが、もっと積極的に言えばフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)と日本平均株価は強い連動性がある。先の25年4月以降の上昇トレンドは、韓国総合指数(KOSPI)ともそっくりの値動きである(図表2)。つまり、半導体などの米株価の時価が増価すると、日本株と韓国株に米国などからの投資マネーが流入してくる。海外マネーの影響力に動かされやすい点で、日本株と韓国株は共通している。“AI相場”というのが25年4月以降の実態なのだ。
“AI相場”と断った上で、最近になって、少し変調があることを指摘しておきたい。マグニフィセント7と呼ばれる米国株の代表銘柄のうち、AIに欠かせないGPU(画像処理半導体)をほぼ独占して供給していたエヌビディアの1強構造が、ここにきて崩れる可能性が出てきている。同じく大手ハイテクのGoogleがAI半導体(TPU)をGPUに代わる選択肢として供給する計画があるという。時価総額が世界1位のエヌビディアの業績がこれまで好調だっただけに、潜在的不安が株価に影響する。ほかにも、データセンター投資への資金調達不安から、大手ソフトウェア会社の信用問題も浮上してきている。必ずしも、これでAI相場が崩れる必然性はないが、株価が一本調子で上がる訳ではないとも感じられる。
半導体サイクルの終わり?
より確からしい経験則として、半導体サイクルの変化に注目してみよう。WSTS(世界半導体統計)の世界半導体・売上高の前年比には、数年ごとのアップ・ダウンが確認できる(図表3)。過去、15年、19年、23年と4年ごとに世界半導体・売上高の前年比がマイナスに転じている。この経験則から言えば、次のマイナスは27年ということになる。では、26年の半導体株は安泰かと言えば、そうとも限らない。日経平均株価の前年比マイナスは、この世界半導体・売上高の前年比とはいくらかずれがある。世界半導体・売上高が22年7月からマイナスになっているので、そこから4年後に当たるのはもう少し早い26年央からという見方もできなくはない。
一方、22年頃からの半導体サイクルは、ChatGPTなどの生成AIの登場とその進化によって、過去の局面よりも大型の需要期が到来しているという見方もある。世界各地でのデータセンター需要はまだまだ伸びていく見通しである。株価がすでに高すぎるために、大手ソフトウェア会社の信用問題のような象徴的な出来事が、株価全体を不安視させるだけかもしれない。半導体の実需自体が弱まるといった展開にはならないだろう。
FRBの不安
最後に、FRBの利下げについても見ておきたい。トランプ政権の意向を受けた次期議長は、26年1月末にFRB理事に就任し、5月に議長となる見通しだ。筆者は、株価とは「思惑(噂)で買われて事実で売られる」ものだと感じている。次期議長が実際に就任するまでは、さらなる緩和への期待も高まるだろう。しかし、FRBの中にはトランプ大統領の意図とは別の価値観を持つ理事や地区連銀総裁もいる。次期議長自身も、インフレ圧力が目に見えて高まれば、どこまでも利下げ要求にYesとは言い続けないだろう。ならば、FRBの利下げは米国の消費者物価次第と言える。25年12月に公表されたFRBの政策金利見通しは、26年中に1回だけの利下げしか想定していない。政策決定は合議制だから、次期議長やトランプ政権になびいている数名の理事が追加利下げを推進しようとしても、それが頓挫することも起こり得る。隠れたリスクとして、FRBの金融政策もあることを忘れてはいけない。(2026年1月5日掲載)
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熊野英生(くまの ひでお)
山口県出身。1990年横浜国立大卒、同年日本銀行入行。2000年に第一生命経済研究所入社。11年より現職。日本FP協会専務理事を兼任。