明 細 書
高強度鋼板およびその製造方法
技術分野
[0001] 本発明は、 高強度と高延性性を両立させ、 プレス成形性と衝撃エネルギー 吸収能に優れた自動車用の冷延高強度鋼板およびその製造方法に関する。 ま た、 本発明は、 高強度鋼板の製造方法に係り、 特に、 高い静動差 (動的強度 と動的強度の差) と高速変形時の延性とを両立させ、 プレス成形時には強度 が低く、 衝突時に高強度かつ高延性で衝撃エネルギー吸収能に優れた自動車 用の高強度鋼板の製造技術に関する。
背景技術
[0002] 近年、 自動車の衝突安全性向上と車体軽量化という、 相反する要求へ対応 するために、 自動車のボディに使用される鋼板には、 一層の高強度化と高延 性化の両立が求められている。 このような要求を満たす高強度鋼板として、 以下のようなものが開示されている。 すなわち、 C: 0. 1〜0. 45%と S i : 0. 5〜1. 8%を含む鋼を所定の条件で熱延、 冷延、 焼鈍すること で、 引張強度が 82〜 1 13 k g f Zmm2で、 引張強度 X伸び値が 2500 k g fZmm 2o/0以上の延性の良い高強度鋼板の製造方法が開示されている ( 特許文献 1参照) 。
[0003] また、 C: 0. 1〜0. 4%を含み、 S iを制限した成分系で Mn量を高 め、 所定条件で 2回焼鈍することで、 引張強度が 81 1〜1 240MPa、 引張り X伸びが 28000MPa ■ %以上の高延性を有する高強度鋼板およ びその製造方法が開示されている (特許文献 2参照) 。
[0004] さらには、 C : 0. 02〜0. 3%を含む鋼に対して、 焼鈍時のオーステ ナイ卜体積率を所定範囲にすることで、 弓 I張強度が 48〜151 k g fZm m2で、 しかも引張強度 X伸び値が 1800 k g f Zmm 2%以上の高延性高 強度冷延鋼板の製造方法が開示されている (特許文献 3参照) 。
[0005] また、 鋼板の強度を高めると成形性が低下するため、 高強度鋼板の適用部
品は形状の単純なものに制限される。 そこで、 そのような欠点を克服するた めに、 静動差が高い鋼板を適用することが試みられている。
[0006] 一般に、 鋼板の変形強度は歪速度の影響を受け、 歪速度が高いほど変形応 力は高くなる。 つまり、 静動差が高ければ、 プレス成形時には比較的強度が 低く成形性が確保され、 車体の衝突時の高速変形時には、 充分な強度を確保 することが可能となる。
[0007] たとえば、 特許文献 4には、 フェライ卜単相鋼においてフェライ卜中の固 溶 C、 Nを減少させ、 セメンタイトの数を適正にすることで静動差を高めた 耐衝撃性に優れる薄鋼板及びその製造方法が開示されている。 また、 特許文 献 5には、 表面を清浄化した複数の金属板を積層し、 フェライト結晶粒径を 1 mよりも小さいナノメ一トルのオーダーまで微細化する繰り返し重ね圧 延による超微細組織高強度鋼板の製造方法が開示されている。 さらに、 特許 文献 6には、 普通低炭素鋼のマルテンサイ卜を出発組織として冷延および焼 鈍することにより、 強度と延性のバランスに優れた超微細フェライ卜とセメ ンタイ卜組織を生成する高強度■高延性鋼板およびその製造方法が開示され ている。
[0008] 特許文献 1 :特開昭 6 2 - 1 8 2 2 2 5号公報 (特許請求の範囲)
特許文献 2:特開平 7— 1 8 8 8 3 4号公報 (特許請求の範囲)
特許文献 3:特開昭 6 1 - 3 8 4 3号公報 (特許請求の範囲)
特許文献 4:特開平 7— 3 3 8 1号公報 (特許請求の範囲)
特許文献 5:特開 2 0 0 0— 7 3 1 5 2号公報 (特許請求の範囲) 特許文献 6:特開 2 0 0 2— 2 8 5 2 7 8号公報 (特許請求の範囲)
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0009] 前述のように、 自動車車体への高強度鋼板適用の主目的は、 衝突時の衝撃 エネルギーを効率よく吸収することで乗員への衝撃を軽減させることが目的 であり、 より多くの部品に高強度鋼板を適用したいというニーズがある。 し かしながら、 それを達成するには、 下記の 2つの問題がある。
[0010] 第 1に、 鋼板の強度が高いほど延性が低下するので、 プレス成形性が劣化 し、 単純形状の部品に適用先が限定されるという事である。 第 2に、 衝突時 の部材破断の間題である。 すなわち、 自動車の衝突で重要な前面衝突におい ては、 フロントフレーム等の部品が衝突時に部品の長手方向に荷重を受け、 座屈することによって衝撃エネルギーを吸収するが、 鋼板の延性が少ないと 、 衝突変形時に材料に破断が生じて、 効率よく衝撃エネルギーを吸収させる ことができないという点である。 したがって、 従来鋼に対して、 より引張強 度が高く、 かつ高延性である鋼板が求められている。 次に、 従来技術による 高強度鋼板の問題点を述べる。
[0011] 特許文献 1に開示されているフェライ卜と残留オーステナイ卜の複合組織 鋼板は、 優れた強度延性バランスを示すものの、 一定以上の S iの添加が必 要であり、 表面性状が劣化するという問題がある。 また、 l OOOMPa以 上の高強度を得るためには 0. 36%もの Cが必要であるため、 スポット溶 接強度が劣り、 しかも最大で 1 1 3 k g f Zmm2程度の引張り強度しか得ら れないという問題がある。
[0012] また、 特許文献 2には、 S iを低減しても良好な強度延性バランスを有す る高強度鋼板の製造方法が開示されているが、 2回の焼鈍が必要なため製造 コストが高く、 Cが高いためにスポッ卜溶接強度の間題は解決されておらず 、 また、 得られる引張強度も高々 1 24 OM Pa程度である。 ここで、 引張 強度 1 3 OOM Pa以上の高強度鋼板の製造方法は、 特許文献 3に開示され ている。 しかしながら、 弓 I張強度 1 50 OMP aの場合の伸びは高々 1 2% であり、 良好な強度延性バランスを有しているとはいえない。
[0013] 上記従来技術では、 合金元素を添加し、 熱処理によってフェライ卜相と、 硬質第 2相 (マルテンサイ卜、 ペイナイ卜、 残留オーステナイ卜等) との複 合組織鋼とすることで強度を上昇させているが、 引張強度 1 300MPa以 上で 1 20/0を越える延性を有する高強度鋼板を得る事ができず、 また引張強 度 800〜 1 30 OMP aの範囲でも、 多量の C, S i , Mn等の合金元素 が必要であり、 スポット溶接強度が劣ると言う問題に加え、 経済性ゃリサイ
クル性の観点からも問題があるので、 それらの合金元素を極力低下させた成 分で、 良好な強度延性バランスを達成する技術が必要であった。
[0014] さて、 本発明者等は、 上述したような従来手法のみに依存しない鋼の高強 度化手法として、 フェライト結晶粒の微細化に着目してきた。 すなわち、 こ の方法は、 マトリックスのフェライ卜相の結晶粒界面積を増大することによ リ、 合金元素の添加を極力抑えて、 フェライトの純度を高く維持したまま鋼 板の強度を高める方法であり、 フェライ卜相の純度を極力高く維持すること で、 鋼板の静動差を保持できるとの考えに基づく。
[0015] ここで、 結晶粒径と強度との関係は、 ホール■ベッチの式が周知であり、 変形強度は結晶粒径の— 1 Z 2乗に比例する。 この式によれば、 結晶粒径が 1 mより小さくなると急激に強度が上昇するので、 結晶粒微細化により鋼 板の強度を飛躍的に上昇させるには、 1 m程度以下の超微細結晶粒とする 必要がある。
[0016] また、 特許文献 4のセメンタイ卜の数を適正化する技術は、 フェライ卜中 の不純物元素をできるだけ低減することで静動差を高められるという考えに 基付いているが、 この方法で得られる引張強度は 4 3 O M P a程度であり、 高強度鋼板としては不充分である。 フェライ卜単相の組織では得られる引張 強度は限られるため、 さらに強度の高い鋼板を得るためには、 一般的にフエ ライ卜とマルテンサイ卜等の第 2相との複合組織にすることが行われる。 し かしながら、 複合組織化すると引張強度は高くなるが、 静動差は軟鋼板に代 表されるフェライト単相鋼よりも低下するという問題がある。 たとえば、 日 本鉄鋼協会編 「自動車用材料の高速変形に関する研究会成果報告書」 (2 0 0 1 ) 1 7 4頁には、 軟鋼では歪み 5 %での静動差が 2 1 O M P a程度であ るのに対し、 5 9 O M P a級複相鋼 (Dua l Phase Stee l ) では 6 O M P a程 度まで低下することが示されている。 一方、 高速変形時の延性、 特に一様伸 びは、 5 9 O M P a級複相鋼の方が逆に優れている。 この複相鋼のように高 速変形時の延性が高いものは、 自動車部材の衝突時の破断回避の観点から望 ましい。
[0017] したがって、 特許文献 4に記載の技術では、 高い静動差と高い引張強度と の両立は困難であり、 高い静動差と高速変形時の延性とを両立させることも 困難であった。 そのため、 静動差が高く、 しかも高い引張強度と高速変形時 の延性とを兼ね備えた高強度鋼板が求められていた。
[0018] ここで、 高速変形試験の方法はいまだ標準化されておらず、 ホプキンソン バー法、 ワンバ一法、 検カブロック法などの手法が混在していることに加え 、 試験片形状もそれぞれ異なっている。 したがって、 降伏点や全伸びの値も それぞれ異なる可能性があり、 異なる高速引張試験方法で得られた応力歪み 線図を直接比較することは危険である。 さらに言えば、 一般的に準静的引張 試験で用いられる J I S 5号形状の試験片と、 高速引張試験で一般的なより 小型の試験片での結果も、 たとえ歪速度が同一であつたとしても異なる可能 性があるので、 ひとつの試験装置で同一形状の試験片を用いて歪速度のみを 変化させて比較しなければ正確性を欠く。 したががつて、 以下の説明におい ては、 変形応力や伸びなどの特性に言及する際には、 後述する手法で測定さ れたデータに限定するものとする。 すなわち、 鷺宮製作所製検カブロック式 高速材料試験機と、 図 1 4に示すような形状の試験片で歪速度のみを変えて 測定することとする。
[0019] ところで、 鋼板のフェライ卜結晶粒径を 1 mよりも小さいナノメートル のオーダーまで微細化する方法としては、 上記特許文献 5に開示されたもの が挙げられる。 この方法では、 繰返し重ね圧延を 7サイクルを行うことによ リ、 結晶粒径がナノメートルのオーダーの超微細組織となり、 弓 I張強度も原 材料である I F鋼の 3 . 1倍 (8 7 0 M P a ) に達する。 しかしながら、 こ の方法には以下の 2つの欠点がある。
[0020] 第 1に、 結晶粒径 1 μ m以下の超微細結晶粒のみの組織では、 材料の延性 が極端に低くなる。 その理由は、 特許文献 5の発明者等による論文、 例えば 「鉄と鋼」 (日本鉄鋼協会、 第 8 8巻第 7号 (2 0 0 2年) 3 6 5頁、 図 6 ( b ) ) に記載されている。 この論文によれば、 フェライト結晶粒径が 1 . 2 mよリ小さくなると急激に全伸びが低下し、 同時に一様伸びもほぼ 0に
まで低下するとされている。 そして、 そのような組織は、 プレス加工用鋼板 には不適である。
[0021 ] 第 2に、 工業的プロセスにおいて繰返し重ね圧延を行うのでは生産性を害 し、 生産コストの大幅な上昇を招く。 ここで、 結晶粒の超微細化のためには 大きな歪みを付与することが必要であり、 例えば 5サイクルの重ね圧延によ リ圧延率換算で 9 7 %もの歪みを与えることで、 やっと結晶粒の超微細化が 可能となる。 これを生産性の良い通常の冷間圧延で行うには、 厚さ 3 2 mm の鋼板を 1 mmに圧延する必要があり、 現実的には実施不可能である。
[0022] また、 特許文献 6には、 マルテンサイ卜を出発組織として冷延■焼鈍する と、 強度と延性のバランスに優れた超微細フェライ卜およびセメンタイ卜組 織となり、 強度と延性のバランスが向上することが示されている。 特許文献 6の発明例では、 C量が 0 . 1 3 %と比較的低く、 合金元素の添加量が少な い点は優れているが、 引張強度 8 7 O M P aで伸びは 2 1 %であり特性は充 分とは言えない。
[0023] 本発明は、 上記事情に鑑みてなされたものであり、 合金元素添加量を抑制 してフェライ卜結晶粒の微細化により強度を上昇させ、 しかもプレス成形時 に重要となる強度と延性のバランスに優れ、 高速変形時の吸収エネルギーに 優れた高強度鋼板及びその製造方法を提供することを目的としている。
[0024] また、 超微細フェライ卜とセメンタイ卜組織を生成する特許文献 6では、 発明例は 8 7 0 M P aの引張強度と 2 1 %の伸びを備え、 特許文献 4のフエ ライト単相鋼と比較して良好な延性を有している。 しかしながら、 本願の発 明者等の検討によれば、 発明例における歪み 5 %での静動差は 8 O M P aで あり、 静動差が低いことが判明している。 このように、 単純な超微細粒組織 はもちろん、 超微細粒組織中にセメンタイ卜を析出させた組織でも充分な静 動差を得ることができない。
[0025] 本発明は、 上記事情に鑑みてなされたものであり、 フェライト結晶粒の微 細化により強度を向上させることができるのはもちろんのこと、 静動差が高 くプレス成形が容易であり、 しかも、 高速変形時の延性に優れて吸収エネル
ギ一が大きい高強度鋼板の製造方法を提供することを目的としている。 課題を解決するための手段
[0026] 本発明者等は、 合金元素添加量を抑制してフェライ卜結晶粒の微細化によ リ強度を上昇させ、 しかも同時にプレス成形時に重要となる強度と延性との バランスに優れる高強度鋼板について鋭意研究を重ねた。 その結果、 鋼板の 組織を、 均一な超微細粒組織ではなく、 結晶粒径が 1 . 2 m以下のフェラ ィ卜 (以下、 本願においては、 単に 「ナノ結晶粒」 と称する) と、 結晶粒径 が 1 . 2 mを超えるフェライト (以下、 本願においては、 単に 「ミクロ結 晶粒」 と称する) との混合組織とした上で、 鋼板中に含まれる硬質第 2相の 種類と比率の適正化、 及び硬質第 2相を除いた部分の組織の適正化により、 高強度でありながら、 高い延性を有する高強度鋼板を得ることができるとの 知見を得た。
[0027] また、 上記の適正化により、 4 5 O M P a以上の静的強度有し、 良好なプ レス成形性と、 高い静動差を有する特性とを両立させたが高強度鋼板を得る ことができるとの知見を得た。 さらには、 上記の鋼板に対して、 スキンパス 圧延等の方法によリ歪みを与えることにより、 動的変形時の伸びを向上でき ることを見出した。 なお、 本発明の技術分野においては、 一般に、 ナノ結晶 粒とは、 結晶粒径が 1 . 0 m以下の結晶粒をいい、 また、 ミクロ結晶粒と は、 結晶粒径が 1 . 0 mを超える結晶粒をいうが、 本願では、 上記したよ うに、 ナノ結晶粒とミクロ結晶粒との間における結晶粒径の臨界値を 1 . 2 mと定義する。
[0028] すなわち、 本発明の高強度鋼板は、 フェライ卜相と鋼板中に分散する硬質 第 2相とからなる金属組織を呈し、 前記金属組織に占める硬質第 2相の面積 率が 3 0〜7 0 %であり、 前記フェライ卜相中に占める、 結晶粒径が 1 . 2 m以下のフェライ卜の面積率が 1 5〜9 0 %であり、 前記フェライト相中 において、 結晶粒径が 1 . 2 m以下のフェライ卜の平均粒径 d sと結晶粒 径が 1 . 2 mを超えるフェライトの平均粒径 d Lとが下記 (1 ) 式を満た すことを特徴としている。
[数 1 ]
d LZd s≥3 … ( 1 )
[0029] このような鋼板においては、 鋼板の圧延方向に平行な断面において、 3 m四方の正方形格子を任意に 9個以上取リ出した場合に、 格格子での硬質第 2相の面積率を A i ( i = 1, 2, 3, ■■■) としたとき、 A iの平均値 A ( a V e) と標準偏差 sとが下記 (3) 式を満たすことが望ましい。
[数 2]
sZA (a V e) ≤0. 6 … (3)
[0030] また、 このような鋼板においては、 Cを含有するとともに、 S Mn, C r , Mo, N i及び Bのうち少なくとも 1種を含有し、 C (s s) (全 C 量から N b, T i, Vと結合している C量を減じた固溶炭素量) が、 下記 ( 4) 式〜下記 (7) 式を前提に、 下記 (8) 式〜 (1 0) 式を満たすことが 望ましい。 ただし、 (4) 式〜 (7) 式中、 各添加元素には、 その添加元素 の構成比率 (質量%) を代入するものとする。
[0031] [数 3]
F (Q) =0. 65 S i +3. 1 M n + 2 C r + 2. 3Mo + 0. 3 N i + 2000 B … (4)
F2 (T) =735+ 1 9 S i -3 1 Mn - 1 2 N i + 1 7Mo + 20C r + 30 V-800 N … (5)
F3 (S) = 1 1 2 S i +98Mn + 2 1 8 P + 3 1 7 A I +9 C r +56 Mo + 8 N i + 1 4 1 7 B … (6)
F4 (G) =620 + 300 C + O. 5 x F3 (S) … (7)
F, (Q) ≥6. 0 … (8)
F2 (T) ≤ F4 (G) -20 … (9)
0. 07≤C (s s) ≤0. 45 … (1 0)
[0032] さらに、 含有成分が下記 (1 1 ) 式および (1 2) 式を前提に、 下記 (1 3) 式及び (1 4) 式を満たすことが望ましい。
[数 4]
F3 (S) = 1 1 2 S i +98Mn + 2 1 8 P + 3 1 7 A I +9 C r +56 Mo + 8 N i + 1 4 1 7 B ■■■ ( 1 1 )
F5 (P) =500 X N b+ 1 O O O X T i + 250 XV … (1 2)
F3 (S) ≤600 … ( 1 3)
F5 (P) ≤ 1 30 … ( 1 4)
ただし、 (1 1 ) 式、 (1 2) 式において各添加元素にはその添加元素の構 成比率 (質量%) を代入するものとする。
[0033] 加えて、 このような高強度鋼板においては、 質量%で、 N b : 0. 26% 以下、 T i : 0. 1 3%以下、 V: 0. 52%以下のうち少なくとも 1種を 含有することや、 質量0 /oで、 P : 2%以下及び A I : 1 8%以下のうちの少 なくとも 1種を含有することが望ましく、 質量0 /oで、 S i : 5%以下、 Mn : 5%以下、 C r : 1. 5%以下、 Mo : 0. 7 %以下、 N i : 1 0%以下 及び B: 0, 003%以下であることが望ましい。
[0034] 加えて、 質量0 /oで 0. 007%〜0. 03%の Nを含有させることで、 高 強度鋼板の延性を劣化させずに、 高い塗装焼付け硬化量 (以下、 BH量と呼 ぶ) を付与するごとができ、 したがって、 部品の衝突時の発生荷重を向上さ せ、 衝撃エネルギー吸収性能を更に向上させることが可能である。 BH (Bak e Hardening) とは、 鋼板に歪を与えた後に塗装焼付けに相当する 1 70°Cの 熱処理を施すと、 侵入型固溶元素が加工によって導入された転位を固定して 転位の運動を妨げ、 その結果、 変形抵抗が上昇する現象であり、 自動車部品 のように塗装焼付け工程がある場合は有効である。 BH量の測定方法は、 J I SG3 1 35 (自動車加工性冷間圧延高張力鋼板及び鋼帯) の付属書に示 されている。
[0035] また、 本発明者等は、 上記高強度鋼板を好適に製造する方法についても鋭 意研究した。 その結果、 通常の冷間圧延で結晶粒の超微細化を達成すべく、 冷間圧延前の結晶組織を軟質なフェライ卜と硬質な第 2相との複合組織とす るとともに、 硬質第 2相の含有率を適正な範囲とし、 更に硬質第 2相の間隔 に応じた所望な圧延率により冷間圧延を施し、 さらに A c 1変態点を越えか
つ結晶粒成長を抑制できる温度と時間で焼鈍することにより、 上記のミクロ 繕晶粒とナノ結晶粒との混合組織を母相として硬質第 2相を含有する高強度 鋼板が得られるとの知見を得た。
[0036] すなわち、 本発明の高強度鋼板の製造方法の第 1実施形態は、 金属組織が フェライ卜相と含有率 30〜85%の硬質第 2相とからなる熱間圧延鋼板に 、 加工度指数 Dが下記 (1 5) 式を前提に、 下記 (1 6) 式を溝たす冷間圧 延を行い、 その後下記 (1 7) 式および (1 8) 式を溝たす焼鈍を行うこと を特徴としている。
[0037] [数 5]
D = d X tZt。 … (1 5)
(d :硬質第 2相の平均間隔 (//mm) 、 t :冷間圧延後の板厚、 t。:熱間 圧延後の冷間圧延前の板厚)
0. 50≤D≤ 1. 0 … ( 1 6)
F2 (T) +20≤T s≤F2 (T) +90 … (1 7)
F2 (T) +20≤T s≤F4 (G) - 1. 3 ( t s) /2 … (1 8) (t s :保持時間 (秒) 、 T s :保持温度 (°C) 、 (t s) は t sの平方 根)
[0038] このような高強度鋼板の製造方法においては、 上記熱間圧延鋼板の板厚方 向において、 硬質第 2相の平均間隔が 2. 5〜 5 mであることが望ましい 。 さらには、 上記高強度鋼板に対して、 伸び率 2. 5%以下のスキンパス圧 延を施すことによって、 降伏点を低下させることでプレス成形時の成形荷重 を低減させ、 スプリングバックを低減させるといった更なる効果を付与する ことができる。
[0039] さらに、 本発明の高強度鋼板の製造方法の第 2実施形態は、 金属組織がフ ェライ卜相と面積率が 1 0〜85%の硬質第 2相とからなリ、 前記硬質第 2 相どうしの平均間隔が 2. 5〜5. 0 mである熱間圧延鋼板に、 加工度指 数 Dが下記 (1 9) 式を前提に下記 (20) 式を満たす冷間圧延を行い、 そ の後下記 (21 ) 式を満たす焼鈍を行うことを特徴としている。
[数 6]
D = d x tZt。 … (1 9)
(d :硬質第 2相の平均間隔 ( m) 、 t :冷間圧延後の板厚、 t。:熱間圧 延後で冷間圧延前の板厚)
[数 7]
0. 5≤D≤ 1. 0 … (20)
[数 8]
650- (t s) /2<T s <750- ( t s) /2 … (21 ) (t s :保持時間 (秒) 、 T s :保持温度 (°C) 、 (t s) は t sの平方 根)
[0040] ここで、 硬質第 2相の面積率が低い場合には、 冷間圧延として圧延後に材 料を重ね合わせて圧延することを繰り返し行う重ね圧延を行うことが望まし い。 ただし、 熱間圧延鋼板における硬質第 2相の面積率が 30〜85%であ れば、 通常の冷間圧延で充分である。 また、 焼鈍の後に伸び率が 1〜1 0% の加工を行うことにより、 高速変形時の鋼板の全伸びを高めるとともに、 静 的変形時の応力を低くすることができる。 そのような加工としては、 スキン パス圧延が好適である。
発明の効果
[0041] 本発明の高強度鋼板によれば、 ナノ結晶粒とミクロ結晶粒の混合組織の鋼 板中に含まれる硬質第 2相の比率の適正化、 および硬質第 2相を除いた部分 の組織の適正化により、 高強度でありながら、 高い延性を有する高強度鋼板 を得ることができる。 また、 本発明の高強度鋼板の製造方法の第 1実施形態 によれば、 圧延前の結晶組織を軟質なフェライ卜と硬質第 2相の複合組織と するとともに、 硬質第 2相の間隔に応じた必要圧延率によリ冷間圧延を施し 、 更に変態点を超えてかつ結晶粒成長の生じない温間域で焼鈍することによ リ、 ミクロ結晶粒とナノ結晶粒との混合組織を母相として硬質第 2相を含有 する高強度鋼板を製造することができる。 このようにして得られた本発明の 高強度鋼板は、 合金元素添加量を抑制してフェライ卜結晶粒の微細化により
強度を上昇させたものであり、 しかもプレス成形時に重要となる強度と延性 とのバランス、 および衝突変形時に重要となる吸収エネルギー特性に優れる ものである。
[0042] さらに、 本発明の高強度鋼板の製造方法の第 2実施形態によれば、 ナノ結 晶粒とミクロ結晶粒との混合組織の鋼板中に含まれる硬質第 2相の比率の適 正化、 及び硬質第 2相を除いた部分の組織の適正化により、 静的変形時には ナノ結晶粒の影響を抑制して低強度でありながら、 動的変形時にはナノ結晶 粒の影響を発揮することのできる高強度鋼板を得ることができる。
発明を実施するための最良の形態
[0043] 1. 第 1実施形態
以下、 本発明の好適な実施形態について説明する。 まず、 本発明の高強度 鋼板における種々の設定式の規定理由について述べる。 なお、 以下に示す各 元素の含有率は、 すべて質量%であるが、 便宜上、 単に%と記載する。
[0044] 本発明の高強度鋼板の固溶炭素量は、 0. 07〜0. 45%となるように 調整することが望ましい。 この炭素鋼に、 焼入れ性向上および固溶強化によ る鋼の強度向上を目的として、 第 1元素群: S i, M n, C r , Mo, N i および Bのうちの少なくとも 1種を含有させる。 また、 結晶粒の微細化及び 析出強化による鋼の強度向上を目的として、 第 2元素群: N b, T iおよび Vの少なくとも 1種を必要に応じて含有させる。 さらに、 固溶強化による鋼 の強度向上を目的として、 第 3元素群: Pおよび A Iのうち少なくとも 1種 を必要に応じ含有させる。
[0045] さらに、 得られる鋼が下記 (4) 式〜 (7) 式、 (1 1 ) 式〜 (1 2) 式 を前提に、 下記 (8) 式〜 (1 0) 式、 および (1 3) 〜 (1 4) 式を全て 溝足するものとする。 但し、 下記の式中に元素記号は、 その元素の構成比率 (質量%) を表し、 例えば、 「C r」 とは、 C rの構成比率 (質量%〉 を意 味する。
[0046] [数 9]
F (Q) =0. 65 S i +3. 1 M n + 2 C r + 2. 3Mo + 0. 3 N i
+ 2000 B … (4)
F 2 (T) =735+ 1 9S i -31 Mn- 1 2N i + 1 7Mo + 20C r + 30 V-800 N … (5)
F3 (S) = 1 1 2S i +98Mn + 21 8 P + 31 7A 1 +9C r +56 Mo + 8 N i + 1 41 7 B … (6)
F4 (G) =620 + 300 C + O. 5 x F3 (S) … (7)
F, (Q) ≥6. 0 … (8)
F2 (T) ≤ F4 (G) -20 … (9)
0. 07≤C (s s) ≤0. 45 … (1 0)
F3 (S) = 1 1 2S i +98Mn + 21 8 P + 31 7A I +9C r +56 Mo + 8N i + 1 41 7 B ■■■ ( 1 1 )
F5 (P) =500 X N b+ 1 000 X T i + 250 XV … (1 2)
F3 (S) ≤600 … ( 1 3)
F5 (P) ≤ 1 30 … ( 1 4)
[0047] ここで、 これらの式中の記号の意味および各式の規定理由を説明する。
く (4) 式および (8) 式 >
F, (Q) は、 鋼の焼入れ性を表す指標であり、 (4) 式に示すように定め られ、 各添加元素の構成比率 (質量%) から計算するものである。 後述する ように、 本発明の高強度鋼板の製造方法においては、 冷間圧延前の金属組織 を難質なフェライ卜と硬質第 2相 (マルテンサイ卜、 ペイナイ卜、 残留ォー ステナイ卜のうちの少なくとも 1種) との複合組織とすることが重要である
[0048] これらの組織は、 熱間圧延後にフェライ卜とオーステナイ卜とからなる 2 相域まで徐冷してから急冷する方法、 熱間圧延後に室温まで一旦冷却してか ら加熱してフェライ卜とオーステナイ卜とからなる 2相域で保持してから急 冷する方法により得られる。 しかしながら、 これらの組織を得るにあたって は、 2つの問題がある。
[0049] 第 1に、 C量が少ないと焼入れ性が低いため、 硬質第 2相を得難いことで
ある。 その対策として、 焼入れ性向上元素である上記第 1元素群を添加して
、 硬質第 2相を得やすくする必要がある。 第 2に、 C量が多い場合に、 熱間 圧延後の冷却中にパーライ卜変態が生じ易くなリ、 必要な硬質第 2相を得難 くなることである。 これらの間題を解決するためには、 上記 (8) 式に従い 、 必要な量の焼入れ性向上元素を添加する。 なお、 ここでいう C量とは、 後 に詳説するが、 全 C量から T N b, Vと結合している C量を減じた固溶 灰 里を不 o
[0050] く (5) 式〜 (7) 式、 及び (9) 式 >
(5) 式は、 鋼材の AC 1変態点を規定しており、 鋼中の合金元素量によ つて、 (5) 式のように AC 1変態点が変化する。 各合金元素の係数は、 本 発明者が実験によって決定したものである。 (6) 式は第 1元素群および第 2元素群の固溶強化作用により、 高強度鋼板が強化される量を MP a単位で 示したものであるが、 強化量と同時に、 固溶元素による焼鈍中の粒界移動に 対する低抗力の指標にもなる。
[0051] (7) 式は、 鋼板の焼鈍時に、 結晶粒の粗大化を抑制して所定のナノ結晶 比率にできる下限の温度を表しており、 上記 F3 (S) および C量に、 それぞ れ係数を掛けて合計したものである。 右辺の 300 Cは、 Cによる効果の項 であり、 0. 5 X F3 (S) は、 C以外の固溶元素による効果の項である。 ( 9) 式は、 鋼の AC 1変態点 + 20°Cの値が、 F4 (G) 以下である必要があ ることを示している。 後述するように、 本発明の金属組織を得るためには、 鋼の成分で決まる AC 1変態点 + 20°C以上の温度で焼鈍する必要があるが 、 それが F4 (G) すなわち結晶粒粗大化を抑制できる上限の温度よりも高い と、 本発明の特徴である超微細結晶粒を得るための焼鈍条件が存在しなくな る。 したがって、 (9) 式を満たすように、 鋼成分を調整する。
[0052] く ( 1 0) 式 >
C (s s) とは、 全 C量から第 2群元素 (N b, T i , V) と結合してい る Cを減じた固溶炭素量を意味し、 下記 (22) 式で計算される。 なお、 ( 22) 式中、 それぞれ添加元素には、 その添加元素の構成比率 (質量%) が
代入されるものとする。
[数 1 0]
C (s s) =全〇量— (1 2Z92. 9 X N b+ 1 2/47. 9 x T i + 1 2/50. 9 x V) … (22)
[0053] (22) 式中の係数 92. 9、 47. 9、 及び 50. 9はそれぞれ N b, T i, Vの原子量であり、 1 2Z92. 9 X N b+ 1 2/47. 9 x T i + 1 2/50. 9 XVとは、 N b、 T i、 もしくは Vと結合し炭化物となって いる C量 (重量%) を表したものであり、 これを全 C量から減じたものが、 固溶 Cである。
[0054] 次に、 (1 0) 式は、 固溶 Cの上限値及び下限値を規定しており、 その理 由は、 冷間圧延前の金属組織を所望の範囲で生成させるためである。 ここで 、 下限値を 0. 07%としたのは、 Cが 0. 07 %未満の場合は、 焼入れ性 向上元素を添加しても十分な量の硬質第 2相が生成しないためである。 硬質 第 2相の含有量が不十分では、 前述の繰リ返し重ね圧延等の特殊な方法を用 いない限リ、 鋼の結晶粒径をナノメ一トルのオーダーまで微細化することが できない。
[0055] また、 上限値を 0. 45%としたのは、 0. 45%を超える場合は目的の フェライ卜と硬質第 2相の複合組織を得られなくなるためである。 C量が 0 . 450/0を越えると、 焼入性向上元素を添加しても、 CCT曲線におけるパ ラート変態ノーズが短時間側に存在するようになる。 そしてフェライトーォ ーステナイ卜 2相域からの急冷時に、 いかなる冷却速度においてもパーライ 卜変態ノーズを横切るようになり、 冷間圧延前の金属組織はフェライ卜とパ 一ライ卜の複合組織もしくはパーライ卜となる。
[0056] ここで、 パーライトは Cと F eの化合物であるセメンタイトと、 フェライ 卜の層状組織であるが、 セメンタイトは変形に対して非常に脆く、 冷間圧延 時のエネルギーがセメンタイトの破断に消費される。 このため、 鋼の組織に パーライ卜が含まれている場合には、 本発明の製造方法の特徴である軟質フ エライト相に大きな歪みを与えることが出来ない。 したがって、 焼入性向上
元素の添加によってパーライ卜変態を回避できる上限値の C量は 0. 45% とした。
[0057] く (6) 式及び、 (1 1 ) 〜 (1 3) 式の規定理由 >
(6) 式の F3 (S) は、 第 1元素群及び第 3元素群の固溶強化作用によ リ、 高強度鋼板が強化される量を、 MP a単位で示したものであり、 (6) 式に従い添加元素の質量%から計算する。 (6) 式のそれぞれの元素に乗じ られている係数は、 下記の考え方に基づいて下記 (23) 式から算出したも のである。
[0058] [数 1 1 ]
各元素の係数 = | r (X) - r (F e) | / r (F e) XM (F e) ZM (X) x 1 000 … (23)
ここで、 r (X) は、 当該元素の原子半径、 r (F e) は鉄の原子半径、 M (X) は当該元素の原子量、 及び M (F e) は鉄の原子量である。
[0059] (23) 式の意味するところは以下のとおりである。 すなわち、 ある添加 元素の原子半径と鉄の原子半径との差を鉄の原子半径で除したものが、 その 元素 1個あたりの固溶強化量に比例する。 これに、 当該元素の質量%あたり に換算するために、 鉄の原子量と当該元素の原子量との比を乗じ、 さらに単 位を MP aに換算するために 1 000を乗じた。 表 1に、 用いた各元素の物 理定数と、 それにより計算した (23) 式の係数を示す。
[0060] [表 1]
次に、 F
5 (P) は、 上記第 2元素群が鋼中の Cと炭化物を形成して析出強 化により鋼が強化される係数の、 その強化量を示す指数であり、 上記 (1 2
) 式に示すように定められる。 (1 2) 式の意味するところは、 以下のとお リである。 すなわち、 N b, 丁 Vは、 鋼中での炭化物形成能が強く、 例 えば 700°Cでの鋼中の N bと Cの溶解度積、 T iと Cの溶解度積 (重量% )
2はともに 1 0の一 6乗のオーダーであり、 Vと Cの溶解度積 (重量%)
2 は 1 0の一 4乗のオーダーであるので、 本発明の高強度鋼板においては、 T i , N b, Vは固溶体としてはほとんど存在できず、 Cと 1対 1で結合した 炭化物、 すなわち N bC、 T i C、 もしくは VCとして存在する。 したがつ て、 添加した N b, 丁 Vの添加量に比例した析出強化量が期待できる。
[0062] なお、 これは N b, T i, 又は Vと結合していない Cが残存している場合 であり、 すべての Cが N b, T i, Vと結合している状態で更に N b, T i 、 または Vを添加しても、 期待通りの析出量は得られない。 また、 析出物の 大きさにより析出強化量は変化する。 一般に、 析出物が粗大化すると析出強 化能は低下する。 本発明の高強度鋼板では、 後述するように、 冷間圧延後の 焼鈍時に、 炭化物が成長しやすい高温域での長時間保持は考慮していない。 このため、 N b, T i又は Vの炭化物は均一微細に分散し、 これら元素の添 加量のみにより析出強化量が決まる。 上記 (1 2) 式はこのことを示すもの である。
[0063] ここで、 ( 1 2) 式中の係数 500、 1 000および 250はそれぞれ N b, T Vの 1重量%あたりの析出強化量を表すもので、 実験により決定 した数値である。 N b、 T i、 および Vの析出強化量を合計したものが、 F5 (P) 、 すなわち全析出強化量である。 このような知見の下、 (1 3) 式お よび (1 4) 式は、 固溶強化と析出強化によるフェライ卜の強化量をそれぞ れ 600MPa以下、 1 3 OMP a以下にすべきことを示している。
[0064] これは、 鋼板の強化量が高すぎると、 本発明の特徴である高い延性が発現 しなくなるためである。 前述のように、 多量の合金元素を添加してフェライ 卜を大きく強化すると、 同時にフェライト純度が低下し、 フェライトの強度 延性バランスが劣化する。 本発明の高強度鋼板の金属組織では、 フェライト の純度が所定以上の場合には従来鋼よりも高い延性が得られるものの、 フエ
ライ卜の純度が低すぎると高い延性が発現しなくなる。
[0065] 本発明者等は、 高い延性を発現するため、 必要なフェライ卜の純度を定量 化することを検討した。 その結果、 各添加元素が延性に及ぼす悪影響度は、 単位添加量 (質量%) あたりのフェライト強化量 (固溶強化、 析出強化) に 比例することを実験的に見出した。 その結果を元に鋭意研究したところ、 高 い延性を発現できるフェライ卜強化量の上限値が、 固溶強化では 5 0 0 M P a、 析出強化では 1 3 O M P aであることが判明した。 上記 (1 3 ) 式及び ( 1 4 ) 式は、 これを数値化したものである。
[0066] また、 本発明の高強度鋼板においては、 適量の Nを含有させることにより 、 高い B H量を付与することができる。 B H量には、 C, Nを代表とする侵 入型固溶元素の量が影響する。 しかしながら、 本発明の高強度鋼板では、 C の増量には限界がある。 前述のように、 Cを増量すると金属組織中にパーラ ィ卜が生じやすくなリ、 目的の金属組織を得にくくなるためである。
[0067] そこで、 本発明者等は、 C以外の侵入型固溶元素として Nに着目した。 N は、 鉄と化合物を生成しない範囲の含有量であれば、 金属組織を大きく変化 させずに固溶状態で含有させることができ、 歪み時効現象に有効に作用し、 高い B H量を得ることができる。 さらには、 本発明の高強度鋼板においては 、 従来の鋼板よりも B H量が高いという特性がある。 その理由は明確ではな いが、 本発明の高強度鋼板はフェライト結晶粒の多くが 1 . 2 m以下のナ ノ結晶粒であり、 結晶粒界や、 フェライトと第 2相との界面の面積が非常に 多いことが影響していると考えられる。
[0068] 粒界や界面を挟む結晶粒は互いに変形を拘束するため、 粒界や界面付近に は変形時の転位密度が高くなる傾向にある。 本発明の高強度鋼板では、 その ような粒界■界面が材料組織中の至る所に存在するため、 材料全体にわたり 均一で高い転位密度を有している。 したがって、 塗装焼付け処理時の Nの歪 み時効が材料全体にわたって生じるため、 高い B H量を示すと考えられる。
[0069] ぐ各化学成分の限定理由 >
次に、 本発明の高強度鋼板における、 各化学成分の限定理由について延べ
る。 なお、 以下に示す各元素の含有量についても単位は全て質量%であるが 、 便宜上、 単に%と記載する。 また、 Cについては、 (1 0) 式で個別に限 定し、 その他の元素については、 ほとんどの場合に (8) 式、 (9) 式、 (
1 3) 式、 (1 4) 式によって上下限値が限定されるが、 さらに、 個別に上 下限値を設定する。
[0070] く C:固溶 Cで 0. 07〜0. 45%>
Cの添加により、 フェライ卜とオーステナイ卜からなる渥合組織を熱延後 の高温で生じさせる事ができ、 この混合組織の急冷によりマルテンサイ卜、 ペイナイ卜、 残留オーステナイ卜の硬質第 2相を形成することができる。 さ らには、 冷間圧延後の焼鈍においても同様である。 このため、 Cは本発明で は最も重要な元素である。
[0071] 本発明の高強度鋼板では、 N b、 T iおよび Vの添加が可能であるので、 その場合に炭化物として析出する Cを除いた固溶 Cが、 上記 (1 0) 式を満 足するように、 Cの添加量を調整する。 固溶 Cが 0. 07%未満であると、 冷間圧延前の金属組織中に十分な量の硬質第 2相を含有させることができず 、 固溶 Cが 0. 45%を超えると、 金属組織はパーライトとなり、 ともに本 発明の高強度鋼板の製造方法には適さなくなる。
[0072] ぐ第 1元素群: >
以下の元素は、 鋼の焼入性向上と固溶強化による鋼の強度向上とを目的と して添加する。 添加量は、 (8) 式、 (9) 式、 および (1 3) 式を満たす ように調整する。 以下に、 各元素の添加量の上限値及び下限値の限定理由を 説明する。
[0073] <S i : 0. 2〜5%>
S i添加量が 0. 20/0未満の場合は、 焼入性向上の効果が明瞭に現れない 。 このため、 下限値は 0. 2%とする。 また、 S iの添加量が 5%を超える と、 S iが F eと結合して結晶構造が D03型もしくは B2型の金属間化合 物である F e3S iが安定相として現われ、 これは鋼の延性を低下させるため 、 上限を 5%とする。
[0074] <M n : 0. 1〜5%>
M nの添加量が 0. 1 %未満の場合は、 焼入性向上の効果が明瞭に現れな し、。 このため、 下限値は 0. 1 %とする。 また、 Mnの添加量が 5%を超え ると、 室温においても、 オーステナイ卜が安定相として存在する。 安定相の オーステナイ卜は強度が低く、 鋼全体の強度を低下させるため好ましくない 。 このため、 上限値は 5%とする。
[0075] <C r : 0. 1〜 1. 5%>
C rの添加量が 0. 1 %未満の場合は、 焼入性向上の効果が明瞭に現れな し、。 このため、 下限値は 0. 1 %とする。 また、 〇 1>の添加量が1. 5%を 超えると、 鋼中の Cと C rとが結合して炭化物になるため、 添加量に見合つ た固溶 C rが得られず、 焼入性向上も望めない。 このため、 上限値は、 C r が固溶状態で存在できる 1. 5%とする。
[0076] <M o : 0. 1〜0. 7%>
M oの添加量が 0. 1 %未満の場合は、 焼入性向上の効果が明瞭に現れな し、。 このため、 下限値は 0. 1 %とする。 また、 Mo添加量が 0. 7%を超 えると、 鋼中の Cと Moとが結合して炭化物になるため、 添加量に見合った 固溶 Moが得られず、 焼入性向上も望めない。 このため、 上限値は、 Moが 固溶状態で存在できる 0. 7%とする。
[0077] <N i : 0. 2〜 1 0%>
N iの添加量が 0. 2%未満の場合は、 焼入性向上の効果が明瞭に現れな し、。 このため、 下限値は 0. 2%とする。 また、 N iの添加量が 1 0%を超 えると、 室温においても、 フェライトに加えてオーステナイトが安定相とし て存在する。 オーステナイ卜は強度が低く、 鋼全体の強度を低下させるため 好ましくない。 このため、 上限値は 1 0%とする。
[0078] <B: 0. 0005〜0. 003%>
Bの添加量が 0. 0005%未満の場合は、 焼入性向上の効果が明瞭に現 れない。 このため下限値は 0. 0005%とする。 また、 フェライトへの B の固溶限自体は非常に小さく、 Bは添加量が少ない場合は主に鋼の結晶粒界
に偏析して存在すると考えられるが、 添加量が 0. 003%を超えると、 粒 界だけでは Bの存在サイ卜としては不十分になり、 金属間化合物の F e2Bが 生成されて鋼の延性を低下させるため、 上限値は 0, 003%とする。
[0079] <第 2元素群: N b, T i, V>
これらの元素は、 結晶粒の微細化及び析出強化による鋼の強度向上を目的 として、 必要に応じて添加することができる。 以下、 各元素の添加量の上限 値及び下限値の限定理由を説明する。
[0080] <N b : 0. 01〜0. 26%>
N bによる微細化および析出強化を得るためには 0. 010/0以上添加する 必要がある。 N bの添加量が 0. 26%を超えると、 N bCによる析出強化 量だけで 1 3 OMP aとなり、 ( 1 4) 式を溝足しないため、 上限は 0. 2 6%に限定される。
[0081] <T i : 0. 01〜0. 1 3%>
T iの添加量が 0. 1 3%を超えると、 T i Cによる析出強化量だけで 1 30MPaとなり、 ( 1 4) 式を満足しないため、 T iの上限は 0. 1 3% に限定される。
[0082] <V: 0. 1〜0. 52%>
Vの添加量が 0. 1 %未満では微細化の効果が明瞭に現れず、 Vの添加量 が 0. 52%を超えると、 VCによる析出強化量だけで 1 3 OMP aとなり 、 ( 1 4) 式を満足しないため、 Vの上限は 0. 52%に限定される。
[0083] <第 3元素群: P, A 1 >
これらの元素は、 鋼の強化元素として、 必要に応じて添加することができ る。 以下、 各元素の添加量の上限値及び下限値の限定理由を説明する。
[0084] <P : 0. 03〜2%>
Pの添加は、 鋼の固溶強化元素として有効であるが、 添加量が 0. 03% 未満の場合は固溶強化の効果が明瞭に現れない。 このため、 下限値は 0. 0 3%とする。 また、 Pの添加量が 2%を超えると、 金属間化合物である F e3 Pが生成し、 鋼の延性を低下させる。 このため、 上限値は 2%とする。
[0085] く A I : 0. 01〜 1 8%>
A 1は、 固溶強化元素であるとともに、 脱酸剤としての効果を有し、 鋼を キルド鋼にするために添加される。 また、 A 1は、 製鋼工程において鋼中の 溶存酸素と結合してアルミナとして浮上し、 これを除去することで鋼の延性 や靭性を向上させることができる。 ただし、 A Iの添加量が 0. 01 %未満 の場合は、 脱酸剤としての効果も、 固溶強化元素としての効果も明瞭に現れ ない。 このため、 下限値は 0. 01 %とする。 一方、 A 1の添加量が 1 8% を超えると金属間化合物である F e3A Iが生成し、 鋼の延性を低下させる。 このため、 上限値は 1 8%とする。
[0086] <N : 0, 007〜0. 03 %>
Nは、 本発明の高強度鋼板においては、 BH量を向上させるために重要な 元素であり、 高強度鋼板を部品に成形した後に塗装焼付け工程がある場合は 、 部品の強度を上昇させるのに有効に働く。 したがって必要に応じて Nを適 宜添加する。 N添加量が 0. 007%未満の場合は、 焼付硬化性が明瞭に現 れない。 このため、 下限値は 0. 007%とする。 一方、 N添加量が 0. 0 3%を超えると、 立方晶の F e4Nが析出し始めるため添加した Nに見合つナ BH量向上を望めない。 したがって、 上限を 0. 03%とする。
[0087] <組織についての限定理由 >
次に、 本発明の高強度鋼板の金属組織について、 詳細に説明する。 本発明の高強度鋼板の金属組織は、 下記 1 ) 〜4) に記載の要件を同時に満 足するものである。
[0088] 1 ) 金属組織は、 フェライ卜と第 2相 (マルテンサイ卜、 ペイナイ卜、 残留 オーステナイトのうち 1種または 2種以上) からなる。 また、 鋼板の、 圧延 方向に平行な断面を切り出し、 この断面をナイタール等でエッチングした後 に、 走査型電子顕微鏡で倍率 5000倍で撮影した 2次電子像 (以下、 SE M写真と称する) から測定した第 2相の面積率が、 30〜70%である。
[0089] 2) 金属組織において、 硬質第 2相はフェライト相中に均一に分散しており 、 以下の要件を満足する。 すなわち、 鋼板の、 圧延方向に平行な断面の 50
00倍の S EM写真において、 3 m四方の正方形格子を任意に 9個以上の 取り出し、 各格子での硬質第 2相の面積率を画像解析を用いて測定した際に 、 各硬質第 2相の面積率を A i ( i = 1 , 2, 3, …;) とするとき、 A iの 平均値 A (a v e) と標準偏差 sとが、 下記 (21 ) 式を満たす。
[数 1 2]
sZA (a V e) ≤0. 6 … (24)
[0090] 3) 鋼板の、 圧延方向に平行な断面の 5000倍の S EM写真において、 写 真の全面積から硬質第 2相を除外したフェライ卜部のうち、 ナノ結晶粒の面 積率が 1 5〜 90 %である。
[0091] 4) ナノ結晶粒の平均粒径 d Sと、 ミクロ結晶粒の平均粒径 dしとが、 下記
(25) 式を満たす。
[数 1 3]
d LZd S≥3 … (25)
[0092] ここで、 平均粒径とは、 鋼板の、 圧延方向に平行な断面の 5000倍の S EM写真において、 画像解析により全てのフェライト粒の面積を測定し、 そ れぞれの面積から求めた円相当径を意味する。 具体的には、 画像解析により 求めたフェライト粒の面積を S i ( i = 1, 2, 3-) とすると、 円相当径 D i ( i = 1 , 2, 3-) は、 下記 (26) 式により計算する。
[数 1 4]
D i = 2 (S i Z3. 1 4) /2 … (26)
[0093] 以上に示した要件 1 ) 〜4) の設定理由は、 以下のとおりである。 すなわ ち、 適量の硬質第 2相を均一に分散析出させることで、 フェライト部から第 2相へ C等の固溶元素を放出させ、 フ ライトの純度を高め、 これによリ鋼 の延性を高めることができる。 また、 硬質第 2相の面積率が小さすぎると、 複合組織鋼の特徴が現れないために延性が小さく、 多すぎる場合もまた、 フ ェライ卜よりも硬質第 2相の材料特性が顕著に現れ、 延性が小さくなる。
[0094] ここで、 本発明の高強度鋼板の組織において、 硬質第 2相とは、 焼鈍中に フェライ卜と平衡する相が冷却過程において変態した相か、 変態せず残留し
た相か、 さらには、 それらの相が焼鈍により変化した組織を指す。 具体的に は、 マルテンサイ卜、 ペイナイ卜、 残留オーステナイ卜、 のいずれか 1種以 上のことである。
[0095] ここで、 焼戻べイナィ卜はべイナィ卜に、 焼戻マルテンサイ卜はマルテン サイ卜に含まれる。 その理由を以下に説明する。 先ず、 焼戻べイナィ卜は、 べィナイ卜を 3 0 0〜 4 0 0 °Cで焼鈍して靭性を向上させたものであるが、 転位密度の高いフェライ卜とセメンタイ卜の混合組織であり、 本質的にペイ ナイ卜と変わらないため、 本発明においてはべイナィ卜に含まれるとして极 ラ。
[0096] 次に、 焼戻しマルテンサイ卜は、 マルテンサイトを焼鈍して硬度を低減さ せ靭性を向上させたものであるが、 本発明においてはマルテンサイ卜に含ま れるとして扱う。 マルテンサイトの焼戻しは、 炭素を過飽和に固溶したマル テンサイトが、 フェライトと炭化物に分解する過程である。 しかしながら、 例えば、 社団法人日本金属学会編、 講座 ·現代の金属学 材料編 4 鉄鋼材 料、 3 9頁に記載されているように、 3 0 0〜5 0 0 °Cで焼戻した場合でも 、 フェライトはかなり高い転位密度を持っており、 ラスマルテンサイトの特 徴であるパケット、 ブロックなどの構成は変化しない。 したがって硬度も高 く、 焼鈍マルテンサイ卜であっても、 マルテンサイ卜の特徴を失っていない
[0097] さらには、 社団法人日本金属学会編、 講座,現代の金属学 材料編 4 鉄 鋼材料、 3 9頁に記載されているように、 焼入直後のマルテンサイトに過飽 和に固溶された Cは非常に容易に拡散が起こるので、 約一 1 0 0 °Cから既に 、 Cの移動が認められ、 析出の準傭段階が始まっている、 したがって、 焼入 れままのマルテンサイ卜と焼戻マルテンサイ卜は明瞭に区別し難い。 以上を 考慮して、 本発明においてはマルテンサイ卜と焼戻しマルテンサイ卜は同じ ものとして极ぅ。
[0098] 次に、 第 2相以外のフェライ卜部に関して説明する。 フェライト部は大き さの異なるナノ結晶粒とミクロ粒の混合組織とすることで、 高強度と、 プレ
ス成形時や部品化後の衝突時に必要である延性を高次元で両立させることが できる。
[0099] なお、 超微細フェライトの定義を 1 . 2 m以下としたのは、 たとえば Γ 鉄と鋼」 (日本鉄鋼協会) 、 第 8 8巻第 7号 (2 0 0 2年) 3 6 5頁の図 6 ( b ) に開示されているように、 フェライト結晶粒径約 1 . 2 mを境界に して、 材料の材料特性、 特に伸びが不連続に変化するためである。 また、 フ エライト結晶粒径が 1 . 2 mより小さくなると、 全伸びが急激に低下し、 とくに一様伸びを示さなくなるためである。
[0100] 以上は、 本発明の高強度鋼板に係る、 種々の式の規定理由、 化学成分の限 定理由、 及び組織についての限定理由であるが、 以下に、 本発明の高強度鋼 板の作用効果についてのメカニズムを詳細に説明する。
[0101 ] ぐ本発明の高強度鋼板の作用効果についてのメカニズム >
母相をフェライ卜をナノ結晶粒とミクロ結晶粒との混合組織とし、 更に硬 質第 2相を含有させることで、 高強度と高い延性を付与できるメカニズムを
、 下記に述べる。
[0102] 本発明の高強度鋼板の母相は、 非常に強度の高い結晶粒径 1 . 2 m以下 のナノ結晶粒を一定の範囲で含んでおり、 変形応力が非常に高い。 しかしそ れだけでは、 前述の特許文献 5や 6のように、 高強度ではあるが延性が低い 。 その間題を克服するために、 フェライト以外に、 一定の分率の硬質第 2相 を導入するとともに、 母相フェライトも超微細粒だけではなく一定の範囲の 量の、 通常の強度を有するミクロ結晶粒を混在させる。
[0103] 先ず、 硬質第 2相を導入した理由について説明する。 本発明の高強度鋼板 の組織は、 基本的には軟質な母相と硬質な第 2相をもつ複合組織であり、 一 般的な複合組織鋼の変形挙動の考え方が適用できる。 複合組織を有する鋼板 を変形させようとした場合、 まず軟質な母相のフェライ卜から優先的に変形 が生じる。 さらに変形を加えた場合、 組織中に分散した硬質第 2相は変形し 難いため、 材料のマクロな歪みの多くの部分を、 母相フェライ卜が分担しな ければならず、 フェライトがさらに変形して、 大きく加工硬化する。
[0104] 加工硬化が大きければ歪みが広範囲に伝播するために局部くびれが生じに くく、 その結果、 延性が大きくなる。 本発明は、 このような複合組織鋼の変 形の考え方をベースにしながらも、 母相フェライ卜が合金元素を極力押さえ 結晶粒の微細化により強化されたものであること、 さらには母相フェライ卜 は、 非常に強度の高い結晶粒径 1 . 2 mのナノ結晶粒と、 結晶粒径が 1 . 2 mを超える通常の強度を有するミク口結晶粒の混合組織であるという 2 つの特徴を有する全く新しい発想による高強度鋼板である。
[0105] まず、 1点目の特長である合金元素を極力抑えていることの効果について 述べる。 通常の複合組織鋼に、 固溶強化元素 (代表的なものとしては M n, S Pなど) や析出強化元素 (代表的なものとしては N b, T iなど) を 添加していくと、 確かにフェライ卜の強度が上昇するために鋼の強度も上昇 するものの、 母相中の鉄と合金元素の界面、 母相と析出物の界面には変形に より導入された転位が局在化しやすく、 それが破壊の起点となるため、 結果 的には、 鋼の強度延性バランスはそれ程向上するわけでは無い。
[0106] 2点目の母相がナノ結晶とミクロ結晶の混合組織であることは、 本発明の 大きな特徴である。 発明者は、 後述する通常圧延焼鈍でのナノ結晶組織を製 造する独自の方法を用いて、 複合組織を有する超微細結晶粒の組織と機械的 性質の関係について研究を重ね、 母相フェライトが粒径 1 . 2 m以下のナ ノ結晶粒のみからなる場合は、 フェライ卜単相の超微細結晶粒材料よりも延 性は向上するものの、 その効果は小さく、 母相中に、 通常の強度を有するミ クロ結晶粒を一定の量導入した場合に、 最も良好な強度■延性のバランスを 呈することを見出した。
[0107] 前述したように、 超微細結晶粒組織は、 強度は高いものの加工硬化が小さ く、 延性が劣り、 特に一様伸びはほとんど無い。 そのような組織に硬質第 2 相を導入しても、 延性の小さい母相の影響が大きすぎ、 鋼全体の延性は若干 向上する程度であった。 これは、 母相全体が超微細結晶粒の場合は、 結晶粒 界の拘束によって大きな変形に追従することができず、 析出物と母相界面や 、 鉄と固溶元素の界面ほどではないにしろ、 結晶粒界付近に歪みの局在化が
生じ、 破壊の起点となることが原因と考えられる。
[0108] しかしながら、 母相フェライ卜にミクロ結晶粒を一定の範囲で導入するこ とで、 延性は大きく向上した。 その理由は明確ではないが、 母相フェライト 中に、 強度上昇にはあまリ寄与しないが大きな変形能を有するミク口結晶粒 があると、 周囲のナノ結晶部の変形能が小さいことを補い、 マクロな変形に 追従し、 かつミク口結晶粒も歪みが集中することで大きく加工硬化すること によって、 結果的に、 破壊の起点となるボイドの発生を抑えつつ、 結晶組織 全体に歪みが一様にいきわたるわたるためと考えられる。
[0109] 上述の現象は、 母相フェライ卜中のナノ結晶粒の比率が 1 5〜9 0 %の範 囲で、 かつまた鋼組織中の硬質第 2相の面積率が 3 0〜7 0 %の範囲で発現 する。 母相フェライト中のナノ結晶比率が 9 0 %より大きいと、 前述のよう に延性はあまり向上せず、 1 5 %より小さい場合は、 結晶粒微細化によるフ ェライ卜の強化が不十分で、 明瞭な高強度化が得られない。
[0110] また、 鋼組織中の硬質第 2相が 3 0 %より少ないと、 複合組織の特徴が明 暸にならずにフェライ卜単相の組織に対する優位性が無くなる (延性が低く なる) 。 一方、 硬質第 2相が 7 0 %より多いと、 硬質第 2相の変形特性が顕 著に現れ、 降伏点が上昇し延性が低くなる。
[0111 ] 以上は、 本発明の高強度鋼板に関する説明であるが、 以下に、 上記高強度 鋼板を好適に製造する方法の第 1実施形態を説明する。 なお、 本発明の高強 度鋼板の製造方法の第 1実施形態は、 通常の冷延鋼板製造プロセス、 すなわ ち、 スラブ溶製、 熱間圧延、 冷間圧延及び焼鈍の各工程によって製造するこ とができる。
[0112] <スラブ溶製 >
スラブ溶製は、 通常の方法で所定成分にて行う。 工業的には、 溶銑をその まま用いるか、 又は市中スクラップゃ鋼の製造工程で生じた中間スクラップ 等の冷鉄源を電気炉や転炉で溶解した後、 酸素精鍊し、 連続錶造又はバッチ の分塊錶造にて錶造する。 パイロッ卜プラントや実験室等の小型設備におい ても、 電解鉄やスクラップ等の鉄素材を、 真空中又は大気中で加熱炉によつ
て溶解し、 所定の合金元素を添加した後、 錶型に注入することで素材を得る ことができる。
[01 13] <熱間圧延 >
熱間圧延は、 本発明の高強度鋼板の製造方法の第 1実施形態において、 最 初の重要なプロセスである。 本発明の製造方法では、 熱間圧延後の結晶組織 を、 フェライトが主相で、 硬質第 2相を面積率で 3 0〜 8 5 %の範囲で含有 する複合組織とし、 さらに板厚方向に測定した硬質第 2相の平均間隔を 2 . 5〜5 mとする。 ここでいう硬質第 2相とは、 本発明の高強度鋼板の最終 組織における硬質第 2相からセメンタイ卜を除外したものであり、 マルテン サイ卜、 ペイナイ卜及び残留オーステナイ卜のうち少なくとも 1種である。 セメンタイ卜またはパーライ卜が硬質第 2相である場合は、 本発明の高強度 鋼板の金属組織は得られない。
[01 14] 以下に、 硬質第 2相を上記のように選定した理由について説明する。
本発明の高強度鋼板の金属組織は、 フェライ卜相中に占めるナノ結晶粒が 、 面積率で 1 5〜9 0 %であるものである。 この金属組織を得るためには、 以下の処理を行う。 すなわち、 冷間圧延前の金属組織をフェライトと硬質第 2相の複合組織とする。 次いで、 冷間圧延によって、 軟質なフェライ卜に大 きな勢断歪みを付与する。 最後に、 この部分を引き続き行われる焼鈍によつ て、 結晶粒径 1 . 2 m以下のナノ結晶粒とする。
[01 15] 一方、 冷間圧延前に存在した硬質第 2相 (マルテンサイ卜、 ペイナイ卜及 び残留オーステナイトのうちの少なくとも 1種) は、 冷間圧延により変形は するものの、 フェライト部ほど大きな剪断歪みが付与されない。 このため、 冷間圧延後の焼純工程においては、 ナノ結晶粒は生成せず、 セメンタイトを 析出しながらフェライ卜へ変化するか、 又は歪みの少ない新しいフェライ卜 粒の核生成と成長による、 通常の静的再結晶の過程を経て、 ミクロンオーダ 一の結晶粒径を有するミクロ結晶粒になる。 このようなメカニズムにより、 ナノ結晶粒とミク口結晶粒との混合組織が得られる。
[01 16] このように、 硬質第 2相としては、 マトリックスのフェライトに対して高
い硬度を有し、 しかも、 冷間圧延及び焼鈍の後には、 フェライトに変化する ような組織でなければならない。 言い換えれば、 本発明で必要とする硬質第
2相とは、 セメンタイトのような炭化物単独のものではなく、 フェライト又 はオーステナイ卜が主体でありながら硬度の高い組織のことである。
[01 17] 以下に、 マルテンサイ卜、 ペイナイ卜及び残留オーステナイ卜が本発明に おける硬質第 2相としての適格を有する理由を述べる。 マルテンサイ卜は、 Cを過飽和に含むフェライ卜であり、 Cによる結晶格子の歪みに起因した高 い転位密度のために硬度が高い。 しかしながら、 マルテンサイトの C含有量 は、 F e _ C平衡状態図における F eと F e 3 Cの共晶点の C濃度である約 0 . 8 %程度が最大であり、 F e 3 Cの化学式で示されるセメンタイトに比して 非常に少ない。 このため、 冷間圧延後の焼鈍工程においては、 セメンタイト を析出しながらフェライトに変化する。 したがって、 マルテンサイトには、 フェライ卜を主体としながら硬度の高い組織であるという、 本発明における 硬質第 2相としての適格を有している。
[01 18] ペイナイ卜は、 マルテンサイ卜が形成し始める温度よりもやや高温で変態 した組織であり、 羽毛状又は針状のフェライ卜と微細なセメンタイ卜との混 合組織である。 ペイナイ卜は、 マルテンサイ卜ほどではないが、 フェライ卜 部には多量の転位を含んでおり (社団法人日本金属学会編、 講座,現代の金 属学 材料編 4 鉄鋼材料、 3 5頁) 、 セメンタイトのみならず、 転位密度 の高いフェライト部も硬度が高い。 したがって、 ベイナイトも、 フェライト を主体としながら硬度の高い組織であるという、 本発明における硬質第 2相 としての適格を満足している。
[01 19] 上記の説明で明らかなように、 ペイナイ卜は、 フェライ卜とセメンタイ卜 との混合組織ではあるが、 セメンタイ卜と高転位密度のフェライ卜部とを合 わせた組織全体を硬質第 2相とみなすことができ、 転位密度の低いフェライ トマトリックス中に単独で硬質第 2相として存在するセメンタイ卜とは、 明 確に区別することができる。
[0120] また、 金属組織の観察からも、 ペイナイ卜と、 セメンタイ卜との違いは、
明瞭に判別できる。 鋼の断面を研磨■エッチングして光学顕微鏡で観察した 場合、 ペイナイ卜の組織では、 高転位密度のために針状フェライ卜部が暗く 観察され、 周囲の低転位密度のフェライトマトリックスは明るく見える。 一 方、 セメンタイト単独の組織とは、 明るいフェライトマトリックスに対し、 灰色に見える球状の析出相である。
[0121 ] 最後に、 残留オーステナイ卜は、 圧延工程における歪みによって、 歪み誘 起変態を起こしてマルテンサイ卜に変化するため、 マルテンサイ卜と同じ効 果があり、 また冷間圧延後の焼鈍工程における組織変化も、 マルテンサイト と同様である。 従って、 残留オーステナイ卜は、 本発明における硬質第 2相 としての適格を有している。
[0122] 次に、 硬質第 2相が単独のセメンタイ卜又はパーライ卜の場合について説 明する。 ここでパーライトは、 フェライトとセメンタイトとが層状を成す混 合組織であるので、 層状のセメンタイ卜が硬質第 2相の働きをする。 従って 、 硬質第 2相がセメンタイ卜の場合もパーライ卜の場合も本質的に同じであ る。 硬質第 2相がセメンタイ卜の場合は、 冷間圧延において、 本発明の特徴 である軟質フェライ卜部に大きな剪断歪みを付与する事が困難である。 これ は、 セメンタイトは変形に対して非常に脆く、 冷間圧延時のエネルギーがセ メンタイ卜の破断に消費されてしまい、 フェライ卜に有効に歪みが付与され ないためである。
[0123] もっとも、 圧延率が 8 5 %以上といった高圧下率で冷間圧延すれば、 ナノ 結晶が生成するようになる。 しかしながら、 その場合も、 冷間圧延後の焼鈍 過程における変化が、 硬質第 2相がマルテンサイ卜、 ペイナイ卜、 残留ォー ステナイ卜の場合と大きく異なるため、 本発明の特徴であるナノ結晶粒とミ ク口結晶粒の混合組織とはならない。 高圧下率で冷間圧延した後の焼鈍工程 において、 焼鈍温度が A c 1変態点以下の場合は、 準安定相であるセメンタ ィ卜は、 その形状が層状の場合は球状へ変化するものの、 セメンタイ卜のま ま残存する。 このため、 焼鈍後の組織はナノ結晶フェライ卜とセメンタイ卜 になり、 本発明鋼の特徴である混合組織とはならない。 したがって、 高強度
は示すものの、 良好な延性を示さない。
[0124] また、 焼鈍温度が A c 1変態点以上の場合は、 C濃度が非常に高いセメン タイ卜部が優先的にオーステナイ卜に変態し、 その後の冷却過程において、 パーライ卜、 マルテンサイ卜、 ペイナイ卜、 残留オーステナイ卜の少なくと も 1種の混合組織に変態する。 このため、 ナノ結晶フェライトと、 これら変 態組織との混合組織となり、 本発明鋼の特徴である高い延性は得られない。 本発明鋼の最終的な金属組織においては、 フェライ卜相がナノ結晶粒とミク 口結晶粒の混合組織であることが重要である。
[0125] フェライト相をそのような混合組織とするには、 熱間圧延板中の硬質第 2 相を適正に選択した上で、 硬質第 2相の面積率を 3 0〜8 5 %の範囲とする とともにその平均間隔を 2 . 5〜 5 mの範囲とすることが必要である。 そ の後、 後述するように、 硬質第 2相の間隔に応じた所望な圧延率により冷間 圧延を施し、 さらに A c 1変態点を越えてかつ結晶粒成長を抑制できる温度 、 時間で焼鈍することにより、 上記のミクロ結晶粒とナノ結晶粒との混合組 織を母相として硬質第 2相を含有する高強度鋼板が得られる。
[0126] 次に、 熱間圧延板中の硬質第 2相の面積率の規定理由について述べる。 硬 質第 2相の面積率が 3 0 %より小さい場合も、 8 5 %を超える場合も、 冷延 ,焼鈍後に、 十分な量のナノ結晶粒を得ることが出来ない。 本発明者は、 フ ェライ卜と硬質第 2相からなる熱間圧延板を、 冷延'焼鈍した時のナノ結晶 粒生成挙動について、 高分解能 S E Mを用いた E B S D (E l ectron Backseat ter Di fract ion) 法によって研究を行った。 その結果、 冷間圧延組織におけ る硬質第 2相とフェライ卜相との界面付近から、 等軸形状で 3 0 0 n m以下 という非常に小さな結晶粒が核生成し、 焼鈍時間の経過とともに周囲のフエ ライ卜加工組織を侵食して成長していく様子が確認された。 同時に、 硬質第 2相については、 その内部に新たな結晶粒が核生成するケースと、 硬質第 2 相そのものの形状はほとんど変わらず、 歪みが回復するのみで等軸なミクロ 結晶粒に変化するケースがある事を確認した。 更に、 結晶方位等の詳細解析 を行い、 混合組織におけるナノ結晶粒の起源は、 初期のフェライ卜と硬質第
2相との界面付近に核生成する等軸なフェライ卜粒であり、 ミクロ結晶粒の 起源は、 初期のフェライ卜の中でも剪断歪みがあまり付与されていない部分 と、 初期の硬質第 2相であることを見出した。
[0127] この知見によれば、 熱間圧延板中の硬質第 2相が少ない場合は、 フェライ 卜相との界面も少ないために、 ナノ結晶粒の核生成密度が小さく、 逆に歪み 量の小さいフェライ卜相が多く存在するために、 最終的にはミクロ結晶粒が 多くを占め、 ナノ結晶粒によるフェライト相の強化が明瞭に現れず、 通常の 複合組織鋼との差異が現れない。 一方、 熱間圧延板中の硬質第 2相が多い場 合は、 フェライト相へ付与される歪みは高いものの、 フェライト相自体が少 なく、 硬質第 2相を圧延、 焼鈍した組織であるミクロ結晶粒が多くを占める ようになり、 結果的には十分な量のナノ結晶粒を得ることが出来ない。 本発 明者は、 上記の知見に基づき、 熱間圧延板中の硬質第 2相の面積率を種々に 変えて冷延■焼鈍する実験を系統的に行うことにより、 硬質第 2相の面積率 の適正範囲は 3 0〜 8 5 %であることを見出した。
[0128] ここで、 熱間圧延鋼板中の硬質第 2相の測定方法について説明する。 熱間 圧延鋼板において、 圧延方向と平行な断面の 4 0 0〜 1 0 0 0倍の光学顕微 鏡写真を撮影する。 その後、 図 1に示すように、 板厚方向に 3本の直線 (同 図においては、 代表して 1本の直線を示す。 ) を任意の位置に引く。 この直 線上で、 硬質第 2相、 フェライ卜、 硬質第 2相の順に切断されるとすれば、 最初の硬質第 2相とフェライ卜との界面から、 フェライト粒を通って次の界 面までの距離を、 スケールにて測定し、 単位を// mに換算する。 この作業を 、 写真上で切られる全ての硬質第 2相について実施し、 全ての測定値を平均 して、 硬質第 2相の平均間隔とする。
[0129] 次に、 目的の組織を得るための熱間圧延の方法について説明する。 図 2は 、 熱間圧延の温度履歴を示す図である。 図 2に示すように、 まず、 スラブを オーステナイ卜域すなわち A c 3変態点以上まで加熱し、 粗圧延した後、 仕 上げ圧延を行う。 この仕上げ圧延の温度を、 A r 3変態点の直上、 すなわち フェライ卜が析出しない範囲で出来るだけ低温のオーステナイ卜域とするこ
とで、 圧延時の粒成長を抑制する。 その後、 フェライ卜とオーステナイ卜の
2相域まで冷却することで、 フェライ卜とオーステナイ卜の混合組織とする 。 この際、 圧延時のオーステナイ卜粒成長を抑制したことで、 オーステナイ 卜はもちろん、 オーステナイ卜の結晶粒界から核生成するフェライトも核生 成密度が高くなリ、 粒径を微細にすることができる。 圧延時にフ Xライトが 析出していると、 加工されたフェライ卜がそのまま室温まで残存するため、 変態により微細なフェライ卜を析出させるという効果が低減する。
[0130] 引き続いて、 2相域にてそのまま保持するか、 保持せずに急冷を行う。 こ の急冷過程で、 オーステナイト部を硬質第 2相に変態させるが、 2相域保持 の段階で結晶粒を微細にしたことが硬質第 2相の間隔を狭くすることに有効 に働く。 なお、 2相域からの急冷とは、 鋼成分によって決まる臨界冷却速度 、 すな: Pち 続冷却変 線図 ( C C T : Cont i nuous coo l i ng transformat i on d i agram) におけるパーライト変態開始のノーズを横切らずに M s点 (マル テンサイ卜変態開始温度) に到達するような冷却速度以上で冷却することを 意味する。
[0131 ] これは、 一般的な意味の急冷却である必要は必ずしも無く、 その鋼にとつ て十分な冷却速度であれば良い。 このときの冷却速度が、 C C Tにおけるべ ィナイ卜変態開始ノーズも横切らない程に大きなものであれば、 第 2相はマ ルテンサイトとなる。 また、 ベイナイト変態開始ノーズを横切って M s点以 下まで冷却すれば、 第 2相はマルテンサイ卜とペイナイ卜の混合組織となる 。 さらに、 M s点直上で冷却を停止して温度を保持した後に室温まで冷却す れば、 第 2相はべイナィ卜になる。
[0132] また、 高強度鋼板の成分として S iや A Iを増加させた上で、 M s点直上 で冷却を停止して保持した後に室温まで冷却すれば第 2相にはべイナィ卜の 他に残留オーステナイ卜が含まれるようになる。 いずれにしろ、 パーライ卜 変態を回避して、 フェライ卜以外の第 2相にセメンタイ卜を含有させない事 が重要である。
[0133] このような高強度鋼板の製造方法にあっては、 熱間圧延後の板を、 圧延方
向と平行な断面で観察した金属組織において、 板厚方向に測定した硬質第 2 相の平均間隔が、 2. 5〜 5 mになるようにすることが好ましいが、 その 理由は後述する。
[0134] ぐ冷間圧延 >
熱間圧延後の組織における硬質第 2相の平均間隔を d (urn) とし、 熱間 圧延後 (冷間圧延前) の板厚を t 0、 冷間圧延後の板厚を tとした場合に、 下 記 (27) 式で示される加工度指数 Dが下記 (28) 式を満たすような条件 で、 冷間圧延を行う。
[数 15]
D = d X tZt。 - (27)
(d :硬質第 2相の平均間隔 ( m) 、 t :冷間圧延後の板厚、 t。:熱間圧 延後の冷間圧延前の板厚)
0. 50≤D≤ 1. 0 … (28)
[0135] (28) 式で、 D値が 1. 0を超えるような低圧延率では、 フェライト相 に十分な剪断歪みを付与できず、 焼鈍後に十分な量のナノ結晶粒を確保でき ず、 ミクロ結晶粒からなる通常の金属組織にしかならない。 また D値が 0. 5に満たないような高圧下率の圧延を施すと、 逆にフェライ卜相のすべての 部分に均一に剪断ひずみが付与されてしまい、 焼鈍後の母相フ Iライトはナ ノ結晶粒とミクロ結晶粒の混合組織にはならず、 全面がナノ結晶粒になる。 いずれの場合も、 本発明の高強度鋼板の特徴である、 高い延性を付与するこ とができない。
[0136] さらに、 本発明では、 上記 dを 2. 5〜5 mとする。 dが 5 mを超え る場合に (28) 式を満たそうとすると、 tZt。が 0. 2以下、 すなわち圧 延率で 80%を超える高圧下を行わなくてはならず、 本発明のような高強度 鋼板を圧延するには、 圧延機に大きな負荷をかける。 4段以上のタンデム圧 延機を使用して、 圧延 1パスあたりの圧下率を少なくしたとしても、 1回の 圧延では必要な圧延率を確保できず、 2回圧延の必要が生じる。 したがって 、 本発明では、 現実的に 1回の圧延で達成する事が可能な、 圧延率 80%以
下でもナノ結晶組織を得るため、 熱延板における第 2相間隔を 5 m以下に 限定する。
[0137] また、 dが 2. 5 mに満たない場合は、 初期の硬質第 2相間隔が非常に 小さいために、 いかなる条件で圧延しても、 フェライト相のすべての部分に 均一に強ひずみが付与されてしまい、 焼鈍後の母相フ Iライ卜はナノ結晶粒 とミクロ結晶粒の混合組織にはならず、 全面がナノ結晶粒になる。 そのため 、 本発明の高強度鋼板の特徴である、 高い延性を付与することができないの は前述のとおりである。
[0138] <焼鈍 >
冷延後の素材を熱処理して加工ひずみを除去するとともに、 目的の金属組 織を作り込む工程である。 焼鈍は、 冷延後の素材を加熱,保持,冷却する過 程よりなるが、 保持温度 T s (°C) と、 T sにて保持する時間 t s (秒) と の関係が、 下記 (29) 式及び (30) 式を満たすようにする。
[0139] [数 1 6]
F2 (T) +20≤T s≤F2 (T) +90 … (29)
F2 (T) +20≤Τ s≤F4 (G) - 1. 3 (t s) /2 … (30) (t s :保持時間 (秒) 、 T s :保持温度 (°C) 、 (t s) は t sの平方 根)
[0140] 図 3は、 冷間圧延までは同一の条件とし焼鈍温度を変化させたときの鋼板 の伸びを示すグラフである。 なお、 図 3のデータは、 発明例 1、 比較例 7, 8, 9, 1 0と表 5に記載していない例が含まれている。 T sが F2 (T) + 20に相当する 694°Cから F4 (G) - 1. 3 (t s) 1/2に相当する 75 0°Cの間で伸びが最大になることがわかる。 これは、 T sが F2 (T) よりも 低い場合はフェライト単相であって複合組織ではなく、 F2 (T) を超えて F a (T) +20°Cの範囲では焼鈍中はフェライトとオーステナイトの 2相領域 ではあるが、 オーステナイ卜の分率は少なく、 最終的な硬質第 2相の分率が 少ないために、 本発明の特徴が明瞭に現れないためである。 一方、 焼鈍温度 が F4 (G) - 1. 3 (t s) 1/2を超えると、 粒成長が顕著になり本発明の
適正組織の範囲から外れるため、 延性が低下する。
[0141 ] 一方、 F 2 ( T ) + 9 0を超えると、 金属組織における硬質第 2相の面積率 が多すぎ、 もはや硬質第 2相の変形特性である、 高降伏点で延性が小さい、 という特徴が顕著になってくるため、 鋼板の延性も低下していく。 以上のこ とから、 (2 9 ) 式及び (3 0 ) 式で示される範囲を焼鈍温度の適正範囲と する。
[0142] 焼鈍後の金属組織における硬質第 2相については、 化学成分および焼鈍パ ターンに応じて、 種々のものを得ることができる。 図 4は、 種々の焼鈍パタ ーンを示す図である。 図 4中、 パターン 1, 2は C A L (連続焼鈍ライン) の場合であり、 パターン 3は C G L (溶融亜鉛めつきライン) の場合であり 、 パターン 4は箱焼鈍の場合である。 まず、 焼鈍温度 T sであるが、 前述の ように、 (2 9 ) 式及び (3 0 ) 式を満たす範囲に設定することで、 結晶粒 の成長を抑制しながら、 フェライトとオーステナイトの 2相組織とする。 そ の後、 室温までの冷却過程で、 オーステナイ卜は種々の相に変化するが、 冷 却条件を適正に選ぶことにより、 フ Iライ卜相と適正な量および種類の硬質 第 2相とからなる、 複合組織とすることができる。 ここで、 硬質第 2相とは 、 前述のように、 マルテンサイ卜、 ペイナイ卜、 さらには残留オーステナイ 卜を意味する。
[0143] 次に、 焼鈍後の冷却方法について詳細に説明する。 冷却は、 ガスを用いる 方法、 水スプレーを用いる方法或いは水とガスとの混合スプレーを用いる方 法、 又は水タンクへのクェンチ (WQ) 或いはロールでの接触冷却のいずれ かの方法で行う。 ここでいうガスとしては、 空気、 窒素、 水素、 窒素と水素 の混合ガス、 ヘリウム又はアルゴンのいずれかを用いることができる。
[0144] 冷却後の温度履歴については、 焼鈍ラインの構成により、 図 4に示す 4種 類のパターンが適用可能である。 焼鈍帯の後にパターン 1のような、 冷却帯 と引き続いて過時効帯とを有する構成のラインでは、 所定の温度付近にて冷 却を停止し、 そのまま過時効処理することも、 冷却後再加熱して過時効処理 することも可能である。 パターン 2は過時効帯を持たないライン構成であり
、 パターン 3は、 C G L (溶融亜鉛めつきライン) に相当するパターンであ るが、 冷却の終点温度が溶融亜鉛浴の温度に限定される事以外は、 パターン 1と同様である。 パターン 4は箱焼鈍である。
[0145] 上記冷却過程において、 冷却速度が小さすぎると、 オーステナイ卜はパー ライ卜やフェライ卜に変態してしまうため、 ある程度の冷却速度が必要であ る。 その冷却速度は、 鋼成分によって決まる、 パーライ卜変態やフェライ卜 変態を回避できる臨界冷却速度以上であれば良い。 冷却速度が大きく C C T 曲線におけるフェライ卜変態ノーズはもちろん、 ペイナイ卜変態ノーズも横 切らずに M s点以下まで冷却すれば、 硬質第 2相としてマルテンサイ卜が得 られる。 過時効帯があるパターン 1および 3では、 マルテンサイ卜は、 厳密 には焼戻マルテンサイトになる。 ただし前述のように、 本発明ではマルテン サイ卜と区別せず扱う。
[0146] また、 ペイナイ卜変態ノーズを横切るような冷却速度で冷却し、 かつ冷却 終了温度を M s点以下とすると、 硬質第 2相はマルテンサイ卜とペイナイ卜 とからなる複合組織となり、 過時効帯があるパターン 1および 3において、 M s点の直上で冷却を停止してそのまま過時効処理をすれば、 硬質第 2相と してべィナイ卜或いは残留オーステナイ卜とペイナイ卜の混合組織となる。 残留オーステナイ卜が生成するか否かは、 焼鈍時のオーステナイ卜の安定性 により決まる。 すなわち、 合金元素 (S A 1 ) を増量したり、 過時効処 理時間を長くしてオーステナイ卜への C濃化を促進して、 オーステナイ卜を 安定化することで、 残留オーステナイ卜は得られる。
[0147] 個別具体的にみると、 パターン 1で得られる硬質第 2相は、 マルテンサイ 卜、 ベイナイト、 残留オーステナイトのうち少なくとも 1種以上である。 次 に、 焼鈍パターン 2のように、 過時効帯を持たない構成のラインでは、 焼鈍 後、 1 0 0 °C以下まで冷却して、 完了とする。 この場合、 硬質第 2相は、 マ ルテンサイ卜、 べィナイ卜のうち少なくとも 1種以上である。
[0148] 次に、 焼鈍パターン 3は C G L (溶融亜鉛めつきライン) に相当する焼鈍 のパターンである。 焼鈍温度から急冷して溶融亜鉛の浴にて表面に亜鉛を付
着させる。 その後は、 再加熱して亜鉛めつき層を合金化させてもよいし、 再 加熱を省略して亜鉛めつき層を合金化させなくてもよい。 得られる硬質第 2 相の種類は、 再加熱する場合はパターン 1と同じであり、 再加熱しない場合 は、 パターン 2と同じである。
[0149] 焼鈍パターン 4は、 箱焼鈍である。 通常は、 焼鈍が完了した後に炉体から コイルを取り出さず、 炉中で冷却するため、 炉冷の条件でも目的の硬質第 2 相を得られる、 焼入れ性の非常に高い成分に限定される。 具体的には、 発明 例 6が相当する。
[0150] 最後に、 本発明の高強度鋼板においては、 冷延,焼鈍の後に、 伸び率 2 .
5 %以下のスキンパス圧延を施すことが可能である。 冷延鋼板の製造工程に おいて、 最終的な形状矯正を主目的として、 スキンパス圧延は一般的に適用 される工程である。 本発明の高強度鋼板の製造方法の第 1実施形態において は、 形状矯正の他に、 降伏点を低下させて、 プレス成形時の成形荷重を低減 させ、 更にスプリングバックを低減させるといった更なる効果を付与するこ とができる。 ただし、 伸び率が 2 . 5 %を超えると、 材料の延性低下が無視 できなくなり、 逆効果であるため、 上限値を 2 . 5 0/0とする。
[0151 ] 2 . 第 2実施形態
本発明で製造される高強度鋼板は、 フェライ卜相と上記フェライ卜相中に 分散する硬質第 2相とからなる金属組織を呈し、 金属組織に占める硬質第 2 相の面積率が 3〜3 0 %であり、 フェライ卜相中に占めるナノ結晶粒の面積 率が 1 5〜9 0 %であり、 フェライ卜相中において、 ナノ結晶粒の平均粒径 d Sとミクロ結晶粒の平均粒径 d Lとが下記 (3 1 ) 式を満たすものである
[数 1 7 ]
d L Z d S≥3 … (3 1 )
[0152] このような高強度鋼板においては、 鋼板の圧延方向に平行な断面において 、 3 m四方の正方形格子を任意に 9個以上取り出した場合に、 各格子での 硬質第 2相の面積率を A i ( i = 1, 2, 3, …;) とするとき、 A iの平均
値 A (a v e) と標準偏差 sとが下記 (32) 式を満たし、 同時に硬質第 2 相の平均粒径 d pと、 全フェライ卜の平均粒径 d f とが下記 (33) 式を満 たすことが望ましい。
[数 1 8]
sZA (a V e) ≤0. 6 … (32)
d f Zd p≥3 … (33)
[0153] また、 このような高強度鋼板においては、 Cを含有するとともに、 S i、 Mn、 C r、 Mo、 N i及び Bのうちの少なくとも 1種を含有し、 C (s s ) (全 C量から N b、 T i, Vと結合している C量を減じた固溶炭素量) が 、 下記 (34) 式を前提に、 下記 (35) 式〜 (37) 式を満たすことが望 ましい。 なお、 式中、 各添加元素には、 その添加元素の構成比率 (質量%) を代入するものとする。
[数 1 9]
F (Q) =0. 65 S i +3. 1 M n + 2 C r + 2. 3Mo + 0. 3 N i + 2000 B … (34)
F (Q) ≥-40 C + 6 … (35)
F T (Q) ≥ 25 C- 2. 5 … (36)
0. 02≤C (s s) ≤0. 3 … (37)
[0154] さらに、 このような高強度鋼板においては、 含有成分が、 下記 (38) 式 、 (39) 式を前提に、 下記 (40) 式を満たすことが望ましい。 なお、 式 中、 各添加元素には、 その添加元素の構成比率 (質量%) を代入するものと する。
[数 20]
F2 (S) = 1 1 2 S i +98Mn + 2 1 8 P + 3 1 7 A I +9 C r +56 Mo + 8 N i + 1 4 1 7 B … (38)
F3 (P) =500 X N b+ 1 O O O X T i + 250 XV … (39) F2 (S) + F3 (P) ≤360 … (40)
[0155] 加えて、 このような高強度鋼板においては、 質量%で、 N b : 0. 72%
以下、 T i : 0. 36%以下、 V: 1. 44%以下のうちの少なくとも 1種 を含有することや、 質量0 /oで、 P : 2%以下及び A I : 1 8%以下のうちの 少なくとも 1種を含有することが望ましく、 質量0 /oで、 S i : 5%以下、 M n : 3. 5%以下、 C r : 1. 5%以下、 Mo : 0. 7 %以下、 N i : 1 0 %以下及び B: 0. 003%以下であることが'極めて望ましい。
[0156] さらには、 このような高強度鋼板においては、 質量0 /oで 0. 007〜0.
03%の Nを含有させることで、 高強度鋼板の延性を劣化させずに、 高い焼 付け硬化性を付与することができ、 したがって、 部品に成形した後の衝突時 に高い荷重を発生させ、 衝撃エネルギー吸収性能をさらに向上させることが できる。 なお、 焼付け硬化性とは、 部品に成形した後に焼付け塗装の工程が ある場合に、 その焼付け工程の熱処理において、 侵入型固溶元素が成形加工 によって導入された転位を固定することにより、 部品を変形させようとした 場合に大きな変形抵抗を示す現象である。 この特性は、 BH (Bake Harden in g) と呼ばれており、 その量 (BH量) を測定する方法は、 J I S G31 3 5の付属書に示されている。 以下の説明においても、 焼付け硬化性を BH性 と称し、 焼付け硬化量を BH量と称する。
[0157] また、 本発明者等は、 上記高強度鋼板を好適に製造する方法についても鋭 意研究を重ねた。 その結果、 通常の冷間圧延で結晶粒の超微細化を達成すベ く、 圧延前の結晶組織を軟質なフェライ卜と硬質第 2相との複合組織とする とともに、 硬質第 2相の間隔に応じた所望な圧延率によリ冷間圧延を施し、 さらに結晶粒成長を抑制できる温度、 時間で焼鈍することにより、 上記のミ クロ結晶粒とナノ結晶粒との混合組織の高強度鋼板が得られるとの知見を得 また、 本発明によれば、 圧延前の結晶組織を軟質なフェライ卜と硬質第 2 相との複合組織とするとともに、 硬質第 2相の間隔に応じた必要圧延率によ リ冷間圧延を施し、 さらに結晶粒成長の生じない温度域で焼鈍することによ リ、 上記のミクロ結晶粒とナノ結晶粒とからなる混合組織の高強度鋼板を製 造することができる。 このようにして得られた高強度鋼板は、 合金元素添加
量を抑制してフェライ卜結晶粒の微細化により強度を上昇させたものであり 、 しかもプレス成形時に重要となる強度と延性とのバランスに優れ、 静動差 が 1つ OMP a以上のものである。
[0159] 以下、 本発明の好適な実施形態を図面を参照して説明する。 まず、 本発明 の高強度鋼板における、 種々の設定式の規定理由について述べる。 なお、 以 下に示す各元素の含有量は、 全て質量%であるが、 便宜上、 単に%と記載す る。
[0160] 本発明の高強度鋼板の原料としては炭素鋼を用いるが、 後述するように、 全 C量から T i, N bと結合している Cを減じた固溶炭素量 C (s s) が 0 . 02〜0. 30/0となるように調整する必要がある。 この炭素鋼に、 焼入れ 性向上及び固溶強化による鋼の強度向上を目的として、 第 1元素群: S i、 Mn、 C r、 Mo、 N i及び Bのうちの少なくとも 1種を含有させる。 また 、 結晶粒の微細化及び析出強化による鋼の強度向上を目的として、 第 2元素 群: N b、 T i, Vのうちの少なくとも 1種を必要に応じて含有させる。 さ らに、 固溶強化による鋼の強度向上を目的として、 第 3元素群: P及び A I のうちの少なくとも 1種を必要に応じて含有させる。
[0161] 加えて、 得られる鋼が下記 (34) 式〜 (40) 式を全て満足するものと する。 但し、 下記の式中の元素記号は、 その元素の構成比率 (質量%) を表 し、 例えば、 「C r」 とは、 C rの構成比率 (質量%) を意味する。
[0162] [数 21]
F Λ (Q) =0. 65 S i +3. 1 M n + 2 C r + 2. 3Mo + 0. 3 N i + 2000 B … (34)
Ψ Λ (Q) ≥-40 C + 6 … (35)
Ψ Λ (Q) ≥ 25 C- 2. 5 … (36)
0. 02≤C (s s) ≤0. 3 … (37)
F2 (S) = 1 1 2S i +98Mn + 21 8 P + 31 7A I +9C r +56 Mo + 8 N i + 1 41 7 B … (38)
F3 (P) =500X N b+ 1 OOOX T i + 250V … (39)
F2 (S) + F3 (P) ≤360 … (40)
[0163] ここで、 これらの式中の記号の意味及び各式の規定理由を説明する。
< (34) 式〜 (36) 式の規定理由 >
F, (Q) は、 鋼の焼入れ性を表す指数であり、 (34) 式に示すように定 められ、 各添加元素の構成比率 (質量%) から計算するものである。
[0164] 後述するように、 本発明の高強度鋼板の製造方法においては、 冷間圧延前 の金属組織を軟質なフェライ卜と硬質第 2相 (マルテンサイ卜、 ペイナイ卜 、 残留オーステナイトのうちの少なくとも 1種) との複合組織とすることが 重要である。 これらの組織は、 熱間圧延後にフェライトとオーステナイトと からなる 2相域から急冷する方法、 熱間圧延後に室温まで一旦冷却してその まま加熱する方法、 又は熱間圧延後に一旦冷間圧延してから加熱してフェラ ィ卜とオーステナイ卜とからなる 2相域で保持してから急冷する方法により 得られる。 しかしながら、 これらの組織を得るにあたっては、 2つの問題が める。
[0165] 1点目は、 C量が少ないと焼入れ性が低いために、 硬質第 2相を得難いこ とである。 その対策として、 焼入れ性向上元素である上記第 1元素群を添加 して、 硬質第 2相を得易くする必要がある。 但し、 必要な焼入れ性は C量に 反比例するので、 C量が多ければ焼入れ性向上元素の添加量は少なくて済む 。 上記式 (35) は、 この関係を示すものである。 上記 (35) 式に従い、 必要な量の焼入れ性向上元素を添加する。 なお、 ここでいう C量 (C) とは 、 後述して詳説するが、 全 C量から N b, T i, Vと結合している C量を減 じた固溶炭素量を示す。
[0166] 2点目は、 C量が多い場合に、 フェライトとオーステナイトとからなる 2 相域からの冷却中にパーライ卜変態が生じ易くなリ、 必要な硬質第 2相を得 難くなることである。 これを回避するためにも、 第 1元素群の添加が有効で ある。 即ち、 焼入れ性向上元素の添加により、 連続冷却変態線図 (Continuou se cooling transformation diagram:以下、 単に 「CCT曲線」 と称する) におけるパーライト変態開始のノーズが長時間側に移動する。 このため、 パ
一ライ卜の出現を回避し、 フェライ卜と硬質第 2相との複合組織とすること ができる。 Cが多い場合には、 パーライト変態が生じ易くなるため、 多くの 焼入れ性向上元素を必要とする。 上記 (36) 式は、 この関係を示すもので ある。 上記 (36) 式に従い、 必要な量の焼入れ性向上元素を添加する。 な お、 ここでいう C量も、 上記した Cである。
[0167] <Cの説明及び (37) 式の規定理由 >
Cとは、 全 C量から、 第 2群元素 (N b、 T i ) と結合している Cを減じ た、 固溶炭素量を意味し、 下記 (41 ) 式で計算される値である。 なお、 ( 41 ) 式中、 それぞれ添加元素には、 その添加元素の構成比率 (質量%) が 代入されるものとする。
[0168] [数 22]
C (s s) =全〇量— (1 2Z92. 9 X N b+ 1 2/47. 9 x T i + 1 2/50. 9 x V) … (41 )
[0169] (41 ) 式中の係数 92. 9及び 47. 9は、 それぞれ N b又は T iの原 子量であり、 (1 2Z92. 9 X N b+ 1 2/47. 9 x T i + 1 2/50 . 9 XV) とは、 N b、 T iもしくは Vと結合して炭化物となっている C量 (質量%) を表したものであり、 これを全 C量から減じたものが固溶 Cであ る。
[0170] 次に、 (37) 式は、 固溶 Cの上限値及び下限値を規定しており、 その理 由は、 冷間圧延前の金属組織を所望の範囲で生成させるためである。 ここで 、 下限値を 0. 02%としたのは、 Cが 0. 02%未満の場合は、 焼入れ性 向上元素を添加しても硬質第 2相が生成せず、 フェライ卜単相となるからで ある。 フェライ卜単相では、 前述の繰り返し重ね圧延等の、 特殊な方法を用 いない限り、 鋼の結晶粒径を 1 mよりも小さいナノメートルのオーダーま で微細化することができない。
[0171] また、 上限値を 0. 3%としたのは、 0. 3%を超える場合は、 目的のフ ェライ卜と硬質第 2相との複合組織を得られなくなるためである。 Cが 0. 30/0を超えると、 焼入れ性向上元素を添加しても、 CCT曲線におけるパー
ライト変態ノーズが短時間側にとどまる。 これにより、 フェライトとオース テナイ卜とからなる 2相域からの急冷時に、 いかなる冷却速度においてもパ 一ライ卜変態ノーズを横切るようになり、 冷間圧延前の金属組織はフェライ 卜とパーライ卜とからなる複合組織となる。
[0172] ここで、 パーライトは、 Cと F eとの化合物であるセメンタイトと、 フエ ライ卜の層状組織であり、 セメンタイ卜は変形に対して非常に脆く、 冷間圧 延時のエネルギーがセメンタイトの破断に消費される。 このため、 鋼の組織 にパーライ卜が含まれている場合には、 本発明の製造方法の特徴である、 軟 質フェライ卜相に大きな歪みを与えることができない。 従って、 焼入れ性向 上元素の添加によってパーライト変態を回避できる上限値の Cは、 0. 3% とした。
[0173] く (38) 式〜 (40) 式の規定理由 >
F2 (S) は、 第 1元素群及び第 3元素群の固溶強化作用により、 高強度鋼 板が強化される量を、 MP a単位で表したものであり、 (38) 式に従い添 加元素の質量%から計算する。 (38) 式のそれぞれの元素に乗じられてい る係数は、 下記の考え方に基づいて下記 (42) 式から算出したものである
[0174] [数 23]
各元素の係数 = | r (X) - r (F e) | / r (F e) XM (F e) ZM (X) X 1 000 … (42)
ここで、 r (X) は、 当該元素の原子半径、 r (F e) は鉄の原子半径、 M (X) は当該元素の原子量、 及び M (F e) は鉄の原子量である。
[0175] (42) 式の意味するところは以下のとおりである。 即ち、 ある添加元素 の原子半径と鉄の原子半径との差を鉄の原子半径で除したものが、 その元素 1個あたりの固溶強化量に比例する。 これに、 当該元素の質量%あたりに換 算するために、 鉄の原子量と当該元素の原子量との比を乗じ、 さらに単位を MP aに換算するために 1 000を乗じた。 表 2に、 用いた各元素の物理定 数と、 それにより計算した (42) 式の係数を示す。
[0176] [表 2]
[0177] 次に、 F3 (P) は、 上記第 2元素群が鋼中の Cと炭化物を形成して析出強 化により鋼が強化される際の、 その強化量を示す指数であり、 上記 (39) 式に示すように定められる。
[0178] (39) 式の意味するところは、 以下のとおりである。 即ち、 N b, T i , Vは、 鋼中での炭化物形成能が高く、 例えば 700°Cでの鋼中の N bと C との溶解度積、 T iと Cとの溶解度積 (質量%) 2は、 ともに 1 0の一 6乗の オーダーであり、 Vと Cの溶解度積 (質量%) 2は 1 0の一 4乗のオーダーで あるので、 本発明の高強度鋼板においては、 T i、 N b、 Vは固溶体として ほとんど存在できず、 Cと 1対 1で結合した炭化物、 すなわち N b C、 T i Cもしくは VCとして存在する。 したがって、 添加した N b、 T i、 Vの添 加量に比例した析出強化量が期待できる。 なお、 いうまでもなく、 これは、 N b、 T iまたは Vと結合していない Cが残存している場合であり、 全ての Cが N b、 T i、 Vと結合している状態でさらに N b、 T i、 Vを添加して も、 期待どおりの析出量は得られない。 また、 析出物の大きさにより析出強 化量は変化する。
[0179] 一般に、 析出物が粗大化すると析出強化能は低下する。 本発明の高強度鋼 板では、 後述するように、 冷間圧延後の焼鈍時に、 炭化物が成長し易い高温 域で長時間保持することは考慮していない。 このため、 N b、 T iまたは V の炭化物は均一微細に分散し、 これら元素の添加量のみにより析出強化量が 定まる。 上記 (39) 式はこのことを示すものである。
[0180] ここで、 (39) 式中の係数 500、 1 000および 250は、 それぞれ N b、 T i、 Vの 1質量%あたりの析出強化量を表すもので、 実験により決
定した数値である。 N b、 T iおよび Vの析出強化量を合計したものが、 F 3
( P ) 、 即ち全析出強化量である。
[0181 ] このような知見の下、 (4 0 ) 式は、 固溶強化と析出強化とによるフェラ イトの強化量の合計を、 3 6 O M P a以下にすべきことを示している。 これ は、 鋼板の強化量が高すぎると、 本発明の特徴である、 高い静動差 (動的強 度と静的強度と差) が発現しなくなるためである。 前述のように、 多量の合 金元素を添加してフェライ卜を大きく強化すると、 同時にフェライ卜純度が 低下し、 フェライトの変形応力の歪み速度依存性が小さくなる。 本発明の高 強度鋼板の金属組織では、 フェライ卜の純度が所定以上の場合には従来鋼よ リも高い静動差が得られるものの、 フェライ卜の純度が低すぎると高い静動 差が発現しなくなる。
[0182] 発明者は、 高い静動差を発現するため、 必要なフェライ卜の純度を定量化 することを試みた。 その結果、 各添加元素がフェライトの静動差に及ぼす悪 影響度は、 単位添加量 (質量%) あたりのフェライ卜強化量 (固溶強化、 析 出強化) に比例することを実験的につきとめた。 その結果をもとに、 鋭意研 究したところ、 高い静動差を発現できるフェライ卜強化量の上限値が 3 6 0 M P aであることが判明した。 上記 (4 0 ) 式は、 これを数値化したもので める。
[0183] また、 本発明で得られる高強度鋼板においては、 適量の Nを含有させるこ とにより、 高い B H性を付与することができる。 本発明の高強度鋼板に含有 される Cは、 硬質第 2相中か、 N b、 T i、 Vの炭化物中か、 フェライト母 相中に固溶状態で存在する。 このうち、 フェライト母相中の固溶 Cが B H性 に寄与する。 しかしながら、 化学成分における C量を増量しても、 Cは硬質 第 2相や炭化物へ分配されるので、 Cの増量が必ずしも B H量の増加につな がるわけではない。 そこで、 C以外の侵入型固溶元素として Nに着目した。
Nは、 鉄と化合物を生成しない範囲の含有量であれば、 金属組織を大きく変 化させずに固溶状態で含有させることができ、 歪み時効現象に有効に作用し て高い B H量を得ることができる。
[0184] さらには、 本発明で得られる高強度鋼板においては、 本来的に BH量が高 いという特性がある。 その理由は明確ではないが、 本発明の高強度鋼板の母 相フェライ卜は、 強度の高いナノ結晶粒と比較的強度の低いミクロ結晶粒の 複合組織であり、 これをプレス成形等で加工した場合、 比較的強度の低いミ ク口結晶量のナノ結晶量との界面付近に、 強度の高いナノ結晶粒の拘束によ つて大きな量の転位が生成する。 この多量の転位が塗装焼付け処理時の Nの 歪み時効を促進し、 高い BH量を示すものと考えられる。
[0185] ぐ各化学成分の限定理由 >
次に、 本発明の高強度鋼板における、 各化学成分の限定理由について述べ る。 なお、 以下に示す各元素の含有量についても、 単位は全て質量%である が、 便宜上、 単に%と記載する。 また、 Cについては、 (37) 式で個別に 限定し、 その他の元素については、 ほとんどの場合に (35) 式, (36) 式によって下限値が、 (40) 式、 (43) 式、 (44) 式によって上限値 が個別に限定されるが、 さらに、 個別に上限値を設定する。
[数 24]
C r≤ 1. 5 … (43)
Mo≤0. 7 … (44)
[0186] <C:固溶 Cで 0. 02〜0. 3%>
Cの添加により、 フェライ卜とオーステナイ卜とからなる混合組織を高温 で生じさせることができ、 この混合組織の急冷によりマルテンサイト、 ペイ ナイ卜、 残留オーステナイ卜の硬質第 2相を形成することができる。 このた め、 Cは本発明では最も重要な元素である。
[0187] 本発明の高強度鋼板では、 N b, 丁 Vを添加してもよいので、 その場 合に炭化物として析出する Cを除いた固溶 Cが、 上記 (37) 式を満足する ように、 Cの添加量を調整する。 固溶 Cが 0. 02%未満であると、 冷間圧 延前の金属組織がフェライトとなり、 固溶 Cが 0. 3%を超えると、 金属組 織はフェライ卜とパーライ卜とからなる複合組織となり、 ともに本発明の高 強度鋼板の製造方法には適さなくなる。
[0188] <第 1元素群: S i , M n, C r , Mo, N i, B>
これらの元素は、 鋼の焼入性向上と固溶強化による鋼の強度向上とを目的 として添加する。 添加量は、 上記 (35) 式、 (36) 式、 (40) 式、 ( 43) 式及び (44) 式を満たすように調整する。 以下に、 各元素の添加量 の上限値及び下限値の限定理由を説明する。
[0189] <S i : 0. 2〜5%>
S i添加量が 0. 20/0未満の場合は、 焼入性向上の効果が明瞭に現れない 。 このため、 下限値は 0. 2%とする。 また、 S i添加量が 5%を超えると 、 S iが F eと結合して、 結晶構造が DO 3型又は B 2型の金属間化合物で ある F e3S iが現れ、 鋼の延性を低下させる。 このため、 上限値は 5%とす る。
[0190] <M n : 0. 1〜3. 5%>
Mn添加量が 0. 1 %未満の場合は、 焼入性向上の効果が明瞭に現れない 。 このため、 下限値は 0. 1 %とする。 また、 Mn添加量が 3. 5%を超え ると、 室温においても、 フェライ卜に加えてオーステナイ卜が安定相として 存在する。 オーステナイ卜は強度が低く、 鋼全体の強度を低下させるため好 ましくない。 このため、 上限値は 3. 5%とする。
[0191] <C r : 0. 1〜 1. 5%>
C r添加量が 0. 1 %未満の場合は、 焼入性向上の効果が明瞭に現れない 。 このため、 下限値は 0. 1 %とする。 また、 〇 1>添加量が1. 5%を超え ると、 鋼中の Cと C rとが結合して炭化物になるため、 添加量に見合った固 溶 C rが得られず、 焼入性向上も望めない。 このため、 上限値は、 C rが固 溶状態で存在できる 1. 5%とする。
[0192] <M o : 0. 1〜0. 7%>
Mo添加量が 0. 1 %未満の場合は、 焼入性向上の効果が明瞭に現れない 。 このため、 下限値は 0. 1 %とする。 また、 Mo添加量が 0. 7%を超え ると、 鋼中の Cと Moとが結合して炭化物になるため、 添加量に見合った固 溶 Moが得られず、 焼入性向上も望めない。 このため、 上限値は、 Moが固
溶状態で存在できる 0. 7%とする。
[0193] <N i : 0. 2〜 1 0%>
N i添加量が 0. 20/0未満の場合は、 焼入性向上の効果が明瞭に現れない 。 このため、 下限値は 0. 2%とする。 また、 N i添加量が 1 0%を超える と、 室温においても、 フェライ卜に加えてオーステナイ卜が安定相として存 在する。 オーステナイ卜は強度が低く、 鋼全体の強度を低下させるため好ま しくない。 このため、 上限値は 1 0%とする。
[0194] <B: 0. 0005〜0. 003%>
B添加量が 0. 0005%未満の場合は、 焼入性向上の効果が明瞭に現れ ない。 このため、 下限は 0. 0005%とする。 また、 フェライトへの Bの 固溶限自体は非常に小さく、 Bは添加量が少ない場合は主に鋼の結晶粒界に 偏析して存在すると考えられるが、 B添加量が 0. 003%を超えると粒界 だけでは Bの存在サイ卜としては不十分になり、 金属間化合物である F e2B が現れて鋼の延性を低下させる。 このため、 上限値は 0. 003%とする。
[0195] <第 2元素群: N b, T i >
これらの元素は、 結晶粒の微細化及び析出強化による鋼の強度向上を目的 として、 必要に応じて添加することができる。 以下、 各元素の添加量の上限 値及び下限値の限定理由を説明する。
[0196] <N b : 0. 01〜0. 72%>
N b添加量が 0. 01 %未満の場合は、 微細化及び析出強化の効果が明瞭 に現れない。 このため、 下限値は 0. 01 %とする。 また、 上記 (39) 式 から明らかなように、 N b添加量が 0. 72%を超えると、 N bCによる析 出強化量だけで 36 OMP aとなり、 上記 (40) 式を満足しないため、 N bの上限値は 0. 72%に限定される。
[0197] <T i : 0. 01〜0. 36%>
T i添加量が 0. 01 %未満の場合は、 微細化及び析出強化の効果が明瞭 に現れない。 このため、 下限値は 0. 01 %とする。 また、 上記 (39) 式 から明らかなように、 T i添加量が 0. 36%を超えると、 T i Cによる析
出強化量だけで 36 OMP aとなり、 上記 (40) 式を満足しないため、 T iの上限値は 0. 36%に限定される。
[0198] <V: 0. 1〜1. 44%>
Vの添加量が 0. 1 %未満の場合は、 微細化及び析出強化の効果が明瞭に 現れない。 このため、 下限値は 0. 1 %とする。 また、 上記 (39) 式より 明らかなように、 Vの添加量が 1. 44%を超えると、 VCによる析出強化 量だけで 36 OMP aとなり、 (40) 式を満足しないため、 Vの上限はお のずと 1. 44%に限定される。
[0199] <N : 0. 007〜0. 03%>
本発明の高強度鋼板において、 Nは、 焼付け硬化性を付与するために重要 な元素であり、 高強度鋼板を部品に成形した後に塗装焼付け工程がある場合 は、 歪み時効現象によって部品の降伏強度を上昇させるのに有効に働く。 し たがって、 Nは必要に応じて適宜添加する。 Nの添加量が 0. 007%未満 では焼付け硬化性が明瞭に現れない。 このため、 Nの下限値は 0. 007% とする。 一方、 Nの添加量が 0. 03%を超えると、 立方晶の F e4Nが析出 し始めるため、 添加した Nに見合った BH量の向上を望めない。 したがって 、 Nの上限を 0. 03%とする。
[0200] <第 3元素群: P, A I >
これらの元素は、 鋼の強化元素として、 必要に応じて添加することができ る。 以下に、 各元素の添加量の上限値及び下限値の限定理由を説明する。
[0201] <P : 0. 03〜2%>
Pの添加は、 鋼の固溶強化元素として有効であるが、 添加量が 0. 03% 未満の場合は、 固溶強化の効果が明瞭に現れない。 このため、 下限値は 0. 03%とする。 また、 P添加量が 2%を超えると、 金属間化合物である F e3 Pが生成し、 鋼の延性を低下させる。 このため、 上限値は 2%とする。
[0202] く A I : 0. 01〜 1 8%>
A Iは、 固溶強化元素であるとともに、 脱酸剤としての効果を有し、 鋼を いわゆる 「キルド鋼」 にすることができる。 また、 A Iは、 製鋼工程におい
て鋼中の溶存酸素と結合してアルミナとして浮上し、 これを除去することで 鋼の延性や靭性を向上させることができる。 このため、 A Iは必要に応じて 添加することができる。 但し、 添加量が 0. 01 %未満の場合は、 脱酸剤と しての効果も、 固溶強化元素としての効果も明瞭に現れない。 このため、 下 限値は 0. 01 %とする。 一方、 A I添加量が 1 8%を超えると金属間化合 物である F e3A Iが生成し、 鋼の延性を低下させる。 このため、 上限値は 1
8%とする。
[0203] <組織についての限定理由 >
次に、 本発明の高強度鋼板の金属組織について、 詳細に説明する。 本発明の高強度鋼板の金属組織は、 下記 1 ) 〜5) に記載の要件を同時に 満足するものである。
1 ) 金属組織は、 フェライト相と硬質第 2相 (セメンタイト、 マルテンサイ 卜、 ペイナイ卜、 残留オーステナイ卜のうちの少なくとも 1種) とからなる 。 また、 鋼板の、 圧延方向に平行な断面を切り出し、 この断面をナイタール 等でエッチングした後に、 走査型電子顕微鏡で倍率 5000倍で撮影した S E M写真から測定した硬質第 2相の面積率が 3〜 30 %である。
[0204] 2) 金属組織において、 硬質第 2相はフェライト相中に均一に分散しており 、 以下の要件を満足する。 即ち、 鋼板の、 圧延方向に平行な断面の 5000 倍の S EM写真において、 3 m四方の正方形格子を任意に 9個以上の取り 出し、 各格子での硬質第 2相の面積率を画像解析を用いて測定した際に、 各 硬質第 2相の面積率を A i ( i = 1, 2, 3, …;) とするとき、 A iの平均 値 A (a v e) と標準偏差 sとが、 下記 (32) 式を満たす。
[数 25]
sZA (a V e) ≤0. 6 … (32)
3) 鋼板の、 圧延方向に平行な断面の 5000倍の S EM写真において、 写 真の全面積から硬質第 2相を除外したフェライ卜部のうち、 ナノ結晶粒の面 積率が 1 5〜 90 %である。
[0205] 4) ナノ結晶粒の平均粒径 d Sと、 ミクロ結晶粒の平均粒径 dしとが、 下記
(31 ) 式を満たす。
[数 26]
d LZd S≥3 … (31 )
5) 硬質第 2相の平均粒径 d pと全フェライトの平均粒径 d f とが下記 (3 3) 式を満たす。
[数 27]
d f Zd p≥3 … (33)
[0206] ここで、 平均粒径とは、 鋼板の、 圧延方向に平行な断面の 5000倍の S EM写真において、 画像解析により全てのフェライト粒の面積を測定し、 そ れぞれの面積から求めた円相当径を意味する。 具体的には、 画像解析により 求めたフェライト粒の面積を S i ( i = 1, 2, 3-) とすると、 円相当径 D i ( i = 1 , 2, 3-) は、 下記 (45) 式により計算する。
[数 28]
D i = 2 (S i Z3. 1 4) /2 … (45)
[0207] 以上に示した要件 1 ) 〜5) の設定理由は、 以下のとおりである。 即ち、 適量の硬質第 2相を均一に分散析出させることで、 フェライ卜部から硬質第 2相へ C等の固溶元素を吐き出させ、 フェライトの純度を高め、 これにより 鋼の延性を高めるとともに、 静動差を高くすることができる。 硬質第 2相の 分散状態が不均一な場合には、 硬質第 2相の密度が少ないフェライ卜部の純 度が低くなリ、 高い延性や静動差を発揮することができない。
[0208] また、 硬質第 2相の面積率を 3〜30%と規定した理由を以下に示す。 即 ち、 硬質第 2相の面積率が 3%未満の場合は、 フェライトの高純度化が不十 分なために静動差が高くならない。 一方、 硬質第 2相の面積率が 30%を超 えると、 低純度で静動差の低い硬質第 2相の悪影響が大きくなリ、 素材全体 としての静動差は向上しない。
[0209] また、 硬質第 2相は微細かつ均一に分散している必要があり、 これを示す のが式 (322) および式 (33) である。 式 (32) は、 3 m四方の正 方形格子という非常に小さな範囲で測定した面積率の標準偏差が小さいこと
、 すなわち、 第 2相の分散状態が均一であることを表し、 (3 3 ) 式は、 フ ェライ卜粒の寸法に対する第 2相粒径が一定値よリも小さいことを示してい る。
[0210] ここで、 本発明の高強度鋼板の組織において、 硬質第 2相とは、 フェライ 卜と平衡する相、 及びこの平衡相からの冷却過程において変態した組織、 さ らにはそれらの焼鈍により変化した組織を指す。 具体的には、 セメンタイト 、 マルテンサイ卜、 ペイナイ卜、 残留オーステナイ卜のいずれか 1種以上の ことである。 セメンタイ卜は、 鋼中でフェライ卜と平衡して存在する相であ リ、 マルテンサイ卜、 ペイナイ卜、 残留オーステナイ卜は平衡相からの変態 組織である。 ここで、 残留オーステナイトは、 高温でのみ平衡相として存在 するオーステナイ卜が、 室温まで残留した未変態のオーステナイ卜のことで あり、 実際には未変態ではあるが、 オーステナイトからの冷却によって室温 で得られる組織という意味で、 変態組織に含めた。 また、 パーライトは本発 明の高強度鋼板の金属組織における硬質第 2相としては不適格である。 第 2 相がパーライ卜となるのは、 冷延後の焼鈍温度がフェライ卜とオーステナイ 卜 2相域もしくはオーステナイ卜単相域で、 かつその後の冷却速度が遅い場 合に限られるが、 そのような場合には、 フェライト結晶粒の粒成長を抑える ことができず、 本発明の高強度鋼板の特徴である、 所定の面積率のナノ結晶 粒を含有させることができないためである。
[0211 ] これらの相や組織の他にも、 焼戻べイナィ卜、 焼戻マルテンサイ卜、 トル ースタイ卜、 ソルバイ卜、 パーライ卜の焼鈍によリセメンタイ卜部が球状化 した組織も存在する。 しかしながら、 これらの組織は、 既に具体的に名称を 挙げた硬質第 2相のいずれかに含まれるものとして扱う。 なお、 上記の焼戻 ペイナイ卜、 焼戻マルテンサイ卜等については、 第 1実施形態においてすで に記載している。
[0212] また、 トルースタイトは、 現在あまり用いられない用語であるが、 J I S G O 2 0 1鉄鋼用語 (熱処理) では、 焼戻トルースタイトと焼入トルースタ ィ卜とに分類されている。 焼戻トルースタイ卜は、 マルテンサイトを焼戻し
たときに生じる組織であり、 微細フェライ卜とセメンタイ卜とからなる組織 であるが、 実際は焼戻マルテンサイトのことである。 また、 焼入トルースタ ィ卜は、 焼入時に生ずる微細パーライ卜組織であり、 本発明ではパーライ卜 として一括して扱う。
[0213] さらに、 ソルバイトも、 現在あまり用いられないが、 J I S G O 2 0 1鉄 鋼用語 (熱処理) では、 焼戻ソルバイ卜と焼入ソルバイ卜とに分類されてい る。 焼戻ソルバイ卜は、 マルテンサイトを焼戻して粒状に析出成長させたセ メンタイ卜とフェライ卜との混合組織であるが、 実際には焼戻マルテンサイ 卜のことである。 焼入ソルバイ卜は、 焼入れ時に生成する微細パーライ卜組 織のことであるが、 本発明ではパーライ卜として一括して扱う。
[0214] なお、 パーライ卜の焼鈍によリセメンタイ卜部が球状化した組織も、 フエ ライ卜とセメンタイ卜との混合組織であり、 換言すれば、 硬質第 2相はセメ ンタイ卜である。
[0215] 次に、 硬質第 2相以外のフェライ卜部に関して説明する。 フェライ卜部の 組織は、 大きさの異なるナノ結晶粒とミクロ結晶粒との混合組織である。 こ のため、 プレス成形時には比較的強度が低く、 強度,延性のバランスに優れ る一方、 製品化後には、 衝突時等の高速変形時に優れた強度を発揮する。 従 つて、 このフェライト部の組織により、 成形性と衝撃吸収エネルギーとを高 いレベルで両立することができる。
[0216] なお、 本願において、 ナノ結晶粒の結晶粒径を 1 . 2 m以下と定義した 理由を以下に述べる。 即ち、 例えば 「鉄と鋼」 (日本鉄鋼協会、 第 8 8巻第 7号 (2 0 0 2年) 、 3 6 5頁、 図 6 ( b ) ) に開示されているように、 フ ェライ卜の結晶粒径が約 1 . 2 mである領域を境界にして、 材料特性、 特 に延性が不連続に変化するためである。 具体的には、 フェライトの結晶粒径 が 1 . 2 m未満になると、 全伸びが急激に低下し、 均一伸びを示さなくな る。
[0217] さらには、 本発明の高強度鋼板においては、 歪み量 1〜 1 0 %の加工を施 すことで高速変形時の延性を向上させることが可能である。 ここで、 加工の
方法は特に制限はないが、 通常の冷延鋼板製造工程にはスキンパス圧延があ るので、 これを利用して上記範囲の伸び率でスキンパス圧延を施すことが最 も簡便である。 もちろん、 その他の方法、 たとえば張力を付与しながらレべ ラーで加工する方法や、 板状に切断してから引張にて歪みを付与する等の方 法でもよい。
[0218] 以下に、 材料の延性、 特に一様伸びが重要であることを、 ハツ卜形状の断 面のフレーム類を具体例として説明する。 まず、 断面の大きさに比べて部材 長さが短いクラッシュボックス等の部品においては、 その形状から、 衝撃圧 縮時に座屈が安定しているために、 材料の加工硬化特性によらずに良好な衝 撃エネルギー吸収能を持たせることができる。 しかしながら、 断面の大きさ に比べて部材長さが長かったり、 衝突時の荷重方向と部材の軸方向が必ずし も一致していないようなサイドフレーム等の部品では、 衝撃圧縮時の座屈が 不安定になり易く、 それを材料特性で補う必要がある。 すなわち、 元来、 座 屈が不安定な部品には、 高速変形時の一様伸び、 言い換えれば加工硬化の大 きな特性を有する材料が望ましい。 本発明の高強度鋼板はこのような要求特 性を満たすもので、 冷延焼鈍後に所定範囲の歪み量の加工を施すことによつ て、 高速変形時の加工硬化すなわち一様伸びを向上させることができる。
[0219] 以上は、 本発明の高強度鋼板に係る、 種々の式の規定理由、 化学成分の限 定理由、 及び組織についての限定理由であるが、 以下に、 本発明の高強度鋼 板の作用効果についてのメカニズムを詳細に説明する。
[0220] ぐ本発明の高強度鋼板の作用効果についてのメカニズム 1 >
フェライ卜をナノ結晶粒とミクロ結晶粒との混合組織とすることで、 高い 静動差を付与できるメカニズムは、 以下のとおりである。 即ち、 本発明の高 強度鋼板は、 結晶粒径が 1 . 2 m以下のナノ結晶粒である非常に強度の高 い部分と、 結晶粒径が 1 . 2 mを超える通常の強度を有するミクロ結晶粒 とからなる、 1つの複合組織鋼板である。 本発明の高強度鋼板の静的な変形 挙動については、 一般的な複合組織鋼板の変形挙動と同様であり、 静的な変 形では、 まず材料の最も変形し易い部分、 具体的にはミクロ結晶粒内部又は
ミクロ結晶粒内のナノ結晶粒との界面付近から変形が始まる。 その後、 変形 が徐々に進行するが、 ミクロ結晶粒が変形の主体を担っている。 このため、 ミクロ結晶粒のみの場合と同等な応力で変形が進行し、 強度と延性とのバラ ンスも一般的なものとなる。
[0221 ] 一方、 歪速度が 1 O O O Z s程度の高速変形の場合には、 一般的な鋼板の 挙動と異なる。 変形速度は静的変形の場合の約 1 0万倍であり、 軟質なミク 口結晶粒主体の変形だけでは追従が難しい。 このため、 ミクロ結晶粒のみな らず、 ナノ結晶粒の内部でも変形を担う必要がある。 従って、 強度の非常に 高いナノ結晶粒の影響が顕著になり、 高い変形応力が必要となる。
[0222] この現象は、 ナノ結晶粒の比率が 1 5〜 9 0 %の範囲で発現する。 ナノ結 晶粒の比率が 1 5 %未満の場合は、 ナノ結晶粒の影響が小さく、 静的変形及 び動的変形のいずれにおいても軟質なミクロ結晶粒が変形を十分に分担でき 、 静動差は高くならない。 一方、 ナノ結晶粒の比率が 9 0 %を超えると、 ほ とんどがナノ結晶粒であるために、 静的変形時においてナノ結晶粒の影響が 既に顕著で、 強度は高いものの延性が低いため、 プレス成形に適さない。 従 つて、 ナノ結晶粒の比率が 1 5 %未満でも 9 0 %超でも、 優れた高速変形強 度及び衝撃エネルギー吸収能と、 優れた加工性とを両立させることができな い。
[0223] 以上は、 本発明の高強度鋼板に関する説明であるが、 以下に、 上記高強度 鋼板を好適に製造する方法を説明する。 なお、 本発明の高強度鋼板の製造方 法の第 2実施形態は、 熱間圧延及び焼鈍の工程以外は第 1実施形態と同様で あるため、 これらの熱間圧延及び焼鈍の工程についてのみ説明する。
[0224] ぐ熱間圧延 >
本発明の高強度鋼板の製造方法の第 2実施形態においては、 熱間圧延後の 結晶組織を、 フェライ卜が主相で、 硬質第 2相を面積率で 1 0〜8 5 %の範 囲で含有する複合組織とし、 さらに板厚方向に測定した硬質第 2相の平均間 隔を 2 . 5〜 5 mの範囲とすることが必要である。 その後、 後述するよう に、 硬質第 2相の間隔に応じた所望の圧延率により冷間圧延を施し、 結晶粒
成長を抑制できる温度、 時間で焼鈍することにより、 上記のミクロ結晶粒と ナノ結晶粒との混合組織を母相として硬質第 2相を含有する高強度板が得ら れる。
[0225] 第 2実施形態における硬質第 2相は、 第 1実施形態におけるものと同じも のであり、 定義、 構成等についてはすでに第 1実施形態において説明されて いるので、 第 1実施形態におけるものと異なる熱間圧延板中の硬質第 2相の 面積率の規定理由について述べる。 硬質第 2相の面積率が 1 0%より小さい 場合も、 85%を超える場合も、 冷延,焼鈍後に、 十分な量のナノ結晶粒を 得ることが出来ない。
[0226] ここで、 硬質第 2相の面積率が比較的低い範囲、 即ち 1 0 %以上 30 %未 満の場合は、 大きな圧延率を必要とし、 通常の冷間圧延で行うのは困難であ る。 ただし、 前述の繰り返し重ね圧延を行えば、 実施が可能であり、 かつ、 フェライ卜単相鋼を素材とする場合よりも少ないサイクル数で組織の超微細 化が達成可能である。 硬質第 2相の面積率が 30〜 85%の範囲であれば、 通常の冷間圧延でも十分実施が可能な 80%以下の冷間圧延率で実施が可能 であるので、 好ましくは、 硬質第 2相の面積率は 30〜 85%である。
[0227] ぐ焼鈍 >
次に、 焼鈍について説明する。 焼鈍は、 冷延後の素材を熱処理して加工歪 みを除去するとともに、 目的の金属組織を作り込む工程である。 焼鈍は、 冷 延後の素材を加熱■保持■冷却する過程よリなるが、 保持温度 T s (°C) と 、 T sにて保持する時間 t s (秒) との関係が、 下記 (46) 式を満たすも のとする。
[数 29]
650- (t s) /2<T s <750- (t s) /2 … (46) (t s :保持時間 (秒) 、 T s :保持温度 (°C) 、 (t s) は t sの平方 根)
図 5は、 上記保持温度及び保持時間の適正範囲を示すグラフである。 焼鈍 温度 T sが 750— (t s) 1 より高い場合は、 ナノ結晶粒の面積率が上限
値である 9 0 %を超えてしまうため、 好ましくない。 一方、 焼鈍温度 T Sが
6 5 0 - ( t s ) 1 /2より低い場合は、 ナノ結晶粒の面積率が下限値である 1 5 %を下回るため、 好ましくない。
[0228] 焼鈍後の金属組織における硬質第 2相については、 焼鈍パターンに応じて 、 種々のものを得ることができる。 図 4は、 種々の焼鈍パターンを示す図で ある。 同図中、 パターン 1, 2は、 C A L (連続焼鈍ライン) の場合であり 、 パターン 3は C G L (溶融亜鉛めつきライン) の場合であり、 パターン 4 は箱焼鈍の場合である。 また、 表 3に、 図 4に示す各焼鈍パターンにより得 られる組織の一覧を示す。
[0229] [表 3]
:マルテンサイト、 B:ベイナイト、 A:残留オーステナイト、 C:セメンタイト
[0230] まず、 焼純温度について説明する。 焼鈍温度 T sを、 A c I変態点以下に 設定すれば、 フェライ卜とセメンタイ卜とからなる複合組織を得ることがで きる。 また、 焼鈍温度 T s及び急冷開始温度 Τ。を、 A c I変態点以上に設定 すれば、 マトリックスとしてのフェライトと、 オーステナイトからの変態組 織又は当該変態組織を焼鈍した後の焼鈍組織のうち 1の少なくとも 1種 (硬 質第 2相) とからなる混合組織とすることができる。
[0231 ] ここで、 オーステナイ卜からの変態組織とは、 マルテンサイ卜、 ペイナイ 卜、 さらには残留オーステナイトを意味する。 ここで、 残留オーステナイト は、 実際には未変態ではあるが、 オーステナイトからの冷却によって室温で 得られる組織という意味で、 変態組織に含めた。 また、 変態組織を焼鈍した 後の焼鈍組織とは、 上記変態組織の焼鈍組織であるが、 上記で説明したよう
に、 上記変態組織のいずれかに含まれるものとして扱う。
[0232] なお、 焼鈍温度 T s及び急冷開始温度 T 0が A c I変態点以上であっても、 昇温速度が大きく保持時間が短い場合には、 鋼中 Cのオーステナイ卜への濃 化が不十分となり、 フェライ卜中には過飽和な Cが残存している可能性があ リ、 これが冷却時にセメンタイトとして析出することがある。 従って、 その 場合は、 マトリックスとしてのフェライトと、 オーステナイトからの変態組 織又はそれら変態組織を焼鈍した後の焼鈍組織のうちの少なくとも 1種 (硬 質第 2相) とからなる混合組織となり、 さらにフェライト中にセメンタイト を含む場合もある。
[0233] また、 A c I変態点は、 素材の成分と加熱速度とによって決定されるもの であるが、 本発明においては概ね 6 0 0 °C〜7 5 0 °Cの間にある。
[0234] 次に、 焼鈍後の冷却方法について説明する。 冷却は、 ガスを用いる方法、 水スプレーを用いる方法或いは水とガスとの混合スプレーを用いる方法、 又 は水タンクへのクェンチ (WQ) 或いはロールでの接触冷却のいずれかの方 法で行う。 ここでいうガスとは、 空気、 窒素、 水素、 窒素と水素との混合ガ ス、 ヘリウム又はアルゴンのいずれかである。
[0235] 上記冷却過程において、 冷却速度が小さすぎると、 フェライト結晶粒の成 長が無視できなくなり、 その結果ナノ結晶粒の面積率が低下するため、 板温 が 6 0 0 °C以上の範囲での冷却速度を 1 0 °C/s以上とする。 板温 6 0 0 °C以 上の範囲のみに限定した理由は、 6 0 0 °C未満であれば、 結晶粒の成長が非 常に遅いため、 冷却速度の影響を実質的に無視できるからである。
[0236] 次に、 冷却後の焼鈍パターンについては、 焼鈍ラインの構成により、 図 4 に示す 4種類のパターンが適用可能である。 焼鈍帯の後に、 冷却帯と引き続 いて過時効帯とを有する構成のラインでは、 所定の温度付近にて冷却を停止 し、 過時効処理するパターン 1を採用することができる。 また、 パターン 3 は、 C G L (溶融亜鉛めつきライン)に相当するパターンであるが、 冷却の終 点温度が溶融亜鉛浴の温度に限定されること以外は、 パターン 1と同様であ る。
[0237] 既に述べたように、 焼鈍温度 T sが A c 1変態点以下の場合は、 得られる 硬質第 2相はセメンタイトのみであるので、 以下に、 焼鈍温度 T s及び急冷 開始温度 T Qが A c 1変態点以上の場合について、 詳細に説明する。 冷却速 度が大きく C C T曲線におけるフェライ卜変態ノーズやべイナィ卜変態ノー ズを横切らずに M s点以下まで冷却すれば、 硬質第 2相としてマルテンサイ 卜が得られる。 過時効帯があるパターン 1及び 3では、 マルテンサイトは、 厳密には焼戻マルテンサイ卜になる。 但し、 前述のように、 焼戻マルテンサ ィ卜は依然として高い転位密度を保っているため硬度が高く、 鋼の強化に大 きく寄与するため、 本発明ではマルテンサイ卜と区別せずに扱う。
[0238] また、 ペイナイ卜変態ノーズを横切るような冷却速度で冷却し、 かつ冷却 終了温度を M s点以下とすると、 硬質第 2相はマルテンサイ卜とペイナイ卜 とからなる複合組織となり、 過時効帯があるパターン 1及び 3において、 M s点の直上で冷却を停止してそのまま過時効処理をすれば、 硬質第 2相とし てべイナィ卜或いは残留オーステナイ卜とペイナイ卜との混合組織となる。 残留オーステナイ卜が生成するか否かは、 焼鈍時のオーステナイ卜の安定性 により決まる。 即ち、 合金元素 (S i、 A I ) を増量したり、 過時効処理時 間を長くしてオーステナイ卜への C濃化を促進して、 オーステナイ卜を安定 化することで、 残留オーステナイ卜は得られる。
[0239] さらに、 冷却速度が遅く、 パーライ卜変態ノーズも横切るようになると、 第 2相にはパーライ卜も含まれるようになる。 ただし、 パーライ卜は、 本発 明の高強度鋼板の組織としては不適格である。 パーライ卜が生成するような 遅い冷却速度では、 フェライト粒の粒成長も同時に生じるため、 フェライト 組織中にナノ結晶粒を多く残存させることが困難となリ、 高い静動差を発現 できないためである。
[0240] 個別具体的にみると、 パターン 1では、 焼鈍温度 T s及び急冷開始温度 T 0 が A c 1変態点以上の場合は、 硬質第 2相は、 マルテンサイ卜、 ペイナイ卜 、 残留オーステナイトのうち少なくとも 1種である。 焼鈍温度 T sが A c 1 変態点未満のときは、 硬質第 2相はセメンタイ卜のみである。
[0241 ] 次に、 焼鈍パターン 2のように、 過時効帯を持たない構成のラインでは、 焼鈍の後、 1 0 0 °C以下まで冷却して、 完了とする。 この場合、 焼鈍温度 T s及び急冷開始温度 T 0が A c 1変態点以上の場合は、 硬質第 2相は、 マルテ ンサイ卜、 ペイナイ卜のうち少なくとも 1種である。 焼鈍温度 T sが A c 1 変態点未満のときは、 硬質第 2相はセメンタイ卜のみである。
[0242] さらに、 焼鈍パターン 3は C G L (溶融亜鉛めつきライン)に相当する焼鈍 のパターンである。 焼鈍温度から急冷して溶融亜鉛の浴にて表面に亜鉛を付 着させる。 その後は、 図のように再加熱して亜鉛めつき層を合金化させても よいし、 再加熱を省略して亜鉛めつき層を合金化させなくてもよい。 得られ る硬質第 2相の種類は、 再加熱する場合はパターン 1と同じであり、 再加熱 しない場合は、 パターン 2と同じである。
[0243] 最後に、 焼鈍パターン 4は、 箱焼鈍である。 箱焼鈍での焼鈍が完了した後 に、 炉体からコイルを取り出し、 強制冷却して 1 0 °C/s以上の冷却速度条件 を満足できる場合は、 焼鈍温度に制限はないが、 通常は、 焼鈍が完了した後 に炉体からコイルを取り出さず、 炉中で冷却するため、 冷却速度 1 0 °C/s以 上の条件を満たせないので、 焼鈍温度を 6 0 0 °C未満に限定する必要がある 。 その後は、 引き続き、 1〜 1 0 %の範囲の歪み量で、 スキンパス圧延に代 表される加工を施す。
[0244] <本発明の高強度鋼板の作用効果についてのメ力ニズム 2 >
さらに、 通常の冷間圧延によつてナノ結晶粒の組織が得られるメ力ニズム について以下に述べる。
まず、 従来からの試みとして、 冒頭に述べた繰り返し重ね圧延について述 ベる。 繰り返し重ね圧延は、 板状のサンプルに大きな歪みを与え、 ナノ結晶 粒の組織を得るのに有効な方法である。 例えば、 日本塑性加工学会誌 (第 4 0巻、 第 4 6 7号、 1 1 9 0頁) に、 アルミニウムの例が示されている。 圧 延ロールを潤滑して圧延を行った場合は、 方位差の少ないサブグレイン組織 しか得られず、 圧延ロールを潤滑しない場合はナノ結晶粒が得られる。
[0245] この現象は、 無潤滑により剪断変形させると、 潤滑の場合よりも大きな歪
みを導入することができ、 また重ね圧延サイクルの繰り返しにより、 前サイ クルで表層だった部分が材料内部になり、 結果的に材料内部まで剪断歪みが 導入されるためである。 即ち、 繰り返し重ね圧延においても、 無潤滑圧延を 行って大きな剪断歪みを材料内部に与えないと、 結晶粒の超微細化は達成さ れない。
[0246] 発明者は、 生産性の低い繰り返し重ね圧延や、 圧延ロールへの負荷が大き い無潤滑圧延を行わなくても、 通常の油潤滑圧延によって材料内部に剪断歪 みを付与できる手段を検討した。 その結果、 圧延前の組織を軟質部と硬質部 との複合組織とすればよいとの知見を得た。 即ち、 軟質なフェライ卜と硬質 第 2相とからなる複合組織の鋼板に冷間圧延を施すことで、 硬質第 2相に挟 まれたフェライト領域は、 硬質第 2相による拘束によって剪断変形する。 こ れにより、 材料内部の広い範囲に剪断歪みを導入することができる。
[0247] さらに、 発明者は、 詳細な検討を加え、 圧延前の硬質第 2相間隔が様々で あっても、 圧延後の硬質第 2相間隔が一定の値になるまで圧延を加えれば、 同じように材料内部にわたり剪断変形が導入されるとの知見を得た。 即ち、 熱間圧延後の組織における硬質第 2相の平均間隔を d ( u m) とし、 熱間圧 延後 (冷間圧延前) の板厚を t 0、 冷間圧延後の板厚を tとすると、 加工度指 数 Dが、 下記 (4 7 ) 式を満たすような条件冷間圧延を行えばよいことが判 明した。
[数 3 0 ]
D = d X t / t o≤ 1 … ( 4 7 )
[0248] 最後に、 加工によって高速変形時の一様伸びが増加する理由であるが、 フ ェライ卜粒の転位密度を一定値以上に調整することが効果をもたらしている と考えられる。 本発明者は、 前述の製造方法によって製造した冷延鋼板に対 し、 スキンパス圧延率を変化させた実験を行い、 その内部を薄膜 T E M観察 することで、 転位組織を詳細に観察した。 T E M観察では、 鋼板の圧延方向 と平行な断面をカットし、 機械研磨と電解研磨によって薄膜を作成し、 T E Mにて明視野像を撮影し、 その写真上に円を描き、 その円内の転位数を計測
する方法によって、 転位密度を測定した。
[0249] その結果、 本発明の高強度鋼板においては、 冷延焼鈍ままの状態では、 フ エライト粒内の転位密度が非常に低く、 1 0 1 3Zm 2程度にすぎなかった。 ま た高速引っ張りを行うと、 初期に大きな変形強度を示した後に荷重が低下し 、 明瞭な加工硬化を示さずに破断に至る。 高速引っ張り後に、 同様な方法で 転位を観察すると、 フェライト粒内に転位は存在するが、 その分布は比較的 ランダムであった。 前述の鉄鋼協会編 「自動車用材料の高速変形に関する研 究会成果報告書」 1つ 1頁に、 I F鋼の高速変形後の転位組織が示されてお リ、 2 0 %もの歪みでも明瞭な転位セル構造を呈していないが、 これと同じ 現象である。 つまり、 加工硬化しにくいために、 加工硬化を明瞭に示さず、 したがって一様伸びが小さいために全伸び値も悪い。
[0250] 一方、 冷延焼鈍後に 1 %以上のスキンパス圧延を施すと、 転位密度が約 5 倍〜 3 0倍にも増加しており、 5 %スキンパス圧延では転位のセル化が見ら れた。 これを高速引っ張りしたものでは、 スキンパス圧延によって導入され た転位に加えて転位密度が上昇し、 セル構造がより明瞭になっていた。 すな わち、 スキンパス圧延によってある程度の転位を導入しておくと、 その初期 転位が高速変形時においても有効な転位源となり、 転位の増殖が促進されて 転位セル構造を組みやすくなリ、 加工硬化すなわち一様伸びが向上している と考えられる。 実際に、 高速引張りでの応力歪み線図には変化が見られ、 降 伏の後に加工硬化を示し、 一様伸びが向上した。 ただし、 伸び率が 1 O o/oを 超えるようなスキンパス圧延を行うと、 静的変形時に材料の延性低下が顕著 になり、 そのため高速変形時の延性も、 かえって低下した。 本発明は、 この ような知見に基づき、 一様伸び向上の効果が明瞭に現れ、 かつ材料の延性を 極端に劣化させない条件として、 歪み量の適正範囲を 1〜 1 0 %と規定した ものである。
[0251 ] 1 . 第 1実施形態
表 4に示す化学組成のスラブ (発明スラブ 1〜 8及び比較スラブ 1〜 9 )
を溶製した。 ついで、 これらのスラブを用いて、 表 5に示す諸条件で熱間圧 延板を製造し、 その後、 表 6に示す諸条件で冷間圧延及び焼鈍を施し、 表 7 に示す焼鈍組織などを具備する鋼板を得た。 そして、 各鋼板から、 圧延方向 と平行な方向が引張り軸になるように、 図 1 4に示す形状の引張り試験片を 切り出して、 引張り試験を行った。 得られた公称応力公称歪み線図から、 降 伏点、 引張強度、 焼付け硬化量 (B H量) 、 および全伸びを測定するととも に、 引張強度 X伸びを算出した。 それらの結果を表 5に併記した。 なお、 比 較例 4は、 比較例 3と同じ熱延板の両面を板厚 1 m mまで機械加工し、 繰返 し重ね圧延 (A R B ) を 3サイクル行ったものであり、 トータル圧延率は 8 8 %相当である。 この場合、 通常の冷間圧延よりも冷延焼鈍後のナノ結晶比 率が高くなリ、 良好な特性を示す。 熱延板の第 2相面積率が 1 0 %程度と少 なくても、 A R Bならば目的の組織が得られる事を示している。
[表 5]
P:パーライト
C:セメンタイ卜
M:マルテンサイト
B:ベイナイト
A:残留オーステナイト
[表 6]
WQ:水焼入れ
[表 7]
P : ^—ライ卜
C :セメンタイト
M :マルテンサイト
B :べィナイ卜
A:残留ォ一ステナイ卜
[0256] 発明例 1 1の鋼板から、 圧延方向と平行な断面を切り出して、 これらを 1 %のナイタールでエッチングして、 S E Mによって組織を観察した。 その組 織を図 6に示す。 図 6に示された組織は、 フェライト (黒い部分) と残留ォ ーステナイトとベイナイトからなる硬質相 (白い部分) の 2相組織であり、 フェライト相の多くがナノ結晶粒となっている。 また、 発明例 1 1のフェラ イト相の粒度分布を測定し、 その結果を図 7に示す。
[0257] 図 8に発明例と比較例における引張強度と伸びとの関係を示す。 図 8から
判るように、 発明例は比較例と比べて強度延性バランスが良好である。 比較 例のうち発明と同じ位置づけにある 3点 (比較例 1 6, 1 7, 1 8) は、 従 来技術によるものであるが、 本発明例よりも多量の合金元素を添加すること で良好な強度延性バランスを実現している。
[0258] 比較例 1 6は C量が 0. 1 6%の鋼を用いて従来の方法 (特許文献 1 ) で 製造され、 8 OOMP a級の引張強度を有するものであるが、 本発明によれ ば、 同等の強度,延性を、 C量が 0. 1 %程度の素材で得られることが発明 例 1に示されている。
[0259] 比較例 1 7, 1 8は〇量が0. 36 %の鋼を用いて従来の方法 (特許文献
1 ) で製造され、 1 1 OOMP a級の引張強度を有するものであるが、 本発 明によれば、 同等の強度■延性を、 C量が 0. 2%もしくは 0. 1 5%の素 材で得られることが発明例 3, 5に示されている。
[0260] 従来技術では製造することができなかった、 1 3 OOMP a以上の引張強 度と 1 50/0以上の伸びを兼ね備えた鋼板が、 本発明の方法によって製造でき ることが、 発明例 7, 8, 9, 1 0, 1 1に示されている。
[0261] C量が高いと、 スポッ卜溶接したときにナゲッ卜硬度の上昇が大きく、 切 欠感受性が高くなリ、 鋼を高強度化しても TSS (引張剪断強度) の上昇の わりには CTS (十字引張強度) 上昇が少なく、 したがって高強度鋼板を適 用して薄肉化する場合に、 溶接打点を増やす必要性が生じる。 表 6は、 板厚 が 1 mmの発明例 1, 5, 1 1、 比較例 1 6, 1 7, 1 8の、 スポッ卜溶接 強度を示す。
[0262] [表 8]
[0263] 溶接には、 J I SC9304の D型電極 (径 6mm) を用い、 加圧 350
k g f 、 通電サイクル 1 8サイクルで実施し、 断面のナゲット径を J I S Z 31 39に従い測定した。 また、 TSSと CTSは、 J I SZ31 36. 3 1 37にしたがって測定した。 発明例は C量が低いため、 同じ強度の比較例 に比べて CTSが高く、 良好なスポット溶接強度を示す。 もっとも、 発明例 1 1のように、 C量が 0. 4%にもなると、 TSSは引張強度の上昇に従つ て上昇するものの CTSはほとんど上昇しない。 すなわちスポッ卜溶接の十 字引張強度を高める事はもはや困難なため、 この場合は、 切欠形状が少ない 突合せレーザー溶接もしくは突合せの摩擦撹拌接合や、 切欠形状があつても 焼入れ組織を生じにくい、 リベット結合、 かしめ接合、 スポット状の摩擦撹 拌接合などの方法を用いる事で、 良好な接合強度を確保することができる。
[0264] なお、 本発明の鋼板は、 冷延鋼板として用いる以外に、 前述の CGL (溶 融亜鉛めつきライン) にて溶融亜鉛めつきもしくは合金化溶融亜鉛めつきを 施したり、 電気亜鉛めつきラインにて電気亜鉛めつきを施したり、 さらに、 めつき層の上に耐食性向上の目的で有機皮膜処理を施して使用することがで さる。
[0265] 2. 第 2実施形態
表 9に示す組成の化学組成のスラブ (発明スラブ 9〜1 9及び比較スラブ 1 0〜1 4) を溶製した。 なお、 「発明スラブ」 とは、 前述の好ましい範囲 に入る材料を称し、 「比較スラブ」 とはそれ以外の材料を言う。
[0266]
次いで、 これらのスラブを用いて、 表 1 0に示す諸条件で熱間圧延板を製
造し、 その後、 表 1 1に示す諸条件で冷間圧延及び焼鈍並びにスキンパス圧 延を施し、 表 1 2に示す焼鈍組織等を具備する鋼板 (発明例 1 2〜29及び 比較例 23〜4 1 ) を得た。 なお、 表 5においてスキンパス圧延の伸び率は 、 事前に鋼板の圧延方向と直角に 20 Ommの間隔で 2本のケガキ線を入れ てからスキンパス圧延し、 (圧延後のケガキ線間隔) 一 (圧延前のケガキ線 間隔) Z (圧延前のケガキ線間隔) で算出した。 発明例 1 2については、 熱 延板の両面を板厚が 1. 2mmになるまで機械加工し、 繰返し重ね圧延を 3 サイクル行った。 この重ね圧延の総圧延率は 88%に相当する。
[表 10]
P:パ一ライト
C:セメンタイト
M:マルテンサイト
B:ベイナイト
A:残留オース亍ナイト
[表 11]
WQ:水焼入れ
[表 12]
パーライト
セメンタイト
マルテンサイト
ベイナイト
残留オーステナイト
[0271 ] さらに、 発明例 1 8の鋼板から、 圧延方向と平行な断面を切り出して、 こ れらを 1 %のナイタールでエッチングして、 S E Mによって組織を観察した 。 それらの組織を図 9に示す。 また、 発明例 1 8のフェライ卜相の粒度分布 を測定し、 その結果を図 1 0に示す。
[0272] 図 9及び図 1 0から、 硬質第 2相としてセメンタイ卜を含有し、 残リはナ ノ結晶粒とミクロ結晶粒とからなる混合組織であることが判る。
[0273] 加えて、 各鋼板から、 圧延方向と平行な方向が引張り軸になるように、 図
14に示す形状の引張り試験片を切り出して、 弓 I張り試験を行った。 引張り 試験は、 鷺宮製作所の高速材料試験機 TS_ 2000にて、 歪速度 0. 01 Zs及び 1 OOOZsで実施した。 得られた公称応力公称歪み線図から、 静 的引張強度 (TS) 、 焼付け硬化性 (BH) 、 全伸びおよび静動差を求めた 。 なお、 静動差は、 歪速度 100 OZsにおける公称歪み 3%〜5%での平 均公称応力から、 歪速度 0. 01 Zsにおける公称歪み 3%〜5%での平均 公称応力を減ずることにより算出した。 これらの結果を表 1 2に併記する。
[0274] <発明例 1 1〜 29についての考察 >
発明例 1 1〜29については、 各鋼板ともに、 優れた諸材料特性を示し、 特に、 静動差が大きいことが判る。 このため、 各発明例の鋼板については、 高い高速変形強度及び衝撃エネルギー吸収性能と、 高い加工性とを両立させ ることができるため、 自動車のボディ等に使用することができる。 発明例 1 2では、 熱延板の硬質第 2相の面積率が 1 2%で下限値に近かったが、 繰り 返し重ね圧延を行ったため、 冷延焼鈍後のナノ結晶比率が高くなリ、 良好な 特性を示した。 この結果は、 熱延板の硬質第 2相の面積率が 10%程度と低 くても、 重ね圧延により目的の組織が得られることを示すものである。
[0275] <比較例 23〜 41についての考察 >
これに対し、 比較例 27〜41については、 各鋼板ともに、 静動差が小さ いことが判る。 このため、 これらの比較例の鋼板については、 高い高速変形 強度及び衝撃エネルギー吸収性能と、 高い加工性とを両立することができな いため、 自動車のボディ等に使用することは好ましくない。 なお、 比較例 2 3等については、 17 OMP a以上の静動差が得られているものの、 その他 の伸びなどの特性が発明例と比較して劣っている。 特に、 比較例 23では、 スキンパス圧延を施していないため、 静動差は高いものの高速変形時の全伸 びが低い。
[0276] <本発明のバリエーションについて >
本発明では、 以上に示した製造方法のみならず、 焼鈍時に実際にめつきを 付着させて、 溶融亜鉛めつき鋼板や合金化溶融亜鉛めつき鋼板を得ることが
できる。 また、 耐食性を向上させる目的で、 溶融亜鉛めつきを施した後に、 さらに電気めつきラインにて鉄めつきを施すこともできる。 さらに、 本発明 鋼の焼鈍の後に、 電気めつきラインにて表面にめっきを施すことで、 電気亜 鉛めつき鋼板や合金化 (N i - Z n ) 電気亜鉛めつき鋼板を得ることができ る。 加えて、 耐食性向上を目的として、 有機皮膜処理を施すこともできる。
[0277] なお、 比較のために市販の材料の特性を表 1 3に示す。 表 1 3によれば、 表
1 2の各発明例と比較して、 各市販材 1〜5は、 いずれも静動差が小さいこ とが判る。 従って、 各発明例の鋼板においては、 従来の市販材に比して、 高 速変形強度及び衝撃エネルギー吸収性能と、 加工性とを格段に高いレベルで 両立させていることが確認された。
[0278] [表 13]
[0279] 図 1 1は、 スキンパス圧延での伸び率と全伸びとの関係を示す図であり、 表 1 4は図 1 1に示した例をまとめたものである。 スキンパス圧延の伸び率 が増加するに従い静的変形時の全伸びは減少するが、 高速変形時の全伸びは 、 伸び率が 5 %程度まで増加する。 このことは、 高速変形時の吸収エネルギ 一が増加することを示している。 高速変形時の吸収エネルギーは、 伸び率が 1〜 1 0 %のときに高いことから、 この範囲が適正である。
[0280]
[表 14]
[0281 ] 図 1 2は、 スキンパス圧延を行った材料と行わなかった材料における応力 —歪み曲線を示すものである。 図 1 2から判るように、 スキンパスを行うこ とで降伏点が低下し、 より弱い応力で変形が生じる。 図 1 3は、 高速変形時 の伸びと静動差との関係を示す図である。 図 1 3から明らかなように、 発明 例では伸びと静動差ともに市販材ゃ比較例と比べて優れている。
産業上の利用可能性
[0282] 本発明によれば、 フェライト結晶粒の微細化により強度を上昇させ、 しか もプレス成形時に重要となる強度と延性のバランスに優れ、 高速変形時の吸 収エネルギーに優れた高強度鋼板及びその製造方法が提供される。 また、 本 発明によれば、 フェライ卜結晶粒の微細化により強度を向上させることがで きるのはもちろんのこと、 静動差が高くプレス成形が容易であり、 しかも、 高速変形時の延性に優れて吸収エネルギーが大きい高強度鋼板が提供される 。 よって、 本発明は、 高い高速変形強度及び衝撃エネルギー吸収性能と、 高 い加工性との双方を要求特性とする自動車用車体に適用することができる点 で有望である。
図面の簡単な説明
[0283] [図 1 ]熱間圧延板における硬質第 2相どうしの間隔の測定方法を示す模式図で める。
[図 2]熱間圧延の熱履歴を示す図である。
[図 3]実施例における焼鈍温度と伸びとの関係を示すグラフである。
[図 4] 4つの焼鈍パターンにおける熱履歴を示す図である。
[図 5]焼鈍時の保持時間と保持温度との関係を示すグラフである。
[図 6]本発明例の高強度鋼板の組織を示す S E M写真である。
[図 7]本発明例のフェライ卜相の粒度分布を示すグラフである。
[図 8]実施例における引張強度と伸びとの関係を示すグラフである。
[図 9]本発明例の高強度鋼板の冷間圧延後の組織を示す S E M写真である。
[図 10]本発明例のフェライ卜相の粒度分布を示すグラフである。
[図 1 1 ]本発明例におけるスキンパス圧延での伸び率と全伸びとの関係を示す グラフである。
[図 12]実施例における高速変形時の応力一歪み曲線を示すグラフである。
[図 13]実施例における高速変形伸びと静動差との関係を示すグラフである。
[図 14]高速引張試験に使用した試験片の形状を示す図である。