明 細 書
E型肝炎ウィルスの検出方法
技術分野
[0001] 本発明は、ウィルスの検出方法、特に、 E型肝炎ウィルスの検出方法に関する発明 である。
背景技術
[0002] E型肝炎ウィルス (Hepatitis E virus: HE V)は E型肝炎を誘発するウィルスで、 famil y Hepeviridae, genus Hepevirus,に分類され、約 7.2kbのプラス鎖 RNAゲノムを持つ 、小型(直径 27-30nm)ウィルスである。 HEVは 1990年に Reyes等により、はじめて遺 伝子がクローニングされた (Reyes, G. R" M. A. Purdy, J. P. Kim, K. C. Luk, L. M. Young, K. E. Fry, and D. W. Bradley. 1990. Isolation of a cDNA from tHEVirus res ponsible for enterically transmitted non— A, non— B hepatitis. Science.vol.247: 1335-9 )oその後、多くの株の全塩基配列が明らかになり、現在はゲノム塩基配列の類似性 から、 HEVは 4つの型(遺伝子型 I〜IV型)に分類されている (Schlauder, G. G., and I . K. Mushahwar. 2001. uenetic heterogeneity of hepatitis E virus. J Med irol, vol.6 5:282-92)。 E型肝炎の発生の多くは、ウィルスに汚染された水を飲むことにより起こり 、特に開発途上国では HEVに汚染された飲料水などを介した E型肝炎がしばしば
A. C, and G. b. Fout. 2002. Development of a molecular met hod to identify hepatitis E virus in water. J Virol Methods, vol.101 :175-88)。
[0003] 先進国では、開発途上国への旅行者の感染事例が多く「輸入感染症」として認識さ れて来たが、こうした地域への渡航歴がなくても、 E型肝炎を発症する「国内発症例」 も散見されるようになり、し力も、そのような例力も採取された HEV株は、それぞれの 地域に特有の「土着株」であることが明らかになった (Erker, J. C, S. M. Desai, G. G. Schlauder, G. J. Dawson, and I. K. Mushahwar. 1999. A hepatitis E virus variant fr om the United States: molecular characterization and transmission in cynomolgus m acaques. J Gen Virol, vol.80 (Pt 3):681- 90; Schlauder, G. G., G. J. Dawson, J. C. E rker, P. Y. Kwo, M. F. Knigge, D. L. Smalley, J. E. Rosenblatt, S. M. Desai, and I.
K. Mushahwar. 1998. The sequence and phylogenetic analysis of a novel hepatitis E virus isolated from a patient with acute hepatitis reported in the United States. J G en Virol, vol.79 (Pt 3):447— 56; Takahashi, K., K. Iwata, N. Watanabe, T. Hatahara, Y. Ohta, K. Baba, and S. Mishiro. 2001. Full-genome nucleotide sequence of a hepa titis E virus strain that may be indigenous to Japan. Vir ology, vol.287:9— 12; Yamam oto, T., H. Suzuki, T. Toyota, M. Takahashi, and H. Okamoto. 2004. Three male pa tients with sporadic acute hepatitis E in Sendai, Japan, who were domestically infect ed with hepatitis E virus of genotype III or IV. J Gastroenterol, vol.39:292— 8)。
[0004] このウィルスは経口感染により感染し、潜伏期間 15日力 60日を経て発症する。不 顕性感染が多いとされており、感染しても発症しない人もいる。典型的な症状は腹痛 、発熱、嘔吐など消化器症状を伴う急性肝炎であり、褐色尿を伴った強い黄疸が現 れる。黄疸が 12〜15日間続いたのちに、発症から 1力月を経て通常は完治する。なお 、 HEVのウィルス血症は黄疸に先立って出現し、ウィルスは便にも排泄される。 A型 肝炎と同様に、 E型肝炎は慢性ィ匕しないが、便中への排泄を伴う長期間ウィルス血症 状態が続く例も見られる。発症した場合の致死率は 0.5-4.0%である力 妊婦の場合 は劇症肝炎の割合が高ぐ致死率も 17-33%と高い。
[0005] 最近、わが国でも、イノシシの生レバーの摂食が原因と見られる急性 E型肝炎での 死亡例が報告されるなど、これまでに動物由来、特に豚の HEVがヒトに感染すること を間接的に証明する症例がいくつか報告されている (Meng, X. J., R. H. Purcell, P. G. Halbur, J. R. Lehman, D. M. Webb, T. S. Tsareva, J. S. Haynes, B. J. Thacker, and S. U. Emerson. 1997. A novel virus in swine is closely related to the human hep atitis E virus. Proc Natl Acad Sci U S A, vol.94:9860- 5; Nishizawa, T" M. Takahash i, H. Mizuo, H. Miyajima, Y. Gotanda, and H. Okamoto. 2003. Characterizati on of Japanese swine and human hepatitis E virus isolates of genotype IV with 99 % identit y over the entire genome. J Gen Virol, vol.84:1245-51; Okamoto, H., M. Takahashi , T. Nishizawa, K. Fukai, U. Muramatsu, and A. Yoshikawa. 2001. Analysis of the c omple te genome or indigenous swine hepatitis E virus isolated in Japan. Biochem Bi ophys Res Commun, vol.289:929-36)0北海道では市販されていた豚レバーの一部
から、 E型肝炎ウィルスの遺伝子が検出され (Yazaki, Υ·, H. Mizuo, M. Takahashi, T. Nishizawa, N. Sasaki, Y. Gotanda, and H. Okamoto. 2003. Sporadic acute or fulmin ant hepatitis in Hokkaido, Japan, may be food-borne, as suggested by the presenc e of hepatitis E virus in pig liver as food. J Gen Virol,vol.84:2351— 7)、また、生シカ 肉を介した集団 E型肝炎ウィルス食中毒事例も報告されていることから (Tei, S., N. Ki tajima, K. Ta anashi, and S. Mishiro. 2003. Zoonotic transmission of hepatitis E viru s from deer to human beings. Lancet, vol.362:371- 3)、 E型肝炎は人獣共感染症であ る可能性が高!/、事が示唆されて!/、る。
[0006] なお、これまでに豚由来 HEVで発見されたのは III型及び IV型のみで、ァカゲザル 、チンパンジーにも感染が成立し、ウィルス血症、糞便へのウィルス排出も認められる (Meng, X. J., P. G. Halbur, M. S. Shapiro, S. Govindarajan, J. D. Bruna, I. K. Mush ahwar, R. H. Pur cell, and S. U. Emerson. 1998. Genetic and experimental evidence f or cross-species infection by swine hepatitis E virus. J Virol,vol.72:9714— 21)。また、 ヒト由来 HEVは豚にも感染する事が分かっている (Meng, X. J., P. G. Halbur, M. S. Shapiro, S. Govindarajan, J. D. Bruna, I. K. Mushahwar, R. H. Pur cell, and S. U. E merson. 1998. Genetic and experimental evidence for cross-species infection by swi ne hepatitis E virus. J Virol, vol.72:9714-21; Halbur, P. G., C. Kasorndorkbua, C. Gilbert, D. Guenette, M. B. Potters, R. H. Pur cell, S. U. Emerson, T. E. Toth, and X. J. Meng. 2001. Comparative pathogenesis of infection of pigs with hepatitis E vir uses recovered from a pig and a human. J Clin Microoiol, vol.39:918— 23)。
[0007] カナダオンタリオのある農場では、 6ヶ月令の豚の 80%以上が HEV抗体陽性であつ たことが 2001年に報告された (Yoo, D" P. Willson, Υ· Pei, Μ. A. Hayes, A. Deckert, C. E. Dewey, R. M. Friendship, Y. Yoon, M. Gottshalk, C. Yason, and A. uiulivi. 2 001. Prevalence of hepatitis E virus antibodies in Canadian swine berds and identific ation of a novel variant of swine hepatitis E virus. Clin Diagn Lab Immunol, vol.8:12 13-1219)。アメリカ、オーストラリアなどでも、豚の高い E型肝炎ウィルス抗体保有率が 報告されている (Chandler, J. D., M. A. Riddell, F. Li, R. J. Love, and D. A. Anderso n. 1999. Serological evidence for swine hepatitis E virus infection in Australian pig h
erds. Vet Microbiol, vol.68:95— 105; Huang, F. F., G. Haqshenas, D. K. Guenette, P . G. Halbur, S. K. Schommer, F. W. Pierson, T. E. Toth, and X. J. Meng. 2002. Det ection by reverse transcription— PC R and genetic characteri zation of field isolates of swine hepatitis E virus from pigs in different geographic regions of the United State s. J Clin Microbiol, vol.40: 1326-32)。 日本での調査では、肥育初期の 2〜3ヶ月令の 豚でウィルスが検出される傾向が強いが、ほ乳期や 6ヶ月令を越えるものからは検出 できないと報告されている。このことから、感染後一過性にウィルス血症がおき、抗体 出現と共にウィルスが体内から消失されると考えられている。
[0008] また、 HEVは非土着地域の汚水からも発見され、 HEVの海洋および貝類への汚 染も懸念されている (Pina, S., J. Jofre, S. U. Emerson, R. H. Purcell, and R. Girones.
1998. Characterization of a strain of infectious hepatitis E virus isolated from sewag e in an area where hepatitis E is not endemic. Appl Environ Microbiol, vol.64:4485-8 )。
[0009] 近年の HEVゲノム核酸配列情報の蓄積により、これを基にした HEV検出法が様々 な研究グループにていくつも構築されてきた。しかしながら、 HEVを、効率的に様々 な側面力 検出可能な手段が十分に確立されているとはいえず、 HEVの検出の実 用化に向けての課題が未だに認められる。
発明の開示
[0010] 本発明者は、 HEVの実用的な検出手段について検討を行い、 HEVの遺伝子の 特定の領域において、突然変異株同士であっても非常に高度に保存されている部 分と、逆に突然変異の影響が非常に多く顕れる部分が存在しており、当該遺伝子領 域を HEVの検出指標とすることで、 HEVを様々な側面力 効率的に検出可能なこと を見出して本発明を完成した。
[0011] すなわち、本発明は、検出対象物に対して、配列番号 1に示す塩基配列に相応す る塩基配列から選ばれる 10塩基以上連続する塩基配列の核酸の検出を行い、当該 核酸が検出された場合に、前記検出対象物が E型肝炎ウィルス (HEV)陽性であると する、ウィルスの検出方法 (以下、本検出方法ともいう)を提供する発明である。
[0012] HEVの遺伝子型は、現在、 GI〜GIV型の 4種に分類され、配列番号 1に示す塩基
配列は、 HEV(GI)株である「M73218 : Genbank No.J [以下、本株を基準株(プロトタ ィプ)ということもある]の 5253〜5434ntの cDNAの塩基配列である。この領域は、 HEVの「ORF2領域と ORF3領域が重複した領域」の一部をなす領域である。
[0013] 本検出方法は、検出対象物中の HEVを検出するにあたって、全ての遺伝子型の HEVにおいて存在する特定の遺伝子領域の塩基配列を検出指標とすることにより、 HEVの遺伝子型の相違を超えた検出と、遺伝子型毎の HEVの検出、の両者を行う ことが可能であることを特徴とするウィルスの検出方法である。
[0014] なお、本明細書にぉ 、て、 HEVの遺伝子の塩基配列(配列番号 1〜48)における 個々の塩基の番号は、図 3に示された Genbank No.に従う。例えば、上記プロトタイプ である M73218株の第 5253番目の塩基であるグァニン(G)は、配列番号 1の第 1番 目の塩基であるグァニン (G)に該当する。
[0015] この「全ての遺伝子型の HEVにお 、て存在する特定の遺伝子領域の塩基配列」が 、本発明に係る「配列番号 1に相応する塩基配列」に相当する。すなわち、検出対象 物中における、配列番号 1に相応する塩基配列の存在、及び Z又は、その内容を把 握することにより、検出対象物における、 HEVの定性検出、定量検出、さら〖こは、そ の原因ウィルスの遺伝子型までを把握して、検出対象物提供者の治療方針の確立、 ウィルス汚染源の特定等を行うことができる。
[0016] 上記の「相応する塩基配列」とは、 1) HEVの各株における、プロトタイプの上記配 列番号 1に相当する配列のことを意味し、さらに、 2)当該配列のアンチセンス配列を 意味するものとする。また、当該塩基配列を構成する核酸には、オリゴリボヌクレオチ ド、オリゴデォキシリボヌクレオチドが含まれる力 これらに限定せず、ペプチド核酸、 メチルフォスフォネート核酸、 S-オリゴ核酸、モルホリル核酸などの人工合成核酸も含 む。
[0017] 検出対象となる核酸は、配列番号 1に相応する塩基配列から選ばれる、少なくとも 1 0塩基以上連続するオリゴヌクレオチドであることが必要であり、 180塩基程度を最大 限とする。一般的には、 15〜30塩基程度連続するオリゴヌクレオチドであることが好 適である。
[0018] また、配列番号 1で表される塩基配列湘補鎖を含む)に対する塩基の相違は 10%
以内であることが必要である。 HEVの「ORF2領域と ORF3領域が重複した領域」に おける保存領域の全ての遺伝子型間での塩基同士の相違は 10%以内であり、準保 存領域 (異なる遺伝子型間では保存されて 、るとは 、えな 、が、同一の遺伝子型で は十分に保存されている遺伝子領域)における同一遺伝子型の HEV間の塩基同士 の相違も 10%以内に止まって!/、る。
[0019] 本検出方法の検出対象物としては、生物個体、例えば、ヒト、サル、ブタ、ゥシ、ヒッ ジ等を含む任意の哺乳動物、あるいは、カキ、アサリ、ハマダリ、シジミ、ムール貝等 を含む海産物カゝら採取した、体液、血液、血清、リンパ液、糞便、組織などの生物試 料、さらには、海水、河川水、湖水、下水、排水、水道水、井戸水などを含む環境水 等が挙げられる。また、食品や食品生産設備においては、食品そのもの、食品生産 設備における調理器具等の付着物、食品生産者の衣類等の付着物、それらを拭つ た紙、布等も検出対象物となり得る。各検出対象物は、必要に応じて、ホモジェネー ト処理、濃縮処理、抽出処理等、適切な前処理を行うことが可能であり、そうして得た 試料も検査対象物とすることが可能である。これらの検出対象物からの遺伝子の入 手方法は、用いる検出対象物の種類に応じて適切な方法を選択することが可能であ る力 概ね用いる検出対象物を水等に浸漬または懸濁して、これらの水から得られる 上清画分から、酸フエノール法 (AGPC法: Acid Guanidin Phenol Chroloform method) などの常法により、ウィルス RNAを抽出することにより行うことができる。かかるウィル ス RNAに対して、例えば、逆転写酵素を用いたウィルス RNAに相補的な cDNAの 調製などを行い、この核酸試料を直接用いるか、遺伝子増幅用プライマーを用いた 遺伝子増幅を行って得た遺伝子増幅産物を用いることができる (所望する遺伝子増 幅産物の確認は、一般的には、電気泳動により、目的となる大きさの遺伝子増幅産 物が認められるカゝ否かにより行われる)。
[0020] 遺伝子増幅法としては、例えば、 PCR法、 RT—PCR法、リアルタイム PCR法、 SDA ^strand displacement amplification)法、 NASBA(Nucleic Acid Sequence Based Amplin cation)法、 LAMP(Loop— mediated isothermal amplification)法等が挙げられる。核酸 増幅産物の検出には、電気泳動法、核酸検出用チップ等の電気化学的センサー、 水晶振動子を用いる遺伝子センサー、あるいは蛍光標識したプライマー、プローブま
たは蛍光インタカレーシヨン剤を用いて、蛍光センサーにより蛍光強度を測定する等 により、核酸増幅産物を HEV由来ゲノム断片として検出することが可能である。また 、プローブに蛍光標識、化学修飾、蛋白質修飾、放射性同位体標識等を施し、ドット ハイブリダィゼーシヨン、スロットハイブリダィゼーシヨン、サザンハイブリダィゼーシヨン 、ノーザンノヽイブリダィゼーシヨン法等により、あるいは各種増幅法と組み合わせ、 Ta qMan Probe、 Molecular Beacon Probe ^ ノヽイブリダィゼーシヨンプローブ、 LUX (Light Upon extension)プライマー等を用いたリアルタイム定量法等による解析にて、 HEV 由来ゲノム断片を検出することが可能である。さらに、インベーダー法など標的遺伝 子の増幅を必要としない方法でも、前記のオリゴヌクレオチドを用い、 HEVゲノム断 片を検出する事も可能である。
[0021] また、本検出方法における目的とする核酸の検出は、核酸同士のノ、イブリダィズを ポジティブ又はネガティブに検出することにより行われることが主であり、その具体的 な手法は、公知の検出手法を用いることができる。例えば、ドットハイブリダィゼーショ ン、スロットハイブリダィゼーシヨン、サザンハイブリダィゼーシヨン、ノーザンハイブリダ ィゼーシヨン法等により、あるいは各種増幅法と組み合わせ、タツクーマン プローブ( TaqMan Probe)、モレキュラー ビーコン プローブ (Molecular Beacon Probe)、 ノヽィ ブリダィゼーシヨンプローブ、 LUX (Light Upon extension)プライマー等を用いたリア ルタイム定量法等による解析にて、 目的とする HEV由来ゲノム断片を検出することが 可能である。さらに、インベーダー法など標的遺伝子の増幅を必要としない方法でも 、 目的とする HEVゲノム断片を検出することも可能である。
[0022] これらの手法における具体的な必要に応じて、本発明に関する核酸 (プローブ、プ ライマー等として用いる)には、必要な修飾を付加することが可能であり、これらの修 飾核酸も、その塩基配列が本発明の範囲内である限り、同様に本発明の範囲内であ るとする。付加要素としては、酵素修飾 (パーォキシダーゼ等)、蛍光標識 (ルシフェリ ン等)、化学修飾、蛋白質修飾 (ピオチン等)、放射線同位元素標識等を例示するこ とがでさる。
[0023] 特に、汚染などの危険を回避し、さらに、検出操作に費やす時間を可能な限り短縮 するために、遺伝子増幅操作の過程において、遺伝子増幅産物中の特定の塩基配
列の存在をモニタリングすることが可能な手段を用いることが好適である。このような 方法の代表的なものとして、例えば、上記のモレキュラー ビーコン プローブ (Molec ular beacon Probe)を用いた検出方法、タツクーマン プローブ (Taq- Man Probe)を用 いた検出方法、 LUX (Light Upon Extension)プライマーを用いた検出方法等を挙げ ることがでさる。
[0024] モレキュラー ビーコン プローブ (Molecular beacon Probe)を用いた検出方法は、 P CR法などによる遺伝子増幅産物の形成を、増幅過程中または増幅過程終了後に、 蛍光でモニターするために使用できる、ヘアピン型のハイブリダィゼーシヨンプローブ (モレキュラー ビーコン プローブ)を用いる遺伝子の検出方法である (Nature Biotec hnology 1998 16:49-53)。モレキュラー ビーコン プローブを構成する核酸の末端は 、互いに相補的になっており、通常は、これらの末端同士が結合して、いわゆるステ ム構造を形成し、力かるステム構造におけるループ部分は、遺伝子増幅産物の目的 とする領域に対して相補的となるように設計されている。さらに、蛍光体と非蛍光の消 光剤が、核酸の両端にそれぞれ結合しており、溶液中で遊離しているときは、ヘアピ ン構造を形成するため、蛍光剤と消光剤はお互いに作用して蛍光は消えている。し かし、核酸に相補的な塩基配列を有する遺伝子増幅産物が存在する場合には、ル ープ部分が、その相補的な塩基配列に結合し、その結果、プローブ全体の構造が変 化して、蛍光体と消光剤が離れて、消光剤の蛍光体に対する消光効果が解消するた めに、蛍光体が本来の蛍光を発するようになる。この消光効果の解消による蛍光強 度の増加は、核酸に相補的な塩基配列を有する遺伝子増幅産物の増加に比例する 。そして、この蛍光強度の増加をモニタリングすることにより、遺伝子の増幅過程終了 後のみならず、遺伝子の増幅過程においても、 目的の塩基配列を検出することがで きる。つまり、上記の蛍光強度の増加を指標に、検出試料中の標的核酸を検出する ことができる。
[0025] なお、モレキュラー ビーコン プローブにおける、上述した蛍光標識と消光剤の標 識は、通常、核酸の 5,末端に、 6- carboxyfluorescein(6- FAM)や 6- carboxy- 4,7,2',7' - tetrachlorofluorescein(TET)などのフノレォレセイン系蛍光色素や、 5- carboxytetrame thylrhodamine(TAMARA)などのローダミン系蛍光色素を標識し、さらに、同 3 '末端に
、 4-(4'-dimethylaminophenylazo)benzoic acid(DABC YL)などの消光剤を標識すること により行うことができる (例えば、 Nature Biotechnology 1996 14:303- 308など)。
[0026] タツクーマン プローブ (Taq-Man Probe)を用いた検出方法は、 PCR法などによる 遺伝子増幅産物の形成を、増幅過程中に、蛍光でモニターするために使用できる、 ハイブリダィゼーシヨンプローブ (Taq- Man Probe)を用いる、遺伝子の検出方法である 〔実験医学 Vol.15 No.7(増刊) p46〜51, 1997など〕。タツクーマン プローブは、 5,末 端には、フルォレセイン系の蛍光色素(レポーター色素)が、 3 '末端には、ローダミン 系の蛍光色素 (タエンチヤー色素)が、それぞれ標識された核酸である。レポーター 色素とクェンチヤ一色素が、核酸を介して結合している状態では、ホエルスター (Fors ter)共鳴エネルギーにより、レポーター色素の蛍光は、クェンチヤ一色素により抑制さ れている。これに対して、プライマーおよびタツクーマン プローブが、遺伝子増幅産 物のタツクーマン プローブの核酸に相補的な核酸をアニーリングして、伸長反応が 進むと、 TaqDNAポリメラーゼの 5,→3,エンドヌクレアーゼ活性により、タツクーマン プローブの 5 '末端から加水分解が起こり、 5 '末端のレポーター色素が、 3 '末端の クェンチヤ一色素力 離脱すると、抑制されて 、たレポーター色素の蛍光強度が増 加する。レポーター色素による蛍光強度の増加は、核酸に相補的な塩基配列を有す る遺伝子増幅産物の増加に比例する。そして、この蛍光強度の増加をモニタリングす ることにより、遺伝子の増幅過程終了後のみならず、遺伝子の増幅過程においても、 目的の塩基配列を検出することができる。つまり、上記の蛍光強度の増加を指標に、 検出試料中の標的核酸を検出することができる。
[0027] なお、タツクーマン プローブにおける、上述した蛍光標識は、通常、核酸の 5 '末 端に、 6— FAMや TETなどのフルォレセイン系の蛍光色素を、同 3 '末端に、 TAM ARAなどのローダミン系の色素を、常法 (例えば、 Nucleic Acids Research 1993 21(1 6):3761-3766など)に従って行うことができる。
[0028] LUX (Light Upon Extension)プライマーを用いた検出方法は、 PCR法などによる遺 伝子増副産物の形成を、増幅過程中の蛍光をモニターすることにより、 目的遺伝子 の増幅を検出する方法である。 LUXプライマーは、 3'末端付近に単一フルオロフォ ァを標識し、 5'末端との間でヘアピン構造を取るように設計した核酸である。長さは通
常 20〜30塩基で、プライマーがヘアピン構造を取っている時は消光能力があり蛍光 を発しないが、プライマーカ^本鎖 PCR産物に取り込まれると、消光が解かれ、蛍光シ グナルが増大し、このシグナルの増大を測定することで、増幅した目的の遺伝子産物 の定量分析をする (Nazarenko,I.et al. (2002) Nucleic Acids Research 30: e37.)。
[0029] 上述した全ての検出用核酸プローブ又はプライマーは、後述する本検出用キットの 構成要素として用いることができる検出用核酸プローブとして用いることができる。
[0030] 本検出方法における HEVの検出は、目的とする塩基配列を有する遺伝子増幅産 物などの検出は、上述した手段により、目的とする核酸を定量して検出することも可 能であり、定量を伴わずに、例えば、陽性若しくは陰性という定性情報として検出する ことも可能である。この遺伝子増幅産物などの検出情報 (定量値や定性情報)を指標 に、これと検体中の HEVの存在'非存在、さらには存在量と関連付けることによって、 HEVの検出を行うことができる。
図面の簡単な説明
[0031] [図 1]HEVゲノムの多様性を調べた結果を示す図面である。
[図 2]HEVゲノムにおける変異の系統を示す図面である。
[図 3]本発明において検出領域として用いる、 HEVの遺伝子領域の各株における塩 基配列を並列比較した図面である。図 3中、第 2行目の 3つの塩基配列は、左から、 配列番号 49、 51及び 57の塩基配列である。図 3中第 3行目〜第 30行目の塩基配 列は、上力もそれぞれ、配列番号 1、 15、 13、 10、 12、 17、 16、 11、 7、 8、 6、 4、 3、 2、 5、 9、 14、 39、 40、 41、 42、 43、 44、 45、 46、 47、 48及び 58の塩基配列であり 、第 32行目及び第 33行目の塩基配列は、それぞれ、配列番号 18及び 53の塩基配 列であり、第 35行目〜第 45行目の塩基配列は、上からそれぞれ、配列番号 21、 27 、 26、 25、 24、 28、 23、 22、 19、 56及び 54の塩基配列であり、第 47行目〜第 57 行目の塩基酉己歹 Uiま、上力らそれぞれ、酉己歹 U番号 37、 31、 32、 36、 33、 34、 35、 30 、 29、 38及び 55の塩基配列である。
発明を実施するための最良の形態
[0032] ここで、配列番号 1に示す塩基配列の意義を明らかにするために、 HEVの遺伝子 解析について記載する。
[0033] HEV株の遣伝子型決定
既存のほぼ全長塩基配列が明らかになつている 37種の HEV株 (ァクセッションナン バーは下記参照)について、全塩基配列をァライメントし近隣結合法による系統榭解 析を行い、各株の遺伝子型を既存の分類に従い決定した。
[0034] <既存のほぼ全長配列が明らかになつている HEV株の遺伝子型 >
遺伝子型 I (GI)
M80581 (配列番号 2) .L25595 (配列番号 3) , L25547 (配列番号 4) , M94177 (配列番 号 5), L08816(配列番号 6), D11092 (配列番号 7) , D11093 (配列番号 8) , X98292 ( 配列番号 9), AF185822(配列番号 10), M73218(配列番号 1), D10330(配列番号 1 1) , AF459438 (配列番号 12) , AF076239 (配列番号 13) , X99441 (配列番号 14) , A F051830(配列番号 15), AY230202(配列番号 16), AY204877(配列番号 17)
遣伝早型 11 (GTT)
M74506(配列番号 18)
遣伝早型 TIT (GTTT)
AF455784 (配列番号 19) , AY115488 (配列番号 20) *, AF082843 (配列番号 21) *, AF060669 (配列番号 22) , AF060668 (配列番号 23) , AB089824 (配列番号 24) , AB 074920(配列番号 25), AB074918(配列番号 26), AB073912(配列番号 27)*, AB09 1394 (配列番号 28)
遣伝早型 TV (GTV)
AJ272108(配列番号 29), AB108537(配列番号 30), AB074917(配列番号 31), AB0 80575(配列番号 32), AB097811(配列番号 33)*, AB097812 (配列番号 34) , AB099 347(配列番号 35), AB091395(配列番号 36), AB074915(配列番号 37)
*は豚由来、それ以外はヒト由来の HEV株である。
[0035] <ォリゴヌクレオチドの作製 >
次に、可能な限り短い HEVの遺伝子の塩基配列内 (具体的には、 250nt以内程度) に、 1)5'-側 HEV共通プライマー、 2)HEV共通プローブ、又は、 3)各遺伝子型 HE V特異的プローブ、 4)各遺伝子型 HEV特異的プローブ又は 5) HEV共通プローブ 、 6) 3'側 HEV共通プライマー、を設計出来る領域を見出すために、全長ゲノムが判
明している 37株の塩基配列を用いて、 Sliding Window Analysis(Proutski, V., and E. Holmes. 1998. SWAN: sliding window analysis of nucleotide sequence variability. Bio informatics,vol.l4:467- 8)を行った (Window size:30, shift:6)(図 2)。その結果、 HEVゲ ノムの中で最もその条件に合致した場所が、図 1のグレー (M73218で 5250-5440ntに 相当)で示す領域に存在し、その範囲はおよそ 180ntであることが判明した。これに相 当する領域が明らかになつている HEV株 (ほぼ全長塩基配列が明らかになつている 3 7株、及び、部分配列が判明している下記 11株)の塩基配列を用いて、遺伝子型毎に 配列をァライメントして示した図面が図 3である。図 3において、白抜きのボックス領域 は全ての株に共通の配列を有した領域で、ここに共通プライマー及び共通プローブ となるオリゴヌクレオチドを設計した。また、グレーボックス領域は、各遺伝子型のみに 共通の配列を有した領域で、ここに各遺伝子型特異的なプローブとなるオリゴヌタレ ォチドを設計した。この各遺伝子特異的なプローブを選別する条件としては、「配列 番号 1に相応する塩基配列の核酸にぉ 、て、少なくとも連続する 14塩基のうち 11塩 基が遺伝子型毎に保存され、かつ、他の遺伝子型の相応塩基配列とは 5塩基以上 が相違する領域」であることとした。設計したオリゴヌクレオチド配列は下記に示した。
[0036] <部分塩基配列の分かって!/、る株 (11株) >
AB075971 (配列番号 38) , AF051349 (配列番号 39) , AF051350 (配列番号 40) , AF 051351 (配列番号 41) , AF051352 (配列番号 42) , AF058684 (配列番号 43) , AF065 061 (配列番号 44) , AF124406 (配列番号 45) , AF124407 (配列番号 46) , M32400 ( 配列番号 47) , U22532 (配列番号 48)
[0037] <設計したオリゴヌクレオチド >
HEV共诵センスプライマー:
(GLM73218 5257-5276 ntに相当)
HECOM-Sプライマー(5,- CGGCGGTGGTTTCTGGRGTG- 3,:配列番号 49) HEV共诵アンチセンスプライマー:
(GLM73218 5427-5399 ntに相当)
HECOM-ASプライマー(5,— GGGCGCTKGGMYTGRTCNCGCCAAGNGGA— 3,: 配列番号 50)
HEV共诵プローブ:
(GLM73218 5305-5334 ntに相当)
TP-HECOMプローブ (5, - (FAM)-CCCCYATATTCATCCAACCAACCCCTTYG C-(TAMRA)-3':配列番号 51)
HEV遣伝子型 I特異的プローブ:
(GLM73218 5332-5350 ntに相当)
TP-HEG1プローブ (5,—(FAM)— CGCCCCSRATGTCACCGCT— (TAMRA)— 3,:配 列番号 52)
HEV遣伝子型 II特異的プローブ:
(GLM73218 5329-5352 ntに相当、かつ、 GILM74506 5229-5332 ntに該当) TP-HEG2プローブ (5,— (FAM)-CTTTGCCCCAGACGTTGCCGCTGC-(TAMRA) -3':配列番号 53)
HRV遣伝 111 プローブ:
(GLM73218 5343-5365 ntに相当、かつ、 GIILAF082843 5367-5389 ntに該当) TP-HEG3プローブ (5,— (FAM)-TCGTTTCACAAYCCGGGGCTGGA-(TAMRA)- 3':配列番号 54)
HRV遣伝 IV プローブ:
(GLM73218 5330-5352 ntに相当、かつ、 GIV— AB097811 5371-5393 ntに該当) TP-HEG4プローブ (5,— (FAM)-TTCGCATCTGACATWCCARCCGC-(TAMRA)- 3':配列番号 55)
[0038] <各遺伝子型スタンダードの作製 >
次に、この領域を有する各遺伝子型のスタンダードコントロールを作製した。 GI: M 73218の 5253- 5432 ntに該当、 GII :M74506の 5223- 5402 ntに該当、 GIII :AF08284 3の 5277-5456 ntに該当、 GVI :AB097811の 5294-5473 ntに該当する配列 (180nt)を 有するプラスミド (pT7Blueベクター)を作製し、 HEVの各遺伝子型のスタンダードとし た。
[0039] [本検出方法における使用態様]
既に述べたように、配列番号 49〜55に示す塩基配列のオリゴヌクレオチド (相補鎖
を含む)において、各塩基配列と 90%以上の相同性を有する塩基配列から選ばれる 10塩基以上連続する塩基配列のオリゴヌクレオチドは、本発明の範囲内のオリゴヌク レオチドである。このことを前提に、本検出方法における配列番号 49〜55の使用態 様について説明する。
[0040] (1)遺伝子型を超えて HEVを検出する場合
この場合は、上記の態様では、各遺伝子型の HEVにおいて保存されている保存 領域の核酸を検出することが必要であり、上記の例では、配列番号 51の HEV共通 プローブ(当該塩基配列と 90%以上の相同性を有する塩基配列から選ばれる 10塩 基以上連続する塩基配列の核酸)に相応する核酸を検出することを意味する。
[0041] まず、核酸の増幅を行わずにハイブリダィズ反応により、標的核酸を検出する場合 には、プローブとして配列番号 51のオリゴヌクレオチドを、検出対象物由来の核酸試 料に対してハイブリダィズ反応を行 ヽ、当該ハイブリダィズ反応が陽性の場合には、 検出対象物において HEV陽性 (遺伝子型は未確定)とすることが可能である。なお、 上記の配列番号 51の塩基配列のオリゴヌクレオチドのプローブには、検出の態様に 応じて適切な標識を施すことも可能である。
[0042] また、検出対象物由来の核酸試料における核酸の増幅物を、核酸のハイブリダィ ズ反応を行わずに、直接的に電気泳動上に現れる遺伝子断片の分子量等を指標と して検出し、 目的とする遺伝子領域の増幅物が検出される場合には、検出対象物に おいて HEV陽性 (遺伝子型は未確定)とすることが可能である。この場合、核酸の増 幅反応に用いるプライマーとしては、配列番号 49又は 50のプライマーを用いることが 可能であるのは勿論である力 配列番号 51のプローブとして記載されている配列を プライマーとして用いることも可能である。すなわち、この態様において用い得るブラ イマ一オリゴヌクレオチドの組は、配列番号 49と 50の塩基配列のオリゴヌクレオチド の組、配列番号 49と 51の塩基配列の組、配列番号 50と 51の塩基配列の組が該当 する。なお、上記の配列番号 49〜51の塩基配列のオリゴヌクレオチドのプライマー には、検出の態様に応じて適切な標識を施すことも可能である。
[0043] さらに、検出対象物由来の核酸試料における核酸の増幅物に対して、核酸のハイ ブリダィズ反応を行って、当該ノ、イブリダィズ反応を指標として HEVを検出する場合
には、プローブとして配列番号 51のオリゴヌクレオチドを、検出対象物由来の増幅反 応を行った核酸試料に対してハイブリダィズ反応を行 、、当該ハイブリダィズ反応が 陽性の場合には、検出対象物において HEV陽性 (遺伝子型は未確定)とすることが 可能である。この場合、核酸の増幅反応に用いるプライマーとしては、配列番号 49又 は 50のプライマーを用いることが可能であるのは勿論である力 配列番号 51のオリゴ ヌクレオチドをプライマーとしても用いることが可能である。すなわち、この態様におい て用い得るプローブは配列番号 51の塩基配列のオリゴヌクレオチドであり、かつ、プ ライマー核酸の組は、配列番号 49と 50の塩基配列のオリゴヌクレオチドの組、配列 番号 49と 51の塩基配列の組、配列番号 50と 51の塩基配列の組が該当する。なお、 上記の配列番号 51のプローブ、及び、配列番号 49〜51の塩基配列のオリゴヌタレ ォチドのプライマーには、検出の態様に応じて適切な標識を施すことも可能である。
[0044] (2)遺伝子型毎に HEVを検出する場合
一方、遺伝子型毎の HEVの検出必要性も、例えば、汚染源の特定を行う場合には 極めて重要になる。この場合は、上記の HEV共通プローブに代えて、 GI〜GIVの遺 伝子型毎に特異的であり、かつ、同一の遺伝子型内においては保存性の高い塩基 配列のオリゴヌクレオチドを用いた個別プローブを用いる。上記の例においては、 H EV (GI)が配列番号 52のプローブであり、 HEV (GII)が配列番号 53のプローブであ り、 HEV(GIII)が配列番号 54のプローブであり、 HEV(GIV)が配列番号 55のプロ ーブである。
[0045] まず、核酸の増幅を行わずにハイブリダィズ反応により、標的核酸を検出する場合 には、検出目的とする HEVの遺伝子型(GI〜GIV)に応じて、配列番号 52〜55のォ リゴヌクレオチドを個別にプローブとして用い、検出対象物由来の核酸試料に対して ハイブリダィズ反応を行い、当該ハイブリダィズ反応力 いずれかの遺伝子型のプロ ーブにお ヽて陽性の場合には、検出対象物にお ヽて HEVが当該遺伝子型におい て陽性とすることが可能である。なお、上記の配列番号 52〜55の塩基配列のオリゴ ヌクレオチドのプローブには、検出の態様に応じて適切な標識を施すことも可能であ る。
[0046] また、検出対象物由来の核酸試料における核酸の増幅物を、核酸のハイブリダィ
ズ反応を行わずに、直接的に電気泳動上に現れる遺伝子断片の分子量等を指標と して検出し、 目的とする遺伝子領域の増幅物が検出される場合には、検出対象物に おいて、検出目的とする遺伝子型の HEV陽性とすることが可能である。この場合、核 酸の増幅反応に用いるプライマーとしては、配列番号 49又は 50と、配列番号 52〜5 5のプローブとして記載されているオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いることが 好適である。すなわち、この態様において用い得るプライマーオリゴヌクレオチドの組 は、配列番号 49若しくは 50と配列番号 52の塩基配列のオリゴヌクレオチドの組 (GI) 、配列番号 49若しくは 50と配列番号 53の塩基配列のオリゴヌクレオチドの組 (GII)、 配列番号 49若しくは 50と配列番号 54の塩基配列のオリゴヌクレオチドの組 (GIII)、 配列番号 49若しくは 50と配列番号 55の塩基配列のオリゴヌクレオチドの組 (GVI)が 該当する。なお、上記の配列番号 49〜50、 52〜55の塩基配列のオリゴヌクレオチド のプライマーには、検出の態様に応じて適切な標識を施すことも可能である。
さらに、検出対象物由来の核酸試料における核酸の増幅物に対して、核酸のハイ ブリダィズ反応を行って、当該ノ、イブリダィズ反応を指標として HEVを遺伝子型別に 検出する場合には、検出目的とする HEVの遺伝子型に応じ、プローブとして配列番 号 52〜55のオリゴヌクレオチドを用いて、検出対象物由来の増幅反応を行った核酸 試料に対してハイブリダィズ反応を行 ヽ、当該ハイブリダィズ反応が陽性の場合には 、検出対象物において、検出目的とする遺伝子型の HEV陽性とすることが可能であ る。この場合、核酸の増幅反応に用いるプライマーとしては、配列番号 49又は 50の プライマーを用いることが可能であるのは勿論である力 配列番号 52〜55のオリゴヌ クレオチドをプライマーとしても用いることが可能である。すなわち、この態様において 用い得るプローブは、検出遺伝子型が GIの場合、配列番号 52の塩基配列のオリゴ ヌクレオチドであり、かつ、プライマー核酸の組は、配列番号 49と 50の塩基配列のォ リゴヌクレオチドの組、配列番号 49と 52の塩基配列のオリゴヌクレオチドの組、配列 番号 50と 52の塩基配列のオリゴヌクレオチドの組が該当する。また、検出遺伝子型 が GIIの場合、配列番号 53の塩基配列のオリゴヌクレオチドがプローブであり、かつ、 プライマー核酸の組は、配列番号 49と 50の塩基配列のオリゴヌクレオチドの組、配 列番号 49と 53の塩基配列のオリゴヌクレオチドの組、配列番号 50と 53の塩基配列
のオリゴヌクレオチドの組が該当する。また、検出遺伝子型が GIIIの場合、配列番号 5 4の塩基配列のオリゴヌクレオチドがプローブであり、かつ、プライマー核酸の組は、 配列番号 49と 50の塩基配列のオリゴヌクレオチドの組、配列番号 49と 54の塩基配 列のオリゴヌクレオチドの組、配列番号 50と 54の塩基配列のオリゴヌクレオチドの組 が該当する。また、検出遺伝子型が GIVの場合、配列番号 55の塩基配列のオリゴヌ クレオチドがプローブであり、かつ、プライマー核酸の組は、配列番号 49と 50の塩基 配列のオリゴヌクレオチドの組、配列番号 49と 55の塩基配列のオリゴヌクレオチドの 組、配列番号 50と 55の塩基配列のオリゴヌクレオチドの組が該当する。
[0048] 〔本検出用キット〕
本発明は、本検出方法を行うための、検出用キット (本検出用キット)を提供する発 明でもある。
[0049] 本検出用キットには、 HEVの配列番号 1の塩基配列に相応する塩基配列の全体 又は一部を増幅するための、 1)増幅用プライマー [前記の例において、典型的には 、配列番号 49〜50の塩基配列のオリゴヌクレオチド、ただし、配列番号 51の共通プ ローブとして示されているオリゴヌクレオチド (遺伝子型を超えた検出を行う場合)や、 配列番号 52〜55の特異的プローブとして示されて 、るオリゴヌクレオチド (遺伝子型 毎の検出を行う場合)も、プライマーとして用い得ることは、前述した通りである]、又 は、 2)検出対象とする特定の HEVの核酸にハイブリダィズさせて、当該核酸を検出 するためのプローブ (遺伝子型を超えた検出をする場合は、配列番号 51の共通プロ ーブ、遺伝子型毎の検出をする場合には、配列番号 52〜55の特異的プローブ)が 、具体的な検出手法に応じて含まれる。
[0050] これにカ卩えて、例えば、検出に用いる具体的な物、例えば、核酸検出用の器具 (D NAチップ、複数のゥエルが設けられている基盤)、用いる検出手法において用いる 試薬、標識物質、酵素等と組み合わせて、さらには、反応容器、反応緩衝液等、必 要な試薬類を組み合わせて、キットを形成してもよい。しかしながら、本検出用キット は、以上のような組み合わせに限定されるものでなぐ必要に応じて種々のものと組 み合わせて提供され得るものである。
[0051] 最も典型的と考えられる、本検出用キットは、以下のような最小限の構成をとるもの
である。
[0052] 1)配列番号 49に示す塩基配列と 90%以上の相同性を有する塩基配列の核酸と、 配列番号 50に示す塩基配列と 90%以上の相同性を有する塩基配列の核酸、からな る HEV遺伝子増幅用プライマーセット。
[0053] 2)配列番号 51に示す塩基配列と 90%以上の相同性を有する塩基配列を有する プローブ核酸、及び Z又は、配列番号 52〜55に示す塩基配列と 90%以上の相同 性を有する塩基配列を有するプローブ核酸セット。
実施例
[0054] 以下、本発明の実施例を記載するが、本発明の範囲は、この実施例により制限され るべきものではない。
[0055] [HEV共通プローブを用いた検出法]
各遺伝子型のスタンダードを用いて、共通プローブを用いた検出法つ 、て検討し た。まず、配列番号 49の HEV共通センスプライマー、配列番号 50の HEV共通アン チセンスプライマーのセットおよび配列番号 51の HEV共通プローブを用いて、各遺 伝子型スタンダードに対する検出感度を求めた。具体的には、 TaqMan Universal Buf fer Kit (ABI, USA)を用い、反応液 (Buffer 25 μ 1, HECOM- Sプライマー 500nM、 HE COM- ASプライマー 500nM、 TP- HECOMプローブ 5〜20pmol、各スタンダード DNA 5〜5 X 107copy、全量 50 μ 1になるよう滅菌蒸留水で調整)を調製し、 ΑΒΙ7900(ΑΒΙ, USA)で、 PCR反応時 (PCRサイクルは、 50°C 2分間→ 95°C 10分間→ (95°C 15秒間 → 56°C 1分間) X 50サイクル)の蛍光強度を経時的に測定した。なお、スタンダード DNAは遺伝子型毎に別々に用意した。その結果、全ての遺伝子型スタンダード DN Aは 5copy/反応より検出が可能であり、また Ct値 (threshold cycle number)を参照する ことで、遺伝子型に関係なく全ての遺伝子型の HEVスタンダードが定量的に検出 可能であることが明ら力となった。
[0056] [HEV各遺伝子型特異的プローブを用いた検出法の検討]
各遺伝子型のスタンダードを用いて、各遺伝子型特異的プローブを用いた検出法 ついて検討した。まず、配列番号 49の HEV共通センスプライマー、配列番号 50の HEV共通アンチセンスプライマーのセット、および、配列番号 52〜55の HEV各遺
伝子型特異的プローブを個別に用いて、各遺伝子型スタンダードに対する検出感度 を求めた。具体的には、 TaqMan Universal Buffer Kit (ABI, USA)を用い、反応液 (Buf fer 25 μ 1, HECOM— Sプライマー 500nMゝ HECOM— ASプライマー 500nMゝ TP— HEG KTP-HEG2, TP- HEG3または TP- HEG4)プローブ 5〜20pmol、各スタンダード DNA 5〜5 X 107copy、全量 50 μ 1になるよう滅菌蒸留水で調整)を調製し、 ABI7900(ABI, U SA)で、 PCR反応時 (PCRサイクルは、 50°C 2分間→ 95°C 10分間→ (95°C 15秒間 → 56°C 1分間) X 50サイクル)の蛍光強度を経時的に測定した。なお、スタンダード DNAは遺伝子型毎に別々に用意した。その結果、遺伝子型特異的プローブに TP- HEG1を用いた場合は、遺伝子型 GIのスタンダードのみを、 TP- HEG2を用いた場合 は、遺伝子型 GIIのスタンダードのみを、 TP-HEG3を用いた場合は、遺伝子型 GIIIの スタンダードのみを、 TP-HEG4を用いた場合は、遺伝子型 GIVのスタンダードのみを 特異的に認識し (それぞれ他の遺伝子型スタンダードには交差反応しない)、それぞ れ遺伝子型特異的にスタンダード 5copy/反応より検出が可能であり、 Ct値 (threshol d cycle number)を参照することで、各遺伝子型の HEVスタンダードが定量的に検出 可能であることが明らかになった。
[0057] すなわち、プローブとして、配列番号 51の HEV共通プローブを用いた場合は、遺 伝子型に関係なく全ての HEVの高感度定量的検出が可能になる。また、プローブと して、配列番号 52の特異的プローブ TP-HEG1を用いた場合は GI HEVのみ、プロ ーブとして、配列番号 53の特異的プローブ TP-HEG2を用いた場合は Gil HEVのみ 、プローブとして、配列番号 54の特異的プローブ TP-HEG3を用いた場合は GIII HE Vのみ、プローブとして、配列番号 55の特異的プローブ TP-HEG4を用いた場合は GI V HEVのみを定量的に検出することができることが、上記の実施例により実証された 。この場合、用いたプローブが認識する遺伝子型以外には全く反応しないので、それ ぞれ遺伝子型特異的に高感度定量的検出が可能となる。なお、全ての反応で用い たプライマーセット (HECOM- S、 HECOM- AS)は共通である。
[0058] [二ホンザル HEV感染モデルより得られた糞便及び血清検体を用いた検討]
1998年にインドで E型肝炎に罹患した患者の糞便より、感染性 HEVを調製し、ニホ ンザルにそれを静脈注射した。 HEVに感染 10日後の糞便、 HEV感染前の血清およ
び HEV感染 10日以降 60日までのシリーズ血清 (最初の感染後 10〜30日間は約 5日 ごとに合計 6ポイント、残りの 31〜60日間は約 8日ごとに計 4ポイント)を採取し、本方法 を用いた HEVの検出を行った。まず、糞便検体は 10%(w/v)になるように 10mM Phos phate buffered saline (PBS)にて調製した。糞便検体、血清検体からの RNAの抽出は QIA Viral RNA Kit (QIAGEN, USA)により行った。次に各 RNA試料について逆転 写反応を行った。逆転写反応は各 RNA試料 (8 1)と、逆転写反応液 12 1 (10mM d NTP溶液 1 μ 1、 75pmolの random hexamer、 3 Ounitsの RNAsin(Promega, USA), 200 unitsの Superscript II RNAseH (―) Reverse— transcriptase (Invitrogen, USA)、 lOOmM DTT 1 μ 1および 5倍逆転写バッファー (250mM Tris- Hcl(pH8.3)、 375mM KC1、 15mM MgC12)で全量が 12 /z lとなるように、滅菌蒸留水で希釈)を混合し、 42°C 1時間以上 反応させた後、酵素失活を 99°C 5分間行うことにより、各 RNA試料に対する cDNA(R T Products)を調製した。 PCR反応は TaqMan Universal Buffer Kit (ABI, USA)を用い 、反応液 (Buffer 25 μ 1, HECOM- Sプライマー 500nMゝ HECOM- ASプライマー 500η M、 TP- HECOMプローブ 5〜20pmol、全量 45 μ 1になるよう滅菌蒸留水で調整)に 5 μ 1の RT Productsを混合し、先述した条件にて PCR反応時の蛍光強度を経時的に測定 した。その結果、糞便および感染後 10〜30日間の 6ポイントで、 HEVが検出され、 H EV感染前の血清および感染後 31日以降の血清からは検出されな力つた。この結果 は他の領域での nested- PCRの結果(Li, T. C, Y. Suzaki, Y. Ami, T. N. Dhole, T. Miyamura, and N. Takeda. 2004. Protection of cynomolgus monkeys against HEV inf ection by oral administration of recombinant hepatitis E virus-like particles. Vaccine ,vol.22:370-7)と同様で、 HEVウィルス血症期間中の血清から、あるいは糞便から、 非常に高感度かつ特異的な HEV検出が可能であることが明らかとなった。なお、各 遺伝子型特異的プローブを用いた場合、反応液 (Buffer 25 1, HECOM-Sプライマ 一 500nMゝ HECOM- ASプライマー 500nMゝ (TP- HEG1,TP- HEG2, TP- HEG3また は TP- HEG4)プローブ 5〜20pmol、 RT Products 2 μ 1全量 50 μ 1になるよう滅菌蒸留 水で調整)を調製し、先述した条件にて PCR反応時の蛍光強度を経時的に測定した 結果、各検体は全て TP-HEG1プローブを用いた時にし力反応しなかった。すなわち 、これらの HEVの遺伝子型は全て GIと判定された。
[0059] [完全長 GIおよび GIV HEVゲノム配列を有するプラスミドを用いた検討] 前述した、各遺伝子型スタンダードより長い配列を用いて、配列が長くても本検出 系で正しく HEVを検出できるのか否か、また、遺伝子型特異的に検出できるか否か の検討を行った。完全長 GIおよび GIV HEVゲノム配列を有するプラスミドを用いて 本検出方法を検討した結果、どちらも共通プローブ TP-HECOMを用いた場合は定 量的に 5copy/反応力も検出可能であった。また遺伝子型特異的検出では、 GIプラス ミドには、 HEV遺伝子型 I特異的プローブである TP- HEG1に、 GIVプラスミドには H EV遺伝子型 IV特異的プローブである TP-HEG4を用いた場合しか反応せず、この 場合もそれぞれの遺伝子型特異的、かつ、 5copy/反応より定量的に検出可能であつ た。
産業上の利用可能性
[0060] 本発明により、包括的あるいは選択的な HEV高感度検出系の確立が可能である。
本発明の HEV検出法は、輸血用血液、血液製剤、食品、環境検査等にも使用可能 であり、また、ゲノタイプ特異的検出系は感染ルートの解明、疫学研究などに用いる ことができる。