明細書 一本鎖の核酸ォリゴマーを使用したプレインキュベーションアツセィ法 技術分野
本発明は、 核酸合成酵素の活性化剤または阻害剤のアツセィ法、 詳しくは、 一 本鎖の核酸ォリゴマーを使用した核酸合成酵素の活性化剤または阻害剤のアツセ ィ法に関する。 背景技術
核酸合成酵素の活性化剤または阻害剤のアツセィは、 酵素反応が進行する適当 な条件 (例えば、 バッファー条件、 反応温度等) を定めて、 核酸合成酵素、 核酸 合成酵素の基質、 その他酵素反応に必要なもの (例えば、 金属イオン等) と被検 物質を混和し、 酵素反応を進行させ、 反応終了後、 何らかの手段により測定また は算出される酵素活性を、 被検物質非存在時の酵素活性と比較することにより達 成される。
例えば、 核酸合成酵素、 標識等された基質、 テンプレート、 プライマー、 金属 イオン、 被検物質を同時にまたは順次混合し、 核酸合成酵素反応を進行させる。 標識された基質は、 反応産物に取り込まれる (インコーポレーション) 。 反応終 了後、 反応産物に取り込まれた標識された基質の量を測定し、 それにより計算さ れる酵素活性を、被検物質非存在時の酵素活性と比較することにより達成される。 しかし、 このようなアツセィの結果、 被験物質が核酸合成酵素の活性化作用ま たは阻害作用を有しているということがわかっても、 その被験物質がその被験物 質の構造や特性に基づいて、 核酸合成酵素に対し非特異的に作用または結合し、 擬陽性を示している場合もある。 そのため、 アツセィの結果デ一夕が陽性である ことを示す場合は、 更に別のアツセィ法で真の核酸合成酵素の活性化剤または阻 害剤であることを確認する必要があるが、 別のアツセィ法が複雑な工程を必要と
し、 一次アツセィには不適当な場合もある。
近年、 ハイスループッ トスクリーニング (以下、 HTS という。 ) は、 医薬品開 発の初期段階において、 重要な位置を占めている。 HTS によって、 一度に数百〜 数万の化合物のアツセィを行うことができるが、 いかにして莫大なデータを解析 するかが大きな問題となっている。
特許文献 1にはプライマーを加えない HCVのアツセィ法の可能性についての記 載はあるが、 プレインキュベーションについては、 開示されていない。
一方、 HCV RNA依存型 RNA合成酵素に関して、 テンプレートとプライマーの 存在下でプレインキュベーシヨンすると、 酵素活性が上昇することが非特許文献 1に開示されている。 しかし、 上記文献は単に酵素の性質を開示しているに過ぎ ず、 酵素の活性化剤または阻害剤のアツセィ、 一本鎖の核酸オリゴマーを使用し たァヅセィについては、 全く開示されていない。
また、 HCV RNA依存型 RNA合成酵素に関して、 3 '末端が自らのプライマーと なり得る一本鎖の核酸ォリゴマーをテンプレートとして使用した場合、 プライマ 一の非存在下で酵素反応が進行することが非特許文献 2に開示されている。 しか し、 プレインキュベーションについては、 全く開示されていない。
特許文献 1 : 国際公開第 96/37619号
非特許文献 1 : Journal of General Virology Γ2000), 81, 759-767
非特許文献 2 : Journal of virology, 2000, 9134-9143 発明の開示
HTS の結果得られるデ一夕から、 いかに有用な情報を得るか、 即ち、 いかにノ ィズ (擬陽性) をなくすかが重要であり、 核酸合成酵素の活性化剤または阻害剤 のノイズが少ないアツセィ法の開発が求められている。
本発明者は、 プレインキュベーションアツセィ法、 即ち、 被検物質および核酸 合成酵素の基質の非存在下で、 核酸合成酵素、 3'末端部分が自らのプライマーとし て機能することができる一本鎖の核酸ォリゴマーおよび金属イオンを含む溶液を
インキュベーションし、 その後、 核酸合成酵素の活性化剤または阻害剤のアツセ ィをすることにより、 ァヅセィの結果得られるデータからノィズが減少すること を見出した <5
すなわち、 本発明は、
( 1 ) 被検物質および核酸合成酵素の基質の非存在下で、 核酸合成酵素、 3'末端 部分が自らのプライマーとして機能することができる一本鎖の核酸ォリゴマーお よび金属イオンを含む溶液をィンキュベーションする工程を含むことを特徴とす る核酸合成酵素の活性化剤または阻害剤のアツセィ法、
に関する。
さらに詳しくは以下 (2 ) 〜 ( 1 7 ) に関する。
(2 ) 以下の工程;
(a) 被検物質および核酸合成酵素の基質の非存在下で、 核酸合成酵素、 3'末端部 分が自らのプライマーとして機能することができる一本鎖の核酸ォリゴマーおよ び金属イオンを含む溶液をィンキュベーションする工程、
(b)該ィンキュベーシヨンした溶液と、被検物質および該核酸合成酵素の基質を 混合し、 該核酸合成酵素と被験物質および該核酸合成酵素の基質を接触させ、 該核酸 合成酵素の基質の反応産物への取り込みを測定する工程、
( c ) 該インキュベーションした溶液と、 該核酸合成酵素の基質を混合し、 被 検物質の非存在下で、 該核酸合成酵素と該核酸合成酵素の基質を接触させ、 該核 酸合成酵素の基質の反応産物への取り込みを測定する工程、
(d) (b) 及び (C) の工程で測定された該核酸合成酵素の基質の反応産 物への各取り込みを比較する工程.、
を含むことを特徴とする上記 ( 1 ) 記載のアツセィ法、
( 3 ) ウィルス核酸合成酵素の阻害剤のアツセィ法である上記( 1 ) または (2 ) 記載のアツセィ法、
(4) 該ウィルス核酸合成酵素が、 ウィルス RNA依存型 RNA合成酵素である上 記 ( 3 ) 記載のアツセィ法、
( 5 ) 該ウィルス RNA依存型 RNA合成酵素が、 HCVRNA依存型 RNA合成酵素 である上記 ( 3 ) 記載のァヅセィ法、
( 6 ) 該一本鎖の核酸オリゴマーが、 3'末端部分に自己相補的核酸配列を有する ものである上記 (4) または ( 5 ) 記載のァヅセィ法、
( 7 ) 該一本鎖の核酸オリゴマーが、 poly (A)の 3'末端部分に自己相補的核酸配 列を有するものである上記 ( 6 ) 記載のアツセィ法、
( 8 ) 該基質が、 ¾-UTPまたは 32P-UTPである上記 ( 7 ) 記載のアツセィ法、
( 9 ) 該金属イオンが Mg2+または Mn2+である上記 ( 1 ) 〜 ( 8 ) のいずれかに 記載のアツセィ法、
( 1 0) 該インキュベーションを 0. 5時間以上行うことを特徴とする上記 ( 1 ) ~ ( 9) のいずれかに記載のァヅセィ法、
( 1 1 ) 該ィンキュベーシヨンを 2 0 °C~ 4 0 °Cで行うことを特徴とする上記 ( 1 ) ~ ( 1 0 ) のいずれかに記載のアツセィ法、
( 1 2 ) 上記 ( 3 ) 記載のアツセィ法により得られる物質とウィルス核酸合成酵 素を接触させることによる、 ウィルス核酸合成酵素の阻害方法、
( 1 3 ) 上記 ( 3 ) 記載のアツセィ法により得られる物質とウィルスを接触させ ることによる、 ウィルスの複製の阻害方法、
( 1 4) 該ウィルスがフラビウィルス科に属するウィルスである上記 ( 1 2 ) ま たは ( 1 3 ) 記載の方法、
( 1 5 ) 該ウィルスが HCVである上記 ( 1 2 ) または ( 1 3 ) 記載の方法、
( 1 6 ) 上記 ( 1 ) ~ ( 1 1 ) のいずれかに記載のアツセィ法により得られる核 酸合成酵素の活性化剤または阻害剤、
( 1 7 ) 上記 ( 1 ) ~ ( 1 1 ) のいずれかに記載のアツセィ法により得られる核 酸合成酵素の活性化剤または阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物、 に関する。
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明は、 核酸合成酵素の活性化剤または阻害剤のアツセィに関する技術であ
る。 本明細書中、 核酸合成酵素の活性化剤または阻害剤のアツセィは、 核酸合成 酵素の活性化剤または阻害剤であることが知られていない被検物質を評価するァ ッセィ、 すなわち第 1次アツセィ、 及び、 既に核酸合成酵素の活性化剤または阻 害剤であることが知られている被検物質を評価するアツセィ、 すなわち再評価ァ ヅセィを包含する。 本発明のアツセィは、 これらのすべてのアツセィに使用する ことができる。 例えば、 核酸合成酵素を活性化または阻害する物質の同定に使用 することができる。 特に、 核酸合成酵素を阻害する物質の同定に使用することが でき、 例えば、 ウィルスの核酸合成酵素を阻害する物質の同定、 RNA依存型 RNA 合成酵素を阻害する物質の同定、 HCV RNA依存型 RNA合成酵素を阻害する物質 の同定等に使用することができる。
本発明は、 核酸合成酵素の活性化剤または阻害剤の。アツセィにおいて、 酵素反 応を開始させる前にインキュベーションすることを特徴とする。 すなわち、 被検 物質および核酸合成酵素の基質の非存在下で、核酸合成酵素、 3'末端部分が自らの プライマーとして機能することができる一本鎖の核酸ォリゴマーおよび金属ィォ ンを含む溶液をインキュベーションすることを特徴とする。 本明細書中、 該イン キュベ一シヨンをプレインキュベーションとも表現する。 詳しくは、 被検物質お よび核酸合成酵素の基質の非存在下で、 プレインキュベーションの効果が現れる 温度で、 プレインキュベーションの効果の現れる時間、 核酸合成酵素、 3'末端が自 らのプライマ一となり得る一本鎖の核酸ォリゴマーおよび金属イオンを含む溶液 をインキュベーションすることを意味する。
該インキュベーションの温度、 すなわちプレイ ンキュベーションの効果が現れ る温度としては、 具体的には、 約 1 5 °C〜約 5 0 °C、 特には、 2 0 °C〜 4 0 °C、 さらには、 2 0〜 3 0 °Cでインキュベーションするのが好ましい。
該インキュベーションの時間、 すなわちプレインキュベーションの効果の現れ る時間としては、 約 1 5分以上、 特には、 0 . 5時間以上、 さらには 1時間以上 が好ましく、 約 1 5分〜 1 2時間、 0 . 5〜 3時間、 特に 1 ~ 2時間インキュべ ーシヨンするのが好ましい。
被検物質および核酸合成酵素の基質の非存在下で、核酸合成酵素、 3 '末端部分が 自らのプライマーとして機能することができる一本鎖の核酸ォリゴマーおよび金 属イオンを含む溶液をィンキュベーシヨンすることによって、 酵素反応が進行し やすい.状態が形成されると考えられる。
「被検物質および核酸合成酵素の基質の非存在下」 とは、 被検物質および核酸 合成酵素の基質を含まない条件でィンキュベ一ションすることを意味する。 例え ば、 核酸合成酵素の基質以外の酵素反応に必須なもの (例えば、 金属イオン等) を酵素と共にインキュベーショ ンすればいい。
「核酸合成酵素、 3 '末端部分が自らのプライマーとして機能することができる一 本鎖の核酸オリゴマーおよび金属イオンを含む溶液」 とは、 核酸合成酵素、 3 '末端 部分が自らのプライマーとして機能することができる一本鎖の核酸ォリゴマーお よび金属イオンを少なく とも含み、 それら以外に被検物質および核酸合成酵素の 基質以外のものを含んでいてもよい溶液等が挙げられる。 例えば、 高分子化合物、 低分子化合物、 金属イオン、 ハロゲンイオン、 アミノ酸、 ポリペプチド、 核酸、 ポリヌクレオチド等を含んでいてもよい。
本発明のアツセィは、 核酸合成酵素の活性化剤または阻害剤のアツセィであり、 3 '末端部分が自らのプライマーとして機能することができる一本鎖の核酸ォリゴ マーを使用する核酸伸長合成反応に関するアツセィである。
「3 '末端部分が自らのプライマーとして機能することができる一本鎖の核酸ォ リゴマー」 とは、 3 '末端部分が自らのプライマーとして機能することができる一本 鎖のテンプレート DNA または RNA を意味する。 すなわち、 3'末端部分が、 自己 の相補的な部分とハイブリダィズし、 ループ構造を形成することができる一本鎖 の核酸オリゴマーを意味する。 'なお、 酵素反応に際し 3 '末端部分が自らのプライ マーとして機能する一本鎖の核酸ォリゴマーであれば、 溶液中ではループを形成 せず一本鎖として存在していても、 ループを形成していてもよい。 好ましくは、 溶液中ではループを形成せず一本鎖として存在している一本鎖の核酸ォリゴマー である。 例えば、 ハイブリダィズする部分の相補的な結合が、 G と Cの水素結合
や dGと dCの水素結合によるものよりも、 Aと Uの水素結合、 dAと dTの氷素結 合によるものが好ましい。 例えば、 3 '末端部分に AUの繰り返し配列を有するもの などが好ましい。
一本鎖の核酸オリゴマーとしては、 例えば、 以下のものを挙げることができる。 3 '末端部分に自己相補的核酸配列を有する一本鎖の核酸オリゴマー、
poly(dA)、 poly(dT)、 poly(dG)ヽ poly(dC)ヽ poly(A)、 poly(U)、 poly(G)ヽ poly(C)の 3 '末端部分に自己相補的核酸配列を有する一本鎖の核酸ォリゴマー、
poly(dA)、 poly(dT)、 poly(dG), poly(dC)などのホモポリマー(例えば、 合成され た核酸ポリマー) の 3'末端部分に、 それそれ oligo(dT)、 oligo(dA)、 oligo(dC), oligo(dG)などが付加された一本鎖の DNAォリゴマー (例えば、 DNA依存型 DNA 合成酵素の場合) 、
poly(A)、 poly(U)、 poly(G), poly(C)などのホモポリマーの 3'末端部分に、 それぞ れ oligo(U)、 oligo(A)、 oligo(C)、 oligo(G)などが付加された一本鎖の RNAォリゴマ 一 (例えば、 RNA依存型 RNA合成酵素の場合) 、
poly(dA)、 poly(dT)、 poly(dG)、 poly(dC)などのホモポリマー(例えば、 合成され た核酸ポリマー) の 3 '末端部分に、 それぞれ oligo(U)、 oligo(A)、 oligo(C), oligo(G) などが付加された一本鎖の核酸オリゴマー (例えば、 DNA依存型 RNA合成酵素 の場合) 、
poly(A)、 poly(U)、 poly(G)、 pol C)などのホモポリマーの 3'末端部分に、 それぞ れ oligo(dT)、 oligo(dA), oligo(dC)、 oligo(dG)などが付加された一本鎖の核酸オリ ゴマー (例えば、 RNA依存型 DNA合成酵素の場合) 、
poly(dA), poly(dT)、 poly(dG), poly(dC)などのホモポリマーの 3 '末端部分に、 dAdT または dCdGの繰り返し配列が付加された一本鎖の DNAォリゴマー(例えば、 DNA 依存型 DNA合成酵素の場合) 、
P。ly(A)、 poly(U)、 poly(G)、 poly(C)などのホモポリマーの 3'末端部分に、 AUま たは CGの繰り返し配列が付加された一本鎖の RNAオリゴマー (例えば、 RNA依 存型 RNA合成酵素の場合) 、
poly(dA), poly(dT)s poly(dG), poly(dC)などのホモポリマーの 3'末端部分に、 AUまたは CGの繰り返し配列が付加された一本鎖の核酸オリゴマー(例えば、 DNA 依存型 RNA合成酵素の場合) 、
poly(A)、 poly(U)、 poly(G)、 poly(C)などのホモポリマーの 3 '末端部分に、 dAdT または dCdGの繰り返し配列が付加された一本鎖の核酸ォリゴマー(例えば、 RNA 依存型 DNA合成酵素の場合) 、
各種の塩基が混在したヘテロポリマー (例えば、 天然に存在する核酸ポリマー、 合成された核酸ポリマー等) の 3'末端部分に自己相補的核酸配列を有する一本鎖 の核酸ォリゴマー、
各種の塩基が混在したヘテロポリマー (例えば、 天然に存在する核酸ポリマー、 合成された核酸ポリマー等) の 3'末端部分に、 dAdT、 dCdG、 AUまたは CGの繰 り返し配列が付加された一本鎖の核酸ォリゴマー。
ここで、 自己相補的核酸配列とは、 3'末端部分がループ構造 (例えば、 ヘアピン ループ) を形成し、 自己の相補的な部分とハイブリダィズすることができる配列 を意味する。
なお、 ホモポリマーの 5'末端部分は、 他の核酸が付加されていてもよい。 例 えば、 ウィルス RNA依存型 RNA合成酵素を使用する場合、 一本鎖の核酸オリゴ マーとしては、 3 '末端部分に AUの繰り返し配列を有するものなどが好ましい。 特 に、 poly (A)の 3 '末端部分に AUの繰り返し配列を有するものが好ましい。
一本鎖の核酸オリゴマーの長さは、 特に制限がなく、核酸合成酵素の種類によって 適宜選択すればよい。例えば、 約 8塩基〜約 1 0 0 0塩基、 約 5 0塩基〜約 8 0 0塩 基、約 1 0 0塩基〜約 5 0 0塩基の長さの一本鎖の核酸オリゴマーを使用することが できる。
一本鎖の核酸ォリゴマーにおいて、 自己の相補的な部分とハイプリダイズする 塩基対の数は、 2以上、 好ましくは 2〜 1 0、 さらに好ましくは 2〜 5である。 金属イオンとしては、 例えば、 M g 2 +、 M n 2 +、 N a +、 K +等が挙げられる。 核酸合成酵素においては、 一般的には、 M g 2 +が必須のものが多い。
被検物質とは、 アツセィに使用される物質を意味し、 低分子化合物のみならず、 ポリペプチドのようなタンパク質も含まれる。
酵素反応は、 プレインキュベーション後、 核酸合成酵素を含む溶液に、 核酸合 成酵素の基質を加えることによって開始される。
従来法(The EMBO Journal vol.15, no.l, ppl2-22, 1996)では、酵素反応を約 2 2 °C で行なう必要があり、 それ以上の温度で行なうと核酸合成酵素が失活し、 それ以 下の温度で行なうと核酸合成酵素の働きが鈍くなる。
プレインキュベーションアツセィ法は、 従来法と異なり、 核酸合成酵素反応を 約 1 0 °C〜約 4 0 °Cで行うことができる。 特に、 約 2 0 °C〜約 4 0 °Cで行なうこ とができる。 そのため、 ヒ トに存在する核酸合成酵素やヒ トに感染するウィルス の核酸合成酵素等を使用したァヅセィにおいては、 ヒ トの体温 (特に 3 7 °C ) と 同一の温度で行うことができ、 非常に有用である。 また、 このような温度で行な うことにより、 酵素活性が上昇し、 その結果としてアツセィの検出感度が上昇す る。
核酸合成酵素の酵素反応に対する被検物質の効果は、 核酸合成酵素の基質の反 応産物への取り込みを測定し、 比較すればよい。 すなわち、 1 ) 被検物質および 核酸合成酵素の基質の非存在下で、 核酸合成酵素、 3'末端部分が自らのプライマー として機能することができる一本鎖の核酸ォリゴマーおよび金属イオンを含む溶 液をインキュベーションし、 2 ) インキュベーションした溶液と、 被検物質およ び核酸合成酵素の基質を混合し、 核酸合成酵素と被検物質および核酸合成酵素の 基質を接触させ、 核酸合成酵素の基質の反応産物への取り込みを測定し、 3 ) ィ ンキュベーシヨンした溶液と、 核酸合成酵素の基質を混合し、 被検物資の非存在 下で、 核酸合成酵素と核酸合成酵素の基質を接触させ、 核酸合成酵素の基質の反 応産物への取り込みを測定し、 4 ) 2 ) および 3 ) の工程で得られた核酸合成酵 素の基質の反応産物への各取り込みを比較することによって確認することができ る。 なお、 インキュベーションした溶液に (被検物質および) 核酸合成酵素の基 質を加えても、 (被検物質および) 核酸合成酵素の基質に、 インキュベーション
した溶液を加えてもよい。 すなわち、 核酸合成酵素の基質と核酸合成酵素が接触 すればよい。
また、 「核酸合成酵素の基質を混合し、 被検物質の非存在下で」 とは、 被検物 質を混合しないことを意味し、 被検物質を含まない限り、 核酸合成酵素の基質以 外のものを含んでいてもよい。 例えば、 核酸合成酵素の基質を溶解又は懸濁させ るための反応液を含んでいてもよい。 すなわち、 被検物質存在下のデータの比較 対象とするデータを作成するためのものであればよい。 プレインキュベーション していない核酸合成酵素を含む溶液と、 核酸合成酵素の基質を混合し、 被検物質 の非存在下で、 核酸合成酵素と核酸合成酵素の基質を接触させた場合の核酸合成 酵素の基質の反応産物への取り込みを比較対象として使用することもできる。 な お、 プレインキュベーションした溶液と、 核酸合成酵素の基質を混合し、 被検物 質の非存在下で、 核酸合成酵素と核酸合成酵素の基質を接触させた場合の核酸合 成酵素の基質の反応産物への取り込みを比較対象とするのが好ましい。 これらの 比較対象として使用するデータは、 被検物質を使用するアツセィと同時に行って もよく、 別途、 行ってもよい。
核酸合成酵素の基質の反応産物への取り込みは、 標識された核酸合成酵素の基 質を使用することにより測定することができる。 例えば、 反応産物に取り込まれ た標識された核酸合成酵素の基質の量を測定すればよい。 標識された核酸合成酵 素の基質としては、 放射標識された核酸合成酵素の基質等を使用すればよく、 そ の場合、 シンチレーシヨンカウンタ一等で放射活性を測定すればいい。 なお、 標 識された核酸合成酵素の基質等は、 市販のフィル夕一等 (例えば、 ジェチルアミ ノエチル基を導入したフィル夕一等) を使用して、 反応液から分離すればよい。 また、 SPA (, Scintillation proximity assay) おにも適 j¾、でさる。
低分子化合物とは、 分子量 1 5〜 1 0 0 0の有機化合物を意味し、 構成原子と しては、 水素、 リチウム、 ホウ素、 炭素、 窒素、 酸素、 フッ素、 ナト リウム、 マ グネシゥム、 マンガン、 アルミニウム、 硫黄、 塩素、 カリウム、 カルシウム、 鉄、 バリウム、 臭素、 沃素等が挙げられる。
ポリペプチドには、 天然型ペプチドのみならず、 構造修飾したペプチド (例え ば、 ペプチドァイソスターなど) も含まれる。
核酸合成酵素の酵素の基質としては、 dATP、 dTTP、 dGTP、 dCTP、 ATP, UTP、 GTP, CTP 等が挙げられる。 特に標識されたものが好ましく、 標識された核酸合 成酵素の基質としては、 例えば、 3H- dATP、 3H-dTTP、 3H-dGTP、 3H- dCTP、 3H-ATP、 3H-UTP、 3H-GTP、 3H- CTP、 32P-dATPヽ 32P- dTTPヽ 32P-dGTPヽ 32P- dCTP、 32P- ATP、 32P- UTP、 32P-GTP、 32P- CTP等が挙げられる。 これらの基質は、 アツセィに使用す る一本鎖の核酸ォリゴマーに応じて選択すればよい。
例えば、 一本鎖の核酸オリゴマーとして 3'末端部分が修飾された poly(dA)、 poly(dT)、 poly(dG)、 poly(dC), poly(A)ヽ poly(U)ヽ poly(G)、 poly(C)を使用する場合 は、 それそれ dTTP、 dATP、 dCTP、 dGTP、 UTP、 ATP、 CTP、 GTP を基質として 使用すればよい。
また、 一本鎖の核酸オリゴマーとして、 各種の塩基が混在したヘテロポリマー (例えば、 天然に存在する核酸ポリマー、 合成された核酸ポリマー等) の 3'末端 部分に自己相補的核酸配列を有する一本鎖の核酸ォリゴマーを使用する場合、 dTTP、 dATP、 dCTP及び dGTPを混合したもの、 または UTP、 ATP, CTP及び GTP を混合したものを基質として使用すればよい。 この場合、 すべての基質が標識さ れてもよいし、 いずれかが標識されていてもよい。
例えば、 一本鎖の核酸オリゴマーとして、 poly (A)の 3'末端部分に AUの繰り返 し配列を有するものを使用する場合、該基質として ¾-UTPまたは 32P-UTPを使用 することができる。 '
「核酸合成酵素」 とは、 ポリヌクレオチド鎖合成酵素を意味し、 例えば、 DNA 合成酵素 (例えば、 DNA依存型 DNA合成酵素、 RNA依存型 DNA合成酵素) 、 RNA合成酵素 (例えば、 DNA依存型 RNA合成酵素、 RNA依存型 RNA合成酵素 等) が挙げられる。 なお、 本発明には、 全長の核酸合成酵素のみならず、 酵素活 性を有する核酸合成酵素の欠失体、 置換体、 付加体も使用することができる。 例 えば、 リコンビナントの核酸合成酵素を使用することもできる。 また、 反応液中
で酵素となるような酵素の前駆体を使用してもよい。
核酸合成酵素としては、 ウィルス RNA依存型 RNA合成酵素が好ましく、 さら には HCV RNA依存型 RNA合成酵素が好ましい。
• ウィルスは特に限定されないが、 例えば、 HIV (ヒ ト免疫不全ウィルス) 、 HCV ( C型肝炎ウィルス) 、 HBV ( B型肝炎ウィルス) 、 HTLV (ヒ ト T細胞白血病ゥ ィルス) 、 ィンフルェンザウィルス等が挙げられる。 特に、 フラビウィルス属に 属するウィルスが好ましく、 さらには HCVが好ましい。
ウィルスの酵素としては、 例えば、 HIVの逆転写酵素 (RNA依存型 DNA合成 酵素。 RNaseH活性を有するものを含む。 ) 、 HCVの RNA依存型 RNA合成酵素、 HBVの DNA合成酵素 (DNA依存型 DNA合成酵素活性、 RNA依存型 DNA合成酵 素活性、 およびノまたは RNaseH活性を有するもの) 、 HTLVの逆転写酵素、 イン フルェンザウィルスの RNA依存型 RNA合成酵素などが挙げられる。
本発明はいかなる核酸合成酵素においても使用することができる。 核酸合成酵 素の中では、 RNA依存型 RNA合成酵素 (例えば、 ウィルス RNA依存型 RNA合 成酵素) が好ましく、 特に、 フラビウィルス科に属するウィルスの RNA 依存型 RNA合成酵素が好ましい。 さらには、 HCV RNA依存型 RNA合成酵素が好ましい。
R N A依存型 R N A合成酵素を有するウィルスとしては、 ピコルナウィルス科 ( Picornaviridae ) 、 力 リ シウィルス科 ( Caliciviridae ) 、 トーガウィルス科 ( Togaviridae)、フラビウィルス科(Flaviviridae)ヽコロナウィルス科( Coronaviridae)、 パ ラ ミ ク ソ ウ ィ ルス科 ( Paramyxoviridae ) 、 オル ソ ミ ク ソ ウ ィ ルス科 ( Orthomyxoviridae) 、 ラブドウィルス科 ( R abdoviridae ) 、 ァレナウィルス科 (Arenaviridae) 、 ブニァウィルス科(Bunyaviridae) 等のウィルス科のウィルスが 挙げられる。 特に、 フラビウィルス科 ( Flaviviridae) のウィルスが好ましく、 さ らには、 H C Vが好ましい。
フラビウィルス科に属するウィルスとしては、 C型肝炎ウィルス (Hepatitis C virus) 、 黄熱ウイ レス fellow fever virus) 、 テングゥイ レス 、JJengue virus) 、 曰本 fl 炎ウイルス (Japanese encepnalitis virus ) 、 West Nile熱ウィルス ( West Nile
fever virus) 、 セン トノレイス月 Si炎ウイ レス ( St. Louis encephalitis virus) 、 Rocio ゥ イノレス ( Rocio virus)、 Murray Valley fl 炎ウイノレス ( Murray Valley encephalitis virus) 等が挙げられる。 これらのウィルスは、 RNA依存型 RNA合成酵素を有している。 また、 これらのウィルスはヒトを含む哺乳動物の疾患とも関連しており、 これら のウィルスの RNA依存型 RNA合成酵素の阻害剤を見出すことは有用である。
- また、 核酸合成酵素には、 単一の酵素活性を有する核酸合成酵素のみならず、 複数の酵素活性を有する核酸合成酵素も含まれる。 例えば、 複数の酵素活性を有 する核酸合成酵素としては、 HBVの DNA合成酵素(DNA依存型 DNA合成酵素活 性、 RNA依存型 DNA合成酵素活性、 および/または RNaseH活性を有するもの) などが挙げられる。
また、 HIVの逆転写酵素(RNA依存型 DNA合成酵素阻害活性および RNaseH活 性を有する) などは、 それそれの酵素活性を有する部分のみを本発明のアツセィ に使用してもよいし、 両方の酵素活性を有する部分を本発明のアツセィに使用し てもよい。
HCVの遺伝子型 (Genotype) は多数存在するが、 本発明においては、 それらの いずれの遺伝子型を有する HCVの酵素についても使用することができる。 遺伝子 型と しては、 genotype la, genotvpe I D, genotvpe lc, genotype 2a, genotype 2b, genotype 2c, genotype 3a, genotype 3b, genotype 4, genotype 5, genotype 6等が挙げら れる。
HCVの RNA依存型 RNA合成酵素は、 HCVの NS5B ( Nonstructural Protein 5B) 領 域にコードされており、 本発明においては、 RNA依存型 RNA合成酵素活性を持つ ている酵素であれば、 いかなるものも使用することができる。 例えば、 上記の遺 子型 (例えは、 genotype la, genotvt>e lb, genotype lc, genotype 2a, genotype 2D, genotype 2c, genotype 3a, genotype 3b, genotype 4, genotype 5, genotype 6) を有する HCVの NS5B領域にコードされている RNA依存型 RNA合成酵素活性を持っている 核酸合成酵素等を使用することができる。
活性化剤とは、 酵素反応を活性化させる物質を意味する。 核酸合成酵素の活性
化剤は、 核酸合成酵素の発現量や機能の低下に起因する疾患の治療に使用するこ とができ、 有用である。 また、 核酸合成酵素を使用して核酸伸長を行う場合に、 酵素反応を効率よく行うための試薬として使用することができる。
また、 阻害剤とは酵素反応を阻害する物質を意味する。 特に、 ウィルス核酸合 成酵素の阻害剤は、 ウィルスに起因する疾患の治療に使用することができ、 有用 である。 阻害剤としては、 例えば、 I C 5 Q値が 1 0 0 M以下、 特に、 1 0 M 以下、 さらには、 1 / M以下の物質が好ましい。
本発明は、 プレインキュベーションアツセィ法に関するものであるが、 特に、 莫大な数の化合物のアツセィ、 特にハイスループヅ トスク リーニング (HTS) に おいて有用である。 本発明を実施すれば、 ノイズ (擬陽性) を減少させることが でき、 効果的にリード化合物を選択することができる。
すなわち、 本発明のアツセィ法により得られる物質と核酸合成酵素を接触させ ることにより、 核酸合成酵素を活性化または阻害することができる。 また、 核酸 合成酵素がウィルスの核酸合成酵素である場合は、 本発明のアツセィ法により得 られる物質とウィルスを接触させることにより、 ウィルスの複製を活性化または 阻害することができる。 図面の簡単な説明
図 1 : 3 ◦分間酵素反応を行った場合の、 プレインキュベーション時間と HCV RNA依存型 RNA合成酵素の酵素活性との関係を示す図である。 図中、 *はテンプ レートとして 3 '末端でヘアピンループを形成するオリゴ RNA、を使用した場合を 表す。
図 2 : プレインキュベーションの有無と酵素反応温度の関係を示す図である。 図 中、 ▲はプレインキュベーション後 3 7 °Cで酵素反応を行った場合、 ·はプレイン キュベーシヨン後 2 5 °Cで酵素反応を行った場合、 Δはプレインキュベーションを 行わず 3 7 °Cで酵素反応を行った場合、 oはプレインキュベーションを行わず 2 5 °Cで酵素反応を行った場合の HCV RNA依存型 RNA合成酵素反応における U M
Pの反応産物への取り込みと酵素反応時間の関係を示している。
図 3 :従来法 (テンプレート及びプライマー使用) でランダムスクリーニングを 行った結果を示す図である。
図 4 : プレインキュベーション法 (テンプレート及びプライマー使用) でランダ ムスクリーニングを行った結果を示す図である。 発明を実施するための最良の形態
本発明である 「一本鎖の核酸ォリゴマーを使用したプレインキュベーションァ ッセィ法」 について、 従来法との比較をしながら、 以下に説明する。 なお、 核酸 合成酵素としては、 HCV RNA依存型 RNA合成酵素を使用して説明するが、 特に 本酵素に限定する意味ではない。 本発明は、 核.酸合成酵素であれば、 種類を問わ ず実施することができる。 特に好ましいのは、 RNA合成酵素、 さらには RNA依 存型 RNA合成酵素、 さらには HCV RNA依存型 RNA合成酵素である。
従来法
HCV RNA依存型 RNA合成酵素、 テンプレートとしてのオリゴ RNA (オリゴ RNA は、 3 '末端部分に自己相補的核酸配列を有する一本鎖の核酸オリゴマーを意 味する) 、 基質としての RNA三リン酸、 M gイオン (Mg2+)、 M nイオン (Mn2+)、 被検物質を一斉混和し、 酵素反応を開始させ、 基質の反応産物への取り込みを測 定する。 被検物質非存在下での値と比較することにより、 被検物質が HCV RNA 依存型 RNA合成酵素を活性化しているか、 阻害しているかを知ることができる。 プレインキュベーションアツセィ法
HCV RNA依存型 RNA合成酵素、 テンプレートとしてのオリゴ RNA (オリゴ RNA は、 3'末端部分に自 3相補的核酸配列を有する一本鎖の核酸オリゴマーを意 味する) 、 M gイオン (Mg2+) 、 M nイオン (Mn2+) を約 2 5 °Cで約 1時間から 2 時間プレインキュベーションした後、 基質としての RNA三リン酸、 被検物質を添 加し、 酵素反応を開始させ、 基質の反応産物への取り込みを測定する方法である。 なお、 上記従来法と同様に、 被検物質非存在下での値と比較し、 阻害百分率を算
出し、 阻害剤を選定することができる。 具体的な手順は、 後述の実施例 1 を参考 にすればよい。
本発明の 「一本鎖の核酸ォリゴマーを使用したプレインキュベーションァヅセ ィ法」 は、 従来法に比較して、 以下の点で優れている。
①酵素活性の上昇
プレインキュベーション時間と酵素活性の比較をおこなった。具体的な手順は、 試験例 1に記載されている。なお、酵素活性は、 ゥリジンモノホスフェート (UMP ) の反応産物への取込みを測定することにより決定した。 結果を図 1に示す。 プレ インキュベーション時間が約 9 0分までは、 徐々に酵素活性が上昇し、 従来法と の酵素活性の差が徐々に大きくなつていくのがわかる。 また、 約 9 0分のプレイ ンキュベーシヨンにより、 従来法にく らべて、 約 8倍の酵素活性を示すことがわ かる。 このことにより、 測定結果の検出が容易になり、 阻害率の誤差も減少し、 阻害剤のスク リーニングにおいて有用であると言える。 なお、 さらにプレインキ ュベーシヨン時間を長く した場合、 約 9 0分プレインキュベーションした場合と ほぼ同等の酵素活性を示すことがわかる。
②熱安定性の上昇
プレインキュベーションの有無と酵素反応温度の関係を調べ、 結果を図 2に示 した。 図 2に示すように、 従来法では、 酵素反応を約 3 7 °Cでおこなうと、 反応 時間が 2 時間以上になると酵素が失活し、 正確な酵素活性値を測定することがで きない。 それに対し、 プレインキュベーション法では、 約 3 7 °Cでも酵素反応が 良好に進行し、 より生体内温度に近い条件でァヅセィをおこなうことができる。 また、 酵素反応を約 2 5 °Cでおこなうより も、 約 3 7 °Cでおこなう方が、 さらに 酵素活性が高くなることがわかる。 従って、 プレインキュベーションアツセィ法 においては、 約 3 7 °Cという生体温度に近い温度でアツセィすることも可能であ る o
③擬陽性 (ノイズ) の減少
プレインキュベーションァヅセィ法によって、 ァヅセィ結果のノイズを軽減さ
せることができる。 以下に、 表 1、 表 2を使用して説明する。
表 1、 表 2では、 競合的阻害剤として、 3'-デォキシゥリジント リホスフェート ( 3'-dUTP) を使用している。 3 '- dUTP は、 核酸合成反応において基質と競合して 反応産物へ取り込まれ、 RNA鎖の伸長を止めることにより、 HCV RNA依存型 RNA 合成酵素の酵素反応を阻害することができる化合物である。 化合物 A、 Bは、 従 来法でポジティブと判定された化合物である。 すなわち、 これらの化合物は、 プ レインキュベ一ションしない従来法では、 20〃Zm 1の濃度で、 HCV RNA依存型 RNA合成酵素を約 6 0 %〜 8 0 %阻害する。 しかしながら、 プレインキュベーシ ヨンアツセィ法によると、 それらの阻害率は約 2 0 %〜3 0 %に低下する。 一方 で、 化合物 C ( 0.032 g/ml)、 3 '-dUTP (0.08 / M) は、 プレインキュベーショ ン アツセィ法における阻害効果の低下は認められない。 以下に、 化合物 A、 化合物 B、 化合物 Cの構造を示す。
化合物 C
実施例
HCV RNA依存型 RNA合成酵素の調製法
HCV感染者血漿から HCV RNA依存型 RNA合成酵素の c DNAクローンを作製 し、 これを基に HCV RNA依存型 RNA合成酵素を昆虫細胞または大腸菌を使用し て発現させた。 細胞抽出液中の HCV RNA依存型 RNA合成酵素は、 ァニオン交換 クロマトグラフィ一、 へパリ ンァフィニティークロマ トグラフィー、 poly Uァフ ィニティ一クロマトグラフィー、 カチオン交換クロマ トグラフィー、 ゲル濾過ク
口マトグラフィ一などを使用して精製した。精製は約 4°Cの低温条件で実施し、 酵 素溶解液としてはエチレンジァミン四酢酸 ( I mM) 、 ジチオスレィ トール ( 1 0 mM) 、 グリセロール (2 0 %) を含むト リス緩衝液 (PH7. 5) を使用した。 精製酵素は、 アツセィに使用するまで 4°Cまたは— 20°Cにて保存した。
実施例 1
HCVRNA依存型 RNA合成酵素 プレインキュベーションァヅセィ法
① トリス塩酸 (100mM、 pH 7.5) 及び塩化マグネシウム (25mM) 、 塩化マン ガン (2.5mM) 、 ジチオスレィ トール (5mM) 、 塩化カリウム (l25mM) を含 有する緩衝液 I注 1〕 (10.5 1 ) をポリプロピレン製容器に入れ、 ここへオリゴ RNA注 2 )氷溶液 (100〃 g/m l、 10.5〃 1 ) と水 (18.5〃 1 ) を添加し、 緩やかに 混和した。
② 次に、 HCV RNA依存型 RNA合成酵素液 (10.5〃 1 ) を追加し、 2 5 °Cで 6 0分間のプレインキュベーションを行った。
③ ジメチルスルホキシドまたは水で溶解した被験物質 ( 1穴当り 5.26〃 1 ) を 分注しておいた 9 6穴マイクロタイ夕一プレートに、 ②のプレインキュベーショ ン済みの溶液 (50 1 ) を加えた。
④ 更に、 ト リス塩酸 (100mM、 pH 7.5) 及び塩化マグネシウム (25mM) 、 塩 化マンガン (2.5mM) 、 ジチォスレイ トール (5mM) 、 塩化カリゥム (l25mM)、 UTP a 3) (ΐΛίΜ, 含 4.9〃Ci3H-UTP)を含有する緩衝液 II (10.6 1 ) と水 (39·4 Ζ 1 ) の混合液 (50〃 1) を添加混和し、 2 5 °Cで 6 0分間 酵素反応を行った。
⑤ 酵素反応が 6 0分経過した時、 エチレンジァミン四酢酸ニナトリウム水溶液 (50mM、 50 Λί 1 ) を添加混合し、 酵素反応を停止した。
⑥ 次にセルハーべスターを使用して、 ジェチルアミノエチル基を導入したフィ ルター (以下、 DEAE-フィルターマッ トと略す) 上に⑤のサンプル全量を移した 後、 リン酸ナト リウム緩衝液 (0.25Μ、 ρΗ7.0) で 1 0秒間のすすぎ洗いを 2回と 脱イオン水で 1 0秒間のすすぎ洗いを 1回行った。
⑦ すすぎ終えた DEAE-フィルターマッ トを 9 5 °Cで 1 5分間乾燥し、 液体シン
チレ一夕 (10m 1 ) と共にサンプルバッグに入れ密封した。
⑧ シンチレーションカウンターで放射活性を計測した。
⑨ 放射活性計測値 (単位; cpm) を以下の計算式に代入して阻害率を求めた。 阻害率 = 1 0 0— (被験物質存在下の計測値一酵素非存在下の計測値)
/ (被験物質非存在下の計測値 -酵素非存在下の計測値) X 1 0 0 注 1 ) ①〜⑤の実験材料に使用している氷は全てジェチルピロカーボネートで RNA分解酵素の失活処理をしている。 ジェチルピロカーボネートによる処理は、 ジェチルピロカーボネート (O.lg) を脱イオン水 (100m 1 ) に溶解後 3 7°Cで 2 4時間放置し、 その後 1 2 0 °Cで 3 0分間オートクレーブにかけて行った。
AAAUAU AUAUAU-3'で構成された単鎖のォリゴヌクレオチド。 テンプレートと して使用した。 5'末端の GGは、 核酸合成反応を停止させるために配列に付加した c 注 3 ) ゥリジン三リン酸。 基質として使用した。
以下に、 被検物質として、 化合物 A、 化合物 B、 化合物 C、 3'-dUTPを使用した 場合の、 HCV RNA依存型 RNA合成酵素の阻害率を示す。 なお、 使用した被検物 質の濃度は、 以下の通りである。
化合物 A : 20 g/ml 化合物 B : 20 g/ml
ィ匕合物 C : 0.032 g/ml 3'-dUTP: 0.08 M
表 1
化合物 N o . (濃度) 阻害率
化合物 A : 20 ig/ml 3 2 %
化合物 B : 20 g/ml 2 2 %
化合物 C : 0.032 g/ml 3 6 %
3'-dUTP: 0.08〃 M 7 5 %
参考例 1
HCVRNA依存型 RNA合成酵素アツセィ 従来法
① トリス塩酸 (100mM、 PH 7.5) 及び塩化マグネシウム (25mM) 、 塩化マン ガン (2.5mM) 、 ジチオスレィ トール (5m M) 、 塩化カリウム (125mM) を含
有する緩衝液注 u (10.5 1 ) をポリプロピレン製容器に入れ、 ここへオリゴ RNA 注 2 )水溶液 (100〃 g/m l、 10.5〃 1 ) と水 (18.5 1 ) を添加し、 緩やかに混和 後、 氷冷した。
② 次に、 氷冷した HCV RNA依存型 RNA合成酵素液 (10.5〃 1 ) を添加、 混合 した。
③ ジメチルスルホキシドまたは水で溶解した被験物質 ( 1穴当り 5.26〃 1 ) を 分注しておいた 9 6穴マイク口タイ夕一プレートに、 ②の氷冷混合液 (50〃 1 ) を加えた。
④ 次に、 ト リス塩酸 (100mM、 pH7.5) 及び塩化マグネシウム (25mM) 、 塩 化マンガン (2.5mM) 、 ジチオスレィ トール (5mM) 、 塩化力リゥム (l25mM)、
UTP注 3) (4.9 /M、 含 l Ci3H- UTP)を含有する緩衝液(10.6〃 1 ) と水 (39.4〃 1 ) の混合液 (50〃 1 ) を添加混和し、 2 5 Cで 6 0分間 酵素反応を行った。
⑤ 酵素反応が 6 0分経過した時、 エチレンジァミン四酢酸ニナトリウム水溶液 (50mM、 50 / 1 ) を添加混合し、 酵素反応を停止した。
⑥ 次にセルハーべスターを使用して、 ジェチルアミノエチル基を導入したフィ ルター (以下、 DEAE-フィルターマッ トと略す) 上に⑤のサンプル全量を移した 後、 リン酸ナト リゥム緩衝液 (0.25 M、 pH7.0) で 1 0秒間のすすぎ洗いを 2回と 脱イオン水で 1 0秒間のすすぎ洗いを 1回行った。
⑦ すすぎ終えた DEAE-フィル夕一マッ トを 9 5 °Cで 1 5分間乾燥し、 液体シン チレ一夕 (10m 1 ) と共にサンプルバッグに入れ密封した。
⑧ シンチレーシヨンカウンターで放射活性を計測した。
⑨ 放射活性計測値 (単位; cpm) を以下の計算式に代入して阻害率を求めた。 阻害率 = 1 0 0」 (被験物質存在下の計測値—酵素非存在下の計測値)
/ (被験物質非存在下の計測値一酵素非存在下の計測値) X I 0 0 注 1 ) ①〜⑤の実験材料に使用している水は全てジ'ェチルピロカーボネートで RNA分解酵素の失活処理をしている。 ジェチルピロカーボネートによる処理は、 ジェチルピロカーボネート (O.lg) を脱イオン水 (100m 1 ) に溶解後 3 7°Cで 2
4時間放置し、 その後 1 2 0 °Cで 3 0分間オートクレーブにかけて行った。
AAA UAU AUA UAU-3'で構成された単鎖のオリゴヌクレオチド。 テンプレートと して使用した。 5'末端の GGは、核酸合成反応を停止させるために配列に付加した 注 3 ) ゥリジン三リン酸。 基質として使用した。
以下に、 被検物質として、 化合物 A、 化合物 B、 化合物 (1-1)、 3'-dUTPを使用し た場合の、 HCV RNA依存型 RNA合成酵素の阻害率を示す。 なお、 使用した被検 物質の濃度は、 以下の通りである。
化合物 A : 20 ^ g/ml 化合物 B : 20 / g/ml
化合物 C : 0.032 g/ml 3 '-dUTP: 0.08 M
表 2
化合物 N o . (濃度) 阻害率
化合物 A : 20 Z g/ml 7 8 %
化合物 B : 20 g/ml 7 1 %
化合物 C : 0.032 Z g/ml 3 6 %
3'-dUTP: 0.08〃 M 6 1 %
試験例 1
本発明ァヅセィ法の操作上の大きな特徴であるプレインキュベーションが酵素 活性に及ぼす影響を調べた。 なお、 文中、 RdRp酵素または HCV RdRp 酵素は、 HCV RNA依存型 RNA合成酵素を意味する。
緩衝液 I、 オリゴ RNA、 リコンピナント RdRp酵素の混合液を 25°Cでプレイン キュベーシヨンする時間を 0分、 15分、 30分、 45分、 60分、 90分、 120分に設 定し、 酵素反応条件は一律 25°C、 30分で実施した (図 1 ) 。 また、 被験物質の代 わりには溶媒の DMSOを使用した。
この時の基質の反応産物への取り込み量を酵素活性とし比較したところ、 プレ ィンキュベーション時間が長いほど酵素活性は上昇を示し、 プレインキュベ一シ ヨン 90分以上では酵素活性はほぼ頭打ち状態となった。 酵素活性の上昇は、 プレ インキュベーションなし ( 0分) と比較して最高で 8.5倍高い酵素活性を示した。
以上の結果から、 酵素反応前に緩衝液 I、 オリゴ RNA、 リコンビナント RdRp 酵素をプレインキュベーションすることは、 酵素活性の上昇を誘導することが判 明した。
試験例 2
次にプレインキュベーションが酵素の熱安定性に及ぼす影響を調べた。
酵素反応温度を 25°Cと 37°Cに設定し、 プレインキュベーションの有無で HCV RdRpの酵素活性の経時的変化を測定した (図 2 ) 。 従来法 (プレインキュベーシ ヨンなし) では、 酵素反応 120分以降で 37°Cでの酵素反応速度が停止している。 一方、 プレインキュベーション法では、 酵素反応 60分以降で 37°Cでの酵素反応速 度の低下傾向は示すものの酵素反応量の増加を認め、 且つ酵素反応 30分から 180 分において酵素反応量は 25°Cでの酵素反応と比較して 2.6倍から 3.0倍の高値を 示した。
以上の結果から、 緩衝液 I、 オリゴ RNA、 リコンビナント RdRp酵素のプレィ ンキュベーション処理は、酵素反応における RdRpの熱安定性を高めることが判明 した。 生体内での HCVの増殖を考える時、 37°C前後での RdRp酵素の安定性は必 須である。 このことから、 プレインキュベーション処理後の RdRpの形態は、 生体 内の HCV RdRpの形態に近い可能性がある。
試験例 3
HCV RNA依存型 RNA合成酵素阻害剤のスクリーニングにおいて本発明ァヅセ ィ法が従来法と大きく異なる点として、 阻害活性の乖離が挙げられる。 プレイ ン キュベーシヨン処理を行うことにより、 化合物 A、 化合物 B は阻害活性の大幅な 低下を示したが、 化合物 C、 3'- dUTPはプレインキュベーション処理を行っても阻 害活性の低下は認められなかった (表 1、 表 2 ) 。
以上の結果から、 緩衝液 I、 poly(A)、 oligo(U), リコンビナント RdRp酵素のプ レインキュベーション処理は、化合物の種類によって RdRp阻害活性に大きな変動 をもたらすことが判明した。
参考試験例
従来法とプレインキュベーション ァヅセィ法の比較を行うために、 3 '末端部分 が自らのプライマーとして機能することができる一本鎖の核酸オリゴマーの代り に、 テンプレートとして poly(A)、 プライマーとして oligo(U)12を使用し、 化学構 造の異なる数万個の化合物を被検物質として、 ランダムスクリーニングを行った。 まず、化合物を 1 0検体ずつ混合し、混合物である被検物質の濃度を 0.83 Z g/ml として、 従来法 (但し、 テンプレートとして poly(A)、 プライマーとして oligo(U)12 を使用) に準じて、 酵素阻害率を求めた。 結果を図 3に示す。
一方、 数万個の化合物を被検物質として、 化合物を 5検体ずつ混合し、 混合物 である被検物質の濃度を
として、 上記実施例 1に記載されている本発明 であるプレインキュベーション アツセィ法 (但し、 テンプレートとして poly(A)、 プライマーとして oligo(U)
12を使用) に準じて、 酵素阻害率を求めた。 結果を図 4 に示す。 産業上の利用可能性
プレインキュベーションアツセィ法により、 ①酵素活性の上昇、 ②熱安定性の 上昇、 ③ノィズの軽減を図ることができることを見出した。