明 細 書 六方晶フェライ卜磁石 技術分野
本発明は、 自動車用モータ等の永久磁石材料として好適に使用される六方晶フ ェライ卜、 特にマグネ卜プランバイ卜型構造を有する六方晶フェライ卜に関する。 背景技術
酸化物永久磁石材料には、 マグネ卜プランバイト型 (M型) の六方晶系の S r フェライトまたは B aフェライ卜が主に用いられており、 これらの焼結磁石ゃボ ンディッド磁石が製造されている。
磁石特性のうち特に重要なものは、 残留磁束密度 (B r) および固有保磁力 (HcJ) である。
B rは、 磁石の密度およびその配向度と、 その結晶構造で決まる飽和磁化 (4 π I s) とで決定され、
B r = 4 π I s X配向度 X密度
で表わされる。 M型の S「フェライ卜や B aフェライ卜の 4 π I sは約 4. 65 kGである。 密度と配向度とは、 最も高い値が得られる焼結磁石の場合でもそれぞ れ 98%程度が限界である。 したがって、 これらの磁石の B rは 4. 46 kG程度 が限界であり、 4. 5kG以上の高い B rを得ることは、 従来、 実質的に不可能で あった。
本発明者らは、 特開平 9— 1 1 57 1 5号公報において、 M型フェライ卜に例 えば L aと Z nとを適量含有させることにより、 4 π I sを最高約 200G高め ることが可能であり、 これによつて 4. 5 kG以上の B rが得られることを見出し
た。 しかしこの場合、 後述する異方性磁場 (HA) が低下するため、 4. 5kG以 上の B rと 3. 5 kOe以上の HcJとを同時に得ることは困難であった。
HcJは、 異方性磁場 {HA (=2 K,/ I s) } と単磁区粒子比率 (f c) との 積 (HAX f c) に比例する。 ここで、 K,は結晶磁気異方性定数であり、 I sと 同様に結晶構造で決まる定数である。 M型 B aフェライ卜の場合、 K, = 3. 3 X 1 06erg/cm3であり、 M型 S rフェライ卜の場合、 K, = 3. 5X 1 06 erg/cm 3である。 このように、 M型 S rフェライ卜は最大の K,をもつことが知られてい るが、 をこれ以上向上させることは困難であった。
また、 粒子の形状で決まる反磁場係数を Nとすると、 下式 1に示すように、 N が大きいほど粒子には大きな反磁場がかかり、 HcJを劣化させる。
HcJ (2 K, /Is-NIs) · · · (式 1 )
一般的に、 粒子のアスペクト比が大きくなる (扁平化する) と、 Nは大きくな り、 HcJは劣化する。
一方、 フェライ卜粒子が単磁区状態となれば、 磁化を反転させるためには異方 性磁場に逆らって磁化を回転させる必要があるから、 最大の HcJが期待される。 フェライ卜粒子を単磁区粒子化するためには、 フェライ卜粒子の大きさを下記の 臨界径 (d c) 以下にすることが必要である。
d c = 2 (k · Tc · Κ,/a) 1/2/ I s2
ここで、 kはボルツマン定数、 Tcはキュリー温度、 aは鉄イオン間距離であ る。 M型 S「フェライ卜の場合、 d cは約 1 Atmであるから、 例えば焼結磁石を 作製する場合は、 焼結体の結晶粒径を 1 m以下に制御することが必要になる。 高い B rを得るための高密度化かつ高配向度と同時に、 このように微細な結晶粒 を実現することは従来困難であつたが、 本発明者らは特開平 6 _ 53064号公 報において、 新しい製造方法を提案し、 従来にない高特性が得られることを示し た。 しかし、 この方法においても、 B rが 4. 4kGのときには HcJが 4. OkOe
程度となり、 . 4 kG以上の高い B rを維持してかつ 4. 5kOe以上の高い HcJ を同時に得ることは困難であった。
また、 焼結体の結晶粒径を 1 m以下に制御するためには、 焼結段階での粒成 長を考慮すると、 成形段階での粒子サイズを好ましくは 0. 5 m以下にする必 要がある。 このような微細な粒子を用いると、 成形時間の増加や成形時のクラッ クの増加などにより、 一般的に生産性が低下するという問題がある。 このため、 高特性化と高生産性とを両立させることは非常に困難であった。
一方、 高い HcJを得るためには、 A I 203や C r 203の添加が有効であること が従来から知られていた。 この場合、 A I 3+や C r3 +は M型構造中の 「上向き」 スピンをもつ F e3 +を置換して HAを増加させると共に、 粒成長を抑制する効果 があるため、 4. 5kOe以上の高い HcJが得られる。 しかし、 I sが低下すると 共に焼結密度も低下しやすくなるため、 B rは著しく低下する。 このため、 HcJ が 4. 5 kOeとなる組成では最高でも 4. 2 kG程度の B rしか得られなかった。 発明の開示
本発明の目的は、 M型フェライ卜の飽和磁化と磁気異方性とを同時に高めるこ とにより、 従来の M型六方晶フェライ卜磁石では達成不可能であった高い残留磁 束密度と高い保磁力とを有する六方晶フェライ卜磁石を実現することである。 このような目的は、 下記 い) 〜 (1 8) のいずれかの構成により達成される。 (1 ) S r、 B aおよび C aから選択される少なくとも 1種の元素を Aとし、 + 3価または +4価を取りうるイオン半径が 1. 00オングストローム以上の 元素を Rとし、
A, Rおよび F eを含有し、
積層欠陥を有する結晶粒子の数を nとし、 全体の結晶粒子の数を Nとしたとき
nZNが 0. 35以下である六方晶フェライ卜磁石。
(2) さらにイオン半径が 0. 90オングストローム以下の元素を Mとして 含有する上記 (1 ) の六方晶フェライ卜磁石。
(3) 前記 Rを 0. 05〜1 0原子%含有する上記 (1 ) の六方晶フェライ 卜磁石。
(4) A, R, F eおよび Mそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、 全金 属元素量に対し、
A: 1〜 1 3原子%、
R : 0. 05〜 1 0原子%、
F e : 80〜95原子%、
M: 0. 1〜5原子%
である上記 (2) の六方晶フェライ卜磁石。
(5) 前記積層欠陥部分は、 結晶粒子中の他の部分より元素 Mを多く含む上 記 (2) の六方晶フェライ卜磁石。
(6) 前記 Rは、 L a, P r, N dおよび C eのいずれか 1種または 2種以 上である上記 (1 ) の六方晶フェライ卜磁石。
(7) 前記 Mは、 2価のイオンとなる元素である上記 (2) の六方晶フェラ ィ卜磁石。
(8) 前記 Mは、 Co, N iおよび Z nのいずれか 1種または 2種以上であ る上記 (2) の六方晶フェライ卜磁石。
(9) マグネ卜プランバイ卜型フェライ卜である上記 (1 ) の六方晶フェラ ィ卜磁石。
(1 0) S r、 B aおよび C aから選択される少なくとも 1種の元素を Aと し、
+ 3価または +4価を取りうるイオン半径が 1. 00オングストローム以上の
99/
元素を Rとし、
A, Rおよび F eを含有し、
Rが結晶粒子の中心よりも結晶粒界近傍に多く存在する六方晶フェライ卜磁石。
(1 1 ) さらにイオン半径が 0. 90オングストローム以下の元素を Mとし て含有する上記 (1 0) の六方晶フェライ卜磁石。
( 1 2) 前記元素 Mは、 結晶粒子の中心より粒界近傍に多く存在する上記 (1 1 ) の六方晶フェライ卜磁石。
(1 3) 前記 Rを 0. 05〜1 0原子%含有する上記 (1 0) の六方晶フエ ライ卜磁石。
(1 4) A, R, F eおよび Mそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、 全 金属元素量に対し、
A: ·!〜 1 3原子%、
R : 0. 05〜 1 0原子%、
F e : 80〜95原子%、
M: 0. 1 ~5原子%
である上記 Π 1 ) の六方晶フェライ卜磁石。
(1 5) 前記 Rは、 L a, P r, N dおよび C eのいずれか 1種または 2種 以上である上記 (1 0) の六方晶フェライ卜磁石。
(1 6) 前記 Mは、 2価のイオンとなる元素である上記 (1 1 ) の六方晶フ ェライ卜磁石。
(1 7) 前記 Mは、 C o, N iおよび Z nのいずれか 1種または 2種以上で ある上記 (1 1 ) の六方晶フェライ卜磁石。
(1 8) マグネ卜プランバイト型フェライ卜である上記 (1 0) の六方晶フ ェライ卜磁石。
作用
六方晶フェライ卜磁石の特性のうち、 H cJは単磁区粒子理論から予想される値 よりも通常はかなり小さい。 この原因のひとつとして、 上記のように粒子サイズ が単磁区臨界径ょリ大きいことが挙げられるが、 これだけでは説明できない場合 が多い。
本発明者らは、 焼結体を T E Mにより注意深く観察した結果、 図 2 5に示すよ うに、 結晶粒子 1の中に c軸と直交するような面に積層欠陥 2を有するものがあ ることを突き止めた。 なお、 図中、 矢印 cは、 c軸方向を示している。
ここで、 例えば特願平 9— 5 6 8 5 6 (国際公開 W0 9 8 / 3 8 6 5 4 ) 、 特 開平 1 0— 1 4 9 9 1 0号公報に記載されているように、 3「2 +をし& 3 +で、 F 6 3 +をじ0 2 +で置換した1^1型5 rフェライ卜組成の場合、 結晶構造に依存する基 本的な磁気特性である飽和磁化と、 結晶磁気異方性定数 (K 1 ) が共に増加して 高特性が得られる。 しかし、 本発明者らはこのように価数やイオン半径の異なる 元素で置換した組成の六方晶フェライ卜磁石を従来の製造法で作製すると、 積層 欠陥を特に生じやすくなることを初めて見いだした。 さらに、 このような積層欠 陥によって、 高い結晶磁気異方性が、 磁石特性である保磁力に十分に反映されな い場合があることを見いだした。
本発明者らは、 特願平 9一 2 7 3 9 3 6号において、 これに記載されている製 造方法 (後添加法) により優れた磁気特性が得られ、 この方法によって作製され たフェライ卜磁石は、 2つのキュリー温度を有することを見出すに至ったが、 さ らに研究を重ねた結果、 このときに積層欠陥が非常に少なくなつていることを見 出し本発明に至った。
さらに、 積層欠陥を少なくする方法としては、 Rを余剰にする手法が有効であ る。 また、 特願平 9一 2 7 3 9 3 2号に記載されているように、 六方晶フェライ 卜を焼成する際の雰囲気を、 酸素過剰雰囲気、 具体的には酸素分圧を 0 . 2 atm
超として製造する方法も有効である。
マグネ卜プランバイ卜構造のような六方晶フェライ卜は、 酸素イオン (02一) が、 ΑΒΑΒ · · ·のように積み重なって六方最密充填されており、 酸素イオン の一部が、 S r2 +, B a 2+および C a 2+等で置換される構造になっている。 また、 鉄イオン (F e3+) 等の大きさの小さいイオンは、 02—や S r2+で形成される層 の隙間に位置する。 一般的に、 積層欠陥とは、 この ABAB · · ·のような積み 重なりの順序が一部乱れた面欠陥のことであるが、 本明細書における積層欠陥を さらに詳しく説明すると次のようになる。
図 1に示されるように、 M型六方晶フェライ卜は、 S層 ZR層 ZS*層 ZR* 層のように、 S層と R層とが交互に積層する構造を有している。 ここで、 S* , R* は、 S, Rを c軸を中心に 1 80度回転させたものである。 下記実験例 (T EM— EDS解析) から、 積層欠陥は S層 (スピネル層) 部分が異常に成長した 部分である可能性が高まった。 これは、 例えば、 Journal of Solid State Chemis try vol.26 , P1〜6 (1978)に記載されているように "Intergrowth Layer"と呼ばれ ているものである。
Rや Mを含有させた六方晶フェライ卜は積層欠陥が多く、 この積層欠陥を減少 させることにより、 高特性が得られることは本発明者らによリ初めて見出された ことである。 なお、 欠陥をゼロにすることが理想であるが、 実際には、 積層欠陥 を有する結晶粒子の数を nとし、 全体の結晶粒子の数を Nとしたときに、 nZN =0. 05〜0. 35の範囲においても、 高い特性が得られることを見出した。 以上のような積層欠陥が存在すると、 フェライ卜磁石としての磁気特性が劣化 する原因は次のように推察される。 第一に、 積層欠陥が非磁性層の場合は、 結晶 粒子 (グレイン) を磁気的に分断すると考えられる。 これは、 粒子が扁平化する ことと実効的に同じことであり、 反磁場係数 (N) が増加し、 上記式 1に従って HcJは劣化する。 第二に、 積層欠陥が軟磁性を示すスピネル層とすると、 軟磁性
層が閉磁路を構成して、 実効的な結晶磁気異方性が低下することが考えられる。 また、 本発明者らは、 先の特願平 9 _ 2 7 3 9 3 6号において、 これに記載さ れている製造方法 (後添加法) により優れた磁気特性が得られ、 この方法によつ て作製されたフェライ卜磁石は、 2つのキュリー温度を有することを見出すに至 つたが、 このとき後添加した元素のうち、 特に L a等の元素 Rの濃度が結晶粒の 中心部分で低く、 粒界近傍や、 三重点で比較的高いことを初めて見出した。
さらに、 このとき C o等の元素 Mの分布は、 少量だと解析が困難になり、 不明 確な場合もあるものの、 元素 Rと同様になつていることを見いだした。
このように、 L aなどの Rや、 C oなどの Mを、 結晶粒子中心近傍よりも粒界 近傍に高濃度に存在させる構造とすることにより、 優れた磁気特性を有するフエ ライ卜磁石が得られる原因は次のように推察される。 第一に、 L aおよび C oを 含有した S rフェライ卜は、 結晶磁気異方性が大きいことが知られている。 従つ て、 このような元素が粒界近傍に高濃度に存在すると、 粒界近傍に異方性の大き い磁性相が存在することになると考えられる。 このような構造は、 逆磁区の生成 が抑制されることなどにより、 高い保磁力が得られやすいことが知られている。 第二に、 結晶粒子中心で Rや C oの濃度が低いため、 上記の積層欠陥が少なくな る。 図面の簡単な説明
図 1は、 本発明の六方晶フェライ卜磁石の結晶構造を示した図である。
図 2は、 実験例で得られた欠陥部分の T E M写真である。
図 3は、 本発明の焼結磁石サンプル 1の a面の組織を T E Mにより撮影した第 1の図面代用写真である。
図 4は、 本発明の焼結磁石サンプル 1の a面の組織を T E Mにより撮影した第 2の図面代用写真である。
図 5は、 図 3の拡大写真 (上半分) である。
図 6は、 図 3の拡大写真 (下半分) である。
図 7は、 図 4の拡大写真 (上半分) である。
図 8は、 図 5の拡大写真 (下半分) である。
図 9は、 本発明の焼結磁石サンプル 1の E D Sによる粒界部における成分分析 結果を示した図である。
図 1 0は、 本発明の焼結磁石サンプル 1の EDSによる結晶粒内部における成 分分析結果を示した図である。
図 1 1は、 本発明の焼結磁石サンプル 1の E D Sによる三重点部における成分 分析結果を示した図である。
図 1 2は、 任意の粒子 1について、 粒界→粒子内部→粒界と連続的に L a2O3 および C 0 Oの分析を行った様子を示す T E M写真である。
図 1 3は、 任意の粒子 1について、 粒界→粒子内部→粒界と連続的に L a 2O3 および C o Oの分析を行った結果を示すグラフである。
図 1 4は、 任意の粒子 3について、 粒界→粒子内部→粒界と連続的に L a203 および C 0 Oの分析を行った様子を示す T E M写真である。
図 1 5は、 任意の粒子 3について、 粒界→粒子内部→粒界と連続的に L a203 および C 00の分析を行った結果を示すグラフである。
図 1 6は、 実施例 2の焼成雰囲気 02 : 1 %で得られた焼結体の TEM写真で ある。
図 1 7は、 実施例 2の焼成雰囲気 02 : 20%で得られた焼結体の TEM写真 である。
図 1 8は、 比較例の焼結磁石サンプル 1の a面の組織を TEMにより撮影した 第 2の図面代用写真である。
図 1 9は、 比較例の焼結磁石サンプル 1の a面の組織を TEMにより撮影した
第 2の図面代用写真である。
図 20は、 比較例の焼結磁石サンプル 1の E D Sによる粒界部における成分分 析結果を示した図である。
図 2 1は、 比較例の焼結磁石サンプル 1の EDSによる結晶粒内部における成 分分析結果を示した図である。
図 22は、 比较例の焼結磁石サンプル 1の E D Sによる三重点部における成分 分析結果を示した図である。
図 23は、 比較例 2で得られたサンプルの TEM写真である。
図 24は、 比較例 2で得られたサンプルの T E M写真である。
図 25は、 結晶粒と積層欠陥の様子を示した概念図である。 発明を実施するための最良の形態
本発明の六方晶フェライ卜磁石は、 S r、 B aおよび C aから選択される少な くとも 1種の元素を Aとし、 +3価または +4価を取りうるイオン半径が 1. 0 0オングストローム以上の元素を Rとし、 A, Rおよび F eを含有し、 c軸と交 差する方向に形成される積層欠陥を有する結晶粒子の数を nとし、 全体の結晶粒 子の数を Nとしたときに、 nZNが 0. 35以下、 特に nZN = 0. 05〜0. 35である。 このように、 積層欠陥を有する結晶粒子を全体の結晶粒子に対して ある値以下に規制することによリ、 優れた磁気特性が得られる。
積層欠陥は T EM等により比較的容易に識別することができるが、 この場合、 全体の結晶粒子の数を測定することは現実的でない。 このため、 例えば、 TEM (透過型電子顕微鏡) で異方性焼結磁石の c軸に平行な面 (a面) を観察したと きのある視野内の結晶数を計測し、 この結晶粒の全数を Nとしたとき、 その結晶 粒中に見出される欠陥を有する結晶粒の数を nとし、 上記数として推定する。 こ こで、 観察する T EMの倍率としては 1 000~1 00000倍、 特に 1 000
0~20000倍が好ましく、 観察する視野としては、 2視野以上が好ましく、 特に 2〜1 0視野とし、 Nを 20〜500程度とする。 なお、 結晶粒中に存在す る欠陥は、 通常 1つまたは 2つ程度であるが、 3つ以上である場合もある。
本発明の六方晶フェライ卜磁石は、 S r、 B aおよび C aから選択される少な くとも 1種の元素を Aとし、 + 3価または +4価を取りうるイオン半径が 1. 0 OA以上の元素を Rとし、 A, Rおよび F eを含有し、 Rが結晶粒子の中心より も結晶粒界近傍に多く存在する。 このような構造とすることにより優れた磁気特 性が得られる。
このような構造は、 例えばチタン酸バリゥ厶のような誘電材料にみられるよう な 「コアシェル構造」 に似ているとも言える。 そして、 このような構造は、 T E M-EDSにより解析することで、 識別することができる。
ここで、 六方晶フェライ卜を形成するためには、 Rのイオンが酸素イオン (O 2") と近い大きさとなる必要があり、 具体的には、 1. 00〜 . 60オングス 卜ローム程度である必要がある。 また、 Mは酸素イオン (02— ) よりも小さく、 鉄イオン (F e3+) に近い必要があり、 具体的には、 0. 50~0. 90オング ス卜ローム程度である必要がある。
本発明の六方晶フェライ卜磁石は、 上記 A, Rおよび F eを含有していればよ く、 他の添加物等は特に限定されるものではないが、 好ましくは S r、 B aおよ び C aから選択される少なくとも 1種の元素を Aとし、 + 3価または + 4価を取 りうるイオン半径が 1. 00オングストローム以上、 特に 1. 00〜1. 60ォ ングス卜ロームの元素を Rとし、 イオン半径が 0. 90オングストローム以下、 特に 0. 50〜0. 90オングストロームの元素を Mとしたとき、 A, R, F e および Mを含有する。
また、 好ましくは A, R, F eおよび Mそれぞれの金属元素の総計の構成比率 が、 全金属元素量に対し、
A: 1〜 1 3原子%、
R : 0. 05〜 1 0原子%、
F e : 80〜95原子%、
M: 0. 1〜5原子%
である。
また、 より好ましくは、
A: 3〜 1 1原子%、
R : 0. 2〜6原子%、
F e : 83~94原子%、
M: 0. 3〜4原子%であり、
さらに好ましくは、
A: 3〜9原子%、
R : 0. 5〜4原子%、
F e : 86〜93原子%、
: 0. 5〜3原子%である。
上記各構成元素において、 Aは、 S r、 B aおよび C aから選択される少なく とも 1種の元素である。 Aが小さすぎると、 M型フェライ卜が生成しないか、 a -F e 203 等の非磁性相が多くなつてくる。 Aが大きすぎると M型フェライ卜 が生成しないか、 S r F e03-x 等の非磁性相が多くなつてくる。 A中の S「の 比率は、 好ましくは 5 1原子%以上、 より好ましくは 70原子%以上、 さらに好 ましくは 1 00原子%でぁる。 A中の S rの比率が低すぎると、 飽和磁化向上と 保磁力の著しい向上とを共に得ることができなくなってくる。
Rは、 L a、 Nd、 P rまたは C eであることが好ましい。 Rが小さすぎると、 Mの固溶量が少なくなり、 本発明の効果が得られ難くなる。 Rが大きすぎると、 オルソフェライ卜等の非磁性の異相が多くなつてくる。 R中において L aの占め
る割合は、 好ましくは 40原子%以上、 より好ましくは 70原子%以上であり、 飽和磁化向上のためには Rとして L aだけを用いることが最も好ましい。 これは、 六方晶 M型フェライ卜に対する固溶限界量を比較すると、 L aが最も多いためで ある。 したがって、 R中の L aの割合が低すぎると Rの固溶量を多くすることが できず、 その結果、 元素 Mの固溶量も多くすることができなくなり、 本発明の効 果が小さくなつてしまう。
元素 Mは、 C o、 N iまたは Z nであることが好ましい。 Mが小さすぎると、 本発明の効果が得難くなリ、 Mが大きすぎると、 B rや HcJが逆に低下し本発明 の効果を得難くなる。 M中の Coの比率は、 好ましくは 1 0原子%以上、 より好 ましくは 20原子%以上である。 C oの比率が低すぎると、 保磁力向上が不十分 となってくる。
ここで、 Rと Mの含有量と、 欠陥を有する結晶粒子の数とは相関関係があり、 Rおよび Mの量が増加すると欠陥を有する結晶粒子の数も増加する傾向にある。 ただし、 Rを化学量論組成よリ多く存在させた場合にも欠陥を有する結晶粒子は 減少する。
また、 好ましくは上記の六方晶マグネ卜プランバイ卜型フェライ卜は、
A,— XRX (Fe12一 yMy) 2019 · · · (式 2) と表したとき、
0. 04≤x≤0. 9、 特に 0. 04≤x≤0. 6、
0. 04≤y≤0. 5、
0. 8≤x/y≤5¾
0. 7≤ z≤ 1. 2
である。
また、 より好ましくは
0. 04≤x≤0. 5、
0. 04≤y≤0. 5、
0. 8≤x/y≤5,
0. 7≤ z≤ 1 . 2
であり、 さらに好ましくは
0. 1≤x≤0. 4、
0. 1≤y≤0. 4、
0. 8≤ z≤ ^ . 1
であり、 特に好ましくは
0. 9≤z≤ 1 . 05
である。
上記式 2において、 Xが小さすぎると、 すなわち元素 Rの量が少なすぎると、 六方晶フェライ卜に対する元素 Mの固溶量を多くできなくなり、 飽和磁化向上効 果およびノまたは異方性磁場向上効果が不十分となってくる。 Xが大きすぎると 六方晶フェライ卜中に元素 Rが置換固溶できなくなり、 例えば元素 Rを含むオル ソフェライ卜が生成して飽和磁化が低くなつてくる。 yが小さすぎると飽和磁化 向上効果および または異方性磁場向上効果が不十分となってくる。 yが大きす ぎると六方晶フェライ卜中に元素 Mが置換固溶できなくなってくる。 また、 元素 Mが置換固溶できる範囲であっても、 異方性定数 (K,) や異方性磁場 (ΗΑ) の 劣化が大きくなつてしまう。 zが小さすぎると S rおよび元素 Rを含む非磁性相 が増えるため、 飽和磁化が低くなつてしまう。 zが大きすぎると α— F e 203相 または元素 Mを含む非磁性スピネルフェライ卜相が増えるため、 飽和磁化が低く なってしまう。 なお、 上記式は不純物が含まれていないものとして規定されてい る。
上記式 2において、 xZyが小さすぎても大きすぎても元素 Rと元素 Mとの価
数の平衡がとれなくなり、 W型フェライ卜等の異相が生成しやすくなる。 元素 M は 2価であるから、 元素 Rが 3価イオンである場合、 理想的には x / y == 1であ る。 なお、 x Z yが 1超の領域で許容範囲が大きい理由は、 yが小さくても F e 3 +→F e 2 +の還元によって価数の平衡がとれるためである。
組成を表わす上記式 2において、 酸素 (O) の原子数は 1 9となっているが、 これは、 Rがすべて 3価であって、 かつ x = y、 z = 1のときの化学量論組成比 を示したものである。 Rの種類や x、 y、 zの値によって、 酸素の原子数は異な つてくる。 また、 例えば焼成雰囲気が還元性雰囲気の場合は、 酸素の欠損 (ペイ カンシー) ができる可能性がある。 さらに、 F eは M型フェライ卜中においては 通常 3価で存在するが、 これが 2価などに変化する可能性もある。 また、 C o等 の Mで示される元素も価数が変化する可能性があり、 これらにより金属元素の対 する酸素の比率は変化する。 本明細書では、 Rの種類や x、 y、 zの値によらず 酸素の原子数を 1 9と表示してあるが、 実際の酸素の原子数は化学量論組成比か ら多少偏倚していてもよい。
フェライ卜の組成は、 蛍光 X線定量分析などにより測定することができる。 ま た、 上記の主相の存在は X線回折や電子回折等から確認される。
磁石粉末には、 B 203が含まれていてもよい。 B 203を含むことにより仮焼温 度および焼結温度を低くすることができるので、 生産上有利である。 B 203の含 有量は、 磁石粉末全体の 0 . 5重量%以下であることが好ましい。 B 203含有量 が多すぎると、 飽和磁化が低くなつてしまう。
磁石粉末中には、 N a、 Kおよび R bの少なくとも 1種が含まれていてもよい。 これらをそれぞれ N a 20、 K 20および R b 20に換算したとき、 これらの含有 量の合計は、 磁石粉末全体の 3重量%以下であることが好ましい。 これらの含有 量が多すぎると、 飽和磁化が低くなつてしまう。 これらの元素を M 1で表わした とき、 フェライ卜中において M 'は例えば
S Γ 3_2 a R aM ' a-o. 3 F β , , .7M0.30 , g
の形で含有される。 なお、 この場合、 0. 3<a≤0. 5であることが好ましい。 aが大きすぎると、 飽和磁化が低くなつてしまう他、 焼成時に元素 M1が多量に 蒸発してしまうという問題が生じる。
また、 これらの不純物の他、 例えば S i, A I , Ga, I n, L i, Mg, M n, N i, C r, Cu, T i, Z r, Ge, S n, V, N b, T a, S b, A s , W, Mo等を酸化物の形で、 それぞれ酸化シリコン 1重量%以下、 酸化アルミ二 ゥ厶 5重量%以下、 酸化ガリウム 5重量%以下、 酸化インジウム 3重量%以下、 酸化リチウム 1重量%以下、 酸化マグネシウム 3重量%以下、 酸化マンガン 3重 量%以下、 酸化ニッケル 3重量%以下、 酸化クロム 5重量%以下、 酸化銅 3重 量%以下、 酸化チタン 3重量%以下、 酸化ジルコニウム 3重量%以下、 酸化ゲル マニウ厶 3重量%以下、 酸化スズ 3重量%以下、 酸化バナジウム 3重量%以下、 酸化ニオブ 3重量%以下、 酸化タンタル 3重量%以下、 酸化アンチモン 3重量% 以下、 酸化砒素 3重量%以下、 酸化タングステン 3重量%以下、 酸化モリブデン 3重量%以下程度含有されていてもよい。
また、 本発明の六方晶フェライ卜磁石は、 好ましくは少なくとも 2つの異なる キュリー温度 Tc 1, Tc 2を有し、 この 2つの異なるキュリー温度 T c 1, T c 2は 400〜470°Cであり、 かつこれら Tc T c 2の差の絶対値が 5 °C 以上である。 このように 2つの異なるキュリー温度を有することで、 角形性 Hk HcJが著しく改善される。
キュリー温度は、 磁石の磁化 (σ) —温度 (Τ) 曲線における変化点から求め ることができる。 より具体的には、 常法に従い、 σ— Τ曲線の変化点での低温側 曲線の接線と温度軸との交点の温度により求められる。 2つの異なるキュリー点 Tc 1, T c 2は、 その差の絶対値が 5 °C以上、 好ましくは 1 0°C以上である。 また、 その上限は特に規制されるものではないが 465 °C程度である。 これらの
キュリー温度は 400〜470°C、 好ましくは 430~460°Cの範囲である。 この 2つのキュリー温度は、 本発明のフェライ卜結晶の組織構造が、 後述する製 造工程などにより磁気的に異なる M型フェライ卜の 2相構造を有するためである と考えられる。 ただし、 通常の X線回折法では M相の単相が検出される。
角形性 Hk ZHcJは、 好ましくは 90%以上、 特に 92%以上であることが好 ましい。 なお、 最高では 95%に及ぶ。 また、 本発明の磁石は、 好ましくは配向 度 I r/ l 5が96. 5%以上、 より好ましくは 97%以上であることが好まし い。 なお、 最高では 98%程度に及ぶ。 配向度を向上させることにより、 高い B rが得られる。 また、 成形体では、 磁気的配向度の値が成形体密度にも影響され るため、 成形体の表面に対し X線回折による測定を行い、 現れたピークの面指数 と強度とから求められる成形体の結晶学的な配向度 (X線配向度) が重要である。 この成形体の X線配向度は、 焼結体の磁気的配向度の値をかなリの程度支配する。 好ましくは X線配向度として∑ I (00 L) /∑ I (h k L) を用いる。 (00 L) は、 (004) や (006) 等の c面を総称する表示であり、 ∑ I (00 L) は (00 L) 面のすべてのピーク強度の合計である。 また、 (h k L) は、 検出されたすベてのピークを表し、 ∑ l (h k L) はそれらの強度の合計である。 したがって∑ I (00 L) /∑ I (h k L) は、 c面配向の程度を表す。 この、 ∑ I (00 L) /∑ I (h k L) は好ましくは 0. 85以上、 より好ましくは 0. 9以上が好ましく、 その上限としては 1. 0程度である。
次に、 フェライ卜焼結磁石を製造する方法を説明する。
上記フェライ卜焼結磁石は、 原料粉末として、 通常、 A (Aは、 S r, Ba, Ca) 、 R (Rは、 + 3価または +4価を取りうるイオン半径が 1. 00オング ストロー厶以上の元素:好ましくは L a, P r, Ndまたは Ceのいずれか) 、 M (Mは、 イオン半径が 0. 90オングストローム以下の元素:好ましくは Co, N iまたは Z n) を含有する化合物の粉末を用い、 これらの原料粉末の少なくと
も 1種または 2種以上と、 F eを含有する酸化物の粉末の混合物を仮焼する。 そ して、 仮焼後、 さらに前記 A (Aは、 S r, B a, C a) 、 R (Rは、 +3価ま たは +4価を取りうるイオン半径が 1. 00オングストローム以上の元素:好ま しくは L a, P r, N dまたは C eのいずれか) 、 M (Mは、 イオン半径が 0. 90オングストローム以下の元素:好ましくは Co, N iまたは Z n) を含有す る化合物の粉末のうち、 少なくとも 1種または 2種以上を添加混合し、 焼成して 製造される。 前記 A (Aは、 S r, B a, Ca) 、 R ( Rは、 +3価または +4 価を取りうるイオン半径が 1. 00オングス卜ローム以上の元素:好ましくは L a, P r, N dまたは C eのいずれか) 、 M (Mは、 イオン半径が 0. 90オン ダス卜ローム以下の元素:好ましくは C o, N iまたは Z n) を含有するィヒ合物 の粉末としては、 酸化物、 または焼成にょリ酸化物となる化合物、 例えば炭酸塩、 水酸化物、 硝酸塩等のいずれであってもよい。 原料粉末の平均粒径は特に限定さ れないが、 特に酸化鉄は微細粉末が好ましく、 一次粒子の平均粒径が 1 tm以下、 特に 0. 5 tm以下であることが好ましい。 なお、 上記の原料粉末の他、 必要に 応じて B 203等や、 他の化合物、 例えば S i , A I , Ga, l n, L i, Mg, M n , N i, C r, C u, T i, Z r , Ge, S n, V, N b, T a, S b, A s, W, Mo等を含む化合物を添加物あるいは不可避成分等の不純物として含有 していてもよい。
仮焼は、 空気中において例えば 1 000〜1 350°〇で1秒間〜1 0時間、 特 に 1秒間〜 3時間程度行えばよい。
このようにして得られた仮焼体は、 実質的にマグネ卜プランバイ卜型のフェラ ィ卜構造をもち、 その一次粒子の平均粒径は、 好ましくは 2 tm以下、 より好ま しくは 1 tm以下、 さらに好ましくは 0. 1〜l tm、 最も好ましくは 0. 1〜 0. 5 j mである。 平均粒径は走査型電子顕微鏡により測定すればよい。
次いで、 仮焼体を粉碎した後、 あるいは粉砕時に前記 A (Aは、 S r, B a,
Ca) 、 R (Rは、 + 3価または +4価を取りうるイオン半径が 1. 00オング ストロー厶以上の元素:好ましくは L a, P r, Ndまたは Ceのいずれか) 、 M (Mは、 イオン半径が 0. 90オングストローム以下の元素:好ましくは Co, N iまたは Z n) を含有する化合物の粉末の少なくとも 1種または 2種以上を混 合し、 成形し、 焼結することにより製造する。 具体的には、 以下の手順で製造す ることが好ましい。 ィ匕合物の粉末の添加量は、 仮焼体の 1 ~1 00体積%、 より 好ましくは 5〜70体積%、 特に 1 0〜50体積%が好ましい。
前記化合物の添加時期は仮焼後、 焼成前であれば特に規制されるものではない が、 好ましくは次に説明する粉碎時に添加することが好ましい。 添加される原料 粉末の種類や量は任意であり、 同じ原料を仮焼前後で分けて添加してもよい。 た だし、 全量の 30%以上、 特に 50%以上は仮焼後に行う後工程で添加すること が好ましい。 なお、 添加される化合物の平均粒径は、 通常 0. 1〜2 ΜΓΠ 程度 とする。
本発明では、 酸化物磁性体粒子と、 分散媒としての水と、 分散剤とを含む成形 用スラリーを用いて湿式成形を行うが、 分散剤の効果をより高くするためには、 湿式成形工程の前に湿式粉砕工程を設けることが好ましい。 また、 酸化物磁性体 粒子として仮焼体粒子を用いる場合、 仮焼体粒子は一般に顆粒状であるので、 仮 焼体粒子の粗粉碎ないし解碎のために、 湿式粉碎工程の前に乾式粗粉碎工程を設 けることが好ましい。 なお、 共沈法や水熱合成法などにより酸化物磁性体粒子を 製造した場合には、 通常、 乾式粗粉碎工程は設けず、 湿式粉碎工程も必須ではな いが、 配向度をより高くするためには湿式粉砕工程を設けることが好ましい。 以 下では、 仮焼体粒子を酸化物磁性体粒子として用い、 乾式粗粉砕工程および湿式 粉砕工程を設ける場合について説明する。
乾式粗粉砕工程では、 通常、 8 [丁比表面積が2〜1 0倍程度となるまで粉砕 する。 粉砕後の平均粒径は、 0. 〜 1 im程度、 8 丁比表面積は4〜1 0m
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2/g程度であることが好ましく、 粒径の C Vは 8 0 %以下、 特に 1 0〜7 0 %に 維持することが好ましい。 粉碎手段は特に限定されず、 例えば乾式振動ミル、 乾 式ァ卜ライター (媒体撹拌型ミル) 、 乾式ボールミル等が使用できるが、 特に乾 式振動ミルを用いることが好ましい。 粉碎時間は、 粉砕手段に応じて適宜決定す ればよい。 なお、 乾式粉砕工程時に、 前記原料粉末の一部を添加することが好ま しい。
乾式粗粉碎には、 仮焼体粒子に結晶歪を導入して保磁力 H cBを小さくする効果 もある。 保磁力の低下により粒子の凝集が抑制され、 分散性が向上し、 配向度も 向上する。 粒子の結晶歪は、 後の焼結工程において解放され、 永久磁石とするこ とができる。
なお、 乾式粗粉砕の際には、 通常、 S i 02 と、 焼成により C a 0となる C a C 03 とが添加される。 S i 02 および C a C 03 は、 一部を仮焼前に添加して もよく、 その場合には特性向上が認められる。
乾式粗粉砕の後、 粉碎された粒子と水とを含む粉碎用スラリーを調製し、 これ を用いて湿式粉砕を行う。 粉砕用スラリー中の仮焼体粒子の含有量は、 1 0〜7 0重量%程度であることが好ましい。 湿式粉砕に用いる粉砕手段は特に限定され ないが、 通常、 ポールミル、 アトライター、 振動ミル等を用いることが好ましい。 粉砕時間は、 粉碎手段に応じて適宜決定すればよい。
湿式粉砕後、 粉碎用スラリーを濃縮して成形用スラリーを調製する。 濃縮は、 遠心分離などによつて行えばよ t、。 成形用スラリー中の仮焼体粒子の含有量は、 6 0〜 9 0重量%程度であることが好ましい。
湿式成形工程では、 成形用スラリーを用いて磁場中成形を行う。 成形圧力は 0 . 1〜0 . 5ton/cm2 程度、 印加磁場は 5〜1 5 kOe 程度とすればよい。
成型用のスラリーに非水系の分散媒を用いると、 高配向度が得られ好ましいが、 本発明では好ましくは水系分散媒に分散剤が添加された成形用スラリ一を用いる。
本発明で好ましく用いる分散剤は、 水酸基およびカルボキシル基を有する有機化 合物であるか、 その中和塩であるか、 そのラク卜ンであるか、 ヒロドキシメチル カルボ二ル基を有する有機化合物であるか、 酸として解離し得るエノール型水酸 基を有する有機化合物であるか、 その中和塩であることが好ましい。
なお、 非水系の分散媒を用いる場合には、 例えば特開平 6— 53064号公報 に記載されているように、 トルエンゃキシレンのような有機溶媒に、 例えば才レ イン酸のような界面活性剤を添加して、 分散媒とする。 このような分散媒を用い ることにより、 分散しにくいサブミクロンサイズのフェライ卜粒子を用いた場合 でも最高で 98 %程度の高い磁気的配向度を得ることが可能である。
上記各有機化合物は、 炭素数が 3〜20、 好ましくは 4〜1 2であり、 かつ、 酸素原子と二重結合した炭素原子以外の炭素原子の 50 %以上に水酸基が結合し ているものである。 炭素数が 2以下であると、 本発明の効果が実現しない。 また、 炭素数が 3以上であっても、 酸素原子と二重結合した炭素原子以外の炭素原子へ の水酸基の結合比率が 50%未満であれば、 やはり本発明の効果は実現しない。 なお、 水酸基の結合比率は、 上記有機化合物について限定されるものであり、 分 散剤そのものについて限定されるものではない。 例えば、 分散剤として、 水酸基 およびカルボキシル基を有する有機化合物 (ヒドロキシカルボン酸) のラク卜ン を用いるとき、 水酸基の結合比率の限定は、 ラク卜ンではなくヒドロキシカルボ ン酸自体に適用される。
上記有機化合物の基本骨格は、 鎖式であっても環式であってもよく、 また、 飽 和であっても不飽和結合を含んでいてもよい。
分散剤としては、 具体的にはヒドロキシカルボン酸またはその中和塩もしくは そのラクトンが好ましく、 特に、 ダルコン酸 (C=6 ; OH = 5 ; COOH = 1 ) またはその中和塩もしくはそのラクトン、 ラクトビオン酸 (C== 1 2 ; OH =8 ; COOH= 1 ) 、 酒石酸 (C = 4 ; OH = 2 ; COOH = 2) またはこれ
らの中和塩、 ダルコヘプ卜ン酸ァ—ラク卜ン (C = 7 ; O H = 5 ) が好ましい。 そして、 これらのうちでは、 配向度向上効果が高く、 しかも安価であることから、 ダルコン酸またはその中和塩もしくはそのラクトンが好ましい。
ヒドロキシメチルカルボ二ル基を有する有機化合物としては、 ソルボースが好 ましい。
酸として解離し得るエノ一ル型水酸基を有する有機化合物としては、 ァスコル ビン酸が好ましい。
なお、 本発明では、 クェン酸またはその中和塩も分散剤として使用可能である。 クェン酸は水酸基およびカルボキシル基を有するが、 酸素原子と二重結合した炭 素原子以外の炭素原子の 5 0 %以上に水酸基が結合しているという条件は満足し ない。 しかし、 配向度向上効果は認められる。
上記した好まし t、分散剤の一部について、 構造を以下に示す。
D-ダルコン酸 - D
ァ -ラク卜ン
C〇〇H
CH2OH
ラク卜ビ才ン酸 石酸
また、 本出願人による特願平 1 0— 1 5 9 9 2 7号に記載されているような分 散剤を用いてもよい。 すなわち、 この分散剤は、 カルボキシル基を有する糖類ま たはその誘導体であるか、 これらの塩である有機化合物である。 そして、 この分 散剤は、 炭素数が 2 1以上とされる。
なお、 分散剤の分子量が大きくなるほどスラリーの粘度が高くなるため、 スラ リーの粘度が高すぎる場合には、 例えば、 分散剤を酵素などにより加水分解する 方法により粘度を低下させてもよい。
上記分散剤において基本骨格を構成する糖類は、 セルロースやでんぷんなどの 多糖類のほか、 これらの還元誘導体、 酸化誘導体、 脱水誘導体などを包含し、 さ らに広範囲の誘導体、 例えばアミノ糖ゃチ才糖などをも包含する化合物である。 カルボキシル基を有する糖類としては、 O H基の少なくとも一部が、 カルボキ シル基を有する有機化合物との間でエーテル結合を形成しているものが好ましい。 このような化合物としては、 糖類とグリコール酸とのエーテルが好ましく、 具体 的には、 カルボキシメチルセルロースまたはカルボキシメチルでんぷんが好まし い。 これらの化合物において、 カルボキシメチル基の置換度、 すなわちエーテル 化度は最大で 3となるが、 エーテル化度は 0 . 4以上であることが好ましい。 ェ 一テル化度が小さすぎると、 水に溶けにくくなる。 なお、 カルボキシメチルセル ロースは、 通常、 ナトリウム塩の形で合成され、 本発明ではこのナトリウム塩も 分散剤として用いることができるが、 磁気特性に与える悪影響が少ないことから、 好ましくはアンモニゥ厶塩を用いる。 また、 酸化でんぷんも分子内にカルボキシ ル基を有する糖類であり、 本発明において好ましく用いられる分散剤である。 磁場配向による配向度は、 スラリーの p Hの影響を受ける。 具体的には、 p H が低すぎると配向度は低下し、 これによリ焼結後の残留磁束密度が影響を受ける。 分散剤として水溶液中で酸としての性質を示す化合物、 例えばヒドロキシカルボ ン酸などを用いた場合には、 スラリーの p Hが低くなつてしまう。 したがって、
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例えば、 分散剤と共に塩基性化合物を添加するなどして、 スラリーの p Hを調整 することが好ましい。 上記塩基性化合物としては、 アンモニアや水酸化ナ卜リウ 厶が好ましい。 アンモニアは、 アンモニア水として添加すればよい。 なお、 ヒド ロキシカルボン酸のナトリウム塩を用いることにより、 p H低下を防ぐこともで さる。
六方晶フェライ卜磁石のように副成分として S i 02 および C aC03 を添加 する場合、 分散剤としてヒドロキシカルボン酸やそのラク卜ンを用いると、 主と して成形用スラリー調製の際にスラリーの上澄みと共に S i 02 および C a CO 3 が流出してしまい、 HcJが低下するなど所望の性能が得られなくなる。 また、 上記塩基性化合物を添加するなどして pHを高くしたときには、 S i 02 および CaC03 の流出量がより多くなる。 これに対し、 ヒドロキシカルボン酸のカル シゥ厶塩を分散剤として用いれば、 S i 02 および CaC03 の流出が抑えられ る。 ただし、 上記塩基性化合物を添加したり、 分散剤としてナトリウム塩を用い たりしたときに、 S i 02 および CaC03 を目標組成に対し過剰に添加すれば、 磁石中の S i 02 量および C a 0量の不足を防ぐことができる。 なお、 ァスコル ビン酸を用いた場合には、 S i 02 および C aC03 の流出はほとんど認められ ない。
上記理由により、 スラリーの PHは、 好ましくは 7以上、 より好ましくは 8〜1 1である。
分散剤として用いる中和塩の種類は特に限定されず、 カルシウム塩ゃナトリウ 厶塩等のいずれであってもよいが、 上記理由から、 好ましくはカルシウム塩を用 いる。 分散剤にナトリウム塩を用いたり、 アンモニア水を添加した場合には、 副 成分の流出のほか、 成形体や焼結体にクラックが発生しゃすくなるという問題が 生じる。
なお、 分散剤は 2種以上を併用してもよい。
分散剤の添加量は、 酸化物磁性体粒子である仮焼体粒子に対し、 好ましくは 0 . 0 5〜3 . 0重量%、 より好ましくは 0 . 1 0〜2 . 0重量%である。 分散剤が 少なすぎると配向度の向上が不十分となる。 一方、 分散剤が多すぎると、 成形体 や焼結体にクラックが発生しゃすくなる。
なお、 分散剤が水溶液中でイオン化し得るもの、 例えば酸や金属塩などである ときには、 分散剤の添加量はイオン換算値とする。 すなわち、 水素イオンや金属 イオンを除く有機成分に換算して添加量を求める。 また、 分散剤が水和物である 場合には、 結晶水を除外して添加量を求める。 例えば、 分散剤がダルコン酸カル シゥ厶一水和物である場合の添加量は、 ダルコン酸イオンに換算して求める。 また、 分散剤がラクトンからなるとき、 あるいはラクトンを含むときには、 ラ クトンがすべて開環してヒドロキシカルボン酸になるものとして、 ヒドロキシカ ルポン酸ィォン換算で添加量を求める。
分散剤の添加時期は特に限定されず、 乾式粗粉砕時に添加してもよく、 湿式粉 碎時の粉碎用スラリ一調製の際に添加してもよく、 一部を乾式粗粉砕の際に添加 し、 残部を湿式粉砕の際に添加してもよい。 あるいは、 湿式粉砕後に撹拌などに よって添加してもよい。 いずれの場合でも、 成形用スラリー中に分散剤が存在す ることになるので、 本発明の効果は実現する。 ただし、 粉砕時に、 特に乾式粗粉 砕時に添加するほうが、 配向度向上効果は高くなる。 乾式粗粉碎に用いる振動ミ ル等では、 湿式粉砕に用いるボールミル等に比べて粒子に大きなエネルギーが与 えられ、 また、 粒子の温度が上昇するため、 化学反応が進行しやすい状態になる と考えられる。 したがって、 乾式粗粉砕時に分散剤を添加すれば、 粒子表面への 分散剤の吸着量がより多くなリ、 この結果、 より高い配向度が得られるものと考 えられる。 実際に、 成形用スラリー中における分散剤の残留量 (吸着量にほぼ等 しいと考えられる) を測定すると、 分散剤を乾式粗粉碎時に添加した場合のほう が、 湿式粉砕時に添加した場合よりも添加量に対する残留量の比率が高くなる。
なお、 分散剤を複数回に分けて添加する場合には、 合計添加量が前記した好まし い範囲となるように各回の添加量を設定すればよい。
成形工程後、 成形体を大気中または窒素中において 1 0 0〜5 0 0 °Cの温度で 熱処理して、 添加した分散剤を十分に分解除去する。 次いで焼結工程において、 成形体を例えば大気中で好ましくは 1 1 5 0〜1 2 5 0 °C、 より好ましくは 1 1 6 0 - 1 2 2 0 °〇の温度で0 . 5 ~ 3時間程度焼結して、 異方性六方晶フェライ 卜磁石を得る。
本発明の磁石の平均結晶粒径は、 好ましくは 2 m以下、 より好ましくは 1 μ m以下、 さらに好ましくは 0 . 5〜1 . であるが、 本発明では平均結晶粒 径が 1 iu mを超えていても、 十分に高い保磁力が得られる。 結晶粒径は走査型電 子顕微鏡によって測定することができる。 なお、 比抵抗は 1 0 ° Ω πι 程度以上で ある。
なお、 前記成形体をクラッシャー等を用いて解砕し、 ふるい等により平均粒径 が 1 0 0〜7 0 0 t m程度となるように分級して磁場配向顆粒を得、 これを乾式 磁場成形した後、 焼結することにより焼結磁石を得てもよい。
なお、 前記の仮焼体のスラリーを用いた粉碎後、 これを乾燥し、 その後焼成を 行つて磁石粉末を得てもよい。
本発明の六方晶フェライ卜磁石を使用することにより、 一般に次に述べるよう な効果が得られ、 優れた応用製品を得ることができる。 すなわち、 従来のフェラ ィ卜製品と同一形状であれば、 磁石から発生する磁束密度を増やすことができる ため、 モータであれば高卜ルクイ匕等を実現でき、 スピーカーやヘッドホーンであ れば磁気回路の強化によリ、 リニアリティ一のよい音質が得られるなど応用製品 の高性能化に寄与できる。 また、 従来と同じ機能でよいとすれば、 磁石の大きさ (厚み) を小さく (薄く) でき、 小型軽量化 (薄型化) に寄与できる。 また、 従 来は界磁用の磁石を巻線式の電磁石としていたようなモータにおいても、 これを
六方晶フェライ卜磁石で置き換えることが可能となり、 軽量化、 生産工程の短縮、 低価格化に寄与できる。 さらに、 保磁力 (HcJ) の温度特性に優れているため、 従来は六方晶フェライ卜磁石の低温減磁 (永久減磁) の危険のあった低温環境で も使用可能となり、 特に寒冷地、 上空域などで使用される製品の信頼性を著しく 高めることができる。
本発明の六方晶フェライ卜磁石は所定の形状に加工され、 下記に示すような幅 広い用途に使用される。
例えば、 フユエールポンプ用、 パワーウィンド用、 AB S用、 ファン用、 ワイ パ用、 パワーステアリング用、 アクティブサスペンション用、 スタータ用、 ドア ロック用、 電動ミラ一用等の自動車用モータ; FDDスピンドル用、 VTRキヤ プスタン用、 VTR回転ヘッド用、 VTRリール用、 VTRローデイング用、 V TRカメラキヤプスタン用、 VTRカメラ回転ヘッド用、 VTRカメラズーム用、 VT Rカメラフォーカス用、 ラジカセ等キヤプスタン用、 CD, LD, MDスピ ンドル用、 CD, LD, MDローデイング用、 CD, LD光ピックアップ用等の OA、 AV機器用モータ;エアコンコンプレッサー用、 冷蔵庫コンプレッサー用、 電動工具駆動用、 扇風機用、 電子レンジファン用、 電子レンジプレー卜回転用、 ミキサ駆動用、 ドライヤーファン用、 シェーバー駆動用、 電動歯ブラシ用等の家 電機器用モータ;ロボッ卜軸、 関節駆動用、 ロボッ卜主駆動用、 工作機器テープ ル駆動用、 工作機器ベル卜駆動用等の F A機器用モータ;その他、 オートバイ用 発電器、 スピーカ ·ヘッドホン用マグネット、 マグネトロン管、 MR I用磁場発 生装置、 CD— ROM用クランパ、 ディス卜リビュータ用センサ、 ABS用セン サ、 燃料 ·オイルレベルセンサ、 マグネットラッチ等に好適に使用される。 実施例
<実験例 >
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原料としては、 次のものを用いた。
F e 203粉末 (一次粒子径 0. 3 tm) 、 1 000. 0 g
(不純物として Mn, C r , S i , C Iを含む)
S r C 03粉末 (一次粒子径 2 m) 、 1 30. 3 g
(不純物として B a, Caを含む)
酸化コバル卜 1 7. 56 g
L a 203 35. 67 g
また添加物として、
S i 02粉末 (一次粒子径 0. 01 ) 2. 30 g
C a C O 3粉末 (一次粒子径 1 t m) Ί . 72 g
を用いた。
上記出発原料および添加物を湿式ァ卜ライターで粉碎後、 乾燥 *整粒し、 これ を空気中において 1 250°Cで 3時間焼成し、 顆粒状の仮焼体を得た。 得られた 仮焼体の磁気特性を試料振動式磁力計 (VSM) で測定した結果、 飽和磁化 cr s は 68 emu/g 、 保磁力 HcJは 4. 6kOeであった。
得られた仮焼体 (1 1 0g ) に対し、 S i 02 (0. 44g ) 、 CaC03 (1.
38g ) を、 それぞれ所定量混合し、 さらにダルコン酸カルシウム (1. 1 3g ) を添加し、 バッチの振動ロッドミルにより 20分間乾式粗粉砕した。 このと き、 粉砕による歪みが導入され、 仮焼体粒子の HcJは、 1. 7kOe に低下して いた。
この操作を 2回行い、 得られた粗粉砕材を 2 1 0 g採取し、 分散媒として水を
400cc加えて混合し、 粉碎用スラリーを調整した。 仮焼体の比表面積が 7m 2/g となるまで粉碎を行なった。 粉砕用スラリーの固形分濃度は 34重量%であった。 この湿式粉砕用スラリーを用いて、 ボールミル中で湿式粉砕を 40時間行った。 湿式粉碎後の比表面積は、 8. 5mVg (平均粒径 0. 5 m ) であった。 湿
式粉砕後のスラリーの上澄み液の pHは、 9〜1 0であった。
湿式粉砕後、 粉碎用スラリーを遠心分離して、 スラリー中の仮焼体粒子の濃度 が約 78%となるように調整し、 成形用スラリーとした。 この成形用スラリーか ら水を除去しながら圧縮成形を行った。 この成形は、 圧縮方向に約 1 3kOe の 磁場を印加しながら行った。 得られた成形体は、 直径 30mm、 高さ 1 8mmの 円柱状であった。 成形圧力は 0. 4 ton/cm2とした。
次に、 成形体を 1 00~360°Cで熱処理してダルコン酸を十分に除去した後、 空気中において、 昇温速度を 5 °CZ分間とし、 1 220°Cで 1時間保持すること により焼成を行い、 焼結体を得た。 得られた焼結体を高分解能 TEMで観察し、 積層欠陥部分と、 それ以外の部分との組成分析を EDS分析により行った。 各 1 0点を測定した平均値を以下に示す。
積層欠陥部分 (wt%) 積層欠陥以外の部分 (wt%) F e 203 84.5 84.2
S r O 8.5 9.8
L a 203 3.4 3.7
C o O 2.6 0.9
S i 02 0.8 1.0
C a O 0.2 0.4
この場合、 EDSによる分析領域 (スポットサイズ) は、 積層欠陥の幅よりも 広いため、 積層欠陥部分の組成は、 その他の部分の影響を受けているが、 明確な 傾向として、 積層欠陥部分に Coが多く存在していることが確認された。 さらに、 積層欠陥部分を高分解能 TEM (透過型電子顕微鏡) で注意深く観察した。 本発 明の六方晶フェライ卜磁石の一般的な結晶構造を図 1に、 積層欠陥部分の高分解 能 TEM写真の複写を図 2に示す。 図 1に示されるように、 M型六方晶フェライ 卜は、 S層 層 ZS*層 ZR*層のように、 S層と R層とが交互に積層する構
造を有している。 ここで、 S* , R* は、 S, Rを c軸を中心に 1 80度回転さ せたものである。 しかしながら、 図 2から、 積層欠陥は、 この周期が乱れている 部分であることがわかった。 なお、 図中 Cで示す領域は格子定数 Cに対応する長 さ (単位胞または単位格子) を表している。 ここで、 Coなどの 2価のイオンは スピネル層にはいるものと考えられるから、 積層欠陥が、 スピネル層の "Intergro wth Layer"であると考えれば、 積層欠陥部分の C o濃度が高いことを説明できる ことがわかった。
実施例 1 〔焼結磁石:サンプリレ 1 (水系後添加) 〕
原料としては、 次のものを用いた。
F e 203粉末 (一次粒子径 0. 3 im) 、 1 000. 0 g
(不純物として Mn, C r, S i, C Iを含む)
S r C03粉末 (一次粒子径 2 ) m) 、 1 61. 2 g
(不純物として B a, Caを含む)
また添加物として、
S i 02粉末 (一次粒子径 0. 01 tm) 2. 30 g
C a C 03粉末 (一次粒子径 1 tm) 1. 72 g
を用いた。
上記出発原料および添加物を湿式ァ卜ライターで粉碎後、 乾燥 '整粒し、 これ を空気中において 1 250°Cで 3時間焼成し、 顆粒状の仮焼体を得た。
得られた仮焼体 (87. 26 g) に対し、 S i 02 (0. 44g ) 、 CaC03 (1. 38g ) 、 炭酸ランタン 〔La2 (C03) 3 · 8Η20〕 (6. 1 2g ) 、 酸化コバルト (CoO) (Ί . 63g ) を、 それぞれ混合し、 さらにダルコン酸 カルシウム (1. 1 3g ) を添加し、 バッチの振動ロッドミルにより 20分間乾 式粗粉碎した。 このとき、 粉碎による歪みが導入され、 仮焼体粒子の HcJは、 1 · 7 kOe に低下していた。
この操作を 2回行い、 得られた粗粉砕材 1 7 7 gを採取し、 これに原料として 使用したのと同じ酸化鉄 (Q!_ F e 203) 3 7. 25 g加え、 分散媒として水を 400cc加えて混合し、 粉碎用スラリーを調整した。 仮焼体の比表面積が 7m 2/g となるまで粉砕を行なった。 粉砕用スラリーの固形分濃度は 34重量%であった。 この湿式粉砕用スラリーを用いて、 ボールミル中で湿式粉碎を 40時間行った。 湿式粉砕後の比表面積は、 8. 5mVg (平均粒径 0. 5 tm ) であった。 湿 式粉碎後のスラリーの pHは、 9. 5であった。
湿式粉砕後、 粉砕用スラリーを遠心分離して、 スラリー中の仮焼体粒子の濃度 が 7 8%となるように調整し、 成形用スラリーとした。 この成形用スラリーから 水を除去しながら圧縮成形を行った。 この成形は、 圧縮方向に約 1 3kOe の磁 場を印加しながら行った。 得られた成形体は、 直径 3 0mm、 高さ 1 8mmの円 柱状であった。 成形圧力は 0. 4ton/cm2とした。
次に、 成形体を 1 00 300°Cで熱処理してダルコン酸を十分に除去した後、 空気中において、 昇温速度を 5 分間とし、 1 2 20°Cで 1時間保持すること により焼成を行い、 焼結体を得た。 得られた焼結体の組成は、
O Γ 0. 8 L 3- 0. 2 ( * e ii. 8 O o. 2 19
であった。 得られた焼結体の a面の組織を T EM (透過型電子顕微鏡) で観察し た。 このときの倍率は 1 0000倍、 視野は 2視野観察した。 その結果、 全体の 結晶粒子の数 N (N = 80) に対する積層欠陥を有する結晶の数 nの割合 nZN は、 9Z80であった。 得られた試料の T EM写真を図 3 4に示す。 また、 こ れらの拡大写真を、 それぞれ図 5 (上半分) 、 6 (下半分) 、 および図 7 (上半 分) 、 8 (下半分) に示す。 また、 T EM観察と同時に E DSによる成分分析を 行った結果、 L aは粒子内の中心部で殆ど存在せず、 粒界近傍や、 三重点部分に 多く存在していた。 結果を図 9〜図 1 1に示す。 ここで、 図 9は粒界部、 図 1 0 は結晶粒内部、 図 1 1は三重点における分析結果を表している。 さらに、 観察さ
れた任意の粒子 1, 3について、 粒界→粒子内部→粒界と連続的に L a 203 お よび C 00の分析を行った。 結果を図 1 2, 1 3および図 1 4, 1 5に示す。 こ れらの測定結果からも、 L a、 および Coも粒子内部より粒界近傍に高濃度で存 在することが確認された。 なお、 各試料を X線回折により解析したところ、 いず れも M型フェライ卜単相であった。
さらに、 得られた焼結体の上下面を加工した後、 残留磁束密度 (B r) 、 保磁 力 (HcJおよび Hcb) および最大エネルギー積【(BH)max]、 飽和磁化 (4 π I s) 、 磁気的配向度 ( I r / I s) 、 角型性 (Hk /HcJ) を測定した。 結果を 表 1に示す。
次いでサンプルを直径 5mmX高さ 6. 5mmに加工した。 3 にょリ(:軸 方向の磁化の温度依存性を測定することによリキユリ一温度 T cを求めた。 その 結果本発明サンプル No. 1のキュリー温度 T cは、 440°Cと 456°Cの 2段に なっていることがわかった。 表 1
サンプル 4π Is Br HcJ Ir/ls Hk/HcJ (BH)max 焼結密度
(KG) (KG) (kOe) (¾) (¾) (MGOe)
1 4.47 4.34 4.60 97.2 91.7 4.6 5.02
2* 4.52 4.33 4.61 95.8 89.5 4.5 5.06
*は比較サンプルを表す
実施例 2
実施例 1の方法で作製した成形体を、 酸素濃度を 1 %、 20%、 50 %として 焼成し、 実施例 1と同様にして磁気特性、 およびキュリー温度、 B rの温度係数 を測定した。 結果を表 2に示す。
CO
t 〇
〇 t O
CO
σ> t
0.19 12206.98 2.03 93 44094 4095 96.. 4 CO
096 05
O
0.19 1202 5.002 4458 4.5768 96. .92 44
0 1
O
t 1220 70 .5.60 5.02 2.16 4360 3589 3073.2 4
to
-a
()(C)) () (g0 ()0. , No ()C.cclC T2 TGGGG〇e/cm :_。
) { f ^函^.v 4 HcbBmaxCJH
≠ 2
CD
00 ^ ^
o
CO
o n
Ht'lO/66<If/X3d S6厶ム 9/66 O W
表 2から明らかなように、 酸素濃度の増加に従い、 得られた焼結体の磁気特性 が向上していることがわかる。
さらに、 焼成雰囲気 02 : 1 %、 と 20%で得られた焼結体を TEMで観察し た。 結果を図 1 6および 1 7に示す。 図 1 6, 1 7から明らかなように、 酸素濃 度が少な L、と欠陥が増加することがわかる。
比較例 1 〔焼結磁石:サンプル 2 (溶剤系前添加) 〕
原料としては、 次のものを用いた。
F e 203粉末 (一次粒子径 0. 、 1 000. 0 g
(不純物として Mn, C r, S i, C Iを含む)
S r C03粉末 (一次粒子径 2 μιη) 、 1 30. 3 g
(不純物として B a, Caを含む)
酸化コバルト 1 7. 56 g
L a 203 35. 67 g
また添加物として、
S i 02粉末 (一次粒子径 0. 01 m) 2. 30 g
C a CO 3粉末 (一次粒子径 1 m) 1. 72 g
を用いた。
上記出発原料および添加物を湿式ァ卜ライターで粉砕後、 乾燥 '整粒し、 これ を空気中において 1 250°Cで 3時間焼成し、 顆粒状の仮焼体を得た。 得られた 仮焼体の磁気特性を試料振動式磁力計 (VSM) で測定した結果、 飽和磁化 σ s は 68 emu/g 、 保磁力 HcJは 4. 6kOeであった。
得られた仮焼体 (1 1 0g ) に対し、 S i O2 (0. 44g ) 、 CaC03 (1. 38g ) を、 それぞれ所定量混合し、 バッチの振動ロッドミルにより 20分間乾 式粗粉碎した。 このとき、 粉碎による歪みが導入され、 仮焼体粒子の HcJは、 1. 7 kOe に低下していた。
次いで、 非水系溶媒としてキシレンを用い、 界面活性剤として才レイン酸を用 いて、 ボールミル中で仮焼体粉末を 40時間湿式粉砕した。 才レイン酸は、 仮焼 体粉末に対して、 1 . 3重量%添加した。 スラリー中の仮焼体粉末は、 33重 量%とした。 粉碎は、 比表面積が8 9^12 9 となるまで行った。
湿式粉碎後、 粉砕用スラリーを遠心分離して、 スラリー中のフェライ卜粒子の 濃度が約 85%となるように調整し、 成形用スラリーとした。 この成形用スラリ 一から溶剤を除去しながら圧縮成形を行った。 この成形は、 圧縮方向に約 1 3kO e の磁場を印加しながら行った。 得られた成形体は、 直径 30mm、 高さ 1 8m mの円柱状であった。 成形圧力は 0. 4ton/cm2とした。
次に、 成形体を 1 00 360°Cで熱処理して才レイン酸を十分に除去した後、 空気中において、 昇温速度を 5 °C/分間とし、 1 220°Cで 1時間保持すること により焼成を行い、 焼結体を得た。 得られた焼結体の組成は、
^ Γ 0. 8 I— 3- 0. 2 0. 2) O 1 9
であった。 得られた焼結体を上記サンプル 1と同様にして TEMで観察した。 そ の結果、 全体の結晶粒子の数 N (N= 1 20) に対する積層欠陥を有する結晶の 数 nの割合 n/Nは、 50 1 20であった。 得られた試料の T E M写真を図 1 8 1 9に示す。 また、 TEM観察と同時に EDSによる成分分析を行った結果、 上記実施例と異なり、 L a濃度は、 結晶粒子内、 粒界近傍、 三重点部で殆ど変化 はなかった。 結果を図 20〜図 22に示す。 ここで、 図 20は粒界部、 図 2 1は 結晶粒内部、 図 22は三重点における分析結果を表している。 これにより、 実施 例の後添加方式だと結晶粒内の L a量が少なくなることがわかった。 なお、 各試 料を X線回折により解析したところ、 いずれも M型フェライ卜単相であった。 さらに、 得られた焼結体の上下面を加工した後、 残留磁束密度 (B r) 、 保磁 力 (HcJおよび Hcb) および最大エネルギー積 [(BH)max]、 飽和磁化 (4 π I s) 、 磁気的配向度 ( I r / I s) 、 角型性 (Hk /HcJ) を測定した。 結果を
77
37
表 1に示す。
次いでサンプルを直径 5 mmX高さ 6. 5 mmに加工した。 31/1にょリ(:軸 方向の磁化の温度依存性を測定することによリキュリ一温度 T cを求めた。 その 結果比較サンプル No. 2のキュリー温度 Tcは、 444°Cの 1段になっているこ とがわかった。
比較例 2 〔焼結磁石: (サンプル 3 : Z n含有溶剤系前添加) 〕
比較例 1において C 0の代わりに Z nを含有するよう原料粉末を替え、 かつ最 終組成が、
^ ^ 0. 8 0. 3 ( ϊ β 1 1. η L Π o. 3 ) o19
(R = L a, Ce, P r, N d , Sm)
となるように調整した他は、 比較例 1と同様にして焼結体を得た。 得られた焼結 体を上記サンプル 1と同様にして TEMで観察した。 その結果、 全体の結晶粒子 の数 Nに対する積層欠陥を有する結晶の数 nの割合 nZNは、 0. 6~0. 8で あった。 さらに、 1個の結晶粒子中に、 3個以上の積層欠陥を含む結晶も多く観 察された。 次に、 TEM— EDSにより積層欠陥部分と、 それ以外の部分との組 成分析を行った。 各 1 0点を測定した平均値を以下に示す。
積層欠陥部分 (wt%) 積層欠陥以外の部分 (wt%) F e 203 83.99 84.65
S r O 6.49 7.22
L a203 5.22 6.13
Z n O 4.30 2.00
これより、 積層欠陥部分に Z nが多く存在していることがわかった。 これらの サンプルの T EM写真を図 23, 24に示す。
比較例 3
焼結体の組成を、 S r 1— x Lax Fe l 2— xCo xOl 9
(x = 0, 0. 1 , 0. 2, 0. 3, 0. 4, 0. 6) となるよう、 比較例 1と同様にして焼結体を作製して、 ΤΕΜにより観察した。 その結果、 積層欠陥の割合は、 以下の表 3に示すように、 L aと Coの比率が増 える (Xが増加する) に従って、 積層欠陥の割合が増加することがわかった。 ま た、 これらの積層欠陥部分では、 Co濃度が高いことがわかった。 表 3
サンプル 欠陥存在割合
No. X
21 0/30
22 3/30
23 12/30
24 15/30
25 25/30
26 29/30
さらに、 比較例 1と同様にして焼結体の磁気特性を測定した。 結果を表 4に示 す。 焼結体の磁気特性 (特に HcJ) は、 x = 0〜0. 3の範囲では Xの増加とと もに向上するが、 Xが 0. 4以上では逆に劣化した。 このことは、 L aと Coを 含有させることによる特性向上効果に、 積層欠陥の割合が増加することによる特 性劣化効果が掛け合わされた結果と考えられる。 従って、 積層欠陥の割合を低く 抑えることにより、 L aと Coの効果をさらに高めることができると考えられる。
表 4
サンダル X 4π Is Br He J Hcb Ir/Is Hk/HcJ (BH)max 密度
No. (KG) (KG) (Oe) (0e) (¾) (¾) (MGOe)
Λ 0779 Q7 QA 9Q 7Q
L 1 I Q
U o oconunu 4.98
22 0.1 4534 4434 4328 3912 97.79 90. 24 4.82 4.97
23 0.2 4553 4431 4581 3991 97.32 86.61 4.84 5.02
24 0.3 4559 4446 4822 4010 97.52 82.95 4.86 5.04
25 0.4 4564 4449 4178 3613 97.45 80. 78 4.81 5.06
26 0.6 4165 3988 2857 2691 95. 75 88.58 3.79 4.65 比較例 4
焼結体の組成が、
Γ 0. 7し 3« 0. 3 ■ 61 1. 7 N I 0. 3し 1 9 0. e L cl o. 2 F e i i. βΜ Π ο. 2^ 1 9
J (Q
O ο. 8 L a. ο. 2 ' G i i, 8し U o. 2 ^ 1 9
S r Fe, i. 6 i o. 201 9
となるようにした以外は、 比較例 1と同様にして焼結体を作製し、 TEM— ED Sで解析した。 その結果、 S r。.8La。.2F e11 8Mn。.20,9 以外の試料には 同様の欠陥の存在が確認され、 欠陥部分には焼結体の元素 Mが高濃度に存在する ことが確認された。
以上の実施例から、 本発明の効果が明らかである。 効果
以上のように本発明によれば、 M型フェライ卜の飽和磁化と磁気異方性とを同
時に高めることにより、 従来の M型六方晶フェライ卜磁石では達成不可能であつ た高い残留磁束密度と高い保磁力とを有する六方晶フェライ卜磁石を実現するこ とができる。