明細書 核酸導入ファージ 技術分野
本発明は遺伝子工学の分野、 特にウィルス粒子を使って核酸のような外来物を 細胞の外から中へ輸送するための技術に関する。 背景技術
細胞に外来遺伝子を人為的に導入する遺伝子導入技術は、 様々な生命現象を解 析するための基礎技術としてのみならず、 遺伝子治療や有用動物の作出など人類 にとって有意義な応用への道を切り開く重要な技術であるといえる。 遺伝子導入 技術には、 大きく分けて 2つの方法が用いられている。 1つは、 外来遺伝子を導 入したウィルスを用いる生物学的方法であり、 もう 1つは、 外来遺伝子を物理的 に細胞内へ導入する物理的方法である。
ウィルスを用いる方法は、 目的の遺伝子を組み込んだ組み換えゥィルスを細胞 に感染させ、 ウィルスゲノムごと細胞のゲノムに組み込ませるという原理に基づ いており、 現在、 レッシュ 'ナイハン症候群やアデノシンデァミナ一ゼ (ADA) 欠 損症などに対する遺伝子治療の基盤技術として最も注目されている方法である。 しかし、 この方法は、 ウィルスの生物学的特性をそのまま用いているため、 ゥ ィルスの病原性など様々な問題が指摘されてきた。 レトロウィルスにおいては、 現在、 ウィルスの病原性や複製に関する領域をゲノムから除去した改変べクタ一 が開発されている。 しかし改変ベクターとはいえ、 たとえば細胞内の相同組み換 えによって再び感染性を獲得する危険性がある。 またレトロウィルスの生活環を 利用している以上、 分裂している細胞にしか適用することができないという制約 がある。 神経細胞のような分裂していない細胞にも利用できるウィルスベクタ一
の材料として、 アデノウイルスが知られている。 しかしアデノウイルスにはべク 夕一自身の細胞毒性や抗原性の問題がある。 またべクタ一の調製に培養動物細胞 が必要なことから、 製造面においても不利である。
そこで、 ウィルスを用いる方法と並行して、 非ウィルスベクタ一を導入する物 理的方法が用いられている。 この物理的方法では、 これまでリン酸カルシウム、 D EAE-デキストラン、 ポリカチオン、 リボソームなどの化学物質と非ウィルスべク 夕一とを組み合わせて細胞内に導入する方法が確立されている。 しかし物理的方 法では、 一般に遺伝子の細胞への導入効率が低いとされている。 加えて、 細胞内 に導入された非ウィルスベクタ一上の外来遺伝子が細胞核内へ到達する確率も低 いという問題点があり、遺伝子治療などへの応用に向けて克服すべき課題が多レ 。 ここで、 これらの遺伝子導入技術に共通する遺伝子の挙動を簡単にまとめる。 遺伝子を細胞の中で働かせるには、 おおまかにいって、 人為的に構成した遺伝子 (細胞の外にある) が標的細胞の表面にたどり着きその中に取り込まれる工程、 そして細胞内に入った遺伝子が核にたどり着く工程、 最後に核内で転写され発現 にいたる過程(構造遺伝子の場合)、 が必要になる。あるいは転写制御系に作用す る塩基配列を導入するのであれば、 転写が行われる場にその配列を効率よく機能 させる必要がある。 先に述べたレトロウイルスを利用した方法は、 これらのすべ てのステップが比較的効率よく進む。 他方、 物理的な方法では、 全ての工程で高 い効率を達成しにくいという特徴がある。 これらの過程を効率化することを目的 として、 様々な試みが報告されている。
まず、 細胞内部に導入した遺伝子を核に移行させる過程を改善する方法として 、 核移行シグナル (Nuclei Localization Signal ;NLSとも呼ばれる) の応用が提 案された。 NLSは、核内に輸送されるシグナルの役割を果たす特定のアミノ酸配列 である (G. Garcia-Bustosetal .BiochemBiophysActa, 1071 , 83-101( 1991 ) ) o本来核 に移行しないタンパク質に NLSを付加すると、核内への移行活性が付与されるとい う報告がある (R. E.Lanfordetal .Cell , 46, 575 - 582( 1986 )、 Y. Yonedaetal · ExpCel
lRes, 170,439-452(1987)、 D.Chelskyetal.MolCellBiol, 9, 2487-2492(1989))。 こ の知見に基づき、 NLSを用いて、物理的方法により導入された遺伝子の核内への到 達率を高める研究が進められている。すなわち、 DNAをできるだけ核膜孔に近いサ ィズまで凝集させ、 この凝集物に NLSを付与し、 DNAを積極的に核に移行させる手 法が研究されている。 DNAを小さく凝集させるために、 たとえばポリいリジン (J oseC.PERALESetal.E.J.B.266,255-266(1994)), カチォニックリポソ一ム (J.Zab neretal. J. B.C.270, 18997-19007(1995)) の他、 HMG- 1やヒストンなどのタンパク 質などを用いる研究が行われてきた。
しかしながら、 このような合成化学的アプローチによる方法では、 DNAとの複合 体の溶解性や均一性に問題があったり、 また、塩濃度により DNAの凝集の度合いが 変化するという問題があつた。また DNAを物理的に小さくする技術には限界が有る ため、 導入できる遺伝子の大きさを制限する要因となっていた。 更に、 これら非 ウィルスベクターを利用する方法では、 一般に使用時にプラスミ ドとのコンプレ ックス形成を行う必要が有るので、 利用者がそのまま使える商品形態(ready to use)を採用できない。 これは商業的な供給を考えると大きな障害になる。 また大 腸菌等で増幅したプラスミ ドゃコスミ ドを回収するには、 アルカリ法、 ホットフ ェノール法、 臭化工チジゥム /塩化セシウム超遠心法、 あるいはカラム法といつ た過酷な精製ステップが必要となる。 そのため、 回収された遺伝子が損傷を受け る心配が有った。
この他、 HIVの TATを細胞への物質輸送に応用する技術が報告されている(W094/ 04686)。 この先行技術では、 TATの移送活性を持つセグメントに、 タンパク質や 2 本鎖核酸を結合して細胞への輸送を試みている。ただし 2本鎖 DNAの輸送は、その 発現を目的とするものではなく、 単に転写調節領域の競合的な阻害を目的とする ものである。すなわち、 TATの輸送夕ンパク質としての機能を物質輸送に利用した 報告が有るが、 細胞内における発現を可能とする遺伝子の輸送技術には未だに応 用されていない。
TATの特定領域 LGISYGRKKRRQRRRPPQが細胞への物質輸送に必須の部分であるこ とは公知である(Eric vives et al J. Biol . Chem.272, 16010- 16017( 1997) )。しか し、 遺伝子の移送から発現にいたる過程に、 この領域がどのように関与するのか については未知である。
ところで、 アデノウイルスや SV40ウィルスなど動物に感染するウィルスでは、 キヤプシドタンパク質に NLSが存在しており、 感染の初期において DNAを積極的に 核内へ移行させる働きをしていることが示唆されている (Urs . F . GreberandHarum iKasamatsu. TrendsinCellBiologyvol6, 189-195( 1996) ) o また、 直径 50nmの SV40 粒子が、 核内に粒子のまま進入することも示唆されている (K.HumMeleretal .JVi ol,6,87- 93( 1970 ) )。 さらに、 MS- 2ファージでは、外来の物質をキヤプシドで包む 輸送系が報告されている (特表平 7- 508168)。 しかしウィルスを NLSと組み合わせ て長鎖 DNAの移送をも可能とする技術についての開示はない。
以上のような問題点を解消するため、本出願人は先に NLSを頭部に付与したファ —ジと、 このファージを用いた核への物質移送技術を完成し特許出願している(W 098/6828 ) 0 この技術によれば、 細胞内へ導入された NLSを持つ遺伝子は、 効率よ く核にたどり着き発現する。しかもファージ内部には長鎖 DNAのパッケージングが 可能である。 しかし、 NLSは細胞外において細胞に吸着し、 内部に取り込まれる過 程には関与しない。 したがつてこの先行技術においては、 NLSを与えた遺伝子を細 胞内にマイクロインジヱクシヨンによって導入することで細胞内部へ遺伝子を導 入していた。
一方、細胞表面に遺伝子が吸着し内部に取り込まれる過程を効率化するために、 細胞表面のレセプ夕一に対するリガンドを利用する方法がある。 具体的には、 入 ファージの尾部 (自然の状態では大腸菌表面に吸着する部分) を標的細胞のレセ プ夕一に対応するリガンドで修飾して細胞への吸着効率を向上させる方法が公知 である (W096/21007)。 この方法では、 遺伝子が細胞に取り込まれる過程は効率化 できるが、 その後に続く核への移送効率については改善できない。 同様の試みと
して、尾部を細胞接着性ぺプチドである RGDで修飾したファージが報告されている ( IS Dunn, Biochimie78, 856-861 ; 1996 )。この報告によれば、十分な発現効率は得 られていない。 そこで、 人ファージの頭部をリガンドで修飾するとともに、 尾部 に NLSを与える方法も知られている (W098/5344)。 この方法は、 えファージを頭部 と尾部の 2個所で組み換える必要が有るので製造が困難である。また原理的には、 核移行まで含めた複数の過程の効率化を説明できるが、 現実には期待どおりの効 果を得るにはいくつかの問題点が残る。 すなわち、 人ファ一ジの尾部にある NLS が、 頭部内部にパッケージングされている核に移行させるべき遺伝子に対して十 分に機能できるとは考えにくいのである。
更にアンテナべディァ(antennapedia)と呼ばれる昆虫由来のタンパク質を利用 して、 物質輸送を試みた報告が有る。 アンテナべディアをべクタ一として、 これ に夕ンパク質や DNAを結合させ、細胞外から核への物質移送が可能であることを示 している。 アンテナべディアと他の物質との結合については、 化学的な結合や遺 伝子工学的な手法などが利用可能であるとされている。 しかし、 この報告(Trend s Cel l Biol. Vol .8, 84-87, 1998. Feb. )に基づく物質移送方法では、 移送すべき 物質の大きさが著しく制限される。 たとえば DNAであれば、 55塩基、 タンパク質で あれば 100アミノ酸残基を限界としており、これでは必要な物質を移送するには不 十分である。 アンテナべディアと同様のベクターとして利用できるタンパク質に は、 ラクトフエリン(Nature, 1995 Feb, 373 : 6516, 721-4), ヘルぺスウィルス V P22タンパク質(Cell 88, 223-233, 1997)、 あるいは繊維芽細胞成長因子 2 (Bioes says, 1995 Jan, 17: 1, 39- 44)などが知られている。 しかしいずれのタンパク質 においても、 公知の方法においては限られた大きさの物質の移送しか行うことが できなかった。また、 自己抗体である抗 DNA抗体の可変領域が細胞を透過して核に 至ることは公知である。 そして特定のクローンにおいてではある 、 可変領域の 中で超可変領域である CDR2と CDR3とを連結したぺプチドが、 ハプテンやポリヌク レオチドを核に移送し有効に機能させることが明らかにされている(Proc . Natl . A
cad. Sci . USA, Vol . 95,pp5601- 5606, May, 1998)。この試みにおいては、今までにな く大きな物質の移送が確認されている。 しかしこの方法においても、 lOkbpを越え る大きさの DNAの運搬はコンプレックスの形成に支障をきたす恐れが有るために 依然として困難と考えられる。 そのうえプラスミ ドを使用直前に混合しなければ ならず、また DNAとのコンプレックス形成のための至適条件が限られており濃度の 上昇などに伴って沈殿を生じる可能性がある、 といった非ウィルスベクタ一に共 通の問題点を残していると思われる。 発明の開示
本発明の課題は、 細胞の外から細胞内にある核まで高い効率で物質を到達させ ることができる新規なシステムの提供である。 より具体的には、 ファージを利用 することにより長鎖 DNAであってもパッケージングが可能であり、しかも製造が容 易で細胞への取り込みから核への到達にいたる全過程において、 効率の改善が期 待できる新規な技術の提供が本発明の課題である。
本発明者らは、 HIVの TATが、 NLSと同様の核移行活性とともに細胞吸着活性を併 せ持つことに着目した。 そして TATに代表される 2機能性のタンパク質でファージ の頭部を修飾することにより、 前記課題を解決した。 すなわち本発明は、 以下の ような技術を提供する。
[ 1 ] 頭部の構成成分として、 核移行活性と細胞吸着活性とを併せ持つタンパク 質を含むファージまたはその頭部。
[ 2 ] 核移行活性と細胞吸着活性とを併せ持つタンパク質が、 HIVの TAT、 または その転移活性ドメインである、 [ 1 ] のファージまたはその頭部。
[ 3 ] 転移活性ドメインが配列番号: 1に示すアミノ酸配列を含むぺプチドであ る [ 2 ] のファージまたはその頭部。
[ 4 ] ファージが λファージである、 [ 1 ] のファージまたはその頭部。
[ 5 ] 核移行活性と細胞吸着活性とを併せ持つタンパク質が、 このタンパク質と
ファ一ジ頭部夕ンパク質との融合夕ンパク質である、 [ 1 ]のファ一ジまたはその 頭部。
[6] ファージ頭部タンパク質が、 人ファージ Dタンパク質である [5] のファ —ジまたはその頭部。
[ 7 ] 核移行活性と細胞吸着活性とを併せ持つタンパク質とファージ頭部を形成 するタンパク質との融合タンパク質。
[8]核移行活性と細胞吸着活性とを併せ持つタンパク質が、 配列番号: 1の配 列を含む、 [7] の融合タンパク質。
[9] ファージがえファージである、 [7]の融合タンパク質。
[10] ファージ頭部を形成するタンパク質が、 人ファージ Dタンパク質である
[7]の融合タンパク質。
[11] [7] ~ [10]のいずれかに記載の融合タンパク質をコードする DNA o
[12] [11] の DNAを含むベクタ一。
[13] [12] のベクターを保持する細菌宿主。
[14]大腸菌である [13] の細菌宿主。
[15] (a) [13]または [14]の細菌宿主と、 (b)該細菌宿主が発現する 融合タンパク質に含まれる頭部タンパク質が由来するファージとを含む、 細胞の 形質転換に用いるキット ;ただし、 前記ファージは頭部タンパク質を前記細菌中 で発現できない
[16] ファージが Iファ一ジである [15] のキット。
[17]細菌宿主が発現する融合タンパク質に含まれる頭部タンパク質が、 入フ ァージ Dタンパク質である、 [16] のキット。
[18] (a)核に移行させるべき物質を [1]のファ一ジの頭部にパヅケ一ジン グする工程と、 (b)該ファージまたはその頭部を所望の細胞に接触させる工程と を含む、核に移行させるべき物質を細胞外から所望の細胞の核に移行させる方法。
[19]核に移行させるべき物質が遺伝子である、 [ 18] の方法。
[20]更に付加的に、 ( c )細胞において前記ファージの頭部にパッケージング された'遺伝子を発現させる工程を含む [19] の方法。
[21] ファージが人ファージである、 [18] の方法。
[22] 細胞が哺乳動物細胞である [ 18] の方法。
[23] [ 1]に記載のファージまたはその頭部に、治療に必要な成分をパッケ一 ジングした医薬組成物。
[24] 治療に必要な成分が発現可能な状態で組み込まれた遺伝子であり、 かつ 前記細胞吸着活性は前記遺伝子を発現させるべき細胞に対する吸着活性である [ 23] の医薬組成物。
久ファージのようなバクテリオファージのキヤプシド内には、 ファ一ジ自身の ゲノム (3卜 38X 106 dalton)に相当する大きさの物質をパッケージングすること ができる。 一方、 長鎖 DNAを核へ移行させるためには、 DNAを核膜孔 40nmに近いサ ィズにまでコンパクトに凝集させる必要がある。ファージの頭部に長鎖 D N Aをイン ビトロ (in vitro) でパッケージングすれば、 長鎖 DNAはファージの大きさ (55η m) に収まる。 そのうえ、 キヤプシドの中にパッケージングされた長鎖 DNAは、 細 胞内部に導入後も DNA分解酵素 (DNase) の攻撃から保護される。 またファージと して遺伝子を回収できることから、 精製工程を通じて遺伝子が損傷する危険が小 さくなる。このように入ファージは DNAのキヤリァ一としてたいへん望ましい材料 である。 本発明らは、 このえファージの頭部表面を核移行活性とともに細胞吸着 活性を併せ持つタンパク質で修飾することにより、 細胞外から核にいたる物質移 送の全行程について効率の改善が実現できることを明らかにし、 本発明を完成し た。
本発明を構成する基本的な操作は、本出願人による先の出願 W098/6828にも開示 されている。すなわち、先の出願 W098/6828において頭部の修飾タンパク質に利用 した NLSを、核移行活性とともに細胞吸着活性を併せ持つタンパク質とすることで
、 本発明を実施することができる。 その工程を具体的に述べれば、 およそ以下の ように説明できる。
本発明の新規な特徴である核移行活性とともに細胞吸着活性を併せ持つタンパ ク質を組み込んだ人ファージの頭部を構成する融合タンパク質は、 適当な発現べ クタ一によつて大腸菌で発現される。 このときホストとなる大腸菌に、 頭部の形 成能の無い変異 λファージ (以下、 単に 「Dアンバ一ファージ」 と称する) を溶原 化させておく。発現べクタ一を基に組み換えタンパク質として発現された頭部は、 Dアンバーファージの頭部として再構成される。 Dアンバーファージのゲノムに移 送すべき遺伝子を、 標的細胞内において発現可能な形で組み込んでおけば、 この ゲノムをパッケージングした形で本発明によるファージを得ることができる。 一 連の操作については、本出願人による先の特許出願 W098/6828等でも詳細に記載さ れている。
この先行技術においては、 Dアンバーファージの構築を ADaml5に基づいて進め ている。この他に Dアンバーファ一ジの材料としては、例えば ATCC 35132として分 譲されている溶原化大腸菌 BHB2690( ADaml5 b2 red3 i廳 434c lts Sam7)を利用す ることもできる。この大腸菌が保有する Dアンバ一ファージを回収し、 人 Daml5の、 Left Arm 17050bp、 および Middle fragment 1510bpに相当する遺伝子を得ること が可能である。
こうして得られたファージは、 頭部の表面に核移行活性とともに細胞吸着活性 を併せ持つタンパク質を発現しており、 しかもキヤプシド内部には標的細胞の核 内へ移送すべき遺伝子を抱えた状態にある。 本発明のファージを細胞に接触させ ると、 ファージはまず細胞吸着活性によって細胞に取り込まれ、 続いて核移行活 性に基づく核への移送がはじまる。 ファ一ジの頭部はおよそ 55nmで、 核膜孔を通 つて核内に MAを送達していると考えられている SV40ウィルス粒子(50nm)に類似 している。 本発明によれば、 他の製剤と組み合わせること無く、 細胞外から核ま での物質の移送が効率良く行われ、 インビボへの適用も容易である。 このような
機序から明らかなように、 本発明によるファージは頭部のみで細胞への夕ーゲテ イングと移送すべき物質のパッケージングを実現している。 したがって、 自然の 状態で'宿主への付着を担っている尾部の部分の構造は、 本発明においては必須で はない。 以下に、 本発明のより具体的な実施の形態を述べる。
本発明は、核移行活性と細胞吸着活性を併せ持つ 2機能性の夕ンパク質(以下、 単に 2機能性タンパク質と省略することもある)が付加したファージ頭部で外来物 をパッケージングし、該ファ一ジを、外来物を機能させたい所望の細胞に導入し、 ファージ粒子ごと外来物を標的細胞の核へ移行させる技術に関する。
本発明に用いられる核移行活性と細胞吸着活性を併せ持つタンパク質としては、 標的細胞への吸着とその細胞内における核への移送を助けるタンパク質であれば 特に限定されない。 たとえば λファージ粒子を核へ移行させる場合、 HIVの ΤΑΤは 望ましい 2機能性タンパク質である。 この他に前記 2機能性タンパク質としては、 抗 DNA抗体の可変領域、 ドウロソフィラ由来のアンテナぺディァ、 ラクトフエリン 、 ヘルぺスウィルス VP22プロテイン、 ポリオ一マウィルス VP1プロテイン、 ポリオ —マウィルス VP 2プロテイン、 ポリオ一マウィルス VP 3プロテイン、 アデノ随伴 ゥィルス Capプロティン、および繊維芽細胞成長因子 2などを挙げることもできる 。 TATの場合は、 配列番号: 1に示した配列が前記 2つの機能を支える活性ドメイ ンであることが公知である(Eric vives et al J. Biol . Chem.272 , 16010-16017( 1 997) )。本発明において、 前記 2つの機能、 すなわち核移行活性と細胞吸着活性の 発現に必要な領域、 あるいはこの必須領域を部分べプチドとして含む領域を転移 活性ドメインと呼ぶ。 したがって、 本発明における 2機能性タンパク質として TA Tを用いるときには、少なくとも配列番号: 1に示すような配列を含むように設計 するのが望ましい。
その他のタンパク質、 すなわち抗 DNA抗体の可変領域、 ラクトフエリン(Nature, 1995 Feb, 373 : 6516, 721-4)、 ヘルぺスウィルス VP22タンパク質(Cell 88, 223 -233, 1997)、ポリオ一マウィルス VP1プロティン、ポリオ一マウィルス VP 2プロテ
イン、 ポリオ一マウィルス VP 3プロテイン、 アデノ随伴ウィルス Capプロテイン、 あるいは繊維芽細胞成長因子 2 ( Bioessays, 1995 Jan, 17: 1 , 39- 44)等について も、 転移活性(translocation activity)を持つドメインを特定し、 その部分のみ を使ってファージを修飾すれば本発明に応用することができる。 たとえば、 アン テナべディァはドウロソフィラ(Drosophila)の分化に関与するタンパク質である c このタンパク質においては、 ホメォドメインの 43- 58位(ヘリヅクス 3に対応)の アミノ酸配列(RQIKIWFQNRRMKWKK)に相当するペプチド (配列番号: 4 ) が、 転移 活性を持つ領域として同定されている。 したがって、 少なくともこの配列を含む タンパク質は、 本発明の 2機能性タンパク質として利用することができる。 また 抗 DNA抗体の可変領域においては、超可変領域 CDR2+CDR3に相当するアミノ酸配列( VAYISRGGVSTYYSDTVKGRFTRQKYNKRA)が物質移送活性を支えていると報告している。 このアミノ酸配列を含むタンパク質も本発明における 2機能性タンパク質として 応用できる。
また、 本発明に用いられるファージとしては、 その頭部に外来物をパッケージ ングすることが可能であれば、 特に制限はなく、 えファージ、 M13ファージなどを 用いることが可能である。 更に、 PI phage, P22 phage, Tl phage, T2 phage, T 3 phage^ T4 phage、 T5 phage s T6 phageヽ T7 phage、 P2 phage、 P4 phage、 Mu phage, Pm2 phageヽ N4 phage、 SPOl phage、 PBSl phage, あるいは PBS2 phage等 も、 本発明におけるキヤリア一として利用することができる。
核移行活性と細胞吸着活性を併せ持つタンパク質を頭部の構成成分としたファ ージを調製する方法としては、 種々の方法を挙げることができる。 本発明におけ るファージの調製方法として望ましい態様は、遺伝子組み換え技術の応用である。 すなわち、 該核移行活性と細胞吸着活性を併せ持つタンパク質をコ一ドする DNA とファージ頭部タンパク質をコードする遺伝子を結合させてベクタ一に組み込み、 細菌宿主内で融合タンパク質として発現させ、 さらに該頭部タンパク質を発現で きない変異ファージを該宿主中で増殖させてファージ頭部を形成させる方法を挙
げられる。 このシステムでは、 パッケージングしたい遺伝子をファージの遺伝子 に組み込むことで任意の遺伝子を容易にパッケージングすることができる。 ファ 一ジを利用したことにより、 組み込むベき遺伝子はファージ粒子として回収され ることになる。 ファージ粒子は、 遠心分離によって大腸菌から回収することがで きる。 ファージの回収には過酷な精製ステップが求められないので、 遺伝子を傷 つける可能性が小さい。
更に本発明においては、 前記細菌宿主と、 任意の遺伝子を挿入するためのクロ —ニングサイ トを備えたファージベクターとを組み合わせて、 外来遺伝子をファ —ジにパッケージングするためのキットとすることができる。 ここで用いられる ファージ頭部タンパク質としては、 特に制限はなく、 たとえば、 ファ一ジがえフ ァ一ジであれば、 gpDタンパク質及び gpEタンパク質が挙げられ、 またファ一ジが M 13であれば、 gene 3 proteinが挙げられる。
他方この態様に用いられるベクター (ファージ頭部を構成する融合タンパク質 を発現する) としては、 特に制限はなく、 種々のべクタ一が用いられる。 また、 細菌宿主としては、 用いるファージが増殖可能であれば特に限定されないが、 た とえば、 λファージを用いる場合には、 該ファ一ジが増殖可能な種々の大腸菌株 が挙げられる。 なお、 核移行活性と細胞吸着活性を併せ持つタンパク質のァミノ 酸配列をコ一ドする DNAと、ファージ頭部タンパク質をコードする遺伝子との結合 には、 直結している場合のみならず、 間にスぺ一サ一ヌクレオチドが挟まれてい る場合も含まれる。
本発明においては、 遺伝子工学的な手法の他、 前記 2機能性タンパク質をファ ージ頭部のタンパク質に化学的に結合させる方法も採用することができる。 本発 明における 2機能性タンパク質とファージ頭部のタンパク質との化学的な結合に は、 該配列とタンパク質とが直結している場合のみならず、 間に架橋剤やスぺ一 サ一ぺプチドなどが挟まれている場合も含まれる。
本発明におけるファ一ジは外来物をパッケージングした上で、 細胞に導入され
るが、 このパッケージングの方法としては、 石浦らの方法 (Gene,82, 28卜 289( 19 89 ) ) ゃスターンベルグ (Sternberg) らの方法 (公表昭 59- 500042) などが挙げら れる。 また外来物としては、 遺伝子、 遺伝子断片、 リボザィム、 アンチセンス遺 伝子、 その他核で機能させたい所望の物質が挙げられる。 たとえば、 遺伝子治療 を行う場合には、 欠陥遺伝子に対応する正常な遺伝子などを用いることが有効で あり、 また、 特定の遺伝子の機能を解析する場合には、 該遺伝子に対するアンチ センス遺伝子などを用いることが有効である。 さらに、 トランスジヱニック動物 を作出する場合には、 与えたい形質に関与する遺伝子を導入することが有効であ る o
なお、 本発明によれば、 上流域も含めた形の遺伝子など、 長鎖の核酸をパッケ 一ジングすることが可能である。ファージをキヤリァに用いた本発明においては、 たとえば 50kbに及ぶ大きな遺伝子のパッケ一ジングが可能である。 具体的には、 動物ウィルス由来の全ゲノム配列や、 あるいは一連の機能を支える複数の遺伝子 をまとめて組み込むこともできる。 また、 コスミ ドベクタ一のパッケージングも 可能なことから、ジストロフィンの cDNA( 13.8kb )等の大きな DNAへも本発明を応用 することができる。このような長鎖 DNAを核へ効率的に移送可能な大きさに凝集さ せることができるのは、 ファージを利用しているからに他ならない。
本発明に基づいて外来物をパッケージングしたファージをインビボに投与した 場合、 なんら物理的な手法の助けを借りること無く生体内において細胞への移送 が達成される。 すなわち、 移送先である細胞に本発明のファージを接触させるこ とにより、 移送が達成され得る。 ここでファージと細胞との接触とは、 細胞への 物質移送を目的とする人為的で物理的な処理を加えること無く、 細胞を一定の時 間ファージとともにィンキュベー卜することを意味する。 NLSのみで修飾したとき には細胞への移送機能が期待できず、 マイクロインジヱクション法等の物理的な 手法を利用したのと対照的である。 この特徴に基づいて、 本発明によるファージ
(またはその頭部) は、 インビボゃェクスビボへの適用を目的とする医薬組成物
への応用が可能である。 たとえば、 細胞殺傷活性を持つアデノウイルス (ゲノム 全長は約 36kb) のようなウィルスのゲノムをそのまま本発明のファ一ジによって がん細胞に送り込み、 がん細胞内で発現させるといつた新たな取り組みが可能と なる。 また、 免疫機能を活性化する働きを持った複数のリンホカインを同じ細胞 で発現させるといったアプローチへも本発明を応用することができる。 たとえば 適当なプロモ一夕一の下流に、 イン夕一ロイキン 2、 イン夕一ロイキン 6、 ある いは顆粒球コロニー刺激因子等のリンホカインをコ一ドする遺伝子を作動可能な 形で連結し、 これを本発明のファージにパッケージングしたものを調製する。 得 られるファージをリンパ球等に接触させて生体内に戻せば(ェクスビボ)、免疫機 能を増強する複数のリンホカイン産生細胞を体内に誘導できることになる。
ヒ卜の場合には、 ファージに対する抗体を持つケースは少ないと想定されるの で、 投与されたファージはすぐに排除されること無く体内にとどまり、 標的細胞 に吸着し取り込まれる。 この特徴により、 前記アデノウイルスをパッケージング する態様では、 アデノウイルスの抗原性をマスクした状態で標的細胞内部に送り 届けることができることになる。 本発明のファージに遺伝子をパッケ一ジングし たときには、 その遺伝子が吸着した細胞の核へと移送され、 高い効率で発現に導 かれる。インビボへの適用方法については、標的となる臓器に直接注入する方法、 標的臓器に血液を供給する血管に投与後に必要に応じて血流を制限して本発明に よるファージを一定時間臓器内部の血管で高濃度に維持する方法等を採用するこ とができる。
本発明のファージをインビボ投与する場合、 ファージ濃度として 1011014PFU/m 1程度となるように調製するのが一般的である。この範囲を大きく下回る濃度では ファージのカ価が不十分となる可能性が大きく、 逆にこの範囲を超える濃度では 一般的にファージの沈殿等の問題を生じ易くなる。 しかしこの数値範囲は限定的 に解釈すべきではなく、 たとえば極めて感染効率に優れた標的細胞/ファージの 組み合わせであったり、 あるいはごくわずかなファージの導入で十分な効果を期
待できるケースでは、 更に低濃度であっても実用に耐える場合もありえる。 より 具体的には、 用いるファージと標的細胞との間で感染効率が変化することも予想 されるため、 予備的な実験に基づいて予想される MOI(multiplicity of infectio n)から、 もっとも効果的な濃度を設定するようにする。 また投与方法によって適 用可能な液量も制限されることから、 これらの諸条件を考慮して総合的にファー ジ濃度と投与液量を決定する。 たとえばヒトの臓器への直接投与では、 肝臓のよ うな大きな臓器であっても一般的には 100ml程度が注入の限界といわれている。 本発明によるファージは、 ィンビボ投与を目的とした医薬組成物として商業的 に供給することができる。 本発明に基づく医薬組成物は、 生体にとって許容性の 適当な緩衝液に本発明のファ一ジを必要濃度で添加することにより得ることがで きる。 利用可能な分散媒としては、 液状の場合には SM(10mM Tris-HCl (pH7.4) , 10mM MgS04 , 0.1M NaCl, 0.01% gelatin)が、 また凍結させるのであれば 3XD Me diumや LB+15%グリセロールなどを用いるのが一般的である (Hendrix,R. , Lambd all, Cold Spring Harbor Laboratory, 1983)。 本発明の医薬組成物は、 溶液状、 あるいは凍結状態で流通させることができるが、 望ましくは低温 (たとえば 4 °C ) で流通させる。 この医薬組成物には、 ファージを安定化するために、 グリセ口 —ル、 血清アルブミン、 ゼラチン、 あるいはブトレツシン等の成分を補助的に含 んでいても良い。 またインビボでの投与操作を助けることを目的として、 蛍光色 素や各種造影剤を混合しておくことも可能である。 X線造影剤や MRI造影剤を添加 しておけば、 臓器への注入状況を視覚的に捉えることができるので便利である。 外来物をパッケージングしたファージが導入される細胞(標的細胞) としては、 特に制限はなく、 目的に応じて様々な細胞が用いられる。 ただし本発明において は、 核移行活性のみならず細胞に対して吸着活性を示すタンパク質でファージを 修飾することから、 標的細胞と前記 2機能性タンパク質の組み合わせが重要な要 素となる。 すなわち、 本発明においてファージの修飾に用いられる 2機能性タン パク質の細胞吸着活性は、 少なくとも標的細胞に向けられていることが必須条件
となる。 ヒ トの細胞を標的とするとき、 HIVの TATは好適な 2機能性タンパク質で ある。 また本発明のファージを適用する部位には、 特定の臓器のみならず、 腫瘍 や動脈硬化巣等の病巣を選択することも可能である。 図面の簡単な説明
図 1は、 HIV- TAT- gpD融合夕ンパク質の構造を示す模式図。
図 2は、 マーカ一遺伝子を組み込んだ TATぺプチド提示えファージの構築過程。 図 3は、 トランスフヱクシヨンのための一連の操作を示す模式図。
図 4は、 本発明によるファージで処理した HeLa細胞の顕微鏡写真 (導入後 48時 間)。 上が位相差顕微鏡写真 (明視野)、 下が同じ標本の蛍光顕微鏡写真。
図 5は、 野生型ファージで処理した HeLa細胞 (コントロール) の顕微鏡写真 ( 導入後 48時間)。 上が位相差顕微鏡写真 (明視野)、 下が同じ標本の蛍光顕微鏡写 図 6は、 ルシフェラ一ゼ遺伝子を組み込んだ本発明によるファージのトランス フエクシヨンの結果。縦軸はルシフェラ一ゼ活性(RLU/〃g protein/sec)を、横軸 は細胞に接触させたファージを示す。
図 7は、本発明の TAT人ファ一ジ粒子によって細胞に導入したルシフヱラーゼ遺 伝子の発現における血清の影響。 縦軸はルシフヱラ一ゼ活性(RLU/〃g protein/s ec)を、 横軸はファージ接触時の血清の有無を示す。
図 8は、本発明の TAT人ファージ粒子によつて細胞に導入したルシフエラーゼ遺 伝子の発現における接触時間の影響。 縦軸はルシフェラ一ゼ活性 (R I/ gprotei n/sec )を、 横軸は細胞と各ファージとの接触時間を示す。 発明を実施するための最良の形態
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、 本発明はこれら実施例に限定 されるものではない。
[実施例 1 ] TATぺプチド -gpD融合蛋白発現ベクターの構築 野生型の人ファージ遺伝子を錡型として、 PCR法により、 λファージ頭部を構成 するタンパク質め 1つである gpDタンパク質の cDNAをクロ一エングした。具体的に は、 本出願人による先の特許出願 W098/6828に開示された方法に従い、 「pTrcHisA -gpDj と称するベクターを構築した。サイクルシークェンス法により、 DNA配列を 確認した後、 該ベクターを大腸菌 T0P10 (Seth G.N. Grant et al . PNAS 87, 4645- 4649( 1990) ) に導入し、 大腸菌内で gpDタンパク質を高発現させた。該タンパク質 の発現を SDSポリアクリルアミ ドゲル電気泳動法(SDS- PAGE) により検出した。 こ の結果、 ImMの IPTGで誘導後 6時間目に該タンパク質の分子量である 11.6kdaの位置 に強いバンドが検出された。
次に、 TATぺプチドと gpDの融合タンパク質を大腸菌内で発現させた。 TATぺプチ ドとしては、 そのペプチドだけで細胞膜を通過し、 核内まで到達することが知ら れている 43- 60番目のアミノ酸配列に相当する LGISYGMKRRQRRRPPQ(Eric vives e t al J. Biol .Chem.272,16010-16017( 1997) )を用いた (図 1、 および配列番号: Do そして、 この配列に対応するオリゴ DNAを合成し、 上記の 「pTrcHisA-gpD」 の Nco I部位に導入し pTrc- TAT- gpDを構築した。 サイクルシークェンス法により、 プラスミ ドが正確に構築されていることを確認した後、 該ベクタ一を大腸菌 T0P1 0に導入し、 大腸菌内で NLSと gpDタンパク質との融合タンパク質を高発現させた。 該タンパク質の発現を SDSポリアクリルアミ ドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)により 検出した。 この結果、 ImMの IPTGで誘導後 6時間目に目的のタンパク質の分子量の 位置に強いバンドが検出された。
[実施例 2 ] マーカー遺伝子を組み込んだ TATぺプチド提示 λファージの構築 大腸菌 T0P10 (人 D1180- CMV-EGFP) を、 図 2に示すスキームにしたがって構築し た。
まず、 人 gtllの D遺伝子にアンバー変異を導入した。 具体的には、 え gtll (Str atagene社製) を Kpnl切断し得られた Right Arm 25410bpと; lDaml5 (京都大学、 井
ロ八郎氏より供与) を Kpnl切断して得られる Left Arm 17050bp, および Middle f ragment 1510bpの三者を連結させ、 Gigapackl l l gold packagin extract (Strat agene社製) にてパッケージングし、 大腸菌 Y1088に感染させプラークを形成させ た。 各プラークのファージを大腸菌 C600(supE) (stratagene社製) と TOP10(supO ) ( In vitrogen社製) に再感染させ、 前者でファージが構築でき、 後者でできな かったものをえ Daml5- gtllとした。 これは、 C600(supE)は、 Dajnl5を相補するが、 TOPlO(supO)では、相補できないため、菌体内でパッケージングできない原理に基 づいている。
次に、 え Daml5- gtllより 80%ゲノムサイズのえ D1180を構築した。 具体的には、 入 Daml5- gtllを EcoRIと Saclで切断し、 Left Arm 19600bpと Right Arm 13110bpを 調製した。 両者を EcoRI-SacIリンカ一 5,-MTTCGGCGGCCGCGAGCT - 3, / 5' -CGCGGCC GCCG- 3'で連結し、全長 38010bpのえ D1180を構築した。動物細胞で遺伝子発現する ュニットである CMV- EGFP-SV40polyA ( 1600bp) は、 PCR法によって調製した。具体 的には、 5' -GGGCGTGAATTCTAGTTATTAATAGTAA-3' (配列番号: 2、 5,側の 7 〜12番 目の配列に EcoRI部位が存在する) と 5,- GGGCGGMTTCCGCTTACAATTTACGCCTTAAG - 3, (配列番号: 3、 5'側の?〜 12番目の配列に EcoiU部位が存在する) をプライマ一 として、 pEGFP-Nl (Clontech社製)を錡型として用いた。 PCRは、 35ngの錶型、 l x T hermoPol buffer (New England Biolabs社、 lOmM KC1、 2mM MgS04 3 10mM(NH4 ) 2 S 04, 20mM Tris-HCl(pH8.8) , 0. 1¾Triton X-100)、 のプライマ一、 500nM d
NTP、 2U Vent DM polymerase (New England Biolabs社製) を用い全量を 50 l とし、 94°Cで 5分の熱変性の後、 「94°Cで 30秒の熱変性、 50°Cで 1分のァニ一リング 、 72°Cで 2分の伸長反応」のサイクルを 25サイクルを行った。 こうして増幅された DNA断片を、 EcoRIで切断して AD1180の EcoRIサイ トに導入し、 入 D1180- CMV-EGFP を構築した。 さらに本ファージを大腸菌 T0P10に溶原化させ T0P10 (人 D1180- CMV- EGFP) を構築した。本ファージは、 Dアンバー変異を有するため、 supOの本宿主に おいては gpDが発現せず、 通常 gpE (えファ一ジ頭部タンパク質には、 gpDと gpEの
2種類がある)のみで頭部が形成される。 この gpE単独ファージは、 EDTAに対して 極めて感受性が高い。 また、 該ファージ上にコードされ該ファージのリブレッサ 一である dは、 温度感受性となっており、 42°C15分の処理で、 リブレッサーが解 除され、 ファージが溶菌可能となる。 一方、 この大腸菌に、 TAT-D融合タンパク質 を発現させ、 熱誘発により出現したファージに該融合タンパク質が組み込まれれ ば、 EDTA抵抗性を示すものと考えられる。 そこで、 4mlのスケールでファージを調 製し、 lOmM EDTAで処理後、 大腸菌 LE392に感染させ、 その力価を測定した。 その 結果、 実施例 1で用いた TAT- Dの場合、 EDTA抵抗性が確認された。構造が安定化し ていることが示唆された (表 1)。
【表 1】
頭部のタンパク質を組み換えた人ファージのカ価 力価 (PFU/ml )
発現タンパク質 (大腸菌 LE392を用いて解析)
EDTA (-) EDTA ( + )
4.0 109 1.0 X 103
gpD 8.6 X 108 6.8 X 108
HIV-TAT-gpD融合タンパク質 1.0 X 108 1.0 X 108
[実施例 3 ] TATぺプチド提示えファージのトランスフエクシヨン
( l )TATぺプチド提示えファージ粒子の調製
トランスフエクシヨンのための一連の操作は図 3に示した。 プラスミ ド pTrc-TA T - gpDを導入した大腸菌 TOP 10 ( AD1180-CMV-EGFP) を 10mM Mgを含む LB培地中で 3
2°Cにて培養し、 対数増殖期 (2 x l08cel ls/ml) に入ったものを 42°Cで 15分間振と うしてファージの生成を誘発した。 次いで、 0.5mM IPTGにて融合蛋白の発現を誘 導し、 38°Cで 2時間 30分振とう後、 5000rpmで 10分間遠心して沈殿した大腸菌を、 S M緩衝液 (0.1M NaCl, 8mM MgS04 5 50mM Tris-HCl(pH7.5 )) に懸濁した。 濃縮し た菌を、 37°Cクロ口ホルムを加えて攪拌し溶菌させた。 さらに、 DNAseを加えた後 、 8000rpmで 30分間遠心して不溶物を除き、上清を 23000rpmで 60分間遠心してファ —ジを沈殿させ、 SM緩衝液に懸濁した。 回収したファージ粒子を塩化セシウムの 密度勾配遠心法を用いて精製した。 SM緩衝液にて懸濁し、 TATぺプチド提示えファ —ジ l x lOnpFU/mlを調製した。
(2) トランスフヱクシヨンおよび遺伝子発現の検出
HeLa細胞(10%ゥシ胎児血清含有 MEM培地 /GIBC0-BRL社製)、 C0S-7細胞(10%ゥシ 胎児血清含有 DMEM培地/ GIBCO- BRL社製)、 および NIH3T3細胞 (10%新生子ゥシ血清 含有 DMEM/GIBC0- BRL社製)を培養し、 1 x 105cells/chamber(Falcon Culture Slid e 4101 )の濃度にまいた (50%コンフルエンシー)。 翌日 TATペプチド提示えファ一 ジ l x lOnpFU/mlを 10 d/chajnber添加し、 M0I=10000とし、 48時間培養した。 EGFP の遺伝子発現の検出は、 蛍光顕微鏡にておこなった。 本発明によるファ一ジで処 理した細胞の顕微鏡写真を図 4に、コントロールとして用意した野生型ファージを 与えたものは図 5に示した。本発明によるファージを接触させた細胞のうち、遺伝 子発現細胞は約 10%であった (図 4)。 COS- 7、 並びに NIH3T3細胞においてもほぼ同 様の結果を得た。 血清存在下、 非存在下、 それぞれ 5時間接触により培地交換し、 48時間培養したが、 発現効率に差は認められなかった。
[実施例 4 ] ルシフエラーゼ遺伝子への応用
( 1 )ルシフェラ一ゼ遺伝子を挿入した; ID1180- CMV- lucの構築
実施例 3で発現を確認した EGFPに換えて、ルシフェラーゼ遺伝子を挿入したえ D 1180- CMV- lucを構築した。 具体的には、 pGL3- Basic (Promega社製) の Hind I I I と Xbalサイ トを切断し、 ホタルつレシフヱラ一ゼの cDNA遺伝子断片をとりだし平
滑化した。 pCMV- ? (Clontech社製) を Notl で切断し平滑化したところに、 この断 片をライゲ一シヨンにより導入し、 pCMV_lucを構築した。 続いて、 pCMV-lucを Sa IIと EcoRIにより切断し、 CMV- luc-SV40polyAの遺伝子発現ュニッ トをとりだし、 平滑化し、 pCR Blunt ( In vitrogen社製) にライゲーシヨンし pCR- CMV-luc を構 築した。 pCR- CMV-lucを EcoRIにより切断して人 D1180の EcoRIサイ 卜に導入し、 入 D 1180- CMV- lucを構築した。 さらに本ファージを大腸菌 T0P10に溶原化させ T0P10 ( AD1180-CMV-luc) を構築した。 ここでファージに組み込んだ外来遺伝子は約 210 Obpであり、 ゲノム全体では約 82.7%ゲノムサイズとなっている。
また比較を目的として、 同じ発現ュニヅトを含む T0P10 (人 D1180- CMV- luc)を公 知の SV40ラージ T抗原 NLS提示えファージ (国際公開 W098/06828) に組み合わせた もの、 ならびに大腸菌 LE392(supE,supF)に感染させて野生型ファージに組み合わ せたものも調製しておいた。
(2)ルシフヱラ一ゼ遺伝子の発現
COS- 7細胞を 10% ゥシ胎児血清を含む DMEM (GIBCO- BRL社製)で培養し、 2 x l04c ells/well (Corning 24well Culture plate 25820)の濃度でまいた (50%コンフル エンシー)。 その翌日、 TATペプチド提示えファージ、 SV40ラージ T抗原 NLS提示久 ファ一ジ、 および野性型えファージ l x l01(1PFU/mlをそれぞれ 10〃l/well添加し ( M01=10000)、 48時間培養した。 ルシフェラ一ゼの遺伝子発現の検出は、 lucifera se assay system (ピツカジーン社製) およびルミノメ一夕一(AutoLumat LB953 Berthold社) を用いて測定した。 活性は relative light unit (腳) g protei n/secとして表わした。実験は 3連で行い、結果を図 6に示した。 TATペプチド提示 λファージでのみ、 ルシフェラ一ゼの遺伝子発現がみられた。 これに対して SV40 ラージ Τ抗原 NLS提示人ファージ、 並びに野性型 Iファージでは、 全くルシフェラ ーゼ活性が確認できなかった。
また、血清存在下/非存在下でそれぞれのファージと 5時間接触後、培地交換に よりファージを除いてから 48時間培養したところ、 血清存在下でファージを接触
させた方で、 やや高い発現が得られた (図 7)。 更に、 接触時間についても検討し た。 すなわち 37°Cで 0.5時間および 5時間、 COS- 7細胞とファージを 10% ゥシ胎児 血清存在下で接触させたところ、 0.5時間という短い接触時間においても遺伝子発 現を得られることを確認した (図 8)。 産業上の利用の可倉 生
本発明は、 巨大分子をパッケージングでき、 しかも自身が細胞に吸着し、 更に 細胞膜を通過して核へ移行し得るファ一ジを提供する。 本発明では、 ファージに 対して細胞吸着活性と核移行の機能を同時に与えられる。 本発明によって提供さ れるファージは物理的な助け無しに細胞内部へ外来物質を移送しうることから、 インビボでの安全な投与を可能とする。 本発明によるファージは血清存在下の方 がむしろ効率良く細胞への物質移送、 ならびに遺伝子の場合にはその発現をもた らすことから、 インビボへの適用に際し、 より望ましい特徴を備えているという ことができる。 血清存在下ではほとんど細胞への物質移送が不可能な、 公知の化 学的なアブローチと比べると対照的な特徴である。 加えて本発明によるファージ は、わずか 37°C0.5時間という短い時間で一定の水準の遺伝子の移送と発現を可能 としている。 このことは、 遺伝子治療を短時間で効率良く進めうる可能性を示し ている。
しかも本発明によるファ一ジは遺伝子組み換えのような当業者にとって容易な 手法で効率よく製造することができ、 産業上の有用性も高い。 また 2機能性タン パク質を採用した本発明においては、 1種類のタンパク質を導入するのみなので、 ファージ自身の構造的な変化が少なく、 高力価を実現している。 更に、 本発明の 望ましい態様においては、 外来物としてパッケージングした遺伝子が標的細胞内 で着実に発現することから、 遺伝子治療に確実性と安全性の面で新しい道を開く ものと期待できる。
本発明では巨大分子をパッケージングできることから、 たとえば所望の外来遺伝
子をその上流域も含んだ長鎖 DNAとして、核へ到達させることが可能となる。本発 明は、 生命現象の解明や遺伝子治療など様々な分野において有効利用が期待され る。