明細書 遺伝子導入用組成物及び該組成物を用 t、た遺伝子導入方法 技術分野
本発明は、 遺伝子導入技術または遺伝子治療技術に関する。 本発明は特に、 遺 伝子導入または遺伝子治療に用いるベクターを含む遺伝子導入用組成物に関する
技術背景
従来、 皮膚特異的に遺伝子を導入する際は、 皮膚に存在する繊維芽細胞、 上皮 細胞、 ケラチノサイトなどの細胞を生体外に取り出し、 ① 電気的導入法、 (St einberg, R. M. et al. , J. Virol. , 63, 957(1989)) ② マイクロインジヱクシヨン法 (Roth, P. , et al. , Nucl. Acids. Res. , 18, 5009(1990)/Schlegel, R. et al., EMBO J. , 7, 3181(1988)//Munger, K. et al. , J. Virol. , 63, 4417(1989)ノ Pecoraro, G., P roc. Natl. Acad. Sci. USA, 86, 563(1989)) 、 ③ レトロウイルスベクター (Morgan , J. R. et al. , Science, 237, 1476(1987)ノ Teumer, J. et al., FASEB J. , 4, 3245(1990 )/Gerrad, A. J. et al. , Nature Genet, 3, 180(1993)) 、 ④ アデノウイルスベクタ 一 (Aneskievich, B. A. , J. Invest. Dermatol. , 91, 309(1988)) 、 ⑤ 陽イオンリポ ソ一ムを含むリポソ一厶ベクター (Jiang, K. et al. , J. Invest. Dermatol. , 97, 9 69(1991)) を用いてインビトロで遺伝子を導入し、 生体に戻す方法を用いていた 。 しかし、 この方法においては、 生体から皮膚細胞を取り出しかつそれを生体に 戻す操作に熟練を要し、 また生体に戻した細胞自体が数か月の寿命であり、 遺伝 子が導入された細胞の長期生存は困難であった。 またこの方法においては、 前行 程に数か月を要し、 特に細胞の培養増殖が困難であるという欠点を有していた。 なお、 モロニ一マウスレトロウィルスベクタ一のエンベロープ蛋白質と造血因
子の一つであるエリスロポイエチンを融合蛋白質にしてウィルス表面に出現させ
、 赤芽球特異的に遺伝子を導入するベクターも開発されているが (N. Kashiharae t al. , Science, 266, 1373-1376 ( 1994)) 、 成功例が少なく、 技術的に未熟である といわざるを得ない。 特に、 インビボ (in vivo) での組織特異的遺伝子導入につ いては成功例がない。 発明の開示
本発明は簡便にしかも効率良く遺伝子導入を行うことのできる遺伝子導入組成 物を提供することを目的とする。 また、 該組成物を用いて、 哺乳動物の表皮にィ ンビボで遺伝子を導入することを目的とする。
本発明者らは、 D N A及び細胞の両者に親和性を有する化合物と遣伝子導入用 ベクタ一とを含む組成物を、 生存している表皮細胞を含む哺乳動物の表皮に直接 接触させることによって、 効率良く遺伝子導入を行うことができることを見 、出 し、 本発明を完成した。 より具体的には、 本発明者らは、 胎児羊水中に 「D N A 及び細胞の両者に親和性を有する化合物と遺伝子導入用ベクターとを含む、 遺伝 子導入用組成物遺伝子導入用ベクター」 を導入したところ、 体表特異的に、 体表 全体に渡って遺伝子が導入されることを見い出し、 本発明を完成した。
即ち、 本発明は、
( 1 ) 生存している表皮細胞を含む哺乳動物の表皮に特異的に外来遺伝子を導 入するための、 D N A及び細胞の両者に親和性を有する化合物と遺伝子導入用べ クタ一とを含む、 遺伝子導入用組成物、
( 2 ) D N A及び細胞の両者に親和性を冇する化合物がリポソ一ムを形成して いる、 ( 1 ) 記載の組成物、
( 3 ) 不活化されたセンダイウィルス (H V J ) を含む、 ( 1 ) または (2 ) に記載の組成物、
( 4 ) ( 1 ) 〜 (3 ) のいずれかに記載の組成物またはその溶解物を、 生存して
いる表皮細胞を含む哺乳動物の表皮に直接接触させることを特徴とする、 ヒ 卜以 外の哺乳動物の表皮に遺伝子を導入する方法、
に関する。
本発明の 「遺伝子導入用組成物」 中の 「D N A及び細胞の両者に親和性を有す る化合物」 としては、 リン脂質ゃグリセ口糖脂質からなる人工的に作製した膜構 造物であるリボソーム、 陽イオン性リン脂質からなる陽イオン性リボソームおよ び複合体 (P. L. Feigner et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413( 1987)、 C. M. C orma et al. , Mol. Cell. Biol. , 2, 1044( 1982)、 N. Haga, K. Yagi, J. Clin. Biochem. Nu tr., 7, 175( 1989)、 J. R. Neuman et al. , Biotechniques 12, 643(1987)) 、 HVJ-リポ ソームを含むリボソーム ( 「ライフサイエンスにおけるリボソーム Z実験マニュ アル」 シュプリンガー 'フヱアラーク東京(1992)p. 282〜287) 等が用いられる。 また、 本発明の 「遺伝子導入用組成物」 中の 「遺伝子導入用ベクター」 として は、 基本的には全ての遺伝子導入用ベクターが用いられるが、 例えば、 レトロゥ ィルスベクター、 アデノウイルスベクタ一、 アデノ随伴ウィルスベクターなどの 遺伝子導入用ウィルスベクターが用いられる。 投与する際は、 「遺伝子導入用組 成物」 を水もしくは種々のバッファーに溶解したものを、 水溶物として注射器な どを用いて所望の部位に注入することができる。
本発明における 「生存している表皮細胞」 には、 角質化していない生存してい る表皮であればいかなるものも含まれるが、 例えば、 皮膚上皮細胞、 皮膚繊維芽 細胞が含まれる。
本発明の 「遺伝子導入用組成物」 を投与する方法には、 ェクスビボ (ex vivo) に細胞に投与する方法と、 また、 胎児羊水中に投与する方法が含まれる。 胎児羊 水中に投与する場合には 「表皮全体」 への遺伝子導入が可能になる。 羊水中に投 与する胚発生のステージを選ぶことにより、 胚発生の着床前胚である受精卵はも ちろんのこと、 2細胞期胚、 4細胞期胚、 8細胞期胚、 桑実胚、 胚盤胞、 後期胚 盤 胞、 初期卵筒胚、 卵筒胚、 後期卵筒胚などあらゆるステージに特異的に胚に遺伝
子を導入することが可能である。 また、 着床後胚にも遺伝子導入が可能である。
「表皮全体」 に遺伝子を導入することにより魚鱗癣など皮膚紋理異常、 頭皮異 常など皮膚遺伝性疾患の遺伝子治療を好適に行うことができる。 また 「ステージ 特異的」 に遺伝子導入することにより、 そのステージで表皮を形成している胚內 の特定の部位に遺伝子をすることができ、 遺伝子発現を、 用いるベクター及びプ 口モータ一に関係なく組織特異的に制御でき、 遺伝子疾患などの治療に応用可能 である。
更に、 本発明の 「遺伝子導入べクタ一」 によって導入される遺伝子としては、 発生ステージ特異的遺伝子、 臓器特異的、 特に皮膚特異的遺伝子、 その他各種疾 患治療用遺伝子などあらゆる種類の遺伝子が挙げられる。
更に、 本発明の組成物が投与可能な動物の範囲としては、 ヒト、 マウス、 ゥサ ギ、 ゥシ、 サルなど全ての哺乳動物に適用可能である。
本発明の 「遺伝子導入用組成物」 の投与は、 遺伝子疾患一般の治療に適用でき るが、 魚鳞癣など皮膚紋理異常、 頭皮異常など皮膚遺伝性疾患に特に有効である と推察できる。 図面の簡単な説明
図 1 (A)-図 1 (B)は、 直接注入により胎児ラッ ト羊水へ導入された FITC標識 0DN の 2時間後における分布を示す顕微鏡写真である。 (A)は 40倍、 (B)は 100倍で観察 した。
図 2は、 直接注入により胎児ラッ 卜羊水へ導入された FITC標識 0DNの 5日後にお ける分布を示す顕微鏡写 である。
図 3は、 /3—ガラク トシダーゼ遺伝子を発現するプラスミ ド pSV40Galの構造を 示す図である。
図 4 (A)-図 4 (C)は、 卜ランスフエクション後 5日目におけるラッ 卜の胎児皮膚 の写真である。 (A)、 (B)は、 各々 /3—ガラクトシダーゼベクタ一、 対照べクタ一
で遺伝子導入された ラッ 卜に関し、 (C)は未処理ラッ 卜に関する。
図 5 (A) -図 5 (C)は、 卜ランスフヱクシヨン後 5日目におけるラッ 卜の組織学的 分析を示す写真である。 (A)、 (B)は、 各々;5—ガラク トシダーゼベクタ一、 対照 ベクターで遺伝子導入されたラッ 卜に関し、 (C)は未処理ラッ 卜に関する。
図 6 (A) -図 6 (C)は、 卜ランスフエクシヨン後 10日目におけるラッ 卜の組織学的 分析を示す写真である。 (A)、 (B)は、 各々;3—ガラク トシダーゼベクター、 対照 ベクターで遺伝子導入されたラッ 卜に関し、 (C)は未処理ラッ 卜に関する。 発明を実施するための最良の形態
以下、 本発明を実施例により具体的に説明するが、 本発明は、 これらの実施例 に限定されるものではない。
[実施例 1 ] HVJ-リポソームの調製
ホスファチディルセリン、 ホスファチディルコリン、 及びコレステロールを重 量比 1 : 4. 8 : 2で混合した。 乾燥させた脂質をプラスミ ド MAもしくは FITC標識オリ ゴヌクレオチド(ODN)を含んだ 200 1の BSS溶液 (137mM NaCl, 5. 4mM KC1, lOmM Tris-HCl, pH 7. 6) 中に懸濁した。 リボソームは震盪と超音波により調製した ( 「ライフサイエンスにおけるリボソーム Z実験マニュアル」 シュプリンガ一 -フ ェアラーク東京(1992)p. 282〜287参照) 。
一方、 HVJ(Z株)を精製し、 使用直前に 3分間紫外線照射(110 erg/imn2/秒)を行い 不活化した。 前述のリボソーム溶液 (10 mgリボソーム /0. 5 ml溶液) を 10, 000赤 血球凝集単位の HVJと混合し、 BSS溶液で希釈し最終容量を 4 mlとした。 混合液を 4 で 5分間保持し、 その後 37 で 30分間穏やかに震盪した。 なお、 未反応の HVJと リボソームは蔗糖密度勾配で HVJ -リボソームから取り除いた。
[実施例 2 ] FITC標識ォリゴヌクレオチド(0DN)の in vivo導入
オリゴヌクレオチド(0DN)の 5'末端と 3'末端とを FITC標識した (Antisense Res . Develop. Vol. 2, 27- 39( 1992) ) 。 該標識 ODNを含む HVJ リボソームを実施例 1の
方法で調製した。 羊水に注入する FITC標識 ODNは最終濃度 (全リボソーム溶液に対 する 0DNの濃度) にした。 妊娠 日のスプラーグ—ダウレ一 (Sprague-Dawle y) ラッ 卜の羊水に、 実施例 1の方法で調製した標識 0DNを含む HVJ-リボソーム 10 1を、 30ゲージの注射針を通して注入した。 この際、 直接子宮壁より羊水中に注 射器を打ち込んだ。 対照として、 実施例 1の方法で調製した FITC標識 0DNを含まな い HVJ -リボソームを注入した。 全てのラッ トは 2時間もしくは 5日後に屠殺して常 法に基づき、 摘出した組織を 4%パラホルムアルデヒ ド溶液に投入して固 定した 後、 切片をエリクロームブラックで染色後蛍光顕微鏡で観察した。
その結果、 導入後 2時間後に全身に渡って、 表皮及び上皮の数層に蛍光が観察さ れた (図 1(A)及び図 1(B) ) 。 FITC標識 0DNを含まない 10 1の HVJ リボソームを注 入されたラッ トもしくは未注入のラッ 卜には蛍光は観察されなかった (データは 示していない) 。 表皮細胞の蛍光は主に核内に観察され、 導入後少なくとも 5日間 は観察された (図 2) 。 蛍光は少ないながら肝臓にも 観察されたが、 腎臓、 心臓 、 肺、 脳には観察されなかった。
[実施例 3 ] 新生児ラッ 卜への ガラク トシダ一ゼの導入
/S -ガラク トシダ一ゼ遺伝子を発現するプラスミ ドである pSV40Galは、 以下のよ うに構築した。 ニヮトリ ^ ァクチンプロモータ一の 370塩基対の 5' -プロモータ一 領域及び 900塩基対の第一ェキソン領域を含むプラスミ ド DNApAct- c-inybを C - myb領 域を除くために制限酵素 Ncolと Xbalで切断し、 その後に Sai lリンカーをライゲ一 シヨンした。 3. 1キロ塩基対の大腸菌 3 -ガラク トシダーゼ遺伝子はプラスミ ド DN ApMC1871より制限酵素 Sailを用いて切り出し、 上記プラスミ ド DNAの Sai l 部位に 結合した (図 3) 。 対照として、 大腸菌 ;S ガラク トシダ一ゼ遺伝子を含まないプ ラスミ ド DMpAct-CVを同時に作製した。
β -iiラウ 卜シダ一ゼ遗伝子プラスミ ド pSV40Galまたは対照プラスミ ド DNApAct -CVを含む HVJ -リボソームを調製した。 導入効率を上げるために、 HMG- 1蛋白質を 同時に HVJ-リボソームに封入して用いた。 直接子宮壁より羊水中に注射器を打ち
込み、 実施例 2の方法で作成した 10 /i lの HVJ -リボソームを注入した。 ラッ トは注 入後 5日後、 10日後に屠殺して、 常法に基づき、 摘出した組織を 1 %パラホルムァ ルデヒ ド溶液に投入して固定した後、 組織を取り出して、 常法に基づき、 ェオシ ン溶液で染色した。 その後、 X- galクロマジヱンバッファー溶液 (49mg/ml 5 -プロ モ -4-クロル- 3-インドリノレ- yS -D-ガラク トシド: PBSに溶解した 1 ramol Mg 2及び 3 mmol K3Fe(CN) 6 :l : 99) を加えた。 染色後顕微鏡で観察した。 対照として、 ラッ 卜の心臓に大腸菌 ガラク トシダーゼ遺伝子を含まないプラスミ ド DNAを含んだ HVJ -リポソ一厶を打ち込んだものにも同様の操作を行い観察した。
その結果、 ガラク トシダ一ゼ遺伝子プラスミ ド DNAベクターを含む HVJ -リポ ソ一ムを直接羊水に注入することによって、 5日後の胎児皮膚には; 9 -ガラク トシ ダーゼの発現が見られた (図 4(A)) 。 一方、 ラウ トシダーゼ遺伝子プラスミ ド DNAベクターを含まない HVJ-リボソームもしくは未処理の胎児皮膚には -ガラ ク トシダ ーゼの発現が見られなかった (図 4(B)、 図 4(C)) 。 S -ガラク トシダー ゼの発現が見られた細胞は表皮と上皮数層にわたって存在した (図 5(A) ) 。 これ らの細胞は主に線維芽細胞であった。 yS -ガラク 卜シダ一ゼの発現は発現量は弱く なるものの 10日にわたって観察された (図 6(A)) 。 一方、 β - iiラウ トシダーゼ遺 伝子プラスミ ド DNAベクタ一を含まない HVJ -リボソームで処理したマウス、 及び未 処理のマウスの組織には -ガラク 卜シダ一ゼの発現が見られなかった (図 5(B)、 図 5(C)及び図 6(Β)、 図 6(C) ) なお、 HVJ-リボソームを導入したラッ ト、 導入しな ぃラッ 卜の間に、 生存率の差はみられなかった。 産業上の利用の可能性
本発明によって、 哺乳動物の表皮に特異的に外来遺伝子を導入することが可能 となり、 従来に比して非常に簡便に生体へ遺伝子を導入できるようになった。 ま た、 表皮特異的な遺伝子導入が可能となった。 このことにより、 皮膚特異的遺伝 子治療が可能となり、 また皮膚移植の際に拒絶の原因となる因子を遺伝子的に制
御することにより、 皮膚の生着率の向上もはかることができる。 更に、 本発明に よって、 簡便な遺伝子治療の道が開かれると同時に、 遺伝子治療の対象となる遺 伝子のレパ一トリーが拡大した。