JPH08225895A

JPH08225895A - 抗菌性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼

Info

Publication number: JPH08225895A
Application number: JP5506995A
Authority: JP
Inventors: Morihiro Hasegawa; 守弘長谷川; Katsuhisa Miyakusu; 克久宮楠; Sadao Hirotsu; 貞雄廣津; Seiichi Isozaki; 誠一磯崎
Original assignee: Nisshin Steel Co Ltd
Current assignee: Nippon Steel Nisshin Co Ltd
Priority date: 1995-02-20
Filing date: 1995-02-20
Publication date: 1996-09-03

Abstract

(57)【要約】【目的】外観，加工性等を損なうことなく、抗菌性を
高めたマルテンサイト系ステンレス鋼を得る。【構成】このマルテンサイト系ステンレス鋼は、Ｃ：
０．０７％を超え０．８０％以下，Ｓｉ：３．０％以
下，Ｃｒ：１１．０〜１８．０％及びＣｕ：０．３〜
３．０％を含み、更に必要に応じＭｏ：２．０％以下及
びＶ：１．５％以下の１種又は２種を含んでいる。ま
た、Ｌ＝％Ｃｕ＋０．５×％Ｓｉで定義されるＬ値が
０．６以上となるように、ＣｕとＳｉ含有量を調整する
ことが好ましい。【効果】ステンレス鋼表層部にＣｕが濃化し、鋼表面
にある水分でイオン化したＣｕが殺菌作用を呈する。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、各種衛生用機器，医療
機器，食品関連の機器，基材等として使用され、抗菌性
に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼に関する。

【０００２】

【従来の技術】雑菌が繁殖し易い場所や雑菌の発生が好
ましくない場所に使用される硬質材料として、耐食性に
優れたマルテンサイト系ステンレス鋼が使用されてい
る。しかし、雑菌の繁殖による汚染，悪臭，ぬめり等が
人体，動物，製品等に与える悪影響を懸念する傾向が強
くなってきている。特に清潔さが要求される厨房，医療
機関，多数の人が集まる建造物等では、雑菌に対して抵
抗力のある材料に対する要求が強い。この種の要求に答
えるため、抗菌剤を配合した樹脂をマルテンサイト系ス
テンレス鋼の表面に塗布積層する方法や、マトリックス
中に抗菌剤成分を含むめっきを施す方法等が特開平５−
２２８２０２号公報，特開平６−１０１９１号公報等で
紹介されている。

【０００３】

【発明が解決しようとする課題】抗菌剤を配合した樹脂
をマルテンサイト系ステンレス鋼の表面に塗布積層する
と、ステンレス鋼特有の金属光沢が失われ、商品価値を
下げる。しかも、抗菌性皮膜は、加工時や使用中に割
れ，欠損，摩耗等の損傷を受け、湿潤雰囲気に曝される
とき抗菌性成分が溶出し、外観が劣化するばかりでな
く、本来の抗菌作用が損なわれる。また、抗菌剤が枯渇
したとき、残った皮膜が却って雑菌の栄養分となり、雑
菌の繁殖を促進させる原因にもなる。抗菌剤成分を混入
した複合めっきを施したものでは、めっき層の密着性が
十分でなく、加工性を低下させる欠点がある。また、皮
膜の溶解，摩耗，欠損等に起因して外観が低下すると共
に、抗菌作用が低下する場合がある。しかも、何れの方
法も抗菌剤を使用していることから、溶出した抗菌剤が
人体や環境に悪影響を及ぼす虞れがある。そこで、抗菌
剤成分を被覆する方法に代え、ステンレス鋼自体に抗菌
性を付与することが望まれている。本発明は、このよう
な要求に応えるべく案出されたものであり、ステンレス
鋼素材に抗菌性を付与することにより、ステンレス鋼特
有の美麗な外観や加工性等の諸特性を損なうことなく、
長期にわたって優れた抗菌性を維持し、しかも人体や環
境に対して安全なマルテンサイト系ステンレス鋼を提供
することを目的とする。

【０００４】

【課題を解決するための手段】本発明のマルテンサイト
系ステンレス鋼は、その目的を達成するために、Ｃ：
０．０７重量％を超え０．８０重量％以下，Ｓｉ：３．
０重量％以下，Ｃｒ：１１．０〜１８．０重量％及びＣ
ｕ：０．３〜３．０重量％を含むことを特徴とする、こ
のステンレス鋼は、更にＭｏ：２．０重量％以下及び
Ｖ：１．５重量％以下の１種又は２種を含むことができ
る。また、Ｃｕ含有量とＳｉ含有量との間には、Ｌ＝％
Ｃｕ＋０．５×％Ｓｉで定義されるＬ値が０．６以上と
なる関係が成立していることが好ましい。

【０００５】

【作用】マルテンサイト系ステンレス鋼の素材表面にお
けるＣｕ濃度の上昇に応じて、素材自体で得られる抗菌
性が顕著になる。本発明者等は、このような表面層のＣ
ｕ濃度と抗菌性との関係を調査・研究する過程で、抗菌
性に有効な高濃度の表面層を得るためには、ステンレス
鋼に０．３重量％以上のＣｕを含有させる必要があるこ
とを見い出した。マルテンサイト系ステンレス鋼にＣｕ
を含有させた場合、ステンレス鋼表面にある不動態皮膜
中においてＣｕの濃化又はＣｕ系酸化物の生成が起こ
る。濃化したＣｕやＣｕ系酸化物は、最近が繁殖し易い
ような湿潤環境下ではステンレス鋼表面に付着している
僅かな水分によって極微量のＣｕイオンとしてイオン化
する。イオン化したＣｕは、細胞の呼吸，代謝酵素と効
率よく強く反応し、細胞や代謝酵素を不活化させる。そ
の結果、最近や雑菌が死滅する。

【０００６】抗菌性を向上させるステンレス鋼表層部の
高Ｃｕ濃度は、素材のＣｕを含有量を多くすることによ
り確保される。ステンレス鋼中のＣｕ含有量が０．３重
量％以上になると、ステンレス鋼の表層部に濃化するＣ
ｕ濃度が急激に高くなることから、優れた抗菌性が発現
される。刃物等に加工する際の研磨方法によっては、ス
テンレス鋼表面の汚れや変質によって十分な抗菌性が得
られない場合がある。このような場合には、酸性溶液に
浸漬して汚れや表面変質層を除去することにより、材料
本来の特性及びステンレス鋼としての外観を損なうこと
なく、優れた抗菌性が回復される。

【０００７】以下、本発明のマルテンサイト系ステンレ
ス鋼に含まれる合金元素及び含有量について説明する。Ｃ：０．０７重量％を超え０．８０重量％焼入れ及び焼戻し後の硬さ及び強度を向上させる上で有
効な元素であり、優れた強度を得るためには少なくとも
０．０７重量％を超えるＣ含有が必要である。しかし、
０．８０重量％を超えて多量のＣが含まれると、耐食性
が劣化し、また靭性の低下に起因して加工性が悪化す
る。なお、刃物等としての用途では、０．２０〜０．８
０重量％の範囲でＣを含有させることが好ましい。Ｓｉ：３．０重量％以下製鋼時に溶鋼を脱酸するために添加される元素である
が、材料特性面では焼戻し軟化抵抗を増大させる。ま
た、Ｃｕ含有量が０．３〜０．６重量％の比較的低い範
囲においては、ステンレス鋼表面へのＣｕの濃化を促進
することによて、抗菌性の向上にも寄与する。しかし、
３．０重量％を超える多量のＳｉ含有は、増量に見合っ
た添加効果の向上がなく、却って靭性を劣化させる原因
になる。なお、良好な抗菌性及び靭性を確保する上で
は、Ｓｉ含有量は、０．６〜２．０重量％の範囲が好ま
しい。

【０００８】Ｃｒ：１１．０〜１８．０重量％耐食性の向上に有効な合金元素であり、ステンレス鋼刃
物等として必要とされる耐食性を得るためには、少なく
とも１１．０重量％以上の含有量が必要である。しか
し、１８．０重量％を超える多量のＣｒが含まれると、
焼入れ硬さが低下し、刃欠けの原因となる巨大炭化物が
生成し易くなる。Ｃｕ：０．３〜３．０重量％優れた抗菌性を付与する上で、不可欠な合金元素であ
る。また、耐食性を向上させ、４００〜５５０℃での焼
戻し軟化抵抗を増大させる上でも有効である。このよう
な作用は、０．３重量％以上のＣｕ含有で顕著になる。
しかし、３．０重量％を得る多量のＣｕが含まれると、
却って熱間加工性及び靭性が劣化する。

【０００９】Ｍｏ：２．０重量％以下必要に応じて添加される合金元素であり、焼入れ及び特
に高温での焼戻し軟化抵抗を高めると共に、耐食性の向
上にも寄与する。Ｍｏの作用は、０．５重量％以上の含
有量で顕著になる。しかし、２．０重量％を超える過剰
なＭｏ含有は、熱間加工性の低下を招く。Ｖ：１．５重量％以下必要に応じて添加される合金元素であり、炭化物の形成
によって耐摩耗性を高めると共に、焼戻し軟化抵抗を向
上させる。更に、結晶粒微細化作用によって靭性を向上
させる。しかし、１．５重量％を超える多量のＶを含有
させると、却って靭性が低下し、熱間加工性も悪化す
る。

【００１０】本発明に従ったマルテンサイト系ステンレ
ス鋼は、前述したように合金元素の含有量を規制するこ
とによって優れた抗菌性が得られるが、更に（１）式で
定義されるＬ値を０．６以上となるように成分調整する
ことによって抗菌効果を更に向上させている。Ｌ＝％Ｃｕ＋０．５×％Ｓｉ・・・・（１）式（１）の関係は、本発明者等による多数の実験から導
き出されたＣｕ及びＳｉ含有量の関係式である。使用環
境によっては、０．３〜０．６重量％程度の比較的Ｃｕ
含有量が少ないステンレス鋼では必ずしも満足できる抗
菌性が得られないことがある。この場合、Ｌ値を０．６
以上にする適量のＳｉを含有させることにより、優れた
抗菌性が発現される。Ｓｉ含有によって抗菌性が向上す
るメカニズムは明らかでないが、Ｓｉに関してもステン
レス鋼表面に若干濃化することが確認されたことから、
ＳｉがＣｕの濃化を促進しているものと推測される。本
発明は、以上の合金元素及び不可避的に混入する不純物
元素の他に、結晶粒微細化に寄与し低温靭性を向上させ
る０．５重量％以下のＮｂ，１．０重量％以下のＴｉ，
０．３重量％以下のＴａ，Ｚｒ、焼戻し軟化抵抗を向上
させる１．０重量％以下のＡｌ，２．０重量％以下の
Ｗ、強度・靭性の向上に寄与する２．０重量％以下のＮ
ｉ、熱間加工性を改善する０．０１重量％以下のＢ等の
１種又は２種以上を含ませることができる。これらの合
金元素を含有させても、抗菌性が損なわれることなく優
れた材料特性が得られる。

【００１１】

【実施例】

実施例１：表１に成分を示す各種ステンレス鋼を溶製
し、１００ｋｇの鋼塊から熱間圧延を経て、板厚４ｍｍ
の熱延板を製造した。なお、表１において、Ａグループ
は本発明鋼，Ｂグループは比較鋼，Ｃグループは従来鋼
である。熱延板を８６０℃で５時間均熱した後で徐冷す
る焼きなまし処理を施した後、切削加工し、３５％の冷
間圧延によって板厚２．３ｍｍの冷延板を得た。この冷
延板に、１０５０℃で１０分間均熱する焼入れ及び２０
０℃で３０分間均熱する焼戻し処理を施し、酸洗仕上げ
した。

【００１２】

【表１】

【００１３】各ステンレス鋼の酸洗仕上げ材について、
抗菌性を調査した。抗菌性試験には、Ｓｔａｐｈｙｌｏ
ｃｏｃｃｕｓａｕｒｅｕｓＩＦＯ１２７３２（黄
色ブドウ球菌）及びＰｓｅｕｄｏｍｏｎａｓａｅｒｕ
ｇｉｎｏｓａ（緑膿菌）それぞれについて普通ブイヨン
培地で３５℃，１６〜２０時間振盪培養し、培養液を用
意した。培養液を滅菌リン酸緩衝液で２０，０００倍に
希釈することにより、菌液を調製した。各ステンレス鋼
の酸洗仕上げ材表面に菌液１ｍｌを滴下し、２５℃で２
４時間保存した。保存後、ＳＣＤＬＰ培地で洗い出し、
得られた液について標準寒天培地を用いた混釈平板培養
法（３５℃，２日間培養）により生菌数を測定した。こ
の試験方法によるとき、初期の生菌数より２４時間後の
生菌数が減少しているほど、抗菌性の強い材料であると
いえる。また、試験に異常がないことを確認するため、
参照としてシャーレに菌液を直接滴下し、同様に菌数を
測定した。参照の生菌数に大きな増減がないとき、試験
結果が信頼性の高いものと評価される。

【００１４】

【表２】

【００１５】本発明に従ったＡグループの試験片は、何
れも優れた抗菌性を示しており、特にＬ値が０．６以上
のステンレス鋼では顕著な抗菌性を呈していることが表
２から判る。これに対し、Ｃｕ含有量が０．３重量％未
満の比較鋼及び従来鋼では、何れも抗菌性に劣り、たと
えＳｉ含有量の増量によってＬ値を０．６以上に調整し
ても、抗菌性が向上する度合いが小さかった。このこと
から、優れた抗菌性を得るためには、本発明で規定した
範囲までＣｕ含有量を高めることの有効性が確認され
た。

【００１６】

【発明の効果】以上に説明したように、本発明のマルテ
ンサイト系ステンレス鋼は、Ｃ，Ｓｉ，Ｃｒ，Ｃｕ等を
成分調整し、必要に応じてＭｏやＶを添加し、Ｓｉ及び
Ｃｕ含有量の間の成分バランスを図っている。これによ
り、刃物等としての材料特性を維持しつつ、従来では得
られなかった優れた抗菌性を呈する特性が付与される。
このようにして抗菌性が高められたステンレス鋼は、衛
生面を重視した刃物，洋食器，医療用機器，サニタリー
器具，食品関連機器等として広範な分野で使用される。

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者磯崎誠一山口県新南陽市野村南町4976番地日新製鋼株式会社鉄鋼研究所内

Claims

【特許請求の範囲】

【請求項１】Ｃ：０．０７重量％を超え０．８０重量
％以下，Ｓｉ：３．０重量％以下，Ｃｒ：１１．０〜１
８．０重量％及びＣｕ：０．３〜３．０重量％を含む抗
菌性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼。
【請求項２】更にＭｏ：２．０重量％以下及びＶ：
１．５重量％以下の１種又は２種を含む請求項１記載の
抗菌性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼。
【請求項３】Ｃｕ含有量とＳｉ含有量との間にＬ＝％
Ｃｕ＋０．５×％Ｓｉで定義されるＬ値が０．６以上と
なる関係が成立している請求項１又は２記載の抗菌性に
優れたマルテンサイト系ステンレス鋼。