〔実施形態1〕
本発明の一実施形態について以下に説明する。本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意図する。
本明細書中、「匂い物質」とは、広義において匂い物質受容層に吸着可能な物質を意味する。従って、一般的に匂いの原因物質とされていない物質も含まれる。「匂い」には原因となる匂い物質が複数含まれることが多く、また、匂い物質として認知されていない物質または未知の匂い物質も存在する。本発明の一実施形態は、匂い物質受容層への匂い物質の吸着量が匂い物質の種類によって異なることに着目するものである。
なお、本明細書中、単に「匂い物質」と記載した場合であっても、個々の匂い物質ではなく、複数の匂い物質が含まれ得る「匂い物質の集合体」を意味する場合がある。
「匂い物質」としては特に限定されないが、例えばヘキサン、酢酸エチル、メタノール、炭酸ジエチル、トルエン、d-リモネン、ボルナン-2-オン、シス-3-ヘキセノール、β-フェニルエチルアルコール、シトラール、L-カルボン、γ-ウンデカラクトン、オイゲノール、リナリルアセテート、メントール、ベンズアルデヒド、バニリン、ヘキサナール、エタノール、吉草酸ペンチル、リナロール、2-プロパノール等が挙げられる。
[1.樹脂組成物]
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、匂い物質受容層を形成するための樹脂組成物であって、T単位(R1SiO3/2)からなるシリコーン樹脂を含む樹脂(A)、フィラー(C)、および界面活性剤(B)を含む。樹脂組成物は、これらの成分が均一に存在する状態の組成物であり得る。
<樹脂(A)>
樹脂(A)は、匂い物質受容層を形成可能な製膜性を有していればよく、特定の匂い物質に対して吸着や溶解といった相互作用を呈することが好ましい。また、樹脂(A)は、後述する匂いセンサの使用条件に応じた適当な物理的性質(耐熱性など)および化学的性質(試料ガスに対する相溶性および耐腐食性など)を有することが好ましい。
樹脂(A)は、T単位(R1SiO3/2)からなるシリコーン樹脂を含む。樹脂(A)は、T単位からなるシリコーン樹脂と、その他のシリコーン樹脂とを複数混合したものであってもよい。
(シリコーン樹脂)
シリコーン樹脂には、Siに有機基が3個結合した一官能性のM単位、Siに有機基が2個結合した二官能性のD単位、Siに有機基が1個結合した三官能性のT単位、有機基が結合していない四官能性のQ単位がある。樹脂(A)が含むシリコーン樹脂は、T単位(R1SiO3/2)からなり、R1は、1~10個の炭素原子を有する一価の炭化水素基である。特に、本開示のシリコーン樹脂は、主鎖がT単位(R1SiO3/2)からなることが好ましい。本開示において、常温常圧(例えば、常温は25±15℃、常圧は1013hPa)で固体のシリコーン架橋物を「シリコーン樹脂」と呼称する。
炭化水素基は、脂肪族基、芳香族基のいずれでもよく、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられる。アルキル基およびアルケニル基は、直鎖または分岐鎖のいずれであってもよい。
前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基が挙げられる。
前記アリール基としては、フェニル基、トルイル基、ジメチルフェニル基などが挙げられる。
前記アラルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基などが挙げられる。
樹脂(A)は、シリコーン樹脂以外の他の成分を含んでもよい。樹脂(A)が含み得る他の樹脂の例としては、シリコーンオイルが挙げられる。本開示においては、シリコーンオイルは常温常圧(例えば、常温は25±15℃、常圧は1013hPa)にて流動性を有しており、シロキサン結合が鎖状に延びたものである。シリコーン樹脂は、架橋反応によりシロキサン結合からなる3次元的な架橋構造を形成することが可能であるのに対し、シリコーンオイルは、上記架橋構造を形成することができないものである。シリコーンオイルは、樹脂組成物中におけるフィラー(C)の分散性を高める観点、または樹脂組成物の塗布性を高める観点から樹脂組成物に配合することが可能である。特にシリコーンオイルは末端基を除いた主鎖がD単位のみからなるシリコーンオイルであることが好ましい。シリコーンオイルが有する変性部として、官能基やブロック化されたその他変性部位の種類については特に限定はなく、例えば側鎖型、両末端型、方末端型、側鎖両末端型などの形態で変性部位を有しうる。上記変性部位としては、アミノ基、アミン類、エポキシ基、カルビノール基、メルカプト基、カルボキシル基、メチルハイドロジェン類、メタクリル基、アクリル基、フェニル基、フェノール基、シラノール基、カルボン酸無水物類、ビニル基などが挙げられる。その他変性部位としては、ポリエステル部位、ポリエーテル部位、アルキル部位、アラルキル部位、フロロアルキル部位、高級脂肪酸エステル部位、高級脂肪アミド部位などが挙げられる。以下の記載において「シリコーン樹脂」は、シリコーンオイルを含まない場合を例に挙げて説明する。
本開示において、シリコーン樹脂は、樹脂(A)の全体に対して30~100重量%含まれることが好ましく、50~100重量%含まれることがより好ましい。樹脂(A)の全体に対して、シリコーン樹脂が前記の量含まれていることにより、樹脂組成物が好適な柔軟性を有し、成膜性が高くなる。これによれば、匂い物質受容層315が安定して匂い物質を吸着することができる。
<界面活性剤(B)>
界面活性剤(B)は、後述するフィラー(C)の分散剤としての作用を呈する。また、界面活性剤(B)は、センサ素子を樹脂組成物の塗布によって形成する際の樹脂組成物の塗布性を高めることが可能である。界面活性剤(B)は、上記の作用を発現する範囲において、公知の界面活性剤から適宜に選ぶことが可能である。
界面活性剤(B)としては、例えばアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤が挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、炭素数10~24のカルボン酸のアルカリ金属塩および炭素数14~24のアルキルスルホン酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。
前記炭素数10~24のカルボン酸としては、例えば、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ペンタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸およびテトラコサン酸等が挙げられる。
前記炭素数14~24のアルキルスルホン酸が有するアルキル基としては、例えば、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基およびテトラコシル基等が挙げられる。
前記アルカリ金属塩が含むアルカリ金属としては、例えば、ナトリウムおよびカリウム等が挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、炭素数12~24のアルキル基を有する第4級アンモニウムのハロゲン化物塩等が挙げられる。
前記炭素数12~24のアルキル基を有する第4級アンモニウムとしては、例えばテトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、ジメチルジオクチルアンモニウム、ジデシルジメチルアンモニウム、デシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム、トリデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、メチルトリオクチルアンモニウム、オクチルトリメチルアンモニウム、トリブチルメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、ノナデシルトリメチルアンモニウム、イコシルトリメチルアンモニウム、ヘンイコシルトリメチルアンモニウム、ヘプタデシルトリメチルアンモニウムおよびペンタデシルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。
前記ハロゲン化物塩としては、例えばフッ化物塩、塩化物塩、臭化物塩およびヨウ化物塩等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えば、炭素数10~22のアルキル基を有するジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウム分子内塩、炭素数10~22のアルキル基を有するN-アルキル-N,N-ジメチルグリシン等が挙げられる。
炭素数10~22のアルキル基を有するジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩としては、例えばデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ウンデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ドデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、トリデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、テトラデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ペンタデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ヘキサデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ヘプタデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、オクタデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ノナデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、イコシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ヘンイコシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩およびドコシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩等が挙げられる。
炭素数10~22のアルキル基を有するN-アルキル-N,N-ジメチルグリシンとしては、N-ドデシル-N,N-ジメチルグリシンおよびN-オクタデシル-N,N-ジメチルグリシン等が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、高級アルコールエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。ノニオン性界面活性剤の市販品の例としては、アジスパーPB-822(味の素ファインテクノ(株)製)およびポリビニルピロリドン(日本触媒(株)製)等が挙げられる。
高級アルコールとしては、1-ヘキシルアルコール、1-ヘプチルアルコール、1-オクチルアルコール、1-ノニルアルコール、1-デシルアルコール、1-ウンデシルアルコール、1-ドデシルアルコール、1-トリデシルアルコール、1-テトラデシルアルコール、1-ペンタデシルアルコール、1-ヘキサデシルアルコール、1-ヘプタデシルアルコール、1-オクタデシルアルコール、ソルビタン等が挙げられる。
エチレンオキサイド付加モル数は、匂い識別性能の観点から5~50が好ましく、より好ましくは5~40が好ましく、さらに好ましくは5~30である。例えば、イオネットS-60Vのエチレンオキサイド付加モル数は20である。
界面活性剤(B)は、フィラー(C)に対する分散性の観点から、エーテル構造を含むことが好ましく、エーテル構造の中でもAOA(アルキレンオキサイド付加物)鎖を含むことが好ましい。エーテル構造を含む界面活性剤の例としては、イオネットS-60V(三洋化成工業(株)製)が挙げられる。また、AOA鎖を含む界面活性剤の例としては、ディスパロンDA-325(楠本化成(株)製)およびイオネットT-80V(三洋化成工業(株)製)が挙げられる。また、界面活性剤(B)は、フィラー(C)に対する分散性の観点から、アミド基、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基のうち少なくとも1つを有することが好ましい。また、界面活性剤(B)は、フィラー(C)に対する分散性の観点から、オキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖、および、オキシエチレン・オキシプロピレンのランダム構造もしくはブロック構造、の少なくとも1つを有することが好ましい。なお、オキシエチレン・オキシプロピレンのランダム構造は、オキシエチレンとオキシプロピレンとの両方が不規則に連結してなる鎖状構造である。また、オキシエチレン・オキシプロピレンのブロック構造は、オキシエチレンが連結してなるオキシエチレンブロックと、オキシプロピレンが連結してなるオキシプロピレンブロックとが連結してなる鎖状構造である。
<フィラー(C)>
フィラー(C)は、導電性フィラー、例えばニッケルや金、銅などの金属フィラー、導電性炭素材料であることが好ましく、より好ましくは導電性炭素材料である。上記樹脂組成物中へのフィラーの分散性の観点から導電性炭素材料が好適に用いられる。本明細書において、導電性炭素材料とは、体積固有抵抗が0.1Ω・cm以下の炭素材料のことである。上述の樹脂組成物は、樹脂(A)と界面活性剤(B)との混合物中にフィラー(C)が分散している状態である。フィラー(C)同士が互いに接触して導電経路を形成することで樹脂組成物が導電性を有する。
導電性炭素材料としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブおよびグラフェン等が挙げられる。導電性炭素材料としては、特に、カーボンブラックであることが好ましい。
カーボンブラックの市販品としては、ケッチェンブラックEC(オランダ・アクゾ社製商品名)、ケッチェンブラックEC-300J(ライオンスペシャリティケミカルズ(株)製商品名)、ケッチェンブラックEC-600JD(ライオンスペシャリティケミカルズ(株)製商品名)、シーストG116、116(東海カーボン社製商品名)、ニテロン#10(新日鉄化学(株)社製商品名)、デンカブラック(電気化学工業(株)社製商品名)およびSUPER C-65(米国・MTI Corporation社製品名)等がある。
カーボンナノチューブの市販品としては、VGCF-H(昭和電工(株)社製諸品名)等がある。
グラフェンの市販品としては、シグマアルドリッチ社製がある。
前記導電性炭素材料の形状は、好ましくは繊維状または球状である。
繊維状である場合、繊維径は好ましくは0.1~10μmであり、更に好ましくは0.1~5μmである。繊維長は好ましくは0.1~10μmであり、更に好ましくは1~10μmである。
球状である場合、1次粒子径が好ましくは10nm~200nmであり、更に好ましくは20nm~150nmである。
また、導電性炭素材料は、樹脂組成物中での導電性及びセンサ感度の観点から、一次粒子径が100nm以下であることが好ましい。導電性炭素材料の粒子径は、公知の方法で求めることが可能である。例えば導電性炭素材料の粒子径は透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、画像処理装置(例えばキーエンス製のデジタルマイクロスコープVHX-700F)を用いて画像解析することにより測定することができる。導電性炭素材料が公知の物または市販品である場合には、粒子径は、文献値またはカタログ値であってもよい。
また、フィラー(C)は、シリカ微粒子であってもよい。この場合、シリカ微粒子は、樹脂組成物中の導電性及びセンサ感度の観点から、一次粒子径が200nm以下であることが好ましい。シリカ微粒子の粒子径は、公知の方法で求めることが可能である。シリカ微粒子の粒子径は、例えば上述のように透過型電子顕微鏡画像により求められる。シリカ微粒子が公知の物または市販品である場合には、粒子径は、文献値またはカタログ値であってもよい。
<樹脂組成物の組成>
樹脂組成物における樹脂(A)と界面活性剤(B)との重量比[(A)/(B)]は、樹脂組成物の塗工安定性および樹脂組成物中でのフィラー(C)の安定性の観点から1.0~50.0であることが好ましい。当該重量比(A)/(B)は、樹脂組成物中でのフィラー(C)の安定性の観点から、4.0超であることがより好ましく、4.5以上であることがより好ましく、5.0以上であることがより好ましい。また、当該重量比(A)/(B)は、樹脂組成物の塗工安定性から、40.0以下であることがより好ましく、30.0以下であることがより好ましい。
樹脂組成物におけるフィラー(C)の含有量は、樹脂組成物から形成されるセンサ素子が匂いセンサとして十分な導電性を発現する観点、および当該匂いセンサとして十分な感度を発現する観点から、樹脂(A)、界面活性剤(B)およびフィラー(C)の合計100重量%に対して、5~30重量%であることが好ましい。樹脂(A)、界面活性剤(B)およびフィラー(C)の合計100重量%に対するフィラー(C)の含有量は、上記の導電性をより高める観点から、6重量%以上であることがより好ましく、7重量%以上であることがより好ましい。また、樹脂(A)、界面活性剤(B)およびフィラー(C)の合計100重量%に対するフィラー(C)の含有量は、上記の感度をより高める観点から、29重量%以下であることがより好ましい。
<任意成分>
樹脂組成物は、本発明の効果が得られる範囲において、前述した樹脂(A)、界面活性剤(B)およびフィラー(C)以外の他の成分をさらに含有していてもよい。他の成分の例には、溶剤(D)が含まれる。当該他の成分は、本発明の効果および当該他の成分による効果の両方が得られる範囲で好適に使用され得る。
溶剤(D)は、樹脂(A)と界面活性剤(B)との相溶性を高める観点、樹脂組成物中におけるフィラー(C)の分散性を高める観点、または樹脂組成物の塗布性を高める観点から樹脂組成物に配合することが可能である。溶剤(D)の例には、N-メチル-2-ピロリドン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酪酸エチル、酪酸ブチル、酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,Nジメチルアセトアミド、トルエン、およびキシレンが含まれる。
樹脂組成物における溶剤(D)の含有量は、上記の観点の観点から適宜に決定し得る。たとえば、樹脂組成物における溶剤(D)の含有量は、塗工性の観点から、樹脂(A)、界面活性剤(B)およびフィラー(C)、溶剤(D)の合計100重量部に対して、5~50重量部であることが好ましい。
<樹脂組成物の製法>
前記樹脂組成物は、樹脂(A)、界面活性剤(B)、フィラー(C)および必要に応じて溶剤(D)を混合して、撹拌機で均一に混練することでスラリーとして得られる。溶剤(D)を添加する場合では、溶剤(D)は樹脂組成物から留去される。溶剤(D)は、均一に混合して生成した樹脂組成物から留去してもよいし、後述のセンサ素子の製造時に生成した塗膜から留去してもよい。
<主な作用効果>
上述した樹脂組成物では、樹脂組成物に吸着した匂い物質の量に応じて樹脂組成物の電気伝導性が異なる。また、上述の樹脂組成物への匂い物質の吸着過程は、匂い物質毎に異なっている。このため、当該樹脂組成物で匂い物質が吸着し得る検出部を形成することにより、匂いセンサのセンサ素子に利用することが可能である。当該樹脂組成物を用いることにより、匂いの識別性能を向上させることができる。例えば、複数の物質が相互作用する現実の匂いパターンまたは組成が不明である物質による現実の匂いパターンをも識別することができる。また、当該樹脂組成物は、組成の安定性および樹脂組成物の塗工安定性に優れる。よってセンサ素子に利用したときの匂いの識別性能の安定性が高められる。
引用文献1に記載のセンサでは、単体の化合物からなる匂いの検出は可能であると考えられる。一方で多くの匂いは複数の物質の混合物である。引用文献1に記載のセンサでは検出部に匂いの成分を識別させる機能がないため、混合物に対する匂い識別性能が十分でない。引用文献2では検出部に用いる導電性を示す高分子の化学構造の違いを利用して、それぞれの導電性高分子を介して検出部が示す種々の化合物に対する応答に違いを持たせることで混合物としての匂いを認識させることができることが示されている。しかしながら、導電性を示す高分子の化学構造は限られており、任意の匂い物質に対する検出部の応答を感度良く分離することが難しく、類似の成分からなる匂い同士を識別させることは難しい。引用文献3では有機ポリマーと可塑剤と導電性物質からなる混合物を検出材料として検出部に用いて匂い物質が有機ポリマー中に浸透することを上記混合物の電気抵抗変化として検出する方法を提案している。異なる組成の有機ポリマーを用いれば浸透する匂い物質が異なることを利用して異なる組成の有機ポリマーを含む上記の検出材料からなる検出部を複数並列して用いるアレイにすることで、混合物としての匂いを認識させることができる。しかしながら、上記の有機ポリマーおよび可塑剤を含有する有機ポリマーでは、有機ポリマー/導電性物質の組み合わせを複数用意したとしても、有機ポリマー同士の化学的な性質の差が小さいため、匂いの識別性能は十分でない。これらの従来技術では例えば、複数の物質が相互作用する現実の匂いパターンまたは組成が不明である物質による現実の匂いパターンを的確に検知できない。
[2.センサ素子31]
上述した樹脂組成物は、樹脂組成物に匂い物質Aが吸着した場合と、匂い物質Aとは異なる匂い物質Bが吸着した場合とで、電気伝導性の時的な変化が異なる。この性質を利用すれば、匂い物質を検出・識別可能なセンサ素子31を実現することができる。
以下では、本発明の一実施形態に係る樹脂組成物を適用したセンサ素子31の概要および効果について説明する。
センサ素子31は、上述の樹脂組成物を含む匂い物質受容層315、第1金属配線313A、および第2金属配線313Bを備えている。なお、以下では、第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bを区別しない場合、金属配線313と記す場合がある。
本明細書中、「匂い物質受容層」とは、識別対象となる匂い物質を吸着する層を意味する。匂い物質受容層は上述の樹脂組成物から形成される。匂い物質受容層は、本発明の実施形態に係るセンサ素子の一部として設けられ得る。
ここで、第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bについて、図2および図3を用いて説明する。図2は、センサ素子31の構成の一例を示す上面図であり、図3は、図2に示すセンサ素子31の構成の一例を示す断面図である。
第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bは、匂い物質受容層315(すなわち、樹脂組成物)の電気伝導性の変化を計測するための電極として機能する金属配線である。すなわち、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとは互いに離間しており、匂い物質受容層315は、第1金属配線の少なくとも一部と第2金属配線の少なくとも一部とに接している。一例において、第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bは、互いに直接接していない金属配線であり、図2に示すように、互いに略平行な金属配線であってもよい。
図2に示すように第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bを含む金属配線313は、基板311上に配置されていてもよい。基板311は、電子回路に一般的に用いられるガラスエポキシ等の基板であり得る。金属配線313は、銅、または金等の金属配線であり得る。基板の面に対して垂直な方向から見た第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bそれぞれの太さは10μm~2mmが好ましく、更に好ましくは10μm~1mmである。基板の面に対して平行な方向から見た第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bそれぞれの高さ、すなわち厚さは1μm~100μmが好ましく、更に好ましくは10μm~50μmである。第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bの間隔は1μm~1mmが好ましく、更に好ましくは1μm~100μmである。金属配線313の長さは10μm~50mmが好ましく、更に好ましくは10μm~30mmである。
金属配線313はシール基板312上に配置されていてもよい。図3は、図2のA-A断面を示している。図3に示すようにガラスエポキシ等の基板311上にシール基板312を配置し、そのシール基板312上に金属配線313が配置されていてもよい。基板311上にシール基板312を固定するためにビニールテープ314を用いていてもよい。また、ビニールテープ314は、金属配線313の余分な部分をマスクすることにより、金属配線313の露出部分の長さを調整するためにも用いられ得る。ここで、金属配線313の露出部分とは、金属配線313と匂い物質受容層315とが接する部分である。ビニールテープ314は、金属配線313と匂い物質受容層315とが接する部分の長さを調節するための絶縁体でもあり得る。
匂い物質受容層315は、第1金属配線313Aの少なくとも一部と第2金属配線313Bの少なくとも一部とに接していてもよい。匂い物質受容層315は、例えば、図2および図3に示すように、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとに挟まれた領域を埋めるように配されていてもよい。
匂い物質受容層315の電気伝導性(すなわち、センサ素子31の電気伝導性)が低い場合、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとの間隔は所定の距離(例えば、500μm)以下であることが望ましい。
センサ素子31は、匂い物質Aが吸着した場合と、匂い物質Aとは異なる匂い物質Bが吸着した場合とで、電気伝導性の経時的な変化が異なる樹脂組成物を適用することにより、さまざまな匂い物質を検出したり、識別したりすることが可能である。
センサ素子31は、抵抗式の素子が用いられてもよく、膜型表面応力センサ(Membrane-type Surface stress Sensor:MSS)方式の素子が用いられてもよく、水晶振動子マイクロバランス(Quartz Crystal Microbalance;QCM)方式の素子が用いられてもよい。膜型表面応力センサ(MSS)方式の素子、水晶振動子マイクロバランス(QCM)方式の素子はいずれも電極上の膜物質の僅かな量の差や厚さのムラなどにより測定結果が変わり、センサ素子の製造ロット毎のバラツキが大きくなる傾向がある。また、膜型表面応力センサ(MSS)方式の素子ではカンチレバー等の応力感知部の構造が繊細なため、一度に大量のスラリーを塗布して厚膜形成をしようとすると、応力感知部の破損が生じ歩留りが低くなるという問題がある。一方で、抵抗式の素子ではこれらの課題が比較的少なく、これらの点から、本発明においてはセンサ素子は抵抗式の素子が用いられることが好ましい。
<センサ素子の製造方法>
センサ素子31は、前述した本発明の実施形態に係る樹脂組成物を用いて匂い物質受容層315を作製することによって製造することができる。匂い物質受容層315は、前述の樹脂組成物を塗工液として塗布し、形成された塗膜を固化または硬化させることによって作製され得る。樹脂組成物の塗布は、公知の塗布技術を用いて実施可能である。
[3.匂いセンサ30]
以下では、センサ素子31を適用した匂いセンサ30の概要および効果について、図1を用いて説明する。図1は、センサ素子31を適用した匂いセンサ30を備える匂い測定装置100の構成の一例を示す概略図である。なお、図1に示すセンサ素子31において、ビニールテープ314は簡略化のためにその図示を省略している。
匂いセンサ30は、匂い物質を検出するセンサ素子31、定電流源32(電源)、および電圧計33(測定機器)を備えている。
センサ素子31の第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとはリード線Wで接続されている。図1には、リード線Wに定電流源32および電圧計33が配された例を示している。
定電流源32は、センサ素子31に給電するための電源である。定電流源32は、センサ素子31にリード線を介して定電流(例えば、1mAの直流電流)を供給する。
電圧計33は、定電流源32から供給された定電流を匂い物質受容層315に供給した場合に、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとの間に生じる電位差を測定する。
匂いセンサ30は、必須の構成ではないが、筐体34をさらに備えていてもよい。筐体34は、匂い物質を含む空気を内包可能な容器である。筐体34を備えている場合、センサ素子31は筐体34内に設置される。
筐体34は、匂い物質を導入するための導入口341および匂い物質を含む空気を排出するための排出口342を備えていている。匂い物質の導入は、導入口341から匂い物質を浸漬したろ紙P等を筐体34内に挿入することによって行われてもよいし、匂い物質を含む空気を導入口341から筐体34内に挿入することによって行われてもよい。筐体34は、匂い物質を所定の濃度(例えば、200ppm)以上含む空気を内包するための容器である。
筐体34の排出口342には、必須では無いが、気流生成用ファン35が配されていてもよい。気流生成用ファン35は、筐体34内に気流を生じさせたり、筐体34内の気体を排出口342から筐体34外へ排出させたりするためのものである。
なお、匂いセンサ30は、定電流源32の代替として不図示の定電圧源(電源)、電圧計33の代替として不図示の電流計(測定機器)を備えていてもよい。この場合、定電圧源は、センサ素子31に給電するための電源として機能し、センサ素子31にリード線を介して定電圧を印加する。一方、電流計は、匂い物質受容層315に定電圧が印加された場合に、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとの間を流れる電流値を測定する。
匂いセンサ30は、センサ素子31に匂い物質が吸着する前後における、該センサ素子31の電気伝導性の経時的な変化を示す測定値を出力する。これにより、さまざまな匂い物質を検出したり、識別したりすることが可能である。
[4.匂い測定装置100]
上述した匂いセンサ30は、センサ素子31にさまざまな匂い物質が吸着した場合、該センサ素子31の電気伝導性の経時的な変化を匂い物質毎に出力することができる。この匂いセンサ30を適用すれば、匂い物質Aがセンサ素子31に吸着した場合の該センサ素子31の電気伝導性の経時的な変化と、匂い物質Bがセンサ素子31に吸着した場合の該センサ素子31の電気伝導性の経時的な変化と比較することができる。このような比較結果に基づいて、センサ素子31に吸着した匂い物質を推定可能な匂い測定装置100を実現することができる。
さらに、匂い測定装置100は、機械学習によって生成した推定モデル22を用いれば、高精度な匂い物質の推定を行うことができる。推定モデル22は、複数の匂い物質のそれぞれを少なくとも1つのセンサ素子31に吸着させた場合に測定される測定値と、該測定値を与えた匂い物質に固有の識別情報との組み合わせを含む学習用データを用いて生成され得る。
以下では、匂いセンサ30を適用した匂い測定装置100の概要および効果について説明する。匂い測定装置100は、上述した樹脂組成物を適用したセンサ素子31に生じた電気伝導性の変化から、センサ素子31に吸着した匂い物質を推定する装置である。
まず、本発明の一実施形態に係る匂い測定装置100の構成について、図1を用いて説明する。図1は、匂い測定装置100の構成の一例を示すブロック図である。
図1に示すように、匂い測定装置100は、推定装置10、および匂いセンサ30を備えている。
<推定装置10>
推定装置10は、匂いセンサ30によって検出された匂い物質を推定する装置である。推定装置10は、例えばコンピュータであり、不図示のCPUおよびメモリを備えている。推定装置10は、匂いセンサ30と通信可能に接続されている。具体的には、推定装置10は、匂いセンサ30から取得した計測値を解析することによって、匂い物質の推定を実行する。推定装置10の構成については、後に説明する。
(推定モデル22の生成)
次に、匂い物質を推定するために用いる推定モデル22を生成する処理を行う匂い測定装置100の構成、および、推定モデル22を生成する処理について、図4および図5を用いて説明する。
推定モデル22は、複数の匂い物質のそれぞれを少なくとも1つのセンサ素子に吸着させた場合に電圧計33によって測定される測定値と、該測定値を与えた匂い物質に固有の識別情報との組み合わせを含む学習用データを用いた機械学習によって生成される。ここで、匂い物質に固有の識別情報とは、例えば、匂い物質の名称、CAS番号、および化学式等であってもよい。
(推定装置10の構成(推定モデル22の生成))
図4は、匂い測定装置100の構成の一例を示す機能ブロック図である。なお、説明の便宜上、図1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
図4に示すように、推定装置10は、入力部15、制御部1、記憶部2を備えている。
入力部15は、ユーザからの各種入力操作を受付けるためのものであり、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等であってもよい。
制御部1は、測定値取得部11(取得部)、変化パターン解析部12(解析部)、学習制御部13、および推定モデル生成部14を備えている。
測定値取得部11は、電圧計33から測定値を取得する。また測定値取得部11は、取得した測定値を用いて、センサ素子31の電気伝導性を示す値(例えば、抵抗値、およびインピーダンスなど)を算出する。本開示において、測定値取得部11は、匂い物質受容層の抵抗値の変化を算出することが好ましい。測定値取得部11は、電圧計33から所定の時間間隔(例えば0.1秒間隔)で測定値を取得してもよい。
変化パターン解析部12は、少なくとも1つのセンサ素子31の電気伝導性の経時的な変化を解析する。変化パターン解析部12は、測定値取得部11によって算出された抵抗値を用いて、匂い物質が吸着したことによるセンサ素子31の電気伝導性の変化量を示す値を算出する。変化パターン解析部12は、算出した電気伝導性の変化量の時間変化を示す変化パターンを示すデータを生成する。変化パターン解析部12は、生成した変化パターンが既知の匂い物質である場合、生成した変化パターンを該既知の匂い物質に固有の識別情報と対応付けて、変化パターンデータベース21(学習用データ)に格納してもよい。
学習制御部13は、記憶部2から変化パターンデータベース21を読み出して、機械学習による推定モデル22の生成を制御する。ここで、変化パターンデータベース21は、複数の匂い物質をセンサ素子31に吸着させた場合に測定される測定値と、該測定値を与えた既知の匂い物質に固有の識別情報との組み合わせを含むデータベースである。学習制御部13は、変化パターンデータベース21から読み出した変化パターンを推定モデル生成部14に入力する。また、学習制御部13は、推定モデル生成部14に入力した変化パターンに対応する匂い物質の識別情報と、推定モデル生成部14から出力される推定結果とを比較し、比較結果に応じた補正指示を推定モデル生成部14に出力する。
推定モデル生成部14は、変化パターンデータベース21に格納されている変化パターンを用いた機械学習アルゴリズムによって、推定モデル22を生成する。推定モデル生成部14は、公知の教師有り機械学習アルゴリズムを用いて推定モデル22を生成する構成であってもよい。推定モデル生成部14に適用可能な機械学習アルゴリズムとしては、例えば、k近似法(k-nearest neighbor method)、ロジスティック回帰、サポートベクトルマシン、ランダムフォレスト、およびニューラルネットワーク等が挙げられる。
(推定モデル22を生成する処理)
以下、制御部1の各部が行う具体的な処理については、図5を用いて説明する。図5は、推定装置10が推定モデル22を生成する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
まず、測定値取得部11は、匂い物質を浸漬させたろ紙Pを筐体34へ挿入する前の匂いセンサ30において測定された電圧値V0を取得し、抵抗値R0を算出する(ステップS11)。抵抗値R0は、好ましくは200~10000Ωであり、さらに好ましくは250~3000Ωであり、最も好ましくは300~1000Ωである。
一方、入力部15は、筐体34内に挿入したろ紙Pに浸漬させた既知の匂い物質の名称等の入力を受け付ける(ステップS12)。ステップS12の処理はステップS11の前に行ってもよい。
次に、測定値取得部11は、既知の匂い物質を浸漬させたろ紙Pを筐体34へ挿入した直後からの、匂いセンサ30において測定された電圧値Vを取得し、抵抗値Rを算出する(ステップS13)。
続いて、変化パターン解析部12は、抵抗値R0および抵抗値Rを用いて、R/R0を算出する(ステップS14)。R/R0は、既知の匂い物質が吸着したことによる、センサ素子31の電気伝導性の変化量を示す値である。なお、変化パターン解析部12は、R/R0の代わりに、R-R0を算出してもよい。変化パターン解析部12は、R/R0の経時的な変化パターンを、入力された既知の匂い物質の名称と対応付けて変化パターンデータベース21に格納する(ステップS15)。
所定種類の既存の匂い物質について変化パターンが記憶されていない場合(ステップS16にてNO)、すなわち、機械学習に用いるデータがまだ不足している場合、ステップS11に戻る。
所定種類の既存の匂い物質について変化パターンが記憶された場合(ステップS16にてYES)、学習制御部13は、変化パターンデータベース21に記憶されている、既知の匂い物質についての変化パターンを読み出して、推定モデル生成部14に入力する。推定モデル生成部14は、変化パターンデータベース21に格納されている変化パターンを用いた機械学習アルゴリズムによって、推定モデル22を生成する(ステップS17)。
推定モデル生成部14は、所定の機械学習によって生成した推定モデル22を記憶部2に格納する(ステップS18)。
図4および図5に示す例では、推定装置10が推定モデル22を生成しているが、これに限定されない。例えば、推定装置10とは異なる外部のコンピュータであって、学習制御部13および推定モデル生成部14と同じ機能を備えるコンピュータに変化パターンデータベース21と同じデータを提供して、推定モデル22を作成させてもよい。
(匂い物質の推定)
次に、推定モデル22を用いて匂い物質を推定する匂い測定装置100aの構成、および、推定処理について、図6および図7を用いて説明する。
(推定装置10aの構成(推定処理の実行))
図6は、匂い測定装置100aの構成の一例を示す機能ブロック図である。なお、説明の便宜上、図1および図4にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
図6に示すように、推定装置10aは、制御部1a、記憶部2a、および出力部18を備えている。ここで、図6は、図4に示す推定装置10を、匂い物質の推定処理に利用した場合の構成例を示している。すなわち、図4に示す推定装置10と図6に示す推定装置10aとは、同じハードウェア構成を備えるコンピュータであってもよい。
出力部18は、ユーザに推定結果を提示するためのものであり、例えば、ディスプレイ、スピーカ、ランプ等であってもよい。
制御部1aは、測定値取得部11(取得部)、変化パターン解析部12(解析部)、推定部16、および出力制御部17を備えている。
推定部16は、推定モデル22を用いて、匂いセンサ30から取得した測定値を解析した解析結果から匂い物質を推定する。
出力制御部17は、推定結果を出力するように出力部18を制御する。
(推定処理)
以下、制御部1aの各部が行う具体的な処理については、図7を用いて説明する。図7は、推定装置10aが匂い物質を推定する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
まず、測定値取得部11は、匂い物質を浸漬させたろ紙Pを筐体34へ挿入する前の匂いセンサ30において測定された電圧値V0を取得し、抵抗値R0を算出する(ステップS1)。
次に、測定値取得部11は、未知の(すなわち、推定対象の)匂い物質を浸漬させたろ紙Pを筐体34へ挿入した直後からの、匂いセンサ30において測定された電圧値Vを取得し、抵抗値Rを算出する(ステップS2)。
続いて、変化パターン解析部12は、抵抗値R0および抵抗値Rを用いて、R/R0を算出する(ステップS3)。
次に、推定部16は、推定モデル22に基づいて、R/R0の経時的な変化パターンから未知の匂い物質を推定する(ステップS4)。
出力制御部17は、出力部を制御して、推定結果を出力する(ステップS5)。
〔実施形態2〕
上述の実施形態では、1つのセンサ素子31を備える匂いセンサ30について説明したが、匂いセンサ30が2以上のセンサ素子31を備えていてもよい。例えば、匂いセンサ30bは、匂い物質受容層315に用いた樹脂組成物が互いに異なるセンサ素子31、31bを備えていてもよい。このことについて、図8を用いて説明する。図8は、本発明の別の実施形態に係る匂い測定装置100bの構成の一例を示すブロック図である。なお、説明の便宜上、図1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
例えば、図8に示す匂い測定装置100bは、匂いセンサ30、30bおよび推定装置10bを備えている。匂いセンサ30bは、センサ素子31およびセンサ素子31bを備えており、センサ素子31の匂い物質受容層315と、センサ素子31bの匂い物質受容層315bとでは、用いられている樹脂組成物が異なっていてもよい。
推定装置10bは、推定装置10、10aと同じ構成を備えるコンピュータであってもよい。推定装置10bは、定電流源32からセンサ素子31に定電流を供給した場合に電圧計33によって測定される第1測定値と、定電流源32bからセンサ素子31bに定電流を供給した場合に電圧計33bによって測定される第2測定値とをそれぞれ取得し解析する。
匂い物質を吸着する特性が異なる樹脂組成物を匂い物質受容層に用いたセンサ素子を複数備えることにより、匂い測定装置100bは、複数の匂い物質についての推定を同時に実行することができる。なお、本発明の一実施形態に係るセンサ素子に加えて、匂い物質受容層に界面活性剤(B)を含まないセンサ素子を併用してもよい。
また、匂い測定装置100bを用いれば、既知の匂い物質のそれぞれについて、センサ素子31の電気伝導性の変化を示す第1変化パターンと、センサ素子31bの電気伝導性の変化を示す第2変化パターンとを得ることが可能である。推定モデル22は、第1変化パターンおよび第2変化パターンの両方を用いた機械学習によって生成されてもよい。匂い測定装置100bは、このように生成された推定モデル22を用いて匂い物質を推定するため、各匂い物質をより精密に識別することが可能である。
〔実施形態3〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
実施形態2の匂い測定装置100bは、内部に2つのセンサ素子(すなわち、センサ素子31および31b)を備える筐体34の中に、匂い物質を浸漬させたろ紙Pを導入する態様であった。この構成では、センサ素子31及び31bに匂い物質が到達するタイミングを制御したり、匂い物質の濃度を調整したりすることができない。そこで、本実施形態の匂い測定装置100cは、複数のセンサ素子(以下、センサ素子群31A)を備えるセンサチャンバ60と、匂い物質を含む対象試料が導入され、対象試料から発生した匂い物質を含む気体が内包される対象試料受入部50とを別々に備える。本実施形態では、センサ素子群31Aに含まれる個々のセンサ素子を単に「センサ素子」と記す場合もある。また、本実施形態において、対象試料受入部50と、センサチャンバ60との構成が、実施形態1および2の匂いセンサ30および匂いセンサ31に相当する。
本実施形態の匂い測定装置100cは、対象試料受入部50の内部の、匂い物質を含む気体を別の気体(キャリアガス)を用いてセンサチャンバ60の方へ押し出す構成を採用している。本実施形態において、対象試料受入部50内に対象試料が導入された場合の該対象試料受入部50内の気体(すなわち、検出対象の匂い物質を含む気体)を第1気体と称す。一方、第1気体をセンサチャンバ60の方へ押し出すためのキャリアガスのことを第2気体と称す。
図9は、匂い測定装置100cの概略図である。図9に示すように、匂い測定装置100cは、対象試料受入部50、センサチャンバ60、気体供給部80、および推定装置10bを備える。また、匂い測定装置100cは、調節部51をさらに備えてもよい。
図9は、一例として、気体供給部80から、対象試料受入部50、センサチャンバ60の順に気体が流れる例を示している。気体供給部80、対象試料受入部50、およびセンサチャンバ60は、それぞれ管体で接続されている。
対象試料受入部50は、匂い物質を含む対象試料を内部に受け入れて第1気体を保持可能である。対象試料受入部50は、内部に進入する第2気体が通過する第1口501と、内部から出る第1気体および第2気体が通過可能な第2口502とを備えている。なお、対象試料受入部50は、後述する試料導入口503を備えていてもよい。
図9では、第1口501は、対象試料受入部50の紙面上部に設置され、第2口502は、対象試料受入部50の紙面下部に設置される態様を示すが、これに限定されない。例えば、第1口501および第2口502の位置は、第1気体に含まれる匂い物質の種類および組み合わせなどに応じて適宜設定し得る。例えば、第1気体に含まれる匂い物質の単位体積当たりの重量(すなわち、比重)が第2気体より重い場合と、軽い場合とで、第1口501の位置および第2口502の位置を変更してもよい。また、対象試料受入部50は、図8と同じく、気流生成用ファン35を内部に備えていてもよい。
対象試料受入部50は、液体または固体の対象試料を受け入れるための試料導入口503を備える。図9では、図8と同じく匂い物質を浸漬させたろ紙Pが対象試料として導入されている態様を示している。対象試料受入部50は、対象試料を設置するための設置部(不図示)を備えていてもよい。対象試料が液体である場合、設置部は、液体を保持するためのコップであってもよいし、対象試料が固体である場合、設置部は、固体が静置されるシャーレであってもよい。対象試料受入部50には、対象試料が試料導入口503から第1気体として気体状態で導入されてもよい。このように、対象試料受入部50が、液体または固体の対象試料を受け入れ可能であることにより、第1気体中の匂い物質の濃度を調節することが可能である。例えば、同一の匂い物質であっても、第1気体中の匂い物質の濃度の高低を調節することが容易である。
対象試料受入部50の内側面には、匂い物質に対して不活性な素材が配されていてよい。匂い物質に対して不活性な素材は、センサチャンバ60に送り出される気体に含まれる匂い物質の各々の濃度を大きく変化させない素材である。例えば、匂い物質に対して不活性な素材は、匂い物質が吸着したり、溶け込んだりしにくい素材である。匂い物質に対して不活性な素材としては、例えば、ガラス、金属、樹脂が挙げられる。金属を採用する場合、ステンレス鋼(SUS)が好ましく、樹脂を採用する場合、フッ素系樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
対象試料受入部50の内側面が第1気体に含まれる匂い物質を吸着する素材である場合、各部に匂い物質が吸着して、後の測定に影響を及ぼす虞がある。
このように対象試料受入部50の内側面が匂い物質に対して不活性な素材であることにより、内側面の素材と、第1気体に含まれる匂い物質とが反応する、または内側面に匂い物質が吸着するなどの虞が低減される。従って、センサチャンバ60に供給された第1気体に含まれる匂い物質が、対象試料受入部50に内包されている間に変化する、または匂い物質の濃度が薄まるなどの虞が低減する。
匂い測定装置100cは、対象試料が液体または固体であっても、対象試料受入部50を備えることにより、第1気体をセンサチャンバ60に送り込む前に対象試料受入部50内で第1気体の濃度を均一にすることができる。また、匂い測定装置100cは、対象試料受入部50を備えることにより、第1気体をセンサチャンバ60へ一定の流量で押し出すことができる。これにより、匂い測定装置100cは、測定を繰り返し行う場合であっても、毎回同じ条件でセンサチャンバ60へ第1気体を送ることができるため、繰り返し安定した測定を行うことができる。
対象試料受入部50内の容積は、センサチャンバ60内の容積の1倍以上100倍以下であることが好ましい。特に、対象試料受入部50内の容積は、センサチャンバ60内の容積よりも大きいことが好ましい。対象試料受入部50内の容積は、センサチャンバ60内の容積の2倍以上80倍以下であることがより好ましく、対象試料受入部50内の容積は、センサチャンバ60内の容積の4倍以上60倍以下であることがさらに好ましい。対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積に対して1倍以上の大きさであることにより、センサチャンバ60における匂い物質の濃度が適切に調整され、センサチャンバ60が備えるセンサによる測定結果が安定して出力される。また、対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積に対して100倍以下であることにより、センサによる測定結果が安定して出力されると共に、匂い測定装置100cのサイズをコンパクトに収めることができる。
対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積の1倍未満である場合は、対象試料受入部50で発生した匂い物質がセンサチャンバ60内で希釈され、センサにおける測定感度が低下する虞がある。また、対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積の100倍よりも大きい場合は、対象試料受入部50の容積が大き過ぎるため、匂い測定装置100c全体のサイズが大きくなる虞がある。
図9では、一例として、対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積の8倍の例を示している。
例えば、管体93の内側面が、第1気体に含まれる匂い物質を吸着する素材である場合、各部に匂い物質が吸着して、後の測定に影響を及ぼす虞がある。そこで、第1気体を対象試料受入部50からセンサチャンバ60へと導く管体93の内側面に、対象試料受入部50の内側面と同様に、匂い物質に対して不活性な素材が配されることが好ましい。第1気体に対して不活性な素材としては、例えば、ガラス、金属、樹脂が挙げられる。金属を採用する場合、ステンレス鋼(SUS)が好ましく、樹脂を採用する場合、フッ素系樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
対象試料受入部50は、管体92および管体93から着脱可能な構成であってもよい。このように、対象試料受入部50が着脱可能であることにより、前の測定が終了し、次の測定を行う場合に、対象試料受入部50内をパージせずとも新しい対象試料受入部50を付け替えることができる。これによれば、匂い測定装置100cは、複数の測定を短時間で行うことができる。
また、対象試料受入部50が着脱可能であることにより、匂い測定装置100cとは別体の保温室を用いて、対象試料を導入した対象試料受入部50を所望の温度に保持することができる。これによれば、例えば、後述する調節部51を匂い測定装置100cに設けることが出来ない場合であっても、匂い測定装置100cは、対象試料受入部50の温度を調節することができる。
調節部51は、対象試料受入部50内に内包されている第1気体の温度および湿度の少なくとも一方を調節する。調節部51が温度を調節する場合、調節部51は、例えば、ヒータまたは冷却器である。この場合、調節部51は、対象試料受入部50全体を覆うような構成であってもよい。また、調節部51が湿度を調節する場合、調節部51は、例えば、加湿器または除湿器である。調節部51は、第1気体の種類ごとに温度および湿度の少なくとも一方を調節してもよいし、同じ第1気体の測定中において所定時間毎に温度および湿度の少なくとも一方を変化させてもよい。
調節部51が、対象試料受入部50内の第1気体の温度および湿度の少なくとも一方を調節することにより、匂い測定装置100cは、例えば、第1気体の種類(気体の重さ、揮発性など)に応じた条件を用いてセンサチャンバ60へ第1気体を送ることができる。また、これによれば、匂い測定装置100cは、安定した濃度の第1気体をセンサチャンバ60へ送ることができ、測定の精度が向上する。
気体供給部80は、対象試料受入部50の第1口501と接続されており、対象試料受入部50の内部へ第2気体を送ることによって、第1気体を対象試料受入部50内からセンサチャンバ60の方へ送り出す。
気体供給部80と、対象試料受入部50との間にはバルブ81を備えていてもよい。バルブ81の開閉によって、気体供給部80からのガス供給の開始および停止を調節してもよい。
このように、対象試料受入部50の第1口501側から気体供給部80が気体を押すことによりセンサチャンバ60に第1気体を送り込むため、センサチャンバ60内の圧力は陽圧である。このため、匂い測定装置100cは、安定した測定結果を得ることができる。また、バルブ81の開閉によって、第2気体を送ることができるため、匂い測定装置100cは、任意のタイミングで第1気体を対象試料受入部50内からセンサチャンバ60の方へ送り出すことができる。これによれば、匂い測定装置100cは、センサ素子群31Aを用いて第1気体に含まれる匂い物質を繰り返し測定する場合、各センサ素子が出力する波形の形の再現性を向上させることができる。
第2気体は、不活性ガスまたは空気であってよい。不活性ガスとしては、例えば、アルゴン、窒素などが挙げられる。第2気体が不活性ガスである場合、気体供給部80はガスボンベであってよい。
また、第2気体が空気である場合、気体供給部80はポンプであってよい。この場合、対象試料受入部50に内包される第1気体と反応する成分を除去するために、匂い測定装置100cは、対象試料受入部50の第1口501側に、一例として、活性炭フィルタを備えていてもよい。
匂い測定装置100cは、対象試料受入部50の第1口501側、さらに具体的にはバルブ81と、気体供給部80との間にマスフローコントローラをさらに備えてもよい。この構成を採用した匂い測定装置100cは、対象試料受入部50からセンサチャンバ60へ一定の流量で第1気体を送ることができ、センサ素子群31Aのセンサ素子が安定して出力を行うことができる。
推定装置10bは、実施形態2の推定装置10bと同じ機能を有する。センサチャンバ60が、センサ素子31、センサ素子31bとは異なる樹脂組成物を物質受容層315に用いたセンサ素子31cをさらに備える場合、推定装置10bは、センサ素子31cに定電流を供給して電圧計によって測定される測定値をさらに取得し解析してもよい。また、推定装置10bは、測定値そのもの、測定値をプロットした波形、および推定モデルに基づいた未知の匂い物質の推定結果を表示してもよい。また、推定装置10bは、複数の匂い物質を含む気体に対して、それぞれの匂い物質の存在割合の変化を示す数値、およびグラフなどを表示してもよい。
センサチャンバ60は、匂い物質を測定するためのセンサ素子群31Aを格納する空間である。センサチャンバ60は、対象試料受入部50の第2口502と接続されている。具体的には、センサチャンバ60は、気体供給口601と、気体排出口602とを備え、対象試料受入部50の第2口502と、気体供給口601とが接続されている。
センサチャンバ60は、気体に含まれる匂い物質に応じた測定結果を出力可能な複数のセンサ素子が配置された、複数の通路を有する。これによれば、センサチャンバ内に気体を送り始めてから、複数のセンサ素子のすべてから測定結果が安定して出力されるまでに要する時間を短縮することができる。また、複数のセンサ素子が複数の通路によって細かく区切られることで、測定ごとの気流の乱れのばらつきが少なくなり、測定精度が高くなる。
図10は、センサチャンバ60の構成例を表す上面図である。図10には、4つの通路(すなわち、通路61、通路62、通路63、通路64)を備えるセンサチャンバ60が示されている。第1気体は、対象試料受入部50から通路61~通路64の各々に供給されうる。
複数の通路(通路61~64)の各々には、匂い物質毎に異なる測定結果を出力する複数のセンサ素子が配置されてもよい。匂い物質毎に異なる測定結果を出力する複数のセンサ素子は、それぞれ異なる樹脂組成物を物質受容層として備えるセンサ素子であってよい。すなわち、1つの通路に配置される複数のセンサ素子は、それぞれのセンサ素子の匂い物質に対する感度および検知特異性が異なっていてよい。図10のセンサチャンバ60は、一例として、通路61に、実施形態2(図8)で説明したセンサ素子31と、センサ素子31bとを含むが、これに限定されない。例えば、センサ素子31と、センサ素子31bとは、第1気体に含まれる同じ匂い物質に応じた測定結果を出力可能であるが、それぞれのセンサ素子が出力する測定結果は異なっていてもよい。また、センサ素子31と、センサ素子31bとは、それぞれが異なる匂い物質に応じた測定結果を出力可能であってもよい。匂い物質に応じた測定結果は、例えば、匂い物質の濃度に応じた測定結果である。複数の通路の各々に、匂い物質毎に異なる測定結果を出力する複数のセンサ素子が配置されることにより、匂い測定装置100cは、1つの通路を通過する匂い物質を感度および検知特異性が異なるセンサ素子によって検出可能である。これにより、匂い測定装置100cは、異なる複数の測定結果から、匂い物質を総合的に検出することが可能である。
また、図10において、通路61と同様に、通路62には、第1気体に含まれる匂い物質に応じた測定結果を出力可能な複数のセンサ素子(センサ素子31cおよび31dなど)が配されている。通路63には、第1気体に含まれる匂い物質に応じた測定結果を出力可能な複数のセンサ素子(センサ素子31eおよび31fなど)が配されている。通路64には、第1気体に含まれる匂い物質に応じた測定結果を出力可能な複数のセンサ素子(センサ素子31gおよび31hなど)が配されている。これら複数のセンサ素子は、物質受容層315に用いた樹脂組成物が互いに異なるセンサ素子であってもよい。
なお、センサ素子31~31hのうちのいくつかは、匂い物質に対する検知特異性が同じであるセンサ素子であってもよい。すなわち、例えば、センサチャンバ60に配置するセンサ素子群31Aがn個のセンサ素子を含む場合、m種類(m<n)のセンサ素子を配置してもよい。また、同じ通路に配置される複数のセンサ素子のうちいくつかが、匂い物質に対する検知特異性が同じであってもよい。
また、センサチャンバ60は、通路61~通路64を有しており、通路61~通路64の各々に、複数のセンサ素子が配置されていてもよい。この場合、通路61~通路64の各々に配置された複数のセンサ素子がセンサ素子群31Aを構成する。例えば、通路61には4個のセンサ素子を配置し、通路62には10個のセンサ素子を配置してもよい。
通路61~通路64の各々に異なる数のセンサ素子が配置される場合、通路61~通路64の各々に配置されたセンサ素子の数の差は10個以下であることが好ましい。通路の各々に配置されたセンサ素子の数の差が10個以下であることにより、通路によって発生しうる、匂い物質がセンサ素子に検知されるタイミングのばらつきを低減することができる。また、通路61~通路4の各々に配置されたセンサ素子の数の差が10個以下であることにより、匂い測定装置100cは匂い測定を短時間で行うことができる。
通路の各々は、第1気体をセンサチャンバ60の内部空間内に供給するための管体93と接続されている。図10に示すように、通路61、通路62、通路63、および通路64は全て1つの管体93に接続されている。
また、通路の各々の第1気体が管体93から供給される供給方向に対して垂直な断面積は、管体93の軸方向に垂直な断面積よりも小さくてよい。これによれば、対象試料受入部50より供給される第1気体は、管体93を通過するときよりも、速い流速で各通路内を通過することができる。これによれば、気体供給口601に近い側に配置されるセンサ素子と、気体排出口602に近い側に配置されるセンサ素子との測定におけるタイムラグが最小限となり、匂い測定装置100cは、精度高い測定を行うことができる。
また、通路の各々の内部空間の気体は、第1気体の供給が開始された後1秒以内に置換されることが好ましい。第1気体の供給の開始は、すなわち、第1気体が気体供給口601に供給されたときである。また、内部空間の気体の置換は、気体供給口601から供給された第1気体が、気体排出口602に到達したことを示す。このように、通路の各々の内部空間の気体が、第1気体及び第2気体の供給が開始された後1秒以内に置換されることにより、各センサ素子に第1気体が触れるタイミングのずれが小さくなり、匂い測定装置100cは安定して測定を行うことができる。また、通路の各々の内部空間の気体が、第1気体及び第2気体の供給が開始された後1秒以内に置換されることにより、匂い測定装置100cは、匂い測定を短時間で行うことができる。
通路の各々の内部空間を通る第1気体の流速は、毎秒0.1cm以上毎秒100cm以下であることが好ましい。また、通路の各々の内部空間を通る第1気体の流速は、毎秒1cm以上毎秒50cm以下であることがより好ましい。通路の各々の内部空間を通る第1気体の流速は、例えば、後述する気体供給部80の加圧の程度によって調節されてもよいし、後述するマスフローコントローラによって調節されてもよい。
通路の各々の内部空間を通る第1気体の流速が遅いと、第1気体がセンサ素子群31Aのすべてのセンサ素子に触れるタイミングのずれが大きくなる。一方、通路の各々の内部空間を通る第1気体の流速が速すぎると、気流の影響によってセンサ素子群31Aのセンサ素子が振動し、匂い測定装置100cは安定して匂い測定を行えない。また、通路の各々の内部空間を通る第1気体の流速が速すぎると、センサ素子群31Aのセンサ素子への第1気体に含まれる匂い物質の吸着が阻害され、匂い測定装置100cは正確な匂い測定が行えない。また、通路の各々の内部空間を通る第1気体の流速が速すぎると、匂い測定装置100cが安定した測定を行うまでに、対象試料受入部50内の第1気体を消費してしまう虞がある。
このように、通路の各々の内部空間を通る第1気体の流速が毎秒0.1cm以上毎秒100cm以下であることにより、匂い測定装置100cは、安定して匂い測定を行うことができる。
通路の各々は並列に配置されていてもよい。図10において、通路61~通路64は互いに並列に配置されている。このように、通路の各々が並列に配置されることにより、匂い測定装置100cは、通路を配置するためのスペースを確保することができ、装置全体のサイズをコンパクトにすることができる。
図11は、図10のB-B線断面を模式的に表す断面図である。図11の通路61は、側壁610と、側壁610に対向する側壁611と、天井621と、底面である基板630によって構成されている。
図11において、通路61の断面の形状が四角形であるセンサチャンバ60を示したが、通路61の断面の形状は特に限定されない。例えば、通路61の断面の形状は円弧であってもよいし、三角形であってもよい。
通路61と、通路62とは、側壁611および側壁612によって完全に仕切られており、通路61と、通路62との間は気体の出入りが出来ない構成となっていてよい。
図11では、一例として、通路61と、通路62との間に、2枚の側壁(側壁611および側壁612)がある構成となっているが、これに限定されない。例えば、通路61と、通路62とは、1枚の側壁によって仕切られていてもよい。
図11のセンサチャンバ60の全体は一体的に形成されているが、この構成に限定されない。センサチャンバ60の全体は、一体的に形成されていてもよいし、複数の通路の各々が別体によって形成されていてもよい。
図11のセンサチャンバ60は、例えば、センサ素子31を通路61の底面である基板630上に備えているが、センサ素子31の配置はこれに限定されない。センサ素子31は、例えば、センサ素子31が特異的に検出し得る対象の匂い物質の種類を考慮して配置されてもよい。例えば、センサ素子31は、側壁610、側壁611、および天井621の何れかに配置されてもよい。具体的には、匂い物質が空気より軽い場合は、センサ素子31を天井621に配置する構成が挙げられる。これによれば、匂い物質の種類に応じた場所にセンサ素子31を配置することによって、匂い測定装置100cは、精度高い測定を行うことができる。
図11では、センサチャンバ60は、基板630上に、各センサ素子を備えているが、基板630と、各センサ素子との間に、基板630とセンサ素子とを接続するコネクタをさらに備えていてもよい。
各センサ素子は、1個ずつが独立して基板630と接続されていてもよい。例えば、センサ素子1個ずつがコネクタ(例えばICピン)を介して、基板630と接続されている態様が挙げられる。これよれば、例えば、センサチャンバ60に含まれるセンサ素子1個のみに不具合が生じた場合であっても、ユーザは不具合が生じたセンサ素子1個のみを交換することが可能である。
また、複数種類のセンサ素子によって匂い物質を検知する場合、使用するセンサ素子の好適な組み合わせ、およびセンサ素子の好適な配置は、匂い物質の種類によって異なる。各センサ素子が独立して基板630と接続されていることにより、各センサ素子が着脱可能であるため、匂い測定装置100cは、匂い物質に応じた好適なセンサ素子の組み合せ、および配置が用意に変更され得る。
センサ素子は、基板630、側壁610、側壁611、および天井621の2つ以上の場所に配置されてもよい。これによれば、センサ素子を一面のみに備える場合よりも通路61の長さを短くできるため、匂い測定装置100cのサイズがコンパクトになる。また、センサ素子を気体供給口601に近い場所に複数備えることができるため、センサ素子を気体排出口602に向けて並べて配置するよりも、匂い測定装置100cは、匂い測定を短時間で行うことができる。
図11のセンサチャンバ60は、一例として、通路を4つ備え、断面方向においてはセンサ素子をそれぞれ1つずつ配置するが、通路の数、断面方向におけるセンサ素子の数はこれに限定されない。図12は、センサチャンバ60aの断面図を示す。センサチャンバ60aは、一例として、2つの通路(通路61aおよび通路62a)を備える。また、通路61aの断面方向には、2つのセンサ(すなわち、センサ素子31、およびセンサ素子31c)を備える。また、センサチャンバ60aにおいても、上述したように、センサ素子は基板630上のみに配置されるだけでなく、基板630、側壁610a、側壁613a、および天井621aの2つ以上の場所に配置されてもよい。通路62aのセンサ素子の配置についても通路61aと同様である。
センサチャンバ60の内側面の素材は、対象試料受入部50と同様に、匂い物質に対して不活性な素材であることが好ましい。不活性な素材としては、例えば、ガラス、金属、樹脂が挙げられる。金属を採用する場合、ステンレス鋼(SUS)が好ましく、樹脂を再送する場合、フッ素系樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。センサチャンバ60の内側面の素材が、第1気体に含まれる匂い物質を吸着する素材の場合、センサチャンバに匂い物質が吸着することにより、後の測定におけるセンサ素子からの出力の変化量が小さくなり、匂い測定装置100cが正確な測定を行えない虞がある。
センサ素子群31Aのセンサ素子は薄膜を備えてもよい。一例として、図2および図3の匂い物質受容層315が薄膜である。
センサチャンバ60内に匂い物質を含む第1気体を送り込む態様として、例えば、センサチャンバ60の気体排出口602側に真空ポンプを設置し、真空ポンプを用いて気体を引くことにより、センサチャンバ60の気体供給口601側から匂い物質をセンサチャンバ60へ送り込む態様が考えられる。しかし、センサ素子31、31bが薄膜を備える場合、センサチャンバ60内が陰圧であると、薄膜が膨張して、センサ素子31、31bが安定した測定結果を出力できない虞がある。本実施形態に係る匂い測定装置100cであれば、センサチャンバ60および対象試料受入部50の第1口501側から気体供給部80が気体を押すことによりセンサチャンバ60に第1気体を送り込むため、センサチャンバ60内の圧力は陽圧である。このため、匂い測定装置100cは、センサ素子群31Aのセンサ素子が薄膜を備えていても安定した測定結果を得ることができる。
また、センサ素子群31Aのセンサ素子の薄膜は、導電性炭素材料、樹脂組成物、および界面活性剤を含んでもよい。センサ素子の具体的な態様については後述する。
[センサ素子]
実施形態2の匂い測定装置100bは、2つのセンサ素子31、31bを備えていた。実施形態2においては、センサ素子31、31bの匂い物質受容層315、315bの形状、面積、および厚さのばらつきについては特に規定されていなかったが、匂い物質受容層315、315bの形状、面積、および厚さはそれぞればらつきが少ないことが好ましい。複数のセンサ素子の匂い物質受容層315、315bの形状、面積、および厚さにばらつきが生じると、安定して匂い物質の測定ができない虞があるためである。以降、匂い物質受容層を総称して単に「匂い物質受容層」とも記載する。
実施形態2のセンサ素子31、31bは、それぞれ一本の第1金属配線313Aと、第2金属配線313Bとを電極として備え、互いの金属配線が平行に配されていた(図2参照)。また、実施形態2のセンサ素子31、31bは、第1金属配線313Aと、第2金属配線313Bとにはさまれた領域を埋めるように匂い物質受容層315を備えていた。センサ素子群31Aは、センサ素子31、31b以外に、センサ素子31、31bとは異なる、金属配線(すなわち、電極)の配置と、匂い物質受容層の形状とで構成されているセンサ素子を含んでもよい。なお、実施形態1および2において、金属配線313と称していたものを、以降、電極313とも称する。
センサ素子31は、基板311上に配置された電極313と、電極313上に形成された匂い物質受容層315と、を備える。匂い物質受容層315の形状は円状、または帯状であり、匂い物質受容層315の形状が円状である場合、円の直径Rが0.2mm以上、10mm以下であり、匂い物質受容層315の形状が帯状である場合、帯の短方向の幅Wが0.2mm以上、10mm以下であってよい。ここで、帯状とは、主に短方向の幅と、長方向の長さを有する面形状を指す。匂い物質受容層315の形状が円状である場合、円の直径Rは1.5mm以上、2.7mm以下であることが好ましく、匂い物質受容層315の形状が帯状である場合、帯の短方向の幅Wが1.5mm以上、2.7mmであることが好ましい。
センサ素子群31Aに含まれるセンサ素子31、31b~31dの匂い物質受容層315、315b~315dの円の直径R、または幅Wが前記の範囲であることにより、匂い測定装置100cは、匂い物質に応じた測定を安定して行うことができる。
匂い物質受容層315の直径Rが0.2mm未満の場合、または幅Wが0.2mm未満の場合は、匂い物質を受容する面積が小さくなり、匂い測定装置100cは、測定を安定して行うことができない。
また、匂い物質受容層315の直径Rが10mmより大きい場合、または幅Wが10mmより大きい場合は、センサ素子1つの面積が大きくなり、センサ素子群31Aを含むセンサチャンバ60のサイズが大きくなる。センサチャンバ60のサイズが大きくなると、匂い物質を含む第1気体をセンサチャンバ60内に均一に拡散させることが難しくなるため、匂い測定装置100cは、測定を安定して行うことができない。
図13は、センサ素子群31Aに含まれる1つのセンサ素子31cの構成の一例を示す上面図である。センサ素子31cは、基板311上に配置された電極313(第1電極313C、第2電極313D)と、電極313上に形成された円状の匂い物質受容層315cと、を備える。匂い物質受容層315cの直径Rは、0.2mm以上、10mm以下である。図13において、センサ素子31cが備える匂い物質受容層315cの形状は一例として楕円状であるが、これに限定されない。匂い物質受容層315cの形状が楕円である場合は、短径と、長径との平均が0.2mm以上、10mm以下であってよい。また、匂い物質受容層315cの形状は真円であってもよい。
図14は、センサ素子群31Aに含まれる1つのセンサ素子31dの構成の一例を示す上面図である。センサ素子31dは、基板311上に配置された電極313(第1電極313C、第2電極313D)と、電極313上に形成された帯状の匂い物質受容層315dと、を備える。匂い物質受容層315dの短方向の幅の長さは、0.2mm以上、10mm以下である。
前記の構成を備えることにより、各センサ素子の匂い物質受容層の形状および面積のばらつきに起因しうる測定結果の出力の不安定さが低減され、匂い測定装置100cは、匂い物質を高精度に測定することができる。
センサ素子群31Aは、センサ素子31、31b~31d以外のセンサ素子を複数個含んでいてよい。図9では、センサ素子群31Aは一例として16個のセンサ素子からなるが、センサ素子の数はこれに限定されない。
センサ素子群31Aが含む複数のセンサ素子31、31b~31dが備える匂い物質受容層315、315b~315dは、それぞれ導電性炭素材料、樹脂組成物、および界面活性剤を含んでいてよい。
センサ素子群31Aが含む複数のセンサ素子31、31b~31dが備える匂い物質受容層315、315b~315dは、それぞれ導電性炭素材料、樹脂組成物、および界面活性剤の含有比率が異なっていてよい。匂い物質受容層が含む導電性炭素材料、樹脂組成物、および界面活性剤の含有比率が異なると、センサ素子の匂い物質に対する感度、および検知特異性も異なる。
匂い測定装置100cは、上記のように、導電性炭素材料、樹脂組成物、および界面活性剤の含有比率が異なる匂い物質受容層を備えるセンサ素子を複数備えることにより、多種多様な匂い物質を検知することができる。
本実施形態に係る匂い測定装置100cが含むセンサ素子31、31b~31dの匂い物質受容層315、315b~315dの厚さは、0.1μm以上、1000μm以下であってよい。また、各匂い物質受容層の厚さは、好ましくは、1μm以上、100μm以下であってよい。
センサ素子31、31b~31dの匂い物質受容層の厚さが前記の範囲であることにより、各センサ素子の匂い物質受容層315、315b~315dの厚さのばらつきに起因しうる測定結果の出力の不安定さが低減され、匂い測定装置100cは、匂い物質を高精度に測定することができる。
匂い物質受容層315、315b~315dの厚さが0.1μm未満である場合、匂い物質受容層内に分散している導電性炭素材料の粒子径に近い値となるため、匂い物質受容層の厚さの均一性が担保出来ず、匂い測定装置100cが安定した測定結果を出力できない虞がある。一方、匂い物質受容層315、315b~315dの厚さが、1000μmより大きい場合、匂い物質受容層内での匂い物質の拡散時間が長くなるため、匂い測定装置100cは、匂い物質を精度高く測定することが難しくなる。
センサ素子31、31b~31dの匂い物質受容層315、315b~315dの厚さが前記の範囲であることにより、各センサ素子の匂い物質受容層の厚さのばらつきに起因しうる測定結果の出力の不安定さが低減され、匂い測定装置100cは、匂い物質を高精度に測定することができる。
センサ素子群31Aが含むセンサ素子31、31b~31dの電極は、それぞれ第1電極および第2電極を有し、第1電極および第2電極は、平行線状、平行曲線状、櫛形状、または同心円状に配置されていてもよい。第1電極および第2電極は、前記のどの形状が採用される場合においても、互いに線対称、または点対称で配置されていることが好ましい。このように第1電極および第2電極が配置されることにより、匂い測定装置100cは、気体に含まれる匂い物質を高精度に測定することができる。
図13のセンサ素子31cは、第1電極313Cと、第2電極313Dを有している。また、一例として、第1電極313Cは、金属配線313aと、金属配線313bとから構成されており、2本の金属配線は、互いに垂直になるようT字状に配されている。第2電極313Bも、第1電極313Cと同様に2本の金属配線313c、313dから構成され、2本の金属配線が互いに垂直になるようT字状に配されるよう構成されている。また、第1電極313Aと、第2電極313Bとは、金属配線313aと、金属配線313cとが向かい合うように平行線状に配置されている。
第1電極313Cおよび第2電極313Dは、特に、互いにT字状に配されていることにより、第1電極313Cと、第2電極313Dとを好適な距離に設置することができ、電極の抵抗値を安定化させることができる。例えば、電極が櫛形状に配置されている場合は、電極間の距離が短くなり、電極の抵抗値が小さくなり過ぎる虞がある。また、第1電極313Cおよび第2電極313Dが互いにT字状に配されていることにより、後述のセンサ素子の製造方法の塗布工程において、スラリーが濡れ広がる領域に、濡れ広がりを妨げ得る電極の凹凸部分が存在しないため、スラリーが濡れ広がり易くなる。また、スラリーが濡れ広がり易くなることより、乾燥後の匂い物質受容層の厚みが一定になるという効果がある。
[センサ素子の製造方法]
匂い測定装置100cにおいて用いられる、複数種類のセンサ素子31、31b~31dを製造する製造方法について説明する。センサ素子31、31b~31dの匂い物質受容層315、315b~315dは、その原料として様々な組成を有するスラリーを使用し得るが、スラリーの組成が異なることによってスラリーの粘度はそれぞれ異なる。同一の方法を用いて、粘度の異なるスラリーを塗布して匂い物質受容層を形成する場合に、例えば、粘度の低いスラリーを使用すると基板上において濡れ広がり易く、一方で、粘度の高いスラリーを使用すると基板上において濡れ広がりにくくなる。このように、粘度の異なるスラリーを塗布する場合、同一の製造方法を用いると、乾燥後の匂い物質受容層315、315b~315dの形状、面積、および厚さなどにばらつきが生じる。このような匂い物質受容層を用いて製造されたセンサ素子31、31b~31dは、匂い物質を安定して測定することが難しい。一方、スラリーの粘度の高低に応じて製造方法を変更すると、形状、面積、厚さなどにばらつきが生じず、均一な匂い物質受容層315、315b~315dが得られるが、製造に係るコストが高くなる。
本実施形態の製造方法によれば、異なる組成、すなわち異なる粘度のスラリーを用いても形状、面積、および厚さのばらつきが少ない複数種のセンサ素子31、31b~31dを製造することができる。また、粘度の高低に応じて製造方法を変える必要がないため、製造コストを抑えることができる。
図15は、匂い測定装置100cにおいて用いられる複数種類のセンサ素子31、31b~31dを製造する製造方法の工程を説明するためのフローチャートである。
<スラリー調製工程>
まず、フィラー、樹脂組成物、および界面活性剤を含むスラリーが調製される。スラリーの樹脂組成物は、T単位(R1SiO3/2)からなるシリコーン樹脂を含む。シリコーン樹脂は、樹脂の全体に対して30~100重量%含まれていてよい。フィラー、樹脂組成物、および界面活性剤の混合比は、所望する匂い物質受容層の感度および検知特異性によって適宜設定されればよい。スラリーは、フィラー、樹脂組成物、および界面活性剤以外に溶媒、添加剤を含んでいてもよい(S21)。
<電極配置工程>
次に、基板上に電極が配置される(S22)。電極は、第1電極(第1金属配線)および第2電極(第2金属配線)を備えていてよい。第1電極と、第2電極とは離間している。第1電極および第2電極は、平行直線状、平行曲線状、櫛形状、および同心円状に配置されてもよい。また、第1電極および第2電極は、前記のどの形状が採用される場合においても、互いに線対称、または点対称で配置されていることが好ましい。このように第1電極および第2電極が配置されることにより、匂い測定装置100cは、気体に含まれる匂い物質を高精度に測定することができる。
一例として、図13および14においては、1枚の基板311上に一組の電極(第1電極313Cおよび第2電極313D)を配置されているが、1枚の基板上に、複数の組の電極が並んで配置されていてもよい。
<領域規定工程>
続いて、電極が配置された基板上に、複数種類のスラリーのそれぞれを塗布する塗布領域が規定される(S23)。塗布領域は、第1金属配線の少なくとも一部と第2金属配線の少なくとも一部とを含む領域である。塗布領域は、例えば、レジストが配されることによって規定されてもよい。また、塗布工程において、スラリーがノズルから滴下される場合は、塗布領域は、ノズル径に合わせて規定されてもよい。図16は、レジストMが配された後の基板311の概略図である。レジストMは、塗布領域330を規定するように配されている。塗布領域330は、基板311がむきだしの状態である。
塗布領域330の広さは、複数種類のスラリーのそれぞれに対して同じになるよう規定されてもよい。すなわち、導電性炭素材料、樹脂組成物、および界面活性剤の混合比がそれぞれ異なるスラリーであっても、スラリーを塗布するための塗布領域330の面積は、均一であってよい。これによれば、混合比が異なる、すなわち粘度が異なる複数種類のスラリーを用いても、乾燥させた後の複数種類の匂い物質受容層の面積のばらつきが少なくなる。
図16の塗布領域330は、一例として円状であるが、塗布領域330の形状はこれに限定されない。塗布領域330の形状は、円状、または帯状であってよい。これにより、円状、または帯状の匂い物質受容層が形成される。
塗布領域330の形状が円状である場合、円の直径は、0.2mm以上、10mm以下であってよく、塗布領域330の形状が帯状である場合、帯の短方向の長さが0.2mm以上、10mm以下であってよい。これにより、円の直径が0.2mm以上、10mm以下の円状の匂い物質受容層、また、帯の短方向の長さが0.2mm以上、10mm以下の円状の匂い物質受容層が形成される。
レジストMが配される方法は特に限定されないが、規定された領域にソルダーレジストをシルク印刷し、その後ソルダーレジストをUV硬化させる方法、レジストフィルムを基板に貼付する方法、規定された領域のレジストのみを硬化し、未硬化部分を除去する方法などが挙げられる。
<塗布工程>
続いて、複数種類のスラリーのそれぞれが塗布領域330に塗布される(S24)。スラリーは、第1電極の少なくとも一部と、第2電極の少なくとも一部とを含む塗布領域330に塗布される。スラリーが塗布される方法は、従来公知の方法を適用可能であり、ノズルから滴下されてもよく、スプレーされてもよく、スピンコートされてもよい。
複数種類のスラリーの粘度はそれぞれ異なっている。スラリーの粘度が異なることは、例えば、導電性炭素材料、樹脂組成物、および界面活性剤の混合比がそれぞれ異なることに起因する。粘度が異なるスラリーは、濡れ広がり方に違いが現れ得る。しかし、本製造方法の塗布工程においては、前の領域規定工程によって塗布領域が規定されているため、規定された面積にスラリーが塗布されることになる。
<乾燥工程>
最後に、塗布領域330に塗布されたスラリーを乾燥させて、匂い物質受容層が形成される(S25)。スラリーの乾燥方法としては、特に限定されないが、例えば、常圧で100℃、1時間加熱し、その後真空乾燥機内で減圧しながら100℃で1時間加熱する方法を採用することができる。
乾燥工程において、乾燥後の匂い物質受容層の厚さは、0.1μm以上1000μm以下であってよい。乾燥後の匂い物質受容層の厚さは、好ましくは、1μm以上、100μm以下であってよい。匂い物質受容層の厚さが前記の範囲であれば、センサ素子が匂い物質を安定して測定することができる。匂い物質受容層の厚さが0.1μm未満である場合、匂い物質受容層内に分散している導電性炭素材料の粒子径に近い値となるため、匂い物質受容層の厚さの均一性が担保出来ず、匂い測定装置100cが安定した測定結果を出力できない虞がある。一方、匂い物質受容層の厚さが、1000μmより大きい場合、匂い物質受容層内での匂い物質の拡散時間が長くなるため、匂い測定装置100cは、匂い物質を精度高く測定することが難しくなる。
上述のように、本実施形態に係る製造方法は、スラリー調製工程と、電極配置工程と、領域規定工程と、塗布工程と、乾燥工程とを含む。このような製造方法を採用することにより、導電性炭素材料、樹脂組成物、および界面活性剤の混合比が異なる複数種類のスラリーを用いても、匂い物質受容層315、315b~315dの形状、面積、および厚さのばらつきが少ない複数種のセンサ素子31、31b~31dを製造することができる。また、スラリーの粘度の高低に応じて製造方法を変える必要がないため、製造コストを抑えることができる。
特に、領域規定工程において、塗布領域が規定されることにより、後の塗布工程においてスラリーのドロップレットの濡れ広がりが良好になる。例えば、塗布領域をレジストで規定した場合、基板のうち、レジストが存在する部分と、存在しない部分とで、表面粗さが異なる。レジストが存在しない部分では、基板がむきだしの状態のため、表面粗さが大きく、表面張力が小さくなる。これにより、基板がむきだしである塗布領域においては、スラリーのドロップレットの濡れ広がりが良好になる。
また、領域規定工程において、塗布領域が配されることにより、後の塗布工程においてスラリーの濡れ広がりが規制され、匂い物質受容層315、315b~315dと、電極との位置関係が一定になる。例えば、塗布領域をレジストで規定した場合、レジストの境界において段差が生じることにより、スラリーの濡れ広がりが規制され、匂い物質受容層315、315b~315dと、電極との位置関係が一定になる。
領域規定工程は、必須ではなく、領域が規定されない状態で、塗布工程が行われてもよい。
匂い物質受容層315、315b~315dの作製では、樹脂組成物の塗工によって匂い物質受容層315、315b~315dを作製した後に、当該匂い物質受容層に接するように電極を作製してもよい。
本開示において、スラリーは、T単位(R1SiO3/2)からなるシリコーン樹脂、フィラー、および界面活性剤を含むことにより、スラリーが好適な柔軟性を有し、成膜性に優れるという効果を奏する。また、成膜性が向上することにより、安定して複数のセンサ素子31、31b~31dを製造することができる。
〔ソフトウェアによる実現例〕
推定装置10、10a、10bの制御ブロック(特に制御部1)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
後者の場合、推定装置10、10a、10bは、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路等を用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)等をさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
〔まとめ〕
本開示の態様1に係る匂い測定装置100、100a~100cは、第1金属配線313A、および第1金属配線313Aとは離間している第2金属配線313Bを有する電極313と、第1金属配線313Aの少なくとも一部と第2金属配線313Bの少なくとも一部とに接する匂い物質受容層315、315b~315dと、を備える複数のセンサ素子31、31b~31dを備え、匂い物質受容層315、315b~315dは樹脂組成物を含み、樹脂組成物は、T単位(R1SiO3/2)からなるシリコーン樹脂を含む樹脂(A)、フィラー(C)、および界面活性剤(B)を含み、R1は、1~10個の炭素原子を有する一価の炭化水素基である。
本開示の態様2に係る匂い測定装置100、100a~100cは、前記態様1において、シリコーン樹脂は、樹脂(A)の全体に対して30~100重量%含まれてもよい。
本開示の態様3に係る匂い測定装置100、100a~100cは、前記態様の1または2において、匂い物質受容層は、該匂い物質受容層の断面のSEM画像に基づき評価した空隙率xが12%≦x≦30%であってもよい。
本開示の態様4に係る匂い測定装置100、100a~100cは、前記態様の1~3のいずれかにおいて、匂い物質受容層315、315b~315dの抵抗値の変化によって匂いを検出してもよい。
本開示の態様5に係る匂い測定装置100、100a~100cは、前記態様1~4のいずれかにおいて、フィラー(C)は、導電性炭素材料であってもよい。
本開示の態様6に係る匂い測定装置100、100a~100cは、前記態様5において、導電性炭素材料はカーボンブラックであってもよい。
本開示の態様7に係るセンサ素子31、31b~31dは、第1金属配線313A、および第1金属配線313Aとは離間している第2金属配線313Bを有する電極313と、第1金属配線313Aの少なくとも一部と第2金属配線313Bの少なくとも一部とに接する匂い物質受容層315、315b~315dと、を備え、匂い物質受容層315、315b~315dは、T単位(R1SiO3/2)からなるシリコーン樹脂を含む樹脂(A)、フィラー(C)、および界面活性剤(B)を含み、R1は、1~10個の炭素原子を有する一価の炭化水素基である。
本開示の態様8に係るセンサ素子31、31b~31dの製造方法は、スラリーを調製するスラリー調製工程と、基板上に、第1金属配線313A、および第1金属配線313Aとは離間している第2金属配線313Bを有する電極313を配置する電極配置工程と、スラリーを、第1金属配線313Aの少なくとも一部と第2金属配線313Bの少なくとも一部とを含む塗布領域に塗布する塗布工程と、塗布領域に塗布されたスラリーを乾燥させて匂い物質受容層315、315b~315dを形成する乾燥工程と、を含み、スラリーは、T単位(R1SiO3/2))からなるシリコーン樹脂を含む樹脂(A)、フィラー(C)、および界面活性剤(B)を含み、前記R1は、1~10個の炭素原子を有する一価の炭化水素基である。
本開示の態様9に係る製造方法は、前記態様8において、シリコーン樹脂は、樹脂(A)の全体に対して30~100重量%含まれていてもよい。
本発明は上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
前述の本発明の態様によれば、匂いを機械的に、高精度かつ高感度で測定することが可能となる。よって、本発明は、匂いの測定が求められる幅広い産業分野に適用可能であり、産業と技術革新の基盤に関する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9の達成に貢献することが期待される。
以下、実施例および比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
実施例および比較例で使用する各種材料に関する説明を以下に示す。
〔樹脂(A)〕
・シリコーン樹脂
ここで、シリコーン樹脂は、シリコーンオイルを含まない。
A1:シルセスキオキサン(DOWSIL RSN0217、東レダウ(株)製)
A2:シリコーン樹脂
[シリコーン樹脂(A2)の合成例]
500mLフラスコに水18g、28%アンモニア水2g、2-プロパノール80gに、3-フリルトリエトキシシラン4.41gを加え、80℃で3時間反応させた。反応液を空冷後、沈殿物をろ取単離した(有機無機ハイブリッド含有溶液)。エタノールでサンプルを十分に洗浄し乾燥させたのち、DMFで10mg/mLになるように溶解した。平均一次粒子径80nmのシリカが分散された2-プロパノール分散液IPA-ST-ZL(日産化学製品)をDMFで10mg/mLになるように調製したフィラー含有溶液と、先述の有機無機ハイブリッド含有溶液を混合比6:4(有機無機ハイブリッド含有溶液:フィラー含有溶液)の割合で混合し目的のシリコーン溶液を得た。また、シリコーン溶液の一部をサンプルとして用い、100℃大気下で乾燥させて、TGAを用いて熱重量減少率を測定した。
・シリコーンオイル
A3:ポリエーテル変性シリコーンオイル(KF6020、信越化学工業(株)製)(主鎖がD単位(R1
2SiO2/2)からなる)
A4:末端水酸基変性シリコーンオイル(X-22-170DX、信越化学工業(株)製)(主鎖がD単位(R1
2SiO2/2)からなる)
〔界面活性剤(B)〕
B1:ディスパロンDA-325(楠本化成(株)製)(ポリエーテルリン酸エステルのアミン塩、AOA鎖(エーテル構造)を含む)
B2:アジスパーPB-822(味の素ファインテクノ(株)製)(アミノ基含有、ノニオン性)
B3:イオネットS-60V(三洋化成工業(株)製)(ソルビタンの脂肪酸エステル、ソルビトール骨格(エーテル構造)を含む)
B4:イオネットT-80V(三洋化成工業(株)製)(ソルビタンの脂肪酸エステルのエチレンオキシド(EO)付加物、AOA鎖(エーテル構造)を含む)
B5:ポリビニルピロリドン(日本触媒(株)製)(ノニオン性)
〔フィラー(C)〕
C1:シリカ (IPA-ST-ZL、日産化学(株)製)
C2:カーボンブラック(SuperC65、MTI Corporation社製)
〔溶剤(D)〕
D1:酪酸ブチル
以下、樹脂組成物の実施例および比較例を示す。
〔樹脂組成物1〕
下記の成分を下記の量でサンプル瓶に量り取り、混合物を得た。
シリコーン樹脂A1 36重量部
シリコーンオイルA3 36重量部
界面活性剤B1 8重量部
フィラーC2 20重量部
溶剤D1 50部
当該混合物を、自転・公転ミキサー((株)シンキー製ARE-310)を用いて2000回転/分で20分間撹拌して、スラリーを得た。こうして当該スラリーとして樹脂組成物1を得た。
〔樹脂組成物2、9~12、樹脂組成物C1〕
シリコーン樹脂A1、シリコーンオイルA3、界面活性剤B1、フィラーC2の量を表1に記載の重量部にそれぞれ変更した以外は、樹脂組成物1と同様にして、樹脂組成物2、9~12、樹脂組成物C1を作製した。
〔樹脂組成物3〕
シリコーンオイルを使用せず、シリコーン樹脂A1の量を表1に記載の重量部に変更した以外は、樹脂組成物1と同様にして、樹脂組成物3を作製した。
〔樹脂組成物4〕
シリコーンオイルA3に代えてシリコーンオイルA4を用いた以外は、樹脂組成物1と同様にして、樹脂組成物4を作製した。
〔樹脂組成物5〕
界面活性剤B1に代えて界面活性剤B2を用いた以外は、樹脂組成物1と同様にして、樹脂組成物5を作製した。
〔樹脂組成物6〕
界面活性剤B1に代えて界面活性剤B3を用いた以外は、樹脂組成物1と同様にして、樹脂組成物6を作製した。
〔樹脂組成物7〕
界面活性剤B1に代えて界面活性剤B4を用いた以外は、樹脂組成物1と同様にして、樹脂組成物7を作製した。
〔樹脂組成物8〕
界面活性剤B1に代えて界面活性剤B5を用いた以外は、樹脂組成物1と同様にして、樹脂組成物8を作製した。
〔樹脂組成物C2〕
シリコーンオイルA3および界面活性剤B1を用いず、シリコーン樹脂A1の量を表1に記載の重量部に変更した以外は、樹脂組成物1と同様にして、樹脂組成物C2を作製した。
〔樹脂組成物C3〕
シリコーンオイルA3および界面活性剤B1を用いず、シリコーン樹脂A1に代えてシリコーン樹脂A2、フィラーC2に代えてフィラーC1を用いた以外は、樹脂組成物1と同様にして、樹脂組成物C3を作製した。
以下、センサ素子の実施例および比較例を示す。
〔センサ素子E-1~E-14、比較用センサ素子E’-1~E’-3〕
間隔幅500μmの複数の金属配線を備えたシール基板(ICB-073、サンハヤト(株)製)から、2本1組の金属配線を含むシール基板を切り出した。切り出したシール基板を、さらに金属配線の長さが3.5cmとなるように切断した。
切断されたシール基板をガラス板の上に、金属配線が上になるように両面テープで貼り付けた。また、金属配線の露出部分の長さが3.0cmとなるように、金属配線の余分な部分にビニールテープを貼り付けてマスクした。ここに、樹脂組成物1~12、および比較樹脂組成物c1~c3を、それぞれバーコーター(No.4)を用いて金属配線の露出部に塗布した。塗布後、100℃に加熱した順風乾燥機で3時間乾燥させた。乾燥後、室温まで冷却してから、匂い物質受容層を備えた金属配線をガラス板から剥離して、センサ素子(E-1)~(E-14)および比較用センサ素子(E’-1)~(E’-3)を得た。センサ素子(E-3)~(E-5)については、同じ樹脂組成物3を用いて3つのセンサ素子(E-3)~(E-5)を作製した。
〔実施例1~14、比較例1~3〕
検体(匂い物質)を導入する導入口と、検体が均一に広がるよう気流を作るためのキャリアガス導入部およびガスフロー調整器とを備えた筐体を作製した。端子を外部へ取り出すためのリード線を8個のセンサ素子(E-1)のそれぞれにはんだ付けし、8個のセンサ素子(E-1)を筐体内に設置した。センサ素子(E-1)ごとに、筐体外部に取り出したリード線の末端に1mAの定電流電源と、リード線の両端子にかかる電圧を測定するための電圧計とを接続した。こうして8個のセンサ素子(E-1)を有する匂いセンサ1を構成した。
センサ素子(E-1)に代えてセンサ素子(E-2)~(E-14)および比較用センサ素子(E’-1)~(E’-3)を用いる以外は匂いセンサ1と同様にして、匂いセンサ2~14およびc1~c3をそれぞれ構成した。匂いセンサ4およびc3については、膜型表面応力センサ(Membrane-type Surface stress Sensor:MSS)方式を用い、SD-MSSセンサプローブ(NIMS製)を使用し、センサ素子からの起電力をアンプで増幅して出力電圧を取得した。匂いセンサ5については、水晶振動子マイクロバランス(Quartz Crystal Microbalance;QCM)方式を用い、QA-A9M-AU(セイコーEG&G社製)を使用し、共振周波数を周波数カウンタで計測し、周波数変化を取得した。
〔評価〕
[ΔV変動係数の測定]
匂いセンサ1~14およびC1~C3のそれぞれについて、匂いセンサの導入口に検体としてのエタノールを5mL入れた。その後、キャリアガス導入部からキャリアガスとしての窒素をセンサ素子が設置されている筐体内へ、ガスフロー調整器によって1L/minの流量で流し、外部に排出した。この間、センサ素子に接続されている電圧計の測定値をコンピュータで記録した。こうして、匂いセンサにおける8個のセンサ素子のそれぞれの電圧値を測定した。各匂いセンサの各センサ素子について、検体導入前の出力電圧V0および検体導入中の電圧Vの差の最大値ΔVを算出した。そして、各匂いセンサで得られた8個の最大値ΔVのデータの標準偏差σおよび平均値μを算出し、センサ素子を形成する樹脂組成物のΔV変動係数(=σ/μ)を求めた。匂いセンサ4およびc3についてはMSSセンサ素子から得られた出力電圧についてV0とVとを得た。匂いセンサ5についてはQCMセンサ素子から得られた周波数についてF0とFとを得て、それぞれV0およびVの場合と同様に算出して変動係数を得た。
[空隙率の測定方法]
匂いセンサ1~14およびc1~c3のそれぞれが備えるセンサ素子の匂い物質受容層および匂い物質透過層を含む断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察・撮像した。SEM観察条件は下記のとおりとした。
メーカー:HITACHI
装置:S-4800
加速電圧:1.0V
電流値:10μA。
SEM画像取得の際、内蔵のアプリケーションによって、コントラスト3225~3275、明るさ2025~2075の間で画像調整をおこなった。
SEMにより取得したSEM画像に対して、画像解析ソフトにより二値化処理を行った。二値化処理にはImageJを用いた。この二値化処理において、「Gaussian Blur」、「16bit」、「unsharp Mask」の順番に画像処理をした後、「threshold」にて二値化処理を行った、この際の閾値をグレースケールで50とすることで、SEM画像における空隙に該当するエリアを抽出し、匂い物質受容層のSEM画像に写る領域の広さに対する空隙が占める領域の広さの比率である空隙率を算出した。
実施例1~14の匂いセンサ1~14、および比較例1~3の匂いセンサc1~c3のそれぞれの樹脂組成物の材料の組成と物性を表1に示す。
表1において、「T単位/D単位」は、シリコーン樹脂に含まれるD単位に対するT単位の重量比を意味する。ΔV変動係数が0.2以下、好ましくは0.14以下、より好ましくは0.12以下であれば、一体の匂いセンサにおける複数のセンサ素子間での性能のばらつきが十分に小さく、実用上問題ないと判定できる。ΔV変動係数は、当該ばらつき低減の観点では、小さいほど好ましい。
〔考察〕
表1に示されるように、匂いセンサ1~14は、いずれも、実用上問題ないか、あるいは実用上好ましいΔV変動係数を示している。
また、表1に示されるように、匂い物質受容層の断面のSEM画像に基づき評価した空隙率xが12%≦x≦30%の範囲内である匂いセンサ3、5、9~10は、いずれも、実用上問題ないか、あるいは実用上好ましいΔV変動係数を示している。
実施例1~14と、比較例1との対比によれば、シリコーン樹脂A1の重量部が、樹脂(A)の全体に対して30重量%よりも少ない樹脂組成物c1を備える匂いセンサc1のΔV変動係数は大きくなることがわかった。
実施例1~14と、比較例2、3との対比によれば、界面活性剤(B)を含まない樹脂組成物c2およびc3を備える匂いセンサc2および匂いセンサc3のΔV変動係数は大きくなることがわかった。
実施例1~3の対比によれば、シリコーン樹脂A1の重量部が異なる場合でも実用上問題ないΔV変動係数が得られている。
また、実施例1と実施例6との対比によれば、樹脂(A)に含まれるシリコーンオイルの種類が異なる場合でも実用上問題ないΔV変動係数が得られている。
実施例6~10の対比によれば、界面活性剤(B)の種類が異なる場合でも実用上問題ないΔV変動係数が得られている。
実施例6、8、9と、実施例10との対比によれば、樹脂組成物に含まれる界面活性剤(B)がエーテル構造を有する実施例6、8、9の結果は、樹脂組成物に含まれる界面活性剤(B)がエーテル構造を有さない実施例10の結果よりも匂いセンサのΔV変動係数が小さかった。このことから、樹脂組成物がエーテル構造を有する界面活性剤を含む構成を採用することで、匂いセンサのΔV変動係数を小さくすることができることがわかった。
また、実施例6と、実施例7~10との対比によれば、アミノ基およびAOA鎖を含む樹脂組成物4を備える匂いセンサ6(実施例6)のΔV変動係数が最も小さい値であった。
実施例1、11、12の対比によれば、界面活性剤(B)の重量部が異なる場合でも実用上問題ないΔV変動係数が得られている。
実施例3~5の対比によれば、センサ方式が異なる場合でも実用上問題ないΔV変動係数が得られている。また、センサ方式が抵抗式である実施例3の匂いセンサ3のΔV変動係数は、MSS方式を用いた匂いセンサ4、およびQCM方式を用いた匂いセンサ5よりも小さい値を示した。すなわち、匂い物質受容層の抵抗値の変化によって匂いを検出する抵抗式を採用した匂いセンサは、複数のセンサ素子間での性能のばらつきが小さくなる。
よって、T単位(R1SiO3/2)からなるシリコーン樹脂を含む樹脂、フィラー、および界面活性剤を含む匂い物質受容層を備える匂いセンサは、実用上問題ないΔV変動係数を示すことがわかった。すなわち、このような匂いセンサを搭載した匂い測定装置は、安定した測定結果を出力することができる。