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JP7648190B2 - 成熟心筋細胞の製造法 - Google Patents

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Description

本発明は成熟心筋細胞の製造方法に関する。
近年、人工多能性幹(iPS)細胞や胚性幹(ES)細胞などの多能性幹細胞を各種体細胞に分化誘導し、再生医療等に使用することが試みられている。多能性幹細胞から心筋細胞に分化誘導する系もいくつか報告されているが、得られた心筋細胞は胎児型心筋細胞に類似した未熟な心筋細胞がほとんどであり、実用化のためには成熟化の操作が必要である。
心筋細胞を成熟させる方法としては、以下のような方法が知られていた。
1)長期間培養(例えば、非特許文献1,2)
2)未希釈のマトリゲル層(マトリゲルマットレス)上での培養(例えば、非特許文献3)
3)三次元培養(biowireの形成)と電気刺激との組み合わせ(例えば、非特許文献4~6)
4)心筋細胞成熟促進剤の添加(例えば、特許文献1)
5)Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子の一過的発現(例えば、特許文献2)
国際公開2019/189554号パンフレット 特開2017-60422号公報
Circ J 2013; 77: 1307-1314 Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 May 26;112(21):E2785-94 Circ Res. 2015 December 4; 117(12): 995-1000. Nat Methods. 2013 August ; 10(8): 781-787 Nature. 2018 April ; 556(7700): 239-243 Circulation. 2016 November 15; 134(20): 1557-1567
上記の通り、心筋細胞を成熟化させる技術はいくつか報告されているが、コスト面や技術面で改善の余地があった。
そこで、本発明は、創薬スクリーニングや細胞移植に使用しうる成熟心筋細胞を短期間で効率よく得るための方法を提供することを課題とする。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行い、まず、心筋細胞成熟促進剤(特許文献1)を用いた心筋細胞成熟化の過程でCDKN1A(cyclin-dependent kinase inhibitor 1、別名p21)の発現が増加することを見出した。そして、未成熟心筋細胞においてCDKN1Aの発現量を増加させると短期間で効率よく成熟心筋細胞が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明の要旨は以下の通りである。
[1]未成熟心筋細胞において、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子1(cyclin-dependent kinase inhibitor 1)の発現量を増加させる工程を含む、成熟心筋細胞の製造方法。
[2]前記発現量の増加が、3日以上維持される、[1]に記載の成熟心筋細胞の製造方法。
[3]前記心筋細胞がヒト心筋細胞である、[1]または[2]に記載の成熟心筋細胞の製造方法。
[4]前記未成熟心筋細胞が多能性幹細胞から分化誘導された未成熟心筋細胞である、[1]~[3]のいずれかに記載の成熟心筋細胞の製造方法。
[5]前記多能性幹細胞が人工多能性幹細胞である、[4]に記載の成熟心筋細胞の製造方法。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の方法によって増殖された、成熟心筋細胞。
本発明によれば、特別な培養基質などを用いなくとも、短期間で効率よく心筋細胞を成熟させることができる。特に、多能性幹細胞からの分化誘導と組み合わせることで、成熟心筋細胞を容易且つ大量に製造できるようになる。
本発明の分化誘導法の一態様を示す模式図である。“Day”は分化誘導開始からの日数を示す。 実施例で使用したレポーターiPS細胞(1390D4株)が心筋細胞へと分化・成熟する過程で検出される変化の模式図である。当該細胞は、TNNI1遺伝子のプロモーター制御下にEmGFP、TNNI3遺伝子のプロモーター制御下にmCherryが挿入されているため、心筋細胞に分化誘導されると、まずEmGFP陽性mCherry陰性の未熟な心筋細胞を生じる。その後、成熟化の進行とともにEmGFPの発現量が減少しmCherryが発現誘導されるため、やがてEmGFP陰性mCherry陽性の成熟心筋細胞になる。 レポーターiPS細胞から心筋細胞成熟促進剤を用いて得られた成熟心筋細胞(成熟促進剤処理細胞)と、該促進剤で処理せずに得られた未成熟心筋細胞(促進剤非処理細胞)について、促進剤非処理細胞に対する促進剤処理細胞の遺伝子オントロジー(GO)エンリッチメント解析結果(A)を示す。図3Bは、図3Aにおける「Kinase inhibitor activity」に含まれる遺伝子のリストである。 米国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の遺伝子発現情報データベース(GEO、Acc. No. GSE51483)を用いて、マウスの心臓発生におけるCDKN1A遺伝子とTNNI3遺伝子の発現量(mRNA量)の経時変化(A)と、両遺伝子の発現量の相関(B)を解析した結果である。Aの各ステージにおける解析サンプルは以下の通り;E8.5 heart tubes, left and right ventricle tissues at E9.5, E12.5, E14.5, E18.5, 3 days after birth (Postnatal 3d), adult heart(mCM) ヒトES細胞および該細胞から前記心筋細胞成熟促進剤を用いて得られた成熟心筋細胞について、CDKN1A、HOPX遺伝子のmRNA量を解析した結果を示す(A、C)。Bは、GEO:GSE46224を用いて、ヒト心筋細胞におけるCDKN1A遺伝子とHOPX遺伝子の発現量の相関を解析したグラフである。Dは、上記のGEO:GSE50704を用いて、ヒト成人およびヒト胎児の心筋細胞におけるCDKN1A遺伝子のmRNA量を解析した結果を示す。HOPXは、serum response factor (SRF)依存性心臓特異的遺伝子発現を調節して心臓発生に寄与することが示唆されている遺伝子である。 上記のGEO:GSE46224を用いて、ヒトの心臓発生におけるCDKN1A遺伝子とTNNI3遺伝子(A)、CDKN1A遺伝子とHIC1遺伝子(B)の発現量の相関をそれぞれ解析したグラフである。 レポーターiPS細胞から得られた成熟心筋細胞(促進剤処理細胞)と未成熟心筋細胞(促進剤非処理細胞)について、促進剤非処理細胞に対する促進剤処理細胞の心筋細胞特異的遺伝子(Myh6:Myosin heavy chain, α isoform (MHC-α)、Myl7: myosin light chain 7、Ttn: titin、cTnT(=TNNT): troponin T2, cardiac type)と線維芽細胞特異的遺伝子(Tgfbi: Transforming growth factor, beta-induced, 68kDa、Col11a1: collagen type XI alpha 1 chain、Fbln1: fibulin 1、Thy: thymidylate synthase)の発現量を解析した結果(A)と、分化誘導から7日後、14日後、21日後における主成分分析(PCA、n=3)の結果(B)を表す。 レポーターiPS細胞から心筋細胞分化誘導剤によって成熟心筋細胞に分化する過程において、Day7対Day14、Day7対Day21で発現量が変化している遺伝子の解析結果(ヒートマップ:A)、Day7対Day21で発現増加または発現減少した遺伝子数の解析結果(ベン図:B)、およびTNNI3またはCDKN1A遺伝子のmRNA量の経時変化(C)を表す。 レポーターiPS細胞から成熟促進剤処理によって得られた成熟心筋細胞について、分化誘導開始から長期間経過した時点(Day40,Day60)での、CDKN1AとTNNI3のmRNA量を解析したグラフである。 GEO(Gene Expression Omnibus)のGSE1479のデータを用いて、マウス胎児心臓における心筋細胞の成熟関連遺伝子とCDKN1Aを解析した結果を示す。AはCD36遺伝子発現の経時的変化(n=6)を示し、BはCD36とCDKN1Aの相関解析(Pearson correlation)を示し、CはHOPXとCDKN1Aの相関解析(Pearson correlation)を示すグラフである。 GEOのGSE51483のデータを使用し、胎児心筋の発達において、CDKN1Aと関連するパスウェイにおける発現変動遺伝子(differentially expressed genes; DEGs)を解析した結果を示すグラフである。*はp-value<0.05を、**はp-value<0.01を、***はp-value<0.001を示す(pearson r)。 マウス胎児の心臓の心房および心室に分けて解析を行った結果を示すヒートマップである。Aは心房筋における成熟関連遺伝子発現の経時的変化を、Bは心室における成熟関連遺伝子発現の経時的変化を示す。 レポーターiPS細胞から図1に記載の方法(未成熟心筋細胞に外来性CDKN1A遺伝子を導入・発現させて成熟化させる方法)によって成熟心筋細胞を製造する工程において、外来性CDKN1A遺伝子の導入(発現開始)から4または5日後(Day20またはDay21)の細胞の解析結果である。Aは、mCherryとGFPの蛍光強度の解析結果を示すグラフである。Bのイメージは、mCherryとGFPの蛍光を検出した蛍光顕微鏡写真であり、Bのグラフは、心筋細胞の成熟に関わる遺伝子群のmRNA量を解析したグラフである。A、Bにおける“CDKN1A”は、CDKN1A遺伝子をコードするレンチウイルス(ウイルス粒子)を感染させた細胞を表す。また、Aにおける“pLenti6.3”、Bにおける“Control”は、いずれも、CDKN1A遺伝子をコードしていないレンチウイルス(ウイルス粒子)を感染させた細胞(陰性コントロール)を表す。 レポーターiPS細胞から図1に記載の方法によって得られた成熟心筋細胞について解析した結果である。Aは、心筋細胞の成熟に関わる遺伝子セットについて、陰性コントロール細胞に対するmRNA量を解析したヒートマップを表す。Bは、Day60の成熟心筋細胞について、位相差顕微鏡イメージ、TNN3及び/またはTNN1の蛍光観察イメージを表す(すべて同視野イメージ)。 より未熟な早期の心筋細胞におけるCDKN1Aの成熟誘導効果について評価を行った結果を示す。早期の未成熟心筋細胞におけるCDKN1A発現実験のワークフローをAに示す。“Day”は分化誘導開始からの日数を示す。Day14の心筋細胞にCDKN1Aを発現させた。Bは、Day30におけるCDKN1AとTNNI3のmRNA発現を、定量的PCRで解析したグラフである。
本発明の成熟心筋細胞の製造方法は、未成熟心筋細胞において、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子1(cyclin-dependent kinase inhibitor 1:CDKN1A)の発現量を増加させる工程を含む。
本発明において、心筋細胞とは、心筋トロポニン(cTNT)、αMHC(α myosin heavy chain、MYH6)およびβMHC(MYH7)から成る群から選択される少なくとも一つ以上のマーカー遺伝子を発現している細胞を意味する。cTNTは、ヒトの場合NCBIのaccession番号NM_000364が例示され、マウスの場合、NM_001130176が例示される。αMHCは、ヒトの場合NCBIのaccession番号NM_002471が例示され、マウスの場合、NM_001164171が例示される。βMHCは、ヒトの場合NCBIのaccession番号NM_000257が例示され、マウスの場合、NM_080728 が例示される。
なお、心筋細胞は、特に限定されないが、好ましくは、哺乳動物(例、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、ブタ、サル、ヒト)由来であり、より好ましくはヒト由来である。
心筋細胞は成熟化するにつれてトロポニンI1(TNNI1)の発現が減少し、トロポニンI3(TNNI3)の発現が上昇するアイソフォームスイッチが起こることが知られている(Fikru B. Bedada,(2014) 3(4): 594-605.)。
本明細書において、未成熟心筋細胞とは、TNNI3の発現量が非常に低く、TNNI1を優位に発現している心筋細胞を意味する。未成熟心筋細胞は胎児型心筋細胞(fetal-like cardiomyocyte)と呼ばれることもある。
本明細書において、成熟心筋細胞とは、TNNI1の発現量が非常に低く、TNNI3を優位に発現している心筋細胞を意味する。成熟心筋細胞は成人型心筋細胞(adult-like cardiomyocyte)と呼ばれることもある。例えば、TNNI3とTNNI1の発現量を遺伝子レベル又はタンパク質レベルで測定し、それぞれ、恒常的発現マーカーの発現量などで標準化して比較したときに、TNNI3の発現量が胎児型心筋細胞のTNNI3の発現量の5倍以上、より好ましくは10倍以上、さらに好ましくは25倍以上、特に好ましくは100倍以上である心筋細胞を成熟心筋細胞とすることができる。
TNNI3およびTNNI1の発現レベルは、例えば、これらの遺伝子のmRNA量をPCR等を用いて測定する;タンパク質の発現量をウエスタンブロット等により解析する;レポーター分子の発現量により解析する;または蛍光標識や蛍光レポーターの蛍光強度に基づき顕微鏡もしくはフローサイトメーターにより解析する;などの方法によって解析することができる。
なお、心筋細胞の成熟度は、上記のTNNI3とTNNI1の発現レベル以外に、形態や構造(例、サルコメア、ミトコンドリア)、性質(例、拍動状態、電位生理学的な成熟度)などを指標にしてもよい。例えば、電位生理学的な成熟度の指標は、パッチクランプ等による静止膜電位の深さ等を用いることができる。サルコメアの微細構造やミトコンドリアの指標は、電子顕微鏡により観察するか;蛍光標識により顕微鏡もしくはフローサイトメーターにより解析するか;またはextracellular flux analyzerなどにより機能解析することができる。これらの指標を成人型心筋細胞などの対照成熟心筋細胞や、胎児型心筋細胞などの対照未成熟心筋細胞と比較し、評価対象の心筋細胞が成熟型であるか、未成熟型であるかを判別することもできる。
本明細書において、CDKN1Aとは、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子1(cyclin-dependent kinase inhibitor 1)(別名p21)を意味し、未成熟心筋細胞を成熟化させるという機能を発揮できる限りその配列や由来する生物種に特に制限はないが、例えば、ヒトのCDKN1A遺伝子としては、NCBIのGene ID 1026として登録されている遺伝子を例示することができる(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/1026)。
このCDKN1A遺伝子の塩基配列を配列番号1に、コードするアミノ酸配列を配列番号2に示す。CDKN1A遺伝子は未成熟心筋細胞を成熟化させるという機能を発揮できる限り、配列番号1の相補塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件(例えば、ハイブリダイゼーション後に65℃、0.1×SSC、0.1%SDSで洗浄する条件)でハイブリダイズする遺伝子であってよい。また、CDKN1Aタンパク質は未成熟心筋細胞を成熟化させるという機能を発揮できる限り、配列番号2のアミノ酸配列を90%以上、95%以上、または98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。
本明細書において、「CDKN1Aの発現量を増加させる」とは、CDKN1A mRNAおよび/またはCDKN1Aタンパク質の発現量を増加させることを指し、具体的には、5倍以上、好ましくは10倍以上、より好ましくは20倍以上、さらに好ましくは50倍以上、最も好ましくは100倍以上増加させることを意味する。また、当該増加は、例えば、TNNI1/TNNI3の発現量比が10以上である未成熟心筋細胞や、胎児心筋細胞におけるCDKN1A発現量を基準にしてもよい。
また、前記CDKN1A mRNAまたはCDKN1Aタンパク質は、内在性または外来性CDKN1A遺伝子のいずれに由来するものであってもよい。
CDKN1A mRNAおよび/またはCDKN1Aタンパク質の発現量を増加させる場合、未成熟心筋細胞に内在的に存在するCDKN1A遺伝子を活性化してもよいし、未成熟心筋細胞に外来的にCDKN1A遺伝子を導入して発現させてもよい。未成熟心筋細胞に内在的に存在するCDKN1A遺伝子の活性化は、例えば、内在的に存在するCDKN1A遺伝子の発現調節機構の改変などにより行うことができる。
未成熟心筋細胞へCDKN1A遺伝子を外来的に導入する方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法を用いることができる。
遺伝子(DNA)の形態で導入する場合、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクターをリポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって未成熟心筋細胞に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクターなどが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる。ベクターには、目的遺伝子が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができるし、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、蛍光タンパク質、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。プロモーターとして、SV40プロモーター、 LTRプロモーター、CMV (cytomegalovirus)プロモーター、RSV (Rous sarcoma virus)プロモーター、MoMuLV (Moloney mouse leukemia virus) LTR、HSV-TK (herpes simplex virus thymidine kinase)プロモーター、EF-αプロモーター、CAGプロモーターおよびTREプロモーター(tetO 配列が7回連続したTet応答配列をもつCMV 最小プロモーター)が例示される。TREプロモーターを用いた場合、同一の細胞において、tetRおよびVP16ADとの融合タンパク質またはreverse tetR (rtetR)およびVP16ADとの融合タンパク質を同時に発現させることが望ましい。ここで、TREプロモーターを有しreverse tetR (rtetR)およびVP16ADとの融合タンパク質を発現させることが可能なベクターは薬剤応答性誘導ベクターの一例である。また、上記ベクターには、多能性細胞の染色体へプロモーターとそれに結合するCDKN1A遺伝子からなる発現カセットを取り込み、さらに必要に応じて切除するために、この発現カセットの前後にトランスポゾン配列を有していでもよい。トランスポゾン配列として特に限定されないが、piggyBacが例示される。他の態様として、発現カセットを除去する目的のため、発現カセットの前後にLoxP配列を有してもよい。
薬剤応答性誘導ベクターを用いる場合には、導入されたCDKN1A遺伝子の発現時期を制御することができる。すなわち、CDKN1A遺伝子をあらかじめ細胞に導入しておき、必要な時期に薬剤を添加することで、CDKN1A遺伝子を発現させることができる。例えば、未成熟心筋細胞を後述のように多能性幹細胞から得る際には、多能性幹細胞の段階でCDKN1A遺伝子を導入しておき、未成熟心筋細胞に分化誘導されたときに、薬剤を添加してCDKN1A遺伝子を発現させてもよい。薬剤としては、薬剤応答性プロモーターとの関係で適切なものを使用することができるが、例えば、ドキシサイクリンなどが使用される。
なお、LoxP配列を有するベクターを用いる場合、所望の期間経過後、Creを細胞内に導入することで発現を停止する態様も可能である。
RNAの形態で導入する場合、例えばエレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクションなどの手法によって多能性幹細胞内に導入してもよい。
タンパク質の形態で導入する場合、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチド(例えば、HIV由来のTATおよびポリアルギニン)との融合、マイクロインジェクションなどの手法によって多能性幹細胞内に導入してもよい。
未成熟心筋細胞において「CDKN1Aの発現量を増加させる」期間は、未成熟心筋細胞が成熟心筋細胞に変化するのに十分な期間であればよく、特に制限されないが、例えば、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、9日以上、または10日以上である。上限は特になく、未成熟心筋細胞が成熟心筋細胞に変化したのちもCDKN1Aの発現量が増加した状態を維持してもよいが、未成熟心筋細胞が成熟心筋細胞に変化したのちは必ずしもCDKN1A遺伝子の発現量が増加した状態を続ける必要はない。
CDKN1A遺伝子の細胞内への導入など、「CDKN1Aの発現量を増加させる」操作は1回または複数回行うことができる。例えば、CDKN1Aを遺伝子産物の形態で導入する場合に、当該遺伝子産物の半減期が短い場合には当該導入を複数回にわたって行ってもよい、導入回数は、適宜設定できるが、例えば、2回、3回、4回、5回またはそれ以上が例示される。
未成熟心筋細胞において「CDKN1Aの発現量を増加させる」操作は、適当なタイミングで開始することができる。例えば、未成熟心筋細胞への分化が起きた直後に開始してもよい。このとき、未成熟心筋細胞への分化は、例えば、TNNI1、心筋トロポニン(cTNT)、αMHC(α myosin heavy chain、MYH6)およびβMHC(MYH7)から成る群から選択される少なくとも一つの心筋細胞マーカー遺伝子の発現によって確認することができるが、これに限定されるものでなく、適切な手段で確認できる。「CDKN1Aの発現量を増加させる」操作は、一例として、少なくとも一つの前記心筋細胞マーカー遺伝子が発現する細胞に行ってよい。
「CDKN1Aの発現量が増加した」状態で未成熟心筋細胞を培養することで、未成熟心筋細胞を成熟心筋細胞に変換(誘導)することができる。
培養条件は通常の心筋細胞の培養に使用される条件でよいが、例えば、30~40℃、好ましくは36~38℃、より好ましくは約37℃である。また、酸素および二酸化炭素含有空気の雰囲気下で培養が行われることが好ましく、酸素濃度は好ましくは約5~20%であり、二酸化炭素濃度は好ましくは約2~5%である。
培養期間は未成熟心筋細胞が成熟心筋細胞に変化するのに十分な期間であればよく、特に制限されないが、上記の「CDKN1Aの発現量を増加させる」期間と同様、例えば、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、9日以上、または10日以上である。上限は特になく、未成熟心筋細胞が成熟心筋細胞に変化したのちも成熟心筋細胞の性質が維持できる限りにおいて培養を続けてよい。
なお、CDKN1Aの発現量にも依るが、目安として、「CDKN1Aの発現量を増加」させてから約12~13日後に(図1に記載した方法では、Day30くらいに)、成熟心筋細胞を得ることができる。以降、成熟心筋細胞の割合は増加し続け、約22~23日後には(図1に記載した方法では、Day40くらいには)、全細胞の70%以上、80%以上、90%以上が成熟心筋細胞となる。
「CDKN1Aの発現量が増加した」状態で未成熟心筋細胞を培養・維持するために使用される培地としては、自体公知の培地を特に限定されずに用いることができる。例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)、StemPro34(invitrogen)、StemFit AK02培地(AJINOMOTO)、Essential 6 medium (Thermo Fischer Scientific)およびこれらの混合培地などが用いられる。
これらの培地には、細胞や培養条件毎に、自体公知の添加物を添加することができる。例えば、培地は、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。さらに必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、1-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質を含んでいてもよい。
また、アクチビンA、BMP4、bFGF、VEGF、VEGFなどのサイトカインやGSK-3β阻害剤やWnt阻害剤などの化合物を適宜添加してもよい。
未成熟心筋細胞は、生体から単離された心筋細胞でもよいが、多能性幹細胞から分化誘導された未成熟心筋細胞であることが好ましい。
多能性幹細胞とは、生体に存在する多くの細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、原始内胚葉に誘導される任意の細胞が包含される。多能性幹細胞には、特に限定されないが、例えば、胚性幹(ES)細胞、人工多能性幹(iPS)細胞、精子幹細胞(「GS細胞」)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)などが含まれる。好ましい多能性幹細胞は、iPS細胞およびES細胞である。多能性幹細胞の由来は哺乳動物由来であることが好ましく、霊長類由来であることがより好ましく、ヒト由来であることがさらに好ましい。
iPS細胞の製造方法は当該分野で公知であり、任意の体細胞へ初期化因子を導入することなどによって製造され得る。ここで、初期化因子とは、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3またはGlis1等の遺伝子または遺伝子産物が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO2010/111409、WO2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D,et al.(2008),Nat.Biotechnol.,26:795-797、Shi Y,et al.(2008),Cell Stem Cell,2:525-528、Eminli S,et al.(2008),Stem Cells.26:2467-2474、Huangfu D,et al.(2008),Nat.Biotechnol.26:1269-1275、Shi Y,et al.(2008),Cell Stem Cell,3,568-574、Zhao Y,et al.(2008),Cell Stem Cell,3:475-479、Marson A,(2008),Cell Stem Cell,3,132-135、Feng B,et al.(2009),Nat.Cell Biol.11:197-203、R.L.Judson et al.,(2009),Nat.Biotechnol.,27:459-461、Lyssiotis CA,et al.(2009),Proc Natl Acad Sci U S A.106:8912-8917、Kim JB,et al.(2009),Nature.461:649-643、Ichida JK,et al.(2009),Cell Stem Cell.5:491-503、Heng JC,et al.(2010),Cell Stem Cell.6:167-74、Han J,et al.(2010),Nature.463:1096-100、Mali P,et al.(2010),Stem Cells.28:713-720、Maekawa M,et al.(2011),Nature.474:225-9.に記載の組み合わせが例示される。
iPS細胞の作製に使用される体細胞は、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、および成熟した健全なもしくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)血液細胞(末梢血細胞、臍帯血細胞等)、リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。
未成熟心筋細胞は、自体公知の方法により、多能性幹細胞から製造することができる。多能性幹細胞から未成熟の心筋細胞への分化誘導方法として、例えば、以下の文献に開示された方法が例示される。
Laflamme MA & Murry CE, Nature 2011, May 19;473(7347):326-35 Review
Funakoshi, S. et al. Sci Rep 8, 19111 (2016)
Miki, K. et al. Cell Stem Cell. 2015 Jun 4;16(6):699-711
この他にも特に特定されないが、例えば、人工多能性幹細胞を浮遊培養により細胞塊(胚様体)を形成させて心筋細胞を製造する方法(WO2016/104614)、Bone Morphogenic Protein (BMP)シグナル伝達を抑制する物質の存在下で心筋細胞を製造する方法(WO2005/033298)、Activin AとBMPを順に添加させて心筋細胞を製造する方法(WO2007/002136)、カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す物質の存在下で心筋細胞を製造する方法(WO2007/126077)および人工多能性幹細胞からFLk/KDR陽性細胞を単離し、シクロスポリンAの存在下で心筋細胞を製造する方法(WO2009/118928)などが例示される。
また、胚様体形成法でサイトカインを用いて心筋細胞を分化誘導する方法(Yang L, et al.、 Human cardiovascular progenitor cells develop from a KDR+ embryonic-stem-cell-derived population.、 Nature.、 2008 May 22;453(7194):524-8)、接着培養でサイトカインを使わずに心筋細胞を分化誘導する方法(Lian X, et al.、 Robust cardiomyocyte differentiation from human pluripotent stem cells via temporal modulation of canonical Wnt signaling.、 Proc Natl Acad Sci U S A.、 2012 July 3;109(27):E1848-57)、接着培養と、浮遊培養とを併用し、サイトカインを使わずに心筋細胞を分化誘導する方法(Minami I, et al.、 A small molecule that promotes cardiac differentiation of human pluripotent stem cells under defined, cytokine- and xeno-free conditions.、 Cell Rep.、 2012 Nov 29;2(5):1448-60)なども提案されている。
未成熟心筋細胞が多能性幹細胞から分化誘導された未成熟心筋細胞である場合において、「CDKN1Aの発現量を増加させる」操作は、適当なタイミングで開始することができる。例えば、上記いずれかの心筋細胞を製造する方法、又は心筋細胞を分化誘導する方法において、未成熟心筋細胞が分化誘導された直後に開始してもよい。このとき、分化誘導された未成熟心筋細胞とは、例えば、TNNI1、心筋トロポニン(cTNT)、αMHC(α myosin heavy chain、MYH6)およびβMHC(MYH7)から成る群から選択される少なくとも一つの心筋細胞マーカー遺伝子の発現が確認された細胞であってよい。すなわち、「CDKN1Aの発現量を増加させる」操作は、一例として、少なくとも一つの前記心筋細胞マーカー遺伝子が発現する細胞に行ってよい。
本発明において、CDKN1Aの発現増加により得られた成熟心筋細胞は、心筋組織に移植されたときに移植生着能が向上し、心筋として機能できるという優れた特性を有しているため、心筋細胞の移植を必要とする患者に対して移植されるための細胞製剤として好適に使用される。心筋細胞の移植を必要とする患者としては、心筋炎や心筋梗塞や心筋損傷などの心筋細胞の欠損によって生じる疾患患者が例示されるが、これらには限定されない。移植される細胞の量は、疾患の種類や程度によって適宜選択され、移植の回数も1回または複数回でありうる。移植の方法も限定されず、疾患部位への注射であってもよいし、心筋細胞シートを作製して疾患部位に適用してもよい。
一つの実施形態では、本発明の方法により得られた成熟心筋細胞は心臓の再生医療に用いることができる。例えば、心臓疾患に罹患している患者の心臓に、本発明の方法で製造した心筋細胞の細胞塊を含む組成物を投与することができる。具体的には、本発明の方法で得られた心筋細胞は、そのまま細胞懸濁液として、あるいは、心筋シート(単層または多層)の形で、心疾患患者の心臓に移植してもよい。心筋シートの製造法については、例えば、WO2012/133945、WO2013/137491、WO2014/192909、WO2016/076368を参照のこと。
別の実施形態では、本発明の方法により得られた成熟心筋細胞は均一に成熟しており、心疾患の治療のための薬剤スクーニングや薬剤の心毒性評価に利用することもできる。例えば、本発明の方法で得られた心筋細胞に試験薬剤を投与し、心筋細胞の応答を調べることにより、試験薬剤の効果や毒性の評価を行うことができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明の態様は以下の実施例には限定されない。
<レポーター細胞>
心筋細胞の成熟化の程度を容易に検出できるように、心筋細胞に分化誘導する細胞として、特許文献1の実施例に記載されたレポーター細胞を用いた。当該細胞は、TNNI1の遺伝子座にEmGFP、TNNI3の遺伝子座にmCherryの遺伝子配列を、それぞれ2A配列を介して挿入したダブルノックインのヒトiPS細胞株(1390D4株)である。1390D4株では、TNNI1とEmGFP、TNNI3とmCherryがそれぞれポリシストロニックに発現するため、EmGFPの発現量を指標にTNNI1の発現量を、mCherryの発現量を指標にTNNI3の発現量をそれぞれ評価することができる。
よって、1390D4株を使用することで、未成熟心筋細胞から成熟心筋細胞への変化を蛍光色の変化により検出することができる(図2)。
方法1:iPS細胞から未成熟心筋細胞への分化誘導
Nakagawa et al.(Sci. Rep. 2014;4:3594.)に記載されたように、iMatrix511(ニッピ)でコーティングされた培養皿上でStemFit AK02N培地(Ajinomoto)を用いて1390D4細胞を培養した。そして、Dubois et al.(Nat Biotechnol. 2011 Oct 23; 29(11): 1011-1018.)に記載されたプロトコルを改変して、6ウェル低接着性プレート(Corning)を用いて心筋細胞への分化誘導を行った。
具体的には、0.5×TrypLE select(Thermo Fisher Scientific)(0.5mM EDTAで希釈された1×TrypLE select)を用いて1390D4細胞を単一細胞に解離させたのち、胚葉体を形成させるために、前記細胞を2mM L-グルタミン(Invitrogen)、4×10-4 Mモノチオグリセロール(MTG)、50μg/mlアスコルビン酸(AA)、150μg/mlトランスフェリン、10μM ROCK阻害剤(Y-27632)、0.5%マトリゲル(Corning)、および2ng/ml BMP4(R&D Systems)を添加した培地に懸濁し、2×106細胞 in 1.5ml/ウェルとなるように播種した(Day0:分化誘導を開始した日)。以降、分化誘導開始日からX日後をDayXと呼ぶ。
Day1に、2mM L-グルタミン、4×10-4MTG、50μg/ml AA、150μg/mlトランスフェリン、10ng/ml bFGF(最終5ng/ml)、12ng/mlアクチビンA(最終6ng/ml)および18ng/ml BMP4(最終10ng/ml)を添加したStemPro-34培地1.5mlをウェルに添加した。
Day3に、形成されたEBをIscove改良Dulbecco培地(IMDM;Invitrogen)で1回洗浄し、次いで、2mM L-グルタミン、4×10-4MTG、50μg/ml AA、150μg/mlトランスフェリン、10ng/ml血管内皮増殖因子(VEGF; R&D Systems)、1μM IWP3(Stemgent)、0.6μmドルソモルフィンおよび5.4μm SB431542を加えた3mlのStemPro-34培地中で培養した。
Day6に培地を2mM L-グルタミン、4×10-4MTG、50μg/ml AA、150μg/mlトランスフェリンおよび5ng/ml VEGFを添加したStemPro-34培地2mlに交換した。
その後,2-3日ごとに培地を同じ組成の培地に変えた。
前記プレートは、Day0~Day10までは低酸素環境下(5%O2)に置き、以降は正常酸素環境に移した。
Day14に未成熟心筋細胞を得た。
方法2:心筋細胞成熟促進剤を用いた未成熟心筋細胞の成熟化(陽性コントロール実験) 下記のT112とT623を成熟促進剤として用い、特許文献1の試験例2に記載された方法によって多能性幹細胞から成熟心筋細胞を得た。具体的には、Day10~Day16の6日間、T112またはT623を培地に添加した(終濃度40nM)。実施例では、この方法によって得られた成熟心筋細胞を“促進剤処理細胞”、前記促進剤処理を行わずに心筋細胞への分化誘導のみを行った細胞(未成熟なままの心筋細胞)を“促進剤非処理細胞”と呼ぶ場合がある。そして、両細胞の比較解析には、分化誘導開始から同日の細胞を用いた。
Figure 0007648190000001
方法3:レンチウイルスベクターを用いたCDKN1A遺伝子導入(実施例、図1)
方法1で得られたDay14の未成熟心筋細胞を解離させ、1×106細胞/ウェルの細胞密度で3日間平板培養して接着させた(=Day17の未成熟心筋細胞)。
並行して、HEK293FT細胞にpLenti6.3-CDKN1A(ヒトCDKN1A遺伝子がクローニングされたpLenti6.3/V5DEST;Thermofisher Scientificから入手)をトランスフェクションして、CDKN1A 遺伝子を含むレンチウイルス粒子をパッケージングした。ヒトCDKN1A cDNAクローンはクローンID H04D013O09由来のDNA型から得た。トランスフェクションから24時間後に培地を交換し、24時間後にウイルス粒子を含む培養上清を回収した。
前記Day17の未成熟心筋細胞を前記HEK293FT由来培養上清中で24時間培養して前記ウイルス粒子を感染させた。それ以降、培養を継続し、各時点での発現解析やレポータータンパク質の発現などを解析した。青色蛍光タンパク質(BFP)をコードするレンチウイルスベクターをレンチウイルス感染の陽性対照として用いた。
方法4:より早期の未成熟心筋細胞に対するレンチウイルスベクターを用いたCDKN1A遺伝子導入(実施例)
方法3と同様に、pLenti6.3-CDKN1AからCDKN1A 遺伝子を含むレンチウイルス粒子を含む培養上清を回収した。
方法1で得られたDay14の未成熟心筋細胞に、前記培養上清中で24時間培養して前記ウイルス粒子を感染させた。青色蛍光タンパク質(BFP)をコードするレンチウイルスベクターをレンチウイルス感染の陽性対照として用いた。それ以降、培養を継続し、Day30時点でCDKN1A及びTNNI3の発現を、定量的RT-PCRで解析した。また、定量的RT-PCRの内部コントロールとして、GAPDHを用いた。
結果
<心筋細胞の成熟化に寄与する新たな遺伝子の同定>
1390D4細胞から方法1によって得られた成熟心筋細胞と、該促進剤非処理の未成熟心筋細胞について、遺伝子発現プロファイルの比較解析を行った。図3(A)に、促進剤非処理細胞に対して促進剤処理細胞で発現濃縮されている遺伝子群のOG enrichment解析結果を示す。有意(p<0.05)に濃縮されているGO Termが複数見いだされ、特に、キナーゼ阻害活性をGOとする遺伝子群の発現が有意に濃縮されていていることが明らかとなった。当該遺伝子群には、図3に示す15種類の遺伝子が含まれていた(図3(B))。
種々の解析結果よりCDKN1Aに注目し、NCBIの遺伝子発現情報データベース(GEO、Acc.No. GSE51483)を用いて、マウスの心臓発生過程におけるCDKN1A遺伝子とTNNI3遺伝子の発現変化を解析した(図4)。
心臓の発生が進むにつれて両遺伝子ともに発現量が増加し、CDKN1Aの発現は発生後期には成体マウスとほぼ同レベルになることが明らかになった(図4A)。また、両遺伝子の転写レベルは有意に相関していることも確認された(図4B)。
続いて、ヒトES細胞からも前記成熟促進剤を用いて成熟心筋細胞を製造し、CDKN1Aの発現量を解析した(図5)。ヒトES細胞ではCDKN1Aの発現はほとんど検出されず(図5A)、HOPXの発現も非常に低いが(図5C)、ヒトES細胞由来成熟心筋細胞では、CDKN1A、HOPXともに前記ES細胞よりも発現量が大幅に増加しいたており(図5A、C)。さらに、ヒト心筋細胞における両遺伝子の発現量は有意に相関していた(図5B)。図5Dに、ヒト成人およびヒト胎児の心筋細胞におけるCDKN1Aの発現量を示す。ヒト胎児に比べてヒト成人の心筋細胞では、CDKN1Aの発現量が大幅に増加していた。
よって、多能性幹細胞(iPS細胞、ES細胞を含む)由来心筋細胞に成熟促進剤を作用させて成熟化させる工程だけでなく、生体内で(自然に)成熟化する工程においても、ヒト心筋細胞では、成熟化に伴ってCDKN1Aの発現が顕著に増加することが明らかとなった。
図6は、GEO:GSE46224を用いて、ヒトの心臓発生におけるCDKN1A遺伝子とTNNI3遺伝子(A)、CDKN1A遺伝子とHIC1遺伝子(tumor suppressor gene)(B)の発現量の相関を解析した結果である。心臓発生に伴いCDKN1A遺伝子の発現が増加し、その増加はTNNI3およびHIC1の発現増加と相関していることが分かる。この結果より、CDKN1Aは、HIC1およびTNNI3の発現量を制御していると考えられる。
心筋細胞成熟促進剤を用いて得られた成熟心筋細胞では、非処理の未成熟心筋細胞と比べて、心筋細胞特異的遺伝子の発現が顕著に亢進し、線維芽細胞特異的遺伝子の発現は大幅に減少していた(図7A)。そして、分化誘導から7日後、14日後、21日後における主成分分析の結果(図7B)から、Day7~Day14の間に遺伝子発現パターンが劇的に変化することが明らかになった。
図8に、促進剤処理細胞において、Day7対Day14またはDay7対Day21で発現量が変化している遺伝子のヒートマップ解析(A)、Day7対Day21で発現増加または発現減少した遺伝子数のベン図(B)を示す。非常に多くの遺伝子の発現が変化するが(図8B)、Day21で発現が増減している遺伝子の多くは、既にDay14の時点で増減していることが示された(図8B)。また、TNNI3はDay7までは発現量がほぼ変わらず、Day14で減少しその後増加するのに対し、CDKN1AはDay7~Day21までずっと増加し続けることも明らかとなった(図8C)。さらに、CDKN1AとTNNI3の発現量はDay20よりもDay40の方が大幅に高く、Day40とDay60では有意差はないことも明らかになった(図9)。
さらに、GEO:GSE1479を用いて、マウス胎児心臓における心筋細胞の成熟関連遺伝子とCDKN1Aの発現の相関を調べた。その結果、図10に示されるように、マウスの心臓発生過程において、CDKN1Aと、既知の成熟マーカー遺伝子であるCD36及び、成熟と関連する転写因子であるHOPX1との間に、有意な相関が見られた。
また、GEO:GSE51483を用いて、胎児心筋の発達における発現変動が見られた遺伝子群(DEG; Differentially Expressed Genes)を抽出し、CDKN1Aと関連のあるシグナルのパスウェイ解析を行った結果を図11に示す。解析にはR2: genomics analysis and visualization platform (http://r2.amc.nl/)を使用し、高発現グループおよび低発現グループは平均値より1SD(標準偏差)以上差があるものと定義した。この結果によれば、“cardiac muscle contraction and maturation”などの、心筋の成熟に関与するものを含むパスウェイにおいて、有意な相関が見られた。
図12には、GEO:GSE51483を用いて、マウス胎児の心臓の心房および心室に分けて解析を行った、成熟関連遺伝子発現の経時的変化を示す。その結果、心房心室ともに、他の成熟関連遺伝子と同様、CDKN1Aはその発現が経時的に上昇することがわかった。
以上の結果から、CDKN1Aが、未成熟心筋細胞の成熟化に寄与している可能性及び、心房心室両方の成熟化に関与し、成熟のバイオマーカーとなる可能性が示唆された。
<CDKN1Aの心筋細胞成熟促進効果の解析>
方法3に従い、レポーターiPS細胞を分化誘導して得られる未成熟心筋細胞にCDKN1A遺伝子を発現するウイルスベクターを導入して、CDKN1Aの心筋細胞成熟化に対する影響を調べた。
導入から4~5日後(Day20~21)には、陰性コントロールベクターを導入した心筋細胞に比べてCDKN1A発現ベクターを導入した心筋細胞では、mCherry蛍光強度が大幅に高く(図13A左グラフ)、GFP蛍光強度が顕著に低かった(図13A右グラフ)。そして、CDKN1A発現ベクターを導入した細胞では、Day30の時点ではTNNI1とTNNI3が両陽性の心筋細胞が多数観察されたが、Day40の時点ではTNNI1陰性TNNI3陽性の心筋細胞が多数であった(図13Bイメージパネル)。さらに、心筋細胞の成熟に関わる遺伝子群の発現を解析したところ、陰性コントロールベクターを導入した心筋細胞に比べてCDKN1A発現ベクターを導入した心筋細胞では、いずれも大幅に増加していた(図13Bグラフ)。
よって、未成熟心筋細胞においてCDKN1Aの発現量を増加させると、心筋細胞としての成熟が顕著に促進されることが示された。その結果、分化誘導開始から30日後(Day30)にはTNNI1の発現量が低下してTNNI3の発現量が上昇する変化が顕著に起こり、40日後(Day40)にはTNNI1の発現量が非常に低く、TNNI3を優位に発現する成熟心筋細胞が得られることが明らかとなった。
続いて、心筋細胞の成熟に関わる既知の遺伝子セットの発現を解析した。その結果、陰性コントロールベクターを導入した心筋細胞に対しCDKN1A発現ベクターを導入した心筋細胞では、HCN4を除く前記遺伝子の発現がすべて増加していた(図14A)。よって、未成熟心筋細胞においてCDKN1Aの発現量が増加すると、成熟化に関わる(本来の)遺伝子発現が基本的に誘導されて成熟化が加速されることが強く示唆された。また、CDKN1Aは、前記心筋細胞の成熟化に関わる既知の遺伝子の発現を直接または間接的に制御し得ることも示唆された。
さらに、CDKN1A発現ベクターを導入した心筋細胞について、Day60の時点で顕微鏡観察を行った結果、生体内の成熟心筋細胞と同様に、細長く変形したTNNI1陰性TNNI3陽性成熟心筋細胞が互いに寄り添っている様相が観察された(図14B)。
さらに、方法4に従い、より未熟な早期の心筋細胞におけるCDKN1Aの成熟誘導効果について評価を行った。分化誘導開始14日目の未成熟心筋細胞に対してレンチウイルスでCDKN1Aの遺伝子導入を行い、30日目に遺伝子発現の評価を行ったところ、TNNI3の発現の著明な上昇が確認された(図15)。この結果から、より早期の、心筋細胞に分化したばかりの細胞である、分化誘導開始14日目の未成熟心筋細胞においても同様に、CDKN1Aは成熟心筋細胞誘導効果を持つことが確認された。
以上の結果より、CDKN1Aには、未成熟心筋細胞に対し、成熟化に必要な遺伝子発現を促して成熟化を促進する効果があることが明らかになった。

Claims (6)

  1. 未成熟心筋細胞において、CDKN1A遺伝子を導入することによりサイクリン依存性キナーゼ阻害因子1(cyclin-dependent kinase inhibitor 1)の発現量を増加させる工程を含む、成熟心筋細胞の製造方法。
  2. 前記発現量の増加が、3日以上維持される、請求項1に記載の成熟心筋細胞の製造方法。
  3. 前記心筋細胞がヒト心筋細胞である、請求項1または2に記載の成熟心筋細胞の製造方法。
  4. 前記未成熟心筋細胞が多能性幹細胞から分化誘導された未成熟心筋細胞である、請求項1~3のいずれか一項に記載の成熟心筋細胞の製造方法。
  5. 前記多能性幹細胞が人工多能性幹細胞である、請求項4に記載の成熟心筋細胞の製造方法。
  6. CDKN1A遺伝子は、配列番号2のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、未成熟心筋細胞を成熟化させるという機能を発揮するタンパク質をコードする遺伝子である、請求項1~5のいずれか一項に記載の成熟心筋細胞の製造方法。
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