以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、本発明に係る圧電材料について説明する。本発明に係る圧電材料は、Ba、Ca、Ti、Zr、Mn、Oを含有する複数の結晶粒を含む圧電材料である。本発明に係る圧電材料では、結晶粒の平均円相当径が1.0μm以上且つ10μm以下である。また、本発明に係る圧電材料は、幅が300nm以上且つ800nm以下の第1のドメインを有する結晶粒Aと、幅が20nm以上且つ50nm以下の第2のドメインを有する結晶粒Bを含む。圧電材料は結晶粒の集合体であり、個々の結晶粒には圧電材料を構成する元素が含有されている。本発明において、圧電材料の主成分は、Ba、Ca、Ti、Zr、Mn、Oからなることが好ましい。圧電材料の主成分がBa、Ca、Ti、Zr、Mn、Oからなるとは、圧電材料の組成を分析した際に、モル量に関する存在比の上位の6元素がBa、Ca、Ti、Zr、Mn、Oによって占められることを意味する。具体的に、圧電材料は、Ba、Ca、Ti、Zr、Mn、Oを総和で98.5モル%以上含むことが好ましい。また、圧電材料の結晶構造はペロブスカイト構造を有することが好ましい。ペロブスカイト構造を持つ金属酸化物(ペロブスカイト型金属酸化物)は一般にABO3の化学式で表現される。ペロブスカイト型金属酸化物では、A元素、B元素が各々イオンとしてAサイト、Bサイトと呼ばれる単位格子の特定の位置を占める。例えば、立方晶系の単位格子であれば、A元素は立方体の頂点に位置し、B元素は体心に位置する。O元素は酸素の陰イオンとして立方体の面心位置を占める。単位格子が、立方晶単位格子の[001]、[011]又は[111]方向に歪むことにより、それぞれ、正方晶、斜方晶又は菱面体晶のペロブスカイト構造を有する結晶格子となる。
ここで、Ba、Ca、Ti、Zr、Mn、Oを含有する複数の結晶粒を含む圧電材料をペロブスカイト型金属酸化物の化学式で表現すると、下記式(1)のように表記される。(Ba1-xCax)a(Ti1-y-zZryMnz)O3 …(1)
上記式(1)中、xはBaとCaの含有量の和であるA(mol)に対するCaの含有量(mol)の比であり、yはTi、ZrとMnの含有量の和であるB(mol)に対するZrの含有量(mol)の比である。また、上記式(1)中、zはB(mol)に対するMnの含有量(mol)の比であり、aはA(mol)とB(mol)モルの比(A/B)である。上記式(1)は、Aサイトに位置する金属元素がBaとCaであり、Bサイトに位置する金属元素がTi、ZrとMnである金属酸化物を意味する。但し、一部のBaとCaがBサイトに位置してもよい。同様に、一部のTi、ZrとMnがAサイトに位置してもよい。上記式(1)では、Bサイトの元素とO元素のモル比は1対3であるが、元素量の比(モル比)が多少、例えば、1%以内でずれた場合でも、金属酸化物がペロブスカイト構造を主相としていれば、当該圧電材料は本発明に係る圧電材料に含まれる。金属酸化物がペロブスカイト構造を有することは、例えば、圧電材料に施されるX線回折や電子線回折から判断することができる。ペロブスカイト構造が主たる結晶相(主相)であれば、圧電材料がその他の結晶相を副次的に含んでいても、当該圧電材料は本発明に係る圧電材料に含まれる。また、本発明において、圧電材料のBa、Ca、Ti、Zr、Mn、Oを含有する結晶粒の平均円相当径は1.0μm以上且つ10μm以下である。結晶粒の平均円相当径をこの範囲に設定することにより、本発明に係る圧電材料は、良好なQmと機械的強度を有することができる。本発明において、結晶粒の円相当径とは、顕微鏡観察法において一般に言われる「投影面積円相当径」を意味し、圧電材料の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)等で観察する際に、観察された結晶粒の投影面積と等しい面積を有する真円の直径に該当する。なお、本発明において粒径の測定方法は特に制限されない。例えば、圧電材料を日本工業規格(以下、「JIS」という。)R 1633等の試料調製方法に基づいて圧電材料へ処理を施し、得られた圧電材料の断面を偏光顕微鏡やSEM等を用いてJIS R 1670等に基づいて観察する。その後、得られた写真画像を画像処理して粒径を求めてもよい。また、対象となる粒子径に応じて最適倍率が異なるため、光学顕微鏡と電子顕微鏡を使い分けてもよい。観察時に、観察視野からはみ出した結晶粒を除外した、観察視野内の全ての結晶粒について求めた円相当径を平均したものが、平均円相当径である。圧電材料内の全ての金属酸化物結晶粒の円相当径を算出するのは困難であるが、JIS Z 8827-1等に基づき、圧電材料内の粒径分布を正しく取得できるよう、観察視野のサイズや部位、数を適宜調整して平均円相当径の算出を行う。
ところで、平均円相当径が1.0μmよりも大きくなると、圧電材料の結晶構造の正方歪が増大するため、誘電率が増大し、圧電定数が増大すると考えられる。また、平均円相当径が1.0μmよりも大きくなると、結晶粒界やドメイン間の境界(ドメインウォール、ドメイン壁、又は分域壁と呼ばれる。)に起因する内部損失の割合が誘電損失tanδに比較して小さくなる。その結果、Qmが圧電材料として好適な大きさになると考えられる。一般に、Qmは圧電材料を振動子として評価した際の振動による弾性損失を表す係数であり、Qmの大きさはインピーダンス測定における共振曲線の鋭さとして観察される。つまり、Qmは振動子の共振の鋭さを表す定数である。Qmが高いと振動で失われるエネルギーは少ない。絶縁性やQmが向上すると、圧電材料を圧電素子として電圧を印加し、駆動させた際の圧電素子の長期信頼性が確保できる。なお、Qmは電子情報技術産業協会規格である、EM-4501Aに従って測定可能である。また、一般に、ドメインは、分域や磁区とも呼ばれ、SEM等によって結晶粒内に帯状(縞状)に観察される、自発分極の向きが揃った領域のことである。また、本明細書におけるドメインとは、ドメイン構造やドメイン集合体と呼ばれるものと同義である。一般に圧電材料において、Qmの逆数(Qm
-1)は内部損失を表し、内部損失は誘電損失(tan δ)に比例するとされている。強誘電体材料の内部損失は、下記式(2)のように表記される。
Qm
-1=C(Qm(SD)
-1+k2tan δ(SD))+Qm(Ce)
-1 …(2)
上記式(2)中、Qm(SD)
-1は1つのドメインの本質的な内部損失であり、Qm(Ce)
-1は強誘電体材料の構造(粒界、ドメイン壁)に起因する内部損失である。また、tan δ(SD)は1つのドメインの本質的な誘電損失であり、kは1つのドメインの電気機械結合係数であり、Cは定数である。
通常、上記式(2)において、Qm(SD)
-1とQm(Ce)
-1は共に無視できるほど小さく、また、強誘電体材料の誘電損失(tan δ)がtanδ(SD)に比例することから、Qm
-1がtan δに比例すると説明されている。しかしながら、結晶粒の平均円相当径が1.0μmよりも小さい場合、Qm(Ce)
-1は無視できないほど大きくなるため、Qmが小さくなると考えられる。また、結晶粒の平均円相当径が10μmよりも小さいと、結晶粒同士の結着が高まり、密度の向上とともに、圧電材料の機械的強度が高くなる。圧電材料の密度は、例えば、アルキメデス法で測定することができる。ここで、圧電材料の組成と格子定数から求められる理論密度(ρcalc.)に対する測定密度(ρmeas.)の比、つまり、相対密度(ρcalc./ρmeas.)が95%以上であれば、圧電材料として十分に緻密化していると考えられる。
また、本発明に係る圧電材料は、幅が300nm以上且つ800nm以下の第1のドメインを有する結晶粒Aと、幅が20nm以上且つ50nm以下の第2のドメインを有する結晶粒Bとをいずれも含む。第1のドメインと第2のドメインは、圧電材料中の同一の結晶粒にいずれもが存在していてもよいし、若しくは、別々の結晶粒にそれぞれが存在していてもよい。
図1は、本発明に係る圧電材料の断面に表れる各結晶粒におけるドメインを概略的に示す図である。図1において各ドメインは縞で表され、本発明に係る圧電材料に存在するドメイン(以下、単に「本発明のドメイン」という。)の幅は、これらの縞の短辺の長さに該当する。ドメインの幅は、JIS R 1633等の試料調製方法に基づいて作製した圧電材料の断面をSEMによって観察し、得られた写真画像において計測することができる。なお、本発明のドメインをSEMで観察するためには、圧電材料の断面を鏡面状に研磨し、薄い導電性膜を当該断面に蒸着することが好ましい。本発明のドメイン観察に用いるSEMの検出器としては、二次電子検出器、若しくは反射電子検出器が用いられる。
一般に、Qmと圧電定数はトレードオフの関係にあり、Qmが大きくなると圧電定数が小さくなり、逆にQmが小さくなると圧電定数が大きくなることが知られている。これに対して、本発明では、圧電材料に含まれる各結晶粒におけるドメインの幅を調整することにより、Qmと圧電定数のトレードオフの関係を解消し、大きい圧電定数(特に、大きい圧電定数d31の絶対値)と大きいQmを両立する圧電材料を提供する。具体的に、本発明に係る圧電材料は、Qmの増大に寄与する第1のドメインを有する結晶粒Aと、圧電定数d31(以下、単に「d31」という。)の絶対値の増大に寄与する第2のドメインを有する結晶粒Bを同時に含む。第2のドメインではドメインの反転が比較的容易に起こるため、第1のドメインを有する結晶粒Aの間に、第2のドメインを有する結晶粒Bが入り込むことにより、結晶粒の間の応力や歪が低減されると考えられる。これにより、本発明に係る圧電材料では、d31の絶対値が増大する。
ここで、Ba、Ca、Ti、Zr、Mn、Oを含有し、平均円相当径が1.0μm以上且つ10μm以下の結晶粒において、第2のドメインの幅が50nm以下になる場合について考察する。この場合、電界応答性の高い90°ドメインのドメイン壁の密度が大きくなる。その結果、圧電材料では、誘電率が増大してd31の絶対値が大きくなると考えられる。次に、第2のドメインの幅が20nm以上になる場合について考察する。この場合、各結晶粒の結晶構造が安定し、残留分極が大きくなると考えられる。その結果、d31の絶対値が圧電材料に好適な値になると考えられる。そこで、本発明では、第2のドメインの幅が20nm以上且つ50nm以下となるように設定される。一般に、圧電材料のd31は、Qmと同様に、市販のインピーダンスアナライザを用いて得られる共振周波数及び反共振周波数の測定結果から、電子情報技術産業協会規格(JEITA EM-4501A)に基づいて、計算によって求めることができる。以下、このd31の計算方法を共振・反共振法と称する。なお、d31の絶対値が50pm/Vよりも小さいと、圧電材料を含む圧電デバイスを駆動する際に大きい電力を圧電デバイスへ供給する必要がある。したがって、圧電材料として好ましいd31の絶対値は50pm/V以上であり、特に、d31の絶対値が80pm/V以上になると圧電デバイスの駆動時の消費電力が抑えられ、圧電材料は実用に適する。さらに、d31の絶対値が90pm/V以上になると、圧電デバイスとして、より優れた性能を有する。
また、Ba、Ca、Ti、Zr、Mn、Oを含有し、平均円相当径が1.0μm以上且つ10μm以下の結晶粒において、第1のドメインの幅が800nm以下になる場合について考察する。この場合、非180度ドメインのドメインスイッチングによって結晶粒子間に発生する残留応力が小さくなるのに伴い、Qmが大きくなると考えられる。次に、第1のドメインの幅が300nm以上になる場合について考察する。この場合、粒界やドメイン壁に起因する内部損失が小さくなるために、Qmが大きくなると考えられる。そこで、本発明では、第1のドメインの幅が300nm以上且つ800nm以下となるように設定される。ところで、Qmの値が600よりも小さいと、圧電材料を圧電素子にして共振デバイスとして駆動した際に消費電力が増大してしまう。したがって、本発明に係る圧電材料のQmの値に関しては、Qmの値は600以上であることが好ましい。特に、Qmの値が800以上になると消費電力の極端な増大は発生しないことから、より好ましい。さらに、Qmの値が1000以上になると、圧電素子として良好な性能を有することができる。
本実施の形態において、第1のドメインを有するとは、上述した顕微鏡観察において、幅が300nm以上且つ800nm以下のドメインが単一の結晶粒の中に1つ以上存在することを意味する。第2のドメインを有するとは、上述した顕微鏡観察において、幅が20nm以上且つ50nmのドメインが単一の結晶粒の中に1つ以上存在することを意味する。第1のドメインを有する結晶粒Aが5個数%以上存在するとは、上述した顕微鏡観察において、観察視野内の全ての結晶粒の個数を100とした時に、幅が300nm以上且つ800nm以下のドメインを有する結晶粒Aが5以上存在することを意味する。また、第2のドメインを有する結晶粒Bが5個数%以上存在するとは、上述した顕微鏡観察において、観察視野内の全ての結晶粒の個数を100とした時に、幅が20nm以上且つ50nm以下のドメインを有する結晶粒Bが5以上存在することを意味する。
上述したように、ドメインの幅が300nm以上且つ800nm以下であれば、Qmが大きくなると考えられ、ドメインの幅が20nm以上且つ50nm以下であれば、d31の絶対値が大きくなると考えられる。そこで、本発明では、圧電材料のBa、Ca、Ti、Zr、Mn、Oを含有する結晶粒において、第1のドメインを有する結晶粒Aが5個数%以上存在し、且つ第2のドメインを有する結晶粒Bが5個数%以上存在するように設定される。これにより、圧電材料において、Qmの増大へ寄与する結晶粒を増やすと同時に、d31の絶対値の増大に寄与する結晶粒を増やすことができ、Qmが800以上であって、d31の絶対値が80pm/V以上となる好適な圧電材料を得ることができる。特に、第2のドメインを有する結晶粒Bは、Ba、Ca、Ti、Zr、Mn、Oを含有する結晶粒のうち、10個数%以上50個数%以下であると、本発明に係る圧電材料のd31の絶対値がより大きくなるのでより好ましい。また、第1のドメインを有する結晶粒Aは、Ba、Ca、Ti、Zr、Mn、Oを含有する結晶粒のうち、10個数%以上50個数%以下であると、本発明に係る圧電材料のQmがより大きくなるのでより好ましい。第1のドメインを有する結晶粒Aの個数や、第2のドメインを有する結晶粒Bの個数を計数するに当たっては、より多くの結晶粒を観察することによって計数の精度を上げることが望ましい。具体的には、少なくとも200個、特に、1000個以上の結晶粒においてドメインの幅を計測し、第1のドメインを有する結晶粒Aと、第2のドメインを有する結晶粒Bの個数を計数することが望ましい。
また、第1のドメインと第2のドメインが同じ結晶粒に含まれる場合について考察する。この場合、Qmの増大とd31の絶対値の増大がより相乗して効果的に発生する。そこで、本発明では、圧電材料が、第1のドメイン及び第2のドメインのいずれも有する結晶粒を含むことがより好ましい。特に、圧電材料が、第1のドメイン及び第2のドメインのいずれも有する結晶粒を5個数%以上含む場合、Qmが900以上、d31の絶対値が85pm/V以上となるため、圧電材料としてより好ましい。結晶粒が第1のドメイン及び第2のドメインのいずれも有するとは、300nm以上且つ800nm以下の幅のドメインと、20nm以上且つ50nm以下の幅のドメインとが、同じ1つの結晶粒にそれぞれ1つ以上存在することを意味する。なお、第1のドメインを有する結晶粒Aが第2のドメインも有してもよいし、第2のドメインを有する結晶粒Bが第1のドメインも有してもよい。さらに、圧電材料が、隣接する結晶粒の粒界を越えて第1のドメインが延在している場合について考察する。この場合、非180度ドメインのドメインスイッチングによって結晶粒子間に発生する残留応力がより小さくなり、粒界に起因する内部損失がより小さくなる。これにより、Qmを増大させる効果がより大きくなる。そこで、本発明では、圧電材料が、隣接する結晶粒の粒界を越えて第1のドメインが延在していることがより好ましい。結晶粒の粒界を越えて第1のドメインが延在しているとは、300nm以上且つ800nm以下の幅のドメインが、同程度のドメインの幅を保持したまま、結晶粒界を越えて2つ以上の結晶粒に延在するものが、観察視野内に存在することを意味する。このとき、ドメインは同じ誘電分極の向きで2つ以上の結晶粒に存在する。また、圧電材料に含まれるPb成分が1000ppm未満である場合について考察する。この場合、例えば圧電材料や圧電材料を用いる素子や装置が廃却され酸性雨を浴びたり、過酷な環境に放置されたりしても、圧電材料中の鉛成分が環境へ悪影響を与える可能性を低減することができる。そこで、本発明に係る圧電材料では、含まれるPb成分が1000ppm未満が好ましい。
次に、本発明に係る圧電材料の組成比について説明する。まず、Caを含有する場合について考察する。この場合、温度下降時の正方晶から斜方晶への相転移温度(Tto)や、温度上昇時の斜方晶から正方晶への相転移温度(Tot)が低下する。特に、BaとCaの含有量の和であるA(mol)に対するCaの含有量(mol)の比であるxの値が0.02以上、0.10以下である場合、TtoとTotが室温に近くなる。また、室温付近(例えば、0℃~40℃)で大きいd31の絶対値(例えば、150pm/V以上)を呈する。xの値が0.10よりも大きくなると、TtoとTotが0℃未満に下がり、圧電定数の温度依存性が小さくなる。一方、xが0.30よりも小さいと、Caの固溶が促進され、焼成温度を下げることができる。そこで、本発明では、上記式(1)において、xの値が0.02≦x≦0.30であることがより好ましい。
ところで、本発明に係る圧電材料は低温から温度が上昇するにつれて、菱面体晶、斜方晶、正方晶、立方晶へと逐次相転移を起こす。本実施の形態における相転移とは、専ら斜方晶から正方晶、若しくは正方晶から斜方晶への相転移を指す。相転移温度は、後述するTCと同様の測定方法で評価でき、本実施の形態では、誘電率を試料温度で微分した値が最大となる温度を相転移温度とする。結晶系はエックス線回折、電子線回折又はラマン散乱等で評価することができる。相転移温度付近では誘電率や電気機械結合係数kが極大となり、ヤング率が極小となる。圧電定数はこれら三つのパラメータの関数であり、相転移温度付近で極大値、若しくは変曲点を示す。ここで、相転移温度に関しては、圧電デバイスの動作温度範囲から遠ざかり、例えば、相転移温度が-50℃以上且つ-10℃以下であると、動作温度範囲における圧電性能の温度依存性が小さくなるため、デバイスを制御するという観点からはより好ましい。しかしながら、上述したように圧電定数は相転移温度付近で極大値を示すので、相転移温度と動作温度範囲との関係を圧電材料の組成によって制御することによってデバイスの制御性と大きい圧電定数を両立することが望ましい。この観点からは、xが0.20以下であれば、圧電定数が高く、且つ、圧電性能の温度依存性が抑えられるため、より好ましい。
本実施の形態において、共振・反共振法を用いて測定した圧電素子のd31とQmの温度依存性は以下のように測定してもよい。具体的には、恒温槽に圧電素子を入れ、雰囲気の温度を変化させながら、共振・反共振法でd31とQmを測定する。温度の変化速度は特に限定されることはないが、1~10℃/分で変化させてもよい。温度を変化させた後に、圧電素子の温度が雰囲気温度に追従するまで温度を一定に保持してから圧電定数と電気機械品質係数を共振・反共振法を用いて測定すると測定結果の再現性が高くなるので、このように測定するのが望ましい。温度を一定に保持する時間は、特に限定されることはないが、1~10分であることが望ましい。
また、Zrを含有する場合について考察する。この場合、TtoやTotの温度が上昇する。特に、上記式(1)のTi、ZrとMnのモル数の和に対するZrのモル比であるyの値を0.01以上とすることにより、TtoとTotが室温に近くなり、動作温度範囲(例えば、-30℃~60℃)の圧電定数が大きくなる。その結果、圧電材料を用いる圧電素子、積層構造を有する圧電素子、振動波モータ、光学機器、及び電子機器等の駆動に必要な電力を抑えることができる。一方、yを0.095以下とすることにより、TCが、例えば、100℃以上の高温となり、高温下で使用する際の脱分極がより抑制されることから、圧電デバイスの動作保証温度範囲がより広くなるとともに、圧電定数の経時劣化が小さくなる。そこで、本発明では、上記式(1)において、yの値が0.01≦y≦0.095であることがより好ましい。TCは、その温度以上で圧電材料の圧電性が消失する温度である。本実施の形態では、強誘電相(正方晶相)と常誘電相(立方晶相)の相転移温度近傍で誘電率が極大となる温度をTCとする。誘電率は、例えばインピーダンスアナライザを用いて、平行板コンデンサ法により、周波数が1kHz、電界強度が10V/cmの交流電界を印加して測定される。
次に、本発明に係る圧電材料において、TCが100℃以上である場合について考察する。この場合、夏季の車中で想定される80℃という過酷な状況下においても、圧電性を損失することなく、維持することができ、安定な圧電定数とQmを有することができる。そこで、本発明では、TCが100℃以上である事がより好ましい。また、上記式(1)のTi、ZrとMnのモル数の和に対するMnのモル比であるzについて考察する。Mnは2価から4価の間で価数変動する性質があり、圧電材料中の電荷バランスの欠陥を補償する役割を果たす。zの値が0.003以上である場合、圧電材料の結晶格子中の酸素空孔濃度が増大し、非180度ドメインのドメインスイッチングによって結晶粒子間に発生する残留応力が小さくなるため、Qmの値がより増大すると考えられる。一方で、zの値が0.012以下である場合、Mnの固溶を促進し、絶縁抵抗をより高くすることができる。特に、zの値が、0.003≦z≦0.012の範囲にある場合、Qmの値が1200以上になり、より好ましい。そこで、本発明では、上記式(1)のzの値は0.003≦z≦0.012であることがより好ましい。ここで、Mnは金属Mnに限らず、Mn成分として圧電材料に含まれていれば良く、その含有の形態は問わない。例えば、Bサイトに固溶していてもよいし、粒界に含まれていてもかまわない。又は、金属、イオン、酸化物、金属塩、錯体等の形態でMn成分が圧電材料に含まれていてもよい。また、絶縁性や焼結容易性という観点においても、Mnが存在することが好ましい。Mnの価数は一般に4+、2+、3+を取ることができるが、Mnの価数が4+よりも低い場合、Mnはアクセプタとなる。アクセプタとしてMnがペロブスカイト構造結晶中に存在すると、結晶中に酸素空孔が形成される。酸素空孔は欠陥双極子を形成すると、圧電材料のQmを向上させることができる。そこで、本発明では、Mnの価数が4+よりも低いことが好ましい。Mnが4+よりも低い価数で存在するためには、Aサイトに3価の元素が存在することが好ましい。このときの好ましい3価の元素はBiである。ここで、Mnの価数は、磁化率の温度依存性の測定によって評価できる。
本発明において、圧電材料がBiからなる副成分を含むと、低温におけるQmが向上するため、より好ましい。特に、上記式(1)において、A(mol)とB(mol)の和に対するBiの含有量(mol)が0.15%以上且つ0.40%以下であると、低温領域、例えば、-30℃におけるQmが、例えば、350以上と大きくなる。これにより、圧電材料を用いる圧電デバイスにおいて、低温領域における制御が容易となる。また、本発明において、上記式(1)において、A(mol)とB(mol)の比を示すaの値は0.98以上且つ1.01以下であることがより好ましい。aの値が0.98以上且つ1.01以下であると、圧電材料が緻密化しやすく、機械的強度が向上するとともに、結晶粒の成長に必要な温度が一般的な焼成炉で焼成できる1500℃以下に下がる。
次に、本発明に係る圧電材料の形態について説明する。本発明に係る圧電材料の形態は、特に限定されず、セラミックス、粉末、単結晶、薄膜、スラリー、造粒粉、成形体等のいずれの形態でも構わないが、セラミックスであることが好ましい。本実施の形態において「セラミックス」とは、基本成分が金属酸化物であり、熱処理によって焼き固められた(焼結させられた)結晶粒子の凝集体(バルク体)、所謂、多結晶を表す。なお、焼結後に加工されたセラミックスも含まれる。
次に、本発明に係る圧電材料の製造方法について説明する。本発明に係る圧電材料の製造方法は特に限定されないが、以下に代表的な製造方法について例示する。
まず、本発明に係る圧電材料の原料粉について説明する。本発明に係る圧電材料の原料粉の製造方法として、構成元素を含んだ酸化物、炭酸塩、硝酸塩、蓚酸塩等の固体粉末を常圧下で焼結する一般的な手法を採用することができる。ここでの固体粉末は、Ba化合物、Ca化合物、Ti化合物、Zr化合物、Mn化合物、Bi化合物等の金属化合物から構成される。特に、Ba化合物、Ca化合物、Ti化合物、Zr化合物及びMn化合物の全てにペロブスカイト型金属酸化物を用いて混合すると、焼結後の結晶粒の微細化効果が得られ、圧電材料や圧電素子の加工時のクラック、チッピングの発生をさらに抑制できる。したがって、Ba化合物、Ca化合物、Ti化合物、Zr化合物及びMn化合物の全てにペロブスカイト型金属酸化物を用いて混合するのが好ましい。ここで、使用可能なBa化合物としては、酸化バリウム、炭酸バリウム、蓚酸バリウム、酢酸バリウム、硝酸バリウム、チタン酸バリウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム等が挙げられる。また、使用可能なCa化合物としては、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、蓚酸カルシウム、酢酸カルシウム、チタン酸カルシウム、ジルコン酸カルシウム等が挙げられる。さらに、使用可能なTi化合物としては、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸カルシウム等が挙げられる。また、使用可能なZr化合物としては、酸化ジルコニウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム等が挙げられる。さらに、使用可能なMn化合物としては、炭酸マンガン、一酸化マンガン、二酸化マンガン、三酸化四マンガン、酢酸マンガン等が挙げられる。また、使用可能なBi化合物としては、酸化ビスマス等が挙げられる。
なお、本実施の形態では、上記式(1)における、圧電材料のBa、Caのモル数の和に対するTi、Zr、Mnのモル数の和の比を示すaを調整するための原料は特に限定されない。Ba化合物、Ca化合物、Ti化合物、Zr化合物、Mn化合物のいずれでもaの調整による効果は同じである。
次に、成形用顆粒を得る工程について説明する。本発明に係る圧電材料の原料粉を造粒し、成形用顆粒を得る方法は特に限定されない。造粒する際に使用可能なバインダーの例としては、PVA(ポリビニルアルコール)、PVB(ポリビニルブチラール)、アクリル系樹脂が挙げられる。添加するバインダーの量は1重量部から10重量部が好ましく、成形体の密度が上がるという観点において2重量部から5重量部がより好ましい。Ba化合物、Ca化合物、Ti化合物、Zr化合物及びMn化合物を機械的に混合した混合粉から原料粉を造粒してもよいし、これらの化合物を800~1300℃程度で仮焼した後に原料粉を造粒してもよい。または、Ba化合物、Ca化合物、Ti化合物、及びZr化合物を仮焼した後に、Mn化合物をバインダーと同時に添加させてもよい。成形用の顆粒状造粒粉の粒径をより均一にできるという観点において、最も好ましい造粒方法はスプレードライ法である。
続いて、成形体を得る工程について説明する。本発明に係る圧電材料の成形体の作製方法は特に限定されない。成形体とは原料粉末、造粒粉、若しくはスラリーから作成される固形物である。成形体作成の手段としては、一軸加圧加工、冷間静水圧加工、温間静水圧加工、鋳込成形と押し出し成形等を用いることができる。
次に、圧電材料を得る工程について説明する。本発明では、焼結によって圧電材料を得るが、圧電材料の焼結方法は特に限定されない。焼結方法の例としては、電気炉による焼結、ガス炉による焼結、通電加熱法、マイクロ波焼結法、ミリ波焼結法、HIP(熱間等方圧プレス)等が挙げられる。電気炉やガスによる焼結で用いられる焼結炉は、連続炉であってもバッチ炉であっても構わない。また、焼結方法における圧電材料の焼結温度も特に限定されない。各化合物が反応し、充分に結晶成長する温度であればよい。特に、好ましい焼結温度は1200℃以上且つ1500℃以下であり、より好ましい焼結温度は1250℃以上且つ1450℃以下である。この温度範囲において焼結した圧電材料は良好な圧電性能を示す。焼結によって得られる圧電材料の特性を再現性よく安定させるためには、焼結温度を上記範囲内で一定にして2時間以上24時間以下の焼結処理を行うのが好ましい。このとき、二段階焼結法等の焼結方法を用いてもよいが、生産性を考慮すると急激な温度変化の無い方法が好ましい。
次に、本発明に係る圧電材料からなる薄膜について説明する。本発明に係る圧電材料を基板上に作製された膜として利用する際、圧電材料の厚みは400nm以上且つ10μm以下、より好ましくは500nm以上且つ3μm以下であることが望ましい。圧電材料の膜厚を400nm以上且つ10μm以下とすることにより、圧電素子として十分な電気機械変換機能が得られるからである。ここで、圧電材料からなる薄膜の成膜方法は特に制限されない。例えば、化学溶液堆積法(CSD法)、ゾルゲル法、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)、スパッタリング法、パルスレーザデポジション法(PLD法)、水熱合成法、エアロゾルデポジション法(AD法)等が挙げられる。化学溶液堆積法又はスパッタリング法は、容易に成膜面積を大面積化できるため、化学溶液堆積法又はスパッタリング法が最も好ましい積層方法である。また、本発明に係る圧電材料に用いる基板は(001)面又は(110)面で切断・研磨された単結晶基板であることが好ましい。特定の結晶面で切断・研磨された単結晶基板を用いることにより、その基板表面に設けられた圧電材料の薄膜を同一方位に強く配向させることができる。
次に、本発明に係る圧電素子について説明する。図2は、本発明に係る圧電素子の構成を概略的に示す部分斜視図である。図2において、圧電素子200は、上側電極201、圧電材料部202及び下側電極203を少なくとも備える。圧電素子200では、圧電材料部202を構成する圧電材料として本発明に係る圧電材料が用いられる。本発明に係る圧電材料は、圧電材料部202を構成する圧電材料として用いることにより、その圧電特性を評価することができる。上側電極201や下側電極203は、厚み5nmから10μm程度の導電層からなる。この導電層の材料は特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものであればよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cu等の金属やこれらの化合物を用いることができる。上側電極201や下側電極203は、上述した金属や化合物のうちの1種からなるものであってもよく、又はこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。また、上側電極201と下側電極203が、それぞれ異なる材料からなっていてもよい。上側電極201や下側電極203の製造方法は限定されず、金属ペーストの焼き付けによって形成してもよいし、スパッタ、蒸着法等によって形成してもよい。また、上側電極201、下側電極203とも所望の形状にパターニングして用いてもよい。
次に、本発明に係る圧電素子の分極について説明する。圧電素子では、分極軸が一定方向に揃っていると圧電素子の圧電定数は大きくなるため、圧電素子では分極軸が一定方向に揃っているのが好ましい。圧電材料や圧電素子において、一定方向に分極軸が揃っていることは、P-E(分極-電界)ヒステリシス測定において残留分極の存在の確認を通じて確認することができる。本発明に係る圧電素子の分極方法は、第1のドメインを有する結晶粒Aと、第2のドメインを有する結晶粒Bとが共存できる方法であれば特に限定されない。また、分極は大気中で行ってもよいし、シリコーンオイル中で行ってもよい。分極をする際の温度は、室温(例えば、25℃)程度から150℃の温度が好ましい。しかしながら、圧電素子を構成する圧電材料の組成や作製方法により、分極前の圧電材料に存在するドメインの幅の分布や、Mnの添加により発生する酸素空孔によるドメイン壁のピン止め効果が異なるため、分極に最適な条件も異なる。特に、分極温度が高く、分極時間が長いほど、ドメインの幅が大きくなり易い。例えば、分極前の圧電材料の大部分のドメインの幅が、既に第2のドメインの幅に合致する場合、分極における分極温度の上昇や分極時間の増大に応じてドメインの幅も増大するため、第2のドメインの数が減少する。特に、分極温度が高過ぎる場合、若しくは分極時間が長過ぎる場合は、ドメインの幅が大きくなり過ぎるため、第2のドメインが消失するおそれがある。一方、分極温度が低い場合、若しくは分極時間が短い場合は、ドメインの成長が抑制されるため、第2のドメインが十分に残存しても、第1のドメインが殆ど生成しないおそれがある。
分極において、分極時間と分極温度のみをパラメータとして用いる場合、ドメインの幅は基本的に分極時間や分極温度に応じて増大するため、第1のドメインを有する結晶粒Aと、第2のドメインを有する結晶粒Bを共存させるための制御が困難となる。そこで、分極時間や分極温度以外のパラメータを用いて分極を制御するのが好ましい。例えば、第1の分極処理として、TC前後の温度で直流電圧を圧電素子に印加することによって第1のドメインを生成させ、その後、圧電素子を一旦冷却し、第1のドメインを安定化させる。そして、続く第2の分極処理として、室温から80℃未満の温度で第1の分極処理とは逆方向に、弱い直流電圧やパルス状の電圧を短時間印加し、第2のドメインを生成させることが考えられる。この場合、第1の分極処理で印加する電界は、800V/mmから2.0kV/mmが好ましく、第2の分極処理で印加する電界はこれよりも低い電圧を用いる。例えば、第2の分極処理で印加する電界は、第2のドメインが所望の分布や数になるように、分極時間や分極温度等と併せて適宜調整される。また、他の分極としては、例えば、第1の分極処理として、TCよりも少し低い温度(例えば、10℃程度)で相対的に小さい(例えば、650V/mm)直流電圧を圧電素子に印加することによって第1のドメインを生成させる。そして、続く第2の分極処理として、一定速度で冷却しながら第1の分極処理と逆方向に、微弱な直流電圧やパルス状の電圧を印加し、第2のドメインを生成させる等の方法が考えられる。
次に、本発明に係る圧電材料の絶縁性について説明する。本発明に係る圧電材料の25℃の周波数1kHzにおけるtanδは0.006以下であることが好ましい。また、25℃における抵抗率は、1GΩcm以上であることが好ましい。tanδが0.006以下であると、圧電素子の駆動条件下で圧電材料へ最大500V/cmの電界を印加した場合でも、安定した動作を得ることができる。また、抵抗率が1GΩcm以上であると、分極の効果を十分に得られる。tanδや抵抗率は、インピーダンスアナライザを用いて、例えば、周波数が1kHz且つ電界強度が10V/cmの交流電界を圧電素子へ印加することによって測定可能である。
次に、本発明に係る圧電素子の絶縁性について説明する。図3は、本発明に係る圧電素子の構成を概略的に示す部分断面図である。図3において、圧電素子300は、圧電材料層301と、少なくとも1層の内部電極302とを備え、圧電材料層301と少なくとも1層の内部電極302が交互に積層される。圧電材料層301が上記の圧電材料からなる。電極層としては、少なくとも1層の内部電極302の他に上側電極303や下側電極304のそれぞれの層が設けられる。例えば、圧電素子300としては、2層の圧電材料層301と1層の内部電極302が交互に積層された積層構造体であってもよい(図3(A))。この積層構造体の上面や下面にはそれぞれ上側電極303、下側電極304が配置される。圧電素子300が備える圧電材料層301や内部電極302の層数は図3(A)に示す事例に限られず、特に限定されない。例えば、圧電素子300は、9層の圧電材料層301と8層の内部電極302が交互に積層された積層構造体であってもよい(図3(B))。この積層構造体の上面や下面にもそれぞれ上側電極303、下側電極304が配置される。また、内部電極302の各層を短絡するために、両側にそれぞれ外部電極305や外部電極306が配置される。内部電極302、上側電極303、下側電極304や外部電極305,306の大きさや形状は、必ずしも圧電材料層301の大きさや形状と同一である必要はなく、また、各電極が複数に分割されていてもよい。内部電極302、上側電極303、下側電極304や外部電極305,306は、それぞれ厚み5nmから10μm程度の導電層からなる。各電極の材料は特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものであればよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cu等の金属やこれらの化合物を挙げることができる。特に、内部電極302や外部電極305,306は、これらの材料のうちの1種からなるものであってもよく、又は2種以上の混合物或いは2種以上の合金であってもよい。また、内部電極302や外部電極305,306は、これらの材料のうちの2種以上を積層してなるものであってもよい。また、各電極302~306がそれぞれ異なる材料からなっていてもよい。
圧電素子300において、特に、内部電極302はAgとPdを含み、Agの含有重量M1とPdの含有重量M2との重量比M1/M2が0.25≦M1/M2≦4.0 であることが好ましく、0.3≦M1/M2≦3.0であることがより好ましい。重量比M1/M2が0.25未満であると内部電極の焼結温度が高くなるために望ましくない。一方で、重量比M1/M2が4.0よりも大きくなると、内部電極が島状になって面内で不均一に存在するために望ましくない。また、電極材料を安価にするためには、内部電極302がNi及びCuの少なくともいずれか1種を含むことが好ましい。内部電極302にNi及びCuの少なくともいずれか1種を用いる場合、圧電素子300は還元雰囲気で焼成することが好ましい。また、図3(B)に示すように、内部電極302の各層は、駆動電圧の位相をそろえるために互いに短絡させてもよい。例えば、内部電極302の層の半数と上側電極303を外部電極305で短絡させ、内部電極302の層の他の半数と下側電極304を外部電極306で短絡させてもよい。さらに、上側電極303と短絡する内部電極30の各層2と、下側電極304に短絡する内部電極302の各層とが交互に配置されていてもよい。なお、各電極の短絡の形態は、図3(B)に示す形態に限定されない。積層構造体の側面に短絡のための電極や配線を設けてもよいし、各圧電材料層301を貫通する貫通穴を設け、貫通穴の内側に導電材料を設けて各電極同士を短絡させてもよい。
次に、本発明に係る振動波モータについて説明する。図4は、本発明に係る振動波モータの構成を概略的に示す図である。本発明に係る振動波モータとしての振動波モータ400は、振動子401(振動体)と、該振動子401の摺動面へ加圧バネによる加圧力で加圧接触するロータ402(移動体)と、該ロータ402と一体的に設けられた出力軸403とを備える(図4(A))。振動子401は、金属の弾性体リング404と、圧電素子405とを有し、圧電素子405が有機系接着剤406(エポキシ系やシアノアクリレート系等の接着剤)によって弾性体リング404へ接着される。圧電素子405は、例えば、上述した圧電素子200の様に、(圧電材料層が1つしか存在しない)単層構造を有し、上側電極と下側電極によって挟まれた圧電材料で構成される。ところで、圧電材料に電圧を印加すると圧電横効果によって圧電材料は伸縮する。ここで、金属等の弾性体が圧電素子に接合していると、弾性体は圧電材料の伸縮によって曲げられて弾性体に屈曲進行波が発生する。振動波モータ400はこの屈曲進行波を用いて駆動を行う。具体的には、圧電素子405へ、互いの位相がπ/2の奇数倍ほど異なる二相の交番電圧を印加すると、振動子401に屈曲進行波が発生し、振動子401の摺動面上の各点は楕円運動を行う。この振動子401の摺動面にロータ402が圧接されていると、ロータ402は振動子401から摩擦力を受け、屈曲進行波とは逆の方向へ回転する。振動波モータ400では、出力軸403が不図示の被駆動体と接合されているため、ロータ402の回転力によって被駆動体が出力軸403によって駆動される。
また、本発明に係る振動波モータの他の一例としての振動波モータ407は、振動子408と、加圧用のバネ409によって振動子408と加圧接触するロータ410とを備える(図4(B))。振動子408は、分割された筒状体からなる金属弾性体411と、金属弾性体411の各筒状体に挟まれた圧電素子412とを有する。圧電素子412は、例えば、上述した圧電素子300のように、(複数の圧電材料層が存在する)積層構造を有し、積層構造の外側に上側電極と下側電極が配置され、積層構造の内側に複数の層の内部電極が各圧電材料層と交互に配置される。金属弾性体411の各筒状体はボルトによって締結され、圧電素子412を挟持して固定し、振動子408を構成する。圧電素子412へ互いの位相が異なる二相の交番電圧を印加することにより、振動子408は互いに直交する2つの振動を励起する。この2つの振動は合成されて振動子408の先端部を駆動するための円振動を形成する。振動波モータ407では、振動子408の上部にはくびれた周溝413が形成され、円振動の変位を大きくする。ロータ410は振動子408と加圧接触するため、振動子408から駆動のための摩擦力を得る。ロータ410は不図示のベアリングによって回転可能に支持されている。
次に、本発明に係る光学機器について説明する。図5は、本発明に係る光学機器としての一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒の主要部の構成を示す部分拡大断面図である。図6は、本発明に係る光学機器としての一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒の構成を示す分解斜視図である。図5及び図6において、交換レンズ鏡筒500は、固定部材として、固定筒501と、直進案内筒502と、前群鏡筒503とを備え、これらの固定部材はカメラの着脱マウント504に固定される。また、交換レンズ鏡筒500は、フォーカスレンズ505と、フォーカスレンズ505を保持する後群鏡筒506とを備える(図5(A))。直進案内筒502にはフォーカスレンズ505用の光軸方向の直進案内溝507が形成される。後群鏡筒506には、径方向外側に突出するカムローラ508,509が軸ビス510によって固定され、カムローラ508が直進案内溝507に嵌合する。直進案内筒502の内周にはカム環511が回動自在に嵌合する。カム環511に固定されたローラ512が、直進案内筒502の周溝513に嵌まることにより、直進案内筒502とカム環511は光軸方向への相対移動が規制され、光軸方向へ一体的に移動する。カム環511には、フォーカスレンズ505用のカム溝514が形成され、カム溝514には上述のカムローラ509が嵌合する。固定筒501の外周側にはボールレース515によって固定筒501に対して定位置回転可能に保持された回転伝達環516が配置される。回転伝達環516は放射状に延びる軸517を有し、各軸517にはコロ518が回転自由に保持される。このコロ518の径大部519がマニュアルフォーカス環520のマウント側端面521と接触する(図5(B))。また、コロ518の径小部522は接合部材523と接触する。交換レンズ鏡筒500では、6つのコロ518が回転伝達環516の外周に沿って等間隔に配置され、各軸517に回転自由に保持される。
マニュアルフォーカス環520の内径部には低摩擦シート524が配置され、低摩擦シート524が固定筒501のマウント側端面525とマニュアルフォーカス環520の前側端面526との間に挟持される。また、低摩擦シート524の外径面はリング状を呈し、マニュアルフォーカス環520の内径527と径嵌合する。さらに、マニュアルフォーカス環520の内径527は固定筒501の外径部528と径嵌合する。低摩擦シート524は、マニュアルフォーカス環520が固定筒501に対して光軸周りに相対回転する際の摩擦を軽減する。なお、コロ518の径大部519とマニュアルフォーカス環520のマウント側端面521は、波ワッシャ529が振動波モータ530をレンズ前方に押圧する力によって互いに接触する。交換レンズ鏡筒500の振動波モータ530は、交換レンズ鏡筒500の駆動部を構成し、例えば、振動波モータ400と類似の構造を有する。また、波ワッシャ529が振動波モータ530をレンズ前方に押圧する力により、コロ518の径小部522と接合部材523も適度な加圧力が付与された状態で接触する。波ワッシャ529は、固定筒501に対してバヨネット結合したワッシャ531によってマウント方向への移動が規制される。波ワッシャ529が発生するバネ力(付勢力)は、振動波モータ530、さらにはコロ518に伝達され、マニュアルフォーカス環520を固定筒501のマウント側端面525に押し付ける。つまり、マニュアルフォーカス環520は、低摩擦シート524を介して固定筒501のマウント側端面525に押し付けられた状態で交換レンズ鏡筒500に組み込まれる。したがって、振動波モータ530が固定筒501に対して回転駆動すると、接合部材523がコロ518の径小部522と摩擦接触するため、コロ518が軸517を中心として回転する。これにより、回転伝達環516が光軸周りに回転する(オートフォーカス動作)。また、不図示のマニュアル操作入力部からマニュアルフォーカス環520に光軸周りの回転力が与えられる場合について考察する。この場合、マニュアルフォーカス環520のマウント側端面521がコロ518の径大部519と加圧接触するため、摩擦力によりコロ518が軸517周りに回転する。これによっても、回転伝達環516が光軸周りに回転する。このとき、振動波モータ530は、ロータ532とステータ533の摩擦保持力によって回転が抑制される(マニュアルフォーカス動作)。
回転伝達環516には2つのフォーカスキー534が回転伝達環516を挟んで互いに対向するように取り付けられ、各フォーカスキー534がカム環511の先端に設けられた切り欠き部535と嵌合する。したがって、オートフォーカス動作又はマニュアルフォーカス動作が行われ、回転伝達環516が光軸周りに回転させられると、その回転力がフォーカスキー534を介してカム環511に伝達される。カム環511が光軸周りに回転させられると、カムローラ508と直進案内溝507により回転規制された後群鏡筒506が、カムローラ509によってカム環511のカム溝514に沿って進退する。これにより、フォーカスレンズ505が駆動され、フォーカス動作が行われる。
なお、本実施の形態では、本発明に係る振動波モータが適用される光学機器として一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒について説明した。しかしながら、本発明に係る振動波モータが適用される光学機器はこれに限られない。例えば、コンパクトカメラ、電子スチルカメラ、カメラ付き携帯情報端末等、カメラの種類を問わず、駆動部を有する光学機器に本発明に係る振動波モータを適用することができる。
次に、本発明に係る電子機器について説明する。本発明に係る電子機器としては、圧電素子を駆動源として備える電子機器が該当する。例えば、スピーカ、ブザー、マイク、表面弾性波(SAW)素子等の圧電音響部品を内蔵した電子機器が本発明に係る電子機器に該当する。その他、液体吐出装置、振動装置、塵埃除去装置、可動ミラー装置、超音波発振装置、センサ装置、シャッター装置等の駆動源を備える電子機器も本発明に係る電子機器に該当する。図7は、本発明に係る電子機器としてのデジタルカメラを前方から眺めたときの全体斜視図である。デジタルカメラ700は本体701を備え、該本体701の前面にはレンズ鏡筒を含む光学装置702、マイク703(破線参照)、ストロボ発光部704や補助光部705が配置される。マイク703の前方には外部からの音を拾うためのマイク穴706が穿設される。本体701上面には電源ボタン707、スピーカ708、ズームレバー709や撮影動作を実行するためのレリーズボタン710が配置される。スピーカ708は本体701内部に設けられているため破線で示す。スピーカ708の前方には音声を外部へ伝えるためのスピーカ穴711が穿設される。デジタルカメラ700では、マイク703やスピーカ708等の圧電音響部品へ上述した圧電素子200や圧電素子300が組み込まれる。
なお、本実施の形態では、本発明に係る電子機器としてデジタルカメラについて説明した。しかしながら、本発明に係る電子機器はこれに限られない。例えば、音声再生機器、音声録音機器、携帯電話、情報端末等各種の圧電音響部品を有し、当該圧電音響部品に圧電素子200や圧電素子300が組み込まれる電子機器も本発明に係る電子機器に該当する。
以上、説明したように、圧電素子200や圧電素子300は、振動波モータ、光学機器や電子機器に好適に用いられる。例えば、圧電素子200や圧電素子300を組み込むことにより、従来の鉛を含む圧電素子を組み込む場合と同等以上の駆動力や耐久性を発揮する振動波モータを提供することができる。また、この振動波モータを組み込むことにより、従来の鉛を含む圧電素子を組み込む場合と同等以上の耐久性や動作精度を発揮する光学機器を提供することができる。さらに、圧電素子200や圧電素子300が組み込まれる圧電音響部品を用いることにより、従来の鉛を含む圧電素子を組み込む場合と同等以上の発音性を発揮する電子機器を提供することができる。なお、本発明に係る圧電材料は、振動波モータや電子機器等だけでなく、超音波振動子、圧電アクチュエータ、圧電センサ、強誘電メモリ等のデバイスにも組み込むことができる。
次に、本発明に係る超音波プローブについて説明する。本発明に係る超音波プローブは、上述した圧電アクチュエータを備え、超音波の発振機能と反射波の受信機能を有する。本発明に係る超音波プローブの一例として、図8Aに超音波プローブの構成の一例を概略図として示す。但し、超音波プローブの構成部材の個数、形状や配置は図8Aの例に限定されない。超音波プローブ1001は圧電アクチュエータ10011を内包し、圧電アクチュエータ10011の逆圧電効果に起因して発生した超音波を被検体に向かって発振(発信)する。図8Aにおける波線の矢印は、超音波の伝播を模式的に示したものであり、超音波プローブ1001の構成部材ではない。この超音波は被検体の内部組織によって反射され、超音波エコーとして超音波プローブ1001に向かって返ってくる。この超音波エコーに起因する振動を圧電アクチュエータ10011が電気信号変換することで被検体の内部構造に応じた情報が得られる。超音波の発振と受信を担う圧電アクチュエータ10011は単一のもので無くてもよく、一方を圧電アクチュエータ以外のユニットで代用してもよい。
次に、本発明に係る超音波検査装置について説明する。本発明に係る超音波検査装置は、図8Aの超音波プローブと、信号処理ユニットと、画像生成ユニットとを備える。本発明に係る超音波検査装置の一例として、図8Bに超音波検査装置の構成の一例を概略図として示す。但し、各構成ユニットの接続順は図8Bに示す順に限定されない。図8Bに示す超音波検査装置では、超音波プローブ1001で受信した反射波に起因する電気信号を、信号処理ユニット1002においてデータ変換し且つデータ蓄積し、画像形成ユニット1003において画像情報に変換する。超音波検査装置は、この画像情報を外部の画像表示ユニット(ディスプレイ)に送信する機能も有する。
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明は上述した実施の形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
次に本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって限定されることはない。まず、実施例1~5及び比較例1,2について説明する。最初に、いずれもペロブスカイト型金属酸化物であるチタン酸バリウム、チタン酸カルシウム及びジルコン酸カルシウムの原料粉末を固相法により作製した。いずれの原料粉末も平均粒径は300nmであり、純度は99.99%以上であった。その後、これらの原料粉末を二酸化マンガン(MnO2)粉末(純度99.5%以上)と混合した。このとき、Ba、Ca、Ti、Zr、Mnの量が、上記式(1)において、x=0.14、y=0.050、z=0.002及びa=0.9955の組成を満たすように秤量して混合した。また、上記式(1)においてaを調整するために炭酸バリウム及び酸化チタンを適量添加した。これらの混合粉末を、ボールミルを用いて24時間の乾式混合によって混合し、混合粉を生成した。
次いで、混合粉の総重量を100重量部とし、この混合粉に対して3重量部となるPVAバインダーを、スプレードライヤー装置を用いて混合粉表面に付着させ、造粒粉を生成した。その後、生成された造粒粉を金型に充填し、プレス成型機を用いて200MPaの成形圧を負荷して円盤状の成形体を作製した。金型の表面には予め非マグネシウム系の離型剤を塗布していた。また、この成形体を冷間等方加圧成型機によってさらに加圧しても、得られる成形体はさらに加圧していない成形体と同様であった。
次いで、作製された成形体を、電気炉を用い、まず、大気雰囲気下で600℃に保持して加熱を行った後、さらに1330℃まで昇温させ、図9の表1に示す焼成時間に亘って1330℃の状態を保持した。その後、自然放冷によって室温に降温させた。これにより、圧電材料として円盤状のセラミックス(実施例1~5及び比較例1,2)を製作した。
次いで、圧電材料の室温(25℃)における実測密度を、アルキメデス法を用いて評価した。また、圧電材料の相対密度を、以下のX線回折から求めた格子定数と秤量組成から計算される理論密度及びアルキメデス法による実測密度を用いて評価した。このとき得られた相対密度を図10の表2に示した。比較例1の圧電材料の相対密度が90.8%と低く、焼結が不十分な状態であった。次に、円盤状のセラミックスをその厚さが0.5mmとなるように研磨し、研磨面に対するX線回折によって結晶構造を雰囲気温度25℃で解析した。このとき、実施例1~5及び比較例1,2のセラミックスのいずれにおいても、正方晶系のペロブスカイト構造に相当するピークが観察された。
次いで、蛍光X線分析により、実施例1~5及び比較例1,2の各円盤状のセラミックスの組成を評価した。その結果、全ての円盤状のセラミックスにおいて、その組成が秤量時の組成(Ba0.86Ca0.14)0.9955(Ti0.948Zr0.050Mn0.002)O3と一致することが分かった。また、全ての円盤状のセラミックス(実施例1~5及び比較例1,2)において、含有されるPb成分は1000ppm未満であった。
その後、各円盤状のセラミックスの厚さが0.5mm程度になるように各円盤状のセラミックスへ研磨加工を施し、その表裏両面へDCスパッタリング法によって厚さ400nmの金電極を形成した。なお、電極とセラミックスの間には、密着層として30nmのチタンを成膜した。この電極付きのセラミックスを切断加工し、10mm×2.5mm×0.5mmの短冊状素子を作製した。さらに、第1の分極処理として、各短冊状素子をその表面が100℃になるように加熱し、1kV/mmの電界がセラミックスに生じるように金電極へ30分間直流電圧を印加した後、各短冊状素子が室温になるように自然放冷した。その後に、第2の分極処理として、各短冊状素子をその表面が75℃になるように加熱し、第1の分極処理の電界とは逆方向の500V/mmの電界がセラミックスに生じるように金電極へ10分間直流電圧を印加した後、自然放冷した。これにより、本発明に係る圧電素子(実施例1~5)及び比較例1,2に対応する圧電素子を作製した。次いで、本発明に係る圧電素子及び比較例1,2に対応する圧電素子の静特性として、これら短冊状圧電素子の室温下におけるd31とQmを共振・反共振法によって測定した。この測定では、インピーダンスアナライザ(Agilent Technologies社製の4294A)を用いた。このときの測定結果を図10の表2に示した。なお、以下の各表において、室温下におけるd31の絶対値は「|d31,RT|」と表記され、室温下におけるQmは各表において「Qm,RT」と表記される。
次いで、本発明に係る圧電素子及び比較例1,2に対応する圧電素子から結晶粒及びドメイン観察用の断面試料を作製した。まず、砥粒が埋め込まれた研磨シートやダイヤモンドスラリー等で各電素子を機械的に研磨した後、ケミカルエッチングを施して鏡面状の断面試料を作製した。その後、各断面試料を導電ペーストでSEMの試料台に固定し、断面に3nmのカーボン膜を蒸着した。
次いで、作製した各断面試料の断面をSEMで観察し、得られた写真画像から結晶粒の平均円相当径を算出した。具体的には、各断面試料につき、倍率4000倍の写真画像を3枚得、各写真画像において凡そ600個の結晶粒を観察した。この観察画像に画像処理を施して平均円相当径を算出した。このときの算出結果及び測定結果を図10の表2に示した。なお、平均円相当径の算出は、円盤状セラミックス、分極前の圧電素子、又は分極後の圧電素子のいずれの断面の写真画像に基づいて行ってもよい。
また、作製した各断面試料の断面をSEMで観察し、得られた写真画像からドメインの幅の計測を行った。ドメインの検出には反射電子検出器を用いた。具体的には、各断面試料につき、倍率4000倍の写真画像を5枚得、各写真画像において凡そ1000個の結晶粒を観察して第1のドメイン及び第2のドメインの有無を確認した。このときの測定結果を図10の表2に示した。
さらに、本発明に係る圧電素子及び比較例1,2に対応する圧電素子の室温下におけるd31とQmの測定を行った。このときの測定結果も図10の表2に示した。
表2に示すように、比較例1は、第1のドメインを有する結晶粒Aと第2のドメインを有する結晶粒Bのいずれも含むものの、結晶粒の平均円相当径が1.0μm未満であり、また、相対密度が低く、焼結が不十分な状態であるため、室温下におけるQm(表2のQm,RT)が470と低く600未満となっていた。したがって、比較例1は振動時の弾性損失が大きいため、駆動源に用いるには不適切である。表2に示すように、比較例2は、第1のドメインを有する結晶粒Aと第2のドメインを有する結晶粒Bのいずれも含む。しかしながら、比較例2では、結晶粒の平均円相当径が10μmより大きく、室温下におけるd31の絶対値(表2の|d31,RT|)が50pm/V未満未満であるとともに、Qm(表2のQm,RT)も510と低い値になっていた。したがって、比較例2は振動時に伸び縮みしにくく、振動時の弾性損失が大きいため、駆動源に用いるには不適切である。一方、表2に示すように、実施例1~5は、結晶粒の平均円相当径が1.0μm以上且つ10μm以下であった。さらに、実施例1~5は、第1のドメインを有する結晶粒Aと第2のドメインを有する結晶粒Bのいずれも含み、室温下におけるd31の絶対値が70pm/V以上であり、Qmも600以上であった。したがって、実施例1~5は振動時に伸び縮みし易く、振動時の弾性損失も小さいため、駆動源に用いるのに適切であることが分かった。
次に、実施例6~10について説明する。実施例1~5と同様に、原料粉末を秤量した後に混合して混合粉を生成した。その後、1340℃まで昇温させて1340℃の状態を保持する焼成時間を5.5時間に統一したこと以外は実施例1~5と同様の工程を経て、円盤状のセラミックス(実施例6~10で共通)を作製した。
次いで、実施例1~5と同様に、X線回折によって各円盤状のセラミックスの結晶構造を雰囲気温度25℃で解析したところ、正方晶系のペロブスカイト構造に相当するピークのみが観察された。また、全ての円盤状のセラミックスにおいて、蛍光X線分析によって組成を評価したところ、その組成が秤量時の組成(Ba0.86Ca0.14)0.9955(Ti0.948Zr0.050Mn0.002)O3と一致することが分かった。また、全ての円盤状のセラミックス(実施例6~10)において、含有されるPb成分は1000ppm未満であった。その後、実施例1~5と同様に、各円盤状のセラミックスから短冊状素子を作製し、各短冊状素子へ第1の分極処理を施し、さらに、各短冊状素子へ第2の分極処理を施して本発明に係る圧電素子(実施例6~10)を作製した。但し、このときの第2の分極処理では、直流電圧の印加時間を図11の表3に示す印加時間Sに設定した。
次いで、本発明に係る圧電素子(実施例6~10)から、実施例1~5と同様の工程を経て、結晶粒及びドメイン観察用の断面試料を作製した。また、実施例1~5と同様の条件により、各断面試料における結晶粒の平均円相当径を算出した。このときの算出結果を図11の表3に示した。なお、平均円相当径の算出は、実施例1~5と同様に、円盤状セラミックス、分極前の圧電素子、又は分極後の圧電素子のいずれの断面の写真画像に基づいて行ってもよい。
また、本発明に係る圧電素子(実施例6~10)の各断面試料の断面をSEMで観察し、得られた写真画像からドメインの幅の計測を行った。このときもドメインの検出には反射電子検出器を用いた。具体的には、各断面試料につき、倍率4000倍の写真画像を10枚得、各写真画像において凡そ2000個の結晶粒を観察し結晶粒内のドメインを観察した。このときの測定結果を図11の表3に示した。さらに、得られた写真画像に画像処理を施し、第1のドメインを有する結晶粒Aの数密度(個数%)と第2のドメインを有する結晶粒Bの数密度(個数%)を算出した。このときの算出結果を図11の表3に示した。さらに、本発明に係る圧電素子(実施例6~10)の室温下におけるd31とQmの測定を行った。このときの測定結果も図11の表3に示した。
表3に示すように、実施例6~実施例10のいずれにおいても、結晶粒の平均円相当径が1.0μm以上且つ10μm以下であり、第1のドメインを有する結晶粒Aと第2のドメインを有する結晶粒Bのいずれもが含まれていた。また、室温下におけるd31の絶対値が50pm/V以上であり、Qmも600以上であった。特に、第1のドメインと第2のドメインを有する結晶粒Bがいずれも5個数%以上存在する実施例7~実施例9では、室温下におけるd31の絶対値が80pm/V以上であり、Qmが800以上であった。したがって、実施例7~実施例9は振動時に容易に伸び縮みし易く、振動時の弾性損失もより小さいという特に好適な圧電特性を有していることが分かった。
次に、実施例11,12について説明する。まず、実施例1~5と同様の原料粉末を用い、これらの原料粉末を、Ba、Ca、Ti、Zr、Mnの量が、上記式(1)において、x=0.14、y=0.050、z=0.002及びa=0.9955の組成を満たすように秤量して混合した。また、上記式(1)においてaを調整するために炭酸バリウム及び酸化チタンを適量添加した。これらの混合粉末を、ボールミルを用いて24時間の乾式混合によって混合し、混合粉を生成した。その後、実施例6~10と同様の工程を経て、円盤状のセラミックス(実施例11,12で共通)を作製した。
次いで、実施例1~5と同様に、X線回折によって各円盤状のセラミックスの結晶構造を雰囲気温度25℃で解析したところ、正方晶系のペロブスカイト構造に相当するピークのみが観察された。また、各円盤状のセラミックスにおいて、蛍光X線分析によって組成を評価したところ、その組成が秤量時の組成(Ba0.86Ca0.14)0.9955(Ti0.948Zr0.050Mn0.002)O3と一致することが分かった。さらに、各円盤状のセラミックス(実施例11,12)において、含有されるPb成分は1000ppm未満であった。
その後、実施例1~5と同様に、各円盤状のセラミックスから短冊状素子を作製し、各短冊状素子へ第1の分極処理を施し、さらに、各短冊状素子へ第2の分極処理を施して本発明に係る圧電素子(実施例11,12)を作製した。但し、実施例11の圧電素子では、第2の分極処理における直流電圧の印加時間が13分間に設定され、実施例12の圧電素子では、第2の分極処理における直流電圧の印加時間が5分間に設定された。その後、実施例1~5と同様に、本発明に係る圧電素子の室温下におけるd31とQmの測定を行った。このときの測定結果を図12の表4に示した。
次いで、本発明に係る圧電素子(実施例11,12)から、実施例1~5と同様の工程を経て、結晶粒及びドメイン観察用の断面試料を作製し、各断面試料における結晶粒の平均円相当径を算出し、ドメインの幅を計測した。このとき、本発明に係る圧電素子(実施例11,12)について、実施例6~10と同様に、第1のドメインを有する結晶粒Aの数密度(個数%)と第2のドメインを有する結晶粒Bの数密度(個数%)を算出した。このときの算出結果、測定結果を図12の表4に示した。算出された本発明に係る圧電素子(実施例11,12)の結晶粒の平均円相当径はいずれも2.8μmであった。このとき、実施例12では、図13に示すように、第1のドメインと第2のドメインをいずれも有する結晶粒が散見された。一方、実施例11では、第1のドメインと第2のドメインはそれぞれ異なる結晶粒に存在し、第1のドメインと第2のドメインをいずれも有する結晶粒は確認されなかった。表4から分かるように第1のドメインと第2のドメインが共存する結晶粒を有する圧電材料の方がd31及びQmの値がともに高かった。
実施例11,12のいずれにおいても、結晶粒の平均円相当径が1.0μm以上且つ10μm以下であった。また、表4に示すように、実施例11,12のいずれにおいても、第1のドメインを有する結晶粒Aと第2のドメインを有する結晶粒Bがいずれも5個数%以上存在し、室温下におけるd31の絶対値が80pm/V以上であり、Qmが800以上であった。したがって、実施例11,12は振動時に容易に伸び縮みし易く、振動時の弾性損失もより小さいという特に好適な圧電特性を有していることが分かった。
次に、実施例13,14について説明する。まず、実施例1~5と同様の原料粉末を用い、これらの原料粉末を、Ba、Ca、Ti、Zr、Mnの量が、上記式(1)において、x=0.14、y=0.050、z=0.002及びa=0.9955の組成を満たすように秤量して混合した。また、上記式(1)においてaを調整するために炭酸バリウム及び酸化チタンを適量添加した。これらの混合粉末を、ボールミルを用いて24時間の乾式混合によって混合し、混合粉を生成した。その後、実施例6~10と同様の工程を経て、円盤状のセラミックス(実施例13,14で共通)を作製した。
次いで、実施例1~5と同様に、X線回折によって各円盤状のセラミックスの結晶構造を雰囲気温度25℃で解析したところ、正方晶系のペロブスカイト構造に相当するピークのみが観察された。また、各円盤状のセラミックスにおいて、蛍光X線分析によって組成を評価したところ、その組成が秤量時の組成(Ba0.86Ca0.14)0.9955(Ti0.948Zr0.050Mn0.002)O3と一致することが分かった。さらに、各円盤状のセラミックス(実施例13,14)において、含有されるPb成分は1000ppm未満であった。
その後、実施例1~5と同様に、各円盤状のセラミックスから短冊状素子を作製し、各短冊状素子へ第1の分極処理を施し、さらに、各短冊状素子へ第2の分極処理を施して本発明に係る圧電素子(実施例13,14)を作製した。但し、実施例13では、第1の分極処理における直流電圧の印加時間が35分間に設定され、第2の分極処理における直流電圧の印加時間が6分間に設定された。実施例14では、第1の分極処理における直流電圧の印加時間が60分間に設定され、第2の分極処理における直流電圧の印加時間が7分間に設定された。その後、実施例1~5と同様に、本発明に係る圧電素子の室温下におけるd31とQmの測定を行った。このときの測定結果を図14の表5に示した。
次いで、本発明に係る圧電素子(実施例13,14)から、実施例1~5と同様の工程を経て、結晶粒及びドメイン観察用の断面試料を作製し、各断面試料における結晶粒の平均円相当径を算出し、ドメインの幅を計測した。このとき、本発明に係る圧電素子(実施例13,14)について、実施例6~10と同様に、第1のドメインを有する結晶粒Aの数密度(個数%)と第2のドメインを有する結晶粒Bの数密度(個数%)を算出した。このときの算出結果、計測結果を図14の表5に示した。また、算出された本発明に係る圧電素子(実施例13,14)の結晶粒の平均円相当径はいずれも2.8μmであった。このとき、実施例14では、図15のように、隣接する結晶粒の粒界を越えた第1のドメインの存在が散見された。一方、実施例13では、第1のドメインが1つの結晶粒内に留まっており、隣接する結晶粒の粒界を越えた第1のドメインは確認されなかった。
実施例13,14のいずれにおいても、結晶粒の平均円相当径が1.0μm以上且つ10μm以下であった。また、表5に示すように、実施例13,14のいずれにおいても、第1のドメインを有する結晶粒Aと第2のドメインを有する結晶粒Bがいずれも5個数%以上存在し、室温下におけるd31の絶対値が90pm/V以上であり、Qmが900以上であった。特に、隣接する結晶粒の粒界を越えた第1のドメインが延在している実施例14では、室温下におけるQmが1100以上であった。したがって、実施例13,14は振動時に容易に伸び縮みし易く、振動時の弾性損失もより小さいという特に好適な圧電特性を有していることが分かった。
次に、実施例15~20について説明する。まず、実施例1~5と同様の原料粉末を用い、これらの原料粉末を、Ba、Ca、Ti、Zr、Mnの量が、上記式(1)において、y=0.050、z=0.002及びa=0.9955の組成を満たすように秤量して混合した。このとき、上記式(1)において、xが図16の表6に示す組成となるように、Ba、Ca、Ti、Zr、Mnの量を調整した。また、上記式(1)においてaを調整するために炭酸バリウム及び酸化チタンを適量添加した。これらの混合粉末を、ボールミルを用いて24時間の乾式混合によって混合して混合粉を生成し、実施例1~5と同様の工程を経て円盤状の成形体を作製した。その後、作製された成形体を、電気炉を用い、まず大気雰囲気下で600℃に保持して加熱を行った後、図16の表6に示す焼成温度まで昇温させ、各焼成温度で5.5時間保持した後に、自然放冷により室温に降温させた。これにより、圧電材料として円盤状のセラミックス(実施例15~20)を製作した。
次いで、実施例1~5と同様に、X線回折によって各円盤状のセラミックスの結晶構造を雰囲気温度25℃で解析したところ、正方晶系のペロブスカイト構造に相当するピークのみが観察された。ところで、実施例19や実施例20と同じ組成の成形体を1340℃で焼成したところ、不純物相であるCaTiO3が生成した。そこで、実施例19では焼成温度を1370℃に設定し、実施例20では焼成温度を1400℃に設定した。その後、実施例1~5と同様に、蛍光X線分析によって各円盤状のセラミックスの組成を評価したところ、各円盤状のセラミックスにおいて、その組成が秤量時の組成と一致することが分かった。また、各円盤状のセラミックス(実施例15~20)において、含有されるPb成分は1000ppm未満であった。
その後、実施例1~5と同様に、各円盤状のセラミックスから短冊状素子を作製し、各短冊状素子へ第1の分極処理を施し、さらに、各短冊状素子へ第2の分極処理を施して本発明に係る圧電素子(実施例15~20)を作製した。但し、第1の分極処理では直流電圧の印加時間が70分間に設定され、第2の分極処理では第1の分極処理の電界とは逆方向の600V/mmの電界がセラミックスに生じるように金電極へ直流電圧が印加された。
次いで、本発明に係る圧電素子(実施例15~20)を恒温槽(エスペック社製 SH-261)に収容し、恒温槽の雰囲気温度を変化させて、共振・反共振法により、d31とQmの測定を行った。恒温槽の温度は5℃/分で変化させ、温度を変化させた後は5分保持した。具体的には、各圧電素子を30℃から60℃まで昇温させた後に、-30℃まで降温させてから、d31とQmの測定を行った。さらに、10℃と40℃のd31の絶対値(以下、それぞれ「|d31,10℃|」、「|d31,40℃|」と表記する。)を用い、圧電定数の温度依存性の目安としての圧電定数変化比|d31, 40℃-d31, 10℃|/|d31, RT|を算出した。ここで「|d31, 40℃-d31, 10℃|」は、10℃と40℃のd31の絶対値の差を表す。このときの測定結果、算出結果を図17の表7に示した。
次いで、本発明に係る圧電素子(実施例15~20)から、実施例1~5と同様の工程を経て、結晶粒及びドメイン観察用の断面試料を作製し、各断面試料における結晶粒の平均円相当径を算出し、ドメインの幅を計測した。このとき、本発明に係る圧電素子(実施例15~20)について、実施例6~10と同様に、第1のドメインを有する結晶粒Aの数密度(個数%)と第2のドメインを有する結晶粒Bの数密度(個数%)を算出した。このときの算出結果、計測結果を図17の表7に示した。また、算出された本発明に係る圧電素子(実施例15~20)の結晶粒の平均円相当径はいずれも2.8μmであった。
実施例15~20のいずれにおいても、結晶粒の平均円相当径が1.0μm以上且つ10μm以下であった。また、表6に示すように、実施例15~20のいずれにおいても、第1のドメインを有する結晶粒Aと第2のドメインを有する結晶粒Bがいずれも5個数%以上存在し、室温下におけるd31の絶対値が120pm/V以上であり、Qmが600以上であった。したがって、実施例15~実施例20は振動時に伸び縮みし易く、振動時の弾性損失も小さいため、駆動源に用いるのに適切であることが分かった。特に、xの値が0.02以上且つ0.10以下である場合、室温下におけるd31の絶対値が150pm/V以上であり、振動時の伸び縮みのし易さの観点からは好ましい。また、xの値が0.10以上且つ0.20以下であっても、室温下におけるd31の絶対値が130pm/V以上であり、且つ、圧電定数変化比の値が0.30未満と小さく、振動時の伸び縮みのし易さが温度に依存しにくい点で好ましい。さらに、実施例15~実施例20のいずれにおいても、xの値が0.30よりも小さくCaの相対的な含有量が少ないことから、焼成温度を1400℃以下に設定することができ、作製の容易さの観点からは望ましいことが分かった。
次に、実施例21~25について説明する。まず、実施例1~5と同様の原料粉末を用い、これらの原料粉末を、Ba、Ca、Ti、Zr、Mnの量が、上記式(1)において、x=0.13、z=0.002及びa=0.9955の組成を満たすように秤量して混合した。このとき、上記式(1)において、yが図18の表8に示す組成となるように、Ba、Ca、Ti、Zr、Mnの量を調整した。また、上記式(1)においてaを調整するために炭酸バリウム及び酸化チタンを適量添加した。これらの混合粉末を、ボールミルを用いて24時間の乾式混合によって混合し、混合粉を生成した。その後、実施例6~10と同様の工程を経て、円盤状のセラミックス(実施例21~25)を作製した。
次いで、実施例1~5と同様に、X線回折によって各円盤状のセラミックスの結晶構造を雰囲気温度25℃で解析したところ、正方晶系のペロブスカイト構造に相当するピークのみが観察された。その後、実施例1~5と同様に、蛍光X線分析によって各円盤状のセラミックスの組成を評価したところ、各円盤状のセラミックスにおいて、その組成が秤量時の組成と一致することが分かった。また、各円盤状のセラミックス(実施例21~25)において、含有されるPb成分は1000ppm未満であった。
次いで、実施例1~5と同様に、各円盤状のセラミックスから短冊状素子を作製し、各短冊状素子へ、実施例15~実施例20と同様の第1の分極処理及び第2の分極処理を施して本発明に係る圧電素子(実施例21~25)を作製した。その後、実施例1~5と同様に、本発明に係る圧電素子の室温下におけるd31とQmの測定を行った。このときの測定結果を上記表8に示した。
次いで、本発明に係る圧電素子(実施例21~25)を恒温槽(エスペック社製 SH-261)に収容し、恒温槽の雰囲気温度を変化させて、平行板コンデンサ法によって各圧電素子の誘電率の温度依存性を測定し、キュリー温度TCを決定した。このとき、各圧電素子には周波数1kHz、電界強度10V/cmの交流電界が印加された。また、恒温槽の温度は室温から150℃まで5℃/分で変化させ、温度を変化させた後は5分保持した。このときの測定結果、算出結果を図18の表8に示した。
次いで、本発明に係る圧電素子(実施例21~25)から、実施例1~5と同様の工程を経て、結晶粒及びドメイン観察用の断面試料を作製し、各断面試料における結晶粒の平均円相当径を算出し、ドメインの幅を計測した。このとき、本発明に係る圧電素子(実施例21~25)について、実施例6~10と同様に、第1のドメインを有する結晶粒Aの数密度(個数%)と第2のドメインを有する結晶粒Bの数密度(個数%)を算出した。このときの算出結果、計測結果を図18の表8に示した。また、算出された本発明に係る圧電素子(実施例21~25)の結晶粒の平均円相当径はいずれも2.8μmであった。
実施例21~25のいずれにおいても、結晶粒の平均円相当径が1.0μm以上且つ10μm以下であった。また、表8に示すように、実施例21~25のいずれにおいても、第1のドメインを有する結晶粒Aと第2のドメインを有する結晶粒Bがいずれも5個数%以上存在し、室温下におけるd31の絶対値が110pm/V以上であり、Qmも800以上であった。したがって、実施例21~25は振動時に伸び縮みし易く、振動時の弾性損失も小さいため、駆動源に用いるのに適切であることが分かった。特に、yの値が0.010以上且つ0.095以下である場合、室温下におけるd31の絶対値が120pm/V以上であり、且つ、TCが100℃以上であることから、圧電特性の観点からはより望ましい。
次に、実施例26~31について説明する。まず、実施例1~5と同様の原料粉末を用い、これらの原料粉末を、Ba、Ca、Ti、Zr、Mnの量が、上記式(1)において、x=0.14、y=0.050及びa=0.9955の組成を満たすように秤量して混合した。このとき、上記式(1)において、zが図19の表9に示す組成となるように、Ba、Ca、Ti、Zr、Mnの量を調整した。また、上記式(1)においてaを調整するために炭酸バリウム及び酸化チタンを適量添加した。これらの混合粉末を、ボールミルを用いて24時間の乾式混合によって混合し、混合粉を生成した。その後、実施例6~10と同様の工程を経て、円盤状のセラミックス(実施例26~31)を作製した。
次いで、実施例1~5と同様に、X線回折によって各円盤状のセラミックスの結晶構造を雰囲気温度25℃で解析したところ、正方晶系のペロブスカイト構造に相当するピークのみが観察された。その後、実施例1~5と同様に、蛍光X線分析によって各円盤状のセラミックスの組成を評価したところ、各円盤状のセラミックスにおいて、その組成が秤量時の組成と一致することが分かった。また、各円盤状のセラミックス(実施例26~31)において、含有されるPb成分は1000ppm未満であった。
次いで、実施例1~5と同様に、各円盤状のセラミックスから短冊状素子を作製し、各短冊状素子へ、実施例15~実施例20と同様の第1の分極処理及び第2の分極処理を施して本発明に係る圧電素子(実施例26~31)を作製した。その後、実施例1~5と同様に、本発明に係る圧電素子の室温下におけるd31とQmの測定を行った。このときの測定結果を図19の表9に示した。
次いで、本発明に係る圧電素子(実施例26~31)から、実施例1~5と同様の工程を経て、結晶粒及びドメイン観察用の断面試料を作製し、各断面試料における結晶粒の平均円相当径を算出し、ドメインの幅を計測した。このとき、本発明に係る圧電素子(実施例26~31)について、実施例6~10と同様に、第1のドメインを有する結晶粒Aの数密度(個数%)と第2のドメインを有する結晶粒Bの数密度(個数%)を算出した。このときの算出結果、計測結果を図19の表9に示した。また、算出された本発明に係る圧電素子(実施例26~31)の結晶粒の平均円相当径はいずれも2.8μmであった。
実施例26~31のいずれにおいても、結晶粒の平均円相当径が1.0μm以上且つ10μm以下であった。また、表9に示すように、実施例26~31のいずれにおいても、第1のドメインを有する結晶粒Aと第2のドメインを有する結晶粒Bがいずれも5個数%以上存在し、室温下におけるd31の絶対値が130pm/V以上であり、Qmも1000以上であった。したがって、実施例26~31は振動時に伸び縮みし易く、振動時の弾性損失も小さいため、駆動源に用いるのに適切であることが分かった。特に、zの値が0.003以上且つ0.012以下である場合、室温下におけるQmが1200以上であることから、弾性損失抑制の観点からはより望ましい。
次に、実施例32~37について説明する。まず、実施例1~5と同様の原料粉末を用い、これらの原料粉末を、Ba、Ca、Ti、Zr、Mnの量が、上記式(1)において、x=0.15、y=0.060、z=0.006及びa=0.9955の組成を満たすように秤量して混合した。ここで、実施例32~36に関し、原料粉末として酸化ビスマス(Bi2O3、純度99.99%以上)を用いた。そして、上記式(1)におけるA(mol)とB(mol)の和に対するBiの含有量(mol)が、図20の表10に示す値になるようにBiを秤量して添加した。また、上記式(1)においてaを調整するために炭酸バリウム及び酸化チタンを適量添加した。これらの混合粉末を、ボールミルを用いて24時間の乾式混合によって混合し、混合粉を生成した。その後、実施例6~10と同様の工程を経て、円盤状のセラミックス(実施例32~37)を作製した。
次いで、実施例1~5と同様に、X線回折によって各円盤状のセラミックスの結晶構造を雰囲気温度25℃で解析したところ、正方晶系のペロブスカイト構造に相当するピークのみが観察された。その後、実施例1~5と同様に、蛍光X線分析によって各円盤状のセラミックスの組成を評価したところ、各円盤状のセラミックスにおいて、その組成が秤量時の組成と一致することが分かった。また、各円盤状のセラミックス(実施例32~37)において、含有されるPb成分は1000ppm未満であった。
次いで、実施例1~5と同様に、各円盤状のセラミックスから短冊状素子を作製し、各短冊状素子へ、実施例15~実施例20と同様の第1の分極処理及び第2の分極処理を施して本発明に係る圧電素子(実施例32~37)を作製した。その後、実施例1~5と同様に、本発明に係る圧電素子の室温下におけるd31とQmの測定を行った。このときの測定結果を図20の表10に示した。
次いで、本発明に係る圧電素子(実施例32~37)を恒温槽(エスペック社製 SH-261)に収容し、恒温槽の雰囲気温度を変化させて、平行板コンデンサ法によって各圧電素子の誘電率の温度依存性を測定し、キュリー温度TCを決定した。このとき、各圧電素子には周波数1kHz、電界強度10V/cmの交流電界が印加された。また、恒温槽の温度は室温から150℃まで5℃/分で変化させ、温度を変化させた後は5分保持した。このときの測定結果、算出結果を図20の表10に示した。
次いで、本発明に係る圧電素子(実施例32~37)を恒温槽(エスペック社製 SH-261)に収容し、恒温槽の雰囲気温度を変化させて、共振・反共振法により、各圧電素子の-30℃下におけるQm(以下、「Qm,-30℃」と表記する。)を測定した。ここで、各圧電素子の温度を-30℃に変化させた後は5分保持した。このときの測定結果を図20の表10に示した。
次いで、本発明に係る圧電素子(実施例32~37)から、実施例1~5と同様の工程を経て、結晶粒及びドメイン観察用の断面試料を作製し、各断面試料における結晶粒の平均円相当径を算出し、ドメインの幅を計測した。このとき、本発明に係る圧電素子(実施例32~37)について、実施例6~10と同様に、第1のドメインを有する結晶粒Aの数密度(個数%)と第2のドメインを有する結晶粒Bの数密度(個数%)を算出した。このときの算出結果、計測結果を図20の表10に示した。また、算出された本発明に係る圧電素子(実施例32~37)の結晶粒の平均円相当径はいずれも2.8μmであった。
実施例32~37のいずれにおいても、結晶粒の平均円相当径が1.0μm以上且つ10μm以下であった。また、表10に示すように、実施例32~37のいずれにおいても、第1のドメインを有する結晶粒Aと第2のドメインを有する結晶粒Bがいずれも5個数%以上存在し、室温下におけるd31の絶対値が120pm/V以上であり、Qmも1200以上であった。したがって、実施例32~37は振動時に伸び縮みし易く、振動時の弾性損失も小さいため、駆動源に用いるのに適切であることが分かった。特に、Bi/(A+B)が0.15mol%以上且つ0.41mol%以下である場合、-30℃下におけるQm(Qm,-30℃)が350以上であることから、低温おける弾性損失を抑制することができることが分かった。
次に、実施例38~42について説明する。まず、実施例1~5と同様の原料粉末を用い、これらの原料粉末を、Ba、Ca、Ti、Zr、Mnの量が、上記式(1)において、x=0.06、y=0.030及びz=0.008の組成を満たすように秤量して混合した。また、上記式(1)におけるaが図21の表11に示す値になるように炭酸バリウム及び酸化チタンを適量添加した。その後、これらの混合粉末を、ボールミルを用いて24時間の乾式混合によって混合して混合粉を生成し、実施例1~5と同様の工程を経て円盤状の成形体を作製した。その後、作製された成形体を、電気炉を用い、まず大気雰囲気下で600℃に保持して加熱を行った後、図21の表11に示す焼成温度まで昇温させ、各焼成温度で4.5時間保持した後に、自然放冷により室温に降温させた。これにより、圧電材料として円盤状のセラミックス(実施例38~42)を製作した。
次いで、各円盤状のセラミックスの室温(25℃)における実測密度を、アルキメデス法を用いて評価した。また、各円盤状のセラミックスの相対密度を、以下のX線回折から求めた格子定数と秤量組成から計算される理論密度及びアルキメデス法による実測密度を用いて評価した。このとき得られた相対密度を図21の表11に示した。
次いで、実施例1~5と同様に、X線回折によって各円盤状のセラミックスの結晶構造を雰囲気温度25℃で解析したところ、正方晶系のペロブスカイト構造に相当するピークのみが観察された。その後、実施例1~5と同様に、蛍光X線分析によって各円盤状のセラミックスの組成を評価したところ、各円盤状のセラミックスにおいて、その組成が秤量時の組成と一致することが分かった。また、各円盤状のセラミックス(実施例38~42)において、含有されるPb成分は1000ppm未満であった。
その後、実施例1~5と同様に、各円盤状のセラミックスから短冊状素子を作製し、各短冊状素子へ第1の分極処理を施し、さらに、各短冊状素子へ第2の分極処理を施して本発明に係る圧電素子(実施例38~42)を作製した。但し、第1の分極処理では直流電圧の印加時間が100分間に設定され、第2の分極処理では第1の分極処理の電界とは逆方向の650V/mmの電界がセラミックスに生じるように金電極へ直流電圧が13分間に亘って印加された。その後、実施例1~5と同様に、本発明に係る圧電素子の室温下におけるd31とQmの測定を行った。このときの測定結果を図21の表11に示した。
次いで、本発明に係る圧電素子(実施例38~42)から、実施例1~5と同様の工程を経て、結晶粒及びドメイン観察用の断面試料を作製し、各断面試料における結晶粒の平均円相当径を算出し、ドメインの幅を計測した。このとき、本発明に係る圧電素子(実施例38~42)について、実施例6~10と同様に、第1のドメインを有する結晶粒Aの数密度(個数%)と第2のドメインを有する結晶粒Bの数密度(個数%)を算出した。このときの算出結果、計測結果を図21の表11に示した。
図21の表11に示すように、実施例38~42のいずれにおいても、結晶粒の平均円相当径が1.0μm以上且つ10μm以下であった。また、実施例38~42のいずれにおいても、第1のドメインを有する結晶粒Aと第2のドメインを有する結晶粒Bがいずれも5個数%以上存在し、室温下におけるd31の絶対値が80pm/V以上であり、Qmも600以上であった。したがって、実施例38~42は振動時に伸び縮みし易く、振動時の弾性損失も小さいため、駆動源に用いるのに適切であることが分かった。特に、aが0.98以上且つ1.01以下である場合、相対密度が95%以上であり、焼成温度を1500℃未満に設定することができ、作製の容易さの観点からは望ましいことが分かった。
次に、実施例43について説明する。実施例43として、上述した実施例2の圧電素子を用い、上述した振動波モータ400を作製した。この振動波モータ400では、交番電圧の印加に応じた出力軸403の回転が確認された。また、実施例44について説明する。実施例44として、実施例43の振動波モータ400を用い、上述した交換レンズ鏡筒500を作製した。この交換レンズ鏡筒500では、交番電圧の印加に応じたオートフォーカス動作が確認された。
次に、実施例45について説明する。まず、チタン化合物、カルシウム化合物、ジルコン化合物、酸化ビスマス(Bi2O3)、三酸化四マンガン(Mn3O4)を、表10における実施例34の組成を満たすように秤量して混合し、混合粉末を得た。その後、これらの混合粉末を、ボールミルを用いて一晩混合して混合粉を生成した。次いで、生成された混合粉にPVBを加えて混合した後、ドクターブレード法によって混合物を塗布し、結果として厚さが50μmのグリーンシートを作製した。さらに、このグリーンシートに内部電極用の導電ペーストを印刷した。導電ペーストにはPdペーストを用いた。その後、導電ペーストを塗布したグリーンシートを9枚積層して積層体を構成し、該積層体を1340℃まで昇温させ、5時間に亘って1340℃の状態を保持して焼結体を作製した。次いで、焼結体を10mm×2.5mmの大きさに切断し、さらにその側面を研磨し、内部電極の層を交互に短絡させる一対の外部電極をその側面に、さらに、それぞれ当該一対の外部電極に接続する上側電極と下側電極をその上面と下面にAuスパッタによって形成した。これにより、積層構造を有する圧電素子300を作製した。この圧電素子300の内部電極を観察したところ、Pdからなる複数の層の内部電極302が圧電材料層301と交互に形成されていた。その後、圧電性の評価に先立って圧電素子300に分極処理を施した。具体的には、第1の分極処理として、圧電素子300をオイルバス中で100℃に加熱し、上側電極303と下側電極304の間に1kV/mmの電界が生じるように70分間直流電圧を印加した後、圧電素子300が室温になるように自然放冷した。その後に、第2の分極処理として、圧電素子300が75℃になるように加熱し、第1の分極処理の電界とは逆方向の600V/mmの電界が上側電極303と下側電極304の間に生じるように10分間直流電圧を印加し、その後に急冷させた。このとき作製された圧電素子300の圧電性を評価したところ、十分な絶縁性を有し、実施例1の圧電材料と同等の良好な圧電特性を得ることが確認できた。
次に、実施例46について説明する。実施例46として、実施例45の圧電素子300を用い、上述した振動波モータ407を作製した。この振動波モータ407では、交番電圧の印加に応じたロータ410の回転が確認された。また、実施例47について説明する。実施例47として、実施例46の振動波モータ407を用い、上述した交換レンズ鏡筒500を作製した。この交換レンズ鏡筒500では、交番電圧の印加に応じたオートフォーカス動作が確認された。さらに、実施例48について説明する。実施例48として、実施例2の圧電素子を用い、上述したデジタルカメラ700を作製した。このデジタルカメラ700では、交番電圧の印加に応じたスピーカ動作が確認された。
次に、実施例49について説明する。実施例49として、実施例45の圧電素子300を用い、上述した圧電アクチュエータ10011を作製した。さらに、この圧電アクチュエータ10011を用いて、図8Aに示される超音波プローブ1001を作製した。この超音波プローブ1001では、入力した電気信号に追随した超音波の発信動作と被検体から反射した超音波の受信動作が確認された。また、上述した超音波プローブ1001を用いて、図8Bに示される超音波検査装置を作製した。この超音波検査装置では、出入力した超音波の振動データからノイズの軽減された超音波画像の生成が確認された。