JP6621566B2 - インクジェット記録用水性インク組成物及び画像形成方法 - Google Patents
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Description
インクジェット記録方法は、印刷版を必要とせず、画像形成部のみにインクを吐出して記録媒体上に直接画像形成を行う。そのため、インクを効率的に使用でき、ランニングコストが安くなる。更に、インクジェット記録方法は印刷装置も従来の印刷機に比べ比較的低コストで、小型化も可能であり、騒音も少ない。このように、インクジェット記録方法は他の画像記録方式に比べて種々の利点を兼ね備えている。
しかも、インクには、目的の画像を精度良く、安定して形成するために、ノズルから所望量のインクを安定的に吐出できる吐出安定性も求められる。特に、インクジェット記録方法は、これまで主にオフィスプリンタ、ホームプリンタ等の分野で用いられてきたが、近年は、商業印刷分野にまでその利用が拡大し、インクジェット記録の高速化も進んでいる。これに伴いインクの吐出安定性に対する要求は年々高度化している状況にある。インクジェット記録方法には、画像形成後にノズルを放置すると、例えば画像の形成を一旦休止(中断)すると、ノズルが目詰まりするという特有かつ喫緊の問題がある。そのため、インクジェット記録方法に用いるインクには、一旦休止後にも正常に吐出される特性(レイテンシ、放置回復性ともいう。)が強く求められている。
<1>水性媒体と、樹脂微粒子A及び樹脂微粒子Bの少なくとも2種の樹脂微粒子とを含むインクジェット記録用水性インク組成物であって、
樹脂微粒子Aを形成するポリマーが、下記一般式(1)で表される構造単位を、樹脂微粒子Aを形成するポリマー中に1〜20質量%含有し、
樹脂微粒子Aと樹脂微粒子Bとのガラス転移温度差の絶対値が30〜100℃である、インクジェット記録用水性インク組成物。
<2>一般式(1)で表される構造単位が下記一般式(2)又は下記一般式(3)で表される構造単位である<1>に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
<3>Y1が、−C(=O)OM、−S(=O)2OM又は−OP(=O)(OM)2であり、Mが水素原子、アルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンである<1>又は<2>に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
<4>Y1が、−C(=O)OMであり、Mが水素原子、アルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンである<1>〜<3>のいずれか1つに記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
<5>樹脂微粒子Aを形成するポリマーが、芳香族環又は脂肪族環を有するエチレン性不飽和化合物由来の構造単位を有する<1>〜<4>のいずれか1つに記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
<6>上述の、芳香族環又は脂肪族環を有するエチレン性不飽和化合物由来の構造単位が、下記一般式(A)〜(E)のいずれかで表される<5>に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
<7>樹脂微粒子Aを形成するポリマー中の、一般式(A)〜(E)のいずれかで表される構造単位の含有量が10〜70質量%である<6>に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
<8>樹脂微粒子の含有量が、インクジェット記録用水性インク組成物の全質量に対して1〜15質量%である<1>〜<7>のいずれか1つに記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
<9>顔料を含有する<1>〜<8>のいずれか1つに記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
<10>上記<9>に記載のインクジェット記録用水性インク組成物をインクジェット法により記録媒体上に付与して画像を形成するインク付与工程を含む、画像形成方法。
<11>インクジェット記録用水性インク組成物を、低吸水性記録媒体又は非吸水性記録媒体上に直接付与する<10>に記載の画像形成方法。
本明細書において、各置換基の例として説明される各基の「基」は無置換の形態及び置換基を有する形態のいずれも包含する意味に用いる。例えば、「アルキル基」は置換基を有してもよいアルキル基を意味する。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートの両者を含む意味に用いる。このことは、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリルアミド」及び「(メタ)アクリロイル基」についても同様である。
本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、下記の記載からより明らかになるであろう。
本発明の水性インク組成物は、水性媒体と、特定構造のポリマーからなる樹脂微粒子A、及び樹脂微粒子Aに対して特定温度差のガラス転移温度を有する樹脂微粒子Bの少なくとも2種の樹脂微粒子とを含有する。また、本発明の水性インク組成物は、通常は顔料を含有する。本発明の水性インク組成物が顔料を含有しない場合は、クリアインクとして使用することができ、顔料を含有する場合はカラー画像形成用途に用いることができる。
本発明に用いる水性媒体は少なくとも水を含み、必要に応じて水溶性有機溶剤の少なくとも1種を含んで構成される。
− 水 −
本発明に用いる水としては、イオン交換水、蒸留水等のイオン性不純物を含まない水を用いることが好ましい。また、水性インク組成物における水の含有率は、目的に応じて適宜選択されるが、通常、10〜95質量%であることが好ましく、30〜80質量%であることがより好ましく、50〜70質量%であることが更に好ましい。
本発明における水性媒体は水溶性有機溶剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。水溶性有機溶剤を含有することで、乾燥防止、湿潤又は浸透促進の効果を得ることができる。ここで、乾燥防止とは、噴射ノズルのインク吐出口にインクが付着乾燥して凝集体ができ目詰まりするのを防止することを意味する。乾燥防止又は湿潤には、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。また水溶性有機溶剤は、紙へのインク浸透性を高める浸透促進剤として用いることができる。
炭素数1〜4のアルキルアルコール類としては、特に限定されないが、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール等が挙げられる。
アルカンジオールとしては、特に限定されないが、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ノナンジオール、1,2−デカンジオール、更には後述するもの等が挙げられる。
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノペンチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノヘプチルエーテル、エチレングリコールモノオクチルエーテル、エチレングリコールモノノニルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、
ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘプチルエーテル、ジエチレングリコールモノオクチルエーテル、ジエチレングリコールモノノニルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、
トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノペンチルエーテル、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノヘプチルエーテル、トリエチレングリコールモノオクチルエーテル、トリエチレングリコールモノノニルエーテル、トリエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、
プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノペンチルエーテル、プロピレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノヘプチルエーテル、プロピレングリコールモノオクチルエーテル、プロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノペンチルエーテル、ジプロピレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノヘプチルエーテル、ジプロピレングリコールモノオクチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、
トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノペンチルエーテル、トリプロピレングリコールモノヘキシルエーテル、トリプロピレングリコールモノヘプチルエーテル、トリプロピレングリコールモノオクチルエーテル、トリプロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、
1−メチル−1−メトキシブタノール
乾燥防止又は湿潤の目的としては、多価アルコール類が有用であり、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また水溶性有機溶剤の水性インク組成物中における含有量としては、1質量%以上60質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以上40質量%以下であり、更に好ましくは7質量%以上30質量%以下である。
本発明の水性インク組成物は、樹脂微粒子A及び樹脂微粒子Bの少なくとも2種の樹脂微粒子(以下、単に「本発明に用いる樹脂微粒子」ともいう。)を含有する。樹脂微粒子Aと樹脂微粒子Bはいずれもポリマーで構成され、樹脂微粒子Aを形成するポリマー(以下、単に「ポリマーA」ともいう。)は、下記一般式(1)で表される構造単位(I)を、ポリマーA中に1〜20質量%含有し、樹脂微粒子Aと樹脂微粒子Bとのガラス転移温度差の絶対値は30〜100℃である。
本発明の水性インク組成物において、樹脂微粒子Aと樹脂微粒子Bとの含有量の質量比は、樹脂微粒子A:樹脂微粒子B=80〜20:20〜80であることが好ましく、70:30〜30:70であることがより好ましい。
− 一般式(1)で表される構造単位(I) −
ポリマーAは、一般式(1)で表される構造単位を有する。
Mは水素原子、アルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンを示す。吐出安定性、レイテンシと樹脂微粒子の安定性の観点から、Mはアルカリ金属イオンが好ましく、ナトリウムイオン又はカリウムイオンがより好ましく、カリウムイオンが更に好ましい。
本発明の水性インク組成物中において、Mは乖離(遊離)していてもよい。
本発明において、最長原子数は、一般式(1)中のR1が結合する炭素原子を起点(ゼロ)として、−X1−Y1で示される基のうちで最遠端に位置する原子までの原子の最短の結合を最長鎖としたとき、この最長鎖の(最少)原子結合数を意味する。例えば、実施例における樹脂微粒子セットP−1のポリマーAが有する構造単位においては、カルボニル炭素原子1個、窒素原子1個、アルキレン基中の炭素原子11個、カルボニル炭素原子1個、酸素原子1個及び最遠端のカリウム原子1個までの結合が最長鎖となり、このときの最長原子数は合計16となる。
−X1−Y1で示される基のうち、最遠端となる原子は、特に限定されないが、Y1のMであることが好ましい。
上記一般式(1)で表される構造単位は、一般式(2)又は一般式(3)で表される構造単位が好ましく、レイテンシ、耐擦性及び耐ブロッキング性を高い水準で兼ね備える点で、一般式(2)で表される構造単位がより好ましい。
アルキレン基、及びアルキレンオキシ基中のアルキレン部分は直鎖でも分岐を有していてもよいが、吐出安定性、レイテンシ、及び樹脂微粒子の安定性の観点から直鎖であることが好ましい。
アルキレン基は、好ましくは炭素数8〜22、より好ましくは炭素数8〜18、更に好ましくは炭素数8〜16、より一層好ましくは炭素数8〜14、特に好ましくは10〜12、最も好ましくは炭素数11である。アルキレンオキシ基中のアルキレン部分の炭素数は、上限が30であること以外(下限値)は上記アルキル基の好ましい炭素数と同じである。
L2は単結合、−C(=O)O−又は−C(=O)N(R4)−を示す。L2は単結合が好ましい。R4は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、水素原子が好ましい。
上記合計含有量は、上記ポリマーAが一般式(2)の構造単位を有しない場合は一般式(3)の構造単位の含有量であり、ポリマーAが一般式(3)の構造単位を有しない場合は一般式(2)の構造単位の含有量であり、ポリマーAが一般式(2)の構造単位と一般式(3)の構造単位の両構造単位を含有する場合は両構造単位の含有量の合計である。
ポリマーAは、上記構造単位(I)以外の構造単位(II)(「他の構造単位(II)」という。)(II)を有していることも好ましい形態の1つである。
他の構造単位(II)としては、特に限定されず、好適な例としては、特開2001−181549号公報及び特開2002−88294号公報に記載されている構造単位を挙げることができる。
また、ポリマーAが有する他の構造単位(II)の含有量は、上記構造単位(I)の種類及び含有量、各樹脂微粒子のガラス転移温度及びその差等を考慮して適宜に決定される。他の構造単位(II)の含有量としては、例えば、後述する範囲に設定できる。
構造単位(i)に含まれる芳香族環又は脂肪族環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、及び、炭素数5〜20の脂肪族炭化水素環が挙げられ、ベンゼン環、及び、炭素数6〜10の脂肪族炭化水素環が好ましい。
これらの芳香族環又は脂肪族環は置換基を有していてもよい。芳香族環又は脂肪族環が置換基を有する場合、置換基は、特に限定されないが、上記Y1以外の置換基が挙げられる。
上記エチレン性不飽和化合物としては、特に限定されないが、下記一般式(A)〜一般式(E)で表される構造単位を導く化合物、より具体的には、スチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
一般式(B)〜一般式(E)中、R12はメチル基であることが好ましい。
一般式(A)〜一般式(C)中、R13は、各々独立に、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。
nは、いずれの式においても、0〜2の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましく、0であることが更に好ましい。
一般式(C)〜一般式(E)中、L11は、一般式(C)〜一般式(E)中に記載されたカルボニル炭素原子との結合部位に−O−又は−NH−を含む2価の連結基が好ましく、−O−又は−NH−がより好ましく、−O−が更に好ましい。
一般式(B)で表される構造単位は、ベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位であることが好ましい。
一般式(C)で表される構造単位は、シクロヘキシル(メタ)アクリレートに由来する構造単位であることが好ましい。
一般式(D)で表される構造単位は、イソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構造単位であることが好ましい。
一般式(E)で表される構造単位は、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートに由来する構造単位であることが好ましい。
構造単位(i)の中で特に好ましいスチレン由来の構造単位については、吐出安定性、耐傷性の観点、更に所望により樹脂微粒子の製造適性(ろ過性)の観点を考慮すると、ポリマーA中の含有量は、3〜50質量%が好ましく、5〜40質量%がより好ましく、10〜35質量%が更に好ましい。
構造単位(ii)は、上記構造単位と重合可能な化合物由来のものであれば特に限定されず、(メタ)アクリルアミド化合物又は(メタ)アクリレート化合物に由来する構造単位であることが好ましく、(メタ)アクリレート化合物に由来する構造単位であることがより好ましい。
上記構造単位(ii)は置換基を有していてもよい。構造単位(ii)が有していてもよい置換基としては、特に限定されないが、上記Y1以外の置換基、例えば水酸基、アミノ基が挙げられる。
ポリマーA中、構造単位(ii)の合計含有量は、それぞれ、吐出安定性及び耐擦性の観点から、0〜90質量%であることが好ましく、0〜70質量%であることがより好ましい。合計含有量は、各ポリマー中に、構造単位(ii)が1種含有されるときは、この1種の構造単位の含有量であり、2種以上含有されるときには、これら2種以上の構造単位の含有量の合計を意味する。
ポリマーBは、樹脂微粒子Aに対して後述するガラス転移温度差を有する樹脂微粒子Bを形成できるものであれば、その構造(構造単位)は、特に限定されない。
好ましくは、上記構造単位(I)及び(II)から選択される少なくとも1種を有する。すなわち、ポリマーBは、上記構造単位(I)及び(II)を有していてもよく、上記構造単位(I)を有せず、上記構造単位(II)を有していてもよい。より好ましくは、ポリマーBは、上記構造単位(I)を有する。このように、ポリマーA及びポリマーBがいずれも一般式(1)で表される構造単位を有すると、レイテンシ、耐傷性、耐ブロッキング性をより高い水準で両立できる。構造単位(I)は上述の通りである。
ポリマーBが構造単位(I)を有する場合、ポリマーB中、構造単位(I)の合計含有量は、レイテンシと、画像の耐擦性及び耐ブロッキング性をより高い水準で両立できる観点から、更に所望により樹脂微粒子の安定性をより向上する観点から、0.5〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましく、2〜10質量%が更に好ましい。
ポリマーBは、構造単位(I)以外に、他の構造単位(II)を有していることも好ましい形態の1つである。また、ポリマーBが上記構造単位(I)を有していない場合、このポリマーBを構成する構造単位は特に限定されないが、上記構造単位(II)を有することが好ましい。構造単位(II)は上述の通りである。ポリマーBが構造単位(II)を有する場合、構造単位(II)の、ポリマーB中の含有量も、ポリマーAにおける含有量と同じである。ただし、ポリマーBが構造単位(I)を含まない場合、構造単位(II)の含有量は、ポリマーB中、20〜100質量%であることが好ましい。
樹脂微粒子AのTg及び樹脂微粒子BのTgは、いずれが高くてもよいが、樹脂微粒子AのTgが樹脂微粒子BのTgより高いことが好ましい。一般的にTgが高いと融着性に劣るが、樹脂微粒子Aは構造単位(I)を有するため、インク組成物中での融着性に優れ、Tgが高くても比較的融着性の劣化が少ない。これにより、樹脂微粒子Bによる融着性力を担保して画像の耐擦性をより向上させることができ、しかも、樹脂微粒子Aの高い熱安定性を維持して耐ブロッキング性を更に高めることができる。
樹脂微粒子AのTgは、例えば、上記レイテンシと、画像の耐擦性及び耐ブロッキング性を高い水準で両立できる観点から、120℃以下が好ましく、115℃以下がより好ましく、110℃以下が更に好ましく、また、60℃以上が好ましく、65℃以上がより好ましく、70℃以上が更に好ましい。樹脂微粒子BのTgは、例えば、上記レイテンシと、画像の耐擦性及び耐ブロッキング性を高い水準で両立できる観点から、15℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、25℃以上が更に好ましく、また、105℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、90℃以下が更に好ましく、80℃以下が特に好ましい。
1/Tg=Σ(Xi/Tgi)
ここで、計算対象となる樹脂はi=1からnまでのn種のモノマーが共重合しているとする。Xiはi番目のモノマー成分の重量分率、Tgiはi番目のモノマーの単独重合体のガラス転移温度(絶対温度)である。ただし、Σはi=1からnまでの和をとる。なお、各モノマーの単独重合体のガラス転移温度の値(Tgi)は、Polymer Handbook (3rd Edition) (J.Brandrup, E.H.Immergut著(Wiley−Interscience、1989))の値を採用する。
樹脂微粒子の上記粒径は体積平均粒径を意味する。この体積平均粒径は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
上記樹脂微粒子は、乳化重合法により調製することができる。乳化重合法は、水性媒体(例えば、水)中にモノマー、重合開始剤、乳化剤、及び、必要に応じて連鎖移動剤等を加えて調製した乳化物を重合させることで樹脂微粒子を調製する方法である。この乳化重合法を本発明に用いる樹脂微粒子の調製に適用する場合、上記構造単位(I)を導くモノマーは、乳化剤としても機能する。したがって、これらのモノマー以外に乳化剤を別途混合する必要はないが、吐出安定性を低下させない範囲であれば、既知の乳化剤を別途添加してもよい。上記乳化剤としては、例えば、本発明の水性インク組成物に含有されてもよい、後述する界面活性剤(アニオン系界面活性剤、ノニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤)が挙げられる。
本発明における重合開始剤の使用量としては、全モノマー100質量部に対して、通常0.01〜5質量部であり、好ましくは0.2〜2質量部である。
ここで、分散状態とは、水性媒体中に水不溶性樹脂が液体状態で分散された乳化状態(エマルション)、及び、水性媒体中に水不溶性樹脂が固体状態で分散された分散状態(サスペンジョン)の両方の状態を含むものである。
また、「水不溶性」とは、水100質量部(25℃)に対する溶解量が5.0質量部以下であることを指す。
本発明に用いる樹脂微粒子は、顔料の分散剤として機能するものではなく、したがって粒子内部に顔料を含まない。
本発明の水性インク組成物は、1種又は2種以上の顔料が分散してなる形態が好ましい。
本発明の水性インク組成物に用いられる顔料の種類に特に制限はなく、通常の有機又は無機顔料を用いることができる。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、又は多環式顔料が好ましい。アゾ顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料が挙げられる。多環式顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料が挙げられる。染料キレートとしては、例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートが挙げられる。
また、本発明の水性インク組成物中の顔料の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布を持つ着色剤を、2種以上混合して使用してもよい。
なお、顔料の体積平均粒径は、上述の樹脂微粒子の体積平均粒径の測定と同様の方法で測定することができる。
本発明の水性インク組成物が顔料を含む場合、顔料としては、顔料が分散剤によって水性媒体中に分散された着色粒子(以下、単に「着色粒子」という)を調製し、これを水性インク組成物の原料として用いることが好ましい。
上記分散剤としては、ポリマー分散剤でも低分子の界面活性剤型分散剤でもよい。また、ポリマー分散剤としては水溶性ポリマー分散剤でも水不溶性ポリマー分散剤のいずれでもよい。
更に、合成系の親水性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子、非架橋ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸又はそのアルカリ金属塩、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアルカリ金属塩、四級アンモニウム、アミノ基等のカチオン性官能基の塩を側鎖に有する高分子化合物、セラック等の天然高分子化合物等が挙げられる。
また、親水性の構造単位を構成するモノマー成分としては、親水性基を含むモノマー成分であれば特に制限はない。この親水性基としては、ノニオン性基、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基等を挙げることができる。なお、ノニオン性基は、水酸基、(窒素原子が無置換の)アミド基、アルキレンオキシド重合体(例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等)に由来する基、糖アルコールに由来する基等が挙げられる。
上記親水性の構造単位は、分散安定性の観点から、少なくともカルボキシ基を含むことが好ましく、ノニオン性基とカルボキシ基を共に含む形態であることもまた好ましい。
着色粒子中の分散剤の含有量が、上記範囲内にあることにより、顔料が適量の分散剤で被覆され、粒径が小さく経時安定に優れた着色粒子を得やすい傾向となり好ましい。
より詳細には、例えば、顔料と、分散剤と、この分散剤を溶解又は分散する有機溶剤との混合物に、塩基性物質を含む水溶液を加える工程(混合・水和工程)の後、有機溶剤を除く工程(溶剤除去工程)を設けて分散物として製造することができる。これにより、顔料が微細に分散され、保存安定性に優れた着色粒子の分散物を作製することができる。
有機溶剤の好ましい例としては、水溶性有機溶剤が挙げられる。中でもイソプロピルアルコール、アセトン及びメチルエチルケトンが好ましく、特に、メチルエチルケトンが好ましい。有機溶剤は、1種単独で用いても複数併用してもよい。
本発明の水性インク組成物は、表面張力調整剤として界面活性剤を含有してもよい。
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、ベタイン系界面活性剤のいずれも使用することができる。
これらの界面活性剤の中でも、安定性の点から、ノニオン性界面活性剤が好ましく、アセチレンジオール誘導体がより好ましい。
本発明の水性インク組成物は、更に必要に応じて、乾燥防止剤(膨潤剤)、着色防止剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤、粘土調整剤、pH調製剤、キレート剤等の添加剤を混合してもよい。混合方法に特に制限はなく、通常用いられる混合方法を適宜に選択し、本発明の水性インク組成物を得ることができる。
本発明の水性インク組成物の30℃での粘度は、1.2mPa・s以上15.0mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは2mPa・s以上13mPa・s未満であり、更に好ましくは2.5mPa・s以上10mPa・s未満である。
水性インク組成物の粘度は、VISCOMETER TV−22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用い、30℃の温度下で測定される。
水性インク組成物の表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP−Z(協和界面科学株式会社製)を用い、25℃の温度下で測定される。
本発明の画像形成方法は、本発明の水性インク組成物をインクジェット法により記録媒体上に付与して画像を形成するインク付与工程を含む。
また、本発明の画像形成方法は、必要に応じて、記録媒体に付与された水性インク組成物中の水性媒体を乾燥除去する工程(以下、「インク乾燥工程」ともいう。)、水性インク組成物に含まれる樹脂微粒子を溶融定着する工程(以下、「熱定着工程」ともいう。)等の他の工程を更に有してもよい。
上記インク付与工程は、低吸水性記録媒体又は非吸水性記録媒体上に、本発明の水性インク組成物を直接付与して画像を形成する工程であることが好ましい。
低吸水性記録媒体又は非吸水性記録媒体上に、インクを直接付与するとは、付与されたインクと低吸水性記録媒体又は非吸水性記録媒体が直接接することを意味している。例えば、水性インク組成物に含まれる樹脂微粒子等の成分の凝集を目的とした、水性インク組成物による画像形成方法の分野において公知の処理液の付与を事前に行う場合には、水性インク組成物と上記低吸水性記録媒体又は上記非吸水性記録媒体は直接接しない。上述の公知の処理液としては、例えば、特開2012−40778号公報に記載の処理液が挙げられる。
また、本発明の画像形成方法は、インク付与工程の後に、上述の公知の処理液を付与しないことが好ましい。すなわち、本発明の画像形成方法は、上述の公知の処理液を付与する工程を含まないことが好ましい。
しかし、本発明の水性インク組成物は、上述の優れた特性を示し、画像に高い性能を付与できるため、プレコート液又はトップコート液等を使用しなくても、低吸水性記録媒体又は非吸水性記録媒体上に、画質に優れた画像を形成できる。
本発明の画像形成方法に用いる記録媒体に特に制限はないが、紙媒体であることが好ましい。すなわち、一般のオフセット印刷等に用いられる、いわゆる上質紙、コート紙、アート紙等のセルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。
水の吸収係数Kaは、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No51:2000(発行:紙パルプ技術協会)に記載されているものと同義であり、具体的には、吸収係数Kaは、自動走査吸液計KM500Win(熊谷理機社製)を用いて接触時間100msと接触時間900msにおける水の転移量の差から算出されるものである。
インク付与工程では、顔料を含有する本発明の水性インク組成物が記録媒体上に付与される。水性インク組成物の付与方法としては、画像上に水性インク組成物を付与可能なインクジェット方法であれば、特に制限はなく公知のインク付与方法を用いることができる。インクジェット方法は、記録装置のコンパクト化と高速記録性等の利点を有している。
インクジェット方式(方法)による画像形成では、エネルギーを供与することにより、記録媒体上に水性インク組成物を吐出し、着色画像を形成する。なお、本発明に好ましいインクジェット記録方法として、特開2003−306623号公報の段落番号0093〜0105に記載の方法が適用できる。
また、インクジェット方式で用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。更に上記インクジェット方式により記録を行う際に使用するインクノズル等についても特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
なお、インクジェット方式には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式、無色透明のインクを用いる方式等が含まれる。
本発明の画像形成方法は、必要に応じて、記録媒体上に付与された水性インク組成物中の水性媒体(例えば、水、上述の水溶性有機溶剤等)を乾燥除去するインク乾燥工程を備えていてもよい。インク乾燥工程は、水性インク組成物中の水性媒体の少なくとも一部を除去できれば特に制限はなく、通常用いられる方法を適用することができる。
本発明の画像形成方法は、必要により、上記インク乾燥工程の後に、熱定着工程を備えることが好ましい。熱定着処理を施すことにより、記録媒体上の画像の定着が施され、画像の擦過に対する耐性をより向上させることができる。熱定着工程として、例えば、特開2010−221415号公報の段落番号0112〜0120に記載の熱定着工程を採用することができる。
本発明の画像形成方法は、必要に応じて、インクジェット記録用ヘッドに付着した水性インク組成物(例えば、乾燥により固形化したインク固形物)をメンテナンス液により除去するインク除去工程を含んでいてもよい。メンテナンス液及びインク除去工程の詳細は、国際公開第2013/180074号に記載されたメンテナンス液及びインク除去工程を好ましく適用することができる。
以下に、実施例及び比較例に用いた樹脂微粒子セットP−1〜P−13及びCP−1〜CP−7に含有される樹脂微粒子A及びBをそれぞれ形成するポリマーA及びBを示す。
下記ポリマーA及びBにおいて、各構造単位の下方に記載の数字は質量比を表す。
− 樹脂微粒子セットP−1に含有される樹脂微粒子A及びBの合成 −
樹脂微粒子セットP−1を構成する樹脂微粒子A及びBを、J. APPL. POLYM. SCI. 2014, DOI: 10.1002/APP.39991を参考にして、それぞれ、合成した。
(樹脂微粒子Aの合成)
具体的には、攪拌機、温度計、還流冷却管及び窒素ガス導入管を備えた1リットル三口フラスコに、水(130g)、ネオペレックスG−15(16質量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液、花王株式会社製)(9.38g)を仕込んで、窒素気流下で80℃まで昇温した。そこへ、過硫酸カリウム(ラジカル重合開始剤、和光純薬社製)(0.26g)、炭酸水素カリウム(0.20g)及び水(10g)からなる混合溶液を加え、10分間攪拌した。次いで、上記三口フラスコに、メチルメタクリレート(31.5g)と、スチレン(15.0g)と、12−メタクリルアミドドデカン酸(3.50g)と、イソプロピルアルコール(20g)とからなるモノマー溶液を3時間で滴下が完了するように等速で滴下し、モノマー溶液の滴下完了後、過硫酸カリウム(ラジカル重合開始剤、和光純薬社製)(0.26g)と水(10g)からなる混合溶液を加え、更に3時間撹拌した。得られた反応混合物に1N水酸化カリウム水溶液を適量添加しpHを8.0に調整した。得られた反応混合物を網目50μmのメッシュでろ過し、上記ポリマーAからなる樹脂微粒子Aの水性分散物を調製した。得られた樹脂微粒子Aの水性分散物はpH8.0、固形分濃度20質量%であった。水性分散液中の樹脂微粒子Aの体積平均粒径は、マイクロトラックUPA EX−150(日機装社製)で測定した。その結果を表1に示す。また、下記方法で測定したガラス転移温度を表1に示す。
(樹脂微粒子Bの合成)
上記樹脂微粒子Aの合成において、使用するモノマーの種類と量を、上記構造単位を導くモノマーの種類と量に変更したこと以外は、樹脂微粒子Aの合成と同様にして、上記ポリマーAからなる樹脂微粒子Bの水性分散物を調製した。得られた樹脂微粒子Bの水性分散物はpH8.0、固形分濃度20質量%であった。水性分散液中の樹脂微粒子Bの、体積平均粒径の上記測定装置による測定値及びガラス転移温度の下記方法による測定値を、それぞれ、表1に示す。
上記樹脂微粒子Aの水性分散物(100g)と、上記樹脂微粒子Bの水性分散物(100g)とを混合し、樹脂微粒子A及びBを含む樹脂微粒子セットP−1の水性分散物(水性分散物中の、樹脂微粒子Aと樹脂微粒子Bの質量比は50:50)を得た。
得られた樹脂微粒子セットP−1の水性分散物は、pH8.0、固形分濃度20質量%であった。樹脂微粒子Aと樹脂微粒子Bとのガラス転移温度の差の絶対値、各構造単位(I)の最長原子数を、それぞれ、下記表1に示す。
以降で調製する樹脂微粒子の体積平均粒径及びTgも、上記の測定装置、測定方法により測定した。
樹脂微粒子セットP−1の水性分散物の調製において使用するモノマーの種類と量を、上記構造単位を導くモノマーの種類と量に変更し、更に、各樹脂微粒子セットの水性分散物中の、樹脂微粒子Aと樹脂微粒子Bとの質量比が表1に示す質量比となる割合で、各樹脂微粒子セットに用いる水性分散物を混合したこと以外は、樹脂微粒子セットP−1の水性分散物の調製と同様にして、樹脂微粒子セットP−2〜P−13及びCP−1〜CP−7の水性分散物をそれぞれ得た。また、必要により、ナトリウム塩を用いて常法によりY1をナトリウム塩に変換した。例えば、樹脂微粒子セットP−8は、上述のようにして調製した樹脂微粒子Aの水性分散物(140g)と樹脂微粒子Bの水性分散物(60g)とを混合して、樹脂微粒子セットP−8の水性分散物を得た。
得られた樹脂微粒子セットP−2〜P−13及びCP−1〜CP−7の各物性を表1に示す。
表1において、「−」は、樹脂微粒子(ポリマー)又は構造単位が存在しないため、測定不能であることを示す。
<水性インク組成物の調製>
(ブラックインク組成物K−1の調製)
−水溶性ポリマー分散剤Q−1の合成−
メタクリル酸(172部)と、メタクリル酸ベンジル(828部)と、イソプロパノール(375部)とを混合することにより、モノマー供給組成物を調製した。また、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(22.05部)と、イソプロパノール(187.5部)とを混合することにより、開始剤供給組成物を調製した。
次に、イソプロパノール(187.5部)を窒素雰囲気下、80℃に加温し、そこに、上記モノマー供給組成物及び上記開始剤供給組成物の混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、得られた溶液を更に4時間、80℃に保った後、25℃まで冷却した。
冷却後、溶剤を減圧除去することにより、重量平均分子量約30,000、酸価112mgKOH/gの水溶性ポリマー分散剤Q−1を得た。
上記で得られた水溶性ポリマー分散剤Q−1(150部)中のメタクリル酸量の0.8当量を、水酸化カリウム水溶液を用いて中和した後、水溶性ポリマー分散剤濃度が25質量%となるように、更にイオン交換水を加えて調整し、水溶性ポリマー分散剤水溶液を得た。
この水溶性ポリマー分散剤水溶液(124部)と、カーボンブラックMA−100(ブラック顔料)(48部)と、水(75部)と、ジプロピレングリコール(30部)とを混合し、ビーズミル(ビーズ径0.1mmφ、ジルコニアビーズ)で所望の体積平均粒径を得るまで分散し、顔料濃度15%のポリマー被覆ブラック顔料粒子の分散物(未架橋分散物)を得た。
この未架橋分散物(136部)に、架橋剤:Denacol EX−321(ナガセケムテックス社製)(1.3部)と、ホウ酸水溶液(ホウ酸濃度:4質量%)(14.3部)とを添加し、50℃にて6時間半反応させた後、25℃に冷却し、架橋分散物を得た。次に、得られた架橋分散物にイオン交換水を加え、攪拌型ウルトラホルダー(ADVANTEC社製)及び限外ろ過フィルター(ADVANTEC社製、分画分子量5万、Q0500076Eウルトラフィルター)を用いて限外ろ過を行った。架橋分散物中のジプロピレングリコール濃度が0.1質量%以下となるように精製した後、顔料濃度が15質量%となるまで濃縮することにより、ブラック顔料分散物を得た。ブラック顔料分散物に含まれる顔料は、水溶性ポリマー分散剤Q−1が架橋剤により架橋された架橋ポリマーで表面が被覆されているポリマー被覆顔料(カプセル化顔料)である。
下記組成となるように各成分を混合し、各ポリマー含有インク組成物を調液した。調液後、1μmフィルターを用いて粗大粒子を除去し、ブラックインク組成物K−1を調製した。ブラックインク組成物K−1中の樹脂微粒子セットP−1の含有量は5質量%であった。
〔組成〕
ブラック顔料分散物:ブラック顔料の濃度が4質量部となる量
水溶性有機溶剤1:ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(和光純薬工業(株)社製):3質量部
水溶性有機溶剤2:ジエチレングリコール(和光純薬工業(株)社製):15質量部
上記樹脂微粒子セットP−1の水性分散物(固形分濃度25質量%):20質量部
界面活性剤CapstoneFS−3100(DuPont社製):0.1質量部
水:残部
合計:100質量部
ブラックインク組成物K−1の調製において、樹脂微粒子セットP−1の水性分散物に代えて樹脂微粒子セットP−2〜P−13及びCP−1〜CP−7の各水性分散物(各ブラックインク組成物中の樹脂微粒子セットの含有量を5質量%に設定した。)を用いたこと以外は、ブラックインク組成物K−1と同様にして、水性インク組成物としてのブラックインク組成物K−2〜K−13及びCK−1〜CK−7をそれぞれ調製した。
上記で調製したブラックインク組成物の粘度は、30℃においていずれも3〜15mPa・sの範囲内にあった。この粘度は、VISCOMETER TV−22(TOKI SANGYO CO.LTD 製)にて測定した。
また、表面張力は、協和界面科学社製CBVP−Zを用いて、白金プレート法で測定した。上記で調製したブラックインク組成物の表面張力は、いずれも20〜60mN/mの範囲内にあった。
上記の如く調製した各ブラックインク組成物(以下、単に「インク」ということがある。)について、下記試験を行った。結果を下記表2に示す。
下記インク付与条件により、記録媒体(「画彩 写真仕上げPro」、富士フイルム社製)上に画像を直接描画し、乾燥させた。その後、ノズルチェックパターン画像を1枚描画した(ここでの画像を「初期画像サンプル」とする。)。その後、記録ヘッドノズル部の環境を25℃、50%RHの環境に保ち、30分放置及び15時間放置した。所定時間放置後、再び上記で用いたものと同じ記録媒体上に、上記と同じノズルチェックパターン画像を1枚描画した(ここでの画像を、「30分放置後画像サンプル」及び「15時間放置後画像サンプル」とし、両者を併せて「放置後画像サンプル」とする。)。
放置後画像サンプルそれぞれについて、光学顕微鏡によりノズルチェックパターン画像でノズルの抜け(画像抜け)を観察し、吐出率を求め、下記の評価基準に従って不吐出の有無を評価した。本試験においては、30分放置後及び15時間放置後のいずれにおいても、「B」以上が合格レベルである。
なお、吐出率(%)は、「(放置後画像サンプルでの吐出ノズル数/初期画像サンプルでの吐出ノズル数)×100」から求めた。
・ヘッド :1,200dpi(dot per inch)/20inch幅ピエゾフルラインヘッドを用いた。
・吐出液滴量:2.4pLとした。
・駆動周波数:24kHz(記録媒体搬送速度500mm/sec)とした。
AA:吐出率が95%以上である。
A:吐出率が90%以上95%未満である。
B:吐出率が85%以上90%未満である。
C:吐出率が80%以上85%未満である。
耐擦性試験は、上記<レイテンシ(放置回復性)試験>において、30分放置後のレイテンシの結果が評価ランク「B」以上である各インクについて、行った。すなわち、30分放置後のレイテンシの結果が評価ランク「C」である比較例2、3、6及び7については、既にインク性能が悪いため、耐擦性試験を行っていない(表2において「−」で示す。)。
下記インク付与条件により、記録媒体としてコート紙(商品名「OKトップコート+」、王子製紙社製)上に、所定の各ブラックインクによりブラック色の、記録デューティ100%のベタ画像を直接形成した。記録デューティ100%とは、解像度1200dpi×1200dpiで1/1200インチ×1/1200インチ(1インチ=2.54cm)の単位領域(1画素)に約2.4pLのインクを1滴付与する条件で記録された画像をいう。
〜インク付与条件〜
・ヘッド:1,200dpi(dot per inch)/20inch幅ピエゾフルラインヘッド
・吐出量:2.4pL
・駆動周波数:30kHz(記録媒体搬送速度635mm/sec)
・シングルパス方式
こうにして形成したベタ画像を、24時間25℃、相対湿度50%の環境下に放置した。ベタ画像の表面を2×104N/m2の荷重をかけたシルホン紙により50回擦過した。ベタ画像の擦過表面の状態を目視で確認し、以下に示す評価基準に従って画像の耐擦性を評価した。本試験においては、「B」以上が合格レベルである。
AA:擦過表面に擦過痕が確認できず、擦り紙(シルホン紙)にも画像(インク)の転写が認められなかった。
A:擦過表面に擦過痕が確認できないが、擦り紙に接触面積の5%未満の面積率で画像の転写が認められた。
B:擦過表面にわずかに擦過痕が確認できた。
C:擦過表面に擦過痕が確認でき、記録媒体の白地(表面)が見えていた。
耐ブロッキング性試験は、上記<レイテンシ(放置回復性)試験>において、30分放置後のレイテンシの結果が評価ランク「B」以上である各インクについて、行った。すなわち、30分放置後のレイテンシの結果が評価ランク「C」である比較例2、3、6及び7については、既にインク性能が悪いため、耐ブロッキング性試験を行っていない(表2において「−」で示す。)。
上記<耐擦性試験>におけるインク付与条件と同じインク付与条件にて、記録媒体としてコート紙(商品名「OKトップコート+」、王子製紙社製)上に、所定の各ブラックインクによりブラック色の、記録デューティ100%のベタ画像を直接印字した。印字直後、60℃の温風で2秒乾燥させ、印字サンプルとした。
印字サンプルを3cm四方のサイズで2枚に裁断した。次に2枚の印字面同士が向かい合うように、4角を合わせて重ねた。これを、80℃のホットプレート上に載置した。その上に2.0cm×2.0cmの面を紙側に向けて2.0cm×2.0cm×0.3cmの平板のゴム版を置き、更にその上に2.0cm×2.0cmの面をゴム版に向けて2.0cm×2.0cm×0.3cmの平板のプラスチック版を置いた。プラスチック版の上に500gの分銅を載せて1時間静置した後、重ね合わせた2枚の紙を剥がして、下記評価基準に従って耐ブロッキング性を評価した。本試験においては、「B」以上が合格レベルである。
A:自然に剥がれた。又は、剥がすときに抵抗があったが、印字サンプルの色移りはなかった。
B:印字面の面積の10%未満の範囲に印字サンプルの色移りが認められたが、実用上問題のないレベルであった。
C:印字面の面積の10%以上の広い範囲に印字サンプルの色移りが認められ、実用上問題になるレベルであった。
これに対して、本発明で規定する樹脂微粒子を含有する実施例のインクジェット記録用水性インク組成物(K−1〜K−13)は、いずれも、レイテンシ、耐擦性及び耐ブロッキング性を高い水準で兼ね備える。すなわち、実施例のインクジェット記録用水性インク組成物は、優れたレイテンシを示すにもかかわらず、記録媒体上に吐出(着弾)されると、記録媒体が上記低吸水性記録媒体又は非吸水性記録媒体であっても、高い耐擦性及び耐ブロッキング性を示す画像を記録媒体上に直接形成できることが分かる。
Claims (11)
- 前記一般式(1)で表される構造単位が下記一般式(2)又は下記一般式(3)で表される構造単位である請求項1に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
一般式(2)及び一般式(3)中、R1及びY1は前記一般式(1)におけるR1及びY1と同義である。A1は−O−又は−N(R3)−を示し、R3は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。L1は炭素数6〜30の2価の連結基を示す。L2は単結合、−C(=O)O−又は−C(=O)N(R4)−を示し、R4は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。一般式(2)中の−C(=O)−A1−L1−Y1で示される基及び一般式(3)中の−L2−ベンゼン環−C(=O)−A1−L1−Y1で示される基のうち、最長鎖を構成する原子の結合数は、それぞれ、9〜60である。 - 前記Y1が、−C(=O)OM、−S(=O)2OM又は−OP(=O)(OM)2であり、前記Mが水素原子、アルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンである請求項1又は2に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
- 前記Y1が、−C(=O)OMであり、前記Mが水素原子、アルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンである請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
- 前記樹脂微粒子Aを形成するポリマーが、芳香族環又は脂肪族環を有するエチレン性不飽和化合物由来の構造単位を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
- 前記の、芳香族環又は脂肪族環を有するエチレン性不飽和化合物由来の構造単位が、下記一般式(A)〜(E)のいずれかで表される請求項5に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
一般式(A)〜(E)中、R11及びR12はメチル又は水素原子を示す。R13は直鎖状又は分岐鎖状の炭素数が1〜10のアルキル基を示す。一般式(A)及び一般式(B)中のnは0〜5の整数であり、一般式(C)中のnは0〜11の整数である。L11は単結合、炭素数1〜18の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキレン基、炭素数6〜18のアリーレン基、−O−、−NH−、−S−若しくは−C(=O)−、又は、これらを2個以上連結して形成される2価の連結基を示す。 - 前記樹脂微粒子Aを形成するポリマー中の、前記一般式(A)〜(E)のいずれかで表される構造単位の含有量が10〜70質量%である請求項6に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
- 前記樹脂微粒子の含有量が、インクジェット記録用水性インク組成物の全質量に対して1〜15質量%である請求項1〜7のいずれか1項に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
- 顔料を含有する請求項1〜8のいずれか1項に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
- 請求項9に記載のインクジェット記録用水性インク組成物をインクジェット法により記録媒体上に付与して画像を形成するインク付与工程を含む、画像形成方法。
- 前記インクジェット記録用水性インク組成物を、低吸水性記録媒体又は非吸水性記録媒体上に直接付与する請求項10に記載の画像形成方法。
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