以下、本発明のブレーキ制御装置を実現する形態を、図面に示す実施例に基づき説明する。
[実施例1]
[構成]
まず、構成を説明する。図1は、実施例1のブレーキ制御装置(以下、装置1という。)の概略構成を示す。装置1は、車輪を駆動する原動機として、エンジン(内燃機関)のほかモータジェネレータ(回転電機)を備えたハイブリッド車や、モータジェネレータのみを備えた電気自動車等の、電動車両のブレーキシステムに好適な液圧式ブレーキ装置である。なお、エンジンのみを駆動力源とする車両に装置1を適用してもよい。装置1は、車両の各車輪FL〜RRに設けられたホイルシリンダ8にブレーキ液を供給してブレーキ液圧(ホイルシリンダ液圧)を発生させることで、各車輪FL〜RRに液圧制動力を付与する。ここで、ホイルシリンダ8は、ドラムブレーキ機構のホイルシリンダのほか、ディスクブレーキ機構における油圧式ブレーキキャリパのシリンダであってもよい。装置1は2系統(P(プライマリ)系統及びS(セカンダリ)系統)のブレーキ配管を有しており、例えばX配管形式を採用している。なお、前後配管等、他の配管形式を採用してもよい。以下、P系統に対応して設けられた部材とS系統に対応する部材とを区別する場合は、それぞれの符号の末尾に添字P,Sを付す。
ブレーキペダル2は、運転者(ドライバ)のブレーキ操作の入力を受けるブレーキ操作部材である。ブレーキペダル2には、ブレーキペダル2の変位量を検出するストロークセンサ90が設けられている。ブレーキペダル2の変位量は、運転者によるブレーキ操作量としてのペダルストロークである。なお、ストロークセンサ90は、ペダルストロークとして、マスタシリンダ5のピストン(例えば後述するプライマリピストン52P)の変位量を検出することとしてもよい。ブレーキペダル2の根元側にはプッシュロッド30の一端が回転自在に接続されている。
リザーバタンク(リザーバ)4は、ブレーキ液を貯留するブレーキ液源であり、大気圧に開放される低圧部である。マスタシリンダ5は、運転者によるブレーキペダル2の操作(ブレーキ操作)により作動して、ブレーキ液圧(マスタシリンダ液圧)を発生する。マスタシリンダ5は、プッシュロッド30を介してブレーキペダル2に接続されると共に、リザーバタンク4からブレーキ液を補給される。マスタシリンダ5は、タンデム型であり、運転者のブレーキ操作に応じて軸方向に移動するマスタシリンダピストンとして、プッシュロッド30に接続されるプライマリピストン52Pと、フリーピストン型のセカンダリピストン52Sとを備えている。なお、本実施例において、装置1は、車両のエンジンが発生する吸気負圧を利用してブレーキ操作力(ペダル踏力)を倍力ないし増幅する負圧式の倍力装置を備えていない。
装置1は、液圧制御ユニット6と電子制御ユニット100を備えている。液圧制御ユニット6は、リザーバタンク4又はマスタシリンダ5からブレーキ液の供給を受け、運転者によるブレーキ操作とは独立にブレーキ液圧を発生可能な制動制御ユニットである。電子制御ユニット(以下、ECUという)100は、液圧制御ユニット6の作動を制御するコントロールユニットである。
液圧制御ユニット6は、ホイルシリンダ8とマスタシリンダ5との間に設けられており、各ホイルシリンダ8にマスタシリンダ液圧又は制御液圧を個別に供給可能である。液圧制御ユニット6は、制御液圧を発生するための液圧機器(アクチュエータ)として、ポンプ7のモータ7a及び複数の制御弁(電磁弁21等)を有している。ポンプ7は、電動式のモータ7a(回転電機)により回転駆動されてリザーバタンク4からブレーキ液を吸入し、ホイルシリンダ8に向けて吐出する。ポンプ7として、本実施例では、音振性能等で優れたギヤポンプ、具体的には外接歯車式のポンプユニットを採用する。ポンプ7は両系統で共通に用いられ、同一の駆動源としてのモータ7aにより駆動される。モータ7aとして、例えばブラシ付きモータを用いることができる。モータ7aには、モータ7aの出力軸の回転位置(回転角)を検出するレゾルバが設けられている。電磁弁21等は、制御信号に応じて開閉動作してブレーキ液の流れを制御する。液圧制御ユニット6は、マスタシリンダ5とホイルシリンダ8との連通を遮断した状態で、ポンプ7が発生する液圧によりホイルシリンダ8を加圧可能に設けられている。液圧制御ユニット6は、ストロークシミュレータ22を備えている。ストロークシミュレータ22は、運転者のブレーキ操作に応じて作動し、マスタシリンダ5からブレーキ液が流入することでペダルストロークを創生する。また、液圧制御ユニット6は、ポンプ7の吐出圧やマスタシリンダ液圧等、各所の液圧を検出する液圧センサ91〜93を備えている。
ECU100には、レゾルバ、ペダルストロークセンサ90、及び液圧センサ91〜93から送られる検出値、並びに車両側から送られる走行状態に関する情報が入力される。ECU100は、これら各種情報に基づき、内蔵されるプログラムに従って情報処理を行う。また、この処理結果に従って液圧制御ユニット6の各アクチュエータに制御指令を出力し、これらを制御する。具体的には、油路11等の連通状態を切り替える電磁弁21等の開閉動作や、ポンプ7を駆動するモータ7aの回転数(すなわちポンプ7の吐出量)を制御する。これにより、各車輪FL〜RRのホイルシリンダ液圧を制御することで、運転者のブレーキ操作力では不足する液圧制動力を発生してブレーキ操作を補助する倍力制御や、制動による車輪FL〜RRのスリップ(ロック傾向)を抑制するためのアンチロック制御や、車両の運動制御(横滑り防止等の車両挙動安定化制御。以下、ESC)のためのブレーキ制御や、先行車追従制御等の自動ブレーキ制御や、回生ブレーキと協調して目標減速度(目標制動力)を達成するようにホイルシリンダ液圧を制御する回生協調ブレーキ制御等を実現する。
マスタシリンダ5は、後述する第1油路11を介してホイルシリンダ8と接続しており、ホイルシリンダ液圧を増圧可能な第1の液圧源である。マスタシリンダ5は、第1液圧室(プライマリ室)51Pに発生したマスタシリンダ液圧によりP系統の油路(第1油路11P)を介してホイルシリンダ8a,8dを加圧可能であると共に、第2液圧室(セカンダリ室)51Sに発生したマスタシリンダ液圧によりS系統の油路(第1油路11S)を介してホイルシリンダ8b,8cを加圧可能である。マスタシリンダ5のピストン52は、有底筒状のシリンダ50に、その内周面に沿って軸方向移動可能に挿入されている。シリンダ50は、吐出ポート(供給ポート)501と補給ポート502とをP,S系統毎に備えている。吐出ポート501は、液圧制御ユニット6に接続してホイルシリンダ8と連通可能に設けられている。補給ポート502は、リザーバタンク4に接続してこれと連通している。両ピストン52P,52Sの間の第1液圧室51Pには、戻しばねとしてのコイルスプリング53Pが押し縮められた状態で設置されている。ピストン52Sとシリンダ50の軸方向端部との間の第2液圧室51Sには、コイルスプリング53Sが押し縮められた状態で設置されている。第1,第2液圧室51P,51Sには吐出ポート501が常時開口する。
シリンダ50の内周にはピストンシール54(図中、541,542に相当)が設置されている。ピストンシール54は、各ピストン52P,52Sに摺接して各ピストン52P,52Sの外周面とシリンダ50の内周面との間をシールする複数のシール部材である。各ピストンシール54は、内径側にリップ部を備える周知の断面カップ状のシール部材(カップシール)である。リップ部がピストン52の外周面に接した状態では、一方向へのブレーキ液の流れを許容し、他方向へのブレーキ液の流れを抑制する。第1ピストンシール541は、補給ポート502から第1,第2液圧室51P,51S(吐出ポート501)へ向かうブレーキ液の流れを許容し、逆方向のブレーキ液の流れを抑制する。第2ピストンシール542は、補給ポート502へ向かうブレーキ液の流れを許容し、補給ポート502からのブレーキ液の流出を抑制する。第1,第2液圧室51P,51Sは、運転者によるブレーキペダル2の踏込み操作によってピストン52がブレーキペダル2とは軸方向反対側にストロークすると容積が縮小し、液圧(マスタシリンダ液圧)を発生する。これにより、第1,第2液圧室51P,51Sから吐出ポート501を介してホイルシリンダ8に向けてブレーキ液が供給される。なお、P系統とS系統では、第1,第2液圧室51P,51Sに略同じ液圧が発生する。
以下、液圧制御ユニット6のブレーキ液圧回路を図1に基づき説明する。各車輪FL〜RRに対応する部材には、その符号の末尾にそれぞれ添字a〜dを付して適宜区別する。第1油路11は、マスタシリンダ5の吐出ポート501(第1,第2液圧室51P,51S)とホイルシリンダ8とを接続する。カット弁(遮断弁)21は、第1油路11に設けられた常開型の(非通電状態で開弁する)電磁弁である。第1油路11は、カット弁21によって、マスタシリンダ5側の油路11Aとホイルシリンダ8側の油路11Bとに分離される。ソレノイドイン弁(増圧弁)SOL/V IN25は、第1油路11におけるカット弁21よりもホイルシリンダ8側(油路11B)に、各車輪FL〜RRに対応して(油路11a〜11dに)設けられた常開型の電磁弁である。なお、SOL/V IN25をバイパスして第1油路11と並列にバイパス油路110が設けられている。バイパス油路110には、ホイルシリンダ8側からマスタシリンダ5側へのブレーキ液の流れのみを許容するチェック弁(一方向弁)250が設けられている。
吸入油路15は、リザーバタンク4とポンプ7の吸入部70とを接続する。吐出油路16は、ポンプ7の吐出部71と、第1油路11(油路11B)におけるカット弁21とSOL/V IN25との間とを接続する。チェック弁160は、吐出油路16に設けられ、吐出部71の側から第1油路11の側へのブレーキ液の流れのみを許容する、ポンプ7の吐出弁である。吐出油路16は、チェック弁160の下流側の位置P1でP系統の吐出油路16PとS系統の吐出油路16Sとに分岐している。各油路16P,16SはそれぞれP系統の第1油路11PとS系統の第1油路11Sに接続している。吐出油路16P,16Sは、第1油路11P,11Sを互いに接続する連通路を構成している。連通弁26Pは、吐出油路16Pに設けられた常閉型の(非通電状態で閉弁する)電磁弁である。連通弁26Sは、吐出油路16Sに設けられた常閉型の電磁弁である。ポンプ7は、リザーバタンク4から供給されたブレーキ液により第1油路11に液圧を発生可能な第2の液圧源である。ポンプ7は、上記連通路(吐出油路16P,16S)及び第1油路11P,11Sを介してホイルシリンダ8a〜8dと接続しており、上記連通路(吐出油路16P,16S)にブレーキ液を吐出することでホイルシリンダ液圧を増圧可能である。
第1減圧油路17は、吐出油路16におけるチェック弁160と連通弁26との間と吸入油路15とを接続する。本実施例においては、第1減圧油路17は、位置P1と位置P2との間を接続している。調圧弁27は、第1減圧油路17に設けられた第1減圧弁としての常開型の電磁弁である。第2減圧油路18は、第1油路11(油路11B)におけるSOL/V IN25よりもホイルシリンダ8側と吸入油路15とを接続する。本実施例においては、第2減圧油路18は、位置P3と位置P4との間を接続している。ソレノイドアウト弁(減圧弁)SOL/V OUT28は、第2減圧油路18に設けられた第2減圧弁としての常閉型の電磁弁である。
第2油路12は、第1油路11Pの位置P5から分岐し、ストロークシミュレータ22に接続する分岐油路である。ストロークシミュレータ22は、ピストン220とスプリング221を有している。ピストン220は、ストロークシミュレータ22のシリンダ22a内を2室(正圧室R1と背圧室R2)に分離する隔壁であり、シリンダ22a内を軸方向に移動可能に設けられている。なお、軸方向とは、スプリング221が収縮する方向を指す。シリンダ22aの内周面に対向するピストン220の外周面には、図外のシール部材が設置されている。このシール部材は、ピストン220の外周側をシールすることで、正圧室(主室)R1と背圧室(副室)R2との間のブレーキ液の流通を抑制し、両室R1,R2間の液密性を保つ。スプリング221は、背圧室R2内に押し縮められた状態で設置されたコイルスプリング(弾性部材)であり、ピストン220を正圧室R1の側(正圧室R1の容積を縮小し、背圧室R2の容積を拡大する方向)に常時付勢する付勢手段である。スプリング221は、ピストン220の変位量(ストローク量)に応じて反力を発生可能に設けられている。
第2油路12は、第1油路11Pにおけるマスタシリンダ5の吐出ポート501P(第1液圧室51P)とカット弁21Pとの間(油路11A)の位置P5から分岐して、ストロークシミュレータ22の正圧室R1に接続する。第3油路13は、ストロークシミュレータ22の背圧室R2と第1油路11とを接続する第1の背圧油路である。具体的には、第3油路13は、第1油路11P(油路11B)におけるカット弁21PとSOL/V IN25との間の位置P6から分岐して、ストロークシミュレータ22の背圧室R2に接続する。ストロークシミュレータイン弁SS/V IN23は、第3油路13に設けられた常閉型の第1シミュレータカット弁である。第3油路13は、SS/V IN23によって、背圧室R2側の油路13Aと第1油路11側の油路13Bとに分離される。第4油路14は、ストロークシミュレータ22の背圧室R2とリザーバタンク4とを接続する第2の背圧油路である。具体的には、第4油路14は、第3油路13における背圧室R2とSS/V IN23との間の油路13Aと、吸入油路15とを接続する。ストロークシミュレータアウト弁SS/V OUT24は、第4油路14に設けられた常閉型の第2シミュレータカット弁である。なお、第4油路14を背圧室R2やリザーバタンク4に直接的に接続することとしてもよい。本実施例では、第4油路14の背圧室R2側の一部を第3油路13と共通化し、第4油路14のリザーバタンク4側の一部を吸入油路15と共通化しているため、油路の構成を全体として簡素化できる。なお、第4油路14を背圧室R2に直接的に接続する油路として捉えた場合には、第3油路13は、第4油路14における背圧室R2とSS/V OUT24との間と、油路11Bとを接続していることとなる。言換えると、油路13Aは第4油路14の一部となり、第3油路13は油路13Bのみからなることとなる。
カット弁21、SOL/V IN25、及び調圧弁27は、ソレノイドに供給される電流に応じて弁の開度が調整される比例制御弁である。他の弁、すなわち連通弁26、SOL/V OUT28、SS/V OUT24、及びSS/V IN23は、弁の開閉が二値的に切り替え制御されるオン・オフ弁である。なお、上記他の弁に比例制御弁を用いることも可能である。第1油路11Pにおけるカット弁21Pとマスタシリンダ5との間(油路11A)には、この箇所の液圧(マスタシリンダ液圧及びストロークシミュレータ22の正圧室R1内の液圧)を検出する液圧センサ91が設けられている。なお、第2油路12に液圧センサ91を設けることとしてもよい。第1油路11におけるカット弁21とSOL/V IN25との間には、この箇所の液圧(ホイルシリンダ液圧)を検出する液圧センサ(プライマリ系統圧センサ、セカンダリ系統圧センサ)92が設けられている。第1減圧油路17における吐出油路16の接続部位と調圧弁27との間には、この箇所の液圧(ポンプ吐出圧)を検出する液圧センサ93が設けられている。なお、吐出油路16におけるポンプ7の吐出部71(チェック弁160)と連通弁26との間に液圧センサ93を設けることとしてもよい。
液圧制御ユニット6は、第1ユニット61と第2ユニット62からなる。第1ユニット61は、ストロークシミュレータ22を備えるほか、上記各アクチュエータ及びセンサのうち、P系統のカット弁21Pと、SS/V IN23と、SS/V OUT24と、液圧センサ91とを有している。第2ユニット62は、ポンプ7を備えるほか、その他のアクチュエータ及びセンサ、すなわち上記以外の弁21S,25〜28及び液圧センサ92,93と、モータ7aとを有している。第2ユニット62にはECU100が一体的に取付けられている。第1ユニット61は、マスタシリンダ5及びリザーバタンク4からなるユニットと一体に設けられている。言換えると、マスタシリンダ5とストロークシミュレータ22は別々のハウジングに設けられている。ストロークシミュレータ22を収容する第1ユニット61は、マスタシリンダ5に一体的に設置されており、これらは全体として1つのユニットを構成している。ポンプ7は、マスタシリンダ5やストロークシミュレータ22とは別々のハウジングに設けられている。ポンプ7と各弁21S,25〜28とは同一のハウジングに設けられており、1つの液圧ユニット(第2ユニット62)を構成している。第1,第2ユニット61,62は、ECU100からの制御指令に応じて各々のアクチュエータを制御することで、マスタシリンダ液圧及びホイルシリンダ液圧を能動制御可能に設けられている。
カット弁21が開弁方向に制御された状態で、マスタシリンダ5の液圧室51とホイルシリンダ8とを接続するブレーキ系統(第1油路11)は、ペダル踏力を用いて発生させたマスタシリンダ液圧によりホイルシリンダ液圧を創生する第1の系統を構成し、踏力ブレーキ(非倍力制御)を実現する。一方、カット弁21が閉弁方向に制御された状態で、ポンプ7を含み、リザーバタンク4とホイルシリンダ8を接続するブレーキ系統(吸入油路15、吐出油路16等)は、ポンプ7を用いて発生させた液圧によりホイルシリンダ液圧を創生する第2の系統を構成し、倍力制御等を実現する所謂ブレーキバイワイヤ装置を構成する。
ブレーキバイワイヤ制御時、ストロークシミュレータ22は、運転者のブレーキ操作に伴う操作反力を創生する。カット弁21が閉弁方向に制御され、マスタシリンダ5とホイルシリンダ8との連通が遮断された状態で、ストロークシミュレータ22は、少なくともマスタシリンダ5(第1液圧室51P)から第1油路11Pへ流れ出たブレーキ液が第2油路12を介して正圧室R1内部に流入することで、ペダルストロークを創生する。ストロークシミュレータ22は、SS/V OUT24が開弁方向に制御されて背圧室R2とリザーバタンク4とが連通した状態で、運転者がブレーキ操作を行う(ブレーキペダル2を踏込み又は踏み戻す)と、その正圧室R1がマスタシリンダ5からのブレーキ液を吸排して、ペダルストロークを創生する。具体的には、正圧室R1におけるピストン220の受圧面に作用する油圧(正圧としてのマスタシリンダ液圧)と背圧室R2におけるピストン220の受圧面に作用する油圧(背圧)との差圧が所定以上になると、ピストン220がスプリング221を押し縮めつつ背圧室R2の側に軸方向に移動し、正圧室R1の容積が拡大する。これにより、正圧室R1にマスタシリンダ5(吐出ポート501P)から油路(第1油路11P及び第2油路12)を介してブレーキ液が流入すると共に、背圧室R2から第4油路14を介してリザーバタンク4へブレーキ液が排出される。なお、第4油路14はブレーキ液が流入可能な低圧部に接続していればよく、必ずしもリザーバタンク4に接続している必要はない。上記差圧が所定未満に減少すると、スプリング221の付勢力(弾性力)によりピストン220が初期位置に向けて復帰する。また、ピストン220の移動量に応じたスプリング221の反力がピストン220に作用することで、ブレーキペダル2の操作に応じたブレーキペダル2の反力(以下、ペダル反力という。)が創生される。ストロークシミュレータ22は、このようにマスタシリンダ5からのブレーキ液を吸入し、ペダル反力を発生させることで、ホイルシリンダ8の液剛性を模擬して適切なペダル踏込み感を再現する。
ECU100は、ブレーキ操作状態検出部101と、目標ホイルシリンダ液圧算出部102と、踏力ブレーキ創生部103と、ホイルシリンダ液圧制御部104とを備えている。ブレーキ操作状態検出部101は、ストロークセンサ90の検出値の入力を受けて、ブレーキ操作量としてのブレーキペダル2の変位量(ペダルストロークS)を検出する。具体的には、ストロークセンサ90の出力値を取得してペダルストロークSを演算する。また、ペダルストロークSに基づき、運転者のブレーキ操作中であるか否か(ブレーキペダル2の操作の有無)を検出すると共に、運転者のブレーキ操作速度を検出ないし推定する。具体的には、ペダルストロークSの変化速度(ペダルストローク速度ΔS/Δt)を演算することで、ブレーキ操作速度を検出ないし推定する。なお、ストロークセンサ90は、ブレーキペダル2の変位量を直接検出するものに限らず、プッシュロッド30の変位量を検出するものであってもよい。また、ブレーキペダル2の踏力を検出する踏力センサを設け、その検出値に基づきブレーキ操作量を検出又は推定することとしてもよい。また、液圧センサ91の検出値に基づきブレーキ操作量を検出又は推定することとしてもよい。すなわち、制御に用いるブレーキ操作量として、ペダルストロークに限らず、他の適当な変数を用いてもよい。
目標ホイルシリンダ液圧算出部102は、目標ホイルシリンダ液圧を算出する。例えば、倍力制御時には、検出されたペダルストロークに基づき、所定の倍力比に応じてペダルストロークと運転者の要求ブレーキ液圧(運転者が要求する車両減速度G)との間の理想の関係特性を実現する目標ホイルシリンダ液圧Pw*を算出する。本実施例では、例えば、通常サイズの負圧式倍力装置を備えたブレーキ装置において、負圧式倍力装置の作動時に実現されるペダルストロークとホイルシリンダ液圧(制動力)との間の所定の関係特性を、目標ホイルシリンダ液Pw*圧を算出するための上記理想の関係特性とする。また、アンチロック制御時には、各車輪FL〜RRのスリップ量(擬似車体速に対する当該車輪の速度の乖離量)が適切なものとなるよう、各車輪FL〜RRの目標ホイルシリンダ液圧Pw*を算出する。ESC時には、例えば検出された車両運動状態量(横加速度等)に基づき、所望の車両運動状態を実現するよう、各車輪FL〜RRの目標ホイルシリンダ液圧Pw*を算出する。回生協調ブレーキ制御時には、回生制動力との関係で目標ホイルシリンダ液圧Pw*を算出する。例えば、回生制動装置のコントロールユニットから入力される回生制動力と目標ホイルシリンダ液圧に相当する液圧制動力との和が、運転者の要求する車両減速度を充足するような目標ホイルシリンダ液圧Pw*を算出する。
踏力ブレーキ創生部103は、カット弁21を開弁方向に制御することで、液圧制御ユニット6の状態を、マスタシリンダ液圧(第1の系統)によりホイルシリンダ液圧を創生可能な状態とし、踏力ブレーキを実現する。このとき、SS/V OUT24を閉弁方向に制御し、SS/V IN23も閉弁方向に制御することで、運転者のブレーキ操作に対してストロークシミュレータ22を非作動とする。なお、SS/V IN23を開弁方向に制御することとしてもよい。
ホイルシリンダ液圧制御部104は、カット弁21を閉弁方向に制御することで、液圧制御ユニット6の状態を、ポンプ7(第2の系統)によりホイルシリンダ液圧を創生(増圧制御)可能な状態とする。この状態で、液圧制御ユニット6の各アクチュエータを制御して目標ホイルシリンダ液圧を実現する液圧制御(例えば倍力制御)を実行する。具体的には、カット弁21を閉弁方向に制御し、連通弁26を開弁方向に制御し、調圧弁27を閉弁方向に制御すると共に、ポンプ7を作動させる。このように制御することで、所望のブレーキ液をリザーバタンク4から、吸入油路15、ポンプ7、吐出油路16、及び第1油路11を経由してホイルシリンダ8に送ることが可能である。このとき、液圧センサ92の検出値が目標ホイルシリンダ液圧に近づくようにポンプ7の回転数や調圧弁27の開弁状態(開度等)をフィードバック制御することで、所望の制動力を得ることができる。すなわち、調圧弁27の開弁状態を制御し、吐出油路16ないし第1油路11から調圧弁27を介して吸入油路15へブレーキ液を適宜漏らすことで、ホイルシリンダ液圧を調節することができる。調圧弁27の上記制御を、以下、漏らし制御という。本実施例では、基本的に、ポンプ7(モータ7a)の回転数ではなく調圧弁27の開弁状態を変化させること(漏らし制御)によりホイルシリンダ液圧を制御する。例えば、モータ7aの回転数の指令値を、ホイルシリンダ液圧の増圧中に所定の大きな一定値に設定するほかは、ホイルシリンダ液圧の保持又は減圧中、必要最低限のポンプ吐出圧を発生(ポンプ吐出量を供給)するための所定の小さな一定値に保持する。本実施例では、調圧弁27を比例制御弁としているため、細かい制御が可能となり、ホイルシリンダ液圧の滑らかな制御が実現可能となっている。カット弁21を閉弁方向に制御し、マスタシリンダ5側とホイルシリンダ8側とを遮断することで、運転者のペダル操作から独立してホイルシリンダ液圧を制御することが容易となる。
ホイルシリンダ液圧制御部104は、運転者のブレーキ操作(ペダルストローク)に応じた制動力を前後車輪FL〜RRに発生させる通常ブレーキ時には、基本的に倍力制御を行う。倍力制御では、各車輪FL〜RRのSOL/V IN25を開弁方向に制御し、SOL/V OUT28を閉弁方向に制御する。カット弁21P,21Sを閉弁方向に駆動した状態で、調圧弁27を閉弁方向に駆動(開度等をフィードバック制御)し、連通弁26を開弁方向に駆動し、モータ7aの回転数指令値Nm*を所定の一定値に設定してポンプ7を作動させる。SS/V OUT24を開弁方向に駆動し、SS/V IN23を閉弁方向に駆動する。
ホイルシリンダ液圧制御部104は、補助加圧制御部105を有している。補助加圧制御は、運転者のブレーキ操作に伴いストロークシミュレータ22の背圧室R2から流出するブレーキ液をホイルシリンダ8に供給することで、ポンプ7によるホイルシリンダ液圧の発生を補助する制御である。補助加圧制御は、ポンプ7によるホイルシリンダ加圧制御の予備(バックアップ)制御として位置づけられる。補助加圧制御部105は、ホイルシリンダ液圧制御部104による上記通常ブレーキ(倍力制御)時、運転者によるブレーキペダル2の踏込み操作(ペダルストロークの増大)に応じて各車輪FL〜RRのホイルシリンダ液圧を上昇させる(ポンプ7によるホイルシリンダ加圧制御が行われる)際、運転者のブレーキ操作状態に応じて、補助加圧制御を実行する。
具体的には、SS/V OUT24を閉弁方向に制御し、SS/V IN23を開弁方向に制御する。これにより、運転者のブレーキ操作に伴いストロークシミュレータ22の背圧室R2から流出するブレーキ液の流路が、第4油路14を介してリザーバタンク4へ送られる流路から、第3油路13を介して第1油路11P(11B)へ送られる流路へと切替わる。運転者のペダル踏力により背圧室R2から流出するブレーキ液が、第3油路13を介して第1油路11P(11B)へ送られるようになる。これにより、ホイルシリンダ8が加圧され、ポンプ7によるホイルシリンダ8の液圧の発生が補助される。SS/V OUT24とSS/V IN23は、上記流路を切替える切替え部を構成する。補助加圧制御部105は、運転者のブレーキ操作状態が所定の急ブレーキ操作であるか否かを判断し、急ブレーキ操作が行われている(ブレーキペダル2の踏込み速度が速い)と判断した場合、補助加圧制御を実行可能とする。急ブレーキ操作が行われていない(ブレーキペダル2の踏込み速度が速くない)と判断した場合、補助加圧制御を実行しない。ブレーキ操作状態検出部101により検出ないし推定されたブレーキ操作速度が所定値以上である場合に上記所定の急ブレーキ操作であると判断し、上記ブレーキ操作速度が上記所定値より小さい場合に上記所定の急ブレーキ操作でないと判断する。そして、急ブレーキ操作が行われていると判断した場合、検出ないし推定したモータ7aの回転数Nmが所定値Nm0以下であり、かつ検出されたペダルストロークS(ブレーキ操作量)が所定値S0以下のとき、補助加圧制御を実行する。
図2は、ホイルシリンダ液圧制御部104による通常ブレーキ(倍力制御)時の制御の流れを示すフローチャートである。この処理はECU100内にソフトウェアとして組み込まれており、所定周期で繰り返し実行される。ステップS1では、補助加圧制御部105が、ブレーキ操作状態検出部101により検出ないし推定されたブレーキ操作速度(ペダルストローク速度ΔS/Δt)が所定値γ以上であるか否かを判断する。所定値γ以上であれば所定の急ブレーキ操作が行われていると判断してステップS2に進む。所定値γ未満であれば所定の急ブレーキ操作が行われていないと判断してステップS4に進む。ステップS2では、補助加圧制御部105が、レゾルバの検出信号に基づき検出ないし推定したモータ7aの回転数(以下、モータ回転数Nm)が所定値Nm0(補助加圧制御の終了判断閾値)以下であり、かつ、ブレーキ操作状態検出部101により検出されたペダルストロークSが所定値S0(補助加圧制御の終了判断閾値)以下であるか否かを判断する。モータ回転数Nmが所定値Nm0以下であり、かつペダルストロークSが所定値S0以下であると判断するとステップS3に進む。モータ回転数Nmが所定値Nm0より大きいか、又はペダルストロークSが所定値S0より大きいと判断するとステップS4に進む。ステップS3では、補助加圧制御部105が、SS/V IN23を作動させ(開弁方向に制御し)、SS/V OUT24を非作動とし(閉弁方向に制御し)て、補助加圧制御を実行する。ステップS4では、ホイルシリンダ液圧制御部104は、SS/V IN23を非作動とし(閉弁方向に制御し)、SS/V OUT24を作動させ(開弁方向に制御し)て、補助加圧制御を実行しない(終了する)。これにより、通常の倍力制御を実行する。
[作用]
次に、作用を説明する。ホイルシリンダ液圧制御部104は、運転者によるブレーキペダル2の踏込み操作時に、カット弁21を閉弁方向に駆動する。これにより、マスタシリンダ5(第1液圧室51P)から流出するペダルストロークに応じた量のブレーキ液が第2油路12を介してストロークシミュレータ22の正圧室R1へ流入する。正圧室R1においてマスタシリンダ液圧(に相当する液圧)がピストン220を押す力が、背圧室R2においてホイルシリンダ液圧(に相当する液圧)がピストン220を押す力と、スプリング221がピストン220を付勢する力との合計よりも大きければ、ピストン220がスプリング221を押し縮めつつストロークする。これにより、正圧室R1に流入した(ペダルストロークに応じた)量と同等のブレーキ液量が背圧室R2から流出する。
ポンプ7による通常のホイルシリンダ加圧制御の実行時には、SS/V OUT24を開弁方向に制御し、SS/V IN23を閉弁方向に制御する。これにより、ストロークシミュレータ22の背圧室R2と吸入油路15(リザーバタンク4)とが連通すると共に、背圧室R2と第1油路11P(ホイルシリンダ8)との連通が遮断される。背圧室R2から流出したブレーキ液は第4油路14を介してリザーバタンク4へ排出される。一方、ポンプ7が吐出するブレーキ液は吐出油路16を介して第1油路11(11B)に流入する。このブレーキ液が各ホイルシリンダ8に流入することによって、各ホイルシリンダ8が加圧される。すなわち、ポンプ7により第1油路11に発生させた液圧を用いてホイルシリンダ8を加圧する。また、スプリング221と背圧(大気圧に相当する液圧)がピストン220を押す力により、ペダル反力が創生される。
補助加圧制御の実行時には、SS/V OUT24を閉弁方向に制御し、SS/V IN23を開弁方向に制御する。これにより、ストロークシミュレータ22の背圧室R2と吸入油路15(リザーバタンク4)との連通が遮断されると共に、背圧室R2と第1油路11P(ホイルシリンダ8)とが連通する。これにより、運転者のブレーキ操作に伴い背圧室R2から流出するブレーキ液の流路が切替えられる。なお、各連通弁26P,26Sを開弁方向に駆動しているため、背圧室R2は各ホイルシリンダ8と連通する。背圧室R2から流出するブレーキ液は、第3油路13を介して第1油路11Pに流入する。このブレーキ液が各ホイルシリンダ8に流入することによって、各ホイルシリンダ8が加圧される。すなわち、運転者のペダル踏力により作動するストロークシミュレータ22の背圧室R2から流出するブレーキ液を、第3油路13を介して第1油路11P(11B)に供給することで、ホイルシリンダ8を加圧する。また、スプリング221と背圧(ホイルシリンダ液圧に相当する液圧)がピストン220を押す力により、ペダル反力が創生される。
図3は、運転者が急ブレーキ操作を行ったときの装置1の作動状態を示すタイムチャートである。時刻t1以前、運転者はブレーキ操作を行っておらず、ペダルストロークはゼロである。ホイルシリンダ液圧制御部104は液圧制御を実行せず、マスタシリンダ液圧Pm、ホイルシリンダ液圧Pw、及びモータ回転数Nmは、共にゼロである。ブレーキ操作状態検出部101で非ブレーキ操作状態と検出されるため、ホイルシリンダ液圧制御部104は、SS/V OUT24とSS/V IN23を閉弁方向に制御し、ストロークシミュレータ22を非作動とする。時刻t1で、運転者がブレーキ操作を開始し、時刻t5まで、ブレーキペダル2を踏み続ける。時刻t1後、ペダルストロークSがゼロから増大する。時刻t1から時刻t2まで、ペダルストローク速度ΔS/Δtが所定値γ(急ブレーキ操作の判断閾値)未満であるため、図2のフローチャートでステップS1からS4へ進む流れとなり、ホイルシリンダ液圧制御部104が通常のホイルシリンダ加圧制御を実行する。すなわち、モータ7aの回転数の指令値Nm*を所定の大きな一定値に設定する。また、カット弁21を閉弁方向に駆動し、SS/V IN23を閉弁方向に駆動し、SS/V OUT24を開弁方向に駆動する。モータ7aの制御遅れ(応答の遅れ)により、モータ回転数の指令値Nm*に対して実値Nmが追従せず、モータ回転数の実値Nmは未だ増加せずにゼロのままである。よって、ポンプ7は作動せず、ホイルシリンダ液圧Pwはほとんど増大しない。
時刻t2で、ペダルストローク速度ΔS/Δtがγ以上となる。また、ペダルストロークSはS0以下であり、モータ回転数Nm(実値)もNm0以下であるため、ステップS1からS2へ、更にS3へ進む流れとなり、補助加圧制御部105が補助加圧制御を実行する。すなわち、モータ回転数の指令値Nm*を上記一定値に設定し、カット弁21を閉弁方向に駆動したまま、SS/V IN23を開弁方向に駆動し、SS/V OUT24を閉弁方向に駆動する。よって、運転者のブレーキ踏込み操作に伴いストロークシミュレータ22の背圧室R2から流出する、ペダルストロークSに応じた量のブレーキ液が、第3油路13を介して第1油路11Pに供給される。これによりホイルシリンダ8が加圧される。ホイルシリンダ液圧Pwは、マスタシリンダ液圧Pmからスプリング221の付勢力(通常制御時のペダル反力)に相当する液圧を差し引いたものとなり、マスタシリンダ液圧Pmの増大と共に増大する。時刻t3で、モータ7aの回転数の実値Nmがゼロから上昇し始める。ポンプ7が作動を開始し、ポンプ7が吐出するブレーキ液が第1油路11に流入し始める。時刻t4まで、モータ回転数の指令値Nm*に対する実値Nmの不足分が大きいため、ポンプ7が吐出するブレーキ液によるホイルシリンダ液圧Pwの増大代は少ない。
時刻t4で、ペダルストロークSがS0より大きくなる。又は、モータ回転数Nm(実値)がNm0より大きくなる。このため、ステップS1からS2へ、更にS4へ進む流れとなり、ホイルシリンダ液圧制御部104が再び通常のホイルシリンダ加圧制御を実行する。モータ回転数の実値NmがNm0より大きいため、ポンプ7が吐出するブレーキ液量はホイルシリンダ8を加圧するために充分な量となっている。ホイルシリンダ液圧Pwはマスタシリンダ液圧Pmよりも高い値に増圧され(倍力制御)、マスタシリンダ液圧Pmよりも大きな勾配で増大する。
時刻t5で、運転者がブレーキペダル2の踏込み操作を終了し、踏込み量を保持し始める。これに伴い、通常のホイルシリンダ加圧制御を終了する。時刻t5後、時刻t6まで、ペダルストロークSが一定値に保持される。ホイルシリンダ液圧制御部104は、ホイルシリンダ液圧Pwを保持するように液圧制御ユニット6を制御する。ホイルシリンダ液圧Pwの増圧時(ホイルシリンダ加圧制御時)に比べてモータ回転数の指令値Nm*を低下させ、所定の小さな一定値に保持する。時刻t6で、運転者がブレーキペダル2を踏み戻し始める。時刻t6後、時刻t7まで、ペダルストロークSが減少する。これに伴い、ホイルシリンダ液圧制御部104は、ホイルシリンダ液圧Pwを減少させるように液圧制御ユニット6を制御する。モータ回転数の指令値Nm*を上記小さな一定値に保持する。時刻t7で、ペダルストロークSがゼロとなり、ブレーキ操作が終了する。これに伴い、ホイルシリンダ液圧制御部104は、液圧制御を終了する。時刻t1以前と同様、モータ回転数の指令値Nm*をゼロとし、SS/V OUT24とSS/V IN23を閉弁方向に制御する。
すなわち、急ブレーキ操作に応じたホイルシリンダ液圧Pwを発生させるためにポンプ7(モータ7a)を駆動するものの、モータ7aの回転数Nm(ポンプ7の供給能力)が不充分であり、かつ、ペダルストロークSが小さい(ホイルシリンダ加圧のために必要なブレーキ液量が多く、必要な力が小さい)時刻t2〜t4で、ポンプ7を利用したホイルシリンダ加圧制御に加え、ブレーキペダル2の踏込み操作を利用した補助加圧制御を実行する。モータ7aの回転数Nm(ポンプ7の供給能力)が充分に大きくなる、ないし、ペダルストロークSが大きくなる(ホイルシリンダ加圧に必要な力が大きく、必要なブレーキ液量が少なくなる)時刻t4〜t5で、補助加圧制御を終了し、ポンプ7を利用したホイルシリンダ加圧制御のみを実行する。なお、図3ではペダルストロークSが所定値S0より大きくなる時刻とモータ回転数Nmが所定値Nm0より大きくなる時刻とを同じ(時刻t4)としたが、これらがズレていてもよい。
なお、ホイルシリンダ液圧制御部104は、アンチロック制御部106を有している。アンチロック制御部106は、車両情報として各車輪FL〜RRの回転速度を取り込み、車輪FL〜RRのスリップ状態を検出・監視する。車輪FL〜RRに制動力を発生中(例えば運転者によるブレーキ操作中)、ある車輪のロック傾向を検出したとき、すなわちその車輪のスリップ量が過大となったと判断したとき、ブレーキ操作に伴う液圧制御(倍力制御)に介入し、カット弁21を閉弁方向に制御した状態のまま、スリップ量が過大となった車輪のホイルシリンダ8の液圧の増減圧制御を行う。これにより、この車輪のスリップ量が適切な所定値となるようにする。具体的には、カット弁21を閉弁方向に制御し、連通弁26を開弁方向に制御し、調圧弁27を閉弁方向に制御すると共に、ポンプ7を作動させる。このように制御することで、所望のブレーキ液をリザーバタンク4から、吸入油路15、ポンプ7、吐出油路16、及び第1油路11を経由してホイルシリンダ8に送ることが可能である。このとき、制御対象となるホイルシリンダ8の液圧指令が増圧方向であれば、当該ホイルシリンダ8に対応するSOL/V IN25を開弁方向に制御し、SOL/V OUT28を閉弁方向に制御し、当該ホイルシリンダ8にブレーキ液を導くことで、当該ホイルシリンダ8を加圧する。ホイルシリンダ8の液圧指令が減圧方向であれば、当該ホイルシリンダ8に対応するSOL/V IN25を閉弁方向に制御し、SOL/V OUT28を開弁方向に制御し、当該ホイルシリンダ8のブレーキ液を吸入油路15に導くことで、当該ホイルシリンダ8を減圧する。ホイルシリンダ8の液圧指令が保持であれば、当該ホイルシリンダ8に対応するSOL/V OUT28及びSOL/V IN25を閉弁方向に制御することで、当該ホイルシリンダ8の液圧を保持する。
ホイルシリンダ液圧制御部104(例えばアンチロック制御部106)は、運転者によるブレーキ操作を伴うブレーキバイワイヤ制御中、アンチロック制御の上記作動状態に応じて、SS/V IN23及びSS/V OUT24の作動を制御することで、ストロークシミュレータ22の作動状態を制御する。これにより、マスタシリンダ5のピストン52Pのストロークを制御し、ブレーキペダル2の作動を能動的に制御することが可能に設けられている。具体的には、ブレーキ操作状態検出部101によりブレーキ操作中と検出された状態で、カット弁21を閉弁方向に駆動し、ポンプ7により第1油路11に発生させた液圧を用いてホイルシリンダ8の液圧を制御中、アンチロック制御の作動に伴いホイルシリンダ液圧を減圧するときは、SS/V OUT24を閉弁方向に制御し、SS/V IN23を開弁方向に制御する。アンチロック制御の作動に伴いホイルシリンダ液圧を増圧するときは、SS/V OUT24を開弁方向に制御し、SS/V IN23を閉弁方向に制御する。アンチロック制御の作動に伴いホイルシリンダ液圧を保持するときは、SS/V OUT24とSS/V IN23を閉弁方向に制御する。なお、上記減圧・増圧・保持の別を、複数の車輪FL〜RRの要求制動力(目標ホイルシリンダ液圧)に基づき演算される必要なブレーキ液量(以下、必要ブレーキ液量)の合計が減少方向又は増大方向に変化しているか否かに基づき判断することとしてもよい。これは、アンチロック制御による装置1全体のブレーキ液量の変動をより正確に把握するためである。例えば、必要ブレーキ液量の合計値が減少方向に変化していれば、装置1全体としてホイルシリンダ液圧を減圧していると判断できる。
以下、従来技術と対比しつつ装置1の作用を説明する。従来、マスタシリンダとホイルシリンダとの連通を遮断可能であり、ホイルシリンダ以外にペダル反力を模擬可能な機構(ストロークシミュレータ)を有すると共に、マスタシリンダ以外の液圧源によりホイルシリンダを加圧することが可能なブレーキ制御装置が知られている。このような装置は、正常時には、マスタシリンダとホイルシリンダとの連通を遮断し、ストロークシミュレータによりペダル反力を創出しつつ、液圧源によりホイルシリンダを加圧する。ここで、運転者のブレーキ操作が速い等、ホイルシリンダを急速に加圧することが必要な場合を想定して、液圧源による充分なホイルシリンダ加圧応答性を満足しようとすると、液圧源に係るアクチュエータの性能を向上する必要があるため、アクチュエータが大型化したり高価になったりするおそれがあった。
これに対し、本実施例の装置1は、ホイルシリンダ8の加圧応答性を向上するために、液圧源としてのポンプ7からは独立して、(ペダル反力模擬用に運転者のブレーキ操作に連動して作動する)ストロークシミュレータ22を用いて、ホイルシリンダ8へブレーキ液を供給可能としている。すなわち、ストロークシミュレータ22においては、運転者のブレーキ踏込み操作時に、マスタシリンダ5からのブレーキ液が流入する側とは異なる側の背圧室R2からブレーキ液が吐出される。このブレーキ液をホイルシリンダ8に向けて供給させることで、ホイルシリンダ8を加圧することを可能としている。よって、ポンプ7によるホイルシリンダ8の加圧速度(加圧応答性)が不充分な場合でも、ホイルシリンダ8の加圧速度を向上することができる。言換えると、ポンプ7に係るアクチュエータとしてのモータ7aの性能を向上するため、これを大型化したり高いコストをかけたりする必要がない。このように、運転者のブレーキ操作力が作用することでストロークシミュレータ22から吐出されるブレーキ液(ポンプ7からは独立して供給されるブレーキ液)を利用することにより、ホイルシリンダ8の加圧応答性を向上しつつ、モータ7aの大型化等を抑制することができる。よって、装置1の車両への搭載性やレイアウト性を向上することができる。なお、本実施例では、液圧源としてポンプ7を用い、液圧源に係るアクチュエータとしてモータ7a(回転電機)を用いているが、液圧源は、機械的なエネルギー(動力)をブレーキ液圧に変換して発生させたりこれを保持したりすることが可能な流体機構であればよい。例えばピストンシリンダやアキュムレータ等を用いてもよく、ポンプに限定されない。また、アクチュエータは、入力される電気的エネルギー(電力)を物理的な運動(動力)へ変換して液圧源を作動させる機構(電動機)であればよく、モータ(回転電機)に限定されない。
また、ストロークシミュレータ22から吐出されるブレーキ液の供給先をリザーバタンク4からホイルシリンダ8へ切替えるのみであり、ストロークシミュレータ22の作動(ピストン220のストローク)自体は妨げられない。言換えると、ストロークシミュレータ22は、ホイルシリンダ8へブレーキ液を供給するブレーキ液供給源として機能すると同時に、ペダル反力を模擬する本来の機能を発揮可能である。よって、ペダルフィーリングの低下を抑制することができる。
本実施例では、ストロークシミュレータ22から吐出されるブレーキ液をホイルシリンダ8に向けて供給させるために、液圧制御ユニット6(第1ユニット61)に第3油路13を設けた。このように、第3油路13を1本追加するだけで上記機能を実現可能であるため、装置1の大型化や複雑化を抑制することができる。なお、本実施例では、第3油路13を第1油路11Pのカット弁21Pとホイルシリンダ8との間に直接的に接続したが、第1油路11Pに間接的に接続してもよい。例えば、吐出油路16に第3油路13を接続してもよい。本実施例では、第3油路13を第1油路11Pに直接的に接続することで、背圧室R2からホイルシリンダ8に到る油路の長さを短縮化できる。これにより、この経路における油路構成を簡素化できると共に、ホイルシリンダ8の加圧応答性を向上することができる。また、本実施例のように液圧制御ユニット6を2つ(ユニット61,62)に分割した構成にあっては、第3油路13を1つのユニット61内に収めることで、第3油路13を構成するブレーキ配管により2つのユニット61,62を接続しなくても済む。よって、装置1全体を簡素化することが可能である。
また、ストロークシミュレータ22の背圧室R2とリザーバタンク4とを接続する第4油路14を設けた。このように、背圧室R2を低圧部であるリザーバタンク4に接続することで、ストロークシミュレータ22の円滑な作動を確保することができる。また、背圧室R2から流出するブレーキ液の流路を、第4油路14を介してリザーバタンク4へブレーキ液を送る流路と、第3油路13を介して第1油路11P(11B)へブレーキ液を送る流路とを切替える切替え部を設けた。よって、ストロークシミュレータ22から吐出されるブレーキ液の供給先を、リザーバタンク4側からホイルシリンダ8側へ、又はホイルシリンダ8側からリザーバタンク4側へ、容易に切替えることができる。したがって、ホイルシリンダ8の加圧応答性やペダルフィーリングの向上を図ることができる。
第3油路13にSS/V IN23を設けた。SS/V IN23は上記切替え部(の一部)を構成している。SS/V IN23の作動状態を制御することで、第3油路13の連通状態を切替え、これにより背圧室R2からホイルシリンダ8へのブレーキ液の供給の有無を切替え、補助加圧制御の実行の有無を任意に切替えることができる。すなわち、SS/V IN23は、背圧室R2と第1油路11Pとを連通・遮断可能に設けられている。SS/V IN23を閉弁方向に制御することで、背圧室R2と第1油路11P(11B)との連通を遮断し、背圧室R2から流出するブレーキ液を補助加圧制御に利用不可能とする。これにより、補助加圧制御を実行しない(終了する)ことができる。SS/V IN23を開弁方向に制御することで、背圧室R2と第1油路11P(11B)とを連通させ、背圧室R2から流出するブレーキ液を補助加圧制御に利用可能とする。これにより、補助加圧制御を実行することができる。なお、SS/V IN23は常開型であってもよい。
第4油路14にSS/V OUT24を設けた。SS/V OUT24の作動状態を制御することで、第4油路14の連通状態を切替え、これによりストロークシミュレータ22の作動の有無を任意に切替えることができる。すなわち、SS/V OUT24は、背圧室R2と吸入油路15(リザーバタンク4)とを連通・遮断可能に設けられている。SS/V OUT24を閉弁方向に制御することで、背圧室R2とリザーバタンク4との連通を遮断し、背圧室R2からリザーバタンク4へのブレーキ液の流出を抑制することができる。これにより、ピストン220のストロークを抑制し、ストロークシミュレータ22を非作動状態とすることが可能である。よって、踏力ブレーキ時に、運転者のブレーキ踏込み操作に対し、ストロークシミュレータ22のピストン220が移動することを抑制し、マスタシリンダ5からホイルシリンダ8に効率よくブレーキ液を供給することができる。したがって、運転者のブレーキ操作力により発生するホイルシリンダ液圧の低下を抑制することができる。また、装置1の失陥時にSS/V OUT24を閉弁させれば、ストロークシミュレータ22を非作動状態とし、踏力ブレーキ(ペダル踏力)により発生するホイルシリンダ液圧の低下を抑制することができる。本実施例では、SS/V OUT24を常閉型とした。よって、電源失陥時にSS/V OUT24が閉弁することで、上記作用効果を得ることができる。なお、カット弁21を常開型とし、連通弁23を常閉型としたことで、電源失陥時にも両系統のブレーキ液圧系を独立とし、各系統で独立にペダル踏力によるホイルシリンダ加圧が可能となる。よって、フェールセーフ性能を向上できる。一方、SS/V OUT24を開弁方向に制御することで、背圧室R2とリザーバタンク4とを連通させ、背圧室R2からリザーバタンク4へブレーキ液を流出させることができる。これにより、ピストン220のストロークを可能とし、ストロークシミュレータ22を作動状態とすることができる。
また、SS/V OUT24は上記切替え部(の一部)を構成している。SS/V OUT24の作動状態を制御することで、第4油路14の連通状態を切替え、これにより補助加圧制御をより容易に実行することができる。すなわち、SS/V OUT24を閉弁方向に制御することで、背圧室R2とリザーバタンク4との連通を遮断し、背圧室R2から流出するブレーキ液をより多く補助加圧制御に利用可能とすることができる。SS/V OUT24を開弁方向に制御することで、背圧室R2とリザーバタンク4とを連通させ、背圧室R2から流出するブレーキ液のうち補助加圧制御に利用する分を減らすことができる。
SS/V OUT24とSS/V IN23の作動状態を切替えることにより、補助加圧制御を容易に実行可能となる。すなわち、SS/V OUT24とSS/V IN23の作動の組合せを適宜制御することで、単にペダル反力を創出するためにストロークシミュレータ22を作動させる状態(ポンプ7のみによるホイルシリンダ加圧制御)と、ホイルシリンダ加圧応答性を向上するために(も)ストロークシミュレータ22を作動させる状態(補助加圧制御)とを、容易に切替えることができる。具体的には、SS/V OUT24の開弁時にはSS/V IN23を閉弁することで、第1油路11P側の液圧が背圧室R2に作用することを抑制し、ストロークシミュレータ22の作動を円滑化することができる。SS/V IN23の開弁時にはSS/V OUT24を閉弁することで、背圧室R2から吐出されるブレーキ液が吸入油路15(リザーバタンク4)の側に排出されることを抑制し、第1油路11Pを介してホイルシリンダ8へ供給されるブレーキ液量を増やして、ホイルシリンダ8の加圧応答性を向上することができる。ストロークシミュレータ22の作動の有無を切替えるための電磁弁としてSS/V OUT24を元々備えている場合には、新たな電磁弁としてSS/V IN23を1個追加するだけで上記機能を実現可能であるため、部品点数の増加や装置1の大型化・複雑化を抑制することができる。
SS/V OUT24をストロークシミュレータ22の正圧室R1の側(第2油路12)でなく背圧室R2の側(第4油路14)に配置しているため、補助加圧制御を終了する際のペダルフィーリングを向上することができる。すなわち、仮にSS/V OUT24を正圧室R1の側(第2油路12)に配置した場合を想定する。このとき、上記SS/V OUT24を閉弁方向に制御し、カット弁21を開弁方向に制御して、マスタシリンダ5からホイルシリンダ8へブレーキ液を供給する制御構成とすることにより、補助加圧制御を実現することも考えられる。この場合も、運転者のブレーキ踏込み操作により(ポンプ7からは独立して)供給されるブレーキ液を利用して、ホイルシリンダ8の加圧応答性を向上することができる。この構成では、補助加圧制御を終了して通常のホイルシリンダ加圧制御へ移行する際、カット弁21を閉弁し、SS/V OUT24を開弁することとなる。しかし、補助加圧制御中はストロークシミュレータ22にブレーキ液が供給されず、ストロークシミュレータ22は非作動である。このため、上記移行時のストロークシミュレータ22の作動量(ピストン220のストローク量すなわちスプリング221の変形量)が上記移行時のペダルストロークに応じたものにならない。よって、上記移行時のペダルストロークとペダル踏力との関係(F-S特性)が、補助加圧制御を実行しない場合(通常制御時)とは異なるものになる。また、上記移行後に、カット弁21Pより上流側であって正圧室R1側(マスタシリンダ5の第1液圧室51Pと第1油路11P(油路11A)及び第2油路12と正圧室R1との間)に存在するブレーキ液量は、上記移行前にホイルシリンダ8に供給された液量分だけ、通常制御時に比べて少なくなる。言換えると、上記移行の前後で、ストロークシミュレータ22の正圧室R1側の液量収支が崩れるため、F-S特性がばらつく。よって、運転者に違和感を与えるおそれがある。
これに対し、本実施例では、補助加圧制御の終了の前後で、ブレーキ踏込み操作に応じてマスタシリンダ5から流出するブレーキ液量の分だけ、ストロークシミュレータ22のピストン220がストロークし続ける。すなわち、ポンプ7による通常のホイルシリンダ加圧制御中だけでなく補助加圧制御中も、ストロークシミュレータ22(正圧室R1)にブレーキ液が供給され続け、ストロークシミュレータ22は作動する。このため、補助加圧制御の終了時のストロークシミュレータ22の作動量(ピストン220のストローク量すなわちスプリング221の変形量)が上記終了時のペダルストロークに応じたものになっている。また、上記終了の前後で、マスタシリンダ5の第1液圧室51Pと第1油路11A及び第2油路12と正圧室R1との間(マスタシリンダ5のピストン52P,52Sとカット弁21Pとストロークシミュレータ22のピストン220との間)に閉じ込められているブレーキ液の量は不変である。すなわち、正圧室R1側の液量収支が崩れないため、上記終了の前後でF-S特性がばらつくおそれも少ない。よって、違和感のより少ないペダルフィーリングを実現することができる。
ポンプ7によるホイルシリンダ8の加圧応答性が不充分になるのは、運転者のブレーキ操作状態が急ブレーキ操作である場合、すなわちブレーキ操作速度が速く、この速いブレーキ操作に追従してホイルシリンダ8を加圧することが困難となる場合に、顕著となる。よって、このような場合に補助加圧制御を実行可能とすることで、ホイルシリンダ8の加圧応答性を効果的に向上することができる。具体的には、運転者のブレーキ操作状態が所定の急ブレーキ操作である場合に補助加圧制御を実行可能とし、所定の急ブレーキ操作でない場合にはポンプ7を用いた通常のホイルシリンダ加圧制御を実行する。ここで、急ブレーキ操作であるか否かを判断するために、ブレーキ操作速度を検出又は推定する手段が必要となる。この手段として、液圧制御ユニット6の所定部位の液圧の変化(変化速度)を検出又は推定し、これに基づきブレーキ操作速度を検出又は推定することも考えられる。しかし、一般に、ブレーキペダル(ブレーキ操作部材)等には遊びが設けられており、また、ブレーキペダルの変位に対して液圧が各所を伝播していくのには所定の時間がかかる。よって、液圧(の変化)よりもブレーキペダルの変位のほうが(センサ値として)早期に現れる特性となっている。この特性は、特に急ブレーキ操作時に顕著となる。本実施例では、液圧の変化ではなく、ブレーキペダル2の変位(ペダルストローク)に基づいてブレーキ操作速度を検出ないし推定しているため、より早期に(速く)急ブレーキ操作の有無を判断することができる。よって、ホイルシリンダ8の加圧応答性をより効果的に向上することができる。
また、ポンプ7によるホイルシリンダ8の加圧応答性が不充分になるのは、ホイルシリンダ8へブレーキ液を供給するポンプ7の能力が未だ不充分である場合、具体的にはポンプ7に係るアクチュエータであるモータ7aの回転数が低い場合に、顕著となる。本実施例では、このような場合に補助加圧制御を実行可能とすることで、ホイルシリンダ8の加圧応答性を効果的に向上することができる。具体的には、検出ないし推定されるモータ7aの回転数Nmが所定値Nm0以下のときに補助加圧制御を実行可能とする。上記所定値Nm0として、ポンプ7のブレーキ液(圧)供給能力がホイルシリンダ8を充分に加圧可能となるような値を設定することができる。例えば、マスタシリンダ液圧以上のホイルシリンダ液圧をポンプ7により発生可能な回転数に設定する。特に、ブレーキ踏込み操作の開始時、すなわちペダルストロークがゼロから増大していく場面にあっては、モータ7aを停止状態から駆動して回転数を上げていく必要がある。しかし、モータ回転数の指令値を増大させても、実際のモータ回転数は指令値の増大に遅れて上昇を開始する。このような制御の応答遅れ(タイムラグ)により、ホイルシリンダ加圧制御を実行するためのポンプ7の能力が不充分となる可能性が高い。このようにポンプ7のブレーキ液(圧)供給能力が未だ不充分である場面で、補助加圧制御によりホイルシリンダ8を加圧することで、ホイルシリンダ8の加圧応答性を効果的に向上することができる。
なお、補助加圧制御においては、ストロークシミュレータ22の背圧室R2にホイルシリンダ液圧(に相当する液圧)が作用する。このため、背圧室R2に大気圧(リザーバタンク4の低圧)が作用する通常のホイルシリンダ加圧制御時に比べ、同じペダルストロークに対し大きなペダル踏力が必要となる。よって、通常のホイルシリンダ加圧制御(通常制御)時に比べてF-S特性が若干異なることとなる。ただし、補助加圧制御が実行されるのはブレーキ踏込み操作時(ペダル踏力やペダルストロークが変化している動的な場面)であるため、この特性のズレはある程度許容される(運転者に違和感を与えるおそれが比較的少ない)。しかし、補助加圧制御が過度に長く継続すると、運転者に違和感を与え、ペダルフィーリングが悪化するおそれがある。これに対し、本実施例では、モータ回転数Nmが所定値Nm0より大きくなった時点で(すなわち早期に)補助加圧制御を終了する。これにより、背圧室R2に作用するホイルシリンダ液圧が過度に高くなる前に補助加圧制御を終了できるため、ペダルフィーリングの悪化を効果的に抑制することができる。
なお、モータ回転数Nmが所定値Nm0以下であるという上記条件に代えて、(ブレーキ踏込み操作に応じて)モータ回転数の指令値が増大してからの経過時間(タイマ)が所定値以下であるという条件を用いてもよい。すなわち、上記経過時間が所定値以下のときに補助加圧制御を実行する(上記経過時間が所定値より長くなると補助加圧制御を終了する)。このタイマの所定値は、ポンプ7の供給能力が充分となる(例えばモータ回転数の実値がマスタシリンダ液圧以上のホイルシリンダ液圧をポンプ7により発生可能な回転数以上にまで増大する)ために必要な時間に設定する。この所定値は、モータ7aの制御遅れの時間等を考慮して実験等により予め定めておくことができる。
また、一般に、ホイルシリンダに向けて供給されるブレーキ液量Qとホイルシリンダ液圧Pとの間には、所定の低圧領域では液量Qの増大分に対するホイルシリンダ液圧Pの増大量ΔP/ΔQ(液剛性)が小さく、上記所定の領域よりも高圧の非低圧領域ではΔP/ΔQが大きいという関係がある。上記低圧領域では、ホイルシリンダ液圧が未だ低く、ホイルシリンダ液圧を増大させるために必要な力が小さいものの、ホイルシリンダ液圧を増大させるために必要なブレーキ液量が多い。一方、上記非低圧領域では、ホイルシリンダ液圧がある程度発生しており、ホイルシリンダ液圧を増大させるために必要なブレーキ液量が少ないものの、ホイルシリンダ液圧を増大させるために必要な力が大きくなる。そして、ポンプ7によるホイルシリンダの加圧応答性が不充分になることは、上記低圧領域で顕著となる。本実施例では、このような低圧領域で補助加圧制御を実行可能とすることで、ホイルシリンダ8の加圧応答性を効果的に向上することができる。
具体的には、検出されたペダルストロークSが所定値S0以下のときに補助加圧制御を実行可能とする。すなわち、補助加圧制御では、マスタシリンダ5のピストン52(ストロークシミュレータ22のピストン220)のストローク量に相当する分のブレーキ液量がホイルシリンダ8に向けて供給される。ペダルストロークSが所定値S0以下である低圧領域では、ホイルシリンダ液圧を増大させるために必要な力は比較的小さく、ペダル踏力によって充分にホイルシリンダ液圧を増大させることができる。よって、ホイルシリンダ8の加圧応答性を向上することができる。なお、上記低圧領域や非低圧領域、及びこれらを弁別するためのペダルストロークSの上記所定値S0は、予め実験等により設定することができる。特に、ブレーキ踏込み操作の開始時、すなわちペダルストロークがゼロから増大する場面は、ホイルシリンダ液圧をゼロから増大させる場面であって、上記低圧領域に該当する。すなわち、ホイルシリンダ液圧が未だ低く、ホイルシリンダ液圧を増大させるために必要なブレーキ液量が多い。このような場面で補助加圧制御を実行することで、ホイルシリンダ8の加圧応答性を効果的に向上することができる。言換えると、液剛性が大きく、ホイルシリンダ液圧を増大させるために(必要なブレーキ液量が少ないものの)必要な力が大きい上記非低圧領域では、ペダル踏力よりも大きな力で液圧を発生可能なポンプ7によりホイルシリンダ8を加圧する。これにより、例えば、ホイルシリンダ液圧をマスタシリンダ液圧よりも大きな値に制御することが可能となる。
また、上記のように、補助加圧制御が過度に長く継続すると運転者に違和感を与えるおそれがあるところ、本実施例では、ペダルストロークSが所定値S0より大きくなった(言換えると液量Qが所定値より多くなった)時点で(すなわち早期に)補助加圧制御を終了する。これにより、背圧室R2に作用するホイルシリンダ液圧が過度に高くなる前に補助加圧制御を終了できるため、ペダルフィーリングの悪化を効果的に抑制することができる。
なお、上記低圧領域にあるか上記非低圧領域にあるかを、検出されたペダルストロークではなく、液圧センサ92により検出されたホイルシリンダ液圧に基づき判断することとしてもよい。このようにホイルシリンダ液圧を直接見ることで、ペダルストローク(ブレーキ操作量)を見る場合よりも、上記低圧領域にあるか上記非低圧領域にあるかを確実に判断できる(なお、ホイルシリンダ液圧を推定することとしてもよい)。具体的には、検出又は推定されたホイルシリンダ液圧が所定値以下のときに補助加圧制御を実行可能とし、検出又は推定されたホイルシリンダ液圧が所定値より大きいときにポンプ7による通常のホイルシリンダ加圧制御を実行する。ホイルシリンダ液圧の上記所定値として上記低圧領域と上記非低圧領域とを分ける閾値を用いることで、上記と同様の作用を得ることができる。これに対し、本実施例では、上記低圧領域にあるか上記非低圧領域にあるかを、検出されたペダルストロークS(ブレーキ操作量)に基づき判断するようにしたことで、検出又は推定されたホイルシリンダ液圧に基づき判断する場合よりも、より早期に(速く)判断を実行可能である。上記のように、液圧(の変化)よりもペダルストロークのほうが(センサ値として)早期に現れるからである。これにより、ホイルシリンダ8の加圧応答性をより効果的に向上することができる。
上記のようにペダルストロークSが所定値S0以下かつモータ7aの回転数Nmが所定値Nm0以下のときに、補助加圧制御を実行可能とする。よって、ストロークシミュレータ22は、ピストン220のストローク量が小さいとき、ピストン220が背圧室Rの側に移動するのに応じて、(運転者のブレーキ操作に伴う操作反力を生成すると共に、)背圧室Rからホイルシリンダにブレーキ液を供給することでホイルシリンダを加圧することが可能に設けられている。なぜなら、ペダルストロークSがS0以下であることは、ピストン220のストローク量(初期位置からの移動量)が小さいことと同義だからである。また、NmがNm0以下であることは、ペダルストロークSが小さいことと同義だからである。一方、ストロークシミュレータ22は、ピストン220のストローク量が大きいときは、運転者のブレーキ操作に伴う操作反力を生成することが可能に設けられている。また、ストロークシミュレータ22のスプリング221は、ピストン220が背圧室Rの側に移動するのに応じて、運転者のブレーキ操作に伴う操作反力を生成するための付勢力をピストン220に付与する。スプリング221の付勢力(ばね定数)は、少なくともピストン220のストローク量が大きいとき(スプリング221の圧縮量が大きいとき)、ペダルストロークSに応じた操作反力を生成することが可能に程度に設定されている。
なお、本実施例の液圧制御ユニット6では、カット弁21を閉弁方向に制御してマスタシリンダ5とホイルシリンダ8との連通を遮断したブレーキバイワイヤ制御中でも、SS/V OUT24とSS/V IN23の作動を制御することで、ポンプ7により発生させた液圧を用いてストロークシミュレータ22を作動させ、これによりマスタシリンダ5のピストン52Pにストロークを与えることが可能である。すなわち、SS/V OUT24を閉弁方向に制御し、SS/V IN23を開弁方向に制御することで、ポンプ7の吐出圧により高圧となっている第1油路11P(油路11B)から、第3油路13を経由してストロークシミュレータ22の背圧室R2へブレーキ液を供給する。これによりストロークシミュレータ22のピストン220が正圧室R1の側にストロークすると、マスタシリンダ5の第1液圧室51Pに液圧が供給されるため、ペダル反力が増加すると共に、ピストン52Pがプッシュロッド30の側へ押し戻される。よって、ペダルストロークが減少する。すなわち、ブレーキペダル2の位置が戻し方向に変化する。なお、第3油路13を吐出油路16に接続した場合も上記作用が得られる。また、SS/V OUT24を開弁方向に制御し、SS/V IN23を閉弁方向に制御することで、ストロークシミュレータ22の背圧室R2と第1油路11P(油路11B)との連通が遮断される一方、背圧室R2が吸入油路15(リザーバタンク4)と連通する。これによりストロークシミュレータ22のピストン220が背圧室R2の側にストロークし、背圧室R2からブレーキ液が排出される。よって、マスタシリンダ5の第1液圧室51Pの液圧が低下するため、ペダル反力が減少すると共に、ピストン52Pが第1液圧室51Pの側へ進み、ペダルストロークが増加する。すなわち、ブレーキペダル2の位置が踏込み方向に変化する。また、SS/V OUT24とSS/V IN23を共に閉弁方向に制御することで、ペダル反力及びペダルストロークの変化が抑制され、ブレーキペダル2の位置が略一定に保持される。
すなわち、ブレーキバイワイヤ制御中は、アンチロック制御が介入しても、マスタシリンダ5とホイルシリンダ8との連通が遮断されているため、アンチロック制御の作動に伴うホイルシリンダ8の液圧変動がマスタシリンダ5に伝わらず、運転者がアンチロック制御の作動を認識することができないおそれがある。これに対し、本実施例では、ブレーキ操作を伴うホイルシリンダ液圧制御(ブレーキバイワイヤ制御)の実行中、アンチロック制御部106によるアンチロック制御が作動したときに、上記のようにSS/V OUT24とSS/V IN23を駆動することで、ポンプ7により発生させた液圧を用いてピストン52Pにストロークを与える(ピストン52Pの位置を制御する)。これにより、ブレーキペダル2が前後(戻し方向及び進み方向)に移動(振動)するため、運転者はアンチロック制御の作動を認識することができる。ここで、各弁23,24の動作をアンチロック制御の作動状態に応じて(各ホイルシリンダ8の液圧制御状態に合わせて)適切に制御することで、ペダルストロークとペダル反力を適切に制御することができる。例えば、アンチロック制御の作動に伴いホイルシリンダ液圧を減圧するときは、SS/V OUT24を閉弁方向に制御し、SS/V IN23を開弁方向に制御することで、ブレーキペダル2の位置を戻し方向に変化させる。よって、従来のブレーキ制御装置、すなわちアンチロック制御の作動に伴うホイルシリンダの液圧変動がマスタシリンダ(ブレーキペダル)に伝わる形式の従来装置と同様の、ブレーキペダル2のリアクションを実現可能である。したがって、違和感のより少ないペダルフィーリングを実現することができる。また、アンチロック制御において(路面摩擦力に応じて)ホイルシリンダ8が必要とするブレーキ液量に応じた分だけブレーキペダル2を変位させることで、このブレーキペダル2の位置を指標として運転者が路面摩擦力(路面限界)を推測することを可能にすることができる。例えば各弁23,24の開弁時間を適宜設定することで、路面摩擦力が小さいほどペダルストロークが小さくなるように調整する。なお、アンチロック制御が終了した際には、SS/V OUT24が開弁方向に制御されると共に、SS/V IN23が閉弁方向に制御される。よって、アンチロック制御の終了と共に通常ブレーキ時のペダルフィーリングに即座に戻すことができる。したがって、違和感のより少ないペダルフィーリングを実現することができる。
[実施例2]
[構成]
まず、構成を説明する。図4は、実施例2の装置1の概略構成を示す。第3油路13に、ストロークシミュレータイン弁SS/V IN23(電磁弁)の代わりに、チェック弁(逆止弁)230が設けられている点で、実施例1の装置1と相違する。
液圧制御ユニット6は、第1ユニット63と第2ユニット64からなる。第1ユニット63は、ポンプ7とモータ7aを備えるポンプユニットである。第2ユニット62は、油路11等の開閉を切り替える各弁21等を収容するバルブユニットである。第2ユニット62は、ストロークシミュレータ22及び各センサ90〜93を備えるほか、マスタシリンダ5が一体に設けられている。第2ユニット64は、リザーバタンク4と一体に設けられている。言換えると、マスタシリンダ5とストロークシミュレータ22は同一のハウジングに設けられており、1つのマスタシリンダユニットを構成している。リザーバタンク4とポンプ7は、それぞれ上記マスタシリンダユニットに一体的に設置されており、これらは全体として1つのユニットを構成している。バルブユニットは、上記マスタシリンダユニットに一体的に設置されており、これらは全体として1つのユニットを構成している。マスタシリンダ5とストロークシミュレータ22と弁21等は、同一のハウジングに設けられている。
第1ユニット63内には、吸入油路15上に、所定容積の液溜まり15Aが設けられている。液溜まり15Aは、液圧制御ユニット6の内部のリザーバである。液溜まり15Aは、第1ユニット63の内部であって、吸入油路15を構成するブレーキ配管が接続される部位(第1ユニット63の鉛直方向上側)の近傍に設けられている。第1,第2減圧油路17,18は液溜まり15Aに接続する。ポンプ7は、リザーバタンク4から液溜まり15Aを介してブレーキ液を吸入する。第4油路14のブレーキ液は液溜まり15Aを介してリザーバタンク4へ戻される。
チェック弁230は、背圧室R2側から第1油路11側へのブレーキ液の流れのみを許容する一方向弁である。第3油路13は、チェック弁230によって、背圧室R2側の油路13Aと第1油路11側の油路13Bとに分離される。第4油路14には、電磁弁ではなく(実施例1のストロークシミュレータアウト弁SS/V OUT24の代わりに)、絞り24Aが設けられている。絞り24Aは所定の流路抵抗を備えた抵抗部である。絞り24Aの絞り量(流路断面積の縮小量)は、開弁した状態におけるチェック弁230の絞り量よりも大きく設定されている。言換えると、絞り24Aの流路抵抗は、開弁した状態におけるチェック弁230の流路抵抗よりも大きく設定されている。なお、絞り24Aをバイパスして第4油路14と並列にバイパス油路140が設けられている。バイパス油路140には、吸入油路15側から第3油路13側(油路13B)へのブレーキ液の流れのみを許容するチェック弁240が設けられている。
ホイルシリンダ液圧制御部104は、実施例1のような補助加圧制御部105を備えていない。ホイルシリンダ液圧制御部104が通常の倍力制御(ポンプ7によるホイルシリンダ加圧制御)を実行する中で補助加圧制御が自動的に実行される(又は補助加圧制御が自動的に実行されない)。言換えると、ホイルシリンダ液圧制御部104が補助加圧制御部を兼ねている。他の構成は実施例1と同様であるため、実施例1と対応する構成には実施例1と同一の符号を付して説明を省略する。
なお、ブレーキペダル2とマスタシリンダ5との間には、倍力装置3が設けられている。倍力装置3は、ブレーキペダル2とプッシュロッド30との間を接続し、ペダル踏力を増幅してプッシュロッド30へ伝達する。倍力装置3は、ブレーキペダル2とマスタシリンダ5との間で動力をメカ的に伝達可能であり、倍力比が可変なリンク式の可変倍力装置である。倍力装置3は、ペダルストロークに対するプッシュロッド30のストロークの比(レバー比)を可変とするリンク機構を備えている。このリンク機構は、側面視で棒状の第1リンク31と、側面視で三角状の第2リンク32とを備えている。第1リンク31の一端はブレーキペダル2(ペダルアーム)の根元側に回転自在に連結されている。第2リンク32の第1の角部は車体側に回転自在に支持されている。第1リンク31の他端は第2リンク32の第2の角部に回転自在に連結されている。第2リンク32の第3の角部はプッシュロッド30の軸方向一端に回転自在に連結されている。プッシュロッド30は、第2リンク32からの入力を受け、ブレーキペダル2の踏込み操作に応じてストロークする。プッシュロッド30は、倍力装置3から(増幅されて)伝達されたペダル踏力を、軸方向の推力としてマスタシリンダ5(プライマリピストン52P)に伝達する。ストロークセンサ90は、マスタシリンダ5の内部に設けられており、運転者のブレーキ操作量として、プライマリピストン52P(プッシュロッド30)のストロークを検出する。ポンプ吐出圧を検出する液圧センサ93は、吐出油路16におけるポンプ7の吐出部71(チェック弁160)と連通弁26との間に設けられている。なお、第1減圧油路17における吐出油路16の接続位置P1と調圧弁27との間に液圧センサ93を設けることとしてもよい。なお、設定されたレバー比や特性に応じて倍力装置3を廃止したり、他の形式の倍力装置に置き換えることもできる。
[作用]
次に、作用を説明する。チェック弁230および絞り24Aが、実施例1の補助加圧制御部105による制御内容(補助加圧制御の開始、実行、及び終了)を自動的に(直接制御によらずに)実現する。
第3油路13に、背圧室R2からホイルシリンダ8へのブレーキ液の流れのみを許容するチェック弁230を設けた。チェック弁230は、背圧室R2から流出するブレーキ液を、第4油路14を介してリザーバタンク4へ送る流路と、第3油路13を介して第1油路11P(11B)へ送る流路とを切替える切替え部(の一部)を構成する。すなわち、チェック弁230よりも背圧室R2側の液圧が第1油路11P(11B)側の液圧よりも高ければ、チェック弁230が開弁し、背圧室R2から流出するブレーキ液を、第3油路13を介して第1油路11P(11B)へ送る。これにより、補助加圧制御を自動的に開始及び実行することができる。チェック弁230よりも第1油路11P(11B)側の液圧が背圧室R2側の液圧よりも高ければ、チェック弁230が閉弁し、背圧室R2から流出するブレーキ液を、第3油路13を介して第1油路11P(11B)へ送らないようにする。これにより、補助加圧制御を自動的に終了することができる。
第4油路14に絞り24Aを設けた。第4油路14は、背圧室R2からのブレーキ液の流れとリザーバタンク4からのブレーキ液の流れの双方を許容するように設けられている。よって、第4油路14に電磁弁やチェック弁を設けた場合と異なり、電磁弁等の作動状態によって第4油路14を介したブレーキ液の流通が妨げられることなく、流通が容易となる。これにより、例えばストロークシミュレータ22の作動を円滑化することができる。絞り24Aは、上記切替え部(の一部)を構成する。すなわち、絞り24Aは所定の絞り抵抗を有している。よって、切替え部による流路の切替えを容易に実現し、補助加圧制御をより容易に実行することができる。すなわち、急ブレーキ操作時には、非急ブレーキ操作時よりも、背圧室R2から流出するブレーキ液の流速が高く、絞り24Aよりも背圧室R2側とリザーバタンク4側との間の液圧差(差圧)が大きい。よって、この液圧差の同じ上昇分に対し、絞り24Aを通過する流量の増加分が、非急ブレーキ操作時よりも小さい。このため、急ブレーキ操作時に、背圧室R2から流出するブレーキ液のうち、第4油路14を介してリザーバタンク4へ送る分を少なくし、より多くのブレーキ液を補助加圧制御に利用可能とすることができる。一方、非急ブレーキ操作時には、背圧室R2から流出するブレーキ液の流速が低く、上記液圧差が小さい。よって、この液圧差の同じ上昇分に対し、絞り24Aを通過する流量の増加分が、急ブレーキ操作時よりも大きい。このため、非急ブレーキ操作時に、背圧室R2から流出するブレーキ液のうち、第4油路14を介してリザーバタンク4へ送る分を多くすることができる。
また、絞り24Aの絞り量を、開弁した状態におけるチェック弁230の絞り量よりも大きく設定することにより、補助加圧制御を効果的に実行可能となる。以下、具体的に説明する。図5及び図6は、第2〜第4油路12〜14を拡大して模式的に示す図である。図5では、運転者のブレーキ操作状態が急ブレーキ操作でないときの、ストロークシミュレータ22の背圧室R2から流出するブレーキ液の流れを矢印で示す。図6では、運転者のブレーキ操作状態が急ブレーキ操作であるときの、背圧室R2から流出するブレーキ液の流れを矢印で示す。
通常ブレーキ時(倍力制御時)、ホイルシリンダ液圧制御部104は、所定の倍力比を実現すべく、ペダルストロークに応じたマスタシリンダ液圧よりも高い値にホイルシリンダ液圧を制御する。運転者のブレーキ操作状態が急ブレーキ操作でない(ブレーキペダル2の踏込み速度が速くない)とき、ストロークシミュレータ22のピストン220の移動速度が速くない。このため、絞り24Aでの差圧も極めて小さく、背圧室R2側の油路13Aの液圧が高くならない。一方、ブレーキ操作速度に対してポンプ7によるホイルシリンダ8の加圧速度(加圧応答性)が充分に大きい。このため、ホイルシリンダ液圧がマスタシリンダ液圧よりも高い状態が実現される。第3油路13における第1油路11側の油路13Bの液圧は、背圧室R2側の油路13Aの液圧よりも高い。よって、チェック弁230が閉弁した(封止された)状態となる。図5に示すように、背圧室R2から油路13Aに流出するブレーキ液は、チェック弁230を通って油路13Bに流出せず、絞り24Aを通って第4油路14に流出し、リザーバタンク4の側に送られる。したがって、背圧室R2から油路13Aに流出するブレーキ液量Q0は、第4油路14の絞り24Aを通ってリザーバタンク4の側に流出するブレーキ液量Q2と略等しい(Q0=Q2)。言換えると、補助加圧制御は行われず、ポンプ7によるホイルシリンダ加圧制御のみが行われる。背圧室R2から流出するブレーキ液は全てリザーバタンク4の側に排出され、ストロークシミュレータ22は運転者のブレーキ操作に伴う操作反力を生成する機能のみを発揮する。
運転者のブレーキ操作状態が急ブレーキ操作である(ブレーキペダル2の踏込み速度が速い)とき、ストロークシミュレータ22のピストン220の移動速度が速くなる。このため、絞り24Aでの差圧が大きくなり、背圧室R2側の油路13Aの液圧が高くなる。一方、ブレーキ操作速度に対してポンプ7によるホイルシリンダ8の加圧速度(加圧応答性)が不充分となる。よって、第3油路13において、背圧室R2側の油路13Aの液圧よりも、第1油路11側(ホイルシリンダ8側)の油路13Bの液圧が有意に低くなる場合がある。この場合、チェック弁230が開弁した状態となる。よって、図6に示すように、背圧室R2から油路13Aに流出するブレーキ液は、絞り24Aを通って第4油路14に流出すると共に、チェック弁230を通って油路13Bに流出する。背圧室R2から油路13Aに流出するブレーキ液量Q0は、チェック弁230を通って油路13Bに流出するブレーキ液量Q1と、第4油路14の絞り24Aを通ってリザーバタンク4の側に流出するブレーキ液量Q2とに分配される(Q0=Q1+Q2)。言換えると、背圧室R2から流出するブレーキ液の一部はホイルシリンダ8の加圧に用いられる。これにより、補助加圧制御が行われる。このとき、ストロークシミュレータ22は、運転者のブレーキ操作に伴う操作反力を生成する機能に加え、ポンプ7によるホイルシリンダ8の液圧発生を補助する補助加圧機能を発揮する。
具体的には、第3油路13におけるチェック弁230を挟んで第1油路11側(油路13B)と背圧室R2側(油路13A)との液圧差は、第4油路14における絞り24Aを挟んでリザーバタンク4側と背圧室R2側との液圧差以下である。しかし、ポンプ7によりホイルシリンダ8がほとんど加圧されていない場合(例えば油路13Bの液圧が大気圧に略等しい低圧であるような場合)には、上記液圧差の違いはほとんどない。また、絞り24Aの絞り量は、開弁した状態におけるチェック弁230の絞り量よりも大きく設定されている。言換えると、絞り24Aを介したブレーキ液の流通よりもチェック弁230を介したブレーキ液の流通のほうが容易であるように設けられている。よって、例えば同じ液圧差が作用する場合、絞り24Aを介して流通する液量Q2よりも、チェック弁230を介して流通する液量Q1のほうが多くなる。特に急ブレーキ操作時には、非急ブレーキ操作時よりも、背圧室R2から流出するブレーキ液の流速が高いため、絞り24Aを通って流出する液量Q2は少なくなる。なお、急ブレーキ操作時には、非急ブレーキ操作時よりも、液量Q0が多い。よって、液量Q0から液量Q2が差し引かれるとしても、一定程度以上の液量Q1が油路13Bを介して第1油路11へ送られ、ホイルシリンダ8の加圧に用いられる。
上記のようにチェック弁230が開弁した状態となるのは、ブレーキ踏込み速度に対してポンプ7によるホイルシリンダ8の加圧速度(加圧応答性)が不充分であり、背圧室R2側の油路13Aの液圧よりも、ホイルシリンダ8側の油路13Bの液圧が低くなる場合である。このようにホイルシリンダ8側の液圧が(相対的に)低くなるのは、ペダルストロークSが小さいとき(モータ7aの駆動初期)に顕著となる。また、ペダルストロークSが小さいことは、ストロークシミュレータ22のピストン220のストローク量が小さいことと同義である。よって、ストロークシミュレータ22は、ピストン220のストローク量が小さいとき、少なくとも(運転者のブレーキ操作に伴う操作反力を生成すると共に)、背圧室Rからホイルシリンダ8にブレーキ液を供給することでホイルシリンダ8を加圧することが可能に設けられている。一方、少なくともピストン220のストローク量が大きいとき、運転者のブレーキ操作に伴う操作反力を生成することが可能に設けられている。
以上のように、実施例1と同様、急ブレーキ操作時には、運転者のブレーキ操作により発生する背圧室R2からのブレーキ液の流れを利用して、ホイルシリンダ液圧を発生させる。これにより、ホイルシリンダ8の加圧応答性を向上させることができる。
急ブレーキ操作時には、チェック弁230が自動的に開弁することで、背圧室R2からのブレーキ液をホイルシリンダ8に送る。このように、液圧差の発生に伴うチェック弁230の機械的な動作により、補助加圧制御の実行の有無を切替える。よって、チェック弁230に代えて電磁弁を用いた場合に比べ、電磁弁の制御の応答遅れの影響を受けることなく補助加圧制御を実行できるため、より効果的に応答性を向上できると共に、ペダルフィーリングの悪化を抑制できる。すなわち、チェック弁230に代えて電磁弁を用いた場合、ホイルシリンダ8側(油路13B)の液圧が背圧室R2(油路13A)側の液圧よりも低いのに電磁弁を閉弁したときは、ホイルシリンダ8側(油路13B)へ送るブレーキ液が減少し、応答性を十分に向上できないおそれがある。これに対し、本実施例では、ホイルシリンダ8側(油路13B)の液圧が背圧室R2(油路13A)側の液圧よりも低くなる場合には、チェック弁230が開弁し、ホイルシリンダ8側(油路13B)へブレーキ液を送る。このように、ホイルシリンダ8へのブレーキ液の供給が必要な場面に対応してこの供給を実行することで、補助加圧制御を的確に実行し、より効果的に応答性を向上できる。
また、チェック弁230に代えて電磁弁を用いた場合、ホイルシリンダ8側(油路13B)の液圧がマスタシリンダ5(油路13A)側の液圧よりも高くなったのに電磁弁を開弁したままであるときは、ホイルシリンダ8側(油路13B)から背圧室R2側(油路13A)へブレーキ液が戻される。これにより、ホイルシリンダ8の加圧応答性が低下するおそれがあると共に、マスタシリンダ液圧が上昇するおそれがある。これに対し、ホイルシリンダ8側(油路13B)の液圧が、背圧室R2側(油路13A)の液圧以上となった場合にはチェック弁230が閉弁し、背圧室R2側(油路13A)へブレーキ液が戻されない。よって、ホイルシリンダ8の加圧応答性が低下するおそれを抑制できる。また、マスタシリンダ液圧がホイルシリンダ8側(油路13B)の高い液圧の影響を受けて上昇することが回避される。よって、ブレーキペダル2が戻されて運転者に違和感を与え、これによりペダルフィーリングが悪化するおそれを抑制することができる。
なお、第4油路14の絞り24Aに代えて、電磁弁を設けてもよい。言換えると、実施例1において、第3油路13のSS/V IN23に代えて本実施例のようなチェック弁230を設けてもよい。この場合、急ブレーキ操作時に第4油路14の電磁弁を閉弁方向に制御すれば、上記のようにチェック弁230が自動的に開弁する。よって、SS/V IN23を制御する手間を省きつつ、上記作用効果を得ることができる。また、補助加圧制御時、背圧室R2からのブレーキ液が第4油路14の電磁弁を介してリザーバタンク4側へ漏れることを抑制できるため、より効率的にホイルシリンダにブレーキ液を送ることができる。本実施例では、電磁弁ではなく絞り24Aを第4油路14に設けたため、第4油路14の電磁弁の制御の応答遅れの影響を回避することができる。例えば、補助加圧制御の終了時に第4油路14の電磁弁の開弁方向への制御が遅れることにより、ストロークシミュレータ22のピストン220の移動が妨げられ、ブレーキフィーリングが悪化するといった事態の発生を抑制できる。また、補助加圧制御の開始時に第4油路14の電磁弁の閉弁方向への制御が遅れることにより、ホイルシリンダ8側(油路13B)へ送るブレーキ液が減少し、応答性を十分に向上できないといった事態の発生を抑制できる。
絞り24Aをバイパスしてバイパス油路140が設けられており、バイパス油路140にチェック弁240が設けられている。よって、リザーバタンク4側からバイパス油路140を介して背圧室R2側(油路13A)へブレーキ液を円滑に流通させることができる。これにより、背圧室R2の容積を容易に拡大することが可能となるため、ブレーキバイワイヤ制御中、ブレーキペダル2が踏み戻される際、ストロークシミュレータ22のピストン220が正圧室R1の側へ移動することを円滑化できる。よって、ストロークシミュレータ22を初期の作動状態に戻しつつ、ブレーキペダル2を速やかに踏み戻すことが可能となる。
リザーバタンク4と第1ユニット63とを接続するブレーキ配管の部分(例えばこのブレーキ配管の第1ユニット63との接続部位)で吸入油路15からブレーキ液が漏れ出る態様の失陥時にも、液溜まり15Aをブレーキ液の供給源や排出先(リザーバ)として、ポンプ7を用いた倍力制御(ホイルシリンダ液圧の増減圧)や補助加圧制御を継続可能である。よって、安定したブレーキ性能を得ることができ、フェールセーフ性能を向上できる。液溜まり15Aの容積は上記観点からブレーキ制御をある程度継続可能な値に適宜設定される。その他、実施例1と同様の構成により、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
[実施例3]
図7は、実施例3の装置1の概略構成を示す。第3油路13には、常開型のオン・オフ電磁弁であるストロークシミュレータイン弁SS/V IN23が設けられている点で、実施例2の装置1と異なる。第3油路13は、SS/V IN23によって、背圧室R2側の油路13Aと第1油路11側の油路13Bとに分離される。SS/V IN23をバイパスして第3油路13と並列にバイパス油路130が設けられている。バイパス油路130は、油路13Aと油路13Bとを接続する。バイパス油路130には、背圧室R2側(油路13A)から第1油路11側(油路13B)へのブレーキ液の流れのみを許容するチェック弁230が設けられている。
ホイルシリンダ液圧制御部104は、倍力制御中、SS/V IN23を閉弁方向に制御する。また、ホイルシリンダ液圧制御部104は、運転者によるブレーキ操作を伴うブレーキバイワイヤ制御中、アンチロック制御の作動状態に応じて、SS/V IN23の作動を制御することで、ストロークシミュレータ22の作動状態を制御する。具体的には、ポンプ7により第1油路11に発生させた液圧を用いてホイルシリンダ8の液圧を制御中、アンチロック制御の作動に伴いホイルシリンダ液圧を減圧するときは、SS/V IN23を開弁方向に制御する。ホイルシリンダ液圧を増圧または保持するときは、SS/V IN23を閉弁方向に制御する。他の構成は実施例2と同様であるため、実施例2と対応する構成には実施例2と同一の符号を付して説明を省略する。
[作用]
次に、作用を説明する。ホイルシリンダ液圧制御部104は、倍力制御中、SS/V IN23を閉弁方向に制御する。これにより、第3,第4油路13,14の構成が実施例2と同様になるため、実施例2と同様の作用効果を奏する。すなわち、倍力制御時、急ブレーキ操作でないときは、ポンプ7によって発生するチェック弁230の下流側(第1油路11側)の油路13Bの液圧が、チェック弁230の上流側(背圧室R2側)の油路13Aの液圧よりも高くなる。よって、チェック弁230が閉弁する(封止される)。背圧室R2から流出するブレーキ液は第4油路14を介してリザーバタンク4の側に排出され、ストロークシミュレータ22は運転者のブレーキ操作に伴う操作反力を生成する機能のみを発揮する。倍力制御時、急ブレーキ操作であるときは、ポンプ7によって発生するチェック弁230の下流側(油路13B)の液圧が、背圧室R2から流出したブレーキ液の液圧(油路13Aの液圧)より低くなる場合がある。この場合、チェック弁230が開弁する。背圧室R2から流出するブレーキ液の少なくとも一部は第3油路13を介してホイルシリンダ8の側へ供給される。このときストロークシミュレータ22は、操作反力を生成するのみならず、補助加圧機能を発揮する。ポンプ7によって発生するチェック弁230の下流側(油路13B)の液圧が、背圧室R2から流出したブレーキ液の液圧(油路13Aの液圧)より高くなると、チェック弁230が閉弁して、ポンプ7による通常のホイルシリンダ加圧制御に戻る。これにより、補助加圧制御を自動的に終了することができる。なお、運転者のブレーキ操作状態が所定の急ブレーキ操作であると判断される間、すなわちポンプ7によるホイルシリンダ8の加圧速度(加圧応答性)が不充分となるおそれがある間、SS/V IN23を開弁方向に制御するようにECU100を構成してもよい。この場合、上記の間、背圧室R2からチェック弁230だけでなくSS/V IN23を介してホイルシリンダ8へブレーキ液が供給される。これにより、ホイルシリンダ8へのブレーキ液の供給量を増大して、ホイルシリンダ8の加圧速度をより向上することができる。
なお、ブレーキバイワイヤ制御中、アンチロック制御の作動状態に応じて、SS/V IN23の作動を制御することで、実施例1と同様、ブレーキペダル2の作動を能動的に制御することが可能である。すなわち、ホイルシリンダ液圧の減圧時にSS/V IN23を開弁方向に制御することにより、ポンプ7側の高圧をマスタシリンダ5のピストン52Pに作用させる。ここで、第3油路13内のブレーキ液が第4油路14を介してリザーバタンク4側に排出されることは、絞り24Aによって抑制される。よって、ペダル反力を増加させ、ブレーキペダル2に戻し方向のストロークを与えることができる。また、ホイルシリンダ液圧の増圧時にSS/V IN23を閉弁方向に制御することにより、ポンプ7側の高圧をマスタシリンダ5のピストン52Pに作用させない。一方、第3油路13A内のブレーキ液の若干量は絞り24Aを通って第4油路14を介してリザーバタンク4側に排出される。よって、ペダル反力を減少させ、ブレーキペダル2に踏込み方向のストロークを与えることができる。なお、ホイルシリンダ液圧の保持時にSS/V IN23を閉弁方向に制御するときは、絞り24Aを通ってリザーバタンク4側に排出されるブレーキ液量と、SS/V IN23を通って背圧室R2側に供給されるブレーキ液量とが略等しくなるように、SS/V IN23の開弁量を制御すればよい。以上により、運転者はアンチロック制御の作動を認識することができる。その他、実施例1,2と同様の構成により、実施例1,2と同様の作用効果を得ることができる。
[実施例4]
図8は、実施例4の装置1の概略構成を示す。ブレーキペダル2とマスタシリンダ5との間に実施例2のような倍力装置3が設けられておらず、実施例1と同様、ブレーキペダル2に直接、プッシュロッド30の一端が接続されている。ストロークセンサ90はブレーキペダル2に設けられている。第4油路14には、常閉型のオン・オフ電磁弁であるストロークシミュレータアウト弁SS/V OUT24が設けられ、絞り24AはSS/V OUT24と直列に設けられている点で、実施例2の装置1と異なる。絞り24Aは、SS/V OUT24に対して吸入油路15の側に設けられている。バイパス油路140は、SS/V OUT24及び絞り24Aをバイパスする。ホイルシリンダ液圧制御部104は、倍力制御中、SS/V OUT24を開弁方向に制御する。
図9は、ECU100による制御の流れを示すフローチャートである。この処理は所定周期で繰り返し実行される。ステップS11では、ブレーキ操作状態検出部101がペダルストロークSを検出して、ステップS12に進む。ステップS12では、目標ホイルシリンダ液圧算出部102が目標ホイルシリンダ液圧を算出して、ステップS13に進む。ステップS13では、ペダルストロークSが所定値S1未満であるか否かを判断する。所定値S1は、ゼロより大きく所定値S2より小さい値に設定されている。所定値S2は、マスタシリンダ5のピストン52の外周面が第1ピストンシール541に接しない状態から接する状態になるペダルストロークS(無効ストロークの上限値)である。SがS2より大きくなると、液圧室51から補給ポート502(リザーバタンク4)へ向うブレーキ液の流れが制限され、液圧室51に液圧(マスタシリンダ液圧)が発生するようになる。なお、目標ホイルシリンダ液圧Pw*は、マスタシリンダ液圧と略同時に発生するように、すなわちSがS2以上でPw*がゼロより大きくなるように、設定される。SがS1未満であると判断するとステップS14に進み、SがS1以上であると判断するとステップS15に進む。ステップS14では、倍力制御を実行するための各アクチュエータを非作動とする。具体的には、カット弁21を非作動とし(開弁方向に制御し)、連通弁26を非作動とし(閉弁方向に制御し)、SS/V OUT24を非作動とし(閉弁方向に制御し)、ポンプ7を非作動とすると共に、調圧弁27を非作動とする(開弁方向に制御する)。その後、本制御周期を終了する。
ステップS15では、倍力制御を実行するための各アクチュエータのうち一部を作動させることで、倍力制御の実行を準備する。具体的には、ホイルシリンダ液圧制御部104が、カット弁21を作動させ(閉弁方向に制御し)、連通弁26を作動させ(開弁方向に制御し)、SS/V OUT24を作動させ(開弁方向に制御し)て、ステップS16に進む。ステップS16では、ホイルシリンダ液圧制御部104が、目標ホイルシリンダ液圧Pw*がゼロより高いか否かを判断する。目標ホイルシリンダ液圧Pw*がゼロより高いと判断するとステップS17に進み、目標ホイルシリンダ液圧Pw*がゼロであると判断するとステップS18に進む。ステップS17では、倍力制御を実行するための各アクチュエータのうち残りの一部を作動させることで、倍力制御を実行する。具体的には、ホイルシリンダ液圧制御部104が、ポンプ7を作動させると共に、調圧弁27を作動させ(閉弁方向に制御し)て漏らし制御を実行する。その後、本制御周期を終了する。ステップS18では、倍力制御を実行するための各アクチュエータのうち残りの一部を非作動とすることで、倍力制御の実行を準備している状態を維持する。具体的には、ホイルシリンダ液圧制御部104が、ポンプ7を非作動とすると共に、調圧弁27を非作動とし(開弁方向に制御し)た後、本制御周期を終了する。他の構成は実施例2と同様であるため、実施例2と対応する構成には実施例2と同一の符号を付して説明を省略する。
[作用]
次に、作用を説明する。第4油路14にSS/V OUT24を設けたことにより、実施例1と同様の作用効果を奏する。また、SS/V OUT24をバイパスしてバイパス油路140が設けられており、バイパス油路140にチェック弁240が設けられている。よって、SS/V OUT24の作動状態に関わらず、リザーバタンク4側からバイパス油路140を介して背圧室R2側(油路13A)へブレーキ液を円滑に流通させることができる。これにより、(倍力制御を含む)ブレーキバイワイヤ制御中、SS/V OUT24の制御の応答遅れの影響を回避しつつ、ブレーキペダル2を速やかに踏み戻すことが可能となる。また、仮に、ブレーキペダル2の踏込み中(ストロークシミュレータ22の作動中)にSS/V OUT24が失陥して閉弁状態で固着したような場合でも、リザーバタンク4側からバイパス油路140を介して背圧室R2へブレーキ液が戻される。これにより、上記失陥時においても、ストロークシミュレータ22を初期の作動状態に戻しつつ、ブレーキペダル2を初期位置まで踏み戻すことが可能となる。
ホイルシリンダ液圧制御部104は、倍力制御中、SS/V OUT24を開弁方向に制御する。これにより、第3,第4油路13,14の構成が実施例2と同様になるため、実施例2と同様の作用効果を奏する。
図10は、運転者が通常のブレーキ踏込み操作を行ったときの装置1の作動状態を示すタイムチャートである。時刻t11で、運転者がブレーキ踏込み操作を開始する。時刻t11でペダル踏力Fがゼロより大きくなり、その後、ペダル踏力Fが増大する。時刻t12で、ペダルストロークSがゼロより大きくなり、ブレーキ操作状態検出部101により運転者がブレーキ操作中であると判断される。時刻t19まで、ペダル踏力Fの増大に略対応して、ペダルストロークSが増大し続ける。時刻t19以降、ペダルストロークSが保持される。時刻t11からt12までの区間(i)では、ペダル踏力Fがゼロから所定値F0まで増大する。所定値F0は、ペダル踏力FがペダルストロークSの発生(増大)に実際に使われるようになるペダル踏力Fの下限値(無効踏力の上限値)である。言換えると、区間(i)は無効踏力区間である。時刻t12以降、FがF0より大きくなると、無効踏力区間が終了し、ペダル踏力Fの増大に応じてペダルストロークSが増大するようになる。時刻t14で、SがS2となる。SがS2未満では、液圧室51から補給ポート502(リザーバタンク4)へ向うブレーキ液の流れが制限されず、液圧室51に液圧(マスタシリンダ液圧)が発生しない。言換えると、時刻t12からt14までの区間(i)(ii)は、無効ストローク区間である。時刻t11から時刻t13まで、SがS1未満である。よって、図9のフローチャートでステップS13からS14へ進む流れとなり、倍力制御を実行するための各アクチュエータを非作動とする。
時刻t13以後、SがS1以上となる。よって、ステップS13からS15へ進む流れとなり、上記各アクチュエータのうち一部を作動させることで、倍力制御の実行を準備する。時刻t14まで、目標ホイルシリンダ液圧Pw*がゼロである。よって、ステップS16からS18へ進む流れとなり、上記倍力制御の実行を準備している状態を維持する。すなわち、時刻t13からt14までの区間(ii)は、倍力制御準備区間である。時刻t14以後、Pw*がゼロより大きくなる。時刻t19までPw*が増大し続ける。よって、ステップS16からS17へ進む流れとなり、倍力制御を実行する。すなわち、時刻t14以降の区間(iii)は、倍力制御区間である。急ブレーキ操作が行われていないため、倍力制御中、ポンプ7によって発生するチェック弁230の下流側(第1油路11側)の油路13Bの液圧PBは、Pw*に追従するよう制御される。チェック弁230は閉弁した状態となる。背圧室R2から油路13Aに流出したブレーキ液は、開弁方向に制御されたSS/V OUT24及び絞り24Aを通り、第4油路14を介してリザーバタンク4側へ排出される。油路13Aの液圧PAは第4油路14(リザーバタンク4)の液圧と同様の低圧となる。なお、倍力制御準備区間(ii)を設けたことにより、カット弁21等の制御応答遅れにも関わらず、ポンプ7を駆動して倍力制御を開始する時点で、カット弁21等の作動を完了させておくことができる。よって、倍力制御におけるホイルシリンダ8の加圧応答性及びペダルフィーリングを向上することができる。
図11は、運転者が急速なブレーキ踏込み操作を行ったときの装置1の作動状態を示すタイムチャートである。図10との相違点のみ説明する。時刻t11以後、時刻t17まで、ペダル踏力FとペダルストロークSが増大する。時刻t14以後、倍力制御を実行する。急ブレーキ操作が行われているため、倍力制御の開始直後、ペダルストロークSの増大に応じて急上昇するPw*に対してポンプ7によるホイルシリンダ8の加圧が追いつかず、ポンプ7によって発生する油路13Bの液圧PBはPw*よりも低い。急ブレーキ操作時には、背圧室R2から油路13Aに流入するブレーキ液の流速が高いため、絞り24Aにおける差圧が大きくなる。よって、ペダルストロークSの増大に応じて、絞り24Aの上流側(背圧室R2側)の液圧(油路13Aの液圧PA)が上昇する。時刻t14以後、時刻t15まで、PBがPA以下であるため、チェック弁230は開弁した状態となり、背圧室R2から流入するブレーキ液が第3油路13(チェック弁230)を介してホイルシリンダ8の側へ供給される。すなわち、時刻t14からt15までの区間(iv*)は、補助加圧制御区間である。時刻t15で、PBがPAより高くなる。よって、チェック弁230は閉弁し、補助加圧制御が終了する。時刻t16で、PBがPw*まで上昇する。時刻t16以後、PBはPw*に追従するよう制御される。時刻t17以後、ペダル踏力Fが保持されるものとする。よって、Pmも保持される。これにより、背圧室R2から油路13Aに流入するブレーキ液の流速が低下する。絞り24Aよりも背圧室R2側のブレーキ液は、開弁方向に制御されたSS/V OUT24及び絞り24Aを通ってリザーバタンク4側へ排出される。よって、絞り24Aよりも背圧室R2側の液圧(油路13Aの液圧PA)は、リザーバタンク4側の低圧に向けて低下する。また、正圧室R1からピストン220に作用するPmは保持される一方、背圧室R2からピストン220に作用するPAは低下するため、ピストン220が背圧室R2側にストロークし、正圧室R1の容積が増大する。これにより、マスタシリンダ5の液圧室51Pの容積が縮小する方向にピストン52Pがストロークするため、ペダルストロークSが増大する。時刻t18で、PAがリザーバタンク4側の低圧まで低下すると共に、ペダルストロークSの増大が終了する。
なお、ブレーキシステムの起動時(システムオン時)や、車両システムの起動時(イグニッションスイッチのオン時やドアのキーロック解除時等)に、SS/V OUT24を開弁方向に制御し、以後、その状態を保持することとしてもよい。また、補助加圧制御時(急ブレーキ操作時)にSS/V OUT24を閉弁方向に制御することとしてもよい。この場合、背圧室R2から流出するブレーキ液がSS/V OUT24を介してリザーバタンク4側へ漏れることを抑制できるため、より効率的にホイルシリンダ8にブレーキ液を送ることができる。この場合、例えばチェック弁230が閉弁する前の時点でSS/V OUT24が開弁状態となるようにSS/V OUT24の開閉を制御すれば、補助加圧制御の終了時にストロークシミュレータ22のピストン220の移動が妨げられ、ブレーキフィーリングが悪化するといったおそれを抑制できる。これに対し、本実施例では、補助加圧制御時(急ブレーキ操作時)にも、ポンプ7による通常のホイルシリンダ加圧制御時(非急ブレーキ操作時)と同様にSS/V OUT24を開弁させるようにしている。よって、補助加圧制御の開始や終了に際してSS/V OUT24の開閉操作が不要となるため、装置1の音振性能を向上することができる。なお、第4油路14の絞り24Aは、SS/V OUT24に対して吸入油路15側でなく第3油路13側に設けられていてもよい。その他、実施例1,2と同様の構成により、実施例1,2と同様の作用効果を得ることができる。
[実施例5]
図12は、実施例5の装置1の概略構成を示す。第3油路13には、実施例3と同様に、SS/V IN23とバイパス油路130とチェック弁230が設けられている。第4油路14には、実施例4と同様に、常閉型のオン・オフ電磁弁であるストロークシミュレータアウト弁SS/V OUT24と絞り24Aが直列に設けられている。つまり、実施例3と実施例4とを合わせた構成となっている。ホイルシリンダ液圧制御部104は、実施例3,4と同様に、SS/V IN23とSS/V OUT24を制御する。すなわち、倍力制御中、SS/V IN23を閉弁方向に制御すると共に、SS/V OUT24を開弁方向に制御する。他の構成は実施例4と同様であるため、実施例4と対応する構成には実施例4と同一の符号を付して説明を省略する。
[作用]
次に、作用を説明する。実施例3,4と同様の構成により、実施例3,4と同様の作用効果を得ることができる。例えば、倍力制御中、SS/V IN23を閉弁方向に制御すると共に、SS/V OUT24を開弁方向に制御する。これにより、第3,第4油路13,14の構成が実施例2と同様になるため、実施例2と同様の作用効果を奏する。
[実施例6]
図13は、実施例6の装置1の概略構成を示す。第3油路13には、実施例1と同様、常閉型のオン・オフ電磁弁であるストロークシミュレータイン弁SS/V IN23が設けられている。SS/V IN23と直列に絞り23Aが設けられている点で、実施例1の装置1と異なる。第3油路13は、SS/V IN23によって、背圧室R2側の油路13Aと第1油路11側の油路13Bとに分離される。絞り23Aは、SS/V IN23に対して第1油路11側(油路13B)に設けられている。第4油路14には、実施例4と同様に、SS/V OUT24と絞り24Aとバイパス油路140(チェック弁240)が設けられている。絞り24Aの絞り量は、絞り23Aの絞り量よりも大きく設定されている。
ホイルシリンダ液圧制御部104は、実施例4と同様に、倍力制御中、SS/V OUT24を開弁方向に制御する。ホイルシリンダ液圧制御部104は、補助加圧制御部105を有している。補助加圧制御部105は、倍力制御時、運転者のブレーキ操作状態に応じて、補助加圧制御を実行する。具体的には、補助加圧制御部105は、運転者のブレーキ操作状態が所定の急ブレーキ操作であるか否かを判断する。急ブレーキ操作が行われている(ブレーキペダル2の踏込み速度が速い)と判断した場合、SS/V IN23を開弁方向に制御する。急ブレーキ操作が行われていない(ブレーキペダル2の踏込み速度が速くない)と判断した場合、SS/V IN23を閉弁方向に制御する。
図14は、ECU100による制御の流れを示すフローチャートである。この処理は所定周期で繰り返し実行される。ステップS101〜S103,S105は、それぞれ実施例4(図9)のステップS11〜S13,S15と同様である。ステップS104では、倍力制御を実行するための各アクチュエータを非作動とする。具体的には、SS/V IN23を非作動とする(閉弁方向に制御する)。他のアクチュエータはステップS14と同様に制御する。ステップS106では、補助加圧制御部105が、ペダルストローク速度ΔS/Δtが第1の所定値α以上であるか否かを判断する。αは、SS/V IN23の作動(補助加圧制御の実行)を許可するΔS/Δtの閾値である。ΔS/Δtがα以上であると判断するとステップS107に進み、α未満であると判断するとステップS109に進む。ステップS107では、実施例1(図2)のステップS2と同様、補助加圧制御部105が、モータ回転数Nmが所定値Nm0以下であり、かつ、ペダルストロークSが所定値S0以下であるか否かを判断する。NmがNm0以下であり、かつSがS0以下であると判断するとステップS108に進む。NmがNm0より大きいか、又はSがS0より大きいと判断するとステップS110に進む。ステップS108では、補助加圧制御部105が、SS/V IN23を作動させ(開弁方向に制御し)た後、ステップS111に進む。ステップS109では、補助加圧制御部105が、ペダルストローク速度ΔS/Δtが第2の所定値β(<α)以下であるか否かを判断する。βは、SS/V IN23の作動(補助加圧制御の実行)を終了するΔS/Δtの閾値である。ΔS/Δtがβ以下であると判断するとステップS110に進み、βより大きいと判断するとステップS111に進む。ステップS110では、SS/V IN23を非作動とし(閉弁方向に制御し)た後、ステップS111に進む。ステップS111〜S113は、それぞれ実施例4(図9)のステップS16〜S18と同様である。他の構成は実施例4と同様であるため、実施例4と対応する構成には実施例4と同一の符号を付して説明を省略する。
[作用]
次に、作用を説明する。第3油路13に、SS/V IN23を設けた。SS/V IN23は、背圧室R2から流出するブレーキ液を、第4油路14を介してリザーバタンク4へ送る流路と、第3油路13を介して第1油路11P(11B)へ送る流路とを切替える切替え部(の一部)を構成する。なお、SS/V IN23は常開弁であってもよい。また、第4油路14に絞り24AとSS/V OUT24を設けた。絞り24AとSS/V OUT24は、実施例2,4と同様、上記切替え部(の一部)を構成する。
ホイルシリンダ液圧制御部104は、倍力制御中、SS/V OUT24を開弁方向に制御する。非急ブレーキ操作時、補助加圧制御部105は、SS/V IN23を閉弁方向に制御する。これにより、第3,第4油路13,14の構成が実施例2(の非急ブレーキ操作時)と同様になるため、実施例2と同様の作用効果を奏する。すなわち、補助加圧制御を実行せず(終了し)、ポンプ7による通常のホイルシリンダ加圧制御を実行する。ホイルシリンダ8側(油路13B)から背圧室R2側(油路13A)へブレーキ液が戻されないため、マスタシリンダ液圧がホイルシリンダ8側(油路13B)の高い液圧の影響を受けて上昇することが回避される。
図15は、運転者が通常のブレーキ踏込み操作を行ったときの装置1の作動状態を示すタイムチャートである。時刻t23で、ペダルストロークSがS1以上となる。よって、図14のフローチャートでステップS103からS105へ進む流れとなり、倍力制御を実行するための各アクチュエータのうち一部を作動させることで、倍力制御の実行を準備する。一方、Sがゼロより大きくなる時刻t22以降、ブレーキ踏込み操作の速度が低い(ペダルストローク速度ΔS/Δtがα未満である)。このため、ステップS106からS109以降へ進む流れとなり、SS/V IN23を非作動とする(閉弁方向に制御する)。他の作動状態は、実施例4(図10)と同様である。
一方、急ブレーキ操作時、補助加圧制御部105は、SS/V IN23を開弁方向に制御する。これにより、第3,第4油路13,14の構成が実施例2(の急ブレーキ操作時)と同様になるため、実施例2と同様の作用効果を奏する。すなわち、急ブレーキ操作時、第3油路13における第1油路11側の油路13Bの液圧が、背圧室R2側の油路13Aの液圧よりも有意に低くなる場合、絞り23Aの上下流で液圧差が発生する。よって、背圧室R2から油路13Aに流出するブレーキ液は、絞り23Aを通って油路13Bに流出し、第1油路11P(11B)へ送られ、ホイルシリンダ8の加圧に用いられる。これにより、補助加圧制御を実行する。また、絞り24Aの絞り量は絞り23Aの絞り量よりも大きく設定されており、絞り24Aを介したブレーキ液の流通よりも絞り23Aを介したブレーキ液の流通のほうが容易である。よって、背圧室R2からのブレーキ液はホイルシリンダ8側へ優先的に送られる。言換えると、運転者のブレーキ操作に伴い(ペダル踏力により)背圧室R2から流出するブレーキ液の流路が、第3油路13を介して第1油路11P(11B)へ送られる流路へと切替わる。補助加圧制御部105は、急ブレーキ操作が終了したか、又は補助加圧制御が不要になったと判断すると、SS/V IN23を閉弁方向に制御する。これにより、背圧室R2から流出するブレーキ液の流路が、第4油路14を介しリザーバタンク4へ送られる流路へと切替わる。なお、SS/V IN23が開弁した状態であっても、絞り23Aの上流側(背圧室R2側)の液圧が下流側(第1油路11側)の液圧以下になれば、油路13Bを介してホイルシリンダ8側へブレーキ液は送られなくなる。
図16は、運転者が急速なブレーキ踏込み操作を行ったときの装置1の作動状態を示すタイムチャートである。時刻t23で、図15と同様、倍力制御の実行を準備する。時刻t23で、ブレーキ踏込み操作の速度が高い(ΔS/Δtがα以上である)。また、ペダルストロークSはS0以下であり、モータ回転数NmもNm0以下である。このため、ステップS106からS107へ、更にS108へ進む流れとなり、SS/V IN23を作動させる(開弁方向に制御する)。時刻t24以後、倍力制御を実行するための各アクチュエータのうち残りを作動させることで、倍力制御を実行する。時刻t24以後、時刻t25まで、PBがPA以下であるため、背圧室R2から油路13Aに流出するブレーキ液は絞り23Aを通り、油路13Bを介してホイルシリンダ8の側へ供給される。これにより、補助加圧制御を実行する。時刻t25で、ΔS/Δtがβ以下となるか、SがS0より大きくなるか、又は、NmがNm0より大きくなるかする。このため、ステップS105からS110へ進む流れとなり、SS/V IN23を非作動とする(閉弁方向に制御する)。これにより、補助加圧制御を終了し、通常のホイルシリンダ加圧制御を実行する。なお、αとβを異ならせて設定しているため、制御のハンチングを抑制できる。他の作動状態は、実施例4(図11)と同様である。
なお、第3油路13において絞り23Aを省略してもよい。本実施例では、絞り23Aを設けたため、絞り23Aの上流側(背圧室R2側)の液圧が下流側(第1油路11側)の液圧以下になった後にSS/V IN23が閉弁方向に制御された場合でも、ホイルシリンダ8側(油路13B)から背圧室R2側(油路13A)へブレーキ液が戻されることを抑制できる。すなわち、絞り23Aの上下流の液圧差が大きくなるにつれて絞り23Aを通過するブレーキ液量が減少するため、ポンプ7の作動により絞り23Aの下流側の液圧が上流側より上昇しても、下流側(ホイルシリンダ8側)から上流側(背圧室R2側)へブレーキ液が戻されることは、ある程度抑制される。なお、SS/V IN23を省略してもよい。本実施例では、SS/V IN23を設けたため、油路13Bの連通をSS/V IN23によって遮断することで、背圧室R2側へのブレーキ液の逆流をより確実に抑制できる。よって、ペダルフィーリングの悪化等をより効果的に抑制することができる。なお、ブレーキシステムや車両システムの起動時に、SS/V IN23を開弁方向に制御し、以後、その状態を保持する(ブレーキバイワイヤ制御中、非急ブレーキ操作時にSS/V IN23を閉弁させる)こととしてもよい。また、第3油路13の絞り23Aは、SS/V IN23に対して第1油路11側でなく背圧室R2側に設けられていてもよい。その他、実施例1,4と同様の構成により、実施例1,4と同様の作用効果を得ることができる。
[他の実施例]
以上、本発明を実現するための形態を、実施例に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。例えば、本発明が適用されるブレーキ制御装置(ブレーキシステム)は、操作反力を模擬するための機構(ストロークシミュレータ)を備えると共に、マスタシリンダ以外の液圧源によりホイルシリンダを加圧することが可能なものであればよく、実施例のものに限らない。実施例では、油圧式のホイルシリンダを各車輪に設けたが、これに限らず、例えば前輪側を油圧式ホイルシリンダとし、後輪側を電動モータで制動力を発生可能なキャリパとしてもよい。また、ホイルシリンダ液圧を制御するための各アクチュエータの作動方法、例えばモータ回転数(指令値)の設定方法等は実施例のものに限らず、適宜変更可能である。また、各実施例の構成を適宜組み合わせてもよい。