本発明に係る物品表面加飾シート、及び加飾成形体の一実施形態について説明する。
図1は、物品表面加飾シート10を成形体本体11の表面に粘着剤層または接着剤層(以下、これらをまとめて粘接着層とも称する)12を介して接着して形成された加飾成形体20の模式図であり、図1(a)は上面、図1(b)は図1(a)のI−I'断面の模式図を示す。物品表面加飾シート20は、図1(a)に示すように、上面視したときに溝状の領域Bを有する矩形状の輪郭を有するエンボス柄を有する。また、図1(b)に示すように、断面視したときに互いに圧縮率の異なる、領域A、領域B,及び領域Cを有する略台地状の凸部を形成したエンボス柄を有する。
図1(b)に示すように、物品表面加飾シート10は、不織布基材1と、高分子弾性体を含む1〜100μmの表面層2と、不織布基材1と表面層2とを接着する中間層3を備える。中間層3はホットメルト型接着剤を含む厚さ10〜150μmの接着層である。そして、物品表面加飾シート10は粘接着層12を介して成形体本体11に接着されている。不織布基材1は、繊度0.8dtex以下の極細繊維の繊維束の絡合体を含み、領域A、領域B,及び領域Cの順に繊維束の圧縮率が高くなっている。
物品表面加飾シート10は、不織布基材1が高い圧縮率で圧し潰されており、無荷重状態の走査型顕微鏡(SEM)で測定された厚さの割合に対する、240gf/cm2の荷重を掛けて定圧厚み測定器で測定したときの厚さを80%以上維持することが好ましい。また、不織布基材1の圧縮率が最も高い領域Cは、上記厚さの割合を90%以上維持することが好ましい。また、不織布基材1の圧縮率が最も低い領域Aは上記厚さの割合を80〜89%維持することが好ましい。このような物品表面加飾シートは、充実感が高く圧縮されにくいために、頻繁に人の指で繰り返し圧されるような物品の表面材として用いられても押しつぶされにくい。また、表面層及び中間層だけではなく不織布基材にまでエンボス柄が転写されているために、文字や細かな模様でも正確に転写されている。
また、不織布基材1の圧縮率が最も高い領域Cの上記厚さの割合は、90%以上、さらには91%以上であることが好ましい。上記厚さの割合が90%未満の場合には、エンボス柄の輪郭が鮮明にならないとともに、人の指で触れられるような物品の表面材として用いられた場合にエンボス柄の輪郭が経時的に不鮮明になってくる傾向がある。
不織布基材1の圧縮率が最も低い領域Aの上記厚さの割合は、80〜89%、さらには82〜88%であることが好ましい。不織布基材1の圧縮率が最も低い領域の上記厚さの割合がこのような範囲である場合には、人の指で触れられるような物品の表面材として用いられた場合にエンボス柄の輪郭が鮮明になる。
なお、240gf/cm2の荷重を掛けて定圧厚み測定器で測定したときの厚さは、JISL1096に準じて荷重240gf/cm2のJIS厚み測定器(例えば、(株)尾崎製作所製 定圧厚み測定機)により測定することができる。また、無荷重状態の走査型顕微鏡(SEM)により測定された厚さは、定圧厚み測定器で測定する箇所の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で撮影し写真から平均的に選択された3点における厚さを平均して算出される。
図2は、本実施形態の物品表面加飾シートの不織布基材の圧縮率が最も高い、また、薄い領域CのSEMの画像の一例である。図2中、1aは不織布基材を形成する繊度0.8dtex以下の極細繊維の繊維束であり、繊維束の一部に輪郭を付しており、点線は補助線である。
図2に示すように、繊維束は複数の極細繊維が集束するように形成されている。そして、極細繊維の繊維束の絡合体を含む不織布基材は、厚み方向断面における繊維束間の距離の平均値は、圧縮率が最も高い領域Cで10μm未満であり、0〜8μmであることが好ましく、圧縮率が最も低い領域Aで10μm以上30μm以下であり、10μm以上20μm以下であることが好ましい。本実施形態の物品表面加飾シートは、このように高い圧縮率で圧し潰された不織布基材を含むことにより、充実感が高く、圧し潰されにくいシートになる。
厚み方向断面における繊維束間の距離の平均値の測定方法及び算出方法を図2を参照して説明する。図2に示すような、不織布基材の厚み方向に平行な任意の断面をSEMで150倍で撮影する。そして、撮影された画像に対して、シートの厚み方向に対して平行に、ほぼ等間隔で10本の補助線を引く。そして、10本の補助線を通過させた全ての繊維束間(繊維束の外周同士間)の距離合計(A)を求める。そして、10本の補助線を通過させた繊維束数の合計を求め、繊維束数の合計から10を引いた数を繊維束間数(B)とする。そして、距離合計(A)を繊維束間数(B)で除した値、すなわち、(A)/(B)を厚み方向における繊維束間距離の平均値として算出する。なお、断面方向における繊維束のカウント方法は、円形の形状をした繊維束のみならず、斜めに伸びる楕円の形状をした繊維束もカウントする。但し、実質的に束を形成している繊維束を数えるものとする。そして、任意の10点のそれぞれの線上における繊維束間距離の平均値を求める。任意の10点のそれぞれの線上における繊維束間距離の平均値全てが上述のような範囲であることがより好ましい。
各繊維束を形成する極細繊維の本数としては、5〜1000本、さらには5〜200本、とくには10〜50本、ことには10〜30本であることが好ましい。また、繊維束の平均直径としては、1〜50μm、さらには10〜30μmであることが好ましい。繊維束を形成する極細繊維の本数が多すぎる又は繊維束の平均直径が大きすぎる場合には、厚み方向断面における繊維束間の距離の平均値を小さくしにくくなる傾向がある。また、繊維束を形成する極細繊維の本数が少なすぎる又は繊維束の平均直径が小さすぎる場合にも、厚み方向断面における繊維束間の距離の平均値を小さく調整しにくくなる傾向がある。なお、繊維束の平均直径とは、シートの厚み方向の断面をSEMで撮影した画像において、平均的に100個の繊維束の外形を特定し、その外形に囲まれた面積と同等の面積を有する円の直径を意味するものとする。
極細繊維の繊度は0.8dtex以下であり、0.5dtex以下、さらには、0.1dtex以下、とくには0.08dtex以下であることが好ましい。なお、下限は特に限定されないが、0.01dtex程度であることが好ましい。極細繊維の繊度が0.8dtexを超える場合には、繊維の延伸性が低下して、熱エンボス加工により不織布基材を形成する繊維束が高密度化されにくくなる。その結果、エンボス柄の輪郭が不鮮明になりやすくなる。
不織布基材を形成する繊維束は長繊維の極細繊維から形成されていることが、厚み方向断面における繊維束間の距離を上述のように調整しやすくなる点から好ましい。ここで、長繊維とは、所定の長さに切断処理された短繊維ではないことを意味する。長繊維の長さとしては、100mm以上、さらには、200mm以上であることが、繊維束の繊維密度を充分に高めることができる点から好ましい。極細繊維が短すぎる場合には、繊維束の高密度化が困難になる傾向がある。上限は、特に限定されないが、例えば、スパンボンド法により製造された不織布の場合には、連続的に紡糸された数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。また、これらの繊維は単独ではなく数種の繊維が混合したものでもよい。
極細繊維を形成する樹脂は特に限定されない。その具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリトリメチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリエステルエラストマー等のポリエステル系樹脂;ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド610,芳香族ポリアミド,ポリアミドエラストマー等のポリアミド系樹脂;アクリル樹脂;オレフィン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂等繊維形成能を有する合成樹脂から形成された繊維等が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリエステル系樹脂及びポリアミド系樹脂が、溶融紡糸性に優れている点から好ましい。また、とくには、ガラス転移温度(Tg)が100〜120℃、さらには105〜115℃であるポリエステルが好ましい。
Tgが100〜120℃のポリエステルを含む極細繊維は、熱転写加工する際の加熱による軟化時の延伸性に優れているために、高低差の大きい凹凸模様の転写性が優れている。なお、Tgが100℃未満の場合には熱転写後の固化に時間がかかる傾向がある。
Tgは、例えば、動的粘弾性測定装置(例えば、レオロジ社製FTレオスペクトラDDVIV)を用いて、幅5mm、長さ30mmの試験片を間隔20mmのチャック間に固定して、測定領域30〜250℃、昇温速度3℃/min、歪み5μm/20mm、測定周波数10Hzの条件で動的粘弾性挙動を測定することにより得られる。
Tgが100〜120℃のポリエステルの具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートの構成単位に直鎖の構造を乱す共重合成分を構成単位として含有する変性ポリエチレンテレフタレート、特に、イソフタル酸、フタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の非対称型芳香族カルボン酸や、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸を共重合成分として所定割合で含有する変性ポリエチレンテレフタレートが挙げられる。さらに具体的には、モノマー成分としてイソフタル酸単位を2〜12モル%含有する変性ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
不織布基材の繊維間または繊維束間の空隙には、形状安定性を付与したり充実感を付与したりすることを目的として、必要に応じて高分子弾性体を含んでもよい。高分子弾性体の種類は特に限定されない。その具体例としては、例えば、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン等の各種ポリウレタンや、アクリル系弾性体、ポリウレタンアクリル複合弾性体、ポリ塩化ビニル、合成ゴム等が挙げられる。これらの中では、ポリウレタンが接着性や機械特性が優れる点から好ましい。また、高分子弾性体には必要に応じて公知の各種添加剤を配合してもよい。なお、高分子弾性体としては、架橋された高分子弾性体、特にはN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)浸漬に対する質量減少率が5質量%以下である架橋性のポリウレタンが好ましい。架橋された高分子弾性体は熱プレス後の弾性回復による変形が小さいために、不織布基材に熱プレス処理を施して繊維束間の距離の平均値が小さくなるように調整しやすくなる。
また、このような架橋されたポリウレタンは、架橋性の非多孔質のポリウレタンの水系エマルジョンを用いて形成されることが好ましい。このような架橋性のポリウレタンの水系エマルジョンの具体例としては、例えば、乾燥後に架橋構造を形成する、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンの水系エマルジョンが挙げられる。
不織布基材中の高分子弾性体の含有割合としては、5〜40質量%、さらには、8〜35質量%、とくには12〜30%であることが、充実感に優れるために好ましい。
不織布基材の見かけ密度は0.50g/cm3以上、さらには0.50〜0.85g/cm3、とくには0.50〜0.80g/cm3であることが好ましい。このように高い見かけ密度の場合には、高い充実感が得られる。
不織布基材の厚さは特に限定されないが、300〜1000μm、さらには、300〜800μm、とくには300〜600μmであることが、薄い物品表面加飾シートが得られる点から好ましい。
物品表面加飾シート10は、高分子弾性体を含む厚さ1〜100μmの表面層2を有する。
表面層を形成するための高分子弾性体の種類は特に限定されない。その具体例としては、例えば、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン等の各種ポリウレタンや、アクリル系弾性体、ポリウレタンアクリル複合弾性体、ポリ塩化ビニル弾性体、合成ゴム等が挙げられる。これらの高分子弾性体は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリウレタンが接着性や、耐磨耗性や耐屈曲性等の機械物性が優れる点から好ましい。また、高分子弾性体は必要に応じて公知の各種添加剤や着色剤を含有してもよい。なお、本実施形態の物品表面加飾シートにおいては、とくに、意匠性を向上させるために、シルバーのようなメタリック系の顔料や、赤,青,黄のような鮮やかな着色を呈する着色剤を表面層に含有させることが意匠性にとくに優れる点から好ましい。
なお、表面層は一液型の非架橋性の高分子弾性体を用いて形成することが好ましい。架橋された高分子弾性体は、後の熱転写工程において可塑化しにくいために、型押し性が低下する。表面層は、接着性を高めることを目的としてアンカーコート層を設けたり、表面にトップコート層を設けたような積層構造を有したりしてもよい。
表面層の厚さは1〜100μmであり、15〜80μm、さらには20〜50μmであることが好ましい。表面層の厚さが1μm未満の場合には、得られる物品表面加飾シートの表面の耐熱性が低下したり、耐摩耗性が低下したりする傾向がある。また、表面層の厚さが100μmを超える場合には、物品表面加飾シートが厚くなって、意匠性が低下する。
表面層2は、ホットメルト型接着剤を含む厚さ10〜150μmの中間層3を介して不織布基材1と接着されている。このようなホットメルト型接着剤を含む厚さ10〜150μmの中間層は、物品表面加飾シートを製造する際の熱エンボス時の賦形性に優れる。
中間層を形成するために用いられるホットメルト型接着剤は、加熱することにより溶融し、その後に冷却されることにより再固化する、従来から知られたホットメルト型接着剤であれば、特に限定なく用いられる。具体的には、例えば、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、アクリル系、酢酸ビニル系、ポリスチレン系、エポキシ系等のホットメルト型接着剤が挙げられる。また、ホットメルト型接着剤としては、架橋タイプ、半架橋タイプ、非架橋タイプのいずれでもよいが、接着性に優れる点から架橋タイプが好ましい。また、得られる物品表面加飾シートの熱エンボス時の賦形性に優れる点から軟化温度が150℃以下、さらには130℃以下であるようなホットメルト型ウレタン接着剤がとくに好ましい。なお、軟化温度は、例えば、50μmの乾式フィルムを作成したのち、定荷重を加えながら、一定温度で昇温し、目視で急激に伸び始める温度もしくは急激に切断する温度を特定することにより測定することができる。
また、ホットメルト型接着剤の軟化温度は、極細繊維のTgよりも0〜30℃、さらには、10〜20℃高いことが好ましい。このような場合には、極細繊維のTgとホットメルト型接着剤の軟化温度が近いために、熱エンボス加工により、中間層及び不織布基材に明瞭に凹凸模様が転写されやすくなる。ホットメルト型接着剤の軟化温度が高すぎる場合には、中間層に対する転写性が低下し、中間層に明瞭に転写するために熱エンボス加工の温度を高めすぎた場合には、極細繊維同士が融着してフィルム化することにより風合いが低下する。また、ホットメルト型接着剤の軟化温度が低すぎる場合には、不織布基材に対する転写性が低下し、不織布基材に明瞭に転写するために熱エンボス加工の温度を高めすぎた場合には、ホットメルト型接着剤が溶融したり分解したりするおそれがある。
中間層の厚さは10〜150μmであり、20〜130μm、さらには30〜120μmであることが好ましい。中間層の厚さが10μm未満の場合には、熱エンボス時の転写性が低下する。また、中間層の厚さが150μmを超える場合には、物品表面加飾シートの耐熱性が低下したり、機械的特性が低下したりする傾向があり、また、物品表面加飾シートも厚くなるために好ましくない。
なお、各層の厚さは熱エンボスのためのプレス工程で付与される圧力の違い等により、各領域に応じて多少異なるが、本実施形態においては、圧縮率の最も低い領域、すなわち最も厚い領域の厚さの平均厚さを基準とする。
本実施形態の物品表面加飾シートの厚さは特に限定されないが、圧縮率が最も低い領域、すなわち最も厚い領域の厚さが300〜1000μm、さらには300〜600μmであることが、曲面を含む物品の表面を加飾する場合においても正確に貼り合せられる物品表面加飾シートが得られる点から好ましい。
また、表面層と中間層との厚さの合計としては、40〜180μm、さらには50〜100μmであることが好ましい。表面層と中間層との厚さの合計が薄すぎる場合には耐摩耗性等の表面特性が不充分になり、表面層と中間層との厚さの合計が厚すぎる場合には、物品表面加飾シート全体が厚くなりすぎて意匠性が低下したり、貼り合わせにくくなったりする傾向がある。
また、型押しにより形成された圧縮率の高い第1領域と、圧縮率の低い第2領域との高低差、すなわち第1領域と第2領域との厚さの差としては、100〜500μm、さらには150〜400μmであることが好ましい。高低差が小さすぎる場合には形押しにより形成される輪郭が不明瞭になり、高低差が大きいものは製造が困難になる傾向がある。
また、表面層と前記中間層との厚さの合計よりも、第1領域と第2領域の高低差または厚さの差の方が大きい、具体的には、第1領域と前記第2領域の高低差または厚さの差が、表面層と中間層との厚さの合計に対して、1.1倍以上、さらには2倍以上である場合には、不織布基材にまで凹凸模様がより明瞭に転写されて輪郭が正確に表現される点から好ましい。
なお、形成される図柄としては、図形、記号、模様、文字等特に限定されない。また、模様や文字を形成する部分は凹部であっても凸部であってもよい。このようにして形成される物品表面加飾シート25の一例の斜視模式図を図4に示す。図4の物品表面加飾シート25においては、26が第一領域であり、27が第2領域であり、第2領域が「A」の文字、及び、矢印の図柄が浮き出るように形成されている。
物品表面加飾シート10は、図1に示したように、例えば、成形体本体11の表面に接着して用いられる。この場合、物品表面加飾シート10の裏面に粘接着層12を設けることにより成形体本体の表面に貼り合せることができる。成形体本体の表面に物品表面加飾シートを貼り合せることにより、立体感のあるエンボス柄を有する加飾成形体が製造される。
また、本実施形態の物品表面加飾シートは、射出インサート成形に供されるプレフォーム成形体、または、シートとして用い、成形体本体の成形と同時にその表面に一体化させることによっても、立体感のあるエンボス柄を有する加飾成形体が製造される。
本実施形態の物品表面加飾シートは、薄さの要求される用途であって、例えば頻繁に人の指で繰り返し圧されるような物品の表面材等、さらに具体的には、エレベータや各種家電製品の押しボタンや、情報端末機器やPCのキーボードの表面等に貼り合せる表皮材として好ましく用いられる。また、視覚障碍者に触感により各種情報を認識させるための、点字や方向マークを表示する表面素材等としても好ましく用いられる。
次に、物品表面加飾シートの製造方法の一例を説明する。
(1)繊度0.8dtex以下の極細繊維の繊維束の絡合体を含む不織布基材を準備する工程
本工程においては、はじめに、海島型複合繊維からなる長繊維のウェブを溶融紡糸により製造する。例えば、海島型複合繊維を溶融複合紡糸し、いわゆるスパンボンド法を用いて海島型複合繊維を切断せずにネット上に捕集してウェブを形成する方法が挙げられる。海島型複合繊維の海成分は、後の適当な段階で抽出または分解されて除去される。この分解除去または抽出除去により繊度0.8dtex以下の極細繊維の繊維束が形成される。
海島型複合繊維の紡糸およびウェブ形成には、スパンボンド法が好ましく用いられる。具体的には、多数のノズル孔が、所定のパターンで配置された複合紡糸用口金を用いて、海島型複合繊維を個々のノズル孔からコンベヤベルト状の移動式のネット上に連続的に吐出させ、高速気流を用いて冷却しながら堆積させる。このような方法により長繊維のウェブが形成される。ネット上に形成されたウェブには融着処理が施されることが好ましい。融着処理により形態安定性が付与される。融着処理の具体例としては、例えば、熱プレス処理が挙げられる。熱プレス処理としては、例えば、カレンダーロールを使用し、所定の圧力と温度をかけて処理する方法を採用することができる。
海島型複合繊維の島成分を形成する樹脂としては、上述した極細繊維を形成する繊維が用いられる。一方、海島型複合繊維の海成分を構成する熱可塑性樹脂としては、島成分を構成する樹脂とは溶剤に対する溶解性または分解剤に対する分解性を異にする熱可塑性樹脂が選ばれる。海成分を構成する熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、スチレンエチレン共重合体、スチレンアクリル共重合体、ポリビニルアルコール系樹脂などが挙げられる。中でも、湿熱や熱水で収縮し易い点でポリビニルアルコール系樹脂、特にエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。
形成されたウェブを融着処理するための熱プレス処理の温度は、海島型複合繊維の海成分を構成する成分の融点より10℃以上低いことが好ましい。熱プレス処理の温度が海成分の融点より10℃以上低い場合には、ウェブの良好な形態安定性を維持しながら、積重後のウェブを絡合する際の絡合不良や針穴の形成を防ぎ、高品位な不織布とすることができる。熱プレス処理後のウェブの目付けとしては、20〜60g/m2の範囲であることが好ましい。20〜60g/m2の範囲にあることで、次のウェブの絡合処理において良好な形態保持性を維持させることができる。
次に、得られたウェブを4〜100枚程度重ねて絡合させることによりウェブ絡合シートを形成する。ウェブ絡合シートは、ニードルパンチや高圧水流処理等の公知の不織布製造方法を用いてウェブに絡合処理を行うことにより形成される。以下に、代表例として、ニードルパンチによる絡合処理について詳しく説明する。
はじめに、ウェブに針折れ防止油剤、帯電防止油剤、絡合向上油剤などのシリコーン系油剤または鉱物油系油剤を付与する。その後、ニードルパンチにより三次元的に繊維を絡合させる絡合処理を行う。ニードルパンチを行うことにより、見掛け密度が高く、繊維の抜けを起こしにくいウェブ絡合シートが得られる。ウェブ絡合シートの目付は、目的とする厚みに応じて適宜選択される。具体的には、例えば、500〜2000g/m2の範囲であることが取扱い性に優れる点から好ましい。
次に、必要に応じて、ウェブ絡合シートを熱収縮させることにより、ウェブ絡合シートの見掛け密度及び絡合度合を高める。なお、長繊維を含有するウェブ絡合シートは、短繊維を含有するウェブ絡合シートに比べて熱収縮により大きく収縮する。熱収縮処理されたウェブ絡合シートは、加熱ロールや加熱プレスすることにより、さらに、見掛け密度が高められてもよい。
熱収縮処理によるウェブ絡合シートの目付の変化は、収縮処理前の目付に比べて、1.1倍(質量比)以上、さらには、1.3倍以上で、2.0倍以下、さらには1.6倍以下であることが好ましい。
なお、必要に応じて、後述する極細繊維化処理の前または後に、ウェブ絡合シートに高分子弾性体を付与してもよい。
ウェブ絡合シートに高分子弾性体を付与する方法としては、高分子弾性体の溶液またはエマルジョンをウェブ絡合シートに含浸させた後、高分子弾性体を凝固させる方法が挙げられる。高分子弾性体の溶液またはエマルジョンをウェブ絡合シートに含浸させる方法としては、溶液またはエマルジョンをウェブ絡合シートに所定の含浸状態になるように浸漬し、プレスロール等で絞るという処理を1回又は複数回行うディップニップ法が好ましく用いられる。また、その他の方法として、バーコーティング法、ナイフコーティング法、ロールコーティング法、コンマコーティング法、スプレーコーティング法等を用いてもよい。
高分子弾性体の溶液またはエマルジョンをウェブ絡合シートに含浸し、高分子弾性体を凝固させることにより、高分子弾性体をウェブ絡合シートに固定する。なお、架橋性の高分子弾性体を架橋させるためには、凝固及び乾燥後に加熱処理してキュア処理を行うことが好ましい。
なお、高分子弾性体の溶液またはエマルジョンは、本発明の効果を損なわない範囲で、染料や顔料などの着色剤、凝固調節剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、防黴剤、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥水剤、撥油剤、増粘剤、増量剤、硬化促進剤、発泡剤、ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、無機微粒子、導電剤などを含有してもよい。
ウェブ絡合シート中の海島型複合繊維は、海成分を水や溶剤等で抽出または分解除去することにより極細繊維束に変換される。ポリビニルアルコール系樹脂等の水溶性樹脂を海成分に用いた海島型複合繊維の場合においては、水、アルカリ性水溶液、酸性水溶液等で熱水加熱処理することにより海成分が除去される。
以上のような工程を経て、繊度0.8dtex以下の極細繊維の繊維束の絡合体を含む不織布基材が準備される。このようにして得られた不織布基材は、通常、スライスや研削により、目的とする厚さに調整される。
(2)離型紙の表面に高分子弾性体を含む厚さ1〜50μmの表面層を形成する工程
本工程においては、はじめに、離型紙の表面に、表面層となる高分子弾性体を含むシートを形成する。
離型紙の表面に、表面層となる高分子弾性体を含むシートを形成する方法は特に限定されないが、例えば、離型紙上に高分子弾性体の溶液やエマルジョンを塗布した後、乾燥凝固させる、いわゆる乾式造面法や、離型紙上にTダイを用いて溶融させた高分子弾性体の塗膜を形成し、冷却して固化させる方法が挙げられる。
(3)離型紙の表面に形成された表面層に、乾燥時の厚さが10〜150μmになるようにホットメルト型接着剤の溶液の塗膜を形成し、塗膜に不織布基材を圧着し、塗膜中の溶媒を除去しながら不織布基材とホットメルト型接着剤とを接着させ、離型紙を除去することにより被熱転写シートを形成する工程
離型紙上に形成された表面層となる、高分子弾性体を含むシートの表面に、厚さ10〜150μmの中間層を形成するためのホットメルト型接着剤を含む樹脂成分を塗布する。
ホットメルト型接着剤の性状は、通常、常温で固体状である。従って、形成された中間層は固体状である。このようなホットメルト型接着剤は、通常、無溶剤タイプの固体状のホットメルト型接着剤を塗布可能な粘度に調整して塗布される。しかしながら、表面層を形成するための高分子弾性体のシートに溶融されたホットメルト型接着剤を塗布した場合には、高分子弾性体のシートが熱履歴を受ける。そのために、このような熱履歴を避けるために、固体状のホットメルト型接着剤を溶剤に溶解した溶液タイプのホットメルト型接着剤を用いて塗膜を形成することが好ましい。
離型紙上に形成された表面層を形成するためのシートの表面に、溶液タイプのホットメルト型接着剤を用いて塗膜を形成し、その溶液中の溶媒が完全に乾燥する前に、予め準備された不織布基材を貼り合せて溶剤を乾燥除去することにより、不織布基材と表面層とが一体化される。この際、必要に応じて、接着させる際にホットメルト型接着剤が硬化しない程度の温度で熱プレスしてもよい。そして、ホットメルト型接着剤と不織布基材とが接着された後、表面層から離型紙を剥離することにより、被熱転写シートが形成される。
なお、熱エンボス加工前の被熱転写シートは、240gf/cm2の荷重を掛けて定圧厚み測定器で測定したときの厚さに対する、無荷重状態の走査型顕微鏡(SEM)で測定された厚さの割合は特に限定されないが、80〜89%、さらには80〜85%であることが好ましい。また、その厚み方向断面における繊維束間の距離の平均値は、10μm以上30μm以下、さらには20μm以上30μm以下であることが好ましい。
(4)SEMで測定された厚さに対する240gf/cm2に設定した定圧厚み測定器で測定したときの厚さの割合が、90%以上である第1領域と、80〜89%である第2領域とを形成するように被熱転写シートに熱エンボス処理する工程
被熱転写シートに、SEMで測定された厚さに対する240gf/cm2に設定した定圧厚み測定器で測定したときの厚さの割合が、90%以上である第1領域と、80〜89%である第2領域とを形成することにより物品表面加飾シートが得られる。
具体的には、たとえば、図5(a)に示すような被熱転写シート5を、図5(b)に示すような表面に凹凸の型押しパターンを有する加熱されたエンボスロール6と加熱平滑ロール7との間に通過させることにより、図5(c)に示すような物品表面加飾シート10が得られる。
エンボスロールの温度や圧力は、被熱転写シートに、SEMで測定された厚さに対する240gf/cm2に設定した定圧厚み測定器で測定したときの厚さの割合が、90%以上である第1領域と、80〜89%である第2領域が形成されるような条件であれば特に限定されない。例えば、エンボスロールの温度としては、極細繊維のTg以上で融点未満の温度が挙げられる。また、エンボスロールの高低差としては、100〜500μmであるような高低差の大きいエンボスロールが好ましく用いられる。
熱エンボス加工の条件はSEMで測定された厚さに対する240gf/cm2に設定した定圧厚み測定器で測定したときの厚さの割合が、90%以上である第1領域と、80〜89%である第2領域とを形成することができる限り特に限定されない。具体的には、例えば、表面の温度が100〜180℃,プレス圧0.1〜1.0MPa,プレス時間1〜3m/minの条件、さらには、温度が130〜150℃,プレス圧0.2〜0.5MPa,プレス時間1〜3m/minの条件、とくには、温度が130〜150℃,プレス圧0.4〜0.8MPa,プレス時間1〜3m/minの条件で、ロールプレスするような方法が好ましく用いられる。また、表面の温度は、ホットメルト型接着剤の軟化温度よりも10〜30℃、さらには、15〜25℃高いことが転写性に優れる点から好ましい。ロールプレスの場合、処理速度としては、例えば、0.5〜5m/min、さらには1〜3m/min程度であることが好ましい。なお、プレス温度やプレス圧が高すぎる場合には、繊維が溶融してフィルム化してしまうことがある点から好ましくない。
以上のようにして本実施形態の物品表面加飾シートが得られる。本実施形態の物品表面加飾シートによれば、細かな文字や模様であっても高低差の大きい凹凸を形成して正確に転写される。
このようにして得られた物品表面加飾シートは、所定の貼り合せ形状にカットされて成形体等の物品の表面に一体化される。成形体の表面への貼り合せは、物品表面加飾シートの裏面に粘接着層が形成し、成形体や各種物品の表面に貼り合される方法や、射出インサート成形に供されるプレフォーム成形体、または、シートとして用い、成形体本体の成形と同時にその表面に一体化させる方法によって一体化される。このようにして、表面に立体感のあるエンボス柄を有する加飾成形体が得られる。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例により何ら限定されるものではない。
[実施例1]
海成分の熱可塑性樹脂としてエチレン変性ポリビニルアルコール(エチレン単位の含有量8.5モル%、重合度380、ケン化度98.7モル%)、島成分の熱可塑性樹脂としてTgが110℃である、イソフタル酸変性したポリエチレンテレフタレート(イソフタル酸単位の含有量6.0モル%)を、それぞれ個別に溶融させた。そして、海成分中に均一な断面積の島成分が25個分布した断面を形成しうるような、多数のノズル孔が並列状に配置された複数紡糸用口金に、それぞれの溶融樹脂を供給した。このとき、海成分と島成分との質量比が海成分/島成分=25/75となるように圧力調整しながら供給した。そして、口金温度260℃に設定されたノズル孔より吐出させた。
そして、ノズル孔から吐出された溶融繊維を平均紡糸速度が3700m/分となるように気流の圧力を調節したエアジェット・ノズル型の吸引装置で吸引することにより延伸し、繊度が2.1dtexの海島型長繊維を紡糸した。紡糸された海島型長繊維は、可動型のネット上に、ネットの裏面から吸引しながら連続的に堆積された。堆積量はネットの移動速度を調節することにより調節された。そして、表面の毛羽立ちを抑えるために、ネット上の堆積された海島型長繊維を42℃の金属ロールで軽く押さえた。そして、海島型長繊維をネットから剥離し、表面温度75℃の格子柄の金属ロールとバックロールとの間を通過させることにより、線圧200N/mmで熱プレスした。このようにして、表面の繊維が格子状に仮融着された目付34g/m2の長繊維ウェブが得られた。
次に、得られた長繊維ウェブの表面に、帯電防止剤を混合した油剤をスプレー付与した後、クロスラッパー装置を用いて長繊維ウェブを10枚重ねて総目付が340g/m2の重ね合せウェブを作成し、更に、針折れ防止油剤をスプレーした。そして、重ね合せウェブをニードルパンチングすることにより三次元絡合処理した。具体的には、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、針深度8.3mmで積層体の両面から交互に3300パンチ/cm2のパンチ数でニードルパンチした。このニードルパンチ処理による面積収縮率は68%であり、ニードルパンチ後の絡合ウェブの目付は415g/m2であった。
得られた絡合ウェブは、以下のようにして湿熱収縮処理されることにより、緻密化された。具体的には、18℃の水を絡合ウェブに対して10質量%均一にスプレーし、温度70℃、相対湿度95%の雰囲気中で3分間張力が掛からない状態で放置して熱処理することにより湿熱収縮させて見かけの繊維密度を向上させた。この湿熱収縮処理による面積収縮率は45%であり、緻密化された絡合ウェブの目付は750g/m2であり、見かけ密度は0.52g/cm3であった。そして、絡合ウェブをさらに緻密化するために乾熱ロールプレスすることにより、見かけ密度0.60g/cm3に調整した。
次に、緻密化された絡合ウェブに、DMF浸漬に対する質量減少率が0.5質量%である、無孔質の架橋性のポリウレタンを以下のようにして含浸させた。ポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンを含む架橋型の水系ポリウレタンエマルジョン(固形分濃度30%)を緻密化された絡合ウェブに含浸させた。そして、150℃の乾燥炉で水分を乾燥し、さらにポリウレタンを架橋させた。このようにして、ポリウレタン/絡合ウェブの質量比が18/82のポリウレタン絡合ウェブ複合体を形成した。
次に、ポリウレタン絡合ウェブ複合体を95℃の熱水中に20分間浸漬することにより海島型長繊維に含まれる海成分を抽出除去し、120℃の乾燥炉で乾燥することにより、厚さ約1000μmの不織布基材が得られた。
得られた不織布基材のポリウレタン/繊維絡合体の質量比は22/78であり、その見かけ密度は0.53g/cm3であった。また、繊維絡合体の極細単繊維の繊度は0.08dtexであった。
そして得られた不織布基材を厚み方向に2分割し、370μmに研削した。
一方、離形紙上に、表面層として非架橋性のシリコン変性ポリカーボネート系ポリウレタンのDMF溶液を塗布し、乾燥することにより厚さ30μmの表面層シートを形成した。
そして、表面層シートに、乾燥後の厚さが50μmになるように、固形分約50%のポリカーボネート系ホットメルト型接着剤のDMF溶液を塗布した。なお、ポリカーボネート系ホットメルト型接着剤の軟化温度120℃であった。
そして、表面層シート上に形成されたポリウレタン系ホットメルト型接着剤のDMF溶液の塗膜に、不織布基材を貼り合せ、軽く押さえながら塗膜中の溶媒を乾燥させた。このようにして被熱転写シートが得られた。得られた被熱転写シートの厚さは411μmであった。
そして、得られた被熱転写シートに対して、図1に示したような図柄を転写するための、高低差600μmで一辺が15mmの正方形の外形を有する凸部を表面に有する平板プレス機を使用して、表面温度150℃、プレス圧力3MPa、プレス時間5秒で型押しを行うことにより、図1に示すような図柄であって、高低差179μmのエンボス柄を備えた物品表面加飾シートを得た。
そして、得られた物品表面加飾シートの最も薄い領域(図1のCに相当する領域)及び、最も厚い領域(図1のAに相当する領域)について、それらの厚さをJISL1096に準じて、荷重240gf/cm2のJIS厚み測定器((株)尾崎製作所製 定圧厚み測定機)で測定しところ、厚さ223μmであった。一方、SEMで測定された同じ個所の厚さは232μmであった。その結果、SEMで測定された厚さに対する、定圧厚み測定器で測定したときの厚さの割合は96.1%であった。
また、得られた物品表面加飾シートの最も薄い領域及び最も厚い領域のそれぞれの厚み方向の断面の200倍のSEM画像を撮影した。そして、以下に示すような方法により、厚み方向断面における繊維束間の距離の平均値を求めた。
例えば、図2に示すように、被熱転写シートの幅方向の861μmの範囲に約80μmの間隔で、厚み方向に平行な補助線を10本引いた。そして、各線が通過する複数の繊維束の輪郭間の繊維束間距離(繊維束の外周同士の間の距離)の合計を各線毎に求めた。そして10本の線における繊維束間距離の距離合計(A)を求めた。一方、10本の線上にある極細繊維束の数の合計を求め、その数の合計から10を引いた繊維束間数(B)を求めた。そして、距離合計(A)を繊維束間数(B)で除することにより、極細繊維束間距離の平均値を算出した。その結果、得られた物品表面加飾シートの最も薄い領域の極細繊維束間距離の平均値は2.70μmであり、最も厚い領域の極細繊維束間距離の平均値は18.75μmであった。
そして、得られた物品表面加飾シートの凹凸模様の転写性及び柄の潰れにくさを以下のようにして評価した。結果をまとめて表1に示す。
〈転写性の評価〉
深絞り形状(エッジ、シャープさ、深さ)を目視で以下の基準で3段階で判定した。
1級:シボ深さが深く、シボ頂点から最底辺まで深絞り形状が入っていた。
2級:シボ深さが深く、シボ頂点の2/3の高さから最底辺まで深絞り形状が入っていた。
3級:シボ深さが浅く、シボ頂点の1/2の高さから最底辺まで深絞り形状が入っていた。
〈形状の耐久性の評価〉
5名の携帯電話に2ヶ月間貼り付けて実着用試験を実施し、外観の変化を目視確認した結果を以下の3段階の基準で評価した。
A:外観変化が全く無い。
B:外観変化が若干ある。
C:外観変化が著しい。
[実施例2]
実施例1において、島成分の熱可塑性樹脂としてTgが110℃である、イソフタル酸変性したポリエチレンテレフタレートを用いる代わりに、島成分の熱可塑性樹脂としてTgが120℃であるイソフタル酸変性したポリエチレンテレフタレートを用いた以外は実施例1と同様にして被熱転写シートを得、また、物品表面加飾シートを得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
[実施例3]
実施例1において、島成分の熱可塑性樹脂としてTgが110℃である、イソフタル酸変性したポリエチレンテレフタレートを用いる代わりに、島成分の熱可塑性樹脂としてTgが100℃であるイソフタル酸変性したポリエチレンテレフタレートを用いた以外は実施例1と同様にして被熱転写シートを得、また、物品表面加飾シートを得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
[実施例4]
実施例1において、ポリウレタン/繊維絡合体の質量比22/78に代えて、ポリウレタン/繊維絡合体の質量比を29/71にした見かけ密度0.69g/cm3の不織布基材を用いた以外は実施例1と同様にして被熱転写シートを得、また、物品表面加飾シートを得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
[実施例5]
実施例1において、表面層シートに、乾燥後の厚さが50μmになるようにポリウレタン系ホットメルト型接着剤を塗布する代わりに、乾燥後の厚さが10μmになるようにポリウレタン系ホットメルト型接着剤を塗布した以外は実施例1と同様にして被熱転写シートを得、また、物品表面加飾シートを得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
[実施例6]
実施例1において、表面層シートに、乾燥後の厚さが50μmになるようにポリウレタン系ホットメルト型接着剤を塗布する代わりに、乾燥後の厚さが150μmになるようにポリウレタン系ホットメルト型接着剤を塗布した以外は実施例1と同様にして被熱転写シートを得、また、物品表面加飾シートを得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
[実施例7]
実施例1において、離形紙上に、乾燥後の厚さが30μmの表面層シートを形成する代わりに、乾燥後の厚さが15μmになるように表面層シートを形成した以外は実施例1と同様にして被熱転写シートを得、また、物品表面加飾シートを得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
[実施例8]
実施例1において、離形紙上に、乾燥後の厚さが30μmの表面層シートを形成する代わりに、乾燥後の厚さが50μmになるように表面層シートを形成した以外は実施例1と同様にして被熱転写シートを得、また、物品表面加飾シートを得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
[実施例9]
実施例1において、不織布基材に、DMF浸漬に対する質量減少率が0.5質量%である、無孔質ポリウレタンを含浸させる代わりに、DMFに対する重量減少率が100質量%である、発泡ポリウレタンを形成するためのポリウレタンのDMF溶液(固形分20%)を含浸させ、湿式凝固させることにより、発泡ポリウレタン/繊維絡合体の質量比が18/82の不織布基材を形成した。上記変更以外は実施例1と同様にして被熱転写シートを得、また、物品表面加飾シートを得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
[比較例1]
実施例1において、島成分の熱可塑性樹脂としてTgが110℃である、イソフタル酸変性したポリエチレンテレフタレートを用いる代わりに、島成分の熱可塑性樹脂としてTgが130℃であるポリエチレンテレフタレートを用いた以外は実施例1と同様にして被熱転写シートを得、また、物品表面加飾シートを得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。また、得られた物品表面加飾シートの断面のSEM写真を図3に示す。
[比較例2]
実施例1において、表面層シートに、軟化温度120℃のポリウレタン系ホットメルト型接着剤を塗布する代わりに、ホットメルト型接着剤ではない、
軟化温度150℃の一液型ポリカーボネート系接着剤を塗布した以外は実施例1と同様にして被熱転写シートを得、また、物品表面加飾シートを得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
[比較例3]
実施例1において、表面層シートに、乾燥後の厚さが50μmになるようにポリウレタン系ホットメルト型接着剤を塗布する代わりに、乾燥後の厚さが8μmになるようにポリウレタン系ホットメルト型接着剤を塗布した以外は実施例1と同様にして被熱転写シートを得、また、物品表面加飾シートを得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
表1から、本発明に係る実施例1〜9の物品表面加飾シートは、いずれも、転写性が2級以上であり、また、形状耐久性も優れていた。なお、Tgが110℃である、イソフタル酸変性したポリエチレンテレフタレートを用いる代わりに、Tgが120℃であるイソフタル酸変性したポリエチレンテレフタレートを用いた実施例2の物品表面加飾シートは、繊維束の延伸性がやや低くなって、第1領域の繊維束間距離がやや大きく、転写性が2級であった。また、中間層の厚さが50μmを10μmに代えた実施例5の物品表面加飾シートも、転写性が2級であった。さらに、不織布の繊維基材に多孔質のポリウレタンを18%含有させた実施例9の物品表面加飾シートも、繊維束間距離がやや大きく、転写性が2級であった。一方、Tgが130℃であるイソフタル酸変性したポリエチレンテレフタレートを用いた比較例1の物品表面加飾シートは、繊維束の延伸性が低く、第2領域の繊維束間距離が大きく、転写性が3級であった。また、中間層としてホットメルト型接着剤ではない、軟化温度150℃の一液型ポリカーボネート系接着剤を用いた比較例2の物品表面加飾シートは、転写性が3級であった。さらに、中間層の厚さが8μmの比較例3の物品表面加飾シートも、転写性が3級となり、著しく低かった。