以下に、本発明に係るハイブリッド車両用駆動装置の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
まず図1〜9を参照して、本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置の構成について説明する。図1は、実施形態に係る車両のスケルトン図であり、図2は、実施形態に係る車両の入出力関係図である。
本実施形態に係る車両100は、動力源としてエンジン1、第一回転機MG1および第二回転機MG2を有するハイブリッド車両である。車両100は、外部電源により充電可能なプラグインハイブリッド車両であってもよい。図1および図2に示すように、車両100は、エンジン1、第一遊星歯車機構10、第二遊星歯車機構20、第一回転機MG1、第二回転機MG2、クラッチCL1、ブレーキBK1、HV_ECU50、MG_ECU60およびエンジン_ECU70を含んで構成されている。
また、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、第一遊星歯車機構10、第二遊星歯車機構20、クラッチCL1およびブレーキBK1を含んで構成されている。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、更に、各ECU50,60,70等の制御装置を含んで構成されてもよい。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、FF(前置きエンジン前輪駆動)車両あるいはRR(後置きエンジン後輪駆動)車両等に適用可能である。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、例えば、軸方向が車幅方向となるように車両100に搭載される。
本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1では、第一遊星歯車機構10、クラッチCL1(第一係合要素)およびブレーキBK1(第二係合要素)を含んで変速部が構成されている。また、第二遊星歯車機構20を含んで差動部が構成されている。また、クラッチCL1およびブレーキBK1を含んで第一遊星歯車機構10を変速させる切替装置が構成されている。
機関であるエンジン1は、燃料の燃焼エネルギーを出力軸の回転運動に変換して出力する。エンジン1の出力軸は、入力軸2と接続されている。入力軸2は、動力伝達装置の入力軸である。動力伝達装置は、第一回転機MG1、第二回転機MG2、クラッチCL1、ブレーキBK1、差動装置30等を含んで構成されている。入力軸2は、エンジン1の出力軸と同軸上かつ出力軸の延長線上に配置されている。入力軸2は、第一遊星歯車機構10の第一キャリア14と接続されている。
本実施形態の第一遊星歯車機構10は、エンジン1と接続され、エンジン1の回転を伝達する動力伝達機構に対応している。ここでは、動力伝達機構の一例として差動機構である第一遊星歯車機構10が示されている。第一遊星歯車機構10は、第一差動機構として車両100に搭載されている。第一遊星歯車機構10は、第二遊星歯車機構20よりもエンジン1側に配置された入力側差動機構である。第一遊星歯車機構10は、エンジン1の回転を変速して出力可能である。第一遊星歯車機構10は、シングルピニオン式であり、第一サンギア11、第一ピニオンギア12、第一リングギア13および第一キャリア14を有する。
第一リングギア13は、第一サンギア11と同軸上であってかつ第一サンギア11の径方向外側に配置されている。第一ピニオンギア12は、第一サンギア11と第一リングギア13との間に配置されており、第一サンギア11および第一リングギア13とそれぞれ噛み合っている。第一ピニオンギア12は、第一キャリア14によって回転自在に支持されている。第一キャリア14は、入力軸2と連結されており、入力軸2と一体回転する。従って、第一ピニオンギア12は、入力軸2と共に入力軸2の中心軸線周りに回転(公転)可能であり、かつ第一キャリア14によって支持されて第一ピニオンギア12の中心軸線周りに回転(自転)可能である。
クラッチCL1は、第一サンギア11と第一キャリア14とを連結可能なクラッチ装置である。クラッチCL1は、例えば、摩擦係合式のクラッチとすることができるが、これに限らず、噛合い式のクラッチ等の公知のクラッチ装置がクラッチCL1として用いられてもよい。クラッチCL1は、例えば、油圧によって制御されて係合あるいは開放する。完全係合状態のクラッチCL1は、第一サンギア11と第一キャリア14とを連結し、第一サンギア11と第一キャリア14とを一体回転させることができる。完全係合状態のクラッチCL1は、第一遊星歯車機構10の差動を規制する。一方、開放状態のクラッチCL1は、第一サンギア11と第一キャリア14とを切り離し、第一サンギア11と第一キャリア14との相対回転を許容する。つまり、開放状態のクラッチCL1は、第一遊星歯車機構10の差動を許容する。なお、クラッチCL1は、半係合状態(スリップ係合状態)に制御可能である。
ブレーキBK1は、第一サンギア11の回転を規制することができるブレーキ装置である。ブレーキBK1は、第一サンギア11に接続された係合要素と、車体側、例えば動力伝達装置のケースと接続された係合要素とを有する。ブレーキBK1は、クラッチCL1と同様の摩擦係合式のクラッチ装置とすることができるが、これに限らず、噛合い式のクラッチ等の公知のクラッチ装置がブレーキBK1として用いられてもよい。ブレーキBK1は、例えば、油圧によって制御されて係合あるいは開放する。完全係合状態のブレーキBK1は、第一サンギア11と車体側とを連結し、第一サンギア11の回転を規制することができる。一方、開放状態のブレーキBK1は、第一サンギア11と車体側とを切り離し、第一サンギア11の回転を許容する。なお、ブレーキBK1は、半係合状態(スリップ係合状態)に制御可能である。
本実施形態の第二遊星歯車機構20は、第一遊星歯車機構10と駆動輪32とを接続する差動機構に対応している。第二遊星歯車機構20は、第二差動機構として車両100に搭載されている。第二遊星歯車機構20は、第一遊星歯車機構10よりも駆動輪32側に配置された出力側差動機構である。第二遊星歯車機構20は、シングルピニオン式であり、第二サンギア21、第二ピニオンギア22、第二リングギア23および第二キャリア24を有する。第二遊星歯車機構20は、第一遊星歯車機構10と同軸上に配置され、第一遊星歯車機構10を挟んでエンジン1と互いに対向している。
第二リングギア23は、第二サンギア21と同軸上であってかつ第二サンギア21の径方向外側に配置されている。第二ピニオンギア22は、第二サンギア21と第二リングギア23との間に配置されており、第二サンギア21および第二リングギア23とそれぞれ噛み合っている。第二ピニオンギア22は、第二キャリア24によって回転自在に支持されている。第二キャリア24は、第一リングギア13と接続されており、第一リングギア13と一体回転する。第二ピニオンギア22は、第二キャリア24と共に入力軸2の中心軸線周りに回転(公転)可能であり、かつ第二キャリア24によって支持されて第二ピニオンギア22の中心軸線周りに回転(自転)可能である。第一リングギア13は、第一遊星歯車機構10の出力要素であり、エンジン1から第一遊星歯車機構10に入力された回転を第二キャリア24に出力することができる。第二キャリア24は、第一遊星歯車機構10の出力要素に接続された第一回転要素に対応している。
第二サンギア21には第一回転機MG1の回転軸33が接続されている。第一回転機MG1の回転軸33は、入力軸2と同軸上に配置されており、第二サンギア21と一体回転する。第二サンギア21は、第一回転機MG1に接続された第二回転要素に対応している。第二リングギア23には、カウンタドライブギア25が接続されている。カウンタドライブギア25は、第二リングギア23と一体回転する出力ギアである。第二リングギア23は、第二回転機MG2および駆動輪32に接続された第三回転要素に対応している。第二リングギア23は、第一回転機MG1あるいは第一遊星歯車機構10から入力された回転を駆動輪32に出力することができる出力要素である。
カウンタドライブギア25は、カウンタドリブンギア26と噛み合っている。カウンタドリブンギア26は、カウンタシャフト27を介してドライブピニオンギア28と接続されている。カウンタドリブンギア26とドライブピニオンギア28とは一体回転する。また、カウンタドリブンギア26には、リダクションギア35が噛み合っている。リダクションギア35は、第二回転機MG2の回転軸34に接続されている。つまり、第二回転機MG2の回転は、リダクションギア35を介してカウンタドリブンギア26に伝達される。リダクションギア35は、カウンタドリブンギア26よりも小径であり、第二回転機MG2の回転を減速してカウンタドリブンギア26に伝達する。
ドライブピニオンギア28は、差動装置30のデフリングギア29と噛み合っている。差動装置30は、左右の駆動軸31を介して駆動輪32と接続されている。第二リングギア23は、カウンタドライブギア25、カウンタドリブンギア26、ドライブピニオンギア28、差動装置30および駆動軸31を介して駆動輪32と接続されている。また、第二回転機MG2は、第二リングギア23と駆動輪32との動力伝達経路に対して接続されており、第二リングギア23および駆動輪32に対してそれぞれ動力を伝達可能である。
第一回転機MG1および第二回転機MG2は、それぞれモータ(電動機)としての機能と、発電機としての機能とを備えている。第一回転機MG1および第二回転機MG2は、インバータを介してバッテリと接続されている。第一回転機MG1および第二回転機MG2は、バッテリから供給される電力を機械的な動力に変換して出力することができると共に、入力される動力によって駆動されて機械的な動力を電力に変換することができる。回転機MG1,MG2によって発電された電力は、バッテリに蓄電可能である。第一回転機MG1および第二回転機MG2としては、例えば、交流同期型のモータジェネレータを用いることができる。
本実施形態の車両100では、エンジン1と同軸上に、エンジン1から近い側から順に、ブレーキBK1、クラッチCL1、第一遊星歯車機構10、カウンタドライブギア25、第二遊星歯車機構20および第一回転機MG1が配置されている。また、本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−1は、入力軸2と、第二回転機MG2の回転軸34とが異なる軸上に配置された複軸式とされている。
図2に示すように、車両100は、HV_ECU50、MG_ECU60およびエンジン_ECU70を有する。各ECU50,60,70は、コンピュータを有する電子制御ユニットである。HV_ECU50は、車両100全体を統合制御する機能を有している。MG_ECU60およびエンジン_ECU70は、HV_ECU50と電気的に接続されている。
MG_ECU60は、第一回転機MG1および第二回転機MG2を制御することができる。MG_ECU60は、例えば、第一回転機MG1に対して供給する電流値を調節し、第一回転機MG1の出力トルクを制御すること、および第二回転機MG2に対して供給する電流値を調節し、第二回転機MG2の出力トルクを制御することができる。
エンジン_ECU70は、エンジン1を制御することができる。エンジン_ECU70は、例えば、エンジン1の電子スロットル弁の開度を制御すること、点火信号を出力してエンジン1の点火制御を行うこと、エンジン1に対する燃料の噴射制御等を行うことができる。エンジン_ECU70は、電子スロットル弁の開度制御、噴射制御、点火制御等によりエンジン1の出力トルクを制御することができる。
HV_ECU50には、車速センサ、アクセル開度センサ、MG1回転数センサ、MG2回転数センサ、出力軸回転数センサ、バッテリ(SOC)センサ等が接続されている。これらのセンサにより、HV_ECU50は、車速、アクセル開度、第一回転機MG1の回転数、第二回転機MG2の回転数、動力伝達装置の出力軸の回転数、バッテリ充電状態SOC等を取得することができる。
HV_ECU50は、取得する情報に基づいて、車両100に対する要求駆動力や要求パワー、要求トルク等を算出することができる。HV_ECU50は、算出した要求値に基づいて、第一回転機MG1の出力トルク(以下、「MG1トルク」とも記載する。)、第二回転機MG2の出力トルク(以下、「MG2トルク」とも記載する。)およびエンジン1の出力トルク(以下、「エンジントルク」とも記載する。)を決定する。HV_ECU50は、MG1トルクの指令値およびMG2トルクの指令値をMG_ECU60に対して出力する。また、HV_ECU50は、エンジントルクの指令値をエンジン_ECU70に対して出力する。
HV_ECU50は、後述する走行モード等に基づいて、クラッチCL1およびブレーキBK1をそれぞれ制御する。HV_ECU50は、クラッチCL1に対する供給油圧の指令値(PbCL1)およびブレーキBK1に対する供給油圧の指令値(PbBK1)をそれぞれ出力する。図示しない油圧制御装置は、各指令値PbCL1,PbBK1に応じてクラッチCL1およびブレーキBK1に対する供給油圧を制御する。
図3は、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1の作動係合表を示す図である。車両100では、ハイブリッド(HV)走行あるいはEV走行を選択的に実行可能である。HV走行とは、エンジン1を動力源として車両100を走行させる走行モードである。HV走行では、エンジン1に加えて、更に第二回転機MG2を動力源としてもよい。
EV走行は、第一回転機MG1あるいは第二回転機MG2の少なくともいずれか一方を動力源として走行する走行モードである。EV走行では、エンジン1を停止して走行することが可能である。本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、EV走行モードとして、第二回転機MG2を単独の動力源として車両100を走行させる単独モータEVモード(単独駆動EVモード)と、第一回転機MG1および第二回転機MG2を動力源として車両100を走行させる両モータEVモード(両駆動EVモード)を有する。
図3の係合表において、クラッチCL1の欄およびブレーキBK1の欄の丸印は、係合を示し、空欄は開放を示す。また、三角印は、クラッチCL1あるいはブレーキBK1のいずれかを係合し、他方を開放することを示す。単独モータEVモードは、例えば、クラッチCL1およびブレーキBK1を共に開放して実行される。図4は、単独モータEVモードに係る共線図である。共線図において、符号S1,C1,R1は、それぞれ第一サンギア11、第一キャリア14、第一リングギア13を示し、符号S2,C2,R2は、それぞれ第二サンギア21、第二キャリア24、第二リングギア23を示す。
単独モータEVモードでは、クラッチCL1およびブレーキBK1が開放している。ブレーキBK1が開放していることで、第一サンギア11の回転が許容され、クラッチCL1が開放していることで、第一遊星歯車機構10は差動可能である。HV_ECU50は、MG_ECU60を介して第二回転機MG2に正トルクを出力させて車両100に前進方向の駆動力を発生させる。第二リングギア23は、駆動輪32の回転と連動して正回転する。ここで、正回転とは、車両100の前進時の第二リングギア23の回転方向とする。HV_ECU50は、第一回転機MG1をジェネレータとして作動させて引き摺り損失を低減させる。具体的には、HV_ECU50は、第一回転機MG1にわずかなトルクをかけて発電させ、第一回転機MG1の回転数を0回転とする。これにより、第一回転機MG1の引き摺り損失を低減することができる。また、MG1トルクを0としてもコギングトルクを利用してMG1回転数を0に維持できるときは、MG1トルクを加えないようにしてもよい。あるいは、第一回転機MG1のd軸ロックによってMG1回転数を0としてもよい。
第一リングギア13は、第二キャリア24に連れ回り正回転する。第一遊星歯車機構10では、クラッチCL1およびブレーキBK1が開放されたニュートラルの状態であるため、エンジン1は連れ回されず、第一キャリア14は回転を停止する。よって回生量を大きく取ることが可能である。第一サンギア11は空転して負回転する。なお、第一遊星歯車機構10のニュートラル(中立)状態は、第一リングギア13と第一キャリア14との間で動力が伝達されない状態、すなわちエンジン1と第二遊星歯車機構20とが切り離され、動力の伝達が遮断された状態である。第一遊星歯車機構10は、クラッチCL1あるいはブレーキBK1の少なくともいずれか一方が係合していると、エンジン1と第二遊星歯車機構20とを接続する接続状態となる。
単独モータEVモードでの走行時に、バッテリの充電状態がフルとなり、回生エネルギーが取れない場合が発生し得る。この場合、エンジンブレーキを併用することが考えられる。クラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合することで、エンジン1を駆動輪32と接続し、エンジンブレーキを駆動輪32に作用させることができる。図3に三角印で示すように、単独モータEVモードでクラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合すると、エンジン1を連れ回し状態とし、第一回転機MG1でエンジン回転数を上げてエンジンブレーキ状態とすることができる。
両モータEVモードでは、HV_ECU50は、クラッチCL1およびブレーキBK1を係合する。図5は、両モータEVモードに係る共線図である。クラッチCL1が係合することで、第一遊星歯車機構10の差動は規制され、ブレーキBK1が係合することで、第一サンギア11の回転が規制される。従って、第一遊星歯車機構10の全回転要素の回転が停止する。出力要素である第一リングギア13の回転が規制されることで、これと接続された第二キャリア24が0回転にロックされる。
HV_ECU50は、第一回転機MG1および第二回転機MG2にそれぞれ走行駆動用のトルクを出力させる。第二キャリア24は、回転が規制されていることで、第一回転機MG1のトルクに対して反力を取り、第一回転機MG1のトルクを第二リングギア23から出力させることができる。第一回転機MG1は、前進時に負トルクを出力して負回転することで、第二リングギア23から正のトルクを出力させることができる。一方、後進時には、第一回転機MG1は、正トルクを出力して正回転することで、第二リングギア23から負のトルクを出力させることができる。
HV走行では、差動部としての第二遊星歯車機構20は作動状態を基本とし、変速部の第一遊星歯車機構10は、ロー/ハイの切り替えがなされる。図6は、ロー状態のHV走行モード(以下、「HVローモード」とも記載する。)に係る共線図、図7は、ハイ状態のHV走行モード(以下、「HVハイモード」とも記載する。)に係る共線図である。
HVローモードでは、HV_ECU50は、クラッチCL1を係合し、ブレーキBK1を開放する。クラッチCL1が係合することにより、第一遊星歯車機構10は差動が規制され、各回転要素11,13,14が一体回転する。従って、エンジン1の回転は増速も減速もされず、等速で第一リングギア13から第二キャリア24に伝達される。
一方、HVハイモードでは、HV_ECU50は、クラッチCL1を開放し、ブレーキBK1を係合する。ブレーキBK1が係合することにより、第一サンギア11の回転が規制される。よって、第一遊星歯車機構10は、第一キャリア14に入力されたエンジン1の回転が増速されて第一リングギア13から出力されるオーバドライブ(OD)状態となる。このように、第一遊星歯車機構10は、エンジン1の回転を増速して出力することができる。オーバドライブ時の第一遊星歯車機構10の変速比は、例えば、0.7とすることができる。
このように、クラッチCL1およびブレーキBK1からなる切替装置は、第一遊星歯車機構10の差動を規制する状態と、第一遊星歯車機構10の差動を許容する状態とを切り替えて第一遊星歯車機構10を変速させる。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、第一遊星歯車機構10、クラッチCL1およびブレーキBK1を含む変速部によってHVハイモードとHVローモードとの切り替えが可能であり、車両100の伝達効率を向上させることができる。また、変速部の後段には、直列に差動部としての第二遊星歯車機構20が接続されている。第一遊星歯車機構10がオーバドライブに切り替え可能であるため、第一回転機MG1を大きく高トルク化しなくてもよいという利点がある。
(モード選択)
HV_ECU50は、例えば、高車速ではHVハイモードを選択し、中低車速ではHVローモードを選択する。ここで図8を参照してHV_ECU50による変速段(モード)選択について説明する。図8は、本実施形態のモード選択に係るマップを示す図である。図8において、横軸は車速、縦軸は要求駆動力を示す。要求駆動力は、例えばアクセル開度に基づいて推定される。
本実施形態では、HV_ECU50は、例えば図8に示すマップを参照してモード選択を行う。図8のマップに示すように、低車速かつ要求駆動力が小さい低負荷の領域は、モータ走行域である。モータ走行域では、例えば、低負荷時は単独モータEVモードが選択され、高負荷時は両駆動EVモードが選択される。単独モータ走行中は、クラッチCL1及びブレーキBK1を開放して変速部をニュートラルとすることで、エンジン回転数を0とし、かつ第一回転機MG1の引き摺りも低減する。
モータ走行域よりも高車速や高負荷の領域は、エンジン走行域である。エンジン走行域は、更に、直結(ロー)領域とOD(ハイ)領域に分割されている。直結領域は、HVローモードが選択されるエンジン走行域である。OD領域は、HVハイモードが選択されるエンジン走行域である。OD領域は、高車速の領域であり、直結領域は、中低車速の領域である。直結領域は、OD領域よりも高負荷側に設定されている。高車速かつ低負荷時に変速部をオーバドライブとすることで、燃費の向上を図ることができる。
本実施形態では、HVハイモードとHVローモードとの切り替えによりエンジン1の回転を変速して出力することで、後述するメカニカルポイントが2つとなり、燃費を向上させることができる。図9は、本実施形態に係る理論伝達効率線を示す図である。
図9において、横軸は変速比、縦軸は理論伝達効率を示す。ここで、変速比とは、遊星歯車機構10,20の出力側回転数に対する入力側回転数の比(減速比)であり、例えば、第二リングギア23の回転数に対する第一キャリア14の回転数の比を示す。横軸において、左側が変速比の小さいハイギア側であり、右側が変速比の大きいローギア側となる。理論伝達効率は、遊星歯車機構10,20に入力される動力が電気パスを介さずに機械的な伝達によって全てカウンタドライブギア25に伝達される場合に最大効率1.0となる。
図9に示す曲線は、HVハイモードとHVローモードとを適宜切り替えた場合のHV走行モードの理論伝達効率線である。例えば、同じ変速比においてHVハイモードとHVローモードのいずれか高効率のモードが選択される。相対的に右側がHVローモード時の理論伝達効率線であり、左側がHVハイモード時の理論伝達効率線である。HVローモードの伝達効率は、変速比γ1において最大効率となる。変速比γ1では、第一回転機MG1(第二サンギア21)の回転数が0となる。このため、変速比γ1では、第一回転機MG1が反力を受けることによる電気パスは0であり、機械的な動力の伝達のみによってエンジン1からカウンタドライブギア25に動力を伝達することができる。この変速比γ1は、オーバドライブ側の変速比、すなわち1よりも小さな変速比である。本明細書では、この変速比γ1を「第一機械伝達変速比γ1」とも記載する。
HVハイモードの理論伝達効率は、変速比γ2において最大効率となる。HVハイモードでは、変速比γ2において第一回転機MG1(第二サンギア21)の回転数が0となり、機械的な動力の伝達のみによってエンジン1からカウンタドライブギア25に動力を伝達することができる。この変速比γ2は、第一機械伝達変速比γ1よりもハイギア側の変速比である。本明細書では、この変速比γ2を「第二機械伝達変速比γ2」とも記載する。
HV走行モードの理論伝達効率は、変速比が第一機械伝達変速比γ1よりもローギア側の値となるに従い低下する。また、HV走行モードの理論伝達効率は、変速比が第二機械伝達変速比γ2よりもハイギア側の値となるに従い低下する。HV走行モードの理論伝達効率は、第一機械伝達変速比γ1と第二機械伝達変速比γ2との間の変速比の領域では、低効率側に湾曲している。
このように、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、変速比1よりもハイギア側に2つのメカニカルポイントを有する。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、第一遊星歯車機構10とクラッチCL1とブレーキBK1とを含む変速部を有することで、エンジン1が第二キャリア24に直接連結される場合のメカニカルポイント(第一機械伝達変速比γ1)よりもハイギア側に第2のメカニカルポイント(第二機械伝達変速比γ2)を発生させることができる。従って、ハイギア動作時の伝達効率を向上させることができる。つまり、高速走行時の伝達効率向上による燃費の向上を図ることができるハイブリッドシステムを実現できる。
また、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、変速部のクラッチCL1およびブレーキBK1を係合することで、第二遊星歯車機構20の入力要素の回転を規制することができ、両モータEVモードによる走行を可能とできる。このため、両モータEVモードを実現するために別途クラッチ等を設ける必要がなく、構成が簡素化される。本実施形態のレイアウトでは、第二回転機MG2の減速比を大きく取ることができる。また、FFあるいはRRレイアウトによりコンパクトな配置を実現できる。
(後進走行)
後進走行をする場合、エンジン走行中は、第一回転機MG1がジェネレータとして発電を行い、第二回転機MG2がモータとして力行し、負回転して負トルクを出力して走行する。バッテリの充電状態が十分であるときは、単独駆動EVモードで第二回転機MG2が単独で逆回転してモータ走行するようにしてもよい。また、第二キャリア24を固定して両駆動EVモードで後進走行することも可能である。
(協調変速制御)
HV_ECU50は、HVハイモードとHVローモードとの切り替えを行う場合、第一遊星歯車機構10と第二遊星歯車機構20とを同時に変速させる協調変速制御を実行することができる。HV_ECU50は、協調変速制御において、第一遊星歯車機構10および第二遊星歯車機構20の一方の変速比を増加させ、他方の変速比を減少させる。
HV_ECU50は、HVハイモードからHVローモードに切り替える場合、モードの切り替えと同期して第二遊星歯車機構20の変速比をハイギア側に変化させる。これにより、車両100のエンジン1から駆動輪32までの全体での変速比の不連続な変化を抑制または低減し、変速比の変化の度合いを低減することができる。エンジン1から駆動輪32までの変速比の変化が抑制されることで、変速に伴うエンジン回転数の調節量を低減させ、あるいはエンジン回転数の調節を不要とすることができる。HV_ECU50は、例えば、車両100全体での変速比をロー側に連続的に変化させるように、第一遊星歯車機構10および第二遊星歯車機構20を協調して変速させる。
一方、HV_ECU50は、HVローモードからHVハイモードに切り替える場合、モードの切り替えと同期して第二遊星歯車機構20の変速比をローギア側に変化させる。これにより、車両100全体での変速比の不連続な変化を抑制または低減し、変速比の変化の度合いを低減することができる。HV_ECU50は、例えば、車両100全体での変速比をハイ側に連続的に変化させるように、第一遊星歯車機構10および第二遊星歯車機構20を協調して変速させる。
第二遊星歯車機構20の変速比の調節は、例えば、第一回転機MG1の回転数の制御によって行われる。HV_ECU50は、例えば、入力軸2とカウンタドライブギア25との間の変速比を無段階に変化させるように第一回転機MG1を制御する。これにより、遊星歯車機構10,20、第一回転機MG1、クラッチCL1およびブレーキBK1を含む全体、すなわち差動部と変速部を含む変速装置が電気的無段変速機として作動する。差動部と変速部を含む変速装置の変速比幅がワイドであるため、差動部から駆動輪32までの変速比を比較的大きく取れる。また、HV走行モードの高車速走行時の動力循環が低減される。
(エンジン始動制御)
単独モータEVモードからエンジン1を始動する場合、クラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合(スリップ係合も含む)し、第一回転機MG1によってエンジン回転数を上昇させて点火を行う。このときに、クラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合する前に、第一回転機MG1の回転数制御によって、第二キャリア24(第一リングギア13)の回転数を0回転とするようにしてもよい。また、MG1トルクによってエンジン回転数を上昇させるときに、走行駆動力を低下させる方向の反力トルクが発生する。HV_ECU50は、この反力トルクをキャンセルする反力キャンセルトルクを第二回転機MG2に追加で出力させるようにしてもよい。なお、エンジン1が直噴エンジンなど自立的に始動可能なものである場合、自立的にエンジン1を始動させてもよく、エンジン1の自立始動をMG1トルクによってアシストするようにしてもよい。
次に、図10〜16を参照して、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1のマニュアルシフト制御について説明する。図10は、本実施形態のマニュアルシフト制御に係るフローチャートであり、図11は、本実施形態のマニュアルシフト制御に係るタイムチャートであり、図12は、ニュートラル状態における回転数同期制御の実施可否判定に用いる判定マップの一例を示す図である。
HV_ECU50は、車両停止中または走行中に、変速部のクラッチCL1及びブレーキBK1を開放したニュートラル状態と、変速部のクラッチCL1及びブレーキBK1の少なくとも一方を係合してエンジン1を差動部へ接続させた状態とを切り替える制御、すなわち、シフトポジションを「N(ニュートラル)」と、「D(前進)」または「R(後進)」の変速段との間で切り替えるマニュアルシフト制御を行う。そして、特に本実施形態では、HV_ECU50は、このマニュアルシフト制御において、変速部をニュートラル状態からクラッチCL1またはブレーキBK1の一方を係合させた状態に切り替える際に(N→D/R)、応答性を向上すべく、まず第二回転機MG2により駆動輪32へトルクを出力するMG2出力制御(第一制御)を行う。また、MG2出力制御と並行して、係合ショックを低減すべく、第一回転機MG1により変速部のクラッチCL1またはブレーキBK1の回転数同期制御(第二制御)を行う。そして、回転数同期制御が完了した後に、回転数同期制御で同期させた変速部のクラッチCL1またはブレーキBK1を係合する係合制御(第三制御)を実行する。
図10のフローチャート及び図11のタイムチャートに基づいて、このマニュアルシフト制御について説明する。図10,11では、変速部をニュートラル状態からクラッチCL1を係合する場合を例示して説明する。図11において、(a)はエンジン回転数、(b)は第一回転機MG1の回転数、(c)はMG1トルク、(d)は変速部出力軸(第一リングギア13)の回転数、(e)はMG2トルク、(f)は第二回転機MG2の回転数、(g)はクラッチCL1の油圧、(h)はブレーキBK1の油圧、(i)は車速をそれぞれ示す。図10に示す制御フローは、変速部がニュートラル状態のときに、HV_ECU50により例えば所定時間ごとに実行される。なお、本実施形態では、変速部がニュートラル状態のときは、エネルギー的にも得なため、図11に示すように第二回転機MG2はトルクを出力していないものとする。
ステップS10では、エンジン回転数Neが0より大きいか否か、すなわちエンジン1が動作中か否かを判定する。ステップS10の判定の結果、エンジン回転数Neが0より大きいと判定された場合(ステップS10のYes)、ステップS20に移行し、そうでない場合(ステップS10のNo)には、ステップS30に移行する。
ステップS20では、ステップS10でエンジン1が動作中と判定された場合に、クラッチCL1の係合部材間のクリアランスを詰めるガタ詰め制御を実施する。このステップではエンジン1が動作中のため、エンジン1動作によってオイルポンプ(図示せず)が駆動されて油圧が発生している。この油圧を利用してクラッチCL1のガタ詰め制御を実施しておくことで、クラッチ係合時の応答性を確保することができる。ステップS20が実施されるとステップS30に進む。図11では、時刻t1より前の期間において、エンジン回転数Neが0より大きくエンジン1が動作中であるので、エンジン動作により発生する油圧を利用してクラッチCL1の油圧を0から若干増加させて、クラッチCL1のガタ詰め制御を実施している。
ステップS30では、車両100の現在の走行状態に基づき、変速部の回転数同期制御の実施を許可できる同期制御許可領域に入っているか否かを判定する。この判定は、例えば図12に示す判定マップを参照して行なうことができる。図12の判定マップは、横軸に車速、縦軸に回転数同期に必要なMG1トルクをとり、この車速〜MG1トルク平面上を境界線で二つの領域に区分している。境界線の上方を同期制御許可領域として設定されている。一方、境界線の下方は、MG1トルクを0とする0トルク制御の実施を許可する0トルク制御許可領域として設定されている。図12の判定マップにおける両領域の境界線は、横軸の車速が0から低速の区間では、縦軸のMG1トルクは0のままで推移し、所定の車速を超えると、横軸の車速が増加するにつれて、縦軸のMG1トルクが負側に線形増加して推移するようプロットされている。すなわち、図12の判定マップは、車速が高くなれば、走行抵抗も増えるため、同期制御に必要なMG1トルクが大きくても回転数同期制御を許可しやすく設定されている。一方、車速が低い領域では、回転数同期制御を実施すると、相対的に反力トルクが大きいため、変速部のフリクション分の駆動力が車両後方向きに発生し違和感を生じる虞がある。そこで、図12の判定マップは、低速領域では、0トルク制御を許可しやすく設定されている。これにより駆動輪32側に伝わるトルクを低減して、違和感を抑制することができる。ステップS30の判定の結果、同期制御許可領域に入っていると判定された場合(ステップS30のYes)、ステップS40に移行し、そうでない場合(ステップS30のNo)にはステップS50に移行する。
ステップS40では、ステップS30で同期制御許可領域に入っていると判定された場合に、変速部のクラッチCL1の回転数同期制御が実行される。回転数同期制御では、マニュアルシフト制御において係合する係合要素(クラッチCL1またはブレーキBK1)の係合部材間の差回転数を同期させて一定値以下に保つよう、第一回転機MG1を制御する。クラッチCL1を係合する場合には、クラッチCL1の係合部材と連結する変速部の第一サンギア11及び第一キャリア14の回転数を同期させるように、第一回転機MG1の回転数を制御する。すなわち、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1では、図6等の共線図に示す連結関係をとるので、変速部の三要素(第一サンギア11,第一キャリア14,第一リングギア13)と、差動部の第二キャリア24とを同じ回転数にすることになる。回転数同期制御では、例えば車速の増加に応じてMG1トルクを線形増加させるなど、車速に応じて第一回転機MG1の出力を制御することで、クラッチCL1の差回転数を一定値以下に保持される。ステップS40が実施されるとステップS60に進む。
ステップS50では、ステップS30で同期制御許可領域に入っていない、すなわち0トルク制御許可領域に入っていると判定された場合に、第一回転機MG1の0トルク制御が実施される。ステップS50が実施されるとステップS60に進む。
ステップS30、40,50の処理は、変速部がニュートラル状態のときに回転数同期制御が実施可能と判断できる場合には、マニュアルシフト(N→D/R)が実際に発生する前に予め回転数同期制御を実施しておくことによって、マニュアルシフト制御の応答性を向上させるためのものである。ただし、低速領域など回転数同期制御に不向きな場合には、回転数同期制御を行わないで0トルク制御が実施される。図11では、時刻t1以前のニュートラル状態の期間において、エンジン回転数Ne>0かつ車速0なので、車両は停車中にエンジン動作している状態である。図11の例では、第一回転機MG1の0トルク制御が選択され、MG1トルクが0に維持されている。
ステップS60では、マニュアルシフト(N→D/R)が発生したか否かが判定される。ステップS60の判定の結果、マニュアルシフトが発生したと判定された場合(ステップS60のYes)、ステップS70へ移行し、そうでない場合(ステップS60のNo)には本制御フローは終了する。図11では、時刻t1において、マニュアルシフト(N→D/R)が発生している。
ステップS70では、ステップS60でマニュアルシフト(N→D/R)が発生したと判定された場合に、バッテリ充電状態SOCが所定値A1より大きいか否かが判定される。所定値A1は、例えばMG2出力制御を行うのに必要なトルクを第二回転機MG2が出力するのに十分な電力を供給できるバッテリ残量である。ステップS70の判定の結果、バッテリ充電状態SOCがA1より大きいと判定された場合(ステップS70のYes)、ステップS80に移行し、そうでない場合(ステップS70のNo)にはステップS120に移行する。なお、ステップS70の処理は、MG2出力制御を行うのに必要なトルクを第二回転機MG2が出力できない状況を抽出できればよく、例えば第二回転機MG2の発熱などバッテリ充電状態SOC以外の判定基準を用いてもよい。
ステップS80では、車両100の運転者による要求駆動力が所定値A2より大きいか否かが判定される。要求駆動力は例えばアクセル開度等に基づき推定することができる。所定値A2は、例えば第二回転機MG2の最大トルクとすることができる。ステップS80の判定の結果、要求駆動力が所定値A2より大きいと判定された場合(ステップS80のYes)、ステップS130に移行し、そうでない場合(ステップS80のNo)にはステップS90に移行する。
ステップS70でバッテリ充電状態SOCが所定値A1より大きいと判定され、かつ、ステップS80で要求駆動力が所定値A2以下と判定された場合に、本実施形態のマニュアルシフト制御を実施するために第一回転機MG1及び第二回転機MG2を駆動させるのに十分なバッテリ残量があり、かつ、運転者が急激に駆動力を要求していないものと判断して、本実施形態のマニュアルシフト制御が実施される。まず、ステップS90では、第二回転機MG2により駆動トルクを出力するMG2出力制御を実行する。これにより、クラッチCL1を係合する前に駆動トルクを出力できるので、制御応答性を向上できる。本実施形態のギヤトレーンでは、MG2トルクはそのまま駆動輪32側に伝わるので、応答性が確保しやすい。ステップS90のMG2出力制御が開始されるとステップS100に進む。
ステップS100では、第一回転機MG1により、変速部のクラッチCL1の回転数同期制御を実行する。回転数同期制御は、ステップS40と同様に、クラッチCL1の係合部材の回転数を同期させるべく、変速部の三要素(第一サンギア11,第一キャリア14,第一リングギア13)及び差動部の第二キャリア24の回転数を同期させるように、第一回転機MG1の回転数を制御する。これにより、クラッチCL1の係合時のショックを低減できる。回転数同期制御は、ステップS90のMG2出力制御と並行して実行される。なお、回転数同期制御を開始するタイミングは、MG2出力制御の開始前としてもよいし、MG2出力制御と同時としてもよい。変速部の三要素(第一サンギア11,第一キャリア14,第一リングギア13)及び差動部の第二キャリア24の回転数が同期して、回転数同期制御が完了したものと判断するとステップS110に進む。
図11では、時刻t1においてマニュアルシフトが発生した後に、MG2出力制御が実施されMG2トルクを出力している。これにより駆動輪32に駆動トルクを出力して車速を発生させている。そして、MG2トルクによって駆動トルクを出力している時間を利用して、第一回転機MG1により回転数同期制御が実施されている。回転数同期制御では、時刻t1後にMG1トルクを出力して、MG1回転数を増加させている。これにより、第一回転機MG1と接続された差動部の第二サンギア21を介して、第二キャリア24の回転数が増加し、第二キャリア24と連結される変速部の第一リングギア13の回転数、すなわち図11に示す変速部出力軸回転数も増加する。この結果、時刻t2において、変速部出力軸回転数とエンジン回転数とが同期し、すなわち、変速部の第一サンギア11,第一キャリア14,第一リングギア13及び差動部の第二キャリア24の回転数が同期したので、回転数同期制御が完了したものと判断されている(図12には「同期完了判断」と記載する)。
ステップS110では、ステップS100の回転数同期制御の完了後に、変速部の第一サンギア11,第一キャリア14,第一リングギア13及び差動部の第二キャリア24の回転数が同期された状態で、クラッチCL1の係合制御を実行する。ステップS130が実施されると本制御フローは終了する。
ここで、ステップS110のクラッチCL1の係合制御は、図11のタイムチャートでは時刻t2〜t4の期間において実施されるが、より詳細には、時刻t2〜t3の期間と、時刻t3〜t4の期間との間で供給油圧の上昇速度を低速側から高速側へ変更して、二段階の係合動作を行う。クラッチCL1が係合した後には、第一回転機MG1は反力を受けるため、係合前の正トルクから負トルクに切り替わる。このため、係合前後でスプライン等のガタの詰まる方向が逆になる。そこで、係合制御の開始後の一定時間(図11では時刻t2〜t3)、MG1トルクが0の状態を作る。その間に、係合動作の第一段階として、クラッチ油圧を比較的緩やかにゆっくり上昇させ、クラッチCL1を弱係合させる。これにより、各部のガタをショックレスで詰めることができる。そして、時刻t3においてガタ詰めが終了すると、係合動作の第二段階として、クラッチ油圧の上昇を早めて時刻t4にてクラッチCL1を完全係合し、マニュアルシフト制御を終了する。また、この係合動作の第二段階の時刻t3〜t4の期間では、クラッチ係合によりエンジン1から直達分トルクが出力されはじめるので、直達分トルクの増加に応じて図11に示すようにMG2トルクを低減して、駆動力の変動を抑制する。
ステップS120では、ステップS70でバッテリ充電状態SOCが所定値A1以下であると判定された場合に、バッテリ残量が少なく、本実施形態のマニュアルシフト制御を実施するために必要なトルクを第二回転機MG2が出力できないものと判断して、MG2出力制御及び回転数同期制御を実行せずに、変速部の第一サンギア11と第一キャリア14と間に差回転数があるまま、クラッチCL1の係合制御を実行する。係合制御のみに絞って実行することで、バッテリ残量が少なく、第二回転機MG2がトルクを十分に出せない状況であっても、応答性を確保できる。ステップS120が実施されると本制御フローは終了する。
ステップS130では、ステップS80で要求駆動力が所定値A2より大きいと判定された場合に、車両の運転者が迅速な応答性を要求していると判断して、回転数同期制御を実行せずに、MG2出力制御とクラッチCL1の係合制御を実行する。MG2出力制御によりクラッチ係合が完了する前に駆動力を出力できるので応答性を向上できる。また、回転数同期制御を行なわずに、変速部の第一サンギア11と第一キャリア14と間に差回転数があるまま、クラッチCL1の係合制御を実行することで、係合制御の完了までの所要時間を低減して、応答性をより一層向上できる。ステップS130が実施されると本制御フローは終了する。
上記のマニュアルシフト制御において、ステップS90のMG2出力制御が、第二回転機MG2により駆動輪32へトルクを出力する第一制御に対応し、ステップS100の回転数同期制御が、第一制御と並行して、エンジン1を差動部へ接続させるために係合するクラッチCL1またはブレーキBK1のそれぞれにおいて、係合部材の回転数を第一回転機MG1により同期させる第二制御に相当し、ステップS110の係合制御が、第二制御の後に、変速部のクラッチCL1及びブレーキBK1の少なくとも一方を係合する第三制御に相当する。
ここで、図13〜16を参照して、上記のマニュアルシフト制御を実施する状況、すなわちシフトポジションを「N(ニュートラル)」から「D(前進)」に切り替える状況についてさらに説明する。このような状況として、例えば以下の4つのパターンが挙げられる。
(1)車両停車時、エンジン動作中、要求駆動力小
(2)車両停車時、エンジン動作中、要求駆動力大
(3)車両走行中、エンジン動作中
(4)車両走行中、エンジン停止中
これらの各状況における本実施形態のマニュアルシフト制御の状態遷移について図13〜16を参照して説明する。図13は、「車両停車時、エンジン動作中、要求駆動力小」の場合のマニュアルシフト制御の状態遷移を説明するための共線図であり、図14は、「車両停車時、エンジン動作中、要求駆動力大」の場合のマニュアルシフト制御の状態遷移を説明するための共線図であり、図15は、「車両走行中、エンジン動作中」の場合のマニュアルシフト制御の状態遷移を説明するための共線図であり、図16は、「車両走行中、エンジン停止中」の場合のマニュアルシフト制御の状態遷移を説明するための共線図である。
(1)「車両停車時、エンジン動作中、要求駆動力小」の場合の状態遷移
図13の状態(a)では、車両が停車しているため、差動部の三要素の回転数はすべて0である。変速部では、エンジン1が自立運転しており、クラッチCL1及びブレーキBK1は開放状態(OFF)である。このような状態は、例えば冷間発進(暖機)など停車から直接HV走行を行なう場合に生じうる。図13の状態(b)では、要求駆動力に応じて第二回転機MG2が前進方向にトルクを発生し駆動輪32(OUT)の回転数が上昇し、車両100が走行しはじめる。第一回転機MG1は、変速部のクラッチCL1の回転数を同期するために回転数を上昇させる。変速部では、エンジン1が自立運転しており、クラッチCL1及びブレーキBK1は開放状態である。図13の状態(c)では、同期制御が完了したので、変速部のクラッチCL1が係合される(ON)。クラッチ係合に伴い、第一回転機MG1は反力を受けるため負トルクになり、第二回転機MG2はエンジン直達分トルクを低減する。エンジン1も要求駆動力に合わせた動作点となる。図13の状態遷移は、図10のフローチャートのステップS90,S100,S110に対応する。
(2)「車両停車時、エンジン動作中、要求駆動力大」の場合の状態遷移
図14の状態(a)では、車両が停車しているため、差動部の三要素の回転数はすべて0である。変速部では、エンジン1が自立運転しており、クラッチCL1及びブレーキBK1は開放状態である。図14の状態(b)では、要求駆動力に応じて第二回転機MG2が前進方向にトルクを発生し駆動輪32(OUT)の回転数が上昇し、車両が走行しはじめる。変速部のクラッチCL1は、スリップさせながら係合を開始する。第一回転機MG1はクラッチCL1のスリップ係合により発生する反力を出力する。図14の状態(c)では、クラッチCL1が充分なトルク容量を確保した時点でマニュアルシフト制御を終了し通常制御に移行する。図14の状態遷移は、図10のフローチャートのステップS130に対応する。
(3)「車両走行中、エンジン動作中」の場合の状態遷移
図15の状態(a)では、エンジンが動作中のため、油圧が発生している。この油圧を利用して、Dレンジ選択時に係合するクラッチCL1のガタ詰めを行なう。図12に例示した判定マップなどを用いて同期制御許可領域か否かを判定し、同期制御許可領域であれば、クラッチCL1の同期回転数を維持する。駆動輪32には、第一回転機MG1で同期回転数を維持するために出力しているトルクの分担比に沿った値が負方向に発生する。図15の状態(b)では、Dレンジに切り替わった瞬間に、クラッチCL1を係合して駆動を開始する。図15の状態遷移は、図10のフローチャートのステップS20,S40,S120に対応する。
(4)「車両走行中、エンジン停止中」の場合の状態遷移
図16の状態(a)では、走行中にNレンジが選択され、変速部はニュートラルになっており、クラッチCL1及びブレーキBK1は開放状態(OFF)である。エンジン1は停止している。第一回転機MG1及び第二回転機MG2は共にトルクを出力していない。図16の状態(b)では、エンジン1の始動要求とN→Dシフトが同時に発生した場合、第二回転機MG2でトルクを発生させる。第一回転機MG1は回転数同期制御を実施する。図16の状態(c)では、回転数同期制御の完了後にクラッチCL1を係合し、第一回転機MG1でエンジン回転数を持ち上げエンジン1を始動する。図16の状態遷移は、図10のフローチャートのステップS90,S100,S110に対応する。
次に、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1の効果について説明する。
本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−1は、エンジン1と、第一回転機MG1と、第二回転機MG2と、クラッチCL1及びブレーキBK1の係合または開放によってエンジン1の回転数を変速して出力する変速部と、変速部と駆動輪32とを接続する差動部と、を備える。エンジン1の出力軸(入力軸2)が変速部の入力要素(第一キャリア14)に接続され、差動部は、変速部の出力要素(第一リングギア13)に接続された第二キャリア14と、第一回転機MG1に接続された第二サンギア21と、第二回転機MG2及び駆動輪32に接続された第二リングギア23とを有する。このハイブリッド車両用駆動装置1−1において、変速部のクラッチCL1及びブレーキBK1を開放したニュートラル状態から、変速部のクラッチCL1及びブレーキBK1の一方を係合してエンジン1を差動部へ接続させるマニュアルシフト制御の際に、第二回転機MG2により駆動輪32へトルクを出力するMG2出力制御と、MG2出力制御と並行して、エンジン1を差動部へ接続させるために係合するクラッチCL1またはブレーキBK1において、係合部材の回転数を第一回転機MG1により同期させる回転数同期制御と、回転数同期制御の後に、回転数同期制御において同期させた変速部のクラッチCL1またはブレーキBK1を係合する係合制御と、を実行する。
この構成によれば、MG2出力制御を実行することで、クラッチCL1またはブレーキBK1を係合してエンジントルクが出力される前に、第二回転機MG2により駆動トルクを出力できるので、制御応答性を向上できる。また、回転数同期制御を実行することで、クラッチCL1またはブレーキBK1の係合前に係合部材間の回転数を同期させておくことができる。そして、制御応答性向上のためのMG2出力制御と、係合ショック低減のための回転数同期制御の後に係合制御を実行するので、変速部の係合動作によりエンジン1を差動部へ接続させるマニュアルシフト制御において、係合ショックの低減と、応答性の向上とを両立できる。
また、本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−1では、第二回転機MG2が必要トルクを出力できない場合には、MG2出力制御及び回転数同期制御を実行せずに係合制御を実行する。
この構成により、第二回転機MG2がトルクを十分に出せず、応答性向上のためのMG2出力制御を実施できない状況であっても、MG2出力制御及び回転数同期制御を実行せずに直ちに係合制御を実行することで、制御応答性を確保できる。
また、本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−1では、要求駆動力が大きい場合には、回転数同期制御を実行せず、MG2出力制御と並行して係合制御を実行する。
要求駆動力が大きい場合には、車両の運転者が迅速な応答性を要求していると判断できる。そこで上記構成により、要求駆動力が大きい場合には、回転数同期制御を実行せずに、応答性向上のためのMG2出力制御と共に直ちに係合制御を実行することで、係合制御の完了までの所要時間を低減して、応答性をより一層向上できる。
また、本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−1では、回転数同期制御は、車速に応じて第一回転機MG1を制御して、エンジン1を差動部へ接続させるために係合するクラッチCL1またはブレーキBK1において、係合部材間の差回転数を一定値以下に保持する。
例えば車速が大きいと、クラッチCL1及びブレーキBK1の係合部材間の差回転数が大きくなるように、車速に応じて低減すべき差回転数の大きさが変動する状況が考えられる。これに応じて、第一回転機MG1により出力される同期制御用に必要なトルクも変動する。上記構成により、車速に応じて変動する差回転数を一定値以下に低減するために必要なトルクを第一回転機MG1から出力させることができるので、係合部材間の差回転数を迅速に一定値以下に低減させることができ、回転数同期制御を迅速に完了することができる。
また、本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−1では、ニュートラル状態において、回転数同期制御を予め実行するか、または第一回転機MG1の出力トルクを0とする0トルク制御を実行するかを車速に基づいて選択する。
この構成により、実際にマニュアルシフト操作が発生する前に、可能であれば回転数同期制御を予め実行しておくことで、マニュアルシフト制御の実施時間を短縮でき、制御応答性をさらに向上できる。
また、本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−1では、ニュートラル状態において、エンジン1が動作中の場合に、エンジン1を差動部へ接続させるために係合するクラッチCL1またはブレーキBK1のガタ詰め制御を実行する。
この構成により、エンジン動作により発生する油圧を利用して、マニュアルシフト制御において係合するクラッチCL1またはブレーキBK1のガタ詰め制御を予め実行しておくことで、係合制御において迅速に完全係合させることができ、制御応答性をさらに向上できる。
また、本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−1では、係合制御において、クラッチCL1またはブレーキBK1を係合させるために供給する油圧の上昇速度を低速側から高速側へ変更する。
クラッチCL1またはブレーキBK1が係合すると、第一回転機MG1は反力を受けるため、係合動作の前後で正トルクから負トルクに切り替わり、スプライン等のガタの詰まる方向が逆になる。上記構成により、係合動作の第一段階として、クラッチ油圧の上昇速度を低速側で比較的緩やかにすることで、クラッチCL1またはブレーキBK1を弱係合させて、各部のガタをショックレスで詰めることができる。その後、係合動作の第二段階として、クラッチ油圧の上昇速度を高速側に切り替えることで、迅速に完全係合させることができる。
また、本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−1では、係合制御において、クラッチCL1またはブレーキBK1の係合に伴い第一回転機MG1が出力する負トルクの増加に応じて、第二回転機MG2によるトルクを低減させる。
この構成により、第一回転機MG1によるトルク増分を相殺でき、駆動トルクの変動を抑制して係合時のショックの発生を抑制できる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
例えば、上記実施形態では、マニュアルシフト制御の一例として変速部のクラッチCL1を係合する場合を挙げて説明した。これに対し、マニュアルシフト制御として変速部のブレーキBK1を係合する場合には、回転数同期制御では、ブレーキBK1の係合部材間の回転数を同期させるべく、ブレーキBK1の一方の係合部材が接続される変速部の第一サンギア11の回転数を0に維持するように、第一回転機MG1を制御すればよい。