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JP5714852B2 - 分離膜および分離膜モジュール並びに分離膜の製造方法および分離膜モジュールの製造方法 - Google Patents

分離膜および分離膜モジュール並びに分離膜の製造方法および分離膜モジュールの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、(A)疎水性高分子、(B)親水性ユニットのみからなる高分子、(C)水溶性ユニットと親水性ユニットからなる共重合体高分子の少なくとも3成分から構成される分離膜および、その分離膜モジュールの製造方法に関する。本発明は、高い分離性能を維持したまま、血液適合性や、タンパク質や有機物の非付着、膜成分の非溶出が要求される用途に好適に用いられる。例えば、血液浄化用の分離膜では、タンパク質の高い分離性能を保持しつつ、血液適合性や、タンパク質や血小板の非付着、膜成分の非溶出が要求される。また、浄水器用膜、上水浄化膜、下水浄化膜、逆浸透膜や、生体成分分離用膜などでは、有機物の高い分離性能を維持しながら、タンパク質や有機物の非付着、膜成分の非溶出が要求される。したがって、かかる分野において本発明の分離膜および、分離膜モジュールの製造方法が好適に用いられる。
血液と接触する血液浄化用分離膜においては、タンパク質や血小板が付着することが分離膜の性能低下や生体反応を引き起こす原因となり、深刻な問題となり得る。また、浄水器などの水処理膜においても、タンパク質や有機物の付着が分離膜の性能低下を引き起こす。かかる問題に対して、分離膜を親水化することによる解決が試みられており、様々な検討がなされている。
例えば、製膜原液の段階でポリスルホン系高分子に親水性高分子の単独重合体であるポリビニルピロリドンを混合させて成形することにより、膜に親水性を与えて汚れを抑制する方法(特許文献1)が開示されている。しかしながら、この方法では、基材となる高分子と相溶性のある高分子に限定されることや、膜表面の親水性が充分でないため、製膜原液中の親水性高分子の単独重合体の量を多くする必要があること、材料の使用用途に合わせて、最適な原液組成を検討しなければならないなどの制約を受ける。
一方で、製膜の工程中で放射線または熱により、水に不溶化するポリビニルピロリドンなどの親水性成分を導入する方法(特許文献2)や、ポリスルホン系高分子の分離膜に対して、ポリビニルピロリドンなどの親水性高分子単独重合体の溶液を接触させた後、放射線架橋により不溶化した被膜層を形成する方法(特許文献3)が開示されている。しかしながら、上記方法によれば製膜原液の段階で混合するよりも血液適合性が良好であるものの、ポリビニルピロリドンなどの親水性高分子単独重合体とポリスルホン系高分子は分子間の相互作用が弱いために、被膜層を形成させることが困難であり、また、分離膜からの溶出物が増大してしまうことがある。
そこで、ある範囲のケン化度をもつ、親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子であるポリビニルアルコールの水溶液をポリスルホン系分離膜と接触させて、ポリスルホン系高分子とポリビニルアルコールの酢酸ビニルなどとの疎水性相互作用により、効率的に膜表面の被膜層を形成させる方法(特許文献4)が開示されている。この方法によりタンパク質や血小板の付着抑制効果は上昇するが、これらの分離膜は、性能低下を起こすことがわかった。該文献において、分離膜のタンパク質付着抑制効果は、親水性高分子の親水性と疎水性のバランスにあると述べられているのみであり、詳細については記載されていない。
また、製膜原液にポリスルホン系高分子と、ポリビニルピロリドンとポリスチレンからなるグラフトコポリマーまたは/およびブロックコポリマーを溶解させて分離膜を製造する方法(特許文献5)が開示されている。しかしながら、これらの分離膜は疎水性ユニットの種類が最適ではないため、血液適合性の点で好ましくない。
また、ポリスルホン系高分子の分離膜に、親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体であるポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートと、その他の1種類以上の添加成分を付着させることにより、親水性を付与した分離膜を製造する方法(特許文献6)が開示されている。特許文献6で開示されている添加成分としては、親水性高分子であるポリビニルピロリドンや、親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子であるポリビニルアルコール、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられている。これらの方法により分離膜の親水性が向上するが、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートは、20℃の純水に対する溶解度が1g/100g未満であるため、親水性と疎水性のバランスが最適ではなく、好ましくない。
つまり、高い分離性能を維持したまま、血液適合性や、タンパク質や有機物の付着抑制、膜成分からの溶出物の低減が同時に達成される分離膜の製造方法は未だ確立されていない。
特公平2−18695号公報 特公平8−9668号公報 特開平6−238139号公報 特開2006−198611号公報 特再1997/13575号公報 特開平8−131791号公報
本発明の目的は、かかる従来技術の欠点を改良し、高い分離性能を維持したまま、血液適合性や、タンパク質や有機物の付着抑制、膜成分からの溶出物の低減が同時に達成される分離膜および、その分離膜モジュールを提供することにある。
本発明者らは上記課題を達成するため鋭意検討を進めた結果、高い分離性能を維持したまま、血液適合性や、タンパク質や有機物の付着抑制、膜成分からの溶出物の低減が同時に達成される分離膜および、その分離膜モジュールは、下記の1〜14の構成によって達成される。
1.(A)疎水性高分子、(B)親水性ユニットのみからなる高分子、(C)親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子の少なくとも3成分から構成され、前記(B)のガラス転移点が90℃以上かつ、20℃の純水に対する溶解度が10g/100g以上、前記(C)のガラス転移点が90℃以上かつ、20℃の純水に対する溶解度が1g/100g以上であることを特徴とする分離膜。
2.前記(A)からなるフィルムに対して、前記(C)を水中で接触させた時の吸着量をAw、アセトニトリル20重量%混合水溶液中で接触させた時の吸着量をAaとした場合、Aa/Awが0.95以下であることを特徴とする前記1に記載の分離膜。
3.前記(B)および(C)が、併せて分離膜全体の5重量%以下であり、(C)が、分離膜のいずれかの表面に5重量%以上存在することを特徴とする前記1または2に記載の分離膜。
4.前記分離膜の抱液率が10重量%以上600重量%以下かつ、透水性が150mL/hr/m /mmHg以上、900mL/hr/m /mmHg以下であることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の分離膜。
.前記(A)がポリスルホン系高分子であることを特徴とする前記1〜のいずれかに記載の分離膜。
.前記(B)がポリビニルピロリドンおよび/またはポリエチレングリコールであることを特徴とする前記1〜のいずれかに記載の分離膜。
.前記(C)の親水性ユニットがビニルピロリドンおよび/またはエチレングリコールであり、前記(C)の疎水性ユニットが酢酸ビニルおよび/またはビニルカプロラクタムであることを特徴とする前記1〜のいずれかに記載の分離膜。
.前記分離膜が血液浄化用途に用いられることを特徴とする前記1〜のいずれかに記載の分離膜。
.前記1〜のいずれかに記載の分離膜が内蔵されたことを特徴とする分離膜モジュール。
10.(A)疎水性高分子と(B)親水性ユニットのみからなる高分子からなる分離膜に、(C)親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子溶液を接触させた後、高エネルギー線を照射することを特徴とする分離膜の製造方法。
11.前記(C)の溶液20℃以上、60℃以下で接触させることを特徴とする前記10に記載の分離膜の製造方法。
12.前記(C)の溶液を、分離膜に接触させた後、前記分離膜の抱液率が10重量%以上600重量%以下となるまで除去する工程を有することを特徴とする前記10または11に記載の分離膜の製造方法。
13.前記(A)がポリスルホン系高分子であることを特徴とする前記10〜12のいずれかに記載の分離膜の製造方法。
14.前記(B)がポリビニルピロリドンおよび/またはポリエチレングリコールであることを特徴とする前記1013のいずれかに記載の分離膜の製造方法。
15.前記(C)の親水性ユニットがビニルピロリドンおよび/またはエチレングリコールであり、前記(C)の疎水性ユニットが酢酸ビニルおよび/またはビニルカプロラクタムであることを特徴とする前記1014のいずれかに記載の分離膜の製造方法。
16.前記1015のいずれかに記載の分離膜を内蔵することを特徴とする分離膜モジュールの製造方法。
本発明者らは上記課題を達成するため鋭意検討を進めた結果、高い分離性能を維持したまま、血液適合性や、タンパク質や有機物の付着抑制、膜成分からの溶出物の低減が同時に達成される分離膜および、その分離膜モジュールは、下記の1〜16の構成によって達成される。
1.((A)疎水性高分子、(B)親水性ユニットのみからなる高分子、および、(C)親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子、の少なくとも3成分から構成され、
前記(B)のガラス転移点が90℃以上であり、かつ、20℃の純水に対する溶解度が10g/100g以上であり
前記(C)のガラス転移点が90℃以上であり、かつ、20℃の純水に対する溶解度が1g/100g以上であり
前記(B)および(C)の存在比率は、5重量%以下であり、
前記(C)は、上面または下面に5重量%以上存在している、分離膜。
2.前記(A)からなるフィルムに対して、前記(C)を水中で接触させた時の吸着量をAw、アセトニトリル20重量%混合水溶液中で接触させた時の吸着量をAaとした場合、Aa/Awが0.95以下であることを特徴とする前記1に記載の分離膜。
3.前記(B)および(C)が、併せて分離膜全体の5重量%以下であり、(C)が、分離膜のいずれかの表面に5重量%以上存在することを特徴とする前記1または2に記載の分離膜。
4.前記分離膜の抱液率が10重量%以上600重量%以下かつ、透水性が150mL/hr/m2/mmHg以上、900mL/hr/m2/mmHg以下であることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の分離膜。
5.前記(A)がポリスルホン系高分子であることを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載の分離膜。
6.前記(B)がポリビニルピロリドンおよび/またはポリエチレングリコールであることを特徴とする前記1〜5のいずれかに記載の分離膜。
7.前記(C)の親水性ユニットがビニルピロリドンおよび/またはエチレングリコールであり、前記(C)の疎水性ユニットが酢酸ビニルおよび/またはビニルカプロラクタムであることを特徴とする前記1〜6のいずれかに記載の分離膜。
8.前記分離膜が血液浄化用途に用いられることを特徴とする前記1〜7のいずれかに記載の分離膜。
9.前記1〜8のいずれかに記載の分離膜が内蔵されたことを特徴とする分離膜モジュール。
10.(A)疎水性高分子と、(B)親水性ユニットのみからなる高分子と、からなる分離膜に、(C)親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子溶液を接触させた後、高エネルギー線を照射することを特徴とする分離膜の製造方法。
11.前記(C)の溶液を20℃以上、60℃以下で接触させることを特徴とする前記10に記載の分離膜の製造方法。
12.前記(C)の溶液を、分離膜に接触させた後、前記分離膜の抱液率が10重量%以上600重量%以下となるまで除去する工程を有することを特徴とする前記10または11に記載の分離膜の製造方法。
13.前記(A)がポリスルホン系高分子であることを特徴とする前記10〜12のいずれかに記載の分離膜の製造方法。
14.前記(B)がポリビニルピロリドンおよび/またはポリエチレングリコールであることを特徴とする前記10〜13のいずれかに記載の分離膜の製造方法。
15.前記(C)の親水性ユニットがビニルピロリドンおよび/またはエチレングリコールであり、前記(C)の疎水性ユニットが酢酸ビニルおよび/またはビニルカプロラクタムであることを特徴とする前記10〜14のいずれかに記載の分離膜の製造方法。
16.前記10〜15のいずれかに記載の分離膜を内蔵することを特徴とする分離膜モジュールの製造方法。

本発明に用いられる人工腎臓の一態様を示す。
本発明における分離膜を構成する3成分のうち、(A)疎水性高分子は分離膜を形成する支持体の役割がある。また、(B)親水性ユニットのみからなる高分子および(C)親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子は、タンパク質や有機物などの付着を抑制する役割を果たしていると考えられる。すなわち、本発明者らが鋭意検討した結果、分離膜表面には適度に親水性領域と疎水性領域が混在していることが、タンパク質や有機物などの付着抑制に効果的であることがわかった。本発明においては、共重合体高分子である上記(C)は上記(B)に比べ、疎水性が高く一般的に水に対する溶解度が低いことが多い。したがって、分離膜表面においては上記(B)親水性ユニットのみからなる高分子が主として親水性領域を、上記(C)親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子における疎水性部分が主として疎水性領域を構成しているものと推測される。
本発明において、疎水性ユニットとは、それ単独の重合体では水に難溶または不溶である繰り返し単位と定義し、水に難溶または不溶とは、20℃の純水に対する溶解度が1g/100g未満のことをいう。一方で、親水性ユニットとは、それ単独の重合体で水に易溶である繰り返し単位であり、20℃の純水に対する溶解度が10g/100g以上と定義する。
分離膜表面の疎水性領域において、疎水性の度合いが強すぎるとタンパク質の変性を惹起してしまう。例えば、(A)疎水性高分子であるポリスルホンと(B)親水性ユニットのみからなる高分子であるポリビニルピロリドンからなる分離膜表面では、露出しているポリスルホンにタンパク質が付着する。また、親水性領域においては、(B)の親水性の度合いが不十分な場合、分離膜表面の疎水性が上昇することで、タンパク質や有機物が付着し、血液適合性が悪くなることが有り得る。このため、本発明者らが鋭意検討した結果、上記(B)親水性ユニットのみからなる高分子は、20℃の純水に対する溶解度が10g/100g以上の親水性をもつことが重要であることを見出した。さらには20g/100g以上であることが好ましい。また、(C)親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子は、(B)程ではないとしても、上記(C)疎水性の度合いが強すぎず、ある程度の親水性を有していることが必要である。すなわち、20℃の純水に対する溶解度が1g/100g以上、さらには5g/100g以上であることが望ましい。
また、20℃の純水に対する溶解度が(B)≧(C)であることは、親水性領域と疎水性領域が明確になり、本発明の効果を上げるためにより好ましい。
さらに、上記(B)および(C)のガラス転移点が90℃以上、好ましくは100℃以上であれば、タンパク質などの付着を抑制する効果が大きいことがわかった。ガラス転移点が高い高分子ほど剛性が高く、流動性が少ないため、分子鎖の分子運動性は低くなる。このため、分離膜表面における親水性領域と疎水性領域が、より明確化されているのではないかと推測される。また、理由については定かではないが、上記(B)および(C)のガラス転移点が90℃以上、好ましくは100℃以上であれば、分離性能にも影響を与えることがわかった。
特に、分離膜成形後に(B)および(C)を高エネルギーにより架橋させることは、ガラス転移点を上昇させるための好適な手段であり、好ましい。例えば、高エネルギー源として、放射線照射や熱処理、またはこれら両方の処理を行うような方法を用いることができる。その中でも、放射線照射による架橋処理は簡便であり、血液浄化用膜などの医療用途においては、製品の滅菌と兼ねることができるため、好適に用いられる。これらの高分子が架橋し、ガラス転移点を上昇させるための照射線量には最適な範囲が存在する。すなわち、照射線量が5kGy、さらには10kGy以上であることが好ましい。また、照射線量が100kGy以上であると、過度な架橋や崩壊が起こるため、血液適合性が低下する。
高分子は放射線照射などの高エネルギーを吸収した時、高分子鎖周辺の環境によって、分子内または/および分子内に架橋現象を生じる。一定濃度以上の溶液に溶解した高分子を放射線照射した場合、分子間架橋が優位に進行するため、溶液中の高分子は不溶化する。本発明においては、ゲル化濃度をその溶液の下限濃度と定義する。すなわち、高分子の架橋を進行させてガラス転移点を上昇させるために、本発明者らが鋭意検討した結果、上記(B)および(C)として、放射線照射によるゲル化濃度が2.0重量%以下、さらには1.0重量%以下であるようなものを用いることが効果的であることがわかった。かかる高分子の使用により、分離膜表面に適度な親水性領域と疎水性領域が混在することで、タンパク質や有機物の付着が抑制される。
また、本発明において高い分離性能を維持したまま、血液適合性や、タンパク質や有機物の付着抑制、膜成分からの溶出物の低減が同時に達成されるには、分離膜の支持体となる(A)疎水性高分子と、(C)の共重合体高分子の間に疎水性相互作用があることが好ましい。本発明における(C)は、本発明における(B)に比べいくぶん疎水性を有しているため、疎水性相互作用によって疎水性高分子の周辺に優性的に配置されると考えられる。これにより、分離膜表面の疎水性領域における疎水性高分子の露出がなくなり、タンパク質の付着が抑制される。また、両者の間に働く疎水性相互作用が大きいほど、(C)が分離膜に強く接着されているため、膜成分からの溶出物が低減される。そこで、本発明では、疎水性相互作用の強さを、その対象に対する共重合体高分子の溶液の吸着量で表すものとした。すなわち、(A)からなるフィルムに対し、(C)の共重合体高分子を、水溶液として接触させた時の吸着量をAw、アセトニトリル20重量%混合水溶液として接触させた時の吸着量をAaとした場合、Aa/Awが0.95以下であることが好ましく、さらには0.7以下であることが好ましい。なお、(A)疎水性高分子からなるフィルムへの吸着量は、表面プラズモン共鳴装置(以下、SPRと略す)を用いて測定することにより算出する。SPRは、一定角度で照射させたレーザー光の共鳴角の変化からフィルム表面の質量変化を解析する装置である。
ここでいう疎水性相互作用とは、ある化合物が水のような親水性溶媒に囲まれた時、それを避けるように集合する力のことであり、水の存在下ではじめて作用する力のことを指す。アセトニトリル20重量%混合水溶液を用いるのは、これに(C)を溶解させた場合、その水性ユニットと疎水性高分子の間に生じる疎水性相互作用の効果が弱まるためであり、(C)を水中で接触させた時の吸着量をAw、アセトニトリル20重量%混合水溶液中で接触させた時の吸着量をAaとした場合、Aa/Awが0.95以下ということは、水溶液としてその対象に接触した場合に疎水性相互作用が強いと判断できるためである。
ここで、「アセトニトリル20重量%混合水溶液」を用いる理由について詳述する。水と相溶する貧溶媒を添加して電気的な極性を下げた水溶液の選択において、アセトニトリルの他、貧溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶媒、メタノールやエタノールなどのアルコール系溶媒、ジエチルエーテルやテトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、ジエチルアミンやトリエチルアミンなどのアルキルアミン系溶媒、さらにトルエンやピリジンなどの芳香族系溶媒などがあるが、本発明においては、逆相液体クロマトグラフィーの混合溶媒として汎用的に用いられるように、任意の割合における水との相溶性が高く、水溶液の極性を効果的に下げることができることから、アセトニトリルを採用している。また、混合水溶液における水とアセトニトリルとの割合には最適な範囲が存在する。水の割合が高すぎると、水溶液の極性変化が少なくなり、吸着量の変化を判定することが困難になる。一方で、アセトニトリルの割合が高すぎると、高分子の溶解性が異なり、SPRの機械特性上、測定誤差が高くなってしまう。具体的には1〜50重量%アセトニトリル混合水溶液、好ましくは5〜30重量%、さらには10〜20重量%が好適に用いられるものである。
また、本発明者らが検討した結果、(B)や(C)は水に対する溶解度の高い成分であるため、分離膜全体に対して(B)と(C)の存在比率が高すぎる場合、分離膜からの溶出量が多くなり得ることがわかった。さらに、膜の成形性にも問題を生じてしまうことがある。すなわち、本発明においては、(B)および(C)が併せて好ましくは分離膜全体の5重量%以下、より好ましくは3重量%以下である。また、分離膜の成形性や親水性と疎水性のバランスを維持するためには、(B)および(C)が膜全体に対して0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上であることが必要である。一方で、分離膜表面においては、タンパク質や有機物の付着抑制効果を発揮するために、上記(C)が分離膜のいずれかの表面に好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上存在することが重要であることを見出した。また、上記(C)が多すぎる場合は、分離膜の疎水性上昇による血液適合性の低下や、分離膜の目詰まりによる性能低下を惹起してしまうことがあるため、50重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。ここでいう分離膜表面とは、光電子分光法(ESCA)の検出器傾きを90°に設定した時の測定深さまでの部分を指し、例えば、X線光電子分光法(ESCA)などにより、測定することができる。分離膜全体の高分子の存在比率は、ポリビニルピロリドンなどの場合、元素分析を用いて窒素を分析することにより算出することができる。
本発明でいうところの分離膜とは、血液や水溶液などの処理する液体に含まれる特定の物質を、吸着もしくは物質の大きさなどにより、選択的に除去する膜のことである。
本発明の分離膜は、タンパク質や有機物の付着抑制性が高いので、水処理用分離膜や生体成分分離膜として好適に用いることができる。特に、人工腎臓などの血液浄化用モジュールに適する。ここで、血液浄化用モジュールとは、血液を体外に循環させて、血中の老廃物や有害物質を取り除く機能を有したモジュールのことをいい、人工腎臓や外毒素吸着カラムなどがある。また、人工腎臓用モジュールとしては、コイル型、平板型、中空糸膜型があるが、処理効率などの点から、中空糸膜型が好ましい。
分離膜を原液から湿式製膜する場合、エントロピーロスを防ぐために分子量の大きい高分子が集まり、エンタルピーロスを防ぐために表面に(B)や(C)が集合する特性がある。特に本発明における(B)は一般に(C)よりも親水性が高く、表面に集合しやすいため、原液に添加してもよいし、分離膜成形後に接触、固定化させてもよい。また、(C)については、原液に添加してもよいが、(B)よりも高分子量体を用いる、あるいは大量に使用しなければいけないなどの制約が生じる。そこで、疎水性の度合いが強い(A)が露出せず、高い分離性能を維持したまま、血液適合性や、タンパク質や有機物の付着抑制、膜成分からの溶出物の低減が同時に達成される分離膜表面をつくるためには、分離膜の成形後に(C)を接触させた後に、固定化させる方法を採るとよい。かかる方法は、簡便かつ少量で実施が可能であるため、好適に用いられる。さらに、中空糸膜型の分離膜の湿式製膜においては、中空状に糸を形成させるために、原液以外に注入液を使用する。そのため、(B)および(C)を注入液に添加して製膜してもよい。
また、本発明では(C)を分離膜に接触させる時の溶液温度が溶出量に影響を与えることを見出した。溶出量については、分離膜が中空糸膜である場合、37℃に加温した4Lの超純水にて4時間灌流して得られた溶液を凍結乾燥して濃縮した後、液相クロマトグラフィー(例えば、東ソー株式会社製HPLC(AK−216−001))にて測定することで算出する。溶出量が高い場合には、血液透析時に膜成分が血液中へ流れ出すことで、アナフィラキシーショックや合併症など危険な副作用が発生する可能性がある。そのため、本発明においては、中空糸膜からの溶出量が好ましくは1.0mg以下、さらに好ましくは0.5mg以下であることとしている。同様にして、分離膜が平膜の場合においても37℃に加温した超純水にて4時間浸漬して得られた溶液を用いて、液相クロマトグラフィーにて算出する。これらを満たすためには、上記溶液温度が20℃以上であることが好ましく、さらには30℃以上、さらに好ましくは40℃以上である。これは、高い温度で接触させた方が、高分子溶液が均一溶解しているため、分離膜表面全体に均等に被覆されて、十分に固定化されない高分子量が減少するためと考えられる。一方で、溶液温度が高すぎると、高分子の種類によっては、曇点の存在により溶液が懸濁することがあるため、分離膜表面に十分に被覆、固定化されない。そのため、例えばビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体の場合は60℃以下であることが好ましい。
ここでいう固定化とは、(B)および(C)が、分離膜表面で被膜層を形成することを含む。例えば、分離膜に高分子溶液を流して接触させる物理吸着による方法でもよいし、物理吸着させた後に、高エネルギーを照射させて、不溶化させる方法でもよい。例えば、高エネルギー源として、放射線照射や熱処理、またはこれら両方の処理を行うような方法を用いることができる。特に分離膜に高分子溶液を流して接触させ、その後放射線照射により高分子を不溶化させる手法は、分離膜が血液浄化用分離膜である場合、高分子がより表面に強く固定化されるため、血液などへの溶出物が低減されるなどの効果が高く、好ましく用いられる。
また、分離膜を高分子溶液に浸漬した状態で放射線照射および/または熱処理などを行っても良いし、あるいは、分離膜を高分子溶液に浸漬後、溶液を抜き出してから放射線照射および/または熱処理などを行っても良い。ただし、高分子を接触させた後に放射線照射する場合には、ある程度の溶媒が存在した方が、高分子が分離膜に固定化されやすい。これは、放射線照射により溶媒から発生したラジカルが起点となって、接触させた高分子や、分離膜の支持体である疎水性高分子がラジカル化して架橋し、固定化することによると考えられる。すなわち、上記の通り溶液を抜き出すとしても、分離膜の乾燥重量に対して、0.1重量倍以上、より好ましくは0.2重量倍以上、さらには1.0重量倍以上、分離膜の抱液率に換算するとそれぞれ10重量%以上、20重量%以上、さらには100重量%以上となるように溶媒が残存していることが好ましい。なお、溶媒としては、取り扱い性の観点から水が好適に用いられる。一方で、分離膜モジュール内に水が充填されていない状態であるとしても、放射線照射までの時間に吸着した共重合体が溶出する懸念が少ないという観点から、分離膜のみ湿潤状態であることが好ましい。具体的には、分離膜がその乾燥重量に対して、6.0重量倍以下、さらには4.0重量倍以下、抱液率に換算すると600重量%以下、さらには400重量%以下の水分で湿潤されていることが好ましい。ここでいう抱液率とは、下記(式1)で算出される値である。
p=(ww−wd)×c/wd (式1)
(p=分離膜の抱液率(重量%)、ww=分離膜の重量(g)、wd=分離膜の乾燥状態での重量(g)、c=湿潤液中の水分含有率(%))
さらに、本発明においては、分離膜の透水性が低い場合、水を除去する工程において、分離膜における水の分布が不均一になるため、放射線照射による水からのラジカル発生が効率的に行われないため、溶出物が増加してしまう。すなわち、透水性が150mL/hr/m/mmHg以上、さらには200mL/hr/m/mmHg以上が好ましい。一方で、透水性が高すぎると、分離膜の水が残存されにくく、抱液率が安定しない。また、性能低下も引き起こす。具体的には、透水性が900mL/hr/m/mmHg以下、さらには800mL/hr/m/mmHg以下が好ましい。ここでいう透水性は下記(式2)で算出される値である。
透水性(mL/hr/m /mmHg)=Q /(P×T×A) (式2)
(Q :濾過量(mL)、T:流出時間(hr)、 P:圧力(mmHg)、A:分離膜の表面積(m ))
また、分離膜を高分子溶液に浸漬した後、水に置換してから放射線照射や熱処理を行っても良い。さらには、置換した水を抜き出した後、放射線照射や熱処理をしても良い。特に血液浄化用分離膜に上記の方法を用いる場合は、安全性の観点から、水もしくはアルコールなどの溶媒が好適に用いられる。
本発明において、高分子を接触させた後に熱処理する場合には、分離膜に高分子が接触された状態で、その高分子の熱架橋が進行するような温度で加熱することにより、分離膜に固定、不溶化されやすくなる。
また、浸漬させた高分子や水などを除去する方法としては、減圧乾燥、高温乾燥、低温送風乾燥、ブロー乾燥など、種々の方法を用いることができる。なお、放射線照射する際に、酸素が存在すると、酸素ラジカルなどが発生し、分離膜素材の高分子材料が分解してしまうことが知られている。したがって、放射線照射する際の分離膜周囲の酸素濃度は10%以下であることが望ましい。分離膜モジュールに放射線照射する場合は、例えば、モジュール内を窒素ガスでパージした後、密閉することで、酸素濃度を低下させ、放射線照射すれば良い。
例えば、分離膜が血液浄化用中空糸膜である場合、膜の両面に高分子溶液を接触させてもよいが、高い分離性能を維持したまま、血液適合性やタンパク質や有機物の付着抑制および膜成分からの溶出物の低減を同時に達成するために、分離膜のいずれかの表面、特に内表面のみに接触させることも可能である。その際、高分子を接触させる表面から反対側に向けて生じる圧力差を利用すると、高分子が濃縮されて、分離膜表面に効率的に吸着されるため、好適に用いられる。なお、高分子を接触させる時にその溶液そのもので、圧力差をかけて膜表面に導入しなくとも、溶液を接触後、気体や水などの溶液を用いて圧力をかけてもよい。
しかしながら、高分子を接触させる表面と反対側との圧力差が余りに大きくなると、分離膜の性能低下が起こり得る。この理由としては、その圧力差が高い時、高分子が均一に分離膜に導入されているものの、過度の吸着により膜孔が目詰まりを起こすためと考えられる。したがって、疎水性高分子がポリスルホン系高分子の場合、その圧力差は60kPa以内であることが望ましく、さらには40kPa以内であることが好ましい。圧力差の下限については、本発明の場合、特に圧力差がなくても分離膜への吸着が進行するため、特に限定されるものではないが、1kPa以上が望ましく、さらには15kPa以上が望ましく、さらには20kPa以上が望ましい。
また、接触させる高分子溶液の濃度があまりに高いと、高分子の溶出物が増加することが有り得る。この理由としては、過度な架橋や崩壊が起こるためと考えられる。一方で、溶液濃度が低すぎると、高分子が分離膜表面に対して効果的に固定化されず、性能は低い。したがって、高分子を接触させる際の高分子溶液の濃度にはある範囲がある。具体的な濃度は、高分子の種類によって異なるが、一般的には、0.0001重量%以上、1重量%以下が好ましく、さらには、0.001重量%以上、0.1重量%以下が好ましい。
分離膜に高分子を接触させ、放射線により高分子が不溶化する工程において、高分子溶液中に該共重合体以外の成分、例えば、抗酸化剤が入っていても良い。さらには、親水性高分子溶液で分離膜をコーティングした後、抗酸化剤溶液と接触させても良い。
抗酸化剤を入れることで、発生するラジカル量を調整することができる。例えば、血液浄化用モジュールの製造において、放射線照射による不溶化と滅菌を兼ねることができるが、滅菌を達成させるための線量を照射した時、接触させた高分子の架橋が進行しすぎて、分離膜などが劣化する場合がある。それを防止するために抗酸化剤を併用すれば良い。抗酸化剤とは、他の分子に電子を与えやすい性質を持つ分子のことを言う。例えば、ビタミンCなどの水溶性ビタミン類、ポリフェノール類、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどのアルコール類、グルコース、ガラクトース、マンノース、トレハロースなどの糖類、ソジウムハイドロサルファイト、ピロ亜硫酸ナトリウム、二チオン酸ナトリウムなどの無機塩類、尿酸、システイン、グルタチオン、酸素などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの抗酸化剤は単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いてもよい。本発明の方法を医療用具に用いる際は、その安全性を考慮する必要があるため、抗酸化剤は毒性の低いものが好適に用いられる。
抗酸化剤を含有する溶液の濃度については、含有する抗酸化剤の種類、放射線の照射線量などにより異なる。抗酸化剤の濃度が低すぎると、溶媒から発生するラジカルの消去が十分にできないため、分離膜などの劣化を防ぐことができない。また、抗酸化剤を多量に入れると、ラジカルが十分に消去されてしまうために、共重合体の分離膜への固定化量が落ちるために、溶出物の増加やタンパク質や血小板などの付着抑制効果も十分に得られない。以上のことから、抗酸化剤としては、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンが好適に用いられ、その濃度範囲は、0.01重量%以上、90重量%以下が好適に用いられる。特にエタノール、n−プロパノール、2−プロパノールの場合は、0.01重量%以上、10重量%以下が好適に用いられ、さらに好ましくは0.05重量%以上、1重量%以下である。プロピレングリコール、グリセリンの場合は、0.1重量%以上、90重量%、さらに好ましくは、0.5重量%以上、70重量%以下である。
本発明でいうところの疎水性高分子は、疎水性ユニットのみから構成される高分子のことを指す。具体的には、ポリスルホン系高分子が挙げられる。ポリスルホン系高分子とは、主鎖に芳香環、スルフォニル基およびエーテル基をもつもので、例えば、次式(1)、(2)の化学式で示されるポリスルホンが好適に使用されるが、本発明ではこれらに限定されず、式中のnは、例えば50〜80の如き整数である。
Figure 0005714852
ポリスルホン系高分子の具体例としては、“ユーデルポリスルホン”(登録商標)P−1700、P−3500(ソルベイ社製)、“ウルトラソン”(登録商標)S3010、S6010(BASF社製)、“ビクトレックス”(登録商標)(住友化学)、“レーデルA”(登録商標)(ソルベイ社製)、“ウルトラソン”(登録商標)E(BASF社製)等のポリスルホンが挙げられる。又、本発明で用いられるポリスルホンは上記式(1)及び/又は(2)で表される繰り返し単位のみからなるポリマーが好適ではあるが、本発明の効果を妨げない範囲で他のモノマーと共重合していても良い。特に限定するものではないが、他の共重合モノマーは10重量%以下であることが好ましい。
また、本発明における(B)親水性ユニットのみからなる高分子とは、親水性ユニットのみから構成される高分子のことを指し、例えば、ポリビニルピロリドンやポリエチレングリコールのような高分子が挙げられる。しかしながら、タンパク質は疎水性表面に付着しやすいため、分離膜表面全体が親水性であることが重要と考えられているものの、ポリビニルピロリドンやポリエチレングリコールのような水溶性高分子だけでは、材料表面を被覆してもタンパク質などの付着は一時的にしか抑制できないとも言われている。すなわち、分離膜表面には適度に親水性と疎水性が混在していることが、タンパク質や有機物などの付着抑制に効果的である。そこで、本発明においては、(B)親水性ユニットのみからなる高分子が主として親水性領域を構成させ、一方で(C)の共重合体高分子が比較的疎水性領域を主として構成するものとしている。これに対し、(C)の代わりに、水酸基を有するポリビニルアルコールように親水性の度合いが強すぎ、ガラス転移点が90℃未満の高分子を用いると、血液と接触した時に、補体を活性化してしまうことが知られている。
すなわち、(C)の共重合体高分子においては、構成される親水性ユニットと疎水性ユニットの種類や比率が重要となる。例えば、親水性ユニットとしてはビニルピロリドンやアルキレングリコール、アルキレンイミン、アリルアミン、ビニルアミン、アクリル酸などが挙げられ、中でも、ビニルピロリドン基は、水酸基ほど親水性が強すぎず、適度に親水性と疎水性のバランスを取ることが容易であり、好ましい。
また、疎水性ユニットとしては酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステルや、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルや、カプロラクタム、さらにメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル、アクリロニトリル等を繰り返し単位として有するものを挙げることができる。
本発明においては、その中でも特に共重合体の繰り返し単位として、酢酸ビニル、ビニルカプロラクタム、メチルビニルエーテルを有する高分子がポリスルホン系分離膜に添加されると、タンパク質や血小板の付着を抑制する効果が高いため、好適に用いられる。この理由としては、上記繰り返し単位を有する(C)がポリスルホン系高分子からなる分離膜と接触した際に、疎水性相互作用による高い親和性から吸着が起こるためであると考えられる。なお、(C)の共重合高分子としては、ランダム共重合体、もしくは交互共重合体が好適に用いられる。これは、ブロック共重合体やグラフト共重合体の場合、疎水性ユニットがドメイン化し、疎水性の度合いが強くなりすぎることが多いためである。
具体的には、ビニルピロリドンと酢酸ビニルとの共重合体である“KOLLIDON”(登録商標)VA64(BASF社製)や、ビニルピロリドンとビニルカプロラクタムとの共重合体である“LUVISKOL”(登録商標)VPC55(BASF社製)、などが好適に用いられるが、特に限定されるものではない。
本発明でいうところの放射線はα線、β線、γ線、X線、紫外線、電子線などが用いられる。また、人工腎臓などの血液浄化用モジュールは滅菌することが必要であり、近年は残留毒性の少なさや簡便さの点から、γ線や電子線を用いた放射線滅菌法が多用されている。すなわち、分離膜に高分子を接触させた場合、滅菌と同時に共重合体の不溶化も同時に達成できる。基材の滅菌と改質を同時に行う場合は、15kGy以上の照射線量が好ましい。血液浄化用モジュール等をγ線で滅菌するには15kGy以上が効果的なためである。しかしながら、照射線量が100kGy以上であると、親水性高分子の3次元架橋や崩壊などが起きるため、血液適合性が低下する。
本発明では、分離膜を高分子で接触させ、固定化した後にモジュールに組み込んでも良いし、モジュール内に組み込んだ分離膜に高分子を接触させることで、固定化しても良い。高分子を接触させた後、上述したように放射線照射や熱処理を行っても良い。分離膜モジュールの製造としては、その用途により、種々の方法があるが、大まかな工程としては、分離膜の製造工程と、その分離膜をモジュールに組み込むという工程にわけることができる。
血液浄化用モジュールとして、人工腎臓の製造方法についての一例を示す。まず、分離膜である中空糸膜の製造方法としては、ポリスルホンとポリビニルピロリドン(重量比率20:1〜1:5が好ましく、5:1〜1:1がより好ましい)をポリスルホンの良溶媒(N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジオキサンなどが好ましい)および貧溶媒の混合溶液に溶解させた原液(濃度は、10〜30重量%が好ましく、15〜25重量%がより好ましい)を二重環状口金から吐出する際に内側に注入液を流し、乾式部を走行させた後凝固浴へ導く。この際、乾式部の湿度が影響を与えるために、乾式部走行中に膜外表面からの水分補給によって、外表面近傍での相分離挙動を速め、孔径拡大し、結果として透析の際の透過・拡散抵抗を減らすことも可能である。ただし、相対湿度が高すぎると外表面での原液凝固が支配的になり、かえって孔径が小さくなり、結果として透析の際の透過・拡散抵抗を増大する傾向がある。そのため、相対湿度としては60〜90%が好適である。また、注入液組成としてはプロセス適性から原液に用いた溶媒を基本とする組成からなるものを用いることが好ましい。注入液濃度としては、例えばジメチルアセトアミドを用いたときは、45〜80重量%、さらには60〜75重量%の水溶液が好適に用いられる。
中空糸膜をモジュールに内蔵する方法としては、特に限定されないが、一例を示すと次の通りである。まず、中空糸膜を必要な長さに切断し、必要本数を束ねた後、筒状ケースに入れる。その後両端に仮のキャップをし、中空糸膜両端部にポッティング剤を入れる。このとき遠心機でモジュールを回転させながらポッティング剤を入れる方法は、ポッティング剤が均一に充填されるために好ましい方法である。ポッティング剤が固化した後、中空糸膜の両端が開口するように両端部を切断し、中空糸膜モジュールを得る。
以下実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
以下実施例と比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
1.基材の作成方法
(1)中空糸膜モジュールの作製
ポリスルホン(アモコ社 Udel−P3500)16部、ポリビニルピロリドン(インターナショナルスペシャルプロダクツ社;以下ISP社と略す K30)3部、ポリビニルピロリドン(ISP社K90)3部をジメチルアセトアミド77部、水1部と共に加熱溶解し、製膜原液とした。
この原液を温度50℃の紡糸口金部へ送り、環状スリット部分の外径0.35mm、内径0.25mmの2重スリット管から芯液としてジメチルアセトアミド63部、水37部からなる溶液を吐出させ、中空糸膜を形成させた後、温度30℃、露点28℃の、長さ350mmのドライゾーン雰囲気を経て、ジメチルアセトアミド20重量%、水80重量%からなる温度40℃の凝固浴を通過させ、60〜75℃90秒の水洗工程を経て、130℃の乾燥工程を2分通過させ、160℃のクリンプ工程を経て得られた中空糸膜を巻き取り束とした。この中空糸膜を有効膜面積(モジュール内における、ポッティングされた部分を除いた部分の総膜内表面積)が1.6mになるようにケースに充填し、両端を樹脂でポッティングし、さらに端部を両面について開口させて人工腎臓モジュールとした。
(2)平膜の作製
ポリスルホン(アモコ社 Udel−P3500)16部、ポリビニルピロリドン(ISP社 K30)3部、ポリビニルピロリドン(ISP社 K90)3部をジメチルアセトアミド77部、水1部と共に加熱溶解し、製膜原液とした。
ホットプレートにより表面温度が100℃になるように加熱したガラス板上に、平膜の厚さが203μmになるように前記製膜原液をキャストした。キャスト後、速やかにガラス板ごと温度40℃の凝固水浴へ浸漬した後、20cm×20cmのサイズに切り取ることで平膜を得た。
2.測定方法
(1)表面プラズモン共鳴(SPR)測定による吸着量の算出方法
GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製のAuセンサーチップをスピンコーターに固定させた後、ポリスルホン(アモコ社 Udel−P3500)の0.1重量%クロロベンゼン溶液をパスツールピペットで1、2滴滴下した。その直後3000rpmで1分間回転乾燥させることで、ポリスルホン系高分子が表面に薄層化したAuセンサーチップを作成した。このセンサーチップをGEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製BIACORE3000に挿入して、300秒間センサーチップ表面に0.025重量%トリトン水溶液を20μL/minで5分間、純水を20分間流して洗浄した。その後、以下の操作を行った。
1.0.1重量%となるよう、高分子サンプルを溶解させた水溶液を20μL/minで3分間流してポリスルホン表面に高分子を吸着させた。
2.純水を20分間流して洗浄した。
3.0.025重量%トリトン水溶液を20μL/minで15分間流し、吸着させた高分子を剥離させた。
4.純水を20分間流して洗浄した。
5.0.1重量%となるよう、高分子サンプルを溶解させたアセトニトリル20重量%混合水溶液を20μL/minで3分間流してポリスルホン表面に高分子を吸着させた。
6.純水を20分間流して洗浄した。
7.0.025重量%トリトン水溶液を20μL/minで15分間流し、吸着させた高分子を剥離させた。
8.純水を20分間流して洗浄した。
水に溶解させた高分子サンプルのポリスルホン系高分子表面への吸着量は、センサーチップ挿入直後にトリトン水溶液および水洗浄を行った後の値を0として、操作2が終了した時点での値とした。また、アセトニトリル20重量%混合水溶液に溶解させた高分子サンプルの吸着量は、操作4が終了した時点での値を0として、操作6が終了した時点での値とした。
(2)分離膜表面および膜全体の高分子存在量(重量%)の測定
分離膜表面の高分子存在量(重量%)測定には、X線電子分光法を用いた。装置、条件は以下の通り。
装置:ESCA LAB220iXL
励起X線:monochromatic Al Kα1,2 線(1486.6eV)
X線径:0.15mm
光電子脱出角度:90 °(試料表面に対する検出器の傾き)
測定深さ:約10nm
分離膜を超純水で充分に洗浄した後、室温、0.5Torrにて10時間乾燥させた。その後、分離膜が中空糸膜の場合は、片刃で半円筒状にそぎ切り、中空糸膜内表面を測定に供した。
例えば、ポリスルホンとポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体が混在する分離膜における、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体の存在量(重量%)は以下のようにして算出できる。X線電子分光法により、分離膜表面の元素組成(atomic%)および、C1sピークの分割結果(%)が得られる。これらの値から、エステル基(COO)由来のピーク組成(atomic%)が求められ、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニルユニットの存在量(重量%)が得られる。その結果および、既知のビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体のユニット間の存在量(重量%)より、中空糸膜内表面における、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体の存在量(重量%)が求まる。
同様にして、ポリビニルピロリドンの存在量(重量%)については、ビニルピロリドン基(C=O)由来のC1sピークの分割結果(%)から算出できる。
分離膜全体の高分子量の存在量(重量%)については、分解〜減圧化学発光法を用いた元素分析を行うことにより算出した。装置、条件は以下の通り。
装置:微量窒素分析装置ND−100型(三菱化学株式会社製)
電気炉温度:熱分解部分(800℃)、触媒部分(900℃)
メイン酸素流量:200mL/min
酸素流量:200mL/min
アルゴン流量:400mL/min
分離膜を上記分析装置内に導入して、熱分解および酸化させ、生成した一酸化窒素を化学発光法により測定した。次いで予めピリジン標準液で作成した検量線により定量した。
(3)ゲル化濃度の測定
使用した高分子についての水溶液は、濃度の下限を1000ppm、上限を30000ppmとして1000ppmおきで調整し、各サンプルを25kGyでγ線照射した。照射後のサンプルで沈殿が生じた濃度の下限値をゲル化濃度とした。ただし、沈殿の有無は0.2μmのフィルターで濾過を行った時に、沈殿が得られるかどうかにより判定した。
(4)中空糸膜のヒト血小板付着試験方法
18mmφのポリスチレン製の円形板に両面テープを貼り付け、そこに25kGyでγ線照射した中空糸膜を固定した。貼り付けた中空糸膜を片刃で半円筒状にそぎ切り、中空糸膜の内表面を露出させた。中空糸内表面に汚れや傷、折り目などがあると、その部分に血小板が付着し、正しい評価ができないことがあるので注意を要する。筒状に切ったFalcon(登録商標)チューブ(18mmφ、No.2051)に該円形板を、中空糸膜を貼り付けた面が、円筒内部にくるように取り付け、パラフィルムで隙間を埋めた。この円筒管内を生理食塩水で洗浄後、生理食塩水で満たした。人間の静脈血を採血後、直ちにヘパリンを50U/mlになるように添加した。前記円筒管内の生理食塩水を廃棄後、前記血液を、採血後10分以内に、円筒管内に1.0ml入れて37℃にて1時間振盪させた。その後、中空糸膜を10mlの生理食塩水で洗浄し、2.5体積%グルタルアルデヒド生理食塩水で血液成分の固定を行い、20mlの蒸留水にて洗浄した。洗浄した中空糸膜を常温0.5Torrにて10時間減圧乾燥した。この中空糸膜を走査型電子顕微鏡の試料台に両面テープで貼り付けた。その後、スパッタリングにより、Pt−Pdの薄膜を中空糸膜表面に形成させて、試料とした。この中空糸膜の内表面をフィールドエミッション型走査型電子顕微鏡(日立社製S800)にて、倍率1500倍で試料の内表面を観察し、1視野中(4.3×103μm2)の付着血小板数を数えた。中空糸長手方向における中央付近で、異なる10視野での付着血小板数の平均値を血小板付着数(個/4.3×103μm2)とした。中空糸の長手方向における端の部分は、血液溜まりができやすいため付着数の計測対象からはずした。血小板付着数については、好ましくは50個/4.3×103μm2以下、さらに好ましくは20個/4.3×103μm2以下である。
(5)溶出量の測定
(中空糸膜モジュールの場合)25kGyでγ線照射した中空糸膜をプライミング洗浄した後、超純水で灌流した。プライミング方法としては、以下の通りである。まず、血液側入口を下にした状態で、血液回路に接続した。超純水を流量100mL/minで、血液入口側から血液出口側に7分間流した。その後、透析液入口を下にした状態で、血液回路に接続した。超純水を流量 500mL/minで、透析液入口側から透析液出口側に5分間流した。その後、再度、血液側入口を下にした状態で、超純水を流量100mL/minで血液入口側から血液出口側に3分間流した。この後、37℃に加温した4Lの超純水を用いて、血液側入口を上にした状態で、血液入口側から血液出口側に流量200mL/minで、4時間灌流した。
4時間灌流液について、凍結乾燥により100倍に濃縮し、該溶液を東ソー株式会社製HPLC(AK−216−001)にて測定した。高分子量体の溶出量は、ポリビニルピロリドン(ISP社 K90)を検量線に用いて算出した。溶出量については、好ましくは1.0mg以下、さらに好ましくは0.5mg以下である。
(平膜の場合)25kGyでγ線照射した平膜について、超純水にて5分間洗浄した。その後、37℃に加温した1Lの超純水に4時間浸した後、得られた溶液を凍結乾燥により100倍に濃縮し、該溶液を上記と同じように東ソー株式会社製HPLC(AK−216−001)にて測定した。
(6)β−ミクログロブリン クリアランス測定
プラスチック管に中空糸を36本通し、両端を接着剤で固定した有効長12.5mmのプラスチック管モジュールを作製し、濃度が5mg/Lになるように、β−ミクログロブリンを37℃の牛血清に加えた。これをミニモジュールの血液側に1mL/minで流し、透析液側に37℃の生理食塩水を20mL/minで流した。2時間循環させた後、血液側の牛血清と、透析液側の生理食塩水を全量回収してエスアールエル(株)に分析を依頼し、β−ミクログロブリンの濃度を測定した。測定結果から有効膜面積が1.8mの分離膜モジュールに換算したクリアランスを算出した。β−ミクログロブリン クリアランスの値については、好ましくは60mL/min以上、さらに好ましくは65mL/min以上である。
(7)透水性の測定
中空糸膜の両端部を封止したガラス管ミニモジュール(本数36本:有効長10cm)を作成し、中空糸膜内側に水圧100mmHgをかけて、外側へ流出してくる単位時間当たりの濾過量を測定した。透水性は下記(式3)で算出した。
UFRS=Q /(P×T×A) (式3)
(UFRS:透水性(mL/hr/m /mmHg)、Q :濾過量(mL)、T:流出時間(hr)、 P:圧力(mmHg)、A:中空糸膜の内表面積(m
(実施例1)
ビニルピロリドン/酢酸ビニル(7/3)共重合体(BASF社製、“LUVISKOL”(登録商標)VA73W)の1000ppm水溶液および1000ppmのアセトニトリル20重量%混合水溶液を調整し、上記SPR測定方法により吸着量を算出した。また、(3)によりゲル化濃度を求めた。続いて“LUVISKOL”(登録商標)VA73W 100ppm水溶液を25℃にて中空糸膜モジュールの血液側入口から血液側出口に500mL通液し、次に血液側入口から透析液側入口に500mL通液することで、中空糸膜の内表面に““LUVISKOL”(登録商標)VA73Wを集積させた。その後、100kPaの圧縮空気で透析液側から血液側へ充填液を押しだし、次に血液側の充填液をブローしてから窒素で透析液側、血液側それぞれをブローした後、該モジュールに25kGyでγ線を照射した。γ線照射後の該モジュールから中空糸を取り出し、分離膜全体に対する存在量(重量%)、分離膜表面の存在量(重量%)、血小板付着試験、溶出量、β−ミクログロブリン クリアランス測定を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、血小板付着数が少なく、溶出量やβ−ミクログロブリン クリアランスが比較例7に示すコントロール並に維持されていることがわかった。
(実施例2)
ビニルピロリドン/酢酸ビニル(6/4)共重合体(BASF社製、“KOLLIDON”(登録商標)VA64)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、血小板付着数が少なく、溶出量やβ−ミクログロブリン クリアランスが比較例7に示すコントロール並に維持されていることがわかった。また、透水性について測定を行った。
(実施例3)
ビニルピロリドン/酢酸ビニル(5/5)共重合体(BASF社製、“LUVISKOL”(登録商標)VA55I)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、血小板付着数が少なく、溶出量やβ−ミクログロブリン クリアランスが比較例7に示すコントロール並に維持されていることがわかった。
(実施例4)
ビニルピロリドン/ビニルカプロラクタム(5/5)共重合体(BASF社製、“LUVISKOL”(登録商標)VPC55)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、血小板付着数が少なく、溶出量やβ−ミクログロブリン クリアランスが比較例7に示すコントロール並に維持されていることがわかった。
(実施例5)
“KOLLIDON”(登録商標)VA64を用い、中空糸膜モジュールへ通液した水溶液の濃度は10ppmであった以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、血小板付着数が少なく、溶出量やβ−ミクログロブリン クリアランスが比較例7に示すコントロール並に維持されていることがわかった。
(実施例6)
“KOLLIDON”(登録商標)VA64を用い、中空糸膜モジュールへ通液した水溶液の濃度が10ppm、水溶液の温度が30℃であった以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、血小板付着数が少なく、β−ミクログロブリン クリアランスが比較例7に示すコントロール並に維持されていることがわかった。しかし、水溶液の温度を30℃としたため、実施例5よりも溶出量がさらに少なくなった。
(実施例7)
“KOLLIDON”(登録商標)VA64を用い、中空糸膜モジュールへ通液した水溶液の濃度が10ppm、水溶液の温度が45℃であった以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、血小板付着数が少なく、β−ミクログロブリン クリアランスが比較例7に示すコントロール並に維持されていることがわかった。しかし、水溶液の温度を45℃としたため、実施例5、6よりも溶出量がさらに少なくなった。
(実施例8)
“KOLLIDON”(登録商標)VA64を用い、中空糸膜モジュールへ通液した水溶液の濃度は5ppmであった以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、血小板付着数が少なく、溶出量やβ−ミクログロブリン クリアランスが比較例7に示すコントロール並に維持されていることがわかった。しかし、前記(C)の内表面量が少ないため、血小板付着数は10ppmを用いた実施例5や100ppmを用いた実施例1より多かった。
(比較例1)
ポリビニルアルコール(アルドリッチ社製、ケン化度80%、分子量1万)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、血小板付着数が少なく、溶出物が比較例7に示すコントロール並に維持されていたが、β−ミクログロブリン クリアランスが低かった。これは、使用したポリビニルアルコールのガラス転移点が低く、分離膜表面の親水性領域と疎水性領域のバランスが悪いためと考えられる。
(比較例2)
ビニルピロリドン/酢酸ビニル(3/7)共重合体(BASF社製、“LUVISKOL”(登録商標)VA37E)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、血小板付着数が少なく、溶出物が比較例7に示すコントロール並に維持されていたが、β−ミクログロブリン クリアランスが低かった。これは、使用した“LUVISKOL”(登録商標)VA37Eのガラス転移点が低く、また溶解度も低く、分離膜表面の親水性領域と疎水性領域のバランスが悪いためと考えられる。
(比較例3)
ポリ酢酸ビニル(アルドリッチ社製、分子量11.3万)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、血小板付着数が少なく、溶出物が比較例7に示すコントロール並に維持されていたが、β−ミクログロブリン クリアランスが低かった。これは、使用したポリ酢酸ビニルのガラス転移点が低く、また溶解度も低く、分離膜表面の親水性領域と疎水性領域のバランスが悪いためと考えられる。
(比較例4)
ポリビニルピロリドン/ポリスチレン(5/5)グラフト共重合体(日本触媒社製)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、溶出量やβ−ミクログロブリン クリアランスが比較例7に示すコントロール並に維持されていたが、血小板付着数が多かった。これは、使用したポリビニルピロリドン/ポリスチレン(5/5)グラフト共重合体の溶解度が低く、分離膜表面の親水性領域と疎水性領域のバランスが悪いためと考えられる。
(比較例5)
ポリビニルピロリドンK90を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、β−ミクログロブリン クリアランスは比較例7に示すコントロール並に維持されていたが、血小板付着数と溶出量が多かった。これは、使用したポリビニルピロリドンK90が親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子ではなく、Aa/Awの値も1以上であり、分離膜表面の親水性領域と疎水性領域のバランスが悪いためと考えられる。
(比較例6)
製膜原液をポリスルホン 18部、ジメチルアセトアミド 81部、水 1部として、中空糸膜モジュールを作成した以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、溶出量やβ−ミクログロブリン クリアランスが比較例7に示すコントロール並に維持されていたが、血小板付着数が多かった。
(比較例7)
中空糸膜モジュールへ通液する液体として水を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。これらの各結果は表1の通りであった。すなわち、血小板付着数が多かった。
(実施例9)
“KOLLIDON”(登録商標)VA64の100ppm水溶液に平膜を浸漬させた。水分を切った後、前記平膜をガス密閉性の容器に入れて窒素充填し、その後25kGyでγ線を照射した。γ線照射後の平膜の溶出量を測定した。結果は表2の通りであった。すなわち、溶出量が比較例9に示すコントロール並に維持されていることがわかった。
(実施例10)
ポリスルホン 14部、ポリビニルピロリドンK30 5部、ポリビニルピロリドンK90 5部をジメチルアセトアミド77部、水1部に加熱溶解して製膜原液とした以外は、実施例9と同様の操作を行った。結果は表2の通りであった。すなわち、溶出量が多くなった。
(比較例
ポリスルホンをジメチルアセトアミド77部、水1部に加熱溶解して製膜原液とした以外は、実施例9と同様の操作を行った。結果は表2の通りであった。
(実施例11)
“KOLLIDON”(登録商標)VA64を用い、抱液率を5%にして透水性を200mL/hr/m /mmHgにした以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果は表3の通りであった。すなわち、血小板付着数が少なく、β −ミクログロブリン クリアランスが比較例7に示すコントロール並に維持されていることがわかった。ただし、溶出量は実施例2よりも多くなった。
(実施例12)
“KOLLIDON”(登録商標)VA64を用い、中空糸膜モジュールへ通液した水溶液の濃度は1000ppmであり、抱液率を300%にして透水性を140mL/hr/m /mmHgにした以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果は表3の通りであった。すなわち、血小板付着数が少なく、溶出量やβ −ミクログロブリン クリアランスが比較例7に示すコントロール並に維持されていることがわかった。ただし、β −ミクログロブリン クリアランスが実施例2よりも少なくなった。
Figure 0005714852
Figure 0005714852
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Claims (12)

  1. (A)疎水性ユニットのみからなる高分子、(B)ポリビニルピロリドンおよび/またはポリエチレングリコール、および、(C)親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子、の少なくとも3成分から構成され、
    前記(A)は、20℃の純水に対する溶解度が1g/100g未満であり、
    前記(B)は、ガラス転移点が90℃以上、かつ、20℃の純水に対する溶解度が10g/100g以上であり、
    前記(C)は、ガラス転移点が90℃以上、20℃の純水に対する溶解度が1g/100g以上であり、かつ、前記(A)からなるフィルムに対して、水中で接触させた時の吸着量をAw、アセトニトリル20重量%混合水溶液中で接触させた時の吸着量をAaとした場合、Aa/Awが0.95以下であり、
    前記(B)および(C)の存在比率は、5重量%以下であり、
    前記(C)は、上面または下面に5重量%以上存在している、分離膜。
  2. 前記分離膜の抱液率が10重量%以上600重量%以下、かつ、透水性が150mL/hr/m/mmHg以上、900mL/hr/m/mmHg以下であることを特徴とする請求項1に記載の分離膜。
  3. 前記(A)がポリスルホン系高分子であることを特徴とする請求項1または2に記載の分離膜。
  4. 前記(C)の親水性ユニットがビニルピロリドンおよび/またはエチレングリコールであり、前記(C)の疎水性ユニットが酢酸ビニルおよび/またはビニルカプロラクタムであることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の分離膜。
  5. 前記分離膜が血液浄化用途に用いられることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の分離膜。
  6. 請求項1〜のいずれかに記載の分離膜が内蔵されたことを特徴とする分離膜モジュール。
  7. (A)下記(a)を満たす疎水性ユニットのみからなる高分子と、(B)下記(b)を満たすポリビニルピロリドンおよび/またはポリエチレングリコールと、からなる、分離膜に、(C)下記(c)を満たす親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子溶液、を接触させた後、高エネルギー線を照射する分離膜の製造方法。
    (a)20℃の純水に対する溶解度が1g/100g未満
    (b)ガラス転移点が90℃以上、かつ、20℃の純水に対する溶解度が10g/100g以上
    (c)ガラス転移点が90℃以上、20℃の純水に対する溶解度が1g/100g以上、かつ、前記(A)からなるフィルムに対して、水中で接触させた時の吸着量をAw、アセトニトリル20重量%混合水溶液中で接触させた時の吸着量をAaとした場合、Aa/Awが0.95以下
  8. 前記(C)の溶液を20℃以上、60℃以下で接触させることを特徴とする請求項に記載の分離膜の製造方法。
  9. 前記(C)の溶液を、成形された分離膜の表面に接触させた後、前記分離膜の抱液率が10重量%以上600重量%以下となるまで除去する工程を有することを特徴とする請求項またはに記載の分離膜の製造方法。
  10. 前記(A)がポリスルホン系高分子であることを特徴とする請求項のいずれかに記載の分離膜の製造方法。
  11. 前記(C)の親水性ユニットがビニルピロリドンおよび/またはエチレングリコールであり、前記(C)の疎水性ユニットが酢酸ビニルおよび/またはビニルカプロラクタムであることを特徴とする請求項10のいずれかに記載の分離膜の製造方法。
  12. 請求項11のいずれかに記載の分離膜を内蔵することを特徴とする分離膜モジュールの製造方法。
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