以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は車両に搭載されるパワーユニット10を示すスケルトン図である。図1に示すように、パワーユニット10は、駆動源としてのエンジン11に駆動されるプライマリ軸12と、これに平行となるセカンダリ軸13とを有している。プライマリ軸12とセカンダリ軸13との間には無段変速機構14が設けられており、セカンダリ軸13と駆動輪15との間には減速機構16や差動機構17が設けられている。
プライマリ軸12にはプライマリプーリ20が設けられており、このプライマリプーリ20は固定シーブ20aと可動シーブ20bとによって構成されている。可動シーブ20bの背面側には作動油室21が区画されており、作動油室21内の圧力を調整してプーリ溝幅を変化させることが可能である。また、セカンダリ軸13にはセカンダリプーリ22が設けられており、このセカンダリプーリ22は固定シーブ22aと可動シーブ22bとによって構成されている。可動シーブ22bの背面側には作動油室23が区画されており、作動油室23内の圧力を調整してプーリ溝幅を変化させることが可能である。さらに、プライマリプーリ20とセカンダリプーリ22とには駆動チェーン24が巻き掛けられている。プーリ20,22の溝幅を変化させて駆動チェーン24の巻き付け径を変化させることにより、プライマリ軸12からセカンダリ軸13に対する無段変速が可能となっている。
このような無段変速機構14にエンジントルクを伝達するため、クランク軸25とプライマリ軸12との間にはトルクコンバータ30および前後進切換機構31が設けられている。トルクコンバータ30は、クランク軸25にフロントカバー32を介して連結されるポンプインペラ33と、このポンプインペラ33に対向するとともにタービン軸34に連結されるタービンライナ35とを備えている。このトルクコンバータ30は、作動油を介してポンプインペラ33からタービンライナ35にエンジントルクを伝達する構造となっている。このトルクコンバータ30には、エンジントルクの伝達効率を向上させるため、クランク軸25とタービン軸34とを直結するロックアップクラッチ36が設けられている。ロックアップクラッチ36はタービンライナ35に連結されるクラッチプレート37を有しており、このクラッチプレート37はフロントカバー32とタービンライナ35との間に配置されている。クラッチプレート37のタービンライナ35側にはアプライ室38が区画されており、クラッチプレート37のフロントカバー32側にはリリース室39が区画されている。
アプライ室38に作動油を供給してリリース室39から作動油を排出することにより、クラッチプレート37はフロントカバー32に押し付けられ、ロックアップクラッチ36はクランク軸25とタービン軸34とを直結する締結状態となる。一方、リリース室39に作動油を供給してアプライ室38から作動油を排出することにより、クラッチプレート37はフロントカバー32から引き離され、ロックアップクラッチ36はクランク軸25とタービン軸34とを切り離す解放状態となる。また、リリース室39とアプライ室38との圧力を調整することにより、ロックアップクラッチ36をスリップロックアップ状態に制御することが可能となる。
また、前後進切換機構31は、ダブルピニオン式の遊星歯車列40、前進クラッチ41および後退ブレーキ42を備えている。これら前進クラッチ41や後退ブレーキ42を制御することにより、エンジントルクの伝達経路を切り換えることが可能となる。前進クラッチ41を締結して後退ブレーキ42を解放することにより、タービン軸34の回転をそのままプライマリプーリ20に伝達することが可能となる。一方、前進クラッチ41を解放して後退ブレーキ42を締結することにより、タービン軸34の回転を逆転してプライマリプーリ20に伝達することが可能となる。なお、前進クラッチ41および後退ブレーキ42を共に解放することにより、タービン軸34とプライマリ軸12とを切り離すことが可能となる。
図2は無段変速機構14の油圧制御系を示す概略図である。図2に示すように、プライマリプーリ20、セカンダリプーリ22等に対して作動油を供給するため、油圧制御系にはエンジン11に駆動されるオイルポンプ50が設けられている。オイルポンプ50に接続されるセカンダリ圧路51は、セカンダリプーリ22の作動油室23に接続されるとともにセカンダリ圧制御弁52の調圧ポート52aに接続されている。このセカンダリ圧制御弁52を介して調圧されるライン圧としてのセカンダリ圧は、駆動チェーン24に滑りを生じさせることのないように、エンジントルクや目標変速比等に基づいて調圧される。また、セカンダリ圧路51はプライマリ圧制御弁53の入力ポート53aに接続されており、プライマリ圧制御弁53の出力ポート53bから延びるプライマリ圧路54はプライマリプーリ20の作動油室21に接続されている。このプライマリ圧制御弁53を介して調圧されるプライマリ圧は、目標変速比に向けてプライマリプーリ20の溝幅を制御するように、目標変速比やセカンダリ圧等に基づいて調圧される。
このような油圧制御系に対して制御信号を出力するCVT制御ユニット60は、図示しないマイクロプロセッサ(CPU)を備えており、このCPUにはバスラインを介してROM、RAMおよびI/Oポートが接続される。ROMには制御プログラムや各種マップデータなどが格納されており、RAMにはCPUで演算処理したデータが一時的に格納されるようになっている。また、I/Oポートを介してCPUには各種センサから車両状態を示す検出信号が入力される。CVT制御ユニット60に接続される各種センサとしては、プライマリプーリ20の回転数を検出するプライマリ回転数センサ61、セカンダリプーリ22の回転数を検出するセカンダリ回転数センサ62、アクセルペダルの踏み込み量であるアクセル開度を検出するアクセル開度センサ63、車速を検出する車速センサ64、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ65、スロットルバルブのスロットル開度を検出するスロットル開度センサ66、セレクトレバー67の操作状況を検出するインヒビタスイッチ68等が設けられている。
また、CVT制御ユニット60には、エンジン11の出力を制御するトルク制御手段としてのエンジン制御ユニット69が接続されている。エンジン制御ユニット69は、スロットルバルブのスロットル開度を制御してエンジン11へ吸入される空気量を調節することで、エンジン11から出力されるエンジントルクを制御している。このエンジン制御ユニット69は、基本的にはアクセル開度センサ63からの信号に基づいてスロットル開度を制御しているが、CVT制御ユニット60からのトルク増減信号を受信した場合には、その信号に応じてスロットル開度を加減させる。つまり、CVT制御ユニット60からのトルク増減信号に応じて、エンジントルクを増減制御(トルクダウン制御あるいはトルクアップ制御)することが可能となっている。なお、エンジン制御ユニット69によるエンジントルクの制御手段としては、空気吸入量制御に限られることはない。例えば、エンジン11への燃料供給量を制御する燃料供給量制御、エンジン11の点火タイミングを制御する点火時期制御、またはこれらの併用等によりエンジントルクの制御を行うようにしても良い。
続いて、無段変速機構14の変速制御について説明する。CVT制御ユニット60は、変速比を連続的に変化させる無段変速モードと、変速比を段階的に変化させる多段変速モードとを備えている。これらの変速モードは運転者のセレクトレバー操作に応じて切り換えられる。図2に示すように、セレクトレバー67を案内するゲート70は、無段変速ゲート71と多段変速ゲート72とによって構成されている。セレクトレバー67を無段変速ゲート71に移動させることで無段変速モードが設定される一方、セレクトレバー67を多段変速ゲート72に移動させることで多段変速モードが設定されることとなる。なお、セレクトレバー操作によって変速モードを切り換えることなく、予め設定された変速領域毎に自動的に変速モードを切り換えても良い。ここで、図3は無段変速モードにおいて使用される変速特性マップの一例を示す説明図である。また、図4は多段変速モードにおいて使用されるシフトパターンの一例を示す説明図である。また、図5は多段変速モードにおいて使用される固定変速比の一例を示す説明図である。
セレクトレバー操作によって無段変速モードに設定されると、CVT制御ユニット60は、車速Vとアクセル開度Accとに基づき図3の変速特性マップを参照し、この変速特性マップから目標プライマリ回転数Npを算出する。そして、CVT制御ユニット60は、目標プライマリ回転数Npに基づき目標変速比を算出し、この目標変速比に基づいてプライマリ圧Ppとセカンダリ圧Psとを制御する。図3に示すように、無段変速モードにおいて参照される変速特性マップには、最大変速比を示す特性線Lowと最小変速比を示す特性線Highとが設定されており、特性線Low,Highの間にはアクセル開度Accに対応した複数の特性線A1〜A8が設定されている。例えば、図3に符号αで示す走行状態から、特性線A6に相当するアクセル開度までアクセルペダルが踏み込まれた場合には、目標プライマリ回転数としてNp1が設定され、目標変速比としてTr1が設定されることとになる。また、図3に符号αで示す走行状態から、特性線A2に相当するアクセル開度までアクセルペダルの踏み込みが緩められた場合には、目標プライマリ回転数としてNp2が設定され、目標変速比としてTr2が設定されることになる。このように、無段変速モードにおいては、刻々と変化する車速Vおよびアクセル開度Accに基づいて、目標変速比が連続的に設定されるようになっている。
一方、セレクトレバー操作によって多段変速モードが設定されると、CVT制御ユニット60は、車速Vとアクセル開度Accとに基づき図4のシフトパターンを参照し、このシフトパターンから変速制御に用いられる固定変速比R1〜R5を選択する。図5に示すように、特性線Lowと特性線Highとの間に区画される変速領域内には、多段変速モードで使用される固定変速比R1〜R5が予め設定されている。また、図4に示すように、シフトパターンには、固定変速比R1〜R5間でのアップシフトを規定する複数のアップシフト線(実線)が設定されており、固定変速比R1〜R5間でのダウンシフトを規定する複数のダウンシフト線(破線)が設定されている。そして、各シフト線を跨ぐように車速Vやアクセル開度Accが変化したときに、各固定変速比R1〜R5間でのアップシフトやダウンシフトが実行されることになる。このように、固定変速比R1〜R5により設定された各変速段を切り換えて変速制御を実行することで、無段変速機構14でありながら前進5段の変速機構と同様のシフトフィーリングを得ることが可能となっている。
なお、図2に示すように、多段変速ゲート72内においてはセレクトレバー67を前後方向に動かすことが可能となっている。そして、セレクトレバー67を前方(+方向)に動かすことによってアップシフトが可能となり、セレクトレバー67を後方(−方向)に動かすことによってダウンシフトが可能となる。このように、車両の走行状態に基づきシフトパターンに従って変速段を切り換えるだけでなく、運転者のセレクトレバー操作に応じて変速段を切り換えることも可能となっている。但し、車両の走行状態と運転者のセレクトレバー67の操作状態とのいずれか一方のみに基づいて、無段変速機構14の変速段を切り換えるようにしても良いことはもちろんである。また、図示する場合には、無段変速機構14の変速段を5段階に分けて固定変速比R1〜R5により設定しているが、これに限られることはなく、変速段の設定数を増減させるようにしても良い。
図6はCVT制御ユニット60の変速制御系を示すブロック図である。図6に示すように、CVT制御ユニット60は、無段変速モードにおける目標変速比を算出するため、目標プライマリ回転数算出部80と変速比算出部81とを備えている。目標プライマリ回転数算出部80は、車速Vとアクセル開度Accに基づき図3の変速特性マップを参照して目標プライマリ回転数Npを算出する。また、変速比算出部81は、目標プライマリ回転数Npと実セカンダリ回転数Nseとに基づいて目標変速比iaを算出する。そして、算出された目標変速比iaは目標変速比設定部82に入力され、目標変速比設定部82は目標変速比iaを演算用の目標変速比iとして設定する。また、CVT制御ユニット60は、多段変速モードの目標変速比ibを設定するため、変速比選択部83を備えている。信号出力手段として機能する変速比選択部83は、車速Vとアクセル開度Accに基づき図4のシフトパターンを参照して、または運転者によるセレクトレバー操作に基づいて、固定変速比R1〜R5のうちから目標変速比ibを選択する。そして、選択された目標変速比ibは変速段切換信号として目標変速比設定部82に入力され、目標変速比設定部82は目標変速比ibを演算用の目標変速比iとして設定する。このように多段変速モードにおいては、目標変速比設定部82から出力される目標変速比ibに基づいて、変速制御手段としてのCVT制御ユニット60により無段変速機構14の変速段が切り換えられる。
また、CVT制御ユニット60は、変速モードを切り換えるため、変速モード設定部84を備えている。この変速モード設定部84は、インヒビタスイッチ68からの信号に基づいてセレクトレバー67の操作位置を検出し、セレクトレバー67の操作位置に基づいて無段変速モードまたは多段変速モードを設定する。無段変速モードが設定された場合には、変速比算出部81によって目標変速比iaが算出され、目標変速比設定部82に向けて目標変速比iaが出力される。一方、多段変速モードが設定された場合には、変速比選択部83によって目標変速比ibが選択され、目標変速比設定部82に向けて目標変速比ibが出力される。すなわち、無段変速モードにおいては目標変速比iaが目標変速比iとして設定される一方、多段変速モードにおいては目標変速比ibが目標変速比iとして設定されることになる。
このような目標変速比iに基づいて目標プライマリ圧Ppを算出するため、CVT制御ユニット60は、油圧比算出部85および目標プライマリ圧算出部86を備えている。油圧比算出部85は、目標変速比iに対応する目標プライマリ圧Ppと目標セカンダリ圧Psとの油圧比(Pp/Ps)を算出し、目標プライマリ圧算出部86は、油圧比に目標セカンダリ圧Psを乗算して目標プライマリ圧Ppを算出する。また、CVT制御ユニット60は、目標セカンダリ圧Ppをフィードバック制御するため、実変速比算出部87、フィードバック値算出部88、加算部89を備えている。実変速比算出部87は、実プライマリ回転数Npeと実セカンダリ回転数Nseとに基づいて実変速比ieを算出し、フィードバック値算出部88は、実変速比ieと目標変速比iとに基づいてフィードバック値Fを算出する。続いて、フィードバック値Fは加算部89に入力され、加算部89は目標プライマリ圧Ppにフィードバック値Fを加算する。これにより、目標変速比iに実変速比ieが近づくように、目標プライマリ圧Ppはフィードバック制御されるようになっている。
さらに、CVT制御ユニット60は、目標セカンダリ圧Psを算出するため、入力トルク算出部90、必要セカンダリ圧算出部91、目標セカンダリ圧算出部92を備えている。入力トルク算出部90は、エンジン回転数Neとスロットル開度Toとに基づいて、エンジン11からプライマリ軸12に入力される入力トルクTinを算出し、必要セカンダリ圧算出部91は、目標変速比iに基づいて必要セカンダリ圧Psnを算出する。これらの入力トルクTinと必要セカンダリ圧Psnとは目標セカンダリ圧算出部92に入力され、目標セカンダリ圧算出部92によって目標セカンダリ圧Psが算出される。そして、目標セカンダリ圧Psに向けてセカンダリ圧制御弁52が制御され、セカンダリプーリ22は駆動チェーン24の伝達トルクに見合った締め付け力で制御される。
ところで、図5に示すように、多段変速モードにおいては、離れた固定変速比R1〜R5間で変速することから、変速比が連続的に変化する無段変速モードに比べて変速比を変化させる速度すなわち変速速度が高められている。特に、多段変速モードにおいて、キックダウン等のアクセル操作やマニュアルモードのシフト操作に対する変速品質を向上させるためには、変速速度を高めて俊敏な変速動作を達成することが重要となっている。ここで、図4に示すように、多段変速モードにおいてアクセル開度Accを一定とした状態で車速Vを増加させることにより、符号B1で示す走行状態から符号B2で示す走行状態に向けて車両の走行状況を変化させた場合を考える。このときのタイムチャートを図8に示す。
車両の走行状況が符号B1から符号B2に向けて変化されると、固定変速比R2,R3の間のアップシフト線を跨ぐことから、図8(A)に実線で示すように、無段変速機構14の実変速比ieが固定変速比R2からR3へアップシフトされる。このとき、上述したように、多段変速モードにおいては無段変速モードに比べて変速速度が高められているため、無段変速機構14のアップシフトにより実プライマリ回転数Npeが急激に減少される。これにより、図8(B)に実線で示すように、無段変速機構14のアップシフト時には、実プライマリ回転数Npeの回転数変動に伴って無段変速機構14の入力側回転体に慣性力つまり実イナーシャトルクTieが生じることとなる。ここで、入力側回転体とは実プライマリ回転数Npeのもとで回転する回転体のことであり、エンジン11のクランク軸25、トルクコンバータ30、タービン軸34、前後進切換機構31、入力軸12、プライマリプーリ20等を指している。
この実イナーシャトルクTieは、実プライマリ回転数Npeの回転数変動を抑制しようとする方向、すなわち入力トルクTinを増大させる方向に作用する。したがって、実イナーシャトルクTieは、図8(F)に破線で示すように、無段変速機構14からセカンダリ軸13に出力される出力トルクToutを一時的に増大させてトルク変動を発生させることから、車両に変速ショックを与える要因となる。そのため、多段変速モードにおけるアップシフト時には、図8(E)に実線で示すように、エンジン11のトルクダウン制御を行うようにしている。これにより、エンジントルクTeのトルクダウンによって実イナーシャトルクTieが打ち消されるため、図8(F)に実線で示すように、アップシフト時のトルク変動が低減されて、車両の変速ショックが抑制されるようになっている。なお、図8(B)には、実イナーシャトルクTieの発生量が斜線で示されており、図8(F)には、実イナーシャトルクTieによる出力トルクToutのトルク変動分が斜線で示されている。また、図8(E)には、実イナーシャトルクTieを打ち消す向きにトルクダウン制御されたときのエンジントルクTeのトルクダウン量が斜線で示されている。
このようなエンジントルクの増減制御においては、実イナーシャトルクTieが無段変速機構14の変速速度により変化することから、実変速比ieの変速比変化に応じた最適なエンジントルク増減要求値を算出する必要がある。しかしながら、実変速比ieの変速比変化に基づいてエンジントルク増減要求値をフィードバック的に算出したのでは、エンジン11のトルク応答遅れ故に、実イナーシャトルクTieを適切に吸収することができない。そこで、増減要求値算出手段として機能するCVT制御ユニット60には、実イナーシャトルクTieを打ち消すようなエンジントルク増減要求値を算出するための演算システムが設けられている。図7はCVT制御ユニット60の増減制御系を示すブロック図である。
図7に示すように、CVT制御ユニット60は、第1仮想変速速度特性設定部(変速速度特性設定手段)101、第1仮想イナーシャトルク算出部102、第1仮想イナーシャトルク補正部103を備えている。第1仮想変速速度特性設定部101は、変速比選択部83から入力された目標変速比ibつまり変速段切換後の固定変速比R3と、変速段切換前の固定変速比R2とに基づいて変速段切換前後の変速比変化量diを算出する。そして、変速比変化量diに基づいて、エンジントルク増減用の第1仮想変速速度特性を設定する。この第1仮想変速速度特性は、図8(A)に一点鎖線で示すように、第1仮想変速比i1を固定変速比R2からR3へ瞬時に変速するような変速速度特性である。
第1仮想イナーシャトルク算出部102では、図8(B)に一点鎖線で示すように、第1仮想変速速度特性に基づいて、無段変速機構14の入力側回転体に作用する第1仮想イナーシャトルクT1を算出する。つまり、第1仮想変速比i1のもとで無段変速機構14を変速した場合に生じると推定される第1仮想イナーシャトルクT1を算出する。この第1仮想イナーシャトルクT1は、第1仮想変速比i1の単位時間当たりの変速比変化量と、実セカンダリ回転数Nseと、入力側回転体のイナーシャ質量Iとに基づいて算出される。そして、第1仮想イナーシャトルク補正部103では、図8(C)に一点鎖線で示すように、エンジン11のトルク応答遅れを考慮して、第1仮想イナーシャトルクT1に所定係数K1を乗じた後に、一次遅れ等の所定のフィルタ処理を施している。なお、第1仮想イナーシャトルクT1に適応される所定係数K1やフィルタ処理は、エンジン11の特性等を考慮して適宜設定される。例えば、本実施の形態においては、エンジン11のトルク応答を考慮して、第1仮想イナーシャトルクT1の立ち上がりから所定時間は一時遅れ処理を施さないようになっている。
また、CVT制御ユニット60は、第2仮想変速速度特性設定部(変速速度特性設定手段)104、第2仮想イナーシャトルク算出部105、第2仮想イナーシャトルク補正部106を備えている。第2仮想変速速度特性設定部104は、第1仮想変速速度特性に変化量制限や一次遅れ等の所定のフィルタ処理を施すことにより、エンジントルク増減用の第2仮想変速速度特性を設定する。このように変化量制限を適応することで、第2仮想変速比i2の単位時間当たりの変速比変化量に制限が加えられ、第2仮想変速速度特性は第1仮想変速速度特性よりも変速速度が遅く設定される。すなわち、第2仮想変速速度特性は、図8(A)に二点鎖線で示すように、第2仮想変速比i2を固定変速比R2からR3へ変速する際に、変速制御系の応答性などの点から現実的に指示可能な変速速度特性となる。また、第2仮想変速速度特性の変速開始タイミングは、第1仮想変速速度特性の変速開始タイミングよりも遅くなっている。この第2仮想変速速度特性は目標変速比設定部82に入力され、第2仮想変速速度特性に基づいて無段変速機構14が固定変速比R2からR3へ変速制御される。このとき、変速制御系の応答遅れ故に、図8(A)に実線で示すように、無段変速機構14の実変速比ieは第2仮想変速比i2から所定の応答遅れを有した状態で変化されるようになっている。
第2仮想イナーシャトルク算出部105では、図8(B)に二点鎖線で示すように、第2仮想変速速度特性に基づいて、無段変速機構14の入力側回転体に作用する第2仮想イナーシャトルクT2を算出する。つまり、第2仮想変速比i2のもとで無段変速機構14を変速した場合に生じると推定される第2仮想イナーシャトルクT2を算出する。この第2仮想イナーシャトルクT2は、第2仮想変速比i2の単位時間当たりの変速比変化量と、実セカンダリ回転数Nseと、入力側回転体のイナーシャ質量Iとに基づいて算出される。そして、第2イナーシャトルク補正部106では、図8(C)に二点鎖線で示すように、実イナーシャトルクTieの吸収分と実プライマリ回転数Npeの引き下げ分とを考慮して、第2仮想イナーシャトルクT2に所定係数K2を乗じた後に、一次遅れ等の所定のフィルタ処理を施している。すなわち、入力側回転体の回転エネルギーを吸収して、さらに入力側回転体の回転数を引き下げるためのトルクダウン量を考慮して、図8(C)に破線で示すように、第2仮想イナーシャトルクT2に所定係数K2を乗じている。なお、第2仮想イナーシャトルクT2に適応される所定係数K2やフィルタ処理は、車両の走行状況等を考慮して適宜設定される。
続いて、トルク増減要求値算出部107において、これら補正後の第1仮想イナーシャトルク補正値T1’と第2仮想イナーシャトルク補正値T2’とに基づいて、トルクダウン要求値Tdを算出する。このトルクダウン要求値Tdは、図8(D)に実線で示すように、第1仮想イナーシャトルク補正値T1’と第2仮想イナーシャトルク補正値T2’とを加算した後に、その加算値の変動を滑らかにするような所定のフィルタ処理を施すことにより算出される。そして、トルクダウン要求値Tdに応じたトルク増減信号が、トルク増減要求値算出部107からエンジン制御ユニット69へ送信される。これにより、エンジン制御ユニット69では、図8(E)に実線で示すように、トルク増減信号に応じて実イナーシャトルクTieを打ち消す向きにトルクダウン制御を行う。このエンジントルクTeのトルクダウンにより、アップシフト時に生じる実イナーシャトルクTi’が打ち消されるため、図8(F)に実線で示すように、出力トルクToutのトルク変動が低減されて、車両の変速ショックが抑制されるようになっている。
このように、仮想変速速度特性に基づいてトルクダウン要求値Tdを算出するようにしたので、所定係数K1,K2と所定のフィルタ処理を適合するだけでトルクダウン要求値Tdを算出することが可能となる。すなわち、無段変速機構14の変速時に設定される仮想変速速度特性に基づいてトルクダウン要求値Tdを算出するようにしたので、従来のように車両の走行状態からイナーシャトルクを推定するためのマップデータを予め算出しておく必要がない。したがって、開発段階における適合作業を簡易化することができ、開発コストを低減することが可能となる。
また、第1仮想変速速度特性に基づいてトルクダウン要求値Tdを算出するようにしたので、エンジン11のトルク応答遅れに対して、フィードフォワード的にトルクダウン要求を行うことができる。つまり、エンジン11のトルク応答遅れを考慮して、トルクダウン要求値Tdの立ち上がりを急激に増加させることが可能となる。これにより、第2仮想変速速度特性に基づいて算出されたトルクダウン要求値分が作用する前に、エンジン11をトルク応答性の良い状態とすることができる。
この第1仮想変速速度特性に加えて、第1仮想変速速度特性よりも変速速度の遅い第2仮想変速速度特性に基づいてトルクダウン要求値Tdを算出するようにしたので、実変速比ieに対して最適なトルクダウン要求値Tdとすることができる。すなわち、実イナーシャトルクTieの吸収分と実プライマリ回転数Npeの引き下げ分とを考慮して所定係数K2を乗算することで、実イナーシャトルクTieを打ち消すようなトルクダウン要求値Tdとなる。また、実変速比ieの変速制御系の応答遅れに対して、エンジン11のトルクダウン制御が同様の時間遅れとなるようにフィルタ処理が適応されているので、実イナーシャトルクTieが適切に吸収される。
前記実施の形態においては、アップシフト時におけるトルクダウン制御について説明したが、ダウンシフト時におけるトルクアップ制御についても、同様にしてトルクアップ要求値を算出することが可能である。ここで、図9にダウンシフト時のタイムチャートを示す。多段変速モードのダウンシフト時には、実イナーシャトルクTieにより出力トルクToutが一時的に減少されてトルク変動が発生するため、エンジン11のトルクアップ制御を行うことで、車両の変速ショックを抑制するようにしている。このようなトルクアップ制御においても、第1仮想変速速度特性と第2仮想変速速度特性とに基づいて、実イナーシャトルクTieを打ち消すようなトルクアップ要求値Tuが算出される。
このとき、第1仮想イナーシャトルクT1には、エンジン11のトルク応答遅れを考慮して、所定係数K1を乗算した後に一次遅れ等の所定のフィルタ処理が施される。また、第2仮想イナーシャトルクT2には、実イナーシャトルクTieの吸収分と実プライマリ回転数Npeの引き上げ分とを考慮して、所定係数K2を乗算した後に一次遅れ等の所定のフィルタ処理が施される。そして、これら補正後の第1仮想イナーシャトルク補正値T1’と第2仮想イナーシャトルク補正値T2’とを加算した後に、その加算値の変動を滑らかにするような所定のフィルタ処理を施すことにより、トルクアップ要求値Tuが算出される。このように、ダウンシフト時におけるトルクアップ制御においても、アップシフト時におけるトルクダウン制御と同様にしてエンジントルク増減要求値Tを算出することが可能であり、前記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
また、前記実施の形態においては、第1および第2仮想変速速度特性に基づいてエンジントルク増減要求値Tを算出するようにしたが、実変速比ieの変速速度が速い場合には、第1仮想変速速度特性のみに基づいてエンジントルク増減要求値Tを算出することも可能である。ここで、図10に他の実施形態におけるアップシフト時のタイムチャートを示す。変速制御系の応答性が良く、実変速比ieの変速速度を速くすることができる場合には、図10(A)に示すように、第2仮想変速速度特性を第1仮想変速速度特性に近づけることで、多段変速モードにおける変速品質を向上させることが可能となる。このような場合には、図10(B)に示すように、第1仮想変速速度特性に基づいて算出した第1仮想イナーシャトルクT1と、第2仮想変速速度特性に基づいて算出した第2仮想イナーシャトルクT2とに大きな差異がない。そのため、第1仮想イナーシャトルクT1のみに基づいてトルクダウン要求値Tdを算出することが可能である。つまり、第2仮想イナーシャトルクT2に乗算する所定係数K2を0として、トルクダウン要求値Tdを算出することができる。
このとき、第1仮想イナーシャトルクT1には、エンジン11のトルク応答を考慮して、所定係数K1を乗算した後に遅れ処理等の所定のフィルタ処理が施される。この所定係数K1と所定のフィルタ処理を適合させることで、実イナーシャトルクTieを打ち消すようなトルクダウン要求値Tdを算出することができる。このように、変速制御系の応答性が良く、実変速比ieの変速速度を速くすることができる場合には、第1仮想変速速度特性のみに基づいてトルクダウン要求値Tdを算出することが可能である。そして、このトルクダウン要求値Tdは、所定係数K1と所定のフィルタ処理を適合するだけで算出することが可能である。したがって、従来のように予めマップデータを算出しておく必要がないため、開発段階における適合作業を簡易化することができ、開発コストを低減することが可能となる。なお、ダウンシフト時のトルクアップ制御においても、変速制御系の応答性が良く、実変速比ieの変速速度を速くすることができる場合には、第1仮想変速速度特性のみに基づいてトルクアップ要求値Tuを算出することが可能であることは言うまでもない。
ところで、コースティング中や低負荷運転時などエンジントルクが微小となる運転状態においては、アップシフト時に生じるイナーシャトルクを打ち消すようなトルクダウン量を得ることができないおそれがある。また、高負荷運転時などエンジントルクが最大値近くまで増大された運転状態においては、ダウンシフト時に生じるイナーシャトルクを打ち消すようなトルクアップ量を得ることができないおそれがある。そのため、このように十分なトルク増減量が得られず、エンジントルクの増減制御による効果が小さい運転状態においては、変速速度を遅くすることで変速時に生じるイナーシャトルクを低減することが必要である。その際、増減制御におけるトルク増減量と、変速制御における変速速度との調整が重要となる。そこで、CVT制御ユニット60には、エンジントルクの増減制御と変速制御との調整のとれた制御を行うための制御システムが設けられている。図11はCVT制御ユニット60の調整制御系を示すブロック図である。
図11に示すように、CVT制御ユニット60は、最大トルク増減量算出部110、イナーシャトルク算出部111、変速速度算出部112、上限変速速度設定部113を備えている。最大トルク増減量算出部(最大トルク増減量算出手段)110は、エンジン11の運転状態に基づいて算出された入力トルクTinに基づいて、エンジントルクTeの増減制御によって増減可能な最大トルク増減量Tmaxを算出する。つまり、現在発生しているエンジントルクTeに基づいて最大トルク増減量Tmaxを算出する。この最大トルク増減量Tmaxは、アップシフトの場合、現在発生しているエンジントルクTeから、トルクダウン制御によりトルクダウン可能なエンジントルク最小値Tdmまでのトルクダウン量である。また、ダウンシフトの場合、現在発生しているエンジントルクTeから、トルクアップ制御によりトルクアップ可能なエンジントルク最大値Tumまでのトルクアップ量である。なお、図示する場合においてはエンジントルク最小値Tdmを0としたが、これに限られることはない。これらエンジントルク最小値Tdmおよび最大値Tumは、エンジン11の空気吸入量制御、燃料供給量制御、点火時期制御等を考慮して適宜設定され、エンジントルク最小値Tdmを0以下に設定しても良いことはもちろんである。
イナーシャトルク算出部(イナーシャトルク算出手段)111では、最大トルク増減量Tmaxを用いてエンジントルクTeを増減させる際に打ち消されるイナーシャトルクTiを算出する。つまり、最大トルク増減量TmaxをイナーシャトルクTiとして算出する。そして、変速速度算出部112では、イナーシャトルク算出部111から入力されたイナーシャトルクTiに基づいて、無段変速機14を変速する際にイナーシャトルクTiを生じるような変速速度v1を算出する。この変速速度v1は以下のようにして算出される。
まず、イナーシャトルクTiは次式で表される。
イナーシャトルクTi
=入力側回転体のイナーシャ質量I×目標プライマリ回転変化量・・・(1)
また、イナーシャトルク算出部111において、最大トルク増減量TmaxをイナーシャトルクTiとして算出したので、
最大トルク増減量Tmax=イナーシャトルクTi・・・(2)
となる。そして、これら(1)、(2)式により、
目標プライマリ回転変化量
=エンジントルクTe/入力側回転体のイナーシャ質量I・・・(3)
となる。この(3)式より算出した目標プライマリ回転変化量と、変速段切換前後の変速比と、実セカンダリ回転数Nseに基づいて変速速度v1が算出される。
続いて、上限変速速度設定部(変速速度設定手段)113では、変速速度v1に下限リミッタ114および上限リミッタ115を適応することで上限変速速度v2を設定する。すなわち、変速速度v1が所定下限値と所定上限値との間である(Emin≦v1≦Emax)ときには、上限変速速度v2として変速速度v1が設定される。また、変速速度v1が所定下限値よりも小さい(v1<Emin)ときには、上限変速速度v2として所定下限値Eminが設定される。さらに、変速速度v1が所定上限値よりも大きい(Emax<v1)ときには、上限変速速度v2として所定上限値Emaxが設定される。この上限変速速度v2は第2仮想変速速度特性設定部104に入力され、上限変速速度v2に応じた変化量制限が第2仮想変速速度特性に適応される。そして、上限変速速度v2に基づいて、上限変速速度v2を超えないように無段変速機構14の変速制御が実行される。また、上限変速速度v2に基づいて変速制御する場合に生じるイナーシャトルクを打ち消すようなエンジントルク増減要求値Tが算出される。
また、CVT制御ユニット60は、変速速度v1と所定下限値とを比較する比較部116を備えている。比較部116において、変速速度v1が所定下限値以上(Emin≦v1)と判定されたときには、比較部116からトルク増減要求値算出部107へ信号が送られる。これにより、エンジントルク増減要求値Tに応じたトルク増減信号がエンジン制御ユニット69に送信され、エンジントルクTeの増減制御が実行される。一方、比較部116において、変速速度v1が所定下限値よりも小さい(v1<Emin)と判定されたときには、比較部116からトルク増減要求値算出部107へ信号が送信されない。これにより、エンジントルクTeの増減制御が中止される。
次いで、エンジントルクTeの増減制御と変速制御との調整制御をフローチャートに従って説明する。図12は調整制御の実行手順を示すフローチャートである。図12に示すように、ステップS1では、現在発生しているエンジントルクTeに基づいて変速速度v1を算出する。また、ステップS2では、変速速度v1に下限リミッタ114および上限リミッタ115を適応して上限変速速度v2を設定する。続いて、ステップS3では、変速速度v1が下限リミッタ114の所定下限値以上であるか否かが判定される。ステップS3において変速速度v1が所定下限値以上であると判定された場合には、ステップS4で上限変速速度v2に基づいてエンジントルク増減要求値Tを算出し、エンジントルク増減要求値Tに応じたエンジントルクTeの増減制御が実行される。一方、ステップS3において変速速度v1が所定下限値よりも小さいと判定された場合には、エンジントルクTeの増減制御が中止される。そして、ステップS5では、上限変速速度v2に基づいて無段変速機構14の変速制御が実行される。ここで、アップシフト時のタイムチャートをそれぞれ場合分けして図13〜図15に示す。また、ダウンシフト時のタイムチャートをそれぞれ場合分けして図16〜図18に示す。
図13(A)および図16(A)に示すように、変速速度v1(破線の傾き)が所定下限値(一点鎖線の傾き)と所定上限値(二点鎖線の傾き)との間であるときには、上限変速速度v2として変速速度v1が設定され、この変速速度v1に応じた変化量制限が第2仮想変速速度特性に適応される。そして、アップシフト時またはダウンシフト時には、無段変速機構14の実変速比ie(実線)が変速速度v1に基づいて変化されるとともに、エンジン制御ユニット69へのエンジントルク増減要求値Tが変速速度v1に基づいて算出される。
この場合には、変速速度v1が所定下限値以上であることから、エンジントルク増減要求値Tに応じたトルク増減信号がエンジン制御ユニット69へ送信され、図13(C)および図16(C)に示すように、エンジントルクTeの増減制御が実行される。この増減制御により実イナーシャトルクTieが打ち消され、図13(D)および図16(D)に示すように、出力トルクToutのトルク変動が低減されることで、車両の変速ショックが抑制されるようになっている。このとき、エンジントルク増減要求値Tは、最大トルク増減量Tmaxにより算出された変速速度v1に基づいて算出されるため、最大トルク増減量Tmaxに応じたトルク増減量となるように、エンジントルクTeの増減制御が行われる。このように最大トルク増減量Tmaxにより算出された変速速度v1に基づいて無段変速機構14が変速制御されるため、現在の運転状態のもとでの指示可能な変速速度の最大値に基づいて、無段変速機構14が変速制御されるようになっている。
また、図14(A)および図17(A)に示すように、変速速度v1が所定下限値よりも小さいときには、上限変速速度v2として所定下限値Eminが設定され、この所定下限値に応じた変化量制限が第2仮想変速速度特性に適応される。そして、アップシフト時またはダウンシフト時には、無段変速機構14の実変速比ieが所定下限値に基づいて変化されるとともに、エンジン制御ユニット69へのエンジントルク増減要求値Tが所定下限値に基づいて算出される。
この場合には、変速速度v1が所定下限値よりも小さいことから、エンジン制御ユニット69へのトルク増減信号が停止され、図14(C)および図17(C)に示すように、エンジントルクTeの増減制御が中止される。これにより、図14(D)および図17(D)に示すように、出力トルクToutは実線で示すように実イナーシャトルクTieによって一時的に増大または減少されることになるが、変速速度を遅くすることで実イナーシャトルクTieが低減されているため、車両の変速ショックが抑制されるようになっている。つまり、実変速比ieが所定下限値に基づいて変化されることで、実イナーシャトルクTieによる影響が気にならない程度に変速速度が遅くされている。このように変速速度v1に所定下限値を設定することで、エンジントルクTeが微小トルクとなる運転状態においても安定した変速速度を実現でき、変速速度が遅くなりすぎて走行フィーリングを悪化させることを防止することができる。この所定下限値は、実イナーシャトルクTieによる影響や走行フィーリング等を考慮して適宜設定される。
さらに、図15(A)および図18(A)に示すように、変速速度v1が所定上限値よりも大きいときには、上限変速速度v2として所定上限値Emaxが設定され、この所定上限値に応じた変化量制限が第2仮想変速速度特性に適応される。そして、アップシフト時またはダウンシフト時には、無段変速機構14の実変速比ieが所定上限値に基づいて変化されるとともに、エンジン制御ユニット69へのエンジントルク増減要求値Tが所定上限値に基づいて算出される。
この場合には、変速速度v1が所定下限値以上であることから、エンジントルク増減要求値Tに応じたトルク増減信号がエンジン制御ユニット69へ送信され、図15(C)および図18(C)に示すように、エンジントルクTeの増減制御が実行される。この増減制御により実イナーシャトルクTieが吸収され、図15(D)および図18(D)に示すように、出力トルクToutのトルク変動が低減されることで、車両の変速ショックが抑制されるようになっている。このとき、エンジントルク増減要求値Tは所定上限値に基づいて算出されるため、最大トルク増減量Tmaxよりも小さなトルク増減量となるように、エンジントルクTeの増減制御が行われる。このように変速速度v1に所定上限値を設けることで、変速制御系の応答性などの点から現実的に指示可能な最大変速速度に基づいて、無段変速機構14が変速制御されるようになっている。この所定上限値は、変速制御系の応答性等を考慮して適宜設定される。
このように、最大トルク増減量Tmaxに基づいて無段変速機構14の変速速度v1を算出するようにしたので、常時可能な変速速度の最大値で無段変速機構14を変速制御することが可能となる。このとき、車両の運転状態に基づいて指示可能な最大変速速度を算出するようにしたので、従来のように変速速度毎のトルク増減量を予めマップデータとして算出しておく必要がない。したがって、開発段階における適合作業を簡易化することができ、開発コストを低減することが可能となる。また、予め算出しておいたマップデータとの不適合を招くというおそれがなく、エンジントルクTeの増減制御と変速制御との調整のとれた制御を確実に行うことができる。
さらに、上限変速速度v2に所定下限値を設定するようにしたので、コースティング中などエンジントルクが0以下となる運転状態においても、安定した変速速度を実現することができる。また、変速速度v1が所定下限値よりも小さい場合には増減制御を中止するようにしたので、トルクダウン制御による車両挙動が出やすい微小トルク状態において、トルクダウン制御を中止することで車両挙動の乱れを抑制することができる。
なお、前記実施の形態においては、上限変速速度v2に応じた変化量制限を第2仮想変速速度特性に適応することで、上限変速速度v2に基づいて変速制御するとともにエンジントルク増減要求値Tを算出するようにしたが、これに限られることはない。
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、駆動源としてエンジン11を例に挙げて説明したが、これに限られることはなく、エンジンに換えて電動回転機あるいはエンジンと電動回転機の複合駆動源を利用することが可能である。更に、無段変速機として巻き掛け式の無段変速機10を挙げて説明したが、これに限られることはなく、トロイダル式の無段変速機に対して本発明を適用しても良い。また、プライマリプーリ20とセカンダリプーリ22とに駆動チェーン24を巻き掛けているが、これに限られることはなく、多数のエレメントをバンドで保持した駆動ベルトを巻き掛けるようにしても良い。さらに、無段変速機構14の変速段を固定変速比R2,R3の間で変速する場合について説明したが、これに限られることはない。例えば、無段変速機構14の変速段を固定変速比R2,R4の間で2段階のアップシフトまたはダウンシフトを行うようにしても良い。