JP5570473B2 - 2電極溶接法 - Google Patents
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Description
そこで、従来においては、以下に示す溶接法も行なわれている。
電極数を2本にしてそれぞれアークを発生させることでワイヤ溶融量の合計を多くするタンデムアーク溶接法が考えられ、現在普及している(例えば、特許文献1〜4参照)。しかし、2本の電極が近接するこのような溶接法は、アーク干渉という大きな課題がある。すなわち、電流の流れる導線の周りに回転方向の磁界が発生し、2本の電極が近接すると互いの干渉によって、電流のプラス、マイナス方向が同方向の場合は接近し、逆方向の場合は反発力が働く。このためアークの向きも影響を受けて指向方向が安定せず、ワイヤから溶融池に移行する溶滴もその影響を受けて吹き飛び、大量のスパッタが発生する。これを軽減するために電流にパルスを用いて、かつ位相を工夫したり、電圧調整でアーク長を短くしたりする等の策が考案されている。
一方、アークを発生する電極であるタングステン電極と溶加ワイヤが分かれているTIG溶接法では、ワイヤ溶融速度を高めるためにTIGのアーク電流を高めると、タングステン電極の加熱により先端溶融して損出してしまう。そのため、さほど溶融エネルギーを高めることが出来ない。そこで、ワイヤであるフィラーを溶けやすくするために、通常は通電しないワイヤや溶接棒に対して通電を行い、その抵抗発熱で温度を高めて溶融特性を向上させる手段が考案された(例えば、特許文献5、6参照)。ここで、TIGはほとんどスパッタ発生がない長所がある。しかし、TIGのアーク電流はさほど高くないため、フィラーに通電するとその磁気干渉でTIGアークが容易に指向性を失い、不安定となって溶込み不良を起こしやすいという課題がある。また、TIG溶接法は非溶極式のため、原理的に溶着速度が低く、いくらフィラーを溶けやすくしたとは言ってもMAG,MIG溶接の能率には及ばず、やはりMAG,MIG溶接でのさらなる効率化が望まれている。
そこでTIGでの溶加材を通電フィラー化する技術をMAG,MIG溶接に応用する技術が考案されている(例えば、特許文献7〜9参照)。フィラーの溶融は溶融池内で行われるため、アーク内で溶滴が形成されないことから通電電流の高低によらずスパッタは発生しない。そこで通電電流を高めてフィラーワイヤの温度をより上昇させ、溶融速度を高めることが望まれる。しかしながら、やはりTIGの場合と同じくフィラー通電電流によって先行極のアークが影響を受ける。そのため、タンデムアーク溶接法のように両電極からスパッタが発生するほどではないものの、アーク極はやはりスパッタ発生が増大するという課題がある。この課題に対してはアーク極や通電フィラー極をパルス化する等の対策が考案されているが、依然大きな改善には至っていない。また、入熱については、フィラー極はアークを発生しないのでタンデムアークに比べると入熱上昇は抑えられるものの、それでも高能率化するためにフィラー通電電流を高めると、やはり総熱量は高くなり、強度、靭性等が低下しやすくなる。
ホットワイヤMAGにおいては、2電極のうち片側を通電フィラーとする手段において、独立した溶接機2台でアーク極とフィラー極にそれぞれ電流を供給する手段が用いられている。ここで、ホットワイヤMAGの類似技術として、溶接機2台で電流供給する手段以外に、1台の溶接機を用い、先行極のアーク電流の一部を分流させて後行極の通電フィラーに供給する、シンプルな装置による実現手段も考案されている(例えば、特許文献10、11参照)。しかし、本手段も上記と同じく、先行極のアークが干渉を受けてスパッタが発生するアーク干渉の問題がある。それに加えて後行極のフィラーに分流通電される電流は固定値ではなく、先行極の電流の一定割合となるため、先行極の電流の変動の影響をそのまま受ける。そのため、電流は一定にならず不安定であり、フィラーの溶融不良になりやすい問題がある。また、原理的に先行極のアーク極と後行極のフィラー極の電流方向の位相は逆、例えば先行極において、ワイヤが「+」、かつ母材が「−」であれば、後行極は、ワイヤが「−」、かつ母材が「+」になる。
一般に2電極で一つの溶融池を形成する上述の溶接法の場合、その使い勝手の面から同一の溶接ワイヤを適用することが殆どである。しかし、先行極がアーク極、後行極がフィラー極のタイプの2電極法の場合、先行極に求められる機能と後行極に求められる機能が異なるため、同一のワイヤを適用すると問題が発生する場合がある。例えば、アーク極、フィラー極共にソリッドワイヤの場合、フィラー極はワイヤが溶融しにくくワイヤ溶け残り不良が発生しやすい。また、フィラー極はアークが存在しないので、高温アーク空間において発生する雰囲気ガスと溶滴(すなわち、ワイヤ溶融液体)の接触による酸化反応が殆ど起きない(図5(a)、(b)参照)。したがって、Tiのような酸素親和性の強い還元元素を含む、アーク極用に最適化された組成のワイヤをフィラー極に適用すると、「還元元素が酸化した後、スラグとして排出される」という過程を経ないことから溶接金属内に過剰な介在物(すなわちTi粒子)として残留し、靭性を大きく劣化させる。
さらに好ましくは、(g)介在物の少ない健全な溶接金属を得ることができる、(h)安価なワイヤを採用できる、(i)大きな溶込み深さを達成できる溶接法を提供することを課題とする。
このようにすれば、スパッタの発生がさらに低減されると共に、溶込みが深くなる。
このようにすれば、後行極ワイヤをフラックス入りワイヤとし、フラックス率を10質量%以上することで、後行極ワイヤが溶融しやすくなる。
このようにすれば、溶接金属内に介在物が過剰に存在することがなく、溶接金属の靭性が向上する。
このようにすれば、スパッタの発生をさらに低減することができる。
このようにすれば、製造コストを上昇させずに、溶接金属の高強度化、高靭性化を図ることができる。
さらに、好ましい形態とすることで、大きな溶込み深さの実現や、安価なワイヤの採用を実現することができる。
本発明に係る2電極溶接法は、別個の溶接電源からそれぞれ電流が供給されるワイヤ状の2本の溶極式電極を有し、進行方向先行の電極である先行極(以下、適宜、アーク極という)の先行極ワイヤにより溶融池を形成し、進行方向後行の電極である後行極(以下、適宜、フィラー極という)の後行極ワイヤ(以下、適宜、フィラーワイヤという)を前記溶融池に挿入することで1つの溶融池を形成する溶接法である。
まず、本発明の2電極溶接法を行なうための溶接装置の概略について説明する。
図1(a)、(b)に示すように、溶接装置1(1a,1b)は、送給ローラ2a,2bと、溶接電源(すなわち溶接機)3a,3bと、先端から先行極のワイヤである先行極ワイヤ4aを供給する先行極トーチ5aと、先端から後行極のワイヤである後行極ワイヤ4bを供給する後行極トーチ5bと、を主に備える。
この2つの工程により、2本の溶極式電極によって、結果的に1つの溶融池が形成される。
1つの電極ワイヤで溶着量を高めるには限界があるため、2つの電極ワイヤを用いることは避けられない必須技術である。さらには、ワイヤ溶融速度を高めるためにはアーク極、フィラー極に係わらず通電加熱を行なうことも必須技術である。この前提の場合、近接した2電極間における電磁力の相互干渉は避けられないと考え、その影響を最小化するには(1)干渉力を弱める、(2)干渉を受けてもスパッタにならない、という2段階の手段を講ずる必要があると考えた。(2)については、スパッタはアーク空間中を移行する溶滴が飛散したものであることから、溶滴とならない溶融・供給手段、すなわち溶融池の熱伝導で最終的に液体化させるフィラー方式とするのが最適である。しかし、溶融池を形成するには最低1極はアークを発生させる必要があるので、先行極をガスシールドアーク極、後行極をフィラー極とした。そして各極の電流は他電極の電流安定性の影響を受けないようにするため、独立した溶接電源からそれぞれ供給されるべきである。ここまでは従来技術の範囲である。
フィラーを溶融池に挿入する溶接法における大きな問題は、アーク溶融と異なり、ワイヤの溶融が視認できないため、送給速度が過剰な条件となっても簡単にはわからず、未溶融のワイヤが溶接金属内に残る欠陥を発生することである。フィラーは溶融池内で熱伝導により融点に達して溶融することから、溶融池の保有熱量や深さが重要である。そのため、(1)後行極のフィラーを溶融させるのに必要十分な溶融池の厚みを得ること、(2)確実に溶融するフィラー送給速度と通電条件範囲を限定すること、が不可欠である。研究の結果、(1)は上述したとおり、アーク極の電流として250Aが必要であり、(2)については、後行極のフィラーワイヤの送給速度は先行極のワイヤの送給速度の50%以下にすることが必須であることが判った。50%を超えると、フィラー通電電流ITや通電距離DTがどのような組合せでも溶け残りが発生した(図3参照)。なお、図3中の「◎」、「○」はフィラーの溶け残りが発生せず、かつ溶接金属の性能不足や溶接の能率不足が起きない点であり、その中でも「◎」は特に溶接金属の性能や溶接能率に優れた点である。また、「×」はフィラーの溶け残りや、溶接金属の性能不足、溶接の能率不足等が起きる点である。
フィラーの溶融は溶融池からの熱伝導を受けて起きるため、先行極のアークで形成された溶融池は後行極のフィラーの進入によって冷却されることになる。これは後行極がアーク極である溶接法に対して冶金的に大きな効果をもたらす。一般的に溶接金属は冷却過程における冷却速度が大きいほど結晶粒の成長が抑制されて微細化し、高強度、高靭性が得られることが知られている。単電極アーク溶接法に対して、能率だけでなく靭性等の機械的性能が優れた溶接金属を得るためには、フィラーワイヤの送給速度が過少ではこの冷却効果が不十分となるため、フィラーワイヤの送給速度を大きくする必要がある。また、単純に能率向上の効果が少なければ、2電極化する費用対効果が見いだせない。これらの点で後行極のフィラーワイヤの送給速度は先行極のワイヤの20%以上にすることが必須である(図3参照)。
溶接金属の高強度化、高靭性化を図るために、ワイヤからMoやBを適量溶接金属に添加させることが一般的に行われている。その具体的手段として、ソリッドワイヤに添加するとその鋳込みビレットや太径原線も当然高強度化するため、伸線性が劣化し、ワイヤにするための生産性が大きく低下する。一方、フラックス入りワイヤとして、フラックスにMoやBを添加すれば伸線性に悪影響を及ぼすことがない。しかしフラックス入りワイヤでは溶込み深さがソリッドワイヤよりも小さいことから、アーク極として必ずしも好適というわけではない。
[通電機能が無く溶融池への挿入位置を決める機能のみを有するガイドリードあるいはガイドチップ(2−1参考)]
後行極の通電は溶接電源側に設けられた通電チップにより行われる。そして溶融池へのフィラーワイヤの挿入位置を制御するためには別途その機能が必要である。例えばガイドリードと定義するワイヤ径より僅かに太い管を用いても良いし、ガイドチップと定義する通常アーク電極用として用いる銅合金製のコンタクトチップを流用しても良い。ただしこれらは、通電チップとは電気的に絶縁されていることが必須である。ガイドリードは、後行極ワイヤを所定の長さ覆い、後行極の被溶接面側において後行極ワイヤが所定の長さ露出するように設けられている。また、被溶接面側の反対側には通電チップが設けられており、ガイドリードと密着している(図1(a)参照)。ガイドチップは、後行極の被溶接面側の所定位置で後行極ワイヤを覆い、後行極ワイヤが被溶接面側において所定の長さ露出するように設けられている(図1(b)参照)。なお、ガイドリードあるいはガイドチップの先端と被溶接面上の距離は通常の単電極アーク溶接法と同じく10〜30mmが望ましい。これより短ければスパッタが付着しやすいという問題や、アークと近すぎて加熱溶融してしまう可能性があるといった問題が生じる。逆にこれより長ければ挿入位置を固定化する作用が弱くなる。
後行極は先行極のアークへの磁気干渉を抑制するために可能な限り低電流化することが望ましい。しかし、逆に高能率化のためにはフィラーワイヤの送給速度は高いことが望ましい。この相反する性質を満足させるために、ワイヤ電気抵抗を利用すべく、通電距離DLを従来の溶接法よりも大幅に延長する。通電距離DLを100mm以上とすることにより低電流でも抵抗発熱量が大きくなり、フィラーを十分加熱することが出来る。150mm以上、あるいはさらに200mm以上、あるいはさらに250mm以上とすればより低電流化効果が大きく望ましい。一方、過度に延長するとワイヤが高温軟化し、送給中に経路内で座屈してしまいワイヤを送給できなくなる。したがって上限を設け、1500mmとする。より好ましくは1000mm以下、さらには800mm以下である。
多電極溶接法においてその極間距離は重要であり、短い方が溶接線の曲がり変化への追従、開始部・終了部での溶着不足部長さの低減の点で有利である。また、本発明のような後行極がフィラー極のものでは、先行極のアークに近づいた方が加熱されて溶融速度が高まる。一方で、近づくにつれ電極間に磁気干渉がより強く発生し、アーク極からのスパッタ発生が多くなる。本発明ではフィラー通電電流ITを従来よりも低く抑制する機構を有しているため、従来の15〜40mmよりも短くすることができる。具体的には10mm以下とする。さらには7mm以下、さらには5mm以下とすれば望ましい。一方、過剰に短い極間とすると溶込みが浅くなる。深い溶込みが必要な場合は下限を2mmとすることが望ましい。
先行極のアークは後行極のフィラーを溶融させるのに十分な溶融池の厚みを得るアーク力と、低スパッタ性の点から下限値が存在し、250A以上が必要である。より好ましくは300A以上、さらには350A以上である。上限を制限する理由は特に存在しない。一般的にはワイヤ送給モータの回転数の上限、あるいは溶接機の電流上限保証値等で物理的に決まる。
後行極の電流が高まるほど、先行極のアークに対する磁気干渉の影響を強く与え、スパッタを多く発生させる。磁気干渉を受けにくいフィラー通電電流ITの上限値の関係を見いだしたところ、先行極の50%以下に抑制することが必要なことを見いだした。さらには30%以下とすればより望ましい。一方、10A未満では通電距離DLに係わらず安定性が悪く、加熱むらが生じてしまうか、あるいは溶融速度が高まらず、確実な溶融が保証できなくなる。従って下限は10Aである。さらに好ましくは25A以上である。
フィラーワイヤを確実に溶融させるには送給速度に上限がある。後行極ワイヤの送給速度が先行極ワイヤの送給速度の50%を超えると、フィラー通電電流ITや通電距離DTがどのような組合せでも溶け残りが発生する。したがって、先行極ワイヤの送給速度の50%が上限である。さらに好ましくは40%以下である。一方、後行極ワイヤの送給速度が少なすぎると、溶融池の冷却効果に伴う溶接金属の靭性向上が期待できなくなる。結晶粒微細化を図るためには先行極ワイヤの送給速度の20%以上の後行ワイヤ送給速度が必要である。さらには30%以上であればより好ましい。なお、先行極と後行極のワイヤ径が異なる場合には、溶着速度(g/min)として「送給速度:先行極の20〜50%」を換算して規定すればよい。
磁力線の向きの影響で、近接した2電極間が同じ向きに電流が流れていれば、相互のアークは引き合い、逆に異なった方向に流れていれば反発しあう性質がある。先行極と後行極が引き合っていれば先行極であるアーク極から飛び出すスパッタは溶融池に突入する確立が高くなり、飛散スパッタ量としては比較的少ない。一方、先行極と後行極が反発し合っていれば、先行極であるアーク極から飛び出すスパッタは全て溶接線前方に飛び出して飛散スパッタとなるため、悪影響が大きい。したがって、2電極間が同じ向きに電流が流れることが好ましく、両電極が共に+もしくは共に−、母材側はその逆の組合せとなることが望ましい。電流極性は溶込みにも影響を及ぼし、異なった方向にすると溶込みは浅くなり、揃えた方向にすると深くなって溶込み不良の防止には有効である。なお、高電流のガスシールドアーク溶接法では積極的に交流極性を用いることは少ないが、先行極であるアーク極あるいは後行極であるフィラー極に交流を適用しても特段の問題はないため、適用可能である。なお、交流では電流の方向性が事実上無いのと等価であり、磁気干渉も発生しないことから、他方の電極が直流の場合、その極性を気にする必要は無くなる。
一般的なガスシールドアーク溶接法用のワイヤには、中実で針金状のソリッドワイヤと、中心のフラックスを周囲が金属の筒で包んだフラックス入りワイヤがある。フラックスは、一般に鉄粉、非鉄金属粉、酸化物粉、各種化合物の粉末で構成されている。本溶接法のアーク極用としてはどちらも適用することが出来る。なお、ソリッドワイヤのほうが溶込みが深いがスパッタがやや多い、フラックス入りワイヤはその逆の特性を有することが多く、本発明でも同じ基準で目的に応じて選択できる。また、ソリッドワイヤ、フラックス入りワイヤ共に表面に銅めっきを施しているものも多いが、銅めっきの有無は本願の主とした作用に影響を及ぼさない。また、フラックス入りワイヤには表面筒部にシーム(綴じ目)があるものとシームレスタイプのものがあるが、同じくこの有無は本願の主とした作用に影響を及ぼさない。さらにそのフラックス率(単位ワイヤ長さあたりのフラックス質量/全質量比)も限定する必要性はない。
フィラー極のワイヤとしては、フラックス入りワイヤとすることが好ましい。フラックス入りワイヤは断面通電面積が小さいためソリッドワイヤよりも自己抵抗発熱しやすく、溶融池突入後も速やかに熱伝達して溶融しやすい。そのため、フィラー極のワイヤとして好適である。またフラックスで成分調整をすれば、溶融性に組成の影響を受けにくく、成分設計の自由度が高い。非鉄添加元素をソリッドワイヤとして添加するより、フラックス入りワイヤとして添加した方がコスト的に安くなる場合もある。先行極をソリッドワイヤ、後行極をフラックス入りワイヤとすれば、深い溶込みと、低コストな合金元素添加溶融池の形成が両立できる。なお、フラックス入りワイヤのフラックス率は10質量%以上が望ましい。フラックス率が10質量%未満では通電断面積が大きくなり、自己抵抗発熱が不足し、溶融池突入後に溶融しにくくなるためである。ただし、10質量%以上に限定されるものではない。なお、上限は特に限定する必要がないが、製造安定性の面から一般的にはフラックス入りワイヤのフラックス率は28%程度が上限とされている。
フィラー極はアークが存在しないので、高温アーク空間において発生する雰囲気ガスと溶滴(すなわち、ワイヤ溶融液体)の接触による酸化反応が殆ど起きない。したがって、Tiのような酸素親和性の強い還元元素を含む、アーク用に最適化された組成のワイヤをフィラー極に適用すると、「還元元素が酸化した後、スラグとして排出される」という過程を経ないことから溶接金属内に過剰な介在物として残留し、靭性を大きく劣化させることを見いだした。詳しくは、フィラー極中のTiは、アーク極中のTiの3倍介在物化しやすく、ゆえに[Ti]L+3・[Ti]Tというパラメータを定義し、この計算結果を0.50以下にしたとき、高靭性が得られることがわかった。さらには0.25以下にすればより高靭性で優れる。一方、0.10未満となると、結晶粒の核生成サイトが不足することで、結晶粒の総数減と各粒が粗大に成長してしまい、低靭性溶接金属になる。したがって、0.10を下限とすることが望ましい。ただし、0.10以上0.50以下に限定されるものではない。なお、ワイヤがフラックス入りワイヤの場合、Tiが、Fe・Ti、TiO2、FeTiO3等の化合物で添加されていても、その総Ti換算値とした濃度として[Ti]は定義される。
先行極のアークの溶滴が後行極からの磁気干渉を受けて吹き飛ばないように、大粒に成長させることが低スパッタ化に好適である。そのための手段としてアーク極用のワイヤの組成はTiを0.10質量%以上含有させるのが望ましい。一方、Tiの上限は「[Ti]L+3・[Ti]T:0.10以上0.50以下」規定を優先すれば、必然的に0.50質量%となる。また、0.50質量%を超えて添加すると大粒化しすぎて溶滴移行が不安定となり、その大粒溶滴の周囲への飛散に伴う母材への付着と除去困難さが大きくなる。したがって、0.50質量%を上限とする。ただし、0.10質量%以上0.50質量%以下に限定されるものではない。なお、0.25質量%以下とすることがより望ましい。
溶接金属の高強度、高靭性化をはかるために、ワイヤからMoやBを適量溶接金属に添加させることが一般的に行われている。その具体的手段として、ソリッドワイヤに添加するとその鋳込みビレットや太径原線も当然高強度化するため、伸線性が劣化し、ワイヤにするための生産性が大きく低下する。一方、フラックス入りワイヤとして、フラックスにMoやBを添加すれば伸線性に悪影響を及ぼすことがない。本発明では後行極のフィラーをフラックス入りワイヤとして採用することで、先行極により形成された溶融池に必要な成分量をフラックス入りワイヤ単独から供給することが好ましい。つまり、先行極のソリッドワイヤはMoやBを含まない安価な軟質鋼種に固定し、製造コストが組成によって低下しない後行極のフラックス入りワイヤによって成分調整を行う。後行極から主にBやMoを添加して優れた溶接金属組成を形成させるためには、B:0.0020質量%以上0.0500質量%以下、Mo:0.10質量%以上1.00質量%以下をワイヤ送給速度比に合わせて1種以上添加すれば良い。ただし、B,Moを添加する場合、その添加量は、B:0.0020質量%以上0.0500質量%以下、Mo:0.10質量%以上1.00質量%以下に限定されるものではない。
溶接電源の種類は特に規定する必要は無いが、先行極であるアーク極はワイヤ送給速度とアーク長を一定にさせる機構の定電圧特性を用いることが最も望ましい。一方、後行極であるフィラー極は通電電流値を固定できる定電流特性あるいは垂下特性を持った機種を用いることが最も望ましい。なお、波形として両方共にパルスを適用することも可能である。
能率性については、合計入熱に対する溶接能率の判定基準として、40kJ/cm時の溶接長10mmあたりのワイヤ送給(溶融)長さを計算した。No.53(比較例13)に示すとおり、従来の1電極アーク溶接法での能率は0.90mである。これに対して1.04m以上を優れるとして(△)、その中でも1.14m以上を非常に優れるとして(○)とし、これらを合格とした。逆に1.04m未満を能率向上効果が小さいとして(×)とし、不合格とした。
スパッタ発生量については、スパッタ発生量が3.0g/min以下をスパッタ発生の抑制に優れるとして(△)、その中でも2.0g/min以下を非常に優れるとして(○)とし、これらを合格とした。逆に3.0g/minを超えたものをスパッタ発生の抑制に劣るとして(×)とし、不合格とした。
溶込みについては、最大溶込み深さが1mm以上のものを問題ないとして(△)、2mm以上のものを優れるとして(○)とし、これらを合格とした。
靭性については、溶接金属から試験片を3本採取して試験を行い、−20℃の吸収エネルギーが、3本平均して47J以上を優れるとして(△)、その中でも70J以上を非常に優れるとして(○)、さらに中でも100J以上を極めて優れるとして(◎)とし、これらを合格とした。逆に47J未満を低靭性なものとして(×)とし、不合格とした。
ワイヤ溶け残りについては、溶接金属内にワイヤが未溶融で存在するものが見つからなかった場合を「無し」として合格とし、見つかった場合を「有り」として不合格とした。
これらの結果を表5、6に示す。
2a,2b 送給ローラ
3a,3b 溶接電源
4a 先行極ワイヤ
4b 後行極ワイヤ
5a 先行極トーチ
5b 後行極トーチ
6a,6b 通電チップ
7 ガイドリード
8 ガイドチップ
A アーク
DE 極間距離
DL フィラー極の通電距離
M 溶融池
W 母材または下層溶接金属(被溶接部材)
Claims (6)
- 別個の溶接電源からそれぞれ電流が供給されるワイヤ状の2本の溶極式電極を有し、進行方向先行の電極である先行極の先行極ワイヤにより溶融池を形成し、進行方向後行の電極である後行極の後行極ワイヤを前記溶融池に挿入することで1つの溶融池を形成する2電極溶接法であって、
前記先行極は、アークを発生させて前記先行極ワイヤを溶融させるガスシールドアーク溶接を行なうものであり、
前記後行極は、アークを発生させず、通電による電気抵抗発熱によって前記後行極ワイヤの温度を上昇させ、前記溶融池に前記後行極ワイヤを挿入後、前記溶融池の熱伝導によって前記後行極ワイヤを溶融させる通電フィラーであり、
前記後行極において、通電機能が無く前記溶融池への挿入位置を決める機能のみを有するガイドリードあるいはガイドチップを備え、
前記後行極ワイヤは、前記ガイドリードあるいは前記ガイドチップから突き出され、かつ、前記ガイドリードあるいは前記ガイドチップの溶接機側の位置に設けられた通電チップから通電され、
前記通電チップにおける被溶接面側の先端と前記被溶接面上との距離DLが100mm以上1500mm以下であり、
前記被溶接面上における前記先行極と前記後行極の極間距離DEが10mm以下であり、
前記先行極の電流が250A以上であり、
前記後行極の電流が、10A以上、かつ前記先行極の電流に対して50%以下であり、
前記後行極ワイヤの送給速度が前記先行極ワイヤの送給速度の20%以上50%以下であることを特徴とする2電極溶接法。 - 前記先行極ワイヤおよび前記後行極ワイヤの電流極性が、母材に対して共に正、もしくは、共に負であることを特徴とする請求項1に記載の2電極溶接法。
- 前記先行極ワイヤがソリッドワイヤもしくはフラックス入りワイヤであり、前記後行極ワイヤがフラックス入りワイヤであり、かつ前記後行極ワイヤのフラックス率が10質量%以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の2電極溶接法。
- 前記先行極ワイヤの組成のうち、Ti量(質量%)を[Ti]L、前記後行極ワイヤの組成のうち、Ti量(質量%)を[Ti]Tとしたときに、[Ti]L+3・[Ti]Tが0.10以上0.50以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の2電極溶接法。
- 前記[Ti]Lが、0.10質量%以上0.50質量%以下であることを特徴とする請求項4に記載の2電極溶接法。
- 前記後行極ワイヤの組成として、ワイヤ全質量換算でB:0.0020質量%以上0.0500質量%以下、Mo:0.10質量%以上1.00質量%以下のうちの1種以上を含有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の2電極溶接法。
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