<本発明者等が得た知見>
上述のように、FPC用途で求められる優れた耐屈曲性の圧延銅箔を得るには、圧延面の立方体方位を発達させるほど良い。本発明者等も、立方体方位の占有率を増大させるべく種々の実験を行ってきた。そして、それまでの実験結果から、最終冷間圧延工程後に存在していた{022}面が、その後の再結晶焼鈍工程によって再結晶に調質されると、{002}面、すなわち立方体方位となることを確認した。つまり、最終冷間圧延工程後、再結晶焼鈍工程前においては、{022}面が主方位となっていることが好ましい。
一方、上述の特許文献1〜4に記載があるように、また、本発明者等が試みたように、立方体集合組織を多く発現させたとしても、多結晶構造をとる圧延銅箔において立方体集合組織である{002}面が100%を占めることはない。これは再結晶焼鈍工程前でも同じであり、再結晶焼鈍工程前の状態では主方位である{022}面や、再結晶前後に結晶方位の保たれる{002}面以外にも、{113}面、{111}面、{133}面、{013}面、{023}面等の副方位の結晶面が制御されることなく複数混在する。このような前提のもと、例えば特許文献4のように、{022}面の占有率を80%以上に制
御するには、高度な圧延技術や設備が必要となってしまう。
また、これらの複数の結晶面を有する結晶粒は、圧延銅箔の諸特性に種々の影響を及ぼすと考えられる。そこで、本発明者等は、これまで不要とされてきた副方位の結晶面に着目し、主方位の占有率を減少させることなく高い耐屈曲性を維持しながら、これら副方位の結晶面の占有率を制御することによって圧延銅箔に他の特性、例えば近年、要求の高まりがみられる耐折り曲げ性を高めることができないかを検討してきた。
係る検討において、本発明者等は、{113}面、{111}面、{133}面、{013}面、{023}面等の副方位を含む結晶面の、圧延銅箔の主表面における回折ピークの解析を進めた。回折ピークは各副方位の存在を示し、その強度比から各副方位の占有率を知ることができる。このような鋭意研究の結果、本発明者等は、係る回折ピークの状態を様々に規定し、これらを制御することで、主方位の{022}面の制御によって高い耐屈曲性が既に得られている状況下であっても、さらに耐折り曲げ性を向上させることができることを見いだした。
また、これと併せて、本発明者等は、FPC用途で求められる耐折り曲げ性の高い圧延銅箔を得るべく、さらに鋭意研究を行った。その結果、耐折り曲げ性には結晶方位のみならず、圧延銅箔の主表面の凹凸の状態が大きく影響していることを見いだした。
本発明は、発明者等が見いだしたこれらの知見に基づくものである。
<本発明の一実施形態>
(1)圧延銅箔の構成
まずは、本発明の一実施形態に係る圧延銅箔の結晶構造等の構成について説明する。
(圧延銅箔の概要)
本実施形態に係る圧延銅箔は、例えば主表面としての圧延面を備える板状に構成されている。この圧延銅箔は、例えば無酸素銅(OFC:Oxygen-Free Copper)やタフピッチ銅等の純銅を原材料とする鋳塊に、後述の熱間圧延工程や冷間圧延工程等を施し所定厚さとした、最終冷間圧延工程後、再結晶焼鈍工程前の圧延銅箔である。
本実施形態に係る圧延銅箔は、例えばFPCの可撓性の配線材用途に用いられるよう、総加工度が90%以上、より好ましくは94%以上の最終冷間圧延工程により厚さが20μm以下に構成されている。係る圧延銅箔は、この後、上述のように、例えばFPCの基材との貼り合わせの工程を兼ねて再結晶焼鈍工程が施され、再結晶することにより優れた耐屈曲性を具備させることが企図されている。
原材料となる無酸素銅は、例えばJIS C1020,H3100等に規定の純度が99.96%以上の銅材である。酸素含有量は完全にゼロでなくともよく、例えば数ppm程度の酸素が含まれていてもよい。また、タフピッチ銅は、例えばJIS C1100,H3100等に規定の純度が99.9%以上の銅材である。タフピッチ銅の場合、酸素含有量は例えば100ppm〜600ppm程度である。これらの銅材に銀(Ag)等の所定の添加材を微量に加えて希薄銅合金とし、耐熱性等の諸特性が調整された圧延銅箔とする場合もある。本実施形態に係る圧延銅箔には純銅と希薄銅合金との両方を含むことができ、原材料の銅材質や添加材による本実施形態の効果への影響はほとんど生じない。
最終冷間圧延工程における総加工度は、最終冷間圧延工程前の加工対象物(銅の板材)の厚さをTBとし、最終冷間圧延工程後の加工対象物の厚さをTAとすると、総加工度(%)=[(TB−TA)/TB]×100で表わされる。総加工度を90%以上、より好
ましくは94%以上とすることで、耐屈曲性に優れる圧延銅箔が得られる。
(圧延面の結晶構造)
また、本実施形態に係る圧延銅箔は、圧延面に平行な複数の結晶面を有している。具体的には、最終冷間圧延工程後、再結晶焼鈍工程前の状態で、複数の結晶面には、{022}面、{002}面、{113}面、{111}面、及び{133}面が含まれる。{022}面は圧延面における主方位となっており、その他の各結晶面は副方位である。
上述のように、係る各結晶面の状態は、各結晶面について測定される回折ピーク強度等の状態を規定した比例関係式によって制御される。各結晶面の回折ピーク強度は、圧延銅箔の圧延面に対する2θ/θ法を用いたX線回折測定から求めることができる。ここで、2θ/θ法を用いたX線回折測定の概略について、後述する実施例及び比較例に係る図2を参照して説明する。なお、X線回折測定の詳細については後述する。
図2に示すように、圧延銅箔等の試料片50をθ軸、ψ軸、φ軸の3つの走査軸回りに回転可能に配置する。2θ/θ法を用いたX線回折測定では、試料片50をθ軸回りに回転させ、試料片50に対し角度θで入射X線を入射する。また、入射X線の入射方向に対して角度2θで回折された回折X線を検出する。これにより、試料片50の主表面に対して平行な各結晶面の回折ピークが、主表面における各結晶面の占有率に応じた強度で得られる。
このようなX線回折により測定した上述の5つの結晶面の回折ピーク強度を合計値が100となるような比に換算したものが、各結晶面の回折ピーク強度比I{022}、I{002}、I{113}、I{111}、及びI{133}である。係る回折ピーク強度比は、圧延面における各結晶面の占有率に略等しい。
各結晶面の回折ピーク強度から、代表として{022}面の回折ピーク強度比を求める換算式(A)を以下に示す。ここで、各結晶面の回折ピーク強度をそれぞれI’{022}、I’{002}、I’{113}、I’{111}、及びI’{133}とする。
本実施形態に係る圧延銅箔において、{022}面および{002}面の回折ピーク強度比は、例えば以下の式(1)が成り立つ関係にある。
I{022}+I{002}≧75.0・・・(1)
また、より好ましくは、本実施形態に係る圧延銅箔において、{111}面の回折ピーク強度比について以下の式(2)が成り立つ。
I{111}≦10.0・・・(2)
また、本実施形態に係る圧延銅箔は、少なくとも上述の式(1)に加え、圧延銅箔の圧延面を基準とするX線Pole−Figure(極点図)法を用いて求められる数値をも満たすよう規定される。ここで、X線Pole−Figure法を用いた測定の概略について、図2を参照して説明する。なお、係る測定の詳細については後述する。
図2に示すように、X線Pole−Figure法の反射法を用いた測定では、上述の試料片50を更にψ軸回りに回転させ、15°以上90°以下の範囲内の複数のあおり角度ψのそれぞれについて2θ/θ法と同様に回折X線を検出する。このとき、各あおり角度ψにおいては、その角度を維持しつつ、上述の試料片50をφ軸回りに回転させて面内回転角度φを0°以上360°以下の範囲内で変化させて測定を行い、得られた銅結晶の{111}面の回折ピークの平均強度をそれぞれ求める。
このような測定により求めた各平均強度を用い、本実施形態に係る圧延銅箔を規定する手法を以下に説明する。
あおり角度ψを横軸とし、回折ピーク強度を縦軸として、上述の{111}面の回折ピークの平均強度をプロットし、例えば後述の実施例1に係る図4のようなグラフを作成する。
例えば図4に示すように、あおり角度ψが47°での{111}面の回折ピークの平均強度と、あおり角度ψが53°での{111}面の回折ピークの平均強度とを直線で結ぶ。これにより、この直線の縦軸切片を得る。このとき、係る縦軸切片を[A]とする。
また、グラフの範囲内、つまり、あおり角度ψが15°以上90°以下の範囲内での{111}面の回折ピークの平均強度の最大値を[B]とする。このとき、本実施形態に係る圧延銅箔においては、以下の式(3)を満たす。
[A]/[B]<1/4・・・(3)
以上、式(1),(3)、さらに好ましくは式(2)により規定される条件を満たすことで、本実施形態に係る圧延銅箔は、再結晶焼鈍工程後には、繰り返しの曲げに耐える高い耐屈曲性とともに、小さな曲げ半径に耐える優れた耐折り曲げ性を具備するよう構成される。
(圧延面の表面粗さ)
また、好ましくは、本実施形態に係る圧延銅箔は、上述の構成に加え、更に以下の表面粗さを備える。
つまり、本実施形態に係る圧延銅箔は、圧延面の表面粗さが、好ましくは十点平均粗さRzjisおよび算術平均粗さRaで以下の式(4),(5)を満たすように規定されて
いる。
十点平均粗さRzjis≦1.5μm・・・(4)
算術平均粗さRa≦0.4μm・・・(5)
なお、ここでいう十点平均粗さ及び算術平均粗さとは、JIS B 0601:2001により、それぞれ規定される十点平均粗さRzjisおよび算術平均粗さRaのことである。JIS規格で各々定義される表面粗さの表示記号には変遷がみられ、いささか混同が生じ易いため、以下の表1に、表面粗さについてのJIS規格の変遷を示す。
十点平均粗さRzjisおよび算術平均粗さRaは、粗さ測定によって得られた粗さ曲線から求められる。
つまり、十点平均粗さRzjisについては、まず、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけ抜き取る。この抜き取り部分の平均線から縦倍率の方向に所定数の山頂と谷底とを測定する。このとき、最も高い山頂から5番目までの山頂の標高の絶対値の平均値と、最も低い谷底から5番目までの谷底の標高の絶対値の平均値との和を求める。これらの平均値の和をマイクロメートル(μm)で表わしたものが十点平均粗さRzjisである。
また、算術平均粗さRaについては、粗さ曲線から抜き取った平均線から、測定曲線までの、偏差の絶対値を合計し、平均値を求める。つまり、このように、粗さ曲線と平均線とによって得られる面積を長さLで割って求めた平均値をマイクロメートル(μm)で表わしたものが算術平均粗さRaである。
以上、好ましくは式(4),(5)をさらに満たすことにより、本実施形態に係る圧延銅箔は、再結晶焼鈍工程後には、高い耐屈曲性とともに、いっそう優れた耐折り曲げ性を安定的に具備するよう構成される。
(2)圧延銅箔に付与される特性
以上のような結晶構造や表面粗さを備えることで、圧延銅箔に付与されることとなる特性について以下に説明する。
(式(1)で規定される結晶構造について)
上述のように、再結晶焼鈍工程前の{022}面は再結晶焼鈍工程後に{002}面へと変化し、再結晶焼鈍工程前の{002}面は再結晶焼鈍工程後もそのまま残存することで、圧延銅箔の耐屈曲性を向上させる。つまり、上述の式(1)において、例えばI{022}+I{002}=75.0+0=75.0の場合と、I{022}+I{002}=55.0+20.0=75.0の場合とでは、再結晶焼鈍工程後に得られる圧延銅箔は互いに略同様の{002}面の結晶組織を備えることがわかっている。
また、再結晶焼鈍工程の際、{002}面は、自身の結晶方位は変化しないものの、種結晶となって、{022}面が{002}面へと変化し成長することを促進する。したがって、再結晶焼鈍工程前において上述の式(1)を満たすことで、このような効果を充分に得ることができる。
多結晶構造をとる圧延銅箔において、例えば上述の特許文献4のように、{022}面
のみによって耐屈曲性を向上させようとすることには限界がある。また、再結晶焼鈍工程前の圧延銅箔における{022}面の回折ピークでみた占有率を80%以上とするには、高度な圧延技術や設備等を要する。
しかしながら、本実施形態においては{022}面のみならず、再結晶焼鈍工程時に種結晶となり、また、再結晶焼鈍工程後も自身は変化しない{002}面の効果も活かすこととしている。これにより、高度な圧延技術や設備等に過度に依存することなく、比較的容易に特許文献4の圧延銅箔と同等以上の特性を得ることができる。
すなわち、特許文献4のような結晶状態、つまり、I{022}≧80.0であるような状態と、本実施形態のようなI{022}+I{002}≧75.0の状態とが、再結晶焼鈍工程後には、互いに略同様の{002}面の結晶組織を備える状態となることがわかっている。これはあたかも、再結晶焼鈍工程前の{022}面と{002}面とを足し合わせた占有率、例えば75.0%よりも、再結晶焼鈍工程後の{002}面の占有率のほうが、例えば特許文献4と同等の80.0%、或いはそれ以上に増加したかのようにみえる。本発明者等は、再結晶により{002}面の結晶が成長する際、例えば上述のような副方位を含め、他のいずれかの副方位を{002}面が取り込むためと考えている。これは、結晶成長の技術分野において、例えばオストワルド成長等にみられるような、大きな結晶が小さな結晶を吸収して成長する現象等から類推できる。
このように、{002}面は、副方位ではあっても、圧延銅箔の特性値を向上させる働きを有する。
なお、上述の式(1)により規定される数値は高ければ高いほど良く、これまでのところ、上限値は認められていない。但し、より優れた耐屈曲性が得られる式(1)の目安となる数値として、好ましくは77.5以上、より好ましくは80.0以上、とすることができる。
(式(2)で規定される結晶構造について)
一方で、{002}面以外の副方位である{113}面、{111}面、{133}面や、その他の副方位は、耐屈曲性には寄与しない不要な結晶面である。そればかりでなく、本発明者等による鋭意研究の結果、このような副方位の多くが、耐屈曲性や耐折り曲げ性をはじめ、圧延銅箔の種々の特性に対して悪影響を与えるということが判明した。
本発明者等によれば、例えば{111}面は、耐折り曲げ性を低下させる傾向を有する。この点につき、本発明者等は、以下のように説明付けを行っている。
結晶方位学の観点に基づく本発明者等の考察によると、小さな曲げ半径で折り曲げられた際には、塑性変形し易い材料の方が、折り曲げによる亀裂(割れ)や破断等が発生し難く耐折り曲げ性に優れる傾向にある。塑性変形は、材料中の結晶の「すべり」という現象により起こる。銅結晶においては、すべりは{111}面に沿って起こり、{111}面は「すべり面」と呼ばれる。しかし、例えば圧延銅箔が有する{111}面が圧延面に平行である場合には、すべりの起こりが悪くなって、塑性変形が起こり難くなる。よって、割れ等が発生し易く、耐折り曲げ性に劣る圧延銅箔となってしまう。
本発明者等は、以上の考察に基づき、{111}面の占有率の適正化を図った。この結果、{111}面の回折強度ピーク比が10.0より大きい圧延銅箔は、折り曲げによる割れが発生し易くなることがわかった。したがって、再結晶焼鈍工程前後においてほとんど変化しない{111}面について、再結晶焼鈍工程前の状態で、好ましくは上述の式(2)を満たすことで、{111}面による耐折り曲げ性への悪影響を極めて小さくし、よ
りいっそう耐折り曲げ性を向上させることができる。
なお、上述の式(2)により規定される数値は低ければ低いほど良く、これまでのところ、下限値は認められていない。
(式(3)で規定される結晶構造について)
また、本発明者等は、{111}面以外の副方位についても研究を重ね、耐折り曲げ性に不利となる可能性のある副方位をさらに特定し、これを低減することとした。
例えば{013}面や{023}面、或いはこれらの結晶面に近い結晶方位、具体的には、これらの結晶面と±10°程度以内にある結晶方位を有する結晶面には、少なくとも耐折り曲げ性を直接的に向上させる作用はないものと考えられ、耐折り曲げ性に不利となる可能性のある副方位として低減を図ることが望ましい。これらの結晶面は、再結晶焼鈍工程において再結晶した後も結晶方位が変わらない。よって、これらの結晶面についても、最終冷間圧延工程後、再結晶焼鈍工程前の圧延銅箔における状態を制御できれば、これらの結晶方位の影響に妨げられることなく、圧延銅箔の優れた耐折り曲げ性を確保することができる。
ところで、{013}面や{023}面は、たとえ圧延銅箔の圧延面に存在していたとしても、2θ/θ法によるX線回折測定では検出されない。銅は面心立方構造の結晶なので、2θ/θ法によるX線回折測定では{hkl}面のh,k,lが全て奇数値または全て偶数値でなければ回折ピークとして現れない。{013}面や{023}面のように、h,k,lが奇数値と偶数値との混在となっていると、消滅則によって回折ピークが消失してしまうためである。
そこで、本実施形態では、X線Pole−Figure法を用いてこれらの結晶面を上述の式(3)のように規定する。上述において、あおり角度ψが47°での{111}面の回折ピークは、圧延銅箔の圧延面に平行な{013}面の存在を意味する。また、係る回折ピークの平均強度等から{013}面の状態を知ることができる。また、あおり角度ψが53°での{111}面の回折ピークは、圧延銅箔の圧延面に平行な{023}面の存在を意味する。また、係る回折ピークの平均強度等から{023}面の状態を知ることができる。
回折ピークの平均強度のグラフにおける直線が上述の式(3)を満たすことで、これらの結晶面の占有率が充分に低い圧延銅箔となり、耐折り曲げ性に対する影響を低減することができる。係る直線が上述の式(3)を満たすか否かは、例えばあおり角度ψが47°での回折ピークの平均強度とあおり角度ψが53°での回折ピークの平均強度との大小関係や、これらの平均強度とグラフの最大値の平均強度との大小関係や、2つの平均強度を結ぶ直線の傾き等によって決まる。
本発明者等は、{013}面や{023}面、及びこれらの結晶面に近い結晶方位、つまりこれらの結晶面との結晶方位差が比較的小さい結晶面は、圧延銅箔中に所定量存在している場合には集合組織を形成していると考えている。また、上述のグラフにより得られる直線の縦軸切片[A]がグラフの最大値[B]に対して4分の1という状態は、これらの結晶面が集合組織を形成するかどうかの境界を表わしていると考えられる。つまり、[A]/[B]<1/4であれば、{013}面や{023}面等は集合組織を形成していないか、或いは形成が不充分で、少なくとも耐折り曲げ性の向上を妨げるような作用を及ぼさないと推察される。また、これらの結晶面が[A]/[B]≧1/4となって集合組織を形成することで、これらの結晶方位群の影響が無視できないほど顕著になって、耐折り曲げ性の向上を妨げる可能性が生じてしまうと思われる。
この点、本発明者等は、再結晶焼鈍工程後の{002}面の働きが関与していると考えている。つまり、再結晶焼鈍後に圧延銅箔の圧延面にみられる{002}面は、耐屈曲性のみならず耐折り曲げ性の向上にも寄与している可能性がある。{013}面や{023}面が集合組織を形成しているか否かで、この{002}面の働きが充分に発揮されたりされなかったり、つまり、耐折り曲げ性が向上したり悪化したりすると推察される。
再結晶焼鈍工程後の{002}面が、耐折り曲げ性にも寄与するとの推察は、以下に基づくものである。優れた耐屈曲性には低ひずみでの高サイクル疲労特性に優れることが要求され、優れた耐折り曲げ性には高ひずみでの低サイクル疲労特性に優れることが要求される。このことから、本発明者等は、耐屈曲性、耐折り曲げ性のいずれの特性に対しても、同じ結晶面、つまり、{002}面が寄与しているのではないかと考えたのである。
それにも関わらず、これまで両特性が完全には相関性を示してこなかった要因は、{013}面や{023}面が集合組織を形成しているか否かによると考えられる。{002}面の占有率が充分に高い状態となっていても、耐折り曲げ性が向上するか否かは、{013}面や{023}面が集合組織を形成しているか否かにより影響を受けていたと推察される。
また、そもそも、これらの結晶面の集合組織による耐折り曲げ性の低下は、以下のように説明づけることができる。{013}面と{002}面とのなす角度は18.4°であり、{023}面と{002}面とのなす角度は33.7°である。このように、{013}面と{023}面とは共に、{002}面との結晶方位が大きく異なっている。主方位である{002}面とこれだけ結晶方位の異なる{013}面や{023}面が集合組織を形成すると、高ひずみが加わる耐折り曲げ性に対する影響は多大であると考えられる。よって、これらの結晶面による集合組織の形成により、耐折り曲げ性が充分に発揮されないと推察される。
なお、上述の式(3)により規定される[A]/[B]は低ければ低いほど良く、これまでのところ、下限値は認められていない。
(式(4)(5)で規定される表面粗さについて)
上述のように、本発明者等は、各結晶面の回折ピーク強度比等の制御に加え、好ましくは圧延銅箔の圧延面の表面粗さが所定値以下であるとき、圧延銅箔の耐折り曲げ性をいっそう向上させることができることを見いだした。これは、圧延銅箔の圧延面の凹凸差が大きいと、圧延銅箔を折り曲げたときに凹部が開く方向に変形し、ここを起点に割れが発生し易くなるためと考えられる。
当初、本発明者等は、圧延銅箔の表面粗さを十点平均粗さRzjisで規定することとした。これを所定値以下に抑えることで、圧延銅箔の耐折り曲げ性をいっそう向上させることができる。
しかしながら、十点平均粗さRzjisの制御のみでは、測定試験用の試料片ごとに耐折り曲げ性がばらつき、優れた耐折り曲げ性を安定的に得ることができない場合があった。
本発明者等は、さらなる鋭意研究の結果、十点平均粗さRzjisに加え、算術平均粗さRaを用いて表面粗さを規定し、これらを制御することで、優れた耐折り曲げ性が安定的に得られることを見いだした。本発明者等は、この理由について、上述の表1に示したような種々の表面粗さの指標の特徴に鑑みて、以下のような考察を行った。
上述の表1にも示すJIS B 0601:2001の規定による最大高さRzは、最凸部と最凹部との差により表わされる。よって、他の部分がどれだけ平坦であっても、大きく突出した部分や落ちくぼんだ部分があると、最大高さRzは大きくなる。
本実施形態に係る圧延銅箔の表面粗さの指標の1つとして用いる十点平均粗さRzjisは、このような最凸部と最凹部とを含むそれぞれ5点ずつの差を抜き出して数値化したものである。つまり、山頂と谷底との合計10点を用いて数値化するため、上述の最大高さRzのように1つの凹凸差だけでなく、平均的にどれくらいの凹凸差があるかの情報が得られる。
しかし、これだけでは、安定的に優れた耐折り曲げ性を得るには充分でない。例えば、十点平均粗さRzjisの値が小さくとも、最大凹凸部の各5点の値に対し、測定箇所の全体がこれと同等の凹凸差となっている場合もある。この場合には、全体的に表面が荒れた状態となっていることを意味する。極端に大きい凹凸はなくとも、所定の大きさの凹凸が全体的に数多く存在していると、それらが起点となって割れが発生する確率が高まってしまう。
一方、圧延銅箔の表面粗さのもう1つの指標である算術平均粗さRaは、凹凸差に着目する十点平均粗さRzjis等とは異なり、測定箇所全体でどれだけうねりがあるか、に着目する。つまり、中心となる直線状の平均線に対して、粗さ曲線がどれだけ外れているかであり、全体の平均である平均線と粗さ曲線の凹凸との間の面積をみていることになる。
よって、十点平均粗さRzjisが上述の所定値内であっても、算術平均粗さRaは大きくなることがある。また、十点平均粗さRzjisが極端に大きい場合、つまり、最大凹凸部の各5点が極端に大きい場合であっても、他の部分に目立った表面荒れがなければ、算術平均粗さRaが小さくなることがある。また、凹凸が大きい場合が部分的である場合には、算術平均粗さRaが小さくとも十点平均粗さRzjisは大きくなることがある。また、算術平均粗さRaが大きくとも、十点平均粗さRzjisはそれほど大きくないことがある。
以上のことから鑑みて、十点平均粗さRzjisを所定値以内に制御することで、極端に大きな凹凸差を排除し、圧延銅箔を折り曲げたときに凹凸部が開裂して破断してしまうのを抑制できる。一方で、算術平均粗さRaを所定値以内に制御することで、全体としてのバラツキを抑え、ひいては耐折り曲げ性の数値の安定化を図ることができる。
このように、本実施形態によれば、2θ/θ法やX線Pole−Figure法のようなX線の回折ピーク等に顕現される圧延銅箔の内面的な制御により、優れた耐屈曲性および耐折り曲げ性を圧延銅箔に付与することができる。また、好ましくは、十点平均粗さRzjisおよび算術平均粗さRaの表面粗さ等に顕現される圧延銅箔の外面的な制御により、更に優れた耐折り曲げ性を安定的に圧延銅箔に付与することができる。
(3)圧延銅箔の製造方法
次に、本発明の一実施形態に係る圧延銅箔の製造方法について、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る圧延銅箔の製造工程を示すフロー図である。
(鋳塊の準備工程S10)
図1に示すように、まずは、無酸素銅(OFC:Oxygen-Free Copper)やタフピッチ銅等の純銅を原材料として鋳造を行って鋳塊(インゴット)を準備する。鋳塊は、例えば所
定厚さ、所定幅を備える板状に形成する。原材料となる無酸素銅やタフピッチ銅等の純銅は、圧延銅箔の諸特性を調整するため、所定の添加材が添加された希薄銅合金となっていてもよい。
添加材で調整可能な諸特性には、例えば耐熱性がある。上述のように、FPC用の圧延銅箔では、圧延銅箔に高い耐屈曲性を付与する再結晶焼鈍工程は、例えばFPCの基材との貼り合わせの工程を兼ねて行われる。貼り合わせの際の加熱温度は、例えばFPCの樹脂等からなる基材の硬化温度や、使用する接着剤の硬化温度等に併せて設定され、温度条件の範囲は広く多種多様である。このように設定された加熱温度に圧延銅箔の軟化温度を合わせるべく、圧延銅箔の耐熱性を調整可能な添加材が添加される場合がある。
本実施形態に使用される鋳塊として、添加材が無添加の鋳塊や、幾種類かの添加材を添加した鋳塊を以下の表2に例示する。
また、表2に示す添加材やその他の添加材として、耐熱性を上昇又は降下させる添加材
には、例えば10ppm〜500ppm程度の硼素(B)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、及びカルシウム(Ca)のいずれか1つ又は複数の元素を添加した例がある。或いは、第1の添加元素としてAgを添加し、第2の添加元素として代表例に挙げたこれらの元素のいずれか1つ又は複数の元素を添加した例がある。そのほか、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、砒素(As)、Cd(カドミウム)、インジウム(In)、錫(Sn)、アンチモン(Sb)、金(Au)等を微量添加することも可能である。
なお、鋳塊の組成は、後述の最終冷間圧延工程S40を経た後の圧延銅箔においても略そのまま維持され、鋳塊中に添加材を加えた場合には、鋳塊と圧延銅箔とは略同じ添加材濃度となる。
また、後述の焼鈍工程S32における温度条件は、銅材質や添加材による耐熱性に応じて適宜変更する。但し、このような銅材質や添加材、これに応じた焼鈍工程S32の温度条件の変更等は、本実施形態の効果に対してほとんど影響を与えない。
(熱間圧延工程S20)
次に、準備した鋳塊に熱間圧延を施して、鋳造後の所定厚さよりも薄い板厚の板材とする。
(繰り返し工程S30)
続いて、冷間圧延工程S31と焼鈍工程S32とを所定回数繰り返し実施する繰り返し工程S30を行う。すなわち、冷間圧延を施して加工硬化させた板材に、焼鈍処理を施して板材を焼き鈍すことにより加工硬化を緩和する。これを所定回数繰り返すことで、「生地」と称される銅条が得られる。銅材に耐熱性を調整する添加材等が加えられている場合は、銅材の耐熱性に応じて焼鈍処理の温度条件を適宜変更する。
なお、繰り返し工程S30中、繰り返し途中の焼鈍工程S32を「中間焼鈍工程」と呼ぶ。また、繰り返しの最後、つまり、後述の最終冷間圧延工程S40の直前に行われる焼鈍工程S32を「最終焼鈍工程」又は「生地焼鈍工程」と呼ぶ。生地焼鈍工程では、銅条(生地)に生地焼鈍処理を施し、焼鈍生地を得る。生地焼鈍工程においても、銅材の耐熱性に応じて温度条件を適宜変更する。このとき、生地焼鈍工程は、上述の各工程に起因する加工歪みを充分に緩和することのできる温度条件、例えば完全焼鈍処理と略同等の温度条件で実施することが好ましい。
(最終冷間圧延工程S40)
次に、最終冷間圧延工程S40を実施する。最終冷間圧延は仕上げ冷間圧延とも呼ばれ、仕上げとなる冷間圧延を複数回に亘って焼鈍生地に施して薄い銅箔状とする。このとき、高い耐屈曲性を有する圧延銅箔が得られるよう、総加工度を90%以上、より好ましくは94%以上とする。これにより、再結晶焼鈍工程後において、いっそう優れた耐屈曲性が得られ易い圧延銅箔となる。
また、以下に述べるように、複数回繰り返される冷間圧延の1回(1パス)あたりの加工度や中立点の位置移動、好ましくは、圧延に用いるロールの表面粗さ等を制御して、冷間圧延時に焼鈍生地に働く圧縮応力と引張応力とを変化させる。これにより、圧延銅箔の各結晶面の回折ピーク強度比を変化させることができる。
すなわち、1パスあたりの加工度は、冷間圧延を複数回繰り返すごとに焼鈍生地が薄くなるのに応じて徐々に小さくしていくことが好ましい。ここで、1パスあたりの加工度は
、上述の総加工度の例に倣い、nパス目の圧延前の加工対象物の厚さをTBnとし、圧延後の加工対象物の厚さをTAnとすると、1パスあたりの加工度(%)=[(TBn−TAn)/TBn]×100で表わされる。
圧延加工時、焼鈍生地等の加工対象物は、例えば互いに対向する1対の圧延ロール間の間隙に引き込まれ、反対側に引き出されることで減厚される。加工対象物の速度は、圧延ロールに引き込まれる前の入り口側では圧延ロールの回転速度より遅く、圧延ロールから引き出された後の出口側では圧延ロールの回転速度より速い。したがって、加工対象物には、入り口側では圧縮応力が、出口側では引張応力が加わる。加工対象物を薄く加工するためには、圧縮応力>引張応力でなければならない。1パスあたりの加工度を調整することで、圧縮応力>引張応力であることを前提として、それぞれの応力成分(圧縮成分と引張成分)の比を調整することができる。
また、最終冷間圧延工程S40では、冷間圧延を複数回繰り返すごとに、以下に説明する中立点の位置が圧延ロールの出口側へと移動していくよう制御することが好ましい。上述のように、圧延ロールの回転速度に対して入り口側と出口側とで大小関係が逆転する加工対象物の速度は、入り口側及び出口側の間のどこかの位置で圧延ロールの回転速度と等しくなる。この両者の速度が等しい位置を中立点といい、中立点では加工対象物に加わる圧力が最大となる。
中立点の位置は、前方張力、後方張力、圧延速度(圧延ロールの回転速度)、圧延ロール径、圧延ロールの表面粗さ、加工度、圧延荷重等の組み合わせを調整することで制御することができる。つまり、中立点の位置を制御することによっても、圧縮応力及び引張応力の比を調整することができる。
また、最終冷間圧延工程S40においては、例えば表面粗さが算術平均粗さRaで0.075μm以下の圧延ロールを用いることが好ましい。圧延ロールの表面粗さは、上述の圧縮応力と引張応力との応力バランスや圧延銅箔の表面粗さに影響を与える。よって、圧延ロールの表面粗さを所定値に制御することで、各結晶面の比率を制御することができる。また、表面粗さが上述の式(4),(5)を満たす圧延銅箔を得ることができる。
なお、このとき、油膜当量を適宜調整したうえで、圧延ロールの表面粗さを所定値とすることが好ましい。油膜当量は、加工対象物に塗布される圧延油の油膜の厚みに関わる指標である。油膜当量については後述する。
このように、最終冷間圧延工程S40時の圧縮応力と引張応力との応力バランスは、1パスあたりの加工度や中立点の位置移動や圧延ロールの表面粗さ等により制御される。そして、各結晶面の回折ピーク強度のバランスは、主に最終冷間圧延工程S40時の圧縮応力と引張応力との応力バランスにより決まる。
具体的には、最終冷間圧延工程S40等の圧延加工時、銅材中の銅結晶は、圧延加工時の応力により回転現象を起こし、いくつかの経路で{022}面へと変化する。圧縮応力が大きくなるほど{013}面や{023}面を経由し易く、引張応力が大きくなるほど{111}面を経由し易い。そして、それぞれが{022}面へと変化する。{022}面まで到達しなかった結晶や、{022}面に到達したものの引張応力によって{111}面へと回転してしまった結晶が副方位となる。
このように、圧縮応力と引張応力との応力バランスを変えることで{022}面への変化の経路が変わり、副方位の結晶面の回折ピーク強度のバランスを調整することができる。係る結晶面の回折ピーク強度のバランスは、上述の通り、圧延銅箔の耐屈曲性や耐折り
曲げ性に多大な影響を与える。
以上のように、各パスにおける加工度の大きさ制御や中立点の位置制御、好ましくは、圧延ロールの表面粗さの制御等を行いつつ、最終冷間圧延工程S40を施すことで、上述の式(1),(3)、さらに好ましくは式(2)を満たす圧延銅箔を得ることができる。また、好ましくは、上述の表面粗さの式(4),(5)が所定値となる。よって、再結晶焼鈍工程後には、繰り返しの曲げに耐える高い耐屈曲性とともに、小さな曲げ半径に耐える優れた耐折り曲げ性を具備する圧延銅箔が得られる。
(表面処理工程S50)
以上の工程を経て銅箔状となった生地に所定の表面処理を施す。以上により、本実施形態に係る圧延銅箔が製造される。
(4)フレキシブルプリント配線板の製造方法
次に、本発明の一実施形態に係る圧延銅箔を用いたフレキシブルプリント配線板(FPC)の製造方法について説明する。
(再結晶焼鈍工程(CCL工程))
まずは、本実施形態に係る圧延銅箔を所定のサイズに裁断し、例えばポリイミド等の樹脂からなるFPCの基材と貼り合わせてCCL(Copper Clad Laminate)を形成する。このとき、接着剤を介して貼り合わせを行う3層材CCLを形成する方法と、接着剤を介さず直接貼り合わせを行う2層材CCLを形成する方法のいずれを用いてもよい。接着剤を用いる場合には、加熱処理により接着剤を硬化させて圧延銅箔と基材とを密着させ一体化する。接着剤を用いない場合には、加熱・加圧により圧延銅箔と基材とを直接密着させる。加熱温度や時間は、接着剤や基材の硬化温度等に合わせて適宜選択することができ、例えば150℃以上400℃以下の温度で、1分以上120分以下とすることができる。
上述のように、圧延銅箔の耐熱性は、このときの加熱温度に合わせて調整されている。したがって、CCL工程での加熱により圧延銅箔が軟化し再結晶される。つまり、基材に圧延銅箔を貼り合わせるCCL工程が、圧延銅箔に対する再結晶焼鈍工程を兼ねている。圧延銅箔に対し再結晶焼鈍工程が施されることにより、再結晶組織を有する圧延銅箔が得られる。
つまり、再結晶焼鈍工程前において主方位であった{022}面と副方位であった{002}面の多くが、共に再結晶組織へと調質された{002}面となる。これにより、高い耐屈曲性が得られる。
また、その他の副方位は、再結晶後も最終冷間圧延工程後の状態を保ったまま、ほとんど変化することなく再結晶組織へと調質される。但し、再結晶状態となることで、これら副方位の結晶面から加工硬化の影響が取り除かれ、これら副方位の結晶面が持つ作用が最大限に近い形で発現する。
例えば、{013}面や{023}面の持つ作用が発揮され、耐折り曲げ性を低下させる可能性のある状態となる。しかしながら、本実施形態の圧延銅箔においては、{013}面および{023}面は、上述の式(3)から得られる条件によって占有率が充分に低い状態にある。よって、集合組織が形成され難く、{013}面や{023}面の持つ係る作用も抑制される。
また、{111}面により耐折り曲げ性を低下させる作用が発揮され得る状態となる。但し、本実施形態に係る圧延銅箔において、上述の式(2)を満たすこととした場合には
、{111}面の占有率が低い状態にあるので、その作用が抑制される。
また、上述の十点平均粗さRzjis及び算術平均粗さRaにより規定される表面粗さが所定値とした場合には、バラツキが小さく、安定して優れた耐折り曲げ性がいっそう得られ易くなる。
また、このように、CCL工程が再結晶焼鈍工程を兼ねることで、圧延銅箔を基材に貼り合わせるまでの工程では、冷間圧延工程後の加工硬化した状態で圧延銅箔を取り扱うことができ、圧延銅箔を基材に貼り合わせる際の、伸び、しわ、折れ等の変形を起こり難くすることができる。
上述のように、副方位の各結晶面は再結晶焼鈍工程前後でほとんど変化しない。したがって、優れた耐屈曲性及び耐折り曲げ性を得るには、最終冷間圧延工程後、再結晶焼鈍工程前の圧延銅箔について、上述の関係式や条件を満たすように副方位を制御しておけばよい。
(表面加工工程)
次に、基材に貼り合わせた圧延銅箔に表面加工工程を施す。表面加工工程では、圧延銅箔に例えばエッチング等の手法を用いて銅配線等を形成する配線形成工程と、銅配線と他の電子部材との接続信頼性を向上させるためメッキ処理等の表面処理を施す表面処理工程と、銅配線等を保護するため銅配線上の一部を覆うようにソルダレジスト等の保護膜を形成する保護膜形成工程とを行う。
以上により、本実施形態に係る圧延銅箔を用いたFPCが製造される。
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
例えば、上述の実施形態においては、圧延銅箔の耐熱性を調整する添加材として主にAgを用いることとしたが、添加材は、Agや上述の代表例等に挙げたものに限られない。また、添加材により調整可能な諸特性は耐熱性に限られず、調整を必要とする諸特性に応じて添加材を適宜選択してもよい。
また、上述の実施形態においては、FPCの製造工程におけるCCL工程は圧延銅箔に対する再結晶焼鈍工程を兼ねることとしたが、再結晶焼鈍工程は、CCL工程とは別工程として行ってもよい。
また、上述の実施形態においては、圧延銅箔はFPC用途に用いられることとしたが、圧延銅箔の用途はこれに限られず、耐屈曲性及び耐折り曲げ性を必要とする用途に用いることができる。圧延銅箔の厚さについても、FPC用途をはじめとする各種用途に応じて、10μm以下の超極薄、或いは、20μm超などとしてもよい。
また、上述の実施形態においては、最終冷間圧延工程S40での総加工度を90%以上などとし優れた耐屈曲性を得ることとしたが、副方位の結晶面や圧延銅箔の表面粗さの調整により耐折り曲げ性を得る手法は、これとは独立して用いることができる。つまり、耐折り曲げ性が特に重要であって、ある程度の耐屈曲性が得られていればよい場合等には、最終冷間圧延工程における総加工度を例えば85%、75%、65%等のように、90%未満としてもよい。また、副方位の結晶面や圧延銅箔の表面粗さの調整により耐折り曲げ性を得る手法は、副方位の結晶面の調整により耐屈曲性を得る手法と独立して用いること
も可能である。
また、上述の実施形態においては、{013}面および{023}面を検出するにあたり、X線Pole−Figure法のうち、特に反射法による測定を行うこととしたが、透過法により測定することとしてもよい。また、X線Pole−Figure法以外にも、Inverse Pole−Figure(逆極点図)法や、その他の方法を用いてもよい。
なお、本発明の効果を奏するためには、上述した構成や工程のすべてが必須であるとは限らない。上述の実施形態や後述の実施例で挙げる種々の条件もあくまで例示であって、適宜変更可能である。
次に、本発明に係る実施例について比較例とともに説明する。
(1)無酸素銅を用いた圧延銅箔
まずは、無酸素銅を用いた実施例1〜5および比較例1〜5に係る圧延銅箔を以下のとおり製作し、それぞれについて各種評価を行った。ここではまず、上述の式(1)〜(3)に係る効果を検証した。
(圧延銅箔の製作)
目標濃度を200ppmとするAgを添加した無酸素銅を用い、上述の実施形態と同様の手順及び手法で、実施例1〜5および比較例1〜5に係る圧延銅箔を製作した。但し、比較例1〜5については、後述する1パスあたりの加工度や中立点の位置等、主に最終冷間圧延工程において、構成を外れる処理等を含めた。
具体的には、無酸素銅に所定量のAgを溶解して鋳造した厚さ150mm、幅500mmの鋳塊を準備した。以下の表3に、高周波誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法により調べた、鋳塊中のAg濃度の分析値を示す。
表3に示すように、目標濃度の200ppmに対し、分析値は180ppm〜216ppmと、いずれも200ppm±20ppm(10%)程度内のバラツキに抑えられている。Agは元々、主原材料である無酸素銅に不可避不純物として数ppm〜十数ppm程度含有されている場合があるほか、鋳塊を鋳造する際のバラツキ等の種々の原因により、目標濃度に対して±10%程度内のバラツキは金属材料分野では一般的なものである。
次に、上述の実施形態と同様の手順及び手法で、熱間圧延工程にて厚さ8mmの板材を得た後、冷間圧延工程と、750℃〜850℃の温度で約2分間保持する中間焼鈍工程とを繰り返し実施し、厚さ0.4mm(400μm)の銅条(生地)を製作した。続いて、
約750℃の温度で約2分間保持する生地焼鈍工程にて焼鈍生地を得た。
ここで、各焼鈍工程の温度条件等は、Agを180ppm〜216ppm含有する無酸素銅材の耐熱性に合わせた。なお、組成が同じ銅材に対して各焼鈍工程で異なる温度条件を用いたのは、銅材の厚さに応じて耐熱性が変化するためであり、銅材が薄いときは温度を下げることができる。
最後に、上述の実施形態と同様の手順及び手法で最終冷間圧延工程を行った。最終冷間圧延工程での条件を以下の表4に示す。
表4に示すように、上段から下段へと順次板厚が薄くなるのに応じて、各実施例、比較例とも、各々の右欄のように条件を切り替えて、最終冷間圧延を行った。つまり、厚さが400μm以下における冷間圧延加工の、1パスあたりの加工度と中立点の位置とを変化させた。各々の右欄に示す中立点の位置(mm)は、圧延ロールと加工対象物である焼鈍生地との接触面の出口側端部から中立点までの長さで示した。
各実施例、比較例とも、各々の右欄の範囲内で条件を振って、各実施例についてはそれぞれが所定の構成の範囲内となるよう、また、各比較例についてはそれぞれが所定の構成を外れるよう処理を施した。但し、今回用いた表4の条件は、あくまでも一例であって、どれくらいの板厚で条件を切り替えるか、各条件の数値をどのように設定するかは、最終的に所望する圧延銅箔の結晶構造等に応じて適宜選択することができる。比較例の条件に示したように、概して、急激な減厚を図ると本構成を外れる傾向にある。
また、特に、表4に示す各々の条件の最下段にてパス数を調整することで、最終的に得られる圧延銅箔の厚さを調整することができる。本実施例および比較例では最終的な厚さを12μmとしたが、これより厚いもの、例えば18μm厚さの圧延銅箔を得るには、12μm厚さの場合よりパス数を減らせばよい。また、12μmより薄いもの、例えば9μm厚さの圧延銅箔を得るには、12μm厚さの場合よりパス数を増やせばよい。
また、優れた耐屈曲性を得るため、実施例1〜5および比較例1〜5の全てにおいて、最終冷間圧延工程での総加工度が94%以上となるように条件を設定した。具体的には、実施例1〜5および比較例1〜5ともに、総加工度を97%とした。以上により、厚さが12μmの実施例1〜5および比較例1〜5に係る圧延銅箔を製作した。
以上のように製作した各圧延銅箔について次の評価を行った。
(2θ/θ法によるX線回折測定)
まずは、実施例1〜5および比較例1〜5に係る圧延銅箔に対し、2θ/θ法によるX線回折測定を行った。測定方法の詳細について、図2を用いて以下に説明する。図2は、本発明の実施例及び比較例におけるX線回折の測定方法の概要を示す図である。
図2に示すように、実施例1〜5および比較例1〜5に係る圧延銅箔の試料片50を、上述の通り、θ軸、ψ軸、φ軸の3つの走査軸回りに回転可能に配置する。これら3つの走査軸は、一般に、それぞれ試料軸、あおり軸、面内回転軸と呼ばれる。本実施形態におけるX線回折の測定には、銅(Cu)管球から発生するX線(Cu Kα線)を用いるものとする。
2θ/θ法を用いたX線回折測定では、入射X線に対して試料片50と図示しない検出器とをθ軸で走査(θ軸周りに回転)する。このとき、試料片50の走査角を角度θとし、検出器の走査角を角度2θとする。これにより、上述の通り、角度θで入射X線が入射され、角度2θで回折された回折X線が検出される。
本実施例および比較例では、株式会社リガク製のX線回折装置(型式:Ultima IV)を用い、以下の表5に示す条件で係る測定を行った。代表として、図3(a),(b)に実施例1,2のX線回折チャートを、図3(c)に比較例1のX線回折チャートをそれぞれ示す。
次に、2θ/θ法により測定した銅結晶の{022}面、{002}面、{113}面、{111}面、及び{133}面の回折ピーク強度を合計値が100となるような比に
換算し、各結晶面の回折ピーク強度比を求めた。また、上述の式(1)に係る値(I{022}+I{002})を求めた。以下の表6に、実施例1〜5および比較例1〜5に係る圧延銅箔について、上述のように求めた各結晶面の回折ピーク強度比I{022}、I{002}、I{113}、I{111}(式(2))、I{133}の値、および、式(1)の値を示す。
上述のように、本実施例及び比較例では、最終冷間圧延工程での1パスあたりの加工度や中立点の位置を変化させている。これにより、冷間圧延加工時に、加工対象物に加わる圧縮成分と引張成分との応力成分の比が変化する。その結果、各結晶面の比率が変わり、表6に示す各結晶面の回折ピーク強度比や、式(1)に係る値も変化している。
また、表6に示すように、実施例1〜5の各条件の組み合わせでは、式(1),(2)の各値はいずれも上述の所定範囲内にあった。
一方、比較例1〜5の各条件の組み合わせでは、いくつかの圧延銅箔において、式(1),(2)の各値のうち、1つ、または、両方の値が上述の所定範囲外となった。表6中、上述の所定範囲を外れた値を下線付きの太字で示した。
(X線Pole−Figure法による測定)
次に、実施例1〜5および比較例1〜5に係る圧延銅箔に対し、X線Pole−Figure法による測定を行った。係る測定の方法には、後述するあおり角度ψを15°〜90°の範囲とする反射法と、0°〜15°の範囲とする透過法とがある。本実施例では、上述の実施形態で説明したように、反射法を用いた。測定方法の詳細について、図2を用いて以下に説明する。
図2に示すように、X線Pole−Figure法を用いた測定では、上述の2θ/θ法を用いたX線回折測定と同様に、各圧延銅箔の試料片50を配置する。
また、X線Pole−Figure法では、以下のように規定されるあおり角度ψを利用して測定を行う。つまり、試料片50に垂直な方向(φ軸方向)のあおり角度ψを90
°と定義する。また、着目する結晶面である{hkl}面に幾何学的に対応する結晶面である{h’k’l’}面が{hkl}面となす角度をψ’とする。このとき、あおり角度ψ=90−ψ’と規定される。
このような規定の元、試料片50をψ軸走査(ψ軸周りに回転)し、あおり角度ψを15°以上90°以下の範囲内で変化させる。つまり、上述の範囲内のあおり角度ψで試料片50を傾けていく。このようにあおり角度ψを変化させながら、複数のあおり角度ψにおいて、2θ/θ法と同様に回折X線を検出する。つまり、あおり角度ψが90°のとき、原理的に2θ/θ法と同様の測定を行っていることとなる。
また、各あおり角度ψにおける測定にあたっては、検出器の走査角を角度2θに固定し、{h’k’l’}面の2θ値に対して試料片50をφ軸走査(φ軸周りに回転)し、面内回転角度φを0°以上360°以下の範囲内で変化させる。つまり、上述の範囲内の面内回転角度φで試料片50を自転させる。このようにして測定された{h’k’l’}面の回折ピークにつき、面内回転角度φが0°以上360°以下の範囲内の回折ピークの平均強度を、各あおり角度ψについて求める。
このとき、所定のあおり角度ψにおいて検出された{h’k’l’}面は、圧延銅箔の圧延面に平行な{hkl}面と幾何学的に対応する。本実施例において着目すべき{hkl}面は、{013}面および{023}面である。圧延銅箔の圧延面に平行な{013}面と幾何学的な対応関係にあるのは、あおり角度ψが47°において検出される{111}面である。また、圧延銅箔の圧延面に平行な{023}面と幾何学的な対応関係にあるのは、あおり角度ψが53°において検出される{111}面である。
よって、上述の通り、X線Pole−Figure法を用いて得られた{111}面の回折ピークの平均強度のグラフから、本実施例の圧延銅箔が所定の結晶構造を備えるか否かを判定することができる。
本実施例および比較例では、株式会社リガク製のX線回折装置(型式:Ultima IV)を用い、以下の表7に示す条件で上述のような測定を行った。図4〜8に、実施例1〜5に係る{111}面の回折ピークの平均強度をプロットして作成したグラフを示す。また、図9〜13に、比較例1〜5に係る{111}面の回折ピークの平均強度をプロットして作成したグラフを示す。
図4〜13までのグラフの横軸はあおり角度ψ(°)であり、縦軸は回折ピーク強度(
任意単位)である。グラフには、上述のX線Pole−Figure法を用いた測定によ
り求めた各平均強度がプロットされている。また、グラフには、グラフの範囲内での{111}面の回折ピークの平均強度の最大値[B]とその4分の1の値を示す。また、グラフには、あおり角度ψがそれぞれ47°,53°での{111}面の回折ピークの平均強度を結ぶ直線と、その縦軸切片[A]とを示す。
図4〜13に示すように、実施例1〜5の結果では、いずれも縦軸切片[A]がグラフの最大値[B]の4分の1未満となって上述の式(3)を満たしていた。一方で、比較例1〜5の結果では、いずれも縦軸切片[A]がグラフの最大値[B]の4分の1以上となって上述の式(3)を満たさなかった。
(耐屈曲性の評価)
次に、各圧延銅箔の耐屈曲性を調べるため、各圧延銅箔が破断するまでの繰返し曲げ回数(屈曲回数)を測定する屈曲疲労寿命試験を行った。係る試験は、信越エンジニアリング株式会社製のFPC高速屈曲試験機(型式:SEK−31B2S)を用い、IPC(米国プリント回路工業会)規格に準拠して行った。図14には、信越エンジニアリング株式会社製のFPC高速屈曲試験機等も含む、一般的な摺動屈曲試験装置10の模式図を示す。
まずは、実施例1〜5および比較例1〜5に係る圧延銅箔を幅12.5mm、長さ220mmに切り取った、厚さが12μmの試料片50に、上述の再結晶焼鈍工程に倣い、300℃、60分間の再結晶焼鈍を施した。係る条件は、フレキシブルプリント配線板のCCL工程で、基材との密着の際に圧延銅箔が実際に受ける熱量の一例を模している。
次に、図14に示すように、圧延銅箔の試料片50を、摺動屈曲試験装置10の試料固定板11にネジ12で固定した。続いて、試料片50を振動伝達部13に接触させて貼り付け、発振駆動体14により振動伝達部13を上下方向に振動させて試料片50に振動を伝達し、屈曲疲労寿命試験を実施した。屈曲疲労寿命の測定条件としては、曲げ半径10rを1.5mmとし、ストローク10sを10mmとし、振幅数を25Hzとした。係る条件下、各圧延銅箔から切り取った試料片50を5枚ずつ測定し、破断が発生するまでの屈曲回数の平均値を比較した。以下の表8に結果を示す。
表8に示すように、実施例1〜5および比較例1,3においては、いずれも上述の式(1)を満たすので、屈曲回数が200万回以上の高い耐屈曲性が得られた。一方、上述の式(1)を満たさない比較例2,4,5においては、いずれも屈曲回数が200万回を大幅に下回る結果となってしまった。
ここで、着目すべきは、比較例2,4,5であっても、もともと比較的高水準の耐屈曲性を備えている点である。これは、例えば上述の特許文献3等で実績が得られている総加工度が94%以上、具体的には、総加工度が97%の最終冷間圧延工程を経ているためである。実施例1〜5においては、更に、上述の式(1)を満たすことにより、耐屈曲性の更なる向上が可能となった。
(耐折り曲げ性の評価)
続いて、各圧延銅箔の耐折り曲げ性を調査した。耐折り曲げ性についての一般的な試験の規格では、例えばFPC用途等で要求される180°の折り曲げについての標準化がなされていない。そこで、図15に示す手法により、各圧延銅箔に割れが生じるまでの折り曲げ回数を測定する折り曲げ試験を行った。
すなわち、まずは、実施例1〜5および比較例1〜5に係る厚さ12μmの圧延銅箔の片面に、厚さ25μmのポリイミド系樹脂を塗って300℃、60分間の熱処理を施し、ポリイミド系樹脂を硬化させた。係る熱処理は、上述のCCL工程および再結晶焼鈍を模したものである。その後、圧延銅箔を、圧延方向に対し、幅15mm、長さ100mmに切り取って、ポリイミド系樹脂が硬化したポリイミド系樹脂層51pを備える圧延銅箔51fの試料片51とした。次に、図15に示すように、厚さが0.4mmのスペーサ20を挟み込むように、ポリイミド系樹脂層51pを内側にして試料片51を180°折り曲げた。そして、この状態で折り曲げ部分の圧延銅箔51fの表面を金属顕微鏡で観察して割れの有無を確認した。割れがなければ、試料片51を折り曲げた状態から元の伸ばした状態に戻した。これを1サイクルとして、各圧延銅箔から切り取った試料片51の5枚ずつについて、1サイクル毎に折り曲げ部分の観察をしつつ、割れが発生するまでサイクルを繰り返し、折り曲げ回数を測定した。以下の表9に結果を示す。
表9に示すように、上述の式(1)〜(3)を全て満たす実施例1〜5のいずれにおいても、折り曲げ回数は20回以上となり、優れた耐折り曲げ性が得られた。
一方、いずれの比較例においても式(3)を満たしておらず、折り曲げ回数は20回未満となった。よって、充分な耐折り曲げ性は得られなかった。これは、式(2)を満たす比較例1〜3についても同様である。これらの耐折り曲げ性は、他の比較例よりは高めだが、実施例と比べて劣っていた。つまり、式(2)の制御により耐折り曲げ性を向上させるには、式(3)を満たしていることが前提となっていると考えられる。
(2)タフピッチ銅を用いた圧延銅箔
次に、目標濃度を200ppmとするAgを添加したタフピッチ銅を用い、上述の実施例と同様の手順及び手法で、厚さが12μmの実施例6,7および比較例6に係る圧延銅箔を製作した。但し、比較例6については、上述の表4の条件等、構成を外れる処理等を含めた。
実施例6,7および比較例6の鋳塊中におけるAg濃度は、IPC発光分光分析法により得た分析値で、それぞれ199ppm、193ppmおよび195ppmであった。全て目標濃度に対して±10%程度内のバラツキであって、金属材料の分野では一般的なものである。なお、中間焼鈍工程および生地焼鈍工程では、係る濃度のAgを含有するタフピッチ銅材の耐熱性に合わせた温度条件を用いた。具体的には、中間焼鈍工程では650℃〜750℃の温度で約2分間保持し、生地焼鈍工程では約700℃の温度で約1分間保持した。また、これらの実施例及び比較例についても、上述の表4の条件を最終冷間圧延工程に適用した。
以上のように製作した実施例6,7および比較例6に係る圧延銅箔について、上述の実施例と同様の手法及び手順で2θ/θ法によるX線回折測定およびX線Pole−Figure法を用いた測定を行い、上述の式(1),(2)を求め、また、上述と同様にグラフを作成した。以下の表10に、2θ/θ法によるX線回折測定の結果を示す。また、図16〜18に、X線Pole−Figure法を用いて作成した実施例6,7および比較例6に係るグラフをそれぞれ示す。
また、実施例6,7および比較例6に係る圧延銅箔に対し、上述と同様の再結晶焼鈍を施した後、上述の実施例と同様の手法及び手順で屈曲疲労寿命試験および折り曲げ試験を行った。
以下の表11に、上述の結果のまとめを示す。表11中、上述の式(1)〜(3)のいずれかの所定範囲を外れた値を下線付きの太字で示した。
表11に示すように、いずれの実施例および比較例に係る圧延銅箔も式(1)を満たし、屈曲回数が200万回以上の良好な耐屈曲性が得られた。また、比較例6を除き、いずれの実施例も式(3)を満たし、折り曲げ回数が20回以上の耐折り曲げ性が得られた。ここで、式(2)を満たすが式(3)を満たさない比較例6の耐折り曲げ性は悪く、式(2)を満たさないが式(3)を満たす実施例6の耐折り曲げ性は比較的良好である。このことから、上述の通り、耐折り曲げ性の向上には、式(3)を満たすことが前提となっていることがわかる。式(3)を満たしたうえで更に式(2)を制御すれば、実施例7のように、より一層優れた耐折り曲げ性が得られる。
以上のことから、各条件が所定範囲内であれば、タフピッチ銅を主原材料とする圧延銅箔についても、良好な耐折り曲げ性を得て、更に耐屈曲性の向上を図ることができることがわかった。
(3)異なる添加材を用いた圧延銅箔(AgおよびTi添加)
次に、目標濃度を120ppmとするAgおよび目標濃度を40ppmとするチタン(Ti)を添加材として加えた無酸素銅を用い、上述の実施例と同様の手順及び手法で、厚さが12μmの実施例8,9および比較例7,8に係る圧延銅箔を製作した。但し、比較例7,8については、上述の表4の条件等、構成を外れる処理等を含めた。
実施例8,9および比較例7,8の鋳塊中におけるAg濃度は、IPC発光分光分析法により得た分析値で、それぞれ110ppm、115ppm、113ppmおよび110ppmであった。また、Ti濃度は、それぞれ38ppm、36ppm、37ppmおよび36ppmであった。全て目標濃度に対して±10%程度内のバラツキであって、金属材料の分野では一般的なものである。
また、中間焼鈍工程および生地焼鈍工程では、このような濃度のAgおよびTiを含有する無酸素銅材の耐熱性に合わせた温度条件を用いた。具体的には、中間焼鈍工程では温度650℃〜750℃で約2分間保持し、生地焼鈍工程では約700℃の温度で約1分間保持した。また、これらの実施例及び比較例についても、上述の表4の条件を最終冷間圧延工程に適用した。
以上のように製作した実施例8,9および比較例7,8に係る圧延銅箔について、上述の実施例と同様の手法及び手順で2θ/θ法によるX線回折測定およびX線Pole−Figure法を用いた測定を行い、上述の式(1)〜(3)を求めた。
また、実施例8,9および比較例7,8に係る圧延銅箔に対し、上述と同様の再結晶焼鈍を施した後、上述の実施例と同様の手法及び手順で屈曲疲労寿命試験および折り曲げ試験を行った。
以下の表12に、上述の結果のまとめを示す。表12中に示す上述の式(1)〜(3)のいずれかの所定範囲を外れた値を下線付きの太字で示した。
表12に示すように、実施例8,9に係る圧延銅箔については、各結晶面の回折ピーク強度の関係が式(1)〜(3)を全て満たしていた。このため、いずれも良好な耐屈曲性を得ることができた。一方、比較例8に係る圧延銅箔については、式(1)を満たすことで良好な耐屈曲性が得られたが、式(3)が所定範囲を外れたために、式(2)を満たしてはいるものの耐折り曲げ性が悪いという結果となってしまった。また、比較例7に係る圧延銅箔については、式(1)が所定値を外れるため耐屈曲性が悪く、また、式(2),(3)は所定範囲内であったが、耐折り曲げ性が悪いという結果となってしまった。比較例7においては、式(1)が所定値を外れていることが耐折り曲げ性の悪化の要因と考えられる。すなわち、式(1)を満たすことで、再結晶焼鈍工程前に所定量の{002}面が圧延銅箔中に含有されていることが、式(3)の制御による耐折り曲げ性の向上の前提であると考えられる。
以上のことから、各条件が所定範囲内であれば、AgとTiとのような異なる添加材を添加した圧延銅箔についても、良好な耐屈曲性及び耐折り曲げ性が得られることがわかった。
(4)異なる添加材を用いた圧延銅箔(AgおよびB添加(その1))
次に、目標濃度を120ppmとするAgおよび目標濃度を100ppm〜200ppmとする硼素(B)を添加材として加えた無酸素銅を用い、上述の実施例と同様の手順及び手法で、厚さが12μmの実施例10,11および比較例9,10に係る圧延銅箔を製作した。但し、比較例9,10については、上述の表4の条件等、構成を外れる処理等を含めた。
実施例10,11および比較例9,10の鋳塊中におけるAg濃度は、IPC発光分光分析法により得た分析値で、それぞれ110ppm、120ppm、115ppmおよび120ppmであった。全て目標濃度に対して±10%程度内のバラツキであって、金属材料の分野では一般的なものである。また、B濃度は、それぞれ115ppm、180ppm、155ppmおよび110ppmであった。上述の100ppm〜200ppmの範囲内で制御されており、所定値内である。Bは酸化性が強いため、また、原子量が小さく軽いため、鋳造中に酸化してしまい、溶融した銅から分離して、溶湯中にノロとよばれるカス(スラグ)が浮いてしまう。溶湯に浮いたノロは、Bの喪失分となってしまうので、上述のようなある程度幅を持たせた濃度制御範囲とするのが一般的である。
また、中間焼鈍工程および生地焼鈍工程では、このような濃度のAgおよびBを含有する無酸素銅材の耐熱性に合わせた温度条件を用いた。具体的には、中間焼鈍工程では温度
630℃〜780℃で約2分間保持し、生地焼鈍工程では約700℃の温度で約1分間保持した。また、これらの実施例及び比較例についても、上述の表4の条件を最終冷間圧延工程に適用した。
以上のように製作した実施例10,11および比較例9,10に係る圧延銅箔について、上述の実施例と同様の手法及び手順で2θ/θ法によるX線回折測定およびX線Pole−Figure法を用いた測定を行い、上述の式(1)〜(3)を求めた。
また、実施例10,11および比較例9,10に係る圧延銅箔に対し、上述と同様の再結晶焼鈍を施した後、上述の実施例と同様の手法及び手順で屈曲疲労寿命試験および折り曲げ試験を行った。
以下の表13に、上述の結果のまとめを示す。表13中に示す上述の式(1)〜(3)のいずれかの所定範囲を外れた値を下線付きの太字で示した。
表13に示すように、実施例10,11に係る圧延銅箔については、各結晶面の回折ピーク強度の関係が式(1)〜(3)を全て満たしていた。このため、いずれも良好な耐屈曲性および耐折り曲げ性を得ることができた。一方、比較例9に係る圧延銅箔については、式(1)〜(3)が全て所定値を外れ、耐屈曲性も耐折り曲げ性も共に悪いという結果となってしまった。また、比較例10に係る圧延銅箔については、式(1)を満たすことで良好な耐屈曲性が得られたが、式(2),(3)が所定範囲を外れ、耐折り曲げ性が悪いという結果となってしまった。但し、式(1)〜(3)が全て所定値外となった比較例9よりは、耐折り曲げ性が若干改善された。
以上のことから、各条件が所定範囲内であれば、AgとBとのような異なる添加材を添加した圧延銅箔についても、良好な耐屈曲性及び耐折り曲げ性が得られることがわかった。
(5)異なる添加材を用いた圧延銅箔(AgおよびB添加(その2))
次に、上述と同様、AgとBとを添加した圧延銅箔について、上述の式(1)〜(3)に加え、表面粗さに係る式(4),(5)の効果を検証した。
(圧延銅箔の製作)
まずは、目標濃度を120ppmとするAgおよび目標濃度を100ppm〜200ppmとする硼素(B)を添加材として加えた無酸素銅を用い、上述の実施例と同様の手順及び手法に加え、後述するように圧延銅箔の表面粗さを制御しつつ、厚さが12μmの実施例12〜18および比較例11〜31に係る圧延銅箔を製作した。但し、比較例11〜31については、後述する1パスあたりの加工度や中立点の位置、圧延ロールの表面粗さ
等、主に最終冷間圧延工程において、構成を外れる処理等を含めた。
実施例12〜18および比較例11〜31の鋳塊中におけるAg濃度は、IPC発光分光分析法により得た分析値で、以下の表14に示すように、100ppm〜140ppmと、全て目標濃度に対して±20ppm程度内のバラツキであった。このようなバラツキは、例えば100ppm〜300ppmの範囲内で希薄合金を製造する場合に、鋳造条件等によっては鋳造時に混入し得る量である。つまり、鋳造する銅の原材料に混入し得る量と、鋳造における一般的なバラツキ量との総量が、上述の範囲内のバラツキとなる。また、Bについては、以下の表15に示すように、100ppm〜195ppmと目標濃度の範囲内で制御されており、上述のように、ノロによる喪失分等を考慮すれば所定値内である。
また、中間焼鈍工程および生地焼鈍工程では、このような濃度のAgおよびBを含有する無酸素銅材の耐熱性に合わせた温度条件を用いた。具体的には、中間焼鈍工程では温度630℃〜800℃で約2分間保持した。ここでの温度の上限値は、「AgおよびB添加(その1)」よりもAg濃度の最大値が高かったことを受けて、高めに設定した。また、生地焼鈍工程では約700℃の温度で約1分間保持した。
また、本実施例及び比較例については、以下の表16の条件を最終冷間圧延工程に適用した。表16の条件を適用するにあたっては、繰り返し工程後の銅条(生地)の厚さを0.3mm(300μm)とし、厚さが300μm以下における冷間圧延加工の、1パスあたりの加工度と中立点の位置とを、表16のように変化させた。
表16に示す2つの条件のうち、左側が所定の構成の範囲内となるよう調整された条件である。全ての実施例および一部の比較例について、この範囲内で条件を振って、それぞれが所定の構成の範囲内となるよう処理を施した。また、右側の条件は、所定の構成を外れるよう調整された条件である。残りの比較例について、この範囲内で条件を振って、それぞれが所定の構成を外れるよう処理を施した。表16の条件についても、上述の表4と同様、例示的なものである。
例えば、本実施例および比較例では、繰り返し工程後の銅条(生地)の厚さを300μmとしたが、繰り返し工程後の厚さが400μm〜100μmの範囲内のいずれかの厚さであれば、同様に、1パスあたりの加工度を35%未満とし、中立点の位置を0.4mm以上とする表4もしくは表16に記載の実施例と同様の条件を用いることができる。また、繰り返し工程を、400μmを超える厚さで終了したときは、係る厚さから400μmに減厚されるまでは、最終冷間圧延工程における1パスあたりの加工度および中立点の位置は問わない。400μmに到達した後の圧延加工においては、表4もしくは表16の実施例と同様の条件とすればよい。
また、最終冷間圧延工程では、算術平均粗さRaが0.075μm以下の表面粗さが小さい圧延ロールを実施例12〜18、及び比較例16〜18,24,26,29に使用し、算術平均粗さRaが0.080μm以上の表面粗さが大きい圧延ロールを残りの比較例11〜15,19〜23,25,27,28,30,31に使用した。
また、本実施例及び比較例については、総加工度を96%と、低めの設定とした。
以下の表17に、実施例12〜18と同様の圧延条件で処理した比較例を○、異なる圧延条件で処理した比較例を×で示す。また、実施例12〜18と同様の圧延ロールで処理した比較例を○、異なる圧延ロールで処理した比較例を×で示す。
(X線回折測定)
以上のように製作した実施例12〜18および比較例11〜31に係る圧延銅箔について、上述の実施例と同様の手法及び手順で2θ/θ法によるX線回折測定およびX線Pole−Figure法を用いた測定を行い、上述の式(1)〜(3)を求めた。それぞれの結果を、以下の表18に示す。表18中、上述の所定範囲を外れた値を下線付きの太字で示した。
(表面粗さ測定)
続いて、実施例12〜18および比較例11〜31に係る圧延銅箔の表面粗さをみるため、十点平均粗さRzjis及び算術平均粗さRaの測定を行った。係る測定には、株式会社小坂研究所製の表面粗さ測定機(型式:SE500)を用いた。測定条件としては、触針径を2μm、測定速度を0.2mm/sec、測定長を4mm、抜き取り基準長さを0.8mm、荷重を0.75mN以下とした。測定結果を、以下の表19に示す。
上述のように、本実施例及び比較例では、最終冷間圧延工程において、算術平均粗さRaの異なる圧延ロールをそれぞれ用いている。よって、表19に示すように、表面粗さが小さい圧延ロールを用いた実施例および一部比較例の各条件の組み合わせでは、圧延銅箔の表面は比較的平坦化され、十点平均粗さRzjis及び算術平均粗さRaのいずれも上述の所定範囲内となった。
一方、表面粗さが大きい圧延ロールを用いた残りの比較例においては、いずれか一方、或いは両方の表面粗さの値が上述の所定範囲外となった。表19中、上述の所定範囲を外
れた値を下線付きの太字で示した。
(耐屈曲性および耐折り曲げ性の評価)
次に、実施例12〜18および比較例11〜31に係る圧延銅箔に対し、上述と同様の再結晶焼鈍を施した後、上述の実施例と同様の手法及び手順で屈曲疲労寿命試験および折り曲げ試験を行った。以下の表20に、結果を示す。
表20に示すように、実施例12〜18に係る圧延銅箔については、各結晶面の回折ピ
ーク強度の関係が式(1)〜(3)をすべて満たし、また、表面粗さの式(4),(5)も共に満たしていた。このため、いずれも良好な耐屈曲性および耐折り曲げ性を得ることができた。また、圧延銅箔の表面粗さについて考慮していない上述の実施例1〜11と比較しても、耐折り曲げ性は格段に向上しており、また、折り曲げ回数が115回〜121回と、バラツキの小さい結果が得られた。一方で、上述の実施例1〜11と比較して、耐屈曲性が総じて低めとなっているのは、本実施例における最終冷間圧延工程での総加工度を低めに設定したためである。総加工度の効果が弱い状況下であっても、本実施例の構成を適用することで、耐屈曲性を向上させる効果が認められた。
一方、比較例11〜31に係る圧延銅箔については、式(1)〜(5)の少なくとも1つ、或いは複数の値が所定値を外れ、優れた耐屈曲性、および安定的に優れた耐折り曲げ性を共に兼備させることはできなかった。但し、少なくとも式(1)を満たす比較例11〜14,16〜22,27,30については、耐屈曲性は実施例と略同等の高い値が得られた。また、比較例29については、式(1)のみを満たさず、耐屈曲性が劣っていたが、式(2)〜(5)の全てが所定範囲内となっており、他の比較例よりも耐折り曲げ性に優れる結果となった。耐折り曲げ性が実施例より劣るのは、式(1)を満たしていないためと考えられ、やはり、式(1)の値も耐折り曲げ性に関与していると推察される。以下の表21に、すべての結果をまとめたものを示す。表21中、式(1)〜(5)までの項目に関し、○は所定値内、×は所定値外を示す。また、耐屈曲性及び耐折り曲げ性の項目に関し、○は良、×は否を示す。
以上のことから、表面粗さの小さい圧延ロールを用いるなどして圧延銅箔の表面粗さを制御することにより、耐折り曲げ性をいっそう向上させることができることがわかった。
(6)異なる添加材を用いた圧延銅箔(Sn添加)
次に、目標濃度を30ppm〜100ppmとする錫(Sn)を添加材として加えた無酸素銅を用い、上述の実施例と同様の手順及び手法で、厚さが12μmの実施例19〜25および比較例32〜52に係る圧延銅箔を製作した。但し、比較例32〜52については、上述の表16の条件や圧延ロールの表面粗さ等、構成を外れる処理等を含めた。
実施例19〜25および比較例32〜52の鋳塊中におけるSn濃度は、IPC発光分
光分析法により得た分析値で、以下の表22に示すように、いずれも目標濃度の範囲内に制御されていた。
また、中間焼鈍工程および生地焼鈍工程では、このような濃度のSnを含有する無酸素銅材の耐熱性に合わせた温度条件を用いた。具体的には、中間焼鈍工程では温度750℃〜850℃で約2分間保持し、生地焼鈍工程では約800℃の温度で約1分間保持した。また、これらの実施例及び比較例については、上述の表16の条件を最終冷間圧延工程に適用した。
また、最終冷間圧延工程では、算術平均粗さRaが0.075μm以下の表面粗さが小さい圧延ロールを実施例19〜25、及び比較例37〜39,45,47,50に使用し、算術平均粗さRaが0.080μm以上の表面粗さが大きい圧延ロールを残りの比較例32〜36,40〜44,46,48,49,51,52に使用した。
また、本実施例及び比較例については、上述の実施例12〜18等と同様、総加工度を96%と低めの設定とした。
以下の表23に、実施例19〜25と同様の圧延条件で処理した比較例を○、異なる圧延条件で処理した比較例を×で示す。また、実施例19〜25と同様の圧延ロールで処理した比較例を○、異なる圧延ロールで処理した比較例を×で示す。
以上のように製作した実施例19〜25および比較例32〜52に係る圧延銅箔について、上述の実施例と同様の手法及び手順で2θ/θ法によるX線回折測定およびX線Pole−Figure法を用いた測定を行い、上述の式(1)〜(3)を求めた。以下の表24に、2θ/θ法によるX線回折測定の結果を示す。表24中、式(1),(2)のいずれかの所定範囲を外れた値を下線付きの太字で示した。
また、実施例19〜25および比較例32〜52に係る圧延銅箔に対し、上述と同様の再結晶焼鈍を施した後、上述の実施例と同様の手法及び手順で屈曲疲労寿命試験および折り曲げ試験を行った。
以下の表25に、上述の結果のまとめを示す。表25中に示す上述の式(1)〜(5)のいずれかの所定範囲を外れた値を下線付きの太字で示した。
表25に示すように、実施例19〜25に係る圧延銅箔については、各結晶面の回折ピーク強度の関係が式(1)〜(3)をすべて満たし、また、表面粗さの式(4),(5)も共に満たしていた。このため、いずれも優れた耐屈曲性および安定的に優れた耐折り曲げ性を得ることができた。
一方、比較例32〜52に係る圧延銅箔については、式(1)〜(5)の少なくとも1つ、或いは複数の値が所定値を外れ、優れた耐屈曲性、および安定的に優れた耐折り曲げ性を共に兼備させることはできなかった。但し、少なくとも式(1)を満たす比較例32〜35,37〜43,48,51については、耐屈曲性は実施例と略同等の高い値が得ら
れた。また、比較例50については、式(1)のみを満たさず、式(2)〜(5)の全てが所定範囲内となっていた。このため、耐屈曲性が劣るほか、他の比較例よりも優れ、実施例よりも劣った耐折り曲げ性が得られた。
上述の比較例29および比較例50等の結果は、耐屈曲性に対する要求があまり高くなく、耐折り曲げ性のみを主に向上させたいような場合に適用できることがわかる。つまり、式(1)については過度の制御を行わず、式(2)〜(5)の複数の値のみを制御することで、比較的高い耐折り曲げ性が得られる。
以上のことから、各条件が所定範囲内であれば、Snのような異なる添加材を添加した圧延銅箔についても、良好な耐屈曲性及び耐折り曲げ性が得られることがわかった。
<本発明者等による考察>
上述の圧延銅箔の製造工程における副方位の結晶面の制御および表面粗さの制御に対する本発明者等の考察について、以下に説明する。
(1)結晶回転について
上述のように、最終冷間圧延工程等の圧延加工時、銅材には、圧縮応力と、圧縮応力よりも弱い引張応力とが加わっている。圧延される銅材中の銅結晶は、圧延加工時の応力によって{022}面への回転現象を起こし、圧延加工の進展とともに、圧延面に平行な結晶面の方位が主に{022}面である圧延集合組織を形成する。このとき、上述のように、圧縮応力と引張応力との比により、{022}面へと向かって回転する経路が変わる。これについて、図19を用いて説明する。
図19は、下記の技術文献(イ)から引用した純銅型金属の逆極点図であって、(a)は引張変形による結晶回転方向を示す逆極点図であり、(b)は圧縮変形による結晶回転方向を示す逆極点図である。なお、逆極点図では、{002}面を{001}面と表記し、{022}面を{011}面と表記することになっている。つまり、{002}面は、{002}面に平行な面の最小数値である{001}面で表わし、{022}面は、{022}面に平行な面の最小数値である{011}面で表わす。
(イ)編著者 長嶋晋一、“集合組織”、丸善株式会社、昭和59年1月20日、p96の図2.52(a),(c)
図19に示すように、銅材中の銅結晶は、引張応力による変形のみでは{111}面へと向かって回転し、圧縮応力による変形のみでは{011}面へと向かって回転する。圧延加工では、圧縮成分と引張成分とが合わさった変形をするため、結晶回転方向はこれほど単純ではない。ただし、引張成分より圧縮成分が優勢となって変形し、圧延加工がされるので、総じて{011}面へと向かう結晶回転を起こしつつ、圧縮成分と引張成分との割合によって{111}面へも一部回転しようとする。このとき、圧縮成分の方が優勢であるので、{111}面へと回転しかけた結晶が{011}面へと戻される結晶回転も起きる。また、これとは逆に、{011}面へと向かって回転している結晶や{011}面に到達した結晶が、引張成分によって{133}面や{111}面へ向かって回転する場合もある。
このように、圧縮成分と引張成分とが、圧縮成分>引張成分の関係を保ちながら混在する中で結晶回転が起こると、最終的には主方位の結晶面は{011}面となり、また、圧縮成分と引張成分との混合による結晶回転の結果、副方位の結晶面は、{001}面、{113}面、{111}面、{133}面になると考えられる。
また、圧縮応力による結晶回転で経由する結晶面として、{013}面や{023}面等もある。図20に示す逆極点図の結晶方位は一般的なものであるが、図中に{013}面、{023}面およびこれらの結晶面との方位差が比較的小さい結晶面の領域を描き加えた。図20に示すように、圧縮応力による結晶回転では、{013}面や{023}面等を経由して{011}面({022}面)へと回転していく。圧延加工時の回転では、圧縮応力>引張応力の関係にあることから、{013}面や{023}面、或いはこれらの結晶面との方位差が比較的小さい結晶面からなる結晶群の領域を通る場合が多い。図20の逆極点図において、この領域付近の副方位が耐折り曲げ性に多大な影響を及ぼし得る。また、{022}面への回転途中、この領域で回転が止まってしまったこれら{013}面や{023}面等の結晶群の状態、つまり、これらの結晶群が集合組織を形成しているか否かも、上述の通り、耐折り曲げ性に影響を与える可能性があると推察される。
圧延加工では、上述のように、圧延される銅材に圧縮応力と、圧縮応力よりも弱い引張応力との両方が加わらなければ、銅材の形状を保ちながら圧延することはできない。つまり、圧縮応力のみでは、単なるプレス加工と同様、放射状に伸び広がった形状となってしまう。圧縮応力>引張応力という前提のもと、{022}面まで回転が到達しなかった方位の残存や、引張応力の影響により、{111}面へ向けて回転した結晶が副方位となる。このように、耐折り曲げ性を低下させる{111}面は引張応力によって形成された副方位であり、同じく耐折り曲げ性を低下させる{013}面や{023}面は、圧縮応力によって形成された副方位である。
よって、圧延銅箔の圧延面における{111}面や、{013}面、{023}面の占有率をなるべく抑えるには、圧縮応力と引張応力のバランスを適宜調整しながら圧延することが重要となる。
(2)最終冷間圧延工程における特性制御
圧縮成分と引張成分とは、上述の実施形態に係る最終冷間圧延工程S40でも行っている通り、例えば圧延加工時の1パスあたりの圧延条件を変化させることで制御することができる。つまり、上述の実施形態や実施例にて試みたように、例えば1パスあたりの加工度の変化に着目することができる。
また、上述の実施形態や実施例においては、最終冷間圧延工程における1パスあたりの加工度と併せ、中立点の位置制御も行っている。つまり、圧縮成分と引張成分との制御パラメータの調整にあたっては、例えば中立点の位置変化に着目することも可能である。
上述の加工度や中立点の位置等の制御因子は圧延機の構成に関わるところであり、圧延機の仕様に依存するところが大きい。具体的には、圧延ロールの段数、圧延ロールの総数、圧延ロールの組み合わせ配置、各圧延ロールの径や材質や表面状態(表面粗さ)等の圧延ロールの構成などの違いにより、銅材への圧縮応力の加わり方や摩擦係数等に違いが生じる。圧延機が異なれば、上述の実施例で挙げた条件に係る各制御因子もその絶対値が異なるため、圧延機ごとに適宜調整することができる。また、同じ圧延機においても、圧延ロールの表面状態や圧延ロールの材質が異なれば、各制御因子の絶対値が異なる。よって、同じ圧延機であっても、それぞれの状態に応じて適宜調整することができる。
上述の実施形態や実施例においては、圧延ロールの表面粗さによる制御も行っている。例えば、1パスあたりの加工度を一定とし、圧延ロールの表面粗さを変えると、圧延される銅材が受ける摩擦係数が変わって、中立点の位置が変わり圧延荷重も変わる。その結果、圧延加工における圧縮応力と引張応力とのバランスが変わり、銅結晶の回転方向や回転経路が変わる。
(3)圧延ロールの表面粗さによる特性制御
上述のように、本発明者等は、圧延銅箔の表面粗さを十点平均粗さRzjisおよび算術平均粗さRaで規定し、これらを所定値以下に抑えることで、圧延銅箔の耐折り曲げ性を向上させることができることを見いだした。
このように、圧延銅箔に優れた耐折り曲げ性を安定的に付与する表面粗さは、例えば次に挙げる因子により制御することができる。すなわち、主な因子には、圧延油の粘度η、圧延ロールの回転速度U0、圧延時の銅材の速度U1、噛み込み角α、平均圧延圧力p、圧延ロールの表面粗さ(算術平均粗さRa)等がある。これらの因子のうち、圧延ロールの算術平均粗さRa以外の諸因子は、油膜の厚みに対応する油膜当量tdとして、下記の技術文献(ロ)を参考とする次式(B)のように1つにまとめることができる。
td={η(U0+U1)}/αp・・・(B)
(ロ)小豆島明、“圧延中の油膜厚み及びロールと材料の表面あらさについて”、日本機械学会論文集(第3部)、44巻377号、昭和53年1月、p332−339
圧延ロールの算術平均粗さRa以外の諸因子により規定される油膜当量tdを一定に保つことができれば、これら諸因子の影響を軽減して、主に圧延ロールの算術平均粗さRaのみによって、圧延銅箔の表面粗さを種々に制御することができる。
ここで、上述の式(B)に係る圧延ロールの回転速度U0、圧延時の銅材の速度U1、平均圧延圧力pは、圧延条件での1パスあたりの加工度や中立点を制御する制御因子でもある。1パスあたりの加工度や中立点を制御するため、これらの制御因子を変化させた場合、油膜当量tdを一定に保つには、例えば以下の手法がある。つまり、例えば圧延油の粘度ηを3×10−3N/m2・s〜5×10−3N/m2・sの範囲で一定に制御すると、噛み込み角αが一定となる。よって、油膜当量tdを一定に制御することができる。
上述の実施形態に係る最終冷間圧延工程S40では、例えば油膜当量tdを適宜調整したうえで、圧延ロールの表面粗さを所定値とすることとしたので、所定の表面粗さを備える圧延銅箔を製造することができる。
なお、上述の実施形態や実施例において、圧延ロールの表面粗さを算術平均粗さRaにより規定したのは、以下の理由からである。
すなわち、圧延ロールは、最終冷間圧延工程S40で使用され、銅材の変形加工に係る重要な工具である。よって、圧延ロール全体の状態をできるだけ隈なく捉えることが重要となる。したがって、凹凸差を1点で捉える最大高さRzや各5点ずつで捉える十点平均粗さRzjis等ではなく、面または線で捉える算術平均粗さRaを用いることとした。これにより、圧延ロールの全体的な表面粗さを把握することができる。
なお、耐折り曲げ性を向上させる圧延銅箔の表面粗さは、他の制御因子を用いて制御してもよい。
(4)その他の制御因子
また、上述の実施形態や実施例においては、最終冷間圧延工程における圧延ロールの表面粗さを含めた圧延条件により銅結晶の回転方向や回転経路を制御したが、他の工程においても同様の制御は可能である。
例えば、最終冷間圧延工程の圧延条件を一定とし、最終冷間圧延工程直前までの製造工
程の条件を変更することで、最終冷間圧延工程にも影響が及び、最終冷間圧延工程における回転方向や回転経路を間接的に変化させることが可能と考えられる。但し、上述の実施形態や実施例のように、最終冷間圧延工程における圧延条件を変化させれば、回転方向や回転経路を直接的に制御することができ、制御性をいっそう高めることができる。
このように、最終冷間圧延工程後における圧延銅箔の結晶方位の状態は、特定の製造方法により限定されるものではない。圧延銅箔の結晶方位の状態は、種々の手法により制御することができ、その方法は幾通りも存在するからである。