JP5077629B2 - 硬質炭素被膜 - Google Patents
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Description
例えば、通常の平滑な鋼材表面の無潤滑下での摩擦係数が0.5〜1.0であるのに対して、硬質炭素被膜においては、無潤滑下での摩擦係数が0.1程度である。
また、このような硬質炭素被膜にAgのクラスターを設ける方法も示されている(特許文献2参照)。
この他、このような硬質炭素被膜に適宜の金属元素を加えた上、更に膜中の酸素の含有量を制御することで低い摩擦係数を得ている(特許文献3参照)。
更に、上記特許文献3では、金属元素の含有量と、酸素の含有量の双方を制御する必要があることから、より簡便なプロセスが望まれている。また、この場合、潤滑油中にモリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)のような極圧添加剤が必要なため、効果を発揮できる潤滑油の種類が限られるという問題があった。
該被膜中にコバルト及び/又はニッケルを合計で1.4原子%〜39原子%含有し、
該被膜中に存在するコバルト凝集体及びニッケル凝集体は、被膜断面を透過型電子顕微鏡で観察した際の該顕微鏡像上で、等価円直径が5nmを超える該凝集体の占める領域が面積比で30%以下であり、
該被膜表面にナノチューブを有することを特徴とする。
上記ナノチューブの面密度が、1cm 2 あたり10 4 本以上10 8 本以下であることや、上記顕微鏡像上で、等価円直径が5nmを超える凝集体の占める領域の面積比をX%とし、該被膜中のコバルト及び/又はニッケルの合計含有量をY原子%としたときに、次式
X<4Y
で表される関係を満たすことを特徴とする。
また、該被膜中に存在するCo凝集体、Ni凝集体の双方について、被膜断面を透過型電子顕微鏡で観察した際の該顕微鏡像上で、等価円直径が5nmを超える該凝集体の占める領域を、面積比で30%以下とする。
更に、該被膜表面には、ナノチューブを有するようにする。ナノチューブは直径数nm〜数十nmの円筒状の形状を有する物質で、炭素から成るナノチューブ(カーボンナノチューブ)が最もよく知られている。
即ち、被膜中にコバルトやニッケルを添加したことによって、硬質炭素被膜の表面は、潤滑剤中の基剤(基油)成分やこれに含まれる添加剤成分を吸着する能力が向上し、表面にこれら基油や添加剤から成る薄い膜が形成される。
これによって、面圧が高い条件又は摺動速度が遅い条件、いわゆる境界潤滑条件においても、形成された膜が相手材との直接接触を防ぐという機構によって低い摩擦係数が発現するものと考えられる。
また、コバルトやニッケルが凝集体の状態で存在する場合、その周囲の炭素が本来のアモルファスでなくグラファイトとなっている箇所が多く見られるため、この観点からも凝集体の生成は抑制することが望ましい。なお、低摩擦を目的とした硬質炭素被膜においては、グラファイト成分が多くなることは一般に好ましくないとされている。
合計で1.4原子%未満では上記の吸着効果が十分に発揮されない。吸着の効果を十分に得るためには、できれば3原子%以上、より好ましくは6原子%のコバルトやニッケルを添加するとよい。
一方、コバルトやニッケルの添加量が合計で39原子%を超えた場合には、推測ではあるが、炭素原子のネットワーク構造がコバルトやニッケル原子が存在することによって乱されるために、硬質炭素被膜が本来有する低摩擦性能や硬さが損なわれると、推測できる。このため、添加量は39原子%以下、好ましくは20原子%以下、より好ましくは16原子%以下に留めるのがよい。
このため、等価円直径で5nmを超える凝集体の生成が抑制されていればよい。即ち、被膜断面を透過型電子顕微鏡で観察した際の該顕微鏡像上で、等価円直径が5nmを超える該凝集体の占める領域が面積比で30%以下になるようにする。好ましくは12面積%以下であることがよい。なお、等価円直径で5nmを超える凝集体は、もちろん少なければ少ないほどよい。
そこで、凝集体の存在比は、添加したコバルト及びニッケルの合計量に対しても、一定以下の割合に抑制することが好ましい。
即ち、上記顕微鏡像上で、等価円直径が5nmを超える凝集体の占める領域の面積比をX%とし、該被膜中のコバルト、ニッケルのいずれか一方又は双方の合計含有量をY原子%としたときに、次式
X<4Y
で表される関係を満たすように凝集体の存在比を調整することが好ましい。
このような水素含有量の低い硬質炭素被膜は、例えば、スパッタリング法やイオンプレーティング法など、水素や水素含有化合物を実質的に使用しないPVD法(物理気相堆積法)によって成膜することができる。かかるスパッタリング法においては、雰囲気ガスに炭化水素ガスを加えることもできるが、本発明では炭化水素ガスを加えないことが望ましい。
具体的には、成膜をPVD法により行い、炭素源にもグラファイトなど炭化水素を含まないものを用い、雰囲気に炭化水素系ガスを加えなかった場合は通常、膜内の水素含有量は1原子%以下に抑えられる。
ここで、成膜原理としてスパッタリング法とアークイオンプレーティング法を比較した場合、金属凝集体のできにくさ(抑制のしやすさ)という点では、スパッタリング法が一般に優位である。
但し、スパッタリング法でも条件によっては凝集体が発生するので、プロセス条件の適切な設定が重要であることは言うまでもない。具体的には成膜速度を遅くする、基板の温度を下げるなどの方法があるが、これらに限定されない。
この状態で、スパッタリングにより順次、金属を含有する非晶質炭化水素が基材上に堆積するが、この際ナノチューブは表面にほぼ垂直に立った状態のままなので、形成される非晶質炭素の膜に次第に埋まりこんでいく。そして、成膜終了後は、被膜から先端が飛び出した状態となる。そして相手材と摺動する際に、ちょうどブラシのように相手とこすれることで、次第に相手を平滑にする。
本数が大きすぎるとナノチューブの凝集体の発生により、その箇所を起点に膜が損耗する可能性が出てくる。
短すぎると全てが膜内に埋まりこんで効果が得られず、長すぎると摩擦係数がむしろ高くなったり、ナノチューブの凝集体が発生したりするおそれがある。もちろん、市販のナノチューブは一般にその長さに分布を有し、長さを全て測定して使うのは非現実的なので、平均長さの公称値などを参考にして上記の範囲に収まるものを使えばよい。また、使用するナノチューブ全ての長さが上記の範囲に収まっている必要もない。
上記潤滑剤としては、具体的には、自動車用のエンジン油などを用いることができる。特に、添加剤を含有するものを用いることができる。より詳しくは、該添加剤が、その分子内に水酸基を有していることが好ましい。上記添加剤としては、脂肪酸のモノグリセリドなどが挙げられるが、これに限定されないことは当然である。
このときは、上述のように、分子内の水酸基が、該硬質炭素被膜の表面に吸着し、相手材との直接接触を緩和する作用を発揮し得ると推察できるからである。
但し、水酸基の数が多すぎる場合は基油成分と分離することもあるので、部品の使用状況(主に温度)に応じて適宜添加剤を選択するのがよい。
コーティングには、マグネトロンスパッタリング(MS)ターゲットを備えてなる真空成膜装置を用いた。
基材として浸炭鋼(日本工業規格 SCM415)からなる直径30mm、厚さ3mmの円板を準備し、その表面をRa0.020μmに超仕上げ加工した。
(1)成膜時間
成膜プロセス時間については、予備実験で求めた成膜レートから計算した。予備実験ではコバルト板なしに、炭素ターゲットのみで上記と同条件で成膜した。予備実験の結果、成膜レートは毎時0.34μmと求められた。このレートから成膜時間を逆算した。(1.0÷0.34=2時間56分)
得られた硬質炭素被膜について膜中の元素の分析を行った。
コバルトについては、X線光電子分光法(XPS)を用い、アルゴンガスで表面からエッチングしながら深さプロファイルを測定した。試料表面から5nm、10nm、15nmの3点でコバルト濃度を測定し、それらの平均をもって膜中の平均含有量とした。
測定の結果、コバルト含有量は11原子%であった。
凝集体の観察は透過型電子顕微鏡によった。凝集体の寸法が十分に大きい場合は走査型電子顕微鏡での観察も可能であるが、5nm程度となると透過型電子顕微鏡を用いることとなる。本分析においては高分解能透過型電子顕微鏡を、加速電圧300kVで用いた。
図1に透過型電子顕微鏡で観察される硬質炭素被膜の画像を模式的に示す。同図に示すように、母相1(アモルファス炭素と、そのほかカーボンナノチューブと、均質に分布した添加金属とから成る)と、凝集体2とは明確に識別できる。
また、観察の視野が小さいと統計的な変動の影響を受けるので、本分析では250nm×250nmの範囲を撮影した上で分析した。
表面におけるナノチューブの密度は、走査型電子顕微鏡で観察した。表面の走査型電子顕微鏡像を撮影し、画像上で映っているナノチューブの本数を調べ、面密度を計算した。本分析では100μm×100μmの範囲で本数の定量を行った。
その結果、面密度は1cm 2 あたり4×10 6 本と求められた。
当該試料について、ボールオンディスク法による摩擦特性の評価を行った。試験に際して、潤滑剤として自動車用エンジン油5W−30SLを用いた。
試料をこのエンジン油中で回転させ、軸受鋼(日本工業規格 SUJ2)から成る直径6mmのボールを押し当て、このボールを保持しているアームにかかるトルクを測定することにより摩擦係数を計算した。摺動痕の直径は10mm、油温は80℃とした。また、上記ボールにかけた垂直荷重は9Nである。
なお、ボールは固定しており、摺動によって転がることのないようにした。摺動速度は毎秒2.5cmとした。
本例の硬質炭素被膜の摩擦係数は、0.020であった。
これらの結果をまとめて表1に示す。
スパッタリングのターゲットにおいて、頂角を2.5°に変更した以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。
実施例2におけるバイアス電圧を90Vに変更した以外は、実施例2と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。
実施例1におけるコバルトターゲットをニッケルに変更した以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。
実施例1におけるコバルトターゲットの大きさを変えた例である。コバルトターゲットを頂角7.5°の扇形形状とし、膜中のコバルト量を制御した以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。
実施例1と、基板バイアス電圧及びプラズマ励振電力を変更した例である。バイアス電圧を90V、励振電力を300Wとした以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。
実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。但し、摩擦特性は、以下に示す別の潤滑剤中で評価した。被膜中のコバルト量、凝集体量、ナノチューブの面密度は実施例1と同じとみなし、測定を行わなかった。
実施例7では、ポリアルファオレフィン(PAO)に、グリセリンモノオレイト(GMO)を1体積%添加し、よく混合して潤滑剤として用いた。
実施例8では、エンジン油5W30SLにGMOを1体積%添加した。
実施例9では、PAOにグリセリンジオレイト(GDO)を1体積%添加した。
摩擦係数はそれぞれ、0.011、0.013、0.014であった。これらの結果を表1に示す。
実施例1における、コバルトターゲットの大きさ、基板バイアス電圧及びプラズマ励振電力を変更した例である。コバルトターゲットを頂角2.5°の扇形形状とし、バイアス電圧は120V、励振電力は600Wとした以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。
実施例1におけるナノチューブ供給源の大きさ・個数を変えた例である。
実施例11では5mm角で厚さ4mmのものを1個、実施例12では1cm角で厚さ4mmのものを1個、実施例12では2cm角で厚さ4mmのものを4個、それぞれターゲット上に載せ、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。
Co含有量はそれぞれ7原子%、10原子%、7原子%、凝集体量はそれぞれ11面積%、13面積%、9面積%、ナノチューブの面密度は1cm 2 あたり6×10 4 本、3×10 5 本、7×10 7 本であった。
摩擦係数は順に、0.024、0.018、0.016であった。これらの結果を表2に示す。
ターゲット上にナノチューブ供給源を置かなかった例である。その他の条件については、基板バイアス電圧及びプラズマ励振電力を変更し、これら以外は実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。
Coの凝集体量が多かった例である。スパッタリングのコバルトターゲットを頂角7.5°の扇形形状とし、バイアス電圧は90V、励振電力は400Wとした以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。
また、その中でも、凝集体の量を膜中の金属含有量に対し一定以下に抑えた場合には特に低い摩擦係数が得られた。
2 凝集体
3 硬質炭素被膜
4 観察用試料
5 分割前の亜鈴形状の輪郭線
6 分割線
Claims (6)
- 非晶質炭素を主成分とする硬質炭素被膜であって、
該被膜中にコバルト及び/又はニッケルを合計で1.4原子%〜39原子%含有し、
該被膜中に存在するコバルト凝集体及びニッケル凝集体は、被膜断面を透過型電子顕微鏡で観察した際の該顕微鏡像上で、等価円直径が5nmを超える該凝集体の占める領域が面積比で30%以下であり、
該被膜表面にナノチューブを有することを特徴とする硬質炭素被膜。 - 上記ナノチューブの面密度が、被膜表面において1cm 2 あたり10 4 本以上10 8 本以下であることを特徴とする請求項1に記載の硬質炭素被膜。
- 上記顕微鏡像上で、等価円直径が5nmを超える凝集体の占める領域の面積比をX%とし、該被膜中のコバルト及びニッケルの合計含有量をY原子%としたときに、次式
X<4Y
で表される関係を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の硬質炭素被膜。 - 潤滑剤中で使用されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の硬質炭素被膜。
- 上記潤滑剤は添加剤を含有して成り、該添加剤は分子内に水酸基を有することを特徴とする請求項4に記載の硬質炭素被膜。
- 上記潤滑剤が自動車用エンジン油であることを特徴とする請求項4又は5に記載の硬質炭素被膜。
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