近年、ICチップを内蔵したカードやタグによる情報の管理運用システムが普及している。これらに用いられるカードやタグは一般に「ICカード」や「ICタグ」と呼ばれ、従来の印刷・筆記式、磁気記録式のカード・タグなどに比べて、多量の情報を記録・保持できる点で有用であることから、人や物品の各種情報を管理運用する諸分野で活用されている。
ICカードまたはICタグを構成するプラスチック材料として、従来はポリ塩化ビニル(PVC)を用いることが主流であった。しかしながら、近年、環境保護の観点からハロゲン元素を用いない代替素材の要望が高まり、カードの素材はポリエステル系樹脂に主流が代わってきている。ポリエステル系樹脂からなるシートまたはフィルムとしては、非晶性でPVCに近い加工特性を有する点から1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合成分として含む共重合ポリエステル(PETG)からなる無配向シート、あるいは、汎用性の点から二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが主に用いられている。
これらのシートやフィルムを用いてICカードやICタグを製造するにおいては、シートやフィルムの表面にICチップやアンテナ回路などを配したインレットシートの片面または両面に別のシートやフィルムを配し、その間にホットメルト接着剤などを挟んで熱プレスを行うことで、溶融接着させて積層体を得ている。しかし、この製造方法においては生産性や製品の性能の面で解決しがたい幾つかの問題を抱えている。
生産性における問題点の一つは生産速度の問題である。つまり現行の製造方法がICカードを数枚ないし数十枚を重ねていちいちプレスして製造する工程ゆえに、単位時間当たりに製造できる数量が限られるという問題である。この問題に対しては、一回のプレスで積層するセット数を増やしたり、プレスの判を大きくしたりすることで一応の改善が図られているが、これによって向上できる生産性は高々現状の数倍から十倍程度であり、今後予想されるICカードやICタグの爆発的な普及に対応することは恐らく困難である。
また、生産性における別の問題点は、プレス面全体で均一な圧力や温度を加えることがプレスという設備・工程の性質上困難であり、不良品の発生率を著しく低減するのが困難という問題である。この問題に対しては、電気回路の設計上の工夫や耐熱性の向上などによって一応の改善が図られているが、今後予想される高機能化すなわち回路の微細化や複雑化に対応することが恐らく困難である。
また、製品の性能における問題点の一つは、個々のICカードやICタグにおいて、アンテナの利得ひいては通信可能距離にバラつきが生じるという問題である。これは現行の製造方法が接着剤を用いて熱プレス接着する方法であるがゆえに、接着剤層の厚みを厳密に制御するのが困難であり、プレスのロット内もしくはロット間でバラつきを生じるものである。非接触方式で識別されるICカードやICタグは、その内部に有するアンテナやコイルが外部の読み取り装置との間で電気的な交信を行うことで識別される。アンテナやコイルのごく近傍の空間を占める素材の誘電率や誘電損失は、これらの電気的特性を決定的に支配する要因であるため、接着層の厚みにバラつきが生じることは製品の性能にバラつきを生じさせる決定的要因となる。
本発明では、前述の三つの問題(生産速度、不良率、品質のバラつき)を改善したICカードまたはICタグの製造方法、すなわちロール状に巻き取られた複数のウェブ状基材を巻き出しながら積層して連続で熱ラミネートする工程を有するICカードまたはICタグの製造方法を提案する。
本発明において、従来技術としては、以下のような製造方法などが開示されている。
(1)ロール状素材に配線を印刷してICを積載するICタグロールの製造方法(例えば、特許文献1を参照)
(2)ロール状のICカード材料を用いたICカードの製造方法(例えば、特許文献2を参照)
(3)二本のベルトの間にプラスチックシートを供給して加熱ロールで熱した後に、液状オイルを圧媒とする連続プレス工程で接着させるICカードの製造方法(例えば、特許文献3を参照)
(4)上下のラミネートフィルムをラミネートロールで接着するICカードの製造方法(例えば、特許文献4を参照)
(5)回路モジュールの表面に接着剤を介してカバーシートを接着し、低温・低圧でロールプレスしたのち、高温・高圧で静圧プレスするICカードの製造方法(例えば、特許文献5を参照)
(6)接着剤として紫外線硬化型樹脂を使用し、ロール加圧によって接着剤層を平坦化した後に紫外線照射して接着剤層の厚みが均一なICカードを製造する方法(例えば、特許文献6を参照)
(7)ロール状のシート材に反応型接着剤を塗布してICチップを封入した後にシート材で挟み込み、接着剤を反応・硬化させるICカードの製造方法(例えば、特許文献7を参照)
(8)ICカード基盤表面に軟化温度が低い樹脂層を予め被覆してから、プラスチックフィルムや接着剤層を積層するICカードの製造方法(例えば、特許文献8を参照)
特開2005−259091号公報
特開2001−229361号公報
特開平10−217658号公報
特開平8−216574号公報
特開2000−57295号公報
特開平10−175388号公報
特開2005−332384号公報
特開平11−111743号公報
これらの文献においては、連続的な製造工程においてICカードまたはICタグを製造する方法が一応開示されており、生産性を向上する製造方法は一応示されている。
しかしながら、特許文献1の方法ではフィルムなどを積層してこれらを製造する方法が検討されておらず、特許文献3および6,7の方法では結局プレス工程によって製造するために生産性の向上および不良率の軽減が十分図られず、特許文献2および4〜8の方法では結局接着剤を用いるため接着剤層の厚みムラを改善することが困難であり、生産速度と不良率、品質のバラつきを全て改善できる技術は提案されていなかった。
つまり、従来技術においては、共押出しによって予め接着剤層を形成したウェブ状の二軸延伸ポリエステルフィルムを用い、プレス工程を有しないラミネートロール接着工程によって接着剤を用いずに製造することによって、生産速度と不良率、品質のバラつきを全て改善できるICカードまたはICタグの製造方法は開示されていなかった。
また、共押出しによって接着剤層を形成することで接着剤層の厚みを均一化させてICカードの誘電特性を改善する技術や、プレス工程を経ないラミネート接着工程によって不良率を改善する技術は記載も示唆もされておらず、ICカードの製造方法における生産速度と不良率、品質のバラつきを全て改善できる技術は提案されていなかった。
また、本発明で用いるような接着剤層を形成したウェブ状の二軸延伸ポリエステルフィルムについては、類似した構成を有するものが従来開示されている。
(11)ポリエステルフィルムの表面に無定形ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂からなる層を設けた金属板被覆用フィルム(例えば、特許文献11を参照)
(12)ポリエステルフィルムの表面に不活性粒子と非晶性ポリエステル樹脂からなる層を設けたコンデンサー用熱接着性ポリエステルフィルム(例えば、特許文献12を参照)
(13)ポリエステルフィルム上にポリオレフィン樹脂とポリエステル樹脂からなるシーラント層を設けた食品包装用袋(例えば、特許文献13を参照)
(14)非晶性ポリエステルシートの表面に非晶性ポリエステル樹脂と共重合有機粒子からなる層を設けたカード(例えば、特許文献14)
(15)非晶性ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂からなるシートの両面に非晶性ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂からなる耐熱層を設けたカード(例えば、特許文献15)
特開平9−85917号公報
特開2003−142332号公報
特開2004−1888号公報
特開2001−180162号公報
特開2003−159774号公報
これらの文献においては、表面に熱接着層を有したフィルムが一応開示されており、これらをICカードまたはICタグの製造に用いることは、ある程度類推することが可能である。
しかしながら、特許文献11および12のフィルムは金属に対する接着性を改善したものであり、ICカードやICタグの製造に好適な、厚みが大きく著しく結晶性の低い熱接着層においては、十分な滑り性や表面凹凸性、空気抜け性が得られないものであった。また特許文献13のフィルムはキャスト法によってシーラント層を設けたものであるため、シーラント層が延伸配向されておらず熱接着層厚みの均一性が不十分であった。また特許文献14および15のシートは基材本体が未配向の非晶性樹脂であるため、耐熱性が十分でなく、ラミネートの温度ひいては速度を向上させて生産性を改善するには不向きなものであった。
つまり、従来公知の熱接着性フィルムを本発明の製造方法に単純に適用するのは困難であり、本発明の製造方法のごとく、延伸配向により厚みが均一化された熱接着層を用い、当該層を非晶性ポリエステルとこれに非相溶な熱可塑性樹脂から構成することで、滑り性や空気抜け性に優れた大突起を形成しつつ、熱ラミネートによって平坦化可能な突起とすることは検討されていなかった。
本発明のICカードまたはICタグの製造方法は、ロール状に巻き取られた複数のウェブ状フィルムを巻き出しながら積層して連続で熱ラミネートする工程を有したICカードまたはICタグの製造方法であり、ウェブ状フィルムとして共押出しにより予め熱接着層を形成したウェブ状二軸延伸ポリエステルフィルム(以下、熱接着性ポリエステルフィルムと称する)を用い、プレス工程を有しないラミネートロール接着工程によって製造することを特徴とする。
また、本発明のICカードまたはICタグの製造方法は、アンテナ回路に隣接する層として接着剤層を配しないことがより好ましい実施形態である。
また、本発明のICカードまたはICタグの製造方法は、ウェブ状の二軸延伸ポリエステルフィルムとして、その内部に白色顔料または微細空洞を含有する白色ポリエステルフィルムを用いることがより好ましい実施形態である。
また、本発明のICカードまたはICタグの製造方法は、共押出しにより形成される熱接着層として、非晶性ポリエステル樹脂Aとこれに非相溶な熱可塑性樹脂Bの混合物を用い、ウェブ状フィルムとしてその表面に熱可塑性樹脂Bに起因する突起を有するフィルムを用いることがより好ましい実施形態である。
なお、本発明においてカードやタグは物品の形状や用途を示すものであり、プラスチックフィルムにアンテナ回路または金属コイル及びICチップを設けたインレットを含むものであれば、ICカードやICタグなどと形態や用途が異なったものも本発明に包含される。
以下に、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
[ICカードまたはICタグの製造方法]
本発明のICカードまたはICタグの製造方法では、まずロール状に巻き取られた複数のウェブ状フィルムを巻き出しながら積層する。従来一般に用いられているプレス工程による製造では基材フィルムなどを枚葉で積層しているが、本発明の方法ではロール状に巻き取られたウェブ状基材を用いるので、取り扱い性が大幅に向上するとともに、基材シート群の平置きに必要な広い保管場所も不要であり、保管やハンドリング中に荷崩れを起こしたり、一枚一枚のシートの間に異物などを混入したりするリスクも小さく、工程の煩雑さを大幅に軽減することができる。
ここで積層するウェブ状フィルムとしては、一方に熱接着性ポリエステルフィルムを用い、他方にその表面にアンテナ回路または金属コイルを設けてICチップなどを実装したシート状製品(一般に「インレット」と呼ばれる製品)を用いて積層する。インレットでは通常アンテナ回路や金属コイル、ICチップがむき出しの状態になっているため、上記熱接着性ポリエステルフィルムはこれらの電気回路に対面させる形でこれらを保護するように積層することが好ましい。本発明の熱接着層は熱ラミネート工程において容易に変形することが可能であり、回路やチップに起因する凹凸を効果的に緩和することが可能であり、これによって外観の美麗なカードやタグを製造することが可能である。
また、ここで積層するウェブ状フィルムとしては、上記に加えて別の熱接着性ポリエステルフィルムを二種類以上用いることも可能であり、その他にICカードの構成材料として一般的に用いられる二軸延伸ポリエステルフィルムや、非晶性ポリエステルシートなども用いることも可能である。なお本発明においては、接着剤シートなどを積層することは加工の高速化観点から好ましくなく、アンテナ回路に隣接する層として接着剤層を積層することは、電気的特性のバラつきを導くため好ましくない。
また、本発明のICカードまたはICタグの製造方法では、上記により巻き出した複数のウェブ状フィルムを、プレス工程を有しないラミネートロール接着工程によって連続で熱ラミネート接着する。
ここで行うラミネートロール接着は、加熱された一対以上のラミネートロールに積層した複数のウェブ状フィルムを導き、熱接着層の軟化温度以上の温度によって圧着することにより行うことが好ましい。本発明においては、熱接着性フィルムとして二軸延伸ポリエステルフィルムを用いて行うため、熱接着温度より十分高温に加熱して接着することが可能であり、未延伸シート群を積層する従来公知の方法に比べてより高温で、高速に接着することが可能である。
ラミネートを行うための加熱ロールとしては特に限定されないが、熱接着層の粘着を軽減するためにシリコーンゴムの如き耐熱ゴムロールや金属ロールを用いることが好ましい。また、熱接着層を鏡面仕上げとするためには、鏡面加工された金属ロールやクロム合金などでメッキされたロールを用いることも好ましい。
接着を行う温度としては、ポリエステル樹脂系の熱接着層を用いた場合、そのガラス転移温度より高温で行う必要があり、70℃以上で行うことが好ましく、90℃以上で行うことが生産効率を向上するためより好ましい。また、二軸延伸ポリエステルフィルムを用いることから、その耐熱限界から200℃以下で行う必要があり、180℃以下で行うことがより好ましく、160℃以下で行うことがより好ましい。これらの温度を超えて加熱を行った場合、フィルムが変形したり、搬送中のフィルムの張力に変動が生じたり、製造したICカードやICタグにカールを生じたりするため好ましくない。
ラミネートを行う際に搬送されたフィルムはラミネートロールによって加熱されて圧着されるが、一対のロールのみで急激に加熱すると、温度ムラやそれにともなう接着ムラ、変形が発生することがあり、ラミネートロールに導入される以前に予熱しておくことも好ましい。この予熱を行う方法は特に限定されないが、加熱されたロールを順次通過させる定法のほかに、熱風や赤外線などを用いた非接触ヒーターで行うことも可能である。製造装置の簡便性の上からは加熱ロールによる予熱が好ましく、ICカードやICタグの変形防止ひいては不良率の低減においては、非接触ヒーターによる方法が好ましい。
ラミネートロールに搬送する熱接着性フィルムは、製造されるカードやタグのカールを防止するため、予熱後に平面に保たれた状態でラミネートロールに導かれることが好ましい。またラミネートされた後には、平面に保たれた状態で十分に冷却された後に巻き取られることが好ましい。熱接着性フィルムとしてポリエステル系フィルムを用いる場合には、そのガラス転移温度より低い70℃以下で平面状に保持されるよう巻き出したのちにラミネートを行い、70℃以下まで冷却した後に巻き取ることが好ましい。
ラミネートの際に搬送されたウェブ状フィルムには、平面性を保つために制御した張力を加えて保持することが好ましい。この際に加える張力としては、平面性保持の観点から1N/m以上が好ましく10N/m以上がより好ましい。またフィルムの弾性変形ひいてはICカードやタグのカールを防ぐ観点から、1KN/m以下が好ましく、200N/m以下がより好ましい。
また、本発明の製造方法では、ラミネートロールで接着したICカードまたはICタグのウェブ状連続体をロール状に巻き取って保管したり、ハンドリングしたりすることが可能である。ただし、加熱接着した積層体を十分に冷却せずにロール状に巻き取った場合には、断裁後に使用するにあたって解決できないカールを生じる場合がある。これを防ぐためにはラミネート後に張力を除く前に、平面を保ったまま十分冷却することが好ましい。冷却する目標温度は設備条件などによって決まるため一意的には言及できないが、ウェブ状フィルムとして二軸延伸ポリエステルフィルムを用いる場合には概ね80℃以下に冷却することが求められ、50℃以下に冷却するのがより好ましく、室温まで冷却することがより好ましい。
また、カールを積極的に制御してICカードやICタグの平面性を向上させるためには、ラミネート時に両面の加熱温度に差をつけて、結果的に平面が得られるように調整することが好ましい。カールが表裏に貼り合せたフィルムの熱膨張によって生じる場合には、結果的に巻き内側となる面の加熱温度を反対面に対して低めに設定することが好ましい。
また、熱ラミネート時の圧力は0.1〜20MPaが好ましく、0.3〜10MPaがより好ましい。熱ラミネート時の圧力が0.1MPa未満の場合、カードやタグの平面性が十分でなく、美麗な外観が得られない。一方、熱ラミネート時の圧力が20MPaを超える場合、空洞含有ポリエステルフィルムを基材とする熱接着性ポリエステルフィルムを用いても、その優れたクッション性や凹凸吸収性の効果が、高い圧力によって小さくなる。その結果、ICチップなどの回路にかかる負担が過大になり、電気的故障が発生しやすくなる。
本発明で製造されるICカードまたはICタグの好ましい実施形態の一つは、フィルム内部に多数の微細空洞を含有させた空洞含有フィルムを基材とする熱接着性ポリエステルフィルム(見かけ密度が0.7〜1.3g/cm3)を用いたものであって、見かけ密度を0.7g/cm3以上、1.3g/cm3未満としたICカードまたはICタグである。カードまたはタグの見かけ密度の下限は0.8g/cm3がより好ましく、0.9g/cm3がさらに好ましい。一方、カードまたはタグの見かけ密度の上限は1.2g/cm3がより好ましく、1.1g/cm3がさらに好ましい。カードまたはタグの見かけ密度が、0.7g/cm3未満の場合には、カードやタグの強度や耐座屈性、圧縮回復率が低下し、加工時や使用時に適切な力学性能を得られなくなる。一方、カードまたはタグの見かけ密度が1.3g/cm3以上の場合には、ICカードまたはICタグとしての軽量性や柔軟性が得られなくなる。また、見かけ密度を0.7g/cm3以上、1.3g/cm3未満としたICカードまたはICタグは、水没事故の際に水面に浮き上がるか、もしくは沈没までの間に回収するに十分な時間を得ることができる。そのため、本形態のカードは、例えば、個人がその情報を記録して日常的に所持使用する個人情報の記録カードとして好適である。
[フィルムの構成]
また、本発明の製造方法においては、ウェブ状フィルムとして共押出しにより予め熱接着層を形成したウェブ状二軸延伸ポリエステルフィルムを用い、製造することを特徴とする。この二軸延伸ポリエステルフィルムについて詳述する。
本発明で用いる熱接着性ポリエステルフィルムは、基材とその基材の片面または両面に熱接着層が積層された構成からなる。基材としては、二軸延伸ポリエステルフィルムを用いることが、環境適性(ハロゲン化合物を含まない)のほか,耐熱性や耐薬品性、強度、剛性などの点から重要である。これによって、従来使用されてきた無配向のPVCシートやPETGシートなどに比べ、これらの特性が飛躍的に向上する。
また、本発明で用いる熱接着性ポリエステルフィルムは、その片面または両面に熱接着層を有することが肝要である。ここでいう熱接着層とは、加熱条件下において、ICカードまたはICタグを構成するプラスチックフィルムまたはシート、金属膜、これら表面に形成された各種塗布層と熱接着が可能な層である。この熱接着層を基材に積層することで、従来のICカードまたはICタグの素材であるPVCやPETGなどと同様の熱接着性を付与することができる。この熱接着層の厚みは一層あたり5μm以上かつ30μm以下とすることが重要である。熱接着層の厚みが5μm未満の場合、熱接着性と凹凸吸収性が不十分となる。一方、熱接着層の厚みが30μmを超える場合には、従来のPETGシートを材料として用いたカードと同様に、耐熱性や耐薬品性が低下する。熱接着層の厚みの下限は、8μmが好ましく、10μmより好ましい。一方、熱接着層の厚みの上限は、25μmが好ましく、20μmがより好ましい。
熱接着層を基材の表面に設ける手段としては、溶融させた原料を押出して未延伸シートを製造する工程において、2種類の樹脂を溶融状態で積層して押出す方法、いわゆる共押出し法を用いる。この方法によって積層した熱接着層は平面内の各部における厚みの変動が小さいため、接着剤などによる接着層に比べて各部位における誘電特性のバラつきが小さく、これを用いて製造されたICカードやICタグの電気的特性、ひいては通信距離を向上させることができる。
また、本発明で用いる熱接着性ポリエステルフィルムにおいて、基材の両面に熱接着層を設けることが、フィルムのカールを抑制する点から、好ましい実施の形態である。本発明において、熱接着層は主として非晶性樹脂から構成され、結晶性ポリエステル樹脂を主体とする基材とは熱膨張係数が大きく異なる。このため、基材の片面のみに熱接着層を設けた場合、加工条件や使用条件によってはバイメタルのようにカールする場合があり、平面性やハンドリング性の不良が懸念される。基材の両面に熱接着層を設ける場合、表裏の熱接着層の厚み比率は0.5以上かつ2.0以下であることが好ましい。この範囲を外れる場合には、上記の理由によってカールが発生する場合がある。なお、カールが発生した場合においても、無荷重の状態で110℃、30分間の加熱処理をした後のカール値が5mm以下であればハンドリング性に実質的な支障は生じない。より好ましくは、カール値が3mm以下であり、特に好ましくは1mm以下である。
また、カールを抑制するもう一つの方法としては、フィルムの表面と裏面に与える温度や熱量に積極的に差をつけ、結果としてカール値をゼロに近づける方法がある。具体的には、縦延伸や横延伸などの延伸工程及び熱固定工程で、フィルム表裏の温度又は熱量を異なる値とすることによって、フィルムの表面と裏面の配向度を独立して制御し、フィルムの表面と裏面の構造や物性をバランスさせる。その結果、カールを低減させることができる。この方法を用いる場合、フィルムを縦延伸する工程の加熱・冷却過程において、フィルムの表面と裏面を加熱するロールや赤外線ヒーターの温度を調整することは容易であり、好ましい方法である。
また、本発明で用いる熱接着性ポリエステルフィルムは、フィルム全体の厚みが50μm以上かつ350μm以下であることが好ましい。フィルム全体の厚みの下限は、70μmがより好ましく、90μmがさらに好ましい。一方、フィルム全体の厚みの上限は、280μmがより好ましく、200μmがさらに好ましい。フィルム全体の厚みが50μm未満の場合には、ICカードまたはICタグの基材として十分な厚みをなさなくなり、カード全体の耐熱性向上などに寄与しない。一方、フィルム全体の厚みが350μmを超える場合には、カードの標準的な厚み(JIS規格におけるカードは0.76mm)の中で、他のシートやフィルム、電気回路との組み合わせが制限される。
また本発明で用いる熱接着性ポリエステルフィルムでは、熱接着性や滑り性をより改善するために、あるいは、帯電防止性などの他の機能を付与するために、フィルムの表面に塗布層を設けることも可能である。塗布層を構成する樹脂や添加剤としては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、アクリル系樹脂など、通常のポリエステルフィルムの接着性を向上させるために用いられる樹脂、あるいは帯電防止性を向上させる帯電防止剤などが挙げられる。これらの樹脂や添加剤の中から好ましいものを選ぶ目安としては、本発明で用いる熱接着性ポリエステルフィルムと、それに積層する材料に対して親和性が高いことが好ましい。具体的には、表面張力や溶解度パラメーターが近い樹脂や添加剤を選ぶことが好ましい。ただし、硬化性の樹脂を厚く塗布した場合には、本発明の重要な効果である凹凸吸収性に支障をきたす恐れもあり、注意が必要である。
塗布層を設ける方法としては、グラビアコート方式、キスコート方式、ディップ方式、スプレイコート方式、カーテンコート方式、エアナイフコート方式、ブレードコート方式、リバースロールコート方式など通常用いられている方法が適用できる。塗布する段階としては、フィルムの延伸前に塗布する方法、縦延伸後に塗布する方法、配向処理の終了したフィルム表面に塗布する方法などのいずれの方法も可能である。
[熱接着層]
本発明で用いる熱接着性ポリエステルフィルムにおいて、熱接着層は非晶性ポリエステル樹脂Aを主たる構成成分とすることが重要である。
ここでいう非晶性ポリエステル樹脂Aとは、融解熱量が20mJ/mg以下のポリエステル樹脂である。なお、融解熱量は、JIS−K7122に記載の「プラスチックの転移熱測定方法」にしたがって、DSC装置を用いて、窒素雰囲気下、10℃/分の速度で加熱して測定される。本発明において、前記の融解熱量は10mJ/mg以下が好ましく、実質的に融解ピークが観察されないことがより好ましい。融解熱量が20mJ/mg以下とした場合においては、ラミネート工程において熱接着層が変形しやすく、ICチップやアンテナ回路などの凹凸をよりよく吸収して、平面性に優れたカードやタグを供することができる。
また、非晶性ポリエステル樹脂Aは、ガラス転移温度が50℃以上かつ95℃以下であることが重要である。なお、前記のガラス転移温度は、JIS−K7121に記載の「プラスチックの転移温度測定方法」にしたがって、DSC装置を用いて、窒素雰囲気下、10℃/分の速度で加熱し、得られたDSC曲線をもとに求められる中間点ガラス転移温度(Tmg)を意味する。非晶性ポリエステル樹脂Aのガラス転移温度の下限は、60℃が好ましく、70℃がより好ましい。一方、ガラス転移温度の上限は90℃が好ましく、85℃がより好ましい。ガラス転移温度が50℃未満の場合には、ICカードまたはICタグとして用いた際に耐熱性が不足して変形する、あるいはわずかな加熱で熱接着層が再剥離する。一方、ガラス転移温度が95℃を超える場合には、ICカードまたはICタグを製造する際により高い温度で加熱する必要が生じるため、生産速度を減じたり電気回路などへの負担が大きくなったりするため好ましくない。
非晶性ポリエステル樹脂Aの種類は特に限定されないが、汎用性やコスト、耐久性あるいはPETGシートなどに対する熱接着性の観点から、ポリエチレンテレフタレートに代表される芳香族ポリエステル樹脂の分子骨格に種々の共重合成分を導入したものが好ましく用いられる。導入する共重合成分のうち、グリコール成分としては、エチレングリコールやジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール(NPG)、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、プロパンジオール、ブタンジオールなどが挙げられる。一方、酸成分としては、テレフタル酸やイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。共重合成分としては、ガラス転移温度を低くし、低温での熱接着性を向上させることができるモノマーを選択する。このような重合成分としては、直鎖成分の長いグリコール、あるいは立体障害の大きい非線状構造の成分が挙げられる。後者の成分は、熱接着層の結晶性を効果的に低減させて凹凸吸収性を向上したい場合に用いる。本発明においては、PETGシートに対する熱接着性の観点から、CHDMやNPGが好ましく、NPGがより好ましい。
また、非晶性ポリエステル樹脂Aとしては、一般に接着剤用途として開発され、市販されているものもある。このような接着剤用樹脂を使用した場合、本来、接着剤として開発されたものであるため、幅広い素材に接着できる可能性がある。しかしながら、このような接着剤用樹脂は、二軸延伸フィルムの製造工程において安定的に共押出しすることが困難な場合がある。共押出しが安定的に行われない場合には、本発明の要点のひとつである熱接着層の厚みのバラつきが十分に低減されないことと成り、ICカードやICタグの電気特性を損なうこととなる。このような場合、押出機の温度の制御や熱接着層の厚みなどを十分に調整して、熱接着層の厚み分布を均一化することが必要である。
また、本発明において、熱接着層は、非晶性ポリエステル樹脂Aと、これに非相溶な非晶性または結晶性の熱可塑性樹脂Bを含み、海・島構造を形成している。熱可塑性樹脂Bは、熱接着層において分散体(島構造)として存在する。また、この海・島構造の島構造に起因する突起は、熱接着性ポリエステルフィルムに滑り性を付与し、熱接着の工程で該突起は潰れて平坦になり、熱接着性を阻害しない、という作用効果を有する。
以下、熱可塑性樹脂Bとして用いることができる非晶性熱可塑性樹脂と結晶性熱可塑性樹脂について説明する。
上記の非晶性の熱可塑性樹脂とは、融解熱量が20mJ/mg以下の熱可塑性樹脂である。なお、融解熱量は、JIS K 7122「プラスチックの転移熱測定方法」にしたがって、DSC装置を用いて、窒素雰囲気下、10℃/分の速度で加熱して測定される。
非晶性の熱可塑性樹脂は、熱接着層の内部において非晶性ポリエステル樹脂中において島構造を形成し、これに起因する突起が熱接着層の表面に形成される。この突起は、室温においては十分な硬さを維持して、フィルムの滑り性を向上させる必要がある。そのため、本発明において、島成分となる熱可塑性樹脂Bとして非晶性の熱可塑性樹脂を用いる場合には、樹脂のガラス転移温度が−50℃以上かつ150℃以下であることが重要である。なお、上記のガラス転移温度は、JIS K 7121に示される「プラスチックの転移温度測定方法」にしたがって、DSC装置により窒素雰囲気下で10℃/分の加熱過程で測定した、中間点ガラス転移温度を意味する。
非晶性の熱可塑性樹脂のガラス転移温度の下限は、−20℃が好ましく、0℃がより好ましい。非晶性の熱可塑性樹脂のガラス転移温度が−50℃未満の場合には、フィルムを取り扱う際に必要な滑り性が得られない場合や、ICカードまたはICタグを製造した後に熱可塑性樹脂成分が表面に滲出する場合がある。
また、この海・島構造による突起はラミネート接着工程で潰れて平坦になり、熱接着性を阻害しないように働く。本発明ではICカードまたはICタグを製造する際に行われるラミネートは、80〜150℃で好ましく実施される。そのため、上記の非晶性の熱可塑性樹脂のガラス転移温度の上限は、130℃がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。一方、非晶性の熱可塑性樹脂のガラス転移温度が150℃を超える場合には、通常の接着温度で十分な熱接着性が得られなくなり、より高い温度で熱接着した場合には電気回路などへの負担が大きくなるという問題がある。
一方、本発明において、熱接着層に添加して用いられる熱可塑性樹脂Bとして、結晶性の熱可塑性樹脂を用いることができる。前記の結晶性熱可塑性樹脂とは、融解熱量が20mJ/mgを超える熱可塑性樹脂である。なお、融解熱量は、JIS K 7122に記載の「プラスチックの転移熱測定方法」にしたがって、DSC装置を用いて、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で加熱して測定される。
この結晶性の熱可塑性樹脂は、非晶性ポリエステル樹脂Aと非相溶であるため、非晶性ポリエステル樹脂中で分散体として島構造を形成し、これに起因する突起が熱接着層表面に形成される。この突起は、室温においては硬さを維持して、フィルムの滑り性を向上させる必要がある。そのため、結晶性の熱可塑性樹脂は、融点が50℃以上かつ200℃以下の樹脂であることが重要である。なお、結晶性の熱可塑性樹脂の融点は、JIS K 7121に記載の「プラスチックの転移温度測定方法」にしたがって、DSC装置を用いて、窒素雰囲気下、10℃/分の速度で加熱して測定される。
結晶性の熱可塑性樹脂の融点の下限は、70℃がより好ましく、90℃がさらに好ましい。また、熱接着の工程においては潰れて平坦になることで接着を阻害しないように働かせるために、樹脂の融点が熱接着工程での最高温度よりも30℃以上超えることは好ましくない。より具体的には、樹脂の融点の上限は180℃がより好ましく、160℃がさらに好ましい。
本発明において、熱接着層に用いられる熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、非晶性ポリエステル樹脂と混合して用いることから、溶解度パラメーターの差がポリエチレンテレフタレートに比べて2.0(J/cm3)1/2以上となる樹脂が好適である。
非晶性で汎用性の高い樹脂としては、ポリスチレンやポリカーボネート、アクリル類、環状オレフィン類やその共重合体、立体規則性の低い低密度のポリプロピレンやポリエチレンなどオレフィン類やその共重合体などが挙げられるが、熱や紫外線、酸素に対する安定性が高く、より汎用的であることから、ポリスチレンやポリオレフィン類が好ましく、耐熱性が高い点からポリスチレンまたは環状オレフィン共重合体がより好ましい。
また、結晶性で汎用性の高い樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリエチレンプロピレンゴム、ポリ乳酸、ポリオキシメチレンなどが挙げられる。これらの中でも、熱や紫外線、酸素に対する安定性が高くより汎用的である点から、ポリエチレンまたはポリプロピレンが好ましく、融点が適切である点から、ポリエチレンまたはポリプロピレンがより好ましい。なお、ポリエチレンは、結晶性の点から、密度が0.90g/cm3を超える高密度ポリエチレンまたは直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。
また、本発明において、熱接着層に含有させる熱可塑性樹脂Bの量は、熱接着層を構成する材料に対して、1質量%以上で、かつ30質量%以下である。熱可塑性樹脂Bの含有量の下限は、3質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。一方、熱可塑性樹脂Bの含有量の上限は、25質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。熱可塑性樹脂Bの含有量が、1質量%未満の場合には、必要な滑り性が得られなくなる。一方、熱可塑性樹脂Bの含有量が、30質量%を超える場合には、粗大突起となり、フィルムの表面から脱落する場合、逆に滑り性が悪くなる場合、あるいは熱ラミネートで十分に平坦化せずに熱接着性が悪くなる場合がある。
また、本発明において、熱接着層の表面の最大高さが1.0μm以上で、かつ10μm以下であることが好ましい。熱接着層の表面の最大高さの下限は、1.2μmがさらに好ましく、1.5μmが特に好ましい。一方、熱接着層の表面の最大高さの上限は、8.0μmがより好ましく、5.0μmが特に好ましい。熱接着層の表面の最大高さが1.0μm未満の場合、十分な滑り性が得られず、フィルムのハンドリング性が困難になる。一方、熱接着層の表面の最大高さが10μmを超える場合には、擦過によってフィルムの表面の突起が脱落して工程を汚染したり、逆に滑り性が悪くなったりする。
また、本発明において、熱接着層の表面の最大高さ(St1)と算術平均表面粗さ(Sa1)との比(St1/Sa1)が、3.0以上で、かつ20以下であることが好ましい。St1/Sa1の下限は5.0がより好ましく、7.0が特に好ましい。一方、St1/Sa1の上限は16がより好ましく、12が特に好ましい。St1/Sa1が3.0未満の場合には、滑り性を改善することが困難となる。一方、St1/Sa1が20を超える場合には、熱接着性が得られにくくなる。
熱接着層の表面における突起の最大高さを適切な範囲に調節する方法としては、(1)非晶性ポリエステル樹脂Aの溶融粘度やガラス転移温度を選択する方法、(2)熱可塑性樹脂Bの溶融粘度やガラス転移温度、融点、表面張力、溶解度パラメーター、添加量を選ぶ方法、(3)熱接着層の樹脂をフィルム表面に押出す際の温度を選ぶ方法などが挙げられる。これらの方法のなかでも、非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度と、熱可塑性樹脂の種類や添加量、押出温度を調節する方法が容易で確実である。
また、本発明において、熱接着層の表面を、平滑でかつ清浄なガラス板に対向させて挟み、熱プレス処理(100℃,1MPa,1分間)した後の熱接着層の表面の最大突起高さ(St2)が、0.001μm以上で、かつ3.000μm以下であることが好ましい。
St2の下限は、0.005μmがより好ましく、0.01μmが最も好ましい。また、St2の上限は、2.500μmがより好ましく、2.000μm以下が最も好ましい。St2が0.005μm未満の場合は、熱ラミネートの際に熱接着層を構成する樹脂が流動し、加工安定性が不十分となる恐れがある。また、St2が0.01μmを超える場合には、熱ラミネート後でも突起が多数残っており、安定した接着力を発揮するに十分な接着界面が得られないため好ましくない。なお、St2を0.001〜3.00μmの範囲に調節するためには、結晶性熱可塑性樹脂の融点を50〜200℃の範囲内で調整するか、結晶性熱可塑性樹脂の含有量を1〜30質量%の範囲内で調節するのが効果的である。
また、本発明で用いる熱接着性ポリエステルフィルムでは、フィルムの表面と裏面を対向させ、その界面における静摩擦係数が0.1以上で、かつ0.8以下であることが好ましい。摩擦係数の下限は0.2がより好ましい。一方、摩擦係数の上限は0.7がより好ましく、0.6がさらに好ましく、0.5が特に好ましい。フィルムの表面と裏面との間の静摩擦係数を0.1未満にすることは、本発明の技術の範囲では困難である。一方、上記の静摩擦係数が0.8を超える場合には、フィルムのハンドリング性が著しく悪くなる。静摩擦係数を0.1〜0.8の範囲に調節するためには、上記のようにして、熱接着層の表面の最大高さを調節することや、熱接着層の弾性率や表面張力を調節することが好ましい。
また、静摩擦係数を上記の範囲に調節するための方法としては、熱接着層にワックス剤を添加するのも有効である。熱接着層は非晶性であることから弾性率が低く、相対的に粘性が高い。このような熱接着層では非相溶の熱可塑性樹脂や無機粒子、有機粒子を添加しても十分に摩擦係数を減じることができない場合があり、この際にワックス剤を添加することは有効である。ここで用いるワックス剤としては、一般に公知の様々なものを用いることが可能である。より具体的にはモンタンワックスなどの鉱物系ワックスやカルバナワックスなどの植物系ワックス、ポリエチレンやポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの低分子量合成樹脂を用いることが可能であるが、本発明ではポリエステル樹脂と溶融混合する観点から耐熱性が高く、不純物の少ない、低分子量合成樹脂が好ましく、中でも熱安定性の観点からポリエチレン系ワックスを用いることがより好ましい。
また、ICカードまたはICタグのコアシートの内部に配置されるICチップや電気回路の凹凸吸収性は、熱ラミネートによる賦形性の尺度として、賦形率及び賦形部の外縁の勾配というパラメーターで表現することができる。ここで賦形率とは、アンテナ回路または銅箔片を熱接着層の表面にのせ、熱プレスした後、常温常圧でアンテナ回路または銅箔片を取り除いた際に、アンテナ回路または銅箔片によって生じた熱接着層のくぼみの深さを意味し、賦形部の外縁の勾配とは、このくぼみの外縁における壁面の勾配を意味する。
また、本発明で用いる熱接着性ポリエステルフィルムでは、熱プレスによる賦形率が40%以上で、かつ105%以下であることが好ましい。本発明がICチップや電気回路の凹凸を吸収するという観点から、賦形率の下限は50%であることがより好ましく、60%であることがさらに好ましい。
この観点からは、賦形率の上限が高いほど理想的であることは言うまでもない。しかしながら、熱ラミネート工程で熱接着層が軟化・流動した場合に加工安定性が低下する懸念があることから、現実的には102%以下、より現実的には98%以下に留めることがより好ましい。なお、賦形率を40〜105%以下に調整する方法としては、熱接着層の厚みを5μm以上に調整したり、熱接着層を構成する非晶性ポリエステル樹脂Aや熱可塑性樹脂Bのガラス転移温度や融点をラミネート温度に近づけたり、混合比率、粘度、弾性率などを適宜調整することが重要である。
また、本発明において、熱プレスによる賦形部の外縁の勾配が、20%以上で、かつ1000%以下であることが好ましい。本発明において熱接着層がICチップや電気回路の凹凸を吸収するという観点から、賦形されるくぼみの形状は、電気回路などの外形に一致していることが好ましい。賦形部の外縁の勾配が、20%未満の場合とは、電気回路などの凸部に対して、その周辺までがつられて変形しているか、もしくは凸部の形状を十分に吸収していない状態を意味する。この勾配は50%以上がより好ましく、100%以上がさらに好ましい。
凹凸吸収性の観点からは、熱プレスによる賦形部の外縁の勾配が大きいほど理想的な変形であることは言うまでもなく、幾何学的には無限大となることが最も好ましい。しかしながら、本発明で開示した技術範囲で現実的に達成されるのは、上限の1000%までであり、より一般的な加工工程で現実的に達成できるのは500%以下である。なお、熱プレスによる賦形部の外縁の勾配を20〜1000%の範囲内に調整する方法としては、熱接着層の厚みを5μm以上に調整する以外に、熱接着層を構成する非晶性ポリエステル樹脂Aや非晶性熱可塑性樹脂Bのガラス転移温度や混合比率、粘度、弾性率などを適宜調整することが重要である。
また、本発明で用いる熱接着性ポリエステルフィルムにおいて、特に透明性を必要としない場合や、特に白色で隠蔽性の必要なカードやタグの素材として用いる場合には、熱接着性や滑り性、凹凸吸収性を阻害しない範囲で熱接着層に白色顔料を含有させることは、好ましい実施形態の一つである。熱接着層に含有させる白色顔料としては、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム及びこれらの複合体よりなるものが好ましく、隠蔽効果の観点から酸化チタンを用いることがより好ましい。これらの無機粒子は、基材の二軸延伸ポリエステルフィルムの構成材料に対して30質量%以下の範囲で含有させることが好ましく、20質量%以下とすることがより好ましい。上記の範囲を超えて添加した場合、上記の特性が阻害される場合がある。
また、本発明で用いる熱接着性ポリエステルフィルムでは、熱接着性や滑り性、凹凸吸収性を阻害しない範囲で、熱接着層に有機粒子を含有させても構わない。熱接着層に有機粒子を含有させることによって、熱接着層の表面に突起を形成することが可能であり、熱ラミネートにより熱接着させてカードを製造する際に、フィルム間の気泡を効果的に排出することが可能になる。有機粒子としては、メラミン樹脂や架橋ポリスチレン樹脂、架橋アクリル樹脂及びこれらを主体とする複合粒子が好ましい。なお、これらの無機粒子は、熱接着層の構成材料に対して30質量%以下の範囲で含有させることが好ましく、20質量%以下とすることがより好ましい。上記の範囲を超えて添加した場合、上記の特性が阻害される場合がある。
[二軸延伸ポリエステルフィルム層(基材フィルム)]
本発明で用いる熱接着性ポリエステルフィルムは、少なくとも一層の二軸延伸ポリエステルフィルム層を基材とする。この層は従来公知の方法によって容易に光学特性や力学特性を調節することができる。すなわち、本発明で用いる熱接着性ポリエステルフィルムを白色または高隠蔽性のICカードまたはICタグとして用いる際には、基材フィルム中に微細空洞を多数含有させたり、白色顔料を含有させたりすることが好ましい実施形態の一つである。また、隠蔽性を必要としない場合で、透明性や強度が優先的に求められる場合には、極力、無機粒子や異物などを含まない二軸延伸ポリエステルフィルムを用いることが好ましい実施形態の一つである。
本発明で用いる熱接着性ポリエステルフィルムを白色または高隠蔽のICカードまたはICタグの素材として用いる場合には、基材フィルムとして、その内部に微細な空洞を多数含有する、空洞含有ポリエステルフィルムが好ましい。フィルム内部の多数の微細な空洞によって、フィルムの見かけ密度が0.7g/cm3以上かつ1.2g/cm3以下に制御されていることが好ましい。フィルムの見かけ密度の下限は、0.8g/cm3がより好ましく、0.9g/cm3がさらに好ましい。一方、フィルムの見かけ密度の上限は1.2g/cm3がより好ましく、1.1g/cm3がさらに好ましい。フィルムの見かけ密度が0.7g/cm3未満の場合には、フィルムの強度や耐座屈性、圧縮回復率が低下し、ICカードまたはICタグの加工や使用に適切な性能を得られなくなる。一方、フィルムの見かけ密度が1.2g/cm3を超える場合には、ICカードまたはICタグとしての軽量性や柔軟性が得られなくなる。
フィルムの内部に空洞を含有させる方法としては、(1)発泡剤を含有せしめ押出時や製膜時の熱によって発泡、あるいは化学的分解により発泡させる方法、(2)押出時又は押出後に炭酸ガスなどの気体又は気化可能な物質を添加し、発泡させる方法、(3)ポリエステルと該ポリエステルに非相溶性の熱可塑性樹脂を添加し、溶融押出後、一軸又は二軸に延伸する方法、(4)有機もしくは無機の微粒子を添加して溶融押出後、一軸又は二軸に延伸する方法などを挙げることができる。
前記のフィルムの内部に空洞を含有させる方法の中で、前記(3)の方法、すなわちポリエステルと非相溶性の熱可塑性樹脂を添加し、溶融押出後、一軸又は二軸に延伸する方法が好ましい。ポリエステル樹脂に非相溶の熱可塑性樹脂としては、何ら制限されるものではないが、ポリプロピレンやポリメチルペンテンに代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂などが例示される。
これらの熱可塑性樹脂は単独で用いてもよく、また複数の熱可塑性樹脂を組合せて用いてもよい。これらポリステル樹脂に非相溶性の熱可塑性樹脂の含有量は、空洞含有ポリエステル層を形成する樹脂に対し3〜20質量%が好ましく、さらに好ましいのは5〜15質量%である。そして、ポリエステル樹脂に非相溶性の熱可塑性樹脂の含有量が、空洞含有ポリエステル層を形成する樹脂に対し3質量%未満では、フィルム内部に形成される空洞含有量が少なくなるため、隠蔽性が低下する。一方、非相溶性の熱可塑性樹脂の含有量が、白色ポリエステル層を形成する樹脂に対し20質量%を超える場合には、フィルム製造工程での破断が多発する。なお、空洞含有ポリエステルフィルムの内部の空洞含有率は10〜50体積%が好ましく、20〜40体積%がより好ましい。
また、本発明で用いる熱接着性ポリエステルフィルムを白色または高隠蔽のICカードまたはICタグの素材として用いる場合には、基材フィルムとして二軸延伸ポリエステル層に白色顔料を含有させた、白色ポリエステルフィルムも好ましい実施形態の一つである。ここで用いる白色顔料は特に限定されないが、汎用性の観点から、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム及びこれらの複合体よりなるものが好ましく、隠蔽効果の観点から酸化チタンを用いることがより好ましい。これらの無機粒子は、白色ポリエステル層の構成材料に対し、25質量%以下の範囲で含有させることが好ましく、20質量%以下とすることがより好ましい。上記の範囲を超えて添加した場合、フィルム製造時に破断が多発して工業レベルの安定生産が困難になる場合がある。
また、本発明で用いる熱接着性ポリエステルフィルムを白色または高隠蔽のICカードまたはICタグの素材として用いる場合には、微細空洞や白色顔料の含有量を適宜調節して、光学濃度が0.5以上で、かつ3.0以下とすることが好ましい。光学濃度の下限は0.7がより好ましく、0.9がさらに好ましい。また、光学濃度の上限は2.5がより好ましく、2.0がさらに好ましい。光学濃度が上記の範囲に満たない場合には、ICカードまたはICタグとした際に、隠蔽性の不足からICチップや電気回路などの内部構造が透けて見える場合があり、意匠上また保安上好ましくない。また、光学濃度が上記の範囲を超えるようにフィルムを製造するためには、フィルム内部の微細空洞や白色顔料の含有量を非常に多くせざるを得ず、フィルム強度などが低下する。
なお、本発明で用いる熱接着性ポリエステルフィルムを白色または高隠蔽のICカードまたはICタグの素材として用いる場合には、ポリステル樹脂に非相溶である熱可塑性樹脂を配合して空洞を形成する方法と、白色顔料を配合する方法を併用する方法が最も好ましい。
本発明で用いる熱接着性ポリエステルフィルムにおいて、熱接着層を除く各層は結晶性のポリエステルを主体として構成されることが好ましい。ここでいう結晶性ポリエステル樹脂とは、融解熱量が20mJ/mgを超えるポリエステル樹脂である。融解熱量の測定方法は、前記と同様である。
このような結晶性ポリエステルは、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸又はそのエステルとエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのグリコールとを適切な割合で重縮合させて製造されるポリエステルである。これらのポリエステルは芳香族ジカルボン酸とグリコールとを直接反応させる直重法のほか、芳香族ジカルボン酸のアルキルエステルとグリコールとをエステル交換反応させた後、重縮合させるエステル交換法か、あるいは芳香族ジカルボン酸のジグリコールエステルを重縮合させるなどの方法によって製造することができる。
前記の結晶性ポリエステルの代表例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートあるいはポリエチレン−2,6−ナフタレートが挙げられる。前記のポリエステルはホモポリマーであってもよく、第三成分を共重合したものであってもよい。これらのポリエステルの中でも、エチレンテレフタレート単位、トリメチレンテレフタレート単位、あるいはエチレン−2,6−ナフタレート単位が、70モル%以上、好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上であるポリエステルが好ましい。
次に、本発明の技術要件と効果との結びつきを実施例と比較例により詳しく説明する。なお、本発明で用いた特性値は下記の方法を用いて評価した。
[評価方法]
(1)樹脂の融点とガラス転移温度
JIS K 7121に記載の「プラスチックの転移温度測定方法」により、DSC測定を行った。サンプルは、拡大鏡つきミクロトームを用いてフィルムより熱接着層を切削した小片約10mgを、アルミパンに密封して300℃で3分間溶融し、液体窒素でクエンチしたものを用いた。測定器には示差走査熱量計(セイコーインスツルメント社製、EXSTAR6200DSC)を用い、乾燥窒素雰囲気下で実施した。室温より10℃/分の速さで加熱して中間点ガラス転移温度を求めた後、融解ピーク温度(融点)を求めた。
(2)樹脂の融解熱量
JIS K 7122に記載の「プラスチックの転移熱測定方法」により融解熱量を求めた。DSC測定の詳細は上記の融点の測定と同様にした。
(3)フィルム厚み
JIS K 7130に記載の「発泡プラスチック−フィルム及びシート−厚さ測定方法」により測定した。測定器は電子マイクロメーター(マール社製、ミリトロン1240)を用いた。測定すべきフィルムの任意の4箇所より5cm角サンプル4枚を切り取り、一枚あたり各5点(計20点)測定して平均値を厚みとした。
(4)フィルムの積層厚み
測定すべきフィルムの任意の3箇所より小片を切り取った。ミクロトームを用いてこの小片を切削し、フィルム表面に直交するフィルム断面を作成した。この断面に白金パラジウム合金をスパッタリングしてサンプルとし、走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S2500)を用いて断面を検鏡した。フィルム全厚みが一視野に含まれる適切な倍率で観察して、各層の厚みを測定した。測定は各視野あたり3箇所で行い、合計9箇所の平均値をもって積層厚みとした。
(5)賦形率と賦形部外縁の勾配
作成したICカードまたはICタグについて、インレットの回路面と熱接着層との間の接着面を注意深く剥離した。この熱接着層の剥離面において界面剥離している部分を選び、プリント回路の圧痕の段差を視野に含むようにして上記(5)と同様に三次元形状の画像を得た。同ソフトウェアの断面解析機能によって、圧痕の段差と直交する断面形状プロファイルを得た。このプロファイルから、プリント回路による圧痕の深さを求め、もとのプリント回路の高さ(10μm)で除して賦形率を求めた。また、圧痕の外縁部分において、圧痕部から非圧痕部に至る段差について勾配(段差中央部を含み、段差の約1/3部分での勾配)を求め、賦形部外縁の勾配とした。なお、観察は3視野について行って合計15プロファイルの平均値を評価した。
(6)フィルムの静摩擦係数
JIS K 7125に記載の「発泡プラスチック−フィルム及びシート−摩擦係数の試験方法」により測定した。測定器は引張り試験機(島津製作所製,AG1KNI)を用いた。測定すべきフィルムの任意の5箇所よりサンプル10枚を切り取り、フィルムの表裏両面を対向させて測定した。滑り片に加える荷重は1500gとし、合計5回の平均値を静摩擦係数とした。
(7)フィルムの光線透過率
透過光学濃度計(マクベス社、RD−914)を用いて、白色光での光学濃度を測定した。測定すべきサンプルの任意の5箇所より切り取った50mm四方のサンプル5枚について測定を行い、その平均値を光線透過率(%)に換算した。
(8)フィルムのカール値
測定すべきフィルムを任意の3箇所より長手方向に100mm、幅方向に50mmに枚葉状に切り出し、無荷重の状態で、110℃で30分間加熱処理した後、フィルムの凸部を下にして水平なガラス板上に静置して、ガラス板と立ち上がったフィルム4隅の下端との垂直距離を最小目盛り0.5mm単位で定規を用いて測定し、この4箇所の測定値の平均値をカール値とした。3枚について測定を行い、この平均値をカール値とした。
(9)フィルムの見かけ密度
任意の5箇所より切り取った100mm四方のサンプル5枚について、JIS K 7222に記載の「発泡プラスチック及びゴム−見かけ密度の測定」により測定した。測定は室温で行い、平均値をもって見かけ密度とした。なお、表記を簡便にするため単位はg/cm3に換算した。
(10)熱接着性
作成したICカードまたはICタグについて、JIS X 6305−1の方法で剥離強度を測定した。剥離強度が6N/cm以上のものを◎、3N/cm以上のものを○、3N/cm未満のものを×とした。
(11)ICカードまたはICタグの不良品発生率
作成したICタグまたはICカードについて、RF−IDデモキット(オムロンソフトウェア社製,L720−H01T−W001)を用いて交信テストを行った。50枚のタグまたはカードについて評価を行い交信不能な不良品の発生率を求めた。不良品発生率が1%未満の場合を○、1%以上5%未満の場合を△、5%以上の場合を×とした。
(12)ICカードまたはICタグの通信距離のバラつき
作成したICタグまたはICカードについて、RF−IDデモキット(オムロンソフトウェア社製,L720−H01T−W001)を用いて交信テストを行った。10枚のタグまたはカードの端部を非金属製の竹ピンで保持し、およそ50cmの距離から徐々に受信アンテナに近づけて認識される最長距離を測定した。最も遠くで認識した場合と、最も近くまで認識しなかった場合の通信距離から平均通信距離とバラつきを求めた。
(13)ポリエステル樹脂の固有粘度
JIS K 7367−5に記載の「プラスチック−毛細管型粘度計を用いたポリマー希釈溶液の粘度の求め方−」により、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(60/40;質量部)の混合溶媒を用いて、30℃で測定した。
(14)粒子の平均粒子径
粒子を走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S2500)で観察し、粒子の大きさに応じて適宜倍率を変え、写真撮影したものを拡大コピーした。次いで、ランダムに選んだ少なくとも200個以上の粒子について、各粒子の外周をトレースした。画像解析装置にてこれらのトレース像から粒子の円相当径を測定し、それらの平均値を平均粒子径とした。
実施例1
[ポリエチレンテレフタレート樹脂の製造]
エステル化反応缶を昇温して200℃に到達した時点で、テレフタル酸を86.4質量部及びエチレングリコールを64.4質量部含むスラリーを仕込み、撹拌しながら、触媒として三酸化アンチモンを0.017質量部及びトリエチルアミンを0.16質量部添加した。次いで加熱昇温を行い、ゲージ圧0.34MPa、240℃の条件で加圧エステル化反応を行った。
その後、エステル化反応缶内を常圧に戻し、酢酸マグネシウム4水和物を0.071質量部、次いでリン酸トリメチルを0.014質量部添加した。さらに、15分かけて260℃に昇温した後、リン酸トリメチルを0.012質量部、次いで酢酸ナトリウムを0.0036質量部添加した。得られたエステル化反応生成物を重縮合反応缶に移送し、減圧下で260℃から280℃へ徐々に昇温した後、285℃で重縮合反応を行った。重縮合反応終了後、孔径5μm(初期濾過効率95%)のステンレススチール焼結体製フィルターで濾過処理を行った。
次に、空気中に存在する径が1μm以上の異物を、ヘパフィルターで減少させた密閉室内で、上記重縮合反応生成物であるポリエチレンテレフタレート(PET)をペレット化した。ペレット化は、予め濾過処理(孔径:1μm以下)を行った冷却水を流しながら、冷却水槽中に溶融PETを押出機のノズルから押出し、形成されたストランド状PET樹脂をカットする方法で行った。得られたPETのペレットは、固有粘度が0.62dl/g、Sb含有量が144ppm、Mg含有量が58ppm、P含有量が40ppm、カラーL値が56.2、カラーb値が1.6であり、不活性粒子及び内部析出粒子は実質的に含有していなかった。
[非晶性ポリエステル樹脂の製造]
上記PET樹脂について、エチレングリコールの30モル%をネオペンチルグリコールに変えて製造を行い、非晶性ポリエステル樹脂A1を得た。この樹脂のDSC装置による分析では融点は観測されず、ガラス転移温度は78℃であった。
上記PET樹脂について、エチレングリコールの30モル%をシクロヘキサンジメタノールに変えて製造を行い、非晶性ポリエステル樹脂A2を得た。この樹脂のDSC装置による分析では融点は観測されず、ガラス転移温度は81℃であった。
上記PET樹脂について、エチレングリコールの15モル%をネオペンチルグリコールに、テレフタル酸の15モル%をイソフタル酸に変えて製造を行い、非晶性ポリエステル樹脂A3を得た。この樹脂のDSC装置による分析では融点は観測されず、ガラス転移温度は75℃であった。
[空洞形成剤含有マスターペレットの調製]
メルトフローレート1.5のポリスチレン樹脂(日本ポリスチレン社製、日本ポリスチ G797N)20質量%、メルトフローレート3.0の気相法重合ポリプロピレン樹脂(出光石油化学社製,IDEMITSU PP F300SP)20質量%及びメルトフローレート180のポリメチルペンテン樹脂(三井化学社製,TPX DX820)60質量%をペレット混合し、二軸押出機に供給して十分に混練りし、ストランドを冷却、切断して空洞形成剤含有マスターペレットを調整した。
[酸化チタン含有マスターペレットの調製]
上記で得たポリエチレンテレフタレート樹脂50質量%に、平均粒径0.3μm(電顕法)のアナタース型二酸化チタン(富士チタン社製,TA300)50質量%を混合したものをベント式二軸押出機に供給して予備混練りした後、溶融ポリマーを連続的にベント式単軸混練り機に供給して混練りして酸化チタン含有マスターペレットを調整した。
[ワックス剤含有マスターペレットの調製]
上記で得た非晶性ポリエステル樹脂A1を95質量%と、ポリエチレンワックス(三井化学社製、ハイワックス410P)5質量%を混合したものをベント式二軸押出機に供給して予備混練りした後、溶融ポリマーを連続的にベント式単軸混練り機に供給して混練りしてワックス剤含有マスターペレットW1を調整した。
上記で得た非晶性ポリエステル樹脂A1を95質量%と、ポリエチレングリコール(東邦化学社製,PEG10000)5質量%を混合したものをベント式二軸押出機に供給して予備混練りした後、溶融ポリマーを連続的にベント式単軸混練り機に供給して混練りしてワックス剤含有マスターペレットW2を調整した。
[熱接着性二軸延伸ポリエステルフィルムの製造]
前記空洞形成剤含有マスターペレット8質量%と前記酸化チタン含有マスターペレット6質量%、及び前記PET樹脂86質量%よりなる混合物を原料Mとした。また、上記非晶性ポリエステル樹脂A1を80質量%とアタクチックポリスチレン樹脂(日本ポリスチレン社製,G797N;ガラス転移温度95℃)を10質量%、ワックス剤含有マスターペレットW1を10質量%の混合物を原料Cとした。原料Mおよび原料Cを水分率80ppmまで真空乾燥して、各々別の押出機に供給した。押出しの際は、混合性と積層安定性を調整するため、原料Mは押出機内部で280℃まで加熱して溶融混合した後、樹脂温度270℃でフィードブロックに導いた。一方、原料Cは押出機内部で250℃まで加熱して溶融混合した後、樹脂温度280℃でフィードブロックに導いた。これを原料Mからなる中間層(基材)の両面に原料Cからなる熱接着層が積層されるようにフィードブロックで接合した。これをT型ダイスより20℃に調節された冷却ドラム上に押し出し、厚み2.4mmの3層構成の未延伸フィルムを製造した。なお、未延伸フィルム製造時、冷却ドラムの反対面には20℃、相対湿度30%に調節した冷風を吹き付けて冷却した。
得られた未延伸フィルムを、ポリテトラフルオロエチレン製加熱ロールを用いて65℃に均一に加熱し、さらにフィルムの両面に対向して設置した表面温度が700℃の金反射膜を備えた赤外線ヒーターを4本用いてフィルム温度が95℃となるように加熱しながら、セラミックロール間で速度差を利用して縦方向に3.4倍に延伸した。縦延伸工程のロール径は150mmであり、サクションロール、静電密着、パートニップの密着装置を採用してフィルムをロールへ密着させた。このようにして得た縦一軸延伸フィルムの両端をクリップで把持し、フィルム表面温度がおよそ100℃になるよう熱風で予熱した後、およそ140℃まで加熱しながら横方向に3.8倍に延伸した。その後、フィルム幅を固定した状態で乾燥熱風によっておよそ230℃まで加熱して熱固定を行い、およそ200℃まで冷却しながら幅方向に5%の弛緩熱処理を行った。その後、150℃と100℃および室温相当に調節された乾燥温風で段階的に徐々に冷却を行い、フィルムの表面温度(熱接着層のガラス転移温度よりも十分に低い)50℃以下でフィルム端部を切除してフィルムロールとした。これによって厚さ190μmの熱接着性ポリエステルフィルムを得た。なお、フィルム断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、各層の厚み(熱接着層Aa/中間層(基材)/熱接着層Ab)は、およそ20/150/20(単位:μm)であった。
上記の方法で得た熱接着性ポリエステルフィルムを用いて、ICタグを作成した。まず、上記で得たポリエステルフィルムロールをスリット加工して幅300mm、巻き長さ200mのウェブ状フィルムのロールを得た。これをICタグ用インレット(オムロン社製,V720S−D13P01)の製品ロールとともに巻き出しラミネート加工を施した。
ここで用いたラミネート接着工程の模式図を図1に示す。ロールより巻き出されたウェブ状の熱接着性ポリエステルフィルムを、ガイドロールを通じて表面温度100℃に加熱された予熱ロールに10m/分の速度で導き、張力を30N/mに調節ながら予熱した。他方でウェブ状のICタグインレットを、ガイドロールを通じて張力を10N/mに調節しながら巻き出し、160℃に加熱されたラミネートロールで上記熱接着性ポリエステルフィルムを積層してラミネート接着した。ラミネートされた後のウェブ状のICタグは空中での放熱と表面温度20℃の冷却ロールでの冷却を経て、表面温度40℃まで冷却された後にガイドロールを通じてICタグ製品ロールとして巻き取った。
得られたICタグ製品ロールは定法によって断裁を行い、四隅の角を落として86mm×54mmのICタグを得た。フィルムの構成を表1に、フィルムとカードの特性を表2に示す。
この実施例1の製造方法は接着剤層の塗布工程を有せず、また連続ラミネートであることから高い生産性を有している。またこれによって得られたICタグでは、接着剤層の厚みのバラつきが改善されていることから通信距離において優れた安定性を有しているとともに不良率の発生も著しく少ないものであった。
比較例1
微細空洞を含有しない透明二軸延伸ポリエステル(東洋紡績社製,コスモシャインA4100,厚さ188μm)の片面に押出しラミネート法によってホットメルト接着剤(東洋紡績社製,バイロンGM920)を厚さ10μmになるよう塗布し、接着剤層を有した二軸延伸ポリエステルフィルムを作成した。これを用いて従来公知のヒートプレス法によってICタグを作成した。すなわち、上記で得たフィルムを300mm×200mmの大きさに切り出し、その間にICタグ用インレット(オムロン社製、V720S−D13P01)を8枚配して、熱プレス(140℃,0.3MPa,10分間)により接着した。この積層体からインレット部分を含むように86mm×54mmに切り出し、四隅の角を落としてICタグを作成した。プレスは10セットを繰り返して行い、80枚のICタグを作成した。この比較例1の製造方法はプレスによるバッチ処理であるため、生産性の向上に限度があった。また接着剤層をアンテナシートに隣接して配したため、接着剤層の厚みのバラつきに起因して通信距離のバラつきが見られた。またプレス工程の温度・圧力分布に起因する回路の断線が一部のタグ製品において発生し、ICタグとしての動作不良が見られた。
比較例2
比較例1と同様にして作成した接着剤層を有する二軸延伸ポリエステルフィルムを熱接着性ポリエステルフィルムとして用いた。この他は実施例1と同様のラミネート接着工程によってICタグを作成した。この比較例2の製造方法は事前にホットメルト接着剤を塗布する工程が必要であるため、その生産性は比較例1より優れるものの、実施例1に比べて煩雑であった。また接着剤層をアンテナシートに隣接して配したため、接着剤層の厚みのバラつきに起因して通信距離のバラつきが見られた。
比較例3
未延伸の非晶性白色ポリエステルシート(三菱樹脂社製,ディアフィックスWHT,厚さ150μm)を熱接着性ポリエステルフィルムとして用いた。この他は実施例1と同様のラミネート接着工程によってICタグを作成した。この比較例3では、熱接着性フィルムが非晶質の未延伸シートであることから、予熱ロール通過後、およびラミネートロール通過後にフィルム自身が軟化して変形し、張力を一定に保つことが困難であった。そのため、得られたICタグは厚みが不均一であり、また平面性が不十分であり、実用的に使用できるものではなかった。
比較例4
実施例1と同様にして作成した熱接着性ポリエステルフィルムを用い、この他は比較例1と同様にヒートプレス法によってICタグを作成した。この比較例4の製造方法はプレスによるバッチ処理であるため、生産性の向上に限度があった。またプレス工程の温度・圧力分布に起因する回路の断線が一部のタグ製品において発生し、ICタグとしての動作不良が見られた。
実施例2
前記空洞形成剤含有マスターペレット15質量%と前記PET樹脂85質量%よりなる混合物を原料Mとした。また、上記非晶性ポリエステル樹脂A2を95質量%と直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(宇部丸善ポリエチレン社製、ユメリット2040F;融点116℃,密度0.918g/cm3)5質量%の混合物を原料Cとした。また、未延伸フィルムを製造する際に共押出しする各層の厚みを変更し、厚さ250μm、すなわち熱接着層Aa/中間層(基材)/熱接着層Abの各層の厚さを15/220/15(単位:μm)とした。その他は実施例1と同様にして熱接着性ポリエステルフィルムを作成した。またラミネート工程を図2のように変更してICタグインレットの両面に熱接着性ポリエステルフィルムを配し、ICカードを製造した。この実施例2の製造方法およびそれにより製造したICカードは実施例1と同様に優れた生産性、通信距離の安定性を有し、不良率の発生は少ないものであった。
実施例3
前記の酸化チタン含有マスターペレット30質量%と前記PET樹脂70質量%よりなる混合物を原料Mとした。また、上記非晶性ポリエステル樹脂A3を85質量%と共重合環状オレフィン樹脂(三井化学社製、APL8008T、ガラス転移温度70℃)を10質量%、ワックス剤含有マスターペレットW2を5質量%の混合物を原料Cとした。この他は実施例1と同様にして熱接着性ポリエステルフィルムを製造した。また実施例1のラミネート接着工程において、予熱ロール群を廃し、これに換えて図3のように気温100℃に調節された熱風循環式の加熱炉を予熱装置として設置した。この他は実施例1と同様にしてICタグを製造した。
実施例4
上記の実施例2で添加した直鎖状低密度ポリエチレン樹脂に代えて、平均粒径1.5μmの無定形シリカ粒子を1質量%含むポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた。この他は実施例2と同様にして熱接着性ポリエステルフィルムを製造した。また実施例1のラミネート接着工程において、予熱ロール群を廃し、これに換えて図4のように表面温度300℃に調節された赤外線ヒーターを予熱装置として設置した。またラミネート速度を5m/分に変更した他は、実施例1と同様にしてラミネート接着を行い、ICタグを製造した。この比較例1で得られた熱接着性ポリエステルフィルムは、ラミネート工程における空気抜けが若干遅く、静摩擦係数が比較的高いため、ラミネート速度を減じる必要があったものの、比較例1に比べて格段に高い生産性を有しており、実施例1と同様に優れた通信距離の安定性、低い不良率を示した。
実施例5
実施例1において、未延伸フィルムの製造を押出機3台によって行い、両面の熱接着層の厚みを違えた三層構成の未延伸フィルムを製造した。この際、各層の厚み(熱接着層Aa/中間層(基材)/熱接着層Ab)が、二軸延伸後で26/150/14(単位:μm)となるように、各押出機のから吐出される樹脂量を調節した。なお、熱接着層aが冷却ドラムに接する表面である。得られた未延伸フィルムは実施例1と同様に延伸したが、赤外ヒーターの温度をフィルム表裏で差をつけるよう微調整し、二軸延伸後の縦方向のカールが最小となるようにした。これ以外は実施例1と同様にして、熱接着性ポリエステルフィルムを得た。このフィルムを熱接着性フィルムとして用い、熱接着層aの表面にICタグインレットを配した他は、実施例2と同様のラミネート接着工程によってICカードを作成した。この実施例では得られたICタグに若干のカールが発生したが、通常ICカードとして用いるに問題のないものであった。
比較例5
実施例5において、熱接着層および中間層(基材)の積層厚みを、二軸延伸後で47/50/3(単位:μm)となるように各押出機から吐出される樹脂量を調節した。また縦延伸工程における赤外ヒーターの加熱において、フィルム表裏に温度差をつけず、フィルムのカールを低減する手段を採用しなかった。これ以外は実施例5と同様にして熱接着性ポリエステルフィルムを製造し、実施例1と同様にしてICタグを製造した。この比較例で得られたICタグは著しいカールを生じており、実用上ICタグとして使用するのが困難であった。
比較例6
実施例1において、非晶性ポリエステル樹脂A1を60質量%とアタクチックポリスチレン樹脂を40質量%よりなる混合物を原料Cとして用いた。これ以外は実施例1と同様にして熱接着性ポリエステルフィルムを製造し、実施例1と同様にしてICタグを製造した。この比較例6で得られた熱接着性ポリエステルフィルムは、ラミネート接着によって十分な接着力を発現せず、実用的に使用できるICタグが得られなかった。
比較例7
実施例1において、非晶性ポリエステル樹脂A1を90質量%とポリメチルペンテン樹脂(三井化学社製,TPX DX820;融点234℃,密度0.82g/cm3)を10質量%よりなる混合物を原料Cとして用いた。これ以外は実施例1と同様にして熱接着性ポリエステルフィルムを製造し、実施例1と同様にしてICタグを製造した。この比較例7で得られた熱接着性ポリエステルフィルムは、ラミネート接着によって十分な接着力を発現せず、実用的に使用できるICタグが得られなかった。