以下に、本発明の実施様態について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施様態に限定されるものではない。まず、本発明に係る固体電解質フィルムについて説明し、その後、その固体電解質フィルムの製造方法について説明する。
〔原料〕
本発明では、後述の製造方法に供するドープのポリマー成分として、カチオン種を有する化合物を用いている。特に、化3に示す物質からなるポリマーは、いわゆる固体電解質の前駆体である。この前駆体を含むフィルム(以下、前駆体フィルムと称する)にプロトン置換を施すことにより、前駆体フィルム内の前駆体から固体電解質が生成する。こうして、プロトン置換により、前駆体フィルムから固体電解質を備えるフィルム(以下、固体電解質フィルムと称する)を製造することができる。なお、本明細書におけるプロトン置換とは、ポリマー中の水素原子以外のカチオン種を、水素原子に置換することである。また、カチオン種とは、電離したときにカチオンを生成する原子または原子団を意味する。このカチオン種は1価である必要はない。また、本明細書では、特に断らない限り、カチオンは、プロトンを除く陽イオンを指し、カチオン種は、水素原子を除く、カチオンとなり得る原子のことを指す。
例えば、前駆体フィルムを製造する場合には、化3に示す前駆体を含むドープをつくり、このドープを支持体上に流延し、支持体上に形成された流延膜を剥ぎ取ることにより、前駆体フィルムを製造することができる。そして、この前駆体フィルムをプロトン置換し、前駆体フィルムに含まれる化3に示す物質のXをHに置換することにより、固体電解質フィルムを製造することができる。
また、化3に示す前駆体からなる前駆体フィルムは、プロトン置換によって製造される固体電解質フィルムの吸湿膨張率とプロトン伝導度とを両立させる。化3に示す物質においてn/(m+n)<0.1である場合には、前駆体フィルムにおけるプロトン受容体が少なく、プロトン伝導路、いわゆるプロトンチャンネルを十分に形成することができないことがある。そのため、プロトン置換により生成される固体電解質フィルムは実用に十分なプロトン伝導性を発現しないことがある。一方、化3に示す物質においてn/(m+n)>0.5である場合には、固体電解質フィルムの水分吸収性が高くなってしまうため、吸水による膨張率、つまり吸水膨張率が大きくなり、固体電解質フィルムが劣化しやすくなる。
化3に示す物質において好ましいカチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウムカチオンが好ましく、カルシウムイオン、バリウムイオン、四級アンモニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンがより好ましい。なお、化3に示す化合物におけるXをH(水素原子)に置換せずにカチオン種のままフィルムを製造しても、そのフィルムは固体電解質フィルムとしての機能をもつ。しかし、そのプロトン伝導性は、Hに置換されたXの割合(以下、プロトン置換率と称する)が高いほど高くなる傾向にある。すなわち、前駆体フィルムから固体電解質フィルムを生成するプロトン置換において、プロトン置換率が高いことが好ましい。
固体電解質としては、以下の諸性能をもつものが好ましい。イオン伝導度は、例えば25℃、相対湿度70%において、0.005S/cm以上であることが好ましく、0.01S/cm以上であるものがより好ましい。さらに、64質量%メタノール水溶液に18℃で一日浸漬した後のイオン伝導度が0.003S/cm以上であることが好ましく、0.008S/cm以上であるものがより好ましく、特に、浸漬前に対する浸漬後のイオン伝導度の低下率が20%以内であるものが好ましい。そして、メタノール拡散係数が4×10−7cm2 /s以下であることが好ましく、2×10−7cm2 /s以下であるものが特に好ましい。
強度については、弾性率が10MPa以上であるものが好ましく、20MPa以上であるものが特に好ましい。なお、弾性率の測定方法については、特開2005−104148号公報の段落[0138]に詳細に記されており、弾性率の上記値は、東洋ボールドウィン社製の引っ張り試験機による値である。したがって、他の試験方法や試験機を用いて弾性率を求める場合には、上記試験方法や試験機による値との相関性を予め求めておくとよい。
耐久性については、64質量%メタノール水溶液中に一定温度で浸漬する経時試験の前後で、質量、イオン交換容量、メタノール拡散係数の各変化率が、それぞれ20%以下であるものが好ましく、15%以下であるものが特に好ましい。さらに過酸化水素中における経時試験の前後でも、同様に質量、イオン交換容量、メタノール拡散係数の各変化率が20%以下であるものが好ましく、10%以下であるものが特に好ましい。また、64質量%メタノール水溶液中、一定温度での体積膨潤率が10%以下であるものが好ましく、5%以下であるものが特に好ましい。
さらに、安定した吸水率および含水率をもつものが好ましい。また、アルコール類、水、アルコールと水との混合溶媒に対し、溶解度が実質的に無視できる程に小さいものであることが好ましい。また上記液に浸漬した時の質量減少、形態変化についても実質的に無視できる程小さいものであることが好ましい。
固体電解質フィルムのイオン伝導性能は、イオン伝導度とメタノール透過係数との比であるいわゆる指数により表される。そして、ある方向における指数が大きいほど、その方向におけるイオン伝導性能が高いといえる。また、固体電解質フィルムの厚み方向においては、イオン伝導度は厚みに比例し、メタノール透過係数は厚みに反比例するので、厚みを変えることにより固体電解質フィルムのイオン伝導性能を制御することができる。燃料電池に用いる固体電解質フィルムでは、一方の面側にアノード電極、他方の面側にカソード電極が設けられることになるので、固体電解質フィルムの厚み方向における指数が他の方向における指数よりも大きいことが好ましい。固体電解質フィルムの厚みは10〜300μmが好ましい。例えば、イオン伝導度とメタノール拡散係数とが共に高い固体電解質の場合には、厚みが50〜200μmとなるようにフィルムを製造することが特に好ましく、イオン伝導度とメタノール拡散係数とが共に低い固体電解質の場合には、厚みが20〜100μmとなるようにフィルムをする製造することが特に好ましい。
耐熱温度については、200℃以上であるものが好ましく、250℃以上のものがさらに好ましく、300℃以上のものが特に好ましい。ここでの耐熱温度は、1℃/分の加熱速度で加熱し、質量減少が5%に達したときの温度を意味する。なお、この質量減少は、水分等の蒸発分を除いて計算される。
さらに、固体電解質をフィルムとしてこれを燃料電池に用いる場合には、その最大出力密度が10mW/cm2以上である固体電解質であることが好ましい。
以上の固体電解質の前駆体であるポリマーを用いることにより、前駆体フィルムの製造に好適なドープを製造することができる。また、この前駆体フィルムを用いてプロトン置換することにより、燃料電池として好適な固体電解質フィルムを製造することができる。前駆体フィルムの製造に好適な溶液とは、例えば、粘度が比較的低く、濾過により異物を予め除去しやすい溶液である。
ドープの溶媒としては、固体電解質の前駆体であるポリマーを溶解させることができる有機化合物であればよい。例としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)、及び窒素を含有する化合物(N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)など)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。
ドープの溶媒は、複数の物質を混合した混合物であってもよい。溶媒を混合物とする場合には、ポリマーの良溶媒と貧溶媒との混合物とすることが好ましい。化3の構造を有する前駆体フィルムをつくる場合には、ポリマーの良溶媒と貧溶媒との混合物を溶媒として使うとよい。ポリマーが全質量の5質量%となるように溶媒とポリマーとを混合して、不溶解物の有無により、使用した溶媒がそのポリマーの貧溶媒であるか良溶媒であるかを判断することができる。ポリマーの良溶媒、つまりポリマーを溶解する物質は、溶媒として一般的に用いられる化合物の中でも沸点が比較的高い方であり、一方、貧溶媒は溶媒として一般的に用いられる化合物の中でも沸点が比較的低い方である。したがって、貧溶媒を良溶媒に混合することにより、フィルム製造工程における溶媒除去の効率及び効果を高めることができ、特に、流延膜の乾燥効率について大きく向上することができる。
良溶媒と貧溶媒との混合物においては、貧溶媒の質量比率が大きいほど好ましく、具体的には10%以上100%未満であること好ましい。より好ましくは、(良溶媒の質量):(貧溶媒の質量)が90:10〜10:90であることが好ましい。これにより、全溶媒の質量における低沸点成分の割合が大きくなるので、固体電解質フィルムの製造工程における乾燥効率及び乾燥効果をより向上させることができる。
良溶媒成分としてはDMF、DMAc、DMSO、NMPが好ましく、中でも、安全性や沸点が比較的低いという点からDMSOが特に好ましい。貧溶媒成分としては、炭素数が1以上5以下であるいわゆる低級アルコール、酢酸メチル、アセトンが好ましく、中でも炭素数が1以上3以下の低級アルコールがより好ましく、良溶媒としてDMSOを用いた場合にはこれとの相溶性が最も優れる点からメチルアルコールが特に好ましい。
固体電解質フィルムの各種特性を向上させるためには、添加剤をドープに加えることができる。添加剤としては、酸化防止剤、繊維、微粒子、吸水剤、可塑剤、相溶剤等が挙げられる。これら添加剤の添加率は、ドープ中の固形分全体を100質量%としたときに1質量%以上30質量%以下の範囲とすることが好ましい。ただし、添加率及び物質の種類は、プロトン伝導性に悪影響を与えないものとする。以下に添加剤について具体的に説明する。
酸化防止剤としては、(ヒンダード)フェノール系、一価または二価のイオウ系、三価のリン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系、シアノアクリレート系、サリチレート系、オキザリックアシッドアニリド系の各化合物が好ましい例として挙げられる。具体的には、特開平8−53614号公報、特開平10−101873号公報、特開平11−114430号公報、特開2003−151346号の各公報に記載の化合物が挙げられる。
繊維としては、パーフルオロカーボン繊維、セルロース繊維、ガラス繊維、ポリエチレン繊維等が好ましい例として挙げられ、具体的には、特開平10−312815号公報、特開2000−231938号公報、特開2001−307545号公報、特開2003−317748号公報、特開2004−63430号公報、特開2004−107461号の各公報に記載の繊維が挙げられる。
微粒子としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム等が好ましい例として挙げられ、具体的には、特開2003−178777号、特開2004−217931号の各公報に記載の各種微粒子が挙げられる。
吸水剤、つまり親水性物質としては、架橋ポリアクリル酸塩、デンプン−アクリル酸塩、ポバール、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリグリコールジアルキルエーテル、ポリグリコールジアルキルエステル、合成ゼオライト、チタニアゲル、ジルコニアゲル、イットリアゲルが好ましい例として挙げられ、具体的には、特開平7−135003号、特開平8−20716号、特開平9−251857号の各公報に記載の吸水剤が挙げられる。
可塑剤としては、リン酸エステル系化合物、塩素化パラフィン、アルキルナフタレン系化合物、スルホンアルキルアミド系化合物、オリゴエーテル類、芳香族ニトリル類が好ましい例として挙げられ、具体的には、特開2003−288916号、特開2003−317539号の各公報に記載の可塑剤が挙げられる。
相溶剤としては、沸点または昇華点が250℃以上の物が好ましく、300℃以上のものがさらに好ましい。
ドープにはさらに、(1)フィルムの機械的強度を高める目的、(2)固体電解質フィルム中の酸濃度を高める目的で、前駆体と異なる種々のポリマーを含有させてもよい。
上記の目的のうち(1)には、分子量が10000〜1000000程度であり、前駆体と相溶性のよいポリマーが適する。例えば、パーフッ素化ポリマー、ポリスチレン、ポリエチレングリコール、ポリオキセタン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、およびこれらのうち2以上のポリマーの繰り返し単位を含むポリマーが好ましい。また、フィルムとしたときの全質量に対し1〜30質量%の範囲となるようにこれらの物質をドープに含有させることが好ましい。なお、相溶剤を用いることにより前駆体との相溶性を向上させてもよい。相溶剤としては、沸点または昇華点が250℃以上であるものが好ましく、300℃以上のものがさらに好ましい。
上記目的のうち(2)には、プロトン酸部位を有するポリマー等が好ましい。このようなポリマーとしては、ナフィオン(登録商標)等のパーフルオロスルホン酸ポリマー、側鎖にリン酸基を有するスルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱芳香族高分子化合物のスルホン化物等を例示することができる。また、フィルムとしたときの全質量に対し1〜30質量%の範囲となるようにこれらの物質をドープに含有させることが好ましい。
さらに、得られる固体電解質フィルムを燃料電池に用いる場合には、アノード燃料とカソード燃料との酸化還元反応を促進させる活性金属触媒をドープに添加してもよい。これにより、固体電解質フィルムの中に一方の極から浸透した燃料が他方の極に到達することなく固体電解質中で消費されるので、クロスオーバー現象を防止することができる。活性金属触媒は、電極触媒として機能するものであれば特に限定されないが、白金または白金を基にした合金が特に適している。
[ドープ製造]
以下に、本発明のフィルムの製造に用いるドープについて説明する。図1は、本発明に係るドープ製造設備である。ただし、本発明はここに示すドープ製造装置及び方法に限定されない。
ドープ製造設備10は、溶媒11aを貯留するための溶媒タンク11と、前駆体12aを供給するためのホッパ12と、添加剤を貯留するための添加剤タンク15と、溶媒11aと前駆体12aと添加剤とを混合して混合液16とする混合タンク17と、混合液16を加熱するための加熱装置18と、加熱された混合液16の温度を調整するための温度調整器21と、温度調整器21を出た混合液16を濾過してドープ24とする第1濾過装置22と、ドープ24の濃度を調整するためのフラッシュ装置26と、濃度調整されたドープ24を濾過するための第2濾過装置27とを備える。更に、ドープ製造設備10には、フラッシュ装置26内で揮発する溶媒を回収するための回収装置28と、回収された溶媒を再生するための再生装置29とが備えられている。また、ドープ製造設備10は、ストックタンク32を介してフィルム製造設備33に接続されている。なお、送液量を調節するためのバルブ36〜38と、送液用のポンプ41,42とがドープ製造設備10には設けられているが、これらが配される位置及び数の増減については適宜変更される。
ドープ製造設備10を用いてドープ24を製造する工程を以下に説明する。バルブ37を開とすることにより、溶媒11aは溶媒タンク11から混合タンク17に送られる。次に、前駆体12aがホッパ12から混合タンク17に送り込まれる。このとき、前駆体12aは、計量と送出とを連続的に行う送出手段により混合タンク17に連続的に送りこまれてもよいし、計量して所定量を送出するような送出手段により混合タンク17に断続的に送り込まれてもよい。また、添加剤溶液は、バルブ36の開閉操作により必要量が添加剤タンク15から混合タンク17に送り込まれる。
添加剤は、溶液として送り込む方法の他に、例えば添加剤が常温で液体である場合には、その液体状態のままで混合タンク17に送り込むことができる。また、添加剤が固体の場合には、ホッパ等を用いて混合タンク17に送り込む方法も可能である。添加剤を複数種類添加する場合には、添加剤タンク15の中に複数種類の添加剤を溶解させた溶液を入れておくこともできる。または、複数の添加剤タンクを用いて、それぞれに添加剤が溶解している溶液を入れ、それぞれ独立した配管により混合タンク17に送り込むこともできる。
なお、前述した説明においては、混合タンク17に入れる順番が、溶媒11a、前駆体12a、添加剤であったが、この順番に限定されるものではない。例えば、前駆体12aを混合タンク17に送り込んだ後に、好ましい量の溶媒11aを送液することもできる。また、添加剤は必ずしも混合タンク17で前駆体12aと溶媒11aと混合することに限定されず、後の工程で前駆体12aと溶媒11aとの混合物にインライン混合方式等で混合されてもよい。
混合タンク17には、その外表を包み込み、混合タンク17との間に伝熱媒体が供給されるジャケット46と、モータ47により回転する第1攪拌機48と、モータ51により回転する第2攪拌機52とを備えている。混合タンク17は、ジャケット46の内側に伝熱媒体を供給し、これを循環させることにより、その内部の温度が調整される。混合タンク17の内部温度は、−10℃〜55℃の範囲であることが好ましい。第1攪拌機48,第2攪拌機52のタイプを適宜選択して使用することにより、前駆体12aが溶媒11aにより膨潤した混合液16を得る。なお、第1攪拌機48は、アンカー翼を有するものであることが好ましく、第2攪拌機52は、ディゾルバータイプの偏芯型攪拌機であることが好ましい。
次に、混合液16は、ポンプ41により加熱装置18に送られる。加熱装置18は、管本体(図示しない)とこの管本体との間に伝熱媒体を通すためのジャケット(図示しない)とを有するジャケット付き管であることが好ましく、さらに、混合液16を加圧する加圧部(図示しない)を有することが好ましい。このような加熱装置18を用いることにより、加熱条件下または加圧加熱条件下で混合液16中の固形分を効果的かつ効率的に溶解させることができる。以下、このように加熱により固形成分を溶媒11aに溶解する方法を加熱溶解法と称する。加熱溶解法においては、混合液16を60℃〜250℃となるように加熱することが好ましい。
なお、加熱溶解法に代えて冷却溶解法により固形成分を溶媒11aに溶解させてもよい。冷却溶解法とは、混合液16を温度保持した状態またはさらに低温となるように冷却しながら溶解を進める方法である。冷却溶解法では、混合液16を−100℃〜−10℃の温度に冷却することが好ましい。以上のような加熱溶解法または冷却溶解法により前駆体12aを溶媒11aに十分溶解させることが可能となる。
混合液16を温度調整器21により略室温とした後に、第1濾過装置22により濾過して不純物や凝集物等の異物を取り除きドープ24とする。第1濾過装置22に使用されるフィルタは、その平均孔径が10μm以下であることが好ましい。
濾過後のドープ24は、バルブ38によりストックタンク32に送られて一旦貯留された後、フィルムの製造に用いられる。
ところで、上記のように、固形成分を一旦膨潤させてから、溶解して溶液とする方法は、前駆体12aの溶液における濃度を上昇させる場合ほど、ドープ製造に要する時間が長くなり、製造効率の点で問題となる場合がある。そのような場合には、目的とする濃度よりも低濃度のドープを一旦つくり、その後に目的の濃度とする濃縮工程を実施することが好ましい。例えば、バルブ38により、第1濾過装置22で濾過されたドープ24をフラッシュ装置26に送り、このフラッシュ装置26でドープ24の溶媒11aの一部を蒸発させることによりドープ24を濃縮することができる。濃縮されたドープ24はポンプ42によりフラッシュ装置26から抜き出されて第2濾過装置27へ送られる。濾過の際のドープ24の温度は、0℃〜200℃であることが好ましい。第2濾過装置27で異物を除去されたドープ24は、ストックタンク32へ送られ一旦貯留されてからフィルム製造に用いられる。なお、濃縮されたドープ24には気泡が含まれていることがあるので、第2濾過装置27に送る前に予め泡抜き処理を実施することが好ましい。泡抜き方法としては、例えばドープ24に超音波を照射する超音波照射法等の、公知の種々の方法が適用される。
また、フラッシュ装置26でのフラッシュ蒸発により発生した溶媒ガスは、凝縮器(図示せず)を備える回収装置28により凝縮されて液体となり回収される。回収された溶媒は、再生装置29によりドープ製造用の溶媒として再生されて再利用される。このような回収及び再生利用により、製造コストの点での利点があるとともに、ドープ24の製造工程が閉鎖系で実施されるため、人体及び環境への悪影響を防ぐ効果がある。
また、ドープ24中に粗大な微粒子や異物等の不純物が含まれていると、このドープ24を用いて固体電解質フィルムとした場合、固体電解質フィルムのプロトン伝導度が低下したり、固体電解質フィルム自体が劣化したりするおそれがある。そのため、ドープ24を製造する途中の段階で、少なくとも1回以上は濾過装置を用いてドープ24を濾過することが好ましい。なお、ドープ製造設備10内での濾過装置の設置個数や設置箇所及びドープを濾過する回数は特に限定されるものではなく、必要に応じて決定すれば良い。
以上の製造方法により、前駆体12aの濃度が、全質量に対し5質量%以上50質量%以下であるドープ24を製造することができる。ドープ24の前駆体12aの濃度を全質量に対し10質量%以上40質量%以下の範囲とすることがより好ましい。また、添加剤の濃度をドープ中の固形分全体を100質量%とすると1質量%以上30質量%以下の範囲とすることが好ましい。なお、ドープ24中において、溶媒11aに固形分が溶解しているかどうかは、濾過した後のドープ24を蛍光灯に照らすことで確認することができる。
[固体電解質フィルム製造工程]
次に、本発明の固体電解質フィルムの製造方法について説明する。図2に、本発明に係る固体電解質フィルム製造工程60の流れを示す。図2では、工程の流れのみを簡単に説明するものとし、各工程の詳細は図3を用いて説明する。なお、以下の説明では、固体電解質フィルムをフィルムと称する場合もある。
固体電解質フィルム製造工程60は、ドープ24から流延膜61を形成する流延膜形成工程63と、形成した流延膜61を液に浸漬させる浸漬工程64と、支持体から流延膜61を剥ぎ取って前駆体フィルム65とする剥取工程66と、前駆体フィルム65を乾燥する第1乾燥工程67と、プロトン供与体である酸を含む液前駆体フィルム65に接触させ、水素置換フィルム65aとする酸処理工程68と、酸処理工程68を経た水素置換フィルム65aを洗浄する水洗工程69と、洗浄後の水素置換フィルム65aを乾燥して固体電解質フィルム70とする第2乾燥工程72とを有する。
流延膜形成工程63では、支持体の上にドープを流延して流延膜61を形成する。支持体は駆動ローラに巻き掛けられて無端で走行しており、流延膜61は、剥取工程66で前駆体フィルム65として剥ぎ取られるまで、この支持体の走行に伴い移動する。
浸漬工程64では、支持体上の流延膜61を液(以下、浸漬液と称する)に浸漬する。この浸漬工程64により、流延膜61に含まれる溶媒の一部と浸漬液とが置換され(以下、溶媒置換と称する)、流延膜61に残留する溶媒量が減少する。そして、この溶媒量が一定以下になるまでこの溶媒置換を行うことにより、流延膜61に自己支持性を発現させることができる。続けて、剥取工程66では、自己支持性を有する流延膜61を支持体から剥ぎ取って前駆体フィルム65とする。なお、剥取工程66は、流延膜61が浸漬液に浸漬している間に行っても良いし、浸漬液から流延膜61を取り出した後に行っても良い。また、浸漬工程64の代わりに、流延膜形成工程63において流延膜61に乾燥した風をあてることにより、流延膜61に自己支持性を発現させて、これを剥ぎ取ったものを前駆体フィルムとしてもよい。
第1乾燥工程67では、前駆体フィルム65を乾燥手段により乾燥させる。乾燥手段としては、前駆体フィルム65を乾燥させることができるものであれば良い。例えば、乾燥装置と多数の把持手段(例えば、クリップ)とを備え、把持手段により前駆体フィルム65の両側端部を固定しながら搬送する間に乾燥を促進させるテンタが挙げられ、本実施形態でも採用している。また、テンタにより前駆体フィルム65を乾燥する前に、エアナイフなどにより前駆体フィルム65の表面の水切りを行うことが好ましい。なお、テンタに関しては、後で説明する。
酸処理工程68では、乾燥処理が施された前駆体フィルム65の片面301に、接触手段を用いて、酸を含む第1液300を接触させる。第1液300は、前駆体フィルム65のいずれか一方の面に接触すればよい。前駆体フィルム65と第1液300との接触により、前駆体フィルム65に含まれる前駆体がプロトン置換され、固体電解質となる。すなわち、この酸処理工程68にて、前駆体フィルム65から水素置換フィルム65aが生成される。
水洗工程69では、酸処理後の水素置換フィルム65aと洗浄液とを接触させることにより水素置換フィルム65aの表面に付着している、或いは水素置換フィルム65aに含まれる余分な第1液300を除去する。この水洗工程69により、水素置換フィルム65aを構成するポリマー等が酸により汚染されるのも防止することができる。
また、上記のように酸処理工程68と水洗工程69とを行なうことにより、水素置換フィルム65aに含まれる固体電解質中の無機塩等の不純物を除去する効果も得ることができるため、製造するフィルム70の劣化を防止することもできる。なお、酸処理工程68及び水洗工程69を行なうことにより、水洗工程69後の水素置換フィルム65aに含まれる金属の含有量が1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは100ppm以下である。上記の金属としては、Na、K、Ca、Fe、Ni、Cr、Zn等が挙げられる。これらの金属の含有量は、例えば、市販の原子吸光光度計により測定することで把握することができる。
第2乾燥工程72では、再度、乾燥手段により水素置換フィルム65aを乾燥させる。通常は、エアナイフなどの水切り手段で十分に水膜を除去できるため、乾燥工程は必要ないが、透明樹脂フィルムをロール状に巻き取る前に、好ましい含水率に調整するために加熱乾燥したり、逆に設定された湿度を有する風で調湿したりも出来る。これにより、優れたプロトン伝導性を発現する固体電解質フィルム70を得ることができる。
次に、浸漬工程64、剥取工程66、酸処理工程68及び水洗工程69の詳細について説明する。
浸漬工程64では、流延膜61を浸漬液に浸漬することにより、流延膜61は自己支持性を発現する。流延膜61が自己支持性を発現する要因としては、次のとおりである。
(1)浸漬液と流延膜61中に含まれる溶媒の一部との置換により、残留溶媒量が低減する。
(2)前駆体の貧溶媒である浸漬液に浸漬することにより、前駆体フィルム65が固化する。
こうして、剥取工程66において、自己支持性を有する流延膜61を前駆体フィルム65として容易に剥ぎ取ることができると同時に、後の第1乾燥工程67における、前駆体フィルム65の残留溶媒の除去をすることができる。
この浸漬液は、溶媒11aよりも低い沸点であり、前駆体12aに対して貧溶媒であればよい。また、この浸漬工程を複数回行っても良い。浸漬工程を複数回行う場合は、後の浸漬工程になるに従って沸点が低くなるように各工程の浸漬液を選択することが好ましい。この複数回の浸漬工程により、前駆体フィルムに含まれる残留溶媒の沸点を低下させることが可能になるため、浸漬工程の後に行う乾燥工程を容易にすることができる。
浸漬液としては、流延膜61に含まれる溶媒よりも沸点が低く、有機溶媒の良溶媒であることが好ましい。このような浸漬液に流延膜61を浸漬すると、流延膜61内に含まれる有機溶媒が抽出される速度が向上するとともに、後の乾燥工程において流延膜61に残留した有機溶媒の除去をすることが容易になる。この浸漬液として、純水を用いることが好ましい。
なお、流延膜61の溶媒置換の方法としては、流延膜61を浸漬液に浸漬する方法に限られず、例えば、流延膜61に浸漬液を接触させる方法を用いても良い。この浸漬液を接触させる方法の具体的なものとして、例えば、支持体上の流延膜61に浸漬液を吹付ける或いは塗布する方式等が挙げられる。
酸処理工程68における第1液300と前駆体フィルム65の片面301との接触方式としては、(1)前駆体フィルム65に第1液300を均一に接触させることができること(2)片面301に接触する第1液300の量の調節が容易であること、の要件を満たす方式が好ましい。この接触方式としては、エクストルージョン、スライドなどのダイコータ、順転ロール、逆転ロール、グラビアなどのロールコータ、細い金属線を巻いたロッドコータ等が好ましく利用できる。これらの塗布方式に関しては、Modern Coating and Drying Technology, Edward Cohen and Edgar B. Gutoff, Edits., VCH Publishers, Inc, 1992にまとめられている。塗布される第1液300は、その後、水洗除去するため、環境保護のための廃液処理を考えた場合、極力塗布量を抑えることが望ましい。この観点では、少ない塗布量域でも安定に操作できるロッドコータ、グラビアコータ、ブレードコータが好ましく利用できる。
第1液300は、酸性の水溶液に限られず、プロトン置換において、前駆体のプロトン受容体にプロトンを与え得るものであればよい。例えば、酸がアニオンとプロトンに電離した際、アニオンよりもプロトン受容性が大きいものを前駆体として用いる場合には、第1液300に酸を用いてもよい。
また、第1液300に含まれる酸として、例えば、硫酸、リン酸、硝酸や有機スルホン酸等を用いることができる。上記に列挙する酸のうち、アニオンの式量が40以上1000以下である酸を使用すると、プロトン置換を阻害するアニオンが前駆体フィルム65に侵入しにくくなるため、高効率のプロトン置換を行うことができる。具体的には、硫酸、リン酸、硝酸などを挙げることができるが、中でも、アニオンの式量が大きい硫酸を使用することが好ましい。
第1液300として、上述した酸を水、或いは有機溶剤と水との混合液に酸を溶解させたものを用いることができる。本発明で用いる水として、純水を用いる。本発明に用いられる純水とは、比電気抵抗が少なくとも1MΩ以上であり、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属イオンは1ppm未満、クロル、硝酸などのアニオンは0.1ppm未満を指す。純水は、逆浸透膜、イオン交換樹脂、蒸留などの単体、あるいは組み合わせによって、容易に得ることができる。
本発明で用いる有機溶剤は1種でも複数組み合わせてもかまわないが、前駆体フィルム65を溶解したり膨潤したりしないものを選ぶ必要がある。本発明に用いられる有機溶剤の例としては、新版溶剤ポケットブック(オーム社、1994年刊)などに挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。例えばアルコール類(メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、フッ素化アルコール)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル)、多価アルコール類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールジエチルエーテル)、N,N−ジメチルホルムアミド、パーフルオロトリブチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルセルソルブなどが挙げられる。
第1液300に含まれるプロトンの濃度(以下、プロトン濃度と称する)は、0.05mol/l以上である。第1液300のプロトン濃度が0.05mol/l未満であると、前駆体フィルム65におけるプロトン置換が十分に行われず好ましくない。なお、プロトン濃度とは、従来用いられていた規定度を表す概念であり、第1液のプロトン濃度とは、第1液300中に含まれ、プロトンとなりうる水素原子の濃度を表す。
プロトン置換の際、前駆体フィルム65の片面301の温度が高くなるほど、プロトン置換が促進される。特に前駆体フィルム65のガラス転移温度Tg近傍では、プロトン置換の反応速度が最も大きくなる。そのため、(1)酸処理工程68における前駆体フィルム65を加熱する(2)所望の温度に保持された第1液300を前駆体フィルム65に接触させる、のいずれかの方法、または、これらの方法の組合せにより、酸処理工程68におけるプロトン置換に要する時間を短縮することができる。
本発明における第1液300の温度は、反応させたい温度(=前駆体フィルム65のガラス転移温度Tg)に等しいことが望ましいが、使用する第1液300の種類によっては、Tgが第1液300の沸点を越えてしまうことがある。安定な塗布を行うためには、第1液300の沸点未満、好ましくは沸点(℃)の90%未満、更に好ましくは沸点(℃)の80%未満の温度に設定する。また、フィルムの製造ラインが設置される環境を考慮すると、第1液300の温度は室温以上であることが好ましく、30度以上に調整することがより好ましい。
酸処理工程68において、前駆体フィルム65の片面301の加熱手段として、片面301への熱風の衝突、加熱ロールによる接触伝熱、マイクロ波による誘導加熱、赤外線ヒータによる輻射熱加熱等が好ましく利用できる。特に赤外線ヒータは、非接触、かつ空気の流れを伴わずに行えるので、第1液300が塗布された片面301面への影響を最小にできるため好ましい。赤外線ヒータの種類としては、例えば(株)ノリタケカンパニーリミテド製の電気式、ガス式、オイル式、スチーム式などの各種遠赤外セラミックヒータが利用できる。特に熱媒体がオイル、またはスチームを用いるオイル式ならびにスチーム式は、有機溶剤が共存する雰囲気では防爆の観点で好ましい。前駆体フィルム65の温度は、25℃以上150℃未満、好ましくは25℃以上100℃未満、更に好ましくは40℃以上80℃未満である。フィルム温度の検出には、一般に市販されている非接触の赤外線温度計が利用でき、上記温度範囲に制御するために、加熱手段に対してフィードバック制御を行ってもよい。
この酸処理工程68において、前駆体フィルム65に高効率のプロトン置換を行うためには、前駆体フィルム65の残留溶媒量が、乾量基準に対して1質量%以上100質量%以下であることが好ましい。残留溶媒量が乾量基準に対して1質量%以下まで乾燥を進めると乾燥時間が長くなり、好ましくなく、残留溶媒量が乾量基準に対して100質量%以上の前駆体フィルム65に酸処理を行うと膜の空隙率が大きくなってしまい、好ましくない。なお、この乾量基準による残留溶媒量は、サンプリング時におけるフィルム質量をx、そのサンプリングフィルムを乾燥した後の質量をyとするとき{(x−y)/y}×100で算出される値である。
この酸処理工程68において、前駆体フィルム65の前駆体がプロトンに置換された割合(以下、プロトン置換率と称する)が80モル%以上であることが好ましく、プロトン置換率が90モル%以上であることがより好ましい。このような高いプロトン置換率のプロトン置換を行なうことにより、優れたプロトン伝導性の固体電解質フィルム70を製造することができる。
水洗工程69における水素置換フィルム65aの水洗方法としては、水素置換フィルム65aを連続搬送しながら実施することを考慮すると、洗浄液を塗布する方法、洗浄液を吹き付ける方法、洗浄液の入った容器に水素置換フィルム65aごと浸漬する方法が挙げられ、これらの方法のうちいずれの方法を用いても良い。
水洗に使用する洗浄液の量は、少なくとも下記に定義される理論希釈率を上回る量を用いなければならない。
理論希釈倍率 = 洗浄液の塗布量[ml/m2]÷第1液300の塗布量[ml/m2]
すなわち、水洗に使用される洗浄液の全てが第1液300の希釈混合に寄与したという仮定の理論希釈率を定義する。実際には、完全混合は起こらないので、理論希釈率を上回る洗浄液量を使用することとなる。用いた第1液のプロトン濃度や副次添加物、溶媒の種類にもよるが、少なくとも100〜1000倍、好ましくは500〜1万倍、さらに好ましくは1000〜十万倍の希釈が得られる洗浄液を使用する。
水洗方法は、ある決まった洗浄液の量を用いる場合、一度に全量適用するよりも数回に分割して適用する回分式洗浄方法が好ましい。即ち、洗浄液の量を幾つかに分けて、水素置換フィルム65aの搬送方向にタンデムに設置した複数の水洗手段に供給する。一つの水洗手段と次の水洗手段との間には適当な時間(距離)を設けて、拡散による第1液300の希釈を進行させる。さらに好ましくは、搬送される水素置換フィルム65aに傾斜を設けるなどして、フィルム上の洗浄液がフィルム面に沿って流れる様にすれば、拡散に加えて、流動による混合希釈が得られる。最も好ましい方法としては、水洗手段と水洗手段の間に水素置換フィルム65a上の洗浄液の膜を除去する水切り手段を設けることで、更に水洗希釈効率を高められる。具体的な水切り手段としては、ブレードコータに用いられるブレード、エアナイフコーターに用いられるエアナイフ、ロッドコータに用いられるロッド、ロールコータに用いられるロールが挙げられる。こうしたタンデムに配置された水洗手段の数は、多いほうが有利であるが、設置スペースならびに設備コストの観点より、通常は2〜10段、好ましくは2〜5段が使用される。
水切り手段後の洗浄液の膜(以下、水膜と称する)の厚みは、薄い方が好ましいが、用いる切り手段の種類によって、水素置換フィルム65aに残留する水膜の厚みが異なる。ブレード、ロッド、ロールなど、物理的に固体を水素置換フィルム65aに接触させる方法においては、例え固体がゴムなどの硬度の低い弾性体であったとしても、水素置換フィルム65aの表面にキズを付けたり、弾性体が磨り減ったりするので有限の水膜を潤滑流体として残す必要がある。通常は、数μm以上、好ましくは10μm以上の水膜を潤滑流体として残存させる。
極限まで水膜厚みを減少させられる水切り手段としては、エアナイフを用いることが好ましい。十分な風量と風圧を設定することにより、水膜厚みをゼロに近づけることが出来る。ただし、エアナイフからのエアの吹出し量が大きすぎると、ばたつきや寄りなど、水素置換フィルム65aの搬送安定性に影響を及ぼすことがあるので、好ましい範囲が存在する。水素置換フィルム65a上の元の水膜厚み、水素置換フィルム65aの搬送速度にもよるが、通常は10〜500m/秒、好ましくは20〜300m/秒、より好ましくは30〜200m/秒の風速を使用する。また、均一に水膜除去を行うためには、水素置換フィルム65aの幅方向の風速分布を、通常は10%以内、好ましくは5%以内になる様、エアナイフの吹出し口やエアナイフへの給気方法を調整する。搬送する透明樹脂フィルム表面とエアナイフ吹出し口の間隙が狭くなるほど、その水切り能力が増すが、水素置換フィルム65aと接触して傷付ける可能性が高くなるため、適当な範囲がある。通常は、10μm〜10cm、好ましくは100μm〜5cm、さらに好ましくは500μm〜1cmの間隙をもって、エアナイフを設置する。さらに、エアナイフと対向する様に、水素置換フィルム65aの水洗面と反対側にバックアップロールを設置することで、間隙の設定が安定するとともに、水素置換フィルム65aのバタツキやシワ、変形などの影響を緩和することができるために好ましい。
洗浄液には、純水を用いることが好ましい。また、酸を洗い流す高い効果を得るために、使用する洗浄液の温度は30℃以上洗浄液の沸点以下とすることが好ましい。ただし、洗浄液の温度は、略室温から沸騰するまでの温度範囲であれば特に限定されるものではない。
[固体電解質フィルム製造設備]
図3に、本実施形態で用いるフィルム製造設備33を示す。フィルム製造設備33は、固体電解質フィルム製造工程60に基づいて設計された設備である。ただし、このフィルム製造設備33は本発明の一例であり、本発明を限定するものではない。
フィルム製造設備33は、支持体上にドープ24を流延して流延膜61を形成する流延室80と、支持体の走行に伴い流延膜61を搬送する間に乾燥手段により流延膜61を乾燥する搬送室81と、支持体から流延膜61を剥ぎ取って前駆体フィルム65を得た後、前駆体フィルム65の乾燥を促進させるテンタ83と、更に前駆体フィルム65の乾燥を促進させてフィルム70とする乾燥室84と、フィルム70を調湿する調湿室85と、調湿後のフィルム70をロール状に巻き取る巻取室86とを備えている。また、耳切装置105と乾燥室84との間には、酸処理室88が配される。
フィルム製造設備33は、ストックタンク32を介してドープ製造設備10と接続されている。ストックタンク32には、モータ90により回転する攪拌機91が備えられている。ドープ製造設備10で調製されたドープ24は、ストックタンク32に貯留される。攪拌機91は、常時回転しているため、ドープ24の中に固形分の析出や凝集が発生するのを抑制してドープ24の状態を均一に保持することができる。なお、このようにドープ24を攪拌している際に、ドープ24に対して、各種添加剤を適宜混合させることもできる。
流延室80には、ドープ24を流出する流延ダイ93と、走行する支持体である流延バンド94とを備える。流延ダイ93の材質としては、析出硬化型のステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率は2×10−5(℃−1)以下であることが好ましい。そして、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有し、さらに、ジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じないような耐腐食性を有するものが好ましい。なお、流延ダイ93は、鋳造後1ヶ月以上経過した素材を研削加工することにより作製されることが好ましく、これにより、流延ダイ93の内部をドープ24が一様に流れ、後述する流延膜61にスジなどが生じることが防止される。流延ダイ93のドープ24と接する、いわゆる接液面は、その仕上げ精度が表面粗さで1μm以下、真直度がいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。流延ダイ93のスリットのクリアランスは、自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲で調整可能とされている。流延ダイ93のリップ先端の接液部の角部分について、その面取り半径Rは、流延ダイ93の全巾にわたり一定かつ50μm以下とされている。流延ダイ93はコートハンガー型のダイが好ましい。
流延ダイ93の幅は特に限定されるものではないが、最終製品となるフィルム70の幅の1.1倍〜2.0倍程度であることが好ましい。また、製膜の際のドープ24の温度が所定温度に保持されるように、流延ダイ93の温度を制御する温度コントローラが流延ダイ93に取り付けられることが好ましい。さらに、流延ダイ93には、幅方向に所定の間隔で複数備えられた厚み調整ボルト(ヒートボルト)と、このヒートボルトによりスリットの隙間を調整する自動厚み調整機構が備えられることがより好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりポンプ(高精度ギアポンプが好ましい)95の送液量に応じてプロファイルを設定し製膜を行うことが好ましい。ドープの送り量を精緻に制御するために、ポンプ95は高精度ギアポンプであることが好ましい。また、フィルム製造設備33中には、例えば赤外線厚み計のような厚み測定機を設け、厚みプロファイルに基づく調整プログラムと厚み測定機による検知結果とにより、自動厚み調整機構へのフィードバック制御を行ってもよい。製品としてのフィルム70の両側端を除く任意の2つの位置での厚み差が1μm以内となるように、先端リップのスリット間隔を±50μm以下に調整できる流延ダイ93を用いることが好ましい。
流延ダイ93のリップ先端には硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムめっき、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削することができ気孔率が低く脆くなく耐腐食性が良く、かつドープ24との親和性や密着性がないものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC)、Al2 O3 、TiN、Cr2 O3 などが挙げられるが、中でも特に好ましくはWCである。WCコーティングは、溶射法で行うことができる。
ドープ24が流延ダイ93のリップ先端で局所的に乾燥固化することを防止するために、リップ先端に溶媒を供給するための溶媒供給装置(図示しない)をリップ先端近傍に取り付けることが好ましい。溶媒が供給される位置は、流延ビードの両端部とリップ先端の両端部と外気とにより形成される三相接触線の周辺部が好ましい。供給される溶媒の流量は、片側それぞれに対し0.1mL/分〜1.0mL/分とすることが好ましい。これにより、異物、例えばドープ24から析出した固形成分や外部から流延ビードに混入したものが流延膜61中に混合してしまうことを防止することができる。なお、溶媒を供給するポンプとしては、脈動率が5%以下のものを用いることが好ましい。
流延ダイ93の下方には、回転ローラ97,98に掛け渡される流延バンド94が設けられている。流延バンド94は、少なくともいずれか一方の回転ローラの駆動回転により連続的に搬送される。この流延バンド94は、流延室80、搬送室81及び後述するタンクを巡回するように無端で搬送される。
流延バンド94の幅は特に限定されるものではないが、ドープ24の流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。また、長さは20m〜200m、厚みは0.5mm〜2.5mmであり、表面粗さは0.05μm以下となるように研磨されていることが好ましい。
流延バンド94の素材は特に限定されるものではなく、例えば、ステンレス等の無機材料であっても良いし、有機材料からなるプラスチックフィルムでも良い。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、ナイロン6フィルム、ナイロン6,6フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム等の不織布のプラスチックフィルムが挙げられる。使用する溶媒、製膜温度に対応できるような化学的安定性と耐熱性とをもつ長尺物であることが好ましい。なお、本実施形態では、流延バンド94としてプラスチックフィルムであるPETフィルムを使用している。
回転ローラ97,98の内部には、伝熱媒体が取り付けられているものを用いて、これにより流延バンド94の表面温度を所定の値にすることが好ましい。本実施形態では、回転ローラ97,98に伝熱媒体流路(図示しない)が形成されており、その流路中を、所定の温度に保持されている伝熱媒体が通過することにより、回転ローラ97,98の温度が所定の値に保持されるものとなっている。流延バンド94の表面温度は、溶媒の種類、固形成分の種類、ドープ24の濃度等に応じて適宜設定する。
回転ローラ97,98、及び流延バンド94に代えて回転ドラム(図示しない)を支持体として用いることもできる。この場合には、回転速度ムラが0.2%以下となるように高精度で回転できるものであることが好ましい。回転ドラムは、表面の平均粗さが0.01μm以下であることが好ましく、表面がハードクロムめっき処理等を施されているものが好ましい。これにより、十分な硬度と耐久性とを向上させることができる。なお、回転ドラム、流延バンド94、回転ローラ97,98は、表面欠陥が最小限に抑制されていることが好ましい。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m2 以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m2 以下であることが好ましい。
流延ダイ93の近傍には、流延ダイ93から流延バンド94にかけて形成されるリボン状のドープ24、すなわち流延ビードの流延バンド94走行方向における上流側を圧力制御するために減圧チャンバ(図示しない)を設けることが好ましい。また、流延バンド94の近傍には送風装置(図示しない)を設けて、流延膜61の溶媒を蒸発させるために風を吹き付けることが好ましい。なお、上記の送風装置には遮風板を設けて、流延膜61の形状を乱すような風が流延膜61にあたるのを抑制することが好ましい。その他に、流延室80には、その内部温度を所定の値に保つための温度コントローラと、揮発している有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)(共に図示しない)とが設けられる。このコンデンサは、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置が備えられている形態であることが好ましい。
搬送室81の内部には、所望の温度になるよう調整した乾燥風を送り出して流延膜61の乾燥を促進させる送風機(図示しない)が備えられている。また、搬送室81は、複数の区画に分け、更に各区画内に乾燥装置を取り付ける等して、各区画の乾燥温度が異なるように調整することが好ましい。これにより、流延膜61を徐々に乾燥することができるので、急激に溶媒が揮発してしわやつれなどの形状変化が発生するのを抑制することができる。搬送室81における区画の個数等は特に限定されるものではないが、搬送室81内の乾燥温度を30℃以上60℃以下の範囲となるように調整することが好ましい。また、搬送室81には、流延膜61を乾燥する際に発生する揮発溶剤を回収するための凝縮器(コンデンサ)99を設けている。凝縮器99は、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置が備えられている形態であることが好ましい。
搬送室81の下流には、剥取ローラ100を備えるタンク101が設けられている。本実施形態のタンク101には、浸漬液として純水が貯留されており、流延バンド94と共に流延膜61をタンク101内に浸漬させる。
タンク101の下流でありテンタ83の上流には、前駆体フィルム65の両面方向に向けられた送風口を備える一対のエアナイフ103が設けられている。また、テンタ83には、乾燥風を送り出す乾燥装置と、チェーン(図示しない)の走行に伴い走行する多数のクリップ104とが備えられている。そして、テンタ83の下流には、前駆体フィルム65の両端部(耳部)を切り落とす耳切装置105が設けられている。耳切装置105には、切り取られた前駆体フィルム65の両側端部(耳と称される)の屑を細かく切断処理するためのクラッシャ105aが接続されている。
酸処理室88には、図4のように、塗布装置110と、塗布装置110の下流に配される第1水槽111及び第2水槽112とが設けられる。
塗布装置110は、エクストルージョン方式のダイコータである。塗布装置110は、酸を含む第1液300を貯留する槽115と接続する供給口116と、供給口116から供給された第1液300を流出する流出口117とを備える。流出口117は、前駆体フィルム65の幅方向に延びる開口部を備える。槽115から第1液300が供給されると、塗布装置110は、第1液300を開口部から排出し、第1液300を前駆体フィルム65の片面に均一に塗布する。この第1液300の塗布により、前駆体フィルム65の当該片面に塗膜301aが形成される。
また、槽115と塗布装置110とを接続する管118の間には、ポンプやバルブが備えられる。このポンプやバルブの操作によって、前駆体フィルム65の片面上に所望量の第1液300を塗布することができる。更に、槽115は、第1液300の温度調節部115aを備えている。この温度調節部115aにより、第1液300の温度は、所望の温度に保持される。
なお、このような塗布装置110により、前駆体フィルム65の片面上に塗布する第1液300の量を、2ml/m2以上100ml/m2以下にすることが好ましい。第1液300の塗布量が2ml/m2以下である場合には、前駆体フィルム65におけるプロトン置換反応が十分行われず、第1液300の塗布量が100ml/m2以上である場合には、フィルムを安定に搬送することができず好ましくない。
また、塗布装置110の下流側には、赤外線ヒータ(以下、ヒータと称する)120が配される。ヒータ120は、水素置換フィルム65aを加熱し、水素置換フィルム65aの片面301を所望の温度にすることができる。本実施形態では、第1液300として硫酸水溶液を用いるため、ヒータ120の加熱による片面301の温度は、80℃以上100℃以下であることが好ましい。
第1水槽111には、洗浄液として水200が貯留されている。第2水槽112には、洗浄液として水201が貯留されている。第1水槽111及び第2水槽112は、温度調節部111aに接続される。温度調節部111aは、第1水槽111及び第2水槽112に貯留される水200及び201の温度を、独立して保持することができる。また、第1水槽111及び第2水槽112の下流には、1組のエアナイフ(図示しない)が、水素置換フィルム65aの搬送路に対し、対向するようにそれぞれ配される。
図3に示すように、乾燥室84には、多数のパスローラ127と、乾燥室84の内部の揮発溶媒を回収するために吸着回収装置128と、乾燥風を供給する乾燥装置(図示しない)とが備えられている。また、乾燥室84の下流に配される調湿室85には、乾燥室84と同じパスローラ127と温度制御装置と湿度制御装置(共に図示しない)とが備えられている。調湿室85の下流には、除電バー等の除電装置(図示しない)を設けて、固体電解質フィルム70の帯電圧を所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)となるように調整することが好ましく、更には、ナーリング付与ローラ対(図示しない)を設けて、固体電解質フィルム70の両側端部にエンボス加工でナーリングを付与することが好ましい。巻取室86の内部には、フィルム70を巻き取るための巻取ロール130と、巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ131とが備えられている。
次に、上記のフィルム製造設備33を用いてフィルム70を製造する方法の一例を説明する。
ストックタンク32に貯留されているドープ24をポンプ95により濾過装置96に送り込み、濾過することによりドープ24中に含まれる所定粒径よりも大きい微粒子や異物、及びゲル状の異物等を取り除く。
濾過後のドープ24を流延ダイ93に送り込んだ後、流延ダイ93から流延ビードを形成させながら流延バンド94の上に流延する。この場合、流延バンド94に生じるテンションが103 N/m〜106 N/mとなるように、回転ローラ97,98の相対位置、及び少なくともいずれか一方の回転速度を調整する。また、流延バンド94と回転ローラ97,98との相対速度差は、0.01m/分以下となるように調整する。なお、流延時においては、使用するドープ24の濃度及び所望のフィルム製品の厚みを考慮して、ドープ24の流延量を決定する。
流延バンド94の速度変動を0.5%以下とし、流延バンド94が一周する際に生じる幅方向における蛇行は1.5mm以下とすることが好ましい。なお、この蛇行を抑制するためには、流延バンド94の両端の位置を検出する検出器(図示しない)と、この検出器による検出データに応じて流延バンド94の位置を調整する位置調整機(図示しない)とを設けて、流延バンド94の位置をフィードバック制御することがより好ましい。その他にも、流延ダイ93の直下における流延バンド94について、回転ローラ97,98の回転に伴う上下方向の位置変動が200μm以内となるようにすることが好ましい。流延室80には温度コントローラ(図示しない)を設けて、これにより−10℃〜57℃とされることが好ましい。流延室80の内部で蒸発した溶媒は回収装置(図示しない)により回収した後、再生させてドープ製造用の溶媒として再利用すると、製造コスト低減を実現できる等の効果を得る上でも好ましい。
流延ビードの様態を安定させるために、このビードに関し上流側のエリアが所定の圧力値となるように減圧チャンバで制御することが好ましい。減圧チャンバによる減圧値は、ビードに関し下流側のエリアよりも−2500Pa〜−10Paとすることが好ましい。なお、減圧チャンバにジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つようにすることが好ましい。また、流延ビードの形状を所望のものに保つために、流延ダイ93のエッジ部に吸引装置(図示しない)を取り付けて流延ビードの両側を吸引することが好ましい。このエッジ吸引風量は、1L/分〜100L/分の範囲であることが好ましい。
流延バンド94上の流延膜61を、回転ローラ97,98を駆動させることにより流延バンド94を走行させて流延室80及び搬送室81内を搬送する。搬送室81内では、乾燥装置(図示しない)から乾燥風を供給して流延膜61の乾燥を促進させる。また、コンデンサ99は、搬送室81の内部の揮発溶媒を凝縮して回収する。
続けて、流延膜61が形成された流延バンド94をタンク101に送り込んで、浸水液に浸漬させる。なお、本実施形態では、浸水液として水を使用している。そして、流延バンド94から流延膜61を剥取ローラ100により剥ぎ取って前駆体フィルム65を得る。前駆体フィルム65は、ガイドローラにより所定の方向に案内される。また、流延膜61が剥ぎ取られた後の流延バンド94は、回転ローラ97,98の駆動に伴い無端で走行しているため、再度流延室80内に送り込まれる。
なお、タンク101内において、流延膜61を水に浸漬させる形態は特に限定されるものではないが、流延膜61を水溶液に浸漬させる時間を1分以上60分以下とすることにより、流延膜61の自己支持性を発現させ、流延バンド94から前駆体フィルム65を剥ぎ取ることができる。
続けて、ガイドローラによって、前駆体フィルム65がタンク101から送り出される。エアナイフ103により前駆体フィルム65の表面にエアーを吹き付けて、前駆体フィルム65の表面に付着している水分を除去する。この前駆体フィルム65をテンタ83に送り込む。テンタ83では、クリップ104で前駆体フィルム65の両側端部を把持して、チェーンの走行に伴い搬送する。この前駆体フィルム65の搬送の間に、所望の温度に調整した乾燥風を前駆体フィルム65にあてて、前駆体フィルム65の乾燥を促進させる。ただし、クリップ104をピンに代えて、このピンを前駆体フィルム65の両側端部に突き刺すことにより保持してから搬送させても良い。このとき、乾燥風の温度を調整することにより、テンタ83の内部の温度を80℃以上140℃以下とすることが好ましい。本実施形態では、その内部の温度を約120℃となるように調整する。また、本実施形態ではテンタ83の内部を搬送方向で異なった温度ゾーンとして4分割して、そのゾーン毎に乾燥条件を適宜調整することが好ましい。
テンタ83では、前駆体フィルム65を幅方向に延伸させることが可能とされている。テンタ83に送り込む前の前駆体フィルム65に付与する搬送方向における張力を調整することにより、前駆体フィルム65を搬送方向に延伸することも可能である。また、前駆体フィルム65を延伸する場合には、前駆体フィルム65の搬送方向と幅方向との少なくとも1方向を、延伸前の寸法に対し100.5%〜300%の寸法となるように延伸することが好ましい。これにより、前駆体フィルム65の分子配向を調整することができる。
前駆体フィルム65を耳切装置105に送り込み、ここでその両側端部を切断除去する。このようにクリップで傷ついた前駆体フィルム65の両側端部を切除することで、平面性に優れるフィルム70を得ることができる。なお、切断された両側端部は、カッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ105aに送り込られ、ここで粉砕してチップとなる。このチップを、ドープ製造用のポリマー原料として再利用すると、原料の有効利用或いは製造コストの低減を図ることが出来る。なお、前駆体フィルム65の両側端部を切断する工程は省略することもできるが、前駆体フィルム65として支持体から剥ぎ取った後、フィルムを巻き取るまでのいずれかで行うことが好ましい。
塗布装置110を用いて、両側端部が切断された前駆体フィルム65の片面に、酸を含む第1液300を塗布する。そして、ヒータ120を用いて、この前駆体フィルム65の片面301を80℃以上100℃以下に加熱する。このヒータ120の加熱により、前駆体フィルム65においてプロトン置換が十分に行われ、前駆体フィルム65が水素置換フィルム65aとなる。
次に、プロトン置換が十分に行われた水素置換フィルム65aを第1水槽111に送り込んで、水素置換フィルム65aを水200に浸漬し、洗浄する。洗浄した水素置換フィルム65aを水200から除去する。次に、エアナイフを用いて、この水素置換フィルム65aに付着する水200を水切りする。水切りされた水素置換フィルム65aを、第2水槽112に送り込んで、水素置換フィルム65aを水201に浸漬し、洗浄する。洗浄した水素置換フィルム65aを水201から除去する。エアナイフを用いて、この水素置換フィルム65aに付着する水201を水切りする。また、第1水槽111及び第2水槽112では、水200、201の温度が30℃以上に保持されているため、洗浄工程における水素置換フィルム65aに付着した酸の除去効果が向上する。
続けて、水素置換フィルム65aを乾燥室84に送り込む。乾燥室84では、パスローラ127に巻き掛けながら水素置換フィルム65aを搬送する間に乾燥装置から乾燥風を供給して乾燥させる。乾燥室84の内部温度は、特に限定されるものではないが、固体電解質の耐熱性(ガラス転移点Tg、熱変形温度、融点Tm、連続使用温度等)に応じて決定され、Tg以下とすることが好ましく、本発明では、乾燥室84の内部温度は80℃以上200℃以下とすることが好ましく、フィルム70の残留溶媒量が乾量基準に対して10質量%未満となるまで乾燥することが好ましい。なお、フィルム70から蒸発して発生した溶媒ガスは、吸着回収装置128により吸着回収してから、溶媒成分を除去した後、再度、乾燥風として乾燥室84の内部に送りこむ。
乾燥室84は、送風温度を変えるために、搬送方向で複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置105と乾燥室84との間に予備乾燥室(図示しない)を設けて水素置換フィルム65aを予備乾燥すると、乾燥室84で水素置換フィルム65aの温度が急激に上昇することが防止されるので、乾燥室84での水素置換フィルム65aの大幅な形状変化を抑制して、形状変化の少ないフィルム70を得ることができる。
フィルム70を調湿室85に搬入する。調湿室85では、乾燥室84と同様にパスローラ127に巻き掛けながらフィルム70を搬送する間に、温度制御装置と湿度制御装置により所望の温度及び湿度となるように調整することにより調湿して、その含水量を制御する。なお、調湿室85内の温度及び湿度は特に限定されるものではないが、温度は20℃以上30℃以下であることが好ましく、湿度は40RH%以上70RH%以下であることが好ましい。これにより、フィルム70の表面にカールが発生したり、巻き取る際に巻取り不良が発生したりするのを抑制することができる。なお、乾燥室84と調湿室85との間に冷却室(図示しない)を設けてフィルム70を略室温まで冷却すると、温度変化によりフィルム70が形状変化するのを抑制することができるので好ましい。
調湿室85と巻取室86との間に除電装置(図示しない)を設けて、フィルム70が搬送されている間に帯電圧を所定の値とする。除電後の帯電圧は、−3kV〜+3kVとされることが好ましい。更に、フィルム70は、ナーリング付与ローラ対を設けて、ナーリングが付与されることが好ましい。なお、ナーリングを付与した箇所の凹凸の高さが1μm〜200μmであることが好ましい。
最後に、フィルム70を巻取室86に送り込んで、プレスローラ131で張力を付与しながら巻取ロール130に巻き取る。これにより、しわやつれ等の発生を抑制しながらロール状のフィルム70を得ることができる。このようにプレスローラ131で所望のテンションをフィルム70に付与しつつ巻き取ると、平面性に優れるロール状のフィルム製品を得ることができるので好ましい。なお、フィルムロールにおける過度な巻き締めを防止するために、上記のテンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましい。また、巻き取られるフィルム70の幅は100mm以上であることが好ましいが、本発明は、フィルム70の厚みが5μm以上300μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。
以上のように、本発明では固体電解質フィルム製造工程60の各工程に基づき複数の装置が組み合わされたフィルム製造設備33を用いてフィルム70を製造するようにしたので、今までオフラインで行なわれていた酸処理等も含めて、いずれの工程もオンラインで連続的に行なうことができる。これにより、高プロトン伝導度を有するフィルム70を連続して大量に生産することが可能となる。
上記実施形態において、水洗工程69において、水素置換フィルム65aを洗浄液に浸漬する方法の代わりに、水素置換フィルム65aに洗浄液を吹き付ける方法を用いても良い。本発明に用いられる水吹きつけ方法の具体的例として、エクトルージョンあるいは、ファウンテンコーター、フロッグマウスコーター等の塗布ヘッドを用いる方法、空気の加湿や塗装、タンクの自動洗浄などに利用されるスプレーノズルを用いる方法が挙げられる。これらの塗布方式に関しては、「コーティングのすべて」荒木正義編集、(株)加工技術研究会(1999年)にまとめられている。また、スプレーノズルについては、(株)いけうち、スプレーイングシステムズ社の円錐状、扇状などのスプレーノズルを透明樹脂フィルムの幅方向に配列して、全幅に水流が衝突する様に設置することができる。
水の吹き付け速度は、大きいほうが高い乱流混合が得られるが、連続搬送する透明樹脂フィルムの搬送安定性を損なう危険があるので好ましい範囲がある。通常は、50〜1000cm/秒、好ましくは100〜700cm/秒、より好ましくは100〜500cm/秒の衝突速度で酸性塗布液面に吹き付ける。
前述した固体電解質フィルム製造工程60では、酸処理工程68において、前駆体フィルム65の片面に第1液300を塗布する塗布装置110を用いたが、これに加えて、前駆体フィルム65の他面に第2液302を塗布する塗布装置170を用いても良い。図5に、塗布装置110に加えて、ロッドコータ式の塗布装置170を用いる場合の酸処理室88の概要を示す。なお、前述した実施形態と同様の装置や部材については同様の符号を用い、これらの詳細の説明は省略する。
前述した酸処理室88において、塗布装置170は、塗布装置110の上流側に配される。塗布装置170は、ローラ171と、容器172と、ガイドローラ173a及び173bとから構成される。また、ヒータ175は、前駆体フィルム65を介して、ヒータ120と対向する位置に配される。容器172には、酸を含む第2液302が貯留されている。容器172は、温度調節部172aに接続され、この温度調節部172aにより第2液302の温度が所定値に保持される。ローラ171は、円筒状に形成される。ローラ171は、ローラ171の周面の一部が第2液302に浸るように容器172内に配される。ローラ171の軸は、モータ(図示しない)に接続する。モータの駆動により、ローラ171は軸を中心に所定方向に所定速度で回転する。ローラ171の回転により、第2液302中に浸っていたローラ171の周面が第2液302から露出する。この露出したローラ171の周面には所定量の第2液302が付着する。ローラ171の回転に従い、周面に付着した第2液302が前駆体フィルム65へと案内される。
ガイドローラ173aは、ローラ171の上流側に配され、ガイドローラ173bは、ローラ171の下流側に配される。これらガイドローラ173a、173bは、耳切装置105から酸処理室88へ送られてきた前駆体フィルム65を所定の方向に搬送する。
これらガイドローラ173a、173bにより搬送された前駆体フィルム65の他面303、つまり片面と反対側の面は、第2液302を搬送するローラ171の周面に接触する。前駆体フィルム65の他面303とローラ171の周面との接触により、ローラ171の周面上の第2液302が前駆体フィルム65の他面303上に連続的に塗布される。こうして、前駆体フィルム65の他面303には塗膜303aが形成される。
他面303上に塗膜303aが形成された前駆体フィルム65は、ガイドローラ173a、173bによって塗布装置110へ案内される。塗布装置110は、前駆体フィルム65の片面301に第1液300を塗布し、塗膜301aを片面上301に形成する。
両面に第1液300及び第2液302の塗膜301a及び303aが形成された前駆体フィルム65は、ヒータ120、175に搬送される。ヒータ120は、前駆体フィルム65の片面301を加熱し、ヒータ175は、前駆体フィルム65の他面303を加熱する。こうして、第1液300及び第2液302が塗布された片面301及び他面303が所望の温度に加熱され、前駆体フィルム65に含まれる前駆体12aがプロトン置換されて、固体電解質となる。このようにして得られた水素置換フィルム65bは、前述した実施形態と同様に、水洗工程69及び第2乾燥工程72を経て、フィルム70bとなる。
ヒータ175は、所望の温度で、前駆体フィルム65の他面303を加熱することができる。ヒータ175の加熱による前駆体フィルム65の温度は、ヒータ120と同様に、80℃以上100℃以下であることが好ましい。
第1液300は、前述した実施形態と同様のものを用いる。第2液302は、純水、或いは、酸を含む液、のいずれかを用いてもよい。第2液302が、酸を含む液の場合は、第1液300より低いプロトン濃度であり、第1液300と第2液302とのプロトン濃度の差が0.05mol/l以上であるものを用いる。第1液300と第2液302とのプロトン濃度の差が0.05mol/l未満であると、前駆体フィルム65におけるプロトン置換が十分に行われず好ましくない。また、第1液300と同様に、第2液302として、アニオンの式量が40以上1000以下である酸を使用することにより、酸処理工程68において高効率のプロトン置換を行うことができる。更に、第1液300と同様に、第2液302の温度を30℃以上第2液302の沸点以下に調整することにより、プロトン置換率を更に向上することができる。
この塗布装置170により、前駆体フィルム65の他面303上における第2液302の塗布量を、2ml/m2以上100ml/m2以下にすることが好ましい。第2液302の塗布量が2ml/m2以下である場合には、前駆体フィルム65におけるプロトン置換が十分に行われない。一方、第2液302の塗布量が100ml/m2以上である場合には、フィルムを安定に搬送することができず好ましくない。なお、前述した塗布装置170に代えて、上述した塗布手段、塗布装置110、ロッドコータやグラビアコータなど公知の塗布手段を用いてもよい。固体電解質フィルム製造工程60をオンライン方式で行うこと、及び、第1液300及び第2液300の塗布量の調節の容易性を考慮すると塗布装置110或いは170を用いることがより好ましい。
なお、上記実施形態では、(1)前駆体フィルム65の他面303に第2液302の塗布(2)前駆体フィルム65の片面301に第1液300の塗布(3)前駆体フィルム65の両面の加熱、の順に各工程を行ったが、これに限らず、他の順序で行っても良い。すなわち、所定の酸の濃度の第1及び第2液302をそれぞれの面に塗布し、所定の温度で各面を加熱し、前駆体フィルム65にてプロトン置換を行えばよい。例えば、前駆体フィルム65の片面301に第1液300を塗布し、片面301を加熱し、その後、前駆体フィルム65の他面303に第2液302を塗布し、他面303を加熱する、等としてもよい。
なお、前述した前駆体フィルム65を乾燥させ、ロールに巻き取られたフィルムや、前駆体フィルム65から切り出された前駆体フィルム片189に、酸処理工程68、水洗工程69、第2乾燥工程72を逐次施すことにより、固体電解質フィルムを得ることができる。なお、これらの固体電解質フィルムの製造工程は、オンライン方式に限らず、オフライン方式で各工程を行っても良い。
以下、オフライン方式で前駆体フィルム65の両面に酸処理を行う装置の一例として、酸処理装置190を例に挙げて説明する。なお、本発明に用いられる酸処理装置は、以下に限られるものではない。図6に示すように、酸処理装置190は、パイプ191と、マントルヒータ193と、固定リング195とから構成される。マントルヒータ193は、容器193aと温度制御部193bとを備える。温度制御部193bは、所定の加熱量で容器193aを加熱する。容器193aには、第1液300が貯留されている。
パイプ191は、その両端部に開口部191a、開口部191bを備える。開口部191a側の周面上には、嵌合溝が形成される。固定リング195は、中空部を有する。固定リング195の片端195a側の中空部の内径は、パイプ191の外径と略同一の寸法に形成される。一方、他端195b側の中空部の内周面上には、固定部195cが形成される。この固定部195cの形成により、他端195b側の中空部の内径は、パイプ191の内径と略同一の寸法に形成される。そして、固定リング195の片端195a側の内周面には、パイプ191の嵌合溝に嵌合可能な溝が形成される。固定部195cをストッパとして、固定リング195の片端195a側と、パイプ191の開口部191a側と、が嵌合することができる。
前駆体フィルム65から所定の寸法に切り出された前駆体フィルム片189を、パイプ191の開口部191aと、固定リング195の片端195aとの間に配する。固定リング195とパイプ191とを嵌合すると、前駆体フィルム片189を介して、固定部195cと端面191cとが当接する。こうして、前駆体フィルム片189がパイプ191の開口部191aを塞ぐように保持される。
このパイプ191を、開口部191aから第1液300に浸漬する。そして、パイプ191の他端の開口部191bから所定量の第2液302を注ぐ。マントルヒータ193の温度制御部193bにより容器193aが加熱され、第1液300、第2液302の加熱を介して、前駆体フィルム片189が所望温度で加熱される。こうして、酸処理装置190により、前駆体フィルム片189の両面に第1液300及び第2液302を接触させて、酸処理を行うことができる。
溶液製膜方法では、支持体から剥ぎ取られたフィルム(固体電解質フィルム)を巻き取るまでの間に、乾燥工程や側端部の切除除去工程などの様々な工程が行われている。これらの各工程内、あるいは各工程間では、フィルムは主にローラにより支持または搬送されている。これらのローラには、駆動ローラと非駆動ローラとがあり、非駆動ローラは、主に、フィルムの搬送路を決定するとともに搬送安定性を向上させるために使用される。
本実施形態では、1種類のドープを流延する場合を示したが、本発明では、2種類以上のドープを同時に共流延して積層タイプの流延膜を形成しても良いし、逐次に共流延させて積層タイプの流延膜を形成させても良い。なお、2種類以上のドープを同時に共流延する場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。ただし、共流延により多層からなるフィルムは、表面に露出する2層のうちいずれか一層が、フィルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。また、同時に共流延をする場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれて流延されるように各ドープの濃度を予め調整しておくことが好ましく、ダイスリットから支持体にかけて形成されるビードのうち、外界と接する、つまり露出するドープが内部のドープよりも貧溶媒の比率が大きい処方とされることが好ましい。
なお、前駆体フィルムを製造する方法を上記方法に代えて、細孔が複数形成されている、いわゆる多孔質基材の細孔に前駆体を保持させて、上記実施形態とは異なる前駆体フィルムを製造することができる。このような前駆体フィルムの製造方法としては、前駆体が含まれるゾル−ゲル反応液を多孔質基材上に塗布して細孔に前駆体を入れる方法、多孔質基材を前駆体が含まれるゾル−ゲル反応液に浸漬し、細孔内に前駆体を満たす方法等がある。多孔質基材の好ましい例としては、多孔性ポリプロピレン、多孔性ポリテトラフルオロエチレン、多孔性架橋型耐熱性ポリエチレン、多孔性ポリイミドなどが挙げられる。また、前駆体を繊維状に加工し、繊維中の空隙を他の高分子化合物等で満たし、その繊維を用いてフィルム状とすることにより前駆体フィルムを形成することもできる。この場合には、空隙を満たすための他の高分子化合物の例としては、本明細書における添加剤として挙げた物質を挙げることができる。これらの各前駆体フィルムについて、上述した酸処理によるプロトン置換を行うことにより、固体電解質フィルムを製造することができる。
本発明の固体電解質フィルムは、燃料電池用、特に特に直接メタノール型燃料電池用のプロトン伝導膜として好適に利用することができる他に、燃料電池の2つの電極に挟まれる固体電解質フィルムとして用いることができる。さらに、各種電池(レドックスフロー電池、リチウム電池等)における電解質、表示素子、電気化学センサー、信号伝達媒体、コンデンサ、電気透析、電気分解用電解質膜、ゲルアクチュエーター、塩電解膜、プロトン交換樹脂としても本発明の固体電解質フィルムを用いることができる。
(燃料電池)
以下に、固体電解質フィルムを電極膜複合体(Membrane and Electrode Assembly,以下、MEAと称する)に使用する例と、この電極膜複合体を燃料電池に用いる例とを説明する。ただし、ここに示すMEA及び燃料電池の様態は本発明の一例であり、本発明はこれに限定されない。本実施形態に用いる固体電解質フィルムは、前述したフィルム70でもフィルム70bいずれでもよい。以下、フィルム70を用いる場合を例に挙げて、MEA及び燃料電池の様態について説明する。図7は、MEAの断面概略図である。MEA131は、フィルム70と、このフィルム70を挟んで対向するアノード電極132及びカソード電極133とを備える。
アノード電極132は多孔質導電シート132aとフィルム70に接する触媒層132bとを有し、カソード電極133は多孔質導電シート133aとフィルム70に接する触媒層133bとを有する。多孔質導電シート132a,133aとしては、カーボンペーパー等がある。触媒層132b,133bは、白金粒子等の触媒金属を担持したカーボン粒子をプロトン伝導材料に分散させた分散物からなる。カーボン粒子としては、例えばケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等があり、プロトン伝導材料としては、例えば、ナフィオン(登録商標)等がある。
MEA131の製造方法としては、次の4つの方法が好ましい。
(1)プロトン伝導材料塗布法:活性金属担持カーボン、プロトン伝導材料、溶媒を含む触媒ペースト(インク)をフィルム70の両面に直接塗布し、多孔質導電シート132a,133aを(熱)塗布層に圧着して5層構成のMEAを作製する。
(2)多孔質導電シート塗布法:触媒層132b,133bの材料を含んだ液、例えば触媒ペーストを、多孔質導電シート132a,133aの表面に塗布し、触媒層132b,133bを形成させた後、フィルム70と圧着し、5層構成のMEA131を作製する。
(3)Decal法:触媒ペーストをPTFE上に塗布し、触媒層132b,133bを形成させた後、フィルム70に触媒層132b,133bのみをうつし、3層構造を形成し、これに多孔質導電シート132a,133aを圧着し、5層構成のMEA131を作製する。
(4)触媒後担持法:白金未担持カーボン材料をプロトン伝導材料とともに混合したインクをフィルム70、多孔質導電シート132a,133aあるいはPTFE上に塗布・製膜した後、白金イオンを含む液にフィルム70を含浸させ、白金粒子をフィルム中で還元析出させて触媒層132b,133bを形成させる。触媒層132b,133bを形成させた後は、上記(1)〜(3)の方法にてMEA131を作製する。
ただし、MEAの作り方としては、上記の方法には限定されず、公知の各種方法を適用することができる。例えば、上記の(1)〜(4)の方法の他に次の方法がある。触媒層132b,133bの材料を含んだ塗布液を予めつくり、この塗布液を支持体に塗布して乾燥する。触媒層132b,133bが形成された支持体を、触媒層132b,133bがフィルム70に接するようにフィルム70の両面にそれぞれ重ねて圧着する。そして支持体を剥がしてから、触媒層132b,133bが両面に形成されたフィルム70を多孔質導電シート132a,133aで挟み込む。そして、多孔質導電シート132a,133aと触媒層132b,133bとを密着させてMEAを製造することができる。
図8は、燃料電池の概略図である。燃料電池141は、MEA131と、MEA131を挟持する一対のセパレータ142,143と、これらのセパレータ142,143に取り付けられたステンレスネットからなる集電体146と、パッキン147とを有する。アノード極側のセパレータ142にはアノード極側開口部151が設けられ、カソード極側のセパレータ143にはカソード極側開口部152が設けられている。アノード極側開口部151からは、水素、アルコール類(メタノール等)等のガス燃料またはアルコール水溶液等の液体燃料が供給され、カソード極側開口部152からは、酸素ガス、空気等の酸化剤ガスが供給される。
アノード電極132およびカソード電極133には、カーボン材料に白金などの活性金属粒子が担持された触媒が用いられる。通常用いられる活性金属の粒子サイズは、2〜10nmの範囲である。ただし、粒子サイズが小さいほど単位質量当りの表面積が大きくなるので活性が高まり有利であるが小さすぎると凝集させることなく分散させることが難しくなるために、2nm程度が小ささの限度といわれている。
水素−酸素系燃料電池における活性分極はアノード極、つまり水素極に比べ、カソード極、つまり空気極の方が大きい。これは、カソード極の反応、つまり酸素の還元反応の速度がアノード極に比べて遅いためである。酸素極の活性向上を目的として、Pt−Cr、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Cu、Pt−Feなどのさまざまな白金基二元金属を用いることができる。アノード燃料にメタノール水溶液を用いる直接メタノール燃料電池においては、メタノールの酸化過程で生じるCOによる触媒被毒を抑制するために、Pt−Ru、Pt−Fe、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Moなどの白金基二元金属、Pt−Ru−Mo、Pt−Ru−W、Pt−Ru−Co、Pt−Ru−Fe、Pt−Ru−Ni、Pt−Ru−Cu、Pt−Ru−Sn、Pt−Ru−Auなどの白金基三元金属を用いることができる。活性金属を担持させるカーボン材料としては、アセチレンブラック、Vulcan XC−72、ケチェンブラック、カーボンナノホーン(CNH)、カーボンナノチューブ(CNT)が好ましく用いられる。
触媒層132b,133bは、(1)燃料を活性金属に輸送すること、(2)燃料の酸化(アノード極)、還元(カソード極)反応の場を提供すること、(3)酸化還元により生じた電子を集電体146に伝達すること、(4)反応により生じたプロトンを固体電解質、つまりフィルム70に輸送すること、という機能をもつ。(1)のために触媒層132b,133bは、液体および気体燃料が奥まで透過できる多孔質性とされる。(2)についてはカーボン材料に担持される活性金属触媒が担い、(3)は同じくカーボン材料が担う。そして、(4)の機能を果たすために、触媒層132b,133bにプロトン伝導材料を混在させる。触媒層のプロトン伝導材料としては、プロトン供与基を持った固体であれば制限はないが、酸残基を有する高分子化合物、例えばナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロスルホン酸、側鎖リン酸基ポリ(メタ)アクリレート、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱性芳香族高分子のスルホン化物等が好ましく用いられる。フィルム70に含まれる固体電解質を触媒層132b,133bに用いると、触媒層132b,133bとフィルム70とが同種の材料となるため、固体電解質と触媒層との電気化学的密着性が高まり、プロトン伝導の点でより有利である。活性金属の使用量を0.03〜10mg/cm2 の範囲とすることが、電池出力と経済性との観点から適する。活性金属を担持するカーボン材料の量は、活性金属の質量に対して1〜10倍であることが好ましい。プロトン伝導材料の量は、活性金属担持カーボンの質量に対して、0.1〜0.7倍が好ましい。
触媒層132b,133bは、電極基材、透過層、あるいは裏打ち材とも呼ばれ、集電機能および水がたまりガスの透過が悪化するのを防ぐ役割を担う。通常は、カーボンペーパーやカーボン布を使用し、撥水化のためにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)処理を施したものを使用することもできる。
MEAは電池に組み込み、燃料を充填した状態での交流インピーダンス法による面積抵抗値が3Ωcm2 以下のものが好ましく、1Ωcm2 以下のものがさらに好ましく、0.5Ωcm2 以下のものが最も好ましい。面積抵抗値は実測の抵抗値とサンプルの面積の積から得られる。
燃料電池の燃料として用いることのできるものを説明する。アノード燃料としては、水素、アルコール類(メタノール、イソプロパノール、エチレングリコールなど)、エーテル類(ジメチルエーテル、ジメトキシメタン、トリメトキシメタンなど)、ギ酸、水素化ホウ素錯体、アスコルビン酸などが挙げられる。カソード燃料としては、酸素(大気中の酸素も含む)、過酸化水素などが挙げられる。
直接メタノール型燃料電池では、アノード燃料として、メタノール濃度3〜64質量%のメタノール水溶液が使用される。アノード反応式(CH3 OH+H2 O→CO2 +6H+ +6e− )により、1モルのメタノールに対し、1モルの水が必要であり、この時のメタノール濃度は64質量%に相当する。メタノール濃度が高い程、同エネルギー容量での燃料タンクを含めた電池の質量および体積が小さくできる利点がある。しかしながら、メタノール濃度が高い程、メタノールが固体電解質フィルムを透過しカソード側で酸素と反応し電圧を低下させる、いわゆるクロスオーバー現象が顕著となり、出力が低下する傾向にある。そこで、用いる固体電解質フィルムのメタノール透過性により、最適濃度が決められる。直接メタノール型燃料電池のカソード反応式は、(3/2)O2 +6H+ +6e− →3H2 Oであり、燃料として酸素(通常は空気中の酸素)が用いられる。
上記アノード燃料およびカソード燃料を、それぞれの触媒層132b,133bに供給する方法としては、(1)ポンプ等の補助機器を用いて強制的に送りこむ方法(アクティブ型)と、(2)補助機器を用いない方法、例えば、燃料が液体である場合には毛管現象や自然落下により、気体である場合には大気に触媒層をさらして供給するパッシブ型との2通りの方法があり、また、(1)と(2)とを組み合わせることも可能である。(1)は、カソード側で生成する水を抜き出すことにより、燃料として高濃度のメタノールを使用することができ、空気供給による高出力化ができる等の利点がある反面、燃料供給系を備える事により小型化がし難い欠点がある。(2)は、小型化が可能な利点がある反面、燃料供給が律速となり易く高い出力が出にくい欠点がある。
燃料電池の単セル電圧は一般的に1V以下であるので、負荷の必要電圧に合わせて、単セルを直列スタッキングして用いる。スタッキングの方法としては、単セルを平面上に並べる「平面スタッキング」および、単セルを、両側に燃料流路の形成されたセパレータを介して積み重ねる「バイポーラースタッキング」が用いられる。前者は、カソード極(空気極)が表面に出るため、空気を取り入れ易く、薄型にできることから小型燃料電池に適している。この他にも、MEMS技術を応用し、シリコンウェハー上に微細加工を施し、スタッキングする方法も提案されている。
燃料電池は、自動車用、家庭用、携帯機器用など様々な利用が考えられているが、特に、直接メタノール型燃料電池は、小型、軽量化が可能であり充電が不要である利点を活かし、様々な携帯機器やポータブル機器用エネルギー源としての利用が期待されている。例えば、好ましく適用できる携帯機器としては、携帯電話、モバイルノートパソコン、電子スチルカメラ、PDA、ビデオカメラ、携帯ゲーム機、モバイルサーバー、ウエラブルパソコン、モバイルディスプレイなどが挙げられる。好ましく適用できるポータブル機器としては、ポータブル発電機、野外照明機器、懐中電灯、電動(アシスト)自転車などが挙げられる。また、産業用や家庭用などのロボットあるいはその他の玩具の電源としても好ましく用いることができる。さらには、これらの機器に搭載された2次電池の充電用電源としても有用である。