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JP4871441B2 - 反応器のスタートアップ方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、被酸化原料と分子状酸素含有ガスと供給する接触気相酸化反応器におけるスタートアップ方法に関し、より詳細には、該反応器に供給される被酸化原料が、被酸化原料の爆発範囲下限値濃度未満であり、かつ酸素が被酸化原料の爆発限界酸素濃度以上である範囲(被酸化原料濃度0容量%は含まない)を通過させることを特徴とする、接触気相酸化反応器のスタートアップ方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
汎用モノマーである(メタ)アクリル酸は、プロピレン、イソブチレン、t−ブタノール、メチル−t−ブチルエーテル、アクロレイン、メタクロレインなどの接触気相酸化反応によって製造されるが、酸化反応ゆえ、原料ガスと共に分子状酸素含有ガスを供給する必要がある。一般に酸化反応は発熱反応であって、原料ガスの反応特性は使用する触媒特性、原料ガスや分子状酸素含有ガス濃度に加えて反応熱の除去等の条件によって大きく変動する。従って、特に汎用モノマー等、需要が大きいために大量生産が行われる場合には、最大限の生産収率を確保するために接触気相酸化反応による初期段階の目的化合物の酸化的製造において、最も至適な反応条件に設定して、効率的な製品製造を行うことが重要である。
【0003】
しかしながら、接触気相酸化反応器内は、原料ガス、分子状酸素含有ガスに加えて反応生成物が含まれる多成分系であり、反応のスタート時から定常状態に到達するまでに反応器内の組成が刻々と変化する。一般に、接触気相酸化反応においては、触媒特性、反応ガスの爆発範囲特性、および反応熱の除去の3要素を最適に組み合わせることが重要であるといわているが、反応が定常運転に至った後にこれら3要素を維持することは容易であっても、接触気相酸化反応の開始から定常状態に至る間の制御は極めて困難である。これは、反応器内に供給される原料濃度も低濃度から高濃度へと供給濃度を変動させること、原料濃度の相違によって酸化反応に伴う発熱量が異なること、およびこれらの要素の変動に伴って、接触気相酸化反応に直接影響を与える他の要素もそれぞれ変動するからである。従って、反応開始から定常状態に至るまでは、反応効率を問題とするよりも、反応器を定常状態にするために要する時間や安全性、このために使用する原料ガスその他のガスの使用量、原料加熱エネルギーの消費量などを勘案して、最も短時間に、エネルギー消費も経済性に優れた設定条件を選択することが必要となる。しかも、発熱反応であって爆発性の原料化合物を取り扱う接触気相酸化反応器においては、被酸化原料と酸素濃度との関係によって生ずる燃焼爆発を生じない高度な安全性を確保した条件下で行うことが、極めて重要である。
【0004】
ここに、接触気相酸化反応器の爆発範囲は、温度、圧力、不活性ガスの種類によって異なることから、その範囲を予め実測した上で爆発範囲を回避するように制御する必要がある。一般的な接触気相酸化反応器の爆発範囲を図1を用いて説明するが、図1において、横軸は酸素濃度、縦軸は被酸化原料濃度を示し、斜線部は爆発範囲を示す。また、「被酸化原料の爆発下限界濃度」とは、爆発範囲を構成するガス組成における被酸化原料の最低値であり、同様に「被酸化原料の爆発限界酸素濃度」とは、爆発範囲を構成するガス組成における酸素の最低値である。図1において、接触気相酸化反応器における両者の交点を▲3▼で示す。例えば、定常状態の原料ガス組成を、被酸化原料ガス濃度4.5容量%、酸素濃度10容量%である▲1▼で示すと、爆発範囲を回避して反応器を使用するためには、例えば、被酸化原料ガス濃度が0容量%であって酸素濃度が、酸素の爆発範囲下限値容量%未満である▲2▼の組成のガスを反応器に供給することが安全であり、かつ原料組成物の調整も簡便である。このため、従来は酸素濃度が、酸素の爆発範囲下容量%である▲2▼を経て、目的組成の▲1▼に一直線上で組成を変更させる経路を採用していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の方法で反応器を始動させる場合、使用開始前の反応器は空気によって満たされており、反応器に供給するガスに含まれる酸素濃度を「被酸化原料の爆発限界酸素濃度未満」とするためには、窒素ガスや二酸化炭素ガスなどのいわゆる希釈ガスを多量に反応器に供給して、酸素濃度を制御する必要がある。しかも、反応器のスタートアップは単に定常状態に至るまでの一過程ではなく、反応器および付属設備の稼動が安全かつ安定的に行われることを評価することも目的に含まれる。このため、スタートアップ時においても反応器の定常状態と同量のガス量を反応器に供給することが好ましく、酸素濃度を制御するための希釈ガス供給量が増大する。しかし、大量の希釈ガスの使用は、これらのガスが高価であるために不経済である。
【0006】
一方、接触気相酸化反応では、目的とする化合物を溶液で捕集すると共に排出ガスとして分離する捕集工程を併設することが一般的である。この捕集塔からの排出ガスには目的化合物が殆ど含まれておらず、しかも反応器で反応が開始されれば反応による酸素消費のための酸素濃度が低くなり、希釈ガスの代わりとして反応器にリサイクルし、希釈ガスの削減を図ることができる。しかし、このリサイクルガスによる被酸化原料投入以前の酸素濃度制御は不可能であり、依然として多量の希釈ガスが必要な上、被酸化原料投入後においても多量の希釈ガスをリサイクルガスに置き換えていくために各流量を大幅に変化させる必要があり、工程の長時間化と、それに伴う希釈ガスの供給量の増加は免れない。この際、予め系内を希釈ガスで置換することによって各流量の大幅な変化を防ぐ方法もあるが、置換に長時間を必要とし、多量の希釈ガスが必要となり優れた改善策とはいえない。
【0007】
以上のように、いずれの方法においても、多量の希釈ガスを必要とし、希釈ガスが高価であるために不経済である。また、希釈ガスとして蒸気を使用する方法もあるが、蒸気を得るために多量の熱エネルギーを必要とし、同様に不利である。また、希釈ガスを削減しようとすると、時間の延長となり同様に不利である。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、反応器のスタートアップ時の状況を詳細に検討した結果、反応器に供給する被酸化原料を含むガス組成において、被酸化原料濃度が、被酸化原料の爆発範囲下限値容量%未満であって酸素濃度が酸素の爆発範囲下限値容量%以上である範囲を通過させることによって、反応器に供給する希釈ガス量を減少させることができ、しかも反応器からの生成ガスに含まれる目的化合物を回収した後の排出ガスを反応器にリサイクルする場合でも各流量の変動が少なく、迅速にスタートアップが行え、これによっても作業数および希釈ガス量を低減でき、かつ爆発範囲を回避して安全な反応器のスタートアップが達成できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、上記課題は、以下の(1)〜()によって達成される。
【0009】
(1) 少なくとも被酸化原料と分子状酸素含有ガスとを接触気相酸化反応器に供給する接触気相酸化反応工程と、該反応による目的生成物の捕集工程を含む製造プロセスにおいて、
(イ) 該被酸化原料と分子状酸素含有ガスと共に、該捕集工程から得た排出ガスを該反応器に供給し、
) 該反応器に供給される被酸化原料濃度が、該被酸化原料の爆発下限界濃度未満であり、かつ酸素濃度が爆発限界酸素濃度以上である範囲(被酸化原料濃度0容量%は含まない)である原料ガス組成物とし、ついで、
) 該原料ガス組成が該爆発限界酸素濃度のラインを、該被酸化原料の爆発下限濃度のラインを越えることなく通過するように、酸素濃度を低減し、さらに該被酸化原料濃度を高める
ことを特徴とする接触気相酸化反応器のスタートアップ方法。
【0010】
(2) 前記請求項1における()の工程において、
該原料ガス組成が該爆発限界酸素濃度のラインを通過するように、分子状酸素含有ガスの供給量を減少させて酸素濃度を低減し、さらに被酸化原料の供給量を増加させて被酸化原料濃度を高める
【0011】
(3) 被酸化原料が、プロパン、プロピレン、アクロレイン、イソブチレンおよびメタクロレインよりなる群から選ばれた少なくとも1種のものであることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の反応器のスタートアップ方法。
【0012】
(4) 少なくとも被酸化原料と分子状酸素含有ガスとを接触気相酸化反応器に供給する接触気相酸化反応と、該反応による目的生成物の捕集工程とを含む製造プロセスにおいて、
(イ) 該捕集工程で得た排出ガスを該反応器に供給して、
) 該反応器に供給される該被酸化原料濃度が、該被酸化原料の爆発下限界濃度未満であり、かつ酸素濃度が爆発限界酸素濃度以上であるの範囲(被酸化原料濃度0容量%は含まない)である原料ガス組成物とし、ついで
) 該原料ガス組成が該爆発限界酸素濃度のラインを、該被酸化原料の爆発下限濃度のラインを越えることなく通過するように、酸素濃度を低減し、さらに被酸化原料濃度を高める
ことを特徴とする、供給原料の調整方法。
(5) 前記(4)における(ハ)の工程において、
該原料ガス組成が該爆発限界酸素濃度のラインを通過するように、分子状酸素含有ガスの供給量を減少させて酸素濃度を低減し、さらに被酸化原料の供給量を増加させて被酸化原料濃度を高める
ことを特徴とする供給原料の調整方法。
【0013】
【発明の実施のための形態】
本発明の第一は、少なくとも被酸化原料と分子状酸素含有ガスとを接触気相酸化反応器に供給する接触気相酸化反応において、該反応器に供給される被酸化原料濃度が、被酸化原料の爆発下限界濃度未満であり、かつ酸素濃度が被酸化原料の爆発限界酸素濃度以上である範囲(被酸化原料濃度0容量%は含まない)を通過させることを特徴とする、接触気相酸化反応器のスタートアップ方法である。
【0014】
一般に、接触気相酸化反応では、被酸化原料をガス状にして分子状酸素含有ガスと共に酸化触媒を充填した反応器に供給して目的化合物を生成させる。定常状態では、反応器に供給する被酸化原料濃度は、充填された酸化触媒の活性や単位時間当たりの供給量によって定まる。これに対して、接触気相反応器のスタートアップ時には、供給原料濃度や反応器内の温度、反応器冷却用熱媒温度によって反応条件が変動する。このため、定常状態の反応条件に至るまでは、反応器供給ガス中の被酸化物濃度は低濃度から供給を開始することが一般的である。本発明では、多成分系の反応器供給ガスにおける被酸化原料と酸素濃度との関係によって定まる爆発範囲に着目し、「被酸化原料濃度が、被酸化原料の爆発下限界濃度未満であって、かつ酸素濃度が被酸化原料の爆発限界酸素濃度以上」である組成のガスを反応器に供給することで、希釈ガスの使用量や希釈ガス調整用のエネルギー量を低減させ、かつスタートアップ時間を短縮させるものである。以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明における「反応器に供給される被酸化原料濃度が、被酸化原料の爆発下限界濃度未満であり、かつ酸素濃度が被酸化原料の爆発限界酸素濃度以上である範囲」について図2を用いて説明する。なお、図2においても図1と同様に、横軸は酸素濃度、縦軸は被酸化原料濃度を示し、斜線部は爆発範囲を示す。また、「被酸化原料の爆発下限界濃度」とは、爆発範囲を構成するガス組成における被酸化原料濃度の最低値であり、同様に「被酸化原料の爆発限界酸素濃度」とは、爆発範囲を構成するガス組成における酸素濃度の最低値である。なお、容量%は、反応器に供給する際のガス温度における容量%である。
【0016】
被酸化原料濃度を、被酸化原料の爆発下限界濃度未満としたのは、爆発範囲を回避するためである。被酸化原料が爆発下限界濃度未満であれば、酸素濃度を任意に設定しても爆発範囲に入ることがない。また、酸素濃度を、被酸化原料の爆発限界酸素濃度以上としたのは、酸素濃度を高くすることで希釈ガスの使用量を低減するためであり、より好ましくは被酸化原料の爆発限界酸素濃度以上20容量%以下である。空気中に含まれる酸素濃度が約20容量%であることから、これを上回る酸素濃度とすることは、かえって酸素の供給量を増加させるのみで不利である。なお、反応器に供給するガス成分の内、被酸化原料と分子状酸素含有ガス以外のガスを希釈ガスという。本発明では、希釈ガスとして従来公知のガス成分を使用することができる。
【0017】
反応器に供給する定常状態の原料ガス組成を、たとえば、被酸化原料ガス濃度4.5容量%、酸素濃度10容量%として▲1▼で示す。本発明では、反応器の定常状態の如何に関わらず、スタートアップにおいて、反応器に被酸化原料濃度と酸素濃度とが図2の陰影の部分に含まれる組成ガスを供給する。この範囲に含まれるガス組成として、たとえば、被酸化原料濃度が0.01容量%であり、酸素濃度が18容量%である▲2▼の組成のガスを反応器に供給する。
【0018】
本発明で反応器に供給するガスの組成では、従来よりも酸素濃度が高い組成のガスを反応器に供給するものであるが、これによって反応器に供給される希釈ガス量の減少量は、極めて大量のものとなる。即ち、分子状酸素含有ガスとしては酸素濃度約20容量%の空気を使用することが一般的であるため、従来法のように反応器に供給するガス組成として酸素濃度を9容量%としたのでは、空気に比較して(20+x)/(100+x)=9/100を解いて、x=12.1(容量%)を希釈ガスで補う必要がある。これに対して、本発明では、▲2▼の組成にするには(20+x)/(100+x)=18/100を解いて、x=2.4(容量%)を希釈ガスで補えばよい。このため、従来に比較して反応器のスタートアップ時に5倍以上も希釈ガスの使用量を低減することができるのである。本発明による効果は極めて大きいものである。
【0019】
次いで、▲1▼の組成に移行するため、分子状酸素含有ガスの供給量を減少させて酸素濃度を低減する。また、同時に被酸化原料濃度を高めるために、被酸化原料の供給量を増加させる。一方、反応器に供給する単位時間当たりの供給ガス量は、定常状態とほぼ同様量を供給することが好ましいため、全体量を希釈ガスの供給量を増減させて調整する。これによって、簡便に供給ガスの濃度を調整できると共に、反応器の定常状態と同じ供給量のガスを反応器に供給でき、これによって反応器からのガスの遺漏などの稼動状況も併せて評価することができる。
【0020】
本発明では、反応器のスタートアップにおいて、反応器に供給するガス組成として、「被酸化原料の爆発下限値濃度未満であり、かつ酸素濃度が被酸化原料の爆発限界酸素濃度以上である範囲」を通過させた後は、爆発範囲を含まない範囲であれば、被酸化原料濃度と酸素濃度とを自由に選択することができる。例えば、▲2▼に次いで、被酸化原料濃度が2容量%であり、酸素濃度が10容量%である組成▲3▼に至らしめる。その後、反応器の定常運転時の供給ガス組成である被酸化原料4.5容量%であって酸素濃度10容量%の組成▲1▼に調整する。
【0021】
なお、図2における▲3▼を経た後に、例えば、被酸化原料濃度が3容量%であって酸素濃度が6容量%(組成位置▲4▼)という、従来よりも酸素濃度が低い条件にしてもよい。特に、後記するように、他工程からの排出ガスを利用する場合には、排出ガスの組成によっては酸素濃度が低い場合もある。このような場合であっても、排出ガスを有効に利用することで希釈ガスの使用量を従来よりも低減できるのである。
【0022】
なお、本発明において、反応器に供給するガス組成を調整するには、例えば、被酸化原料濃度を高めるためには、被酸化原料供給量を増加させればよく、また、酸素濃度を減少させるには、分子状酸素含有ガス供給量を減少させればよい。また、反応器に供給する単位時間当たりの反応器への供給ガス量を一定にするためには、希釈ガスの供給量の増減にて調整することができる。
【0023】
上記のように、本発明では、反応器のスタートアップ時における爆発範囲を明確にし、特に酸素濃度に関して、被酸化原料の爆発限界酸素濃度以上の濃度を使用することで、希釈ガス量を低減することができるのであるが、この範囲の組成のガスを反応器に供給できることで、次工程で発生する排出ガスをリサイクルした時に従来実施できなかった時間短縮と希釈ガス削減が可能となったのである。以下に、接触気相酸化反応によって目的化合物を製造する工程から排出するガスを再利用する方法について説明する。
【0024】
一般に、接触気相酸化反応によって被酸化原料を酸化反応させると多種類の副生物が生成する。このため、次工程以降で目的物質のみに精製するのであるが、精製の前段階として反応ガスから目的物質を溶液中に捕集し残ったガスを捕集塔から排出することがある。この捕集工程で排出されたガスには、目的化合物が殆ど含まれておらず、しかも酸素濃度も低いため、これを希釈ガスの代わりに有効利用するのである。
【0025】
従って、本発明のスタートアップ方法では、接触気相酸化反応工程に次いで捕集工程を含む製造プロセスにおいて、該被酸化原料と分子状酸素含有ガスと共に、該捕集工程から得た排出ガスを該反応器に供給して、スタートアップを行うこともできる。
【0026】
このような捕集工程としては、接触気相酸化反応によって得た反応生成ガスから、少なくとも目的化合物を回収する工程がある。目的化合物の回収方法としては、反応性ガスと目的化合物の捕集溶液とを接触させて該溶液中に目的化合物を回収する方法のほか、反応生成ガスを目的化合物の凝縮点以下に冷却し、目的化合物を物質を溶液として、または固体として分離する方法がある。また、目的化合物と反応する成分を含有する溶液やガスを、反応生成ガスと接触させて目的化合物誘導体を分離するような方法であってもよい。いずれにしても、反応生成ガスに含まれる目的化合物以外の成分をガスとして分離することができればよい。
本発明では、特に(メタ)アクリル酸の製造工程における、接触気相酸化反応工程に続く捕集工程で排出したガスをリサイクルすることが好ましい。(メタ)アクリル酸の接触気相酸化反応は発熱反応であり、反応器に供給するガスは、触媒特性に適するように加温して反応器に供給する。また、反応生成ガスは高温ガスであるため、捕集工程で捕集液と向流接触させた後も、温度の高いガスを排出する。従って、捕集工程で得た高温の排出ガスを反応器のスタートアップに使用することで、熱エネルギーも再利用できるのである。
【0027】
このような捕集工程からの排出ガスを利用する方法として、プロピレンを被酸化原料として接触気相酸化反応器に供給しアクリル酸を得て、これをアクリル酸捕集塔に供給して溶液中にアクリル酸を回収すると共に、捕集塔塔頂部から排出したガスを接触気相酸化反応器にリサイクルする一例を、図3を用いて説明する。
【0028】
図3において、1は空気、2は蒸気、3は被酸化原料であるプロピレン、4はブロワー、5は接触気相酸化反応器、6は捕集塔、7はアクリル酸含有溶液、8は排出ガス、9は捕集液であり、11,12,13,14,15はガス量の測定位置、21、22、23、24は流量計、31、32、33、34は流量調整弁を示す。なお、反応器に内蔵される反応管内には、接触気相酸化触媒が充填されている。
【0029】
まず、反応器の使用開始時において、反応器内は酸素濃度20容量%の空気によって大気圧に調整されている。本発明では、まず、空気の供給濃度を各ラインに付属する流量計と供給量調整弁によって制御する。また、被酸化原料であるプロピレンの供給濃度をプロピレンの爆発範囲下限値容量%未満であり、かつ酸素濃度が酸素の爆発範囲下限値容量%以上である範囲にする。単位時間当たりに供給するガス量を、反応器の定常状態のガス量と同量に設定すれば、希釈ガスとして供給する蒸気の供給量を、そのラインに付属する流量計と供給量調整弁によって制御することで、酸素濃度、被酸化原料濃度、単位時間当たりの反応器へのガス供給量を簡便に調整することができる。なお、蒸気は付属する加熱器(図示せず)によって加熱して供給する。
【0030】
次いで、反応器に供給された空気、蒸気および被酸化原料とを含有するガスは、反応器内に充填された触媒で酸化され、目的化合物であるアクリル酸を生成する。このアクリル酸を含有する反応生成ガスを捕集塔に供給する。捕集塔では反応器から排出された目的化合物含有ガスを捕集するために、捕集溶液を捕集塔の塔頂部から供給し、反応器からの目的物含有ガスと捕集溶液とを向流接触させ、目的物質含有溶液を塔底部から次工程に供給する。また、捕集塔の塔頂部からは残りのガスを排出する。本発明では、この捕集塔からの排出ガスを反応器にリサイクルする。なお、反応器のスタートアップに際しては、反応器に供給する被酸化原料の濃度が薄く、捕集塔を稼動させない場合もあるが、このような場合でも捕集塔から排出されるガスを反応器にリサイクルすることができる。これによって、排出ガスに含まれる被酸化原料、空気、希釈ガスを有効に使用することができ、また排出ガスの有する熱エネルギーを再利用することができるからである。特に、酸素濃度が、酸素の爆発範囲下限界値容量%以上であっても、安全に反応器をスタートアップすることができるため、捕集塔からの排出ガスの大部分を反応器にリサイクルすることができ、熱エネルギーの再利用率を極めて高い程度に向上させることができる。
【0031】
捕集工程から排出したガスを、反応器に供給してスタートアップする場合には、捕集工程からの排出ガスの組成が、反応器に供給する被酸化原料濃度や酸素濃度の変化に伴い変化することから、経時的に排出ガス組成の分析を行い、この分析結果に基づいて反応器への供給量を調整する必要がある。
【0032】
具体的には、反応器に供給するガスは、各ラインに設けられた流量計、流量調整弁、および必要に応じて配置されるガス成分分析計(図示せず)によって至適な組成となるように調整する。被酸化原料としてプロピレンの濃度を増減するには、プロピレンのラインに付属する流量計と流量調整弁によって制御し、空気や蒸気の供給量を調整するには、同様にそれぞれのラインに設けられた流量計、流量調整弁によって制御する。特に、捕集工程で得た排出ガスは、捕集液に含まれる溶媒の種類や量、温度によっても組成が変化するため、該ガスを反応器にリサイクルする場合には、該ガスに含まれる被酸化原料濃度と酸素濃度との情報に基づき被酸化原料ラインおよび酸素供給ラインで適性に制御する必要がある。該排出ガスによっては、被酸化原料濃度と酸素濃度を制御することが困難な場合には、更に蒸気や窒素ガスなどの希釈ガスを供給してそれぞれを至適な濃度に調整し、および単位時間当たりの供給量を調整する。
【0033】
本発明の反応器のスタートアップにおいて、反応器に供給するガス組成以外の条件は、従来公知の条件を適用することができる。同様に、捕集塔における捕集液の組成や供給量、その温度、反応ガスの供給量や温度、捕集塔内圧力等の捕集条件は、いずれも公知の条件を適用できる。
【0034】
このように本発明の反応器のスタートアップ方法をアクリル酸の製造工程に含ませると、従来使用できなかった濃度の酸素を含むガスを反応器に供給することで、希釈ガスの供給量や希釈ガスの調整に必要なエネルギーを削減でき、かつ捕集塔からの排出ガスを無駄にせずに利用できる結果、更に希釈ガスの使用量を低減することができる。また、このような排出ガスのリサイクルをする場合でも、安全でかつ迅速な反応器のスタートアップがなされるのである。
【0035】
なお、上記はアクリル酸の製造方法について記載したが、反応器に供給する被酸化原料としてイソブチレンを使用することで、メタクリル酸を製造することができる。
【0036】
なお、本発明のスタートアップ方法の対象となる接触気相酸化反応器は、充填した触媒によって被酸化原料と分子状酸素含有ガスとを接触気相酸化反応するものであれば特に形状や充填する触媒に制限はない。従って、触媒を充填した多数の反応管をシェル内に収納した多管式反応器が例示できる。
【0037】
また、被酸化原料としては、接触気相酸化反応して目的物またはその中間体を得る為に反応器に供給される原料であり、目的物によって種々の化合物を使用することができる。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクロレイン、フタル酸、マレイン酸等を目的化合物とする場合には、プロピレン、プロパン、アクロレイン、イソブチレン、メタクロレイン、キシレン、ナフタレン、ベンゼン、ブタン等を使用することができる。また、分子状酸素含有ガスとしては空気がある。
【0038】
本発明によれば、反応器のスタート時の安全性を確保しつつ、安定的で経済的かつ迅速なスタートをする方法として、きわめて工業的価値が高いものである。
【0039】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
【0040】
(実施例1)
図3に示す接触気相酸化反応器を用いて、以下に示す条件で被酸化原料、分子状酸素含有ガス、蒸気および捕集塔からの排出ガスを反応器にリサイクルして、接触気相酸化反応を開始した。なお、反応器は、内径25.0mm、外径29.0mmの鋼鉄製の反応管11500本を有する多管式熱交換器であり、反応器シェルの内径は、4400mmの円筒容器である。各反応管には反応触媒1520ccが充填してある。
【0041】
この反応器に、目標操作条件として、反応器入口ガス濃度がプロピレン4.5容量%、酸素10.0容量%であり、捕集塔からの排出リサイクルガス以外の希釈ガスを使用しない条件を設定し、反応器のスタートアップを行った。なお、反応開始に先立ち測定した設定反応温度、反応圧力におけるプロピレンの爆発下限界濃度は、2容量%、爆発限界酸素濃度は、10.2容量%(プロピレン−酸素−窒素系)であり、反応器に供給したプロピレンの純度は99.5容量%であった。
【0042】
空気、蒸気、プロピレン、排出リサイクルガスの各ラインに付属する流量計および流量調整弁を制御して、反応器入口プロピレン濃度を、A:0容量%、B:2容量%、C:3容量%と次第に上げていき、目標操作条件(OP)とするに必要な、空気、排出リサイクルガス、蒸気、プロピレン流量、および反応器入口酸素濃度を各点にて測定した。また、各点に到達するまでの消費蒸気量も測定した。結果を表1に示す。なお、表中、空気、排出リサイクルガス、蒸気、プロピレン、全ガス量の単位は、Nm3/minであり、反応器入口酸素濃度は容量%、消費蒸気量はkgである。この結果、消費蒸気量は、約2.5トンであり、スタートアップ時間は約2.5時間であった。また、図4に、実施例1〜3および比較例1,2における、反応器入口のプロピレン濃度(容量%)と酸素濃度(容量%)の変化を示す。
【0043】
【表1】
Figure 0004871441
【0044】
(実施例2)
希釈ガスとして蒸気を使用せず、反応器供給ガスの組成を捕集塔排出ガスによって調整した以外は、実施例1と同様にして反応器をスタートアップした。結果を表2に示す。この結果、消費蒸気量は、0であり、スタートアップ時間は約3.5時間であった。
【0045】
【表2】
Figure 0004871441
【0046】
(実施例3)
実施例2において、ポイントCにおける排出リサイクルガス量を変化させた以外は、実施例2と同様にして反応器をスタートアップした。結果を表3に示す。この結果、消費蒸気量は、0であり、スタートアップ時間は約3.5時間であった。
【0047】
【表3】
Figure 0004871441
【0048】
(比較例1)
従来と同様に、酸素濃度をプロピレンの爆発限界酸素濃度以下の範囲で反応器のスタートアップを行った。結果を表4に示す。この結果、消費蒸気量は、約23.1トンであり、スタートアップ時間は約7時間であった。
【0049】
【表4】
Figure 0004871441
【0050】
(比較例2)
スタートアップ過程において、捕集塔排出ガスをリサイクルしない以外は、比較例1と同様にして反応器のスタートアップを行った。結果を表5に示す。この結果、消費蒸気量は、37.0トンであり、スタートアップ時間は約7時間であった。
【0051】
【表5】
Figure 0004871441
【0052】
【発明の効果】
本発明によれば、反応器に供給するガス組成において、被酸化原料の爆発範囲下限値濃度未満であり、かつ酸素濃度が被酸化原料の爆発限界濃度以上である範囲を通過させることによって、反応器に供給する希釈ガス量や希釈ガスを調整するための熱エネルギーを減少することができ、かつスタートアップ時間も短縮することができる。
【0053】
また、本発明によれば、該範囲を通過させて得たガスを反応器にリサイクルすることができ、これによっても希釈ガス量を低減できると共に、従来廃棄されていたガスを有効利用することができ、かつスタートアップ時間も短縮できる。本発明によれば、上記効果は、爆発範囲に含まれるガス組成を回避できるために安全に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 接触気相酸化反応器内の被酸化原料と酸素濃度との関係における爆発範囲と、従来法による反応器に供給するガス組成を示す図である。
【図2】 接触気相酸化反応器内の被酸化原料と酸素濃度との関係における爆発範囲と、本発明による反応器に供給するガス組成を示す図である。
【図3】 接触気相酸化反応によってアクリル酸を製造し、次いで捕集塔でアクリル酸を捕集すると共に、捕集塔からの排出ガスを反応器にリサイクルする場合の本発明の反応器のスタートアップ方法の流れを示す図である。
【図4】 接触気相酸化反応器内のプロピレンと酸素濃度との関係における爆発範囲と、実施例のガス組成を示す図である。
【符号の説明】
1・・・空気、
2・・・蒸気、
3・・・被酸化原料、
4・・・ブロワー、
5・・・反応器、
6・・・捕集塔、
7・・・目的物質含有溶液、
8・・・排出ガス、
9・・・捕集液、
11、12、13、14、15・・・流量測定位置、
21、22、23、24・・・流量計、
31、32、33、34・・・流量調整弁。

Claims (5)

  1. 少なくとも被酸化原料と分子状酸素含有ガスとを接触気相酸化反応器に供給する接触気相酸化反応工程と、該反応による目的生成物の捕集工程を含む製造プロセスにおいて、
    (イ) 該被酸化原料と分子状酸素含有ガスと共に、該捕集工程から得た排出ガスを該反応器に供給し、
    ) 該反応器に供給される被酸化原料濃度が、該被酸化原料の爆発下限界濃度未満であり、かつ酸素濃度が爆発限界酸素濃度以上である範囲(被酸化原料濃度0容量%は含まない)である原料ガス組成物とし、ついで、
    ) 該原料ガス組成が該爆発限界酸素濃度のラインを、該被酸化原料の爆発下限濃度のラインを越えることなく通過するように、酸素濃度を低減し、さらに該被酸化原料濃度を高める
    ことを特徴とする接触気相酸化反応器のスタートアップ方法。
  2. 前記請求項1における()の工程において、
    該原料ガス組成が該爆発限界酸素濃度のラインを通過するように、分子状酸素含有ガスの供給量を減少させて酸素濃度を低減し、さらに被酸化原料の供給量を増加させて被酸化原料濃度を高める
    ことを特徴とする接触気相酸化反応器のスタートアップ方法。
  3. 被酸化原料が、プロパン、プロピレン、アクロレイン、イソブチレンおよびメタクロレインよりなる群から選ばれた少なくとも1種のものであることを特徴とする、請求項1または2に記載の反応器のスタートアップ方法。
  4. 少なくとも被酸化原料と分子状酸素含有ガスとを接触気相酸化反応器に供給する接触気相酸化反応と、該反応による目的生成物の捕集工程とを含む製造プロセスにおいて、
    (イ) 該捕集工程で得た排出ガスを該反応器に供給して、
    ) 該反応器に供給される該被酸化原料濃度が、該被酸化原料の爆発下限界濃度未満であり、かつ酸素濃度が爆発限界酸素濃度以上であるの範囲(被酸化原料濃度0容量%は含まない)である原料ガス組成物とし、ついで
    ) 該原料ガス組成が該爆発限界酸素濃度のラインを、該被酸化原料の爆発下限濃度のラインを越えることなく通過するように、酸素濃度を低減し、さらに被酸化原料濃度を高める
    ことを特徴とする、供給原料の調整方法。
  5. 前記請求項4における(ハ)の工程において、
    該原料ガス組成が該爆発限界酸素濃度のラインを通過するように、分子状酸素含有ガスの供給量を減少させて酸素濃度を低減し、さらに被酸化原料の供給量を増加させて被酸化原料濃度を高める
    ことを特徴とする供給原料の調整方法。
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