JP4451518B2 - ハイブリッド細胞、モノクローナル抗体、製造方法および測定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、トロンビンに対する高い特異性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリッド細胞、トロンビンに対する高い特異性を有するモノクローナル抗体、その製造方法及びモノクローナル抗体を利用したトロンビンの免疫学的測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
トロンビンは血管障害部位で形成されるセリンプロテアーゼの一種として知られる血液凝固に関与する非常に重要な酵素である。トロンビンの作用としては、従来フィブリノーゲンを切断してフィブリン血栓を形成することがよく知られているが、それだけではなく、さまざまな細胞に作用する生理活性物質でもあることが明らかとなってきている(実験医学 vol.13 No.2 164頁 1995年 秀潤社)。それらの作用としては、例えば、血小板を活性化して凝集させ、セロトニンやADPなどの化学物質を放出させる作用、単球に対する遊走因子としての作用、リンパ球、線維芽細胞、血管平滑筋細胞に対する増殖刺激作用等が挙げられる。また、血管内皮細胞に対しては、プロスタサイクリン、PDGF、プラスミノゲンアクチベータインヒビターなどの産生を促したり、GMP140の細胞表面への輸送を促進して好中球の接着を促すと言った作用をも有する。すなわち、トロンビンは、トロンビンが単なる血液凝固因子としての作用のみならず、血管壁や組織の炎症、傷害に際して修復ならびに増殖に係わる情報伝達分子という機能をも有する。従って、トロンビンは、血液凝固因子に加えて、炎症、創傷治癒、動脈硬化にも関与する非常に重要な物質である。
【0003】
上記の説明から明らかなように、生体内のトロンビンの量あるいは活性を測定することは、臨床上、非常に有意義である。現在、トロンビンを臨床的に測定する場合、例えば、トロンビン活性を測定する凝固時間法、あるいは、合成基質法が用いられる。一般的に被検体が血液由来である場合、血液凝固第II因子をトロンビンに転化してトロンビン活性を測定するが、凝固時間法は検体の凝固時間、すなわち、トロンビンによるフィブリン転化にかかる時間を測定することによる血液凝固第II因子の正常血清に対する相対量を求める方法であるが、測定操作に熟練を要する、測定操作が煩雑である、使用する試薬、また、ロットにより測定値が異なると言った問題があった。合成基質法はトロンビンのプロテアーゼ作用に対して反応する発色性合成基質を用いる方法であるが、(i)特異性は絶対的ではなく若干他の凝固因子と交差反応をすること、(ii)天然の基質に対するセリンプロテアーゼ活性と反応性が異なること、(iii)測定装置が高価である等の問題があった。また、トロンビン活性を測定する方法は、生体内で生成されたトロンビン量を間接的には評価できるものの、被検体中の活性のあるトロンビン量を直接的に測定するものではなかった。
【0004】
トロンビンは前述したように血液凝固の中心となる分子であり、種々の疾患に関与すると考えられている。腎疾患のひとつである糸球体腎炎では凝固の活性化がその進展に関わっており、抗凝固療法が広く実施されているが、凝固の活性化を直接示す指標がないために、治療法の適応や薬剤の決定が困難となっている疾患である。われわれは鋭意研究の末、腎炎患者尿中のトロンビン活性を合成基質法を用いて測定した結果、メサンギウム性増殖性腎炎患者尿中にはトロンビン活性があることを見い出した。しかしながら、合成基質法を用いる場合、トロンビンに特異的な活性を測定するためには、トロンビンと特異的に結合してトロンビン活性を阻害するトロンビン阻害物質(抗トロンビン物質)、例えばヒルジンを添加して、ヒルジン添加前後のトロンビン活性の差を算出することにより真のヒトトロンビン活性を求める必要があり、安価かつ簡易に測定する方法ではなかった(Kidney International,vol.54,1767−1768,1998年)。
【0005】
トロンビンを直接測定するための測定方法としては、例えば、トロンビンに特異性の高い抗体を用いて免疫学的に測定する方法が考えられる。しかしながら、トロンビンを直接測定するための免疫学的測定法は知られていない。ヒトトロンビンに対する抗体としては、J.Dawesらのヒトトロンビンに対する抗体等が既に公知である(Thrombosis Research 36, 397−409,1984)。しかしながら、トロンビンは種間の保存性が高いこと、かつ、血液凝固活性を有することからヒトトロンビンを免疫源とした場合、前記文献でも報告されているように、ほとんどの個体に抗ヒトトロンビン抗体は産生されず、ヒトトロンビンに対する抗体を得ることは非常に難しかった。また、トロンビンを不活化方法としては、例えば、Tsiangらのジイソプロピルフルオロホスフェート(=DFP)を修飾トロンビンに修飾する方法が知られている(Biochemistry,vol.29,No.47,10602−10612,1990)が、トロンビンに対する抗体を得るために不活化したトロンビンを抗原として用いる方法は知られていなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の第1の目的は、トロンビンを特異性高く認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリッド細胞を提供することにある。
本発明の第2の目的は、モノクローナル抗体を産生するハイブリッド細胞より得ることができるモノクローナル抗体を提供することにある。
本発明の第3の目的は、トロンビンに対して特異性高く反応するモノクローナル抗体を産生するハイブリッド細胞を用いたモノクローナル抗体の製造方法を提供することにある。
本発明の第4の目的は、トロンビンに対して特異性高く反応するモノクローナル抗体を用いたトロンビンの測定方法を提供することにある。また、尿中トロンビンの免疫学的測定方法を提供することにある。
【0007】
【発明を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題点に鑑み検討した結果、トロンビンの不活化物、特にジイソプロピルフロロホスフェイトで修飾することにより不活化したトロンビンを抗原として免疫することにより、トロンビンに対して特異性の高い抗体を効率よく産生するハイブリッド細胞が得られることを初めて見いだした。また、本発明により得られた抗体を用いることにより、トロンビンを特異性高く測定することができることを見いだし、本発明を完成させた。
【0008】
従って、本発明は、以下の(1)〜(8)である。
(1)プロトロンビン及びトロンビン・アンチトロンビンIII複合体を認識せず、ヒトトロンビンのフィブリンクロット形成及び血小板凝集反応を阻害しないことを特徴とする、モノクローナル抗体。
(2)受託番号FERM P−17453であるハイブリドーマから分泌される前記(1)に記載のモノクローナル抗体。
(3)前記(1)に記載のモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ。
(4)トロンビン及びプロトロンビンを認識し、トロンビン・アンチトロンビンIII複合体を認識せず、ヒトトロンビンのフィブリンクロット形成及び血小板凝集反応を阻害しないことを特徴とする、モノクローナル抗体。
(5)受託番号FERM P−17454であるハイブリドーマから分泌される、前記(4)に記載のモノクローナル抗体。
(6)前記(4)に記載のモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ。
(7)前記(1)又は(2)に記載のモノクローナル抗体、及び前記(4)又は(5)に記載のモノクローナル抗体を使用することを特徴とするトロンビンのサンドイッチ酵素免疫測定方法。
(8)前記トロンビンが尿中トロンビンである、前記(7)に記載のサンドイッチ酵素免疫測定方法。
更に、本願明細書は、以下の(9)〜(14)の発明を開示する。
(9)トロンビンの不活化物を抗原として免疫した恒温動物から得られる抗体産生細胞と、ミエローマ細胞とを融合して得られるハイブリッド細胞。
(10)トロンビンの不活化物が、ジイソプロピルフロロホスフェイトで修飾することにより不活化して得られるトロンビンの不活化物であることを特徴とする前記(9)記載のハイブリッド細胞。
【0009】
(11)前記(9)または(10)に記載のハイブリッド細胞を培養して得られる培養物中より取得した、トロンビンを特異的に認識するモノクローナル抗体。
(12)トロンビンの不活化物を抗原として、該抗原で免疫した恒温動物から得られる抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合して得られるハイブリッド細胞を培養して得られる培養物中より、トロンビンを特異的に認識するモノクローナル抗体を取得することを特徴とするモノクローナル抗体の製造方法。
(13)前記(12)に記載のトロンビンを特異的に認識するモノクローナル抗体を使用することを特徴とするトロンビンの測定方法。
(14)前記(12)に記載のトロンビンを特異的に認識するモノクローナル抗体を使用することを特徴とする尿中トロンビンの測定方法。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明のハイブリッド細胞は、トロンビンの不活化物を抗原として免疫した恒温動物から得られる抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合して得ることができる。
本発明では、トロンビンの不活化物を抗原として用いることができるが、本発明でトロンビンの不活化物を得るために用いるトロンビンとしては、得たい動物種のトロンビンであればいかなるものでもよく、市販のものを用いることもできる。例えば、ヒトトロンビンに対する抗体を得たい場合はヒトトロンビンを用いれば良い。トロンビンのアミノ酸組成は動物種間での相同性が高く、かつ血液凝固活性を有するためトロンビン自体を抗原として免疫しても有効な免疫応答産物が得られないため、本発明ではトロンビンの不活化物を抗原として用いる。
【0011】
トロンビンの不活化物は、前記のトロンビンを通常知られる方法により不活化することで得ることができるが、好ましくは酸処理、アルカリ処理、プロテアーゼ処理、熱処理、修飾反応等で不活化することにより得られ、より好ましくは修飾反応を用いることにより不活化して得られる。このとき修飾に要する物質は、蛋白質のアミノ酸側鎖と容易に反応するものであれば特に限定されず、アセトアルデヒドやグルタルアルデヒド、活性型脂肪酸のようなアシル化剤、ジイソプロピルフルオロホスフェイト、ジイソプロピルクロロホスフェイト等を用いることができるが、特に、ジイソプロピルフルオロホスフェイトを好ましく使用することができる。
【0012】
トロンビンを修飾反応により不活化するための方法は、公知の方法で行ってよいが、例えば、修飾に要する物質とヒトトロンビンを緩衝液中で混合(攪拌)して得ることが可能である。用いる緩衝液としては、トロンビンと修飾に要する物質の反応が進行しうる緩衝液であれば良く、リン酸塩、炭酸塩などの緩衝液が挙げられ、好ましくはリン酸緩衝液が用いられる。緩衝液のpHは該反応が進行するpHであれば特に限定されないが、修飾に要する物質としてジイソプロピルフロロホスフェイト等を用いる場合には、pH6〜11、好ましくはpH7〜9である。緩衝液の濃度は、該反応が進行する濃度であれば特に限定されないが、1mM〜1M、好ましくは10〜100mMの緩衝液である。反応条件は、例えば、4〜45℃で5分〜96時間であり、好ましくは10〜40℃で1〜40時間である。
【0013】
本発明でトロンビンの不活化物を抗原として用いて免疫される動物は、通常知られた恒温動物を使用する。恒温動物としては、例えばマウス、ハムスター、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ等であれば特に制限されないが、抗体産生細胞を融合するミエローマ細胞がマウス由来のものであるため、好ましくはマウスが使用される。
【0014】
恒温動物に免疫する方法は、通常の公知の免疫方法を用いることができる。例えば、7ないし30日、特に12ないし16日間隔で2または3回の投与が好ましい。1回の投与量は、免疫される動物により異なるが、例えば、約0.05〜2mg程度を目安とする。投与経路は皮下注射、皮内注射、腹膜腔内注射、静脈内注射、筋肉内注射等を選択することができるが、好ましくは腹膜腔、皮下もしくは筋肉内に注射して行う投与形態である。さらに好ましくは、前記投与経路を2ないし3組み合わせた投与経路、例えば、腹膜腔注射、皮下注射および筋肉内注射全ての投与経路を組み合わせるのが好ましい。なお、この場合、抗原は適当な緩衝液、例えばフロイントの完全アジュバント、フロイントの不完全アジュバント、水酸化アルミニウム等の通常用いられるアジュバントの1種を含有するナトリウムリン酸緩衝液、生理食塩水等に溶解して用いることができるが、上記のようなアジュバントを使用しなくとも良い。ここで、アジュバントとは抗原と共に投与したとき、非特異的にその抗原に対する免疫反応を増強する物質を意味する。
【0015】
上記の抗原を免疫した恒温動物を7〜30日間処置せずに放置した後、必要があれば該恒温動物の血清を少量採取し、抗体価をウエスタンブロット法、凝集法、酵素免疫測定法、一元放射状免疫拡散法等により測定することもできる。好ましくは酵素免疫測定法により測定することができる。抗体価が上昇してきたら、状況に応じて抗原の追加投与を適当回数行うことができる。例えば、0.01〜1mg、特に、0.05〜0.5mgの投与量で1もしくは2回の追加投与が行われる。
【0016】
免疫した恒温動物から抗体産生細胞を得るには、最後の投与の1ないし30日後、特に好ましくは1〜7日後に免疫した恒温動物から抗体を産生するリンパ球を含む組織を摘出する。摘出する組織は、抗体を産生するリンパ球を含む抹消リンパ系組織ならどこでも良いが、好ましくは脾臓である。
【0017】
抗体産生細胞と、ミエローマ細胞とを融合するには、得られた組織を、例えば、「単クローン抗体実験操作入門」(講談社サイエンティフィック、安藤民衛ら1991年)等に記載されている方法により、継体培養可能な細胞とすればよく、例えば、仙台ウイルスやポリエチレングリコール存在下、ある種のガン細胞と細胞融合させて、ハイブリッド細胞を得ることができる。ここで用いられるガン細胞は、同じ恒温動物でも同種の恒温動物のガン細胞を用いることが望ましく、例えばマウスを免疫動物として得られた脾臓細胞と融合させる場合、マウスミエローマ細胞を用いることが好ましい。実際に用いられる細胞融合の方法としては、公知の技術(J.Immunol.Method 第39巻:285−308頁,1980年)を用いることができる。例えば、免疫されたマウスから得られた脾臓とマウスミエローマ細胞をポリエチレングリコール存在下で融合を行い、ハイブリッド細胞のみが生育可能であるHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン添加培地)により選択的にハイブリッド細胞を増殖させ、ハイブリッド細胞がコロニーを形成させた後、培養上清中の抗体をスクリーニングすることで目的の抗体を産生するハイブリッド細胞を得ることができる。スクリーニングする方法としては、例えば、ウエスタンブロット法あるいは酵素免疫化学的測定法等が挙げられる。また、目的の抗体を産生するハイブリッド細胞は、限界希釈法を繰り返すことにより最終的に単一のハイブリッド細胞を得ることができる。
以上のようにして本発明のハイブリット細胞を得ることができる。
【0018】
本発明で得られるハイブリッド細胞を培養するには、本発明によるハイブリッド細胞が生存・増殖可能な公知の技術を用いれば良く、例えば、ハイブリッド細胞をマウス腹腔内に投与して腹水を得る方法や無血清培地、例えば5〜10%FBS加RPMI1640培地等で培養する方法がある。これらの培養液中には目的の抗体が含まれているため、このまま利用しても良いし、下記の方法により目的の抗体を精製することも可能である。
【0019】
培養物中よりトロンビンを特異的に認識するモノクローナル抗体を取得するには、既に公知の技術を用いれば良く、これらの目的とする抗体を産生するハイブリッド細胞が産生した抗体は、例えば遠心分離、硫酸アンモニウムまたはポリエチレングリコールを用いる蛋白質分画、水性二層分配法、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動等の蛋白質の一般的な生化学的分離方法を、単独もしくはいくつかの方法を組み合わせて使用することにより精製することができるが、より具体的には、プロテインAやプロテインGを用いたアフィニティークロマトグラフィーが用いられる。
以上のようにして本発明のトロンビンを特異的に認識するモノクローナル抗体を得ることができる。
【0020】
本発明のトロンビンを特異的に認識するモノクローナル抗体を使用したトロンビンの測定方法としては、既に公知である免疫学的測定法が使用できるが、好ましくは酵素免疫学的測定法、特に好ましくはサンドイッチタイプの酵素免疫学的測定法である。例えば、サンドイッチタイプの酵素免疫学的測定法により試料中のトロンビン量を測定する方法としては、トロンビンに対する抗体を固定化可能な担体と接触させることにより物理的あるいは化学的に吸着させ、洗浄して余剰の抗体を分離することにより抗体固定化担体を得ることができる。このようにして得られた抗体固定化担体は非特異的な吸着反応を阻害するためのブロッキング処理を行っても良いし、乾燥処理等の後処理を行っても良い。得られた抗体固定化担体に既知濃度のトロンビンを含んだ試料およびトロンビンを含むサンプルを接触させることによりトロンビンを担体に固定化された抗体と反応させ(一次反応)、洗浄後、酵素標識したトロンビンに対する抗体を担体に固定化された抗体と反応したトロンビンに反応させ(二次反応)、洗浄後、担体に結合した酵素標識抗体の酵素を検出し、既知濃度のトロンビンを含む試料から得られるシグナルと、トロンビン濃度が未知であるサンプルから得られるシグナルを比較することにより、トロンビン量が未知である試料中のトロンビン量を測定することが可能である。
【0021】
尿中トロンビンの測定方法としては、サンプルである尿を原液のまま、あるいは適当な緩衝液で希釈したものをサンプルとして上記免疫学的測定法で測定すれば良い。
以上のようにして尿中のトロンビンを測定することができる。
【0022】
【発明の効果】
本発明のハイブリッド細胞は、トロンビンを特異的に認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリッド細胞である。また本発明のハイブリッド細胞により産生されるモノクローナル抗体は、トロンビンを特異的に認識するモノクローナル抗体である。また、本発明のモノクローナル抗体の製造方法は、前記のハイブリッド細胞を用いた効率的な製造方法である。
さらには、本発明のトロンビンの測定方法は、前記の本発明のモノクローナル抗体を用いたトロンビンの測定方法であり、直接的にまた、特異的に精確に測定できる方法である。
したがって、本発明のモノクローナル抗体の製造方法を用いて製造されたモノクローナル抗体は、臨床学的に非常に有意義であり、また、本発明によるヒトトロンビンの免疫学的測定方法は、ヒトトロンビン活性と相関があることが明らかであるので、臨床診断、分析等において有用性が有り、特にヒトトロンビンの疾患・病態との関連性の解明のための一助となることが期待される。
【0023】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明は本実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
1.抗原の調製
50mMリン酸緩衝液(pH7.2)に溶解したヒトトロンビン(CALBIOCEM社製 略語:hTB)溶液(濃度:2mg/ml)に終濃度100mMとなるように50mMリン酸緩衝液(pH7.2)溶液で調製したジイソプロピルフロロホスフェイト(シグマ社製,略語:DFP)を加え、37℃で2時間反応させてhTBとDFPのコンジュゲート(略語:hTB−DFP)を得て、これを抗原とした。
【0024】
2.免疫方法
hTB−DFP(1mg/ml)は等量のフロイントの完全アジュバントとよく混合してエマルジョンとし、これを5匹のマウス(BALB/c、オス、6〜8週齢)の腹腔内に100μl免疫した。初回免疫から10〜14日後、抗原とフロイントの不完全アジュバントをよく混合してエマルジョンとして、追加免疫を行った。追加免疫から3週間後、抗原とリン酸緩衝生理食塩水(略語:PBS)を混合して最終免疫を行った。なお、抗体価は、追加免疫の1週間後、マウス眼孔静脈から血液を採取し、得られた血清を用いて酵素免疫化学的方法で抗原に対する抗体が全例に産生していることを確認した(n=6)。酵素免疫化学的方法では、免疫したマウスから得られた血清と比較対照となる免疫前のマウスから得られた血清の間に大きな抗体価の差異が見られ、抗体価の上昇が確認された。
【0025】
3.抗体価の確認方法
抗体価はhTBを固相とした酵素免疫測定法により確認した。すなわち、hTBを96穴イムノプレートに物理吸着させ、0.05%Tween20−トリス緩衝液(pH7.4)(以下、TTBSと略す)で3回洗浄した後、1%BSAを含むトリス緩衝液(pH7.4)(以下、「ブロッキング液」と略すこともある。)でブロッキングを行った。このプレートのウエルに任意の倍率に希釈されたマウスから得られた血清(100μl/ウエル)を入れて、37℃で1時間反応させた。ウエルを洗浄後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(略語:POD)で標識されているマウス抗体に対するウサギ抗体をTTBSで5000倍希釈した液(100μl/ウエル)(以下、「酵素標識抗体溶液」と略す。)を入れて、37℃で1時間反応させた。ウエルを洗浄後、O−フェニレンジアミン(0.4mg/ml)および過酸化水素(0.003%)を含む0.1Mクエン酸−リン酸緩衝液(pH5)(100μl/ウエル)(以下、発色液と略す。)を入れて室温で15−20分間反応させた。発色反応は1Mの硫酸(50μl/ウエル)(以下、反応停止液と略す。)を入れることで停止し、マイクロプレートリーダーで492nmの吸光度を測定して抗体価の確認を行った。なお、コントロールとしては、免疫していないマウスから得られた血清を使用した。抗血清の力価について図1に示す。図1に示されるように、不活化したヒトトロンビンを抗原とした場合、全てのマウスにヒトトロンビンに対する抗体が産生されることが確認された。結果的に最も力価の高かったNo.1のマウスを細胞融合に用いることとした。
なお、図中のDFPはDFPで修飾された不活化したトロンビンを抗原として免疫したマウスを示し、続く数字はマウスの固体番号を表す。
【0026】
4.細胞融合
免疫したマウスからマウス脾臓を摘出し、よくほぐして脾細胞を得た。得られた脾細胞はRPMI−1640培地で洗浄した。この洗浄した脾細胞と同様にRPMI−1640培地でよく洗浄したミエローマ細胞であるマウス653細胞(P3X63−Ag8,653:CRL・1580)を細胞数が7:1の割合になるように混和し、培地に対して50w/v%のポリエチレングリコール1540溶液を徐々に加えて5分間混和した。これにRPMI−1640培地を加えて反応を停止させた後、5分間遠心分離して上清を廃棄した。これにRPMI−1640培地を加えた後、5分間遠心分離を行い上清を廃棄した。この操作を2回繰り返して細胞を洗浄し、細胞を得た。
【0027】
5.クローニング
前述の得られた細胞に30mlのHAT培地を加えて細胞を懸濁し、96穴マイクロプレートの各ウエルに100μlづつ分注し、HAT培地により選択的にハイブリッド細胞を増殖させた。融合から10日後、HT培地(HAT培地からアミノプテリンを除いたもの)でウエル中の1/2量の培養上清を置換した。この操作を2〜3回繰り返した。培養上清については酵素免疫化学的方法により抗体価を確認し、スクリーニングを行った。なお、抗体価の確認方法は、前述の抗体価の確認方法と同様であるが、試験に用いる試料を血清の代わりに得られた培養上清を用いた。スクリーニングにより抗体活性の確認されたウエルの細胞は限界希釈を行い培養し、最終的にはスクリーニングと限界希釈を繰り返すことによりhTBに対して高い抗体活性を有し、且つ単一の細胞からなるクローン5株を得た。このうち、2C12株および2G3株のモノクローナル抗体の反応特異性について確認を行った。該2C12株は、通商産業省工業技術院生命工学技術研究所に平成11年7月9日に寄託番号(FERM P−17453)、および該2G3株は平成11年7月9日に寄託番号(FERM P−17454)として寄託されている。なお、検討に用いるモノクローナル抗体は、ハイブリッド細胞をマウス腹腔内に投与して得られた腹水をプロテインA結合担体によるアフィニティークロマトグラフィーにより精製した抗体を用いた。また、2C12、2G3株について抗体のサブクラスを検討したところ、IgG2aであった。
【0028】
〔比較例1〕
抗原をトロンビンとする以外は実施例1に従い抗原をマウスに免疫し、マウスに誘導される抗トロンビン抗体の抗体価を評価した。結果を図1に示す。なお、図中Tはトロンビンを抗原として免疫されたことを示し、続く数字はマウス番号を表す。
図1に示されるように、抗原が不活化したトロンビンである場合、6例全例に抗力価の抗トロンビン抗体が産生しているが、抗原がトロンビンである場合、免疫した6例全例で抗体価を確認することができなかった。
【0029】
〔実施例2〕抗体の反応特異性評価結果
得られた5株のクローンから得られたhTBを認識するモノクローナル抗体の内、サンドイッチタイプの酵素免疫学的測定方法を構築可能な2株、2C12および2G3の両者の反応特異性について確認を行った。
1.モノクローナル抗体の反応特異性の評価法−1
本発明のモノクローナル抗体の反応特異性をウエスタンブロッティングにより評価した。トロンビン、プロトロンビンおよびトロンビン・アンチヒトトロンビンIII複合体を電気泳動後、メンブレンにブロッティングした後、本発明により得られた任意濃度の本発明によるモノクローナル抗体を適当な条件下反応させた後、任意濃度のペルオキシダーゼにより標識したマウス抗体に対する抗体を反応させた。最終的にジニトロベンチジン、あるいはECL法で検出し、本発明によるモノクローナル抗体のトロンビン、プロトロンビンおよびトロンビン・アンチトロンビンIII複合体への反応性を評価した。その結果を図2および図3に示す。図2中、1は還元プロトロンビン、2は還元トロンビン、3は非還元プロトロンビン、4は非還元トロンビンを示し、図3中、1はトロンビン・アンチトロンビンIII複合体、2はトロンビン、3はアンチトロンビンIIIを示す。図2,3より明らかなように、本抗体2C12および2G3はトロンビンのみに非常に強く反応した。
【0030】
2.トロンビン活性の中和試験
2.1凝固活性
トロンビンによるフィブリンクロットの形成を評価した。150mMの塩化ナトリウム、10mMの塩化カルシウム、6.6mg/mlのポリエチレングリコール6000濃度となるように調製した10mMイミダゾール塩酸緩衝液(pH7.4)64μlに10μlのトロンビン溶液および84μlのイオン交換水を加えた。この溶液に10mg/mlのフィブリノーゲン液40μlを加えてから凝固するまでの時間を測定してフィブリンクロットの形成を評価した。なお、添加するトロンビン溶液は以下のように調製された。1.6mg/mlの濃度になるように1%の濃度の牛血清アルブミン溶液(BSA溶液)で調製したトロンビン溶液9.9μlに1%BSA溶液あるいは1%BSA溶液で6.6mg/mlの濃度になるように調製した本発明による抗体液0.1μlを混合攪拌し、4℃で1時間インキュベートした。インキュベート後、この溶液を1%BSA液で10倍希釈したものをトロンビン溶液として使用した。その結果どちらの抗体もコントロールと比較してクロッティング時間に差は認められず、どちらの抗体もヒトトロンビンによるフィブリンクロットの形成に対して影響はなかった。
【0031】
2.2血小板凝集反応
トロンビンによる血小板凝集活性を評価した。反応容器に150μlの多血小板血漿を入れ、2分間プレインキュベートした。それに、50μlのヒトトロンビン溶液を加え、1分間プレインキュベートした。最後に1M 塩化カルシウム液を22μl添加攪拌し、ヘマトレーサーで血小板凝集能について評価した。なお、添加するトロンビン溶液は、1.54μg/mlのヒトトロンビン液を加えたものをコントロール、終濃度で1.54μg/mlのヒトトロンビン、1mg/mlの各抗体となるように調製した液を4℃で1時間インキュベートした液とを用いた。その結果どちらの抗体も血小板凝集能に対して影響がなかった。
【0032】
〔実施例3〕尿中ヒトトロンビン量の測定
本発明のモノクローナル抗体を用いて、ヒトトロンビンのサンドイッチELISA法による測定システムを構築し、メサンギウム性増殖性腎炎患者尿中のトロンビン量を測定した。すなわち、96穴イムノプレートにウエル当たり100μlの抗ヒトトロンビンモノクローナル抗体(2C12)液(PBS)を入れ、4℃で一昼夜固定化した。ウエル当たり300μlのTTBSで3回洗浄した後、1%BSA含有TTBSもしくは蒸留水で4倍希釈したブロックエースをウエル当たり300μl加えてブロッキングした。サンプル(ヒト尿)をウエル当たり100μl入れ、室温で1時間反応させた。0.05%TTBSで4回洗浄し、直ちに、POD標識した抗ヒトトロンビンモノクローナル抗体(2G3)をウエル当たり100μl入れ、室温で1時間反応させた。0.05%TTBSで4回洗浄し、ウエル当たり100μlの発色液を加えて室温で15〜20分間インキュベートした。ウエル当たり50μlの反応停止液を加えた後、マイクロプレートリーダーで492nmの吸光度を測定し、尿中のヒトトロンビン濃度を測定した。なお、標準としては市販のヒトトロンビンを用いた。標準曲線を図4に、ヒト尿中のトロンビン量を表1に示した。このようにメサンギウム性増殖性腎炎患者尿中にはトロンビンが存在していた。
【0033】
【表1】
【0034】
〔実施例4〕尿中トロンビン活性の測定
上記で使用したメサンギウム性増殖性腎炎患者尿中のトロンビン活性を合成基質法で測定した。すなわち、トロンビンの合成ペプチド基質である3093−V(ペプチド研究所社製)を、150mMのNaClを含有する0.1Mトリス緩衝液(pH7.6)で0.1Mとなるように調製した液10μlとヒト尿50μlをセルに入れ、全量を620μlとなるように混合攪拌した。日立製作所社製650−40型蛍光分光光度計にて、励起波長380nm、測定波長440nmで5分間測定し、その勾配からトロンビン活性を求めた。標準曲線を図5に示す。また、10units/mlとなるように0.1Mトリス緩衝液(pH7.6)で調製したヒルジン液(10μl)を添加したヒト尿サンプルを用いて同様の測定を実施し、ヒルジン無添加サンプルより得られた活性からヒルジン添加サンプルより得られた活性の差を求めてヒトトロンビン活性とした。標準としては、CALBIOCHEM社製ヒトトロンビンを用いた。結果を表2に示す。このように、メサンギウム性増殖性腎炎患者尿中からヒトトロンビン活性が検出された。
【0035】
【表2】
【0036】
注 −Hはヒルジン未添加、+Hはヒルジン添加を示す。
【0037】
〔実施例5〕ヒトトロンビン量の相関性についての評価
実施例4で得られた尿中のトロンビン活性を横軸、実施例3で得られた本発明によるヒトトロンビンに対する抗体を用いた免疫学的測定方法により測定された尿中のトロンビン量を縦軸として、トロンビン活性に対するヒトトロンビン量の相関性について評価した。その結果を図6に示す。図に示すように、本発明によるトロンビンの測定方法により得られたトロンビン濃度と、合成基質法により得られたトロンビン活性は、相関係数R=9999、直線の式y=34.585x−0.0297と、非常に良好な相関を示した。
【0038】
以上の結果より、本発明のハイブリッド細胞により、ヒトトロンビンに対する良好なモノクローナル抗体が産生できることがわかる。また、前記のモノクローナル抗体の製造方法により、ヒトトロンビンに対する良好なモノクローナル抗体が製造できることがわかる。
また、本発明のモノクローナル抗体の製造方法を用いて製造されたモノクローナル抗体は臨床学的に非常に有意義である。また、本発明によるヒトトロンビンの免疫学的測定方法は、ヒトの尿中のヒトトロンビンを直接精確に測定できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実施例1における免疫したマウスから得た血清の力価、および比較例1における免疫していないマウスから得た血清の力価の図である。
【図2】図2は、実施例2の抗体の反応特異性評価における、トロンビンおよびプロトロンビンに対するウエスタンブロット試験結果の図である。
【図3】図3は、実施例2の抗体の反応特異性評価における、トロンビンおよびトロンビン・アンチトロンビンIII複合体に対するウエスタンブロット試験結果の図である。
【図4】図4は、実施例3の市販のヒトトロンビンを用いたヒトトロンビン量測定の標準曲線の図である。
【図5】図5は、実施例4の尿の試料を用いたヒトトロンビン活性量の測定の標準曲線の図である。
【図6】実施例5におけるトロンビン活性とヒトトロンビン量との相関図である。
Claims (6)
- トロンビンを特異的に認識し、プロトロンビン及びトロンビン・アンチトロンビンIII複合体を認識せず、ヒトトロンビンのフィブリンクロット形成及び血小板凝集反応を阻害しない、受託番号FERM P−17453であるハイブリドーマから分泌される、モノクローナル抗体。
- 請求項1に記載のモノクローナル抗体を分泌する、受託番号FERM P−17453であるハイブリドーマ。
- トロンビン及びプロトロンビンを認識し、トロンビン・アンチトロンビンIII複合体を認識せず、ヒトトロンビンのフィブリンクロット形成及び血小板凝集反応を阻害しない、受託番号FERM P−17454であるハイブリドーマから分泌される、モノクローナル抗体。
- 請求項3に記載のモノクローナル抗体を分泌する、受託番号FERM P−17454であるハイブリドーマ。
- 請求項1に記載のモノクローナル抗体、及び請求項3に記載のモノクローナル抗体を使用することを特徴とするトロンビンのサンドイッチ酵素免疫測定方法。
- 前記トロンビンが尿中トロンビンである、請求項5に記載のサンドイッチ酵素免疫測定方法。
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