JP4326090B2 - トルクコンバータ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は,エンジンのクランクケースに支承されるクランク軸に,前記クランクケースの外で連結されるポンプ羽根車と,このポンプ羽根車に対向して配設されるタービン羽根車と,これらポンプ羽根車及びタービン羽根車の内周部間に配置されるステータ羽根車,このステータ羽根車及びクランクケース間に介裝され,ポンプ羽根車及びタービン羽根車間でのトルク増幅時,それに伴う反力をステータ羽根車に負担させるべく該ステータ羽根車をロックさせるフリーホイールと,ポンプ羽根車に連設されてタービン羽根車51の外側を覆うトルクコンバータサイドカバーとからなるトルクコンバータの改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来,かゝるトルクコンバータでは,例えば特公平7−33861号公報に開示されているように,タービン軸の外周に,ステータ羽根車のボスに囲繞される筒状の固定軸を配設し,この固定軸とステータ羽根車のボスとの間にフリーホイールを介裝している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように,ステータ羽根車のボスと,このボスに囲繞される筒状の固定軸との間にフリーホイールを介裝したトルクコンバータでは,ステータ羽根車とフリーホイールとの同心配置により,ステータ羽根車,延いてはトルクコンバータ全体が必然的に大径化してしまう欠点がある。
【0004】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,フリーホイールの存在に拘らず,全体の小径化をもたらすことを可能にする前記トルクコンバータを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために,本発明は,エンジンのクランクケースに支承されるクランク軸に,前記クランクケースの外で連結されるポンプ羽根車と,このポンプ羽根車に対向して配設されるタービン羽根車と,これらポンプ羽根車及びタービン羽根車の内周部間に配置されるステータ羽根車,このステータ羽根車及びクランクケース間に介裝され,ポンプ羽根車及びタービン羽根車間でのトルク増幅時,それに伴う反力をステータ羽根車に負担させるべく該ステータ羽根車をロックさせるフリーホイールと,ポンプ羽根車に連設されてタービン羽根車51の外側を覆うトルクコンバータサイドカバーとからなるトルクコンバータにおいて,タービン羽根車をポンプ羽根車よりクランクケース側に配置して,このタービン羽根車に一体的に結合したタービン軸を,これがトルクコンバータサイドカバーを液密に貫通してクランクケース側に延出するように配設し,ステータ羽根車自体をクランク軸に第1ベアリングを介して支承し,またこのステータ羽根車に直接連結したステータ軸をクランク軸に第2ベアリングを介して支承すると共に,このステータ軸を,その先端部が前記タービン軸を貫通してその軸外に突出するように配設し,このステータ軸の先端部を,クランクケースに隣接するフリーホイールを介してクランクケースに連結して,トルクコンバータのカップリング状態では,該フリーホイールの空転作用によりクランク軸及び前記タービン軸が略同速度で回転するようにし,前記タービン軸を第3ベアリングを介してステータ軸に支承すると共に,このタービン軸の外端部に固設される駆動ギヤを前記フリーホイールに隣接配置したことを第1の特徴とする。
【0006】
この第1の特徴によれば,タービン羽根車をポンプ羽根車よりクランクケース側に配置して,このタービン羽根車に一体的に結合したタービン軸を,これがトルクコンバータサイドカバーを液密に貫通してクランクケース側に延出するように配設し,ステータ羽根車自体をクランク軸に第1ベアリングを介して支承し,またこのステータ羽根車に直接連結したステータ軸をクランク軸に第2ベアリングを介して支承すると共に,このステータ軸を,その先端部が前記タービン軸を貫通してその軸外に突出するように配設し,このステータ軸の先端部を,クランクケースに隣接するフリーホイールを介してクランクケースに連結したので,フリーホイールの存在に関係なくステータ羽根車の小径化,延いてはトルクコンバータ全体の小径化を図ることができる。
【0007】
しかも,ステータ軸の先端部を,フリーホイールを介してクランクケースに連結して,トルクコンバータのカップリング状態では,該フリーホイールの空転作用によりクランク軸及び前記タービン軸が略同速度で回転するようにしたので,ステータ羽根車に連結したステータ軸は,ステータ羽根車がポンプ羽根車及びタービン羽根車と共に回転するカップリング状態では,クランク軸及びタービン軸と略同速度で回転することになり,クランク軸,タービン軸及びステータ軸の各隣接軸間の相対回転速度差は極めて小さく,各軸間の第1〜第3ベアリングの負荷が軽減して,それらの耐久性向上をも図ることができる。特に,ステータ羽根車は,それ自体をクランク軸に第1ベアリングを介して支承したことで,クランク軸2に安定よく支承させることが可能となる。
【0008】
さらにタービン軸の外端部に固設される駆動ギヤをクランクケースに隣接するフリーホイールに隣接配置したので,駆動ギヤを,フリーホイールとの干渉を避けつゝケースに極力近接して配置することが可能となり,したがって駆動ギヤの作動中,その駆動ギヤがクランク軸に及ぼす曲げモーメントを小さく抑えて,クランク軸の耐久性を高めることができる。
【0009】
また本発明は,第1の特徴に加えて,ステータ羽根車に,前記第1ベアリングの一端部及び他端部がそれぞれ臨む第1及び第2小油室を形成し,その第1小油室は,ポンプ羽根車及びタービン羽根車間の油室と,オイルポンプの吐出側に連なる上流供給油路に連通し,また第2小油室は,タービン羽根車及びステータ羽根車間の油室と,それより下流側に位置する下流供給油路とに連通したことを第2の特徴とする。
【0010】
この第2の特徴によれば,トルクコンバータの油室に出入りするオイルにより,第1ベアリングを良好な潤滑状態に置くことができる。
【0011】
さらに本発明は,第1又は第2の特徴に加えて,ステータ軸をクランク軸に相対回転自在に支承し,このステータ軸の先端部に形成されるアウタレースと,クランク軸に相対回転自在に支承され且つクランクケースに回転不能に連結されるインナレースと,これら両レース間に介裝されるスプラグとでフリーホイールを構成したことを第3の特徴とする。
【0012】
この第3の特徴によれば,アウタレース及びインナレースは,共にクランク軸に支承されるので,それらに高い同心精度を付与し得て,フリーホイールの作動を常に安定させることができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を,添付図面に示す本発明の実施例に基づいて以下に説明する。
【0014】
図1は本発明の一実施例を示す自動二輪車用パワーユニットの縦断平面図,図2は上記パワーユニットにおける変速クラッチ及びトルクコンバータ周辺部の拡大縦断面図,図3は図2の要部拡大図である。
【0015】
図1において,自動二輪車用パワーユニットPは,エンジンE及び多段変速機Mを一体化して構成される。そのエンジンEは,従来普通のように,クランクケース1に左右一対のボールベアリング3,3′を介して支承されるクランク軸2と,シリンダブロック5のシリンダボア5aに摺動自在に嵌装されてコンロッド6を介してクランク軸2に連接されるピストン7とを備えると共に,クランク軸2を自動二輪車の左右方向へ向けて配置される。
【0016】
クランクケース1にはミッションケース8が一体に連設されており,このミッションケース8の左右両側壁により多段変速機Mの,クランク軸2と平行に配置された入力軸10及び出力軸11がそれぞれボールベアリング12,12′;13,13′を介して支承され,これら入力軸10及び出力軸11にわたり,図1で左側から第1速ギヤ列G1,第2速ギヤ列G2,第3速ギヤ列G3及び第4速ギヤ列G4が配設される。そして第2速ギヤ列G2の被動ギヤG2b,及び第3速ギヤ列G3の駆動ギヤG3aがシフトギヤを兼ねており,両シフトギヤG2b,G3aが共に中立位置にあるときは,変速機Mはニュートラル状態にあり,シフトギヤG2bが図で左動又は右動すると第1速ギヤ列G1又は第3速ギヤ列G3が確立し,シフトギヤG3aが左動又は右動すると,第2速ギヤ列G2又は第4速ギヤ列G4が確立するようになっている。上記シフトギヤG2b,G3aは,図示しない公知のペダル式その他のマニュアル式チェンジ装置により作動される。
【0017】
前記クランク軸2の右端と変速機Mの入力軸10の右端とは,クランクケース1及びミッションケース8外で互いに直列関係に接続される変速クラッチCc,トルクコンバータT及び1次減速装置14を介して相互に連結される。その際,特に,変速クラッチCc,トルクコンバータT及び1次減速装置14の駆動ギヤ14aはクランク軸2上に,クランクケース1の右側壁側から外方に向かって駆動ギヤ14a,トルクコンバータT及び変速クラッチCcの順で取付けられる。そしてこれらを覆う右サイドカバー15aがクランクケース1及びミッションケース8の右端面に接合される。
【0018】
またクランク軸2の左端には,発電機16のロータ17が固着され,それのステータ18は,発電機16を覆ってクランクケース1の左端面に接合される左サイドカバー15bに取付けられる。
【0019】
変速機Mの出力軸11の左端には,ミッションケース8外で,自動二輪車の後輪(図示せず)を駆動するチェーン式の最終減速装置19が連結される。
【0020】
図1及び図2に示すように,変速クラッチCcは,クランク軸2にスプライン結合される駆動板25と,この駆動板25の外側面に一体に突設された支持筒26に摺動可能に支承される有底円筒状のクラッチアウタ27とを備える。駆動板25は,クラッチアウタ27の端壁に隣接して配置されると共に,その外周がクラッチアウタ27の内周にスプライン結合される。クラッチアウタ27内にはクラッチインナ28が同軸状に配置され,クラッチアウタ27の円筒部内周に摺動可能にスプライン係合した複数枚の環状の駆動摩擦板29と,クラッチインナ28の外周に摺動可能に係合した複数枚の環状の被動摩擦板30とが交互に積層配置される。その際,これら摩擦板29,30群の内,外側に2枚の駆動摩擦板29,29が配置され,その外側の駆動摩擦板29の外側面に対面する受圧環31がクラッチアウタ27の円筒部内周に係止される。
【0021】
両側の駆動摩擦板29,29間に,これらを離間方向に付勢する離間ばね32が縮設される。また内側の被動摩擦板30には,クラッチインナ28の外周に突設されたフランジ28aが対置される。
【0022】
駆動板25には,複数個の遠心重錘33がピボット34により揺動自在に取付けられ,各遠心重錘33の押圧腕部33aが内側の駆動摩擦板29を押圧し得るように配置される。また駆動板25の支持筒26には,クラッチアウタ27の外方(図2では右方)への摺動限を規定するストッパ35が設けられ,このストッパ35に向けてクラッチアウタ27を付勢するクラッチばね36が駆動板25及びクラッチアウタ27間に装着される。
【0023】
クラッチインナ28は,公知の逆負荷伝達用ねじ機構37を介して環状の伝動部材38が連結され,この伝動部材38は,トルクコンバータTのポンプ羽根車50のボス50a外周にスプライン結合される。
【0024】
クラッチアウタ27は,その外側面に突出したボス27aを有しており,このボス27aに,レリーズベアリング39を介してレリーズカム40が取付けられる。このレリーズカム40には,右サイドカバー15aに調節ボルト41を介して取付けられる固定カム42が対置され,この固定カム42に付設されたボール43が,レリーズカム40の凹部40aに係合される。
【0025】
またレリーズカム40は,変速に先立って作動されるクラッチアーム(図示せず)によって回動されるようになっている。
【0026】
同じく図1及び図2に示すように,トルクコンバータTは,従来普通のように互いに対向するように配置されるポンプ羽根車50及びタービン羽根車51と,これら羽根車50,51間に介入するように配置されるステータ羽根車52とを備え,そのポンプ羽根車50は,そのボス50aの外周側が前記伝動部材38にスプライン結合され,そのボス50aの内周側がボールベアリング53を介してクランク軸2の外周面に回転自在に支承される。
【0027】
タービン羽根車51は,ポンプ羽根車50よりクランクケース1側に配置され,そのボス51aに固着されてクランクケース1側に突出する筒状のタービン軸60は,クランク軸2の外周に同心状に配置される。
【0028】
またステータ羽根車52のボス52aは,それ自体がボールベアリング54を介してクランク軸2に回転自在に支承される。またそのボス52aには,タービン軸60を貫通しながらクランク軸2の外周面に相対回転自在に嵌合される筒状のステータ軸55の内端部がスプライン結合され,その外端部は,クランクケース1に近接するようにタービン軸60外に突出していて,ボールベアリング56を介してクランク軸2に支承される。そして,このステータ軸55の外端部とクランクケース1との間にフリーホイール57が介裝される。
【0029】
上記ステータ軸55の外周面において,タービン軸60の内端部及び外端部がボールベアリング58及びニードルベアリング59を介して回転自在に支承される。
【0030】
前記フリーホイール57は,ステータ軸55の外端部にその外径より大径に形成されたカップ状のアウタレース85と,このアウタレース85内でクランク軸2に軸受ブッシュ86を介して相対回転自在に支承されるインナレース87と,これら両レース85,87間に介裝されるスプラグ88とから構成される。インナレース87は,これを固定すべく一端に突設した固定アーム87aを隣接するクランクケース1外壁に形成された係止溝89に係合させている。スプラグ88は,アウタレース85がポンプ羽根車50の回転方向と反対方向へ回転しようとすると,該アウタレース85をインナレース87にロックするが,該アウタレース85がポンプ羽根車50の回転方向と同方向に回転することは許容するようになっている。
【0031】
上記固定アーム87aの半径方向内側において,オイルポンプ駆動ギヤ90がクランク軸2にキー結合され,このギヤ90によって後述のオイルポンプ67が駆動される。
【0032】
ポンプ羽根車50に連設されてタービン羽根車51を囲繞するポンプ延長部50bには,タービン羽根車51の外側を覆うトルクコンバータサイドカバー61が油密に結合され,このトルクコンバータサイドカバー61とタービン軸60との間に,タービン軸60からトルクコンバータサイドカバー61への逆負荷トルクのみを伝達する一方向クラッチ62が介裝される。
【0033】
タービン軸60の外端部には駆動ギヤ14aが一体に形成され,これに噛合する被動ギヤ14bが変速機Mの入力軸10にスプライン結合される。こうして構成される1次減速装置14は,フリーホイール57とトルクコンバータTとの間に配置される。
【0034】
またクランク軸2には,その右端面に開口する上流供給油路65aと,コンロッド6の大端部を支持するクランクピン外周のニードルベアリング49に連通する下流供給油路65bとが設けられ,上流供給油路65aには,前記オイルポンプ駆動ギヤ90により駆動されるオイルポンプ67が油溜め68から吸い上げたオイルを,右サイドカバー15aに形成された油路65を通して圧送するようになっている。油溜め68は,クランクケース1,ミッションケース8及び右サイドカバー15aの底部に形成されるものである。
【0035】
クランク軸2には,また,上流供給油路65a及び下流供給油路65b間を仕切る隔壁69が設けられ,上流供給油路65aには,これを更に上流側と下流側とに二分する仕切り栓70が圧入される。
【0036】
前記変速クラッチCcにおいて,支持筒26内には,その開放面を蓋体44で閉塞して油室45が画成され,この油室45は通孔71を介してクラッチインナ28の内周側に連通される。また上記油室45は,クランク軸2に穿設された流入孔72及び流出孔73を介して上流供給油路65aの上流側及び下流側に連通される。
【0037】
ステータ羽根車52のボス52aの右側には,前記ボールベアリング54の右端面が臨む第1小油室75,左側には前記ボールベアリング54の左端面が臨む第2小油室76がそれぞれ設けられ,第1小油室75は,ポンプ羽根車50及びタービン羽根車51間の油室に連通すると共に,クランク軸2に穿設された流入孔77を介して上流供給油路65aの下流側に連通し,第2小油室76は,タービン羽根車51及びステータ羽根車52間の油室に連通すると共に,ボス52aの通孔74と,クランク軸2に穿設された流出孔78とを介して下流供給油路65bに連通する。
【0038】
次に,この実施例の作用について説明する。
【0039】
先ず,変速クラッチCcの作用の説明から始めると,エンジンEのアイドリング時には,クランク軸2と共に回転する駆動板25の回転数が低く,遠心重錘33の重錘部の遠心力が小さいので,押圧腕部33aの駆動摩擦板29に対する押圧力も小さい。このため,両側の駆動摩擦板29,29は,離間ばね32の付勢力で離間していて,被動摩擦板30を解放しており,変速クラッチCcはオフ状態となっている。したがってオフ状態の変速クラッチCcは,クランク軸2からトルクコンバータTへの動力伝達を遮断するので,車輪ブレーキを作動せずとも,トルクコンバータTのクリープ現象による車両の微速前進を防ぐことができる。
【0040】
エンジンEの回転数が所定値以上に上昇すると,それに伴い遠心重錘33の重錘部の遠心力が増大して,その押圧腕部33aが駆動及び被動摩擦板29,30群を受圧環31に対して強く押圧して,駆動及び被動摩擦板29,30間を摩擦係合させるので,変速クラッチCcは自動的にオン状態となり,クランク軸2の動力をクラッチインナ28から伝動部材38を介してトルクコンバータTへと伝達する。
【0041】
遠心重錘33の駆動及び被動摩擦板29,30群に対する押圧力がクラッチばね36のセット荷重を超えると,クラッチアウタ27がクラッチばね36を撓ませながら図2で左方へ変位する。しかもその後,遠心重錘33は,クラッチアウタ27に設けられたストッパリング47に受け止められ,それ以上の外方揺動を阻止されるようになっており,駆動及び被動摩擦板29,30相互の圧接力は,クラッチばね36の荷重以上には増加しない。
【0042】
変速機Mの切換の際,それに先立って,図示しないクラッチレバーによりレリーズカム40を回動すると,該レリーズカム40は,その凹部40aから固定カム42のボール43を押し出し,そのときの反力によりレリーズベアリング39を介してクラッチアウタ27を図で左方へクラッチばね36の荷重に抗して押動し,受圧環31を駆動及び被動摩擦板29,30群から離間させる。一方,遠心重錘33は,前述のようにストッパリング47により外方揺動を阻止され,押圧腕部33aが駆動及び被動摩擦板29,30群に対するそれまでの押圧位置で止まることになるから,各駆動及び被動摩擦板29,30間が確実に離間し,変速クラッチCcはオフ状態となる。
【0043】
この状態では,クランク軸2の駆動トルクに影響されることなく,変速機Mの切換えを軽快に行うことができる。
【0044】
変速機Mの切換え後,クラッチアームによりレリーズカム40を当初の位置に戻せば,変速クラッチCcはクラッチばね36の付勢力と,持続される遠心重錘33の遠心力との協働によりオン状態に復帰し,クランク軸2の駆動トルクをトルクコンバータTに伝達する。
【0045】
次に,トルクコンバータTの作用の説明に移る。
【0046】
エンジンEにより駆動されるオイルポンプ67がオイルを油路65を通して上流供給油路65aに供給されると,そのオイルは流入孔72から油室45に入り,そこから通孔71と流出孔73とに分流し,通孔71を通過したオイルは変速クラッチCcの摩擦部や摺動部に供給されて,その冷却や潤滑に寄与する。
【0047】
一方,流出孔73を通過したオイルは,上流供給油路65aの下流側を通り,流入孔77から第1小油室75を経てポンプ羽根車50及びタービン羽根車51間の油室を満たし,第2小油室76,通孔74及び流出孔78を経て下流供給油路65bへと流れていき,エンジンE各部の潤滑に供される。
【0048】
而して, クランク軸2の出力トルクがオン状態の変速クラッチCcを介してポンプ羽根車50に伝達されると,そのトルクは,トルクコンバータT内を満たしたオイルの作用によりタービン羽根車51に流体的に伝達される。このとき,両羽根車50,51間でトルクの増幅作用が生じていれば,それに伴う反力はステータ羽根車52に負担され,ステータ羽根車52は,フリーホイール57のロック作用によりクランクケース1に固定的に支持される。またタービン羽根車51の回転速度がポンプ羽根車50に回転速度に近づき,カップリング状態になると,ステータ羽根車52は,フリーホイール57の空転作用により,ポンプ羽根車50及びタービン羽根車51と共に回転して,カップリング状態の伝動効率を高める。
【0049】
ポンプ羽根車50からタービン羽根車51に伝達されたトルクは1次減速装置14を介して変速機Mの入力軸10に伝達され,そして確立を選択された変速ギヤ列G1〜G4,出力軸11及び最終減速装置19を順次経て図示しない後輪へと伝達され,それを駆動する。
【0050】
走行中のエンジンブレーキ時には,タービン軸60に逆負荷トルクが加わることにより,一方向クラッチ62が接続状態となって,その逆負荷トルクをポンプ延長部50bからポンプ羽根車50,伝動部材38へと伝達される。逆負荷トルクが伝動部材38に伝達されると,変速クラッチCcでは,ねじ機構37の作動によりクラッチインナ28が図2で左方へ押動され,そのフランジ28aが,内側の駆動摩擦板29を残して駆動及び被動摩擦板29,30群を受圧環31に対して押圧するので,変速クラッチCcはオン状態となる。したがって,上記逆負荷トルクはクランク軸2に伝達され,良好なエンジンブレーキ効果が得られる。
【0051】
ところで,ステータ羽根車52を固定構造体であるクランクケース1に連結するフリーホイール57は,タービン軸60を貫通してその軸外に突出したステータ軸55の外端部と,それに隣接するクランクケース1との間に介裝されるので,ステータ軸55の内端部は単にステータ羽根車52のボス52aに連結すればよく,したがってフリーホイール57の存在に関係なくステータ羽根車52の小径化,延いてはトルクコンバータT全体の小径化を図ることができる。またステータ羽根車52のボス52aは,フリーホイール57の存在に拘らず,ベアリング54を介してクランク軸2に安定よく支承させることが可能となる。しかも上記ベアリング54は,ボス52aの両側の第1及び第2小油室75,76に両端面を臨ませているので,これを常に良好な潤滑状態に置くことができる。
【0052】
またステータ羽根車52に連結されたステータ軸55は,ステータ羽根車52がポンプ羽根車50及びタービン羽根車51と共に回転するカップリング状態では,クランク軸2及びタービン軸60と略同速度で回転することになるから,これら三軸2,55,60各間の相対回転速度差は極めて小さく,各軸間のベアリング54,56,58,59の負荷が軽減して,それらの耐久性向上をも図ることができる。
【0053】
ポンプ羽根車50よりクランクケース1側に配置されるタービン羽根車51には,クランクケース1側に突出するタービン軸60が固着され,このタービン軸60の外端部に,タービン羽根車51及びフリーホイール57間に位置する1次減速装置14の駆動ギヤ14aが形成されるので,その駆動ギヤ14aを,フリーホイール57との干渉を避けつゝクランクケース1に極力近接して配置することが可能となり,したがって1次減速装置14の作動中,その駆動ギヤ14aがクランク軸2に及ぼす曲げモーメントを小さく抑えて,クランク軸2の耐久性を高めることができる。
【0054】
さらにフリーホイール57は,クランク軸2にベアリング56を介して支承されるステータ軸55の外端部に形成されるアウタレース85と,クランク軸2に相対回転自在に支承され且つクランクケース1に回転不能に連結されるインナレース87と,これら両レース85,87間に介裝されるスプラグ88とで構成されるので,アウタレース85及びインナレース87は,共にクランク軸2に支承されることになり,それらに高い同心精度を付与して,フリーホイール57の安定した作動を確保することができる。
【0055】
本発明は上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。各部のベアリングの形式は,ボール,ニードル,ブッシュ等,自由に選定することができる。またクランク軸2に上流供給油路65a及び下流供給油路65b間を連通するオリフィスを設けて,上流供給油路65a内のオイルの一部がオリフィスから下流供給油路65bへ直接移るようにしてもよい。
【0056】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば,タービン羽根車をポンプ羽根車よりクランクケース側に配置して,このタービン羽根車に一体的に結合したタービン軸を,これがトルクコンバータサイドカバーを液密に貫通してクランクケース側に延出するように配設し,ステータ羽根車自体をクランク軸に第1ベアリングを介して支承し,またこのステータ羽根車に直接連結したステータ軸をクランク軸に第2ベアリングを介して支承すると共に,このステータ軸を,その先端部が前記タービン軸を貫通してその軸外に突出するように配設し,このステータ軸の先端部を,クランクケースに隣接するフリーホイールを介してクランクケースに連結したので,フリーホイールの存在に関係なくステータ羽根車の小径化,延いてはトルクコンバータ全体の小径化を図ることができる。
【0057】
しかも,ステータ軸の先端部を,フリーホイールを介してクランクケースに連結して,トルクコンバータのカップリング状態では,該フリーホイールの空転作用によりクランク軸及び前記タービン軸が略同速度で回転するようにしたので,ステータ羽根車に連結したステータ軸は,ステータ羽根車がポンプ羽根車及びタービン羽根車と共に回転するカップリング状態では,クランク軸及びタービン軸と略同速度で回転することになり,クランク軸,タービン軸及びステータ軸の各隣接軸間の相対回転速度差は極めて小さく,各軸間の第1〜第3ベアリングの負荷が軽減して,それらの耐久性向上をも図ることができる。特に,ステータ羽根車は,それ自体をクランク軸に第1ベアリングを介して支承したことで,クランク軸2に安定よく支承させることが可能となる。
【0058】
さらにタービン軸の外端部に固設される駆動ギヤをクランクケースに隣接するフリーホイールに隣接配置したので,駆動ギヤを,フリーホイールとの干渉を避けつゝケースに極力近接して配置することが可能となり,したがって駆動ギヤの作動中,その駆動ギヤがクランク軸に及ぼす曲げモーメントを小さく抑えて,クランク軸の耐久性を高めることができる。
【0059】
また本発明の第2の特徴によれば,第1の特徴に加えて,ステータ羽根車に,前記第1ベアリングの一端部及び他端部がそれぞれ臨む第1及び第2小油室を形成し,その第1小油室は,ポンプ羽根車及びタービン羽根車間の油室と,オイルポンプの吐出側に連なる上流供給油路に連通し,また第2小油室は,タービン羽根車及びステータ羽根車間の油室と,それより下流側に位置する下流供給油路とに連通したので,トルクコンバータに出入りするオイルにより,第1ベアリングを良好な潤滑状態に置くことができる。
【0060】
さらに本発明の第3の特徴によれば,ステータ軸をクランク軸に相対回転自在に支承し,このステータ軸の先端部に形成されるアウタレースと,クランク軸に相対回転自在に支承され且つクランクケースに回転不能に連結されるインナレースと,これら両レース間に介裝されるスプラグとでフリーホイールを構成したので,共にクランク軸に支承されるアウタレース及びインナレースに高い同心精度を付与し得て,フリーホイールの作動を常に安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例を示す自動二輪車用パワーユニットの縦断平面図。
【図2】 上記パワーユニットにおける変速クラッチ及びトルクコンバータ周辺部の拡大縦断面図。
【符号の説明】
E・・・・・エンジン
T・・・・・トルクコンバータ
1・・・・・クランクケース
2・・・・・クランク軸
10・・・・変速機入力軸
14・・・・1次減速装置
14a・・・駆動ギヤ
50・・・・ポンプ羽根車
51・・・・タービン羽根車
52・・・・ステータ羽根車
54・・・・第1ベアリング(ボールベアリング)
55・・・・ステータ軸
56・・・・第2ベアリング(ボールベアリング)
57・・・・フリーホイール
58,59・・・・第3ベアリング(ボールベアリング,ニードルベアリング)
60・・・・タービン軸
61・・・・トルクコンバータサイドカバー
65a・・・上流供給油路
65b・・・下流供給油路
67・・・・オイルポンプ
75・・・・第1小油室
76・・・・第2小油室
85・・・・アウタレース
87・・・・インナレース
88・・・・スプラグ
Claims (3)
- エンジン(E)のクランクケース(1)に支承されるクランク軸(2)に,前記クランクケース(1)の外で連結されるポンプ羽根車(50)と,このポンプ羽根車(50)に対向して配設されるタービン羽根車(51)と,これらポンプ羽根車(50)及びタービン羽根車(51)の内周部間に配置されるステータ羽根車(52),このステータ羽根車(52)及びクランクケース(1)間に介裝され,ポンプ羽根車(50)及びタービン羽根車(51)間でのトルク増幅時,それに伴う反力をステータ羽根車(52)に負担させるべく該ステータ羽根車(52)をロックさせるフリーホイール(57)と,ポンプ羽根車(50)に連設されてタービン羽根車51の外側を覆うトルクコンバータサイドカバー(61)とからなるトルクコンバータにおいて,
タービン羽根車(51)をポンプ羽根車(50)よりクランクケース(1)側に配置して,このタービン羽根車(51)に一体的に結合したタービン軸(60)を,これがトルクコンバータサイドカバー(61)を液密に貫通してクランクケース(1)側に延出するように配設し,
ステータ羽根車(52)自体をクランク軸(2)に第1ベアリング(54)を介して支承し,またこのステータ羽根車(52)に直接連結したステータ軸(55)をクランク軸(2)に第2ベアリング(56)を介して支承すると共に,このステータ軸(55)を,その先端部が前記タービン軸(60)を貫通してその軸外に突出するように配設し,
このステータ軸(55)の先端部を,クランクケース(1)に隣接するフリーホイール(57)を介してクランクケース(1)に連結して,トルクコンバータ(T)のカップリング状態では,該フリーホイール(57)の空転作用によりクランク軸(2)及び前記タービン軸(60)が略同速度で回転するようにし,
前記タービン軸(60)を第3ベアリング(58,59)を介してステータ軸(55)に支承すると共に,このタービン軸(60)の外端部に固設される駆動ギヤ(14a)を前記フリーホイール(57)に隣接配置したことを特徴とするトルクコンバータ。 - 請求項1記載のトルクコンバータにおいて,
ステータ羽根車(52)に,前記第1ベアリング(54)の一端部及び他端部がそれぞれ臨む第1及び第2小油室(75,76)を形成し,その第1小油室(75)は,ポンプ羽根車(50)及びタービン羽根車(51)間の油室と,オイルポンプ(67)の吐出側に連なる上流供給油路(65a)に連通し,また第2小油室(76)は,タービン羽根車(51)及びステータ羽根車(52)間の油室と,それより下流側に位置する下流供給油路(65b)とに連通したことを特徴とするトルクコンバータ。 - 請求項1又は2記載のトルクコンバータにおいて,
ステータ軸(55)をクランク軸(2)に相対回転自在に支承し,このステータ軸(55)の先端部に形成されるアウタレース(85)と,クランク軸(2)に相対回転自在に支承され且つケース(1)に回転不能に連結されるインナレース(87)と,これら両レース(85,87)間に介裝されるスプラグ(88)とでフリーホイール(57)を構成したことを特徴とするトルクコンバータ。
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