本発明は、希土類磁石、特に表面上に保護層が形成された希土類磁石及びその製造方法に関するものである。
近年、25MGOe以上の高エネルギー積を示す永久磁石として、いわゆる希土類磁石(R−Fe−B系磁石;Rはネオジム(Nd)などの希土類元素を示す。以下、同様。)が開発されている。このような希土類磁石としては、例えば、特許文献1では焼結により形成されるものが、また特許文献2では高速急冷により形成されるものが開示されている。
この希土類磁石は高エネルギー積を示すものの、主成分として比較的容易に酸化される希土類元素及び鉄を含有するため耐食性が比較的低い。
このような希土類磁石の耐食性を改善することを目的として、保護層を形成することが提案されている。この中でも、特許文献3では、希土類磁石を酸化性雰囲気下にて200〜500℃で加熱することで、保護層を形成することが提案されている。
特開昭59−46008号公報
特開昭60−9852号公報
特開平5−226129号公報
しかしながら、上記特許文献3には、酸化性雰囲気下において特定の温度で保護層を形成することが提案されてはいるものの、かかる文献には保護層を形成する際の条件をどのように調整するのかが具体的には開示されていない。そのため、希土類磁石を酸化性雰囲気下で熱処理した場合、希土類磁石の腐食を防止するための満足な保護層は形成できず、耐蝕試験において粉ふきや重量減少が生じるという問題があった。
そこで、本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、十分な耐食性を有する希土類磁石及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、十分な耐食性を有する希土類磁石を得るために鋭意研究した結果、酸化性雰囲気下において希土類磁石を熱処理して保護層を形成する場合に、希土類磁石の表面上に形成する酸化膜の構成を指標とすることで、希土類磁石の過度の腐食を抑制できると共に、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の希土類磁石の製造方法は、希土類元素を含有する磁石素体を熱処理して、当該磁石素体の表面上に保護層を形成する希土類磁石の製造方法であって、磁石素体を覆い希土類元素を含有する第一の層及び当該第一の層を覆い希土類元素を実質的に含有しない第二の層を保護層が有するように、酸化性ガスを含有する酸化性雰囲気中で、酸化性ガス分圧、処理温度及び処理時間のうちの少なくとも1つの条件を調整して、磁石素体を熱処理することを特徴とする。なお、素体を加工する場合、熱処理される磁石素体は、実用形状に加工した後のものである。
また、本発明の希土類磁石は、希土類元素を含有する磁石素体と、当該磁石素体の表面上に形成された保護層とを備え、保護層が、磁石素体を覆い希土類元素を含有する第一の層及び当該第一の層を覆い希土類元素を実質的に含有しない第二の層を有するように、酸化性ガスを含有する酸化性雰囲気中で、酸化性ガス分圧、処理温度及び処理時間のうちの少なくとも1つの条件を調整して、磁石素体を熱処理することで形成されたものであることを特徴とする。
上記本発明の製造方法によれば、希土類磁石の表面上に形成する酸化膜の構成を指標とし、磁石素体を酸化性雰囲気下で熱処理する際の酸化性ガス分圧、処理温度及び処理時間のうちの少なくとも1つの条件を調整することで、希土類磁石が腐食し易い酸化性雰囲気において過度の腐食の発生を抑制できると共に、十分な耐食性を有する希土類磁石を得ることができる。
また、本発明の製造方法によれば、非常に簡易に且つ低コストで保護層を形成することができ、さらに均一な膜厚の保護層を形成でき、寸法精度に優れる希土類磁石を製造することができる。
また、本発明の製造方法においては、酸化性ガス分圧、処理温度及び処理時間を調整して磁石素体を熱処理することが好ましい。上記3つの条件を調整することで、より容易で確実に、十分な耐食性を有する希土類磁石を得ることができる。
本発明の製造方法により得られる希土類磁石が十分な耐食性を有する理由について、本発明者らは、以下のように推察している。すなわち、希土類磁石は、その構成元素として希土類元素を含有している。かかる希土類元素は、非常に酸化されやすく、酸性溶液に溶出しやすい。これに対し、本発明の製造方法により得られる希土類磁石は、保護層が磁石素体を覆い希土類元素を含有する第一の層、及び、当該第一の層を覆い希土類元素を実質的に含有しない第二の層を有するようになる。このように希土類磁石の表面が、希土類元素を実質的に含有しない第二の層によって覆われるため、保護層の安定性が向上し、これにより耐食性が向上するものと考えられる。また、上記特定の構成の保護層は、緻密な構成を有するようになるため、これによっても保護層の安定性が向上して耐食性が向上するものと考えられる。
また、本発明の他の希土類磁石の製造方法は、希土類元素を含有する磁石素体を熱処理して、当該磁石素体の表面上に保護層を形成する希土類磁石の製造方法であって、磁石素体を覆い希土類元素を含有する第一の層及び当該第一の層を覆い当該第一の層よりも希土類元素の含有量が少ない第二の層を保護層が有するように、酸化性ガスを含有する酸化性雰囲気中で、酸化性ガス分圧、処理温度及び処理時間のうちの少なくとも1つの条件を調整して、磁石素体を熱処理することを特徴としてもよい。このような製造方法によっても、十分な耐食性を有する希土類磁石を得ることができる。
このような製造方法により得られた希土類磁石は、希土類元素を含有する磁石素体と、当該磁石素体の表面上に形成された保護層とを備え、保護層が、磁石素体を覆い希土類元素を含有する第一の層及び当該第一の層を覆い当該第一の層よりも希土類元素の含有量が少ない第二の層を保護層が有するように、酸化性ガスを含有する酸化性雰囲気中で、酸化性ガス分圧、処理温度及び処理時間のうちの少なくとも1つの条件を調整して、磁石素体を熱処理することで形成されたものとなる。
上記製造方法により得られる希土類磁石が十分な耐食性を有する理由について、本発明者らは、以下のように推察している。すなわち、希土類磁石は、その構成元素として希土類元素を含有している。かかる希土類元素は、非常に酸化されやすく、酸性溶液に溶出しやすい。これに対し、本発明の製造方法により得られる希土類磁石は、保護層が磁石素体を覆い希土類元素を含有する第一の層、及び、当該第一の層を覆い第一の層よりも希土類元素の含有量が少ない第二の層を有するようになる。このように希土類磁石の表面が、第一の層よりも希土類元素の含有量が少ない第二の層によって覆われるため、保護層の安定性が向上し、これにより耐食性が向上するものと考えられる。また、上記特定の構成の保護層は、緻密な構成を有するようになるため、これによっても保護層の安定性が向上して耐食性が向上するものと考えられる。
上記本発明の製造方法においては、磁石素体を、熱処理の前段において酸洗浄することが好ましい。上述した熱処理の前段において、磁石素体を酸洗浄しておくことで、磁石素体の製造時又は製造後に磁石素体表面上に形成する加工による変質層や酸化層を除去できることから、所望の酸化膜をより精度よく形成することができる。
また、本発明の製造方法においては、酸化性雰囲気を、水蒸気分圧が10〜2000hPaである水蒸気雰囲気とすることが好ましい。こうすれば、上述した第一及び第二の層が良好に形成され、希土類磁石の耐食性が更に向上するようになる。
さらに、本発明の製造方法においては、上記処理時間を1分〜24時間とするとより好ましい。こうすれば、上述した第一及び第二の層が良好に形成されるようになるほか、熱処理等による磁石素体の特性劣化も極めて生じ難くなる。
また、本発明の希土類磁石は、希土類元素を含有する磁石素体と、当該磁石素体の表面上に形成された保護層とを備え、保護層が、酸素及び磁石素体由来の元素を含有し、磁石素体を覆い希土類元素を含有する第一の層及び当該第一の層を覆い希土類元素を実質的に含有しない第二の層を有することを特徴とする。
このような本発明の希土類磁石は、希土類元素を含有する磁石素体と、当該磁石素体の表面上に形成された保護層とを備え、保護層が、酸素及び前記磁石素体の主相を構成する元素を含有し、磁石素体を覆い希土類元素を含有する第一の層及び当該第一の層を覆い希土類元素を実質的に含有しない第二の層を有することを特徴とするものであってもよい。
上記本発明の希土類磁石は、十分に優れた耐食性を有するものであり、保護層の膜厚が均一であり、寸法精度に優れている。また、本発明の希土類磁石は、上記特定の保護層が形成されていることから、製造時及び使用時における性能の劣化が抑制され、製造された磁石の信頼性を向上させることが可能となる。
また、本発明の希土類磁石においては、磁石素体が、希土類元素及び希土類元素以外の遷移元素を含有し、第一の層が、酸素、希土類元素及び希土類元素以外の遷移元素を含有し、第二の層が、酸素及び希土類元素以外の遷移元素を含有し、且つ希土類元素を実質的に含有しないことが好ましい。また、本発明の希土類磁石においては、かかる希土類元素がネオジムであり、第二の層がネオジムを実質的に含有しないことが好ましい。さらに、かかる希土類元素以外の遷移元素としては、鉄及び/又はコバルトが好ましい。
さらに、本発明の希土類磁石は、希土類元素を含有する磁石素体と、当該磁石素体の表面上に形成された保護層とを備え、保護層が、酸素及び磁石素体由来の元素を含有し、磁石素体を覆い希土類元素を含有する第一の層及び当該第一の層を覆い当該第一の層よりも希土類元素の含有量が少ない第二の層を有することを特徴としてもよい。
また、希土類元素を含有する磁石素体と、当該磁石素体の表面上に形成された保護層とを備え、保護層が、酸素及び磁石素体の主相を構成する元素を含有し、磁石素体を覆い希土類元素を含有する第一の層及び当該第一の層を覆い当該第一の層よりも希土類元素の含有量が少ない第二の層を有することを特徴とするものであってもよい。これらの希土類磁石は、上述した本発明の希土類磁石と同様、十分に優れた耐食性を有するものであり、保護層の膜厚が均一であり、寸法精度に優れている。
これらの希土類磁石においても、磁石素体が、希土類元素及び希土類元素以外の遷移元素を含有し、第一の層が、酸素、希土類元素及び希土類元素以外の遷移元素を含有し、第二の層が、酸素及び希土類元素以外の遷移元素を含有し、且つ第一の層よりも希土類元素の含有量が少ないことが好ましい。特に、希土類元素がネオジムであり、前記第二の層が前記第一の層よりもネオジムの含有量が少ないことがより好ましい。
また、本発明の希土類磁石においては、第一の層と前記第二の層との総膜厚(第一の層の膜厚と第二の層の膜厚との合計)は、0.1〜20μmであることが好ましい。
さらに、本発明の他の希土類磁石の製造方法は、希土類元素を含有する磁石素体を熱処理して、当該磁石素体の表面上に保護層を形成する希土類磁石の製造方法であって、磁石素体を酸洗浄する酸洗浄工程と、酸洗浄後の磁石素体を、酸化性ガスを含有する酸化性雰囲気中で熱処理する熱処理工程とを有することを特徴としてもよい。このような熱処理工程は、酸洗浄工程に続いて実施することが好ましく、酸洗浄の直後に実施することがより好ましい。
このような酸洗浄工程を行うことで、磁石素体表面が有する多数の凹凸や酸化層、加工変質層を除去してその表面を清浄にできる。これにより、酸洗浄後の熱処理工程において所望の酸化膜をより精度よく形成することができる。
特に、酸洗浄工程において、焼結後、未加工の部分を含む磁石素体を酸洗浄する場合、焼結時に磁石素体の内部から表面に染み出したまた残存することが多い希土類リッチ層を除去することができる。このため、所望の酸化膜を形成するのに特に効果的である。
本発明によれば、十分に優れた耐食性を有する希土類磁石及びその製造方法を提供することができる。
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
図1は、本発明の希土類磁石の一実施形態を示す模式斜視図であり、図2は図1の希土類磁石をI−I線により切断した際に現れる断面を模式的に表した図である。図1、2に示すように、本実施形態の希土類磁石1は磁石素体3と、この磁石素体3の表面の全体を被覆して形成される保護層5とから構成されるものである。
(磁石素体)
磁石素体3は、希土類元素を含有する永久磁石である。この場合、希土類元素とは、長周期型周期表の第3族に属するスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)及びランタノイド元素のことをいう。なお、ランタノイド元素には、例えば、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビニウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)等が含まれる。
磁石素体3の構成材料としては、上記希土類元素と、希土類元素以外の遷移元素とを組み合わせて含有させたものが例示できる。この場合、希土類元素としては、Nd、Sm、Dy、Pr、Ho及びTbからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素が好ましく、これらの元素にLa、Ce、Gd、Er、Eu、Tm、Yb及びYからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を更に含有したものであるとより好適である。
また、希土類元素以外の遷移元素としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素が好ましく、Fe及び/又はCoがより好ましい。
より具体的には、磁石素体3の構成材料としては、R−Fe−B系やR−Co系のものが例示できる。前者の構成材料においては、RとしてはNdを主成分とした希土類元素が好ましく、また後者の構成材料においては、RとしてはSmを主成分とした希土類元素が好ましい。
磁石素体3の構成材料としては、特に、R−Fe−B系の構成材料が好ましい。このような材料は実質的に正方晶系の結晶構造の主相を有しており、また、この主相の粒界部分に希土類元素の配合割合が高い希土類リッチ相、及び、ホウ素原子の配合割合が高いホウ素リッチ相を有している。これらの希土類リッチ相及びホウ素リッチ相は磁性を有していない非磁性相であり、このような非磁性相は通常、磁石構成材料中に0.5〜50体積%含有されている。また、主相の粒径は、通常1〜100μm程度である。
このようなR−Fe−B系の構成材料においては、希土類元素の含有量が8〜40原子%であると好ましい。希土類元素の含有量が8原子%未満である場合、主相の結晶構造がα鉄とほぼ同じ結晶構造となり、保持力(iHc)が小さくなる傾向にある。一方、40原子%を超えると希土類リッチ相が過度に形成されてしまい、残留磁束密度(Br)が小さくなる傾向にある。
また、Feの含有量は42〜90原子%であると好ましい。Feの含有量が42原子%未満であると残留磁束密度が小さくなり、また、90原子%を超えると保持力が小さくなる傾向にある。さらに、Bの含有量は2〜28原子%であると好ましい。Bの含有量が2原子%未満であると菱面体構造が形成されやすく、これにより保持力が小さくなる傾向にあり、28原子%を超えると、ホウ素リッチ相が過度に形成されて、これにより残留磁束密度が小さくなる傾向にある。
上述した構成材料においては、R−Fe−B系におけるFeの一部が、Coで置換されていてもよい。このようにFeの一部をCoで置換すると、磁気特性を低下させることなく温度特性を向上させることができる。この場合、Coの置換量は、Feの含有量よりも大きくならない程度とすることが望ましい。Co含有量がFe含有量を超えると、磁石素体3の磁気特性が小さくなる傾向にある。
また上記構成材料におけるBの一部は、炭素(C)、リン(P)、硫黄(S)又は銅(Cu)等の元素により置換されていてもよい。このようにBの一部を置換することによって、磁石素体の製造が容易となるほか、製造コストの低減も図れるようになる。このとき、これらの元素の置換量は、磁気特性に実質的に影響しない量とすることが望ましく、構成原子総量に対して4原子%以下とすることが好ましい。
さらに、保持力の向上や製造コストの低減等を図る観点から、上記構成に加え、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ビスマス(Bi)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、アンチモン(Sb)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、銅(Cu)、ハフニウム(Hf)等の元素を添加してもよい。これらの添加量も磁気特性に影響を及ぼさない範囲とすることが好ましく、構成原子の総量に対して10原子%以下とすることが好ましい。また、その他、不可避的に混入する成分としては、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、カルシウム(Ca)等が考えられる。これらは構成原子の総量に対して3原子%程度以下の量で含有されていても構わない。
このような構成を有する磁石素体3は、粉末冶金法によって製造することができる。この方法においては、まず鋳造法やストリップキャスト法等の公知の合金製造プロセスにより所望の組成を有する合金を作製する。次に、この合金をジョークラッシャー、ブラウンミル、スタンプミル等の粗粉砕機を用いて10〜100μmの粒径となるように粉砕した後、更にジェットミル、アトライター等の微粉砕機により0.5〜5μmの粒径となるようにする。こうして得られた粉末を、好ましくは600kA/m以上の磁場強度を有する磁場のなかで、0.5〜5t/cm2の圧力で成形する。
その後、得られた成形体を、好ましくは不活性ガス雰囲気又は真空中、1000〜1200℃で0.5〜10時間焼結させた後に急冷する。さらに、この焼結体に、不活性ガス雰囲気又は真空中、500〜900℃で1〜5時間の熱処理を施し、必要に応じて焼結体を所望の形状(実用形状)に加工して、磁石素体3を得る。
このようにして得られた磁石素体3には、さらに酸洗浄が施されることが好ましい。すなわち、後述する熱処理の前段において磁石素体3の表面に対して酸洗浄が施されることが好ましい。
酸洗浄で使用する酸としては、硝酸が好ましい。一般の鋼材にメッキ処理を施す場合、塩酸、硫酸等の非酸化性の酸が用いられることが多い。しかし、本実施形態での磁石素体3のように、磁石素体3が希土類元素を含む場合には、これらの酸を用いて処理を行うと、酸により発生する水素が磁石素体3の表面に吸蔵され、吸蔵部位が脆化して多量の粉状未溶解物が発生する。この粉状未溶解物は、表面処理後の面粗れ、欠陥、密着不良等を引き起こすため、上述した非酸化性の酸を酸洗浄処理液に含有させないことが好ましい。したがって、水素の発生が少ない酸化性の酸である硝酸を用いることが好ましい。
このような酸洗浄による磁石素体3の表面の溶解量は、表面から平均厚みで5μm以上、好ましくは10〜15μmとするのが好適である。磁石素体3の表面の加工による変質層や酸化層を完全に除去することで、後述する熱処理により、所望の酸化膜をより精度よく形成することができる。
酸洗浄に用いられる処理液の硝酸濃度は、好ましくは1規定以下、特に好ましくは0.5規定以下である。硝酸濃度が高すぎると、磁石素体3の溶解速度が極めて速く、溶解量の制御が困難となり、特にバレル処理のような大量処理ではバラツキが大きくなり、製品の寸法精度の維持が困難となる傾向がある。また、硝酸濃度が低すぎると、溶解量が不足する傾向がある。このため、硝酸濃度は1規定以下とすることが好ましく、特に0.5〜0.05規定とすることが好ましい。また、処理終了時のFeの溶解量は、1〜10g/l程度とする。
酸洗浄を行った磁石素体3には、その表面から少量の未溶解物、残留酸成分を完全に除去するために、超音波を使用した洗浄を実施することが好ましい。この超音波洗浄は、磁石素体3の表面に錆を発生させる塩素イオンが極めて少ない純水中で行うのが好ましい。また、上記超音波洗浄の前後、及び酸洗浄の各過程で必要に応じて同様な水洗を行ってもよい。
(保護層)
保護層5は、磁石素体3由来の元素及び酸素を含有し、磁石素体3を覆い希土類元素を含有する第一の層5aと、当該第一の層5aを覆い希土類元素を実質的に含有しない第二の層5bとを有する。ここで、磁石素体3由来の元素とは、磁石素体3の構成材料であり、少なくとも希土類元素及び希土類元素以外の遷移元素が含まれ、さらにB、Bi、Si、Alなどが含まれる場合がある。保護層5は、磁石素体3上に塗ったり貼ったりなどしたものではなく、磁石素体3自体が酸化するなどして変化することで、磁石素体3上に現れる元素からなる。そのため、保護層5には磁石素体を構成しない新たな金属元素は含まれないが、酸素、窒素などの非金属元素が含まれる場合がある。
第一の層5aは、希土類元素を始めとする磁石素体3由来の元素及び酸素を含有し、より具体的には、酸素、希土類元素及び希土類元素以外の遷移元素を含有する。磁石素体3の構成材料がR−Fe−B系のものである場合には、遷移元素はFeを主成分とするものであり、その構成材料の組成によりCoなどを含んでいてもよい。
また、第二の層5bは、磁石素体3由来の元素及び酸素を含有するが、希土類元素を実質的に含有しない。より具体的には、第二の層5bは、酸素及び希土類元素以外の遷移元素を含有する。磁石素体3の構成材料がR−Fe−B系のものである場合には、遷移元素はFeを主成分とするものであり、その構成材料の組成によりCoなどを含んでいてもよい。
第一の層5a及び第二の層5bの各構成材料の含有量は、EPMA(X線マイクロアナライザー法)、XPS(X線光電子分光法)、AES(オージェ電子分光法)又はEDS(エネルギー分散型蛍光X線分光法)等の公知の組成分析法を用いて確認することができる。
ここで、希土類元素を実質的に含有しない態様としては、上述したEPMA、XPS、AES又はEDSにより希土類元素が検出されない態様が考えられる。
保護層5は、酸化性ガスを含有する酸化性雰囲気中で、保護層5が上述した構成となるように、酸化性ガス分圧、処理温度及び処理時間のうちの少なくとも1つの条件を調整して、磁石素体3を熱処理(加熱)することによって形成される。なお、かかる熱処理の際には、酸化性ガス分圧、処理温度及び処理時間の3つの条件を調整することが好ましい。
ここで、酸化性雰囲気とは、酸化性ガスを含有する雰囲気であれば特に限定されないが、例えば、大気、酸素雰囲気(好ましくは酸素分圧調整雰囲気)、水蒸気雰囲気(好ましくは水蒸気分圧調整雰囲気)等の酸化が促進される雰囲気である。また、酸化性ガスとしては、特に限定されないが、酸素、水蒸気等が挙げられる。例えば、酸素雰囲気とは、酸素濃度が0.1%以上の雰囲気であり、その雰囲気には、酸素と共に不活性ガスが共存している。かかる不活性ガスとしては窒素が挙げられる。つまり、酸素雰囲気の態様としては酸素と不活性ガスとからなる雰囲気がある。また、例えば、水蒸気雰囲気とは水蒸気分圧が10hPa以上の雰囲気であり、その雰囲気には、水蒸気と共に不活性ガスが共存している。かかる不活性ガスとしては窒素が挙げられ、水蒸気雰囲気の態様としては水蒸気と不活性ガスとからなる雰囲気がある。酸化性雰囲気を水蒸気雰囲気とすることで、より簡易に保護層を形成することができることから好ましい。さらに、酸化性雰囲気としては、酸素、水蒸気及び不活性ガスを含む雰囲気も挙げられる。
上記条件を調整する際には、先ず、保護層5の構成と、酸化性ガス分圧、処理温度及び処理時間のうちの少なくとも1つの条件との相関を求める。次に、その相関に基づき、保護層5が、上記特定の構成となるように、熱処理の際に、酸化性ガス分圧、処理温度及び処理時間のうちの少なくとも1つの条件を調整する。
このとき、処理温度は、200〜550℃の範囲から調整されることが好ましく、250〜500℃の範囲から調整されることがより好ましい。処理温度が上記上限値を超えると、磁気特性が劣化する傾向があり、他方、上記下限値未満であると、所望の酸化膜を形成することが困難となる傾向がある。
また、処理時間は、1分〜24時間の範囲から調整されることが好ましく、5分〜10時間の範囲から調整されることがより好ましい。処理時間が上記上限値を超えると、磁気特性が劣化する傾向があり、他方、上記下限値未満であると、所望の酸化膜を形成することが困難となる傾向がある。
ここで、酸化性雰囲気が水蒸気雰囲気である場合には、先ず、保護層5の構成と、水蒸気分圧、処理温度及び処理時間との相関を求める。次に、その相関に基づき、保護層5が、上記特定の構成となるように、熱処理の際に、水蒸気分圧、処理温度及び処理時間のうちの少なくとも1つの条件を調整する。
この場合、処理温度及び処理時間は、上述した範囲内から調整されることが好ましい。また、水蒸気分圧は、10〜2000hPaの範囲から調整されることが好ましい。水蒸気分圧が10hPa未満であると、保護層5が上述したような2層構造になり難い傾向にある。一方、2000hPaを超える場合は、高圧であるため装置構成が複雑となるほか、結露等が生じ易くなる等、作業性が悪くなる傾向にある。
また、第一の層5aと第二の層5bとの総膜厚は、0.1μmよりも大きいことが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。この総膜厚が0.1μm以下であると2層構造を有する保護層の形成が困難となる傾向にある。一方、第一の層5aと第二の層5bとの総膜厚は、20μm未満であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。この総膜厚が20μm以上であると、酸化膜の形成が困難となったり、磁気特性が低下したりする傾向にある。
また、第二の層5bの膜厚は、5nm以上であることが好ましい。この膜厚が5nm未満であると、膜厚が薄くなり過ぎるため、腐食の抑制効果が不十分となる傾向がある。
以上、好適な実施形態に係る希土類磁石1及びその製造方法について説明したが、本発明の希土類磁石及びその製造方法は、上述した実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を行ってもよい。
まず、上述した実施形態においては、保護層5として第一及び第二の層5a,5bを形成したが、必ずしもこのような2層構造の保護層を形成する必要はなく、例えば、熱処理により一層構造の酸化膜からなる保護層を形成してもよい。特に、上述したように熱処理の前段において酸洗浄する場合には、このような一層構造の保護層であっても十分な耐食性が得られる傾向にある。
また、上記実施形態のように2層構造の保護層を形成する場合には、希土類元素を含む第二の層を形成してもよい。但し、この場合、保護層による耐食性を十分に確保するために、第二の層は、第一の層よりも希土類元素の含有量が少ないことが必要である。特に、第二の層の希土類元素の含有量が、第一の層の希土類元素の含有量の半分以下であると好ましく、第二の層中の希土類元素の含有量が1質量%以下であるとより好ましい。このような構成とすれば、第二の層が希土類元素を含む場合であっても、十分な耐食性が得られるようになる。
さらに、上述した実施形態では、熱処理前の酸洗浄は、焼結体を所望の形状(実用形状)に加工して得られた磁石素体に対して行ったが、必ずしもこれに限定されず、得られた焼結体そのままの状態、すなわち、未加工状態の磁石素体3、あるいは未加工状態の表面を含む磁石素体3に対して行ってもよい。未加工部分は、焼結時に磁石素体の内部から染み出し易い希土類リッチ相が加工により除去されておらず、その表面に希土類リッチ相が残存したままであり、腐食されやすい傾向にある。そこで、この未加工面に酸洗浄を行うことによって、これらの除去が可能となり、加工面に対するのと同様に表面を清浄化できる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
粉末冶金法により、組成が14.7Nd−77.6Fe−1.6Co−6.1B(数字は原子百分率を表す。)である鋳塊を作製し、これを粗粉砕した。その後、不活性ガスによるジェットミル粉砕を行って、平均粒径約3.5μmの微粉末を得た。得られた微粉末を金型内に充填し、磁場中で成形した。次いで、真空中で焼結後、熱処理を施して焼結体を得た。得られた焼結体を20mm×10mm×2mmの寸法に切り出し加工し、さらにバレル研磨を施し、実用形状に加工した磁石素体を得た。
次に、得られた磁石素体を2%HNO3水溶液中に2分間浸漬し、その後超音波水洗を施した。
上記のように酸洗浄(酸処理)を施した磁石素体を、水蒸気分圧475hPaの窒素雰囲気中、450℃で10分間の熱処理を行い、保護層を形成して希土類磁石を得た。
上記のようにして磁石素体の表面上に保護層が形成した希土類磁石の破断面に、集束イオンビーム加工装置を用いて加工断面を作製し、表面近傍の膜構造を走査型電子顕微鏡で観察した。なお、走査型電子顕微鏡には、日立製作所社製のS−4700を使用した。得られた電子顕微鏡写真を図3に、図3の電子顕微鏡写真の一部を拡大した写真を図4に示す。
図3及び4において白色の層は分析用の白金−パラジウム膜であり、その白色の層の下側であって希土類磁石の最表面に平均膜厚100nmの第二の層が形成していることが確認された。また、第二の層の下側には平均膜厚3μmの第一の層が形成していることが確認された。また、図3からもわかるように、第一の層は磁石素体上に形成しており、第二の層は第一の層上に形成していることが確認された。
次に、この希土類磁石を集束イオンビーム加工装置を用いて薄片化し、表面近傍の膜構造を透過型電子顕微鏡(日本電子製のJEM-3010)で観察し、第一の層及び第二の層に含まれる元素を、EDS(Noraan Instruments社製のVoyagerIII)により分析した。その結果、第一の層からは主な成分としてNd,Fe,Oが検出され、最表面層の第二の層からはFe,Oが検出され、Ndは検出されなかった。
また、得られた希土類磁石について、プレッシャー・クッカー・テストを行った。試験条件は、120℃、0.2MPa、100%RHの環境下に100時間放置とした。その結果、試験による外観上の変化は認められず、また試験前後における磁束の変化も認められなかった。
さらに、得られた希土類磁石を着磁した後、0.2%の水を添加した市販のハイブリッド自動車用オートマティック・トランスミッション・フルード(ATF)に浸漬し、150℃で1000時間放置する試験を行った(ATF浸漬試験)。そして、試験後の磁石を再度着磁して磁束を測定したところ、試験前に対して1.0%の磁束劣化が見られた。
(実施例2)
熱処理を、酸素濃度7%の酸化性雰囲気下、350℃で13分行ったこと以外は、実施例1と同様にして保護層を有する希土類磁石を製造した。
得られた希土類磁石を実施例1と同様にして観察した結果、磁石素体の表面上に、平均膜厚が0.9μmである第一の層、及び、平均膜厚が60nmである第二の層をこの順に備える保護層が形成されていることが確認された。この保護層を実施例1と同様にして分析した結果、第一の層からは、主な成分としてNd,Fe,Oが検出され、第二の層からはFe,Oが検出され、Ndは検出されなかった。
また、得られた希土類磁石について、実施例1と同様にしてプレッシャー・クッカー・テストを行ったところ、希土類磁石の磁束劣化は0.2%と極めて小さいことが確認された。
(実施例3)
熱処理を、酸素濃度7%の酸化性雰囲気下、390℃で7分行ったこと以外は、実施例1と同様にして保護層を有する希土類磁石を製造した。
得られた希土類磁石を実施例1と同様にして観察した結果、磁石素体の表面上に、平均膜厚が1μmである第一の層、及び、平均膜厚が70nmである第二の層をこの順に備える保護層が形成されていることが確認された。この保護層を実施例1と同様にして分析した結果、第一の層からは、主な成分としてNd,Fe,Oが検出され、第二の層からはFe,Oが検出され、Ndは検出されなかった。
また、得られた希土類磁石について、実施例1と同様にしてプレッシャー・クッカー・テストを行ったところ、希土類磁石の磁束劣化は0.3%と極めて小さいことが確認された。
(実施例4)
熱処理を、酸素濃度0.5%の酸化性雰囲気下、410℃で10分行ったこと以外は、実施例1と同様にして保護層を有する希土類磁石を製造した。
得られた希土類磁石を実施例1と同様にして観察した結果、磁石素体の表面上に、平均膜厚が1.5μmである第一の層、及び、平均膜厚が50nmである第二の層をこの順に備える保護層が形成されていることが確認された。この保護層を実施例1と同様にして分析した結果、第一の層からは、主な成分としてNd,Fe,Oが検出され、第二の層からはFe,Oが検出され、Ndは検出されなかった。
また、得られた希土類磁石について、実施例1と同様にしてプレッシャー・クッカー・テストを行ったところ、希土類磁石の磁束劣化は0.3%と極めて小さいことが確認された。
(実施例5)
熱処理を、酸素濃度21%の酸化性雰囲気下、410℃で10分行ったこと以外は、実施例1と同様にして保護層を有する希土類磁石を製造した。
得られた希土類磁石を実施例1と同様にして観察した結果、磁石素体の表面上に、平均膜厚が2.1μmである第一の層、及び、平均膜厚が100nmである第二の層をこの順に備える保護層が形成されていることが確認された。この保護層を実施例1と同様にして分析した結果、第一の層からは、主な成分としてNd,Fe,Oが検出され、第二の層からはFe,Oが検出され、Ndは検出されなかった。
また、得られた希土類磁石について、実施例1と同様にしてプレッシャー・クッカー・テストを行ったところ、希土類磁石の磁束劣化は0.2%と極めて小さいことが確認された。
(実施例6)
熱処理を、酸素濃度7%の酸化性雰囲気下、500℃で10分行ったこと以外は、実施例1と同様にして保護層を有する希土類磁石を製造した。
得られた希土類磁石を実施例1と同様にして観察した結果、磁石素体の表面上に、平均膜厚が5μmである第一の層、及び、平均膜厚が300nmである第二の層をこの順に備える保護層が形成されていることが確認された。この保護層を実施例1と同様にして分析した結果、第一の層からは、主な成分としてNd,Fe,Oが検出され、第二の層からはFe,Oが検出され、Ndは検出されなかった。
また、得られた希土類磁石について、実施例1と同様にしてプレッシャー・クッカー・テストを行ったところ、希土類磁石の磁束劣化は0.3%と極めて小さいことが確認された。
(実施例7)
熱処理を、酸素濃度0.5%、水蒸気分圧74hPaの酸化性雰囲気下、390℃で10分行ったこと以外は、実施例1と同様にして保護層を有する希土類磁石を製造した。
得られた希土類磁石を実施例1と同様にして観察した結果、磁石素体の表面上に、平均膜厚が1.7μmである第一の層、及び、平均膜厚が100nmである第二の層をこの順に備える保護層が形成されていることが確認された。この保護層を実施例1と同様にして分析した結果、第一の層からは、主な成分としてNd,Fe,Oが検出され、第二の層からはFe,Oが検出され、Ndは検出されなかった。
また、得られた希土類磁石について、実施例1と同様にしてプレッシャー・クッカー・テストを行ったところ、希土類磁石の磁束劣化は0.2%と極めて小さいことが確認された。
(実施例8)
熱処理を、酸素濃度0.5%、水蒸気分圧12hPaの酸化性雰囲気下、390℃で10分行ったこと以外は、実施例1と同様にして保護層を有する希土類磁石を製造した。
得られた希土類磁石を実施例1と同様にして観察した結果、磁石素体の表面上に、平均膜厚が1.4μmである第一の層、及び、平均膜厚が80nmである第二の層をこの順に備える保護層が形成されていることが確認された。この保護層を実施例1と同様にして分析した結果、第一の層からは、主な成分としてNd,Fe,Oが検出され、第二の層からはFe,Oが検出され、Ndは検出されなかった。
また、得られた希土類磁石について、実施例1と同様にしてプレッシャー・クッカー・テストを行ったところ、希土類磁石の磁束劣化は0.2%と極めて小さいことが確認された。
(実施例9)
熱処理を、水蒸気分圧2000hPaの酸化性雰囲気下、400℃で10分行ったこと以外は、実施例1と同様にして保護層を有する希土類磁石を製造した。
得られた希土類磁石を実施例1と同様にして観察した結果、磁石素体の表面上に、平均膜厚が1.8μmである第一の層、及び、平均膜厚が120nmである第二の層をこの順に備える保護層が形成されていることが確認された。この保護層を実施例1と同様にして分析した結果、第一の層からは、主な成分としてNd,Fe,Oが検出され、第二の層からはFe,Oが検出され、Ndは検出されなかった。
また、得られた希土類磁石について、実施例1と同様にしてプレッシャー・クッカー・テストを行ったところ、希土類磁石の磁束劣化は0.3%と極めて小さいことが確認された。
(実施例10)
熱処理を、酸素濃度7%の酸化性雰囲気下、330℃で10分行ったこと以外は、実施例1と同様にして保護層を有する希土類磁石を製造した。
得られた希土類磁石における表面近傍の構造を、オージェ電子分光法による深さ方向分析により解析した。なお、オージェ電子分光には、アルバック・ファイ社製SAM680を使用した。その結果、表面から16nmの深さまではFe、Oを含みNdが検出されない第二の層が形成されており、この第二の層の下側0.4μmには、Nd,Fe,Oを含む第一の層が形成されていることが確認された。
また、得られた希土類磁石について、実施例1と同様にしてプレッシャー・クッカー・テストを行ったところ、希土類磁石の磁束劣化は0.2%と極めて小さいことが確認された。
(実施例11)
熱処理を、酸素濃度21%の酸化性雰囲気下、290℃で10分行ったこと以外は、実施例1と同様にして保護層を有する希土類磁石を製造した。
得られた希土類磁石における表面近傍の膜構造を、実施例10と同様の方法により解析した。その結果、表面から10nmの深さまではFe、Oを含みNdが検出されない第二の層が形成されており、この第二の層の下側0.1μmには、Nd,Fe,Oを含む第一の層が形成されていることが確認された。
また、得られた希土類磁石について、実施例1と同様にしてプレッシャー・クッカー・テストを行ったところ、希土類磁石の磁束劣化は0.3%と極めて小さいことが確認された。
(実施例12)
粉末冶金法により、組成が14.7Nd−77.6Fe−1.6Co−6.1B(数字は原子百分率を表す。)である鋳塊を作製し、これを粗粉砕した。その後、不活性ガスによるジェットミル粉砕を行って、平均粒径約3.5μmの微粉末を得た。得られた微粉末を金型内に充填し、磁場中で成形した。次いで、真空中で焼結後、熱処理を施して70mm×15mm×6mmの寸法の磁石素体を得た。
次に、得られた磁石素体を、機械加工を施さずに、2%HNO3水溶液中に2分間浸漬し、その後超音波水洗を施した。
上記のように酸洗浄(酸処理)を施した磁石素体を、大気中、400℃10分間で熱処理を行い、保護層を形成して希土類磁石を得た。
得られた希土類磁石を、実施例1と同様にして観察したところ、磁石素体の表面上に1.5μmの酸化被膜が形成されていることが分かった。
また、得られた希土類磁石について、実施例1と同様にしてプレッシャー・クッカー・テストを行ったところ、試験による外観上の変化は認められず、試験後の磁束劣化は0.1%と極めて小さいことが確認された。
(比較例1)
実施例1と同様にして磁石素体を作製した後、この磁石素体に2%HNO3水溶液による酸洗浄を施した。
この磁石素体を、実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡で観察した。得られた電子顕微鏡写真を図5に、図5の電子顕微鏡写真の一部を拡大した写真を図6に示す。図5及び6において白色の層は分析用の白金−パラジウム膜であり、その白色の層の下側には磁石素体が確認された。
次に、得られた磁石素体に対して、水蒸気雰囲気中における熱処理を行わずに、実施例1と同様にしてプレッシャー・クッカー・テストを行った。その結果、外観が銀色から黒色に変化するとともに、2.1%の磁束劣化が確認された。
また、得られた磁石素体を着磁した後、実施例1と同様のATF浸漬試験を行い、試験後の磁石を再度着磁して磁束を測定したところ、この比較例1の磁石では、試験前と比較して7.5%の磁束劣化が見られた。このように、実施例1の磁石ではATF浸漬試験前後で1.0%の磁束劣化しか見られなかったのに対し、比較例1の磁石では7.5%の磁束劣化が見られ、かかる磁石は、ATF浸漬試験後の磁束劣化が極めて大きいことが確認された。
(比較例2)
熱処理を、酸素濃度7.0%、水蒸気分圧0.5hPaの酸化性雰囲気下、200℃で10分行ったこと以外は、実施例1と同様にして保護層を有する希土類磁石を製造した。
得られた希土類磁石を実施例1と同様にして観察した結果、磁石素体の表面上に、平均膜厚が20nmである単一の層のみからなる保護層が形成されていることが確認された。この保護層を実施例1と同様にして分析した結果、主な成分としてNd,Fe,Oが検出された。
また、得られた希土類磁石について、実施例1と同様にしてプレッシャー・クッカー・テストを行ったところ、希土類磁石の磁束劣化は0.4%であることが確認された。
さらに、得られた磁石素体を着磁した後、実施例1と同様のATF浸漬試験を行い、試験後の磁石を再度着磁して磁束を測定したところ、この比較例1の磁石では、試験前と比較して4.7%の磁束劣化が見られた。このように、実施例1の磁石ではATF浸漬試験前後で1.0%の磁束劣化しか見られなかったのに対し、比較例2の磁石では4.7%の磁束劣化が見られ、かかる磁石は、ATF浸漬試験後の磁束劣化が極めて大きいことが確認された。
本発明の希土類磁石の一実施形態を示す概略斜視図である。
本発明の希土類磁石の一実施形態を示す概略断面図である。
実施例1の希土類磁石の電子顕微鏡写真である。
図3の一部を拡大した電子顕微鏡写真である。
比較例1の希土類磁石の電子顕微鏡写真である。
図5の一部を拡大した電子顕微鏡写真である。
符号の説明
1…希土類磁石、3…磁石素体、5…保護層、5a…第一の層、5b…第二の層。