JP3973703B2 - 医療用複室容器 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、2種以上の医薬液を互いに隔離された別々の収容室で保存し、使用時には隔離部を破断し各室間を連通することによって該複数の医薬液をクローズドの状態で混合するに適した医療用複室容器に関する。
【0002】
【従来の技術】
医療分野では複数の薬剤成分を混合した状態で生体内に投与することはごく一般的であるが、混合する薬剤成分の組み合わせによっては次のような方法が採られる。
【0003】
例えば輸液の場合、アミノ酸とブドウ糖とを含む液はメイラード反応による変質が起こりやすいので、各成分を別々の閉鎖系に保存しておき、患者に投与する直前に混合することが多いが、この際混合操作を無菌的に(クローズドシステムで)行うために、また操作を容易に行うために、複数の収容室に区画された容器を用い、該収容室の各々に異なる輸液を保存しておき、使用直前に区画された収容室を何らかの手段を用いてクローズドシステム内で連通させ混合する方法が実用化されるようになった。
【0004】
収容室の区画手段としては、使用直前までは安定に成分輸液を隔離でき、使用時(混合時)には容易に連通させ得ることが大切であり、種々の形態が提案されている。
【0005】
代表的なものとしては、
▲1▼ (特開昭53−38189号、特開昭57−123149号、特開昭61−103823号、特開平1−160558号など)のように収容室間を外側からクランプで狭窄するもの
▲2▼ (実開昭57−76636号など)のように収容室間を容器外に露出したチューブで連結し、該チューブをクランプで狭窄するもの
▲3▼ (特開昭57−52455号、特表昭58−501855号、特開昭63−11161号、特開平3−238647号、特表昭61−500055号、特開昭63−309263号、特開昭63−317481号など)のように収容室間に使用時連通可能な連通具を持つもの
▲4▼ (特表昭61−500055号、特開昭63−19149号(特公平6−26563号)、特開昭63−309263号、特開平1−240469号、特開平2−4671号、特開平2−57584号、特開平2−241457号、特開平2−255418号、特開平4−242647号、特開平5−31153号、特開平5−68702号など)のように収容室間の隔壁部のシールを比較的安定でかつ混合時には容易に破断できる程度の接着強度としたものである。
【0006】
これらのうちでは操作が最も容易で実用性があるのは、▲4▼のいわゆるイージーピーラブルタイプの複室容器であり、近年目立って提案が多くなっている。
【0007】
このタイプの技術的ポイントは収容室間の隔壁シールは製造時あるいは輸送時には破断が起こりにくく、使用時(混合時)には手、治具などで容易に破断できる程度のシール強度を示すこと、かつ外界(大気)とつながる境界部の破断強度が十分に大きいことにある。
【0008】
従って相対する内壁面の材質の選定が最重要であり、ミクロ層分離型の材質例えばポリエチレンとポリプロピレンとの混合物、ポリエチレンと架橋ポリエチレンとの混合物などが一般に使われる(これらはシール部の破断時にいわゆる凝集剥離を起こすタイプである)。
【0009】
しかしながら、問題なのはこれらが輸液容器としての材料性能すなわち安全性、柔軟性、透明性、耐熱性(耐高圧蒸気滅菌性)、外観などを満たすか否か、また生産性に対する支障がないか否かである。
【0010】
例えばポリエチレンとポリプロピレンとの混合物は透明性が十分でないので医療用液の汚れ等の確認が困難であり、またポリエチレンと架橋ポリエチレンとの混合物はゲル状物が発生しやすいため、生産性に劣る。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の如きイージーピール型医療用複室容器につきものの材質の問題の解消を課題としてなされたものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、アイソタクチックタイプの結晶性ホモポリマーを主成分とする曲げ弾性率が6000〜9000kg/cm2の結晶性ポリプロピレンランダムコポリマー(A)とエチレン−α−オレフィンコポリマー系エラストマーである密度0.879〜0.90g/cm3 のエチレン−ブテン−1コポリマー(B)との重合体組成物を内壁面とする医薬液容器であって、該医薬液容器は、相対する内壁面の一部に設けられた破断可能な弱シールによって複数の収容室に区画されている医療用複室容器である。
【0013】
本発明において、ポリプロピレン系ポリマー(以下PPと称す)(A)は通常の立体規則性構造のポリプロピレンすなわちアイソタクチックもしくはシンジオタクチックタイプの結晶性ホモポリマーまたはこれらを主成分とする結晶性コポリマーであるが、透明性や柔軟性(低曲げ弾性率)という点でコポリマー特にランダムコポリマーが有利である。
【0014】
コモノマーとしてはエチレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、デセン−1、ドデセン−1、4−メチルペンテン−1など炭素原子数2〜12のα−オレフィン類がよく、コモノマー量は5〜40モル%程度、より好ましくは8〜35モル%程度が適当である。
【0015】
ここでJISK7203によるPPの曲げ弾性率は10,000kg/cm2以下であるのが好ましい。曲げ弾性率が10,000kg/cm2 を超えると、エチレン−α−オレフィンコポリマー(B)との重合体組成物の剛性が必然的に高くなり、プラスチック輸液容器の特徴である、点滴時に通気針がなくても排液されるいわゆる自己排液性が損われやすいからである。好ましい曲げ弾性率は9,000kg/cm2 以下、より好ましくは8,000kg/cm2 以下である。
【0016】
また、耐熱性の点からPPはJISK7206によるビカット軟化点が100℃以上であるのが好ましい。
【0017】
そして成形性、成形物(容器シート)の力学的性質などを考慮すると、温度230℃、荷重2,160gにおけるMFR(メルトフローレイト)が0.3〜20、より好ましくは0.5〜10のものがよい。
【0018】
次に本発明において、エチレン−α−オレフィンコポリマー系エラストマー(以下TPEと称す)(B)はエチレンとプロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1などのα−オレフィン類とのコポリマーのうち非晶性もしくは低結晶性の軟質ポリマー(エラストマー)を意味し、密度0.90g/cm3 以下でビカット軟化点が50〜70℃以下で、エチレン含有量が25〜75重量%程度のものが選ばれる。
【0019】
TPE(B)は上記PP(A)と適度に相溶してミクロ層分離構造を形成し、イージーピール性を発現させる。また、PP(A)の透明性を保ったまま柔軟にする働きを有している。
【0020】
そして、TPEは成形性、成形物の力学的性質などを考慮すると、温度230℃、荷重2,160gにおけるMFRが0.5〜15、より好ましくは1〜10程度であるのがよい。
【0021】
本発明の医療用複室容器の内壁面を形成するのは(A)と(B)との重合体組成物であるのは冒頭に示した通りであり、一般には該重合体組成物は(A)と(B)との重量比が50:50〜90:10、より好ましくは65:35〜85:15であるのがよい。この範囲で重合体組成物はイージーピール性が良好となりやすい。
【0022】
(A)が多いと剛性が高くなり容器の柔軟性が低下し、(A)が少いと重合体組成物の耐熱性が低下する傾向にあることに注意する必要がある。
【0023】
また、本発明の医療用複室容器は内壁面が(A)と(B)との重合体組成物であり、
▲1▼ (A)と(B)との重合体組成物のシート単独からなる場合と、
▲2▼ (A)と(B)との重合体組成物を内層(容器の内壁面)とし、他のポリマー(または他の重合体組成物)を外層あるいは中間層とする多層シートの場合がある。
【0024】
▲2▼では容器の水蒸気、酸素などのガスバリアー性、透明性、柔軟性、耐熱性、強度などの要求性能に応じて他のポリマー(または他の重合体組成物)が使われるが、具体的に好ましい代表例は次の通りである。
【0025】
(イ)ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、4−メチルペンテン−1などのα−オレフィン類を共重合成分とする密度0.91〜0.930g/cm3 の線状密度ポリエチレン。
【0026】
(ロ)結晶性ポリプロピレンまたはこれを主成分とする結晶性ポリプロピレン系コポリマー。ただし、これらは一般に剛性が高いので薄層として用いることが好ましい。
【0027】
(ハ)(ロ)とアモルファスポリプロピレン(アタクチックポリプロピレン)、ポリスチレン−エチレンブチレンコポリマー−ポリスチレン型のブロックコポリマーもしくはポリスチレン−エチレンプロピレンコポリマー−ポリスチレン型ブロックコポリマーとの重合体組成物。
【0028】
本発明の医療用複室容器を形成するシートの厚さは全体で0.2〜0.6mm、より好ましくは0.25〜0.45mmで、複層の場合(前述の▲2▼の場合)、(A)と(B)との重合体組成物層は0.01mm以上、好ましくは0.02mm以上であるのがよい。
【0029】
本発明の複室容器は通常公知の方法で製造される。すなわち、単層用あるいは多層用のTダイまたはサーキュラーダイを介して押出し(溶融温度は160〜230℃、さらに好ましくは170〜210℃)、得られたフラット状のシート、チューブ状のシート、パリソンなどについてサーモフォーミング、ブロー、延伸(熱シール性を考慮すると無延伸の方がよいが)、裁断、融着などの手法を適宜活用して所定の形状・形態に加工すればよい。
【0030】
複室容器の作製で最も重要なポイントは熱シールの工程である。すなわち、
▲1▼ 複数の収容室間の仕切り(隔壁部のシールは製造時あるいは輸送時は破断が起こりにくく、使用時(混合時)には、手、治具などで容易に破断できる程度のシール強度(一般には180°剥離強度が0.5〜1.3kg/15mm程度)すなわち弱シール性を示し、
▲2▼ 外界と接する部分のシール(周縁シール)は通常の輸送・使用時にかかる力では容易には破断できない程度のシール強度(180°剥離強度が1.5kg/15mm以上、より好ましくは2kg/15mm以上)であることが要求されるため、仕切り部シールと周縁シールの条件のコントロールが大切である。
【0031】
本発明の容器の場合、仕切り部シールは温度100〜150℃、圧力1〜4kg/cm2 、時間0.2〜5秒、シール幅2〜10mm、周縁シールは温度120〜200℃、圧力2〜5kg/cm2 、時間0.2〜10秒、シール幅5mm以上の範囲で行うのが通常である。
【0032】
また収容室の数は2〜4個が一般的である。
【0033】
また、(A)と(B)との重合体組成物の調製は通常公知の単軸もしくは2軸の溶融混合押出機や静的溶融混合機を利用して行うことができる。混合時の溶融温度は160〜220℃の範囲が好ましい。
【0034】
なお、本発明の趣旨を損なわない範囲で、(A)と(B)との重合体組成物にさらにスチレン系エラストマーやオレフィン系エラストマーを添加することもさしつかえない。
【0035】
また、シート間のブロッキングを防ぐために容器の内面や外面を粗面化すること、アンチブロッキング剤やスリップ剤を添加することもあり得る。
【0036】
本発明の複室容器はアミノ酸液とブドウ糖液の組み合わせの如く、混合時に変質の起こりやすい薬剤の組み合わせに有効であり、輸液のみならず血液分野にも適用され得る。
【0037】
【実施例】
以下実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。(実施例1〜4、比較例1)
1.実験方法
(1)原料ポリマーの準備:使用した原料ポリマーを表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
(2) 重合体組成物の調製:表1のPP(A1 、A2 )、TPE(B1 、B2 )、アモルファスポリプロピレンを原料とし、45mmφの2軸溶融混練押出機を用いて、所定の割合で150〜180℃の温度範囲で混練し、押出されたストランドを水冷・カッティング・乾燥して表2に示すペレット状重合体組成物を得た。
【0040】
【表2】
【0041】
(3) シートの作製:単層用または多層用のサーキュラーダイ(インフレダイ)から180〜200℃でチューブラー状のシートを押出し、冷水リングで冷却後、厚さ0.28mm、折径200mmのシートを5m/分の速度で巻き取った。
【0042】
(4)複室容器の作製:▲3▼で得られたシートを300mm長に裁断し、中央部の幅5mmを温度110℃(ただし比較例1は130℃)、圧力2kg/cm2 、時間5秒の条件で熱シール後、片方の室にアミノ酸3wt%含有水溶液、もう一方の室にブドウ糖15wt%含有水溶液各400mlを入れ、両端を幅10mm、温度160℃(ただし、比較例1は180℃)、圧力4kg/cm2 、時間5秒の条件で熱シールし、区画室が2個の薬液入り複室容器を作製した。
【0043】
(5)高圧蒸気滅菌:▲4▼の容器をレトルト型高圧蒸気滅菌機に入れ、窒素雰囲気中で温度110℃、ゲージ圧1.8kg/cm2 、時間30分の条件において滅菌し、室温まで冷却した。
【0044】
(6)容器の透明性の評価:▲5▼の容器を窒素雰囲気中で48時間放置した後、容器シートの一部を切り取って、波長450nmにおける水中透過率を島津ダブルビーム型自記分光光度計UV−300にて測定し、透明性の尺度とした。
【0045】
(7)容器の柔軟性の評価:▲5▼の容器のシートをダンベル状に裁断し、JISK7113に準じて引張弾性率を測定し、柔軟性との尺度とした。
【0046】
(8)シール強度の測定:▲5▼の容器の中央部(仕切り部)および端部(周縁部)のシール部を切り取り、300mm/分の速度で180°剥離強度を測定した(表3中の剥離強度は15mm幅に換算した値である)。
【0047】
(9)容器の仕切り部の破断性(連通性)の評価:▲5▼のシートを机の上に寝かせて置き、一方の収容室側を手で押さえる程度で仕切り部のシールが破断するか否か確認した(各例につき5回テスト)。
【0048】
(10)重金属および溶出物試験:日本薬局方一般試験法「輸液用プラスチック容器試験法」に準じ、▲3▼で得られたシートについて試験を行った。
【0049】
2.実験結果(表3参照)
(1)重合体組成物の調製およびシートの作製:いずれも順調で、異物、発泡、ブロッキングなどは観察されず、均一性に富む重合体組成物ペレットおよびシートがいずれの場合も得られた。
【0050】
(2)重金属および溶出物試験結果:いずれの組成においても重金属および溶出物は日本薬局方の「輸液用プラスチック容器試験法」に適合することが確認された。
【0051】
(3)透明性および柔軟性:表3にシートの構成と高圧蒸気滅菌後の透明性(水中透過率)、柔軟性(引張弾性率)およびシール強度を示す。
【0052】
本発明における重合体組成物を使用した容器はいずれも透明性と柔軟性に優れていることがわかる。一方、通常のポリエチレンをPPと組合せても透明性、柔軟性に劣るのは明らかである。
【0053】
【表3】
【0054】
(4)容器の仕切り部の破断性(連通性):いずれも(比較例を含めて)良好であり、容易に連通させることができた(表3のシール強度もこれを裏付けている)。
【0055】
【発明の効果】
以上詳細した如く、本発明の医療用複室容器はポリプロピレン系ポリマー(A)とエチレン−α−オレフィンコポリマー系エラストマー(B)との適度の相溶性を巧みに利用したものであり、複室容器としての性能を満たすのはもちろん、透明性や柔軟性も発現しやすく、生産性にも優れるので、医療分野に大きく貢献するものと期待される。
Claims (2)
- アイソタクチックタイプの結晶性ホモポリマーを主成分とする曲げ弾性率が6000〜9000kg/cm2の結晶性ポリプロピレンランダムコポリマー(A)とエチレン−α−オレフィンコポリマー系エラストマーである密度0.879〜0.90g/cm3 のエチレン−ブテン−1コポリマー(B)との重合体組成物を内壁面とする医薬液容器であって、該医薬液容器は、相対する内壁面の一部に設けられた破断可能な弱シールによって複数の収容室に区画されていることを特徴とする医療用複室容器。
- 前記重合体組成物における前記(A)と前記(B)との重量比が、65:35〜85:15である請求項1に記載の医療用複室容器。
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