感熱記録(サーマル)方式の画像記録装置は、装置の構成がシンプルで小型化・軽量化・低価格化に有利であり、記録音が静かで消費電力も小さいといった長所を有しており、各種のプリンタやファックスなどを始めとして様々な記録用途に幅広く使用されている。
この感熱記録方式に用いられるサーマルヘッドは、例えばラインヘッドであれば、絶縁性基板上に抵抗発熱体をライン状に形成した発熱部と、各抵抗発熱体に接続された電極とを有している。そして発熱部を記録紙またはインクリボンなどの記録媒体を介した記録紙に接触させ、電極から各抵抗発熱体に記録情報を電気信号として順次入力して主走査方向の記録を行ない、それとともに記録紙を走行させて副走査方向の記録を行なうことで2次元の記録画像を得ている。
このようなサーマルヘッドとして、図5に示すような構造のものが従来知られている。図5はラインヘッドの例を示すもので、同図(a)は平面図であり、同図(b)および(c)はA−A要部断面図である。
図5(a)および(b)、(c)のサーマルヘッド1において、2はグレーズドセラミックからなる絶縁性基板であり、セラミック基板2a上にグレーズ層2bが形成されている。この絶縁性基板2上には、酸化ルテニウムなどから成る抵抗発熱体3と金(Au)などから成る電極4・4が、各層の成膜工程とフォトリソグラフィ工程などとを組合せて形成されている。このように抵抗発熱体3上に電極4・4を微細なパターンで形成し、各電極4・4間に選択的に電力を印加することにより、それら電極4・4間の抵抗発熱体3を微小なドット状に発熱させることができる。そしてそれらの上に、抵抗発熱体3および電極4を覆うように保護層5が形成されている。なおこれら抵抗発熱体3と電極4・4とは、上述の通り同図(b)に示すように抵抗発熱体3の上に電極4を成膜し、エッチングによって電極4に窓開け加工を施して電極4・4間の抵抗発熱体3を微小なドット状に発熱させるようにしてもよいし、同図(c)に示すようにその形成積層順序を逆にして窓開け加工を施した電極4・4上に抵抗発熱体3を成膜し、微小なドット状に発熱させるようにしてもよい。
上記のような構成のサーマルヘッド1における保護層5については、耐久性を向上させるために記録紙との摺動に対する高い耐磨耗性が要求され、また記録紙との密着性および滑り性を高めて良好な画像品質を得るとともにこの層5の磨耗を低減するために、表面の高い平滑性、すなわち表面粗度が小さいことが要求される。従来そのような保護層5として、例えばスパッタリング法やCVD法などの薄膜作製技術による高硬度の層が使用されているが、これらは成膜速度が遅いため層形成に長時間を要し、また成膜装置も高価であるために多大な製造コストがかかるという問題点があった。
これに対して低コストの保護層5として、印刷・焼成などの厚膜作製技術で形成されたガラスから成る保護層5も多用されている。この保護層5のガラス中には、ガラスの熱膨張率を小さくして抵抗発熱体に加わる熱ストレスを低減し、またこの層5の耐磨耗性を高め、さらに熱伝導性も良好なものとするために、アルミナ(Al2 O3 )粒子などのフィラーを含有させている。
このようなガラスからなる保護層5に関して、例えば特開昭63−216760号公報には、絶縁物基板上に熱抵抗層および電極・発熱抵抗体層・保護層を順次積層してなる厚膜型感熱記録ヘッドにおいて、保護層が発熱抵抗体層に面するアルミナフィラー含有ガラス層の下層と、そのガラス層より外表面側に形成したアルミナフィラー含有量がゼロないしは前記ガラス層中よりも少量である非晶質ガラス層の上層とを含むものが提案されている。これにより上層の表面平滑度を 0.2μm以下と小さくできるとともに、上層のガラスに磨耗・クラック・損傷などが発生した場合でも、下層のガラスで受け止めて下方に波及させることがないから発熱抵抗体に影響を及ぼすこともなくなり、従ってサーマルヘッドの信頼性の向上と長寿命化が図れるというものである。
また特開平2−292058号公報には、絶縁基板上にアンダーグレーズ層を形成し、その上に発熱抵抗体とこの発熱抵抗体に通電する電極とを形成し、この発熱抵抗体を被覆するオーバーコート層を形成してなる厚膜型サーマルヘッドにおいて、オーバーコート層を、厚膜技術を用いて形成される第1のオーバーコート層と、その層上に薄膜技術を用いて形成される第2のオーバーコート層とで構成することが提案されている。この第1のオーバーコート層はガラスペーストを印刷・焼成して形成され、その表面にサイアロン・Ta2 O5 ・SiCなどよりなる第2のオーバーコート層がスパッタリング・真空蒸着などの薄膜技術で形成される。これによれば、第2のオーバーコート層には高硬度の材料を用いておりその表面は平滑であるので、印字品位を損なうことなく耐磨耗性を向上できるというものである。
さらにまた特開昭61−229570号公報には、グレーズ基板と、このグレーズ基板上に設けられた発熱体部分および導電層部分と、これらの上に形成された耐磨耗ガラス層とからなるサーマルヘッドにおいて、耐磨耗ガラス層は、少なくとも 300Åの厚さの酸化シリコン・アルミナなどの酸化物薄膜を介して、発熱体部分および導電層部分上に設けることが提案されている。そして酸化物薄膜として酸化シリコンの場合はCVD法で、アルミナの場合はスパッタリングで形成し、耐磨耗ガラスにはホウ酸鉛ガラス(PbO−SiO
2 −B
2 O
3 )に少量のアルミナと酸化カリ(K
2 O)を加えたものを印刷・焼成することが開示されている。これによりガラス層と発熱抵抗体部分との密着強度を上げることができるとともに、ガラス焼成時に発熱抵抗体部分が酸化することも防ぐことができ、さらにガラス中の不純物イオンが発熱抵抗体部分へ拡散して発熱部の抵抗値を変化させるおそれもなくなるというものである。
特開昭63−216760号公報
特開平2−292058号公報
特開昭61−229570号公報
特開平3−104657号公報
以下、本発明のサーマルヘッドを詳細に説明する。本発明のサーマルヘッドの一実施例の構成を図1に示す。図1は図5と同様のラインヘッドの例を示すもので、同図(a)は平面図であり、同図(b)はB−B要部断面図である。
図1(a),(b)のサーマルヘッド6において、7はグレーズドセラミックなどからなる絶縁性基板であり、本例ではセラミック基板7a上にグレーズ層7bが形成されている。この絶縁性基板7上には、例えば酸化ルテニウムなどから成る抵抗発熱体8と金(Au)などから成る電極9・9が、各層の成膜工程とフォトリソグラフィ工程などとを組合せて、図5(b)と同様の構成で形成されている。このように抵抗発熱体8上に電極9・9を微細なパターンで形成し、各電極9・9間に選択的に電力を印加することにより、それら電極9・9間の抵抗発熱体8を微小なドット状に発熱させることができる。なおこれら抵抗発熱体8と電極9・9とは、図5(c)に示したようにその形成積層順序を逆にして形成してもよい。また抵抗発熱体8は、画素密度に応じて各々独立した発熱素子として形成してもよく、連続した抵抗発熱体層として形成してもよい。そしてそれらの上に、抵抗発熱体8および電極9・9を覆うように保護層10が形成されており、この保護層10は、酸化珪素−酸化鉛を主体としたガラス11の中にアルミナなどのフィラー12を分散させたフィラー含有ガラスから成っている。
またガラス11の比重をフィラー12の比重より大きくしたことから、図1(b)に示したように高硬度のフィラー12が保護層10の厚み方向の上半分の領域に多く含有される分布となり、特に表面付近に集中するようになる。これにより、記録紙との摺動による保護層10の耐磨耗性が顕著に高められる。
尚、前記保護層10内のフィラー12は、保護層10の厚み方向の上半分の領域に70%以上分布させておくことが好ましく、このように分布させておくことにより、印字に際して記録紙の摺接等によって発生する剪断応力を保護層10の厚み方向の下半分に位置するフィラー12の少ない部分で良好に緩和することができる。
本発明のサーマルヘッド6の絶縁性基体7には、上記のように例えばアルミナやムライト・SiNなどのセラミック基板7a上に、ホウケイ酸ガラスなどのグレーズ層7bが形成されたグレーズドセラミックの他にも、ホウケイ酸ガラスでできた板ガラスなどを用いることができる。
抵抗発熱体8には、上記の酸化ルテニウム(RuO2 )の他にも窒化タンタル(TaN)や珪酸タンタル(TaSiO)・タングステン(W)・酸化クロム(CrO2 )・珪酸チタン(TiSiO)なども用いることができ、各種スパッタリング法やCVD法などの薄膜作製技術、あるいは描画/焼成などの厚膜作製技術により形成する。またその厚みは所望の発熱特性に応じて適宜設定する。この抵抗発熱体8は発熱体領域の全体に一様な層として形成してもよく、フォトリソグラフィ工程などにより独立した発熱素子の列として形成してもよい。
電極9・9には、上記の金(Au)の他にもアルミ(Al)や銅(Cu)なども用いることができ、各種スパッタリング法や真空蒸着法などの薄膜作製技術とフォトリソグラフィ工程の組合せ、あるいはスクリーン印刷・焼成などの厚膜作製技術とフォトリソグラフィ工程の組合せなどの方法により、所望の電極配線パターンに形成する。またその厚みは通常約1μm程度に設定される。
保護層10を形成するガラス11には、酸化珪素−酸化鉛を主体としたガラスを用いるとよく、例えばホウケイ酸鉛(SiO2 −PbO−B2 O3 )系ガラスやケイ酸鉛(SiO2 −PbO)系ガラスなどがある。
これらのガラス10は従来周知の厚膜作製技術を採用することによって形成される。具体的には、まず平均粒径が1μm以下で軟化温度が490 ℃のガラス粉末をビヒクルと混練してペースト状にしたものをスクリーン印刷し、これを約120 ℃の温度で30分程度乾燥した後、約400 ℃の温度で60分程度仮焼成し、最後に約500 ℃の温度で本焼成することによって形成される。尚、前記ガラス粉末の平均粒径を上述の如く1μm以下に設定しておけば、焼成の際にガラスが容易に軟化し流動し易くなるため、ガラスの表面をより平滑なものとすることができる。また前述の如く、ガラスを軟化温度よりも低い所定の温度で仮焼成することにより、ガラスペーストに比較的大きな異物が混入されている場合であっても、該異物を仮焼成の際に発生する熱風の吹きかけによって飛ばすことができ、保護層10に異物の混入による成膜欠陥が発生するのを有効に防止することができる。また更に保護層10への異物の混入をより有効に防止するには、上述した本焼成の後、1〜2分程度525 〜530 ℃の温度で加熱すれば良く、これによって保護層10内に存在する有機物等の異物を完全に燃焼させて外部に放出させることができる。
またこの焼成の際に電極9・9材料を変質させないためには、焼成温度を電極9・9材料の融点よりも十分低くしておくことが要求される。例えば電極9・9材料にAlを用いた場合、Alの融点が 660℃であるためガラス11の焼成温度は最高でも 660℃以下でなければならず、さらに融点近くではAl膜が変色し始めて変質してしまうため、600 ℃以下であることが好ましい。このようにガラス11の焼成温度を 600℃以下にするためには、ガラスの軟化温度は 550℃以下が好ましい。また、感熱記録時に抵抗発熱体8が約 300℃に発熱するため、ガラス11の融点はそれ以上でなければならない。さらに、焼成温度が 450℃以下のガラスでは十分な耐熱性が確保できない。従って、通常は 450〜600 ℃の焼成温度のガラス11を用いるとよい。
また上記ガラス材料の中でもホウケイ酸鉛系ガラスを用いると、成分中のPbO含有比率を変えることにより保護層10に必要なガラス11の特性(熱伝導度や耐磨耗性など)を大きく変化させることなくその比重を変化させることができ、しかも焼成温度が 450〜600 ℃であるためAl電極を変質させずに印刷・焼成により容易に形成できるという点で好適である。
このホウケイ酸鉛系ガラスにおけるPbO含有比率に対する比重の変化を、図2に線図で示す。図2において、横軸はガラス成分中のPbO含有比率(wt%)を、縦軸はそれに対するガラスの比重を表わしており、図中の特性曲線はPbO含有比率に対する比重の変化を表している。同図より、PbO含有比率を増すにつれてガラスの比重を大きくすることができ、例えばフィラー12に比重 3.9のアルミナを用いる場合であれば、PbO含有比率を45wt%以上にすれば、ガラス11の比重を 3.9以上に設定できることが分かる。ただし、PbO含有比率が90wt%以上になると、焼成しても固化しなくなるため保護層10としては使用できなくなる。またPbO含有比率を増すにつれて焼成温度・軟化点は低下する傾向があり、電極9・9にAlを用いた場合に好適な焼成温度 600℃・軟化点 550℃となるのは、PbO含有比率が約60wt%以上のときである。従って、好適なPbO含有比率は45〜90wt%であり、比重や焼結性などを考慮すると、より好適には60〜85wt%に設定することが好ましい。
保護層10のガラス11中に分散させるフィラー12は、上記のアルミナ(Al2 O3 )の他にも、ダイヤモンドや石英(SiO2 )・酸化タンタル(Ta2 O5 )などを用いることもできる。例えばフィラー12としてアルミナを用いる場合、その硬度および熱伝導率をホウケイ酸鉛系ガラスと比較すると、
ホウケイ酸鉛系ガラスのビッカース硬度:約 300kg/mm2
アルミナのビッカース硬度:約 1,500kg/mm2
ホウケイ酸鉛系ガラスの熱伝導率:約2×10-3cal/cm・秒・℃
アルミナの熱伝導率:約5×10-3cal/cm・秒・℃
である。従ってアルミナのフィラー12をガラス11に含有させることにより、硬度および熱伝導率が高められる。また15wt%のアルミナフィラー含有の有無によりホウケイ酸鉛系ガラスの熱膨張係数は、
アルミナフィラー無しガラスの熱膨張係数:約60×10-7/℃
アルミナフィラー含有ガラスの熱膨張係数:約40×10-7/℃
となり、ガラス11の熱膨張係数を小さくして抵抗発熱体8からの熱パルスによる熱ストレスを低減し、耐パルス性を高めることができる。
フィラー12の形状は、粒状や球状・繊維状・多角形状であってよいが、本発明におけるフィラー12の平均粒径は、フィラー12を保護層10の表面付近に多く存在させた場合でも保護層10表面の平滑性を低下させないために、その平均粒径を 0.5μm程度もしくはそれ以下とするとよい。これは、保護層10の表面にフィラー12が存在する場合でもフィラー12粒子自体の半分以上が表面に突出することはなく、また保護層10の表面粗さRaはその突出量の約2分の1以下になるため、フィラー12の平均粒径が 0.5μm程度以下であれば、保護層10の表面粗さRaを約0.1μm以下にして良好な記録特性を得ることができることによる。また保護層10中のフィラー12の含有量は、5〜35wt%の範囲に設定するとよい。5wt%未満では耐磨耗性や熱伝導率の向上・熱膨張率の低減といったフィラー12含有の効果が見られず、35wt%を越えるとフィラー粒子全体をガラスが覆いきれず、保護層10がもろくなる傾向がある。
このようなフィラー12含有ガラス11から成る保護層10は抵抗発熱体8およびその近傍の電極9・9を覆うように形成されるが、その厚みは、記録紙との摺動に耐えるために十分な機械的強度を有していることと、抵抗発熱体8からの熱を記録紙へ良好に伝えることから、好適には約3〜14μm、より好適には7〜10μmに設定するとよい。この厚みが約3μmより薄くなると機械的強度が不足し、約14μmより厚くなると熱伝導が良好に行なわれなくなる。
ここで保護層10の膜厚が約7μmより小さくなると、抵抗発熱体8上の保護層10の厚みと電極9・9上の保護層10の厚みとの差が相対的に大きくなり、保護層10の膜厚の異なった部分すなわち段差部分に、抵抗発熱体8からの熱パルスによる熱ストレスが集中し、発熱部の耐パルス性が不十分になることがある。そこで本発明によれば、この耐パルス性を高めるとともに、保護層10形成時の抵抗発熱体8および電極9・9の酸化や保護層10のガラス11成分との反応などによる変質を防止し、抵抗発熱体8の抵抗値変化を低減するために、上記構成のサーマルヘッド6において、抵抗発熱体8および電極9・9と保護層10との間に、酸化物または/および窒化物からなる変質防止層を介在させたものが提供される。そのような本発明のサーマルヘッドの一実施例の構成を図3に示す。
図3は図1と同様のラインヘッドの例を示すもので、同図(a)は平面図であり、同図(b)はC−C要部断面図である。なお、これらの図において図1と同様の箇所には同じ符号を付してある。
図3(a),(b)のサーマルヘッド13において、セラミック基板7a上にグレーズ層7bが形成された絶縁性基板7上には、抵抗発熱体8と電極9・9が形成されている。なおこの形成順序も図5(c)に示したように逆であってもよい。それらの上には抵抗発熱体8および電極9・9を覆うように保護層10が形成されており、この保護層10はガラス11の中にフィラー12を分散させたフィラー含有ガラスから成っている。そして、抵抗発熱体8および電極9・9と保護層10との間には、酸化物または/および窒化物からなる変質防止層14を介在させている。なお、このサーマルヘッド13において、ガラス11の比重がフィラー12の比重より大きい場合、図3(b)に示したように高硬度のフィラー12が保護層10の表面付近により多く分布させることができる。
本発明における変質防止層14には、酸化物または/および窒化物を用いており、例えば酸化物には酸化シリコン(SiO2 )やアルミナ(Al2 O3 )・酸化タンタル(Ta2 O5 )などがあり、窒化物には窒化シリコン(SiN)などがある。また酸化物と窒化物の混合物にはサイアロン(SiAlON)などがあり、これらの混合物あるいは積層物であってもよい。
このような材料から成る変質防止層14は、特にスパッタリング法やCVD法などの薄膜作製技術により形成することで、緻密かつ高硬度で安定した特性を有し、さらに密着性に優れたものが得られる。本発明の変質防止層14の形成に好適な薄膜作製技術には、例えばRFスパッタリング法・DCスパッタリング法・反応性スパッタリング法・RFマグネトロンスパッタリング法・DCマグネトロンスパッタリング法などの各種スパッタリング法やプラズマCVD法・熱CVD法・光CVD法などの各種CVD法、イオンプレーティング法、真空蒸着法・抵抗加熱蒸着法・電子ビーム蒸着法・レーザビーム蒸着法・活性反応蒸着法などの各種蒸着法などがある。
また前記変質防止層14は、上述の薄膜形成技術を採用して形成した後、300 ℃〜400 ℃の温度で120 分程度加熱することにより、変質防止層14の表面に極めて薄い酸化膜を形成して変質防止層14と保護層10との親和性を高めるとともに、保護層10の焼成時に変質防止層14が保護層10に含まれている酸素と急激な酸化反応を起こして保護層10中に気泡が発生してしまうのを有効に防止することができる。これにより保護層10を変質防止層14に強固に被着させておくことができるようになるとともに、保護層10の機械的強度を向上させることが可能となる。
また前記変質防止層14の厚みは、図4にそれらの厚みと効果との関係を示すように、変質防止層14の種類に応じて適宜設定するとよい。図4は変質防止層
14の種類に対してその厚みと変質防止効果との対応を示す線図であり、横軸はこの層14の厚みを表わし、縦軸は変質防止効果の大小を相対的に表わしている。また、図中の●は酸化物の場合を示し、○は窒化物、△は酸化物と窒化物との混合物の場合をそれぞれ示しており、それらを結ぶ曲線はそれぞれの特性曲線である。
図4より分かるように、この層14に酸化物を用いる場合は、酸素原子を含有しているためやや厚めに設定するとよく、0.08μm以上、好適には0.15μm以上、最適には0.20μm以上とするとよい。また窒化物を用いる場合は、酸素原子を含有していないことから酸化防止効果が大きいので、0.04μm以上、好適には0.08μm以上、最適には0.15μm以上とするとよい。また酸化物と窒化物との混合物を用いる場合は、その中間の厚みである0.06μm以上、好適には0.10μm以上、最適には0.18μm以上とするとよい。そしてこれらの厚みより小さいと、耐パルス性も不十分なものとなる傾向がある。
一方、この層14の厚みが2μmを越えて厚くなると、特性的あるいは技術的には特に大きな問題点はないものの、製造コストが高くなってしまうという問題点が生じる。すなわち薄膜作製技術によって変質防止層14を形成する場合は、その成膜速度が比較的遅いので、量産への適用を考慮した場合には成膜時間を1時間以上費やすことは製造コスト増を招いて好ましくない。薄膜作製技術による酸化物例えばSiO2 の成膜速度は約 0.011μm/分なので、この層14の厚みは約0.66μm以下とするのが好ましく、窒化物例えばSiNの成膜速度は約 0.024μm/分なので約1.44μm以下とするのが好ましい。また酸化物と窒化物の混合物例えばサイアロンの場合は、約1.11μm以下とするのが好ましい。そしてこのような範囲内で、サーマルヘッド13の耐久性などの要求特性に応じて変質防止層14の厚みを適宜設定する。
以下、本発明のサーマルヘッドの具体例を示す。
〔例1〕以下のようにして、図1に示した構成の本発明のサーマルヘッドを作製した。まず、表面にホウケイ酸ガラスグレーズ層7bを形成したグレーズドセラミック基板7の上にスパッタリング法により厚み約0.05μmのTaNから成る抵抗発熱体8を形成し、その上に電子ビーム蒸着法により厚み約1μmのAl層を成膜し、フォトリソグラフィ工程によって所定の電極配線パターンを有する電極9・9を形成した。
一方、保護層10を形成するガラス11として組成割合がSiO2 :15%、PbO:70%、B2 O3 :5%、ZnO:4%のホウケイ酸鉛系ガラス粉末を用意し、フィラー12として平均粒径が 0.5μmのアルミナ粒子を用意した。なお上記ガラス11の比重は 5.3であり、軟化点は 490℃であった。このガラス粉末に対してアルミナ粒子を15wt%混合し、ビヒクルを添加してペースト状に混練した。これをスクリーン印刷により上記の抵抗発熱体8および電極9・9上にそれらを覆うように印刷し、530 ℃で10分間焼成して厚み7μmのフィラー含有ガラスから成る保護層10を形成して、本発明のサーマルヘッドAを作製した。
このサーマルヘッドAの保護層10中のフィラー12の分布状態について、保護層10の断面を電子顕微鏡により調べたところ、保護層10の表面に多くのフィラー12が分布し、抵抗発熱体8および電極9・9側に少なく分布していることが確認できた。また保護層10の表面粗さRaを触針表面粗度計により測定したところ、0.1 μmと良好な平滑性を有していた。
またこのヘッドAを用いて画像記録試験機により画像記録試験を行なって画質評価を行なったところ、印画濃度が1.1 以上で印画カスレや印画ニジミも無く、十分な記録濃度が確保され、保護層10の熱伝導性も良好な結果であった。さらに長期実印画走行寿命試験機により保護層10の耐磨耗性を評価したところ、30kmを走行して磨耗量が2μmと優れた耐磨耗性を有していることが確認できた。また30kmの実印画をすることにより抵抗発熱体8には3×107 パルスを印加したが、ドット抜けなどの発生は無く、十分な耐熱性を有することも確認された。
〔例2〕以下のようにして、〔例1〕と同様の構造においてガラス11の比重をフィラー12の比重より軽くした、比較例のサーマルヘッドを作製した。
まず、〔例1〕と同様にしてグレーズドセラミック基板7上に電極9・9および抵抗発熱体8を形成した。次に、保護層10を形成するガラス11として組成割合がSiO2 :40%、PbO:20%、B2 O3 :15%、ZnO:15%のホウケイ酸鉛系ガラス粉末を用意し、フィラー12として平均粒径が 0.5μm、比重が 3.9のアルミナ粉末を用意した。なおこのガラス11の比重は約 3.2であり、軟化点は約690℃であった。
上記ガラス粉末に対して上記アルミナフィラーを15wt%混合し、ビヒクルを添加してペースト状に混練した。これをスクリーン印刷により、上記の抵抗発熱体8および電極9・9上にそれらを覆うように印刷し、740 ℃で10分間焼成して厚み7μmのフィラー含有ガラスからなる保護層10を形成して、比較例のサーマルヘッドCを作製した。
このサーマルヘッドCの保護層10中のフィラー12の分布状態を〔例1〕と同様にして調べたところ、フィラー12は抵抗発熱体8および電極9・9の近傍の方により多く分布していることが確認された。
また〔例1〕と同様にして画質評価を行なったところ、初期においては印画濃度が 1.1で印画カスレや印画ニジミもなく良好であったが、長期実印画走行寿命試験においては30km走行して磨耗量が4μmと激しく磨耗した。また発熱部表面には多数の走行傷が入っており、保護層10にクラックが発生していた。さらに1ヘッド当り 1,728個の抵抗発熱体において、8個の抵抗発熱体の抵抗値が15%以上ドリフトしており、そのために印画においてドット抜けが発生した。
〔例3〕本例では以下のようにして、図3に示した構成の本発明のサーマルヘッドを作製した。まず、表面にホウケイ酸鉛ガラスグレーズ層7bを形成したグレーズドセラミック基板7の上にRFスパッタリング法により厚み約0.05μmのTaSiOから成る抵抗発熱体8を成膜し、その上に厚み約1μmのAl層を成膜し、フォトリソグラフィ工程によって抵抗発熱体8および電極9・9配線パターンを形成した。次に、これら抵抗発熱体8および電極9・9の上にRFスパッタリング法により厚み 0.3μmのサイアロン(SiAlON)からなる変質防止層14を形成した。
一方、保護層10を形成するガラス11として組成割合がSiO2 :15%、PbO:70%、B2 O3 :5%、ZnO:4%のホウ酸鉛系ガラス粉末を用意し、フィラー12として平均粒径が 0.5μmのアルミナ粒子を用意した。なお上記ガラス11の比重は約 5.3であり、軟化点は約 490℃であった。このガラス粉末に対してアルミナ粒子を15wt%混合し、ビヒクルを添加してペースト状にした。これをスクリーン印刷により抵抗発熱体8および電極9・9ならびに変質防止層14の上にそれらを覆うように印刷し、530 ℃で10分間焼成して厚み7μmのフィラー含有ガラスから成る保護層10を形成して、本発明のサーマルヘッドDを作製した。
また、変質防止層14として厚み 0.2μmの窒化ケイ素(SiN)を形成した他は上記と同様にして、本発明のサーマルヘッドEも作製した。
上記サーマルヘッドDおよびEの保護層10中のフィラー12の分布状態および保護層10の表面粗さRaを〔例1〕と同様に調べたところ、分布状態は保護層10表面に多くのフィラー12が分布し、抵抗発熱体8および電極9・9の近くでは少ない分布となっていることが確認でき、表面粗さRaは 0.1μmと良好な平滑性を有していた。
また、保護層10の焼成による抵抗発熱体8および電極9・9の変質を、電極9・9の共通電極と個別電極の間の抵抗値を測定して求めた保護層10形成前後での抵抗変化率と外観観察により評価したところ、表1に示す通りの結果であった。なお表1には比較例として、変質防止層14を形成しない他は同様にして作製したサーマルヘッドFの結果も併せて示した。
表1の結果より分かるように、変質防止層14を形成した本発明のサーマルヘッドDおよびEでは抵抗値変化率がそれぞれ 3.2%および 2.5%と小さく、外観観察結果においても電極の黒変などが見られず良好な結果であった。これに対して変質防止層14を形成しなかった比較例のヘッドFにおいては、抵抗値変化率が 200〜300 %と非常に大きく、電極にも黒変が見られてかなり劣る結果であった。これらの結果より、本発明のサーマルヘッドDおよびEでは変質防止層14によって抵抗発熱体8や電極9・9の変質が抑制されていることが確認できた。
次にこれらヘッドDおよびEを用いて〔例1〕と同様に画質評価および耐磨耗性評価を行なったところ、いずれも印画濃度が 1.1以上で印画カスレ・ニジミもなく、保護層10の熱伝導性も良好であった。また耐磨耗性も30km走行して磨耗量が2μmと良好な結果であった。
また、30kmの実印画を行なうことにより発熱体8には3×107 パルスを印加したが、ドット抜けなどは無く、十分な耐熱性を有することも確認された。
なお、以上の実施例ではラインヘッドを例にとって説明を行なったが、本発明はこれに限定されるものではなく、シリアルヘッドにも適用できて同様の作用・効果が得られるものであることは言うまでもない。
また上述した実施例のサーマルヘッドにおいて、抵抗発熱体や電極をスクリーン印刷等の厚膜作製技術によって形成する場合、これらと保護層との間にガラス等から成る平滑層を介在させておいても良く、この場合、上記実施例と同様の効果を奏することに加え、保護層の表面平滑性をより高いものとして印字時における記録紙の密着性を向上させることができる。かかる平滑層の形成は、保護層を形成するガラスペースト(収縮率:56%)よりも大きな収縮率(例えば、88%)をもったガラスペーストを用いて行われ、これを従来周知のスクリーン印刷等によって厚膜部分の上に塗布し、乾燥させた後、保護層のガラスを焼成する際に同時焼成することによって行われる。
更に上記実施例においては、保護層内のフィラーを保護層の表面近傍に集中させるようにしたが、これに代えて、保護層内のフィラーを抵抗発熱体側から表面側に向かって漸次多くなるように分布させても構わない。