図1〜図9を参照して、本発明に係る発色構造体、表示体、発色シート、成形体、及び発色構造体の製造方法の一実施形態を説明する。
[発色構造体]
本実施形態の発色構造体は、多層膜層を有する凹凸構造体を表裏の両面に備えている。凹凸構造体が有する凹凸構造としては、後述する第1の構造と第2の構造とのいずれもが適用可能であり、まず、これらの2つの構造の各々について説明する。
なお、発色構造体に対する入射光及び反射光の波長域は特に限定されるものではないが、以下の説明においては、一例として、可視領域の光を対象とした発色構造体について説明する。本実施形態においては、360nm以上830nm以下の波長域の光を可視領域の光とする。
<第1の構造>
図1は、第1の構造を有する凹凸構造体10と、凹凸構造体10とは反対側に配された第1の構造を有する凹凸構造体20と、を備える発色構造体30を示す。
凹凸構造体10及び20は、可視領域の光を透過する材料から形成されており、表面及び裏面に凹凸構造を有する凹凸層の一例である基材15と、基材15の表面及び裏面に積層された多層膜層16とを備えている。すなわち、多層膜層16は、基材15における凹凸の形成されている面を覆っている。基材15の有する凹凸構造は、複数の凸部15a及び15xと、複数の凸部15aの間の領域である凹部15b及び15yとから構成され、凸部15a及び15xは、不規則な長さを有して略帯状に延びる部分から構成される。
多層膜層16は、高屈折率層16aと低屈折率層16bとが交互に積層された構造を有する。高屈折率層16aの屈折率は、低屈折率層16bの屈折率よりも大きい。例えば、基材15の表面には、高屈折率層16aが接し、多層膜層16における基材15とは反対側の面を、低屈折率層16bが構成する。
基材15における凸部15a上と凹部15b上とで、多層膜層16の構成、すなわち、多層膜層16を構成する各層の材料や膜厚や積層順序は一致している。そして、多層膜層16における基材15とは反対側の面である表面は、基材15の凹凸構造に追従した表面形状、すなわち、基材15に形成された凹凸の配置に対応する配置の凹凸を有している。
同様に、基材15における凸部15x上と凹部15y上とで、多層膜層16の構成、すなわち、多層膜層16を構成する各層の材料や膜厚や積層順序は一致している。そして、多層膜層16における基材15とは反対側の面である表面は、基材15の凹凸構造に追従した表面形状、すなわち、基材15に形成された凹凸の配置に対応する配置の凹凸を有している。多層膜層16から光学機能層が構成される。
こうした構造においては、凹凸構造体10の位置する側から発色構造体30に光が入射すると、多層膜層16における高屈折率層16aと低屈折率層16bとの各界面で反射した光が干渉を起こすとともに多層膜層16の表面における不規則な凹凸に起因して進行方向を変える結果、特定の波長域の光が広い角度に出射される。この反射光として強く出射される特定の波長域は、高屈折率層16aと低屈折率層16bとの材料及び膜厚、並びに、凸部15aの幅、高さ及び配列によって決まる。
なお、凹凸構造体20の位置する側から発色構造体30に光が入射した場合にも、同様に、特定の波長域の反射光が広い角度に出射される。すなわち、発色構造体30は、凹凸構造体10と凹凸構造体20とのいずれの側から観察されてもよい。凹凸構造体10と凹凸構造体20は、同じ構造であっても、異なる構造であってもよい。すなわち、凸部15a及び15xの幅、高さ及び配列は異なっていてもよい。
図1では、一例として凹凸構造体10と凹凸構造体20で同じ多層膜層16を記載しているが、この限りではなく、多層膜層16の材料及び膜厚、層の数は凹凸構造体10と凹凸構造体20で同じであってもよいし、異なっていてもよい。
図2を参照して、凹凸層である基材15が有する凹凸構造の詳細について説明する。図2(a)は、基材15をその表面と対向する方向、すなわち第1の凹凸層側から見た平面図であり、図2(b)は、図2(a)の2−2線に沿った基材15の断面構造を示す断面図である。図2(a)においては、凹凸構造を構成する凸部15aにドットを付して示している。
図2(a)が示すように、第1方向Dxと第2方向Dyとは、基材15の厚さ方向に凹凸構造が投影される仮想的な面である仮想平面に含まれる方向であり、第1方向Dxと第2方向Dyとは直交する。仮想平面は、基材15の広がる方向に沿った面であり、基材15の厚さ方向と直交する面である。
仮想平面において、凸部15a及び15xの投影像が構成するパターンは、破線によって示す複数の矩形Rの集合からなるパターンである。矩形Rは、図形要素の一例である。矩形Rは、第2方向Dyに延びる形状を有し、矩形Rにおいて、第2方向Dyの長さd2は、第1方向Dxの長さd1以上の大きさを有する。複数の矩形Rは、第1方向Dx及び第2方向Dyのいずれにおいても重ならないように配列されている。
複数の矩形Rにおいて、第1方向Dxの長さd1は一定であり、複数の矩形Rは、第1方向Dxに、長さd1の配列間隔、すなわち、長さd1の周期で配置されている。
一方、複数の矩形Rにおいて、第2方向Dyの長さd2は不規則であって、各矩形Rにおける長さd2は、所定の標準偏差を有する母集団から選択された値である。この母集団は、正規分布に従うことが好ましい。複数の矩形Rからなるパターンは、例えば、所定の標準偏差で分布する長さd2を有する複数の矩形Rを所定の領域内に仮に敷き詰め、各矩形Rの実際の配置の有無を一定の確率に従って決定することにより、矩形Rの配置される領域と矩形Rの配置されない領域とを設定することによって形成される。多層膜層16からの反射光を効率よく散乱させるためには、長さd2は、平均値が4.15μm以下、かつ、標準偏差が1μm以下の分布を有することが好ましい。
矩形Rの配置されている領域が、凸部15a及び15xの配置される領域であり、互いに隣接する矩形Rが接する場合には、各矩形Rの配置されている領域が結合された1つの領域に1つの凸部15aが及び15x配置される。こうした構成においては、凸部15a及び15xの第1方向Dxの長さは、矩形Rの長さd1の整数倍である。
凹凸によって虹色の分光が生じることを抑えるために、矩形Rにおける第1方向Dxの長さd1は可視領域の光の波長以下とされる。換言すれば、長さd1は、サブ波長以下、すなわち、入射光の波長域以下の長さを有する。すなわち、長さd1は830nm以下であることが好ましく、700nm以下であることがより好ましい。さらに、長さd1は、多層膜層16から反射される上記特定の波長域の光が有するピーク波長よりも小さいことが好ましい。例えば、発色構造体30にて青色を発色させる場合は、長さd1は300nm程度であることが好ましく、発色構造体30にて緑色を発色させる場合は、長さd1は400nm程度であることが好ましく、発色構造体30にて赤色を発色させる場合は、長さd1は460nm程度であることが好ましい。
多層膜層16からの反射光の広がりを大きくするため、すなわち、反射光の散乱効果を高めるためには、凹凸構造の起伏が多いことが好ましく、基材15の表面と対向する方向から見て、単位面積あたりにおいて凸部15aが占める面積の比率は40%以上60%以下であることが好ましい。例えば、基材15の表面と対向する方向から見て、単位面積あたりにおける凸部15aの面積と凹部15bとの面積の比率は、1:1であることが好ましい。
同様に、基材15の裏面と対向する方向から見て、単位面積あたりにおいて凸部15xが占める面積の比率は40%以上60%以下であることが好ましい。例えば、基材15の表面に対向する方向から見て、単位面積あたりにおける凸部15xの面積と凹部15yとの面積の比率は、1:1であることが好ましい。
図2(b)が示すように、凸部15aの高さh1は一定であり、発色構造体30にて発色させる所望の色、すなわち、発色構造体30から反射させることの望まれる波長域に応じて設定されればよい。凸部15a上や凹部15b上における多層膜層16の表面粗さよりも、凸部15aの高さh1が大きければ、反射光の散乱効果は得られる。
同様に、凸部15xの高さも一定であり、発色構造体30にて発色させる所望の色、すなわち、発色構造体30から反射させることの望まれる波長域に応じて設定されればよい。凸部15x上や凹部15y上における多層膜層16の表面粗さよりも、凸部15xの高さが大きければ、反射光の散乱効果は得られる。なお、凸部15aと凸部15xの高さが一致していてもよいし、異なっていてもよい。
ただし、多層膜層16の表面の凹凸での反射に起因した光の干渉を抑えるために、凸部15aの高さh1及び凸部15xの高さは、可視領域の光の波長の1/2以下であることが好ましく、すなわち、415nm以下であることが好ましい。さらに、上記光の干渉を抑えるために、高さh1は、多層膜層16から反射される上記特定の波長域の光が有するピーク波長の1/2以下であることがより好ましい。
また、凸部15aの高さh1及び凸部15xの高さが過剰に大きいと、反射光の散乱効果が高くなりすぎて、反射光の強度が低くなりやすいため、反射光が可視領域の光である場合、凸部15aの高さh1及び凸部15xの高さは10nm以上200nm以下であることが好ましい。例えば、青色を呈する発色構造体30では、効果的な光の広がりを得るためには、凸部15aの高さh1と凸部15xの高さは40nm以上150nm以下の程度であることが好ましく、散乱効果が高くなりすぎることを抑えるためには、凸部15a高さh1及び凸部15xの高さは100nm以下であることが好ましい。
なお、矩形Rは、第1方向Dxに沿って並ぶ2つの矩形Rの一部が重なるように配列されることにより、仮想平面における凸部15a及び/又は凸部15xのパターンを構成していてもよい。
すなわち、複数の矩形Rは、第1方向Dxに、長さd1よりも小さい配列間隔で配置されていてもよいし、矩形Rの配列間隔は一定でなくてもよい。矩形Rが重なり合う部分では、各矩形Rの配置されている領域が結合された1つの領域に1つの凸部15a及び凸部15xが位置する。この場合、凸部15a及び凸部15xの第1方向Dxの長さは、矩形Rの長さd1の整数倍とは異なる長さとなる。また、矩形Rの長さd1は、一定でなくてもよく、各矩形Rにおいて、長さd2が長さd1以上であって、複数の矩形Rにおける長さd2の標準偏差が長さd1の標準偏差よりも大きければよい。こうした構成によっても、反射光の散乱効果は得られる。
<第2の構造>
図3は、第2の構造を有する凹凸構造体11を備える発色構造体31を示す。
第2の構造を有する凹凸構造体11は、第1の構造を有する凹凸構造体10と比較して、基材15における凹凸構造の構成、すなわち、多層膜層16の表面における凹凸構造の構成が異なり、こうした凹凸構造の構成以外については、上述の第1の構造を有する凹凸構造体10と同様の構成を有する。
以下では、発色構造体31について、上述の発色構造体30との相違点を中心に説明し、発色構造体30と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。なおこのとき、第2の凹凸構造体は、第1の構造と第2の構造のいずれとなっていてもよい。また、第1の凹凸構造体が第1の構造で、第2の凹凸構造体が第2の構造となっていてもよい。
凹凸構造体11における基材15の凹凸構造を構成する凸部15cは、第1の構造における凸部15aと同様の構成を有する第1凸部要素と、帯状に延びる第2凸部要素とが、基材15の厚さ方向に重畳された構造を有する。
第1の構造の発色構造体30によれば、反射光の散乱効果によって、視認される色の観察角度による変化は緩やかになるものの、散乱に起因した反射光の強度の低下によって、視認される色の鮮やかさは低下する。発色構造体の用途等によっては、より鮮やかな色を広い観察角度で観察可能な構造体が求められる場合もある。第2の構造において、第2凸部要素は、入射光が特定の方向へ強く回折されるように配列されており、第1凸部要素による光の散乱効果と第2凸部要素による光の回折効果とによって、より鮮やかな色を広い観察角度で観察可能な発色構造体31が実現される。
図4を参照して、第2凸部要素の構成について説明する。図4(a)は、第2凸部要素のみからなる凹凸構造の平面図であり、図4(b)は、図4(a)の4−4線に沿った断面構造を示す断面図である。図4(a)においては、第2凸部要素にドットを付して示している。
図4(a)が示すように、平面視において、すなわち、上記仮想平面において、第2凸部要素15Ebは、第2方向Dyに沿って一定の幅で延びる帯状を有し、複数の第2凸部要素15Ebは、第1方向Dxに沿って、間隔をあけて並んでいる。換言すれば、仮想平面において第2凸部要素15Ebの投影像が構成するパターンは、第2方向Dyに沿って延び、第1方向Dxに沿って並ぶ複数の帯状領域からなるパターンである。第2凸部要素15Ebにおける第1方向Dxの長さd3は、第1凸部要素のパターンを決定する上記矩形Rの長さd1と一致していてもよいし、異なっていてもよい。
第1方向Dxにおける第2凸部要素15Ebの配列間隔de、すなわち、第1方向Dxにおける帯状領域の配列間隔は、第2凸部要素15Ebが構成する凹凸構造の表面での反射光の少なくとも一部が、一次回折光として観測されるように設定される。一次回折光は、換言すれば、回折次数mが1又は−1である回折光である。すなわち、入射光の入射角度をθ、反射光の反射角度をφ、回折する光の波長をλとした場合、配列間隔deは、de≧λ/(sinθ+sinφ)を満たす。
例えば、λ=360nmである可視光線を対象とするとき、第2凸部要素15Ebの配列間隔deは180nm以上であればよく、すなわち、配列間隔deは、入射光に含まれる波長域における最小波長の1/2以上であればよい。なお、配列間隔deは、互いに隣り合う2つの第2凸部要素15Ebの端部間の第1方向Dxに沿った距離であって、第1方向Dxにおいて第2凸部要素15Ebに対して同一の側に位置する端部間の距離である。
第2凸部要素15Ebが構成するパターンの周期性は、基材15が有する凹凸構造の周期性、すなわち、多層膜層16の表面における凹凸構造の周期性に反映される。複数の第2凸部要素15Ebの配列間隔deが一定の場合、多層膜層16の表面での回折現象によって、多層膜層16からは、特定の波長の反射光が特定の角度に出射される。この回折による光の反射強度は、上述の第1の構造にて説明した第1凸部要素による光の散乱効果によって生じる反射光の反射強度と比較して非常に強いため、金属光沢のような輝きを有する光が視認されるが、一方で、回折による分光が生じ、観察角度の変化に応じて視認される色が変化する。
したがって、例えば、青色を呈する発色構造体31が得られるように第1凸部要素の構造を設計したとしても、第2凸部要素15Ebの配列間隔deを400nm〜5μmの程度の一定値とすると、観察角度によっては、回折に起因した強い緑色から赤色の表面反射による光が観察される。これに対し、例えば、第2凸部要素15Ebの配列間隔deを50μm程度に大きくすると、可視領域の光が回折される角度の範囲が狭くなるため、回折に起因した色の変化が視認されにくくなるが、金属光沢のような輝きを有する光は特定の観察角度でのみしか観察されない。
そこで、配列間隔deを一定の値とせず、第2凸部要素15Ebのパターンを、周期が異なる複数の周期構造が重ね合わされたパターンとすれば、回折による反射光に複数の波長の光が混じり合うため、分光された単色性の高い光は視認されにくくなる。したがって、光沢感のある鮮やかな色が広い観察角度で観察される。この場合、配列間隔deは、例えば、360nm以上5μm以下の範囲から選択され、複数の第2凸部要素15Ebの配列間隔deの平均値が、入射光に含まれる波長域における最小波長の1/2以上であればよい。
ただし、配列間隔deの標準偏差が大きくなるにつれ、第2凸部要素15Ebの配列が不規則となって散乱効果が支配的になり、回折による強い反射が得られにくくなる。そのため、第2凸部要素15Ebの配列間隔deは、第1凸部要素による光の散乱効果によって光が広がる角度に応じて、この光が広がる範囲と同程度の範囲に回折による反射光が出射されるように決定することが好ましい。例えば、青色の反射光が、入射角度に対して±40°の範囲に広がって出射される場合、第2凸部要素15Ebのパターンにおいて、配列間隔deを、その平均値が1μm以上5μm以下の程度であり、標準偏差が1μm程度であるように設定する。これにより、第1凸部要素の光の散乱効果によって光が広がる角度と同程度の角度に回折による反射光が生じる。
すなわち、複数の第2凸部要素15Ebからなる構造は、特定の波長域の光を回折させて取り出すための構造とは異なり、配列間隔deの分散により、回折を利用して所定の角度範囲に様々な波長域の光を射出させるための構造である。
さらに、より長周期の回折現象を生じさせるために、一辺が10μm以上100μm以下の正方形領域を単位領域とし、単位領域ごとの第2凸部要素15Ebのパターンにおいて、配列間隔deを、平均値が1μm以上5μm以下の程度、かつ、標準偏差が1μm程度としてもよい。なお、複数の単位領域のなかには、配列間隔deが1μm以上5μm以下の範囲に含まれる一定の値である領域が含まれてもよい。配列間隔deが一定である単位領域が存在したとしても、この単位領域と隣接する単位領域のいずれかにおいて、配列間隔deが標準偏差1μm程度のばらつきを有していれば、人の目の解像度においては全ての単位領域で配列間隔deがばらつきを有している構成と同等の効果が期待できる。
なお、図4に示した第2凸部要素15Ebは、第1方向Dxのみに、配列間隔deに起因した周期性を有している。第1凸部要素による光の散乱効果は、主として、基材15の表面と対向する方向から見た場合での第1方向Dxに沿った方向への反射光に作用するが、第2方向Dyに沿った方向への反射光にも一部影響し得る。したがって、第2凸部要素15Ebは、第2方向Dyにも周期性を有してもよい。すなわち、第2凸部要素15Ebのパターンは、第2方向Dyに延びる複数の帯状領域が、第1方向Dxと第2方向Dyとの各々に沿って並ぶパターンであってもよい。
こうした第2凸部要素15Ebのパターンにおいて、例えば、帯状領域の第1方向Dxに沿った配列間隔と第2方向Dyに沿った配列間隔との各々は、各々の平均値が1μm以上100μm以下であるようにばらつきを有していればよい。また、第1凸部要素による光の散乱効果の第1方向Dxへの影響と第2方向Dyへの影響との違いに応じて、第1方向Dxに沿った配列間隔の平均値と、第2方向Dyに沿った配列間隔の平均値とは互いに異なっていてもよく、第1方向Dxに沿った配列間隔の標準偏差と、第2方向Dyに沿った配列間隔の標準偏差とは互いに異なっていてもよい。
図4(b)が示すように、第2凸部要素15Ebの高さh2は、凸部15c上や凹部15b上における多層膜層16の表面粗さよりも大きければよい。ただし、高さh2が大きくなるほど、凹凸構造が反射光に与える効果において第2凸部要素15Ebによる回折効果が支配的となって、第1凸部要素による光の散乱効果が得られにくくなるため、高さh2は第1凸部要素の高さh1と同程度であることが好ましく、高さh2は高さh1と一致していてもよい。例えば、第1凸部要素の高さh1と第2凸部要素15Ebの高さh2とは、10nm以上200nm以下の範囲に含まれていることが好ましく、青色を呈する発色構造体31では、第1凸部要素の高さh1と第2凸部要素15Ebの高さh2とは、10nm以上150nm以下の範囲に含まれていることが好ましい。
図5を参照して、第2の構造の凹凸構造体11が有する凹凸構造の詳細について説明する。図5(a)は、基材15をその表面と対向する方向から見た平面図であり、図5(b)は、図5(a)の5−5線に沿った基材15の断面構造を示す断面図である。図5(a)においては、第1凸部要素が構成するパターンと、第2凸部要素が構成するパターンとに異なる密度のドットを付して示している。
図5(a)が示すように、上記仮想平面にて、凸部15cの投影像が構成するパターンは、第1凸部要素15Eaの投影像が構成するパターンである第1パターンと、第2凸部要素15Ebの投影像が構成するパターンである第2パターンとが重ね合わされたパターンである。すなわち、凸部15cが位置する領域には、第1凸部要素15Eaのみから構成される領域S1と、第1凸部要素15Eaと第2凸部要素15Ebとが重なっている領域S2と、第2凸部要素15Ebのみから構成される領域S3とが含まれる。なお、図5においては、第1凸部要素15Eaと第2凸部要素15Ebとが、第1方向Dxにおいてその端部が揃うように重ねられているが、こうした構成に限らず、第1凸部要素15Eaの端部と第2凸部要素15Ebの端部とはずれていてもよい。
図5(b)が示すように、領域S1では、凸部15cの高さは、第1凸部要素15Eaの高さh1である。また、領域S2では、凸部15cの高さは、第1凸部要素15Eaの高さh1と第2凸部要素15Ebの高さh2との和である。また、領域S3では、凸部15cの高さは、第2凸部要素15Ebの高さh2である。このように、凸部15cは、仮想平面での投影像が第1パターンを構成し、所定の高さh1を有する第1凸部要素15Eaと、仮想平面での投影像が第2パターンを構成し、所定の高さh2を有する第2凸部要素15Ebとが、高さ方向に重ねられた多段形状を有する。凸部15cは、第1凸部要素15Eaに第2凸部要素15Ebが重ねられた構造と捉えることも可能であり、第2凸部要素15Ebに第1凸部要素15Eaが重ねられた構造と捉えることも可能である。
こうした構造においては、第1の構造と比較して、多層膜層16の表面における凹凸構造が複雑であるため、凹凸構造が変形することもある。そのため、保護層によって多層膜層16の凹凸構造を保護してもよい。
以上のように、第2の構造を有する発色構造体31によれば、凸部15cにおける第1凸部要素15Eaが構成する部分に起因した光の拡散現象と、第2凸部要素15Ebが構成する部分に起因した光の回折現象との相乗によって、特定の波長域の反射光が広い観察角度で観察可能であるとともに、この反射光の強度が高められることにより光沢感のある鮮やかな色が視認される。換言すれば、第2の構造においては、1つの構造体である凸部15cが、光の拡散機能と光の回折機能との2つの機能を担っている。
なお、仮想平面にて、第1凸部要素15Eaが構成するパターンと、第2凸部要素15Ebが構成するパターンとは、第1凸部要素15Eaと第2凸部要素15Ebとが重ならないように配置されてもよい。こうした構造によっても、第1凸部要素15Eaによる光の拡散効果と第2凸部要素15Ebによる光の回折効果とは得られる。ただし、第1凸部要素15Eaと第2凸部要素15Ebとを互いに重ならないように配置しようとすれば、第1の構造と比較して、単位面積あたりにおける第1凸部要素15Eaの配置可能な面積が小さくなり、光の拡散効果が低下する。したがって、凸部要素15Ea,15Ebによる光の拡散効果と回折効果とを高めるためには、図5に示したように、第1凸部要素15Eaと第2凸部要素15Ebとを重ねて凸部15cを多段形状とすることが好ましい。
[発色構造体の製造方法]
発色構造体30,31を構成する各層の材料、及び、発色構造体30,31の製造方法を説明する。
基材15は、可視領域の光に対して光透過性を有する材料、すなわち、可視領域の光に対して透明な材料から構成される。例えば、基材15としては、合成石英基板や、ポリエチレンテレフタラート(PET)等の樹脂からなるフィルムが用いられる。基材15の表面の凹凸構造は、例えば、光又は荷電粒子線を照射するリソグラフィやドライエッチング等の公知の微細加工技術を利用して形成される。
第2の構造の凹凸構造は、例えば、上記第1パターンのレジストパターンを用いたエッチングと、上記第2パターンのレジストパターンを用いたエッチングとを順に行うことにより形成される。このとき、第1パターンのエッチングと第2パターンのエッチングとは、いずれが先に行われてもよい。すなわち、第1凸部要素15Eaと第2凸部要素15Ebとは、いずれが先に形成されてもよい。
多層膜層16を構成する高屈折率層16aと低屈折率層16bとは、可視領域の光に対して光透過性を有する材料、すなわち、可視領域の光に対して透明な材料から構成される。高屈折率層16aの屈折率が、低屈折率層16bの屈折率よりも高い構成であれば、これらの層の材料は限定されないが、高屈折率層16aと低屈折率層16bとの屈折率の差が大きいほど、少ない積層数で高い強度の反射光が得られる。
こうした観点から、例えば、高屈折率層16aと低屈折率層16bとを無機材料から構成する場合、高屈折率層16aを二酸化チタン(TiO2)から構成し、低屈折率層16bを二酸化珪素(SiO2)から構成することが好ましい。こうした無機材料からなる高屈折率層16a及び低屈折率層16bの各々は、スパッタリング、真空蒸着、又は原子層堆積法等の公知の薄膜形成技術を用いて形成される。また、高屈折率層16a及び低屈折率層16bの各々は有機材料から構成されてもよく、この場合、高屈折率層16a及び低屈折率層16bの形成には、自己組織化等の公知の技術が用いられればよい。
高屈折率層16a及び低屈折率層16bの各々の膜厚は、発色構造体30,31にて発色させる所望の色に応じて、転送行列法等を用いて設計されればよい。例えば、青色を呈する発色構造体30,31を形成する場合は、TiO2からなる高屈折率層16aの膜厚は40nm程度であることが好ましく、SiO2からなる低屈折率層16bの膜厚は75nm程度であることが好ましい。
なお、図1及び図3では、多層膜層16として、基材15に近い位置から高屈折率層16aと低屈折率層16bとがこの順に交互に積層された10層からなる多層膜層16を例示したが、多層膜層16が有する層数や積層の順序はこれに限られず、所望の波長域の反射光が得られるように高屈折率層16aと低屈折率層16bとが設計されていればよい。例えば、基材15の表面に低屈折率層16bが接し、その上に高屈折率層16aと低屈折率層16bとが交互に積層されている構成でもよい。
また、多層膜層16における基材15とは反対側の表面である最表面を構成する層も、高屈折率層16aと低屈折率層16bとのいずれであってもよい。さらに、低屈折率層16bと高屈折率層16aとが交互に積層されていれば、基材15の表面に接する層と、上記最表面を構成する層とを構成する材料が同じであってもよい。さらに、多層膜層16は、3つ以上の屈折率の異なる層の組み合わせによって構成されてもよい。
要は、多層膜層16は、相互に隣接する層の屈折率が互いに異なり、多層膜層16に入射する入射光のうち特定の波長域での光の反射率が他の波長域での反射率よりも高いように構成されていればよい。
ここで、凹凸構造体10,11,20が可視領域の光に対して透明な材料から形成されている場合、入射光に含まれる波長域のうち、多層膜層16にて反射される特定の波長域以外の波長域の光の一部は、多層膜層16、さらには、凹凸構造体10,11,20を透過する。そのため、凹凸構造体10,11,20をその表裏の一方側から観察するとき、凹凸構造体10,11,20の他方側に、光源や、白色板等の透過光をはね返す構造物が存在すると、上記一方側では、多層膜層16からの特定の波長域の反射光とともに、他方側から多層膜層16を透過した透過光が視認される。上述のように、この透過光の波長域は反射光の波長域とは異なり、透過光の色は、主として、反射光の色の補色である。そのため、こうした透過光が視認されると、反射光による色の視認性が低下する。
そこで、第1の凹凸層及びその上の多層膜層からなる第1の光学機能層から透過される光と、第2の凹凸層及びその上の多層膜層からなる第2の光学機能層の反射光との色差Δabを25以下にすることが好ましい。または、第2の凹凸層及びその上に多層膜層からなる第2の光学機能層から透過される光と、第1の凹凸層及びその上の多層膜層からなる第1の光学機能層の反射光の色差Δabも合わせて25以下にすることが好ましい。
この場合、観察する面の反射光と、観察する面の他方側からの透過光が類似の色となり、透過光による視認性の低下が抑えられることに加え、他方側からの透過光が重なることで、発色構造体30,31において所望の発色が両面において好適に得られる。なお、これらの透過光及び反射光の色は、分光光度計UV−3600(株式会社島津製作所製)で測定した値である。色差Δabは、透過光と反射光のa値の差の2乗と、透過光と反射光のb値の差の2乗の和である。
また、基材15を、入射光のうち多層膜層16を透過した透過光を吸収する材料から構成することも好ましい。この場合、他方側からの透過光を抑えることができる。こうした構成によれば、多層膜層16を透過した光は基材15によって吸収されるため、観察する面と逆側、すなわち他方側からの透過光を抑えられるため、観察する側の多層膜層16からの反射光とは異なる波長域の光が視認されることが抑えられる。したがって、多層膜層16の構成に応じた透過光の波長域の差異に関わらず、透過光による色の視認性が低下することが抑えられ、発色構造体30,31において所望の発色が両面において好適に得られる。
例えば、基材15は、光吸収剤や黒色顔料等の可視領域の光を吸収する材料を含む層であればよい。具体的には、基材15は、カーボンブラック、チタンブラック、黒色酸化鉄、黒色複合酸化物等の黒色の無機顔料が樹脂に混合された層であることが好ましい。
なお、基材15は、可視領域の光のすべてを吸収せずとも、多層膜層16を透過する光の少なくとも一部を吸収する光吸収性を有する構成であれば、こうした光吸収性を有する層が設けられない構成と比較して、反射光による色の視認性が低下することを抑える効果は得られる。したがって、基材15は、多層膜層16を透過する光の波長域に応じた色の顔料を含む層であってもよい。ただし、基材15が黒色顔料を含む黒色の層であれば、表裏の透過光の波長域に応じた基材15の色の調整等が不要であり、また、基材15が広い波長域の光を吸収するため、簡便に、かつ、好適に、反射光による色の視認性の低下が抑えられる。
多層膜層16を、多層膜層16の表面を保護する保護層が覆っていてもよい。そして、多層膜層16の表面が保護層によって覆われた場合、多層膜層16が有する凹凸構造の崩れ、具体的には、凹凸構造の変形や凹凸構造に汚れや異物が詰まることが抑えられる。
保護層は、可視領域の光に対して光透過性を有する材料、すなわち、可視領域の光に対して透明な材料から構成されることが好ましい。こうした材料としては、例えば、アクリル、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリアミド等の樹脂が用いられる。
また、保護層は、紫外線吸収剤を含んでいてもよい。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系、サリシレート系、トリアジン系、シアノアクリルレート系等の公知の紫外線吸収剤が使用できる。
保護層が紫外線吸収剤を含む構成であれば、発色構造体30,31が、直射日光等に因る紫外線に長時間さらされる用途に用いられる場合に、保護層が紫外線を吸収するため、発色構造体30,31を構成する材料が紫外線によって劣化することが抑えられる。
保護層は、例えば、インクジェット法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、スリットコート法、グラビアコート法等の公知の塗工法を用いて、多層膜層16の表面に形成される。保護層の膜厚は特に限定されないが、例えば、1μm以上100μm以下の程度であることが好ましい。
保護層の形成のための塗布液であるインクには、必要に応じて、溶媒が混合されてもよい。溶媒としては、保護層を構成する樹脂と相性のよい溶媒が選択されればよく、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、トルエン、キシレン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等が挙げられる。
なお、保護層は、複数の層から構成されていてもよい。例えば、保護層が、物理的もしくは化学的な刺激に対する耐性の異なる複数の層を備える構成であれば、複数の耐性を有する保護層が実現できる。また例えば、保護層が、類似した耐性を有する複数の層を備える構成であれば、複数の層で共通する上記耐性を保護層にて増強することができる。こうした耐性としては、例えば、耐擦過性や耐水性等が挙げられる。
[発色構造体の変形例]
発色構造体は、図6が示す構成を有していてもよい。図6が示す発色構造体32が備える凹凸構造体12、凹凸構造体21は、基材15と、基材15の表面を覆う樹脂層17と、樹脂層17に積層された多層膜層16とを備える。基材15の表面は平坦であり、樹脂層17がその表面に凹凸を有する。図6に示す形態においては、基材15と樹脂層17との積層体が凹凸層である。樹脂層17の表面における凹凸構造としては、上述の第1の構造の凹凸構造と第2の構造の凹凸構造とのいずれもが適用可能である。
また、図6のように基材15の表裏両面が平坦であってもよいが、この限りではなく、基材15の一方の面のみ平坦で、平坦な面にのみ樹脂層17、多層膜層16が備えられた形態であってもよい。この場合、他方の面は図1や図3と同様に基材15に直接凹凸構造を備えている。
樹脂層17の凹凸構造の形成方法としては、例えば、ナノインプリント法が用いられる。ナノインプリント法を用いれば、凹凸構造の形成が、好適かつ簡便に実現される。例えば、光ナノインプリント法によって樹脂層17の凹凸構造を形成する場合、まず、形成対象の凹凸の反転された凹凸を有する凹版であるモールドの凹凸が形成された面に、樹脂層17を構成する樹脂として、光硬化性樹脂が塗布される。光硬化性樹脂の塗布方法は特に限定されず、インクジェット法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、スリットコート法、グラビアコート法等の公知の塗布法が用いられればよい。
次いで、光硬化性樹脂からなる塗布層の表面に、基材15が重ねられ、塗布層とモールドとが互いに押し付けられた状態で、基材15側もしくはモールド側から光が照射される。続いて、硬化した光硬化性樹脂及び基材15からモールドが離型される。これによって、モールドの有する凹凸が光硬化性樹脂に転写されて、表面に凹凸を有する樹脂層17が形成される。モールドは、例えば、合成石英やシリコンから構成され、光又は荷電粒子線を照射するリソグラフィやドライエッチング等の公知の微細加工技術を利用して形成される。
なお、光硬化性樹脂は、基材15の表面に塗布され、基材15上の塗布層にモールドが押し当てられた状態で、光の照射が行われてもよい。
また、光ナノインプリント法に代えて、熱ナノインプリント法が用いられてもよく、この場合、樹脂層17の樹脂としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の、製造方法に応じた樹脂が用いられる。
また、図7に示す通り、基材15と基材15上に形成された凹凸構造の間に、厚さ1nm以上7nm以下のアルミ薄膜層が配されていてもよい。アルミ薄膜層を備えることで、アルミ薄膜層が水蒸気の透過を防ぐことができるため、水蒸気透過率を下げることができる。このアルミ薄膜層の厚みが8nm以上の場合、金属光沢を生じるため、金属光沢による視認性の低下が生じる。一方で、1nm未満の場合は、アルミ薄膜層による水蒸気透過率の低下効果は見られない。1〜7nmのアルミ薄膜層にすることで、視認性の低下を防ぎつつ、水蒸気透過率を低下することができる。このアルミ薄膜層の作製方法は特に限定されず、スパッタリングや真空蒸着など従来公知の方法で作製することができる。このアルミ薄膜層は、基材の両面に備えられてもよいし、一方の面のみに備えられてもよい。
また、基材15上に形成された凹凸構造に、多層膜層16を透過する光の少なくとも一部を吸収する光吸収性を有する材料が含まれていてもよい。すなわち、樹脂層17に光吸収性を有する材料が含まれていてもよい。この場合、他方側からの透過光を抑えることができる。こうした構成によれば、多層膜層16を透過した光は凹凸構造によって吸収されるため、観察する面と逆側、すなわち他方側からの透過光を抑えられるため、観察する側の多層膜層16からの反射光とは異なる波長域の光が視認されることが抑えられる。したがって、多層膜層16の構成に応じた透過光の波長域の差異に関わらず、透過光による色の視認性が低下することが抑えられ、発色構造体30,31において所望の発色が両面において好適に得られる。透過する光の少なくとも一部を吸収する光吸収性を有する材料は、基材15の両面の凹凸構造に含まれていてもよいし、一方の面のみに含まれていてもよい。
[発色構造体の適用例]
上述した発色構造体の具体的な適用例について説明する。以下で説明する適用例には、第1の構造を有する発色構造体30、第2の構造を有する発色構造体31、及び、上述の変形例で説明した発色構造体32のいずれもが適用可能である。
<表示体>
発色構造体の第1の適用例は、発色構造体を表示体に用いる形態である。表示体は、物品の偽造の困難性を高める目的で用いられてもよいし、物品の意匠性を高める目的で用いられてもよいし、これらの目的を兼ねて用いられてもよい。物品の偽造の困難性を高める目的としては、表示体は、例えば、パスポートや免許証等の認証書類、商品券や小切手等の有価証券類、クレジットカードやキャッシュカード等のカード類、紙幣等に貼り付けられる。また、物品の意匠性を高める目的としては、表示体は、例えば、身に着けられる装飾品や、使用者に携帯される物品、家具や家電等のように据え置かれる物品、壁や扉等の構造物、自動車の内装や外装等に取り付けられる。
図8が示すように、表示体40は、表面40Fと、表面40Fとは反対側の面である裏面40Rとを有し、表面40Fと対向する方向から見て、表示体40は、第1表示領域41Aと第2表示領域41Bとを含んでいる。第1表示領域41Aは、複数の第1画素42Aが配置されている領域であり、第2表示領域41Bは、複数の第2画素42Bが配置されている領域である。換言すれば、第1表示領域41Aは、複数の第1画素42Aの集合から構成されており、第2表示領域41Bは、複数の第2画素42Bの集合から構成されている。第1画素42Aと第2画素42Bとの各々には、発色構造体の構成が適用されており、第1画素42Aと第2画素42Bとは、互いに異なる色相の色を呈する。すなわち、表示体40の表面40Fと対向する方向から見て、第1表示領域41Aと第2表示領域41Bとには、互いに異なる色相の色が視認される。
第1表示領域41Aと第2表示領域41Bとの各々は、これらの領域単独、もしくは、これらの領域の2以上の組み合わせによって、文字、記号、図形、模様、絵柄、これらの背景等を表現する。一例として、図8に示す構成では、第1表示領域41Aによって円形の図形が表現され、第2表示領域41Bによって三角形の図形が表現されている。
なお、表示体40は、表示領域41A,41Bの周囲等に、発色構造体の構成とは異なる構成を有する領域、例えば、表面が平坦な基材に多層膜層が積層された構造を有する領域や、基材に金属薄膜が積層された構造を有する領域等を有していてもよい。
図9は、第1画素42Aと第2画素42Bとの断面構造を示す図である。図9においては、これらの画素42A,42B及び凹凸構造体20を構成する発色構造体33が、第1の構造を有する発色構造体である例を示している。
第1画素42Aと第2画素42Bとでは、凸部15aの高さh1が互いに異なっている。一方、第1画素42Aと第2画素42Bとにおいて、多層膜層16の構成は共通しており、すなわち、高屈折率層16aの材料や膜厚、低屈折率層16bの材料や膜厚、及び、これらの層の層数は、共通している。第1画素42Aと第2画素42Bとで、凸部15aの高さh1が異なることによって、第1画素42Aと第2画素42Bとは互いに異なる色相の色を呈する。各画素42A,42Bにおける凸部15aの高さh1は、各画素42A,42Bの所望の色相に応じて設定されればよい。
ここで、第1画素42Aの凸部15aの高さh1aと、第2画素42Bの凸部15aの高さh1bとの差が大きいほど、第1画素42Aの呈する色相と第2画素42Bの呈する色相との差が大きくなり、その色相の差が人の目によって認識されやすくなる。例えば、高さh1aと高さh1bとの差は5nm以上であることが好ましく、多層膜層16が平坦面に積層されている場合における多層膜層16からの反射光のピーク波長の1%以上であることが好ましい。
例えば、多層膜層16が平坦面に積層されている場合における多層膜層16からの反射光のピーク波長が500nmであり、画素によって緑色を発色させたい場合は、凸部15aの高さh1を100nm程度とすることが好ましく、画素によって赤色を発色させたい場合は、凸部15aの高さh1を200nm程度とすることが好ましい。
上記構成においては、第1表示領域41Aと第2表示領域41Bとで、多層膜層16の表面における凹凸構造の高さが異なり、こうした高さが一定である場合と比較して表示体40の全体における凹凸構造が複雑であるため、凹凸構造が変形することもある。そのため、保護層によって多層膜層16の凹凸構造を保護してもよい。
なお、画素42A,42Bに適用される発色構造体が、第2の構造を有する発色構造体である場合、上記仮想平面にて凸部15cの投影像が構成するパターンにおいて第1凸部要素15Eaが占める割合よりも第2凸部要素15Ebが占める割合が小さい構成においては、第2凸部要素15Ebの高さh2が画素42A,42Bの呈する色相に与える影響は微小である。したがって、第2の構造を有する発色構造体においても、第1の構造の凸部15aに相当する第1凸部要素15Eaの高さh1の調整によって、画素42A,42Bの呈する色相の調整が可能である。
凸部15aのパターンは、例えば、第1画素42Aごと、及び、第2画素42Bごとに設定される。すなわち、凸部15aの投影像のパターンを構成する複数の矩形Rにおける長さd1や長さd2の平均値や標準偏差は、画素42A,42Bごとに設定される。凸部15aのパターンは画素42A,42Bごとに異なっていてもよいし、一致していてもよい。画素42A,42Bの大きさは、表示領域41A,41Bが構成する像についての所望の解像度に応じて設定されればよい。より高精度な像を表示するためには、画素42A,42Bの一辺は10μm以上であることが好ましい。
なお、画素42A,42Bの製造の際には、例えば、複数の矩形Rからなるパターンに従った凸部を一括して大面積の領域に形成後、このパターンを分割するように凸部を切断等により分割することで、各画素42A,42Bの凹凸構造を形成してもよい。こうした製造方法は、製造工程が容易となるため好ましい。
ここで、凸部の分割によって、複数の画素42A,42Bの一部には、画素42A,42Bの端部に、第2方向Dyの長さd2が、第1方向Dxの長さd1よりも小さい矩形Rを構成する凸部が形成される場合がある。しかし、凸部15aのパターンにこうした矩形Rが含まれたとしても、その割合が十分に小さい場合は、当該矩形Rによる光学的影響は無視できるほど小さい。
基材15における凹凸構造は、例えば、第1画素42Aの位置する第1表示領域41Aに対応する部分と、第2画素42Bの位置する第2表示領域41Bに対応する部分との各々に対して、リソグラフィやドライエッチングを行うことによって形成される。凸部15aの高さh1を変えるためには、エッチング時間を変更すればよい。
第1表示領域41Aに対応する部分と第2表示領域41Bに対応する部分とに対し、多層膜層16は、同一の工程によって、同時に形成される。同様に、各表示領域41A,41Bに対応する部分に対し、保護層は同時に形成され、反射防止層もまた同時に形成される。反射防止層は、例えば、多層膜層16の形成の前もしくは後に、スパッタリングや真空蒸着によって形成される。
第1表示領域41Aと第2表示領域41Bとが接している場合、第1画素42Aと第2画素42Bとの間で、多層膜層16の各々は連続している。
なお、第1画素42Aと第2画素42Bとの呈する色相を異ならせることは、第1画素42Aと第2画素42Bとで、多層膜層16を構成する層の材料や膜厚等の構成を異ならせることによっても可能ではある。しかしながら、表示領域41A,41Bごとに多層膜層16の構成が異なると、表示領域41A,41Bごとに、領域のマスキングや高屈折率層16aと低屈折率層16bとの成膜を繰り返すことが必要であり、製造工程が複雑になる。結果として、製造コストの増加や歩留まりの低下が引き起こされる。また、微小な領域にマスキングを行うことは困難であるため、精細な像の形成には限界がある。
これに対し、上記表示体40の構成であれば、第1表示領域41Aに対応する部分と第2表示領域41Bに対応する部分とに対し、多層膜層16を同時に形成することが可能であるため、表示体40の製造に要する負荷が軽減される。また、微小な領域へのマスキングと比較して、微小な領域ごとに凸部15aの高さh1を異ならせることは容易であるため、表示領域41A,41Bを小さくしてより精細な像を形成することもできる。
なお、第1画素42Aと第2画素42Bとで、多層膜層16の構成を同一として、凸部15aの高さh1を変えることによって色相を異ならせるためには、多層膜層16を以下のように構成することが好ましい。すなわち、平坦面に多層膜層16を積層した場合における多層膜層16からの反射光のピーク波長が、第1画素42Aにて発色させる色相の光の波長と、第2画素42Bにて発色させる色相の光の波長との間に位置するように、多層膜層16を構成することが好ましい。
凸部15aの高さh1を変えることにより、多層膜層16を構成する各層の形状が変わって光路長が変化することや、凹凸構造が効率的に散乱させる光の波長域が変化することが起こり、こうした現象等に起因して、発色構造体に視認される色相が変化すると考えられる。
また、画素42A,42Bの構成に、発色構造体32の構成、すなわち、基材15に積層された樹脂層17が凹凸構造を有している構成が適用される場合、この凹凸構造は、例えば、以下のように形成される。すなわち、ナノインプリント法を利用して、各表示領域41A,41Bに対応する部分で凹凸の高さを変えたモールドが用いられ、各画素42A,42Bの樹脂層17の凹凸構造が同時に形成される。
こうしたモールドは、表示領域41A,41Bに対応する部分ごとに、リソグラフィやドライエッチングを行うことにより形成されてもよい。また例えば、以下の方法によれば、より簡便にモールドの形成が可能である。すなわち、荷電粒子線リソグラフィに用いられるレジストに対して照射する荷電粒子線の線量を表示領域41A,41Bごとに変え、各表示領域41A,41Bについて所望の高さの凹凸が形成されるように現像時間を調整してレジストパターンを形成する。レジストパターンの表面に例えばニッケル等の金属層を電鋳によって形成した後、レジストを溶解することによって、ニッケル製のモールドが得られる。
なお、表示体40が含む表示領域の数、すなわち、発色構造体から構成される画素が配置されて、互いに異なる色相の色を呈する表示領域の数は特に限定されず、表示領域の数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。さらに、表示領域には、発色構造体から構成された表示要素が含まれればよく、表示要素は、ラスタ画像を形成するための繰返しの最小単位である画素に限らず、ベクタ画像を形成するためのアンカを結んだ領域であってもよい。
このとき表示体40の裏面40Rは、図9のように表面40Fによらず、同様の発色構造体から成り立っていてもよいし、異なっていてもよい。裏面40Rは、表面40Fと同様の規則性で構造を変化させてもよいし、表面40Fとは独立していてもよい。
裏面40Rの発色構造体から構成される画素が配置されて、互いに異なる色相の色を呈する表示領域の数は1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。さらに、表示領域には、発色構造体から構成された表示要素が含まれればよく、表示要素は、ラスタ画像を形成するための繰返しの最小単位である画素に限らず、ベクタ画像を形成するためのアンカを結んだ領域であってもよい。
また、表示要素の構成としては、上述した発色構造体の構成であればいずれの構成であっても適用可能である。
<発色シート及び成形体>
発色構造体の第2の適用例は、発色構造体を発色シートに用いる形態である。発色シートは、発色構造体から構成されたシートであり、装飾等のために被着体に固定される。発色シートと被着体とから、成形体が構成される。これらの発色シート及び成形体は、特定の光以外は透過する特徴を活かした用途、例えば光学フィルターや装飾等にも用いることが可能である。
被着体の形状や材料は特に限定されないが、例えば、樹脂製の被着体に発色シートが取り付けられるとき、発色シートは、例えば、フィルムインサート工法、インモールドラミネーション工法、三次元オーバーレイラミネーション工法(TOM)等のラミネート加飾工法を用いて、被着体の表面へ固定される。
フィルムインサート工法とは、熱真空成形により成形された発色シートを金型に配置した状態で射出成形を行うことによって、被着体と発色シートとを一体化する方法である。インモールドラミネーション工法とは、熱真空成形による発色シートの作製から射出成形による被着体の形成及び発色シートとの一体化までを、すべて同じ金型内で行う方法である。三次元オーバーレイラミネーション工法とは、発色シートで上下に隔離した気密空間の気圧差を利用して、被着体と発色シートとを一体化する方法である。
こうしたラミネート加飾工法では、加熱処理や加圧処理や真空処理が行われるため、発色構造体に係る物理的又は化学的な負荷が生じる。そのため、保護層によって多層膜層16の凹凸構造が保護されていることが好ましい。
発色シートを構成する発色構造体としては、上述した発色構造体のいずれの構成も適用可能である。ただし、発色シートは、被着体の表面に沿って配置されるように用いられるため、発色構造体は、被着体の表面に追従した形状に変形しやすい性質を有することが好ましい。こうした観点においては、発色構造体32の構成、すなわち、基材15に積層された樹脂層17が凹凸構造を有している構成は、基材15として用いることのできる材料の自由度が高いため好ましい。
発色シートが、ラミネート加飾工法を用いて樹脂製の被着体に固定される場合、被着体との一体化のための加熱の際に基材15が被着体に追従して変形するように、基材15は、熱可塑性樹脂から構成される。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ナイロン(PA)等が挙げられる。基材15の膜厚は、発色シートが被着体に追従しやすい観点から、薄いほど好ましく、例えば、20μm以上300μm以下の程度であることが好ましい。
保護層を積層する場合は、多層膜層16の透過光の吸収性を有する保護層が用いられる。発色シートが、ラミネート加飾工法を用いて樹脂製の被着体に固定される場合、保護層は、被着体との一体化のための加熱の際において多層膜層16の凹凸構造への追従性が高いことが好ましく、こうした観点から、保護層は熱可塑性を有していることが好ましい。具体的には、保護層が100℃以上160℃以下の温度において熱可塑性を有している構成であれば、ラミネート加飾工法における加熱の際に、多層膜層16の凹凸構造への追従性が好適に得られる。熱可塑性樹脂としては、例えば、上述の基材15の材料として例示した熱可塑性樹脂及びアクリル、ウレタン等が挙げられる。
発色シートは、保護層の代わりに、接着機能を発現する接着層を備えてもよく、保護層の上に接着層を積層してもよい。これらの保護層や接着層は、表裏両面に備えてられていてもよいし、片面に備えられていてもよい。表裏で同じ層構成であってもよく、異なる層構成であってもよい。
発色シートが、ラミネート加飾工法を用いて樹脂製の被着体に固定される場合、被着体との一体化のための加熱の際に接着層が接着機能を発現するように、接着層はヒートシール性を有することが好ましい。こうした接着層を構成するヒートシール剤としては、例えば、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
接着層は、例えば、インクジェット法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、スリットコート法、グラビアコート法等の公知の塗布法を用いて形成される。接着層の膜厚は特に限定されないが、例えば、2μm以上200μm以下の程度であることが好ましい。
以上説明したように、上記の実施形態によれば、以下に示す6つの効果を得ることができる。
(1)両面に発色構造体を有するため、両面に異なる色を呈することができる。両面に異なる色をつけることで、意匠性を高めることも可能である。さらに、第1の凹凸層及びその上の多層膜層からなる第1の光学機能層の側から透過される光と、第2の凹凸層及びその上の多層膜層からなる第2の光学機能層の側の反射光との色差Δab、並びに、第2の凹凸層及びその上の多層膜層からなる第2の光学機能層の側から透過される光と、第1の凹凸層及びその上の多層膜層からなる第1の光学機能層の側の反射光との色差Δabのうち少なくとも一方の色差Δabを25以下にすることにより、観察する面の反射光と、観察する面の他方側からの透過光とが類似の色となり、視認性が低下することが抑えられることに加え、他方側からの透過光が重なることにより、所望の発色が両面において好適に得られる。
(2)基材15を、多層膜層16を透過した透過光を吸収する材料から構成することで、他方側からの透過光を抑えることができる。こうした構成によれば、多層膜層16を透過した光は基材15によって吸収されるため、観察する面と逆側、すなわち他方側からの透過光を抑えられるため、観察する側の多層膜層16からの反射光とは異なる波長域の光が視認されることが抑えられる。したがって、透過光による色の視認性が低下することが抑えられ、所望の発色が両面において好適に得られる。
(3)基材上に形成された凹凸構造の間に1〜7nmのアルミ薄膜層が含まれる構成では、アルミ薄膜層を備えることで、水蒸気透過率を下げることができる。
(4)基材15上に形成された凹凸構造に多層膜層16を透過する光の少なくとも一部を吸収する光吸収性を有する材料が含まれた場合、他方側からの透過光を抑えることができる。こうした構成によれば、多層膜層16を透過した光は凹凸構造によって吸収されるため、観察する面と逆側、すなわち他方側からの透過光を抑えられるため、観察する側の多層膜層16からの反射光とは異なる波長域の光が視認されることが抑えられる。したがって、透過光による色の視認性が低下することが抑えられ、所望の発色が両面において好適に得られる。
(5)第1又は第2の多層構造の上に保護層があれば、多層膜層16の表面が保護層によって覆われるため、多層膜層16における凹凸構造の変形や、凹凸構造の詰まりを抑えることができる。したがって、多層膜層16にて反射される光の光路長が変化することや、凹凸構造による反射光の拡散効果や回折効果が低下することが抑えられるため、発色構造体において所望の発色が好適に得られる。また、多層膜層16に直接に保護層が積層されているため、接着層等を介して保護層が設けられる構成と比較して、製造工程が簡素になり、製造コストの増大や歩留まりの低下が抑えられる。
(6)ナノインプリント法を用いて凹凸層の凹凸構造が形成される製造方法によれば、微細な凹凸構造を好適に、かつ、簡便に形成することができる。そして、ナノインプリント法として、光ナノインプリント法もしくは熱ナノインプリント法が用いられる製造方法であれば、ナノインプリント法による凹凸構造の形成が、好適、かつ、簡便に実現される。
[変形例]
上記実施形態は、以下のように変更して実施することが可能である。
・発色構造体は、入射光のうち多層膜層16を透過する光の少なくとも一部を吸収する光吸収性を有する層が、基材15上に積層されていてもよい。多層膜層16を透過した透過光を吸収する材料から構成することで、他方側からの透過光を抑えることができる。こうした構成によれば、多層膜層16を透過した光は上記吸収層によって吸収されるため、観察する面と逆側、すなわち他方側からの透過光を抑えられるため、観察する側の多層膜層16からの反射光とは異なる波長域の光が視認されることが抑えられる。したがって、透過光による色の視認性が低下することが抑えられ、所望の発色が両面において好適に得られる。しかしながら、基材15や凹凸構造に光吸収性を有する場合と比較して、塗工工程が増えるため、コストアップにつながる懸念がある。
・発色構造体は、保護層とは別の層として、紫外線吸収性を有する層を備えていてもよい。例えば、発色構造体は、基材15及び基材15上に、紫外線吸収剤を含む層を備えていてもよい。こうした構成であれば、発色構造体を構成する材料が紫外線によって劣化することを抑える効果を高く得られる。
・表示体40が含む画素には、上記仮想平面にて凹凸層における凹凸構造の延びる方向が互いに異なる画素が含まれてもよい。具体的には、任意の画素での凸部の延びる方向である第2方向Dyと、この画素とは異なる画素での凸部の延びる方向である第2方向Dyとが、異なる方向であり、例えばこれらの方向が直交する構成であってもよい。こうした構成によれば、画素によって、多層膜層16からの反射光が拡散される方向を変えることが可能であり、多彩な像の表現が可能である。
なお、多層膜層16は、凹凸層における凸部の側面にも成膜されるため、多層膜層16における凹凸構造の凸部の幅は、凹凸層における凸部の幅よりもやや広がる。凹凸構造の延びる方向が互いに異なる画素が相互に隣接する部分において、延びる方向の異なる凸部の間で多層膜層16における上述のように広がった部分が連なり、多層膜層16における凹凸構造に崩れが生じると、各画素から所望の発色が所望の方向に得られ難くなる。そのため、凹凸構造の延びる方向が互いに異なる画素の間には、凹凸層に凹凸が形成されていない領域が設けられていることが好ましい。また、延びる方向が同一の凹凸構造を有する画素間においても、凹凸層に凹凸が形成されていない領域が設けられていてもよく、こうした構成によれば、多層膜層16の広がりに起因した凹凸構造の崩れが画素の端部にて抑えられ、各画素の全体から所望の発色が得られやすくなる。画素間に設けられる凹凸が形成されていない領域の幅は、例えば、多層膜層16の膜厚の1/2以上であることが好ましい。
・凹凸層の凹凸構造を構成する凸部は、基部から頂部に向かって第1方向Dxの幅が徐々に小さくなる構成を有していてもよい。こうした構成によれば、凸部に多層膜層16が成膜されやすくなる。この場合、第1方向Dxの長さd1や長さd3は、凸部の底面が構成するパターンにて規定される。
・凹凸層における凹凸構造の第1の構造にて凸部15a及び/又は凸部15xの投影像が構成するパターン、及び、第2の構造にて第1凸部要素15Eaの投影像が構成するパターンを構成する図形は、矩形に限られない。これらのパターンを構成する図形は、長円等であってもよく、要は、第2方向Dyに沿った長さが第1方向Dxに沿った長さ以上である形状を有する図形要素であればよい。そして、図形要素における第1方向Dxの長さd1と第2方向Dyの長さd2とが、第1の構造の説明にて述べた各種の条件を満たしていればよい。
・多層膜層16における最外層、すなわち、多層膜層16における凹凸層とは反対側の最表面を構成する層が、保護層として機能してもよい。この場合、多層膜層16が光学機能層である。そして、保護層として機能する層は、保護層よりも下層における凹凸構造の変形や変質等の、発色構造体において所望の発色を得られ難くする変化を、少なくとも1つの観点において抑えることができればよい。
具体的には、多層膜層16における最外層は、多層膜層16における最外層以外の層とは異なる特性を有することによって、保護層として機能する。こうした特性は、構造的な特性であっても化学的な特性であっても物理的な特性であってもよく、例えば、硬さ、厚さ、凹凸の高さ、撥水性等である。例えば、最外層における硬さが他の層よりも大きい構成や、最外層における厚さが他の層よりも大きい構成であれば、最外層は他の層よりも衝撃に強くなるため、最外層よりも下層の凹凸構造が保護される。また、最外層における凹凸の高さが他の層よりも小さく、すなわち、最外層における平坦性が他の層よりも高い構成であれば、多層膜層16の表面の凹凸の高さが小さくなることにより衝撃が凹凸の変形を引き起こし難くなるため、最外層よりも下層の凹凸構造が保護される。
なお、多層膜層16における最外層が、最外層以外の層とは異なる特性を有する場合であっても、多層膜層16全体としては、凹凸層の凹凸構造に追従した表面形状、すなわち、凹凸層の凹凸構造における凹凸の配置に対応する配置の凹凸を有し、多層膜層16は、多層膜層16に入射する入射光のうちの特定の波長域での光の反射率が他の波長域での光の反射率よりも高いように構成される。
[実施例]
上述した発色構造体及びその製造方法について、具体的な実施例を用いて説明する。
<実施例1>
実施例1は、発色構造体が適用された発色シート、及び、この発色シートを用いた成形体である。実施例1の発色シートは、光吸収性を示す基材上の表面の樹脂層に第1の構造の凹凸構造が形成され、裏面の樹脂層に第2の構造の凹凸構造が形成された発色構造体から構成される。
まず、光ナノインプリント法で用いる凹版であるモールド1を用意した。具体的には、光ナノインプリント法において照射する光として、365nmの波長の光を用いたため、この波長の光を透過する合成石英をモールドの材料として用いた。モールドの形成に際しては、まず、合成石英基板の表面に、クロム(Cr)からなる膜をスパッタリングによって成膜し、電子線リソグラフィによって電子線レジストパターンをCr膜上に形成した。形成したパターンは、図2に示した複数の矩形の集合からなるパターンである。
画素となる領域は、一辺が130mmの正方形であり、第1方向における上記矩形の長さは380nmであり、第2方向における上記矩形の長さは、平均値が2400nm、標準偏差が580nmの正規分布から選択される長さである。上記パターンにおいて、複数の矩形は第1方向に重ならないように配列されている。使用したレジストはポジ型であり、膜厚は200nmとした。
次に、塩素(Cl2)と酸素(O2)との混合ガスに高周波を印加して発生させたプラズマにより、レジストから露出した領域のCr膜をエッチングした。続いて、六弗化エタンガスに高周波を印加して発生させたプラズマにより、レジスト及びCr膜から露出した領域の合成石英基板をエッチングした。これによりエッチングした合成石英基板の深さは70nmであった。残存したレジスト及びCr膜を除去することにより、凹凸構造が形成されたモールドを得た。
続いて、モールドの表面に、離型剤としてオプツールHD−1100(ダイキン工業製)を塗布した。そして、基材として用いる合成石英ウエハの表面に、光硬化性樹脂(PAK−02、東洋合成製)を塗布し、この樹脂にモールドの凹凸が形成されている面を押し当てて、モールドの裏面側から365nmの光を照射した。この光の照射によって光硬化性樹脂を硬化した後、合成石英ウエハ及び樹脂層をモールドから剥離した。これにより、凹凸構造を有する樹脂層が積層された合成石英ウエハが得られた。
続いて、合成石英ウエハに対してO2ガスを用いたプラズマによるエッチングを実施し、凹凸構造の凹部に残存している光硬化性樹脂を除去した。この工程では、O2ガスを40sccm導入し、プラズマ放電させた。次に、オクタフルオロシクロブタン(C4F8)とアルゴン(Ar)との混合ガスを用いたプラズマによるエッチングを実施し、樹脂層の有する凹凸構造を合成石英ウエハに転写した。この工程では、C4F8ガスを40sccm、Arガスを60sccm導入し、プラズマチャンバー内の圧力を5mTorrに設定後、RIEパワー75W、ICPパワー400Wを印加して、プラズマ放電させた。合成石英ウエハに形成された凹凸構造における凸部の高さは100nmとした。
次に、ジメチルスルホキシド:モノエタノールアミン=7:3の混合液(ST−105、関東化学製)を用いた有機洗浄、並びに、硫酸及び過酸化水素水を基本成分とする混合水溶液(SH−303、関東化学製)を用いた酸洗浄を行い、第1の構造である凹凸構造を有する基材であるモールド1を得た。
次に、光ナノインプリント法で用いる凹版であるモールド2を用意した。具体的には、光ナノインプリント法において照射する光として、365nmの波長の光を用いたため、この波長の光を透過する合成石英をモールドの材料として用いた。モールドの形成に際しては、まず、合成石英基板の表面に、クロム(Cr)からなる膜をスパッタリングによって成膜し、電子線リソグラフィによって電子線レジストパターンをCr膜上に形成した。形成したパターンは、図2に示した複数の矩形の集合からなるパターンである。第1方向における上記矩形の長さは300nmであり、第2方向における上記矩形の長さは、平均値が2000nm、標準偏差が500nmの正規分布から選択される長さである。上記パターンにおいて、複数の矩形は第1方向に重ならないように配列されている。使用したレジストはポジ型であり、膜厚は200nmとした。
続いて、塩素(Cl2)と酸素(O2)との混合ガスに高周波を印加して発生させたプラズマにより、レジストから露出した領域のCr膜をエッチングした。続いて、六弗化エタンガスに高周波を印加して発生させたプラズマにより、レジスト及びCr膜から露出した領域の合成石英基板をエッチングした。これによりエッチングした合成石英基板の深さは70nmであった。残存したレジスト及びCr膜を除去することにより、第1構造に対応する凹凸構造が形成された合成石英基板を得た。
次に、上記凹凸構造が形成された合成石英基板の表面に、Crからなる膜をスパッタリングによって成膜し、電子線リソグラフィによって電子線レジストパターンをCr膜上に形成した。形成したパターンは、図4に示した複数の帯状領域からなるパターンである。第1方向における上記帯状領域の長さは200nmであり、第2方向における上記帯状領域の長さは94μmであり、第1方向の長さが40μmかつ第2方向の長さが94μmである矩形領域ごとに、第1方向における配列間隔を、平均値が1.5μm、標準偏差が0.5μmとして上記帯状領域が配列されている。使用した電子線レジストはポジ型であり、膜厚は200nmとした。
続いて、塩素(Cl2)と酸素(O2)との混合ガスに高周波を印加して発生させたプラズマにより、レジストから露出した領域のCr膜をエッチングした。続いて、六弗化エタンガスに高周波を印加して発生させたプラズマによりレジスト及びCr膜から露出した領域の合成石英基板をエッチングした。これによりエッチングした合成石英基板の深さは65nmであった。残存したレジスト及びCr膜を除去した後、合成石英基板の表面に、離型剤としてオプツールHD−1100(ダイキン工業製)を塗布した。これにより、第2構造に対応する凹凸構造が形成されたモールド2を得た。
次に、黒色のポリエステルフィルム(ルミラーX30、東レ製)の両面にコロナ処理を施し、一方の面に光硬化性樹脂(PAK−02、東洋合成製)を塗布し、この樹脂にモールド1の凹凸が形成されている面を押し当てて、モールドの裏面側から365nmの光を照射した。この光の照射によって光硬化性樹脂を硬化した後、ポリエステルフィルム及び樹脂層をモールドから剥離した。これにより、第1の構造の凹凸構造を有する樹脂層が積層された基材であるポリエステルフィルムが得られた。
上記基材と樹脂層との積層体の凹凸を有する表面に、真空蒸着によって、膜厚が205nmである高屈折率層としてのTiO2膜と、膜厚が100nmである低屈折率層としてのSiO2膜とを交互に成膜し、高屈折率層と低屈折率層との組を5組、すなわち、10層の層を有する多層膜層を形成した。
次に、第1の構造を施した面とは別の面に、光硬化性樹脂(PAK−02、東洋合成製)を塗布し、この樹脂にモールド2の凹凸が形成されている面を押し当てて、モールドの裏面側から365nmの光を照射した。この光の照射によって光硬化性樹脂を硬化した後、ポリエステルフィルム及び樹脂層をモールドから剥離した。これにより、第2の構造の凹凸構造を有する樹脂層が積層された基材であるポリエステルフィルムが得られた。
次に、得られた基材と樹脂層との積層体の凹凸を有する面に、真空蒸着によって、膜厚が40nmである高屈折率層としてのTiO2膜と、膜厚が75nmである低屈折率層としてのSiO2膜とを交互に成膜し、高屈折率層と低屈折率層との組を5組、すなわち、10層の層を有する多層膜層を形成した。
これによって、第1の構造の凹凸構造を有する側から観察したところ、緑色が視認性良く確認された。第2の構造の凹凸構造を有する側から観察したところ、光沢感のある青色が視認性よく確認された。
<実施例2>
実施例2は、発色構造体が適用された発色シート、及び、この発色シートを用いた成形体である。実施例2の発色シートは、一方の面から透過される光と、他方の面からの反射光との色差Δabが25以下である発色構造体である。
まず、光ナノインプリント法で用いる凹版であるモールド3を用意した。具体的には、光ナノインプリント法において照射する光として、365nmの波長の光を用いたため、この波長の光を透過する合成石英をモールドの材料として用いた。モールドの形成に際しては、まず、合成石英基板の表面に、クロム(Cr)からなる膜をスパッタリングによって成膜し、電子線リソグラフィによって電子線レジストパターンをCr膜上に形成した。形成したパターンは、図2に示した複数の矩形の集合からなるパターンである。
画素となる領域は、一辺が130mmの正方形であり、第1方向における上記矩形の長さは460nmであり、第2方向における上記矩形の長さは、平均値が2400nm、標準偏差が580nmの正規分布から選択される長さである。上記パターンにおいて、複数の矩形は第1方向に重ならないように配列されている。使用したレジストはポジ型であり、膜厚は200nmとした。
次に、塩素(Cl2)と酸素(O2)との混合ガスに高周波を印加して発生させたプラズマにより、レジストから露出した領域のCr膜をエッチングした。続いて、六弗化エタンガスに高周波を印加して発生させたプラズマによりレジスト及びCr膜から露出した領域の合成石英基板をエッチングした。これによりエッチングした合成石英基板の深さは70nmであった。残存したレジスト及びCr膜を除去することにより、凹凸構造が形成されたモールドを得た。
続いて、モールドの表面に、離型剤としてオプツールHD−1100(ダイキン工業製)を塗布した。そして、基材として用いる合成石英ウエハの表面に、光硬化性樹脂(PAK−02、東洋合成製)を塗布し、この樹脂にモールドの凹凸が形成されている面を押し当てて、モールドの裏面側から365nmの光を照射した。この光の照射によって光硬化性樹脂を硬化した後、合成石英ウエハ及び樹脂層をモールドから剥離した。これにより、凹凸構造を有する樹脂層が積層された合成石英ウエハが得られた。
続いて、合成石英ウエハに対してO2ガスを用いたプラズマによるエッチングを実施し、凹凸構造の凹部に残存している光硬化性樹脂を除去した。この工程では、O2ガスを40sccm導入し、プラズマ放電させた。次に、オクタフルオロシクロブタン(C4F8)とアルゴン(Ar)との混合ガスを用いたプラズマによるエッチングを実施し、樹脂層の有する凹凸構造を合成石英ウエハに転写した。この工程では、C4F8ガスを40sccm、Arガスを60sccm導入し、プラズマチャンバー内の圧力を5mTorrに設定後、RIEパワー75W、ICPパワー400Wを印加して、プラズマ放電させた。合成石英ウエハに形成された凹凸構造における凸部の高さは200nmとした。
次に、ジメチルスルホキシド:モノエタノールアミン=7:3の混合液(ST−105、関東化学製)を用いた有機洗浄、及び、硫酸及び過酸化水素水を基本成分とする混合水溶液(SH−303、関東化学製)を用いた酸洗浄を行い、第1の構造である凹凸構造を有する基材であるモールド3を得た。
次に、両面に易接着処理が施されたポリエステルフィルム(コスモシャインA4300、東洋紡製)の易接着処理が施された面に、光硬化性樹脂(PAK−02、東洋合成製)を塗布し、この樹脂にモールド3の凹凸が形成されている面を押し当てて、モールドの裏面側から365nmの光を照射した。この光の照射によって光硬化性樹脂を硬化した後、ポリエステルフィルム及び樹脂層をモールドから剥離した。これにより、第1の構造の凹凸構造を有する樹脂層が積層された基材であるポリエステルフィルムが得られた。
上記基材と樹脂層との積層体の凹凸を有する表面に、真空蒸着によって、膜厚が80nmである高屈折率層としてのTiO2膜と、膜厚が110nmである低屈折率層としてのSiO2膜とを交互に成膜し、高屈折率層と低屈折率層との組を6組、すなわち、12層の層を有する多層膜層を形成した。
次に、第1の構造を施した面とは別の面に、光硬化性樹脂(PAK−02、東洋合成製)を塗布し、この樹脂にモールド2の凹凸が形成されている面を押し当てて、モールドの裏面側から365nmの光を照射した。この光の照射によって光硬化性樹脂を硬化した後、ポリエステルフィルム及び樹脂層をモールドから剥離した。これにより、第2の構造の凹凸構造を有する樹脂層が積層された基材であるポリエステルフィルムが得られた。
次に、得られた基材と樹脂層との積層体の凹凸を有する面に、真空蒸着によって、膜厚が40nmである高屈折率層としてのTiO2膜と、膜厚が75nmである低屈折率層としてのSiO2膜とを交互に成膜し、高屈折率層と低屈折率層との組を5組、すなわち、10層の層を有する多層膜層を形成した。
これによって、第1の構造の凹凸構造を有する側から観察したところ、赤色が視認性良く確認された。第2の構造の凹凸構造を有する側から観察したところ、光沢感のある青色が視認性よく確認された。なお、このとき赤色が視認される側から透過される光と、青色が視認される面の反射光との色差Δabは25であった。