以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。
第1実施例について説明する。図1は、第1実施例に係る走行装置100の低速走行時における側面概観図であり、図2は、図1の状態における走行装置100を上方から観察した上面概観図である。なお、図2では、図1において点線で示すユーザ900を省いている。
走行装置100は、パーソナルモビリティの一種であり、ユーザが立って搭乗することを想定した電動式の移動用車輌である。走行装置100は、走行方向に対して1つの前輪101と2つの後輪102(右側後輪102a、左側後輪102b)を備える。前輪101は、ユーザ900がハンドル115を操作することで向きが変わり、操舵輪として機能する。右側後輪102aと左側後輪102bは、車軸103で連結されており、不図示のモータと減速機構によって駆動されて、駆動輪として機能する。走行装置100は、3つの車輪によって3点で接地しており、ユーザ900が搭乗していない駐機状態でも自立する、静的安定車輌である。
前輪101は、前輪支持部材110により回転可能に支持されている。前輪支持部材110は、前側支柱111とフォーク112を含む。フォーク112は、前側支柱111の一端側に固定されており、前輪101を両側方から挟んで回転自在に軸支している。コイルオーバー116を挟んで前側支柱111の他端側には、ハンドル115が前輪101の回転軸方向に延伸するように固定されている。ユーザ900がハンドル115を旋回操作すると、前側支柱111は、その操作力を伝達して前輪101の向きを変える。
コイルオーバー116は、前側支柱111のうち、フォーク112が固定された一端寄りの位置に設けられた吸収機構である。コイルオーバー116は、コイルスプリングとショックアブソーバが組み合わされて構成され、段差等により走行面から前輪101に外力が作用したときに、その衝撃を吸収する。
後輪102は、後輪支持部材120により回転可能に支持されている。後輪支持部材120は、後側支柱121と本体部122を含む。本体部122は、後側支柱121の一端側を固定支持すると共に、車軸103を介して右側後輪102aと左側後輪102bを回転自在に軸支している。本体部122は、上述のモータと減速機構、モータに給電するバッテリ等を収容する筐体の機能も担う。本体部122の上面にはユーザ900が足を置くためのステップ141が設けられている。
前輪支持部材110と後輪支持部材120とは、旋回継手131とヒンジ継手132を介して連結されている。旋回継手131は、前輪支持部材110を構成する前側支柱111のうち、ハンドル115が固定された他端寄りの位置に固定されている。さらに、旋回継手131は、ヒンジ継手132に枢設されており、前側支柱111の伸延方向と平行な旋回軸TA周りに、ヒンジ継手132と相対的に回動する。ヒンジ継手132は、後輪支持部材120を構成する後側支柱121のうち、本体部122に支持された一端とは反対側の他端と枢設されており、車軸103の伸延方向と平行なヒンジ軸HA周りに、後側支柱121と相対的に回動する。
このような構造により、ユーザ900は、ハンドル115を旋回させると、後輪支持部材120に対して旋回軸TA周りに前輪支持部材110が旋回して前輪101の向きを変えられる。また、ユーザ900は、ハンドル115を走行方向に対して前方へ傾けると、その動作が伝達することにより、前輪支持部材110と後輪支持部材120とがヒンジ軸HA周りに相対的に回転して、前側支柱111と後側支柱121の成す角を小さくできる。前側支柱111と後側支柱121の成す角が小さくなると、前輪101と後輪102のホイールベース(WB)の間隔であるWB長は短くなる。逆に、ユーザ900は、ハンドル115を走行方向に対して後方へ傾けると、前輪支持部材110と後輪支持部材120とがヒンジ軸HA周りに相対的に回転して、前側支柱111と後側支柱121の成す角を大きくできる。前側支柱111と後側支柱121の成す角が大きくなると、WB長は長くなる。すなわち、ユーザ900は、自身の動作を回転力として作用させることにより、WB長を短くしたり長くしたりできる。
ヒンジ継手132の近傍には、付勢バネ133が取り付けられている。付勢バネ133は、ヒンジ軸HA周りに、前側支柱111と後側支柱121の成す角を小さくする回転方向へ付勢力を発揮する。付勢バネ133は、例えば、トーションバネである。付勢バネ133の付勢力は、ユーザ900がハンドル115に触れない場合に、前側支柱111と後側支柱121の成す角が構造上の最小角になるように変化させ、一方で、ユーザ900がハンドル115を走行方向に対して後方へ容易に傾けられる程度に設定されている。したがって、ユーザ900は、ハンドル115への加重およびステップ141への加重の少なくともいずれかを変化させることにより、前側支柱111と後側支柱121の成す角を調整でき、ひいてはWB長を調整できる。すなわち、このようなヒンジ継手132を介して前側支柱111と後側支柱121を接続する機構は、ユーザ900がWB長を調整する調整機構として機能する。
ヒンジ継手132の近傍には、回転角センサ134が取り付けられている。回転角センサ134は、ヒンジ軸HA周りに前側支柱111と後側支柱121の成す角を出力する。すなわち、回転角センサ134は、前輪支持部材110と後輪支持部材120の相対位置を計測する計測部として機能する。回転角センサ134は、例えば、ロータリエンコーダである。回転角センサ134の出力は、後述する制御部へ送信される。
走行装置100は、WB長が短ければ低速で走行し、WB長が長ければ高速で走行する。図1は、WB長が短い低速走行時の様子を示している。図3は、図1と同様の走行装置100の側面概観図であるが、WB長が長い高速走行時の様子を示している。
図示するように、前側支柱111と後側支柱121の成す角を、相対的に開く方向を正として、回転角θとする。また、回転角θが取り得る最小値(最小角)をθMIN、最大値(最大角)をθMAXとする。例えばθMIN=10度でありθMAX=80度である。換言すると、回転角θがθMINとθMAXの範囲に収まるように、構造上の規制部材が設けられている。
WB長は、後述するコイルオーバー116の作用が無い場合において、回転角θと一対一に対応し、WB長=f(θ)の関数により換算できる。したがって、回転角θを変化させることによりWB長を調整できる。本実施例における走行装置100は、ユーザ900が回転角θを大きくすると加速し、小さくすると減速する。つまり、回転角θに対して目標速度が対応付けられており、回転角θが変化すると、それに応じた目標速度に到達するように加減速する。
回転角θが小さくなるとWB長が短くなるので、小回りが利く。すなわち、狭い場所でも動き回ることができる。逆に回転角θが大きくなるとWB長が長くなるので、走行安定性、特に直進性が向上する。すなわち、高速で走行しても路面上の段差等による揺動を受けにくい。また、速度とWB長が連動して変化するので、低速なのにWB長が長いような状態になることが無く、その速度で必要最低限な投影面積で移動ができる。すなわち、走行装置100が移動するために必要な路面上の面積が小さく、余分なスペースを必要としない。これは駐機する場合にも特にその効果を発揮する。また、ユーザ900は、ハンドル115を前後に傾ければ、速度とWB長の両方を連動させて変化させることができるので、運転操作としても簡便で容易である。
さらに、WB長の調整はユーザ900の動作によって生じる作用力が伝達することによって実現されており、WB長を調整するためのアクチュエータを必要としない。したがって、本実施例における走行装置100は装置全体として軽量化が図られており、例えばユーザ900が走行装置100を容易に電車に持ち込むことができるなど、これまでのパーソナルモビリティにはない利便性を提供できる。
図4は、走行面上に存在する段差BPに前輪101が接触する直前と直後のWB長と回転角θの関係を説明する説明図である。図4(a)は直前の様子を表し、図4(b)は直後の様子を表す。
図4(a)で示すように回転角θがθ0の状態で走行している場合には、回転角θ0に対応付けられた目標速度(例えばV0)で走行している。制御部は、速度V0が維持されるように駆動輪を回転駆動する。走行面が平面である通常走行時には、コイルオーバー116は自然長であり、図4(a)で示す段差BPへの接触直前までは、WB長は回転角θ0に対応するWB0である。
速度V0で段差BPに前輪101が接触すると、図4(b)で示すように、前輪101は、段差BPから外力を受け、少なくともその一部は、前輪101を後方へ押し戻す力として働く。一方、後輪102は、駆動輪としての推進力と慣性により前方へ進もうとする。
もしコイルオーバー116が設けられていないと、図4(b)で示す2つの太矢印の力の作用により、前側支柱111と後側支柱121は、ヒンジ軸HA周りに相対的に回転して、回転角θ0は、小さくなる方向に急激に変化する。後述するように、回転角θが大きくなるほど目標速度も大きくなるように対応付けられているので、回転角θが急激に小さくなると、対応付けられている目標速度も瞬時に小さくなる場合がある。すると、後輪102の駆動力が一気に低下し、段差BPを乗り越えられないという状況が生じ得る。
しかし、本実施例においては、コイルオーバー116が設けられている。具体的には、コイルオーバー116は、前側支柱111において、ヒンジ継手132に枢設された旋回継手131が設けられた位置と、前輪101を支持するフォーク112が固定された他端との間に設けられている。また、コイルオーバー116は、回転角θが取り得るθMINとθMAXの範囲内において、車輪101が後方へ押し戻される外力を受けたときに、当該外力の少なくとも一部を吸収して縮むように、その向きが調整されて配置されている。
したがって、本実施例における走行装置100は、速度V0で段差BPに前輪101が接触した直後において、車輪101を後方へ押し戻す外力はコイルオーバー116によって少なくともその一部が吸収される。このとき、コイルオーバー116は、その吸収により走行方向に対して長さdだけ縮んだとすると、WB長は、WB1(=WB0−d)に縮む。しかし、コイルオーバー116のこの作用により、前側支柱111と後側支柱121の相対的な位置関係は段差BPの接触前後で維持されるので、両者の回転角θはθ0を保つ。
前輪101が段差BPに接触した直後において回転角θがθ0のままであれば、対応付けられている目標速度V0も維持されるので、後輪102の駆動力が一気に低下することがなく、より高い確率で段差BPを乗り越えられることが期待できる。なお、前輪101が段差BPに接触してコイルオーバー116が縮み始めた後に、あるいは縮み切った後に、回転角θが徐々にθ0より小さくなっても、前輪101が段差BPを乗り越える初期段階において大きな駆動力を確保できるので、いずれにしても段差乗り越えには有利である。
図5は、走行装置100の制御ブロック図である。制御部200は、例えばCPUであり、本体部122に収容されている。駆動輪ユニット210は、駆動輪である後輪102を駆動するための駆動回路やモータを含み、本体部122に収容されている。制御部200は、駆動輪ユニット210へ駆動信号を送ることにより、後輪102の回転制御を実行する。
車速センサ220は、後輪102または車軸103の回転量を監視して、走行装置100の速度を検出する。車速センサ220は、制御部200の要求に応じて、検出結果を速度信号として制御部200へ送信する。回転角センサ134は、上述のように、回転角θを検出する。回転角センサ134は、制御部200の要求に応じて、検出結果を回転角信号として制御部200へ送信する。
荷重センサ240は、ステップ141へ加えられる荷重を検出する、例えば圧電フィルムであり、ステップ141に埋め込まれている。荷重センサ240は、制御部200の要求に応じて、検出結果を荷重信号として制御部200へ送信する。
メモリ250は、不揮発性の記憶媒体であり、例えばソリッドステートドライブが用いられる。メモリ250は、走行装置100を制御するための制御プログラムの他にも、制御に用いられる様々なパラメータ値、関数、ルックアップテーブル等を記憶している。メモリ250は、回転角θを目標速度に変換する変換テーブル251を記憶している。
図6は、回転角θを目標速度に変換する変換テーブル251の一例としての、回転角θと目標速度の関係を示すグラフである。図示するように、目標速度は回転角θの一次関数として表されており、回転角θが大きくなるにつれて、目標速度が大きくなるように設定されている。最小角θMIN(度)のときに目標速度は0であり、最大角θMAX(度)のときに目標速度は最高速度Vm(km/h)である。このように、変換テーブル251は、関数形式であっても良い。
図7は、回転角θを目標速度に変換する変換テーブル251の他の一例としての、回転角θと目標速度の関係を示すテーブルである。図6の例では、連続的に変化する回転角θに対して連続的に変化する目標速度を対応付けた。図7の例では、連続的に変化する回転角θを複数のグループに区分して、それぞれにひとつの目標速度を対応付ける。
図示するように、回転角θが、θMIN以上θ1未満である場合に目標速度0(km/h)を対応付け、θ1以上θ2未満である場合に目標速度5.0(km/h)を対応付け、θ2以上θ3未満である場合に目標速度10.0(km/h)を対応付け、θ3以上θMAX以下である場合に目標速度15.0(km/h)を対応付ける。このような場合の変換テーブル251は、ルックアップテーブル形式を採用することができる。このように目標速度を、ある程度幅を持たせた回転角θの範囲に対応付けると、例えばユーザ900の体の揺れに影響されて小刻みに目標速度が変わるようなことがなくなり、滑らかな速度変化を期待できる。もちろん、範囲の境界にヒステリシスを持たせても良く、加速時と減速時で範囲の境界を異ならせれば、より滑らかな速度変化を期待できる。
回転角θと目標速度の対応付けは、図5や図6の例に限らず、さまざまな対応付けが可能である。例えば、回転角θの変化量に対する目標速度の変化量を、低速領域においては小さく設定し、高速領域においては大きく設定するといったアレンジも可能である。
低速走行時の小回りの良さはWB長が短いからであり、高速走行時の安定性はWB長が長いからであるので、本来はWB長と目標速度が直接的に対応付けられるべきものである。しかし、本実施例の走行装置100は、目標速度を回転角θに対応付け、前側支柱111にコイルオーバー116を設けることで、小回りの良さと安定性の利点を享受しつつ、WB長の急激な変化によらず走行面の段差を乗り越えられる可能性を高めている。
次に、本実施例における、走行処理について説明する。図8は、走行中の処理を示すフロー図である。フローは、電源スイッチがオンにされ、荷重センサ240から荷重ありの信号を受け取った時点、すなわちユーザ900が搭乗した時点から開始する。
制御部200は、ステップS101で、回転角センサ134から回転角信号を取得して現在の回転角θを算出する。そして、ステップS102で、算出した回転角θを、メモリ250から読み出した変換テーブル251に当てはめ、目標速度を設定する。
制御部200は、目標速度を設定したら、ステップS103へ進み、駆動輪ユニット210へ対して加減速の駆動信号を送信する。具体的には、まず車速センサ220から速度信号を受け取り、現在の速度を確認する。そして、目標速度が、現在の速度より大きければ加速する駆動信号を駆動輪ユニット210へ送信し、現在の速度より小さければ減速する駆動信号を駆動輪ユニット210へ送信する。
制御部200は、加減速中も回転角θが変化したか、つまり、ユーザ900がハンドル115を前後に傾けたかを監視する(ステップS104)。回転角θが変化したと判断したら、再度ステップS101からやり直す。変化していないと判断したらステップS105へ進む。なお、図7のような変換テーブルを採用している場合は、回転角θがひとつの範囲に留まる間は、変化していないと判断する。
制御部200は、ステップS105で、車速センサ220から速度信号を受け取り、目標速度に到達したか否かを判断する。目標速度に到達していないと判断したら、ステップS103へ戻り、加減速を継続する。目標速度に到達したと判断したら、ステップS106へ進む。ステップS106では、目標速度が0であったか否かを確認する。目標速度が0であったなら、ステップS106の時点では走行装置100は停止していることになる。そうでなければ、目標速度により走行中であるので、制御部200は、その速度で走行を維持するように駆動信号を駆動輪ユニット210へ送信する(ステップS107)。
制御部200は、ステップS107で定速走行している間も、回転角θが変化したか、つまり、ユーザ900がハンドル115を前後に傾けたかを監視する(ステップS108)。回転角θが変化したと判断したら、ステップS101へ戻る。変化していないと判断したら定速走行を続けるべく、ステップS107へ戻る。なお、このとき前輪101が段差BPに接触しても、その直後は回転角θに変化が現れないので、制御部200は、定速走行を続けようとする。
ステップS106で目標速度が0であったと確認したら、ステップS109へ進み、ユーザ900が降機したかを荷重センサ240から受信する荷重信号から判断する。ユーザ900が降機していない、つまり荷重があると判断したら、走行制御を継続すべくステップS101へ戻る。降機したと判断したら、一連の処理を終了する。
以上説明した第1実施例においては、走行面から前輪101に外力が作用したときに、前輪支持部材110と前記後輪支持部材120の相対位置の変化を軽減するように外力の少なくとも一部を吸収する吸収機構としてコイルオーバー116を採用した。しかし、吸収機構はこれに限らない。前輪101に外力が加わった直後において、回転角θを検出する回転角センサ134の検出結果にその外力の影響が及ばないように設けられた吸収機構であれば、様々な態様を採用し得る。コイルオーバー116の代わりに、弾性部材として機能するものであれば、例えば段差BPからの外力によって撓む板バネを設けても良い。
また、前輪支持部材110と後輪支持部材120の相対位置を計測する計測部であれば、回転角センサ134に限らず、他のセンサを採用しても良い。例えば、前側支柱111と後側支柱121のそれぞれに重力センサを設けて、重力方向に対するそれぞれの傾きを検出するように構成しても良い。
次に第2実施例について説明する。図9は、第2実施例に係る走行装置510の側面概観図である。走行装置510は、実施例1の走行装置100に対してコイルオーバー116を備えておらず、代わりにロータリダンパー511を備えている。したがって、走行装置100と同様の機能を担う要素については、第1実施例における符番と同じ符番を付して、その説明を省略する。また、制御ブロックの構成や処理フローも、図5から図8を用いて説明したものと同様である。したがって、以下の説明においては、主にハードウェアとしての相違点について説明する。
ロータリダンパー511は、ヒンジ継手132のヒンジ軸HAの回転に作用するように、ヒンジ継手132の近傍に設けられている。ロータリダンパー511は、ヒンジ軸HAにおいて、前輪支持部材110の前側支柱111と後輪支持部材120の後側支柱121との相対角度の変化を抑制する回転抑制機構の一例である。具体的には、ロータリダンパー511は、例えば、シーリングされた円筒空間内にシリコンオイルが充填されており、その中をヒンジ軸に直結された回転軸が回転するときに、回転軸に複数設けられたベーンがシリコンオイルから受ける圧力により、回転粘性抵抗を生じさせるものである。
走行装置510は、ロータリダンパー511を設けることにより、回転角θが急激に変化することを抑制している。つまり、走行面から前輪101に外力が作用したときに、前側支柱111と後側支柱121の相対位置の変化を軽減するように外力の少なくとも一部を吸収する吸収機構として機能する。実施例1のように前輪101が段差BPに接触した直後においては回転角θがθ0に維持されるわけではないが、ロータリダンパー511は、回転角θが小さくなる変化を遅延させることができる。したがって、後輪102の駆動力が一気に低下することがなく、より高い確率で段差BPを乗り越えられることが期待できる。
なお、ロータリダンパー511は、回転角θが小さくなる方向への抵抗が、大きくなる方向への抵抗よりも大きいものであればより良い。このようなロータリダンパーであれば、ユーザ900が速度を上げたいときに、ハンドル操作の妨げになりにくい。
また、回転抑制機構は、ロータリダンパーに限らず、他の機構を採用しても良い。例えば、急激な衝撃を感知する衝撃検知センサを設け、当該センサが衝撃を感知したときに突出するソレノイドにより、前側支柱111と後側支柱121の間に設けたラチェット機構を作用させて、一時的に両者の相対的な回転を妨げるように構成しても良い。もちろん、ラチェット機構に限らず、電磁ブレーキなど他の機構を採用しても良い。
次に第3実施例について説明する。第1実施例および第2実施例では、走行装置に、ハードウェアとしての吸収機構により、走行面上の段差BPを乗り越えられる確率を高めたが、本実施例では、制御部200の制御によって類似の効果が得られるようにする。
図10は、第3実施例に係る走行装置600の側面概観図である。走行装置600のハードウェア構成は、第2実施例に係る走行装置510に対してロータリダンパー511を取り外したものと同等である。第1実施例に係る走行装置100と同様の機能を担う要素については、第1実施例における符番と同じ符番を付して、その説明を省略する。また、制御ブロックの構成や処理フローも、特に言及しない限り図5から図8を用いて説明したものと同様である。
図11は、段差接触前後のWB長と回転角θの関係を説明する説明図である。図11(a)は直前の様子を表し、図11(b)は直後の様子を表す。
図11(a)で示すように回転角θがθ0の状態で走行している場合には、回転角θ0に対応付けられた目標速度(例えばV0)で走行している。制御部は、速度V0が維持されるように駆動輪を回転駆動する。段差BPへの接触直前までは、WB長は回転角θ0に対応するWB0である。
速度V0で段差BPに前輪101が接触すると、図11(b)で示すように、前輪101は、段差BPから外力を受け、少なくともその一部は、車輪101を後方へ押し戻す力として働く。一方、後輪102は、駆動輪としての推進力と慣性により前方へ進もうとする。走行装置600は、上述の実施例における吸収機構を備えていないので、2つの太矢印で示す力の作用により、前側支柱111と後側支柱121は、ヒンジ軸HA周りに相対的に回転して、回転角θは、小さくなる方向に急激に変化してθ1となる。すると、WB長が走行方向に対して長さdだけ縮んでWB0からWB1に変化する。
ここで、目標速度をθ0に対応するV0からθ1に対応するVLへ瞬時に変更してしまうと、後輪102の駆動力が一気に低下し、段差BPを乗り越えられないという状況が生じ得る。そこで、本実施例においては、WB長が長くなるように調整機構が調整された場合に目標速度に追従する応答時間より、WB長が短くなるように調整機構が調整された場合に目標速度に追従する応答時間を長くする制御により、段差BPを乗り越えられる確率を高める。
このような制御手法の例をいくつか説明する。図12は、第1の例における目標速度に追従する応答時間を示すグラフである。横軸は時刻(s)を表し、縦軸は走行装置600の速度を表す。
図12(a)は、例えばユーザ900がハンドル115を操作することによりWB長を長くした場合の変化を示す。WB長がWB0(このときの回転角はθ0)のときに、θ0に対応付けられた現速度V0で走行している状態から、時刻t1において、WB長がWBH(このときの回転角はθH)に広げられたとする。回転角θHに対応付けられた目標速度がVHだとすると、制御部200は、時刻t1から、駆動輪ユニット210へ加速する駆動信号を送信する。この駆動信号により、走行装置600は、時刻t2に目標速度VHに到達する。すなわち、目標速度VHに追従するまでの応答時間はt2−t1である。
図12(b)は、例えばユーザ900がハンドル115を操作したり、段差BPから外力を受けたりして、WB長を短くした(短くなった)場合の変化を示す。WB長がWB0(このときの回転角はθ0)のときに、θ0に対応付けられた現速度V0で走行している状態から、時刻t1において、WB長がWBL(このときの回転角はθL)に縮められたとする。回転角θLに対応付けられた目標速度がVLだとすると、制御部200は、時刻t1から、駆動輪ユニット210へ減速する駆動信号を送信する。なお、ここでは、VH−V0=V0−VLとする。この駆動信号により、走行装置600は、時刻t2よりも遅いt3に目標速度VLに到達する。すなわち、目標速度VLに追従するまでの応答時間はt3−t1であり、t2−t1より長い。
つまり、制御部200は、現速度から目標速度までの変化量が同じであれば、速度を上げる場合に目標速度に追従する応答時間より、速度を下げる場合に目標速度に追従する応答時間を長くするように調整している。換言すると、制御部200は、駆動輪ユニット210へ送信する駆動信号を、速度を下げる場合における単位時間あたりの速度減少量の絶対値が、速度を上げる場合における単位時間あたりの速度増加量の絶対値より小さくなるように、生成している。このように応答時間を設定すると、後輪102の駆動力が一気に低下することがなく、より高い確率で段差BPを乗り越えられることが期待できる。なお、応答時間にどれくらいの差を与えるかは、現速度、目標速度と現速度との差などに応じて変更するように、例えばルックアップテーブル形式により予め設定しておいても良い。
図13は、第2の例における目標速度に追従する応答時間を示すグラフである。例えばユーザ900がハンドル115を操作することによりWB長を長くした場合の変化は、図12(a)の第1の例と同じなので、ここでは、WB長を短くした(短くなった)場合について説明する。
制御部200は、時刻t1においてWB長がWBLに縮められると、第1の例では時刻t1から直ちに減速する駆動信号を駆動輪ユニット210へ送信したが、第2の例では時刻t1から時間tdだけ遅延させて減速する駆動信号を駆動輪ユニット210へ送信する。すなわち、制御部200は、WB長がWBLに縮められても、暫くは現速度V0を維持する。このようにWB長が短くなった場合にのみ遅延させることにより、速度を上げる場合に目標速度に追従する応答時間より、速度を下げる場合に目標速度に追従する応答時間を長くしている。このように応答時間を設定しても、後輪102の駆動力が一気に低下することがなく、より高い確率で段差BPを乗り越えられることが期待できる。なお、遅延時間tdは、現速度、目標速度と現速度との差などに応じて変更するように、例えばルックアップテーブル形式により予め設定しておいても良い。
図14は、第3の例における目標速度に追従する応答時間を示すグラフである。例えばユーザ900がハンドル115を操作することによりWB長を長くした場合の変化は、図12(a)の第1の例と同じなので、ここでは、WB長を短くした(短くなった)場合について説明する。
制御部200は、時刻t1においてWB長がWBLに縮められると、第1の例では時刻t1から時刻t3まで連続的に速度を漸減させたが、第3の例では現速度V0と目標速度VLの間に暫定速度VRを設定し、まずは暫定速度VRまで減速する。そして、時刻t1とt3の間のt4から再び減速し、時刻t3で目標速度VLに到達するように調整する。このようにWB長が短くなった場合にのみ暫定速度VRを設定することにより、速度を上げる場合に目標速度に追従する応答時間より、速度を下げる場合に目標速度に追従する応答時間を長くしている。このように応答時間を設定しても、後輪102の駆動力が一気に低下することがなく、より高い確率で段差BPを乗り越えられることが期待できる。
暫定速度VRは、例えば、現速度V0と目標速度VLを一定の割合で内分する速度に設定することができる。あるいは、現速度V0ごとに暫定速度VRを設定しても良い。また、時刻t4は、時刻t1とt3を一定の割合で内分する時刻に設定することができる。あるいは、現速度V0から暫定速度VRまでの単位時間あたりの速度変化量が、暫定速度VRから目標速度VLまでの単位時間あたりの速度変化量と等しくなるように、時刻t4を設定しても良い。ただし、時刻t4は、暫定速度VRに到達する時刻より後の時刻となるように調整する。このように調整することにより、少なくとも暫定速度VRに対応する駆動力を一定時間出力させることができる。
次に第4実施例について説明する。第1実施例および第2実施例では、走行装置に、ハードウェアとしての吸収機構により、走行面上の段差BPを乗り越えられる確率を高めたが、本実施例では、第3実施例と同様に、制御部200の制御によって類似の効果が得られるようにする。したがって、ハードウェア構成、制御ブロックの構成、処理フローは、特に言及しない限り第3実施例の走行装置600と同様であり、制御部200による制御の相違点を以下に説明する。
図15は、第4実施例に係る回転角θと目標速度の関係を示すグラフであり、第1実施例として図6を用いて説明した回転角θと目標速度の関係と同様の内容を示すグラフである。図6のグラフとの相違点は、回転角θが最小角θMINのときでも、目標速度は0ではなく、0より大きいViが与えられている点である。すなわち、制御部200は、WB長が最短の場合であっても、一定速度Viで走行するように駆動輪ユニット210に駆動信号を送信し続ける。このように制御することで、駆動輪である後輪102は、少なくとも速度Vi以上に対応する駆動力を出力するので、段差BPから受ける外力によりWB長が短くなっても、走行装置600は、ある程度の高さの段差であれば乗り越えることができる。
なお、走行装置600に速度を0にするための操作ボタンを設けておき、ユーザ900が搭乗中に当該操作ボタンを操作したら、制御部200は、減速して速度を0にするように構成しても良い。このように、速度を0にする制御を別途定めて、図8に示す処理フローを適宜修正すれば良い。
また、第4実施例は、第1実施例としての図6の関係をベースとして説明したが、図7の関係をベースとしても良い。図7の関係をベースとする場合には、回転角θがθMIN以上θ1未満までの範囲に対して、0より大きく、5.0(km/h)より小さい目標速度を設定すれば良い。
以上各実施例を説明したが、それぞれの実施例を組み合わせて走行装置を構成しても良い。例えば、コイルオーバー116とロータリダンパー511を共に備えた走行装置であっても良い。また、走行装置の前輪、後輪は、車輪でなくても良く、球状輪、クローラなどの接地要素であっても構わない。また、駆動輪を駆動する動力源はモータに限らず、ガソリンエンジンなどであっても構わない。