以下に図面を用いて本発明に係る実施形態につき詳細に説明する。なお、以下では、主として、乗用型芝刈車両の左右車輪が走行用モータとして油圧モータで駆動される構成を説明するが、走行用モータは電動モータ等、他のモータとしてもよい。以下では左右の主駆動輪としての車輪が後側に配置され、キャスタ輪が前側に配置された場合を説明するが、車輪が前側でキャスタ輪が後側でもよい。
以下で述べる形状、個数、部品の配置関係等は、説明のための例示であって、乗用型芝刈車両の仕様等に合わせ、適宜変更が可能である。また、以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略もしくは簡略化する。
図1から図9は、実施形態に係る乗用型芝刈車両を示している。以下では、乗用型芝刈車両10は、車両10と記載する。図1は、車両10の斜視図である。図2は、車両10を上方から見て第1センサ50a、50bの検知範囲を示す図である。図3は、車両10の特徴構成を示すブロック図である。図4Aは、車両10において、左車輪12用及び右車輪13用の動力発生ユニット26,27とエンジン14との動力伝達構造を上側から見た図である。図4Bは、車両10において、左車輪12用及び右車輪13用の動力発生ユニット26,27の油圧回路28,29を示す図である。
車両10は、芝刈に適した自走型のオフロード用車両である。車両10は、左車輪12及び右車輪13と、キャスタ輪15,16と、芝刈機18と、2つの第1センサ50a、50bと、張力切換アクチュエータ43(図3、図4A)と、制御装置であるコントローラ60(図3)とを備える。
左車輪12及び右車輪13は、車体であるメインフレーム20の後側の左右両側に支持される後輪であり、かつ主駆動輪である。メインフレーム20は、鋼材等の金属により、梁構造等に形成される。メインフレーム20は、左右両端で略前後方向に伸びる側板部20a、20bと、左右両側の側板部20a、20bを連結する連結部20cとを含む。左右の側板部20a、20bの後端部の間で、上側には運転車が座る運転席21が固定される。
メインフレーム20において、運転席21の前側フロアから突き出るように左右の操縦レバー22,23が支持されている。各操縦レバー22,23の先端部は、運転者が掴んで左車輪12及び右車輪13の回転方向及び回転速度を指示するために用いられる。各操縦レバー22,23は、略L字形であり、上端部に左右方向に伸びる把持部24が形成される。把持部24は、運転者に掴まれて操作される。各操縦レバー22,23は、下端部において、左右方向に沿う軸を中心として揺動可能である。
左車輪12及び右車輪13は、メインフレーム20の側板部20a、20bの左右方向外端より外側にはみ出している。各車輪12,13の上側は、車輪カバー25で少なくとも一部が覆われており、車輪カバー25の左右方向内側端部は側板部20a、20bに固定されている。
左右の2つのキャスタ輪15,16は、メインフレーム20の前端部に支持される操向輪であり、かつ前輪である。左車輪12及び右車輪13は、2個の走行用モータである後述の左油圧モータ30(図4B)及び右油圧モータ31(図4B)により、それぞれ独立に走行駆動される。これにより、各キャスタ輪15,16は、車両10の前後方向において、左車輪12及び右車輪13に対し前後方向に離れて設けられる。各キャスタ輪15,16は、鉛直方向(図1の上下方向)の軸を中心として360度以上の自由回転が可能である。なお、キャスタ輪は、車両に2つ配置される構成に限定するものではなく、1つのみ、または3つ以上が車両に配置されてもよい。以下では、左車輪12及び右車輪13は、左右車輪12,13と記載する場合がある。
図4Bに示すように、左車輪12及び右車輪13は、トランスミッション11によって回転方向及び回転速度について、それぞれ独立して駆動可能である。トランスミッション11は、左右の動力発生ユニット26,27を含む。トランスミッション11には、駆動源としてのエンジン14の動力が入力され、左右車輪12,13の駆動軸に、左右の油圧ポンプ32,33の出力が減速歯車機構26b、27bを介して出力される。これにより、トランスミッション11は、エンジン14からの動力を受けて、左車輪12及び右車輪13を、回転方向及び回転速度についてそれぞれ独立して駆動可能に構成する。左右の、固定容積型の油圧モータ30,31は、それぞれ左右の動力発生ユニット26,27を構成する。左右の油圧モータ30,31は、左車輪12及び右車輪13の駆動軸に、それぞれ連結される。各動力発生ユニット26,27は、車輪用の動力を発生させるもので、ケース26a、27aと、その内側の油圧回路28,29とを含む。各油圧回路28,29は、斜板式可変容量型の油圧ポンプ32,33と、油圧ポンプ32,33から圧油が供給されて駆動される油圧モータ30,31と、油圧ポンプ32,33及び油圧モータ30,31を接続する油路34とを有する。油圧モータ30,31は、例えば固定容量型である。油圧ポンプ32,33の駆動軸32a,33aには従動プーリ35がそれぞれ固定されており、後述の駆動源としてのエンジン14によりベルト36を介して駆動される。前記油圧ポンプ32,33は前記トランスミッション11の入力部として機能する。
各油圧ポンプ32,33は、回転によって可動斜板の傾転角度及び向きを変化させる左調節軸である左斜板操作軸32b及び右調節軸である右斜板操作軸33bと、斜板操作軸32b、33bに連結された斜板操作レバー32c、33cとを含む。左斜板操作軸32bは、左油圧ポンプ32の圧油吐出量を調節する。右斜板操作軸33bは、右油圧ポンプ33の圧油吐出量を調節する。斜板操作レバー32c、33cには、左右の対応する側の操縦レバー22,23の下端部が、それぞれリンク37を介して連結される。これにより、操縦レバー22,23が前後方向に揺動することで、斜板操作軸32b、33bが回転する。そして、油圧ポンプ32,33の可動斜板の傾転角度及び向きが変化する。可動斜板の傾転角度の変更によって、油圧ポンプ32,33の吐出量が変化する。操縦レバー22,23が大きく前または後に倒れることで、油圧ポンプ32,33の吐出量が大きくなる。左油圧モータ30は左油圧ポンプ32からの圧油供給で駆動される。右油圧モータ31は右油圧ポンプ33からの圧油供給で駆動される。操縦レバー22,23が中立状態より前側に倒れることで油圧ポンプ32,33は油圧モータ30,31を一方側に回転させるように吐出方向が規定される。操縦レバー22,23が中立状態より後側に倒れることで油圧ポンプ32,33は油圧モータ30,31を他方側に回転させるように吐出方向が規定される。中立状態は、操縦レバー22,23が運転者に掴まれない状態で自動的に復帰する位置にあり油の吐出が無い状態である。油圧モータ30,31の回転方向について、一方側は車輪12,13の前進方向の回転に対応し、他方側は車輪12,13の後進方向の回転に対応する。また、操縦レバー22,23の揺動角度位置は、揺動角度検出部であるレバーポテンショメータ38,39により検出される。レバーポテンショメータ38,39の検出信号は後述のコントローラ60(図3)に送信される。
また、図4Bの油圧回路28,29では、油圧ポンプ32,33及び油圧モータ30,31を接続する2つの主油路S1,S2にチャージ油路C1が接続される。チャージ油路C1は、各主油路S1,S2と油溜まりEとをチェック弁F1、F2を介して接続する。チャージ油路C1は、主油路S1,S2のうち、低圧側の主油路に油溜まりEから油が補充される。また、主油路S1,S2の両方と油溜まりEとの間にはバイパス弁28a、29aが接続される。バイパス弁28a、29aは、手動により、主油路S1,S2と油溜まりEとの間の接続である開放及び遮断である閉鎖を切り替え可能に構成される。図4Bの例では、各バイパス弁28a、28bは、開放側に切り替えられた場合に、主油路S1,S2が絞りを介して油溜まりEに接続されるようにしているが、絞りは省略してもよい。
左右の油圧モータ30,31の出力軸には左右車輪12,13のそれぞれが、動力発生ユニット26,27を構成する減速歯車機構26b、27bを介して動力の伝達可能に連結される。後述するように、車両10は、左右の車輪12,13の独立制御により直進走行及び旋回走行が可能である。
エンジン14は、車両10において、運転席21(図1)の後側に配置される。図4Aに示すように、エンジン14は、鉛直方向(図4Aの紙面の表裏方向)に沿う駆動軸14aが鉛直方向を中心として回転する。駆動軸14aには駆動プーリ40が固定され、駆動プーリ40と、左右の動力発生ユニット26、27に設けられた2つの従動プーリ35とにベルト36が掛け渡される。駆動プーリ40及び2つの従動プーリ35は、軸プーリに相当する。これにより、エンジン14が駆動することで、駆動プーリ40、ベルト36、従動プーリ35を介して油圧ポンプ32,33が駆動される。操縦レバー22,23の操作により、油圧ポンプ32,33から圧油が吐出されて、油圧モータ30,31が回転する。また、車両10は、始動スイッチ(図示せず)がユーザによってオンされることで、エンジン14が予め設定された一定回転速度で運転されるように制御される。油圧ポンプ32,33の駆動源として電動モータが設けられてもよい。
後述のように左右車輪12,13が互いに逆方向に同じ速度で回転することにより、車両10が左車輪12と右車輪13との中間に位置する旋回中心位置70(図2)の周りに急旋回することが可能である。
また、図4Aに示すように、ベルト36は、駆動源の出力部とトランスミッション11の入力部との間に配置されるクラッチとして機能するべく、ベルト張力切替機構41が備えられ、これにより張力の有無が切り換えられる。ベルト張力切替機構41は、ベルト36を外周側から押圧する押圧プーリ42と、押圧プーリ42からベルト36に付与される押圧力の有無を切り替える張力切換アクチュエータ43とを含む。押圧プーリ42は、揺動板部44の一端(図4Aの左端)に支持される。揺動板部44は、メインフレーム20(図1)において、揺動板部44の中間部に位置する上下方向の軸を中心に揺動可能に支持される。張力切換アクチュエータ43は、シリンダ部材45と、シリンダ部材45に軸方向に変位可能に支持されたロッド46と、シリンダ部材45からのロッド46の突出長さを変化させるリニア型のソレノイド(図示せず)とを含む。
ソレノイドは、シリンダ部材45の内側でロッド46の周囲に配置されており、ソレノイドへの通電によってロッド46をシリンダ部材45から突き出すように作動する。ロッド46の先端部は、揺動板部44の他端部(図4Aの右端部)に結合される。揺動板部44にはバネ47が取り付けられており、バネ47は、押圧プーリ42をベルト36の外周面に押し付ける方向に弾力を付与する。これにより、ソレノイドが通電されることでロッド46の突出長さが大きくなり、揺動板部44は、押圧プーリ42がベルト36から離れる方向に揺動する。このため、ベルト36の張力が0となり、エンジン14から油圧ポンプ32,33(図4B)への動力伝達が遮断されるので、油圧ポンプ32,33の吐出量が0または極小となり、油圧モータ30,31(図4B)の回転が停止される。このとき、エンジン14とトランスミッション11との間のクラッチでの動力伝達が切りとなる。したがって、油圧モータ30,31に動力の伝達可能に連結された左右車輪12,13の回転も停止される。この結果、車両10の走行が停止され、車両10が旋回中である場合には旋回も停止される。張力切換アクチュエータ43は、後述のコントローラ60(図3)により制御され、クラッチを断接する。コントローラ60は、後述の第1センサ50a、50bにより障害対象P1,P2,P3(図2)の少なくともいずれかが検出されたときに、張力切換アクチュエータ43を作動させて車両10の旋回を停止させる。これにより、車両10が旋回時に障害対象に衝突しにくくなる。ソレノイドに通電されない場合には、ベルト36に張力が発生し、エンジン14から油圧ポンプ32,33へ動力が伝達されるので、エンジン14とトランスミッション11との間のクラッチでの動力伝達が接続状態となる。
図1に戻って、芝刈機18は、メインフレーム20の長手方向中間部の下側に支持されている。芝刈機18は、前後方向において、キャスタ輪15,16及び左右車輪12,13の間に配置される。芝刈機18は、カバーであるモアデッキ19の内側に配置された芝刈回転工具である芝刈ブレード(図示せず)を含む。芝刈ブレードはモアデッキ19により上側を覆われる。芝刈ブレードは鉛直方向(図1の上下方向)に向いた軸の周りに回転する複数のブレード要素(図示せず)を有する。これにより、ブレード要素が回転して芝を破断して刈取り可能である。芝刈ブレードは、後述のコントローラ60(図3)により制御される芝刈駆動モータ(図示せず)によって回転駆動される。なお、エンジン14の駆動軸に固定された駆動プーリと、芝刈ブレードの駆動軸に固定された従動プーリとにベルトを掛け渡す等により、芝刈機を、エンジン14からの動力を受けて駆動可能な構成としてもよい。刈り取られた芝は、モアデッキ19の左右方向一方側(図1の左側)に設けられた図示しない排出口を通じて車両10の左右方向一方側に排出される。モアデッキ19に集草ダクトを接続し、集草ダクトに接続された集草タンクに、刈り取られた芝を収集することもできる。
また、モアデッキ19の左右方向両端部は、メインフレーム20を構成する左右両側の側板部20a、20bの前後方向中間部において、左右両端から外側にそれぞれ突出している。また、左右車輪12,13のそれぞれは、メインフレーム20の側板部20a、20bのうち、モアデッキ19が外側にはみ出す部分より後側で、左右方向外端より外側に配置されている。
図2に示すように、2つの第1センサ50a、50bは、車両10の左右両側に分かれて配置される。具体的には、2つの第1センサ50a、50bは、モアデッキ19の上面等の上側部分において、メインフレーム20の側板部20a、20bから外側にはみ出した左右両端部に、分かれて固定されて配置される。これにより、2つの第1センサ50a、50bは、車両10の後端よりも前側において左右両側に配置される。各第1センサ50a、50bは、後側に位置する障害対象である障害物または人の存在の有無を検知するように構成される。このような第1センサ50a、50bとして、例えばミリ波レーダが用いられる。このとき、ミリ波レーダは、送信部から送信された電波が障害対象で反射してそれを受信部で受信することにより、予め設定された検知領域での障害対象の存在を検知できる。また、第1センサ50a、50bは、車両10自体が検知されることを防止するために、一方向への指向性があることが好ましい。さらに、第1センサ50a、50bは、障害対象までの距離を測定可能であることが好ましい。例えば、ミリ波レーダにおいて、1つの送信部から送信された電波を、異なる位置に設けられた2つの受信部で受信することにより、障害対象までの距離を測定可能である。図2では斜線部で各第1センサ50a、50bの検知領域が示されている。検知領域は、後側に伸びているが、車両10にはかからない。第1センサ50a、50bの検出信号は、コントローラ60(図3)に送信される。第1センサ50a、50bとして、レーザレーダ、超音波センサ、赤外線センサ等が用いられてもよい。
また、車両10は、車両の運転席21の近くに配置された警告ライト72(図3)を備える。警告ライト72は警告部に相当する。例えば、警告ライト72は、車両において、運転席21の足元近くに固定されてもよい。また、警告ライト72は、前方を向いたとき視界に入りやすい前記キャスタ輪15,16の支持部上方に設置してもよい。また、警告ライト72の作動は、後述のようにコントローラ60により制御され、障害対象に接近したことを、点灯または点滅で警告する。
図3に示すように、コントローラ60は、CPU等の演算部及びメモリ等の記憶部を含むものであり、例えばマイクロコンピュータにより構成される。コントローラ60は、後方急旋回判定部61と、旋回停止部62とを有する。後方急旋回判定部61は、左右のレバーポテンショメータ38,39の検出信号から車両10が後方へ急旋回中であるか否かを判定する。例えば、この検出信号から左右車輪12,13の回転方向及び回転角度が算出される。左右車輪12,13が後方に回転し、かつ、左右車輪12,13の回転速度が異なる場合には、車両10は後側に旋回すると判定される。
さらに、左右車輪12,13の一方の車輪のみが後側に回転する場合には、車両10が後方へ急旋回中であると判定される。また、左右車輪12,13が逆方向に回転し、かつ後側に回転する車輪である、後回転車輪の対地移動速度の絶対値が、前側に回転する車輪である、前回転車輪の対地移動速度の絶対値より大きい場合も、車両10が後方へ急旋回中であると判定される。このような急旋回は後で図7を用いて説明する。後回転車輪及び前回転車輪の対地移動速度のそれぞれの絶対値がゼロより大きく、かつ、両者の絶対値の差がゼロのときには、ゼロターンとなる。
旋回停止部62は、後方急旋回判定部61により車両10が後方へ急旋回中であると判定された場合であって、少なくともいずれかの第1センサ50a、50bにより障害対象が検出されたときには、車両10の後方への急旋回を停止させる。このとき、旋回停止部62が張力切換アクチュエータ43の駆動を制御して、ベルト36の張力を0、すなわちクラッチを切りとすることにより左右の油圧モータ30,31の駆動を停止させる。これにより、左右車輪12,13が停止するので後方への急旋回が停止する。また、旋回停止部62は、車両10が停止中であると判定された場合であって、少なくともいずれかの第1センサ50a、50bにより障害対象が検出されたときには、車両10の後方への急旋回の停止を維持させる。このとき、車両10の後方への急旋回停止を維持させるとともに、後方への直進走行停止を維持させてもよい。
図5は、車両10において、直進走行の状態を示す略図である。図5では、左右車輪12,13及びキャスタ輪15,16の位置関係を示している。図5に示すように、左右の油圧モータ30,31(図4B)により、左右車輪12,13の回転速度を一致させることで、車両10の直進走行が可能である。このとき、左右車輪12,13の地面に対する接地位置の移動速度である対地移動速度V1、V2は一致する。左右のキャスタ輪15,16には動力源は接続されておらず、キャスタ輪15,16は、左右車輪12,13の駆動による車両10の走行に伴って地面から従動的に回転される。一方、左右車輪12,13の回転速度差を発生させることで、車両10の旋回走行が可能である。
図6A、図6B、図6Cは、車両の旋回走行の3例を示している。図6A、図6B、図6Cでも、図5と同様に、左右車輪12,13及びキャスタ輪15,16の位置関係を示している。図6Aは、車両10において、前側への緩旋回走行の状態を示す略図である。図6Aでは、上から見たときに旋回中心位置70が、左右車輪12,13の車軸方向の延長線上で左右車輪12の外側にある。このとき、車両10は比較的緩やかに旋回する。
図6Bは、車両10において、左右車輪12,13の一方の車輪12を中心として前方へ急旋回する状態を示す略図である。図6Bでは、旋回中心位置70が、一方の車輪12の接地位置にある。このような旋回は信地旋回と呼ばれ、図6Aの場合よりも車両10が急に旋回する。
図6Cは、車両10において、左右車輪12,13の間の中央を中心として前方に急旋回する状態を示す略図である。図6Cでは、上から見たときに旋回中心位置70が左右車輪12,13の車軸方向の延長線上で左右車輪12,13の間の中央位置にある。また、左右車輪12,13の速度V1,V2の絶対値は同じであるが、一方の車輪12の速度V1の方向が、他方の車輪13の速度V2の方向とは逆である。この場合、車両10は、図6Bの場合よりもさらに急に旋回する。このような旋回は、超信地旋回、またはスピン旋回、または旋回半径が0となるのでゼロターン(ZTR)と呼ばれる。
図7は、車両10において、後方に急旋回したときの不都合を示す略図である。図7では分かりやすくするために車両10を一点鎖線G1、破線G2の矩形で模式化して示している。車両10が一点鎖線G1の状態から、左右車輪12,13の一方の車輪である左車輪12のみが後進方向に回転し、他方の車輪である右車輪13の停止が維持される場合がある。この場合には、破線G2で示すように、右車輪13の接地位置を旋回中心位置70として、車両10が矢印α方向で示すように後方に急旋回する。そして、一点鎖線G1の状態で車両10の後端より前側で、左側面より外側の付近にPで示す障害対象がある場合がある。このとき、運転席21の運転者から障害対象Pが見えない、または運転者が障害対象Pを見落とすときがある。このときには、車両10が前側で左右方向外側に広がりながら旋回が続行されるので、車両10が破線G2の状態で障害対象Pに衝突する可能性がある。図1から図9に示す実施形態の車両10では、図2にP1,P2で示すように障害対象が車両10の左右方向外側に位置する場合でも、2つの第1センサ50a、50bのうち、少なくとも一方の第1センサ50a、50bによって早期に障害対象を検知できる。この状態で車両10の後方への急旋回が停止または旋回停止が維持される。
また、後方への旋回が停止または停止維持がされた後に、それらの停止及び停止維持を解除するためには、例えば、運転者が前方等に車両10を走行させて障害対象が第1センサ50a、50bの検知領域から外れるようにする。そして、この状態で、例えば左右の操縦レバー22,23を中立状態に戻すことでコントローラ60がリセットを行う構成としてもよい。このリセットは、コントローラ60が、車両の後方への旋回を許可することである。
また、コントローラ60は、少なくともいずれかの第1センサ50a、50bにより障害対象が検出されたときには、車両10の後方への急旋回を停止させるか、または急旋回の停止を維持させるとともに、警告ライト72を作動させる。これにより、運転者は障害対象に接近したことを認識できる。なお、警告ライト72の代わりに、または警告ライト72とともに、車両の運転席21の近くに警告ブザー73を配置することもできる。警告ブザー73は警告部に相当する。警告ブザー73の作動は、コントローラ60により制御され、障害対象に接近したことを音で警告する。コントローラ60は、左右の第1センサ50a、50bの一方または両方により障害対象が検知されたときに警告ブザー73を作動させる。警告ブザー73の作動により、運転者は、障害対象に接近したことを認識できる。
上記の車両10によれば、左右車輪12,13を油圧モータ30,31により独立に走行駆動する構成において、後方への急旋回走行時に車両10への障害対象への衝突を自動で回避しやすい。例えば、運転席に乗車する運転者の視野は、図2に矢印Qで示す範囲である。この範囲から外れた位置、特に、エンジンボンネット141によって遮られるように障害対象があるときには、運転者は後に体の向きを変えるか車両10から降りて確認する必要がある。特に、2つの第1センサ50a、50bのそれぞれは、車両10の後端よりも前側において、左右両側に配置され、後側の比較的地面に近いところに位置する障害対象を検知するように構成される。これにより、車両10の後端のみに後方を検知可能なセンサが配置される場合と異なり、車両10の左右両端より外側で車両10の後端より前側に位置する障害対象も検知しやすい。そして、障害対象の検知により、早期に車両10の旋回を停止できる。
また、図2にP3で示すように、車両の停止状態で、障害対象が左右の第1センサ50a、50bの検出領域のいずれにもかからない場合がある。しかしながら図2、図8で示すように車両10が矢印α方向に後方にゼロターン等で急旋回されると、図8の状態で左側の第1センサ50bにより障害対象P3が検知される。これにより、車両10の急旋回が停止され、障害対象P3に車両10が衝突することが防止される。
また、図7のように、車両10が後方に信地旋回で急旋回する場合にも、停止状態で障害対象が左右の第1センサ50a、50bの検出領域のいずれにもかからない場合がある。この場合でも、急旋回が継続された状態でいずれかの第1センサ50a、50bにより障害対象が検知されやすい。これにより、車両10の急旋回が停止され、障害対象Pに車両10が衝突することが防止される。このように、車両10の後方への急旋回は、左右車輪12,13が逆方向に回転し、かつ、後方に回転する車輪の対地移動速度の絶対値が、前方に回転する車輪の対地移動速度の絶対値以上であるときに生じる。また、左右の車輪12,13の一方の車輪のみが後進方向に回転し、他方の車輪が停止している場合にも、後方への急旋回が生じる。このように車両10が後方に急旋回するときには、確認しにくい位置にある障害対象に車両が接近しやすくなる。また、車両がゼロターンで急旋回する場合には、車両がその場で大きく左右方向に振られるので、確認しにくい位置にある障害対象に車両がより接近しやすくなる。そして、車両が障害対象に衝突することを防止するために運転者に多大の注意が要求される。実施形態では、コントローラ60が第1センサ50a、50bで障害対象が検知されたときに、後方への急旋回を停止または急旋回停止を維持させる構成による効果が顕著になる。
図8では車両10が矢印α方向に急旋回する場合を説明したが、図9で示すように矢印αとは逆の矢印β方向に車両10がゼロターンで後方に急旋回する場合もある。このときには、図9に示す状態で、右側の第1センサ50bにより障害対象P3が検知される。これにより車両10の旋回が停止される。
図10は、実施形態の別例の車両10の特徴構成を示すブロック図である。図11は、図10に示す構成において、図2に対応する図である。図10、図11に示す構成では、図1から図9の構成において、車両10の第1センサ50a、50bより後側に第2センサ51a、51bが配置される。具体的には、左右車輪12,13の上側をそれぞれ覆う左右の車輪カバー25の上側には、2つの第2センサ51a、51bがそれぞれ固定される。各第2センサ51a、51bは、第1センサ50a、50bと同様に、後側に位置する障害対象を検知するように構成される。図11では散点状の領域により各第2センサ51a、51bの検知領域が示されている。検知領域は、後側に伸びているが、車両10にはかからない。第2センサ51a、51bの検出信号は、コントローラ60に送信される。検知不能領域を少なくするために、2つの第2センサ51a、51bの検知領域は、図11のように一部で重なることが好ましい。また、検知不能領域を少なくするために、図11のように、各第2センサ51a、51bの検知領域は、第1センサ50a、50bの検知領域と一部で重なることが好ましい。
コントローラ60は、旋回停止部62(図3)を有する。旋回停止部62は、少なくとも第1センサ50a、50b及び第2センサ51a、51bのいずれかにより障害対象が検出されたときには、車両10の後方への急旋回を停止または急旋回停止を維持させる。
上記の構成によれば、障害対象を検知可能な領域が広がるので、後方への旋回走行時に車両10に接近する障害対象を自動でより検知しやすい。例えば、車両10の後方で車両10の付近に障害対象P3,P4が位置し、かつ、その障害対象を第1センサ50a、50bで検知できないときでも、第2センサ51a、51bにより障害対象P3,P4を検知しやすい。これにより、後方への急旋回走行時に車両10への障害対象への衝突を自動でより有効に回避しやすい。その他の構成及び作用は、図1から図9の構成と同様である。
また、図10、11の構成では、車両10の後端より後側にある障害対象P3,P4を検知しやすい。このため、コントローラ60は、後側に直進すると判定したときであって、かつ障害対象P3,P4を検知したときに、車両10の後側への直進走行を停止させる構成としてもよい。
図12は、実施形態の別例の車両10の特徴構成を示すブロック図である。図13(a)は、図12に示す構成において、図4Aに対応する図であり、図13(b)は、図13(a)の矢印A方向に見た図である。図12、図13の車両10は、図1から図9の構成において、左の操縦レバー22の下端部の周辺部に配置された左のバックスイッチ75と、右の操縦レバー23の下端部の周辺部に配置された右のバックスイッチ76とを備える。左右のバックスイッチ75,76は、左右の操縦レバー22,23が下端部の左右方向の軸Sを中心として、後進を指示する領域(図13のR領域)に揺動されたか否かを検出する。そして、左右のバックスイッチ75,76は、左右の操縦レバー22,23が後進の指示領域に揺動されたことを検出した場合に、その検出信号をコントローラ60に送信する。例えば、バックスイッチ75,76の前端部が操縦レバー22,23の下端部の前端によって、下側に押された場合に、操縦レバー22,23が中立状態から後側に倒されて後進を指示されたことを検出する。コントローラ60は、左右のレバーポテンショメータ38,39だけでなく、バックスイッチ75,76の検出信号を補助的に用いることにより、より安定して車両が後方に急旋回しているか否かを判定する。左右の操縦レバー22,23は、図13の中立位置を中心として、前進を指示する領域の最大変位位置Fmaxから、後進を指示する領域の最大変位位置Rmaxまでの間で変位可能である。左右のレバーポテンショメータ38,39は、左右の操縦レバー22,23の軸Sの付近に配置される。図13(a)では、左右のレバーポテンショメータ38,39の図示を省略する。
また、車両10は、エンジン14のスロットル弁の開度を機械的あるいは電気的に調整するスロットルアクチュエータ78を備える。スロットルアクチュエータ78は、スロットル弁の回動軸(図示せず)に固定されたモータ(図示せず)を含む。コントローラ60は、始動スイッチ(図示せず)がユーザによりオンされることで、エンジン14を予め設定された一定回転速度で運転するように、スロットルアクチュエータ78のモータを制御する。コントローラ60は、始動スイッチがユーザによりオフされることで、スロットル弁を閉鎖させるようにスロットルアクチュエータ78を制御する。
また、コントローラ60は、後方急旋回判定部61(図3)により車両10が後方へ急旋回中であると判定された場合であって、少なくともいずれかの第1センサ50a、50bにより障害対象が検出されたときには、車両10の後方への急旋回を停止させる。コントローラ60は、車両が停止中であると判定された場合であって、少なくともいずれかの第1センサ50a、50bにより障害対象が検出されたときには、車両10の後方への急旋回停止を維持させる。このとき、旋回停止部62(図3)がスロットルアクチュエータ78の駆動を制御してスロットル弁を閉鎖することにより車両の後方への急旋回を停止または急旋回停止を維持させる。その他の構成及び作用は、図1から図9の構成と同様である。
図14は、実施形態の別例の車両10の特徴構成を示すブロック図である。図14の車両10は、図1から図9の構成において、左右のバイパスアクチュエータ79,80を備える。左右のバイパスアクチュエータ79,80は、図4Bを参照して左右それぞれの動力発生ユニット26,27の油圧回路28,29の主油路S1,S2と油溜まりEとの間に接続されたバイパス弁28a、29aをそれぞれ駆動する。バイパス弁28a、29aは、開放状態、すなわち主油路S1,S2と油溜まりEとの接続状態で、主油路S1,S2の油を油溜まりEに排出させる。一方、バイパス弁28a、29aは、閉鎖状態、すなわち主油路S1,S2と油溜まりEとの遮断状態で、主油路S1,S2に油を循環させる。例えば、左のバイパスアクチュエータ79は、左のバイパス弁28aの閉鎖及び開放を電気的に切り替える左ソレノイドを含み、右のバイパスアクチュエータ80は、右のバイパス弁29aの閉鎖及び開放を電気的に切り替える右ソレノイドを含む。各バイパスアクチュエータ79,80は、コントローラ60により制御される。そして、コントローラ60は、左右のバイパスアクチュエータ79,80の駆動を制御して左右のバイパス弁28a、29aを同時に開放状態とすることにより、油圧ポンプ32,33の駆動中でも油圧モータ30,31への油の供給を停止する。これにより、油圧モータ30,31が空回り状態となるので、車両10の後方への急旋回が停止または急旋回停止が維持される。なお、このときには、車両10が惰性で停止されるので、走行中では障害対象に接触する可能性はあるが、その場合でも油圧モータ30,31に駆動力が付与されないので、接触時に加わる力をかなり小さくすることができる。その他の構成及び作用は、図1から図9の構成と同様である。なお、図14の構成でも、図12、図13の構成と同様に、補助的にバックスイッチを設けることもできる。なお、バックスイッチは、図1から図9の構成、図10、図11の構成でも同様に設けることができる。
図15は、実施形態の別例の車両10の特徴構成を示すブロック図である。図16(a)は、図15に示す構成において、図4Aに対応する図であり、図16(b)は、図16(a)の矢印B方向に見た図である。図15、図16の車両10は、図1から図9の構成において、左右それぞれの動力発生ユニット26,27の斜板操作レバー32c、33cは、操縦レバー22,23とリンクを介して連結されていない。その代わりに、車両10は、左右の斜板アクチュエータ81,82を備える。斜板アクチュエータ81,82は、対応する側の油圧ポンプ32,33(図4B)の斜板操作軸32b、33b(図4B)に連結された斜板操作レバー32c、33cを駆動するものであり、コントローラ60によって制御される。斜板アクチュエータ81,82は、例えば対応する側の斜板操作レバー32c、33cを回動するピストンシリンダ機構、またはモータを含む。
コントローラ60は、左右のレバーポテンショメータ38,39からの検出信号に応じて、左右の斜板アクチュエータ81,82の駆動を制御して左右の斜板操作レバー32c、33cを駆動する。例えば左右操縦レバー22,23が前側に倒された場合には、コントローラ60はレバーポテンショメータ38,39からの検出信号に応じて、斜板アクチュエータ81,82の制御により斜板操作レバー32c、33cを一方向に駆動する。これにより、左右の油圧ポンプ32,33の吐出量が変更され、各油圧ポンプ32,33の吐出量が前進側で大きくなるように、各油圧ポンプ32,33の可動斜板を傾転させる。左右操縦レバー22,23が後側に倒された場合には、コントローラ60は、斜板アクチュエータ81,82の制御により斜板操作レバー32c、33cを他方向に駆動する。これにより、左右の油圧ポンプ32,33の吐出量が変更され、各油圧ポンプ32,33の吐出量が後進側で大きくなるように、各油圧ポンプ32,33の可動斜板を傾転させる。このため、コントローラ60は、左右のレバーポテンショメータ38,39の検出信号に応じて左右の斜板アクチュエータ81,82の駆動を制御して左右の油圧ポンプ32,33の可動斜板を傾転させ、油圧ポンプ32,33の吐出量を変更させる。
さらに、コントローラ60は、左右の斜板アクチュエータ81,82の駆動を制御して左右の油圧ポンプ32,33の可動斜板の傾転角度をほぼ中立状態とすることにより各油圧ポンプ32,33の吐出量を実質的にゼロとする。これにより、車両の後方への急旋回を停止または急旋回停止を維持させる。その他の構成及び作用は、図1から図9の構成と同様である。なお、図14の構成でも、図12、図13の構成と同様に、補助的にバックスイッチを設けることもできる。
図17は、実施形態の別例の車両に搭載したバイパスアクチュエータ79,80により操作されるバイパス弁28a、29aを示す断面図である。図17のバイパス弁28a、29aは、図4Bの油圧回路28,29の主油路S1,S2と油溜まりEとの間の接続及び遮断を切り替えるための開閉弁として用いられる。具体的には、バイパス弁28a、29aは、ハウジング83と、その内側に配置されたピストン84及びチェック弁85とを含む。バイパス弁28a、29aの閉鎖時には、チェック弁85のボール86がバネ87により弁座88に付勢されることで、主油路S1,S2と油溜まりEとの間を遮断する。ボール86のバネ側がバネ押さえ部89の孔89aを介して油溜まりEに通じており、かつ、ボールの弁座側が主油路S1,S2に通じている。そして、ピストン84の一端(図17の下端)がボール86に対向し、ピストン84がボール86から離れるように第2バネ90によって付勢されている。ピストン84の他端(図17の上端)は、ハウジング83から突出する。バイパス弁28a、29aは、コントローラ60により進退制御されるバイパスアクチュエータ79,80を図17の下向きに突出動作させることで開放される。具体的には、バイパス弁28a、29aの開放時、すなわち主油路及び油溜まりの接続時には、ピストン84の他端の突出した部分がバイパスアクチュエータによってボール86側に押圧されることで、バイパス弁が開放される。その他の構成及び作用は、図1から図9の構成、または図14の構成と同様である。
なお、図示は省略するが、上記の各例の構成において、レバーポテンショメータの代わりに、左右の油圧回路の2つの主油路S1,S2において、それぞれの油圧を検出する油圧センサを設ける構成としてもよい。そして、コントローラが、各油圧センサの検出信号に応じて、各油圧回路でいずれの主油路が高圧側となるか、及び、各車輪12,13の速度方向及び速度の絶対値を算出する構成としてもよい。そして、コントローラが、その算出結果に応じて、車両が後方に急旋回中であるか否かを判定してもよい。
また、上記の各例の構成において、左右の操縦レバー22,23に方向指示スイッチを取り付けるとともに、例えばキャスタ輪15,16の支持部近傍位置など車両10の前端部の左右方向に分かれた位置に左右2つの方向指示ライトを固定することもできる。各方向指示ライトは、左右の対応する側の方向指示スイッチが押された場合に点滅可能に構成される。このような構成では、方向指示ライトの点滅により周囲にいる人に車両10が前側または後側に旋回することを知らせることができるので、より安全な走行が可能となる。また、方向指示ライトは、上記の警告部として用いられてもよい。具体的には、コントローラは、左右の第1センサ50a、50bの一方または両方により障害対象が検知されたときに左右の方向指示ライトを同時に点滅または点灯させる。