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JP2016131561A - 細胞を回収する方法、及びそれに用いられるポリマー - Google Patents

細胞を回収する方法、及びそれに用いられるポリマー Download PDF

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JP2016131561A JP2015010751A JP2015010751A JP2016131561A JP 2016131561 A JP2016131561 A JP 2016131561A JP 2015010751 A JP2015010751 A JP 2015010751A JP 2015010751 A JP2015010751 A JP 2015010751A JP 2016131561 A JP2016131561 A JP 2016131561A
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賢 田中
Ken Tanaka
賢 田中
隆志 干場
Takashi Hoshiba
隆志 干場
寿彦 大類
Toshihiko Orui
寿彦 大類
佐藤 一博
Kazuhiro Sato
一博 佐藤
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Chiho Endo
千穂 遠藤
貴之 大瀧
Takayuki Otaki
貴之 大瀧
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Abstract

【課題】体内の血中やリンパ液中に浮遊して循環するがん細胞や幹細胞等を効率的に接着して濃縮可能であると共に、当該接着した細胞等を容易に回収する方法及び当該方法に好適に使用されるポリマーを提供する。
【解決手段】0〜37℃の範囲内に下限臨界溶液温度を有すると共に細胞接着性を有する抗血栓性材料に、当該材料の下限臨界溶液温度以上の温度で目的細胞が懸濁する細胞懸濁液を接触させて、当該目的細胞を当該材料の表面に接着させる工程と、水性媒体中で当該材料をその下限臨界溶液温度以下の温度に保持して前記水性媒体中に当該材料を溶解させることで目的細胞を当該水性媒体中に懸濁させて回収する工程と、を含む目的細胞の回収方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、がん細胞や幹細胞などを選択的に吸着すると共に回収する方法、及びそれに用いられるポリマーに関する。より詳細には、水性媒体中に懸濁するがん細胞や幹細胞などを選択的に吸着する吸着性を有すると共に、水性媒体に対する溶解性が温度によって変化するポリマーを用いて血液等の細胞懸濁液中を懸濁するがん細胞や幹細胞などを濃縮、回収する方法、及びそのような特性を有するポリマーに関する。
転移を起こすような進行したがんでは、原発巣から血中に浸潤した血中循環がん細胞(Circulating Tumor Cells:CTCs)が存在する。CTCsを検出、回収する臨床的意義は大きく、がんの診断や新規抗がん剤の開発に応用することができる。例えば、転移がんの早期発見、治療前の奏効性予測、及び治療後の残存腫瘍量の測定から治療効果を判定することができ、がんの病状進行を判断する有用な手段である。現在、乳がんや前立腺がん、大腸がんなどの転移性のがん症例において、CTCsを用いた治療効果の判定や予後予測の有用性が認められている。
しかしながら、転移が始まった一般的ながん患者の場合、血液中100億個の血球細胞あたり、CTCsはおよそ1個程度存在しているに過ぎない。これに対し、血液中には、赤血球や白血球等の血液成分が圧倒的に多く存在する。したがって、極めて低濃度のCTCsを検出するためには、高感度、高効率及び高特異的な解析手段が求められる。そこで、磁気ビーズ、密度勾配遠心分離、マイクロ流路、フローサイトメータを用いた方法でCTCsを濃縮する方法が試みられているが、これらの方法は、煩雑な処理が必要であるうえ、回収率が悪いという問題がある。
CTCsを分離、同定する1つの技術として、細胞表面マーカーに対する抗体を用いた方法があり、細胞表面で発現する上皮細胞接着因子(EpCAM)に対する抗体を用いる方法が米国食品医薬品局(FDA)で承認されている。しかしながら、この抗体を用いて種々の乳がん細胞サブタイプの検出可能性を調べたところ、正常細胞様の乳がん細胞を認識できないという報告があり、このサブタイプを特異的に認識できる抗体を含む新規方法の必要性が指摘されている(例えば、非特許文献1参照)。また、CTCs等のがん細胞は、血液中の血球細胞、例えば赤血球や白血球、あるいは血小板等に比べてサイズが一回り大きいことから、機械的な濾過によりこれらの血球成分を除去し、がん細胞を濃縮することができる。このような方法に、カーボンナノチューブやナノファイバー等の新規なナノ材料からなるフィルターを利用してCTCsを分離・濃縮する技術も提案されている(例えば、非特許文献2を参照)。しかしながら、これらのナノスケール材料を用いた場合でも、細胞サイズの小さいCTCsの捕捉は難しく、血球細胞との分離も依然として困難である。
本発明者は、従来から特殊な水和構造を形成可能なポリマーに着目し、当該ポリマーが通常の水分子とは異なる挙動を示す中間水と呼ばれる形態で含水することが可能であること、及び、含水させた当該ポリマーの表面に生体物質に接触した際に補体系の活性化や血小板の活性化による血栓形成や溶血等を防止可能であり抗血栓性ポリマーの性質を示すことを明らかにしてきた(例えば、特許文献1を参照)。更に、当該抗血栓性ポリマーの水和構造を最適化し、含有可能な中間水の量を抑制することにより、血栓形成や溶血等を防止しつつ、がん細胞や血管内皮細胞、幹細胞等の比較的接着性の高い細胞を接着可能とできることを明らかにしてきた(例えば、特許文献2を参照)。
また、このような特定の水和構造を有するポリマーをがん細胞濃縮フィルターの表面に適用することにより、がん細胞のフィルター表面への接着性を高め、がん細胞の濃縮率を向上させることを提案している(例えば、特許文献3参照)。
WO2004/087228号パンフレット 特開2012−105579号公報 WO2012/173097号パンフレット
特許文献3に記載された、所定のポリマーで被覆されたがん細胞濃縮フィルターにおいては、血球成分の接着性を抑制した状態で高いがん細胞等に対して選択的に接着性を示すために、血中を循環するCTCsを濃縮して捕捉する点においては有用であるが、捕捉したCTCsを培養等して使用する場合には、トリプシンによる剥離等の方法でフィルターに接着したがん細胞を剥離して回収する必要があった。一方、トリプシンによる剥離等の方法を用いた場合には、剥離したがん細胞がダメージを受けるために、CTCsを用いた各種の評価において必ずしも妥当な結果を得ることができないという問題が存在した。
そこで、本発明は、例えば体内の血中やリンパ液中に浮遊して循環するがん細胞や幹細胞等の目的細胞を効率的に接着して濃縮可能であると共に、当該接着した細胞等を容易に回収する方法を提供することを課題とする。また、当該方法に好適に使用されるポリマーを提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、温度応答性を示す種々のポリマーを単独であるいは2種以上を組み合わせてがん細胞や幹細胞等の目的細胞の分離、回収に最適なポリマーを選択し、その回収条件を検討した結果、0〜37℃の範囲内に下限臨界溶液温度を有すると共に細胞接着性を有する抗血栓性材料を用いることにより、上記目的細胞を捕捉できるとともに、当該材料を冷却することで極めて容易かつ効率的に目的細胞を回収できることを見出して本発明を完成した。
すなわち、本発明の目的細胞の回収方法は、0〜37℃の範囲内に下限臨界溶液温度を有すると共に細胞接着性を有する抗血栓性材料に、当該材料の下限臨界溶液温度以上の温度で目的細胞が懸濁する細胞懸濁液を接触させて、目的細胞を当該材料表面に接着させる工程と、水性媒体中で当該材料をその下限臨界溶液温度以下の温度の溶液に保持して前記水性媒体中に当該材料を溶解させることで目的細胞を当該水性媒体中に懸濁させて回収する工程と、を含むことを特徴とする。
また本発明の異なる観点において、上記方法に用いることのできる細胞接着性を有する抗血栓性材料として、下記一般式(I)で表される構造から選択される繰返し単位を含むコポリマーを含むことを特徴とする温度応答性ポリマーが提供される。
一般式中、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、メチル基又はエチル基であり、mは、2又は3であり、nは、繰り返し数を示す。
本発明の好ましい実施形態では、上記式(I)において、Rが水素原子、Rがエチル基、そしてmが2である繰返し単位と、Rがメチル基、Rがメチル基、そしてmが2である繰返し単位と、を含む温度応答性ポリマーである。
本発明によれば、血液中の血球細胞の妨害を受けることなく選択的にがん細胞や幹細胞等の目的細胞を捕捉することができる。本発明の方法に用いられる細胞接着性かつ抗血栓性材料は、0〜37℃の範囲内に下限臨界溶液温度を有するため、当該下限臨界溶液温度以上の温度で捕捉した目的細胞を、当該材料の温度を低下させるだけで効率よく回収することができる。
本発明の細胞回収用材料を用いて血液中のCTCsを回収するための一実施形態を示す概略図である。 各種ポリマーを塗布した基板への、血漿中に懸濁させた(a)血小板あるいは(b)がん細胞の粘着/接着数を示す。 10℃あるいは15℃のインキュベーター内に静置した際の細胞培養液中の温度変化を示す。 各種ポリマーを塗布した基板を10℃あるいは15℃に冷却したリン酸緩衝生理食塩水内で静置した後の、基板の水との静的接触角の変化を示す。 各種ポリマー溶液を用いて塗布した基板上からのがん細胞の回収率を示す。 異なる温度および時間において、各種ポリマーを塗布した基板からのがん細胞の回収率を示す。 温度応答性ポリマーを含有する細胞培養用培地中で培養した際のがん細胞に対する細胞毒性を示す。 各種ポリマーを塗布した基板に血液を接触させた後の細胞の接着形態を示す。
以下、場合により図面を参照しながら、好適な実施形態を説明する。
特許文献1に記載されるポリマーは、表1に示すように「中間水」と定義される水分子を含有可能な所定の水和構造を有することにより、生体由来の物質に接触した際に、例えば血小板等の血球成分の接着が抑制される等の生体適合性を示すことが確認されている。同時に、それぞれのポリマー構造に応じて決まる相転移温度(下限臨界溶液温度(LCST))が存在し、当該温度以下の温度域においてはポリマー分子が水溶性を示す一方で、当該相転移温度以上の温度域においてはポリマー分子が非水溶性となることが確認されている。なお、表1におけるポリマーA〜Fは特許文献1に記載されるものであり、本発明における一般式(I):

におけるR、R、mをそれぞれ表中に示す構造とする繰り返し単位のみからなるホモポリマーである。また、表1等に示すLCSTは、各ポリマーが純水中において示すLCSTである。特許文献1に記載されるポリマー等において、下限臨界溶液温度(LCST)が存在する理由は明らかで無いが、主鎖および側鎖に含まれる疎水性基と、側鎖に含まれるエチレングリコールユニット等に起因する親水性基とのバランスに起因して、温度に応じて疎水性基の部分、或いは親水性基の部分が外部に露出する一種の相変態を生じる結果として、所定の温度以上で疎水的な特性を示すポリマーが、当該温度以下で親水的となって水溶性を示すものと考えられる。LCSTは、そのポリマー構造と共に、周囲の環境が有する極性等によって変化するものであるため、等張液などの各種の溶質を含む水溶液中では、その成分や濃度に応じて数℃程度、LCSTが低下する傾向が見られる。
表2には、上記ポリマーA〜Fを構成する繰り返し単位を、それぞれ50%ずつ含むコポリマー(共重合体)が有するLCSTを示す。表2に示されるように、一般式(I)に含まれる繰り返し単位を含むコポリマーは、当該コポリマーを構成する各繰り返し単位のみからなるホモポリマーが有するLCSTの中間的なLCSTを示すことが確認されており、これを利用して一般式(I)に含まれる繰り返し単位を含むコポリマーとすることにより、適宜のLCSTを有するポリマーを得ることが可能である。この際に、上記ホモポリマーFのように、ホモポリマーとした際には顕在的なLCSTを有しない繰り返し単位であっても、コポリマーとした際にLCSTを示す繰り返し単位が存在することから、このような繰り返し単位は0℃以下の温度に潜在的なLCSTを有するものと考えられる。
また、特許文献2にも記載されるように、ほとんど水和性を示さず表面水層を形成しない物質や、水和性組成物であっても表面水層が不凍水や自由水から構成されていて中間水が実質的に存在しない物質の表面においては、血液等の体液中に存在する全ての細胞や血漿タンパク質が高い吸着頻度で吸着を生じることが知られている。これに対して、中間水を含むポリマー表面においては、中間水の量が比較的微量であっても、血小板のように比較的小さな浮遊系の細胞や血漿タンパク質の吸着が抑制されると共に、補体系の活性化や血小板の活性化による血栓形成や溶血等を防止可能となり、いわゆる生体適合性を示すことが明らかになっている。一方、中間水が存在することで浮遊系の細胞や血漿タンパク質の吸着が抑制される表面においても、がん細胞や幹細胞などの比較的大型で吸着能が高い細胞は依然として吸着を生じ、これらの吸着を防止するためには更に大きな割合で中間水を含有することが必要であることが明らかになっている。このように、細胞等の種類によって吸着頻度が低下する中間水量が大きく変化することを利用して、適宜の中間水量を有する水和性組成物を細胞等の吸着材として用いることにより、目的に応じた細胞を選択的に吸着することが可能となっている。
上記のような知見に基づいて、本発明者は、特許文献1に記載されるような中間水を有すると共に、LCSTを有するポリマーから適切なポリマーを選択することで、血液等の体液中等に存在するがん細胞や幹細胞などを選択的に吸着すると共に、LCSTを利用して当該吸着した細胞を容易に水性の媒質中に回収することが可能となると考えて種々の検討を行った結果、本発明を完成するに至ったものである。
つまり、本発明者が種々の検討を行った結果、中間水を含有すると共にLCSTを有して体温以下の温度で溶解するポリマーの内で、同一の繰り返し単位からなるホモポリマーを用いた細胞吸着用の基材を使用した場合には、がん細胞等の選択的接着が確認される一方で、水性媒体中でポリマーをLCST以下の温度に冷却して溶解させた際にがん細胞等が水性媒体中に放出される割合が低く、大部分が基材上に残留することが観察された。これに対して、異なる繰り返し単位を含むコポリマーを用いた細胞吸着用の基材を使用した場合には、同様にがん細胞等の選択的接着が確認されると共に、低温の水性媒体中でポリマーを溶解した際に高い割合でがん細胞等が水性媒体中に放出され、回収可能であることが明らかになった。
上記のように、同様に中間水を有し、LCSTを示すにも関わらず、ポリマーの構造によって、ポリマーの溶解時にポリマーに接着した細胞が基材上に残留し、又は、水性媒体中に放出されるとの違いを生じる理由は明らかでないが、ポリマーの構造によってポリマーからなる被膜が溶解する際の挙動が異なることが原因であると考えられる。つまり、ポリマーがコポリマーである場合には、水性媒体中での冷却過程において、LCSTがより高温である部分が先に親水化して溶解するためにポリマー被膜の溶解が不均一に進行すると考えられる。この結果、部分的に溶解・膨潤して密着力の低下したポリマー被膜が基材や細胞から遊離し、その後に被膜の溶解が完了するために、その過程で細胞の放出が促進されるものと考えられる。一方、ポリマーがホモポリマーである場合、水性媒体中での冷却過程においてポリマー被膜がその表面から順次溶解するために、疎水性相互作用等によりポリマー被膜の表面に細胞が接着した状態で溶解が進展する結果、ポリマー被膜が溶失した後の基材表面に細胞が再接着して水性媒体中に放出されないものと推察される。
上記のような所定の構造のポリマーを使用した際のがん細胞等の接着と剥離の挙動を利用して、本発明に係るがん細胞の回収方法は、所定量の中間水を含有可能であると共に、回収の対象である細胞が懸濁する細胞懸濁液中で体温である37℃以下のLCSTを有するコポリマーを用いて少なくとも表面の一部を被覆した基体を使用することを特徴として、LCST以上の温度において当該ポリマー表面を血液やリンパ液等の細胞懸濁液に接触させてがん細胞や幹細胞等を当該ポリマーの表面に接着(吸着)する工程を含むものである。当該工程においては、使用するポリマーが所定量の中間水を含有することにより、血小板等の血球細胞やタンパク質等の吸着が抑制される一方で、がん細胞や幹細胞等の比較的大型の細胞をポリマー表面に選択的に接着することができる。なお、本明細書においては、ポリマー表面に対する細胞の挙動について、「接着」と「吸着」の語を同一の意味を有するものとして相補的に使用することがある。
次に、上記でポリマー表面にがん細胞や幹細胞等を接着させた基体を、当該がん細胞等を回収するための水性媒体中に移し、そのLCST以下の温度としてポリマーを溶解させることで、ポリマー表面に接着したがん細胞等を基体から脱離させて水性媒体中に回収する工程を有する。当該ポリマーを溶解させる際に、2種類以上の異なる繰り返し単位を含むコポリマーを使用することにより、単一の繰り返し単位からなるホモポリマーを用いる場合と比べて水性媒体中への細胞の回収率を高めることが可能となる。また、本発明によれば、接着したがん細胞などを水性媒体中に回収する際に、トリプシン処理等のように細胞の接着機構を積極的に損なう処理を必要とせず、細胞が接着している足場を溶出させることで基体から剥離させるため、より健全な状態でがん細胞を水性媒体中に回収することが可能となる。また、本発明者が別に明らかにするとおり、血小板等の接着が抑制されるような水和構造を有するポリマー表面は細胞培養の基質としても良好であるため、本発明においてがん細胞等が基体に接着した際にも、その健全性が維持可能であると考えられる。
本発明に係る細胞の回収方法で用いるポリマーとしては、がん細胞等の採取対象となる血液等の細胞懸濁液中におけるLCSTが0℃〜37℃のものが好ましく使用される。また、水性媒体中において冷却した際のポリマーの溶解速度を高める観点や、過度の冷却による細胞の活性低下を防止する観点からは、LCSTが5℃以上、より好ましくは10℃以上であることが望ましい。一方、特に生体中の血液と接触して使用する際には、血液との接触中のポリマーの溶解を確実に防止し、ポリマー表面を安定にする観点から、LCSTが35℃以下、より好ましくは30℃以下のポリマーを使用することが望ましい。
本発明に係る細胞の回収方法を適用してがん細胞等を回収する対象としては、水性の媒体中に回収の目的となるがん細胞等が存在する(または、存在が疑われる)細胞懸濁液であれば特に限定されず、例えば、体内を循環する血液の一部を体外循環したものであってもよく、また所定のポリマーで被覆した基体を体内留置する等して、実質的に生体中に存在する状態の血液に対して適用することが可能である。また、体外に取り出した血液やリンパ液、その他の体液や、当該体液などを処理して得られる細胞懸濁液、生体組織を処理することで分離したがん細胞等を含む細胞懸濁液に対して、本発明に係るポリマーで被覆した基体を、当該ポリマーのLCST以上の温度で接触させることでポリマー表面にがん細胞等を接着してもよい。
また、基体を被覆したポリマーにがん細胞等を効率的に接着させるために、ポリマー表面と接着させようとする細胞の接触頻度を高める操作を行うことが好ましい。つまり、特に全血などからがん細胞を接着して回収しようとする場合、高い密度で存在する血球細胞によってがん細胞とポリマー表面の接触頻度が低下する場合があるため、特に目的とするがん細胞等の密度が低い場合には、必要に応じて適宜の血漿や等張液等で全血を希釈して確実に目的とするがん細胞等が確実にポリマー表面に接触するようにすることが好ましい。また、がん細胞等を含む媒体を所定の流速でポリマー表面と接触させることで、がん細胞等がポリマー表面に接触する頻度を高めると共に、血球細胞などがポリマー表面に物理吸着等を生じることを防止することも好ましい。
本発明によりポリマー表面に接着したがん細胞等を回収する水性媒体としては、回収の目的に応じて適宜選択される水性媒体を用いることができる。例えば、回収した細胞をその後に培養する場合あるいは遺伝子変異解析、発現遺伝子の解析、産生タンパク質の解析に用いる場合には、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、血清を含有した一般的に細胞培養に用いられる培養培地、血清を含有しない培養培地などを用いることができる。ポリマー表面にがん細胞等を接着した基体からのがん細胞等の回収は、上記水性媒体中で基体を当該ポリマーのLCST以下の温度にすることで、当該ポリマーが水性媒体中に溶解し、これに伴ってがん細胞等が水性媒体中に遊離することを利用して行うことができる。水性媒体中に遊離したがん細胞等は、従来の細胞サンプルと同様に、その目的に応じて取り扱われることが可能である。例えば、がん細胞の増殖培養、増殖培養後のがん細胞を用いた抗がん剤耐性試験、回収したがん細胞を用いた遺伝子変異解析、抗がん剤耐性の発現に関わるトランスポーターなどを含むがん細胞内で発現する遺伝子の定量解析、半定量解析、定性解析、タンパク質の産生量の解析、さらに一般的に病理検査に用いられるヘマトキシリンーエオシン染色等の組織染色、抗体を用いた免疫染色によるがん細胞の性状解析等に用いることができる。
本発明に係る方法でがん細胞などを回収する際に使用されるポリマーは、上記で説明したとおり、所定の抗血栓性を有することで血液中に高密度で存在する血球細胞等を接着しない一方で、がん細胞等に対して一定の接着性を示すと共に、0〜37℃の範囲にLCSTが存在するコポリマーであれば特に限定せずに使用することができる。一実施形態において、本発明に係る方法でがん細胞などを回収する際に、下記一般式(I)で表される繰返し単位を含むポリマーを用いることができる。
上記一般式中、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、メチル基又はエチル基であり、mは、2又は3であり、nは、繰り返し数を示す。
一般式(I)で表される繰返し単位を所定以上の割合で含むことにより、表1,2に示すように中間水を含有可能であることにより抗血栓性を示す一方で、がん細胞や幹細胞等の比較的大型で接着性の強い細胞を接着することが可能であると同時に、その構造に応じた下限臨界溶液温度を示すコポリマーとすることが可能である。この際に、コポリマーを構成する繰り返し単位の全てが一般式(I)で表されるものであることが、中間水の含有量やLCSTの調整が容易な点でより好ましいが、その目的等に応じて、コポリマーには一般式(I)で表される以外の繰り返し単位を含むことが可能である。
上記の一般式(I)で表される繰返し単位を含むポリマーは、典型的には、下記一般式(II)で表される構造から選択される、少なくとも1種類のモノマーを含む溶液に適切な開始剤を添加し、ランダム重合、イオン重合、光重合、マクロマーを利用した重合等の一般的な方法によって重合させることにより製造することができる。重合反応を行う温度は、40℃〜100℃が好ましく、60℃〜90℃がより好ましく、70℃〜80℃が更に好ましい。重合反応を行う圧力は常圧であることが好ましい。重合反応は、それぞれのモノマーを混合してランダム共重合を行ってもよく、あるいは、それぞれのモノマーをある程度重合してから両者を混合して行うブロック共重合でもよい。
上記一般式(II)中、R、R及びmの定義は、一般式(I)と同様である。
重合反応において、溶媒としては、上記一般式(II)で表される構造から選択される、少なくとも2種類のモノマーを溶解可能な溶媒を使用できる。例えば脂肪族又は芳香族の有機溶媒であり、より具体的には、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、オルト−ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素が挙げられ、ジオキサン等のエーテル系溶媒が好ましい。
上記一般式(I)に記載される繰返し単位においては、表1に記載のLCSTや中間水量に示されるとおり、一般式(I)中のR、R及びmに応じて、LCSTや中間水量を変化することが可能である。一般に、Rをメチル基から水素、Rをエチル基からメチル基とするなど各部位の親水性が増加するに従ってLCSTが高温側に変移し、含有できる中間水の量が増加する傾向が見られる。また、親水性を示すと考えられるエチレングリコール部(C−O)の繰り返し数(m)を2から3に増加することによってもLCSTが高温側に変移し、含有できる中間水の量が増加する傾向が見られる。本発明に係る細胞の回収方法においては、このような各繰り返し単位の構造が固有に有する特性を利用して、特に回収するがん細胞等が存在する水溶液中におけるLCSTが0〜37℃の範囲になるように複数種の繰り返し単位を含むコポリマーを合成して使用することが好ましい。
なお、表1,2に記載したLCSTは、Milli−Q水(純水)中に各ポリマーを1.0wt%の濃度で溶解して高分子溶液として、この高分子溶液500μLをマイクロセルに入れてV−630型分光光度計(日本分光株式会社, 東京)を用いて波長500nmの可視光での透過率を測定しながら0.5℃/minの速度で温度を上昇させ、各ポリマーの析出により高分子溶液の光透過率が高分子を溶解させていないMilli−Q水の透過率の50%となった際の温度を測定したものである。LCSTは、周囲の環境が有する極性等によって変化し、等張液などの各種の溶質を含む水溶液中では、その成分や濃度に応じてLCSTが2〜5℃程度、低下する傾向が見られる。また、表1、2に記載した中間水の量は、それぞれのポリマーについて特許文献2等に記載された測定方法により測定されたものである。つまり、飽和含水させた各ポリマーを−100℃程度まで冷却した後に室温まで再加熱する過程において観察される−40℃近辺の発熱と、−20℃〜0℃の間で見られる吸熱の量から、当該ポリマーに含有される中間水の重量を求めて、当該ポリマーの乾燥重量で除したものである。
この「中間水」と呼ばれる状態の水分子は、リン脂質等の生体物質にも含まれるものであって、中間水が物質の表面に存在することにより生体組織中のタンパク質の非特異的吸着が防止されることが明らかとなっている。中間水は、例えば−100℃程度の低温からの昇温過程において、水の低温結晶化に基づく潜熱の移動に由来する発熱ピークを、典型的には−40℃付近に生じることによって特徴づけられる。この低温結晶化は、非晶質の氷から結晶性の氷への変態と考えられる。中間水は高分子鎖との特定の相互作用により弱く拘束された水分子と考えられており、この結果として低温結晶化のように水分子単独では観察されない独特な挙動を生じると考えられている。このような中間水の含有割合に応じて、生体中のタンパク質や、血小板等の血球、各種体細胞の吸着が防止できる一方で、中間水の量を適宜調整することにより生体内に存在する物質を選択的に吸着可能であることが明らかになりつつある。
すなわち、本発明で使用されるポリマーには、これまでに存在が知られていた(1)ポリマーと弱い相互作用をしており0℃で凝固・融解する「自由水」、(2)ポリマーと強い相互作用をしており−100℃でも凍結しない「不凍水」に加えて、(3)自由水と不凍水の中間的な相互作用を受けて0℃より低温で凍結する「中間水」が含まれる水和構造が存在すると考えられる。この水和構造により、正常な血球細胞は基板表面への接着が抑制される一方で、がん細胞や幹細胞などは細胞表面の糖鎖の発現が正常細胞とは異なるためにポリマー表面の水和構造をかく乱し、当該ポリマーを成す分子や基板表面への接着性を発現すると考えられる。本発明で使用されるポリマーにおいても、この中間水を所定量の割合で含有することで、生体内組織や血液中のタンパク質と接触した際にタンパク質の吸着変性や活性化・接着が抑制される一方で、がん細胞や幹細胞等を選択的に接着可能である。特に血液中を循環して、生体内の組織に接着してがんの転移を生じるCTCsなどは高い接着性を有しており、本発明に係るがん細胞の回収方法が好適に適用されるものと考えられる。
以上で説明した機構により、本発明に係る方法でがん細胞等を回収する際に使用されるポリマーは、所定の抗血栓性を有することで血液中に高密度で存在する血球細胞等を接着しない一方で、がん細胞等に対して一定の接着性を示すと共に、0〜37℃の範囲にLCSTが存在するコポリマーであれば特に限定せずに使用することができるが、特に一般式(I)に示す繰り返し単位を含むコポリマーを用いることで、より簡便に本発明に係るがん細胞等を回収する方法を実施することができる。
また、一般式(I)に示す繰り返し単位を含むコポリマーを用いる際に、一般式(I)で示される複数の繰り返し単位を組み合わせてコポリマーとしてもよく、他の構造の繰り返し単位を一般式(I)に示す繰り返し単位と組み合わせてコポリマーとしてもよい。その際に、当該他の構造の繰り返し単位としては、必ずしも単独で中間水を含有してLCSTを示すポリマーを与える繰り返し単位や、水溶性のポリマーを与える繰り返し単位を使用する必要はなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜の繰り返し単位を使用したコポリマーとすることが可能である。つまり、強い極性を示す極性基を高密度で含む繰り返し単位を一般式(I)に示す繰り返し単位と組み合わせてコポリマーとした場合には、当該極性の影響で一般式(I)に示す繰り返し単位が本来示す挙動が阻害され、中間水の含有等が阻害される場合が存在する。その一方で、極性等が所定以下の繰り返し単位を一般式(I)に示す繰り返し単位と組み合わせてコポリマーとした場合には、その割合に応じて含有される中間水の量が減少し、LCSTがより低温下する傾向が見られるため、特に本発明において使用するポリマーの特性を調整する点で有用である。本発明で使用するコポリマーにおける各繰り返し単位間の配置は特に制限がなく、ランダムコポリマー若しくはブロックコポリマー若しくはグラフトコポリマー等の形態で使用することができる。特に、ブロックコポリマー若しくはグラフトコポリマー等の形態とすることで、ポリマー鎖を部分的に不溶化して、LCST以下の温度に冷却した際にポリマー鎖の一部が基材表面に接着した状態とすることで、ポリマー表面に接着したがん細胞等を水性媒体に剥離しつつ、ポリマーの水性媒体中への溶解を防止し、水性媒体の汚染を防止することも好ましい。
一般式(I)に示す繰り返し単位と他の構造の繰り返し単位を組み合わせるために、上記一般式(II)で表される構造から選択されるモノマーと重合可能なモノマーとしては、重合によって得られるコポリマーが所定量の中間水を含有可能であると共に、0〜37℃の温度範囲にLCSTを有するコポリマーを生成するものであれば特に制限がなく、アクリルアミド、t−ブチルアクリルアミド、n−ブチルアクリルアミド、i−ブチルアクリルアミド、ヘキシルアクリルアミド、ヘプチルアクリルアミド等のアルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等のN,N−ジアルキルアクリルアミド、アミノメチルアクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノイソプロピルアクリレート等のアミノアルキルアクリレート、ジアミノメチルアクリレート、ジアミノエチルアクリレート、ジアミノブチルアクリレート等のジアミノアルキルアクリレート、メタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド等のN,N−ジアルキルメタクリルアミド、アミノメチルメタクリレート、アミノエチルメタクリレート等のアミノアルキルメタクリレート、ジアミノメチルメタクリレート、ジアミノエチルメタクリレート等のジアミノアルキルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート等のアルキルメタクリレート、メトキシ(メタ)アクリレート等のアルコキシ(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、プロピレン等が挙げられる。また、本発明で使用するポリマーの中間水含有量とLCSTを独立して調整する観点からは、上記一般式(II)で表される構造から選択されるモノマーに対して、中間水を含有せずにLCSTを示す(メタ)アクリルアミド化合物、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド等のN―アクリル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等のN,N―ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、1−(1−オキサ−2−プロペニル)−ピロリジン等のN−ヘテロ環状基置換(メタ)アクリルアミド誘導体などを用いることが可能である。
本発明で用いるコポリマーにおける各繰り返し単位の割合は、使用する繰り返し単位が本来的に有するLCSTや中間水の含有可能量などに応じて、合成したコポリマーのLCSTが0〜37℃であり、所定の量の中間水を含有可能な範囲であれば特に制限はないが、水性媒体中でLCST以下の温度にして溶解をさせる際の細胞の剥離性を確保する観点からは、少なくても主となる繰り返し単位の割合を90%以下とすることが好ましい。このようにすることで、コポリマーからなる被膜が不均一な溶解を生じ、ポリマーに接着した細胞を良好に剥離することが可能である。また、主となる繰り返し単位の割合を70%、より好ましくは60%以下にすることで、細胞の剥離性を高めることが可能である。更に、3種以上の繰り返し単位を含むコポリマーとすることで、主となる繰り返し単位の割合を40%、更に30%以下とすることも好ましい。
また、本発明でがん細胞等の回収に使用するポリマーとして、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、複数種のポリマーを混合してなるポリマーを使用してもよい。特に、LCSTが異なるポリマーを混合して使用することにより、水性媒体中でのポリマーの溶解過程が不均一になり、表面に接着したがん細胞等の剥離が促進される点で好ましい。その際に、異なるLCSTを有するポリマーの混合形態等を調整することによって、各ポリマーとしてホモポリマーを用いることによっても表面に接着したがん細胞等の剥離が促進されることが期待される。
本発明に係るがん細胞等を回収する方法は、中間水を含むポリマー表面に対する接着性を示すがん細胞に適用可能であるが、血管への浸潤を起こしやすい上皮性細胞由来のがんに好適に適用可能であり、その中でもCTCsが多いとされている、肺がん、大腸がん若しくは胃がん若しくは食道がん等の消化器がん、乳がん、前立腺がんに適用することが特に好ましい。また、本発明に係るがん細胞等を回収する方法は、がん細胞以外にも、血液中などに存在する幹細胞、血管内皮細胞などに対しても使用可能である。
一実施形態において、本発明は、任意の形状からなる基板材料表面の少なくとも一部を上記説明したポリマーで被覆された細胞回収用材料を提供する。細胞回収用材料の形状や形態は、その用途に応じて適宜決定することができる。例えば、細胞培養用のディッシュの表面に所定のポリマーを塗布して、細胞懸濁液を投入して用いることができる。また、管状のあるいはメッシュ、ステント上の基板材料の内面に所定のポリマーを塗布したものを使用して、内部に血液等の細胞懸濁液を流通させて使用することも可能である。また、複数の貫通孔を有するフィルター形状あるいはマイクロデバイス等の基板材料表面の少なくとも一部に所定のポリマーを塗布して血液等の細胞懸濁液を流通させて用いてもよい。更に、細胞によるサイズ違いを利用してがん細胞等を回収するフィルター表面の少なくとも一部に所定のポリマーを塗布して、細胞回収の補助的手段として使用してもよい。
細胞回収用材料の表面に本発明のポリマーを適用する方法としては、適宜の形態が制限無く使用可能であるが、被覆が最も一般的である。被覆は、使用するポリマーを所定の濃度で溶解した溶液を、浸漬法、スプレー法、スピンコート法等により基板表面に付着させた後、溶媒を除去(乾燥)することにより行われる。乾燥後の膜厚は特に限定されないが、典型的には0.01〜100μmが好ましく、0.05〜50μmがより好ましく、0.2〜10μmが更に好ましい。膜厚が0.01μm未満であると血球成分との非接着性やがん細胞との選択性が十分発現しない場合がある。また、接着したがん細胞等の剥離が良好に生じない場合がある。膜厚が100μmを超えると冷却によりコポリマーの溶解に長時間を要する場合がある。
一実施形態において、本発明のポリマーを被覆して用いる基板の材質や形状は特に制限されることなく、例えば多孔質体、繊維、不織布、フィルム、シート、チューブを使うことができる。基板の材質としては、木綿、麻等の天然高分子、ナイロン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン、ハロゲン化ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(メタ)アクリレート、ハロゲン化ポリオレフィンエチレン−ポリビニルアルコール共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体等の合成高分子あるいはこれらの混合物が挙げられる。また、金属、セラミックス及びこれらの複合材料等も例示でき、複数の基板より構成されていてもよい。
金属としては、金、銀等の貴金属、銅、アルミニウム、タングステン、ニッケル、クロム等の卑金属、及びこれらの金属の合金が例示できるがこれらに限定するものではない。金属は単体で用いてもよく、機能性を付与するために他の金属との合金又は金属の酸化物として用いてもよい。価格や入手の容易さの観点から、ニッケル、銅及びこれらを主成分とする金属を用いることが好ましい。
また、細胞回収用材料の表面に本発明のポリマーを適用する方法は被覆に限定されず、例えば、フィルム状とした本発明のポリマーを適宜の手段で固定した状態でがん細胞等を接着し、その後に当該ポリマーを水性媒体中で溶解する等の形態で本発明を実施することも可能である。
図1は、本発明の細胞回収用材料を用いて血液中のCTCs等を回収するための一実施形態を示す概略図である。本発明のポリマーを被覆した基板材料の表面と血液等の細胞懸濁液を接触させる。本発明において「細胞懸濁液」という用語は、ヒト又はその他の哺乳動物を含む有機体から取り出されたあらゆる種類の組織または体液を含む。具体的には、細胞懸濁液とは、全血、血清、血漿、尿、脳脊髄液または唾液、またはそれらから派生するものであってよく、また生体組織を処理して得られる細胞を含む適宜の懸濁液をいう。接触時の温度は、基板表面のポリマーが溶解しない限り特に限定されるものではないが、採取時の試料温度が好ましく、ヒトの場合、37℃付近の温度で処理することが試料中の成分の変性を防ぐために好ましい。
本発明の細胞回収用材料に設けたポリマー表面は、赤血球、白血球、血小板等の血球成分の接着が抑制されているから大量の血液成分を含む試料と接触させてもこれらをほとんど吸着しない。一方、がん細胞や幹細胞等に対する接着性を有するため、CTCs等のがん細胞や幹細胞等を選択的に接着させることができる。従って、本明細書において、「目的細胞」とは、このような接着性を有するがん細胞や幹細胞を含むがこれらに限定されない。所定量の試料と接触させた後の細胞回収用材料は、続いて適宜の水性媒体中で冷却することによって基板表面に設けたポリマーが溶解する。冷却温度及び冷却時間は、使用するポリマーの種類によって適宜調整することができる。
例えば、使用するポリマーのLCSTを15℃〜20℃の範囲に設定することによって、それより低温の水性媒体中で処理することで基板表面に接着した細胞を遊離させることができる。処理温度の下限は特に限定されないが、回収すべき細胞への影響を最小限に抑えるためには0℃以上が好ましく、5℃以上がさらに好ましく、10℃以上がより好ましい。低温処理を行う時間も、細胞が遊離するために十分な時間であれば特に限定されないが、90分以内が好ましく、60分以内がさらに好ましく、30分以内がより好ましい。最適な低温処理温度と時間は相互に関連することから、当業者であれば、表面処理に用いるポリマーのLCSTに基づいて、適宜設定することができる。
水性媒体中に遊離したがん細胞等は、従来の細胞サンプルと同様に、その目的に応じて取り扱われることが可能である。例えば、がん細胞の増殖培養、増殖培養後のがん細胞を用いた抗がん剤耐性試験、回収したがん細胞を用いた遺伝子変異解析、抗がん剤耐性の発現に関わるトランスポーターなどを含むがん細胞内で発現する遺伝子の定量解析、半定量解析、定性解析、タンパク質の産生量の解析、さらに一般的に病理検査に用いられるヘマトキシリンーエオシン染色等の組織染色、抗体を用いた免疫染色によるがん細胞の性状解析等に用いることができる。
以下に本発明の目的細胞の回収方法及びそれに用いられる温度応答性コポリマーの詳細について、実施例等を挙げて説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]細胞回収用材料の作製
(1.1)基板
本発明に係る細胞回収用材料として、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(三菱樹脂株式会社、ダイアホイル カタログ番号T100E125)を基材として、各種のポリマーをそれぞれコーティングしたものを用いた。PETフィルムは、ハンドプレス(株式会社福井機工商会、CAN SYSTEM HANDPRESS FK-HP200)を用いて直径14mmの円形に打ち抜いた。このPET基板をメタノール(関東化学株式会社)に浸漬し、洗浄を行ったものを使用した。
(1.2)ポリマーの合成
ポリ[2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート](以下「ホモポリマーA」という。)の調製は、モノマーである2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート(東京化成工業株式会社)15g(分子量188.22、0.080mol)を、1,4−ジオキサン60gに溶解し、30分間窒素バブリングを行った後、開始剤であるAIBN(15mg、0.091mmol)を少量の1,4−ジオキサンに溶解させて加え、窒素バブリングを行いながら、75℃で6時間重合を行った。重合により生成したポリマーは、重合溶媒をn−ヘキサン1000mLに滴下することで沈殿として回収した。得られた生成物はTHF/n−ヘキサン系で沈殿操作を3回繰り返すことで精製した。精製後はエバポレーターによる溶媒除去を行い、最後に真空乾燥を60℃で18時間行った。フリーラジカル重合および再沈殿を行うことにより、目的とするポリ[2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート](Pet2A)(収量11.99g、収率80.0%、無色透明な粘調体)を得た。なお、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレートは、一般式(I)において、R;H、R;エチル基、m=2とした構造である。
ポリ(2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート−コ−2−(メトキシエトキシ)エチルメタクリレート(以下、「コポリマーAB」という。)の調製は、モノマーである2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート(東京化成工業株式会社)7.5g(分子量188.22、0.04mol)、2−(2−メトキシエトキシ)エチルメタクリレート(東京化成工業株式会社)7.5g(分子量188.22、0.04mol)(モル比1:1)の計15gを、1,4−ジオキサン60gに溶解し、30分間窒素バブリングを行った。その後、開始剤であるα、α’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(15mg、0.091mmol)を少量の1、4−ジオキサンに溶解して加え、窒素バブリングをしながら75℃で6時間重合を行った。重合により生成したポリマーは重合溶媒をn−ヘキサン1000mLに滴下することで沈殿として回収した。得られた生成物はTHF/n−ヘキサン系で沈殿操作を3回繰り返すことで精製した。精製後はエバポレーターによる溶媒除去を行い、最後に真空乾燥を60℃で18時間行うことによりコポリマーを得た。なお、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレートは、一般式(I)において、R;H,R;エチル基,m=2とした構造であり、2−(メトキシエトキシ)エチルメタクリレートは、R;メチル基、R;メチル基、m=2とした構造である。
また、ポリ(2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート−コ−2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エチルアクリレート(以下、「コポリマーAC」という。)の調製は、モノマーである2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート(東京化成工業株式会社)7g(分子量188.22、0.037mmol)と2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エチルアクリレート(共栄社化学株式会社)8g(分子量218.244、0.037mmol)(モル比1:1)の計15gを1、4−ジオキサン60gに溶解し、30分間窒素バブリングを行った。その後、開始剤AIBN(15mg、0.091mmol)を少量の1、4−ジオキサンに溶解して加え、窒素バブリングをしながら75℃で6時間重合を行った。
重合により生成したポリマーは重合溶媒をn−ヘキサン1000mLに滴下することで沈殿として回収した。得られた生成物はTHF/n−ヘキサン系で沈殿操作を3回繰り返すことで精製した。精製後はエバポレーターによる溶媒除去を行い、最後に真空乾燥を60℃で18時間行うことによりコポリマーを得た。なお、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレートは、一般式(I)において、R;H,R;エチル基、m=2とした構造であり、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エチルアクリレートは、R;H,R;メチル基、m=3とした構造である。
比較例として用いたPMEA(ポリ(2−メトキシエチルアクリレート))は、M. Tanaka及びA. Mochizuki(J Biomed Mater Res, 68A, pp684-695, 2004)に開示される方法で合成した。また、ポリN−イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)はSCIENCE POLYMER社より販売されているもの((Cat.963))を用いた。またPNIPAAmを電子線架橋により細胞培養用プレートに修飾したUpCellはセルシード社より販売されているものを使用した。Poly(2-methacryloyloxyethyl phosphorylcoline-co-N-butyl methacrylate)は日油株式会社より提供されたものを使用した。
(1.3)ポリマーの分子量(単位:g/mol)の測定
(1.2)節で合成したコポリマーABについて、ピーク分子量が既知の標準ポリスチレンを用い、該標準ポリスチレンで校正したゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(東ソー社製「HLC−8220」、カラム構成:Tosoh TSK-gels super AW5000、super AW4000、super AW3000)を使用して、重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を測定した。(溶媒:THF、温度:40℃、流量:1.0mL/分)。
コポリマーABの重量平均分子量(Mw(g/mol)は、Mw(g/mol)=145,000、分子量分布は、Mw/Mn=5.5であった。
(1.5)ポリマーの構造解析
ホモポリマーA及びコポリマーABの構造解析について、NMR測定装置(日本電子株式会社製、JEOL 500MHz JNM-ECX)を用い、H−NMR測定を行った。なお、ケミカルシフトはCDCl3(H:7.26ppm)を基準とした。
本実施例で合成されたホモポリマーA、コポリマーAB及びコポリマーACのH−NMRデータはそれぞれ以下のとおりである。
ホモポリマーA(PEt2A)
1H-NMR (500MHz, CDCl3, ppm): δ 1.2 (s, 3H, -O-CH2-CH3 of PEt2A), 1.4-2.6 (br, polymer backbone of PEt2A), 3.5-3.8 (m,8H, -CH2-O-CH2-CH2-O-CH2-CH3of PEt2A), 4.2 (br, 2H, -COOCH2- of PEt2A)
コポリマーAB
1H-NMR (500MHz, CDCl3, ppm): δ 0.8-1.1 (m, 3H, α-CH3 of PMe2MA), 1.2 (s, 3H, -O-CH2-CH3of PEt2A), 1.4-2.3 (br, polymer backbone of PEt2A and PMe2MA), 3.38(s, 3H, -O-CH3 of PMe2MA), 3.5-3.8 (m, 14H, -CH2-O-CH2-CH2-O-CH2-CH3of PEt2A and -CH2-O-CH2-CH2-O-CH3of PMe2MA), 4.0-4.2 (br, 4H, -COOCH2- of PEt2A and PMe2MA)
コポリマーAC
1H-NMR (500 MHz, CDCl3, ppm): δ 1.2 (s, 3H, -O-CH2-CH3of PEt2A), 1.4-1.9 (br, 2H, -CH2-CH- of polymer backbone, 2.2-2.5 (br, 1H, -CH2-CH- of polymer backbone), 3.4 (s, 3H, -O-CH3of PMe3A) 3.5-3.8 (m, 18H, -CH2-O-CH2-CH2-O-CH2-CH3of PEt2A and -CH2-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-CH3of PMe3A), 4.0-4.3 (m, 4H, -COOCH2- of PEt2A and PMe3A)
(1.6)ポリマーのLCSTの測定
上記で合成したコポリマー及びその類似体並びにそれらを構成する単一の繰返し単位からなるホモポリマーを、それぞれ0.10g取り、溶媒を10mL加えることで1.0wt/vol%の高分子溶液を調製した。調製した高分子溶液500μLをマイクロセルに入れ、V−630型分光光度計(日本分光株式会社、東京)を用いて波長500nmの可視光における透過率を、0.5℃/minの速度で温度を上昇させながら測定を行った。高分子を溶解させていないMilliQ水の透過率を100%と定義し、LCSTを透過率が50%となる時の温度と定義した。溶媒としてMilliQ水を使用した際のLCSTの測定結果は、上記表1及び2に示したとおりである。また、各種の培地を水性媒体としてLCSTを利用してポリマーの溶解を行う場合には、それぞれの培地を溶媒として同様に測定を行った。
(1.7)ポリマーのコーティング
PET基材上へのポリマーのコーティングは次のようにして行った。スピンコーター(ミカサ株式会社、カタログ番号MS-A100)内に洗浄したPET基板を置き、メタノールを溶媒として調製したポリマー溶液(濃度は、5wt%又は1wt%)を40μL滴下後、T. Hoshibaら(Advanced Healthcare Material, 3, 775, 2014)に記載のコーティング条件でスピンコーティングを行った。簡潔には、500rpmで5秒間、2,000rpmで10秒間、2000〜4000rpmの回転速度スロープアップを5秒間、4000rmで10秒間、4000〜0rpmの回転速度スロープダウンを5秒間のスピンコーティング条件であった。1回コーティングされた基板を静置、乾燥させ、同様の手順で2回目のコーティングを行った後、基板を一晩乾燥させた。ポリマー基板を24穴の細胞培養プレート(旭硝子株式会社、IWAKI、カタログ番号3820-024)へ移し、クリーンベンチ(三洋電機株式会社、カタログ番号MCV-B131F)内で殺菌ランプ(東芝ライテック株式会社、カタログ番号GL15)による紫外光照射を2時間行うことにより滅菌処理を行った。
また、96穴の細胞培養プレートにコーティングする場合には、調製したポリマー溶液(濃度:5wt%)を1穴あたり11.2μL加え、プレートの蓋をし、さらにパラフィルムにより、蓋とプレートの隙間を塞いだ後、37℃の恒温槽内に3日以上静置することにより、各ポリマーをキャストコーティングした。
[実施例2]血漿中における血球細胞とがん細胞の接着性の検討
血漿中における血球細胞とCTCsの接着性の検討を、(1.7)節で濃度5wt%の各ポリマー溶液を用いてコーティングしたPET基板、及びUpCell、細胞培養用プレート、未処理のPET基板表面について、以下のようにして検討した。
血球細胞の接着性は、クエン酸ナトリウムで抗凝固した血小板を含むヒト新鮮多血小板血漿0.2mLを、各基板上に播種密度が4×10個/cm2となるようにピペットで滴下し、37℃で60分間静置した。続いてリン酸緩衝生理食塩水でリンスし、1%グルタルアルデヒドで固定した後、各基板を走査型電子顕微鏡で観察し、1cm2の面積に接着した血小板数をカウントした。
がん細胞の接着性は、CTCsのモデルとしてヒューマンサイエンス振興財団ヒューマンサイエンス研究資源バンクより購入したヒト線維肉腫細胞株HT−1080を用いて評価した。HT−1080をヒト新鮮乏血小板血漿に懸濁後、(1.7)節で濃度5wt%の各ポリマー溶液を用いてコーティングしたPET基板、及びUpCell、細胞培養用プレート、PET基板表面上に播種密度が1×10個/cm2となるように懸濁液0.2mLをピペットで滴下し、37℃で60分間静置した。続いてリン酸緩衝生理食塩水でリンスし、1%グルタルアルデヒドで固定した後、基板を走査型電子顕微鏡で観察し、1cmの面積に接着したHT−1080数をカウントした。
図2aに播種から60分後の各基板への血小板の接着数を示す。横軸は各基板にコーティングされたポリマー等を表し、縦軸は血小板の接着数(単位は、10個/cm2)を表す。図2aに示される通り、血小板は4×10個/cm2の密度で播種されたが、未処理のPET基板では約6.5×10個/cm2の密度、細胞培養用プレート(ポリスチレン)では2×10個/cm2、UpCellには1×10個/cm2の密度で血小板が接着した。一方、PMEA、コポリマー、PMPCおよびPNIPAAmを塗布したPET基板においては、血小板の接着密度がいずれも0.5×10個/cm2程度以下であり、実質的に血小板の接着しないことが示された。
図2bに播種から60分後の各基板へのHT−1080の接着数を示す。横軸は各基板にコーティングされたポリマー等を表し、縦軸は粘着した血小板の数(単位は、10個/cm2)を表す。HT−1080細胞は1×10個/cm2の密度で播種されたが、図2bに示される通り、未処理のPET基板では約6×10個/cm2の密度、PMEAあるいはコポリマーABを塗布したPET基板ではそれぞれ約8×10個/cm2、約7.5×10個/cm2の密度でHT−1080細胞が接着し、播種したHT−1080細胞の大部分が接着することが示された。一方、PNIPAAm、PMPCを塗布したPET基板や、UpCell、細胞培養用プレートへは、HT−1080の接着密度は0.5×10個/cm2以下であり、播種したHT−1080細胞の大部分が接着することなく、リン酸緩衝生理食塩水によるリンスによって除去されることが示された。
図2a、bから明らかなように、コポリマーABやPMEAの中間水を含有する血栓性材料を塗布したPET基板においては血小板を接着しない一方でHT−1080細胞を高い割合で接着し、がん細胞の選択的接着を生じることが示された。これに対し、試験を行った他のポリマー等は、両者を接着するもの、或いは両者共に接着しないものに分類され、がん細胞の選択的接着を生じないことが示された。
[実施例3]ヒト全血中における血球細胞とがん細胞の接着性の検討
がん細胞(HT1080細胞)を懸濁したヒト全血における細胞の接着性を、コポリマーAB、PMEAでそれぞれ被覆したPET基板、及び未処理のPET基板を用いて、以下のように検討した。HT−1080細胞の密度を求めたHT−1080細胞懸濁液をヒト全血(20代男性あるいは女性より採血)で希釈し、HT1080細胞懸濁全血を調製し、ウォーターバスにより37℃に加温した。HT−1080細胞懸濁全血を(1.7)節で濃度5wt%のポリマー溶液を用いてコポリマーAB、PMEAをコーティングしたPET基板、及び未処理PET基板表面に200μLずつ滴下し、37℃に保温したインキュベーターに1時間静置した。この際のHT−1080細胞の播種密度は1×10cells/cm2であった。1時間後、基板を傾けてHT−1080細胞懸濁全血を除去し、PBS溶液で2回洗浄した。洗浄した基板を1%グルタルアルデヒドPBS溶液が入ったディッシュに浸漬し、37℃のインキュベーターで2時間静置することで、基板上に接着した細胞を固定した。その後、基板をPBS溶液に10分間、PBS溶液:MilliQ水=1:1に調製した溶液に8分間浸漬し、更に、MilliQ水に8分間浸漬を2回繰り返すことでグルタルアルデヒドを洗浄・除去した。洗浄した基板を一晩風乾し、イオンコーター(JFC-1200 FINE COATER、JEOL)にて白金−パラジウムを真空蒸着して走査型電子顕微鏡試料として、SEMにより200倍で観察した。
図8には、各試料の走査型電子顕微鏡像を示した。図8に示すとおり、HT−1080細胞懸濁全血に接触することでPET表面には多くの細胞が接着したのに対し、PMEA及びコポリマーABの表面では細胞の接着密度が低いことが観察された。HT−1080細胞の播種密度との対比から、PET表面に接着した細胞の多くは血球細胞であると考えられ、全血を用いた場合にもPMEA及びコポリマーABの表面への血球細胞の接着が抑制されることが示された。
[実施例4]LCSTを示すポリマーの水性媒体中への溶解性の確認
各種のポリマー表面に接着した細胞の剥離性を検討する前提として、コポリマーABを用いて、以下の方法によりLCSTを示すポリマーの水性媒体中への溶解性を確認した。
LCSTを示すポリマーの水性媒体中における冷却に伴う溶解性を検討するために使用する24穴の細胞培養用プレートを用いて、溶解性の検討を行う際の温度変化の様子を予め測定した。図3には、使用した24穴の細胞培養用プレートの各穴に血清を含まないDMEM/F−12培地を1mL入れた状態で37℃に加熱し、次に、速やかに10℃あるいは15℃に予め維持した容器内に静置した際の、培地の温度変化をプローブ型温度計(アズワンCT1200D)により経時的に測定した結果を示す。また、図3には、LCSTの一例として、DMEM/F−12培地を溶媒とした際のコポリマーABのLCST(18℃)を合わせて示した。
図3に示すとおり、10℃の容器内に静置後、30分程度で培地の温度が10℃に低下して安定した。15℃の容器内に静置した場合にも、同様に30分程度で培地の温度が15℃に低下して安定した。また、図3に示されるように、例えばLCSTが18℃であるコポリマーABであれば、10℃の容器内に静置した場合には10分程度で、15℃の容器内に静置した場合には15分程度でLCST以下の温度となって溶解が開始するものと考えられた。
次に、上記の温度変化を生じる際のLCSTを有するポリマーの溶解挙動を検討するために、コポリマーABを塗布したPET基板と、未処理のPET基板について水との静的接触角の経時変化を測定した。具体的には、(1.7)節で濃度1wt%の各ポリマー溶液を用いてコポリマーABを塗布したPET基板と、未処理のPET基板を上記の24穴の細胞培養プレートに入れて、予め37℃に加温したリン酸緩衝生理食塩水を各穴に1mL加えて、速やかに10℃あるいは15℃に維持した容器内に所定時間(最大90分間)だけ静置した。それぞれの時間だけ静置した細胞培養プレートからリン酸緩衝生理食塩水を取り除き、70℃の超純水1mLを用いて各基板を洗浄してから室温で一晩静置することにより各基板を乾燥させ、水との静的接触角を測定した。静的接触角の測定は、接触角測定装置(ヱルマ販売株式会社、ERMA、カタログ番号G−1−1000)を使用して、純水2μLを滴下して30秒後の接触角をθ/2法で測定した。
図4には、上記処理を行った未処理のPET基板とコポリマーABを塗布したPET基板の水との静的接触角を、上記静置に対して示す。PET基板の水との静的接触角は、いずれの処理を行った後においても変化が観察されなかった。一方、コポリマーABを塗布したPET基板においては、処理以前には水との静的接触角が約34°であるのに対し、10℃で冷却した場合には冷却開始後10分で上昇を始め、30分後にはPET基板とほぼ同一の値を示した。15℃で冷却した場合は、冷却開始後15分後から静的接触角が上昇し始め、55分後にPET基板とほぼ同一の値を示した。
DMEM/F−12培地とリン酸緩衝生理食塩水とでは含まれる塩の濃度が同等であり、LCSTに大きな変化を生じないと考えられることから、図3、図4の対比より、PET基板に塗布されたコポリマーABは、水性媒体中でLCST以下の温度となることで速やかに溶解を開始して、一定時間後にPET基板が露出するものと考えられる。また、より低温において過冷度が大きくなるため、溶解速度が高まると考えられる。
[実施例5]ポリマーの表面に接着したがん細胞の回収性評価
がん細胞等の選択的な接着が生じるコポリマーAB、コポリマーAC、ホモポリマーA、PMEAの各ポリマーについて、ポリマーの表面に接着したがん細胞の水性媒体中への回収性を以下の方法により検討した。
濃度を1wt%又は5wt%とした各ポリマー溶液を用いて各ポリマーをコーティングしたPET基板をリン酸緩衝生理食塩水により洗浄した後、10%のウシ胎仔血清を含有するDMEM/F−12培地に1時間浸漬することにより馴化した。その後、10%ウシ胎仔血清を含有するDMEM/F−12培地に懸濁したヒト線維肉腫細胞株HT−1080を1cm2当たり、1×10個となるように播種し、37℃で24時間培養してポリマー表面にHT−1080細胞を接着させた。続いて、上記培地内で10℃あるいは15℃で45分あるいは90分間、各基板を静置した後、シェーカー(IKA)を用いて500rpmで30秒間振動を与えることにより、接着していない細胞を基板から分離してサンプルとした。同様に10℃あるいは15℃での静置をせずに、37℃でシェーカー処理のみを行ったサンプルを作製した。
上記各サンプルをPBSで2回リンスし、0.1%グルタルアルデヒドで基板に接着した細胞を固定後、0.2%クリスタルバイオレット溶液により細胞を染色、可視化した。各サンプルは光学顕微鏡下で観察し、1×10μm2の面積に接着したHT−1080数を計測した。各種基板におけるHT−1080の回収率は、シェーカー処理のみを行った基板に接着している細胞数(A)、10℃あるいは15℃での静置処理およびシェーカー処理を行った基板に接着している細胞数(B)とした際、
(1−([細胞数(B)]/[細胞数(A)]))×100(%)として算出した。
図5に、がん細胞等に対して選択的な接着性を示す各種基板上に接着したHT−1080細胞について、上記培地内で10℃、90分間の静置処理を行うことによる回収率(剥離率)を示す。なお、実施例4における検討結果より、上記培地内での10℃、90分間の静置処理により、LCSTを有するコポリマーAB、AC、ホモポリマーAの溶解は完了しているものと考えられる。
図5に示すとおり、LCSTを有するコポリマーAB、ACについては、上記培地内で10℃、90分間静置して溶解させることにより高い割合でHT−1080細胞が培地内に回収された。一方、ホモポリマーAについては、培地内でのLCSTが13℃程度であり、コポリマーAB,ACと同様に溶失していると考えられるにも関わらず、HT−1080細胞が大きな割合で基板上に残留して培地内に回収することが困難であった。また、PMEAはLCSTを示さないため、処理後においても基板上にPMEAの被膜が存在してHT−1080細胞を接着しているものと考えられる。
また、コポリマーAB、ACについて、濃度の異なるポリマー溶液を用いて被覆を行った結果から、ポリマー溶液の濃度が低く、ポリマーの被膜が薄い場合にはHT−1080細胞の回収率が低下する傾向が見られ、十分な回収率を得るためには所定の被膜厚さが必要であることが推察された。
図6には、コポリマーABを被覆したPET基板上に接着したHT−1080細胞について、ポリマーを溶解させる温度を変えた際の細胞の回収率を示す。LCSTに対する過冷度が大きい10℃でポリマーを溶解させることで、短時間で効率的に細胞の回収可能であるが、十分な時間をかけてポリマーを溶解させることで、温度によらず所定の回収率が得られることが示された。また、LCSTを示さないPMEAにおいては、10℃〜15℃に保持することによっては細胞の回収率に有意の変化を生じなかった。
[実施例6]ポリマーの細胞毒性の評価
がん細胞などに対して良好な選択的接着性と回収性を示すコポリマーABについて、細胞に与える細胞毒性を次のようにして評価した。(1.7)節に記載の方法でコポリマーABを塗布したPET基板を、10%ウシ胎仔血清を含有するDMEM/F−12培地が各穴に1mL入っている24穴の細胞培養プレートに浸漬し、10℃で一晩静置することにより、培地中にコポリマーABを十分に溶解させた。当該コポリマーABを溶解させた培地にヒト線維肉腫細胞株HT−1080を懸濁し、96穴の細胞培養プレート(旭硝子、IWAKI)に、1cm当たり1×10個となるように細胞を播種し、1あるいは2日間培養を行った。培養前、1日間培養後、2日間培養後の生細胞数を、ミトコンドリアの細胞代謝活性に応じてホルマザン塩へと反応し、呈色するCell Counting Kit(WST−8法:Dojindo)を使用して、呈色した培地の波長450nmの吸光度を測定することで測定した。
図7に細胞毒性の評価結果を示す。コポリマーABの溶解によらず、各細胞培養用培地内においてほぼ同等の細胞増殖が観察された。この結果は、コポリマーABが細胞毒性を有さないことを示している。

Claims (8)

  1. 0〜37℃の範囲内に下限臨界溶液温度を有すると共に細胞接着性を有する抗血栓性材料に、当該材料の下限臨界溶液温度以上の温度で目的細胞が懸濁する細胞懸濁液を接触させて、当該目的細胞を当該材料の表面に接着させる工程と、
    水性媒体中で当該材料をその下限臨界溶液温度以下の温度に保持して前記水性媒体中に当該材料を溶解させることで目的細胞を当該水性媒体中に懸濁させて回収する工程と、を含むことを特徴とする目的細胞の回収方法。
  2. 前記抗血栓性材料がコポリマーを含むポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の目的細胞の回収方法
  3. 前記抗血栓性材料が、一般式(I):

    [式中、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、メチル基又はエチル基であり、mは、2又は3であり、nは、繰り返し数を示す]で表される構造から選択される繰返し単位を含むコポリマーを含むポリマーである、請求項1又は2に記載の目的細胞の回収方法。
  4. 前記目的細胞が、がん細胞又は幹細胞である、請求項1から3のいずれか一項に記載の目的細胞の回収方法。
  5. 一般式(I):

    [式中、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、メチル基又はエチル基であり、mは、2又は3であり、nは、繰り返し数を示す]で表される構造から選択される繰返し単位を含むコポリマーを含むことを特徴とする温度応答性ポリマー。
  6. 前記温度応答性ポリマーは、目的細胞の水性媒体中への回収に用いられることを特徴とする請求項5に記載の温度応答性ポリマー。
  7. 前記式(I)において、Rが水素原子、Rがエチル基、そしてmが2である繰返し単位と、Rがメチル基、Rがメチル基、そしてmが2である繰返し単位と、を含む請求項5または6に記載の温度応答性ポリマー。
  8. 前記式(1)において、Rが水素原子、Rがエチル基、そしてmが2である繰返し単位と、Rが水素原子、Rがメチル基、そしてmが3である繰返し単位と、を含む請求項5または6に記載の温度応答性ポリマー。
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