以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、自動変速機を搭載したFR(フロントエンジン・リヤドライブ)車両に対して本発明を適用した場合について説明する。まず、車両のパワートレーン(車両用駆動装置)および自動変速機の基本動作等について説明する。
図1は、本実施形態に係る車両のパワートレーンを示す概略構成図、図2は、図1の自動変速機2における変速機構部30の一例を示すスケルトン図、図3は、図2の変速機構部30における変速段毎の各クラッチおよび各ブレーキの係合表である。
図1中において、1はエンジン(駆動源:回転動力源)、2は自動変速機、3はエンジン制御装置(エンジンECU)、4はトランスミッション制御装置(変速機ECU)である。
−エンジン−
エンジン1は、外部から吸入する空気とインジェクタ(燃料噴射弁)5から噴射される燃料とを適宜の比率で混合した混合気を、点火プラグ12の点火によって燃焼させることにより、回転動力を発生する内燃機関である。吸入空気量は、スロットルバルブ6によって調節される。このスロットルバルブ6は、電動式のアクチュエータ(スロットルモータ等)7により駆動されるものであって、アクセルペダル11の踏み込み量や制御上の条件に基づきアクチュエータ7を駆動することにより開度調節される。インジェクタ5、アクチュエータ7および点火プラグ12は、エンジン制御装置3により制御される。
−自動変速機−
自動変速機2は、エンジン1から入力軸9に入力される回転動力を変速し、出力軸10を介して駆動輪に出力するもので、主として、トルクコンバータ(流体継手:流体式トルク伝達装置)20、変速機構部30、油圧制御装置40等を含んで構成されている。
図2に示すように、トルクコンバータ20は、エンジン1に回転連結されるもので、ポンプインペラ21、タービンランナ22、ステータ23、ワンウェイクラッチ24、ステータシャフト25、ロックアップクラッチ26を含んで構成されている。
前記ロックアップクラッチ26は、トルクコンバータ20のポンプインペラ21(入力側)とタービンランナ22(出力側)とを直結可能とするものであり、必要に応じて、ポンプインペラ21とタービンランナ22とを直結する係合状態と、ポンプインペラ21とタービンランナ22とを切り離す解放状態と、これら係合状態と解放状態との中間の半係合状態(スリップ状態)との間で切り換えられる。
このロックアップクラッチ26の係合力制御は、ロックアップコントロールバルブ27でポンプインペラ21とタービンランナ22とに対する作動油圧をコントロールすることによって行われる。
変速機構部30は、図2に示すように、主として、第1プラネタリ31、第2プラネタリ32、第3プラネタリ33、クラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4、ワンウェイクラッチF0〜F3等を含んで構成されており、前進6段、後退1段の変速が可能になっている。
第1プラネタリ31は、ダブルピニオンタイプと呼ばれる歯車式遊星機構とされており、サンギアS1と、リングギアR1と、複数個のインナーピニオンギアP1Aと、複数個のアウターピニオンギアP1Bと、キャリアCA1とを含む構成である。
サンギアS1は、クラッチC3を介して入力軸9に選択的に連結される。このサンギアS1は、ワンウェイクラッチF2およびブレーキB3を介してハウジングに選択的に連結され、逆方向(入力軸9の回転と反対方向)の回転が阻止される。キャリアCA1は、ブレーキB1を介してハウジングに選択的に連結されるとともに、そのブレーキB1と並列に設けられたワンウェイクラッチF1により、常に逆方向の回転が阻止される。リングギアR1は、第2プラネタリ32のリングギアR2と一体的に連結されており、ブレーキB2を介してハウジングに選択的に連結される。
第2プラネタリ32は、シングルピニオンタイプと呼ばれる歯車式遊星機構とされており、サンギアS2と、リングギアR2と、複数個のピニオンギアP2と、キャリアCA2とを含む構成である。
サンギアS2は、第3プラネタリ33のサンギアS3と一体的に連結されており、クラッチC4を介して入力軸9に選択的に連結される。このサンギアS2は、ワンウェイクラッチF0およびクラッチC1を介して入力軸9に選択的に連結され、その入力軸9に対して相対的に逆方向へ回転することが阻止される。キャリアCA2は、第3プラネタリ33のリングギアR3と一体的に連結されており、クラッチC2を介して入力軸9に選択的に連結されるとともに、ブレーキB4を介してハウジングに選択的に連結される。このキャリアCA2は、ブレーキB4と並列に設けられたワンウェイクラッチF3により、常に逆方向の回転が阻止される。
第3プラネタリ33は、シングルピニオンタイプと呼ばれる歯車式遊星機構とされており、サンギアS3と、リングギアR3と、複数個のピニオンギアP3と、キャリアCA3とを含む構成である。キャリアCA3は、出力軸10に一体的に連結されている。
クラッチC1〜C4およびブレーキB1〜B4は、オイルの粘性を利用した湿式多板摩擦係合装置(摩擦係合要素)により構成されている。
油圧制御装置40は、変速機構部30におけるクラッチC1〜C4ならびにブレーキB1〜B4を個別に係合、解放させることにより適宜の変速段(前進1〜6速段、後退段)を成立させるものである。この油圧制御装置40の基本構成は公知であるので、ここでは詳細な図示や説明を割愛する。
ここで、上述した変速機構部30における各変速段を成立させる条件について、図3を用いて説明する。
図3は、変速機構部30の変速段毎でのクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4およびワンウェイクラッチF0〜F3の係合または解放状態を示す係合表である。この係合表において、○印は「係合」、×印は「解放」、◎印は「エンジンブレーキ時に係合」、△印は「動力の伝達を行わない係合」を示す。
なお、クラッチC1は、前進クラッチ(入力クラッチ)と呼ばれ、図3の係合表に示すように、パーキングポジション(P)、リバースポジション(R)、ニュートラルポジション(N)以外である、車両が前進するための変速段を成立させる際に係合状態で使用される。
なお、本発明が適用される変速機構部30の構成としては前記図2に示したものには限定されず、種々の変速機構部を搭載した車両に対して本発明は適用が可能となっている。
−エンジン制御装置およびトランスミッション制御装置−
エンジン制御装置3は、走行状況に応じてエンジン1へ供給する混合気や燃焼タイミングを制御することによりエンジン1を駆動するものである。
トランスミッション制御装置4は、油圧制御装置40を制御することにより変速機構部30における適宜の変速段つまり動力伝達経路を成立させるものである。
また、これらエンジン制御装置3とトランスミッション制御装置4とは、エンジン制御やトランスミッション制御に必要な情報を互いに送受可能に接続されている。
エンジン制御装置3およびトランスミッション制御装置4は、図示していないが、共に一般的に公知のECU(Electronic Control Unit)とされており、それぞれ、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)およびバックアップRAMなどを備えている。
ROMは、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPUは、ROMに記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。RAMは、CPUでの演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAMは、エンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
図4に示すように、エンジン制御装置3には、前記エンジン1のクランクシャフトの回転角(クランク角CA)を検出するためのクランク角センサ101、前記スロットルバルブ6の開度を検出するスロットル開度センサ102、吸入空気量を検出するエアフローメータ103などのエンジン1の運転状態を検出する各種センサが接続されており、その各センサの信号が入力される。また、このエンジン制御装置3は、スロットルバルブ6のアクチュエータ(スロットルモータ)7、インジェクタ5の燃料噴射量や燃料噴射タイミング、点火プラグ12の点火タイミング、吸排気バルブの開閉タイミングの位相を変化させるためのVVT(Variable Valve Timing)機構13などを制御する。
また、このエンジン制御装置3のROMには、エンジン1の出力トルクを推定するためのトルク推定マップが記憶されている。このトルク推定マップにより、前記クランク角センサ101からの出力信号に基づいて算出されるエンジン回転数、スロットル開度センサ102によって検出されるスロットル開度、エアフローメータ103によって検出される吸入空気量、さらには、インジェクタ5からの燃料噴射量、点火プラグ12の点火タイミング、VVT機構13により調整される吸排気バルブの開閉タイミングに基づいて、現在のエンジン1の出力トルクを推定可能となっている。
トランスミッション制御装置4には、前記入力軸9の回転数(回転速度)を検出する入力軸回転数センサ110、出力軸10の回転数(回転速度)を検出する出力軸回転数センサ111、ドライバにより操作されるアクセルペダル11の開度を検出するアクセル開度センサ112、自動変速機2のシフトレバー位置を検出するシフトポジションセンサ113、駆動輪の速度(車輪速度)を検出する車輪速センサ114、車両の前後G変化を検出するGセンサ115、ドライバにより操作されるブレーキペダル14の操作量を検出するブレーキペダルセンサ116などが接続されている。
また、このトランスミッション制御装置4は、前記ロックアップコントロールバルブ27にロックアップクラッチ制御信号を出力する。このロックアップクラッチ制御信号に基づいてロックアップコントロールバルブ27がロックアップクラッチ26の係合圧を制御し、上述したロックアップクラッチ26の係合状態(トルコン状態)、解放状態(完全スリップ状態)、半係合状態(スリップ状態:フレックスロックアップ状態とも呼ばれる)が切り換えられるようになっている。
さらに、トランスミッション制御装置4は、自動変速機2の油圧制御装置40にソレノイド制御信号(油圧指令信号)を出力する。このソレノイド制御信号に基づいて油圧制御装置40の油圧制御回路に備えられているリニアソレノイドバルブやオンオフソレノイドバルブなどが制御され、所定の変速段(第1変速段〜第6変速段、後退変速段など)を達成するように、自動変速機2の各クラッチC1〜C4、各ブレーキB1〜B4などが所定の状態に係合または解放される。
−シフト装置−
また、本実施形態に係る車両の運転席の近傍にはシフト装置50が配置されている(図1参照)。このシフト装置50にはシフトレバー51が変位操作可能に設けられている。また、このシフト装置50には、図5に示すように、パーキング(P)位置、リバース(R)位置、ニュートラル(N)位置、ドライブ(D)位置、および、シーケンシャル(S)位置を有するシフトゲートが形成されており、ドライバが所望の変速位置へシフトレバー51を変位させることが可能となっている。これらパーキング(P)位置、リバース(R)位置、ニュートラル(N)位置、ドライブ(D)位置、シーケンシャル(S)位置(下記の「+」位置および「−」位置も含む)の各変速位置は、前記シフトポジションセンサ113によって検出される。
前記シフトレバー51が「ドライブ(D)位置」に操作されている状態では、自動変速機2は「自動変速モード(オートマチックモード)」とされ、後述する変速マップに従って変速段が選定されて自動変速動作が行われる。
一方、前記シフトレバー51が「シーケンシャル(S)位置」に操作されている状態では、自動変速機2は「手動変速モード(シーケンシャルシフトモード)」とされる。このS位置の前後には「+」位置および「−」位置が設けられている。「+」位置は、マニュアルアップシフトの際にシフトレバー51が操作される位置であり、「−」位置は、マニュアルダウンシフトの際にシフトレバー51が操作される位置である。そして、シフトレバー51がS位置にあるときに、このS位置を中立位置としてシフトレバー51が「+」位置または「−」位置に操作されると、自動変速機2の変速段がアップまたはダウンされる。具体的には、「+」位置への1回操作ごとに変速段が1段ずつアップ(例えば1st→2nd→…→6th)される。一方、「−」位置への1回操作ごとにギア段が1段ずつダウン(例えば6th→5th→…→1st)される。
−変速マップ−
前記「自動変速モード」における自動変速機2の変速制御は、例えば図6に示すような変速マップ(変速条件)に従って行われる。この変速マップは、車速Vおよびアクセル開度θTH(またはスロットル開度)をパラメータとし、それら車速Vおよびアクセル開度θTH(またはスロットル開度)に応じて、適正な変速段を求めるための複数の領域が設定されたマップであって、前記トランスミッション制御装置4のROM内に記憶されている。変速マップの各領域は複数の変速線(変速段の切り換えライン)によって区画されている。なお、図6に示す変速マップにおいて、アップシフト線(変速線)を実線で示し、ダウンシフト線(変速線)を破線で示している。また、アップシフトおよびダウンシフトの各切り換え方向を図中に数字と矢印とを用いて示している。
−自動変速機の変速制御動作−
次に、上述の如く構成された自動変速機2の変速制御動作について説明する。
まず、シフトレバー51が「ドライブ(D)位置」に操作されている「自動変速モード」について説明する。
トランスミッション制御装置4は、前記出力軸回転数センサ111の出力信号に基づいて車速Vを算出するとともに、アクセル開度センサ112の出力信号からアクセル開度θTHを算出し、それら車速Vおよびアクセル開度θTHに基づいて図6の変速マップを参照して目標変速段を算出する。さらに、前記入力軸回転数センサ110および出力軸回転数センサ111の出力信号から得られる回転数の比(出力回転数/入力回転数)を求めて現在変速段を判定し、その現在変速段と目標変速段とを比較して変速操作が必要であるか否かを判定する。
その判定結果により、変速の必要がない場合(現在変速段と目標変速段とが同じで、変速段が適切に設定されている場合)には、現在変速段を維持するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を自動変速機2の油圧制御装置40に出力する。
一方、現在変速段と目標変速段とが異なる場合には変速制御を行う。例えば、自動変速機2の変速段が「4速」の状態で走行している状況から、車両の走行状態が変化して、例えば図6に示す点Aから点Bに変化した場合、アップシフト変速線[4→5]を跨ぐ変化となるので、変速マップから算出される目標変速段が「5速」となり、その5速の変速段を設定するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を自動変速機2の油圧制御装置40に出力して、4速の変速段から5速の変速段への変速(4→5アップ変速)を行う。
また、例えば、自動変速機2の変速段が「6速」の状態で走行している状況から、車両の走行状態が変化して、例えば図6に示す点Cから点Dに変化した場合、ダウンシフト変速線[6→5]を跨ぐ変化となるので、変速マップから算出される目標変速段が「5速」となり、その5速の変速段を設定するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を自動変速機2の油圧制御装置40に出力して、6速の変速段から5速の変速段への変速(6→5ダウン変速)を行う。
一方、シフトレバー51が「シーケンシャル(S)位置」に操作されている「手動変速モード」では、前述した如く、シフトレバー51の操作によって変速動作が行われる。つまり、シフトレバー51が、S位置を中立位置として、「+」位置へ1回操作されるごとに変速段が1段ずつアップされ、「−」位置へ1回操作されるごとにギア段が1段ずつダウンされる。
−クリープトルク制御−
次に、本実施形態の特徴とする動作であるクリープトルク制御について説明する。
まず、このクリープトルク制御の概略について説明する。
従来の技術にあっては、シフトレバーによって選択されている走行レンジに応じた走行方向に対して逆方向に車両が走行する現象である「ずり下がり」が発生した場合、この「ずり下がり」を解消または抑制するためにエンジンの出力トルクを増大してクリープトルクを高めるようにしている。また、この「ずり下がり」発生時における車速が高いほどクリープトルクを高めるようにしている。
例えば、登坂路で停車している車両が発進するに際し、運転者によるブレーキペダルの踏み込みが解除された場合に、シフトレバーの操作位置が前記「ドライブ位置」であるにも拘わらず車両が後退する場合に「ずり下がり」が発生していると判定する。そして、この「ずり下がり」の車速(後退車速)が高くなるほどエンジンの出力トルクを増大してクリープトルクを高めるようにしている。
ところが、このような制御では、「ずり下がり」発生時における車速が比較的高くなった場合にクリープトルクが適正値よりも大幅に高くなってしまう状況を招くことがあり、この場合、車両の挙動が不安定になって乗員に違和感を与えてしまう可能性がある。また、「ずり下がり」発生時におけるクリープトルクの増加量を車速に関わりなく小さく設定しておけば、前記車両の挙動の不安定を抑制できるが、これでは、クリープトルクが十分に得られず、本来のずり下がり抑制機能が十分に発揮されなくなってしまう可能性がある。
この点に鑑み、本実施形態では、クリープトルクを増大させる制御の開始時における目標クリープトルクの増加補正量(クリープトルク増加側への変更量)に比べて、その制御の開始後における所定期間における目標クリープトルクの増加補正量に制限を加えるようにしている。また、この所定期間としては、所定期間毎に目標クリープトルクの増加補正量を車速に応じて設定していき、この車速に応じて設定された目標クリープトルクの増加補正量の前回値と、この車速に応じて設定された目標クリープトルクの増加補正量の今回値とが一致している期間に設定されている。つまり、この目標クリープトルクの増加補正量の前回値と今回値とが一致している期間中には、目標クリープトルクの増加補正量に制限を加え、この制限された増加補正量によって設定された目標クリープトルクが得られるようにクリープトルク制御を実行するようにしている。
次に、クリープトルク制御の具体的な手順について説明する。なお、以下の説明では、前記目標クリープトルクおよびその増加補正量をエンジン回転数によって規定するようにした場合について説明する。つまり、エンジン回転数の制御によってクリープトルクを調整するようにした場合について説明する。
図7および図8はクリープトルク制御の手順を示すフローチャート図である。この図7および図8に示すルーチンは、所定時間毎、または、クランクシャフトの所定回転角度毎に実行される。
まず、ステップST1において、前記トランスミッション制御装置4に予め記憶されているクリープトルク制御実行フラグがONとなっているか否かを判定する。このクリープトルク制御実行フラグは「ずり下がり」の発生が検出された場合にONとされ、この「ずり下がり」が発生していない場合および「ずり下がり」の発生が解消した場合にはOFFとされる。この「ずり下がり」の検出については後述する。
前記クリープトルク制御実行フラグがOFFでありステップST1でNO判定された場合にはステップST2に移る。例えば、車両の停車中において、運転者がブレーキペダル14の踏み込み操作を行っていることで、車両の停車状態が維持されている(「ずり下がり」が発生していない)場合には、クリープトルク制御実行フラグはOFFとなっており、ステップST1でNO判定されることになる。また、運転者のアクセルペダル11の踏み込み操作に伴ってエンジントルクが増大して車両が発進した場合にも「ずり下がり」は発生していないので、クリープトルク制御実行フラグはOFFとなっており、ステップST1でNO判定されることになる。
ステップST2では、「ずり下がり」が発生したか否かを判定する。この判定として具体的には、前記Gセンサ115によって路面が傾斜している(登坂路または降坂路である)ことが検出され、選択されている現在のシフトレバー51の操作位置(シフトポジション)により選択されている走行レンジに応じた走行方向に対して実際の走行方向が逆方向となっている場合に「ずり下がり」が発生していると判定される。
例えば、登坂路で停車している車両が発進するに際し、運転者によるブレーキペダル14の踏み込みが解除された場合に、シフトレバー51の操作位置が前記「ドライブ(D)位置」であるにも拘わらず車両が後退する場合に「ずり下がり」が発生していると判定される。つまり、Gセンサ115によって路面が登坂路であることが検出され、シフトポジションセンサ113によってシフトレバー51の操作位置がドライブ(D)位置であることが検出され、車輪速センサ114によって検出された車輪の回転方向が車両の後退方向であると判定された場合に「ずり下がり」が発生していると判定される。なお、シフトポジションセンサ113の検出信号(シフトレバー51の操作位置信号)および車輪速センサ114の検出信号(車輪の回転方向信号)のみによって「ずり下がり」の発生の有無を判定するようにしてもよい。
なお、降坂路で停車している車両が後退するに際し、運転者によるブレーキペダル14の踏み込みが解除された場合に、シフトレバー51の操作位置が前記「リバース(R)位置」であるにも拘わらず車両が前進する場合にも「ずり下がり」が発生していると判定されることになる。
「ずり下がり」が発生していない場合には、ステップST2でNO判定され、ステップST17に移って、前記トランスミッション制御装置4に予め記憶されているベース値BASEを「0」に設定すると共に、このベース値BASEに対して加算される加算量ADDも「0」に設定する。
このベース値BASEは、後述するクリープトルク制御を実行する場合の基準となるトルク値を規定する(この基準となるトルクを得るための)エンジン回転数である。このベース値BASEは、坂路で車両が発進する場合に必要最小限のクリープトルクを得るためのエンジン回転数として実験やシミュレーションによって設定されている。なお、このベース値BASEは、「ずり下がり」発生時の車速等に応じて変化する。例えば、この車速が高くなるほどベース値BASEは大きな値となる。このベース値BASEの値を決定するパラメータとしては車速に限るものではない。例えば車両の前後G等によって変化するようにしてもよい。また、前記加算量ADDは、クリープトルク制御を実行する場合の前記ベース値BASEに対して加算されるトルク値を規定する(加算されるトルクを得るための)エンジン回転数(エンジン回転数の増加分)である。この加算量ADDは、後述するように車速に応じて設定され、その車速に応じたクリープトルクの増加分を得るためのエンジン回転数として実験やシミュレーションによって設定される。
前記ステップST17でベース値BASEおよび加算量ADDが共に「0」に設定された後、ステップST18に移り、クリープトルク制御実行フラグがOFFとされてリターンされる。なお、既にクリープトルク制御実行フラグがOFFとされている場合(ステップST1でNO判定されている場合)には、このクリープトルク制御実行フラグのOFF状態が維持されることになる。
一方、「ずり下がり」が発生している場合には、ステップST2でYES判定され、ステップST3に移って、クリープトルク制御実行フラグがONとされる。
その後、ステップST4に移り、前記車輪速センサ114の出力信号に基づいて算出される現在の車速(ずり下がり方向の車速)が所定値V1を超えているか否かを判定する。この所定値V1としては例えば5km/hが挙げられる。この値はこれに限定されるものではなく適宜設定される。
現在の車速が所定値V1以下であり、ステップST4でNO判定された場合には、ステップST5に移り、目標加算量算出処理として、前記加算量ADD(クリープトルクを増加させるためのエンジン回転数の加算量)を「A(本発明でいう第1の増加補正量;目標クリープトルクの増加補正量に相当)」に設定し、この値(加算量ADD=A)を前記エンジン制御装置3のRAMに一旦記憶する。一方、現在の車速が所定値V1を超えており、ステップST4でYES判定された場合には、ステップST6に移り、目標加算量算出処理として、前記加算量ADDを「B(本発明でいう第2の増加補正量;目標クリープトルクの増加補正量に相当)」に設定し、この値(加算量ADD=B)を前記エンジン制御装置3のRAMに一旦記憶する。これら加算量ADDの値としては「A」よりも「B」の方が大きな値として設定されており、それぞれは実験やシミュレーションによって適宜設定されている。一例として、「A」はエンジン回転数の増加量として100rpmとされ、「B」はエンジン回転数の増加量として200rpmとされている。これら値には限定されない。このように、「ずり下がり」の車速が比較的低い場合(所定値V1以下である場合)には、加算量ADDも低い値に設定してクリープトルクの増加量を低く抑え、これにより、エンジン回転数の急変に伴うクリープトルクの急増によって車両の挙動が不安定になってしまうといったことを防止する。一方、「ずり下がり」の車速が比較的高い場合(所定値V1を超えている場合)には、加算量ADDも高い値に設定してクリープトルクの増加量を大きくし、これにより、「ずり下がり」の車速が更に高くなってしまうことを防止する。
このようにしてクリープトルクの加算量ADDを車速に応じて設定した後、ステップST7に移り(図8)、予め設定された減算条件が成立しているか否かを判定する。この減算条件は、前記クリープトルクの減算を行うための条件であって、例えばブレーキペダル14の踏み込み操作が行われた場合や、アクセルペダル11の踏み込み操作が行われた場合に成立する。つまり、ブレーキペダル14の踏み込み操作が行われたことで、車速が減少して「ずり下がり」が解消する場合にはクリープトルクを増大させる必要がなくなるため減算条件が成立することになる。また、アクセルペダル11の踏み込み操作が行われたことで、エンジン1のトルクが大幅に増大し、車両の発進が行われる場合にも、「ずり下がり」が解消することになるので、クリープトルクを増大させる必要がなくなることから減算条件が成立することになる。
前記減算条件が成立しておらず、ステップST7でNO判定された場合には、ステップST8に移り、目標回転数算出処理を行う。この目標回転数算出処理は、前記ベース値BASEに、前記ステップST5またはステップST6で設定された加算量ADD(「A」または「B」)を加算して、目標回転数(TGTN=BASE+ADD)を算出するものである。この目標回転数は、現在の車速に適したクリープトルクを得るためのエンジン回転数として算出される。つまり、現在の車速が前記V1以下である場合には加算量ADDが「A」とされることで、クリープトルクを得るためのエンジン回転数としては比較的低い値が算出される。これに対し、現在の車速が前記V1を超えている場合には加算量ADDが「B」とされることで、クリープトルクを得るためのエンジン回転数としては比較的高い値が算出される。
その後、ステップST9に移り、前回ルーチンで設定された加算量ADDが「0」であったか否かを判定する。加算量ADDは、「ずり下がり」が発生するまでは「0」とされ、「ずり下がり」が発生してクリープトルク制御が開始された後には「A」または「B」といった「0」以外の値となる。つまり、前回ルーチンで設定された加算量ADDが「0」であり、今回ルーチンで設定された加算量ADDが「0」以外(「A」または「B」)であった場合には、前回ルーチンでは「ずり下がり」が発生しておらず、今回ルーチンから「ずり下がり」が発生し始めたことになる。このため、今回ルーチンから「ずり下がり」が発生し始めた場合には、このステップST9でYES判定されることになる。一方、前回ルーチンで設定された加算量ADDが「0」でない場合には、既にクリープトルク制御が開始されていることになる。このため、前回ルーチン以前から「ずり下がり」が発生していた場合には、このステップST9でNO判定されることになる。
前回ルーチンで設定された加算量ADDが「0」であり、ステップST9でYES判定された場合には、ステップST10に移り、今回ルーチンで設定された加算量ADD(前記RAMに記憶された加算量ADD)が「A」であったか否かを判定する。つまり、今回ルーチンから「ずり下がり」が発生し、現在の車速が所定値V1以下であるか否かを判定する。即ち、前回ルーチンでは加算量ADDが「0」であり、今回ルーチンで加算量ADDが「A」となったか否かを判定する。
この判定がYESであった場合には、ステップST14に移って、前記ステップST8で算出された目標回転数TGTN(=ベース値BASE+A)が得られるようにクリープトルク制御が実行される。つまり、前記スロットルバルブ6のアクチュエータ7の制御によってスロットルバルブ6の開度を大きくすると共に、インジェクタ5からの燃料噴射量を増量することによってエンジン回転数を目標回転数TGTN(=ベース値BASE+A)まで上昇させて、エンジン1のトルクを増加させ、これにより車輪に発生するクリープトルクを増加させる。この目標回転数TGTNに応じて設定されるスロットルバルブ6の開度およびインジェクタ5からの燃料噴射量は、予め実験やシミュレーションによって求められている。例えば、目標回転数TGTNに応じてスロットルバルブ6の開度およびインジェクタ5からの燃料噴射量を設定するマップが前記エンジン制御装置3のROMに記憶され、前記ステップST8で算出された目標回転数TGTNをこのマップに当て嵌めて、スロットルバルブ6の開度およびインジェクタ5からの燃料噴射量を読み出すことにより、これら制御量が調整されることになる。
一方、今回ルーチンで加算量ADDが「B」であり(前記RAMに記憶されている加算量ADDが「B」であり)、ステップST10でNO判定された場合には、ステップST11に移り、前回ルーチンで設定された加算量ADDと今回ルーチンで設定された加算量ADDとを比較し、この両者が異なっている(前回ADD≠今回ADD)か否かを判定する。
このようにステップST10でNO判定される場合としては、今回ルーチンから「ずり下がり」が発生し、現在の車速が所定値V1を超えている場合である。この場合、前回ルーチンで設定された加算量ADDが「0」であり、今回ルーチンで設定された加算量ADDが「B」であるため、ステップST11ではYES判定されてステップST14に移る。そして、このステップST14では、前記ステップST8で算出された目標回転数TGTN(=ベース値BASE+B)が得られるようにクリープトルク制御が実行される。この際、前記ステップST10でYES判定された場合(目標回転数TGTN=ベース値BASE+Aとしてエンジン回転数を上昇させた場合)に比べてスロットルバルブ6の開度を大きくすると共にインジェクタ5からの燃料噴射量を増量することになる。つまり、「ずり下がり」による車速が高いため、エンジン回転数の目標回転数TGTNを高く設定し、車輪に発生するクリープトルクもいっそう高く得られるようにする。この場合に、目標回転数TGTNに応じて設定されるスロットルバルブ6の開度およびインジェクタ5からの燃料噴射量も、予め実験やシミュレーションによって求められたマップに従って調整されることになる。
このようにして車速に応じて設定される目標回転数TGTNが得られるようにエンジン1の制御を行ってクリープトルク制御が実行された後、次回のルーチンでは、既にクリープトルク制御実行フラグがONとなっているため、ステップST1でYES判定され、前記減算条件が成立していないことを条件としてステップST4〜ST9の動作が再び行われる。
この際、既にクリープトルク制御が開始されているため、前回ルーチンで設定された加算量ADDは「0」以外の値(「A」または「B」)となっている。このため、ステップST9ではNO判定されることになり、ステップST11に移る。
このステップST11では、前述した如く、前回ルーチンで設定された加算量ADDと今回ルーチンで設定された加算量ADDとを比較し、この両者が異なっている(前回ADD≠今回ADD)か否かが判定される。
そして、前回ADDと今回ADDとが異なっている場合(前回ADD≠今回ADD)、ステップST11でYES判定されてステップST14に移って、前記ステップST8で算出された目標回転数TGTNが得られるようにクリープトルク制御が実行される。具体的には、前回ルーチンで設定された加算量ADDが「A」であって、今回ルーチンで設定された加算量ADDが「B」であった場合に、このステップST11でYES判定されることになる。例えば、前回ルーチンでの車速がV1以下であったのに対し、今回ルーチンでの車速がV1を超えた場合には、加算量ADDが「A」から「B」に変更されるため、ステップST11ではYES判定され、加算量ADDを「B」とした目標回転数TGTN(=ベース値BASE+B)が求められ、この目標回転数TGTNが得られるようにクリープトルク制御(エンジン回転数の制御)が実行される。なお、前回ルーチンで設定された加算量ADDが「B」であって、今回ルーチンで設定された加算量ADDが「A」であった場合にも、このステップST11でYES判定されることになる。この場合、加算量ADDを「A」とした目標回転数TGTN(=ベース値BASE+A)が求められ、この目標回転数TGTNが得られるようにクリープトルク制御(エンジン回転数の制御)が実行される。
一方、前回ADDと今回ADDとが等しい場合(前回ADD=今回ADD)、ステップST11でNO判定されてステップST12に移る。具体的には、前回ルーチンで設定された加算量ADDおよび今回ルーチンで設定された加算量ADDが共に「A」であった場合や、共に「B」であった場合に、ステップST11でNO判定されてステップST12に移ることになる。つまり、前回ルーチンでの車速および今回ルーチンでの車速が共にV1以下である場合には、加算量ADDが「A」に維持されることで、ステップST11でNO判定されてステップST12に移ることになる。同様に、前回ルーチンでの車速および今回ルーチンでの車速が共にV1を超えている場合には、加算量ADDが「B」に維持されることで、ステップST11でNO判定されてステップST12に移ることになる。
このステップST12では、ガード処理1が実行される。このガード処理1は、前回ルーチンで設定された目標回転数TGTNに制限加算量(前記加算量ADDに対して制限された加算量)として「β(本発明でいう第3の増加補正量;制限された目標クリープトルクの増加補正量に相当)」を加算した値が目標回転数TGTNとして算出される。この制限加算量「β」は、前記車速に応じて設定される加算量ADDである「A」および「B」に比べて小さい値として予め設定されている。つまり、このガード処理1では、車速に応じて加算量ADDを決定することにより得られる目標回転数TGTNよりも低い値の目標回転数TGTNが算出されることになる。この制限加算量「β」は、例えば、前記加算量ADD「A」に対して1/2の値に設定されている(例えばエンジン回転数の増加量として50rpmとされている)。この制限加算量「β」はこれに限定されるものではなく、実験やシミュレーションによって適宜設定される。
このようにしてガード処理1によって低い値の目標回転数TGTNが算出された後、ステップST13に移り、ガード処理2が実行される。このガード処理2は、目標回転数TGTNを予め設定した上限値TNmax以下に制限する。つまり、ステップST12において、前回の目標回転数TGTNに制限加算量として「β」が加算されて求められた目標回転数TGTNが上限値TNmaxを超えていない場合には、この目標回転数TGTNをそのまま採用する。一方、前回の目標回転数TGTNに制限加算量として「β」が加算されて求められた目標回転数TGTNが上限値TNmaxを超えている場合には、この目標回転数TGTNを上限値TNmaxに制限する。
その後、ステップST14に移り、クリープトルク制御が実行される。つまり、前記目標回転数TGTNが上限値TNmaxを超えない範囲で、且つ前回の目標回転数TGTNに制限加算量として「β」が加算された値を目標回転数TGTNとしてクリープトルク制御が実行されることになる。
この目標回転数TGTNに対して制限加算量として「β」を加算していく動作は、前回ADDと今回ADDとが異なる状態(前回ADD≠今回ADD)となってステップST11でYES判定されるまで(例えば、加算量ADDが「A」から「B」に切り換わるまで)、「ずり下がり」が解消してステップST2でNO判定されるまで、または、前記減算条件が成立してステップST7でYES判定されるまで繰り返されることになる。つまり、これら条件が成立するまでの期間にあっては、各ルーチン毎に目標回転数TGTNに制限加算量「β」が加算されていき、目標回転数TGTNが徐々に上昇していくことで、クリープトルク制御でのエンジン回転数も徐々に上昇していくことになる。
一方、前記減算条件が成立し、ステップST7でYES判定された場合には、ステップST15に移り、目標回転数減算処理を行う。この目標回転数減算処理は、前回ルーチンで設定された目標回転数TGTNから減算量として「α」を減算した値が目標回転数TGTNとして算出される。この「α」は予め実験やシミュレーションによって設定されている。例えば車体重量等に応じて設定され、車体重量が大きいほど小さな値として設定される。なお、減算量「α」の設定手法はこれに限定されるものではない。
このようにして目標回転数TGTNの減算処理が行われた後、ステップST16に移り、ガード処理3が実行される。このガード処理3は、目標回転数TGTNを予め設定した下限値TNmin以上に制限する。つまり、ステップST15において、前回の目標回転数TGTNから減算量として「α」を減算して求められた目標回転数TGTNが下限値TNminを下回っていない場合には、この目標回転数TGTNをそのまま採用する。一方、前回の目標回転数TGTNから減算量として「α」を減算して求められた目標回転数TGTNが下限値TNminを下回っている場合には、この目標回転数TGTNを下限値TNminに制限する。この下限値TNminとしては任意に設定可能である。例えばこの下限値TNminとしては「0」に設定される。
その後、ステップST14に移り、クリープトルク制御が実行される。つまり、前記目標回転数TGTNが下限値TNminを下回らない範囲で、且つ前回の目標回転数TGTNから減算量として「α」を減算した値を目標回転数TGTNとしてクリープトルク制御が実行されることになる。
以上の動作が繰り返され、車速および目標回転数TGTNの変化(前回ルーチンで設定された加算量ADDと今回ルーチンで設定された加算量ADDとの比較)に応じて設定された目標回転数TGTNが得られるようにエンジン回転数の制御が行われ、クリープトルクが調整されることになる。
図9は、前記クリープトルク制御が行われた場合における車両の後退車速の変化に対するエンジン目標回転数の変化を示すタイミングチャート図である。
まず、図中のタイミングt1において「ずり下がり」が発生している。この際の車速が所定値V1以下であることから加算量ADDとしては「A」に設定され、この加算量「A」がベース値BASEに対して加算されることで目標回転数TGTNが求められて、この目標回転数TGTNが得られるようにエンジン回転数が制御される。
その後、車速が所定値V1を超えるまでは、加算量ADDとしては「A」が維持されることになるため、前記ガード処理1が実行されることになる。つまり、前回ルーチンで設定された目標回転数TGTNに制限加算量として「β」を加算した値が目標回転数TGTNとして算出され、この目標回転数TGTNが得られるようにエンジン回転数が制御されていく。つまり、エンジン回転数が徐々に上昇していくことになる。
そして、図中のタイミングt2で車速が所定値V1を超えたことで、加算量ADDとしては「B」となる。この際、前回ルーチンで設定された加算量ADDと今回ルーチンで設定された加算量ADDとが異なることになるため、前記ガード処理1は解除され、今回ルーチンで設定された加算量ADDである「B」がベース値BASEに対して加算されることで目標回転数TGTNが求められて、この目標回転数TGTNが得られるようにエンジン回転数が制御される。
その後、前記ガード処理1が再び実行されることになる。つまり、前回ルーチンで設定された目標回転数TGTNに制限加算量として「β」を加算した値が目標回転数TGTNとして算出され、この目標回転数TGTNが得られるようにエンジン回転数が制御されていく。
図9では、タイミングt3でブレーキペダル14の踏み込み操作が行われるなどして前記減算条件が成立している。この減算条件が成立したことに伴い、前回ルーチンで設定された目標回転数TGTNから減算量として「α」を減算した値が目標回転数TGTNとして求められて、この目標回転数TGTNが得られるようにエンジン回転数が制御される。これにより、エンジン回転数は次第に低下していく。
以上説明したように、本実施形態では、「ずり下がり」が発生したことに起因して目標回転数(目標クリープトルク)の補正が行われる場合、その補正制御の開始時における目標回転数の加算量に比べて、その制御の開始後における所定期間における目標回転数の加算量に制限が加えられるようになっている。具体的には、目標回転数の加算量ADDの前回値と今回値とが一致している期間において、クリープトルク制御の開始時における目標回転数の加算量ADD(前記「A」または「B」)と同様の補正制御を行った場合(この加算量ADDだけ目標回転数を順次増大させていった場合)には、目標回転数が高くなり過ぎて、車両の挙動が不安定になってしまう可能性がある。このことを考慮し、本実施形態では、目標回転数の加算量ADDの前回値と今回値とが一致している期間では目標回転数の加算量に制限を加え(前記制限加算量「β」に制限し)、目標回転数が高くなり過ぎてしまうことを回避している。また、クリープトルク制御の開始時における目標回転数の加算量ADDには前述した制限が加えられないため、「ずり下がり」に対応した十分な目標回転数の加算量ADDが確保され、「ずり下がり」の車速が高くなり過ぎてしまうといったことが防止される。このように、目標回転数の加算量ADDを変化させることにより、車両の挙動の不安定化を招くことなく、且つずり下がり抑制機能を十分に発揮させることができる。
また、加算量ADDとして、車速がV1以下である場合に設定される「A」を、車速がV1を超えている場合に設定される「B」よりも小さな値として設定したことで、「ずり下がり」発生初期時における車速に応じた目標回転数(目標クリープトルク)の増加補正量を適切に得ることができる。そして、前記制限加算量「β」を加算量「A」よりも小さな値として設定したことで、その後に、目標回転数(目標クリープトルク)が大きくなり過ぎてしまうことを回避でき、車両の挙動の安定化を図ることができる。
−変形例−
次に、変形例について説明する。前記実施形態では、前回ADDと今回ADDとが等しい場合(前回ADD=今回ADD)、目標回転数TGTNに対する制限加算量を「β」としていた。つまり、車速がV1以下であって加算量ADDが「A」に設定されている場合、および、車速がV1を超えており加算量ADDが「B」に設定されている場合の何れにおいても目標回転数TGTNに対する制限加算量を「β」としていた。
本変形例では、車速がV1以下であって加算量ADDが「A」に設定されている場合における目標回転数TGTNに対する制限加算量と、車速がV1を超えており加算量ADDが「B」に設定されている場合における目標回転数TGTNに対する制限加算量とを互いに異なる値として設定している。
具体的には、車速がV1以下であって加算量ADDが「A」に設定されている場合における目標回転数TGTNに対する制限加算量を「γ(本発明でいう第4の増加補正量)」とし、車速がV1を超えており加算量ADDが「B」に設定されている場合における目標回転数TGTNに対する制限加算量を「δ(本発明でいう第5の増加補正量)」とする。そして、前記制限加算量「γ」としては、前記加算量「A」よりも小さい値とし(例えばエンジン回転数の増加量として50rpmとされ)、前記制限加算量「δ」としては、前記加算量「γ」よりも大きく且つ前記加算量「B」よりも小さい値として設定している(例えばエンジン回転数の増加量として80rpmとされている)。
このように、前回ADDと今回ADDとが等しい場合における前記制限加算量を車速に応じて互いに異ならせたことにより、この前回ADDと今回ADDとが等しい期間においても、「ずり下がり」の車速が高くなり過ぎてしまうといったことが防止できる。
図10は、この変形例において前記クリープトルク制御が行われた場合における車両の後退車速の変化に対するエンジン目標回転数の変化を示すタイミングチャート図である。
ここでは、前記実施形態において図9に示したタイミングチャート図との相違点のみについて説明する。
この変形例では、前述した如く、車速がV1以下であって加算量ADDが「A」に設定されている場合における目標回転数TGTNに対する制限加算量を「γ」とし、車速がV1を超えており加算量ADDが「B」に設定されている場合における目標回転数TGTNに対する制限加算量を「δ」としている。そして、前記制限加算量「γ」としては、前記加算量「A」よりも小さい値とし、前記制限加算量「δ」としては、前記制限加算量「γ」よりも大きく且つ前記加算量「B」よりも小さい値として設定している。
このため、加算量ADDが「A」に設定されている期間中におけるエンジン回転数の単位時間当たりの増加量に対し、加算量ADDが「B」に設定されている期間中におけるエンジン回転数の単位時間当たりの増加量が大きくなっている。つまり、後者の期間においてクリープトルクの増加量が大きく設定されている。このため、加算量ADDが「B」となったタイミング(図中のタイミングt2)以降における後退車速は急速に減少しており、後退車速が高くなった後(前記所定車速V1を超えた後)の「ずり下がり」は急速に解消されている。
−他の実施形態−
以上説明した実施形態および変形例は、前進6速の変速が可能な自動変速機2を搭載したFR車両に対して本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、前進5速や前進8速等の変速が可能な自動変速機を搭載した車両や、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両や4輪駆動車に適用することも可能である。また、変速機の構成としては、CVT(Continuously Variable Transmission)であってもよい。
また、上述した実施形態および変形例では、ガソリンエンジンを搭載した車両に本発明を適用した場合について説明したが、ディーゼルエンジン等の他のエンジンを搭載した車両に対しても本発明は適用可能である。
また、上述した実施形態および変形例では、コンベンショナル車両(駆動力源としてエンジンのみを搭載した車両)に本発明を適用した場合であって、エンジン1のトルクを増大させることによってクリープトルクを増加させるようにしていた。本発明はこれに限るものではない。例えば、ハイブリッド車両(駆動力源としてエンジンおよび電動モータを搭載した車両)に本発明を適用し、モータジェネレータのトルク制御によってクリープトルクを増加させるようにしてもよい。