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JP2014056140A - フォトクロミックレンズの製造方法、及びフォトクロミックコーティング液の前駆体組成物 - Google Patents

フォトクロミックレンズの製造方法、及びフォトクロミックコーティング液の前駆体組成物 Download PDF

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JP2014056140A
JP2014056140A JP2012201461A JP2012201461A JP2014056140A JP 2014056140 A JP2014056140 A JP 2014056140A JP 2012201461 A JP2012201461 A JP 2012201461A JP 2012201461 A JP2012201461 A JP 2012201461A JP 2014056140 A JP2014056140 A JP 2014056140A
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mass
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Shota Honda
祥太 本田
Junji Momota
潤二 百田
Junji Takenaka
潤治 竹中
Rikihiro Mori
力宏 森
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Tokuyama Corp
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Tokuyama Corp
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Abstract

【課題】フォトクロミック化合物を高濃度で含むフォトクロミックコーティング層を有する、フォトクロミックレンズを製造する。
【解決手段】レンズ基材の表面にフォトクロミックコーティング層を有するフォトクロミックレンズの製造方法であって、ラジカル重合性成分、ハロゲン系有機溶媒、及びフォトクロミック化合物を含むコーティング液の前駆体組成物を準備する工程、該前駆体組成物からハロゲン系有機溶媒を留去することにより、ラジカル重合性成分、及びフォトクロミック化合物を含むフォトクロミックコーティング液とする工程、及び該フォトクロミックコーティング液をレンズ基材の表面に塗布した後、該コーティング液を硬化させることにより、レンズ基材の表面にフォトクロミックコーティング層を形成する工程 を含むフォトクロミックレンズの製造方法を提供する。
【選択図】なし

Description

本発明は、フォトクロミックコーティング層が積層されたフォトクロミックレンズの新規な製造方法に関する。また、本発明は、その製造方法に使用するフォトクロミックコーティング液の新規な前駆体組成物に関する。
フォトクロミック眼鏡は、太陽光のような紫外線を含む光が照射される屋外ではレンズが速やかに着色してサングラスとして機能し、そのような光の照射がない屋内においては退色して透明な通常の眼鏡として機能する眼鏡である。このような特徴を有するフォトクロミック眼鏡は、近年その需要が増大している。
フォトクロミック眼鏡レンズとしては、軽量性や安全性の観点から、特にプラスチックレンズにフォトクロミック性能を付与したものが広く使用されている。プラスチックレンズにフォトクロミック性能を付与するためには、一般に、有機系のフォトクロミック化合物が使用され、様々な方法により、プラスチックレンズにフォトクロミック性が付与されている。例えば、コーティング法と呼ばれる方法で、フォトクロミック眼鏡レンズが製造されている。具体的には、ラジカル重合性成分、及びフォトクロミック化合物を含むフォトクロミックコーティング液をプラスチックレンズ基材の表面に塗布し、硬化させることによりフォトクロミックコーティング層を有するフォトクロミックレンズを製造する方法である。
このコーティング方法は、プラスチックレンズの材質によらずフォトクロミック性能を付与できる点で優れた方法である。ただし、この方法においては、薄いフォトクロミックコーティング層で優れたフォトクロミック特性を発揮しなければならないため、該コート層中に多くのフォトクロミック化合物を含有させる必要がある。つまり、フォトクロミックコーティング液において、比較的、フォトクロミック化合物の濃度を高くする必要がある。
当然のことではあるが、フォトクロミック化合物の濃度が高くなるとラジカル重合性成分への溶解が困難になり、コーティング液として使用ができなくなるため、様々な改良がなされている。例えば、N−メチルピロリドンのような沸点が100℃を超えるような有機溶媒をフォトクロミックコーティング液に配合する方法が知られている(特許文献1参照)。また、フォトクロミック化合物の溶解性を改善するため、フォトクロミック化合物と芳香族化合物との分子化合物を使用することによって、溶解性を改善する方法も知られている(特許文献2参照)。
しかしながら、これら従来の方法においては、以下の点で改善の余地があった。例えば、特許文献1に記載の方法では、フォトクロミック化合物の溶解性を高めるためであると考えられるが、実施例においては、N−メチルピロリドンのような沸点の高い有機溶媒を使用している。そのため、フォトクロミックコーティング層中に有機溶媒が残存する可能性があり、改善の余地があった。
一方、特許文献2に記載の方法では、分子化合物を使用することで、芳香族環を有するラジカル重合性単量体への溶解性を改善することができる。しかしながら、この場合、使用するラジカル重合性単量体が制限される場合があるため、改善の余地があった。
さらに、近年、デザイン性の観点から薄型のプラスチックレンズが多用されている。このようなレンズのコーティングでは、フォトクロミックコーティング層の重合収縮によりレンズの変形が生じ易い。このようなレンズのコーティングには、光重合が用いられるが、レンズの変形を防ぐために、温度、および光照射を高度に制御(例えば、特許文献3、および4)したり、レンズを保持する保持具の改良(例えば、特許文献5参照)を行ったり、する必要があった。そのため、従来の技術よりも、コーティング液そのものを改良することにより、より一層薄膜であって、かつ、高濃度のフォトクロミック化合物を含むフォトクロミックコーティング層を有する方法の開発が望まれていた。
米国公開2002−0076549号 特開2003−342310号公報 特開2009−237003号公報 特開2004−12857号公報 国際公開WO2006−132200パンフレット
したがって、本発明の目的は、フォトクロミック化合物を高濃度で含むフォトクロミックコーティング層を形成することにある。特に、レンズ基材の中心部の厚みが薄いものに好適に適用でき、さらに、フォトクロミックコーティング層の厚みが薄い場合でも、優れたフォトクロミック特性を有するフォトクロミックレンズを製造することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、以下の方法により上記課題を解決できることを見出した。つまり、先ず、ハロゲン系有機溶媒を含むフォトクロミックコーティング液の前駆体組成物を一旦、準備する。そして、該前駆体組成物から該有機溶媒を留去して得られるフォトクロミックコーティング液は、フォトクロミック化合物がラジカル重合性単量体成分に対して過飽和になるか、または、少量残留する有機溶媒の作用によるものと考えられるが、短時間(コーティング操作中)であればフォトクロミック化合物が溶解した溶液になることを見出した。さらに、このフォトクロミックコーティング液を使用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、レンズ基材の表面にフォトクロミックコーティング層を有するフォトクロミックレンズの製造方法であって、
ラジカル重合性単量体成分、フォトクロミック化合物、及びハロゲン系有機溶媒を含むコーティング液の前駆体組成物を準備する工程(以下、「準備工程」とする場合もある)、
該前駆体組成物からハロゲン系有機溶媒を留去することにより、ラジカル重合性単量体成分、及びフォトクロミック化合物を含むフォトクロミックコーティング液とする工程(以下、「コーティング液製造工程」とする場合もある)、及び
該フォトクロミックコーティング液をレンズ基材の表面に塗布した後、該コーティング液を硬化させることにより、レンズ基材の表面にフォトクロミックコーティング層を形成する工程(以下、「コーティング工程」とする場合もある)
を含むことを特徴とするフォトクロミックレンズの製造方法である。
本発明によれば、ラジカル重合性単量体成分、フォトクロミック化合物、及びハロゲン系有機溶媒を含むコーティング液の前駆体組成物を、一旦、準備することにより、ラジカル重合性単量体成分に対するフォトクロミック化合物の濃度を高めることができる。また、ハロゲン系有機溶媒を用いることで、ラジカル重合性単量体成分に対する溶解性が低いようなフォトクロミック化合物であっても、前駆体組成物として調製可能である。さらに、この前駆体組成物からハロゲン系有機溶媒を留去して得られるコーティング液は、高濃度のフォトクロミック化合物を含有するフォトクロミックコーティング層を形成できる。そして、フォトクロミックコーティング層の厚さが薄くても十分なフォトクロミック性を示すことができる。その結果、レンズ基材の中心部が薄いものに対してフォトクロミックコーティング層を積層しても、レンズ変形がなく、良好なフォトクロミック特性を有するフォトクロミックレンズを製造することができる。なお、本発明においては、特許文献3、4、および特許文献5に記載の方法、具体的には、コーティング工程において、光照射方法、および温度を制御する方法、並びにレンズ保持部材を改良する方法を採用すれば、より一層、高品質なフォトクロミックレンズを製造することができる。
さらに、準備工程で高濃度のフォトクロミック化合物を含有する前駆体組成物を準備することにより、長期保存が可能となる。また、簡単な操作であって、かつ短時間でフォトクロミック化合物を溶解することもできる。
本発明は、レンズ基材の表面にフォトクロミックコーティング層を有するフォトクロミックレンズの製造方法である。先ず、本発明で使用できるレンズ基材について説明する。
(レンズ基材)
本発明のレンズ基材としては、プラスチック製、或いはガラス製の何れであってもよい。中でも、熱により変形し易い、プラスチック製のレンズ基材を使用する場合に、本発明の方法は好適に適用できる。
レンズ基材として、特にプラスチック製のものに対して有用である理由としては、下記の通りである。レンズ基材表面に本発明のフォトクロミックコーティング液を塗布してフォトクロミックコーティング層を形成する場合には、光照射などによりフォトクロミックコーティング液を硬化させる。この際、重合によりフォトクロミックコーティング層が収縮するのに対し、レンズ基材は重合発熱や光照射に使用する光源に含まれる赤外線によりレンズ基材が加温されるために、熱膨張あるいは耐熱性の低い基材であれば軟化が起こる。その結果、耐熱性が低く、中心厚が薄いレンズでは特に、収縮するフォトクロミックコーティング層の応力に耐え切れず変形するおそれがある。この条件下において、本発明のフォトクロミックレンズの製造方法を採用すれば、フォトクロミックコーティング層を従来よりも薄く積層することが可能であるため、フォトクロミックコーティング層の収縮による応力を低減できる。その結果、レンズ基材の変形を抑制することが可能となる。
レンズ基材を形成するプラスチック材料としては、(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アリル系樹脂、チオウレタン系樹脂、ウレタン系樹脂及びチオエポキシ系樹脂等が代表的であり、この中においても、本発明の方法は、変形の可能性が高い耐熱性の低い材料を使用する場合に有用である。具体的には、耐熱性の指標となる軟化点が100℃以下である材料を使用する場合に有用である。このような耐熱性が低い材料としては、アリル系樹脂、チオウレタン系樹脂、又はウレタン系樹脂などが挙げられる。
また、本発明の方法は、レンズの中心部の厚み(中心厚み)が薄いレンズ基材に対して好適に適用できる。中心厚みが薄いレンズを使用した場合、やはり該レンズ基材は変形し易いため、前記理由と同じく、本発明の方法を好適に採用できる。本発明の方法は、具体的には、レンズの中心厚みが0.5〜5.0mm範囲のものに適用することができ、さらには0.5〜2.0mmの範囲のものに適用することができ、特に0.5〜1.5mmの範囲のものに適用することができる。
また、本発明で使用するレンズ基材は、その表面に、密着性を向上させる観点から、プライマー層を積層させたものであってもよい。中でも、ポリカーボネート系樹脂のような熱可塑性樹脂は、本発明におけるフォトクロミックコーティング液を塗布すると、溶解する可能性がある。この場合には、熱可塑性樹脂表面に、耐溶剤性のある層(プライマー層、ハードコート層など)を積層しておくことが好ましい。
本発明においては、前記レンズ基材の表面にフォトクロミックコーティング層を有するフォトクロミックレンズの製造方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする。すなわち、本発明は、準備工程、コーティング液製造工程、及びコーティング工程を含むことを特徴とするフォトクロミックレンズの製造方法である。以下、各工程について順を追って説明する。
(準備工程)
本発明において、準備工程は、ラジカル重合性単量体、フォトクロミック化合物、及びハロゲン系有機溶媒を含むコーティング液の前駆体組成物を準備(製造)する工程である。この前駆体組成物について説明する。
(前駆体組成物)
前駆体組成物は、ラジカル重合性単量体成分(I)、フォトクロミック化合物(II)、及びハロゲン系有機溶媒(III)を含むものである。この各成分について説明する。
<(I)ラジカル重合性単量体成分>
本発明に使用されるラジカル重合性単量体成分としては、使用するレンズ基材、所望とする物性等に応じて適宜決定すればよい。具体的には、メタクリル基、またはアクリル基を有する(メタ)アクリル系重合性単量体、スチレン系重合性単量体、アリル系重合性単量体、ビニル基を有する重合性単量体、等を挙げることができる。これら重合性単量体は、複数種類の重合性単量体を組み合わせて使用することもできる。中でも、(メタ)アクリレート系重合性単量体を主成分とすることが好ましい。
(メタ)アクリリル系重合性単量体を使用する場合、単官能重合性単量体、2官能重合性単量体、および3官能以上の重合性単量体を使用することができる。また、複数種類のこれら重合性単量体を組み合わせて使用することができる。中でも、次に、説明する式(1)で示される2官能重合性単量体(I-1)を含むことが好ましい。
((I-1):式(1)で示される2官能重合性単量体)
2官能重合性単量体(I-1)は、下記一般式(1)で表される。
Figure 2014056140
かかる一般式(1)において、a+bの平均値が2〜30であることを条件として、aは、0〜30の数であり、bは、0〜30の数である。
また、R、R、R及びRは、それぞれ、水素原子又はメチル基である。
さらに、Aは、炭素数が1〜20であることを条件として、下記の群から選択される2価の有機基である。アルキレン基;非置換のフェニレン基;置換基としてハロゲン原子あるいは炭素数1〜4のアルキル基を有するフェニレン基;及び、 下記式(1a)、(1b)または(1c)で表される2価の基;
Figure 2014056140
Figure 2014056140
Figure 2014056140
式(1c)中、
及びRは、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子、
c及びdは、0〜4の整数、
六員環Bは、ベンゼン環又はシクロヘキサン環、
前記六員環Bがベンゼン環であるときには、Xは、−O−、−S−、
−S(O)−、−C(O)−、−CH−、−CH=CH−、−C(CH)−、
−C(CH)(C)−または下記式(1c−1);
Figure 2014056140
で示される2価の基、
前記六員環Bが、シクロヘキサン環であるときは、Xは、−O−、−S−、
−CH−または−C(CH)−で示される2価の基である。
前記一般式(1)において、2価の基Aは、炭素数が1〜20の有機基であるが、該有機中の前記アルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ノニレン基が挙げられる。
また、置換基としてハロゲン原子あるいは炭素数1〜4のアルキル基を有するフェニレン基としては、ジメチルフェニレン基、テトラメチルフェニレン基、ジブロモフェニレン基、テトラブロモフェニレン基等が挙げられる。
本発明のフォトクロミック硬化性組成物をコーティング剤として使用する場合、前記2官能ラジカル重合性単量体(I-1)は、一般式(1)におけるa+bの平均値が6〜30である長鎖2官能重合性単量体(I-1)を含むことが特に好ましい。長鎖2官能重合性単量体(I-1)を使用することにより、硬化物における自由空間がより一層広いものとなる。その結果、フォトクロミック化合物(II)の配合割合が多く、薄膜である硬化物(フォトクロミックコーティング層)において、優れたフォトクロミック特性を発揮できる。
また、本発明において用いる長鎖2官能重合性単量体(I-1)は、特に単独重合体のLスケールロックウェル硬度が40以下になる低硬度モノマーに属するものであることが、特に優れたフォトクロミック性を確保する上で好ましい。
尚、Lスケールロックウェル硬度とは、JIS−B7726に従って測定される硬度を意味し、単独重合体(単量体の90質量%以上が重合したもの)のLスケールロックウェル硬度が40以下となる低硬度モノマーは公知であり、例えば、特許第4016119号に詳細に説明されている。
本発明において好適に使用される長鎖2官能ラジカル重合性単量体(I-1)の例としては、例えば、以下の単量体を例示することができる。
ポリエチレングリコールジメタクリレート(平均分子量536)
(エチレングリコール鎖の平均鎖長:9(a+bの平均値8、Aがエチレン基))
ポリエチレングリコールジメタクリレート(平均分子量736)
(エチレングリコール鎖の平均鎖長:14(a+bの平均値13、Aがエチレン基))
ポリエチレングリコールジメタクリレート(平均分子量1136)
(エチレングリコール鎖の平均鎖長:23(a+bの平均値22、Aがエチレン基))
ポリプロピレングリコールジメタクリレート(平均分子量662)
(プロピレングリコール鎖の平均鎖長:9(a+bの平均値8、Aがプロピレン基))
ポリエチレングリコールジアクリレート(平均分子量508)
(エチレングリコール鎖の平均鎖長:9(a+bの平均値8、Aがエチレン基))
ポリエチレングリコールジアクリレート(平均分子量708)
(エチレングリコール鎖の平均鎖長:14(a+bの平均値13、Aがエチレン基))
ポリプロピレングリコールジアクリレート(平均分子量536)
(プロピレングリコール鎖の平均鎖長:7(a+bの平均値6、Aがプロピレン基))
ポリプロピレングリコールジアクリレート(平均分子量808)
(プロピレングリコール鎖の平均鎖長:12(a+bの平均値11、Aがプロピレン基))
2,2−ビス[4−メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン
(a+b=10);
2,2−ビス[4−メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン
(a+b=20);
2,2−ビス[4−メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン
(a+b=30);
2,2−ビス[4−アクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン
(a+b=10)。
また、上記で例示した単量体の中でも、一般式(1)中の2価の有機基Aが下記式(1c´);
Figure 2014056140
であるもの、および、2価の基Aがエチレン基、プロピレン基、ブチレン基であるものは、フォトクロミック化合物の溶解性が比較的高い、高い発色濃度を確保することができるといった点からフォトクロミックコーティング剤としての用途に好適である。
このような単量体の例は、以下のとおりである。
2,2−ビス[4−アクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン
(a+b=10);
2,2−ビス[4−メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン
(a+b=10);
2,2−ビス[4−メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン
(a+b=20);
2,2−ビス[4−メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン
(a+b=30);
ポリエチレングリコールジメタクリレート(平均分子量536)
(エチレングリコール鎖の平均鎖長:9(a+bの平均値8、Aがエチレン基))
ポリエチレングリコールジメタクリレート(平均分子量736)
(エチレングリコール鎖の平均鎖長:14(a+bの平均値13、Aがエチレン基))
ポリプロピレングリコールジメタクリレート(平均分子量662)
(プロピレングリコール鎖の平均鎖長:9(a+bの平均値8、Aがプロピレン基))
ポリエチレングリコールジアクリレート(平均分子量508)
(エチレングリコール鎖の平均鎖長:9(a+bの平均値8、Aがエチレン基))
ポリプロピレングリコールジアクリレート(平均分子量536)
(プロピレングリコール鎖の平均鎖長:7(a+bの平均値6、Aがプロピレン基))。
さらに、一般式(1)において、R、R、R及びRに水素原子を有する、つまり主鎖としてエチレングリコール部を有する単量体は、フォトクロミック化合物の溶解性が比較的高く、優れたフォトクロミック性を発揮するのに有用となる。中でも、2,2−ビス[4−メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン(a+b=10)やポリエチレングリコールジアクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長:9(a+bの平均値8、Aがエチレン基))が好ましい。
以上のような式(1)で示される2官能重合性単量体(I-1)を含むラジカル重合性単量体成分(I)を使用することが好ましい。また、形成するフォトクロミックコーティング層が優れた効果を発揮するためには、ラジカル重合性単量体成分(I)が、少なくとも1つのラジカル重合性基を有するシルセスキオキサン(I-2)を含むことが好ましい。次に、このシルセスキオキサン(I-2)について説明する。
(I-2)シルセスキオキサン;
本発明においてラジカル重合性成分として使用するシルセスキオキサン(I-2)は、ラジカル重合性基を少なくとも1個有するシルセスキオキサンを含有している(以下、単に「シルセスキオキサン成分(I-2)、重合性シルセスキオキサン成分(I-2)とする場合もある。」)。
即ち、シルセスキオキサンは、基本構成単位がT単位であるポリシロキサンであり、下記組成式(2);
(R−SiO3/2)g (2)
で表される。
組成式(3)中、gは重合度を示す数であり、一般に4〜100の範囲の数である。
また、Rは、ケイ素原子に結合している置換基を示す。
本発明で用いるシルセスキオキサン成分(I-2)は、上記のような基本組成式(2)で表されるオルガノポリシロキサンからなるものであるが、少なくとも上記の基Rの一つがラジカル重合性基であるシルセスキオキサン分子を含有している。
上記のラジカル重合性基の例としては、(メタ)アクリロキシプロピル基、(3−(メタ)アクリロキシプロピル)ジメチルシロキシ基等の(メタ)アクリル基を有する基;アリルプロピル基、アリルプロピルジメチルシロキシ基等のアリル基を有する基;ビニルプロピル基、ビニルオクチル基、ビニルジメチルシロキシ基等のビニル基を有する基;(4−シクロヘキセニル)エチルジメチルシロキシ基等のシクロヘキセニル基を有する基;等であり、特に高硬度の硬化物を形成し得るという観点から(メタ)アクリル基を有する基が好適である。
また、上記のようなラジカル重合性基は、このシルセスキオキサン成分(I-2)中に含まれる置換基Rの全個数の10〜100%、さらに30〜100%、特に70〜100%の数で存在していることが、硬度及びフォトクロミック特性に優れた硬化物を得る上で望ましい。
また、前記組成式(2)中、分子中に複数(g個)存在する基Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、さらに、ラジカル重合性基を少なくとも一つ有しているシルセスキオキサン分子を含んでいることを条件として、ラジカル重合性基以外の基であってよい。
このようなラジカル重合性基以外の基Rとしては、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基、非置換のフェニル基、ハロゲン化フェニル基或いはヒドロキシル基を挙げることができる。
炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。
炭素数3〜8のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロオクチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等を挙げることができる。
炭素数1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられる。
炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、クロロメチル基、2−クロロエチル基、ブロモメチル基等が挙げられる。
ハロゲン化フェニル基としては、4−クロロフェニル基、4−ブロモフェニル基等が挙げられる。
上記のラジカル重合性シルセスキオキサン成分(I-2)は、ラジカル重合性基が存在しているという条件を満足する限りにおいて、ラダー構造、ケージ構造、ランダム構造といった種々の構造を有するシルセスキオキサンを含んでいてよく、各種の構造のシルセスキオキサンが混ざり合っていてもよい。
上述したラジカル重合性シルセスキオキサン成分(I-2)としては、公知の方法で製造された市販のものを使用することができる。
例えば、ケージ構造のシルセスキオキサンを含むラジカル重合性シルセスキオキサン成分(I-2)としては、以下の市販品がある。
東亞合成(株)製AC−SQ TI-100:
ポリアクリロキシプロピルポリオルガノシロキサン(重量平均分子量2100)
東亞合成(株)製MAC−SQ TM−100:
ポリメタクリロキシプロピルポリオルガノシロキサン(重量平均分子量2500)
東亞合成(株)製Q−8:
オクタ[(3−メタクリロキシプロピル)ジメチルシロキシ]シルセスキオキサン
東亞合成(株)製Q−6:
オクタ[2−(ビニル)ジメチルシロキシ]シルセスキオキサン。
尚、シルセスキオキサンは、所定のシリル化合物を加水分解、縮合することにより製造することができる。例えば、引用文献(Appl.Organometal.Chem.2001年、p.683−692参照)に記載の方法に従って高分子量シルセスキオキサンを製造することもできる。
また、本発明で用いられる高分子量のシルセスキオキサン成分(I-2)は、原料となるシリル化合物(例えば、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレート)に対して、1〜3当量の水、及び、触媒として水酸化ナトリウム等の塩基を混合して、0〜40℃の温度で反応させることによっても製造できる。なお、反応時には、原料、及び生成物を溶解する有機溶媒(例えば、アルコール類等)を使用することもできる。ただし、有機溶媒を使用する場合、高分子量のシルセスキオキサン成分(I-2)を得るためには、その使用量は原料に対して4倍量(vol/wt)以下とすることが好ましい。このような方法で得られる高分子量のシルセスキオキサン成分(I-2)は、ケージ状構造、ラダー状構造、ランダム構造および不完全ケージ型構造のシルセスキオキサンの混合物となる。
このシルセスキオキサン成分(I-2)は、優れたフォトクロミックコーティング層を形成するために配合される。しかし、シルセスキオキサン成分(I-2)を含むフォトクロミックコーティング液は、フォトクロミック化合物の溶解性を低下させる場合がある。そのため、本発明の方法は、ラジカル重合性単量体成分(I)がこのシルセスキオキサン成分(I-2)を含む場合に優れた効果を発揮する。
ラジカル重合性単量体成分(I)は、前記2官能重合性単量体(I-1)、およびシルセスキオキサン成分(I-2)の他、優れた性能を発揮するフォトクロミックコーティング層を形成するためには、下記式(3)で示される多官能重合性単量体を含むことが好ましい。この式(3)で示される、3官能以上の多官能重合性単量体(I-3)について説明する。
((I-3):式(3)で示される多官能重合性単量体)
多官能重合性単量体(I-3)は、下記一般式(3)で表される。
Figure 2014056140
式中、
及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、
は、炭素数1〜10である3〜6価の有機基であり、
eは、平均値で0〜3の数であり、
fは、3〜6の整数である。
上記一般式(3)で示される多官能重合性単量体は、得られるフォトクロミック硬化体の硬度を高めるばかりか、さらにフォトクロミック特性、特に発色濃度と退色速度を改善する上で効果的である。
上記一般式(3)で表される多官能重合性単量体の例としては、例えば、以下のものを例示することができ、これらの多官能ラジカル重合性単量体は、単独或いは2種以上の組み合わせで使用することができる。具体的には、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、(メタ)アクリル基を4個有するポリエステルオリゴマー、(メタ)アクリル基を6個有するポリエステルオリゴマー、(メタ)アクリル基を4個有するポリウレタンオリゴマー、(メタ)アクリル基を6個有するポリウレタンオリゴマー、これらの中でも、特にトリメチロールプロパントリメタクリレートが好適である。
このような多官能重合性単量体(I-3)を組み合わせることにより、フォトクロミック性を損なうことなく、硬化物の硬度をさらに向上させることができる。即ち、このような多官能重合性単量体(I-3)の使用は、フォトクロミックコーティング層を有するフォトクロミックレンズの作製に有利であり、このようなフォトクロミックレンズの加工性を向上させる上で極めて有利である。
また、ラジカル重合性単量体成分(I)は、前記(I-1)、(I-2)、および(I-3)成分以外の重合性単量体を含むこともできる。次に、このその他のラジカル重合性単量体成分(I-4)について説明する。
((I-4)他のラジカル重合性単量体)
本発明で使用するラジカル重合性単量体(I)は、上述した2官能重合性単量体(I-1)、ラジカル重合性シルセスキオキサン成分(I-2)、多官能重合性単量体(I-3)以外の重合性単量体を含むこともできる。以下、それらの他のラジカル重合性単量体について説明する。
先ず、その他のラジカル重合性単量体としては、下記式(4)で示される単官能重合性単量体が挙げられる。
Figure 2014056140
上記の一般式(4)中、jは0〜25の数であり、kは0〜25の数であり、j+kの値が、平均して0〜25、特に0〜15の範囲にあることが好ましい。
また、一般式(4)において、R11、R12及びR13は、それぞれ、水素原子又はメチル基である。
さらに、R14は、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のシクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基またはグリシジル基である。
上記の基R14において、フェニル基及びナフチル基は、それぞれ、炭素数1〜20のアルキル基を置換基として有していてもよい。
かかる一般式(4)で示される単官能ラジカル重合性単量体の好適例としては、以下のものを例示することができ、これらは、単独或いは2種以上の組み合わせで使用することができる。具体的には、メトキシジエチレングリコールメタクリレート;メトキシテトラエチレングリコールメタクリレート;イソステアリルメタクリレート;イソボルニルメタクリレート;フェノキシエチレングリコールメタクリレート;フェノキシエチルアクリレート;フェノキシジエチレングリコールアクリレート;ナフトキシエチレングリコールアクリレート;イソステアリルアクリレート;イソボルニルアクリレート;グリシジルメタクリレート;メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長(j+k):9、平均分子量:468);メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長(j+k):23、平均分子量:1068);フェノキシポリエチレングリコールアクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長(j+k):6、平均分子量:412)が挙げられる。式(4)で示される単官能重合性単量体を用いることにより、フォトクロミックコーティング液の粘度等の物性を調整するができる。
また、上記の中でも一般式(4)中の基R14がグリシジル基であるもの(例えばグリシジルメタクリレート)は、フォトクロミック特性の繰り返し耐久性の向上に有利であり、フォトクロミックレンズの成形材料の何れに硬化性組成物を用いた場合にも、優れたフォトクロミック性を確保することができる。
さらに、本発明においては、下記一般式(5)で表されるシラン系単官能ラジカル重合体の1種または2種以上を、得られる硬化体においてハードコート膜の密着性を確保することを目的として使用することもできる。
Figure 2014056140
前記一般式(5)において、l+m=3であることを条件として、lは1〜3の整数であり、mは0〜2の整数である。
また、R15は、水素原子又はメチル基である。
16は、炭素数1〜10のアルキレン基、例えばエチレン基、プロピレン基、ブチレン基等である。
17は、炭素数1〜6のアルコキシ基、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等である。
18は、炭素数1〜6のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等である。
このようなシラン系単官能ラジカル重合性単量体の具体例としては、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
さらに、下記のようなアルカンジオールジ(メタ)アクリレートも使用することができる。具体的には、1,3−ブタンジオールジメタクリレート;1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート;1,9−ノナンジオールジメタクリレート;1,10−デカンジオールジメタクリレート;ネオペンチルグリコールジメタクリレート;トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート;1,6−ヘキサンジオールジアクリレート;1,9−ノナンジオールジアクリレート;1,10−デカンジオールジアクリレート;ネオペンチルグリコールジアクリレート;トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等が挙げられる。
また、その他の重合性単量体(I-4)としては、分子中にウレタン結合を有するラジカル重合性単量体、例えばウレタン(メタ)アクリレートも好適に使用することができる。ウレタン(メタ)アクリレートは、ジイソシアネートとポリオールとの反応により得られるウレタンプレポリマーに、OH基含有(メタ)アクリレートとを反応させることにより合成される重合体であり、特に硬化物の耐光性が良好であり、光照射による黄変が防止されるという観点から、分子中にベンゼン環等の芳香環を有していない脂肪族系のものが好ましい。
例えば、上記の脂肪族系のウレタン(メタ)アクリレートにおいて、ウレタンプレポリマーの製造に用いるジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、イソプロピリデンビス−4−シクロヘキシルイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート又はメチルシクロヘキサンジイソシアネート等が使用される。
また、ジイソシアネートに反応させるポリオールには、高分子量のものと低分子量のものとに大別される。この内、高分子量ポリオールとしては、繰り返し単位として炭素数2〜6のアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ヘキサメチレンオキシドなど)を有するポリアルキレングリコール;ポリカプロラクトンジオール等のポリエステルジオール;ポリカーボネートジオール;ポリブタジエンジオール;等を挙げることができる。また、低分子量のポリオール類としては、ペンタエリスリトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,8−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等を例示することができる。
さらに、ウレタンポリマーに反応させるOH基含有(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや、アルキレンオキシド鎖を介してOH基が(メタ)アクリロイル基に連なっている(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。このようなウレタン(メタ)アクリレートは、何れも単独或いは2種以上組み合わせて使用することができる。
上記のような脂肪族系ウレタン(メタ)アクリレートは、フォトクロミック硬化性組成物に、コーティング剤として好適な粘度を付与するという観点から、分子量が400以上20,000未満であることが好適である。
その他のラジカル重合性単量体(I-4)として、一般式(4)、(5)で示される単官能重合性単量体、ウレタン(メタ)アクリレート、アルカンジオールジ(メタ)アクリレートを、それぞれ、単独或いは組み合わせで使用することにより、硬化物の硬度やフォトクロミック特性をさらに向上させ、或いはフォトクロミック硬化性組成物の粘度等の物性を適宜の範囲に調整することができる。その他、スチレン系モノマーも配合することが可能である。
(ラジカル重合性単量体成分(I)の好ましい配合割合)
式(1)で示される2官能重合性単量体(I-1)は単独で使用することもできるし、2種類以上のものを混合して使用することもできる。混合して使用した場合、合計質量を2官能重合性単量体(I-1)の基準質量とすればよい。また、その他のシルセスキオキサン成分(I-2)、多官能重合性単量体(I-3)も、2種類以上のものを使用した場合には、その合計質量を基準とすればよい。その他のラジカル重合性単量体も、2種類以上のものを使用する場合には、その合計質量を基準とすればよい。
本発明において、ラジカル重合性単量体成分(I)は、使用するレンズ基材、フォトクロミック化合物等に応じて、最適な配合割合を適宜決定することができる。中でも、2官能重合性単量体(I-1) 100質量部当たり、シルセスキオキサン成分(I-2)、多官能重合性単量体(I-3)、およびその他のラジカル重合性単量体(I-4)の合計が0〜300質量部となることが好ましい。より詳細な好ましい配合としては、2官能重合性単量体(I-1) 100質量部当たり、シルセスキオキサン成分(I-2) 0〜150質量部、多官能重合性単量体(I-3) 10〜100質量部、その他のラジカル重合性単量体(I-4) 0.5〜50質量部とすることが好ましい。さらに、形成されるフォトクロミックコーティング層の硬度、耐擦傷性、および成形性を考慮すると、2官能重合性単量体(I-1) 100質量部当たり、シルセスキオキサン成分(I-2)10〜50質量部、多官能重合性単量体(I-3) 10〜50質量部、その他のラジカル重合性単量体(I-4) 0.5〜20質量部とすることが好ましい。
なお、下記に詳述するハロゲン系有機溶媒、フォトクロミック化合物、その他の添加剤の配合割合は、前記ラジカル重合性単量体成分(I)を100質量部として換算した値である。つまり、2官能重合性単量体(I-1)、シルセスキオキサン成分(I-2)、多官能重合性単量体(I-3)、およびその他のラジカル重合性単量体(I-4)の合計質量を基準質量(100質量部)とし、それに対する配合割合として記載している。
<(II)フォトクロミック化合物>
本発明に使用されるフォトクロミック化合物としては、フルギド化合物、スピロオキサジン化合物及びクロメン化合物が代表的であるが、本発明においては、これら公知のフォトクロミック化合物の何れも使用することができる。
例えば、フルギド化合物としては、これに限定されるものではないが、米国特許第4,882,438、米国特許第4,960,678、米国特許第5,130,058等に挙げられているものを使用することができる。
また、スピロオキサジン化合物としては、やはりこれに限定されるものではないが、特開2006−335024号、特開2010−59288号、特開2010−59289号等に開示されているものを使用することができる。
さらに、クロメン化合物も特に制限されないが、これまで提案されてきたもの、例えば、米国特許第5,106,998、特開2001−114775号、特開2001−031670号、特開2001−011067号、特開2001−011066号、特開2000−347346号、特開2000−344762号、特開2000−344761号、特開2000−327676号、特開2000−327675号、特開2000−256347号、特開2000−229976号、特開2000−229975号、特開2000−229974号、特開2000−229973号、特開2000−229972号、特開2000−219687号、特開2000−219686号、特開2000−219685号、特開平11−322739号、特開平11−286484号、特開平11−279171号、特開平10−298176号、特開平09−218301号、特開平09−124645号、特開平08−295690号、特開平08−176139号、特開平08−157467号等に開示されたクロメン化合物が好適に使用される。
本発明においては、上述したフォトクロミック化合物の中でも、フォトクロミック可逆反応の繰り返し耐久性が優れているばかりか、フォトクロミックの発色濃度が高く且つ退色速度も速いという点で、クロメン化合物が好適に使用される。
また、クロメン化合物の中でも、インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン骨格を有するもの、例えば、下記一般式(6)で表されるクロメン化合物が最も好適である。
Figure 2014056140
式中、nは0〜4の整数であり、
oは0〜4の整数であり、
19〜R24は置換基である。
即ち、インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン骨格を有するものは、本発明のラジカル重合性成分と組み合わせることにより、優れたフォトクロミック特性(発色濃度や退色速度)を示す。
尚、前記一般式(6)におけるR19〜R24の各基は、次のとおりである。
(基R19及び基R20
基R19及び基R20は、ヒドロキシル基、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、窒素原子を含み該窒素原子がベンゼン環の炭素原子と直接結合する複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アラルキル基、アリール基またはアリールオキシ基である。
また、n或いは“o”が2以上の数であり、基R19或いは基R20が互いに隣接する位置に存在している場合、かかる基R19或いは基R20は、互いに結合して炭素数が1〜8のアルキレンジオキシ基(例えばメチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基)を形成していてもよい。さらに、n或いは“o”が2以上の数であるとき、複数の基R19或いは基R20は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
上記のアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が好適である。
ハロアルキル基が有するハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子及び臭素原子が好ましく、ハロアルキル基の炭素数は1〜6であることが好ましい。例えば、好適なハロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、クロロメチル基、2−クロロエチル基、ブロモメチル基等を挙げることができる。
シクロアルキル基としては、炭素数3〜8のもの、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が好ましい。
アルコキシ基としては、炭素数1〜6のもの、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が好ましい。
また、アミノ基は、非置換のもの(−NH)に限定されず、窒素原子に結合している1つまたは2つの水素原子が置換されているものであってもよい。かかるアミノ基が有していてよい置換基としては、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、炭素数4〜12のヘテロアリール基等が挙げられる。
上記のアルキル基、アルコキシ基及びシクロアルキル基としては、それぞれ、上記で例示したものと同様の基を挙げることができる。前記アリール基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等を挙げることができる。前記へテロアリール基としては、チエニル基、フリル基、ピロリニル基、ピリジル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾピロリニル基等を挙げることができる。
本発明において、基R19及び基R20として好適なアミノ基としては、非置換のアミノ基に加え、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基等を挙げることできる。
また、複素環は、窒素原子を含み該窒素原子がベンゼン環の炭素原子と直接結合しているものであり、好適なものとしては、モルホリノ基、ピペリジノ基、ピロリジニル基、ピペラジノ基、N−メチルピペラジノ基、インドリニル基等を挙げることができる。
また、該複素環基は、炭素数1〜6のアルキル基(例えばメチル基)を置換基として有してもよい。このような置換基を有する複素環基としては、2,6−ジメチルモルホリノ基、2,6−ジメチルピペリジノ基、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノ基等を挙げることができる。
アルキルカルボニル基としては、アセチル基、エチルカルボニル基等が好適である。
アルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が好適である。
基R19及び基R20としてのハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子の何れであってもよい。
アラルキル基としては、炭素数7〜11のもの、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、ナフチルメチル基等が好適である。
アリール基としては、炭素数6〜14のもの、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が好適である。
アリールオキシ基としては、炭素数6〜14のもの、例えば、フェノキシ基、1−ナフトキシ基、2−ナフトキシ基等が好ましい。
なお、アラルキル基、アリール基及びアリールオキシ基においては、ベンゼン環もしくはナフタレン環等の1〜13個の水素原子、特に好ましくは1〜4個の水素原子が、前記のヒドロキシル基、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
(基R21及び基R22
一般式(6)において、基R21及びR22は、水素原子、或いは、前記基R19及び基R20と同じ基であってよい。この場合、複素環は、窒素原子を含み且つ該窒素原子がインデン環の炭素原子と直接結合しているものとなる。
また、R21及びR22は、互いに一緒になってインデン環の炭素原子と共に環を構成していてもよい。このような環としては、環構成原子の数が3〜20である脂肪族環、該脂肪族環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環、環構成原子数が3〜20である複素環、又は該複素環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環を挙げることができる。特に好適な環は、下記式に示す。式中のZが示す位置が、基R21及び基R22が結合しているインデン環の炭素原子に相当する。
Figure 2014056140
(基R23及び基R24
一般式(6)において、基R23及びR24は、アリール基、ヘテロアリール基、アルキル基である。
上記のアリール基及びアルキル基としては、基R19に関して例示したアリール基と同じものを挙げることができる。
上記のヘテロアリール基としては、炭素数4〜12のもの、例えば、チエニル基、フリル基、ピロリニル基、ピリジル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾピロリニル基等が好ましい。また、このようなヘテロアリール基においては、1〜7個、特に1〜4個の水素原子が置換されていてもよく、このような置換基としては、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数3〜8のシクロアルキル基又はハロゲン原子を挙げることができる。これらの置換基は、基R19に関して例示したものと同じであってよい。
また、一般式(6)中の基R23及びR24は、下記式(7)または(8)で表される基であってもよい。
Figure 2014056140
Figure 2014056140
上記式中、
p及びqは、それぞれ1〜3の整数であり(原料の入手のし易さから通常は1)、
25は、アリール基又はヘテロアリール基であり、
26は、水素原子、アルキル基又はハロゲン原子であり、
27は、アリール基又はヘテロアリール基である。
上記の基R25〜R27におけるアリール基、ヘテロアリール基及びアルキル基は、上記の基R23及びR24に関して例示したものと同じである。
またハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子の何れであってもよい。
さらに、一般式(6)中の基R23及びR24は、互いに結合して脂肪族炭化水素環もしくは芳香族炭化水素環を形成していてもよい。
特に、優れたフォトクロミック特性を発揮するためには、上記基R23及びR24の少なくとも一方、好ましくは両方の基がアリール基又はヘテロアリール基、特に下記(a1)〜(a4)のアリール基又はヘテロアリール基であることが好ましい。
(a1)アルキル基もしくはアルコキシ基を置換基として有するアリール基又はヘテロアリール基。
(a2)アミノ基を置換基として有するアリール基又はヘテロアリール基。
(a3)複素環基を置換基として有するアリール基又はヘテロアリール基であって、該複素環基は窒素原子をヘテロ原子として有し、且つ、該窒素原子が直接アリール基又はヘテロアリール基と結合しているもの。
(a4)前記(a3)における複素環基に、芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環が縮合した縮合複素環基を置換基として有するアリール基又はヘテロアリール基。
なお、上記(a1)〜(a4)のアリール基において、置換基の位置は特に限定されず、その総数も特に限定されるものではない。但し、優れたフォトクロミック特性を発揮するためには、置換位置は、アリール基がフェニル基であるときは3位又は4位であることが好ましい。また、その際の置換基の数は、1〜2であることが好ましい。
このような好適なアリール基としては、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,4−ジメトキシフェニル基、4−n−プロポキシフェニル基、4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル基、4−(N,N−ジエチルアミノ)フェニル基、4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル基、4−モルホリノフェニル基、4−ピペリジノフェニル基、3−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル基、4−(2,6−ジメチルピペリジノ)フェニル基等を挙げることができる。
前記(I)〜(d)のヘテロアリール基において、置換基の位置は特に限定されない。また、置換基の総数も特に限定されないが、1であることが好ましい。好適なヘテロアリール基としては、4−メトキシチエニル基、4−(N,N−ジメチルアミノ)チエニル基、4−メチルフリル基、4−(N,N−ジエチルアミノ)フリル基、4−(N,N−ジフェニルアミノ)チエニル基、4−モルホリノピロリニル基、6−ピペリジノベンゾチエニル基、6−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾフラニル基等を挙げることができる。
上述した一般式(6)で表されるクロメン化合物において、特に優れたフォトクロミック性を示し、本発明に最も好適に使用されるものは、以下のとおりである。
Figure 2014056140
上述した各種のフォトクロミック化合物は、1種類でも使用できるが、色調調整等の観点から、適宜、2種類以上を前述したラジカル重合性成分と混合することができる。
本発明のフォトクロミックコーティング液において、フォトクロミック化合物の配合量は、用途に応じて適宜決定すればよいが、
次に、前駆体組成物に含まれるハロゲン系有機溶媒について説明する。
<(III)ハロゲン系有機溶媒>
本発明に使用されるハロゲン系有機溶媒は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子を有する有機溶媒であれば特に制限されない。中でも、ラジカル重合性単量体成分、フォトクロミック化合物、及び必要に応じて添加されるその他成分の溶解性の観点から、塩素原子を有するハロゲン系有機溶媒であることが好ましい。ハロゲン系有機溶媒は、可燃性が低いため、コーティング液製造工程において留去する操作を行ったとしても、爆発等の問題を回避できる。
フォトクロミック化合物は、その種類、使用量、使用するラジカル重合性単量体成分(I)の種類にもよるが、高濃度としたり、フォトクロミック化合物の分子量が大きくなったりすると、ラジカル重合性単量体成分(I)に対して溶解性が低下する傾向にある。また、ラジカル重合性単量体成分(I)にシルセスキオキサン成分(I-2)が含まれるような場合には、フォトクロミック化合物の溶解性が低下する場合がある。本発明の方法は、このような課題を解決できるものである。つまり、本発明の方法は、フォトクロミックコーティング液の前駆体組成物に、フォトクロミック化合物の溶解性を改善するためにハロゲン系有機溶媒を配合する準備工程を実施するものである。この前駆体組成物を準備することにより、フォトクロミック化合物の溶解性が向上するため、より高濃度のフォトクロミック化合物を調製することができる。さらに、前駆体組成物を保存することにより、保存時フォトクロミック化合物の析出が抑制され、保存安定性が向上する。
本発明のハロゲン系有機溶媒の沸点は、コーティング液製造工程において、コーティング液の前駆体組成物からハロゲン系有機溶媒を留去しやすいという観点から、35〜90℃であることが好ましい。
本発明に使用されるハロゲン系有機溶媒を具体的に示せば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエチレン、トリクロロエチレンなどを挙げることが出来るが、その中でも特にジクロロメタン、クロロホルムが好適である。
<前駆体組成物の配合割合>
本発明の方法において、前駆体組成物における各成分の配合割合は、使用するラジカル重合性単量体成分(I)の種類、その成分の組成、ハロゲン系有機溶媒の種類、フォトクロミック化合物の種類、前駆体組成物の保存条件、その使用方法等に応じて、適宜最適な範囲を決定してやればよい。中でも、フォトクロミック化合物の溶解性、前駆体組成物の保存安定性、コーティング液製造工程における操作性、形成されるコーティング層の膜厚分布等を考慮すると、ラジカル重合性単量体成分100質量部に対して、ハロゲン系有機溶媒を10〜100質量部、及びフォトクロミック化合物を1〜20質量部とすることが好ましい。前駆体組成物がこの配合割合となることにより、簡単な操作で、かつ短時間でフォトクロミック化合物を溶解することができる。さらには、コーティング液製造工程で容易にハロゲン系有機溶媒を留去することができる。そのため、さらに好ましくは、ラジカル重合性単量体成分100質量部に対して、ハロゲン系有機溶媒を20〜50質量部、及びフォトクロミック化合物を1〜20質量部である。
また、コーティング工程において、フォトクロミックコーティング層の厚みを10〜30μmにしようとする場合には、ラジカル重合性単量体成分100質量部に対して、ハロゲン系有機溶媒を20〜50質量部、及びフォトクロミック化合物を5〜20質量部とすることが好ましい。また、フォトクロミックコーティング層の厚みを30〜50μmにしようとする場合には、ラジカル重合性単量体成分100質量部に対して、ハロゲン系有機溶媒を20〜50質量部、及びフォトクロミック化合物を1〜5質量部とすることが好ましい。
前駆体組成物は、前記ラジカル重合性単量体成分、ハロゲン系有機溶媒、及びフォトクロミック化合物を必須成分として含むものであるが、その他、公知の添加剤成分を含んでよい。次に、添加剤成分について説明する。
<その他の添加剤成分>
前駆体組成物においては、一般に、その用途に応じて、上述したラジカル重合性成分、ハロゲン系有機溶媒、及びフォトクロミック化合物の成分以外にも、それ自体公知の各種の添加剤を配合することができる。
例えば、重合硬化物を形成させるために、重合手段に応じて適宜のラジカル重合開始剤を配合することができる。このようなラジカル重合開始剤には、光重合開始剤及び熱重合開始剤がある。
光重合開始剤は、紫外線等の光照射によりフォトクロミックコーティング液を重合硬化させるために使用されるものである。本発明のフォトクロミックコーティング液を基材であるレンズ上で、流動することのないよう比較的短い時間で硬化させること、さらにレンズの熱変形を防止することなどの理由から、光重合開始剤を添加して使用することが一般的である。
このような光重合開始剤としては、以下のものを例示することができる。具体的には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾフェノール、アエトフェノン4,4’−ジクロロベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−イソプロピルチオオキサントン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6―トリメチルベンゾイル)−フェニルフォシフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−フォスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1を挙げることができる。上述した光重合開始剤は、1種単独或いは2種以上の組み合わせで使用することができ、一般に、ラジカル重合性単量体成分100質量部当り0.001〜5質量部の量で使用される。
また、熱重合開始剤は、加熱によりフォトクロミックコーティング液を重合硬化させるために使用されるものである。また、必要に応じて、下記の熱重合開始剤を添加して使用しても構わない。
このような熱重合開始剤の代表的なものとして、以下のものを挙げることができる。具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルオキシカーボネート等のパーカーボネート類;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カーボニトリル)等のアゾ化合物 等が挙げられる。上述した熱重合開始剤は、1種単独或いは2種以上の組み合わせで使用することができ、その使用量は、その種類や重合条件、ラジカル重合性成分の組成や種類などによっても異なり、一概に規定できないが、一般には、ラジカル重合性単量体成分100質量部当り0.01〜10質量部の範囲である。
また、本発明のフォトクロミックコーティング液には、フォトクロミック化合物の繰り返し耐久性の向上、発色速度の向上、退色速度の向上や成形性の向上のために、界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤を配合することができる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の何れも使用できるが、ラジカル重合性成分への溶解性からノニオン系界面活性剤を用いるのが好ましい。
好適なノニオン性界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等を挙げることができる。界面活性剤の使用に当たっては、2種以上を混合して使用しても良い。界面活性剤の添加量は、ラジカル重合性単量体成分100質量部当り、0.1〜20質量部の範囲が好ましく、この範囲内で、2種以上の界面活性剤を併用することもできる。
また、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤及び紫外線吸収剤は、所謂安定剤と呼ばれるものである。これらの安定剤としては、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェノール酸化防止剤、フェノール系ラジカル補足剤、イオウ系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等が好適であり、これら安定剤を併用することも可能である。このような安定剤の添加量は、ラジカル重合性単量体成分100質量部当り0.001〜20質量部の範囲が好ましい。
また、本発明のコーティング液の前駆体組成物には、重合硬化に際してのフォトクロミック化合物の劣化防止、あるいはフォトクロミック特性の繰り返し耐久性向上などの観点より、ヒンダードアミン光安定剤及びヒンダードフェノール酸化防止剤が好適に使用される。
ヒンダードアミン光安定剤としては、特に限定されないが、特にフォトクロミック化合物の劣化防止の点で、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートが好ましい。また、旭電化工業(株)により、アデカスタブLA−52、LA−62、LA−77、LA−82等の商品名で市販されているヒンダードアミン系光安定剤も好適に使用することができる。
ヒンダードフェノール酸化防止剤としては、特に制限されないが、フォトクロミック化合物の劣化防止の点で、下記のヒンダードフェノールが好適である。具体的には、
チバ・スペチャルティ・ケミカルズ製IRGANOX245:エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3,5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トルイル]プロピオネート] チバ・スペチャルティ・ケミカルズ製IRGANOX1076: オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート チバ・スペチャルティ・ケミカルズ製IRGANOX1010:ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が挙げられる。
本発明のコーティング液の前駆体組成物に配合されるヒンダードアミン光安定剤やヒンダードフェノール酸化防止剤の配合量も、前述した安定剤の使用量の範囲内(0.001〜20質量部)であればよいが、特に好ましくは、ラジカル重合性単量体成分100質量部当り、0.1〜10質量部、最も好ましくは1〜10質量部の範囲であるのがよい。
また、本発明のコーティング液の前駆体組成物中には、前述した各種の添加剤以外にも、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤などが配合されていてもよい。
このように、本発明のコーティング液の前駆体組成物には、前述したラジカル重合性成分、ハロゲン系有機溶媒、及びフォトクロミック化合物以外に種々の添加剤を配合することができるが、これらの添加剤の配合量は、そのトータル量が必要以上に過剰とならず、フォトクロミック特性や硬化物の硬度が損なわれないように設定されなければならない。
前駆体組成物は、以上のような添加剤成分を配合することもできる。次に、前駆体組成物を製造する方法、つまり、準備工程について説明する。
(前駆体組成物の製造:準備工程)
前駆体組成物は、各種のラジカル重合性単量体成分(I-1〜I-4)、ハロゲン系有機溶媒、フォトクロミック化合物、及び適宜配合される各種添加剤などの所定量を秤取り混合することにより調製される。各成分の添加順序は特に限定されず、全ての成分を同時に添加してもよいし、ラジカル重合性単量体成分(I)のみを予め混合し、次いでハロゲン系有機溶媒に溶解したフォトクロミック化合物や他の添加剤を添加混合してもよい。また、ラジカル重合性単量体成分(I)、フォトクロミック化合物(II)、及びハロゲン系有機溶媒(III)とを混合し、最後に、その他の添加剤成分、特に重合開始剤を配合することもできる。
本発明においては、ハロゲン系有機溶媒を使用しているため、室温で、かつ単純な操作(混合)のみでも、フォトクロミック化合物を溶解することができる。ただし、本発明においては、前駆体組成物を製造する際、加温(70℃)することもできるし、超音波照射等をすることもできる。
以上のような方法により、各成分を混合し、前駆体組成物を製造する(準備する)。この準備工程において、前記前駆体組成物を準備することにより、高濃度のフォトクロミック化合物を含むフォトクロミックコーティング液を製造することが可能となる。
次に、コーティング液製造工程について説明する。
<コーティング液製造工程>
本発明において、コーティング液製造工程は、前記前駆体組成物からハロゲン系有機溶媒を留去する操作を行い、フォトクロミックコーティング液を製造する工程である。なお、この工程において前駆体組成物から留去されるのは、ハロゲン系有機溶媒のみであり、その他の成分は除去されない。
前駆体組成物からハロゲン系有機溶媒を留去する方法としては、特に制限されるものではなく、公知の方法が採用される。中でも、減圧留去することが好ましい。減圧留去する際は、公知の装置を使用すればよく、例えば、エバポレーター等を使用することができる。減圧留去の条件は、使用するハロゲン系有機溶媒の種類、量に応じて適宜決定すればおよいが、0.1〜50kPaの減圧下、20〜70℃で留去することが好ましく、さらに、0.5〜20kPaの減圧下、20〜50℃で留去することが好ましい。また、留去にかかる時間も、前駆体組成物の量、ハロゲン系有機溶媒の量・種類、留去の条件により、適宜決定すればよいが、通常、1〜30分程度で十分である。
このコーティング液製造工程は、下記に詳述するコーティング工程よりも前であれば、実施時期は制限されるものではない。ただし、フォトクロミックコーティング液中でのフォトクロミック化合物の析出を避けるためには、コーティング工程の直前にハロゲン系有機溶媒の留去を行なうことが望ましい。
コーティング液製造工程において、留去するハロゲン系有機溶媒の量は、フォトクロミックコーティング液に含まれるハロゲン系有機溶媒の量が前駆体組成物のハロゲン系有機溶媒の量よりも少なくなる量であればよい。ただし、形成されるフォトクロミックコーティング層の膜厚をより均一なものとするためには、得られるフォトクロミックコーティング液の配合割合が、ラジカル重合性単量体成分100質量部当たり、フォトクロミック化合物1〜20質量部、及びハロゲン系有機溶媒を10質量部未満とすることが好ましい。さらに好ましくは、ハロゲン系有機溶媒の配合割合を5.0質量部以下とすることが好ましく、特に0.5質量部以下とすることが好ましい。フォトクロミックコーティング液に含まれるハロゲン系有機溶媒量の下限値は、特に制限されるものではないが、ラジカル重合性単量体成分100質量部当たり、0.2質量部であり、最も好ましくは0.0質量部である。
このフォトクロミックコーティング液におけるハロゲン系有機溶媒の量は、前駆体組成物の質量と、ハロゲン系有機溶媒を留去して得られるフォトクロミックコーティング液の質量との差から求めることができる。
なお、フォトクロミックコーティング液は、25℃での粘度が、好ましくは20〜500cPs、より好ましくは50〜400cPs、最も好ましくは80〜300cPsの範囲にあるのがよい。この粘度範囲であればコーティングの際の操作性が良好であり、膜厚の制御が容易に実施できる。このような粘度調整は、前述したラジカル重合性成分(I)の配合割合を調整することにより行うことができる。
本発明においては、このコーティング液製造工程において前駆体組成物からハロゲン系有機溶媒を留去したとしても、長期間の保存はできないが、下記のコーティング工程の際においては、フォトクロミック化合物が溶解したフォトクロミックコーティング液とすることができる。フォトクロミックコーティング液の組成、濃度等によってその時間は異なるが、本発明者等の検討によれば、23℃であれば、得られたフォトクロミックコーティング液中に少なくとも1時間はフォトクロミック化合物の析出が見られなかった。中には、48時間、フォトクロミック化合物の析出が見られなかったものもあった。この程度の時間、フォトクロミック化合物の析出が見られなければ、安定してフォトクロミックレンズを製造できる。
本発明者等は、前駆体組成物からハロゲン系有機溶媒を留去するため、フォトクロミック化合物が溶解したコーティング液が得られるものと推定している。使用するラジカル重合性単量体成分、フォトクロミック化合物の種類、濃度によっては、ハロゲン系有機溶媒を使用しない従来の技術では、フォトクロミック化合物が溶解しない場合や、加温や超音波照射等を行わなければフォトクロミック化合物が溶解しない場合があった。本発明においては、ハロゲン系有機溶媒を含む前駆体組成物を準備するため、フォトクロミック化合物を容易に溶解することができ、しかも、容易にハロゲン系有機溶媒を留去することができる。その結果、従来よりも高濃度のフォトクロミック化合物が溶解したフォトクロミックコーティング液や、従来の組成ではフォトクロミック化合物が溶解しなかった組み合わせのフォトクロミックコーティング液を製造できる。これは、本発明で得られるフォトクロミックコーティング液が、フォトクロミック化合物がラジカル重合性単量体成分に対して過飽和になるか、または、少量残留するハロゲン系有機溶媒の作用によって、フォトクロミック化合物が溶解しているものと推定される。
次に、このフォトクロミックコーティング液を使用したコーティング工程について説明する。
<コーティング工程>
本発明において、フォトクロミックコーティング層を形成するレンズ基材は、光照射による色の可逆変化が要求されるものであればよく、特にその種類が限定されるものではない。具体的には、眼鏡レンズが代表的である。
尚、レンズ基材の表面にフォトクロミックコーティング層を形成するには、コーティング製造工程で得られたフォトクロミックコーティング液を、レンズ基材の表面に塗布し、次いで重合硬化を行えばよい。
フォトクロミックコーティング液をレンズ基材の表面に塗布するに先立って、該レンズ基材の表面を前処理しておくことが好ましい。これにより、フォトクロミックコーティング液とレンズ基材表面との濡れ性を高め、フォトクロミックコーティング層とレンズ基材との密着強度を向上させることができる。
このような前処理としては、塩基性水溶液又は酸性水溶液による化学的処理、研磨剤を用いた研磨処理、大気圧プラズマ及び低圧プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、UVオゾン処理等を挙げることができる。これらの前処理を併用することも勿論可能である。
尚、レンズ基材として眼鏡レンズを用いる場合には、上記の前処理の中でも、塩基性溶液による化学的処理が好適である。処理作業が簡単であり、特に本発明のフォトクロミックコーティング液を用いて形成されるコーティング層と眼鏡レンズとの密着性を強固にすることができるからである。
塩基性処理による前処理は、一般に、アルカリ溶液やアルコール溶液或いはこれらの混合液中にレンズ基材を含浸することにより行われる。処理後は、純水、イオン交換水、蒸留水などの水を用いてすすいだ後、光学基材の表面を乾燥すればよい。
前処理後、更に密着性を向上させる目的で、プライマー層をコーティングすることもできる。プライマー層は、通常硬化してウレタン系樹脂となるような反応物、及び溶媒などを含むプライマー組成物をレンズ表面に塗布、次いで、溶媒除去、反応物を硬化させることで形成させる。プライマー組成物の塗布は、スピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、ディップ−スピンコーティング等の公知の手段で行うことができる。
フォトクロミックコーティング液の塗布についても、スピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、ディップ−スピンコーティング等の公知の手段で行うことができる。
また、重合硬化は、光照射(紫外線照射)により行うのが一般的である。ラジカル重合開始剤として光重合開始剤が配合されている場合には、紫外線、α線、β線、γ線等の照射あるいは両者の併用等により重合硬化を行うことができる。紫外線照射により重合を行う場合、光源としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、キセノンランプ、カーボンアーク、殺菌灯、メタルハライドランプ、無電極ランプ等を用いることが出来る。
さらに、ラジカル重合開始剤が配合されていない場合には、電子線照射により重合硬化を行い、フォトクロミックコーティング層を形成することができる。
尚、上記のような手段を併用することも可能であり、例えば紫外線等の照射により硬化を行い、さらに必要に応じて加熱して重合を完結させることもできる。
重合硬化させる際の温度は、特に制限されるものではなく、公知の方法における温度を採用すればよい。具体的には、レンズ表面の温度が100℃以下であることが好ましい。また、特許文献2、及び3のように断続的に光照射を行なうなどで温度を制御してもよいし、レンズ基材の裏面にレンズの中心厚よりも十分に厚いシリコンパッド(約10−20mm)を貼り付け、熱を逃がすようにしてもよい。
フォトクロミックコーティング液の塗布、重合硬化により形成されるフォトクロミックコーティング層の厚さは、10〜50μmであるのが好ましい。フォトクロミックコーティング層が過度に薄いと、繰り返し耐久性が損なわれる。一方で、該コーティング層が過度に厚いと、初期の黄色さが増加するおそれがある。
このフォトクロミックコーティング層上には、公知の他の層、例えば、ハードコーティング層を形成することもできる。ハードコーティング層を形成するためのコーティング剤(ハードコート剤)としては、公知のものがなんら制限なく使用できる。具体的には、シランカップリング剤やケイ素、ジルコニウム、アンチモン、アルミニウム、チタン等の酸化物のゾルを主成分とするハードコート剤や、有機高分子体を主成分とするハードコート剤が使用できる。
ハードコート剤を用いてのハードコーティング層の形成は、フォトクロミックコーティング層の形成と同様の手段で行うことができ、例えば、アルカリ溶液等を用いての塩基性処理による前処理を行った後、ハードコート剤を塗布し、例えばレンズ基材が変形しない程度の温度に加熱して硬化させ、ハードコーティング層とすることができる。
また、本発明の方法によりフォトクロミック性が付与されたレンズ等の光学物品の表面には、ハードコーティング層以外にも、さらに必要により、SiO、TiO、ZrO等の金属酸化物の薄膜の蒸着や有機高分子体の薄膜の塗布等による反射防止処理、帯電防止処理等の加工や2次処理を施すこともできる。
次に、実施例及び比較例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
また、以下の実施例で作製されたフォトクロミックコーティング液の前駆体組成物、及びフォトクロミックレンズの評価の物性の測定は、以下のようにして行った。
(1)発色濃度
フォトクロミックレンズに、キセノンランプ{L−2480(300W)SHL−100、浜松ホトニクス製}からエアロマスフィルター(コーニング社製)を介して20℃±1℃、フォトクロミックコーティング層表面でのビーム強度365nm=2.4mW/cm,245nm=24μW/cmで300秒間紫外線を照射して発色させ、このときの最大吸収波長を分光光度計{瞬間マルチチャンネルフォトディテクターMCPD1000、(株)大塚電子工業製}により求めた。
測定結果から、下記式により発色濃度を算出した。
発色濃度=ε(300)−ε(0)
ε(300)は、300秒間光照射した後の、最大吸収波長における吸光度の値であり、ε(0)は、光照射していない状態の硬化体の該波長における吸光度の値である。この値が高いレンズほど、フォトクロミック特性が優れている。
(2)退色半減期
フォトクロミックレンズに300秒間光を照射した後、光の照射を止め、該硬化体の最大波長における吸光度が前記{ε(300)−ε(0)}の値が1/2まで低下するのに要する時間{t1/2(min)}を測定し、退色半減期として評価した。この時間が短いレンズほど、退色速度が速くフォトクロミック特性が優れている。
(3)繰り返し耐久性
光照射による発色の繰り返し耐久性を評価するために劣化促進試験を行った。試験方法は以下の通りである。フォトクロミックレンズをキセノンウェザーメーター{X25、スガ試験器(株)製}により200時間促進劣化させた。この劣化前後について、前述した発色濃度の評価を行い、試験前の発色濃度(A)及び試験後の発色濃度(A200)を測定した。
この測定結果から繰り返し耐久性の目安となる残存率を算出した。
残存率(%) = (A200/A)×100
は、試験前の発色濃度の値であり、
200は、試験後の発色濃度の値である。
残存率が高いレンズほど繰り返し耐久性が高く、フォトクロミック特性が優れている。
(4)フォトクロミックコーティング層膜厚
上記方法でフォトクロミックコーティング液をスピンコートし、硬化した後のコーティング層の膜厚を、膜厚計(Filmetrics F20、FILMETRICS社製)を用いて測定した。
(5)レンズの変形
上記方法でフォトクロミックコーティング液をスピンコートし、硬化前後の屈折力の変化をオートレンズメーター(LM1800−P、ニデック社製)を用いて測定し、下記基準で評価した。
○:0.03未満。
△:0.03以上0.06未満。
×:0.06以上。
(6)コーティング性
フォトクロミックコーティング液をスピンコートし、硬化した後のフォトクロミックコーティング層の外観を、目視にて下記基準で評価した。
○:問題なし。
△:一部にムラあり。
×:塗膜不良。
(7)前駆体組成物の保存安定性
前駆体組成物を室温にて6ヶ月保存を行い、フォトクロミック化合物の析出の有無を目視にて下記基準で評価した。
○:6ヶ月時点で沈殿なし。
△:6ヶ月時点で沈殿あり。
×:3ヶ月時点で沈殿あり。
なお、比較例ではハロゲン系有機溶媒を配合していない。そのため、比較例において、この保存安定性の評価は、ハロゲン系有機溶媒を含まないもの(フォトクロミックコーティング液)の保存安定性を上記項目で評価した。
(8)前駆体組成物の溶解性
準備工程において、前駆体組成物の溶解性について、フォトクロミック化合物が目視にて完全に溶解するのに必要とした以下の操作で評価した。
◎:室温にて30分撹拌することにより溶解したもの。
○:室温にて30分撹拌実施のち室温にて30分超音波照射しながら撹拌することにより溶解したもの。
△:室温にて30分撹拌及び室温にて30分超音波照射しながら撹拌実施のち70℃にて30分超音波照射しながら撹拌することにより溶解したもの。
なお、比較例ではハロゲン系有機溶媒を配合していない。そのため、比較例において、この保存安定性の評価は、ハロゲン系有機溶媒を含まないもの(フォトクロミックコーティング液)の保存安定性を上記項目で評価した。
<ラジカル重合性単量体成分(I)>
<2官能重合性単量体(I-1)>
BPE500:
2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン
エチレングリコール鎖の平均鎖長(a+b):10
平均分子量:804
単独重合体のLスケールロックウェル硬度<40
A−BPE:
2,2−ビス(4−アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン
エチレングリコール鎖の平均鎖長(a+b):10
平均分子量:776
単独重合体のLスケールロックウェル硬度<20
9G:
ポリエチレングリコールジメタクリレート
エチレングリコール鎖の平均鎖長(a+b):8、A=エチレン基
平均分子量:536
単独重合体のLスケールロックウェル硬度<20
14G:
ポリエチレングリコールジメタクリレート
エチレングリコール鎖の平均鎖長(a+b):13、A=エチレン基
平均分子量:770
単独重合体のLスケールロックウェル硬度<20
A400:
ポリエチレングリコールジアクリレート
エチレングリコール鎖の平均鎖長(a+b):8、A=エチレン基
平均分子量:508
単独重合体のLスケールロックウェル硬度<20。
<シルセスキオキサン成分(I-2)>
MAC−SQ TI-100:ポリアクリロキシプロピルポリオルガノシロキサン{東亞合成(株)製}。29Si−NMRより、ケージ状構造、ラダー状構造およびランダム構造の混合であることを確認した。ラジカル重合性基の割合100%、重量平均分子量2100。
<多官能重合性単量体(I-3)>
TMPT:トリメチロールプロパントリメタクリレート。
<他の重合性単量体(I-4)>
GMA:グリシジルメタクリレート。
<フォトクロミック化合物(II)>
Figure 2014056140
Figure 2014056140
Figure 2014056140

その他の添加剤成分
<重合開始剤>
CGI819:ビス(2,4,6―トリメチルベンゾイル)−フェニルフォシフィンオキサイド
<ヒンダードアミン光安定剤>
チヌビン765:ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート
<ヒンダードフェノール酸化防止剤>
IRGANOX245:エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3,5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トルイル]プロピオネート]。
実施例1
(準備工程)
下記の成分を室温にて混合してラジカル重合性単量体成分(I)を調製した。
2官能重合性単量体(I-1)BPE500:100質量部、
多官能重合性単量体(I-3)TMPT:25質量部、
他の重合性単量体(I-4)GMA3質量部
を室温にて混合した。
得られたラジカル重合性単量体成分(I)の合計質量を100質量部として、そこに以下の成分を添加して前駆体組成物を得た。
フォトクロミック化合物(II)
PC1(フォトクロミック化合物(PC1)) 2質量部
その他の添加剤成分
チヌビン765(光安定剤) 5質量部、
IRGANOX245(酸化防止剤) 3質量部
CGI819 (重合開始剤) 0.5質量部
ハロゲン系有機溶媒(III)
ハロゲン系ジクロロメタン 20質量部
これら成分をラジカル重合性単量体成分(I)に同時に添加して、室温にて30分撹拌して、フォトクロミック化合物が目視にて溶解したのを確認した。
(コーティング液製造工程)
前記前駆体組成物を、ナスフラスコに移し、エバポレーターを用いて40℃水浴、約0.1kPaにおいて、10分、減圧留去を行い、ジクロロメタン残存量が0.1質量部であることを確認した。残存したハロゲン系有機溶媒量は留去後コーティング液と前駆体組成物との質量差より算出した。上記操作によりフォトクロミックコーティング液を得た。
(コーティング工程)
レンズ基材として、中心厚が1mm、頂点屈折力が−2.0、屈折率が1.74のチオエポキシ系樹脂プラスチックレンズを用意した。スピンコーター(1H−DX2、MIKASA製)を用いて、上記のプラスチックレンズの表面に、湿気硬化型プライマー TR−SC−Pを回転数70rpmで15秒、続いて1000rpmで10秒コートした。その後、10分放置後、コーティング液製造工程で得られたフォトクロミックコーティング液約2gを、回転数60rpmで40秒、続いて600rpmで8秒かけて、スピンコートした(塗膜を形成した。)。フォトクロミックコーティング液が表面に塗布されているレンズ基材の裏面にシリコンパッドを貼り付け、窒素ガス雰囲気中で出力200mW/cmのメタルハライドランプを用いて、90秒間光を照射し、塗膜を硬化させた。光硬化直後のレンズの表面温度は50−60℃の範囲内であることを確認した。その後、さらに110℃で1時間加熱して、フォトクロミックコーティング層を有するフォトクロミックレンズを作製した。フォトクロミックコーティング層の厚みは15μmであった。
上記で作製されたフォトクロミックレンズについて、発色濃度、退色半減期、繰り返し耐久性(残存率)、コーティング層膜厚、コーティング性、レンズの変形を評価した。また、前記前駆体組成物の保存安定性、溶解性を評価した。前駆体組成物、フォトクロミックコーティング液の組成を表1に示し、評価結果を表2に示した。
実施例2―12
表1に示した配合割合の前駆体組成物の調製を行なった。その他の添加剤成分は、実施例1と同様のものを使用した。実施例1と同様に準備工程を実施し、前駆体組成物を得た。次いで、実施例1と同様の操作でコーティング液製造工程、コーティング工程を実施し、評価を行なった。ただし、実施例11は、コーティング液製造工程において、ハロゲン系有機溶媒の留去の時間を5分とし、実施例12は、コーティング液製造工程において、ハロゲン系有機溶媒の留去の時間を3分とした。組成を表1に、評価結果を表2に示した。
Figure 2014056140
Figure 2014056140
実施例13―25
表3に示した配合割合の前駆体組成物の調製を行なった。その他の添加剤成分は、実施例1と同様のものを使用した(ただし、実施例22、23は、その他の添加剤成分の配合は表3に示す通りとした。)。実施例1と同様に準備工程を実施した。フォトクロミック化合物が目視にて溶解しないものは、前駆体組成物の溶解性の項目に従い、フォトクロミック化合物を溶解させて前駆体組成物を得た。
次いで、実施例1と同様の操作でコーティング液製造工程、コーティング工程を実施し、評価を行なった。ただし、実施例20、21は、フォトクロミックコーティング層の厚みが10μmとなるように調整し、実施例24、25は、フォトクロミックコーティング層の厚みが40μmとなるように調整した。
なお、実施例24、25においては、レンズ基材として中心厚が2mm、頂点屈折力が−2.0、屈折率が1.60のチオウレタン系樹脂プラスチックレンズを使用した。組成を表3に、評価結果を表4に示した。
Figure 2014056140
Figure 2014056140
比較例1−4
表5に示した配合割合の前駆体組成物の調製を行なった。その他の添加剤成分は、実施例1と同様のものを使用した。実施例1と同様に準備工程を実施した。フォトクロミック化合物が目視にて溶解しないものは、前駆体組成物の溶解性の項目に従い、フォトクロミック化合物を溶解させて前駆体組成物を得た。ただし、比較例1−4は、ハロゲン系有機溶媒を使用していないので、前駆体組成物とフォトクロミックコーティング液とが同一組成となる。そのため、溶解性、保存安定性の評価は、フォトクロミックコーティング液を対象とした。得られたフォトクロミックコーティング液(前駆体組成物)を用いて、コーティング工程を実施し、評価を行なった(ただし、比較例3、4は、フォトクロミックコーティング層の厚みを40μmとなるように調整した。)。組成を表5に、評価結果を表6に示した。
Figure 2014056140
Figure 2014056140
比較例1−4では、ハロゲン系溶媒を添加しなかった。比較例1では、保存中に沈殿が生じた。フォトクロミック化合物濃度を減らした比較例2では、保存安定性は改善されたが、当然、フォトクロミックレンズの発色濃度の低下が見られた。また、発色濃度を改善するために、中心厚が薄いレンズに40μmのコーティング層を形成させた比較例3ではレンズが変形した。比較例4においても、保存中に沈殿が生じた。

Claims (9)

  1. レンズ基材の表面にフォトクロミックコーティング層を有するフォトクロミックレンズの製造方法であって、
    ラジカル重合性単量体成分、フォトクロミック化合物、及びハロゲン系有機溶媒を含むコーティング液の前駆体組成物を準備する工程、
    該前駆体組成物からハロゲン系有機溶媒を留去することにより、ラジカル重合性単量体成分、及びフォトクロミック化合物を含むフォトクロミックコーティング液とする工程、及び
    該フォトクロミックコーティング液をレンズ基材の表面に塗布した後、該コーティング液を硬化させることにより、レンズ基材の表面にフォトクロミックコーティング層を形成する工程
    を含むことを特徴とするフォトクロミックレンズの製造方法。
  2. 前記ハロゲン系有機溶媒の沸点が、35〜90℃であることを特徴とする請求項1に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
  3. 前記前駆体組成物が、ラジカル重合性単量体成分100質量部当たり、フォトクロミック化合物を1〜20質量部、及びハロゲン系有機溶媒を10〜100質量部含むことを特徴とする請求項1に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
  4. 前記フォトクロミックコーティング液が、ラジカル重合性単量体成分100質量部当たり、フォトクロミック化合物を1〜20質量部、及びハロゲン系有機溶媒を10質量部未満含むことを特徴とする請求項1に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
  5. 前記ラジカル重合性単量体成分が、
    下記式(1)
    Figure 2014056140
    {式中において、R、R、R及びRは、それぞれ、水素原子又はメチル基であり、さらに、Aは、アルキレン基;非置換のフェニレン基;ハロゲン原子あるいは炭素数1〜4のアルキル基を有するフェニレン基;
    下記式(1a)
    Figure 2014056140
    で示される基;下記式(1b)
    Figure 2014056140
    で示される基;下記式(1c)
    Figure 2014056140
    (式中、
    及びRは、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子、
    c及びdは、0〜4の整数、
    六員環Bは、ベンゼン環又はシクロヘキサン環、
    前記六員環Bがベンゼン環であるときには、Xは、−O−、−S−、
    −S(O)−、−C(O)−、−CH−、−CH=CH−、−C(CH)−、
    −C(CH)(C)−または下記式(1c−1);
    Figure 2014056140
    で示される2価の基であり、
    前記六員環Bが、シクロヘキサン環であるときは、Xは、−O−、−S−、
    −CH−または−C(CH)−で示される2価の基であり)、
    のいずれかである炭素数が1〜20の有機基であり、a+bの平均値が2〜30であることを条件として、aは、0〜30の数であり、bは、0〜30の数である}で示される2官能重合性単量体及び
    前記フォトクロミック化合物が、インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン骨格を有する化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
  6. 前記ラジカル重合性単量体成分が、ラジカル重合性基を有するシルセスキオキサンを含むことを特徴とする請求項1に記載のフォトクロミックレンズの製造方法
  7. 前記フォトクロミック化合物が、インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン骨格を有する化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
  8. 前記レンズ基材が、中心部の厚みが0.5〜5.0mmであることを特徴とする請求項1に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
  9. ラジカル重合性単量体成分100質量部当たり、フォトクロミック化合物を1〜20質量部、及びハロゲン系有機溶媒を10〜100質量部含むことをフォトクロミックコーティング液の前駆体組成物。
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