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JP2011178945A - 酸化チタン粒子、親水性塗料、親水性塗膜層および建築材 - Google Patents

酸化チタン粒子、親水性塗料、親水性塗膜層および建築材 Download PDF

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Kenji Takahashi
Yoshiaki Marutani
義明 丸谷
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Sekisui Chemical Co Ltd
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Sekisui Chemical Co Ltd
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Abstract

【課題】親水性塗料の組成として、該親水性塗料を有機系基材に一層コーティングした場合に、該有機系基材の外観が悪化しにくい結晶性の酸化チタン粒子の提供。
【解決手段】結晶性の酸化チタン粒子に所定量のバナジウムを含有させ、この酸化チタン粒子からなる膜を形成したときに、該膜である酸化チタン粒子を光励起させた状態で、該膜と水との接触角が25°以下、かつ、該膜のメチレンブルー分解率が40%以下であることを特徴とする。
【選択図】図4

Description

本発明は、有機物分解能を抑制した酸化チタン、これを用いた親水性塗料、さらには該親水性塗料により基材表面に形成した親水性塗膜層、該基材を用いた建築材に関する。また、該親水性塗膜層により基材の親水性、親水化能を高めて該基材に長期的な防汚性能を付与する技術に関する。
酸化チタンは、バンドキャップ以上のエネルギーを有する紫外光が照射されると励起されて電子と正孔を生じ、これらが水分子に作用してOHラジカルが生じ有機物が分解される。
そのため、酸化チタンは様々な角度から防汚や浄化について用いられ、その研究がなされてきた。防汚に関することとして、ゾル−ゲル法、固相反応や気相反応等により酸化チタンを含む膜を形成し建築材や車などの防汚が行われている。
結晶性の酸化チタンを含む塗膜の形成に用いられる塗料としては、酸化チタン粉体スラリー、該酸化チタンの塩水溶液やチタンアルコキシドの加水分解で作製したゾル、該チタンが過酸化状態の非晶性の酸化チタン粒子で存在する酸化チタンゾル溶液、結晶性の酸化チタンが粒子として存在する金属ゾル溶液等がある。
これらの塗料の調製過程において、結晶性の酸化チタン粒子に他の金属をドーピング(ドープ)等することが行われている。このドープにより、酸化チタンのバンドキャップエネルギーが変位して、可視光の波長域でも酸化チタンが励起されるようになり、親水能や有機物分解能を発揮する。しかし、正孔と電子はドープされた金属に集まりやすいため、正孔と電子が互いに結合して消えて有機物を分解する活性が維持できないという側面もある。
酸化チタンは金属酸化物のなかでも光触媒能が高く、その結晶相としてアナターゼ型、ブルールカイト型、ルチル型が知られ、最も低温で生成され安定な結晶相はアナターゼ型である。
例えば、非特許文献1には、バナジウムまたはニオブがドープされた酸化チタンの粒子(非晶性の酸化チタン粒子、結晶性の酸化チタンの超微粒子)の製造方法が開示されている。この製造方法は、バナジウム(V)またはニオブ(Nb)を含む四塩化チタンの水溶液にアンモニア水と過酸化水素を添加することで水熱反応を起こし、バナジウムまたはニオブを含むペルオキソチタン酸(HO−(NbO5)n−(TiO5)m−OH、m>nまたはHO−(VO5)p−(TiO5)q−OH)、q>p)の非晶性の分子を形成し、さらにこのペルオキソ状態の複合金属酸の水溶液を100℃で8時間還流することでバナジウムまたはニオブがドープされた直径数ナノメートルである結晶性の酸化チタンの超微粒子を形成する技術内容が開示されている。
一方、特許文献1には、鏡、レンズ、ガラス、プリズムその他の透明部材の下地層の表面に、二酸化チタン粒子とバインダー由来のシリカとを含有する表面層を、アクリルシリコン樹脂層を介して形成することで、下地層の表面を長期に渡って高度の親水性に維持する技術内容が開示されている。具体的には、図6に示すように、この表面層の中には酸化チタン粒子が散在するように埋没されている。この表面層中、酸化チタン粒子以外の部分はシリコン前駆体が脱水縮重合して形成されたシリカで構成されており、酸化チタン粒子の有機物分解能によりこの表面層が極度に侵食することはない。
解決しようとする課題
しかしながら、後者の特許文献1のものでは、図6に示すように、表面層中、シリカ部分に埋没した酸化チタンの粒子が、粒子によってはアクリルシリコン樹脂層と表面層との界面でアクリルシリコン樹脂層に接触した状態で固定されるため、この酸化チタンの粒子が光励起され有機物分解能を発揮すると、この接触箇所のアクリルシリコン樹脂が侵食される。
このため、この侵食した箇所の凹凸により光反射が一様でなくなって下地層の外観悪化してしまう問題や、表面層が剥がれやすくなる問題があった。
一方、前者の非特許文献1のものでは、結晶性の酸化チタン粒子を可視光領域でも励起可能とし、有機物分解能や親水能を高める目的で酸化チタンにバナジウムをドープさせているが、目的の効果(有機物分解能を高める効果等)が得られておらず、バナジウムがドープされた酸化チタンについてはそれ以上の検討がなされていない。
また、一般的な有機樹脂のバインダーを用いて結晶性の酸化チタンを結着させようとすると、バインダーが有機であることから、時間の経過とともに表面層が侵食されるため、基材の外観が悪化したり、表面層が剥がれやすくなる。
本発明は上述した問題に鑑みてなされたものであり、親水性塗料の成分として用いられ、上記侵食を低減できるように有機物分解能が抑制された酸化チタン粒子の提供することを目的とする。
特許3087682号
一ノ瀬 弘道、"酸化チタンコーティング剤の改良と環境浄化への応用" 、[online]、3.研究報告P.85−89 平成14年度研究報告,佐賀県窯業技術センター、[平成21年9月3日検索]、インターネット<URL:http://www.scrl.gr.jp/research/reports/h14/h14titancoat.pdf>
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、有機物分解能を有する結晶性の酸化チタン粒子に所定量のバナジウムを含有させることにより、酸化チタン粒子の有機物分解能(結果的には有機物分解活性)を抑制する方向に調節することで、上記問題が解決できることを見出して本発明の完成に至った。
すなわち、本発明に係る酸化チタン粒子は、親水性塗料の成分である結晶性の酸化チタン粒子であって、所定量のバナジウムが含有され、前記酸化チタン粒子からなる膜としたときの光励起状態で水との接触角が25°以下、かつメチレンブルー分解率が40%以下であることを特徴とする。
また、前記バナジウムの混入量は、前記酸化チタン粒子の形成に用いたチタンとバナジウムの合計のモル量に対して1〜10モル%となる量であってもよい。
本発明に係る親水性塗料は、少なくとも上記された酸化チタン粒子を含み、さらにバインダーを含んでもよい。このバインダーは、少なくとも上記酸化チタン粒子を親水性塗料が塗布される基材に結着させるものである。なお、基材は親水性塗料が塗布されるものをさす。
前記バインダーは、珪素化合物であってもよい。この珪素化合物は、例えばシリコン前駆体であり、加水分解・縮合を経てシロキサン結合によりシランオリゴマーを形成するものである。
本発明に係る建築材は、上記親水性塗膜層を有することを特徴とする。
本発明に係る酸化チタン粒子は、親水性塗料の成分である結晶性の酸化チタン粒子であって、所定量のバナジウムが含有されている。このバナジウムの含有量は、前記酸化チタン粒子のみを用いて膜を形成し、この膜状の酸化チタン粒子に光照射して光励起状態した場合に、膜と水との接触角が25°以下、かつメチレンブルー分解率が40%以下となるバナジウムの量となっている。
したがって、各種バインダーを用いた親水性塗料とし、これを用いて基材に対して親水性塗膜層を形成した際に、基材表面と親水性塗膜層との界面で酸化チタン粒子が基材に接触していても、酸化チタン粒子自体の有機物分解能が抑制されているので、基材の侵食が抑制される。このため、侵食による基材の外観の悪化や親水性塗膜層の剥がれが生じにくい。
バナジウムを含有させることによって酸化チタン粒子の親水能が低下するが、前記バナジウムの混入量が前記酸化チタン粒子の形成に用いたチタンとバナジウムの合計のモル量に対して1〜10モル%となる量であれば、上記酸化チタン粒子の親水能の極度に低下させることがないうえに、高い有機物分解能抑制効果が得られる。
具体的には、酸化チタン粒子に含有させるバナジウムの量が10モル%を越えると、バナジウムの量を増加させても酸化チタン粒子の有機物分解能を抑制する効果が殆ど高まらず、有機物分解能抑制効果とバナジウムの量との相関が低くなる。また、10モル%を越えると、上記酸化チタン粒子のみの膜と水との接触角度について、バナジウムの増加量に対して該膜の親水能低下の割合が増していき、バナジウムの量と親水能低下の相関が高くなる。
また、酸化チタン粒子に含有させるバナジウムの量が1モル%を下回ると、親水能の低下は少ないが、十分な有機物分解能の抑制効果が得られない。
本発明に係る親水性塗料は、少なくとも上記酸化チタン粒子を含んでおり、さらにバインダーを含むことにより、例えば、バインダーが有機系の置換基Rや有機高分子鎖を有している場合には、親水性塗料を保管している際に何らかの照射光によって親水性塗料中の酸化チタン粒子が励起されても、上記のように有機物分解能が抑制されているため、有機系の置換基Rや有機高分子鎖を分解しにくい。そのため、有機のバインダーが変質しにくいものとなり、結着力が低下しにくく親水性塗料としての品質低下が生じにくい。
また、前記バインダーが非晶質の金属酸化物粒子であることで、多くの場合で親水性塗膜層の親水能が向上し、このため、より少量の酸化チタン粒子でも同程度のセルフクリーニング能が得られる。したがって、親水性塗料中の酸化チタン粒子数を減らすことができ、酸化チタン粒子による基材の侵食をさらに抑制できる。
この非晶質の金属酸化物粒子が酸化チタンのアモルファス粒子であれば、同じ製造工程でバインダーも製造することが可能となる。
バインダーを含有させた親水性塗料を用いて形成した親水性塗膜層は、酸化チタンからなる膜よりも親水能と有機物分解能抑制効果が低いが、前記金属酸化物粒子:前記酸化チタン粒子の重量比を25:75〜0:100とすれば、バインダーを含んだ状態でも、親水性塗膜層とした場合の水との接触角が25°以下、かつメチレンブルー分解率が40%以下となる傾向となる。
本発明に係る親水性塗膜層は、上記親水性塗料を用いて基材表面に形成したことを特徴とする。従って、本発明に係る親水性塗膜層は、基材表面と親水性塗膜層との界面で親水性塗膜層中の酸化チタン粒子が基材に接触していても、酸化チタン粒子自体の有機物分解能が抑制されているので、基材の侵食が抑制される。このため、侵食による基材の外観の悪化や親水性塗膜層の剥がれが生じにくい。
本発明に係る建築材は、上記親水性塗膜層を有する建築材であるので、上記した効果から、建築材としての寿命が短寿命化しにくいものとなる。
例えば一般の建築材が有機系の基材部分を有している場合に、この有機系の基材の上に結晶性の酸化チタン粒子を含む層を直接塗布して形成すると、上述したように結晶性の酸化チタン粒子による有機物分解により基材が侵食され、建築材が短寿命化してしまうが、本発明に係る建築材であれば、この酸化チタン粒子に所定量のバナジウムが混入されているので上述した侵食が防止され、防汚性能としての親水能及び有機物分解能(セルフクリーニング能)を多少犠牲とするが、上記のように建築材が短寿命化することがない。
本発明の実施の形態に係るコーティング剤(親水性塗料)の調製方法の工程1、2を工程順に示した図である。 本発明の実施の形態に係るコーティング剤の調製方法の工程3〜5を工程順に示した図である。 本発明の実施の形態に係るコーティング剤の調製方法の工程6、7を工程順に示した図である。 (A)バナジウム(V)を含有させない場合の電子と正孔の動きを示す説明図である。(B)バナジウム(V)を含有させた場合の電子と正孔の動きを示す説明図である。 各金属酸化物のバンドキャップエネルギー、親水能および有機物分解能を示した図である。 (A)アナターゼ粒子(酸化チタン粒子)のみによって形成した膜のバナジウム混入量別のメチレンブルー分解率[%](有機物分解能)を示す。(B)アナターゼ粒子のみによって形成した膜のバナジウム混入量別の水に対する接触角度(°)を示す。 (A)図4の結晶性の酸化チタンに酸化チタンのアモルファス溶液(バインダー)を所定の固形分比で混合し親水性塗膜層とした場合の有機物分解能抑制(メチレンブルー分解率)を示す図である。(B)(A)の親水性塗膜層についての親水能(水との接触角度)を示す図である。 従来の親水性塗膜層の断面図である。
本発明に係るアナターゼ粒子等の結晶性の酸化チタン粒子は、親水性塗料の成分である結晶性の酸化チタン粒子であって、所定量のバナジウムが含有され、この酸化チタン粒子からなる膜としたときに、酸化チタンが光励起状態で、この膜と水との接触角が25°以下、かつメチレンブルー分解率が40%以下であることを特徴とする。
例えばアナターゼ粒子を含有する塗料により有機系基材表面に親水性塗膜層を形成すると、親水性塗膜層中に分散されたアナターゼ粒子の一部が基材に接するため、このアナターゼ粒子が光励起されると、その接した箇所にて不必要な基材の分解が起こるが、本発明ではアナターゼ粒子にバナジウムを混入させることにより、アナターゼ粒子の有機物分解活能を調節して不必要な基材の分解を抑制できる。
基材表面の分解が起こると基材表面に微細な凹凸が生じ、基材表面の光反射が一様でなくなるため基材の外観が悪化するが、アナターゼ粒子にバナジウムを含有させることで基材表面の分解を抑制し、基材の外観悪化を防止することができる。
バナジウムを混入させる量については、前記アナターゼ粒子形成に用いるチタンとバナジウムの合計のモル量に対して1〜10モル%となるモル量で前記アナターゼ粒子に含有させることが望ましい。
このバナジウムのモル量が1モル%より少ない場合は、上述したようにアナターゼ粒子の有機物分解能を抑制する効果が低くなる。また、10モル%より高い場合は、上述したように有機物分解能を抑制する効果とバナジウム量との相関が低くなる一方、バナジウム量と酸化チタンの親水能の低下の相関が高くなり、好ましくない。さらに、親水性塗膜層の褐色が増すため、下地層の色の再現性が低下する。
10モル%を越える範囲の量のバナジウムを酸化チタン粒子に混入させた場合には、高い酸化チタンの有機物分解能抑制の効果が得られる一方で非常に色味がつくが、この場合にバナジウムの混入量に応じて親水性塗膜層の膜厚を減らして極度に薄塗りすれば許容範囲の色味とすることも可能ではある。
酸化チタンに混入させるバナジウム源としては、塩化バナジウム、水酸化バナジウム、硫化バナジウム、ヨウ化バナジウム等のバナジウム化合物を用いることができる。
本発明に係る親水性塗料は、少なくとも上記酸化チタン粒子を含み、さらにバインダーを含むことにより、例えば、バインダーが有機系の置換基や有機高分子鎖を有している場合には、親水性塗料を保管している間に、何らかの照射光によって親水性塗料中の酸化チタン粒子が励起されても、上記のように酸化チタン粒子の有機物分解能が抑制されているため、バインダーが有する有機系の置換基Rや有機高分子鎖を分解しにくい。そのため、バインダーが変質しにくいものとなり、結着力が低下しにくく親水性塗料としての品質低下が生じにくい。
また、バナジウムが電子・正孔の再結合サイトとなるので(図2参照)、バインダーがラジカル重合させるものである場合には、その速度調節も可能となる。すなわち、親水性塗料の保管中に含有される酸化チタンが励起されても、ラジカル重合が不必要に開始されない。このため、親水性塗料の保存性が高い。
本発明に係る親水性塗膜層は、上記親水性塗料を用いて基材表面に形成したことを特徴とする。従って、本発明に係る親水性塗膜層は、基材表面と親水性塗膜層との界面で基材に酸化チタン粒子が接触していても、酸化チタン粒子自体の有機物分解能が抑制されているので、基材の侵食が抑制される。このため、侵食による基材の外観の悪化や親水性塗膜層の剥がれが生じにくい。このため、親水性塗膜層が従来品より強固で剥がれにくいものとなる。
本発明に係る建築材は、上記親水性塗膜層を含む建築材であるため、基材が侵食する問題による建築材の短寿命化や外観悪化が生じない。
本発明における親水性とは、上記酸化チタンからなる膜が光照射され塗膜内部のバナジウム含有のアナターゼ粒子が励起した状態で水との接触角に換算して25゜以下の水濡れ性を呈する状態をいう。水との接触角に換算して25゜以下の親水能を有していれば、外装などで親水性塗膜層としたときの表面の自浄性能(セルフクリーニング能)を十分発揮できる。
<照射照度>
親水性塗膜層を親水化させる光照射の光源としては、太陽等の光源に含まれる紫外線と可視光の一部の波長が利用できる。この場合の照度は、0.001mW/cm2 以上あればよいが、0.01mW/cm2 以上が好ましく、0.1mW/cm2 以上がより好ましい。
<基材>
本発明に適用可能な基材としては、建築材に用いることができ、且つ、本発明に係る親水性塗料を一様に塗布できるものであればよい。
有機系の基材としては、有機高分子ポリマーを含有する基材を用いることができ、例えば、アクリルシリコン系、アクリルウレタン系、ポリオレフィン系、ポリエーテル系、フッ素系等の有機ポリマーを用いることができる。この場合、コーティング剤を塗布した際に基材表面に縞状の液滴の形成が防止される程度に親水性のものであれば、よりムラ無く塗ることができる理由からより好ましい。
アクリルシリコン樹脂としては、シリコン樹脂とアクリル樹脂を複合化し、ブロック共重合させたもの、ポリメタクリレ−ト樹脂とシリコン樹脂を複合化させたもの等である。 このシリコン系樹脂には、シリコン樹脂、アルキド変性シリコン樹脂、ウレタン変性シリコ−ン樹脂、ポリエステル変性シリコン樹脂、エポキシ変性シリコン樹脂等が利用できる。
<バインダー>
本発明に適用可能なバインダーとしては、アナターゼ粒子を前記有機系基材に結着させるものであればよく、無機系のバインダーとしては、金属酸化物のアモルファス粒子、アルミナ、シリカ(珪素化合物)、シリコン前駆体(珪素化合物)等を用いることができる。
有機系のバインダーとしては、アクリルシリコン系、アクリルウレタン系、ポリオレフィン系、ポリエーテル系、フッ素系等を用いることができる。
アモルファス粒子は、加熱されることで結晶化してアナターゼ粒子を形成するアナターゼ粒子の前駆体であってもよい。この場合、同じ製造工程でバインダーも製造することができる。この場合のアモルファス粒子は、アモルファス粒子形成に用いたチタンのモル量に対し、上述のアナターゼ粒子の形成と同じ割合でバナジウムを含有させたものでもよい。
シリコン前駆体は、加水分解・縮合を経てシロキサン結合によりシランオリゴマーを形成するもので、コーティング剤の組成分として含めることで、例えばこのコーティング剤のpHを酸性やアルカリ側にする、又は加熱処理することによってシリコン前駆体からシラノールSiOH基を含む加水分解物が形成され、これが有機系の基材表面で脱水縮重合することで、アナタ−ゼ粒子等の酸化チタン粒子を一体的に含んだ状態で有機系基材に固着する。この際に、酸化チタン粒子が有機系基材表面に複数個所で当接した状態で固着することとなる。
シリコ−ンの前駆体には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリブトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリブトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジブトキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジブトキシシラン、フェニルメチルジプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、及びそれらの加水分解物、それらの混合物が好適に利用できる。
上述したような珪素化合物をバインダーに用いると、形成した親水性塗膜層の親水能が向上するため、一般的な有機系の塗料をバインダーに用いた場合のコーティング剤の水との接触角度と比較して低下する。
<添加剤>
コーティング剤に界面活性剤を添加すれば表面張力が下がるため、塗る際に有機系基材表面でコーティング剤がはじかれにくくなり、より一層ムラ無く均一に塗ることが出来る。
この界面活性剤としては、水溶性の溶剤であればよく、アニオン,カチオンのイオン性分子,ノニオン系の非イオン性分子など用いることができる。例えば、メタノール、エタノール、プロパノールのモノアルコール類や、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールのジアルコール類を使用できる。また、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブのセロソルブ類も使用できる。
また、コーティング剤がほぼ無機組成分の場合には有機系基材に塗布する場合、形成した親水性塗膜層の基材に対する密着性を高めるためにコーティング剤にカップリング剤を添加してもよい。このカップリング剤としては、例えばシランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミカップリング剤を用いることができる。形成されるほぼ無機の親水性塗膜層がこのカップリング剤により有機系基材表面により強固に結合する。
さらに、親水性塗膜層のつやを消して見栄えを良くするためにコーティング剤につや消し剤を添加してもよい。つや消し剤としては、カオリン、タルク、アルミナ、ハイドロタルサイト、ベントン、硫酸バリウム、炭酸カルシウムなど体質顔料やクレー類を用いることができる。
次に、アナターゼ粒子へのバナジウムの混入方法および親水性塗膜層の形成方法について説明する。
アナターゼ粒子にバナジウムを混入させる場合、その方法は基本的に「一ノ瀬 弘道、“酸化チタンコーティング剤の改良と環境浄化への応用”」(非特許文献1)に記載の製造方法に沿う。この文献によれば、このゾルに含まれるアナターゼ粒子の平均粒子径は、40nmの以下範囲となると推定される。
なお、具体的な手順は後述の[工程1]〜[工程7]による。このうち [工程1]〜[工程5]は、バナジウムが混入されたアナターゼ粒子を調製する方法の一例で、チタンとバナジウムのそれぞれの水酸化物を所定の比率で含む水溶液に過酸化水素水等の酸化剤を添加し、この添加によって起こる反応によって前記チタンと前記バナジウムを同一分子内に含むアモルファス粒子を形成し、さらに該アモルファス粒子からアナターゼ粒子を形成するものである。
以下、その一例について図1A〜1Cを参照しながら説明し、さらに親水性塗料の調製方法と親水性塗膜層の形成について説明する。なお、説明中の具体的な数値は例示であってこれらに限定されない。
[工程1]:原料準備
後述の工程2以降で使用する原料として、チタン源、バナジウム源等を用意する。
まず、最終的に調製するアモルファス溶液またはアナターゼ溶液の容量を決定し、溶液中に含まれるチタンの終濃度(例えば0.5重量%)とチタンのモル量(例えば0.1mol)を決定し、このチタンのモル量を含む塩化チタン水溶液をチタン源として用意する。アモルファス溶液を調製する場合とアナターゼ溶液を調製する場合の双方でチタンのモル量を同量とした方が後のコーティング剤の調製時に簡便となる。
さらに、上記したチタンとバナジウムの合計のモル量に対して1〜10モル%となるバナジウムのモル量(上の例ではバナジウム0.001〜0.01mol)を含む例えば酸化バナジウム(0.0005〜0.005mol)を用意する。
また、中和用のアンモニア水とバナジウム溶液調製用のアンモニア水を用意する。バナジウム溶液調製用のアンモニア水中のアンモニアのモル量は、最終的に中和に用いられるアンモニアのモル量以下で、pH調整のスタートのpHを設定するためのものとして、任意のモル量を加えることができる。
そして、図1Aに示すように、バナジウムを含む化合物(上の例では酸化バナジウム)をバナジウム溶液調製用のアンモニア水に溶解し、蒸留水にて適宜希釈(上の例では酸化バナジウム濃度を0.9重量%)としてバナジウム溶液を得る。
また、塩化チタンは強酸性であるので塩化チタン水溶液に蒸留水を混合して希釈しておいてもよい。
[工程2]:沈殿
工程2では、工程1で調製した各溶液を混合し、沈殿物(ゲル)を形成する。
まず、バナジウム溶液と中和用のアンモニア水を混合し、この溶液全量を塩化チタン水溶液に徐々に加えていく。その後、さらにアンモニア水にてpHを調整していくが、高粘度のアモルファス粒子を調製する場合にはpH2〜6、アナターゼ粒子を調製する場合にはpH7とするのが好ましい。
これにより、水酸化チタンと水酸化バナジウムが混ざった沈殿物(ゲル)を得る(図1の工程2参照)。
ここで上記バナジウム溶液とアンモニア水の混合の際に、混合する酸化バナジウム溶液の量の調節することで含有させるバナジウムの量を調節することができる。
[工程3]:不要イオン除去(洗浄)
次に、工程3では、図1Bに示すように、工程2の沈殿物(ゲル)に蒸留水を加えて水洗し、上澄みを除去する。この水洗は、上澄み液の導電率が10μs/cm以下となるまで繰り返す。これは、導電率が10μs/cmを越える場合は、後の工程5を行うときに結晶化が進みにくい等の理由による。水洗した後に沈殿物(ゲル)の重量に、最終の溶液濃度(実施例ではTi 0.5重量%)にするために必要な量の水を加える(不図示)。
[工程4]:ゲルの溶解(アモルファス溶液の調製)
次に、工程4では工程3で洗浄した沈殿物(ゲル)に過酸化水素等の酸化剤を添加して溶解し、アモルファス溶液を得る。
まず、工程3の上澄水を捨てた沈殿物(ゲル)に水を加えたものに、チタンのモル量に対して約10倍のモル量となる過酸化水素等の酸化剤を添加する。
これにより、アモルファス溶液(上の例では0.1molのチタンと0.001〜0.01molのバナジウムを含むアモルファス溶液)を得る。
ここで、アナターゼ粒子を形成するためのアモルファス溶液を調製する際に、下記条件で調製するのが好ましい。
具体的には、工程3の沈殿物(ゲル)と蒸留水の混合物の温度を例えば5℃付近の低温に調節し、この温度を恒温槽などで維持しながら過酸化水素水等の酸化剤を添加する。その後、沈殿物(ゲル)が溶けて橙〜黄色を呈した透明溶液となるまで攪拌し、恒温槽から取り出して常温で放置することで、水同様に低粘度でアナターゼ粒子の形成に好適なアモルファス溶液が得られる。
[工程5]:結晶化
次に、工程4で調製したアナターゼ粒子用のアモルファス溶液をさらに例えば100℃付近の温度に維持して1時間(h)〜70時間(h)還流することでアモルファス粒子を結晶化させてバナジウムを含有させたアナターゼ粒子(上の例では粒子中のチタンとバナジウムの合計のモル量に対してバナジウムが1〜10モル%で含有されていると推定されるアナターゼ粒子)を含むアナターゼ溶液を得る。
また、バナジウムが含有されたアナターゼ粒子を得る別の方法としては、バナジウム溶液を用いずに工程1〜4を経てバナジウムを含まないアモルファス溶液を調製し、工程5の段階で、上記したバナジウム化合物の溶解液を加えて還流を継続することでバナジウムを含有させる方法もあるが、バナジウムを均一に含有させる観点からは、工程2の段階からバナジウム溶液を用いる方が好ましい。
[工程6]:コーティング剤の調製
次に、図1Cに示すように、アナターゼ溶液、水、(任意にバインダー、添加剤)からコーティング剤(親水性塗料)を調製する。バインダーを含める場合には、アナターゼ溶液とバインダーの両者の固形分比を考慮してコーティング剤の調製を行う。この固形分比によっても親水性塗膜層の親水能を調節できる。コーティング剤に対するアナターゼ粒子とバインダーの合計重量%は、後述のように一般的な組成とすることができ、任意に変更できる。
[工程7]:コーティング
本発明に係る親水性塗膜層は、前記コーティング剤を用いて形成された塗膜であり、その厚さ20μm未満が好ましい。20μm以上の厚塗りすると色味が付き、またクラックが入ったときに目立つため好ましくない。
また、可能な限り薄塗りできる。薄塗りできる範囲は親水性塗膜層が形成される有機系基材又は無機系基材の親水性に依存し、有機系基材又は無機系基材の材質によっても変化するため、上述したように親水性が高くコーティングしやすい有機系基材又は無機系基材が好まれる。
コーティング剤の有機系基材又は無機系基材への塗布方法としては、スプレーコート、ディッピング、スピンコート、刷毛塗り、ベル塗装などの工法で行うことができる。
(塗膜の乾燥)
塗布後の親水性塗膜層の乾燥については、有機系基材の場合には基材を変質させない温度範囲等、塗膜や有機系基材に悪影響を及ぼさない乾燥方法であれば、どの乾燥方法で乾燥させてもよい。
(有機物分解能評価、親水能評価)
親水性塗膜層は、酸化チタン粒子のみの塗膜とそれ以外のバインダー成分も含む塗膜の双方を含む。これらの親水性塗膜層について、上述した「光触媒製品技術協議会会則・諸規定および試験法2005年6月」によって有機物分解能、親水能を評価できる。
また、基材と親水性塗膜層との界面における基材の分解を調べることについては、親水性塗膜層表面でも、親水性塗膜層の界面と同様の頻度で酸化チタンの粒子の一部がむきだしに露出しているため、親水性塗膜層表面の親水能や有機物分解能を調べることで、およそ界面における有機物分解能も知ることができる。
ここで、より厳密とするには、形成する親水性塗膜層のパラメータ(膜厚やヘイズ値)により界面と表面におけるmW/cmを測定して補正係数を作成して、これによって表面における有機物分解能の評価値を補正してもよい。
以下に本発明の実施例及び比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって限定されるものではない。なお、図4においてバナジウム混入量(mol%)は、アナターゼ粒子形成に用いたチタンとバナジウムの合計のモル量に対して、用いたバナジウムのモル量(mol%)を示す。
[実施例1]
実施例1では、チタン(Ti)を約0.1mol、バナジウムを約0.001mol(チタンモル量の約1モル%)を用いてアナターゼ粒子を形成した。その後、コーティング剤を調製して基材に塗布して親水性塗膜層を形成し、この親水性塗膜層について有機物分解能と親水能を評価した。
以下に、その具体的な手順(工程1〜7、コーティング、有機物分解能および親水能の測定)を説明する。
[工程1]:原料準備
以下のものを用意した。
A液:塩化チタン水溶液(チタン源)
(和光純薬社製、TiCl4水溶液、チタン(Ti)を16.5±0.5重量%含有)
B液:アンモニア水(アンモニア源)
(和光純薬社製、NH4OH水溶液、アンモニア(NH3)を25〜27.9±0.5重量%含有)
C液:バナジウム溶液(バナジウム源)
(酸化バナジウム95重量以上%含有)
D液:過酸化水素水(過酸化水素源)
(和光純薬社製、過酸化水素水溶液、30.0〜35.5重量%)
E液:バナジウム溶液(酸化バナジウム約0.9重量%)
なお、E液については、バナジウム溶液(和光純薬社製、V2O5として95重量%以上含有)3.6g(バナジウムとして約0.02mol)とB液のアンモニア水(和光純薬 NH4OH水溶液、NH3として25〜27.9重量%含有)18.0g(アンモニウムイオンとして約0.02mol)と蒸留水378.4gとを混合して酸化バナジウムを約0.9重量%含有するものとして調製した。
[工程2]:沈殿物(ゲル)の形成
3L容のビーカーで塩化チタン溶液(A液)30g(チタンとして約0.1mol)と蒸留水60gを混合させた。これとは別に、アンモニア水(B液)を2.5重量%となるように蒸留水(約140g)で希釈した。希釈したアンモニア水(約0.074mol)をバナジウム溶液(E液)約10.54g(約0.001mol)と混合した。この溶液全量を3L容のビーカーの溶液と混合した。
更にアンモニア水(B液)を20gずつ3L容のビーカーに加える毎にpHメーター(HANNAHI98129COMBO1)でpHを測定した。pH7としてアナターゼ粒子用として沈殿物(ゲル)を形成した。
[工程3]:不要イオン除去(洗浄)
工程2の終了時の沈殿物を含む溶液(各400g程度)にそれぞれ蒸留水を加えて3Lとし、このときの上澄みの導電率をpHメーター(HANNAHI98129COMBO1または堀場製作所B−173)で測定し、上澄みを除去した。これらの動作を各溶液の上澄み液の導電率が10μS/cm以下となるまで繰り返した。
[工程4]:アモルファス溶液の調製
工程3の各溶液の上澄みを捨てて沈殿物(ゲル)の重量を測定し、過酸化水素水(D液)約118g(約1mol)を用意した。さらに、チタン重量濃度が0.5%付近になるよう、沈殿物(ゲル)の重量と過酸化水素の重量を考慮して沈殿物(ゲル)に蒸留水を加えた。
アナターゼ粒子形成用のアモルファス溶液の作成については、工程3からの沈殿物(ゲル)と蒸留水の混合物の温度を5℃付近の低温に調節し、この温度を恒温槽などで維持しながら過酸化水素水を添加した。その後、沈殿物(ゲル)が溶けて橙〜黄色を呈した透明溶液となるまで攪拌し、恒温槽から取り出して常温で放置することで、水同様に低粘度でアナターゼ粒子形成用のアモルファス溶液を得た。
[工程5]:結晶化
マントルヒータに1L容のフラスコをセットし、このフラスコに工程4からのアモルファス溶液を入れ、常に溶液が沸騰する熱量をかけてアモルファス溶液を1時間以上還流した。これにより、アモルファス溶液中のアモルファス粒子を結晶化させてアナターゼ粒子を形成した。この溶液をアナターゼ溶液(ANA)とした。なお、この還流はジムロート冷却器で行った。
[工程6]:コーティング剤の調製
工程5のアナターゼ溶液をコーティング剤とした。
[工程7]:コーティング
市販のスライドグラス(松浪硝子工業(株)S−1111(縦76mm×横26mm×厚さ0.8〜1.0mm))に上記コーティング剤2mlを塗り拡げた後に、スピンコーティング法(500r.p.m 5秒、1,500r.p.m 10秒)によりコーティングした。このスライドグラスを常温で乾燥させた。コーティングと乾燥を合計2回繰り返して酸化チタンからなる膜(酸化チタン膜)を形成した。
(有機物分解能評価)
このスライドグラスの酸化チタン膜に3時間紫外線(1.0mW/cm2)を照射して試験片を作成し「光触媒製品技術会則・諸規定および試験法(2005年6月)」に記載の光触媒性能評価試験法I(液相フィルム密着法、2001年度版)により、酸化チタン膜(親水姓塗膜層)の有機物分解能を評価した(図4(A)参照)。
なお、図4(A)に示す表の値は、調製直後のメチレンブルーの基質溶液をブランク(分解率0%)とした場合のメチレンブルーの分解率[%]を表す。
(親水能評価)
上記コーティングをしたスライドグラス5枚を用意し、これらを湿度65%、温度23℃の恒温恒湿室内(暗所)に8時間以上放置した。その後、この恒温恒湿室から放置したスライドグラスを取り出した。各スライドグラスの酸化チタン膜に1μlの蒸留水をマイクロピペッター等で滴下して、酸化チタン膜と水との接触角度を測定した。各測定値の平均を取って酸化チタン膜の親水能を評価した。
なお、接触角度の測定には協和界面科学(株)DM300を用いた。この結果を暗所(照射前)の酸化チタン膜の接触角度とした(図4(B)参照)。
一方、同様にコーティングした別のスライドグラス(同上)5枚を用意し、この酸化チタン膜に暗所で3時間紫外線(1.0mW/cm2)を照射した。その後、照射後の酸化チタン膜に1μlの蒸留水をマイクロピペッター等で滴下して、酸化チタン膜と水との接触角度を測定した。接触角度の測定については各スライドグラスの測定値の平均を取って酸化チタン膜の親水能として評価した。この測定には上記同様に協和界面科学(株)DM300を用いた。この結果を照射後の酸化チタン膜の接触角度とした(図4(B)参照)。
[実施例2〜6]
実施例1の工程2で混合されるバナジウム溶液(E液)の量を調節して、実施例2では約21.0g(バナジウムを約0.002mol含む)、実施例3では約31.6g(バナジウムを約0.003mol含む)、実施例4では約42.1g(バナジウムを約0.004mol含む)、実施例5では約52.7g(バナジウムを約0.005mol含む)、実施例6では約105.3g(バナジウムを約0.010mol含む)とした以外は、実施例1と同様としてコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った(図4参照)。
[比較例1]
実施例1の工程2でバナジウム溶液(E液)を加えず、代わりに同量の純水を加えたこと以外は、実施例1と同様としてコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った。
(酸化チタン膜の有機物分解能)
図4(A)を参照して、バナジウムを混入させず(0mol%)酸化チタン膜を形成したもの(比較例1)では、照射後の酸化チタン膜でメチレンブルーの分解率が91.1%であった。
親水能が発揮されるのは照射によって酸化チタン膜の酸化チタンが励起され生じたラジカルによって膜表面にOH基が形成されることによるため、図4(B)に示すように比較例1では照射前でも水との接触角度が13.7°と小さいことから、比較例1は常態でもかなりラジカルが生じている。ラジカルによって有機物分解も起こるため、有機物分解能を有していることが分かる(不図示)。つまり、これは有機系の基材表面が徐々に侵食されていることを示唆している。
これに対して、図4(A)に示すように、アナターゼ粒子形成に用いたチタンとバナジウムの合計のモル量に対して1〜5、10モル%となる量のバナジウムを用いてアナターゼ粒子へバナジウムを混入させた場合では、照射後の各実施例でメチレンブルー分解率がそれぞれ、36.9%(実施例1)、27.6%(実施例2)、33.6%(実施例3)、28.9%(実施例4)、19.6%(実施例5)となり、有機物分解能を抑制する結果となった。
ここで、バナジウム混入量が1〜10モル%の間(実施例1〜6)ではバナジウムの量とメチレンブルーの分解率との間に高い相関関係がみられたが、図4(A)から分かるようにバナジウムを10モル%で混入させた実施例6では底打ちとなっており、10モル%を越える範囲では上記相関関係が低く、10モル%を超えてバナジウムを含めてもそれ以上の効果は期待できない。また、図示していないが、1モル%未満では有機物分解能を抑制する効果が低い。
有機物分解能を抑制する観点からは,1〜10モル%でバナジウムを混入させることが好ましい。
(酸化チタン膜の親水能)
図4(B)を参照して、バナジウムを混入しなかった0モル%の比較例1では、照射前の水との接触角度は非常に小さい13.7°であり、照射後は0°となった。
バナジウムを1〜5モル%で混入した実施例1〜5では、照射前の水との接触角度は順に47.2°(実施例1)、40.0°(実施例2)、37.5°(実施例3)、30.8°(実施例4)、28.1°(実施例5)であった。これらの接触角度はいずれも50°を越えず、水との接触角度はやや低めである。つまり、常態でも多少親水性を呈している。
さらに照射後の各実施例で、水との接触角度が5.4°(実施例1)、6.7°(実施例2)、8.3°(実施例3)、6.2°(実施例4)、11.3°(実施例5)となり、比較例の0°に近い非常に高い親水能を発揮した。しかし、バナジウムを10モル%とした場合(実施例6)では、照射前の25.8°から照射後の角度は23.9°と殆ど低下しない。
従って、バナジウム混入量が1〜10モル%の間(実施例1〜6)ではバナジウムの量と酸化チタン膜と照射後の水との接触角度(酸化チタン膜の親水能低下の効果)との相関関係は低く、10モル%を超える範囲ではバナジウム量と接触角度の相関関係が非常に高く、接触角度も大きいことが分かる。そのため、親水能の観点から見ると10モル%未満の範囲でバナジウムを混入させることが好ましいことが分かる。
上記した実施例1〜6,比較例1の有機物分解能と親水能の結果(図4参照)から、バナジウムの混入量は、アナターゼ粒子の形成に用いたチタンとバナジウムの合計のモル量に対して1〜10モル%となる量であることが好ましい。
[実施例7]
実施例7では、実施例1〜6の結果からバナジウムを5モル%混入する実施例5が最も有機物分解能を抑制することが示されたため、この実施例5で製造したアナターゼ粒子と、バインダーを混合してコーティング剤として親水能や有機物分解能を評価した。まず、以下の材料を用意した。
(親水性塗料の組成)
(F)アナターゼ溶液(ANA)(Ti約0.5重量%,モル比Ti:V=約0.95:0.05,実施例5の工程5由来)…0.25重量%
(G)アモルファス溶液(AMO)(Ti約0.5重量%,比較例1の工程4由来)…0.25重量%
(H)水…99.5重量%
組成分(F)〜(H)をスターラーで混合し、アナターゼ溶液(F)とアモルファス溶液(G)の固形分比が50:50のコーティング剤(親水塗料組成物)100gを調製した。
このコーティング剤を用いて、実施例1と同様にしてコーティングして親水性塗膜層を形成し、その有機物分解能評価と親水能評価を行った。
[実施例8,9、比較例2]
実施例7で用いたアナターゼ溶液とアモルファス溶液を用いて、それぞれの固形分比を、ANA:AMO=25:75(実施例8)、75:25(実施例9),0:100(比較例2)となるように混合し、固形分比の変化させた場合にコーティング剤としての有機物分解能や親水能がどの程度変化するかを評価した。
それ以外は実施例1と同様にしてコーティングして親水性塗膜層を形成し、その有機物分解能および親水能の評価を行った(図5参照)。
(コーティング剤としての有機物分解能、親水能)
実施例1〜6ではアナターゼ溶液のみを用いて親水性塗膜層を形成してその評価を行ったが、実際に基材に塗布する場合には、アナターゼ粒子をペルオキソ改質型とする等の処理をしてアナターゼ粒子自体の結着性を高めない限り、アナターゼ溶液中の結晶粒子を基材に結着させるバインダーを含めることが多い。
実施例7〜9では、親水能が低いアモルファス溶液をバインダーとしてコーティング剤に含めることで、形成される塗膜層に占める結晶粒子の割合が下がり、当然親水能が低下することが予想されるが、それでもUV照射後の親水性塗膜層の水との接触角度は19.1°(実施例7)25.0°(実施例8)17.6°(実施例9)と約19〜25°の範囲となった。これは、アナターゼ溶液のみを塗布して形成した場合の11.3°に近い値といえる(図5(B)参照)。
また、部分結晶化等の理由によりアモルファス溶液のみを含む比較例2でも照射後の接触角度は40.6°まで下がるが、アナターゼ溶液を混合していくとさらに低下し、アナターゼ溶液とアモルファス溶液を100%ととらえた場合に少なくとも25%以上の割合でアナターゼ溶液を混合すれば、形成した親水性塗膜層の接触角度は25°以下となる。この場合、有機物分解能については、結晶性の酸化チタンより有機物分解能の低いバインダーを混ぜることから、メチレンブルー分解率は40%を下回る。
従って、実施例1〜6いずれかの酸化チタン膜形成用のコーティング剤とバインダーとを組成分とした親水性塗料としてもアナターゼ溶液が25%以上であれば酸化チタンのみからなる膜(実施例1〜6)と同程度の性能(親水能、有機物分解抑制能)を有するとともに、この親水性塗料を用いて例えば建築材に用いられる有機系基材の外装部分に親水性塗膜層を形成した場合、比較例1のコーティング剤を組成分として用いた場合に比べて、親水性塗膜層中に分散し基材に接した各アナターゼ粒子による基材の不必要な分解を抑制することができ、この結果、基材の外観が悪化しにくいものとなる。
この親水性塗膜層は光照射・励起後に高い親水能を有しているので、親水性塗膜表面で例えば雨滴や洗浄用水等の水が表面全体に一様に広がり、水の流れ去りによって高いセルフクリーニング効果が期待できる。また、この親水性塗膜層を用いた建築材とすれば、同様の効果が得られ、上記分解抑制の効果より建築材の短寿命化も防げる。
実施例1〜6で酸化チタンの結晶粒子の有機物抑制されることが示され、また、実施例7〜9で実施例1〜6のものをバインダーとともに用いてもやや劣るが同様の有機物抑制や親水能をことができることが示された。また、バインダーの成分はシリカと同様な金属酸化物であることから、コーティング剤組成とした場合の有機物分解抑制と親水能低下抑制の効果が同様に期待できる。
以上、実施の形態、実施例及び比較例に基づいて本発明の説明をしてきたが、本発明は上記の構成に限らず、例えば、実施例とは異なる他の方法で混入させてもよく、具体的にはバナジウムをアナターゼ粒子やアモルファス粒子の表面に担持させたり、各粒子の内部に包摂させることで混入させてもよい。

Claims (9)

  1. 親水性塗料の成分である結晶性の酸化チタン粒子であって、
    所定量のバナジウムが含有され、
    前記酸化チタン粒子からなる膜としたときの光励起状態で水との接触角が25°以下、かつメチレンブルー分解率が40%以下であることを特徴とする酸化チタン粒子。
  2. 前記バナジウムの混入量は、前記酸化チタン粒子の形成に用いたチタンとバナジウムの合計のモル量に対して1〜10モル%となる量であることを特徴とする請求項1に記載の酸化チタン粒子。
  3. 請求項1又は2に記載の酸化チタン粒子を組成分として含むことを特徴とする親水性塗料。
  4. 前記酸化チタン粒子を有機系基材の表面に結着させるためのバインダーを含むことを特徴とする請求項3に記載の親水性塗料。
  5. 前記バインダーは、非晶質の金属酸化物粒子を含む溶液であることを特徴とする請求項4に記載の親水性塗料。
  6. 前記非晶質の金属酸化物粒子は、酸化チタンのアモルファス粒子であることを特徴とする請求項5に記載の親水性塗料。
  7. 前記金属酸化物粒子:前記酸化チタン粒子の重量比が25:75〜0:100であり、親水性塗膜層を形成したときの該親水性塗膜層の水との接触角度が25°以下およびメチレンブルー分解率40%以下であることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の親水性塗料。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項に記載の親水性塗料を用いて形成したことを特徴とする親水性塗膜層。
  9. 請求項8に記載の親水性塗膜層を有することを特徴とする建築材。
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