図1は、本発明の一実施態様である細胞組織評価装置10の構成の概要を説明する図である。図1に示すように、細胞組織評価装置10は、実験槽部14、2つの磁気センサヘッドである第1磁気センサヘッド18および第2磁気センサヘッド20、制御回路部22などを含んで構成される。また、制御回路部22から出力される検出結果としての磁気信号は、図1に示すように例えばA/D変換器32によってデジタル変換処理が行なわれ、データ収録などに用いられるコンピュータ34によって記録される。
このうち、実験槽部14は、検出対象となる細胞組織50を配置するための実験槽56を含んで構成される。図2はこの実験槽部14の構成を詳細に説明するための図である。実験槽56は、板状のシリコン(シリコン板)55に断面が長方形の貫通して設けられた孔と、前記シリコン板55の下側に重ねるように設置された、例えば厚さ100μm程度のカバーガラス57によって構成される。すなわち、実験槽56は、カバーガラス57を底、シリコン板55に貫通して設けられた孔を壁面とする柱状の容器である。
実験槽56には、細胞組織50の生存状態を維持するための細胞組織維持部70が設けられている。具体的には、細胞組織維持部70は、摂氏0度乃至42度の温度範囲で予め設定された温度のイオン組成浸透圧を有する生理的細胞外液を供給することにより細胞組織50の生存状態を維持する。より具体的には、細胞組織維持部70は、この生理的細胞外液(灌流液)を、灌流液流入チューブ62から実験槽56に供給する。また、実験槽56中にある生理的細胞外液は、灌流液吸引チューブ64を介して循環ポンプ66によって吸引され、再び灌流液流入チューブ62から実験槽56に循環して供給される。また、この生理的細胞外液の循環の過程において恒温槽68が設けられており、灌流液吸引チューブ64により吸引された生理的細胞外液は、恒温槽68により前記予め設定された温度に加熱もしくは冷却される。本発明の細胞組織評価装置10の検出対象である興奮性細胞組織において、電気的活動はイオン輸送体の活性化によるイオン流動によって作り出される。従って細胞内外の水が固体となる摂氏0度以下ではイオンが流動しない。また、摂氏42度以上においては、細胞はヒートショック蛋白を生成して機能が傷害され、不可逆的な変化が起こってしまう。そのため、生理的細胞外液の温度は、摂氏0度乃至42度の温度範囲で予め設定された温度とされ、細胞組織の生存状態を維持し、恒常性を保つ。これらの、生理的細胞外液の循環のための構造、すなわち、灌流液流入チューブ62、灌流液吸引チューブ64、循環ポンプ66、および恒温槽68が細胞組織維持部70に対応する。
刺激投与部76は、実験槽56に配置される細胞組織50に対し、刺激を与えるものであって、本実施例においては薬剤供給部74およびピペット72を含んで構成される。ピペット72は、図示しないマニピュレータにより保持されており、そのマニピュレータを移動することにより移動させられることができる。あるいはピペット72は所定の位置に固設され、実験層56がマニピュレータ58により移動させられるなどにより、実験槽56における任意の位置に薬剤を滴下することができるようにされてもよい。そして、移動させられた位置において薬剤供給部74から供給される薬剤を滴下することにより、実験槽56に配置された細胞組織50の任意の部位に対し、刺激の一態様として薬剤を投与することができる。薬剤供給部74は、例えば細胞組織評価装置10の検出対象である興奮性細胞組織に対し刺激となりうる薬剤が予め貯蔵されており、予め定められた所定量の薬剤をピペット72に供給するようにされている。
電気刺激部78は、実験槽56に配置される細胞組織50に対し、電気的刺激を与えるものである。具体的には電気刺激部78は電極80および81を有しており、一方の電極80は実験槽56における生理的細胞外液内に配置されている。また他方の電極81は、電気刺激用に設けられたピペット82に挿入されている。このピペット82には電解質の液体が注入されており、そのピペット82を細胞組織50の任意の位置に接触させることにより電極81と細胞組織50とが直接接触することなく電気的刺激を付与することができるようになっている。そして、電気刺激部78は例えば30ボルトのように予め定められた所定の電圧を電極80および81の間に印加したり、や、例えば5mAのように予め定められた所定の電流を通電することにより、細胞組織50に電気的刺激を与えることができる。なお、前記刺激投与部76および電気刺激部78が本発明の刺激投与部に対応する。
図1に戻って、実験槽部14は、例えばプラスチック製の容器16によって周囲が覆われており、実験槽56およびその実験槽56に配置された細胞組織50の周囲の温度(環境温度)が所望の温度に保持されるようにされている。なお、容器16は磁気シールド(遮蔽)を行なわない物質によって構成される。また、好適には容器16は透明な容器とされ、外部からの光の照射を行なったり、内部における蛍光の発生を外部に設けた光センサなどによって検出したりすることができるようにされてもよい。
第1磁気センサヘッド18および第2磁気センサヘッド20は、いずれも磁気信号を検出するためのセンサであって、たとえばそれぞれ超高感度MI(Magneto Impedance)センサによって構成されている。図3は、第1磁気センサヘッド18および第2磁気センサヘッド20(以下、これらを区別しない場合、「磁気センサヘッド18、20」という。)の構造の一例を説明する図である。図3に示すように、磁気センサヘッド18、20は、柱状磁性体としてのアモルファスワイヤ84と、アモルファスワイヤ84と同心に巻き回された検出コイル86を含んで構成されている。アモルファスワイヤ84の両端には後述するセンサ駆動部24(図1参照)によって発生される例えば30kHz以上などの高周波の交流電流が通電される。そして、アモルファスワイヤ84が生ずる磁束により検出コイル86に生ずる電圧が後述する磁気信号検出部28によって検出される。ここで、アモルファスワイヤ84は、通電される高周波電流が通電される際に例えば単位面積あたりの磁束密度が0.2nT乃至1nT程度の外部磁界が印加されると、磁気インピーダンス効果により、その両端のインピーダンスが大きく変化する。したがって、前記検出コイル86の両端の電圧を検出し、検出される電圧に基づいてアモルファスワイヤ84のインピーダンスの変化を検出することにより、アモルファスワイヤ84に印加される外部磁界の変化を検出することができる。
また磁気センサヘッド18、20は、生体細胞組織が機能するとして前述の細胞組織維持部70によって設定される0乃至42℃の環境温度範囲で作動するものとされる。
また磁気センサヘッド18、20は、磁気変動に対して1ms以下の応答速度を有するものとされる。これは、生体に存在する神経、筋、内分泌細胞などの様々な電気的興奮性細胞が発生する活動電位の持続時間に基づくものである。すなわち、活動電位の持続時間が最も短い神経細胞でも、その活動電位持続時間は0.4乃至2msであることが知られている。従って、磁気変動に対する応答速度、すなわち磁気変化に反応するまでの応答時間が約1ms以下であれば、多くの種類の神経細胞の活動を測定・評価できるだけでなく、その他、筋や内分泌細胞など様々な電気的興奮性細胞の活動も測定・評価することができるためである。
図4は、実験槽56と第1磁気センサヘッド18および第2磁気センサヘッド20の構造と、それら第1磁気センサヘッド18および第2磁気センサヘッド20の相対的な位置を説明する図である。第1磁気センサヘッド18および第2磁気センサヘッド20は、前述のように柱状のアモルファスワイヤ84と、そのアモルファスワイヤ84と同心に円柱状に巻き回された検出コイル86を含んで構成される。具体的には、本実施例においては図4に示すように、第1磁気センサヘッド18および第2磁気センサヘッド20の有するアモルファスワイヤ84の断面方向の直径は約200μm、また、検出コイル86の断面方向の半径は約500μmとされている。また、アモルファスワイヤ84と検出コイルとの間は、中空とされても良いし、絶縁体によって充填されてもよい。ここで、磁気センサヘッド18、20の有するアモルファスワイヤ84の長さdは、細胞から第1磁気センサヘッド18までの距離l1以下とされる。このようにすることにより、電流が流れるとampereの法則により距離に反比例した大きさの磁界が発生するので、細胞から第1磁気センサヘッド18までの距離d1程度の高い空間分解能、例えば1000μmの分解能が得られる。さらに、磁気センサヘッド18、20は、細胞組織50によって発生する磁気信号を1nT以下のノイズレベルで測定するように、そのアモルファスワイヤ84の形状、大きさ、および検出コイル86の形状、大きさ、巻き数等が設定されている。
また、図4に示すように、第1磁気センサヘッド18および第2磁気センサヘッド20は、実験槽56の下方において同一の鉛直軸上に、両者が平行となるように、例えば第1磁気センサヘッド18および第2磁気センサヘッド20のアモルファスワイヤ84の軸方向がいずれも平行となるように位置させられる。本実施例においては、第1磁気センサヘッド18および第2磁気センサヘッド20のアモルファスワイヤ84の軸方向が、いずれも実験槽56の底面と平行、すなわち水平となるように第1磁気センサヘッド18および第2磁気センサヘッド20が配設されており、図示しないセンサヘッド保持具などにより保持されている。第1磁気センサヘッド18と細胞組織50との距離d1は、第2磁気センサヘッド20と細胞組織50との距離d2よりも短くなるように、すなわち、図4においては、第2磁気センサヘッド20は、第1磁気センサヘッド18よりも下方に位置させられる。なお、第1磁気センサヘッド18と細胞組織50との距離d1は、第1磁気センサヘッド18において磁気を検知する部分の中心と細胞組織50の下面との距離として定義される。すなわち本実施例の図4のように、第1磁気センサヘッド18が柱状のアモルファスワイヤ84を有し、その軸が実験槽56の底面と平行である場合には、アモルファスワイヤ84の軸と実験槽56の底面、すなわち細胞組織50の下面との距離である。磁気センサヘッドと細胞組織との距離は、第2磁気センサヘッド20、あるいは他の実施例における磁気センサヘッドについても同様に定義される。
ここで、第1磁気センサヘッド18と細胞組織50との距離d1は、細胞組織50によって発生する磁場を検出することができる距離、具体的には例えば1mm以下とされている。一方、第2磁気センサヘッド20と細胞組織50との距離d2は、後述する環境磁場相殺部26によって算出される第1磁気センサヘッド18による検出信号と第2磁気センサヘッド20による検出信号との差分の大きさが、後述する磁気検出部30におけるノイズレベルを上回ることのできる距離とされればよい。具体的には例えば、細胞組織50によって発生する磁場は第1磁気センサヘッド18によってのみ検出され、また、実験槽56の周囲における磁場、すなわち環境磁場は第1磁気センサヘッド18および第2磁気センサヘッド20の両方によって検出されるようにすればよい。図4においては、実験槽56の底としてシリコン板55に設置されたカバーガラス57の厚さが100μmであり、第1磁気センサヘッド18は、その検出コイル86の上端とカバーガラス57の下面との距離が300μmとなるように設置されている。また、前述のように、検出コイル86の断面における半径は500μmであるので、第1磁気センサヘッド18と細胞組織50との距離d1は、前記細胞組織50によって発生する磁場を検出することができる距離である1mmを下回る900μmとされている。
なお、磁気センサヘッド18、20のノイズレベルの許容量は、検出対象とされる細胞組織50が発生する磁場の強さ、例えば磁束密度に基づいて設定される。例えば、細胞組織50の活動電位に伴い発生する磁気変動の振幅が、約500乃至1000pTである場合には、細胞組織50へ1000μm以内に近接させることができる磁気センサヘッド18、20(特に、第1磁気センサヘッド18)のノイズレベルが1000pT以下であれば、細胞組織50の機能を評価する目的に使用することができる。
また、磁気センサヘッド18、20は図示しないマニピュレータに固定されており、マニピュレータの動きに合わせてそれぞれ移動させられる。具体的には、実験槽56と並行な方向の移動を行なうことにより、例えば実験槽56の特定の箇所に第1磁気センサヘッド18を位置させて、その特定の箇所における磁気検出の対象位置を変更することが可能である。また実験槽56との距離を変更することにより、磁気検出部30による磁気の検出に適した配置とすることができる。
磁気センサヘッド18、20は、特定方向の磁場を検出することができる、いわゆるベクトルセンサである。前述のように、磁気センサヘッド18、20はそれら磁気センサヘッド18、20が固定されているマニピュレータによって磁気センサヘッド18、20の向きを変更することにより、所望の方向の磁気が検出することができる。
図5は検出したい磁気の方向と、磁気センサヘッド18、20の配置における向きとの関係を説明する図である。図5は、図1における実験槽部14を上面から見た図である。説明のため、実験槽部14には、図5に示すように、実験槽56と平行な平面において直行するx軸およびy軸が設けられている。図5の(a)は、y軸と並行な磁気を検出するための磁気センサヘッド18、20の配置の一例を示す図であり、(b)はx軸と並行な磁気を検出するための磁気センサヘッド18、20の配置の一例を示す図である。このように、所望の方向の磁気を検出することができるように、磁気センサヘッド18、20のx−y平面における向きが設定される。
図1に戻って、制御回路部22は、磁気センサヘッド18、20を駆動し、また、これらの磁気センサヘッド18、20によって検出される信号を取り出すとともに、所定の処理を行ない、細胞組織50によって発生する磁界(磁気信号)に対応する信号のみを取り出す。この制御回路部22は、例えばアナログ回路によって構成されており、センサ駆動部24、環境磁場相殺部26、磁気信号検出部28を機能的に含んで構成される。
センサ駆動部24は、高周波の交流電流を発生し、第1磁気センサヘッド18および第2磁気センサヘッド20のそれぞれのアモルファスワイヤ84に通電する。この高周波の交流電流の周波数および電流は、第1磁気センサヘッド18および第2磁気センサヘッド20のアモルファスワイヤ84が磁気インピーダンス現象を生ずることができる値とされる。本実施例においては例えば、センサ駆動部24はCMOSインバータ内蔵ICをタイマー回路として利用して33μs間隔でパルスを発生するので、前記アモルファスワイヤ84が磁気インピーダンス現象を生ずるとともに、磁気変化への応答の最短時間はこの33μsとなり(内山剛、田島信吾、汲力、「MIマイクロ磁気センサを用いた非接触心拍検出法」、電気学会マグネティックス研究会予稿集,2007年、MAG-07-108など参照)、細胞組織50による活動を十分に測定できる。
環境磁場相殺部26は、第1磁気センサヘッド18の検出コイル86によって検出される電圧と、第2磁気センサヘッド20の検出コイル86によって検出される電圧とに基づいて、環境磁場の影響を低減する。本実施例においては前述のように、細胞組織50によって発生する磁場は第1磁気センサヘッド18のみによって検出され、環境磁場は第1磁気センサヘッド18および第2磁気センサヘッド20によって検出されるよう第1磁気センサヘッド18および第2磁気センサヘッド20が配設されている。従って、第1磁気センサヘッド18によって検出される電圧から、第2磁気センサヘッド18の検出コイル86によって検出される電圧を減ずることにより、環境磁場の影響を低減することができる。このとき、第1磁気センサヘッド18と細胞組織50との距離d1は、細胞組織50によって発生する磁場を検出することができる距離とされ、第2磁気センサヘッド20と細胞組織50との距離d2は、後述する環境磁場相殺部26によって算出される第1磁気センサヘッド18による検出信号と第2磁気センサヘッド20による検出信号との差分の大きさが、後述する磁気検出部30におけるノイズレベルを上回ることのできる距離とされるので、第1磁気センサヘッド18によって検出される電圧と第2磁気センサヘッド18の検出コイル86によって検出される電圧との差分に基づいて、細胞組織50によって発生する磁場に対応する電圧を検出することができる。
磁気信号検出部28は、環境磁場相殺部26によって環境磁場の影響が低減されるように算出される、細胞組織50によって発生する磁場に対応する電圧に基づいて、前記細胞組織50によって発生する磁界の強度を、例えば磁束密度などにより算出する。
このように、第1磁気センサヘッド18、第2磁気センサヘッド20、および制御回路部22によって、細胞組織50によって発生する磁界の強度が得られるので、これら全体を総じて磁気検出部30とみなすことができる。
A/D変換部32は、例えば16ビットや32ビットなどのA/D変換器であって、制御回路部22の磁気信号検出部28により生成される細胞組織50によって発生する磁界の強度の時間変化をデジタルデータ化して、後述するコンピュータに入力する。なお、A/D変換部32の分解能は、前述の16ビットや32ビットなどに限定されず、磁気センサヘッド18、20の分解能に応じて適宜変更することができる。
コンピュータ34は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMなどに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、制御回路部22によって出力され、A/D変換部32によってデジタルデータ化される細胞組織50によって発生する磁界の変化についての情報を処理する。
図6は、コンピュータ34の有する機能の一例を説明する機能ブロック図である。電子制御装置(CPU)36は、信号処理部38、評価部40を有する。この信号処理部38は、制御回路部22によって出力され、A/D変換部32によってデジタルデータ化される細胞組織50によって発生する磁界の変化についての情報を、予め記憶部42に記憶されたプログラムや、キーボードなどの入力部46を介した操作者による出力などに応じて処理する。また、前記信号処理部38は必要に応じて、入力信号である磁界の変化についての情報に対し、例えばFFT(高速フーリエ変換)やIFT(逆高速フーリエ変換)などの処理を行なうことにより、特定の範囲の周波数を強調したり、あるいは除去するなどのフィルタリングを行なう。例えば、前記磁界の変化についての情報をメモリやハードディスクなどの記憶部42に記憶したり、あるいは前記磁界の変化についての情報を、ディスプレイ装置などの出力部44の表示領域に時間経過に対する変化として図示したりする。
評価部40は、評価対象とされた細胞組織50について信号処理部38によって得られた磁気信号についての情報を、見本標本についての磁気信号と比較することにより、細胞組織50の構造化を評価する。この評価は、例えば両者の類似度に基づいて行なわれる。類似度とは、振幅の大きさであっても良いし、例えば得られた磁気信号における波形の図形的(幾何学的)な類似の度合いや、得られた磁気信号を周波数解析やスペクトル解析した結果、例えば特定の周波数成分の有無などによっても判断される。ここで、前記見本標本についての磁気信号は、特定の細胞組織の磁気波形として予め得られており記憶部42に記憶された情報であってもよいし、例えば評価対象としての細胞組織50についての磁気信号の検出に前後して、見本標本として実際の細胞組織について1回検出された、もしくは複数回検出され平均化された磁気信号であってもよい。
図7を用いて、この評価部40における原理を説明する。図7は、複数の異なる組織化の度合いにおける細胞組織50と、それらの細胞組織50について検出される磁気信号の例を説明する図である。図7に示された3つの細胞組織50のうち、(a)のものが最も組織化(構造化)の度合いが高く(組織化度が高く)、(b)は(a)に次いで組織化の度合いが高く、(c)は最も組織化の度合いが低い(組織化度が低い)。一方、検出される磁気信号の強さは、図7に示されたx方向およびy方向のそれぞれについて、(a)についてが最も振幅が大きく、(b)、(c)の順で振幅の大きさが小さくなっている。このように、細胞組織の構造化の程度に応じて、それらの細胞組織について検出される磁気信号が異なる、具体的には図7の例においては振幅の大きさが異なることが判る。これは発明者らの実験的な知見に基づくものである。なお、図7におけるx軸およびy軸は図2におけるx軸およびy軸と同一である必要はない。
かかる細胞組織の組織化度と検出される磁気信号との関係は、細胞組織における電流を投下するギャップチャネル構造の発現の度合いに基づくものである。すなわち、組織化度が高い細胞組織においては、細胞組織を構成する細胞が密に配列しており、ギャップ結合チャネルを介した細胞間の電気的結合(細胞間連絡)が多い。一方、組織化度が低い細胞組織においては、細胞組織を構成する細胞の方向がそろっておらず細胞間隙が広く、さらに細胞間が接触する面積が少なくギャップ結合チャネルによる電気的な連絡も悪い。そのため、組織化度が低い細胞組織においては、細胞組織において発生する電流の伝導は減弱する。従って電流に基づいて発生する磁気信号も小さくなる。
また、電流に基づいて発生する磁気信号は、電流と直行する方向のものであるので、細胞組織における各方向ごとの磁気信号を検出することにより、細胞組織における電流の発生しやすい方向を評価することができる。すなわち、細胞組織内における細胞間の電気的な連絡、言いかえれば組織化の度合いを方向ごとに評価することができる。これらの評価は、細胞組織の形態(外観)を観察することによっては得ることのできない情報である。
以下、本実施例の細胞組織評価装置10を用いた実験例について説明する。
(実験例1)
モルモットの盲腸から摘出した盲腸紐平滑筋細胞組織標本を細胞組織50(標本)として実験槽56中に配置し、マニピュレータを操作することにより磁気センサヘッド18、20を細胞組織50の下に位置させることにより、細胞組織50の局所の磁気変動を計測した。使用した盲腸紐平滑筋細胞組織標本は、ほとんど縦走筋ばかりで構成されており、細胞間がギャップ結合チャネル蛋白で結合されているため、全体としてその長軸方向へ電気を伝導する、いわばケーブルとして働くことが知られている。さらに、この標本は自発性の電気活動も発生する。
図9は本実験例において評価の対象である細胞組織50とされる平滑筋組織を模式的に示した図であり、このうち図8(a)は外観図を示している。図8(a)には説明のためx軸、y軸、およびz軸が設けられており、このうち、x軸の方向が平滑筋組織の長軸方向に、y軸およびz軸の方向がいずれも平滑筋組織の短軸方向に対応する。なお、これらのx軸およびy軸は図2や図7におけるx軸およびy軸と同一である必要はない。
図8(b)は、(a)の平滑筋組織をいずれかの短軸方向に見た場合の平面図(例えばxy平面と並行な平面)である。図8(b)においてRinは平滑筋組織を構成する各細胞における電気抵抗である細胞内抵抗を表わしている。また、Rg1は平滑筋組織における長軸方向の細胞間の電気抵抗(細胞間抵抗)を、Rg2は、短軸方向の細胞間抵抗をそれぞれ示している。この細胞間抵抗は、細胞間におけるギャップジャンクションのイオン透過性に対応するものである。ここで、細胞内抵抗Rinは長軸方向の細胞間抵抗Rg1および短軸方向の細胞間抵抗Rg2のそれぞれに比べて十分小さいと考えられることから、長軸方向へ電流が流れることとなる。平滑筋組織において活動電位が発生すると、細胞内外へ電流が流れるだけでなく、長軸方向へ向かって細胞間の電流が流れる。そのため細胞内、および細胞間の電流に沿って生じる磁束により磁気信号(活動磁場)が生じると考えられる。すなわち、本実験例において検出される平滑筋組織の磁気信号によれば、細胞間の電流の大きさ、従って平滑筋組織を構成する細胞の組織化度を評価することができる。
図8(c)は、(a)の平滑筋組織を長軸方向に見た場合の断面図(例えばyz平面と並行な平面)である。図8(c)に示すように、平滑筋組織を構成する各細胞の間には細胞間隙52が存在する場合がありうる。かかる場合であって、平滑筋組織を構成する各細胞の表面がタイトジャンクションのようにイオンや溶液を通過させない構造を有している場合には、平滑筋組織を流れる電流にはその細胞間隙52を流れる電流が含まれることとなる。
このとき、第1磁気センサヘッド18は細胞組織50の直下約1mmに設置されている。第2磁気センサヘッド20は、細胞組織50から下に50mmの位置において第1磁気センサヘッド18と空間的に平行に配置されている。前述のように第1磁気センサヘッド18は、細胞組織50が発生する磁気信号を主に検出する。一方、第2磁気センサヘッド20は主に実験室内の磁気環境をモニターしている。これらの磁気センサヘッド18、20は制御回路部22に接続されており、制御回路部22の環境磁場相殺部26は、例えばオペアンプ差分回路により第1磁気センサヘッド18において検出される信号から第2磁気センサヘッド20において検出される信号を差分することにより、標本が発生する磁気信号を高感度で検出する。
細胞組織維持部70の恒温槽68を制御し、実験槽56に供給される細胞外液の液温を調整するなどによって、実験槽56中の細胞外液の液温を約37℃の正常体温環境下に保ち、磁気センサーヘッド18、20を図5(a)に示すように細胞組織50の長軸方向と直行する方向に、すなわち平滑筋組織における繊維長軸と直交して配置したとき、細胞組織50が発生する磁気信号(磁界)の時間的変動として、図9に示される磁気信号が得られた。図9においては、横軸が検出回数(すなわち、一定間隔で検出を繰り返す場合においては経過時間に対応する)、縦軸が検出された磁気信号の強度である磁束密度が示されている。
図9に示す磁気信号は、この盲腸紐平滑筋細胞組織が発生する電気信号が、この組織自身を伝導することによって発生する磁気信号であることを示しており、この信号の振幅やパワースペクトル解析などで得られる信号強度は、図7を用いて説明したように、細胞組織50において細胞が構造的に配置され、さらに電気的な結合(または伝導方向)構造を構築していることの指標として利用することができる。
続いて、磁気センサーヘッド18、20を図5(b)に示すように細胞組織50の長軸方向と並行に、すなわち平滑筋組織における繊維長軸と並行に配置したとき、細胞組織50が発生する磁気信号(磁界)の時間的変動として、図10に示される磁気信号が得られた。図9に示す磁気信号と図10に示す磁気信号とを比較すると、図10に示す磁気信号すなわち繊維長軸と直行する磁気信号は、図9に示す磁気信号、すなわち繊維長軸方向の磁気信号よりも大きいことが判る。なお、実際には図10の磁気信号には、細胞組織から発せられる磁気信号はほとんど含まれておらず、ノイズのみが含まれている状態に近いものである。細胞組織を流れる電流の向きと発生する磁界の向きとは直交する関係にあることから、繊維長軸方向に流れる電流の大きさは、繊維長軸に直交する向きに流れる電流の大きさよりも大きいことが判る。すなわち、細胞組織50内を流れる電流と直交する向きに磁気センサーヘッド18、20が設置された場合に、主にその電流によって生じる磁気信号を計測することができる。なお、本実験例においては、同一の細胞組織50について図9乃至図12の複数種類の磁気信号の検出を行なっているが、これに限定されるものではない。すなわち、磁気信号の検出毎に、盲腸紐である同一種類の別の標本を評価対象となる細胞組織50として用いることもできる。
同様の実験において、刺激投与部76の薬剤供給部74からピペット72を介して実験槽56にNifedipine(ニフェジピン)を投与したところ、磁気センサーヘッド18、20を図5(a)に示すように細胞組織50の繊維長軸と直交する方向の細胞組織50が発生する磁気信号(磁界)の時間的変動として、図11に示される磁気信号が得られた。この図11に示す磁気信号を、ニフェジピンを投与しない場合に対応する磁気信号である図9に示す磁気信号とを比較すると、信号の強度が弱くなっていることが判る。図11の磁気信号には、細胞組織から発せられる磁気信号はほとんど含まれておらず、ノイズのみが含まれている状態に近いものである。
ところで、前記ニフェジピンは、平滑筋の収縮に関与するCaイオンの細胞内への流入を阻害する、カルシウムチャネル阻害剤である。このカルシウムチャネルは細胞組織50である盲腸紐平滑筋が発生する電流の原因となるものであるところ、前記ニフェジピンが投与されると、細胞組織50の細胞間のチャネルがなくなり、細胞間の電流が流れなくなる。このことは、図11の磁気信号には、細胞組織から発せられる磁気信号はほとんど含まれなくなったこと、すなわち、細胞組織50を流れる電流がほぼなくなっていることと一致する。
また、図14および図15は、それぞれ前述の実験における図9および図11のように得られた磁気信号、すなわち、細胞組織50に対し何も刺激を与えない状態とニフェジピンを投与した場合のそれぞれについて、同一の方向に磁気センサーヘッド18、20を位置させた場合に得られる磁気信号をパワースペクトルで表わした図のうち、周波数が1Hz乃至10Hz部分を抜粋した図である。かかるパワースペクトルは評価部40において実行される。
前記見本標本および評価対象である細胞組織50のそれぞれについての磁気信号について、例えば図14や図15のように評価部40によって得られる両者のパワースペクトルにおける、幾何学的な類似度や、特定の周波数成分の有無、あるいは刺激の付与によって発生する変化の特徴の同一性などの特徴に基づいて、前記見本標本および評価対象である細胞組織50の構造化が評価されることができる。具体的には、前記見本標本および評価対象である細胞組織50のパワースペクトルの前記特徴が類似するほど、両者の細胞組織としての構造化が類似していると評価される。
(実験例2)
本実験例2においては、前述の実験例1と同様に、盲腸紐平滑筋組織を細胞組織50として実験槽56中に配置し、磁気センサヘッド18、20を細胞組織50の下に位置させ、実験槽56中の細胞外液の液温を約37℃の正常体温環境下に保つ。そして、細胞組織50の一部分に対し、電気刺激部78により、細胞組織50に電気的刺激を付与して、この電気的刺激の前後における細胞組織50の局所の磁気変動を計測した。磁気センサヘッド18、20を細胞組織50の繊維長軸と直交する方向に配置したところ、図12に示す磁気信号が得られた。なお、このときピペット82は第1磁気センサヘッド18から約5mm離れた位置に配置されている。
図12において、矢印aで示すピークは電気刺激部78により電気的刺激が付与されたことによる磁気ノイズを示すものである。また矢印bで示すピークは、与えられた電気的刺激の後に細胞組織50の内部を自発性の電流が伝動することに伴って、細胞組織50から発生した磁気波形の変化(反応)を示している。
このように、細胞組織50は電気的刺激を与えた場合にはその電気的刺激に対応して磁気信号を発生するものであるところ、発生する磁気信号が細胞組織の組織化度に応じて異なるものであるので、例えば電気的刺激を加えてから対応する磁気信号の反応が生ずるまでの時間や、所定の電圧の電気的刺激に対して発生する磁気信号の反応における振幅、反応の発生する時間の長さ、あるいはそれらに加えて電気的刺激を与えた部位と磁気信号を検出する部位との距離などの関係などを細胞組織50の組織化度を評価する指標として用いることができる。
図13は、本実施例における細胞組織評価装置10の制御作動の一例を説明するフローチャートである。まず、磁気検出部30、制御回路部22などに対応するステップ(以下「ステップ」を省略する。)S1においては、評価対象とされる細胞組織50の磁気信号の検出が行なわれる。この検出においては、必要に応じて、電気的刺激や、薬剤の投与などによる刺激等が行なわれてもよい。
信号解析部38などに対応するS2においては、S1で検出された細胞組織50の磁気信号の解析が行なわれる。本ステップにおける磁気信号の解析は、後述するS4において行なわれる類似度の算出に必要な解析が行なわれる。具体的には例えば、振幅の大きさの算出や、パワースペクトル解析、刺激付与に基づく反応における振幅の大きさや刺激付与から反応の発生までの経過時間などの解析が行なわれる。
続くS3乃至S5は評価部40に対応する。このうちS3においては、記憶部42などに予め記憶されている見本標本についての磁気信号の情報が読み出される。そしてS4において、S2で解析された細胞組織50の磁気信号とS3で読み出された見本標本の磁気信号との比較が行なわれ、両者の類似度が算出される。この類似度は前述のように、例えば波形の幾何学的な類似度など、様々な態様のものが用いられる。
続くS5においては、S4において算出された類似度に基づいて、細胞組織50の構造化についての評価が行なわれる。この評価は、例えば、例えばS3で読み出された見本標本との構造化の類似度を数値により評価するものである。
また、複数の見本標本について、S3及びS4を繰り返し行なった後に、S5において、算出された複数の類似度のうち、その類似度が最も高かった見本標本が何れであるかを提示することにより、細胞組織50の構造化の評価を行なう態様も可能である。
前述の実施例によれば、細胞組織50から生ずる磁気信号が磁気検出部30により検出され、検出された磁気信号に基づいて評価部38によりその細胞組織50の組織化度が評価されるので、細胞組織の構造化または細胞間連絡を、非侵襲的に評価することができる。
また前述の実施例によれば、磁気検出部30は、磁気センサヘッドとして1000μm以下の分解能、1nT以下のノイズレベル、および1ms以内の応答速度で前記磁気信号を検出可能な磁気インダクタンスセンサである磁気センサヘッド18、20を有し、磁気センサヘッド18、20を細胞組織50から1000μm以内に近接可能であるので、細胞組織50を流れる電流に基づいて発生する磁気信号を好適に検出することができ、細胞組織50の構造化、または細胞間連絡を、非侵襲的に評価することができる。また、SQUIDを利用した装置と比べ液体窒素容器などの冷却に関する設備が不要であるので、細胞組織評価装置10全体を安価に供給することが可能であり、また、小型のものとすることができる。
また前述の実施例によれば、磁気検出部30は、細胞組織50について異なる複数方向の磁気信号を検出可能であり、評価部38は、複数方向の磁気信号のそれぞれに基づいて細胞組織50の構造化を評価することができる。
また前述の実施例によれば、評価部38は、見本標本についての磁気信号と評価対象である細胞組織50から得られる磁気信号との間の類似度に基づいて、例えば図7に示す予め記憶された関係から細胞組織50の構造化を評価するので、両者の細胞組織の構造化の度合いを相対的に評価することができる。
また前述の実施例によれば、評価部38による細胞組織50の構造化の評価は、磁気検出部30によって検出される磁気信号のパワースペクトルに基づいて行なわれるので、たとえば図14、図15に示すような磁気信号の周波数ドメインにおける特徴に基づいて細胞組織50の構造化の評価を行なうことができる。そのため、前記磁気信号を時間ドメインにおいて解析した場合には現れない特徴に基づいて細胞組織50の構造化の評価を行なうことができる。
また前述の実施例によれば、磁気検出部30は、磁気インダクタンスセンサとして第1磁気センサヘッド18と、細胞組織50と第1磁気センサヘッド18との距離d1よりも細胞組織50との距離d2が長くなるように配設される第2磁気センサヘッド20と、を有し、第1磁気センサヘッド18および第2磁気センサヘッド20のそれぞれによって検出される磁気信号に基づいて環境磁場の影響を低減する環境磁場相殺部26をさらに有するので、第1磁気センサヘッド18および第2磁気センサヘッド20のそれぞれにおいて検出された磁気信号に基づいて、環境磁場相殺部26により環境磁場の影響を低減することができ、細胞組織50の構造化の評価がより精度よく行なわれる。
また前述の実施例によれば、細胞組織評価装置10は、細胞組織50に対し、少なくとも、電気的刺激、機械的刺激、電磁波、熱、薬物のいずれか1を投与する刺激投与部76、78を有するので、細胞組織50に与えられる刺激に反応して発生する磁気信号を細胞組織50の構造化の評価指標とすることができる。
また前述の実施例によれば、細胞組織評価装置10は、細胞組織50に対し、摂氏0度から42度までの温度範囲において、イオン組成浸透圧を有する生理的細胞外液を供給し、細胞組織50の生存状態を維持する細胞組織維持部70を有するので、細胞組織50が生存状態に維持されつつ細胞組織50の構造化、または細胞間連絡を非侵襲的に評価することができる。
続いて、本発明の別の実施例について説明する。以下の説明において、実施例相互に共通する部分については、同一の符号を付して説明を省略する。
本実施例は、磁気センサヘッド18、20の構造に関するものであって、より高い空間分解能を有する磁気センサヘッド18、20の構造に関するものである。
図17は、本実施例における磁気センサヘッド18、20の構造を説明する図である。図17に示すように、磁気センサヘッド18、20は、等間隔に平行に配設された複数のアモルファスワイヤ90からなるアモルファスワイヤ組90Aと、アモルファスワイヤ組90Aを構成するアモルファスワイヤ90と一定の角度を有するように等間隔に平行に配設された複数のアモルファスワイヤ90からなるアモルファスワイヤ組90Bとによって網状構造(格子状構造;マトリクス構造)の磁性体を有する。本実施例においては図17に示すように、アモルファスワイヤ組90Aを構成するアモルファスワイヤ90のそれぞれと、アモルファスワイヤ組90Bを構成するアモルファスワイヤ90のそれぞれとは直交するように配設されている。
センサ駆動部24は、前記アモルファスワイヤ組90Aおよびアモルファスワイヤ組90Bを構成するアモルファスワイヤ90のそれぞれに対し高周波交流電流が通電され、そのアモルファスワイヤ90のそれぞれの両端の電圧が制御回路部22によって検出される。このようにすれば、信号処理部22において、検出されるアモルファスワイヤの両端の電圧と、センサ駆動部24により発生される高周波交流電流の大きさに基づいてアモルファスワイヤ84のインピーダンスが算出することができる。なお、図17においては、アモルファスワイヤ組90Aを構成するアモルファスワイヤ90のそれぞれと制御回路部22との結線例のみが図示されており、アモルファスワイヤ組90Bを構成するアモルファスワイヤ90のそれぞれと制御回路部22との結線例は省略されている。
このようにすれば、アモルファスワイヤ組90Aを構成するアモルファスワイヤ90のいずれかと、アモルファスワイヤ組90Bを構成するアモルファスワイヤ90のいずれかとの組み合わせによって、それらのアモルファスワイヤの交点により前記網状構造の磁気センサヘッド18、20における位置を特定できることから、本実施例の磁気センサヘッド18、20はより高い空間分解能を有する。具体的には例えば、図17に示すように20μmのアモルファスワイヤを80μm間隔で配置する場合、100μmの空間分解能が得られる。
前述の実施例によれば、磁気センサヘッド18、20は、網状構造の磁性体、具体的には複数のアモルファスワイヤ90によってマトリクス状に構成される磁性体を有するので、磁気信号の検出に必要な性能を有する磁気センサヘッド18、20を提供することができるとともに所望の空間分解能を実現するために必要となる距離となるように測定対象となる細胞組織に近接させることができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。例えば、次に示す応用例に組み込んで実施することができる。
(応用例1)
図18は、本発明の細胞組織評価装置10を用いた応用例の一つを説明する図であって、心臓の梗塞性病変による機能構造の破壊を検出する例である。胸壁110を介して胸部表面に設置されたベクトル磁気センサーMVX、MVY、MVZは例えば3次元において直交する3方向について心臓が発生する磁気信号を検出する。正常の心臓では、心臓表面部分の心室筋細胞組織の下から上へ向かって組織内を電流が流れるため、それに対応した正常磁気信号が発生する。かかる正常磁気信号を予め取得し、コンピュータ34の記憶部42などに記憶しておく。そして、コンピュータ34の信号解析部38により評価対象となる被検者の心臓の磁気信号を検出し、評価部40により予め記憶されている正常磁気信号との比較が行なわれる。被検者の心臓に虚血のため梗塞となった梗塞部位150が存在する場合、梗塞部位150においては、細胞内エネルギーが枯渇するため細胞間の電流の伝導を行うギャップ結合チャネルが閉じてしまうため、その部位での組織内の電流が流れなくなる。そのため、検出される磁気信号は正常磁気信号とは異なるものとなる。このように、正常な心臓の同様の部位と比較して細胞組織の構造化の度合いに差異がある梗塞部位150が存在することを磁気信号に基づいて評価することができる。このようにして、本発明の細胞組織評価装置10を用いて心臓の異常部位を検出することができる。
前述の実施例においては、磁気センサヘッド18、20はそれぞれ一方向の磁気信号を検出可能なセンサが用いられ、複数方向の磁気信号を検出する場合には、まず第1の方向についての検出を行なった後に、磁気センサヘッド18、20の方向を図示しないマニピュレータなどを用いて変更し、第2の方向についての検出を行なった(図5(a)および(b)参照)、このような態様に限られない。例えば、第1磁気センサヘッド18および第2磁気センサヘッド20としてそれぞれ複数の磁気センサヘッドを用いることにより、たとえば図19に示すように、同時に複数方向の磁気信号の検出を行なうようにしてもよい。図19においては、2つの第1磁気センサヘッド18Aおよび18Bならびに2つの第2磁気センサヘッド20Aおよび20Bが設けられている。図19においては、第1磁気センサヘッド18Aおよび第2磁気センサヘッド20Aは、ともに図19においてはx軸と平行とされており、x軸方向の磁気信号を検出可能とされている一方、第1磁気センサヘッド18Bおよび第2磁気センサヘッド20Bは、ともに図19においてはy軸と平行とされており、y軸方向の磁気信号を検出可能とされている例を示している。
前述の実施例においては、薬剤供給部74は、ピペット72を介して実験槽56に薬剤を供給したが、このような態様に限られない。例えば、細胞組織維持部70により供給される生理的細胞外液に薬剤を混入させるようにしてもよい。この場合、細胞組織維持部70は刺激投与部76としても機能する。
前述の実施例においては、刺激投与部76は細胞組織50に作用させる為の薬剤を供給する薬剤供給部74およびその薬剤供給部74により供給される薬剤を実験槽56に滴下するピペット72により構成された。すなわち、刺激投与部76が細胞組織50に与える刺激は薬剤であったが、これに限られない。具体的には、刺激投与部76が細胞組織50に与える刺激は、機械的刺激、電磁波、熱などであってもよく、その場合、刺激投与部76は、それぞれの刺激に対応した機器により構成される。例えば、刺激投与部76が細胞組織50に与える刺激が機械的刺激である場合には、刺激投与部76は振動装置などであればよく、また、細胞組織50に与える刺激が電磁波である場合には、刺激投与部76は電極や磁極であればよい。また、細胞組織50に与える刺激が熱である場合には、刺激投与部76は局所的に冷却もしくは加熱が可能な冷却装置もしくは加熱装置であればよい。さらに、刺激投与部76による刺激の投与に代えて、検出対象となる細胞組織50を構成する細胞に対し、遺伝子導入を行なうようにしてもよい。この用にすれば、例えばイオンチャネルなどの電流を発生するタンパクの遺伝子、またはこのようなタンパクを制御する作用を有する遺伝子を前記細胞に導入することによる、細胞組織50によって発生する磁界の強度の変化を検出することにより、前記遺伝子導入による効果を検出することができる。
また、前述の実施例においては、細胞組織50に電気的刺激を与えた場合に、その電気的刺激に起因して発生する磁気信号の変化に基づいて細胞組織50の組織化度を評価するものとされたが、これに限定されない。すなわち、前記刺激投与部76から与えられる刺激に基づいて細胞組織50から磁気信号が変化する(反応する)場合に、当該磁気信号の変化が細胞組織50の組織化の度合いに応じて異なるものである場合には同様に評価の基準となりうる。例えば、前記刺激投与部76によって投与される薬剤によって与えられる刺激で合っても良いし、あるいは刺激投与部76として図示しないコイルを設け、そのコイルにより細胞組織50に局所的な磁気的刺激を与えるようにしてもよい。
また、前述の実施例においては、電気刺激部78の電極81は、電気刺激用に設けられたピペット82に挿入されており、ピペット82を細胞組織50の任意の位置に接触させることにより電極81と細胞組織50とが直接接触することなく電気的刺激を付与するものとされたが、このような態様に限られない。すなわち、電極81を直接細胞組織50に接触させることによって細胞組織50に電気的刺激を与えてもよい。
前述の実施例においては、細胞組織評価装置10における実験槽56は、細胞組織が設置されるものとされたが、これに限られず、例えば細胞組織の培養容器がそのまま実験槽56として用いられることも可能である。このようにすれば、培養途中の細胞組織を検出対象として、磁気信号の検出を行なうことができる。
また前述の実施例においては、容器16は保温のために用いられたが、容器16の用途はこれに限られない。具体的には例えば、容器内の環境を制御する環境制御部を設け、容器16内の温度のみならず、湿度、二酸化炭素濃度などの空気の構成を変化させることができる。このようにすれば、前述のように細胞組織の培養容器が実験槽56として用いられる場合に、細胞組織の培養条件を異ならせた場合に、長期間の培養過程において細胞組織の局所的な磁気変動を検出することができる。
また前述の実施例においては、磁気センサヘッド18、20は、実験槽56の下方にカバーガラス57を介して設置されたが、このような態様に限られない。例えば、厚さ100μm以下の薄膜で磁気センサヘッド18、20を覆い、実験槽56の上方から細胞組織50へ近接させて、細胞組織50の局所的磁気変化を計測することも可能である。
また、前述の実施例においては、磁気センサヘッド18、20として、超高感度MI磁気センサが用いられたが、これに限られない。すなわち、検出対象となる細胞組織50へ1000μm以内に近接した際に、該磁気センサヘッドからの出力信号に基づいて、1000μm以下の分解能、1nT以下のノイズレベル、および1ms以内の応答速度で前記磁気信号を検出することのできる磁気センサヘッドであれば、MIセンサに限定されない。
また、前述の実施例においては、磁気センサヘッド18、20において検出された信号を処理する環境磁場相殺部26および磁気信号検出部28は、アナログ回路により構成される制御回路部22に設けられ、制御回路部22において処理された信号がA/D変換部32によりデジタルデータ化されてコンピュータ34に取り込まれたが、このような態様に限られない。例えば、磁気センサヘッド18、20において検出された信号が、A/D変換部32によりデジタルデータ化された後、同様の処理が行なわれてもよい。この場合、環境磁場相殺部26および磁気信号検出部28は例えばコンピュータ等によって実現されるデジタル回路として実現される。
また、前述の実施例においては、実験槽56は直方体状のものとされたが、これに限られず、例えば円柱状のものとされてもよいし、その他の形状であってもよい。
また、前述の実施例においては、第1磁気センサヘッド18と細胞組織50との距離d1は1000μm程度となるように設定されたが(図4参照)、このような態様に限られない。すなわち、第1磁気センサヘッド18と細胞組織50とは、磁気信号を制度よく検出するためにはより近接して設置されるのが望ましく、例えば、図12において第1磁気センサヘッド18の検出コイル86の上端とカバーガラス57の下面とをより近接して第1磁気センサヘッド18を設置してもよい。
また、前述の実施例においては、本発明の細胞組織評価装置10が評価する細胞組織50は、培養中の細胞組織であることを妨げるものではない。すなわち、本発明の細胞組織評価装置10は細胞組織50の生存状態を維持しつつ、非侵襲的に評価するものであるためである。このようにすれば、培養途中の細胞組織を評価することが可能になり、移行の培養においてその評価結果に基づいて細胞組織の適切に誘導することが可能となる。
また、前述の実施例においては、磁気検出部30により検出される磁気信号の周波数領域における解析結果として、パワースペクトル解析が用いられたが、これに限定されない。例えば、リニアスペクトル、自己相関スペクトル、相互相関スペクトル、フーリエ変換における実部と虚部のスペクトル、バイスペクトルなどによる解析や、最大エントロピー法によるスペクトル解析が用いられてもよい。すなわち、磁気信号の時間的変動を周波数領域において解析可能な手法であれば、限定されるものではない。
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、またそのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。