JP2010249215A - 水素雰囲気用転がり軸受 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】深溝玉軸受の内輪1及び外輪2は、炭素の含有量が0.5質量%以上0.9質量%以下、ケイ素の含有量が0.6質量%以上1質量%以下、マンガンの含有量が0.6質量%以上1.2質量%以下、クロムの含有量が6.5質量%以上9.5質量%以下、モリブデンの含有量が1質量%以下で、且つ、残部が鉄及び不可避的不純物である合金鋼で構成されている。また、組織変化抵抗値が10以上である。さらに、焼入れ及び焼戻しが施されており、軌道面1a,2aの残留オーステナイト量が10体積%以上20体積%以下であるとともに、硬さがHv674以上772以下である。さらに、旧オーステナイト結晶粒度が、粒度番号で7以上10以下である。
【選択図】図1
Description
一方、水素に対する転がり軸受の長寿命化の手法としては、軌道輪を構成する鋼のクロム含有量を多くする方法が従来から知られている(例えば特許文献3〜5を参照)。この手法は、潤滑油の分解によって水素が発生することを考慮したものである。
しかしながら、特許文献1に開示された転がり軸受は、鋼中に侵入する水素による前記組織変化に対する対策も、水素雰囲気中での摩耗損傷に対する対策もなされていなかった。また、特許文献2に開示された転がり軸受は、軌道輪がステンレス鋼で構成されているため、鋼中に侵入する水素による前記組織変化に対する対策はなされており、前記組織変化に対する抵抗力が高く、前記組織変化が生じにくくなっているものの、水素雰囲気中での摩耗損傷に対する対策はなされていなかった。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、水素雰囲気中で使用されても白色組織への組織変化が生じにくいことに加えて摩耗損傷が生じにくく長寿命な転がり軸受を提供することを課題とする。
条件2:前記ケイ素の含有量をSi%、前記マンガンの含有量をMn%、前記クロムの含有量をCr%、前記モリブデンの含有量をMo%とし、2.5×Si%+1.5×Mn%+Cr%+3×Mo%なる式で算出される組織変化抵抗値が10以上である。
条件4:日本工業規格JIS G0551に規定の方法で測定された旧オーステナイト結晶粒度が、粒度番号で7以上10以下である。
本発明の水素雰囲気用転がり軸受は、内輪及び外輪の少なくとも一方が、鋼中での水素の拡散を抑制する元素であるケイ素,マンガン,クロム,及びモリブデンを含有する合金鋼で構成されているため、水素雰囲気中で使用されても白色組織への組織変化が生じにくい。よって、本発明の水素雰囲気用転がり軸受は、水素雰囲気中で使用されても長寿命である。
条件5:前記軌道面の軸方向の粗さ曲線の最大山高さRpが0.2μm以下である。
軌道面の軸方向に沿う粗さ曲線の最大山高さRpが0.2μm以下であるため、金属接触による摩耗が生じにくく、化学的に活性な新生面が生成しにくい。そのため、摩耗損傷が生じにくいことに加えて、鋼中への水素の侵入も抑制される。
以下に、本発明における内輪,外輪,転動体,合金鋼等に関する前記各数値(合金鋼に含有される各合金成分の含有量等)の臨界的意義について説明する。
炭素(C)は、焼入れによって基地に固溶し、転がり軸受として要求される硬さを得るための元素である。また、他の合金元素と結合して合金鋼中に硬い炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる作用も有する。炭素の含有量が0.5質量%未満であると、転がり寿命と耐摩耗性が不十分となるおそれがある。一方、炭素の含有量が0.9質量%を超えると、合金鋼中に共晶炭化物が生成されやすくなって、転がり寿命が低下するおそれがある。また、冷間加工性及び被削性も低下するおそれがある。合金鋼の品質の安定性を考慮すると、炭素の含有量は0.6質量%以上0.8質量%以下であることが好ましい。
ケイ素(Si)は、基地に固溶して、焼入れ性を向上させるとともに焼戻し軟化抵抗性を向上させる元素である。また、基地組織を強化し、転がり寿命と耐摩耗性を向上させる作用も有する。ケイ素の含有量が0.6質量%未満であると、これらの作用が十分に得られない。一方、ケイ素の含有量が1質量%を超えると、冷間加工性及び被削性が不十分となるおそれがある。
マンガン(Mn)は、基地に固溶して、焼入れ性を向上させる元素である。また、本発明において重要な表面の残留オーステナイトの形成を助ける作用も有する。マンガンの含有量が0.6質量%未満であると、上記の作用が不十分となるおそれがある。一方、マンガンの含有量が1.2質量%を超えると、焼入後の残留オーステナイト量が多くなり過ぎて、寸法安定性が不十分となるおそれがある。
クロム(Cr)は、基地に固溶して、焼入れ性,耐食性等を向上させるとともに、炭素と結合して合金鋼中に硬い炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる元素である。また、本発明において重要な白色組織への組織変化に対する抵抗力を向上させる作用も有する。すなわち、クロムは、水素が合金鋼中に侵入する速度を低下させる作用を有する。さらに、水素が侵入しても基地組織を安定化させることによって、水素による転がり寿命の低下を抑制する作用を有する。クロムの含有量が6.5質量%未満であると、上記の作用が不十分となるおそれがある。一方、クロムの含有量が9.5質量%を超えると、冷間加工性及び被削性が不十分となるとともに、合金鋼中に共晶炭化物が生成されやすくなって転がり寿命が低下するおそれがある。
モリブデン(Mo)は、基地に固溶して、焼入れ性及び焼戻し軟化抵抗性を向上させる作用を有する。また、合金鋼中に硬い炭化物を形成して、耐摩耗性及び転がり寿命を向上させる作用を有する。さらに、クロムと同様に、水素が合金鋼中に侵入する速度を低下させる作用を有する。さらに、水素が侵入しても基地組織を安定化させることによって、水素による転がり寿命の低下を抑制する作用を有する。モリブデンの含有量が1質量%を超えると、冷間加工性及び被削性が不十分となるおそれがある。なお、合金鋼の品質の安定性を考慮すると、モリブデンの含有量は0.5質量%以上1質量%以下であることが好ましい。
ケイ素,マンガン,クロム,及びモリブデンは、置換型元素として金属組織の基地に固溶して金属組織を強化することによって、水素による前記組織変化を抑制する作用を有している。また、上記4つの元素の一部は合金鋼中の炭素と炭化物を形成するが、これらの炭化物は水素を強くトラップするので、合金鋼中の水素が応力集中部に集積することが抑制されて、水素の侵入による白色組織への組織変化が抑制される。
残留オーステナイトは、合金鋼の金属組織中に分散して形成され、合金鋼中に侵入した水素を強くトラップして、水素の拡散速度を著しく低下させる作用を有している。したがって、水素が応力集中部に集積することが抑制され、前記組織変化が抑制される。残留オーステナイト量は、合金成分及び熱処理条件によって制御することができる。軌道面の残留オーステナイト量が10体積%未満であると、上記の作用が不十分となるおそれがある。一方、20体積%超過であると、寸法安定性が不十分となるおそれがある。
軌道面の表面硬さは、転がり軸受の転がり寿命に影響を及ぼす因子であり、Hv674(HRC59)未満であると、転がり軸受の転がり寿命が不十分となるおそれがある。一方、軌道面の表面硬さがHv772(HRC63)超過であると、靱性が不十分となるおそれがある。
合金鋼中の旧オーステナイト結晶粒の粒径は、水素の侵入による転がり疲労強度及び破壊靱性の低下の度合いに対して影響を及ぼす因子である。旧オーステナイト結晶粒の粒径は、日本工業規格JIS G0551に規定の方法により、旧オーステナイト結晶粒度として測定することができる。
軌道面に突起がある場合には、軌道面と転動体の転動面との間で金属接触が生じやすくなる。水素雰囲気中で金属接触が起こると、酸化膜が形成されにくいため、金属接触が生じた部分は化学的に活性な新生面となり、凝着摩耗が生じやすくなる。また、新生面からは合金鋼中に水素が侵入しやすいため、前記組織変化の発生も加速される。通常、表面粗さの管理には算術平均粗さRaが用いられるが、水素雰囲気中での摩耗損傷の生じやすさと算術平均粗さRaとは高い相関性が得られない。
転動体は軌道輪と比べて損傷を受けにくいので、一般的な転がり軸受の転動体を構成する素材である軸受鋼や、浸炭処理又は浸炭窒化処理を施した肌焼鋼を、本発明における転動体を構成する素材として問題なく採用することができる。
ただし、水素圧が常圧以上の厳しい水素雰囲気中で使用される場合、軌道輪と転動体との間の滑りが大きい場合、転がり軸受の回転速度が高速である場合、又は、転がり軸受の受ける荷重が高い場合など、転がり軸受の使用環境が厳しい場合には、転動体を構成する素材として、クロムの含有量が5質量%以上18質量%以下の鋼を用いることが好ましい。クロムは、水素が鋼中に侵入する速度を低下させる作用を有している。また、水素が侵入したとしても基地組織を安定化させることによって、水素の侵入による転がり寿命の低下を抑制する作用を有している。
また、転動体を構成する素材としてセラミックスを用いることができる。セラミックスは水素による物性低下がなく、耐摩耗性にも優れているので、好適である。
図1の深溝玉軸受は、外周面に軌道面1aを有する内輪1と、内輪1の軌道面1aに対向する軌道面2aを内周面に有する外輪2と、両軌道面1a,2a間に転動自在に配された複数の転動体3と、両軌道面1a,2a間に転動体3を保持する保持器4と、ゴムシール等の密封装置5,5と、を備えている。なお、保持器4及び密封装置5は、備えていなくてもよい。
さらに、内輪1及び外輪2は、焼入れ及び焼戻しが施されて製造されたものであり、軌道面1a,2aの残留オーステナイト量は10体積%以上20体積%以下である。さらに、軌道面1a,2aの表面硬さはHv674以上772以下(HRC59以上63以下)である(条件3)。
さらに、軌道面1a,2aの軸方向の粗さ曲線の最大山高さRpは、0.2μm以下であることが好ましい(条件5)。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、水素雰囲気用転がり軸受の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は深溝玉軸受以外の他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
以下に述べるような方法により、転がり軸受を製造した。所定の組成の合金鋼を、鍛造及び切削加工又は切削加工のみによって軌道輪の形状に成形加工する。次に、残留オーステナイトを含有するように焼入れ及び焼戻しを施した後に、研磨加工を行って仕上げ、軌道輪を完成した。焼入れは、950〜1050℃に保持した後に油冷又はガス冷することによって行った。また、焼戻しは、160〜240℃に保持した後に炉冷又は空冷することによって行った。そして、この軌道輪に、転動体,保持器,シールを組み合わせて転がり軸受とした。
この自動調心ころ軸受の内輪及び外輪の残留オーステナイト量を、X線回折装置で測定したところ、それぞれ13体積%及び20体積%であった。また、軌道面の表面硬さは、それぞれHv712及びHv720であった。さらに、旧オーステナイト結晶粒度は、いずれも粒度番号で8であった。さらに、軌道面の軸方向の粗さ曲線の最大山高さRpは、それぞれ0.18μm及び0.19μmであった。
・試験条件A
水素圧 :0.12MPa
面圧 :3.1GPa
回転速度:1000min-1
潤滑油 :ISO粘度グレードがISO VG68である潤滑油
・試験条件B
水素圧 :0.12MPa
面圧 :3.8GPa
回転速度:1000min-1
潤滑油 :ISO粘度グレードがISO VG32である潤滑油
・試験条件C
水素圧 :0.4MPa
面圧 :3.1GPa
回転速度:1000min-1
潤滑油 :ISO粘度グレードがISO VG68である潤滑油
試験条件Aでの試験結果を表2に示す。また、合金鋼の組織変化抵抗値及び旧オーステナイト結晶粒度と、軌道面の残留オーステナイト量,表面硬さ,算術平均粗さRa,粗さ曲線の最大山高さRpとを、表2に併せて示す。なお、表2における寿命は、比較例1の寿命を1とした場合の相対値で示してある。比較例1で用いた合金鋼Gは、転がり軸受の素材として一般的に用いられるSUJ2に相当する鋼である。
これに対して、比較例21〜24は、軌道輪を構成する合金鋼の合金組成が本発明の範囲外であるため、短寿命であった。また、比較例25は、合金組成は本発明の範囲内であるが、組織変化抵抗値が10未満であるため短寿命であった。さらに、比較例26,27は、合金組成は本発明の範囲内であるが、熱処理条件が好適ではない等の理由により軌道面の残留オーステナイト量が本発明の範囲外であるため、短寿命であった。
1a 軌道面
2 外輪
2a 軌道面
3 転動体
Claims (4)
- 軌道面を有する内輪と、前記内輪の軌道面に対向する軌道面を有する外輪と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備え、水素雰囲気中で使用される転がり軸受において、前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方が下記の4つの条件を満足することを特徴とする水素雰囲気用転がり軸受。
条件1:炭素の含有量が0.5質量%以上0.9質量%以下、ケイ素の含有量が0.6質量%以上1質量%以下、マンガンの含有量が0.6質量%以上1.2質量%以下、クロムの含有量が6.5質量%以上9.5質量%以下、モリブデンの含有量が1質量%以下で、且つ、残部が鉄及び不可避的不純物である合金鋼で構成されている。
条件2:前記ケイ素の含有量をSi%、前記マンガンの含有量をMn%、前記クロムの含有量をCr%、前記モリブデンの含有量をMo%とし、2.5×Si%+1.5×Mn%+Cr%+3×Mo%なる式で算出される組織変化抵抗値が10以上である。
条件3:焼入れ及び焼戻しが施されており、前記軌道面の残留オーステナイト量が10体積%以上20体積%以下であるとともに、硬さがHv674以上772以下である。
条件4:日本工業規格JIS G0551に規定の方法で測定された旧オーステナイト結晶粒度が、粒度番号で7以上10以下である。 - 前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方が前記4つの条件とともにさらに下記の条件5を満足することを特徴とする請求項1に記載の水素雰囲気用転がり軸受。
条件5:前記軌道面の軸方向の粗さ曲線の最大山高さRpが0.2μm以下である。 - 前記転動体が、クロムの含有量が5質量%以上18質量%以下の鋼で構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水素雰囲気用転がり軸受。
- 前記転動体がセラミックスで構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水素雰囲気用転がり軸受。
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