磁気ディスク駆動装置の磁気再生ヘッドに用いられているスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜は、反強磁性層、磁化固定層、非磁性伝導層、磁化自由層の複数の層(薄膜)から成る多層膜構造を有する。スピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の多層膜構造において、磁化固定層と磁化自由層の間には非磁性伝導層が設けられ、当該非磁性伝導層によって隔てられている。また磁化固定層には反強磁性層を隣接させているため、磁化固定層の磁気モーメントは反強磁性層との交換結合によって一方向に固定されている。一方、磁化自由層の磁気モーメントは、外部磁界に応じて自由に回転するようになっている。
スピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜では、磁化固定層の磁気モーメントと磁化自由層の磁気モーメントがなす相対角度によって電気抵抗が変化するという、いわゆる巨大磁気抵抗効果が得られる。巨大磁気抵抗効果による電気抵抗の変化の割合は磁気抵抗変化率(MR比)と呼ばれ、スピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜のMR比は、従来の異方性磁気抵抗薄膜に比べてはるかに高いという特性を有している。
スピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜には3つのタイプがある。第1のタイプは、図17に示されるごとき、基板111側から緩衝層112、反強磁性層113、磁化固定層114、非磁性伝導層115、磁化自由層116、保護層117の順番で連続的に積層されるいわゆるボトムタイプである。第2のタイプは、図18に示されるごとき、基板111側から緩衝層112、磁化自由層116、非磁性伝導層115、磁化固定層114、反強磁性層113、保護層117の順番で連続的に積層されるいわゆるトップタイプである。第3のタイプは、図19に示されるごとき、基板111側から緩衝層112、第1反強磁性層113A、第1磁化固定層114A、第1非磁性伝導層115A、磁化自由層116、第2非磁性伝導層115B、第2磁化固定層114B、第2反強磁性層113B、保護層117の順番で連続的に積層されるいわゆるデュアルタイプである。
上記の3つのタイプのスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜において、従来では単層であった磁化固定層114,114A,114Bを、さらに磁化固定層要素、非磁性層、磁化固定層要素から成る積層フェリ構造に置き換えた薄膜も提案されている(米国特許第5465185号公報)。さらに磁化自由層116についても、単層構造のものと多層構造をなすものとがある。磁化自由層と磁化固定層で多層構造のものでは、すべてが磁性膜であるが、異なる磁性膜を積層させた場合、あるいは、非磁性膜を間に挟んだサンドイッチ構造をなす場合がある。
上記スピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の巨大磁気抵抗効果は、積層膜の積層界面におけるスピン依存散乱に起因する。そのため、高MR比を得るためには、スピンバルブ膜の製造工程において界面の清浄性や平坦性が重要となる。そこでスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜では、界面の清浄性や平坦性を達成するために、高真空中で連続的に、かつ層と層の成膜間隔ができるだけ短時間になるように同一真空室中で成膜されることが多い。
真空中における成膜の手法としては、マグネトロンスパッタリング、イオンビームスパッタリング、ECRスパッタリング、対向ターゲットスパッタリング、高周波スパッタリング、電子ビーム蒸着、抵抗加熱蒸着、MBE(Molecular Beam Epitaxy)などがある。
高MR比を得るためには、巨大磁気抵抗効果に寄与しない伝導電子の流れ(シャント効果)を抑制するために非磁性伝導層115の膜厚は薄い方が良い。しかしながら、非磁性伝導層115の膜厚を薄くすると磁化固定層114と磁化自由層116が非磁性伝導層115を介して強磁性的に層間結合してしまう。この磁化固定層と磁化自由層の間の層間結合磁界(Hin)は、磁気ディスク駆動装置の磁気再生ヘッドの実用上小さい方が良く、−10〜+10 Oeの範囲内に含まれる値の磁界が望ましい。従来、層間結合磁界を小さくするために非磁性伝導層115の膜厚を2.5〜3.5nmと厚く設定していた。
また従来の技術では、ボトムタイプのスピンバルブ膜において磁化固定層に1nm以下の極薄い酸化層(NOL:Nano oxide layer)を挿入することによって磁化固定層と磁化自由層の間に生じる強磁性的結合を低減する技術も提案されている(Y.Kamiguchi et al.:Digests of INTERMAG '99, DB-01)。その結果、非磁性伝導層が厚みが薄いところ(2〜2.5nm)においても比較的に小さな層間結合磁界が得られ、高いMR比が得られている。
以下に、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は、スピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の製造方法を実施するのに使用した本発明に係るマルチチャンバ成膜装置の構成図を示す。成膜装置10はマルチチャンバ型成膜装置である。成膜装置10は、基板搬送ロボット11が設けられた真空搬送室12と、真空搬送室12に結合された成膜室13A、成膜室13Bと、プラズマ処理室14と、ロードロック室15とから構成される。成膜室13A,13Bはそれぞれ多種類のカソードを備えたスパッタリング成膜室である。成膜室13Aと成膜室13Bとプラズマ処理室14とロードロック室15の間の基板の移動は、真空搬送室12に設けられた基板搬送ロボット11によって行われる。成膜室13Aと成膜室13Bとプラズマ処理室14とロードロック室15のそれぞれの室の間にはゲートバルブ16が設けられている。
プラズマ処理室14の内部構造が図2に示される。プラズマ処理室14は真空槽21で形成され、この真空槽21内には上部電極22と下部電極23が備えられている。上部電極22は接地され、下部電極23はマッチングボックス24を介してRF電源(高周波電源)25に接続されている。下部電極23の上に基板25が搭載される。プラズマ生成条件が成立した状態で、上部電極22と下部電極23の間でプラズマ26が生成される。
上記プラズマ処理室14の処理動作の代表的な例としては、真空槽21の内部に0.075PaのArガスを導入し、下部電極23に15W(単位面積当たり0.029W/cm2)のRF電力を投入してプラズマ26を発生させ、さらに基板バイアス電圧(Vdc)が0Vよりも小さくかつ−300V以上の範囲に含まれる電圧となる条件でプラズマ処理を行うようにしている。基板バイアス電圧の上限値は−2〜−3Vが好ましく、最も好ましい電圧は−15Vから基板バイアス電圧の上限値までの範囲に含まれる電圧である。この電圧はプラズマを発生させることが可能な電圧である。真空槽21に導入されるプロセスガスとしてはArの代わりにKr,Xe,Ne等の不活性ガスあるいはこれに類似するガスを用いることもできる。プラズマ処理室14におけるプロセスガスの圧力としては、0.01〜100Paの範囲の低い圧力に設定される。
成膜室13Aには4種類のターゲット31が設置され、その材質はPtMn,CoFe,NiFeである。また成膜室13Bにも4種類のターゲット32が設置され、その材質はCu,Ta,Ruである。基板搬送ロボット11によって基板25が成膜室13A,13Bおよびプラズマ処理室14の間を移動し、所望の積層構造を有する多層膜が成膜される。
一例として図3にボトムタイプのスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の積層構造を示す。この積層構造によれば、基板25側からTa(3nm)/NiFe(2nm)/PtMn(12nm)/CoFe(1.8nm)/Ru(0.8nm)/CoFe(2.8nm)/Cu(2.2nm)/CoFe(1.5nm)/NiFe(2.5nm)/Cu(1nm)/Ta(3nm)の順番で連続的に積層される。各層におけるかっこ内に記載された数値は層の厚みであり、単位は「nm(ナノメートル)」である。上記積層構造において、Ta(3nm)とNiFe(2nm)は緩衝層41、PtMn(12nm)は反強磁性層42、CoFe(1.8nm)とRu(0.8nm)とCoFe(2.8nm)は磁化固定層(積層フェリ)43、Cu(2.2nm)は非磁性伝導層44、CoFe(1.5nm)とNiFe(2.5nm)は磁化自由層45、Cu(1nm)はスピンフィルタ46、Ta(3nm)は保護層47である。上記のごときボトムタイプのスピンバルブ膜を成膜するには、初めに成膜室13BでTa(3nm)を成膜し、次に成膜室13AでNiFe(2nm)/PtMn(12nm)/CoFe(1.8nm)を成膜し、次に成膜室13BでRu(0.8nm)を成膜し、次に成膜室13AでCoFe(2.8nm)を成膜し、次に成膜室13BでCu(2.2nm)を成膜し、次に成膜室13AでCoFe(1.5nm)/NiFe(2.5nm)を成膜し、最後に成膜室13BでCu(1nm)/Ta(3nm)を成膜する。
上記のボトムタイプのスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の成膜工程で適宜にプラズマ処理が行われる。プラズマ処理をする場合は、所望の界面で成膜を一時中断して基板25をプラズマ処理室14に搬送し、プラズマ処理を実行する。
上記のボトムタイプスピンバルブ膜の成膜工程において、例えばRu(0.8nm)/CoFe(2.8nm)界面をプラズマ処理する場合には、次の通りである。初めに成膜室13BでTa(3nm)を成膜し、次に成膜室13AでNiFe(2nm)/PtMn(12nm)/CoFe(1.8nm)を成膜し、次に成膜室13BでRu(0.8nm)を成膜した後、プラズマ処理室25に搬送して、前述した処理条件に基づきプラズマ処理を行い、その後、成膜室13AでCoFe(2.8nm)を成膜し、次に成膜室13BでCu(2.2nm)を成膜し、次に成膜室13AでCoFe(1.5nm)/NiFe(2.5nm)を成膜し、最後に成膜室13BでCu(1nm)/Ta(3nm)を成膜する。
上記の実施形態の説明では、所定の界面を処理する例としてプラズマ処理を行うようにしたが、このプラズマ処理は広い概念であり、界面を不活性ガスによるイオン衝撃で処理するもの、あるいは中性粒子、ラジカル、原子、その他の粒子による処理が含まれる。イオンガンを用いたイオンビームエッチに置き換えても同等の効果が得られる。
次に、前述した図1〜図5および後述する各特性図を参照しながら本発明に係るスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の製造方法の実施例を詳述する。この実施例の説明では、プラズマ処理される界面が明らかにされる。
(実施例1):実施例1は、図3に示したボトムタイプのスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の製造方法に関する。すなわち、基板25側からTa(3nm)/NiFe(2nm)/PtMn(12nm)/CoFe(1.8nm)/Ru(0.8nm)/CoFe(2.8nm)/Cu(2.2nm)/CoFe(1.5nm)/NiFe(2.5nm)/Cu(1nm)/Ta(3nm)の積層構造を有するボトムタイプスピンバルブ膜の製造方法で成膜の途中でプラズマ処理を施す例である。図6は、横軸を「プラズマ処理無し」の場合、「PtMn/CoFe界面」、「CoFe/Ru界面」、「Ru/CoFe界面」、「CoFe/Cu界面」の各々でプラズマ処理が行われた場合とし、縦軸をMR比とHinとし、MR比とHinの変化を示した特性図を示している。この実施例ではプラズマ処理の時間を15秒に統一し、プラズマ処理する界面を変えたところ、PtMn/CoFe界面、CoFe/Ru界面、Ru/CoFe界面、CoFe/Cu界面のプラズマ処理によってHinの低減を実現することができた。同時にRu/CoFe界面、CoFe/Cu界面のプラズマ処理ではMR比の向上も達成できた。そのため、本実施例の膜構成ではRu/CoFe界面またはCoFe/Cu界面をプラズマ処理することが好ましく、Ru/CoFe界面とCoFe/Cu界面の両方をプラズマ処理することがより好ましい。
Ta(3nm)/NiFe(2nm)/PtMn(12nm)/CoFe(1.8nm)/Ru(0.8nm)/CoFe(2.8nm)/Cu(2.2nm)/CoFe(1.5nm)/NiFe(2.5nm)/Cu(1nm)/Ta(3nm)の積層構造を有するボトムタイプスピンバルブ膜では、NiFe(2nm)/PtMn(12nm)の界面、PtMn(12nm)/CoFe(1.8nm)の界面、CoFe(1.8nm)/Ru(0.8nm)の界面、Ru(0.8nm)/CoFe(2.8nm)の界面、CoFe(2.8nm)/Cu(2.2nm)の界面でプラズマ処理を施すことにより、Hinの低減とMR比の向上が期待される。図3中、右向きの矢印で指した界面は、プラズマ処理を施すことが望ましい界面である。
(実施例2):実施例2は、図4に示したトップタイプのスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の製造方法に関する。すなわち、基板25側からTa(3nm)/NiFe(2.5nm)/CoFe(1.5nm)/Cu(2.2nm)/CoFe(2.8nm)/Ru(0.8nm)/CoFe(1.8nm)/PtMn(12nm)/Ta(3nm)の積層構造を有するトップタイプスピンバルブ膜の製造方法で成膜の途中でプラズマ処理を施す例である。この積層構造で、Ta(3nm)は緩衝層41、NiFe(2.5nm)/CoFe(1.5nm)は磁化自由層45、Cu(2.2nm)は非磁性伝導層44、CoFe(2.8nm)/Ru(0.8nm)/CoFe(1.8nm)は磁化固定層(積層フェリ)43、PtMn(12nm)は反強磁性層42、Ta(3nm)は保護層47である。図7は、横軸を「プラズマ処理無し」の場合、「Ta/NiFe界面」、「CoFe/Ru界面」、「Cu/CoFe界面」、「Ru/CoFe界面」の各々でプラズマ処理が行われた場合とし、縦軸をMR比とHinとし、MR比とHinの変化を示した特性図を示している。本実施例でもプラズマ処理の時間を15秒に統一しプラズマ処理する界面を変えたところ、図7に示すごとくTa/NiFe界面、CoFe/Cu界面のプラズマ処理によってHinの低減を実現することができた。またRu/CoFe界面のプラズマ処理ではMR比の向上を達成した。そのため、本実施例の膜構成では、Ta/NiFe界面、CoFe/Cu界面、Ru/CoFe界面の少なくとも1箇所をプラズマ処理することが好ましく、CoFe/Cu界面とRu/CoFe界面の両方をプラズマ処理することがより好ましい。またCoFe/Ru界面をプラズマ処理しても同様な効果を期待することができる。図4中、右向きの矢印で指した界面は、プラズマ処理を施すことが望ましい界面である。
(実施例3):実施例3では、図3に示した前述のボトムタイプのスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の製造方法におけるプラズマ処理時間を変更した例を説明する。図8は、横軸をプラズマ処理時間(秒;sec)とし、縦軸をMR比とHinとしたときのMR比とHinの変化を示した特性図を示している。図8によれば、ボトムタイプスピンバルブ膜において、Ru/CoFe界面のプラズマ処理の処理時間を変えると、Ru/CoFe界面のプラズマ処理時間は、最も高いMR比が得られる10〜30秒の範囲に含まれる時間が好ましいことが分かる。
(実施例4):実施例4は、図5に示したデュアルタイプのスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の製造方法に関する。すなわち、基板25側からTa(3nm)/NiFe(2nm)/PtMn(12nm)/CoFe(1.8nm)/Ru(0.8nm)/CoFe(2.8nm) /Cu(2.2nm)/CoFe(0.5nm)/NiFe(3nm)/CoFe(0.5nm)/Cu(2.2nm)/CoFe(2.8nm)/Ru(0.8nm)/CoFe(1.8nm)/PtMn(12nm)/Ta(3nm)の積層構造を有するデュアルタイプスピンバルブ膜の製造方法で成膜の途中でプラズマ処理を施す例である。この積層構造で、Ta(3nm)/NiFe(2nm)は緩衝層41、PtMn(12nm)は第1反強磁性層42A、CoFe(1.8nm)/Ru(0.8nm)/CoFe(2.8nm)は第1磁化固定層(第1積層フェリ)43A、Cu(2.2nm)は第1非磁性伝導層44A、CoFe(0.5nm)/NiFe(3nm)/CoFe(0.5nm)は磁化自由層45、Cu(2.2nm)は第2非磁性伝導層44B、CoFe(2.8nm)/Ru(0.8nm)/CoFe(1.8nm)は第2磁化固定層(第2積層フェリ)43B、PtMn(12nm)は第2反強磁性層42B、Ta(3nm)は保護層47である。図9は、横軸を「Ru/CoFe界面」、「Ru/CoFe界面とCu/CoFe界面」、「Ru/CoFe界面とCu/CoFe界面とRu/CoFe界面」の各々でプラズマ処理が行われた場合とし、縦軸をMR比とHinとし、MR比とHinの変化を示した特性図を示している。本実施例ではプラズマ処理の時間を15秒に統一しプラズマ処理する界面を変えたところ、Ru/CoFe界面とCu/CoFe界面とRu/CoFe界面の3つの界面をプラズマ処理した場合にHinの低減とMR比の向上を実現することができた。そのため、本実施例の膜構成ではRu/CoFe界面とCu/CoFe界面とRu/CoFe界面の3つの界面のいずれかをプラズマ処理することが好ましいが、よりHinを低減しMR比を向上するためにはRu/CoFe界面とCoFe/Cu界面とRu/CoFe界面の3つの界面をすべてプラズマ処理することが好ましい。図5中、右向きの矢印で指した界面は、プラズマ処理を施すことが望ましい界面である。
(実施例5):実施例5では、図3に示した前述のボトムタイプのスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の製造方法におけるプラズマ処理時間を変更した例を説明する。図10は、横軸をプラズマ処理時間(秒;sec)とし、縦軸をMR比とHinとしたときのMR比とHinの変化を示した特性図を示している。図10によれば、ボトムタイプスピンバルブ膜において、Ru/CoFe界面のプラズマ処理時間を15秒に統一し、さらにCoFe/Cu界面のプラズマ処理時間を変えた例である。この実施例によると、CoFe/Cu界面のプラズマ処理時間は最も低いHinが得られる30秒が好ましいことが分かる。
(実施例6):実施例6は、図3に示した前述のボトムタイプのスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の積層構造の製造において、プラズマ処理を行わない場合と、Ru(0.8nm)とCoFe(2.8nm)の間に厚さ1nm以下のCoFeの酸化物層(NOL)を挟んだ場合と、Ru(0.8nm)/CoFe(2.8nm)界面を15秒間プラズマ処理した場合のスピンバルブ膜のMR曲線の比較を示す。図11は、横軸は磁界の強さ、縦軸はMR比を示し、プラズマ処理を行わない場合のMR曲線51と、Ru(0.8nm)とCoFe(2.8nm)の間にNOLを挟んだ場合のMR曲線52と、Ru(0.8nm)/CoFe(2.8nm)界面を15秒間プラズマ処理した場合のMR曲線53を示している。図11によれば、同一膜構造においてNOLを挿入することによりMR比が7.9%から10.4%に向上し、さらにプラズマ処理をした場合では11.2%が得られた。NOLを挿入後、1〜4nmのCoFe層を成膜し、その後にプラズマ処理しても同様の効果が得られる。またプラズマ処理無しの場合のスピンバルブ膜のCoFe(1.5nm)/NiFe(2.5nm)から構成された磁化自由層の保磁力(Hc)が0.6 Oeであったのに対し、NOLを挿入した場合が1.3 Oe、プラズマ処理を行った場合では0.7 Oeであった。CoFeとNiFeの軟磁性材料から構成される磁化自由層のHcは小さいほど好ましく、本実施例のようにプラズマ処理ではHcを劣化させないという副次的効果も得られた。
(実施例7):実施例7は、上記の実施例6において、上記ボトムタイプのスピンバルブ膜におけるプラズマ処理無しの場合と、NOLを挿入した場合と、Ru/CoFe界面をプラズマ処理した場合と、Ru/CoFe界面およびCoFe/Cu界面をプラズマ処理した場合のMR比のCu層厚依存性(図12)とHinのCu層厚依存性(図13)を示している。図12で横軸はCu層厚(nm)、縦軸はMR(%)を意味し、図13で横軸はCu層厚(nm)、縦軸はHin(Oe)を意味している。図12および図13に示すように、プラズマ処理無しの場合ではCu層厚を薄くするにつれてHinが増大し、Cu層厚が2.1nm以下に薄くなるとMR比の減少が発生するが、Ru/CoFe界面のみをプラズマ処理した場合、およびRu/CoFe界面とCoFe/Cu界面をプラズマ処理した場合ではHinがCu層厚に対して振動し、Cu層厚が2nm以下に薄くなっても高いMR比を維持する。
(実施例8):実施例8は、上記の実施例6において、上記ボトムタイプのスピンバルブ膜におけるRu/CoFe界面をプラズマ処理した場合と、CoFe/Cu界面をプラズマ処理した場合のMR曲線メジャーループ(図14)とMR曲線マイナーループ(図15)を示している。図14と図15で横軸はH(Oe)、縦軸はMR(%)を意味している。この実施例ではRu/CoFe界面を15秒、CoFe/Cu界面を30秒プラズマ処理した場合の例を示している。この実施例によれば12%の高MR比と−4Oeの低Hinと0.5Oeの低Hcが得られた。
(実施例9):実施例10は、図16で、ボトムタイプのスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の製造方法でのRu/CoFe界面のプラズマ処理において、プラズマ条件である基板25へのバイアス電圧Vdcを変えた例を示している。この実施例によれば、基板25に対して負に印加されるバイアス電圧は0に近づくほど低Hinと高MR比が得られることが分かる。
前述の実施形態および各実施例において、スピンバルブ膜のCu層をAlの酸化物層(AlOx層)に置き換えたいわゆるTMR膜に置き換えても同等の効果を達成することができる。TMR膜はGMR膜よりもさらに高いMR比が得られるため、次世代の磁気再生ヘッドとして注目されている磁性多層膜であり、さらには次世代の不揮発性メモリとして有望視されている。
前述の実施形態および実施例において、積層フェリ型の磁化固定層が、磁性層と磁性層によって挟まれた非磁性層が2種類以上の層によって構成された多層膜である場合には、非磁性層内に存在する界面のうち少なくとも1箇所をプラズマ処理することが好ましい。また磁化自由層が2種類以上の層によって構成された多層膜である場合には、磁化自由層内に存在する界面のうち少なくとも1箇所をプラズマ処理することが好ましい。さらに反強磁性層が2種類以上の層によって構成された多層膜である場合には、反強磁性層内に存在する界面のうちの少なくとも1箇所をプラズマ処理することが好ましい。
前述の実施形態等では、マルチチャンバ式の成膜装置10において、スピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の多層構造の成膜の途中の適宜な段階でプラズマ処理を行うために、特別にプラズマ処理室14を設けるようにしたが、これに限定されない。例えば、成膜室13A,13Bに、図2に示した平行平板電極構造を設けたり、あるいは、イオン照射構造を設けたりして、成膜室内でプラズマ処理を行うように構成することができる。
本発明によるスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の製造方法では、スピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の多層構造において前述したごとく選択された所定の界面にプラズマ処理を施すことにより、当該界面の平坦化および清浄化を図り、これにより、高いMR比を実現するようにしたが、多層膜の構造において、緩衝膜と保護膜の間に存在するすべての界面のうちのいずれか1つ、あるいは任意の組合せで、あるいはすべての界面をプラズマ処理することによって本発明の効果を実現することができるのは勿論である。
上記の説明では、専らスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の製造方法の観点で発明を把握してその説明がなされたが、本発明に係る製造方法で作られたスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の多層の膜構造自体も、所定の界面がプラズマ処理等により平坦化かつ清浄化されており、独創性を備えた膜構造を有している。
本発明に係るマルチチャンバ装置は、次のような製造方法を実現するものである。
第1の製造方法は、基板上に堆積される緩衝層と、非磁性伝導層とこれを挟む磁化固定層および磁化自由層と磁化固定層の隣りに形成される反強磁性層とから成る多層部と、最上位に堆積される保護層とから構成されるスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の製造方法であり、非磁性伝導層と緩衝層との間に形成された複数の界面のうち少なくとも1箇所をプラズマ処理する方法である。このスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の製造方法では、非磁性伝導層の下側に形成される複数の界面を適宜にプラズマ処理を行うことにより、各層の平坦性と清浄性を高め、これによって、高いMR比と低いHinを可能にしている。
第2の製造方法は、上記の第1の製造方法において、好ましくは、多層部で磁化固定層は基板側に形成されかつ磁化自由層は保護層側に形成され、かつ磁化固定層および/または磁化自由層は単層または複数層から成り、非磁性伝導層と緩衝層の間に形成された複数の界面のうち少なくとも1箇所をプラズマ処理することを特徴とする。この方法は、ボトムタイプのスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の製造方法である。
第3の製造方法は、上記の第1の製造方法において、好ましくは、多層部で磁化自由層は基板側に形成されかつ磁化固定層は保護層側に形成され、かつ前記磁化固定層および/または前記磁化自由層は単層または複数層から成り、非磁性伝導層と緩衝層の間に形成された複数の界面、および磁化固定層内の複数の界面のうち少なくとも1箇所をプラズマ処理することを特徴とする。この方法は、トップタイプのスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の製造方法である。
第4の製造方法は、上記の第1の製造方法において、好ましくは、多層部で、磁化固定層は下側磁化固定層と上側磁化固定層を含み、非磁性伝導層は下側非磁性伝導層と上側非磁性伝導層を含み、下側非磁性伝導層を挟む下側磁化固定層および磁化自由層と上側非磁性伝導層を挟む磁化自由層および上側磁化固定層とに基づく5層構造が形成され、かつ下側磁化固定層と上側磁化固定層と磁化自由層のうちの少なくとも1つの層は単層または複数層から成り、下側非磁性伝導層と緩衝層との間に形成された複数の界面、および上側非磁性伝導層と磁化自由層の間の界面のうち少なくとも1箇所をプラズマ処理することを特徴とする。この方法はデュアルタイプのスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の製造方法である。
第5の製造方法は、基板上に緩衝層、反強磁性層、磁化固定層、非磁性伝導層、磁化自由層、保護層の順番で連続的に積層されるボトムタイプのスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の製造方法であり、緩衝層と反強磁性層の界面、反強磁性層と磁化固定層の界面、磁化固定層と非磁性伝導層の界面のうちの少なくとも1箇所をプラズマ処理する方法である。
第6の製造方法は、上記の第5の方法において、好ましくは、磁化固定層は、非磁性層によって隔てられた第1磁化固定層要素と第2磁化固定層要素の3層構造を有する積層フェリ型磁化固定層であり、反強磁性層と1磁化固定層の界面、第1磁化固定層要素と非磁性層の界面、非磁性層と第2磁化固定層要素の界面、第2磁化固定層要素と非磁性伝導層の界面のうちの少なくとも1箇所をプラズマ処理することを特徴とする。
第7の製造方法は、基板上に緩衝層、磁化自由層、非磁性伝導層、磁化固定層、反強磁性層、保護層の順番で連続的に積層されたトップタイプのスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の製造方法であり、緩衝層と磁化自由層の界面、磁化自由層と非磁性伝導層の界面の少なくとも1箇所をプラズマ処理する方法である。
第8の製造方法は、上記の第7の方法において、好ましくは、磁化固定層は非磁性層によって隔てられた第1磁化固定層要素と第2磁化固定層要素の3層構造を有する積層フェリ型磁化固定層であり、第1磁化固定層要素と非磁性層の界面、非磁性層と第2磁化固定層要素の界面のうち少なくとも1箇所をプラズマ処理することを特徴とする。
第9の製造方法は、基板上に緩衝層、第1反強磁性層、第1磁化固定層、第1非磁性伝導層、磁化自由層、第2非磁性伝導層、第2磁化固定層、第2反強磁性層、保護層の順番で連続的に積層されるデュアルタイプのスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の製造方法であり、緩衝層と第1反強磁性層の界面、第1反強磁性層と第1磁化固定層の界面、第1磁化固定層と第1非磁性伝導層の界面、磁化自由層と第2非磁性伝導層の界面のうち少なくとも1箇所をプラズマ処理する方法である。
第10の製造方法は、第9の方法において、好ましくは、第1磁化固定層が第1磁化固定層要素、第1非磁性層、第2磁化固定層要素の3層構造となった第1積層フェリであり、第2磁化固定層が第3磁化固定層要素、第2非磁性層、第4磁化固定層要素の3層構造となった第2積層フェリであり、第1反強磁性層と第1磁化固定層要素の界面、第1磁化固定層要素と第1非磁性層の界面、第1非磁性層と第2磁化固定層要素の界面、第2磁化固定層要素と第1非磁性伝導層の界面、第3磁化固定層要素と第2非磁性層の界面、第2非磁性層と第4磁化固定層要素の界面のうち少なくとも1箇所をプラズマ処理することを特徴とする。
第11の製造方法は、上記の各製造方法において、好ましくは、緩衝層が2種類以上の層によって構成された多層膜であり、緩衝層内に存在する複数の界面のうち少なくとも1箇所にプラズマ処理することを特徴とする。
第12の製造方法は、上記の各製造方法において、好ましくは、上記のプラズマ処理は、0.01〜100Paの低圧力の不活性ガスであるAr,Kr,Xe,Ne等やこれらに類似するガスのいずれかによるガス雰囲気中において13.56MHzのRF波を用いたプラズマを使用し、電極構造が平行平板の容量結合型であることを特徴とする。
第13の製造方法は、上記第12の製造方法において、好ましくは、電極構造で、RF波を与える側の電極にプラズマ処理の対象となる基板を配置し、RF波による電力が単位面積当たり0.5W/cm
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以下、基板に印加されるバイアス電圧が0Vよりも小さく−300V以上の範囲に含まれる電圧である。
第14の製造方法は、上記の第12の製造方法において、好ましくは、プラズマ処理の処理時間が1分を超えない時間であることを特徴とする。
本発明のマルチチャンバ成膜装置によるスピンバルブ型巨大磁気抵抗薄膜の製造方法では、多層構造を成すスピンバルブ膜の成膜途中において成膜を一時中断し、界面をイオン衝撃処理、好ましくはプラズマ処理を行い、その後に引き続き成膜を再開するように構成されている。この製造方法では、プラズマ処理は必ずしも成膜室内で行われる必要はなく、隣の真空室または真空搬送室等を介した別の真空室に移動して行ってもよい。
また本発明のマルチチャンバ成膜装置による製造方法では、ボトムタイプ、トップタイプ、デュアルスピンバルブのようなスピンバルブ膜の構造にかかわらず非磁性伝導層にCu層を用い、かつCu層の膜厚を2.1nmに設定した時、Cu層を介した磁化固定層と磁化自由層の間の層間結合磁界(Hin)が最も小さくかつMR比が最も大きくなるように、ボトムタイプ、トップタイプ、デュアルスピンバルブのスピンバルブ膜構造に応じて、プラズマ処理等を行う界面を適宜に選択するものである。またプラズマ処理による成膜の中断は必ずしも一度に限らず、必要に応じて複数回行ってもよい。
さらに本発明のマルチチャンバ成膜装置による製造方法では、プラズマ処理を施す層に用いられる材料によって、プラズマ処理の条件(RF電力、処理時間、Ar等の圧力など)を変え、Hinが小さく、MR比が大きくなるようにしている。さらに本発明のマルチチャンバ成膜装置による製造方法では、酸素を用いるプロセスや酸化工程は一切使用しないことで特徴づけられる。