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JP2008126005A - 細胞組織体−ハイドロキシアパタイト複合体の安全な調製法 - Google Patents

細胞組織体−ハイドロキシアパタイト複合体の安全な調製法 Download PDF

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JP2008126005A JP2006317842A JP2006317842A JP2008126005A JP 2008126005 A JP2008126005 A JP 2008126005A JP 2006317842 A JP2006317842 A JP 2006317842A JP 2006317842 A JP2006317842 A JP 2006317842A JP 2008126005 A JP2008126005 A JP 2008126005A
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Norimasa Nakamura
憲正 中村
Hideki Yoshikawa
秀樹 吉川
Mitsuru Akashi
満 明石
Noriya Matsuzaki
典弥 松崎
Tadahisa Higuchi
周久 樋口
Kosuke Tateishi
耕介 立石
Wataru Ando
渉 安藤
Yoshinari Tanaka
美成 田中
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Osaka University NUC
Osaka Industrial Promotion Organization
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Abstract

【課題】細胞または細胞集合体に、骨の構成成分の組成および結晶構造に近似し、優れた生体親和性が期待できるハイドロキシアパタイトを、極めて速い生成速度で効率良く、かつ強固に細胞または類似の生体組織に付着させることができるハイドロキシアパタイト複合体の製造方法、該方法により得られる細胞または類似の生体組織を提供する。
【解決手段】カルシウムイオンを含み、かつ、実質的にリン酸イオンを含まないカルシウム溶液と、リン酸イオンを含み、かつ、実質的にカルシウムイオンを含まないリン酸溶液とに、細胞または細胞集団を交互に浸漬させて、該細胞または細胞集団の少なくとも表面にハイドロキシアパタイトを生成および固定させる工程を含む、ハイドロキシアパタイト複合体の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、骨の構成成分である細胞を用いた、人工骨等の各種生体組織、並びに医療用材料等に利用可能な、細胞・ハイドロキシアパタイト複合体の製造方法、該製造方法により得られた細胞・ハイドロキシアパタイト複合体および生体適合性材料に関する。
近年、重症臓器不全や難治性疾患に対し、遺伝子工学や細胞組織工学、再生医学等を駆使した再生型治療が新しい治療法として注目され、21世紀における先端医療の最重要かつ最難関な研究テーマの一つとして、世界的に多くの研究者が精力的に取り組んでいる。
推定される再生(組織工学)医療関連の市場は、新エネルギー・産業技術総合開発機構の資料では世界で約48兆円、日本国内が約5兆円、組織工学関連製品のみに限っても世界で約10兆円とされており、この分野の次世代の新産業としての世界の期待は大きい。
本発明者らも、筋骨格組織および循環器組織領域において再生型治療の開発に取り組み、細胞移植と増殖因子との併用法、組織工学による組織移植再生法を報告してきた。しかし、このような細胞移植や組織移植による再生医療を行うためには、自己由来の細胞源の確保が急務かつ最重要である。筋骨格系組織の細胞には自己修復力の高いものが多く、幹細胞としての機能を有する細胞の存在が報告されてきている。
生体骨、歯等は、無機物質であるハイドロキシアパタイト(以下、ハイドロキシアパタイトと略す場合がある)とタンパク質であるコラーゲンが分子レベルで複合化しさらに3次元的に配列したマトリクスである。そして、骨や歯が損傷した場合の修復には、生体適合性を有するセラミックス材料等が使用できることが知られている。例えば、主に歯周充填材として使用される、商品名”Bioglass”(Nippon Electric Glass Co.Ltd.,Otsu.Siga.Japan 製、成分;NaO−CaO−SiO−P)、主に骨充填材として使用される、ハイドロキシアパタイトの焼結体(Ca10(PO(OH))、人工すい体および腸骨スペーサー等として使用される、アパタイトとウォラストナイト(CaO−SiO)とを含む結晶化ガラス(商品名”Cerabone A−W”、 NipponElectric Glass Co. Ltd., Otsu. Siga.Japan 製)等が知られている。これらのセラミックス材料は、骨の代替に使用するために、例えば、金属等の強度の高い材料表面に形成する試みがなされている。また、柔軟性、耐久性に富み、骨以外の人工生体組織等への応用を期待して、加工が容易な各種有機高分子材料の表面上にハイドロキシアパタイト層を形成する方法、いわゆる生体模倣反応と呼ばれる方法が開発されている。この生体模倣反応は、ヒト体液に等しいイオン濃度を有する水溶液(疑似体液)に、CaOとSiOとを主成分とするガラス粒子を浸し、次いで、有機高分子材料を浸漬し、有機高分子材料の表面に多数のアパタイト核を生成させた後、この有機高分子材料のみを疑似体液の1.5倍のイオン濃度を有する水溶液に浸漬させて反応させる方法である。この生体模倣反応によれば、アパタイト核が有機高分子材料上で自然に成長し、緻密で均質な骨類似のハイドロキシアパタイト層が任意の厚さだけ形成されることが報告されている(非特許文献1=J.Biomed.Mater.Res.vol.29,p349−357(1995))。しかし、この生体模倣反応は、ハイドロキシアパタイトの生成速度が遅く、2週間以上の長期間反応させても、有機高分子材料上に、人工骨に使用し得る程度のハイドロキシアパタイトを生成させることができないのが実状である。
また、ハイドロキシアパタイトの新しい合成法として、カルシウム溶液に材料を浸漬した後、続けてリン酸溶液に浸漬し、この過程を1サイクルとし、これを繰り返してハイドロキシアパタイト層を順次形成させる交互浸漬法が提案されている(非特許文献2=Chem. Lett., pp.711−712, 1998;非特許文献3=J Biomed Mater Res Part B: Appl.Biomater 66B: 429-438, 2003;非特許文献4=J Biomed Mater Res Part B: Appl Biomater 75B: 378-386, 2005)。
生体組織の中の骨、歯等の主要構成層は、ハイドロキシアパタイト(以下、ハイドロキシアパタイトと略す場合がある)に近似した無機固体物質で構成されている。そして、骨や 歯が損傷した場合の修復には、生体適合性を有するセラミックス材料等が使用できることが知られている。例えば、主に歯周充填材として使用される、商品名 “Bioglass”(Nippon Electric Glass Co.Ltd,,Otsu.Siga.Japan製、成分;NaO−CaO−SiO−P)、主に骨充填材として使用される、ハイドロキシアパタイトの焼結体(Ca10(PO(OH))、人工すい体および腸骨スペーサー等として使用される、アパタイトとウォラストナイト(CaO−SiO)とを含む結晶化ガラス(商品名“Cerabone A−W”、Nippon Electric Glass Co.Ltd.,Otsu.Siga.Japan製)等が知られている。
これらのセラミックス材料は、骨の代替に使用するために、例えば、金属等の強度の高い材料表面に形成する試みがなされている。また、柔軟性、耐久性に富 み、骨以外の人工生体組織等への応用を期待して、加工が容易な各種有機高分子材料の表面上にハイドロキシアパタイト層を形成する方法、いわゆる生体模倣反応と呼ばれる方法 が開発されている。
この生体模倣反応は、ヒト体液に等しいイオン濃度を有する水溶液(疑似体液)に、CaOとSiOとを主成分とするガラス粒子を浸し、次いで、有機高分子材料を浸漬し、有機高分子材料の表面に多数のアパタイト核を生成させた後、この有機高分子材料のみを疑似体液の1.5倍のイオン濃度を有する水溶液に浸漬 させて反応させる方法である。この生体模倣反応によれば、アパタイト核が有機高分子材料上で自然に成長し、緻密で均質な骨類似のハイドロキシアパタイト層が任意の厚さだけ 形成されることが報告されている(非特許文献5=J.Biomed.Mater.Res.vol.29,p349−357(1995))。
しかし、この生体模倣反応は、ハイドロキシアパタイトの生成速度が遅く、2週間以上の長期間反応させても、有機高分子材料上に、人工骨に使用し得る程度のハイドロキシアパタイトを生成させることができないのが実状である。
ところで、前述のセラミックス材料は、例えば、生きている骨と結合する程度の生体親和性を有することが要求され、組成および形態を中心とする研究が行われて いる。また最近、生体親和性の向上は、セラミックス材料の組成および形態だけでなく、その結晶構造も重要であることが判っている。例えば、ヒトの骨の結晶構 造は、X線回折により、特異回折ピークを示すことが知られている(非特許文献6=Biomaterials,11,p568−572,1990)。
しかし、これに近似した結晶構造を有するハイドロキシアパタイトは従来知られていない。例えば、骨類似のハイドロキシアパタイト層が形成されることが報告されている、前述の生体模倣反応によって得られるハイドロキシアパタイトも、このような結晶構造は有していない。
特許文献1(特開2002−219167号)は、天然由来高分子とカルシウム、リン酸の溶液を混ぜて高分子とアパタイトの複合体を作製する方法を開示する。しかし、ここで用いられる高分子は、生体材料から分離したものであり、細胞自体を使用するものではない。
特許文献2(特開2000−327314号)は、高分子に関する交互浸漬法によるハイドロキシアパタイト複合物の製造を記載する。しかし、この文献は、細胞等の生体材料そのものについて開示していない。
J.Biomed.Mater.Res.vol.29,p349−357(1995) Chem. Lett., pp.711−712, 1998 J Biomed Mater Res Part B: Appl.Biomater 66B: 429-438, 2003; J Biomed Mater Res Part B: Appl Biomater 75B: 378-386, 2005 J.Biomed.Mater.Res.vol.29,p349−357,1995 Biomaterials,11,p568−572,1990 特開2002−219167号 特開2000−327314号
本発明の目的は、高分子材料等の細胞または細胞集合体に、骨の構成成分の組成および結晶構造に近似し、優れた生体親和性が期待できるハイドロキシアパタイトを、極めて速い生成速度で効率良く、かつ強固に細胞または類似の生体組織に付着させることができるハイドロキシアパタイト複合体の製造方法、該方法により得られる細胞または類似の生体組織に、および細胞または類似の生体組織を提供することにある。
本発明は、間葉系幹細胞のような細胞またはその細胞から構成される組織を死滅させることなく安全にハイドロキシアパタイトとの複合化を行なうことに成功したことによって上記課題を解決した。とくに、本発明において、上記課題を解決するために、従来の複合体と比べて工夫した点は、細胞が生存している状態でハイドロキシアパタイトとの複合化を達成した点である。生存細胞およびその組織体を交互浸漬でハイドロキシアパタイトとの複合化を試みた例はない。
とくに、間葉系幹細胞が未分化の状態で均一に分布した三次元組織をハイドロキシアパタイトと複合化した例はかつて存在しなかった。本発明では、骨・軟骨再生治療に求められている間葉系幹細胞のような細胞またはその細胞から構成される組織とハイドロキシアパタイトの複合体を生体外で安全に調製することが可能であり、治療効果が期待される。また、製品の経済的効果も大きいと予想される。
間葉系幹細胞のような細胞またはその細胞由来自己組織化三次元人工組織をハイドロキシアパタイトと複合化させることが可能であり、複合化後も細胞は生存していることから、極めて安全性の高い手法であることが本発明の最大の特徴である。また、交互浸漬条件を変えることでハイドロキシアパタイトの量を簡便に制御することができるため、用いる場所や条件に応じて複合化度を制御できるという特徴を有している。また、本発明により形成されるハイドロキシアパタイトは低結晶性で生体吸収性であるため、生体への埋植後に骨形成を誘導して分解吸収されることが期待される。本発明は、細胞組織体をハイドロキシアパタイトと安全に複合化することができる画期的な手法である。
1つの実施形態では、L−アスコルビン酸2−リン酸を添加して培養することで調製した間葉系幹細胞由来自己組織化三次元人工組織を、塩化カルシウム/トリス緩衝液(pH=7.4)に例えば10秒間浸漬し、トリス緩衝液(pH=7.4)に例えば10秒間浸漬することで余剰のカルシウムイオンを除去する。その後、リン酸水素二ナトリウム/トリス緩衝液(pH=7.4)に例えば10秒間浸漬し、トリス緩衝液(pH=7.4)に10秒間浸漬することで余剰のリン酸イオンを除去する。
1つの実施形態では、このサイクルを繰り返すことで、間葉系幹細胞由来自己組織化三次元人工組織の表面にハイドロキシアパタイトが形成される。ハイドロキシアパタイトの形成量は、サイクル数や溶液濃度により制御することができる。
従って、本発明は、以下を提供する。
(1)細胞と、ハイドロキシアパタイトとの複合体。
(2)上記ハイドロキシアパタイトは、上記細胞の表面に付着される項目1に記載の複合体。
(3)上記ハイドロキシアパタイトは、上記細胞の表面に直接結合している、項目1に記載の複合体。
(4)上記ハイドロキシアパタイトは、上記細胞の細胞膜表面上に微結晶が形成された状態で存在する、項目1に記載の複合体。
(5)上記細胞は、三次元組織構造を有する、項目1に記載の複合体。
(6)上記細胞は、第三次元方向に生物学的に結合されている(integrated)、項目1に記載の複合体。
(7)上記細胞は、周囲との生物学的結合能(integration capability)を有する、項目1に記載の複合体。
(8)上記生物学的結合能は、周囲の細胞および/または細胞外マトリクスとの接着能を含む、項目4に記載の複合体。
(9)上記細胞に由来する細胞外マトリクスを含む、項目1に記載の複合体。
(10)上記細胞外マトリクスは、コラーゲンI、コラーゲンIII、ビトロネクチンおよびフィブロネクチンからなる群より選択される少なくとも1つを含む、項目9に記載の複合体。
(11)コラーゲンとして、10〜90%のコラーゲンIを含む、項目10に記載の複合体。
(12)コラーゲンとして、10〜90%のコラーゲンIIを含む、項目10に記載の複合体。
(13)コラーゲンとして、10〜90%のコラーゲンIIIを含む、項目10に記載の複合体。
(14)上記細胞に由来するプロテオグリカンを含む、項目1に記載の複合体。
(15)上記プロテオグリカンは、ヒアルロン酸を少なくとも0.1〜90%含有する、項目14に記載の複合体。
(16)上記プロテオグリカンは、フィブロネクチンを少なくとも0.1〜90%含有する、項目14に記載の複合体。
(17)上記細胞外マトリクスが上記細胞と上記ハイドロキシアパタイトとの間に配置される、項目10に記載の複合体。
(18)上記細胞外マトリクスが上記複合体中に分散して配置される、項目10に記載の複合体。
(19)上記細胞外マトリクスが上記複合体中に均一に分散して配置される、項目10に記載の複合体。
(20)上記ハイドロキシアパタイトは、結晶として存在する、項目1に記載の複合体。
(21)上記結晶は、六方晶、板状および棒状から選択される形態を有する、項目20に記載の複合体。
(22)上記細胞は、幹細胞である、項目1に記載の複合体。
(23)上記細胞は、組織幹細胞である、項目1に記載の複合体。
(24)上記細胞は、コラーゲンを発現する細胞である、項目1に記載の複合体。
(25)上記細胞は、I型コラーゲンおよびIII型コラーゲンを発現する細胞である、項目1に記載の複合体。
(26)上記細胞は、間葉系幹細胞である、項目1に記載の複合体。
(27)上記細胞は、生きた細胞である、項目1に記載の複合体。
(28)上記細胞は、複合体形成前のDNA量に比べ、少なくとも50%のDNA量を保持するか、または生細胞検出法によって検出されるものである、項目1に記載の複合体。
(29)上記生細胞検出法は、MTTアッセイまたはWST−1アッセイである、項目28に記載の複合体。
(30) カルシウムイオンを含み、かつ、実質的にリン酸イオンを含まないカルシウム溶液と、リン酸イオンを含み、かつ、実質的にカルシウムイオンを含まないリン酸溶液とに、細胞または細胞集団を交互に浸漬させて、上記細胞または細胞集団の少なくとも表面にハイドロキシアパタイトを生成および固定させる工程を含む、ハイドロキシアパタイト複合体の製造方法。
(31) 上記細胞または細胞集団が、人工組織であることを特徴とする項目30に記載の製造方法。
(32) 上記細胞または細胞集団が、幹細胞を含む、項目30に記載の製造方法。
(33)上記実質的にカルシウムイオンを含まない濃度とは、ハイドロキシアパタイトの形成が進行しない濃度である、項目30に記載の製造方法。
(34)上記実質的にリン酸イオンを含まない濃度とは、ハイドロキシアパタイトの形成が進行しない濃度である、項目30に記載の製造方法。
(35)上記ハイドロキシアパタイトの生成および固定させる工程の後、上記複合体における細胞表面でのハイドロキシアパタイトの沈着度を確認し、その結果に基づき上記生成および固定させる工程を反復する工程を包含する、項目30に記載の製造方法。
(36) 上記イオンの濃度は、10〜200mMである、項目30に記載の製造方法。
(37) 上記イオンの濃度は、10〜50mMである、項目30に記載の製造方法。
(38) 上記浸漬の時間は、1分以下である、項目30に記載の製造方法。
(39) 項目30に記載の製造方法により得られたことを特徴とするハイドロキシアパタイト複合体。
(40) 項目1または39に記載の複合体から実質的になる生体適合性材料。
以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
従来の細胞移植や市販のアパタイトでは骨・軟骨誘導が不十分であり、また結晶性アパタイトが生体内に分解されず長期にわたって残存するという問題点があった。本発明では、細胞移植とハイドロキシアパタイトによる骨誘導を同時に達成できるだけでなく、ハイドロキシアパタイトが生体吸収性であるため骨誘導後に速やかに分解吸収される、という大きな特徴を有している。また、有機物は細胞および細胞が産出した細胞外マトリックス成分のみであるため、安全性に極めて優れている。
細胞が生存している状態で細胞膜表面上にハイドロキシアパタイトの微結晶を形成できる点もまた、本発明においてはじめて達成された特徴のひとつであり、従来技術は細胞膜表面にハイドロキシアパタイト微結晶を形成することができなかった。細胞が物質に接着する場合は、細胞膜全体で接着せず、インテグリン等の膜タンパク質を介して点で物質に接着する。そのため、細胞が物質に接着する際は細胞膜は物質に接触しないのである。従って、ハイドロキシアパタイト表面に細胞を接着させた状態と、細胞膜表面にハイドロキシアパタイトを形成した状態は全く異なるといえ、これは、客観的にも観察可能である。本発明の技術は、細胞膜表面に細胞が生存している状態で直接ハイドロキシアパタイト微結晶を形成させた初めての例であるといえる。
従来の細胞・ハイドロキシアパタイト複合体は、真の意味での複合体とは言えず、むしろ、混合物ともいうべき状態のものであり、骨・軟骨誘導において難点があった。例えば、ハイドロキシアパタイトの効果で骨が誘導されることは報告されているが、実際に治療で用いられるほどの骨誘導効果が得られるものは少ない。また、治療においては海綿骨に見られるような骨・軟骨の両方を誘導することが重要であるが、そのような効果を示す材料は報告例が無い。
海綿骨と皮質骨の違いとしては、骨を性状と働きで分類すると、海綿の様な空洞の多い構造をした部分(海綿骨)とそれを取り巻く硬い緻密な部分(皮質骨)からできている。海綿骨とは、脊柱椎体、踵骨、長管骨の端近くなどに含まれる海綿状の骨を指す。海綿骨の働きは主に、骨代謝にあずかるため代謝骨ともいわれている。 海綿骨は皮質骨の5〜8倍も速い代謝速度を有し、1年間に全体の20%近く骨が新生骨に置換えられる。皮質骨とは、海綿骨を薄く覆っている骨や、長管骨の中央部のように厚い竹筒状になっている骨をいう。皮質骨は機械的強度を保つ役目をしている。新生骨置換えは年間4%と代謝速度が遅いのが特徴である。本発明を用いると、HA−3DBTの移植実験により、欠損部にCT及び組織上、上海綿骨様の形態を示す骨が形成されることが見出された。
以上より、骨・軟骨の新しい再生医療材料として産業への大きな寄与が期待される。
1) 交互浸漬法により、間葉系幹細胞由来自己組織化三次元人工組織ハイドロキシアパタイト複合体を調製することができた。
2) X 線回折測定によりハイドロキシアパタイトの形成が確認された。
3)電子顕微鏡観察により細胞外マトリックスや細胞表面へのハイドロキシアパタイト形成が確認された。
4) WST−1 染色により、複合化後の細胞の生存が確認された。
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当上記分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
(再生医療)
本明細書において使用される「再生」(regeneration)とは,個体の組織の一部が失われた際に残った組織が増殖して復元される現象をいう。動物種間または同一個体における組織種に応じて、再生のその程度および様式は変動する。ヒト組織の多くはその再生能が限られており、大きく失われると完全再生は望めない。大きな傷害では、失われた組織とは異なる増殖力の強い組織が増殖し,不完全に組織が再生され機能が回復できない状態で終わる不完全再生が起こり得る。この場合には,生体内吸収性材料からなる構造物を用いて、組織欠損部への増殖力の強い組織の侵入を阻止することで本来の組織が増殖できる空間を確保し,さらに細胞増殖因子を補充することで本来の組織の再生能力を高める再生医療が行われている。この例として、軟骨、骨、心臓および末梢神経の再生医療がある。軟骨、神経細胞および心筋は再生能力がないかまたは著しく低いとこれまでは考えられてきた。近年、これらの組織へ分化し得る能力および自己増殖能を併せ持った組織幹細胞(体性幹細胞)の存在が報告され、組織幹細胞を用いる再生医療への期待が高まっている。胚性幹細胞(ES細胞)はすべての組織に分化する能力をもった細胞であり、それを用いた腎臓、肝臓などの複雑な臓器の再生が試みられているが実現には至っていない。
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。本発明の方法においては、どのような細胞でも対象とされ得る。本発明で使用される「細胞」の数は、光学顕微鏡を通じて計数することができる。光学顕微鏡を通じて計数する場合は、核の数を数えることにより計数を行う。当該組織を組織切片スライスとし、ヘマトキシリン−エオシン(HE)染色を行うことにより細胞外マトリクス(例えば、エラスチンまたはコラーゲン)および細胞に由来する核を色素によって染め分ける。この組織切片を光学顕微鏡にて検鏡し、特定の面積(例えば、200μm×200μm)あたりの核の数を細胞数と見積って計数することができる。本明細書において使用される細胞は、天然に存在する細胞であっても、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞)であってもよい。細胞の供給源としては、例えば、単一の細胞培養物であり得、あるいは、正常に成長したトランスジェニック動物の胚、血液、または体組織、または正常に成長した細胞株由来の細胞のような細胞混合物が挙げられるがそれらに限定されない。細胞としては、例えば、初代培養の細胞が用いられ得るが、継代培養した細胞もまた使用され得る。好ましくは、継代が3代〜8代経由した細胞が用いられる。本明細書において、細胞密度は、単位面積(例えば、cm)あたりの細胞数で表すことができる。
本明細書において、細胞が「生きている」状態は、例えば、DNA量によって評価することができる。例えば、本発明の複合体形成前のDNA量に比べ、少なくとも50%のDNA量を保持する場合、その細胞は「生きている」状態であると評価する。あるいは、例えば、本発明の複合体形成前のDNA量に比べ、少なくとも50%のDNA量を保持する場合、また、MTTアッセイやWST−1アッセイなど生細胞検出法により検出される場合、その細胞は「生きている」状態であると評価する。
ここで、MTTアッセイは、3−(4,5−dimethyl−2−thiazolyl)−2,5−diphenyl−2H tetrazolium bromide (MTT)が生細胞が産出する細胞内脱水素酵素により還元されホルマザンを生成することで、ホルマザンの570 nmの吸光度を測定することで実施することができる。WST−1アッセイはMTTアッセイの改良版であり、
2−(4−iodophenyl)−3−(4−nitrophenyl)−5−(2,4−disulfophenyl)−2H−tetrazolium, monosodium salt (WST−1)は1−methoxy−5−methylphenazinium methylsulfate (1−Methoxy PMS)を電子キャリアーとして用いると、細胞内脱水素酵素により還元されて水溶性ホルマザンを生成し、ホルマザンの450 nmの吸光度を測定することで実施することができる。
これらのアッセイは、例えば、TaKaRaのキットを用いて実施することができる(Premix WST−1 25 ml)。「Premix WST−1」は、リン酸bufferで希釈された無菌のWST−1と電子結合試薬を含むready−to−useなPremix溶液である。細胞濃度に関係なく、100 μl/wellの場合には10 μlのPremix WST−1を、200 μl/wellの場合には20 μlのPremix WST−1を加えればよい(10: 1)。100 μl/wellで細胞を培養した場合、本製品1bottleで2500回(25マイクロタイタープレート)分に相当する。この試薬は、細胞増殖能力や細胞生存能力を発色測定により定量するための試薬である。生細胞中のミトコンドリア脱水素酵素によるテトラゾリウム塩(WST−1)のホルマザン色素への変換を基本としており、[H]−チミジン取込み測定法に代わり、non−RIでの測定が可能である。培地に加えたテトラゾリウム塩は、ミトコンドリアの呼吸鎖に存在し、生存細胞にだけ活性のある「succinate−tetrazolium reductase(コハク酸塩テトラゾリウム還元酵素)」(EC1.3.99.1)によりホルマザン色素に変換される。生細胞数が増加すれば、サンプル中のミトコンドリア脱水素酵素の全体の活性が増加することになり、この酵素活性の増加が、ホルマザン色素の生成増加を導くため、ホルマザン色素と培地中の代謝活性のある細胞の数とは直線的な相関を示すことになる。
この測定法は、細胞の洗浄や取込みの必要がなく、微量培養の開始から、ELISAリーダーによるデータ解析までが、同じマイクロタイタープレートで行える利点を有する。
また増殖能力や薬剤感受性測定法において、細胞増殖と生存能力をnon−RIで分光光度計により定量することも可能である。
MTT,XTT,MTSのような異なるテトラゾリウム塩が、細胞増殖能力や生存能力の測定に使われている。テトラゾリウム塩は、ミトコンドリアの呼吸鎖に存在して、生存細胞にだけ活性のある「succinate−tetrazolium reductase(コハク酸塩テトラゾリウム還元酵素)」(EC1.3.99.1)によりホルマザン色素に分解される9)。生存細胞数が増加すれば、サンプル中のミトコンドリア脱水素酵素の全体の活性が増加することになる。この酵素活性の増加が、ホルマザン色素の生成増加を導くため、ホルマザン色素と培地中の代謝活性のある細胞の数とは直線的な相関を示す。ELISAリーダーで色素溶液の吸光度を測定することにより、代謝活性のある細胞が作り出すホルマザン色素を定量できる。これにより、細胞増殖能力や細胞生存能力をみることが可能である。
上記の還元酵素によりホルマザン色素を形成する(化1)。このホルマザン色素を定量すれば、生細胞(=代謝活性のある細胞)が測定できる。ホルマザン色素溶液の吸光度と生細胞数との間には直線的な関係がある。

WST−1のプロトコールは以下のとおりである。
A. 必要な器具
・インキュベーター(37℃)
・遠心機
・420−480nmの波長に対応するフィルターをもつマイクロタイタープレート(ELISA)リーダー(対照波長600nm以上のフィルターが望ましい)
・顕微鏡
・血球計算盤
・マルチチャンネルピペッター(10、50、100μl)
・滅菌済ピペットチップ
・マイクロタイタープレート(組織培養グレード、96穴、平底)

B. 操作手順
1. 加湿、常圧下(例えば、37℃、5%CO )で、最終的な培地の液量が100μl/wellになるように、マイクロタイタープレートで細胞を培養する
* 培養時間や培養細胞濃度は、個々の実験条件や用いている細胞系による。ほとんどの実験では細胞濃度は0.1〜5×10個/well、培養時間は24〜96時間が適当である。
2. 細胞培養終了後、Premix WST−1を1 wellあたり10μlずつ加える。
3. 加湿、常圧下(例えば、37℃、5%CO )で0.5〜4時間インキュベートする。
4. マイクロタイタープレート(ELISA)リーダーを用いて、バックグランドコントロール( 「C」参照 )に対するサンプルの吸光度を測定する。ホルマザン産物の吸光度を測定するための波長は、ELISAリーダーの利用できるフィルターによるが、420−480nmの間である(最大吸光は約440nm)。対照波長は600nm以上がよい。
C. バックグランドコントロール(ブランク)
1つのwellに「B−1」で用いた培地100 μlとPremix WST−1を10μl加える。これをELISAリーダーのブランクポジションで、バックグランドコントロール(細胞のない培地+Premix WST−1の吸光度)として用いる。細胞のない培地にPremix WST−1を加えた場合でも、わずかな自発的の吸光度がある。このバックグランドの吸光度は、培地、インキュベーション時間、光への露出による。2時間後の典型的なバックグランドの吸光度は0.1〜0.2の間である。
WST−1アッセイにおいては、以下の点に注意する。
・Premix WST−1添加後の至適インキュベーション時間は、個々の実験により異なる(例えば、用いている細胞の種類や濃度など)。従って、実験においてはPremix WST−1を添加後、異なった時間(例えば、0.5、1、2、4時間)で繰り返し吸光度を測定することにより最適のインキュベーション時間を決める。
・高い感度を得たい場合は、Premix WST−1存在下で細胞をより長い時間インキュベーションするとよい。
本明細書において「幹細胞」とは、自己複製能を有し、多分化能(すなわち多能性)(「pluripotency」)を有する細胞をいう。幹細胞は通常、組織が傷害を受けたときにその組織を再生することができる。本明細書では幹細胞は、胚性幹(ES)細胞または組織幹細胞(組織性幹細胞、組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)であり得るがそれらに限定されない。また、上述の能力を有している限り、人工的に作製した細胞(たとえば、本明細書において記載される融合細胞、再プログラム化された細胞など)もまた、幹細胞であり得る。胚性幹細胞とは初期胚に由来する多能性幹細胞をいう。胚性幹細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒト胚性幹細胞が樹立されており、再生医学にも利用されつつある。組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、分化の方向が限定されている細胞であり、組織中の特定の位置に存在し、未分化な細胞内構造をしている。従って、組織幹細胞は多能性のレベルが低い。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多分化能を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。本明細書において使用される場合は、幹細胞は好ましくは胚性幹細胞であり得るが、状況に応じて組織幹細胞も使用され得る。
由来する部位により分類すると、組織幹細胞は、例えば、皮膚系、消化器系、骨髄系、神経系などに分けられる。皮膚系の組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞などが挙げられる。消化器系の組織幹細胞としては、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが挙げられる。骨髄系の組織幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来、軟骨由来、骨由来、骨髄由来)などが挙げられる。神経系の組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。
本明細書において「体細胞」とは、卵子、精子などの生殖細胞以外の細胞であり、そのDNAを次世代に直接引き渡さない全ての細胞をいう。体細胞は通常、多能性が限定されているかまたは消失している。本明細書において使用される体細胞は、天然に存在するものであってもよく、遺伝子改変されたものであってもよい。
細胞は、由来により、外胚葉、中胚葉および内胚葉に由来する幹細胞に分類され得る。外胚葉由来の細胞は、主に脳に存在し、神経幹細胞などが含まれる。中胚葉由来の細胞は、主に骨髄に存在し、血管幹細胞、造血幹細胞および間葉系幹細胞などが含まれる。内胚葉由来の細胞は主に臓器に存在し、肝幹細胞、膵幹細胞などが含まれる。本明細書では、体細胞はどのような間葉由来でもよい。好ましくは、体細胞は、間葉系由来の細胞が使用され得る。
本発明において提供される人工組織、複合体、三次元構造体を構成する細胞としては、例えば、上述の外胚葉、中胚葉および内胚葉に由来する分化細胞または幹細胞が使用され得る。このような細胞としては、例えば、間葉系の細胞が挙げられる。ある実施形態では、このような細胞として、脂肪細胞、線維芽細胞、滑膜細胞などが使用され得る。このような細胞としては、分化細胞をそのまま利用したり、幹細胞をそのまま利用することもできるが、幹細胞から所望される方向に分化させた細胞を使用することができる。
本明細書において「間葉系幹細胞」とは、間葉に見出される幹細胞をいう。本明細書ではMSCと略されることがある。ここで、間葉とは、多細胞動物の発生各期に認められる、上皮組織間の間隙をうめる星状または不規則な突起をもつ遊離細胞の集団と,それに伴う細胞間質によって形成される組織をいう。間葉系幹細胞は、増殖能と、骨細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、ストローマ細胞、腱細胞、脂肪細胞への分化能を有する。間葉系幹細胞は、患者から採取した骨髄細胞等を培養または増殖、軟骨細胞あるいは骨芽細胞に分化させるために使用され、または歯槽骨、関節症等の骨、軟骨、関節などの再建材料として使用されており、その需要は大きい。従って、本発明の間葉系幹細胞または分化した間葉系幹細胞を含む人工組織、複合体または三次元構造体は、これらの用途において構造体が必要である場合に特に有用である。
本明細書において「単離された」とは、通常の環境において天然に付随する物質が少なくとも低減されていること、好ましくは実質的に含まないことをいう。従って、単離された細胞、組織などとは、天然の環境において付随する他の物質(たとえば、他の細胞、タンパク質、核酸など)を実質的に含まない細胞をいう。組織についていう場合、単離された組織とは、その組織以外の物質(例えば、人工組織または複合体の場合は、その人工組織を作製するに際して使用された物質、スキャフォールド、シート、コーティングなど)が実質的に含まれていない状態の組織をいう。本明細書において、単離されたとは、好ましくは、スキャフォールドが含まれていないこと(すなわち、スキャフォールドフリー)をいう。従って、単離された状態では、培地など本発明において提供される人工組織または複合体を生産する際に使用される成分は入っていてもよいことが理解される。核酸またはポリペプチドについていう場合、「単離された」とは、たとえば、組換えDNA技術により作製された場合には細胞物質または培養培地を実質的に含まず、化学合成された場合には前駆体化学物質またはその他の化学物質を実質的に含まない、核酸またはポリペプチドを指す。単離された核酸は、好ましくは、その核酸が由来する生物において天然に該核酸に隣接している(flanking)配列(即ち、該核酸の5’末端および3’末端に位置する配列)を含まない。
本明細書において「スキャフォールドフリー(足場フリー、基盤材料なし;scaffold−free)」とは、人工組織を生産するときに従来使用されている材料(基盤材料=スキャフォールド)を実質的に含まないことをいう。そのようなスキャフォールドの材料としては、例えば、化学高分子化合物、セラミック、あるいは多糖類、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸などの生物製剤などを挙げることができるがそれらに限定されない。スキャフォールドとは、実質的に固形であり、細胞または組織を支持することができる強度を含む材料をいう。
本明細書において、「樹立された」または「確立された」細胞とは、特定の性質(例えば、多分化能)を維持し、かつ、細胞が培養条件下で安定に増殖し続けるようになった状態をいう。したがって、樹立された幹細胞は、多分化能を維持する。
本明細書において、「非胚性」とは、初期胚に直接由来しないことをいう。従って、初期胚以外の身体部分に由来する細胞がこれに該当するが、胚性幹細胞に改変(例えば、遺伝的改変、融合など)を加えて得られる細胞もまた、非胚性細胞の範囲内にある。
本明細書において「分化(した)細胞」とは、機能および形態が特殊化した細胞(例えば、筋細胞、神経細胞など)をいい、幹細胞とは異なり、多能性はないか、またはほとんどない。分化した細胞としては、例えば、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。
本明細書において「組織」(tissue)とは、細胞生物において、同一の機能・形態をもつ細胞集団をいう。多細胞生物では、通常それを構成する細胞が分化し、機能が専能化し、分業化がおこる。従って細胞の単なる集合体であり得ず,ある機能と構造を備えた有機的細胞集団,社会的細胞集団としての組織が構成されることになる。組織としては、外皮組織、結合組織、筋組織、神経組織などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明の組織は、生物のどの臓器または器官由来の組織でもよい。本発明の好ましい実施形態では、本発明が対象とする組織としては、骨、軟骨、腱、靭帯、半月、椎間板、骨膜、血管、血管様組織、心臓、心臓弁、心膜、硬膜などの組織が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「人工組織」とは、天然の状態とは異なる組織をいう。本明細書において、代表的には、人工組織は、細胞培養によって調製される。生物の中に存在する形態の組織をそのまま取り出してきたものは本明細書では人工組織とはいわない。従って、人工組織は、生体に由来する物質および生体に由来しない物質を含み得る。本発明において提供される人工組織は、通常細胞および/または生体物質で構成されるが、それ以外の物質を含んでいてもよい。より好ましくは、本発明において提供される人工組織は、実質的に細胞および/または生体物質のみで構成される。このような生体物質は、好ましくはその組織を構成する細胞に由来する物質(例えば、細胞外マトリクスなど)であることが好ましい。
本明細書において「移植可能な人工組織」とは、人工組織のうちで、実際の臨床において移植することができ、移植後も少なくとも一定期間移植された部位において組織としての役割を果たすことができる人工組織をいう。移植可能な人工組織は通常、十分な生体適合性、十分な生体定着性などを有する。
移植可能な人工組織において十分な強度は、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その強度を設定することができる。この強度は、自己支持性に十分な強度があり、移植される環境に応じて設定することができる。そのような強度は、後述の応力、歪み特性を測定するか、またはクリープ特性インデンテーション試験を行うことによって測定され得る。強度はまた、最大荷重を観察することによって評価され得る。
本発明において移植可能な人工組織において十分な大きさは、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その大きさを設定することができる。この大きさは、移植される環境に応じて設定することができる。
しかし、移植される場合は少なくとも一定の大きさを有することが好ましく、そのような大きさは、通常、面積について少なくとも1cmであり、好ましくは少なくとも2cmであり、より好ましくは少なくとも3cmである。さらに好ましくは少なくとも4cmであり、少なくとも5cmであり、少なくとも6cmであり、少なくとも7cmであり、少なくとも8cmであり、少なくとも9cmであり、少なくとも10cmであり、少なくとも15cmであり、あるいは少なくとも20cmであり得るが、それらに限定されず、面積は、用途に応じて1cm以下または20cm以上であり得る。本発明の本質は、どのような大きさ(面積、容積)のものでも作製することができる点にあり、サイズに限定されないことが理解される。
移植可能な人工組織において十分な生体適合性は、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その生体適合性の程度を設定することができる。通常、所望される生体適合性としては、例えば、炎症などを起こさず、免疫反応を起こさずに、周囲組織と生物学的結合を行うことなどが挙げられるが、それらに限定されない。場合によって、例えば、角膜などでは、免疫反応を起こしにくいことから、他の臓器において免疫反応を起こす可能性がある場合でも、本発明の目的では生体適合性を有するとすることができる。生体適合性のパラメータとしては、例えば、細胞外マトリクスの存否、免疫反応の存否、炎症の程度などが挙げられるがそれらに限定されない。そのような生体適合性は、移植後における移植部位での適合性を見ること(例えば、移植された人工組織が破壊されていないことを確認する)によって判定することができる(ヒト移植臓器拒絶反応の病理組織診断基準 鑑別診断と生検標本の取り扱い(図譜)腎臓移植、肝臓移植および心臓移植 日本移植学会 日本病理学会編、金原出版株式会社(1998)を参照)。この文献によれば、Grade 0、1A、1B、2、3A、3B、4に分けられ、Grade 0(no acute rejection)は、生検標本に急性拒絶反応、心筋細胞障害などを示す所見がない状態である。Grade 1A(focal, mild acute rejection)は、局所的、血管周囲または間質に大型リンパ球が浸潤しているが、心筋細胞傷害は無い状態である。この所見は、1つまたは複数の生検標本で認められる。Grade 1B(diffuse, mild acute rejection)は、血管周囲、間質またはその両方に大型リンパ球がよりびまん性に浸潤しているが、心筋細胞傷害は無い状態である。Grade 2(focal, moderate acute rejection)は、明瞭に周囲と境界された炎症細胞浸潤巣がただ一箇所で見出されるような状態である。炎症細胞は、大型の活性化されたリンパ球からなり、好酸球をまじえることもある。心筋構築の改変を伴った心筋細胞傷害が病変内に認められる。Grade 3A(multifocal, moderate acute rejection)は、大型の活性化したリンパ球からなる炎症細胞浸潤巣が多発性に形成され、好酸球をまじえることもある状態である。これらの多発性の炎症性の炎症細胞浸潤巣の2箇所以上が心筋細胞傷害を伴っている。ときに、心内膜への粗な炎症細胞浸潤を伴っている。この浸潤巣は生検標本のひとつまたは複数の標本で認められる。Grade 3B(multifocal,borderline severe acute rejection)は、3Aで見られた炎症細胞浸潤巣がより融合性またはびまん性となり、より多くの生検標本で認められる状態である。大型リンパ球および好酸球、ときに好中球を交える炎症細胞浸潤とともに、心筋細胞傷害がある。出血はない。Grade 4(severe acute rejection)は、活性化したリンパ球、好酸球、好中球を含む多彩な炎症細胞浸潤がびまん性に認められる。心筋細胞傷害と心筋細胞壊死とは常に存在する。浮腫、出血、血管炎も通常認められる。「Quilty」効果とは異なる心内膜への炎症細胞浸潤が通常認められる。かなりの期間、免疫抑制剤で強力に治療されている場合には、細胞浸潤よりも浮腫と出血とが顕著となり得る。
移植可能な人工組織において十分な生体定着性は、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その生体定着性の程度を設定することができる。生体適合性のパラメータとしては、例えば、移植された人工組織と移植された部位との生物学的結合性などが挙げられるがそれらに限定されない。そのような生体定着性は、移植後における移植部位での生物学的結合の存在によって判定することができる。本明細書において好ましい生体定着性とは、移植された人工組織が移植された部位と同じ機能を発揮するように配置されていることが挙げられる。
本明細書において「自己支持性」とは、組織(例えば、人工組織)の少なくとも1点が空間上に固定されるときに、その人工組織が実質的に破壊されない特性をいう。本明細書において、自己支持性は、0.5〜3.0mmの太さの先端を有するピンセットで組織(例えば、人工組織)をつまみあげた(好ましくは、1〜2mmの太さの先端を有するピンセット、1mmの太さの先端を有するピンセットで組織をつまむ;ここで、ピンセットは、先曲がりであることが好ましい)ときに、実質的に破壊されないことによって観察される。そのようなピンセットは、市販されており、例えば、夏目製作所などから入手可能である。ここで採用される、つまみ上げる力は、通常、医療従事者が組織をハンドリングする際に掛ける力に匹敵する。従って、自己支持性は、手でつまみあげたときに破壊されないという特長によっても表現することが可能である。そのようなピンセットとしては、例えば、先曲がり先細無鈎ピンセット(例えば、夏目製作所から販売される番号A−11(先端は1.0mmの太さ)、A−12−2(先端は0.5mmの太さ)などを挙げることができるがそれらに限定されない。先曲がりのほうが人工組織を摘み上げやすいが、先曲がりであることに限定されない。
本明細書において「臓器」と「器官」(organ)とは、互換的に用いられ、生物個体のある機能が個体内の特定の部分に局在して営まれ,かつその部分が形態的に独立性をもっている構造体をいう。一般に多細胞生物(例えば、動物、植物)では器官は特定の空間的配置をもついくつかの組織からなり、組織は多数の細胞からなる。そのような臓器または器官としては、皮膚、血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、関節、骨、軟骨、四肢末梢、網膜などが挙げられるがそれらに限定されない。このような臓器または器官はまた、表皮系、膵実質系、膵管系、肝系、血液系、心筋系、骨格筋系、骨芽系、骨格筋芽系、神経系、血管内皮系、色素系、平滑筋系、脂肪系、骨系、軟骨系などの器官または臓器が挙げられるがそれらに限定されない。
1つの実施形態では、本発明が対象とする器官は、椎間板、軟骨、関節、骨、半月、滑膜、靭帯、腱などが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「置換する」とは、病変部(生体の部位)を置換する、病変部にもともとある細胞などが、本発明において提供される人工組織または複合体によって供給される細胞などによって置き換えられることをいう。置換が適切な疾患としては、例えば、断裂している箇所などが挙げられるがそれらに限定されない。置換するとは、別の表現では、「充填」するともいえる。このような置換を評価することによって、本発明の複合体のインビボでの効果を評価することができる。
本明細書において「生物学的に結合するに十分な時間」は、ある部分と人工組織または複合体との組み合わせによって変動するが、当業者であれば、その組み合わせに応じて適宜容易に決定することができる。このような時間としては、例えば、術後1週間、2週間、1カ月、2カ月、3カ月、6カ月、1年などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明では、人工組織は、好ましくは実質的に細胞およびそれに由来する物質のみを含むことから、特に術後に摘出する物質が必要であるというわけではないので、この十分な時間の下限は特に重要ではない。従って、この場合、長ければ長いほど好ましいといえるが、実質的には極端に長い場合は、実質的に補強が完了したといえる。
本明細書において「免疫反応」とは、移植片と宿主との間の免疫寛容の失調による反応をいい、例えば、超急性拒絶反応(移植後数分以内)(β−Galなどの抗体による免疫反応)、急性拒絶反応(移植後約7〜21日の細胞性免疫による反応)、慢性拒絶反応(3カ月以降の細胞性免疫による拒絶反応)などが挙げられる。
本明細書において免疫反応を惹起するかどうかは、HE染色などを含む染色、免疫染色、組織切片の検鏡によって、移植組織中への細胞(免疫系)浸潤について、その種、数などの病理組織学的検討を行うことにより判定することができる。
本明細書において「石灰化」とは、生物体で石灰質が沈着することをいう。
本明細書において生体内で「石灰化する」かどうかは、アリザリンレッド染色、カルシウム濃度を測定することによって判定することができ、移植組織を取り出し、酸処理などにより組織切片を溶解させ、その溶液を原子吸光度などの微量元素定量装置により測定し、定量することができる。
本明細書において「生体内」または「インビボ」(in vivo)とは、生体の内部をいう。特定の文脈において、「生体内」は、目的とする組織または器官が配置されるべき位置をいう。
本明細書において「インビトロ」(in vitro)とは、種々の研究目的のために生体の一部分が「生体外に」(例えば、試験管内に)摘出または遊離されている状態をいう。インビボと対照をなす用語である。
本明細書において「エキソビボ」とは、遺伝子導入を行うための標的細胞を被験体より抽出し、インビトロで治療遺伝子を導入した後に、再び同一被験体に戻す場合、一連の動作をエキソビボという。
本明細書において「細胞に由来する物質」とは、細胞を起源とする物質すべてをいい、細胞を構成する物質の他、細胞が分泌する物質。代謝した物質などが含まれるがそれらに限定されない。代表的な細胞に由来する物質としては、細胞外マトリクス、ホルモン、サイトカインなどが挙げられるがそれらに限定されない。細胞に由来する物質は、通常、その細胞およびその細胞の宿主に対して有害な影響をもたらさないことから、そのような物質は人工組織、三次元構造体などに含まれていても通常悪影響を有しない。
本明細書において「細胞外マトリクス」(ECM)とは「細胞外基質」とも呼ばれ、上皮細胞、非上皮細胞を問わず体細胞(somatic cell)の間に存在する物質をいう。細胞外マトリクスは、通常細胞が産生し、従って生体物質の一つである。細胞外マトリクスは、組織の支持だけでなく、すべての体細胞の生存に必要な内部環境の構成に関与する。細胞外マトリクスは一般に、結合組織細胞から産生されるが、一部は上皮細胞や内皮細胞のような基底膜を保有する細胞自身からも分泌される。線維成分とその間を満たす基質とに大別され、線維成分としては膠原線維および弾性線維がある。基質の基本構成成分はグリコサミノグリカン(酸性ムコ多糖)であり、その大部分は非コラーゲン性タンパクと結合してプロテオグリカン(酸性ムコ多糖−タンパク複合体)の高分子を形成する。このほかに、基底膜のラミニン、弾性線維周囲のミクロフィブリル(microfibril)、線維、細胞表面のフィブロネクチンなどの糖タンパクも基質に含まれる。特殊に分化した組織でも基本構造は同一で、例えば硝子軟骨では軟骨芽細胞によって特徴的に大量のプロテオグリカンを含む軟骨基質が産生され、骨では骨芽細胞によって石灰沈着が起こる骨基質が産生される。ここで、代表的な細胞外マトリクスとしては、例えば、コラーゲンI、コラーゲンIII、コラーゲンV、エラスチン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニン、トロンボスポンディン、プロテオグリカン類(例えば、デコリン、バイグリカン、フィブロモジュリン、ルミカン、ヒアルロン酸、アグリカンなど)などを挙げることができるがそれらに限定されず、細胞接着を担う細胞外マトリクスであれば、種々のものが本発明において利用され得る。コラーゲンとして、10〜90%のコラーゲンIを含んでいてもよい。あるいは、コラーゲンとして、10〜90%のコラーゲンIIを含んでいてもよい。さらに、コラーゲンとして、10〜90%のコラーゲンIIIを含んでいてもよい。これらのコラーゲン量は、本発明の目的により適宜選択することができることが理解される。代表的な例としては、例えばコラーゲンI型が60%、コラーゲンII型が5%、コラーゲンIII型が30%、コラーゲンV型が5%を挙げることができる。
好ましい実施形態では、本発明の複合体は、細胞に由来するプロテオグリカンを含む。プロテオグリカンは、ヒアルロン酸を少なくとも0.1〜90%含有してもよい。あるいは、プロテオグリカンは、フィブロネクチンを少なくとも0.1〜90%含有してもよい。
本発明の1つの実施形態では、本発明において提供される人工組織、三次元構造体、複合体などは、細胞外マトリクス(たとえば、エラスチン、コラーゲン(例えば、I型、III型、IV型など)、ラミニンなど)は、移植が企図される器官の部位における細胞外マトリクスの組成に類似することが有利であり得る。本発明において、細胞外マトリクスは、細胞接着分子を包含する。本明細書において「細胞接着分子」(Cell adhesion molecule)または「接着分子」とは、互換可能に使用され、2つ以上の細胞の互いの接近(細胞接着)または基質と細胞との間の接着を媒介する分子をいう。一般には、細胞と細胞の接着(細胞間接着)に関する分子(cell−cell adhesion molecule)と,細胞と細胞外マトリックスとの接着(細胞−基質接着)に関与する分子(cell−substrate adhesion molecule)に分けられる。本発明において提供される人工組織、三次元構造体は、通常、このような細胞接着分子を含む。従って、本明細書において細胞接着分子は、細胞−基質接着の際の基質側のタンパク質を包含するが、本明細書では、細胞側のタンパク質(例えば、インテグリンなど)も包含され、タンパク質以外の分子であっても、細胞接着を媒介する限り、本明細書における細胞接着分子または細胞接着分子の概念に入る。
本発明において特に注目されるのは、本発明において提供される人工組織または複合体が、細胞およびその細胞自体が精製する(自己由来の)細胞外マトリクスを含むことである。従って、コラーゲンI、コラーゲンIII、コラーゲンV、エラスチン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニン、トロンボスポンディン、プロテオグリカン類(例えば、デコリン、バイグリカン、フィブロモジュリン、ルミカン、ヒアルロン酸、アグリカンなど)などが配合された複雑な組成を有することが特徴である。このような細胞由来成分が配合された人工組織は従来提供されていない。このような配合を有する人工組織は、人工材料を使用した場合は実質的に不可能に近く、このような配合をしていること(特に、コラーゲンI、コラーゲンIIIなど)の配合自体がネイティブな配合であるといえる。
より好ましくは、細胞外マトリクスは、コラーゲン(I型、III型など)、ビトロネクチンおよびフィブロネクチンをすべて含む。特に、ビトロネクチンおよび/またはフィブロネクチンが配合された人工組織はこれまで提供されておらず、従って、その点でもすでに、本発明において提供される人工組織または複合体は新規なものであることが理解される。
本明細書において、細胞外マトリクス、ハイドロキシアパタイト等が「配置される」とは、本発明において提供される人工組織に関して言及するとき、その人工組織中に細胞外マトリクスが存在することをいう。そのような配置は、目的とする細胞外マトリクスを免疫染色などによって染色して、可視化することによって観察することができることが理解される。
本明細書において細胞外マトリクス、ハイドロキシアパタイト等が細胞の表面に「付着する」とは、他の物について離れないことをいい、異種の物質が接触したとき相互の分子間力によって互いにくっつくことをいう。
本明細書において細胞外マトリクス、ハイドロキシアパタイト等が「分散して」配置される、とは、局在化しないで存在することをいう。そのような細胞外マトリクスの分散は、任意の2つの1cmのセクションにおける分布密度を比較したときに、通常約1:10〜10:1、代表的には約1:3〜3:1の範囲内の比率に収まる分散をいい、好ましくは、任意の2つの1cmのセクションにおける分布密度を比較したときに、約1:2〜2:1の範囲内の比率に収まる分散をいう。より好ましくは、どのセクションにおいてもほぼ同等の比率に収まることが有利であるがそれに限定されない。局所化されず、分散して細胞外マトリクスが表面に存在することによって、本発明において提供される人工組織は、周囲に対して満遍なく生物学的結合能を有し、従って、移植後の経過に優れるという効果を奏する。
細胞間接着に関しては、カドヘリン、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する多くの分子(NCAM、L1、ICAM、ファシクリンII、IIIなど)、セレクチンなどが知られており、それぞれ独特な分子反応により細胞膜を結合させることも知られている。従って、1つの実施形態では、本発明において提供される人工組織、三次元構造体などは、このようなカドヘリン、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する分子などの組成もまた、移植が意図される部位と同程度の組成であることが好ましい。
このように多種多様な分子が細胞接着に関与しており、それぞれの機能は異なっていることから、当業者は、目的に応じて、適宜本発明において提供される人工組織、三次元構造体に含まれるべき分子を選択することができる。細胞接着に関する技術は、上述のもののほかの知見も周知であり、例えば、細胞外マトリックス−臨床への応用―メディカルレビュー社に記載されている。
ある分子が細胞接着分子であるかどうかは、生化学的定量(SDS−PAG法、標識コラーゲン法)、免疫学的定量(酵素抗体法、蛍光抗体法、免疫組織学的検討)、PCR法、ハイブリダイゼイション法などのようなアッセイにおいて陽性となることを決定することにより判定することができる。このような細胞接着分子としては、コラーゲン、インテグリン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、フィブリノゲン、免疫グロブリンスーパーファミリー(例えば、CD2、CD4、CD8、ICM1、ICAM2、VCAM1)、セレクチン、カドヘリンなどが挙げられるがそれに限定されない。このような細胞接着分子の多くは、細胞への接着と同時に細胞間相互作用による細胞活性化の補助シグナルを細胞内に伝達する。従って、本発明の組織片において用いられる接着因子としては、そのような細胞活性化の補助シグナルを細胞内に伝達するものが好ましい。細胞活性化により、組織片としてある組織または臓器における損傷部位に適用された後に、そこに集合した細胞および/または組織もしくは臓器にある細胞の増殖を促すことができるからである。そのような補助シグナルを細胞内に伝達することができるかどうかは、生化学的定量(SDS−PAG法、標識コラーゲン法)、免疫学的定量(酵素抗体法、蛍光抗体法、免疫組織学的検討)、PCR法、ハイブリダイゼイション法というアッセイにおいて陽性となることを決定することにより判定することができる。
細胞接着分子としては、例えば、組織固着性の細胞系に広く知られる細胞接着分子としてカドヘリンがあり、カドヘリンは、本発明の好ましい実施形態において使用することができる。一方,非固着性の血液・免疫系の細胞では,細胞接着分子としては、例えば、免疫グロブリンスーパーファミリー分子(LFA−3、CD2、CD4、CD8、ICAM−1、ICAM2、VCAM1など);インテグリンファミリー分子(LFA−1、Mac−1、gpIIbIIIa、p150、95、VLA1、VLA2、VLA3、VLA4、VLA5、VLA6など);セレクチンファミリー分子(L−セレクチン,E−セレクチン,P−セレクチンなど)などが挙げられるがそれらに限定されない。従って、そのような分子は、血液・免疫系の組織または臓器を処置するための特に有用であり得る。
細胞接着分子は、非固着性の細胞が特定の組織で働くためにはその組織への接着が必要となる。その場合,恒常的に発現するセレクチン分子などによる一次接着、それに続いて活性化されるインテグリン分子などの二次接着によって細胞間の接着は段階的に強くなると考えられている。従って、本発明において用いられる細胞接着分子としては、そのような一次接着を媒介する因子、二次接着を媒介する因子、またはその両方が一緒に使用され得る。
本明細書において「アクチン調節物質」とは、細胞内のアクチンに対して直接的または間接的に相互作用して、アクチンの形態または状態を変化させる機能を有する物質をいう。アクチンへの作用に応じて、アクチン脱重合促進因子とアクチン重合促進因子とに分類されることが理解される。そのような物質としては、例えば、アクチン脱重合促進因子として、Slingshot、コフィリン、CAP(シクラーゼ関連タンパク質)、AIP1(actin−interacting−protein 1)、ADF(actin depolymerizing factor)、デストリン、デパクチン、アクトフォリン、サイトカラシンおよびNGF(nerve growth factor)を挙げることができ、例えば、アクチン重合促進因子として、RhoA、mDi、プロフィリン、Rac1、IRSp53、WAVE2、ROCK、LIMキナーゼ、コフィリン、cdc42、N−WASP、Arp2/3、Drf3、Mena,LPA(lysophosphatidic acid)、インスリン、PDGFa、PDGFb、ケモカインおよびTGFβなどを挙げることができるがそれらに限定されないことが理解される。そのようなアクチン調節物質には、以下のようなアッセイによって同定される物質が含まれる。本明細書において、アクチンへの相互作用の評価は、アクチン染色試薬(Molecular Probes,Texas Red−X phalloidin)などによりアクチンを可視化した後、顕鏡し、アクチン凝集や細胞伸展を観察することによってアクチンの凝集、再構成および/または細胞伸展速度の向上という現象が確認されることによって判定される。これらの判定は、定量的または定性的に行われ得る。このようなアクチン調節物質は、人工組織の分離を促進または重層化の促進をさせるために本発明において利用される。本発明において用いられるアクチン調節物質が生体に由来する場合、その由来は何でもよく、例えば、ヒト、マウス、ウシなどの哺乳動物種があげられる。
上記のようなアクチン重合に関与する因子は、例えば、Rho関連でアクチンの重合制御であり、以下が挙げられる(例えば、「細胞骨格・運動がわかる」(編集/三木裕明)羊土社を参照のこと)。
アクチン重合(Takenaka T et al. J.Cell Sci., 114: 1801−1809, 2001を参照のこと)
RhoA→mDi→プロフィリン⇒アクチン重合
RhoA→ROCK/Rho→LIMキナーゼ→コフィリンをリン酸化(抑制)⇒アクチン重合
Rac1→IRSp53→WAVE2→プロフィリン、Arp2/3⇒アクチン重合
cdc42→N−WASP→プロフィリン、Arp2/3⇒アクチン重合
cdc42→Drf3→IRSp53→Mena⇒アクチン重合
(以上において、→はリン酸化などのシグナル伝達経路を示す。)本発明では、このような経路に関与する任意の因子を使用することができる。
アクチン脱重合
Slingshot→コフィリンの脱リン酸化(活性化)⇒アクチン脱重合
コフィリンのLIMキナーゼ活性によるリン酸化とSlingshotによる脱リン酸化のバランスでアクチンの脱重合を制御している。コフィリンを活性化させる他の因子としては、CAP(cyclase−associated protein)およびAIPI(actin−interacting−protein 1)が同定されており、これらは、任意のものを使用することができることが理解される。
LPA(リゾフォスファチジン酸)は、どのような鎖長のものでも使用することができる。
ケモカインとしては、任意のものを使用することができるが、好ましくは、インターロイキン8、MIP−1、SDF−1などを挙げることができる。
TGFβとしては、任意の物を使用することができるが、好ましくは、TGF−β1およびTGF−β3を使用することができる。TGFβ1およびTGFβ3は、細胞外マトリクス産生促進作用も有することから、本発明においては、留意して使用することができいる。
本明細書において「組織強度」とは、組織または器官の機能を示すパラメータをいい、その組織または器官の物理的強度である。組織強度は一般に、引っ張り強さ(例えば、破断強度、剛性率、ヤング率など)を測定することによって判定することができる。そのような一般的な引っ張り試験は周知である。一般的な引っ張り試験によって得られたデータの解析により、破断強度、剛性率、ヤング率などの種々のデータを得ることができ、そのような値もまた、本明細書において組織強度の指標として用いることができる。本明細書では、通常、臨床適用することができる程度の組織強度を有することが必要とされる。
ここで、本発明において提供される人工組織、三次元構造体などが有する引っ張り強さは、応力・歪み特性を測定することによって測定することができる。手短に述べると、試料に荷重を加え、例えば、1chは歪み、2chは荷重の各々のAD変換器(例えば、ELK−5000)に入力して、応力および歪みの特性を測定することによって引っ張り強さを決定することができる。引っ張り強さはまた、クリープ特性を試験することによっても達成することができる。クリープ特性インデンテーション試験とは、一定の荷重を加えた状態で時間とともにどのように伸びていくかを調べる試験である。微小な素材、薄い素材などのインデンテーション試験は、先端の半径0.1〜1μm程度の、例えば、三角錐の圧子を用いて実験を行う。まず、試験片に対して圧子を押し込み、付加を与える。そして、試験片に数十nmから数μm程度押し込んだところで、圧子を戻し除荷する。このような試験方法によって得られるものを荷重除荷曲線という。この曲線から得られた負荷荷重と押し込み深さの挙動とによって硬さ、ヤング率などを求めることができる。
本発明において提供される人工組織は、引っ張り強度は弱くてもいい。引っ張り強度は、細胞・細胞外マトリクス比率におけるマトリクス比率を上げる強くなり、細胞比率を上げると弱くなる。本発明は、必要に応じて強度も自由に調整できることが特徴の一つである。移植される組織に対して相対的に近似して強くも弱くもできることが特徴である。従って、そのような任意の場所に応じて目的と設定することができることが理解される。
本明細書において「分化」とは、細胞、組織または器官のような生物の部分の状態の発達過程であって、特徴のある組織または器官を形成する過程をいう。「分化」は、主に発生学(embryology)、発生生物学(developmental biology)などにおいて使用されている。1個の細胞からなる受精卵が分裂を行い成体になるまで、生物は種々の組織および器官を形成する。分裂前または分裂が十分でない場合のような生物の発生初期は、一つ一つの細胞や細胞群が何ら形態的または機能的特徴を示さず区別することが困難である。このような状態を「未分化」であるという。「分化」は、器官のレベルでも生じ、器官を構成する細胞がいろいろの違った特徴的な細胞または細胞群へと発達する。これも器官形成における器官内での分化という。従って、本発明において提供される人工組織、三次元構造体は、分化した状態の細胞を含む組織を用いてもよい。
本発明において提供される人工組織を作製する場合、分化が必要な場合は、組織化を始める前に分化させてもよく、組織化の後に分化させても良い。
本明細書において「分化因子」とは、「分化促進因子」ともいい、分化細胞への分化を促進することが知られている因子(例えば、化学物質、温度など)であれば、どのような因子であってもよい。そのような因子としては、例えば、種々の環境要因を挙げることができ、そのような因子としては、例えば、温度、湿度、pH、塩濃度、栄養、金属、ガス、有機溶媒、圧力、化学物質(例えば、ステロイド、抗生物質など)などまたはそれらの任意の組み合わせが挙げられるがそれらに限定されない。代表的な分化因子としては、細胞生理活性物質が挙げられるがそれらに限定されない。そのような因子のうち代表的なものとしては、DNA脱メチル化剤(5−アザシチジンなど)、ヒストン脱アセチル化剤(トリコスタチンなど)、核内レセプターリガンド(例えば、レチノイン酸(ATRA)、ビタミンD、T3など)、細胞増殖因子(アクチビン、IGF−1、FGF,PDGFa、PDGFb、TGF−β、BMP2/4など)、サイトカイン(LIF、IL−2、IL−6など)、ヘキサメチレンビスアセトアミド、ジメチルアセトアミド、ジブチルcAMP、ジメチオルスルホキシド、ヨードデオキシウリジン、ヒドロキシル尿素、シトシンアラビノシド、マイトマイシンC、酪酸ナトリウム、アフィディコリン、フルオロデオキシウリジン、ポリブレン、セレンなどが挙げられるがそれらに限定されない。
具体的な分化因子としては、以下が挙げられる。これらの分化因子は、単独でまたは組み合わせて用いられ得る。
A)角膜:上皮増殖因子(EGF);
B)皮膚(ケラチノサイト):TGF−β、FGF−7(KGF:keratinocyte growth factor)、EGF
C)血管内皮:VEGF、FGF、アンギオポエチン(angiopoietin)
D)腎臓:LIF、BMP、FGF、GDNF
E)心臓:HGF、LIF、VEGF
F)肝臓:HGF、TGF−β、IL−6、EGF、VEGF
G)臍帯内皮:VEGF
H)腸管上皮:EGF、IGF−I、HGF、KGF、TGF−β、IL−11
I)神経:神経成長因子(NGF)、BDNF(脳由来神経栄養因子)、GDNF(グリア細胞由来神経栄養因子)、ニューロトロフィン(neurotrophin)、IL−6、TGF−β、TNF
J)グリア細胞:TGF−β、TNF−α、EGF、LIF、IL−6
K)末梢神経細胞:bFGF、LIF、TGF−β、IL−6、VEGF、
L)肺(肺胞上皮):TGF−β、IL−13、IL−1β、KGF、HGF
M)胎盤:成長ホルモン(GH)、IGF、プロラクチン、LIF、IL−1、アクチビンA、EGF
N)膵臓上皮:成長ホルモン、プロラクチン
O)膵臓ランゲルハンス氏島細胞:TGF−β、IGF、PDGFa、PDGFb、EGF、TGF−β、TRH(thyroropin)
P)滑膜細胞:FGF、TGF−β(特にTGF−β1、TGF−β3)
Q)骨芽細胞:BMP(特に、BMP−2、BMP−4、BMP−7)、FGF
R)軟骨芽細胞:FGF、TGF−β(特にTGF−β1、TGF−β3)、BMP(特に、BMP−2、BMP−4、BMP−7)、TNF−α、IGF
S)網膜細胞:FGF、CNTF(絨毛神経栄養因子=cilliary neurotrophic factor)
T)脂肪細胞:インスリン、IGF、LIF
U)筋肉細胞:LIF、TNF−α、FGF。
本明細書において「骨分化」とは、任意の細胞を骨に分化させることをいう。そのような骨分化は、デキサメタゾン、βグリセロホスフェートおよびアスコルビン酸2リン酸の存在下で促進されることが知られる。骨形成因子(BMP、(特に、BMP−2、BMP−4、BMP−7))、を付加してもよい。骨形成が促進されるからである。
本明細書において「軟骨分化」とは、任意の細胞を軟骨に分化させることをいう。そのような軟骨分化は、ピルビン酸、デキサメタゾン、アスコルビン酸2リン酸、インスリン、トランスフェリンおよび亜セレン酸の存在下で促進されることが知られる。骨形成因子(BMP(特に、BMP−2、BMP−4、BMP−7))、TGF−β(特にTGF−β1、TGF−β3)、FGF、TNF−αなどを付加してもよい。軟骨形成が促進されるからである。
本明細書において「脂肪分化」とは、任意の細胞を脂肪に分化させることをいう。そのような脂肪分化は、インスリン、IGF、LIFおよびアスコルビン酸2リン酸の存在下で促進されることが知られる。
本明細書において「移植片」、「グラフト」および「組織グラフト」は、交換可能に用いられ、身体の特定部位に挿入されるべき同種または異種の組織または細胞群であって、身体への挿入後その一部となるものをいう。従って、本発明において提供される人工組織、三次元構造体は、移植片として用いることができる。移植片としては、例えば、臓器または臓器の一部、血管、血管様組織、皮片、心臓、心臓弁、心膜、硬膜、関節膜、骨片、軟骨片、角膜骨片、歯などが挙げられるがそれらに限定されない。従って、移植片には、ある部分の欠損部に差し込んで欠損を補うために用いられるものすべてが包含される。移植片としては、そのドナー(donor)の種類によって、自己(自家)移植片(autograft)、同種移植片(同種異系移植片)(allograft)、異種移植片が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において自己移植片(組織、細胞、臓器など)または自家移植片(組織、細胞、臓器など)とは、ある個体についていうとき、その個体に由来する移植片(組織、細胞、臓器など)をいう。本明細書において「自己移植片(組織、細胞、臓器など)」というときは、広義には遺伝的に同じ他個体(例えば一卵性双生児)からの移植片(組織、細胞、臓器など)をも含み得る。本明細書では、このような自己との表現は、被験体に由来すると交換可能に使用される。従って、本明細書では、ある被験体に由来しないとの表現は、自己ではない(すなわち、非自己)と同一の意味を有する。
本明細書において「同種移植片(同種異系移植片)(組織、細胞、臓器など)」とは、同種であっても遺伝的には異なる他個体から移植される移植片(組織、細胞、臓器など)をいう。遺伝的に異なることから、同種異系移植片(組織、細胞、臓器など)は、移植された個体(レシピエント)において免疫反応を惹起し得る。そのような移植片(組織、細胞、臓器など)の例としては、親由来の移植片(組織、細胞、臓器など)などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明において提供される人工組織は、同種異系移植片でも使用可能であり、良好な治療成績が立証されているという意味で注目されるべきである。
本明細書において「異種移植片(組織、細胞、臓器など)」とは、異種個体から移植される移植片(組織、細胞、臓器など)をいう。従って、例えば、ヒトがレシピエントである場合、ブタからの移植片(組織、細胞、臓器など)は異種移植片(組織、細胞、臓器など)という。
本明細書において「レシピエント」(受容者)とは、移植片(組織、細胞、臓器など)または移植体(組織、細胞、臓器など)を受け取る個体といい、「宿主」とも呼ばれる。これに対し、移植片(組織、細胞、臓器など)または移植体(組織、細胞、臓器など)を提供する個体は、「ドナー」(供与者)という。
本発明において提供される人工組織形成技術を用いれば、どのような細胞に由来する人工組織でも使用することができる。なぜなら、本発明の方法により形成された人工組織(例えば、膜状組織、器官など)は、治療目的に損傷のない程度の組織損傷率を保持しつつ(すなわち、低く保ちながら)、目的の機能を発揮することができるからである。従って、従来そのままの組織または臓器自体を移植物として使用するしかなかった状況にあった。このような状況において、細胞から三次元的に結合した組織を形成することができたことによって、そのような三次元的な人工組織を用いることが可能になったことは、従来技術では達成することができなかった本発明の格別の効果の一つといえる。
本明細書において「被験体(被検体とも)」とは、本発明の処置が適用される生物をいい、「患者」ともいわれる。患者または被験体は好ましくは、ヒトであり得る。
本発明において提供される人工組織、三次元構造体、組織グラフトで必要に応じて使用される細胞は、同系由来(自己(自家)由来)でも、同種異系由来(他個体(他家)由来)でも、異種由来でもよい。拒絶反応が考えられることから、自己由来の細胞が好ましいが、拒絶反応が問題でない場合同種異系由来であってもよい。また、拒絶反応を起こすものも必要に応じて拒絶反応を解消する処置を行うことにより利用することができる。拒絶反応を回避する手順は当該分野において公知であり、例えば、新外科学体系、第12巻、臓器移植(心臓移植・肺移植 技術的,倫理的整備から実施に向けて)(改訂第3版)、中山書店に記載されている。そのような方法としては、例えば、免疫抑制剤、ステロイド剤の使用などの方法が挙げられる。拒絶反応を予防する免疫抑制剤は、現在、「シクロスポリン」(サンディミュン/ネオーラル)、「タクロリムス」(プログラフ)、「アザチオプリン」(イムラン)、「ステロイドホルモン」(プレドニン、メチルプレドニン)、「T細胞抗体」(OKT3、ATGなど)があり、予防的免疫抑制療法として世界の多くの施設で行われている方法は、「シクロスポリン、アザチオプリン、ステロイドホルモン」の3剤併用である。免疫抑制剤は、本発明の医薬と同時期に投与されることが望ましいが、必ずしも必要ではない。従って、免疫抑制効果が達成される限り免疫抑制剤は本発明の再生・治療方法の前または後にも投与され得る。
本発明で用いられる細胞は、どの生物(例えば、脊椎動物、無脊椎動物)由来の細胞でもよい。好ましくは、脊椎動物由来の細胞が用いられ、より好ましくは、哺乳動物(例えば、霊長類、齧歯類など)由来の細胞が用いられる。さらに好ましくは、霊長類由来の細胞が用いられる。最も好ましい実施形態において、ヒト由来の細胞が用いられる。通常は、宿主と同じ種の細胞を用いることが好ましい。
本発明が対象とする被験体と、人工組織との組合せとしては、例えば、関節損傷または変性、軟骨損傷または変性、骨壊死、半月損傷または変性、椎間板変性、靭帯損傷または変性、骨折、骨欠損を有する患者への関節、軟骨、骨の移植、損傷した角膜を有する患者に本発明の角膜を移植することなどが挙げられるがそられに限定されない。
本発明が対象とする組織は、生物のどの臓器または器官でもよく、また、本発明が対象とする組織は、どのような種類の生物由来であり得る。本発明が対象とする生物としては、脊椎動物または無脊椎動物が挙げられる。好ましくは、本発明が対象とする生物は、哺乳動物(例えば、霊長類、齧歯類など)である。より好ましくは、本発明が対象とする生物は、霊長類である。最も好ましくは、本発明はヒトを対象とする。
本明細書において「可撓性」の人工組織とは、外的環境からの物理的刺激(例えば、圧力)などに対して、抵抗性を有することをいう。可撓性を有する人工組織は、移植される部位が、自律的にまたは他からの影響で運動したり変形したりする場合に好ましい。
本明細書において「伸縮性」を有する人工組織とは、外的環境からの伸縮性の刺激(例えば、拍動)に対して抵抗性を有する性質をいう。伸縮性を有する人工組織は、移植される部位が伸縮性の刺激を伴う場合好ましい。そのような伸縮性の刺激を伴う部位としては、例えば、筋肉、関節、軟骨、腱などが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書中で使用される場合、用語「部分」とは、任意の身体中の部分、組織、細胞、器官を指す。そのような部分、組織、細胞、器官としては、骨格筋芽細胞、線維芽細胞、滑膜細胞、幹細胞によって治療され得る部分が挙げられるが、それらに限定されない。特異的なマーカーであれば、核酸分子(mRNAの発現)、タンパク質、細胞外マトリクス、特定の表現型、細胞の形状などどのようなパラメータでも使用することができる。従って、本明細書において具体的に記載されていないマーカーであっても、その部分由来であることを示すことができるマーカーであれば、どのようなマーカーを利用して、本発明において提供される人工組織を判定してもよい。このような部分の代表例としては、例えば、心筋以外の心臓の部分、間葉系幹細胞またはそれに由来する細胞を含む部分、組織、器官、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞)、線維芽細胞、滑膜細胞などが挙げられるがそれらに限定されない。
軟骨組織などを見る場合、以下のようなマーカーを指標にすることができる。
Sox9とは、(ヒト:アクセッション番号 NM_000346)であり、軟骨細胞に特異的なマーカーである。このマーカーは主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる(Kulyk WM, Franklin JL, Hoffman LM.Sox9 expression during chondrogenesis in micromass cultures of embryonic limb mesenchyme. Exp Cell Res. 2000 Mar 15;255(2):327−32.)。
Col 2A1 とは、(ヒト:アクセッション番号 NM_001844)であり、軟骨細胞に特異的なマーカーである。このマーカーは主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる(Kulyk WM, Franklin JL, Hoffman LM. Sox9 expression during chondrogenesis in micromass cultures of embryonic limb mesenchyme. Exp Cell Res. 2000 Mar 15;255(2):327−32.)。
アグリカン(Aggrecan)とは、(ヒト:アクセッション番号 NM_001135)であり、軟骨細胞に特異的なマーカーである。このマーカーは主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる(Kulyk WM, Franklin JL, Hoffman LM. Sox9 expression during chondrogenesis in micromass cultures of embryonic limb mesenchyme. Exp Cell Res. 2000 Mar 15;255(2):327−32.)。
骨シアロタンパク質(Bone sialoprotein)とは、(ヒト:アクセッション番号 NM_004967)であり、骨芽細胞に特異的なマーカーである。このマーカーは主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる(Haase HR, Ivanovski S, Waters MJ, Bartold PM. Growth hormone regulates osteogenic marker mRNA expression in human periodontal fibroblasts and alveolar bone−derived cells. J Periodontal Res. 2003 Aug;38(4):366−74.)。
オステオカルシン(Osteocalcin)とは、(ヒト:アクセッション番号 NM199173)であり、骨芽細胞に特異的なマーカーである。このマーカーは主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる(Haase HR, Ivanovski S, Waters MJ, Bartold PM. Growth hormone regulates osteogenic marker mRNA expression in human periodontal fibroblasts and alveolar bone−derived cells. J Periodontal Res. 2003 Aug;38(4):366−74.)。
GDF5とは、(ヒト:アクセッション番号 NM_000557)であり、靱帯細胞に特異的なマーカーである。このマーカーは主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる(Wolfman NM, Hattersley G, Cox K, Celeste AJ, Nelson R, Yamaji N, Dube JL, DiBlasio−Smith E, Nove J, Song JJ, Wozney JM, Rosen V. Ectopic induction of tendon and ligament in rats by growth and differentiation factors 5, 6, and 7, members of the TGF−beta gene family. J Clin Invest. 1997 Jul 15;100(2):321−30.)。
Six1とは、(ヒト:アクセッション番号 NM_005982)であり、靱帯細胞に特異的なマーカーである(Dreyer SD, Naruse T, Morello R, Zabel B, Winterpacht A, Johnson RL, Lee B, Oberg KC. Lmx1b expression during joint and tendon formation: localization and evaluation of potential downstream targets. Gene Expr Patterns. 2004 Jul;4(4):397−405.)。このマーカーは主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる。
スクレラキシス(Scleraxis)とは、(ヒト:アクセッション番号BK000280)であり、靱帯細胞に特異的なマーカーである(Brent AE, Schweitzer R, Tabin CJ. A somitic compartment of tendon progenitors. Cell. 2003 Apr 18;113(2):235−48.)。このマーカーは主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる。
他の実施形態では、他の組織に特異的な別のマーカーを利用することができる。そのようなマーカーとしては、例えば、胚性幹細胞についてはOct−3/4、SSEA−1、Rex−1、Otx2などが挙げられ;内皮細胞についてはVE−カドヘリン、Flk−1、Tie−1、PECAM1、vWF、c−kit、CD34、Thy1、Sca−1などが挙げられ;骨格筋について上述のもののほか骨格筋αアクチンなどが挙げられ;神経細胞についてNestin、Gluレセプター、NMDAレセプター、GFAP、ニューレグリン−1などが挙げられ;造血細胞系についてc−kit、CD34、Thy1、Sca−1、GATA−1、GATA−2、FOGなどが挙げられる。
本明細書中で使用される場合、用語「由来する」とは、ある種の細胞が、その細胞が元々存在していた細胞塊、組織、器官などから分離、単離、または抽出されたこと、あるいはその細胞を、幹細胞から誘導されたことを意味する。
本明細書中で使用される場合、用語「三次元構造体」とは、マトリクスが三次元配向され細胞が三次元に配列しており、細胞間の結合および配向を保持している細胞を含む、三次元方向に広がる物体を指す。本発明の複合体は、通常、三次元構造体である。
本明細書において「生物学的結合」(biological integration)とは、生物学的存在(biological entity)相互の関係に言及する場合、2つの生物学的存在の間に生物学的になんらかの相互作用があることをいう。そのような相互作用としては、例えば、生体分子(例えば、細胞外マトリクス)を介した相互作用、情報伝達を介した相互作用、電気的相互作用(電気信号の同期などの電気的結合)が挙げられるがそれらに限定されない。生物学的結合には、人工組織内部の生物学的結合と、ある人工組織が、周囲(たとえば、移植後の周囲組織、周囲細胞など)と有する生物学的結合とがある。相互作用を確認する場合は、その相互作用の特性によって適切なアッセイ方法を用いる。例えば、生体分子を介した物理的相互作用を確認する場合は、人工組織、三次元構造体などの強度(例えば、引っ張り試験)を確認する。情報伝達を介した場合は、シグナル伝達がなされるかどうかを、遺伝子発現などを介して確認する。あるいは、電気的な相互作用の場合は、人工組織、三次元構造体などにおける電位の状況を測定し、一定の波をもって電位が伝播しているかどうかを見ることによって確認することができる。本発明において、通常生物学的結合は、三次元すべての方向に生物学的結合を有する。好ましくは、三次元すべての方向にほぼ均等に生物学的結合を有することが有利であることがあるが、別の実施形態では、二次元方向にほぼ均等に生物学的結合を有するが、第三の方向にはすこし弱い生物学的結合を有する人工組織、三次元構造体なども使用され得る。あるいは、細胞外マトリクスを介した生物学的結合の場合は、細胞外マトリクスを染色してその染色度を観察することもできる。インビボで生物学的結合を観察する方法としては、軟骨を用いた結合実験がある。この実験では、軟骨の表面を切除しコンドロイチナーゼABC(Hunziker EB et al.,J Bone Joint Surg Am. 1996 May;78(5):721−33 )で消化して、目的とする組織をその切除された表面に移植して7日程度培養して、その後の結合を組織学的に観察する。このような軟骨を用いた実験によって、周囲の細胞および/または細胞外マトリクスとの接着能を測定することができることが理解される。
本発明において提供される人工組織、三次元構造体などは、医薬品として提供され得るが、あるいは、動物薬、医薬部外品、水産薬および化粧品等として、公知の調製法により提供され得る。
従って、本発明が対象とする動物は、臓器または器官を有するものであれば、どの生物(例えば、動物(たとえば、脊椎動物、無脊椎動物))でもよい。好ましくは、脊椎動物(たとえば、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物など)であり、より好ましくは、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)であり得る。例示的な被験体としては、例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌなどの動物が挙げられるがそれらに限定されない。さらに好ましくは、霊長類(たとえば、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)が用いられる。最も好ましくはヒトが対象とされ得る。移植治療において限界があるからである。
本発明が医薬として使用される場合、本発明の医薬は、薬学的に受容可能なキャリアなどをさらに含み得る。本発明の医薬に含まれる薬学的に受容可能なキャリアとしては、当該分野において公知の任意の物質が挙げられる。
そのような適切な処方材料または薬学的に受容可能なキャリアとしては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または薬学的アジュバントが挙げられるがそれらに限定されない。
本発明の処置方法において使用される医薬(人工組織、併用される医薬化合物など)の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、組織の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の処置方法を被験体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日〜数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回〜1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間〜1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
本明細書中、「投与する」とは、本発明において提供される人工組織、三次元構造体などまたはそれを含む医薬を、単独で、または他の治療剤と組み合わせて投与することを意味する。本発明において提供される人工組織は、以下のような治療部位(例えば、障害心臓など)への導入方法,導入形態および導入量が使用され得る。すなわち、本発明において提供される人工組織および三次元構造体の投与方法としては、例えば心筋梗塞、狭心症等で虚血性の障害を受けた心筋組織の障害部位への直接貼付、貼付後に縫合、挿入等の方法があげられる。組み合わせは、例えば、混合物として同時に、別々であるが同時にもしくは並行して;または逐次的にかのいずれかで投与され得る。これは、組み合わされた薬剤が、治療混合物としてともに投与される提示を含み、そして組み合わせた薬剤が、別々であるが同時に(例えば、人工組織などが直接手術によって提供され、他の薬剤は静脈注射によって与えられる場合)投与される手順もまた含む。「組み合わせ」投与は、第1に与えられ、続いて第2に与えられる化合物または薬剤のうちの1つを別々に投与することをさらに含む。
本明細書において「補強」とは、意図される生体の部分の機能を改善させることをいう。
本明細書において「指示書」は、試薬の取り扱い、使用方法、調合方法、人工組織の作成方法、収縮方法など、本発明の医薬などを投与する方法または診断する方法などを医師、患者など投与を行う人、診断する人(患者本人であり得る)に対して記載したものである。この指示書は、本発明の診断薬、医薬などを投与する手順を指示する文言が記載されている。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ(ウェブサイト)、電子メール)のような形態でも提供され得る。
本明細書において「細胞外マトリクス産生促進因子」とは、細胞の細胞外マトリクスの産生を促進する任意の因子をいう。本発明において、細胞外マトリクス産生促進因子を細胞シートに添加すると、その細胞シートを培養容器からの剥離が促進される環境を提供し、そのようなシートが三次元方向に生物学的結合する。ここで、生物学的結合は、組織中の細胞と細胞外マトリクスとの結合および細胞外マトリクス同士の結合を含む。ここで、自己収縮によりさらに三次元化が促進される。そのような因子としては、代表的には、細胞外マトリクスの分泌を促進するような因子(例えば、TGF−β1、TGF−β3など)が挙げられる。本発明において、代表的な細胞外マトリクス産生促進因子としては、TGF−β1、TGF−β3、アスコルビン酸、アスコルビン酸2リン酸またはその誘導体あるいはその塩が挙げられる。好ましくは、このような細胞外マトリクス産生促進因子は、適用が意図される部分の細胞外マトリクスの組成成分および/またはその量に類似するように細胞外マトリクスの分泌を促す成分(単数または複数)であることが好ましい。そのような細胞外マトリクス産生促進因子が複数の成分を含む場合は、そのような複数成分は、適用が意図される部分の細胞外マトリクスの組成成分および/またはその量に類似するように組成され得る。
本明細書において「アスコルビン酸またはその誘導体」には、アスコルビン酸およびその類似体(例えば、アスコルビン酸2リン酸など)、およびその塩(例えば、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩など)が含まれる。アスコルビン酸は、L体であることが好ましいがそれに限定されない。
(細胞外マトリクス産生促進因子による人工組織の調製)
本発明の組織を生産するための方法は、A)細胞を提供する工程;B)該細胞を、細胞外マトリクス産生促進因子を含む細胞培養液を収容する、所望の人工組織のサイズを収容するに十分な底面積を有する容器に配置する工程;およびC)該容器中の該細胞を、該所望の大きさのサイズを有する人工組織を形成するに十分な時間培養する工程によって実施することができる。
ここで用いられる細胞は、どのような細胞であってもよい。細胞を提供する方法は、当該分野において周知であり、例えば、組織を摘出してその組織から細胞を分離する方法、あるいは、血液細胞などを含む体液から細胞を分離する方法、あるいは、細胞株を人工培養によって調製する方法などが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において使用される細胞は任意の幹細胞または分化細胞であり得るが、特に、筋芽細胞、間葉系幹細胞、脂肪細胞、滑膜細胞、骨髄細胞などを用いることができる。本明細書において使用される間葉系幹細胞としては、例えば、脂肪組織由来の幹細胞、骨髄由来の幹細胞などを用いることができる。
本発明において使用される人工組織生産法では、細胞外マトリクス産生促進因子を含む細胞培養液が使用される。このような細胞外マトリクス産生促進因子としては、例えば、アスコルビン酸またはその誘導体などが挙げられ、例えば、アスコルビン酸2リン酸、L−アスコルビン酸などが挙げられるがそれらに限定されない。
本発明において使用される細胞培養液は、目的とする細胞が増殖する限りどのような培地であってもよいが、例えば、DMEM、MEM、F12、DME、RPMI1640、MCDB104、199、MCDB153、L15、SkBM、Basal培地などを適宜グルコース、FBS(ウシ胎仔血清)またはヒト血清、抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシンなど)を加えたものが使用され得る。
本発明の方法において使用される容器は、所望の人工組織のサイズを収容するに十分な底面積を有する限り、当該分野において通常使用されるような容器を用いることができ、例えば、シャーレ、フラスコ、型容器など、好ましくは底面積が広い(例えば、1cm以上)容器が使用され得る。その容器の材質もまた、どのような材料を利用してもよく、ガラス、プラスチック(例えば、ポリスチレン、ポリカーボネートなど)、シリコーンなどが用いられ得るがそれらに限定されない。
好ましい実施形態では、本発明において使用される人工組織生産法では、さらに、生産された人工組織を分離する工程を包含し得る。本明細書において「分離する」とは、本発明において提供される人工組織が容器中で形成された後、その容器からその人工組織を分離することをいう。分離は、例えば、物理的手段(例えば、培地のピペッティングなど)、化学的手段(物質の添加)などによって達成することができる。本発明では、タンパク質分解酵素処理などの積極的に人工組織に対して侵襲を与えずに、人工組織の周囲に物理的手段または化学的手段によって刺激を与えることによって人工組織を分離することができるという点で従来達成できなかった簡便さおよびそれによってもたらされる人工組織の傷のなさなどの移植片としての性能の高さという効果を奏することに留意すべきである。
好ましい実施形態では、本発明は、人工組織化された細胞を分離する工程、をさらに包含する。ここで、より好ましい実施形態では、この分離する工程は、人工組織を収縮させる刺激を加えることができる。物理的な刺激(例えば、ピペッティング)を含む。このような物理的刺激は、作製された人工組織に直接作用しないことが本発明において好ましい特徴である。このように人工組織に直接作用させないことによって、人工組織の損傷を抑えることができるからである。あるいは、分離する工程は、アクチン調節物質の添加のような化学的手段を含む。このようなアクチン調節物質は、アクチン脱重合促進因子およびアクチン重合促進因子からなる群より選択される化学物質を含む。例えば、アクチン脱重合促進因子は、Slingshot、コフィリン、CAP(シクラーゼ関連タンパク質)、AIP1(actin−interacting−protein 1)、ADF(actin depolymerizing factor)、デストリン、デパクチン、アクトフォリン、サイトカラシンおよびNGF(nerve growth factor)などを挙げることができる。他方、アクチン重合促進因子は、RhoA、mDi、プロフィリン、Rac1、IRSp53、WAVE2、ROCK、LIMキナーゼ、コフィリン、cdc42、N−WASP、Arp2/3、Drf3、Mena,LPA(lysophosphatidic acid)、インスリン、PDGFa、PDGFb、ケモカインおよびTGFβなどを挙げることができる。
理論に束縛されることを望まないが、これらのアクチン調節物質は、アクト−ミオシン系の細胞骨格の収縮または弛緩を引き起こし、それにより、細胞自体の収縮または伸縮を調節することになり、結果として、容器の底面から、人工組織自体が分離することを促進または遅延する作用になると考えられる。
別の実施形態において、本発明において提供される人工組織または複合体は、単層培養された細胞から作製されることが特徴の一つである。単層培養するにもかかわらず、結果として、種々の厚みを持つ人工組織を構築することができるようになったということは、従来の例えば、温度応答性シートなどを用いた場合に複数のシートを重ね合わせないと厚い組織が構成できなかったということからは予想できなかった効果であるといえる。フィーダー細胞が不要で、十層以上の細胞の重層化が可能な三次元化の方法は、本発明が初めて達成したものである。スキャフォールドを用いない細胞移植方法としては、非特許文献3による温度感受性培養皿を利用した細胞シート工学技術が代表的であり、独創的技術として国際的評価を得ている。しかし、この細胞シート技術を使用する場合、単独のシートでは脆弱であることが多く、移植等の外科的操作に耐えうる強度を得るためにはシートを重ね合わせる操作等の工夫が必要であった。
本研究で開発する細胞・マトリックス複合体は細胞シート技術とは異なり、温度感受性培養皿を必要とせず、また細胞・マトリックスを重層化させることが容易であることが特徴である。げっ歯類のストローマ細胞などのいわゆるFeeder細胞の使用無しに10層以上に重層した複合体を3週間程度で作成できる技術は世界的に見当たらない。また、滑膜細胞のマトリックス産生条件を調節させることにより、特殊な器具を必要とすることなく複合体の把持、移動といった外科的操作が可能となる強度を保持する複合体の作成も可能であり、本法は、世界的に見ても、細胞移植を確実にかつ安全に行うための独創的で画期的な手法となる可能性がある。
好ましい実施形態では、本発明において使用される人工組織生産法に用いられる細胞外マトリクス産生促進因子は、アスコルビン酸2リン酸を含む(Hata R, Senoo H.J Cell Physiol. 1989; 138(1):8−16参照)。本発明では、アスコルビン酸2リン酸を一定量以上加えることによって、細胞外マトリクスの生産が促進され、その結果、得られる人工組織または複合体が硬化され、剥離しやすくなる。この後、剥離の刺激を与えることによって自己収縮が行われる。このようなアスコルビン酸を加えて培養した後、組織が硬化し、剥離しやすくなる性質を獲得することは、Hataらの報告には記載されていない。理論に束縛されないが、一つの顕著な相違点として、Hataらは、使用した細胞密度が顕著に異なるという点にある。また、Hataらは、硬化効果を示唆すらしておらず、このような硬化および収縮効果、および剥離しやすくなるという効果は、本発明によって初めて見出されたものであり、本発明において提供される人工組織は、従来製造されてきたものとは硬化、収縮、剥離などの手順を経て生産されている点で、少なくとも全く異なるものであるということができる。
培養物を剥がしたときに収縮し、三次元化、重層化などが促進されたということは驚くべき効果である。そのようなことは、従来報告されていない。
好ましい実施形態では、本発明において使用されるアスコルビン酸2リン酸は、通常少なくとも0.01mMで存在し、好ましくは少なくとも0.05mMで存在し、さらに好ましくは少なくとも0.1mMで存在する。より好ましくは少なくとも0.2mMの濃度で存在することが好ましい。さらに好ましくは、0.5mMの濃度、さらにより好ましくは1.0mMの濃度で存在することが好ましい。ここでは、0.1mM以上であればどのような濃度でも用いることができるが、好ましくは、10mM以下であることが所望され得る局面も存在し得る。
ある好ましい実施形態では、本発明において使用される細胞外マトリクス産生促進因子は、アスコルビン酸2リン酸またはその塩およびL−アスコルビンまたはその塩を含む。
好ましい実施形態では、本発明において使用される人工組織生産法では、培養した工程に続き、D)人工組織を剥離させ自己収縮させる工程、をさらに含む。剥離は、物理的な刺激(例えば、容器の角に棒などで物理的刺激(ずり応力印加、ピペッティング、容器の変形など)を与えるなど)を行うことによって促進することができる。自己収縮は、このような剥離の後、物理的刺激が与えられる場合、自然に起こる。化学的刺激の場合は、自己収縮および剥離が並行して生じる。自己収縮により、特に第三次元方向(シート上の組織に関する場合、二次元方向と鉛直な方向)の生物学的結合が促進される。このようにして製造されることから、本発明において提供される人工組織は、三次元構造体という形態をとるといえる。
本発明において使用される人工組織生産法では、十分な時間とは、目的とする人工組織の用途によって変動するが、好ましくは少なくとも3日間を意味する(例示的な期間としては、3〜7日間を挙げることができる)。
別の実施形態において、本発明において使用される人工組織生産法は、人工組織を分化させる工程、をさらに含み得る。分化させることによって、所望の組織により近い形態を採らせることができるからである。そのような分化としては、例えば、軟骨分化、骨分化を挙げることができるがそれらに限定されない。好ましい実施形態では、骨分化は、デキサメタゾン、βグリセロホスフェートおよびアスコルビン酸2リン酸を含む培地中で行われ得る。より好ましくは、骨形成タンパク質(BMP類)を加える。このようなBMP2、BMP−4、BMP−7は、骨の形成をより促進するからである。
別の実施形態において、本発明において使用される人工組織生産法は、人工組織を分化させる工程であって、分化としては、例えば、軟骨分化を行う形態が挙げられる。好ましい実施形態では、軟骨分化は、ピルビン酸、デキサメタゾン、アスコルビン酸2リン酸、インスリン、トランスフェリンおよび亜セレン酸を含む培地中で行われ得る。より好ましくは、骨形成タンパク質(BMP−2、BMP−4、BMP−7、TGF−β1、TGF−β3)を加える。このようなBMPは、軟骨の形成をより促進するからである。
本発明において留意されるべき点として、骨および軟骨などの種々の分化細胞への分化能を有する組織を製造できることがある。軟骨組織への分化は、これまで他のスキャフォールドフリーの人工組織では困難であった。ある程度の大きさが必要な場合は、従来では、スキャフォールドと共培養し、三次元化させて、軟骨分化培地を入れることが必要であった。従来では、スキャフォールドフリーで軟骨分化させることは困難であった。本発明において、初めて、人工組織中の軟骨分化も可能になった。これはかつて実証されていない結果であって、本発明の特徴的な効果の一つである。組織再生を目指す細胞治療においてスキャフォールドなしに有効かつ安全に、十分な大きさの組織を用いて治療を行う方法は困難であった。本発明は、この意味では、顕著な効果を達成するといえる。特に、軟骨など、従来では不可能であった、分化細胞でも自在に操れるようになったという点でその意義は深い。従来であれば、例えば、ペレット状に細胞を集めて、その細胞塊を分化させて2mm程度のものを作ることはできていたが、このような大きさを超える場合は、スキャフォールドを使用せざるを得ない。
本発明において提供される人工組織作製法に含まれる分化工程は、前記細胞の提供の前または後に行われ得る。
本発明において使用される細胞は、初代培養のものを使用することができるが、それに限定されず、継代した細胞(例えば、3代以上)を用いることもできる。好ましくは、継代した細胞を用いる場合、細胞は、4継代以上の細胞を用いることが好ましく、より好ましくは、5継代以上の細胞を用い、さらに好ましくは、6継代以上の細胞を用いることが有利である。細胞密度の上限が、継代数を一定程度上げるに従って上がっていくことから、より密な人工組織を作製することができると考えられるからであるが、それに限定されず、むしろ、一定範囲の継代数(例えば、3代〜8代)が適切であるようである。
本発明では、細胞は、好ましくは、5.0×10/cm以上の細胞密度で提供されるがそれに限定されない。細胞密度を十分上げることによって、より強度の高い人工組織を提供することができるからである。ただし、下限は、これよりも低くあり得ることが理解される。当業者は、本明細書の記載に基づき、そのような下限を規定することができることが理解される。
1つの実施形態において、本発明において使用され得る細胞としては、例えば、筋芽細胞、滑膜細胞、脂肪細胞、間葉系幹細胞(例えば、脂肪組織または骨髄由来)を用いることができるが、それらに限定されない。このような細胞は、例えば、心臓、骨、軟骨、腱、靭帯、関節、半月などに適用可能である。
(人工組織および複合体)
本発明において提供される人工組織または複合体は、本発明に記載される任意の方法またはWO2005/012512に記載される方法によって実施することができる。本明細書では、本発明において提供される人工組織は、移植可能な人工組織である。これまでも細胞培養によって人工組織を作製することが試みられているが、いずれも、大きさ、強度、培養容器からの剥離のときの物理的損傷などによって移植に適した人工組織とはなっていなかった。本発明は、上述のような細胞外マトリクス産生促進因子の存在下で細胞を培養することによって、大きさ、強度などの点で問題が無く、剥離させるときに特に困難を伴わない組織培養方法が提供された。このような組織培養法が提供されたことによって、初めて移植可能な人工組織が提供されたことになる。
本発明において提供される、細胞と、該細胞に由来する成分とを含む複合体は、好ましくは、実質的に細胞と該細胞に由来する成分からなることが理解される。ここで、本発明の複合体は、生体の部分を補強、修復または再生するために提供される。
本明細書において、「複合体」とは、細胞と、他の成分とが何らかの相互作用によって、複合体化したものを指す。従って、本発明の複合体は、人工組織様の外観を呈することが多く、その意味で、人工組織と指すものが重複することが理解される。
本発明は、スキャフォールドフリーの人工組織または複合体を提供する。このようなスキャフォールドフリーの人工組織を提供することによって、移植後の経過に優れた治療法および治療剤が提供される。
本発明はまた、スキャフォールドフリーの人工組織という点により、生物製剤における長期にわたる規制の問題の一つである、スキャフォールド自体の混入に起因する問題を一挙に解決する。また、スキャフォールドがないにもかかわらず、治療効果は従来のものに比べても遜色ないどころか、より良好である。
このほか、スキャフォールドを用いた場合に、スキャフォールド内の移植細胞の配向性、細胞間接着性の問題、スキャフォールド自体の生体における変化(炎症惹起)およびスキャフォールドのレシピエント組織への生着性などの問題を解決することができる。
本発明において提供される人工組織および複合体はまた、自己組織化しており、内部において生物学的結合が行われているという点で、従来の細胞治療とも一線を画すことができる。
本発明において提供される人工組織および複合体はまた、三次元形態を容易に形成することができ、所望の形態に容易に設計することができることから、その汎用性に留意されるべきである。
本発明において提供される人工組織および複合体は、周囲の組織、細胞などの移植後環境との生物学的結合を有することから、術後の定着がよい、細胞が良好の供給されるなどの優れた効果が奏される。本発明の効果としては、このような生物学的結合性の良好さから、他の人工組織などと複合組織を形成することによって複雑な治療を行うことができる点にもある。
本発明の別の効果は、人工組織および複合体として提供した後、分化誘導をかけることができるという点にある。あるいは、人工組織および/または複合体として提供する前に、分化誘導をかけて、そのような人工組織および/または複合体を形成することができいる点にもある。
本発明の他の効果は、細胞移植という観点から、従来の細胞のみの移植、シートを用いた移植などと比べて、置換性がよい、被覆することによる総合的な細胞供給などの効果が奏される点にある。
本発明によって、生物学的結合能を有し、移植可能な人工組織が提供される。このような組織は、上記特徴および効果を有することによって、従来人工物での移植処置が考えられなかった部位の処置が可能になった。本発明において提供される人工組織は、組織内および他の組織との間での生物学的結合を有しており、実際に移植治療において機能する。このような人工組織は、従来技術では提供されるものではなく、初めて提供されるものである。本発明において提供される人工組織は、移植後の周囲の組織、細胞などと生物学的に結合する能力を有し(好ましくは細胞外マトリクスによる)、従って、術後の経過に優れる。このような生物学的結合能を有する人工組織は、従来存在しておらず、従って、本発明は、従来の人工組織では達成できなかった治療効果を奏することになる。
さらに、本発明により、疾患部分を充填し、置換させること、および/または疾患部位を被覆することによって治療効果をもたらす医療処置が可能となった。
また、本発明は、他の人工組織(例えば、ハイドロキシアパタイトでできた人工骨など、微線維性コラーゲン医療材料など)とともに用いることにより、他の人工組織と生物学的に結合することによって、従来では達成できなかった人工組織の定着の向上が得られた。
本発明において提供される人工組織は、組織全体にフィブロネクチン、ビトロネクチンなどの細胞外マトリクスまたは細胞接着因子が分布、一方細胞シート工学では培養細胞のシャーレへの接着面に細胞接着因子は局在している。そして最たる違いは細胞シート工学ではシートの主体は細胞であり、シートは接着因子のノリを底面に付けた細胞の塊といえるが、本発明者らの人工組織は文字通り細胞外マトリックスが細胞を包んだ「組織」であるという点が従来のものとは顕著に異なるといえる。
スキャフォールド(基盤)材料を用いない細胞移植方法としては、非特許文献3に記載される温度感受性培養皿を利用した細胞シート工学技術が代表的であり、独創的技術として国際的評価を得ている。しかし、この細胞シート技術を使用する場合、単独のシートでは脆弱であることが多く、移植等の外科的操作に耐えうる強度を得るためにはシートを重ね合わせる操作等の工夫が必要であった。本発明はこのような問題を解決した。
本研究で開発する細胞・マトリックス複合体は細胞シート技術とは異なり、温度感受性培養皿を必要とせず、また細胞・マトリックスを重層化させることが容易であることが特徴である。げっ歯類のストローマ細胞などのいわゆるFeeder細胞の使用無しに10層以上に重層した複合体を3週間程度で作成できる技術は世界的に見当たらない。また、滑膜細胞のマトリックス産生条件を調節させることにより、特殊な器具を必要とすることなく複合体の把持、移動といった外科的操作が可能となる強度を保持する複合体の作成も可能であり、本発明は、世界的に見ても、細胞移植を確実にかつ安全に行うための独創的で画期的な手法となるという点でも効果を有するといえる。
好ましい実施形態では、本発明において提供される人工組織は、周囲との生物学的結合能(integration capability)を有する。ここで、周囲とは、代表的には、移植される環境をいい、例えば、組織、細胞などを挙げることができる。周囲の組織、細胞などの生物学的結合能は、例えば、顕微鏡写真、物理的試験、生物学的マーカーの染色などによって確認することができる。従来の人工組織は、移植された環境にある組織などの親和性は少なく、生物学的結合能が発揮できるなどとは想定すらされていなかった。むしろ、従来の人工組織は、生体の持つ再生能力に依拠し、自己細胞などが集積し、再生するまでの橋渡しの役割を果たしており、従って、恒久的な使用は意図されていなかった。従って、本発明において提供される人工組織は、真の意味で移植治療を構成することができると解釈されるべきである。従って、本発明において言及される生物学的結合能は、周囲の細胞および/または細胞外マトリクスとの接着能を含むことが好ましい。そのような接着能は、組織片(例えば、軟骨片)とのインビトロ培養アッセイによって測定することができる。
本発明が対象とする「疾患」としては、変性、壊死、損傷などを伴う任意の疾患をいい、例えば、変形性関節症、骨軟骨損傷、難治性骨折、骨壊死、軟骨損傷、半月損傷、靭帯損傷、腱損傷、軟骨変性、半月変性、椎間板変性、靭帯変性または腱変性、組織に傷害がある任意の心疾患であり得る。そのような心疾患としては、心不全、難治性心不全、心筋梗塞、心筋症、拡張型心筋症、肥大型心筋症、拡張相肥大型心筋症などが挙げられる。本発明の併用療法は、組織傷害の再生を目的とする限り、心臓以外の臓器の傷害を再生するためにも適用され得る。特定の実施形態において、本発明の方法が対象とする疾患は、難治性心不全である。
本明細書において「予防」(prophylaxisまたはprevention)とは、ある疾患または障害について、そのような状態が引き起こされる前に、そのような状態が起こらないようにするか、そのような状態を低減した状態で生じさせるかまたはその状態が起こることを遅延させるように処置することをいう。
本明細書において「治療」とは、ある疾患または障害について、そのような状態になった場合に、そのような疾患または障害の悪化を防止、好ましくは、現状維持、より好ましくは、軽減、さらに好ましくは消長させることをいう。本明細書では「根治的治療」とは、病的過程の根源または原因の根絶を伴う治療をいう。従って、根治的治療がなされる場合は、原則として、その疾患の再発はなくなる。
本明細書において「予後」とは、予後の処置ともいい、ある疾患または障害について、治療後の状態を診断または処置することをいう。
好ましい実施形態では、本発明において提供される人工組織または複合体は、三次元方向に生物学的に結合されている。ここで、生物学的結合は、本明細書において他の場所において説明されており、例えば、細胞外マトリクスによる物理的結合、電気的結合などが挙げられるがそれらに限定されない。特に、好ましい実施形態では、組織内の細胞外マトリクスが生物学的に結合されていることが重要である。そのような生物学的に結合された状態のハイドロキシアパタイトを含む人工組織または複合体は、これまでに提供されていないことから、この実施形態の本発明において提供される人工組織または複合体は、構造上も新規であるといえる。さらに、周囲との生物学的結合能を有する好ましい実施形態では、移植後も生体の一部を構成することができる人工組織または複合体を提供するという点で、従来になかった人工組織または複合体であるといえる。
1つの好ましい実施形態において、本発明において提供される人工組織または複合体は、従来のハイドロキシアパタイト複合体とは、ハイドロキシアパタイトが付着した細胞を含むという点で異なるということができる。特に、細胞密度が、例えば、最大5×10/cmまでも含めることができるという点でその高密度性が留意されるべきである。
好ましくは、本発明において提供される人工組織または複合体は、実質的に細胞または該細胞に由来する物質から構成される。実質的に細胞および細胞に由来する物質(例えば、細胞外マトリクス)のみから構成されることによって、生体適合性および生体定着性を上げることができる。ここで、「実質的に・・・構成される」とは、細胞とその細胞に由来する物質とを含み、他に有害な影響(ここでは、主に、移植への悪影響)を与えない限り、他の物質を含んでいてもいいと定義され、本明細書においてはそのように理解されるべきである。そのような有害な影響を与えない物質は、当業者に公知であるか、または簡単な試験を行うことによって確認することができる。代表的には、厚生労働省、FDAなどにおいて認可されている任意の添加成分、細胞培養に伴う成分などを挙げることができるがそれらに限定されない。ここで、細胞に由来する物質は、代表的に細胞外マトリクスを含む。特に、本発明において提供される人工組織または複合体では、細胞と細胞外マトリクスが適切な割合で含まれていることが好ましい。そのような適切な割合とは、例えば、細胞と細胞外マトリクスとの比が1:3〜20:1の範囲、細胞と細胞外マトリクスの比率によって組織の強度が調節されるので、細胞移植の用途および移植先での力学環境に応じて細胞と細胞外マトリクスとの比を調節して使用することができる。好ましい比率は、目的とする処置によって変動するが、そのような変動は、当業者には自明であり、目的とする臓器における細胞および細胞外マトリクスの比率を調査することによって、推定することができる。
好ましくは、実質的に細胞および該細胞に由来する細胞外マトリクスから構成される人工組織は、これまでに知られておらず、従って、本発明は、全く新規の人工組織を提供するといえる。
好ましくは、本発明を構成する細胞外マトリクスとしては、コラーゲンI、コラーゲンIII,ビトロネクチンおよびフィブロネクチンなどを挙げることができる。好ましくは、このような種々の細胞外マトリクスは、列挙したものすべて含まれていることが好ましく、それらは一体化して混合されていることが好ましい。あるいは、これらは、全体にわたって細胞外マトリクスが散在していることが好ましい。このような分布は移植された場合に環境との適合性および親和性を向上させるという点で格別な効果を奏する。本発明では、特に、コラーゲン(I、III型)をはじめ、ビトロネクチン、フィブロネクチンなどが含まれていることにより、基質への細胞接着、細胞伸展、および細胞走化性を促進する、細胞間マトリクスの接着も促進されるという特徴を有することで知られている。しかし、コラーゲン(I、III型)、ビトロネクチン、フィブロネクチンなどが一体化されて含まれているような人工組織はこれまで提供されていなかった。理論に束縛されることを希望しないが、コラーゲン(I、III型)、ビトロネクチン、フィブロネクチンなどは、周囲との生物学的結合能を発揮するのに役割を果たしていると考えられる。従って、好ましい実施形態では、本発明において提供される人工組織または複合体においてビトロネクチンが分散して表面に配置されていることが有利である。移植後の接着、定着、安定性が格段に異なると考えられるからである。
フィブロネクチンもまた、本発明において提供される人工組織または複合体において配置されることが好ましい。フィブロネクチンは、細胞接着,細胞の形の制御,細胞移動を調節する役割を有することが知られている。しかし、フィブロネクチンが発現しているような人工組織はこれまで提供されていなかった。理論に束縛されることを希望しないが、フィブロネクチンもまた周囲との生物学的結合能を発揮するのに役割を果たしていると考えられる。従って、好ましい実施形態では、本発明において提供される人工組織においてフィブロネクチンもまた分散して表面に配置されていることが有利である。移植後の接着、定着、安定性が格段に異なると考えられるからである。
好ましい実施形態では、本発明において使用される細胞外マトリクスを人工組織または複合体に配置することは、本発明において提供される人工組織生産方法によって、容易に達成されることが理解されるが、作製方法としてはそれに限定されないことが理解される。
より好ましい実施形態では、本発明において使用される細胞外マトリクスは、分散して配置されることが有利である。そのような分散形態での細胞外マトリクスの配置は、従来の人工組織では、不可能であったことであり、本発明により初めて提供されることが理解される。
好ましい実施形態において、人工組織または複合体に分散して配置される細胞外マトリクスは、任意の2つの1cmのセクションにおける分布密度を比較したときに、約1:3〜3:1の範囲内の比率に収まることが好ましい。分布密度の測定は、当該分野において公知の任意の手法を用いることができ、例えば、免疫染色などを挙げることができる。
好ましい実施形態において、本発明において使用される細胞外マトリクスは、任意の2つの1cmのセクションにおける分布密度を比較したときに、約1:2〜2:1、さらに好ましくは約1.5:1〜1.5:1の範囲内の比率に収まる。細胞外マトリクスの配置の分散は、均等に分散されていることが有利である。従って、好ましくは、ほぼ均一に分散されていてもよいが、それに限定されない。本明細書では、「均一」とは、複合体中に細胞外マトリクスが一様にまんべんなく分散しているという状態を指す。
1つの実施形態において、本発明において配置される細胞外マトリクスは、コラーゲンI、コラーゲンIII、ビトロネクチン、フィブロネクチンなどを含み得る。
別の実施形態において、本発明において提供される人工組織または複合体は、異種細胞、同種異系細胞、同系細胞または自家細胞を用いることができる。本発明では、同種異系細胞であっても、特に、間葉系細胞を用いた場合、免疫拒絶などの有害な副反応がほとんど生じないことが分かった。従って、本発明は、エキソビボのような治療の他、免疫拒絶抑制剤などを使用せずに、他人の細胞を用いて人工組織を生産して利用するという治療法に途を啓くことになる。
1つの好ましい実施形態において、本発明において提供される人工組織または複合体が含む細胞は、幹細胞であっても分化細胞であっても両方を含んでいてもよい。好ましい実施形態では、本発明の三次元構造体が含む細胞は、間葉系細胞である。理論に束縛されないが、間葉系細胞が好ましいのは、間葉系細胞自体が心臓など臓器と適合性が優れているからであり、種々の組織または臓器などへ分化する能力を有し得るからである。
そのような間葉系細胞は、間葉系幹細胞であっても間葉系の分化細胞であってもよい。
本発明において使用される間葉系細胞としては、例えば、骨髄、脂肪細胞、滑膜細胞、筋芽細胞、骨格筋細胞、などが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において使用される間葉系幹細胞としては、例えば、脂肪組織由来の幹細胞、骨髄由来の幹細胞などを用いることができる。
好ましい実施形態において、本発明において使用される細胞は、人工組織または複合体が適用される被験体に由来する細胞であることが有利である。このような場合、本明細書において使用される細胞は自己細胞ともいわれるが、自己細胞を用いることによって、免疫拒絶反応を防ぐかまたは低減することができる。
あるいは、別の実施形態では、本発明において使用される細胞は、人工組織または複合体が適用される被験体に由来しない細胞であってもよい。この場合、好ましくは、免疫拒絶反応を防ぐ手段が講じられることが好ましい。
本発明において提供される人工組織または複合体は、医薬として提供されていてもよい。あるいは、本発明において提供される人工組織または複合体は、医師などが医療現場で調製してもよく、または、医師が細胞を調製した後、その細胞を第三者が培養して三次元構造体として調製し、手術に用いてもよい。この場合、細胞の培養は、医師でなくても、細胞培養の当業者であれば実施することができる。従って、当業者であれば、本明細書における開示を読めば、細胞の種類および目的とする移植部位に応じて、培養条件を決定することができる。
別の実施形態において、本発明において提供される人工組織または複合体は、単離されていることが好ましい。単離とは、この場合、培養に用いたスキャフォールド、支持体、培養液などから分離されていることを意味する。スキャフォールドなどの物質が実質的に存在しないことによって、本発明において提供される人工組織は、移植後の免疫拒絶反応、炎症反応などの有害反応を抑えることができる。
本発明において提供される人工組織の底面積は、例えば、1cm〜20cmであり得るが、それに限定されず、1cm以下でもよく、20cm以上でもいい。本発明の本質は、どのような大きさ(面積、容積)のものでも作製することができる点にあり、サイズに限定されないことが理解される。
好ましい実施形態において、本発明において提供される人工組織は、肉厚である。肉厚とは、通常移植対象の部位を被覆するに十分な強度を有する程度の厚みをいう。そのような面積は、例えば、少なくとも約50μm以上であり、より好ましくは、少なくとも約100μm以上であり、少なくとも約200μm以上であり、少なくとも約300μm以上であり、さらに好ましくは少なくとも約400μm以上であり、あるいは少なくとも約500μmまたは約1mmであることがさらに好ましい。場合によっては、3mm以上および5mm以上の厚さのものも作製できることが理解される。あるいは、このような厚さは、1mm未満であってもよい。本発明の本質は、どのような厚さの組織または複合体でも作製することができる点にあり、サイズに限定されないことが理解される。
本発明は、スキャフォールドフリーの人工組織または複合体を提供する。このようなスキャフォールドフリーの人工組織を提供することによって、移植後の経過に優れた治療法および治療剤が提供される。
本発明はまた、スキャフォールドフリーの人工組織という点により、生物製剤における長期にわたる規制の問題の一つである、スキャフォールド自体の混入に起因する問題を一挙に解決する。また、スキャフォールドがないにもかかわらず、治療効果は従来のものに比べても遜色ないどころか、より良好である。
このほか、スキャフォールドを用いた場合に、スキャフォールド内の移植細胞の配向性、細胞間接着性の問題、スキャフォールド自体の生体における変化(炎症惹起)およびスキャフォールドのレシピエント組織への生着性などの問題を解決することができる。
本発明において提供される人工組織および複合体はまた、自己組織化しており、内部において生物学的結合が行われているという点で、従来の細胞治療とも一線を画すことができる。
本発明において提供される人工組織および複合体はまた、三次元形態を容易に形成することができ、所望の形態に容易に設計することができることから、その汎用性に留意されるべきである。
本発明において提供される人工組織および複合体は、周囲の組織、細胞などの移植後環境との生物学的結合を有することから、術後の定着がよい、細胞が確実に供給されるなどの優れた効果が奏される。本発明の効果としては、このような生物学的結合性の良好さから、他の人工組織などと複合組織を形成することによって複雑な治療を行うことができる点にもある。
本発明の別の効果は、人工組織および複合体として提供した後、分化誘導をかけることができるという点にある。あるいは、人工組織および/または複合体として提供する前に、分化誘導をかけて、そのような人工組織および/または複合体を形成することができいる点にもある。
本発明の他の効果は、細胞移植という観点から、従来の細胞のみの移植、シートを用いた移植などと比べて、置換性がよい、被覆することによる総合的な細胞供給などの効果が奏される点にある。
本発明によって、生物学的結合能を有し、移植可能な人工組織が提供される。このような組織は、上記特徴および効果を有することによって、従来人工物での移植処置が考えられなかった部位の処置が可能になった。本発明において提供される人工組織は、組織内および環境との間で生物学的結合を有しており、実際に移植治療において機能する。このような人工組織は、従来技術では提供されるものではなく、初めて提供されるものである。本発明において提供される人工組織は、移植後の周囲の組織、細胞などと生物学的に結合する能力を有し(好ましくは細胞外マトリクスによる)、従って、術後の経過に優れる。このような生物学的結合能を有する人工組織は、従来存在しておらず、従って、本発明は、従来の人工組織では達成できなかった治療効果を奏することになる。
さらに、本発明により、疾患部分を充填し、置換させること、および/または疾患部位を被覆することによって治療効果をもたらす医療処置が可能となった。
また、本発明は、他の人工組織(例えば、ハイドロキシアパタイトでできた人工骨、微線維性コラーゲン医療材料など)とともに用いることにより、他の人工組織と生物学的に結合することによって、従来では達成できなかった人工組織の定着の向上が得られた。このような組織は、複合組織という。
本発明において提供される人工組織または複合体は、組織全体にフィブロネクチン、ビトロネクチンなどの細胞外マトリクスまたは細胞接着因子が分布、一方細胞シート工学では培養細胞のシャーレへの接着面に細胞接着因子は局在している。そして最たる違いは細胞シート工学ではシートの主体は細胞であり、シートは接着因子のノリを底面に付けた細胞の塊といえるが、本発明者らの人工組織は文字通り細胞外マトリックスが細胞を包んだ「組織」であるという点が従来のものとは顕著に異なるといえる。
スキャフォールド(基盤)材料を用いない細胞移植方法としては、非特許文献3による温度感受性培養皿を利用した細胞シート工学技術が代表的であり、独創的技術として国際的評価を得ている。しかし、この細胞シート技術を使用する場合、単独のシートでは脆弱であることが多く、移植等の外科的操作に耐えうる強度を得るためにはシートを重ね合わせる操作等の工夫が必要であった。本発明はこのような問題を解決した。
本研究で開発する細胞・マトリックス複合体は細胞シート技術とは異なり、温度感受性培養皿を必要とせず、また細胞・マトリックスを重層化させることが容易であることが特徴である。げっ歯類のストローマ細胞などのいわゆるFeeder細胞の使用無しに10層以上に重層した複合体を3週間程度で作成できる技術は世界的に見当たらない。また、細胞のマトリックス産生条件を調節させることにより、特殊な器具を必要とすることなく複合体の把持、移動といった外科的操作が可能となる強度を保持する複合体の作成も可能であり、本発明は、世界的に見ても、細胞移植を確実にかつ安全に行うための独創的で画期的な手法となるという点でも効果を有するといえる。
別の実施形態において、本発明において提供される人工組織または複合体は、可撓性である。可撓性であることによって、特に、運動性の臓器の補強に適切となる。そのような臓器としては、例えば、心臓、血管、筋肉などが挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明において提供される人工組織または複合体は、伸縮性を有する。伸縮性を有することによって、伸び縮みする臓器、例えば、心臓、筋肉などにおける適用が可能となる。このような伸縮性は、従来の方法で調製された細胞シートなどでは達成されなかった性質である。好ましくは、本発明において提供される人工組織または複合体は、心臓の拍動運動に耐え得る強度を有する。そのような拍動運動に耐え得る強度とは、例えば、少なくとも天然の心筋が有する強度の少なくとも約50%以上、好ましくは少なくとも約75%以上、より好ましくは少なくとも約100%以上であることが挙げられるがそれらに限定されない。
好ましい実施形態において、本発明において提供される人工組織または複合体は、三次元方向すべてに生物学的結合がある。従来の方法で調製された人工組織は、二次元方向には生物学的結合がある程度見られるものがあったが、三次元方向にあった組織は調製されていない。従って、本発明において提供される人工組織は、このように三次元方向すべての生物学的結合を有することによって、どのような用途においても実質的に移植可能という性質がもたらされる。
本発明において提供される人工組織または複合体において指標となる生物学的結合としては、細胞外マトリクスの相互結合、電気的結合、細胞間情報伝達の存在が挙げられるがそれらに限定されない。細胞外マトリクスの相互作用は細胞間の接着を顕微鏡で適宜染色して観察することができる。電気的結合は、電位を測定することによって観察することができる。
好ましい実施形態において、本発明において提供される人工組織は、臨床適用することができる組織強度を有する。臨床適用することができる組織強度は、適用が意図される部位に応じて変動する。そのような強度は、当業者が本明細書の開示を参照して、当該分野における周知技術を参酌することによって決定することができる。本発明において提供される人工組織は、引っ張り強度は弱くてもいい。そのような引っ張り強度は、細胞・細胞外マトリクス比率におけるマトリクス濃度をあげると強くなり、細胞比率を上げると弱くなる。本発明は、必要に応じて強度も自由に調整できることが特徴の一つである。移植される組織に対して相対的に近似して強くも弱くもできることが特徴である。従って、そのような任意の場所に応じて目的と設定することができることが理解される。
別の実施形態において、本発明において提供される人工組織または複合体の強度は、自己支持性を有するに十分であることが好ましい。従来の人工組織は、作製後、自己支持性を有していなかった。従って、従来の人工組織を移動させると、少なくとも一部が損傷していた。しかし、本発明の技術を用いた場合、自己支持性を有する人工組織が提供された。従って、本発明は、従来技術では提供できなかった人工組織を提供する。そのような自己支持性は、0.5〜3mmの先端(好ましくは、1〜2mmの太さの先端、さらに好ましくは1mmの太さの先端)を有するピンセットで組織をつまみあげたときに、実質的に破壊されないことが好ましい。ここで、実質的に破壊されないとは、目視によって確認することができるが、上記条件にてつまみ上げた後に、例えば、水漏れ試験を行ったときに、水が漏れないことなどによって確認することができる。あるいは、上述のような自己支持性は、ピンセットではなく、手でつまみあげたときに破壊されないことによっても確認することができる。
特定の実施形態において、上記臨床適用が意図される部分としては、骨、関節、軟骨、半月、腱、靭帯、腎臓、肝臓、滑膜、心臓などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明において提供される人工組織に含まれる細胞の由来は、臨床適用される用途に影響されないことが特徴である。
また、組織が軟骨である場合、人工組織が該関節内組織の欠損部に移植された後人工的に固定することなく(例えば、2、3分後)、該人工組織が残存していることによって、接着性を検定することができる。
別の局面において、本発明は、細胞から人工組織を生産するための細胞培養組成物を提供する。この細胞培養組成物は、細胞を維持または増殖させるための成分(例えば、市販される培地など);および細胞外マトリクス産生促進因子を含む。このような細胞外マトリクス産生促進因子に関する説明は、上述の人工組織生産法において詳述した。従って、この細胞外マトリクス産生促進因子は、アスコルビン酸またはその誘導体(例えば、TGF−β1、TGF−β3、アスコルビン酸1リン酸またはその塩、アスコルビン酸2リン酸またはその塩、L−アスコルビン酸またはその塩など)を含む。ここで、本発明の培養組成物において含まれるアスコルビン酸2リン酸またはその塩は、少なくとも0.1mMで存在するか、あるいは濃縮培養組成物の場合は、調製時に少なくとも0.1mMとなるように含まれている。あるいは、アスコルビン酸類は、0.1mM以上であれば、ほとんど効果は変わらないようである。0.1mMであれば十分であるといえる。TGF−β1、TGF−β3であれば、1ng/ml以上、代表的には、10ng/mlの量が十分であり得る。
あるいは、本発明は、このような細胞外マトリクス産生促進因子を備える、人工組織生産のための組成物を提供し得る。
本発明において使用される人工組織生産法に用いられる細胞外マトリクス産生促進因子は、アスコルビン酸2リン酸を含む(HataR,SenooH.JCellPhysiol.1989;138(1):8−16参照)。本発明では、アスコルビン酸2リン酸を一定量以上加えることによって、細胞外マトリクスの生産が促進され、その結果、得られる人工組織または複合体が硬化され、剥離しやすくなる。この後、剥離の刺激を与えることによって自己収縮が行われる。しかも、このようなアスコルビン酸を加えて培養した後、組織が硬化し、剥離しやすくなる性質を獲得することは、Hataらの報告には記載されていない。理論に束縛されないが、一つの顕著な相違点として、Hataらは、使用した細胞密度が顕著に異なるという点にある。また、Hataらは、硬化効果を示唆すらしておらず、このような硬化および収縮効果、および剥離しやすくなるという効果は、本発明によって初めて見出されたものであり、本発明において提供される人工組織は、従来製造されてきたものとは硬化、収縮、剥離などの手順を経て生産されている点で、少なくとも全く異なるものであるということができる。
好ましい実施形態では、本発明において使用されるアスコルビン酸2リン酸は、通常少なくとも0.01mMで存在し、好ましくは少なくとも0.05mMで存在し、さらに好ましくは少なくとも0.1mMで存在する。より好ましくは少なくとも0.2mMの濃度で、さらに好ましくは少なくとも0.5mMの濃度で存在することが好ましい。さらに好ましくは最低限度の濃度は、1.0mMであり得る。
細胞密度については、特に限定されないが、1つの実施形態において、細胞は、1cmあたり、5×10細胞〜5×10細胞で配置される。この条件は、例えば、筋芽細胞に適用され得る。この場合、細胞外マトリクス産生促進因子は、アスコルビン酸類として、少なくとも0.1mM提供されることが好ましい。厚い人工組織が作成可能であるからである。この場合、濃度を増やすと、細胞外マトリクスで密な人工組織が形成される。少ない場合は、細胞外マトリクス量が減少するが、自己支持性は保たれる。
(ハイドロキシアパタイトおよびハイドロキシアパタイト複合体生成法)
生体骨、歯等は、無機物質であるハイドロキシアパタイト(以下、ハイドロキシアパタイトと略す場合がある)とタンパク質であるコラーゲンが分子レベルで複合化しさらに3次 元的に配列したマトリクスである。そして、骨や歯が損傷した場合の修復には、生体適合性を有するセラミックス材料等が使用できることが知られている。例え ば、主に歯周充填材として使用される、商品名”Bioglass”(Nippon Electric Glass Co. Ltd., Otsu. Siga.Japan 製、成分;NaO−CaO−SiO−P)、主に骨充填材として使用される、ハイドロキシアパタイトの焼結体(Ca10(PO(OH))、人工すい体および腸骨スペーサー等として使用される、アパタイトとウォラストナイト(CaO−SiO)とを含む結晶化ガラス(商品名”Cerabone A−W”、Nippon Electric Glass Co.Ltd.,Otsu.Siga.Japan 製)等が知られている。これらのセラミックス材料は、骨の代替に使用するために、例えば、金属等の強度の高い材料表面に形成する試みがなされている。また、柔軟性、耐久性に富み、骨以外の人工生体組織等への応用を期待して、加工が容易な各種有機高分子材料の表面上にハイドロキシアパタイト層を形成する方法、いわゆる生体模倣反応と呼ばれる方法が開発されている。この生体模倣反応は、ヒト体液に等しいイオン濃度を有する水溶液(疑似体液)に、CaOとSiOと を主成分とするガラス粒子を浸し、次いで、有機高分子材料を浸漬し、有機高分子材料の表面に多数のアパタイト核を生成させた後、この有機高分子材料のみを疑似体液の1.5倍のイオン濃度を有する水溶液に浸漬させて反応させる方法である。この生体模倣反応によれば、アパタイト核が有機高分子材料上で自然に成長し、緻密で均質な骨類似のハイドロキシアパタイト層が任意の厚さだけ形成されることが報告されている(J.Biomed.Mater.Res.vol.29,p349−357(1995))。しかし、この生体模倣反応は、ハイドロキシアパタイトの生成速度が遅く、2週間以上の長期間反応させても、有機高分子材料上に、人工骨に使用し得る程度のハイドロキシアパタイトを生成させることができないのが実状である。
本発明において使用されるハイドロキシアパタイトの合成法として、カルシウム溶液に材料を浸漬した後、続けてリン酸溶液に浸漬し、この過程を1サイクルとし、これを繰り返してハイドロキシアパタイト層を順次形成させる交互浸漬法を本発明者らの一部が開発した。
本発明のハイドロキシアパタイト複合体の製造方法では、特定のカルシウム溶液と、特定のリン酸溶液とに、少なくとも表面が親水化された細胞または細胞集合体を交互に浸漬させて、細胞または細胞集合体の少なくとも表面にハイドロキシアパタイトを生成・固定させる工程が包含される。
本発明の方法において使用されるカルシウム溶液は、カルシウムイオンを含み、かつ、実質的にリン酸イオンを含まない水溶液である。リン酸イオンが存在する場合は、ハイドロキシアパタイトの生成速度が低下する恐れがあるので、カルシウム溶液は、通常、カルシウムイオンを含み、かつ、リン酸イオンを全く含まない水溶液である。カルシウム溶液としては、例えば、塩化カルシウム水溶液、酢酸カルシウム水溶液、塩化カルシウムのトリス緩衝溶液、酢酸カルシウムのトリス緩衝溶液又はこれらの混合物等が挙げられる。カルシウム溶液において、カルシウムイオン濃度は、ハイドロキシアパタイトの生成速度および生成効率を考慮した場合、好ましくは0.01〜10モル/リットル、特に好ましくは0.1〜1モル/リットルである。細胞の生存に好ましい濃度としては、10〜200mM、好ましくは、10〜100mM、より好ましくは、10〜50mMである。カルシウム溶液のpHは特に限定されないが、トリス緩衝溶液を用いる場合には、好ましくはpH6〜10、特に好ましくはpH7.4である。
本発明において使用されるリン酸溶液は、リン酸イオンを含み、かつ、実質的にカルシウムイオンを含まない水溶液である。カルシウムイオンが存在する場合は、ハイドロキシアパタイトの生成速度が低下する恐れがあるので、リン酸溶液は、通常、リン酸イオンを含み、かつ、カルシウムイオンを全く含まない水溶液である。リン酸溶液としては、リン酸水素ナトリウム水溶液、リン酸二水素ナトリウムアンモニウム水溶液、リン酸水素ナトリウムのトリス緩衝溶液、リン酸二水素ナトリウムアンモニウムのトリス緩衝溶液又はこれらの混合物等が挙げられる。リン酸溶液において、リン酸イオン濃度は、ハイドロキシアパタイトの生成速度および生成効率を考慮した場合、好ましくは0.01〜10モル/リットル、特に好ましくは0.1〜1モル/リットルである。細胞の生存に好ましい濃度としては、10〜200mM、好ましくは、10〜100mM、より好ましくは、10〜50mMである。リン酸溶液のpHは特に限定されないが、トリス緩衝溶液を用いる場合には、好ましくはpH6〜10、特に好ましくはpH7.4である。
本発明において使用されるカルシウム溶液およびリン酸溶液の組合せは特に限定されず、例えば、塩化カルシウム水溶液とリン酸水素ナトリウム水溶液の組合せ、酢酸カルシウム水溶液とリン酸二水素ナトリウムアンモニウム水溶液との組合せ等が挙げられる。前記カルシウム溶液およびリン酸溶液には、本発明の所望の目的が損なわれない範囲において他のイオンが存在していても良いが、2.5mM以上のマグネシウムイオン(Mg2+)が存在する場合には、リン酸三カルシウム(TCP)が形成される恐れがあるので好ましくない。
本発明の製造方法において、カルシウム溶液とリン酸溶液とに細胞または細胞集合体を浸漬させる方法としては、(1)カルシウム溶液に前記細胞または細胞集合体を浸漬させた後に、リン酸溶液に細胞または細胞集合体を浸漬させる操作を1サイクルとして1回以上行う方法、(2)リン酸溶液に前記細胞または細胞集合体を浸漬させた後に、カルシウム溶液に細胞または細胞集合体を浸漬させる操作を1サイクルとして1回以上行う方法等が挙げられる。この際、前記各操作を繰り返して行うことにより、ハイドロキシアパタイトの生成量を増大させることができる。前記操作の繰り返し回数は、通常1〜200回、好ましくは5〜100回である。前記操作を繰り返す場合、前記(1)の方法において、必ずしも最終が、リン酸溶液に細胞または細胞集合体を浸漬させることにより終了させる必要は なく、カルシウム溶液に細胞または細胞集合体を浸漬させて終了させても良い。同様に、前記(2)の方法において、必ずしも最終が、カルシウム溶液に細胞または細胞集合体を浸漬させることに より終了させる必要はなく、リン酸溶液に細胞または細胞集合体を浸漬させて終了させても良い。この際、カルシウム溶液とリン酸溶液とに細胞または細胞集合体を交互に浸漬させるにあたり、各 浸漬前に、細胞または細胞集合体表面に残存するカルシウムイオン又はリン酸イオン等を水等により洗浄して除去した後に、次の溶液に浸漬させることが好ましい。
前記カルシウム溶液に前記細胞または細胞集合体を浸漬させる浸漬時間は、ハイドロキシアパタイトの生成速度および生成効率を考慮して適宜選択できる。通常、トータルの浸漬時間は、10分間〜7日間、好ましくは30分間〜3日間、特に好ましくは1時間〜24時間である。一方、前記リン酸溶液に前記細胞または細胞集合体を浸漬させる浸漬時間もハイドロキシアパタイトの生成速度および生成効率を考慮して適宜選択できる。通常、トータルの浸漬時間は、10分間〜7日間、好ましくは30分間〜3日間、特に好ましくは1時間〜24時間である。カルシウム溶液およびリン酸溶液に細胞または細胞集合体を浸漬させる操作を繰り返す場合の各1回あたりの浸漬時間は、前記好ましいトータルの浸漬時間を考慮して適宜選択することができる。前記各溶液に細胞または細胞集合体を浸漬させる際の各溶液の液温は、ハイドロキシアパタイトの生成速度および生成効率を考慮して適宜選択することができ、通常、0〜90℃、好ましくは4〜80℃である。
上述の製造方法により、本発明のハイドロキシアパタイト複合体を得ることができる。この複合体が有するハイドロキシアパタイトは、結晶ハイドロキシアパタイトを含み、その結晶形態が、フレーク状、板状等の種々の形態のアパタイトを形成できる。特に、従来は得られなかった、緻密な層状の一定の結晶面が保持された新規な構造のハイドロキシアパタイトまで得ることが可能である。また、この複合体におけるハイドロキシアパタイト層は、基材に強固に付着しており、高分子鎖とハイドロキシアパタイトが分子レベルで複合化していると考えられる。本発明の複合体において、ハイドロキシアパタイト層の厚さは、細胞または細胞集合体の種類や形状、若しくは複合体を用いる用途等によって適宜選択することができる。例えば、複合体におけるハイドロキシアパタイト層の厚さは、0.0001〜5mm程度が適当である。複合体の形状は、細胞または細胞集合体の形状を適宜選択することにより、また複合体を所望形状に加工することによって様々な形状とすることができる。従って、本発明の複合体は、細胞または細胞集合体の種類や形態を適宜選択し、また、複合体を所望形状に加工することにより、人工骨をはじめとする様々な生体適合性材料とすることができる。本発明の複合体には、用途に応じて公知の焼結工程、表面処理工程等を行うことができる。
本発明の好ましいハイドロキシアパタイトの製造方法では、細胞または細胞集合体として少なくとも表面が親水化された細胞または細胞集合体を用い、かつ交互浸漬法によりハイドロキシアパタイトを生成・固定させるので、細胞または細胞集合体と生成したハイドロキシアパタイトが強固に付着し、しかもハイドロキシアパタイトが結晶性を示すので、骨に近似した組成および構造を備える複合体を速やかに、また容易に得ることができる。この方法により得られる複合体は、人工骨をはじめとする各種生体適合性材料として有用である。
好ましいハイドロキシアパタイトは、組成が実質的にCa10(PO(OH)を示し、かつ、X線回折によって測定した結晶構造が、ヒトの骨の結晶構造において特異的な回折ピークである、少なくとも31〜32度および26度にそれぞれ回折ピークを有する。このX線回折に用いる装置としては、商品名“Geigerflex2013”(RigakuCo.,Tokyo,Japan製)等が使用できる。またX線回折の条件としては、X線;CuKα/30kV/15mA、スキャンスピード;2度/分の条件等が挙げられる。
好ましいハイドロキシアパタイトにおいて、組成が実質的にCa10(PO(OH)を示すとは、製造時等における不可避成分が含まれていても良く、また、製造時における溶存する炭酸イオンの影響による炭酸アパタイトおよび/又はCaが一部欠損したアパタイトを含んでいても良い意味である。更に、本発明のハイドロキシアパタイトの結晶構造は、ヒトの骨と近似するものであれば、X線回折において、前記特異的な回折ピーク以外に他のピークを有していても良い。
本発明の好ましいハイドロキシアパタイトを製造するには、例えば、特定の第1の水溶液と、特定の第2の水溶液とに、細胞または細胞集合体を浸漬させて、細胞または細胞集合体の少なくとも表面に本発明のハイドロキシアパタイトを生成させる工程(A)と、細胞または細胞集合体から本発明のハイドロキシアパタイトを回収する工程(B)とを必須の工程として行う方法等により得ることができる。
本発明の方法において用いられる工程(A)に用いる特定の第1の水溶液は、カルシウムイオンを含み、かつ、実質的にリン酸イオンを含まない水溶液である。リン酸イオンが存在する場合は、本発明のハイドロキシアパタイトの生成速度が低下する恐れがあるので、第1の水溶液は、通常、カルシウムイオンを含み、かつ、リン酸イオンを全く含まない水溶液である。第1の水溶液としては、例えば、塩化カルシウム水溶液、酢酸カルシウム水溶液、塩化カルシウムのトリス緩衝溶液、酢酸カルシウムのトリス緩衝溶液又はこれらの混合物等が挙げられる。
本発明の方法において用いられる第1の水溶液において、カルシウムイオン濃度は、本発明のハイドロキシアパタイトの生成速度および生成効率を考慮した場合、好ましくは0.01〜10モル/リットル、特に好ましくは0.1〜1モル/リットルである。第1の水溶液のpHは特に限定されないが、トリス緩衝溶液を用いる場合には、好ましくはpH6〜10、特に好ましくはpH7.4である。
本発明の方法において用いられる工程(A)に用いる特定の第2の溶液は、リン酸イオンを含み、かつ、実質的にカルシウムイオンを含まない水溶液である。カルシウム酸イオンが存在する場合は、本発明のハイドロキシアパタイトの生成速度が低下する恐れがあるので、第2の水溶液は、通常、リン酸イオンを含み、かつ、カルシウムイオンを全く含まない水溶液である。第2の水溶液としては、リン酸水素ナトリウム水溶液、リン酸二水素ナトリウムアンモニウム水溶液、リン酸水素ナトリウムのトリス緩衝溶液、リン酸二水素ナトリウムアンモニウムのトリス緩衝溶液又はこれらの混合物等が挙げられる。
本発明の方法において用いられる第2の水溶液において、リン酸イオン濃度は、本発明のハイドロキシアパタイトの生成速度および生成効率を考慮した場合、好ましくは0.01〜10モル/リットル、特に好ましくは0.1〜1モル/リットルである。第2の水溶液のpHは特に限定されないが、トリス緩衝溶液を用いる場合には、好ましくはpH6〜10、特に好ましくはpH7.4である。
本発明の方法において用いられる第1の水溶液および第2の水溶液の組合わせは特に限定されず、例えば、塩化カルシウム水溶液とリン酸水素ナトリウム水溶液の組合わせ、酢酸カルシウム水溶液とリン酸二水素ナトリウムアンモニウム水溶液との組合せ等が挙げられる。
本発明の方法において用いられる第1の水溶液および第2の水溶液には、本発明の所望の目的が損なわれない範囲において他のイオンが存在していても良いが、2.5mM以上のマグネシウムイオン(Mg2+)が存在する場合には、リン酸三カルシウム(TCP)が形成される恐れがあるので好ましくない。
本発明の方法において用いられる工程(A)に用いる細胞または細胞集合体としては、本明細書において説明される任意の細胞を用いることができる。
本発明の方法において用いられる各種金属としては、ステンレス、チタン、プラチナ、タンタル、コバルト、クロム、モリブデン、又はこれら2種以上の金属の合金;チタニアゲル等のチタンを使用したゾルゲル法生成物等が挙げられる。
前記工程(A)において、第1の水溶液と第2の水溶液とに細胞または細胞集合体を浸漬させる方法としては、(1)第1の水溶液に細胞または細胞集合体を浸漬させた後に、第2の水溶液に細胞または細胞集合体を浸漬させる操作を1回以上行う方法、(2)第2の水溶液に細胞または細胞集合体を浸漬させた後に、第1の水溶液に細胞または細胞集合体を浸漬させる操作を1回以上行う方法等が挙げられる。この際、前記各操作を繰り返して行うことにより、本発明のハイドロキシアパタイトの生成量を増大させることができる。前記操作の繰り返し回数は、通常2〜20回、好ましくは5〜10回である。前記操作を繰り返す場合、前記(1)の方法において、必ずしも最終が、第2の水溶液に細胞または細胞集合体を浸漬させることにより終了させる必要はなく、第1の水溶液に細胞または細胞集合体を浸漬させて終了させても良い。同様に、前記(2)の方法において、必ずしも最終が、第1の水溶液に細胞または細胞集合体を浸漬させることにより終了させる必要はなく、第2の水溶液に細胞または細胞集合体を浸漬させて終了させても良い。
前記第1の水溶液に細胞または細胞集合体を浸漬させる浸漬時間は、本発明のハイドロキシアパタイトの生成速度および生成効率を考慮して適宜選択できる。通常、トータルの浸漬時間は、10分間〜7日間、好ましくは30分間〜3日間、特に好ましくは1時間〜24時間である。一方、前記第2の水溶液に細胞または細胞集合体を浸漬させる浸漬時間も本発明のハイドロキシアパタイトの生成速度および生成効率を考慮して適宜選択できる。通常、トータルの浸漬時間は、10分間〜7日間、好ましくは30分間〜3日間、特に好ましくは1時間〜24時間である。第1の水溶液および第2の水溶液に細胞または細胞集合体を浸漬させる操作を繰り返す場合の各1回あたりの浸漬時間は、前記好ましいトータルの浸漬時間を考慮して適宜選択することができる。例えば、各回の浸漬時間は、10秒〜1分間であり得る。これを10〜100回、例えば、10サイクル、20サイクル、30サイクル繰り返すことができる。
本発明の方法において用いられる各水溶液に細胞または細胞集合体を浸漬させる際の各水溶液の液温は、本発明のハイドロキシアパタイトの生成速度および生成効率を考慮して適宜選択することができ、通常、0〜90℃、好ましくは4〜80℃である。
以上の工程(A)により、細胞または細胞集合体の少なくとも表面、細胞または細胞集合体の種類および形態等によっては、細胞または細胞集合体の内部にまで本発明のハイドロキシアパタイトを付着形成させることができる。通常、細胞または細胞集合体の表面においては、本発明のハイドロキシアパタイトは層状に付着形成される。この工程(A)により得られる本発明のハイドロキシアパタイトと細胞または細胞集合体との複合体は、後述する本発明の複合体、人工生体組織、医療用材料に使用することができる。
本発明の好ましいハイドロキシアパタイトを製造するには、次いで、細胞または細胞集合体から本発明のハイドロキシアパタイトを回収する工程(B)を行う。
得られる本発明のハイドロキシアパタイトは、そのまま、若しくは所望形状に成型加工したり、各種公知の焼結処理や表面処理等を行うことにより、各種医療用材料の製造に使用することができる。
本発明の好ましい複合体は、細胞または細胞集合体の少なくとも表面に、また細胞または細胞集合体の種類および形態によっては、細胞または細胞集合体の内部にまで前記本発明のハイドロキシアパタイトを備えている。細胞または細胞集合体上に形成された本発明のハイドロキシアパタイトは、通常、層状であるが、層の厚さは、細胞または細胞集合体の種類や形状、若しくは複合体を用いる用途等によって適宜選択することができる。例えば、複合体における本発明のハイドロキシアパタイト層の厚さは、0.0001〜5mm程度が適当である。複合体の形状は、細胞または細胞集合体の形状を適宜選択することにより、また複合体を所望形状に加工することによって様々な形状とすることができる。
従って、本発明の複合体は、細胞または細胞集合体の種類や形態を適宜選択し、また、複合体を所望形状に加工することにより、人工骨をはじめとする様々な人工生体組織とすることができる。例えば、複合体の細胞または細胞集合体が、前述の有機高分子重合体の中でも柔軟性を有する、ハイドロゲル材料等の有機高分子重合体である場合、弾力性に富、軟骨様の形状維持と、本発明のハイドロキシアパタイトによる優れた生体適合性を兼ね備えた複合体とすることができる。このような複合体は、生体内における肉組織との密着性も良好であり、弾力性にも富み、ねじれ等に対する耐久性にも優れるので、従来のセラミックス材料では実施が困難であった様々な人工生体組織への応用が可能である。
本発明の好ましい複合体を製造するには、例えば、前述した工程(A)により製造することができる。細胞または細胞集合体の種類は、前述の具体例のものが好ましく挙げられ、用途に応じて適宜選択することができる。また、工程(A)の後、所望形状に加工したり、公知の焼結工程、表面処理工程等を行うことができる。
本発明の好ましいハイドロキシアパタイトは、骨に近似した組成と結晶構造の両方を備えるので、人工骨をはじめとする各種生体組織として有用である。
(発明を実施するための最良の形態)
以下に本発明の最良の形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
(複合体)
1つの局面では、本発明は、細胞と、ハイドロキシアパタイトとの複合体を提供する。
好ましい実施形態において、本発明の複合体中に含まれるハイドロキシアパタイトは、前記細胞の表面に付着される。この付着は、どのような形態であってもよいが、好ましくは、ハイドロキシアパタイトは、前記細胞の表面に直接結合していることが好ましい。より好ましくは、ハイドロキシアパタイトは、前記細胞の細胞膜表面上に微結晶が形成された状態で存在する。
1つの好ましい実施形態では、本発明の複合体中に含まれる細胞は、三次元組織構造を有する。好ましくは、この細胞は、第三次元方向に生物学的に結合されている(integrated)。より好ましくは、この細胞は、周囲との生物学的結合能(integration capability)を有する。このような生物学的結合能は、周囲の細胞および/または細胞外マトリクスとの接着能を含んでいてもよい。これらの結合は、本明細書において記載される任意の方法によって測定することができる。これらの結合を有することは、骨などの三次元構造を構成するにおいて機能的に存在することができ、移植に適しているからである。
1つの好ましい実施形態では、本発明に含まれる細胞に由来する細胞外マトリクスを含む。ここで含まれる細胞外マトリクスとしては、コラーゲンI、コラーゲンIII、ビトロネクチンおよびフィブロネクチンなどを含んでいてもよい。好ましくは、コラーゲンとして、10〜90%のコラーゲンI、90〜10%のコラーゲンIIIを含有するのものでもよい。ここで含まれる細胞外マトリクスとしては、10〜90%のコラーゲンIを含んでいてもよい。ここで含まれる細胞外マトリクスとしては、10〜90%のコラーゲンIIを含んでいてもよい。ここで含まれる細胞外マトリクスとしては、10〜90%のコラーゲンIIIを含んでいてもよい。1つの好ましい実施形態では、本発明に含まれる細胞に由来するプロテオグリカンを含む。ここで含まれるプロテオグリカンとしては、ヒアルロン酸、フィブロネクチンなどを含みうる。ここで含まれるプロテオグリカンとしては、ヒアルロン酸を少なくとも0.1〜90%含有してもよい。ここで含まれるプロテオグリカンとしては、フィブロネクチンを少なくとも0.1〜90%含有してもよい。
1つの実施形態では、細胞外マトリクスが前記細胞と前記ハイドロキシアパタイトとの間に配置される。ここで、好ましい実施形態では、細胞外マトリクスが複合体中に分散して配置される。
1つの好ましい実施形態では、ハイドロキシアパタイトは、結晶として存在する。結晶として存在することが好ましい理由としては、例えば、結晶として存在することが好ましい理由としては、例えば、力学的強度、弾性率、細胞接着性、タンパク質吸着性、コラーゲン繊維の配向性、という理由が挙げられる。結晶状態としては、例えば、六方晶、板状、棒状、粒子状、棒状粒子などであり、骨の結晶化度と同様に、結晶化度が60%以下が望ましい
1つの実施形態では、本発明の複合体において使用される細胞は、幹細胞である。幹細胞を用いることによって、種々の再生治療に応用することができる。好ましくは、この細胞は、組織幹細胞である。組織幹細胞は、種々の組織から採取することができ、倫理的に問題が少なく、しかも、ある程度運命が決まっていることから、運命が決まった用途に用いる場合にとくに好ましい。ここで用いられる細胞は、コラーゲンを発現する細胞である。好ましくは細胞は、I型コラーゲンおよびIII型コラーゲンを発現する細胞である。このような細胞は、骨移植に使用する複合体として好適に使用されることができる。
好ましい実施形態では、細胞は、間葉系幹細胞である。このような幹細胞は、例えば、骨髄、脂肪等から採取することができる。
好ましい実施形態では、細胞は、生きた細胞である。複合体中で生きた細胞を含ませることは、従来の技術では達成されておらず、本発明において初めて提供されたといえ、その意味で本発明は画期的であるといえる。このような生きている状態は、複合体形成前のDNA量に比べ、少なくとも50%のDNA量を保持することを確認すること、または生細胞検出法によって検出されることによって測定することができる。生細胞検出法は、MTTアッセイまたはWST−1アッセイであり得る。
(ハイドロキシアパタイト製造法)
1つの局面において、本発明は、カルシウムイオンを含み、かつ、実質的にリン酸イオンを含まないカルシウム溶液と、リン酸イオンを含み、かつ、実質的にカルシウムイオンを含まないリン酸溶液とに、細胞または細胞集団を交互に浸漬させて、該細胞または細胞集団の少なくとも表面にハイドロキシアパタイトを生成および固定させる工程を含む、ハイドロキシアパタイト複合体の製造方法を提供する。
1つの実施形態では、細胞または細胞集団が、人工組織である。人工組織がハイドロキシアパタイトと複合体形成をさせることは従来できておらず、本発明において、このような人工組織として初めてのものが提供されることになる。このような細胞または細胞集団が、幹細胞を含むことが好ましい。
1つの実施形態では、実質的にカルシウムイオンを含まない濃度とは、ハイドロキシアパタイトの形成が進行しない濃度である。このような濃度とは、0.001〜0.1mM程度の濃度であるが、情況、環境によって変動し、そのような値は、当業者が適宜決定することができる。
1つの実施形態では、実質的にリン酸イオンを含まない濃度とは、ハイドロキシアパタイトの形成が進行しない濃度である。このような濃度とは、0.001〜0.1mM程度の濃度であるが、情況、環境によって変動し、そのような値は、当業者が適宜決定することができる。
1つの実施形態では、ハイドロキシアパタイトの生成および固定させる工程の後、前記複合体における細胞表面でのハイドロキシアパタイトの沈着度を確認し、その結果に基づき該生成および固定させる工程を反復する工程を包含する。本発明の好ましい実施形態における特徴の一つは、交互浸漬時間を極端に短くし(例えば、代表的には10分以下、例えば、1分以下、例示として10秒間)、また、カルシウムとリン酸の溶液濃度を10mM程度と低くすることで、細胞への影響をなるべく低くした点にある。従って、細胞に影響を与えない限り、この浸漬時間は長くしてもよく(例えば、30分、1時間等の時間でもよいことが分かっている。)、ハイドロキシアパタイトが沈着する限り10秒より短くてもよいことが理解される。従って、浸漬時間としては、例えば、1時間、30分間等の数時間単位、数十分単位でもよく、好ましくは、1分、50秒間、40秒間、30秒間、20秒間、10秒間、ハイドロキシアパタイトの沈着が確認される限り、10秒間以下の短い時間であってもよい。なお、10秒間でも十分ハイドロキシアパタイトが沈着していることから、本発明は、このような方法により、簡便かつ効率よく複合体を作製することを見出した点にその効果の一つがあるというべきである。
好ましい実施形態では、使用されるリン酸イオンおよび/またはカルシウムイオンの濃度について、細胞の生存に好ましい濃度としては、10〜200mM、好ましくは、10〜100mM、より好ましくは、10〜50mMである。
1つの局面において、本発明は、本発明の製造方法により得られたことを特徴とするハイドロキシアパタイト複合体を提供する。
1つの別の局面において、本発明は、本発明の複合体から実質的になる生体適合性材料を提供する。このような材料は、移植手術に使用することができる。
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、実施例のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
以下の実施例では、対象となる患者からはすべて事前に告知しコンセントもらった上で実験を行った。動物の取り扱いは、大阪大学において規定される基準を遵守した。以下の実施例で使用した試薬は、和光純薬、シグマ・アルドリッチジャパンなどから入手した。
(調製例1:滑膜細胞)
本調製例では、種々の滑膜細胞を用いて、人工組織すなわち細胞集合体を作製した。以下に説明する。
<細胞の準備>
ブタ(LWD三元交配種、細胞採取時には2〜3月齢のものを使用)膝関節より滑膜細胞を採取し、コラゲナーゼ処理後、10%FBS−DMEM培地(HyCloneから入手可能、DMEMはGIBCOから入手したものを使用)にて培養および継代を行った。継代数について、滑膜細胞においては10継代にても多分化能を有するという報告もあることから、本実施例においては最大10継代まで使用したが、用途に応じてそれ以上の継代細胞も用いることが理解される。実際に人体に移植する場合には自家移植であるが、十分な細胞数の確保しつつ、感染等の危険性を軽減するために培養期間の短縮する必要がある。
これらを考慮して、種々の継代細胞を用いた。実際に行った細胞は、初代培養細胞、1継代、2継代、3継代、4継代、5継代、6継代、8継代、10継代のものを実験した。これらを用いて、人工組織を用いた。
<人工組織の作製>
35mm皿、60mm皿または100mm皿(BD Biosciences、セルカルチャー皿・マルチウェルセルカルチャープレート)の上に4.0x10個の滑膜細胞を2mlの10%FBS−DMEM培地にまきこんで培養した。その際にアスコルビン酸を添加した。皿、アスコルビン酸および細胞の濃度は、以下のとおりである。
皿:BD Biosciences、細胞培養皿・マルチウェル細胞培養プレート
アスコルビン酸2リン酸:0mM、0.1mM、0.5mM、1mM、2mM、および5mM
細胞数:5×10細胞/cm、1×10細胞/cm、2.5×10細胞/cm、4.0×10細胞/cm、5×10細胞/cm、7.5×10細胞/cm、1×10細胞/cm、5×10細胞/cm、および1×10細胞/cm
予定培養期間まで、2回/週で培地交換を行った。培養期間に達したら、皿周囲を全周性に100μlのピペットマンでピペッティングを行いながら、細胞シートと皿を分離した。分離できたら皿を軽く揺することにより細胞シートを可能な限り平坦にした。その後培地を1ml追加し、細胞シートを完全に浮遊させ、2時間放置することにより細胞シートが収縮をおこし、3次元化することにより人工組織を作製した。
(ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色)
細胞における支持体の定着・消長を観察するために、HE染色を行った。その手順は以下のとおりである。必要に応じて脱パラフィン(例えば、純エタノールにて)、水洗を行い、オムニのヘマトキシリンでサンプルを10分浸した。その後流水水洗し、アンモニア水で色出しを30秒間行った。その後、流水水洗を5分行い、塩酸エオジン10倍希釈液で2分間染色し、脱水し、透徹し、封入する。
(各種細胞外マトリクス)
1)凍結ストックから、5μm厚の切片を作製する。
2)−20℃で5−10分間にわたり、アセトン中でこの切片を固定する(パラフィンブロックは、パラフィン除去し再水和する必要がある)
3)内因性ペルオキシド活性は、メタノール中0.3%H中で20分間室温でブロックする(1ml 30%H+99mlメタノール)
4)PBSで洗浄する(3×5分)。
5)モノクローナル一次抗体(各種細胞外マトリクスに対するマウスまたはウサギ抗体)(1μl抗体+200μlPBS/スライド)と4℃で湿式チャンバー内で一晩インキュベートする。
6)翌日PBSで洗浄する(3×5分)。
7)抗マウスおよび抗ウサギのno.1ビオチン化結合を、30分−1時間室温で適用する(3滴を直接スライドにたらす)。
8)PBSで洗浄する(3×5分)。
9)ストレプトアビジンHRP no.2を、LSABについてたらし1015分間浸す。
10)PBSで洗浄する(3×5分)。
11)DABをたらす(5ml DAB+5μl H2O2)
12)茶っぽい色を顕微鏡で観察する。
13)水中に5分ほど浸す。
14)HEを30秒−1分間浸す。
15)数回洗浄する。
16)イオン交換水で1回洗浄する。
17)80%エタノールで1分洗浄する。
18)90%エタノールで1分洗浄する。
19)100%エタノールで1分洗浄する。(3回)
20)キシレンで3回×1分間洗浄する。その後カバースリップをかける。
21)発色を見る。
その結果、細胞外マトリックス産生促進因子としてアスコルビン酸2リン酸を添加した場合、細胞の重層化はわずかに認められるのみである。他方、シート状のこの細胞を培養底面より剥離させ自己収縮させることにより、左に示されるように、重層化が進展し三次元化が促進されることが観察された。滑膜細胞を用いた場合でも、孔のない大きな組織が作製された。この組織は、厚みがあり、細胞外マトリクスに富む組織であった。0.1mM以上添加した場合、細胞外マトリックスの形成が促進したことが分かる。培養3日ですでに、剥離が可能になる程度に組織が強固になることが分かる。培養日数が増すと、細胞外マトリクス密度は変動し、増加していく。
これらが、培養皿底面より剥離し自己収縮をさせた人工組織であった。人工組織はシート状で作製され、皿から剥離した後に放置すると、自己収縮を起こし、三次元化が進む。組織所見により、細胞が幾層にもわたり点在して重層化しているのがわかる。
次に細胞外マトリクスを含む種々のマーカーを染色した。
種々の細胞外マトリクス(コラーゲンI型、II型、III型、IV型、フィブロネクチン、ビトロネクチンなど)が存在したことがわかる。免疫染色で、コラーゲンIおよびIIIは強く染色されたが、コラーゲンIIの染色は一部に限局していた。強拡でみると、コラーゲンは、核から少し離れた部位で染色されており、細胞外マトリックスであることが確認できる。一方、細胞接着因子として重要とされているフィブロネクチン、ビトロネクチンは、強拡でみると、コラーゲンとは異なり、核に密接する領域にも染色されており、細胞周囲にも存在することが確認できる。
また、人工組織の作製には、3〜8継代が好ましいようであるが、どのような継代でも使用可能なようである。
対比例として、正常組織およびコラーゲンスポンジ(CMI,Amgen、USA)での染色例を示す。例えば、正常組織(正常滑膜組織、腱組織、軟骨組織、皮膚および半月組織)と、対比例として用いた市販のコラーゲンスポンジの染色例を対比することができる。フィブロネクチン、ビトロネクチン、ネガティブコントロール、およびHE染色を用いることができる。従来の人工組織は、フィブロネクチンおよびビトロネクチンでは染色されない。このことから、本発明において用いられ得る人工組織は、従来の人工組織とは異なり、また、既存のコラーゲンスキャフォールドでは、フィブロネクチンおよびビトロネクチンの接着因子は含まれておらず、その意味でも、本発明の組織の独創性が明らかになる。どの細胞外マトリクスでも染色されない。正常組織と本実施例の人工組織とを比べると、人工組織の癒合の様子が自然に近いことが確認される。
なお、本発明の人工組織は、水分除去のための濾紙に接触させたところ、濾紙に接着し、手で剥離することが困難であった。
さらに、ヒドロキシプロリンの量から、0.1mM以上のアスコルビン酸2リン酸を加えたときに、コラーゲンの生産が有意に促進されることが明らかになった。産生量は、培養期間にほぼ比例していた。
(生物学的結合(integration)の確認)
従来のコラーゲンゲルを用いた場合に移植後に生物学的結合を確実にできないことが知られている。本実施例において、従来のコラーゲンゲル(商品名3%タイプIコラーゲン、高研(株)、Tokyo,Japan)を用いてその中に滑膜細胞(10細胞/ml)を包埋し、軟骨欠損部に移植するとコラーゲンゲルと隣接軟骨間の結合が不十分で亀裂を認めた。
他方、本発明で製造した人工組織をインビボでブタ体内に導入すると、組織学上、生物学的結合が成立していることが分かる。
(調製例2:脂肪由来組織)
次に、脂肪組織由来の細胞を用いて人工組織を作製した。
A)細胞は、以下のようにして採取した。
1)膝関節の脂肪パッド(fatーpad)より検体を採取した。
2)この検体をPBSを用いて洗浄した。
3)この検体をできるだけ細かく鋏で切り刻んだ。
4)コラゲナーゼ(0.1%)10mlを加え、37℃水浴にて1時間振盪した。
5)DMEM(10%FBS補充)を同量加えて、70μlのフィルター(Milliporeなどから入手可能)に通した。
6)フィルターを通った細胞およびフィルターに残った残渣を10% FBSを補充したDMEM5mlに入れて25cmフラスコ(Falconなどから入手可能)において培養した。
7)フラスコの底面に張り付いた細胞(間葉系幹細胞を含む)を取り出して以下の人工組織作製に供した。
B)人工組織の作製法
次に、この脂肪由来の細胞を用いて人工組織を作製した。アスコルビン酸2リン酸は、0mM(なし)、0.1mM、0.5mM、1.0mM、5.0mMの条件を用いた。作製は、上記滑膜細胞を作製した方法(実施例1に記載される)に準じて行った。初期の播種条件としては、5×10細胞/cmを用いた。培養日数は14日間を採用した。脂肪組織由来の細胞からも人工組織は作成され、滑膜細胞由来人工組織と同様にフィブロネクチンおよびビトロネクチンが豊富に存在していた。またコラーゲンI, IIIについても同様豊富に発現していた。
アスコルビン酸2リン酸 0mM:接線係数(ヤング率)0.28
アスコルビン酸2リン酸 1.0mM:接線係数(ヤング率)1.33
(調製例3:ヒト脂肪細胞からの人工組織の作製)
局所麻酔により、ヒト患者の採取予定部(例えば、膝関節周囲)に小切開を加え、脂肪細胞数十mgを採取する。採取した脂肪細胞は、滑膜細胞と同様の処理を行うことによって、三次元の人工組織を作製することができる。
(実施例1:交互浸漬法による細胞ハイドロキシアパタイト複合体の調製)
本実施例では、交互浸漬法による細胞ハイドロキシアパタイト複合体の調製を実施した。そのプロトコールを以下に示す。細胞または細胞集合は、調製例において調製されたものを使用した。
1.200 mMの塩化カルシウム/0.05 Mトリス緩衝液(pH=7.4)の溶液5 mLに
3DSTを10秒間浸漬した。
2.洗浄用の0.05 Mトリス緩衝液(pH=7.4)の溶液5 mLに10秒間浸漬すること
で過剰吸着したカルシウムイオンを除去した。
3.120 mMのリン酸水素2ナトリウム/0.05 Mトリス緩衝液(pH=7.4)の溶液
5 mLに3DSTを10秒間浸漬した。
4.洗浄用の0.05 Mトリス緩衝液(pH=7.4)の溶液5 mLに10秒間浸漬すること
で過剰吸着したリン酸イオンを除去した。
上記4ステップを1サイクルとし、適宜回数を繰り返した。
模式図を図1Aに示す。実際のサイクルの模様は、図1Bに示す。
図2に、上記濃度のカルシウムとリン酸溶液を用いて5×20サイクル交互浸漬を繰り返した後の三次元組織(3DSTともいう)の写真を示す。
図3は、上記濃度のカルシウムとリン酸溶液を用いて5・10・20サイクル交互浸漬を行った3DSTを、10%ホルマリン溶液に10分間浸漬することで固定化し、凍結乾燥機を用いて3日間凍結乾燥を行った後に赤外吸収スペクトル測定機を用いて解析を行い多結果を示す。アパタイトに特徴的な560、600、960、1070cm−1の吸収スペクトルの発現を確認した。
図4は、上記濃度のカルシウムとリン酸溶液を用いて5・10・20サイクル交互浸漬を行った3DSTを、10%ホルマリン溶液に10分間浸漬することで固定化し、凍結乾燥機を用いて3日間凍結乾燥を行った後にX線回折測定機を用いて測定した結果を示す。アパタイトの結晶構造に特異的な26、32、39(degree)のピークを確認した。
図5は、上記濃度のカルシウムとリン酸溶液を用いて10・20サイクル交互浸漬を行った3DSTを、10%ホルマリン溶液に10分間浸漬することで固定化し、50%、60%、70%、80%、90%、100%エタノールに各10分間ずつ浸漬し、100%tert−ブタノールに10分間浸漬した後に一晩冷凍庫で凍結し、凍結乾燥機を用いて3時間凍結乾燥を行った後に、走査型電子顕微鏡にてアパタイト複合化3DSTの様子を観察した結果を示す。左上の0cycleは450倍、20cycle右上は3000倍、右下は35000倍の写真である。
(実施例2:細胞の生存状態の確認)
実施例2では、実施例1にて作製した複合体中において細胞が生存しているかどうかを確認した。その結果を図6に示す。
図6に示すように、3×10cell/cmの細胞濃度でカバーガラスに24時間接着させたヒト滑膜細胞を、10、50、100、200 mMの塩化カルシウム/0.05 Mトリス緩衝液(pH=7.4)とリン酸水素2ナトリウム/0.05 Mトリス緩衝液(pH=7.4)を用いて10・20サイクル交互浸漬を行い、LIVE/DEAD染色により細胞の生存・死滅を確認した(3DSTは用いず、細胞を直接交互浸漬することでカルシウムとリン酸溶液の濃度が細胞に与える毒性を評価した)。この結果より、50 mM以下のカルシウム・リン酸溶液は細胞毒性を示さないことが判明した。100、200 mMでは、細胞が赤く染まることから死細胞の存在が確認された。
LIVE/DEAD染色:各濃度のカルシウム・リン酸溶液を用いて10・20サイクル交互浸漬後、カバーガラスを35φの培養ディッシュに設置し、1 μMのカルセインAMと2 μMのエチジウムホモダイマー−1を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)2 mLをディッシュに添加し、45分間インキュベーター内でインキュベートした。その後、溶液を除去し、1 mLのPBSを添加してリンス後、10%ホルマリン溶液に10分間浸漬することで固定化した。1 mLのPBSでリンス後、ゲルマウント剤を1滴カバーガラスに滴下し、新しいカバーガラスをかぶせて暗所にてゲルを固めてサンプル化した。十分にゲルが固まった後、蛍光顕微鏡を用いて観察をおこなった。細胞が生存している時は、カルセインが反応し緑色の蛍光を発したが、細胞が死滅した場合は、エチジウムホモダイマー−1が反応し、赤色の蛍光を発した。
(実施例3:交互浸漬後の3DSTのDNA量の評価による溶液濃度と交互浸漬回数の影響)
本実施例では、交互浸漬後の3DSTのDNA量の評価による溶液濃度と交互浸漬回数の影響を確認した。その結果を図7に示す。
図7に示すように、10、50、100、200 mMの塩化カルシウム/0.05 Mトリス緩衝液(pH=7.4)とリン酸水素2ナトリウム/0.05 Mトリス緩衝液(pH=7.4)を用いて3DSTを10・20サイクル交互浸漬を行い、QIAGEN DNeasy Tissue Kitを用いてDNA量を定量した結果となった。DNA量の減少は細胞の死滅を意味する。この結果は、図6のLIVE/DEAD染色と同様に50 mMまでの濃度では交互浸漬をしない場合とDNA量がほぼ一緒であるため細胞毒性が無いことがわかるが、100 mM以上になるとDNA量が減少し、細胞毒性があることが確認された。
これらの結果から、交互浸漬濃度を制御することで、代表的には、10〜50mMの範囲において細胞が生存している状態でハイドロキシアパタイトと複合体化できることが判明した。
(実施例4:複合体上の結晶の確認)
次に、複合体上の結晶の確認を本実施例において行った。その結果を図8に示す。
図8は、10 mMのカルシウムとリン酸溶液を用いて20サイクル交互浸漬を行った3DSTを、10%ホルマリン溶液に10分間浸漬することで固定化し、50%、60%、70%、80%、90%、100%エタノールに各10分間ずつ浸漬し、100%tert−ブタノールに10分間浸漬した後に一晩冷凍庫で凍結し、凍結乾燥機を用いて3時間凍結乾燥を行った後に、走査型電子顕微鏡にてアパタイト複合化3DSTの様子を観察した結果である。左上の0 cycleが350倍、右上の10 mM−20cycleが950倍、左下が1000倍で観察した写真である。10 mM−20cycleでは、細胞膜表面と細胞が産出したECMファイバー表面にアパタイトの結晶が観察された。アパタイト結晶はおよそ100〜500 nm程度のサイズである。
(実施例5:細胞の生死の確認)
本実施例では、他の染色法により本発明の複合体中の細胞の生死を確認した。図9Aにその結果を示す。
図9Aに示すように、10 mMのカルシウムとリン酸溶液を用いて20サイクル交互浸漬を行った3DSTを60φの培養ディッシュにのせ、10%のWST−1試薬を含むフェノールレッド不含培地 2mLを添加し、インキュベーターを用いて1時間インキュベートした後の染色写真である。細胞が生存していると、WST−1がホルマザンに変化され、黄色く発色します。3DST全体が黄色染まっていることは、細胞が生存していることを意味する。図9Bには、発色メカニズムを示す。
このように、本発明で生産された複合体は、ハイドロキシアパタイトに加え細胞と細胞が産出したECM成分のみで構成されており、合成化合物を含まず、安全性に優れている。
また、生体組織に密着するため、移植に優れている。
代表的には、アスコルビン酸2−リン酸(リン酸化ビタミンC)を添加するだけで調製でき、誰でも容易に作成できる。
好ましい実施形態では、本発明の複合体は、間葉系幹細胞(MSC)を含むため、高い治療ヒト滑膜細胞(passage 4〜7)を0.1 mMアスコルビン酸2−リン酸(リン酸化ビタミンC)を添加するだけで調製できる。このように、従来の骨・軟骨損傷に対する治療法(自家骨移植・アパタイト埋植・間葉系幹細胞移植)に代わる、より高い骨再生効果を有した新規治療法として期待される。
(実施例6:ウサギを用いた動物実験)
本実施例では、術後6週の時点で骨欠損部に細胞組織体−ハイドロキシアパタイト複合体を充填した群では深層を中心に骨の修復が進むかどうかを確認した。成熟日本白色家兎に3DBT、HA−3DBTを移植し、組織学的評価、サフラニンO染色、力学的試験を行った。
(ウサギ手術のプロトコール)
(麻酔)
1−2歳齢の成熟ウサギ (日本白色家兎)に対して生理食塩水にてネンブタール50mg/kgを耳静脈より5〜10分間かけて注入後、セラクタール5−7mg/kgを臀部に筋肉注射を行う。術後の感染予防のために抗生剤 (セファメジン 0.2g)を投与する。
(手術)
体位をとり滅菌ドレープを用いて術野を清潔とした後、傍膝蓋内側アプローチにより膝関節内に侵入。膝蓋骨を外側に翻転することで大腿骨顆部前面を露出させた。モザイクプラスティーDPと歯科技工用ドリルを用いてφ4mm×4mmの円柱状骨軟骨欠損を作製する。骨軟骨欠損部に細胞組織体単独、あるいは軟骨層のレベルには細胞組織体、軟骨下骨のレベルには細胞組織体−ハイドロキシアパタイト複合体をそれぞれ対応させて充填した後、止血を確認し関節包、皮下、表皮を層々に縫合し手術を終了した。実験の様子を図10に示す。図10に示すように、膝関節に作製したφ4mm×4mmの骨軟骨欠損に3DBT(3DBT群;n=3)またはHA−3DBT単独(HaP−3DBT群;n=3)を移植し、6週後に組織所見、マイクロCTにより評価を行った。なお、3DSTは、上記実施例のように、4.0x10/cm個の家兎滑膜細胞をアスコルビン酸添加下に単層培養し、これを浮遊化し自己収縮を誘導し3DST を作成した。
(評価法)
組織学的検討、レントゲン撮影、マイクロCTにより術後の評価を行った。
(DAPI染色)
DAPI〔4’,6−diamino−2−phenylindole〕は生物の核を染色することから、原虫類の同定検査に併用する。
DAPIの分注
・DAPIは購入後、マイクロチューブに微量ずつ秤量する。
・精密な上皿天秤にマイクロチューブを立て、風袋をとる。
・スパーテルで微量とり、マイクロチューブに入れ、その量を記載しておく。
・メーカーが指定した方法(遮光、冷蔵または冷凍)で保存する。
DAPI保存液
・DAPI 2mg に対し、メタノール1mLの割合で溶解する(2mg/mL)。
・調整後は、遮光、冷蔵する。
DAPI染色液
・PBS 50mLに、DAPI保存液10〜50μLを加えて混合する(0.4〜2.0μg/mL)。
・調整後は、遮光、冷蔵し、なるべく早く使用する。
DAPI染色
・試料に適量載せ、2〜5分間染色する。
・PBSで洗浄する。
以上のようにして染色された核の形態を蛍光顕微鏡により観察し、凝集の程度や発色量により評価を行う。
(結果)
術後6週の時点で骨欠損部に細胞組織体−ハイドロキシアパタイト複合体を充填した群では深層を中心に骨の修復が有意に亢進を認めたが、細胞組織体単独を充填した群では骨修復反応は認められなかった。図11には、形成された三次元複合体を示す。右側が複合体であり、左側が三次元組織単体である。図11では、3DBTをCa溶液とPO4溶液に3DBTを交互浸漬することで細胞が生存した状態で表面にハイドロキシアパタイト(HaP)結晶を沈着させることに成功した(HaP−3DBT)ことを示す。
具体的な結果は、図12〜図13に示す。
図12には、三次元組織単体を移植した結果を示す。左上部:マイクロCT, 左下部:組織像(1倍)、右:組織像拡大(200倍)である。3DBT移植部には骨形成は認めなかった。aは対応する部分を示す。
図13には、三次元組織複合体を移植した結果を示す。左上部:マイクロCT, 左下部:組織像(1倍)、右:組織像拡大(200倍)である。3DBT移植部には骨形成は認めなかった。HA−3DBT移植群では骨欠損へ移植した3DBTの深層中心に良好な骨形成を認めた。aは対応する部分を示す。
(結果)
本実施例によりHA−3DBTの移植実験により、欠損部にCT及び組織上、上海綿骨様の形態を示す骨が形成されたといえる。
ここで、海綿骨と皮質骨の違いとしては、骨を性状と働きで分類すると、海綿の様な空洞の多い構造をした部分(海綿骨)とそれを取り巻く硬い緻密な部分(皮質骨)からできている。海綿骨とは、脊柱椎体、踵骨、長管骨の端近くなどに含まれる海綿状の骨を指す。海綿骨の働きは主に、骨代謝にあずかるため代謝骨ともいわれている。 海綿骨は皮質骨の5〜8倍も速い代謝速度を有し、1年間に全体の20%近く骨が新生骨に置換えられる。皮質骨とは、海綿骨を薄く覆っている骨や、長管骨の中央部のように厚い竹筒状になっている骨をいう。皮質骨は機械的強度を保つ役目をしている。新生骨置換えは年間4%と代謝速度が遅いのが特徴である。
以上から、HA−3DBTの移植実験により、欠損部にCT及び組織上、上海綿骨様の形態を示す骨が形成されたという解釈をしてよいと考えられる。
(実施例7:コラーゲン組成の決定)
次に、本実施例では、本発明の複合体のコラーゲン組成を決定した。
(コラーゲン組成比分析法)
1. 3DBTの前処理およびペプシンによるコラーゲンの抽出
I. 湿重量10mgの3DBTを5mM EDTA/蒸留水溶液200μLの下で、超音波破砕する。
II. 遠心(10,000×g、15分)
III. 上清を廃棄し、上記EDTA溶液を再度加え、超音波破砕する。
IV. 上清が透明になるまでII−IIIを繰り返す。
V. 沈殿を2M尿素・5mM EDTA/0.05M Tris−HCl(pH7.5)50mlにて抽出。4℃で一日×3回繰り返す。
VI. 沈殿を4Mグアニジン塩酸/0.05M Tris−HCl(pH7.5)50mlにて抽出。4℃で一日×3回繰り返す。
VII. 沈殿を20μgペプシン/50mL 0.5M酢酸溶液にて攪拌、4℃で一日×3回繰り返す。
VIII. 5M NaOHを加え、素早くpH8〜8.5へ中和、室温で一日放置する。
(2 塩析による分別沈殿法)
コラーゲンはその溶解度が各型によってNaCl濃度、pHの種々の条件化で異なることを利用し、各型に分別し抽出する手法である。
I. I型・III型とIV型・V型・VI型コラーゲンの分別
i. 1−VIIIを0.7M NaCl/0.5M酢酸溶液で透析する。
ii. 超遠心(100,000×g、1時間)。
iii. 沈殿を保存する(I型・III型コラーゲン含む)。
iv. 上清を1.2M NaCl/0.5M酢酸溶液で透析する。
v. 超遠心(100,000×g、1時間)。
vi. 沈殿を保存する(IV型・V型コラーゲン含む)
vii. 上清を保存する(VI型コラーゲン含む)
II. I型とIII型コラーゲンの分別
i. 2−I―iiiで保存した沈殿を1.0M NaCl/0.05M Tris−HCl(pH7.5)に溶解する。
ii. 超遠心(100,000×g、1時間)。
iii. 上清にNaClを加え4.5Mとし、4℃で一晩放置する
iv. 超遠心(100,000×g、1時間)。
v. 4.5M NaCl/0.05M Tris−HCl(pH7.5)にて洗浄し、4℃で一晩放置する。
vi. 超遠心(100,000×g、1時間)。
vii. 沈殿を2.0M NaCl/0.05M Tris−HCl(pH7.5)にて抽出。3回繰り返す。
viii. 超遠心(100,000×g、1時間)。
ix. 上清をI型コラーゲン溶液として保存する。
x. 沈殿を1.7M NaCl/0.05M Tris−HCl(pH7.5)にて抽出する。3回繰り返す。抽出液をI型コラーゲン溶液として保存する。
xi. 超遠心(100,000×g、1時間)。
xii. 上清をI型コラーゲン溶液として保存する。
xiii. 沈殿を1.0M NaCl/0.05M Tris−HCl(pH7.5)にて抽出。3回繰り返す。
xiv. 超遠心(100,000×g、1時間)。
xv. 上清をIII型コラーゲン溶液として保存する。
III. IV型とV型コラーゲンの分別
i. 2−I−viで保存した沈殿を、1.0M NaCl/0.05M Tris−HCl(pH7.5)に溶解する。
ii. 超遠心(100,000×g、1時間)。
iii. 上清にNaClを加え4.5Mとし、4℃で一晩放置する。
iv. 超遠心(100,000×g、1時間)
v. 沈殿を0.5M酢酸に溶解する。
vi. 超遠心(100,000×g、1時間)
vii. 上清にNaClを加え1.2Mとし、4℃で一晩放置する。
viii. 超遠心(100,000×g、1時間)
ix. 沈殿を0.1M NaCl/0.05M Tris−HCl(pH7.5)に溶解する。
x. 超遠心(100,000×g、1時間)
xi. 0.02M NaCl/0.05M Tris−HCl(pH7.5)に透析する。
xii. 超遠心(100,000×g、1時間)
xiii. 上清をIV型コラーゲン溶液として保存する。
xiv. 沈殿を0.5M酢酸溶液に溶解しV型コラーゲン溶液として保存する。
IV. VI型コラーゲンの分別
i. 2−I−viiで保存した上清にNaClを加え、2.0Mとする。
ii. 超遠心(100,000×g、1時間)
iii. 沈殿を0.5M酢酸溶液に溶解しVI型コラーゲン溶液として保存する。
(SDS−PAGE法によるI・III型コラーゲンペプチド鎖の分離および組成比算出)
I型コラーゲンはα1鎖2本とα2鎖1本から、III型コラーゲンはα1鎖3本から構成され、I型コラーゲンのα1鎖−α1(I)とIII型コラーゲンのα1鎖−α1(III)は尿素不含SDS−PAGE法による泳動により同じ分子量を示すことが分かっている。上記3によって得られたI・III型コラーゲン溶液をSDS−PAGE法により泳動し、ゲルをクマシーブリリアントブルー染色し、α1鎖のバンドの濃度を定量し、I型・III型コラーゲンの比を求めることができる。
I. 準備
i. 泳動用ゲル:5%アクリルアミドゲル(尿素不含)
ii. 濃縮用ゲル:3%アクリルアミドゲル(尿素不含)
iii. 電気泳動用緩衝液:SDS−Tris−グリシン
iv. 電気泳動用試料:0.1Mジチオスレイトール/I型・III形コラーゲン溶液14μL + 3倍濃縮SDS緩衝液7μL
II. マーカー色素がゲル下端に達するまで電気泳動する
III. ゲルをクマシーブリリアントブルー染色し、バンドの発色をコンピューター処理にて定量する。
IV. I型:3型コラーゲン組成比 = α1(I)÷2 : α1(III)÷3 となる。
(ハイドロキシプロリン定量法(Woessner法)によるコラーゲン組成比算出)
コラーゲンの全アミノ酸中10%がハイドロキシプロリンであることから、各型のコラーゲン溶液中のハイドロキシプロリンを測定し、コラーゲン組成比とする方法である。I型とIII型の比は3で求められているので、この手法では2で得られたコラーゲン溶液のうちIII型以外を試料とし、I型に対する比を求める。
I. I・III・IV型コラーゲン溶液はTris−HCl(pH7.5)で透析し、V・VI型コラーゲンは0.5M酢酸溶液で透析し、NaClを取り除く。
II. 各試料を封管中で6N HClに110℃で24時間反応させ、コラーゲンを加水分解する。
III. 以下に記す必要な試薬を作成する。
i. ヒドロキシプロリン/0.001N HCl(0.1mg/ml)の標準溶液。これを10倍、100倍、1000倍、10000倍、100000倍希釈した各濃度の標準ヒドロキシプロリン溶液を作成する。
ii. 酢酸クエン酸緩衝液(pH6.0) 50gクエン酸ナトリウム(一水塩)、12ml氷酢酸、120g酢酸ナトリウム(三水塩)、34g水酸化ナトリウムを純水に溶解し計1Lとし、pH6.0に調整したもの。冷所保存。
iii. クロラミンT溶液 クロラミンT1.4gを20mlの純水に溶かし、30mlメチルセロソルブ、50ml酢酸クエン酸緩衝液を加えたもの。保存不可。
iv. p−ジメチルアミノベンズアルデヒド溶液 20gのp−ジメチルアミノベンズアルデヒドをメチルセロソルブに溶かし、計100mlとしたもの。冷所保存。
IV. 試料溶液及びIII−iで作成した標準溶液2mlに1mlのクロラミンT溶液を加える。
V. 室温で20分放置する。
VI. 1mlの過塩素酸溶液(70%過塩素酸27ml+純水、計100ml)を加える。
VII. 室温で5分放置する。
VIII. 1mlのp−ジメチルアミノベンズアルデヒド溶液を加える
IX. 60℃20分加熱し水冷する。
X. 560nmの吸光度を測定する。III−iの吸光度から得られるハイドロキシプロリン濃度―吸光度の標準曲線より、各コラーゲン溶液のハイドロキシプロリン濃度を求める。その比を各型のコラーゲン組成比とする。
(結果)
これらのアッセイにより、所望のコラーゲン組成を有する複合体が得られているかを確認することができる。例えば、コラーゲンI型が60%、コラーゲンII型が5%、コラーゲンIII型が30%、コラーゲンV型が5%のものを得ることができたことを確認することができる。
(実施例8:骨分化誘導)
本実施例では、骨分化誘導を行った場合でも本発明の複合体が機能するかどうかを確認した。
まず、はじめから骨分化誘導培地(10% FBS−DMEM+0.1μM デキサメタゾン、10mM βグリセロホスフェート、0.2mM アスコルビン酸2リン酸)にて培養し、骨分化誘導させた滑膜細胞から人工組織を作製した。
また、骨分化誘導をかけずに三次元の人工組織を作製し、その後、培地を骨分化誘導培地に換えてさらに培養することにより、人工組織に石灰沈着骨が生じることを確認した。
外見上も分化誘導を掛けない人工組織は、透明なのにくらべ、骨形成した人工組織は白色である。アリザリンレッド(Alizarin Red)には強く染色され、アルカリホスファターゼ(ALP)染色もコントロールに比べ強く染色されている。このように、滑膜細胞による人工組織が骨分化能を有することが確認できる。
(実施例9:軟骨分化誘導)
次に、本発明の複合体の製造方法において、軟骨分化誘導が使用可能かどうか確認した。
(培養条件)
細胞密度:4×10/cm
条件:CO 5%, air 95%, 37℃
この培地を用いて、以下の軟骨分化誘導培地を用いて、培養を行い、人工組織を作製した。
軟骨分化誘導培地:DMEM(GIBCO)、FBS(HyClone) 10%、ITS+Premix(インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸)(BD Biosciences)6.25μg/ml、デキサメサゾン(Sigma) 10−7M、アスコルビン酸(WAKO)50μg/ml,ピルビン酸(SIGMA) 100μg/ml。
その結果を、通常の培地、軟骨分化誘導培地、軟骨分化誘導培地+BMP−2、軟骨分化誘導培地+TGF−b1で人工組織を培養したものを挙げることができる。いずれにおいてもアルシアンブルー染色にて青く染まり軟骨様マトリックス産生の亢進が確認できるが、その効果はBMP−2添加群にて著明である。
人工組織における軟骨関連遺伝子の発現(アグリカン、Col II、Sox9)を試験すると、人工組織を通常の培地から軟骨分化誘導培地に換えると軟骨分化マーカーであるSox9遺伝子の発現が亢進し、さらに 軟骨分化誘導培地+BMP−2で培養するとCollagen II遺伝子発現も亢進し、より強力な軟骨分化が確認できる。同じ分化誘導刺激を加えた際の軟骨分化反応を単層培養滑膜細胞と三次元人工組織化した滑膜細胞とで比較すると、軟骨分化誘導培地、あるいは軟骨分化誘導培地+BMP−2の刺激を加えた場合、軟骨分化マーカー遺伝子の発現は人工組織においてより著明に発現していることが確認され、三次元化された人工組織は強い軟骨分化能を持つことが確認される。
(実施例10:軟骨修復)
次に、軟骨修復が可能であるかどうかを確認する。ここでは、同種異系の人工組織を使用する。
人工組織の接着能の有無を確認するため、豚軟骨片上に同種の人工組織を移植した。人工組織は、細胞数4.0x10個/35mm 皿、アスコルビン酸1mM、培養期間7〜14日間という条件で作製した。軟骨片に径6mmの創を作成し、上層帯をメスにて切除し、コンドロイチナーゼABC(1U/1ml)を添加し、5分間処理した。人工組織を径6mmとなるように採型・移植し、7日間器官培養した。人工組織は、軟骨片接着面と密に接着し、接着面にフィブロネクチンが集結する。
次に、豚軟骨移植を施行した。上記同様、生体の大腿骨内果部に径6mmの創を作成し、上層帯をメスにて切除し、コンドロイチナーゼABC(1U/1ml)を添加し、5分間処理した後に同種人工組織を径6mmとなるように採型・移植し、10日間飼育する。人工組織と軟骨組織との接着面は、細胞を介した接着ではなく、人工組織のマトリクスと軟骨のマトリクスとが直接接着していることが明らかになる。接着面にはフィブロネクチンおよびビトロネクチンが集積していることがわかる。つまりこれら接着因子が人工組織と被移植組織の接着に関与していることが示唆される。従って、本発明は、従来の人工組織、あるいは細胞よりも、天然での癒合が顕著であるという点でも特徴的であることがわかる。
さらに、約1ヶ月後の組織所見では、人工組織は、軟骨損傷部は生物学的に結合しており、炎症を起こさずに定着していたことが確認される。周囲の組織との癒合を観察したところ、生物学的結合がなされていたことが明らかになる。人工組織の表層部は、繊維芽細胞様の細胞主体であったが、深層部では、軟骨様細胞が主体である。このことから、移植された人工組織は深層部において経時的に軟骨様組織へと分化していくことが示される。いずれの時期においても顕著な拒絶反応は認められず、同種移植の際に危惧された拒絶反応は認められない。
従って、同種異系の人工組織を用いた移植処置により、副作用なく処置可能であることが分かる。
(実施例11:半月修復)
次に、本発明の複合体が半月修復においても使用可能かどうかを確認する。
上記実施例6同様、同種の人工組織を、細胞数4.0x10個/35mm皿、アスコルビン酸2リン酸1mM、培養期間7〜14日間という条件で作製した。半月に径5.5mmの欠損を作成した後に、人工組織を移植した。人工組織が生着するまでの保護として、コラーゲンシート(ニプロ(株))を用いて欠損部を被覆し、1ヶ月後間飼育した。以下にプロトコールを示す。
(麻酔)
15〜17週齢の豚(LWD三元交配種)に対してケタラール20mg/kg + セラクタール10mg/kgを後頚部より筋注を行った。その後耳静脈より輸液ルートを確保後、気管内挿管により気道確保を行い、ディプリバン 0.5mg/kg/hrの持続注入により麻酔の維持を行った。術後の感染予防のため抗生剤(セファメジン1g)を投与した。
(手術)
体位をとり、滅菌ドレープにより術野を清潔とした後、傍内側膝蓋アプローチにより膝関節内に侵入。内側関節包を同定した後その中央部で切離。助手が下腿を屈曲+外旋させ、さらに前方引き出しを行うことで内側半月の前角部を展開。同部にφ6.5mmの円柱型の欠損をモザイクプラスティーDP(Smith & Nephew)により作成した。欠損部に人工組織を充填した。人工組織が生着するまでの保護のため、コラーゲンシート(ニプロ(株))を半月の周囲に巻きつけ縫合により固定を行った。止血を確認した後、切離した内側側副靭帯を修復し、関節包、皮下、表皮を縫合。膝関節屈曲位にてギプス固定とし、手術を終了した。
(評価法)
肉眼所見、組織学的検討により行った。
(結果)
術後4週の肉眼所見および組織学的所見により人工組織を充填した群において修復が有意に改善を認めた。
組織像では、注目すべきことに、移植後4週で人工組織内にエオジン陽性が認められ、半月組織様のマトリクスの形成を認め、また、隣接する半月組織との生物学的結合は完了していた。
(実施例12:ブタの腱・靭帯組織の修復)
本実施例において、ブタにおいて腱・靭帯組織を対象とする修復手術を行う。腱・靭帯組織の損傷状態を確認し、その際に滑膜細胞を一部採取して、滑膜細胞を培養し、実施例1に記載されるようなプロトコールを用いて人工組織を作製する。
次に、手術時に、腱・靭帯組織の損傷部位の周囲を切除して、新鮮化した後、上記のように作製した人工組織を配置する。その際、人工組織は接着因子を有することから、縫合する必要なしに癒合する。そのプロトコールを以下に示す。
(麻酔)
15〜17週齢の豚(LWD三元交配種)に対してケタラール20mg/kg + セラクタール10mg/kgを後頚部より筋注を行った。その後耳静脈より輸液ルートを確保後、気管内挿管により気道確保を行い、ディプリバン 0.5mg/kg/hrの持続注入により麻酔の維持を行った。術後の感染予防のため抗生剤(セファメジン1g)を投与した。
(手術)
体位をとり、滅菌ドレープにより術野を清潔とした後、傍内側膝蓋アプローチにより膝関節内に侵入。内側関節包の剥離を進め内側側副靭帯を同定し、モザイクプラスティーDP(Smith & Nephew)によりφ3.5mmの欠損部を内側側副靭帯の大腿骨付着部より1横指遠位に作成した。欠損部に人工組織を充填した後関節包により被覆。止血を確認した、関節包、皮下、表皮を縫合。膝関節軽度屈曲位にてギプス固定とし、手術を終了した。
(評価法)
組織学的検討はFrankらの方法に基づき行った(J.Orthop.Res.13;923−9,1995)。
(結果)
術後6週で肉眼所見および組織学的所見により人工組織を充填した群において修復が有意に改善する。
(実施例13:ブタの骨の修復)
本実施例では、ブタにおいて骨の修復実験を行う。実施例1に記載されるようなプロトコールを用いて、滑膜細胞の複合体を作製する。
次に、この人工組織を、骨に適用する。主に骨膜組織と同様に骨皮質を被覆することによって患部に適用する。その結果、滑膜細胞を用いた人工組織は、骨の修復に効果があることがわかる。そのプロトコールを以下に示す。
(麻酔)
15〜17週齢の豚(LWD三元交配種)に対してケタラール20mg/kg + セラクタール10mg/kgを後頚部より筋注を行う。その後耳静脈より輸液ルートを確保後、気管内挿管により気道確保を行い、ディプリバン 0.5mg/kg/hrの持続注入により麻酔の維持を行う。術後の感染予防のため抗生剤(セファメジン1g)を投与する。
(手術)
体位をとり、滅菌ドレープにより術野を清潔とした後、第2中足骨上に縦切開を加え侵入。第2中足骨の骨膜をメスにより可及的に切除、中足骨表面を露出した。中足骨表面に横1.5cm×縦3cmの開窓を骨ノミにて行った後、開窓部の骨表面を広げた人工組織で被覆した。人工組織の接着を確認し、皮下および表皮を縫合。下腿ギプス固定とし手術を終了する。
(評価法)
レントゲン撮影。マイクロCT。組織学的検討
(結果)
術後4週の評価において、人工組織を被覆した群において開窓部における骨形成の有意な亢進を確認する。
以上のように、本発明の好ましい実施形態および実施例を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
本発明は、従来治療が困難であった疾患の根本的な治療方法、技術、医薬、医療デバイスを提供するという有用性を有する。特に、ハイドロキシアパタイトを自然な形で細胞と複合体化させることによって、天然に近い状態への回復を促進するという意味において、画期的な治療および予防を提供し、そのために使用される医薬、細胞、組織、組成物、システム、キットなどの提供において本発明は有用であることが理解される。
本発明がターゲットとする骨・軟骨を中心とした関節組織修復・再生のニーズであるが、骨再生のターゲットとなる骨折患者数は年間数十万人にのぼり、また軟骨再生治療の主要なターゲットとなる変形性関節症の潜在患者数は3000万人とも言われており、潜在するマーケットは巨大であり、周辺産業における有用性は高い。骨・軟骨を中心とした関節組織を対象とした再生医療研究は世界で激烈な競争が開始されているが、本発明の人工組織は、患者などの生体より採取した細胞から作成される、安全でかつ独創的なマテリアルであり、副作用などの点からも有用性は高い。
図1Aは、本発明の交互浸漬法の模式図である。 図1Bは、本発明の交互浸漬法の実際のサイクルの模様を示す。 図2に、上記濃度のカルシウムとリン酸溶液を用いて5×20サイクル交互浸漬を繰り返した後の三次元組織(3DSTともいう)の写真(交互浸漬法前後のヒト滑膜細胞由来3DST)を示す。 図3は、上記濃度のカルシウムとリン酸溶液を用いて5・10・20サイクル交互浸漬を行った3DSTを、10%ホルマリン溶液に10分間浸漬することで固定化し、凍結乾燥機を用いて3日間凍結乾燥を行った後に赤外吸収スペクトル測定機を用いて解析を行った結果(IRスペクトル測定)を示す。アパタイトに特徴的な560、600、960、1070cm−1の吸収スペクトルの発現を確認した。 図4は、上記濃度のカルシウムとリン酸溶液を用いて5・10・20サイクル交互浸漬を行った3DSTを、10%ホルマリン溶液に10分間浸漬することで固定化し、凍結乾燥機を用いて3日間凍結乾燥を行った後にX線回折測定機を用いて測定した結果(X線回折測定)を示す。アパタイトの結晶構造に特異的な26、32、39(degree)のピークを確認した。 図5は、上記濃度のカルシウムとリン酸溶液を用いて10・20サイクル交互浸漬を行った3DSTを、10%ホルマリン溶液に10分間浸漬することで固定化し、50%、60%、70%、80%、90%、100%エタノールに各10分間ずつ浸漬し、100%tert−ブタノールに10分間浸漬した後に一晩冷凍庫で凍結し、凍結乾燥機を用いて3時間凍結乾燥を行った後に、走査型電子顕微鏡にてアパタイト複合化3DSTの様子を観察した結果(走査型電子顕微鏡写真)を示す。左上の0cycleは450倍、20cycle右上は3000倍、右下は35000倍の写真である。 図6に示すように、3x10 cell/cmの細胞濃度でカバーガラスに24時間接着させたヒト滑膜細胞を、10、50、100、200 mMの塩化カルシウム/0.05 Mトリス緩衝液(pH=7.4)とリン酸水素2ナトリウム/0.05 Mトリス緩衝液(pH=7.4)を用いて10・20サイクル交互浸漬を行い、LIVE/DEAD染色により細胞の生存・死滅を確認した(3DSTは用いず、細胞を直接交互浸漬することでカルシウムとリン酸溶液の濃度が細胞に与える毒性を評価した)(カルシウム・リン酸溶液濃度と交互浸漬回数の滑膜細胞への影響)。この結果より、50 mM以下のカルシウム・リン酸溶液は細胞毒性を示さないことが判明した。100、200 mMでは、細胞が赤く染まることから死細胞の存在が確認された。 図7は、10、50、100、200 mMの塩化カルシウム/0.05 Mトリス緩衝液(pH=7.4)とリン酸水素2ナトリウム/0.05 Mトリス緩衝液(pH=7.4)を用いて3DSTを10・20サイクル交互浸漬を行い、QIAGEN DNeasy Tissue Kitを用いてDNA量を定量した結果(交互浸漬後の3DSTのDNA量の評価による溶液濃度と交互浸漬回数の影響)を示す。DNA量の減少は細胞の死滅を意味する。この結果は、図6のLIVE/DEAD染色と同様に50 mMまでの濃度では交互浸漬をしない場合とDNA量がほぼ一緒であるため細胞毒性が無いことがわかるが、100 mM以上になるとDNA量が減少し、細胞毒性があることが確認された。 図8は、10 mMのカルシウムとリン酸溶液を用いて20サイクル交互浸漬を行った3DSTを、10%ホルマリン溶液に10分間浸漬することで固定化し、50%、60%、70%、80%、90%、100%エタノールに各10分間ずつ浸漬し、100%tert−ブタノールに10分間浸漬した後に一晩冷凍庫で凍結し、凍結乾燥機を用いて3時間凍結乾燥を行った後に、走査型電子顕微鏡にてアパタイト複合化3DSTの様子を観察した結果(10mMで20サイクル後の走査型電子顕微鏡写真)である。左上の0 cycleが350倍、右上の10 mM−20cycleが950倍、左下が1000倍で観察した写真である。10 mM−20cycleでは、細胞膜表面と細胞が産出したECMファイバー表面にアパタイトの結晶が観察された。アパタイト結晶はおよそ100〜500 nm程度のサイズである。 図9Aに示すように、10 mMのカルシウムとリン酸溶液を用いて20サイクル交互浸漬を行った3DSTを60φの培養ディッシュにのせ、10%のWST−1試薬を含むフェノールレッド不含培地 2mLを添加し、インキュベーターを用いて1時間インキュベートした後の染色写真(10mMで20サイクル後のWST−1染色による細胞生存確認)である。細胞が生存していると、WST−1がホルマザンに変化され、黄色く発色します。3DST全体が黄色染まっていることは、細胞が生存していることを意味する。図9Bには、発色メカニズムを示す。 図9Bには、図9Aにおいて用いた発色メカニズム(HAp−3DSTの細胞生存確認)を示す。 図10は、実施例7の実験の様子を示す。骨軟骨欠損部に細胞組織体単独、あるいは軟骨層のレベルには細胞組織体、軟骨下骨のレベルには細胞組織体−ハイドロキシアパタイト複合体をそれぞれ対応させて充填した後、止血を確認し関節包、皮下、表皮を層々に縫合し手術を終了した。 図11には、形成された三次元複合体を示す。右側が複合体であり、左側が三次元組織単体である。 図12には、三次元組織単体を移植した結果を示す。左上部:マイクロCT, 左下部:組織像(1倍)、右:組織像拡大(200倍)である。3DBT移植部には骨形成は認めなかった。aは対応する部分を示す。 図13には、三次元組織複合体を移植した結果を示す。左上部:マイクロCT, 左下部:組織像(1倍)、右:組織像拡大(200倍)である。3DBT移植部には骨形成は認めなかった。HA−3DBT移植群では骨欠損へ移植した3DBTの深層中心に良好な骨形成を認めた。aは対応する部分を示す。

Claims (40)

  1. 細胞と、ハイドロキシアパタイトとの複合体。
  2. 前記ハイドロキシアパタイトは、前記細胞の表面に付着される請求項1に記載の複合体。
  3. 前記ハイドロキシアパタイトは、前記細胞の表面に直接結合している、請求項1に記載の複合体。
  4. 前記ハイドロキシアパタイトは、前記細胞の細胞膜表面上に微結晶が形成された状態で存在する、請求項1に記載の複合体。
  5. 前記細胞は、三次元組織構造を有する、請求項1に記載の複合体。
  6. 前記細胞は、第三次元方向に生物学的に結合されている(integrated)、請求項1に記載の複合体。
  7. 前記細胞は、周囲との生物学的結合能(integration capability)を有する、請求項1に記載の複合体。
  8. 前記生物学的結合能は、周囲の細胞および/または細胞外マトリクスとの接着能を含む、請求項4に記載の複合体。
  9. 前記細胞に由来する細胞外マトリクスを含む、請求項1に記載の複合体。
  10. 前記細胞外マトリクスは、コラーゲンI、コラーゲンIII、ビトロネクチンおよびフィブロネクチンからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項9に記載の複合体。
  11. コラーゲンとして、10〜90%のコラーゲンIを含む、請求項10に記載の複合体。
  12. コラーゲンとして、10〜90%のコラーゲンIIを含む、請求項10に記載の複合体。
  13. コラーゲンとして、10〜90%のコラーゲンIIIを含む、請求項10に記載の複合体。
  14. 前記細胞に由来するプロテオグリカンを含む、請求項1に記載の複合体。
  15. 前記プロテオグリカンは、ヒアルロン酸を少なくとも0.1〜90%含有する、請求項14に記載の複合体。
  16. 前記プロテオグリカンは、フィブロネクチンを少なくとも0.1〜90%含有する、請求項14に記載の複合体。
  17. 前記細胞外マトリクスが前記細胞と前記ハイドロキシアパタイトとの間に配置される、請求項10に記載の複合体。
  18. 前記細胞外マトリクスが前記複合体中に分散して配置される、請求項10に記載の複合体。
  19. 前記細胞外マトリクスが前記複合体中に均一に分散して配置される、請求項10に記載の複合体。
  20. 前記ハイドロキシアパタイトは、結晶として存在する、請求項1に記載の複合体。
  21. 前記結晶は、六方晶、板状および棒状から選択される形態を有する、請求項20に記載の複合体。
  22. 前記細胞は、幹細胞である、請求項1に記載の複合体。
  23. 前記細胞は、組織幹細胞である、請求項1に記載の複合体。
  24. 前記細胞は、コラーゲンを発現する細胞である、請求項1に記載の複合体。
  25. 前記細胞は、I型コラーゲンおよびIII型コラーゲンを発現する細胞である、請求項1に記載の複合体。
  26. 前記細胞は、間葉系幹細胞である、請求項1に記載の複合体。
  27. 前記細胞は、生きた細胞である、請求項1に記載の複合体。
  28. 前記細胞は、複合体形成前のDNA量に比べ、少なくとも50%のDNA量を保持するか、または生細胞検出法によって検出されるものである、請求項1に記載の複合体。
  29. 前記生細胞検出法は、MTTアッセイまたはWST−1アッセイである、請求項28に記載の複合体。
  30. カルシウムイオンを含み、かつ、実質的にリン酸イオンを含まないカルシウム溶液と、リン酸イオンを含み、かつ、実質的にカルシウムイオンを含まないリン酸溶液とに、細胞または細胞集団を交互に浸漬させて、該細胞または細胞集団の少なくとも表面にハイドロキシアパタイトを生成および固定させる工程を含む、ハイドロキシアパタイト複合体の製造方法。
  31. 前記細胞または細胞集団が、人工組織であることを特徴とする請求項30に記載の製造方法。
  32. 前記細胞または細胞集団が、幹細胞を含む、請求項30に記載の製造方法。
  33. 前記実質的にカルシウムイオンを含まない濃度とは、ハイドロキシアパタイトの形成が進行しない濃度である、請求項30に記載の製造方法。
  34. 前記実質的にリン酸イオンを含まない濃度とは、ハイドロキシアパタイトの形成が進行しない濃度である、請求項30に記載の製造方法。
  35. 前記ハイドロキシアパタイトの生成および固定させる工程の後、前記複合体における細胞表面でのハイドロキシアパタイトの沈着度を確認し、その結果に基づき該生成および固定させる工程を反復する工程を包含する、請求項30に記載の製造方法。
  36. 前記イオンの濃度は、10〜200mMである、請求項30に記載の製造方法。
  37. 前記イオンの濃度は、10〜50mMである、請求項30に記載の製造方法。
  38. 前記浸漬の時間は、1分以下である、請求項30に記載の製造方法。
  39. 請求項30に記載の製造方法により得られたことを特徴とするハイドロキシアパタイト複合体。
  40. 請求項1または39に記載の複合体から実質的になる生体適合性材料。
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