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JP2008141981A - 乳酸の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】粗製乳酸を、電気エネルギー消費量や薬品使用量を極小化し、排水処理も不要であるような新規な手法によって精製する。
【解決手段】粗製乳酸をpH3以下に調整して膜1で逆浸透膜処理することにより糖類を濃縮側C1に移行させて分離除去し、この透過液P1をpH8〜10に調整して膜2で逆浸透膜処理することにより、主として低濃度アンモニア水からなる透過液P2と乳酸アンモニウムを主体とする濃縮液C2を得る。この濃縮液C2からアンモニアを除去して乳酸に精製する。膜1,2には架橋ポリアミド系複合膜を用いることが好適である。
【選択図】図2

Description

本発明は、乳酸の製造方法に関し、より詳しくは、米または澱粉質を含む農産物を原料として発酵により得た粗製乳酸を精製して乳酸を製造する方法に関する。
従来から米などの澱粉質と糖質とを含む農産物を原料として発酵により乳酸の製造を行っている。乳酸は、食品添加物、薬品の原料などに用いられると共に、現在普及しつつある生分解性プラスチックであるポリ乳酸の原料にもなる。
このような乳酸発酵工程を主体にした製造方法は、大別すると、乳酸カルシウムから乳酸に精製する方法と、乳酸発酵によって得られたアンモニア型の粗製乳酸から乳酸に精製する方法とがある。
前者は、一般的に糖類原料を用いて乳酸発酵を経て得られた粗製乳酸を、カルシウム塩を用いて沈殿させて乳酸カルシウムとして回収し、その後、酸たとえば硫酸と反応させて乳酸に精製する方法であり、古くから乳酸製造に用いられてきた方法であるが、乳酸に生成する際に硫酸で反応分離するために大量の硫酸カルシウムの廃棄物が発生するなどの欠点があった。
後者は、これに対する代替法として、乳酸発酵によって得られたアンモニア型の粗製乳酸を電気透析法または陽イオン交換法によって乳酸に化学変化させて精製する方法である。その一例として、特許文献1は、イオン交換膜を用いた電気透析法によりアンモニア型粗製乳酸を乳酸に精製する方法を開示している。
特開平7−155191号公報
特許文献1記載の方法では、乳酸発酵後のアンモニア型の粗製乳酸(以下、「粗製乳酸」と呼ぶ)を電気透析または陽イオン交換する技術によって乳酸を精製している。したがって、電気透析装置において精製処理のための電気エネルギー消費量が大きく、精製コストがかかり、乳酸の価格を上げる原因になる。
また、陽イオン交換樹脂法ではアンモニウムイオン吸着後の再生において大量の硫酸あるいは塩酸を用いる必要があり、そのための薬品の取り扱いや排水処理などに手間がかかっている。
さらに、電気エネルギーの消費や、再生のための薬品廃液の排出は、経済的でないばかりか環境に対して大きな負荷を与えるものであり、好ましいものではない。
したがって、本発明が解決しようとする課題は、粗製乳酸を、電気エネルギー消費量や薬品使用量を極小化し、排水処理も不要であるような新規な手法によって精製することにある。
上記課題を解決することを目的として、本発明者は、電気エネルギーの使用量が小さく、さらに薬品使用量も小さく排水の処理が不必要であることを条件にして、逆浸透膜の応用をこの精製手段に適用することを検討し、試験と研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、請求項1に係る本発明は、澱粉質と糖類とを含む原料を発酵させ、得られた粗製乳酸を逆浸透膜処理して糖類を分離して乳酸に精製することを特徴とする乳酸製造方法である。
逆浸透処理法に用いる逆浸透膜は、架橋ポリアミド系複合膜であることが好ましい(請求項2)。架橋ポリアミド系複合膜は、ポリスルホン多孔質膜などの支持体表面に直接界面重縮合法などによって超薄膜の架橋ポリアミド機能層を均一に形成させたものであり、1MPa以下の処理液の加圧でも逆浸透膜法を容易に実行できる利点がある。そればかりか、この架橋ポリアミド系の逆浸透膜は荷電性の性質からpH条件によって対象物質に対する分離性能が変化するという性質も併せ持つので、この性質を利用して後記するように効率的な処理が可能となる。
すなわち、架橋ポリアミド系複合膜を逆浸透膜として用いた場合、該逆浸透膜処理に供する被処理液のpHを3以下に調整することが好ましい(請求項3)。pH3以下に調整された、乳酸と糖類とを主成分とする原料(被処理液)を、架橋ポリアミド系複合膜による逆浸透膜で処理した場合、該架橋ポリアミド系複合膜は実質的に乳酸を透過させるので乳酸リッチな透過液が得られ、被処理液中の糖類は分離されて濃縮液に残される。したがって、この透過液を用いることで、乳酸の精製を効率的に行うことができる。
本発明の好適な実施形態においては、逆浸透膜処理を段階的に行う。すなわち、pH3以下に調整された被処理液を第一の逆浸透膜処理により糖類を濃縮側に移行させて分離除去し、この第一の透過液をpH8〜10に調整した後、これを第二の逆浸透膜処理により、主として低濃度アンモニア水からなる第二の透過液と乳酸アンモニウムを主体とする第二の濃縮液とに分離する(請求項4)。そして、第二の逆浸透膜処理により得られた第二の濃縮液からアンモニアを除去して乳酸を精製することができる(請求項5)。
ここで、第二の逆浸透膜処理により得られた第二の透過液は、発酵処理において希釈水として再利用可能である(請求項6)。
また、逆浸透膜処理をより多段階に実行することができる。すなわち、第一の逆浸透膜処理により得られた糖類リッチな第一の濃縮液を、第三の逆浸透膜処理により、糖類が実質的に分離除去された第三の透過液と糖類を高濃度で含有する第三の濃縮液とに分離する(請求項7)。この場合、第三の逆浸透膜処理により得られた第三の濃縮液を発酵原料として再利用可能である(請求項8)。また、第三の逆浸透膜処理により得られた第三の透過液を第一の逆浸透膜処理に供して、該第三の濃縮液に若干量残存する乳酸を回収するための循環式処理を行うと共に、発酵原料のpH調整にも用いることができる(請求項9)。
本発明はまた、澱粉質と糖類とを含む原料を発酵させ、得られた粗製乳酸を逆浸透膜処理して糖類を分離して乳酸に精製する方法において、第一の所定pH範囲では処理液中の乳酸を実質的に透過させるが該処理液中の糖類を透過させずに分離濃縮する性質を有すると共に、該第一の所定pH範囲とは異なる第二の所定pH範囲では処理液中の糖類を実質的に透過させるが該処理液中の乳酸を透過させずに分離濃縮する性質を有する逆浸透膜を用いて、粗製乳酸を第一の所定pH範囲に調整した後、この逆浸透膜による第一段階の逆浸透膜処理を行って糖類を濃縮側に移行させて分離除去し、この第一の透過液を第二の所定pH範囲に調整した後、この逆浸透膜による第二段階の逆浸透膜処理を行って、主として低濃度アンモニア水からなる第二の透過液と乳酸アンモニウムを主体とする第二の濃縮液とに分離し、得られた第二の濃縮液からアンモニアを除去することを特徴とする乳酸製造方法として定義することができ、これによって前述の課題を解決するものである(請求項10)。
第一段階および第二段階の逆浸透処理法における逆浸透膜として架橋ポリアミド系複合膜を用いることが好ましく、この場合、第一の所定pH範囲はpH3以下であり、第二の所定pH範囲はpH8以上である(請求項11)。また、糖類リッチな第一の濃縮液を発酵原料に戻して再利用することが好ましい(請求項12)。
既述したように、従来技術では、乳酸発酵後のアンモニア型の粗製乳酸を精製するために電気透析法または陽イオン交換樹脂法を採用しているが、電気透析法においては精製処理のための電気エネルギーの消費が大きく、精製コストがかかり乳酸の価格を上げる原因になっていた。また、陽イオン交換樹脂法ではアンモニウムイオン吸着後の再生において大量の硫酸あるいは塩酸を用いる必要があり、そのための薬品の取り扱いや排水処理などに手間がかかっていた。さらに、電気エネルギーの消費や、再生のための薬品廃液の排出は、経済的でないばかりか環境に対して大きな負荷を与えるものであり、好ましいものではない。
本発明方法では、架橋ポリアミド系複合膜に代表される逆浸透膜の素材の性質と、糖類、乳酸、アンモニアのpH変動による各分離性能を鋭意実験調査し、その適切な条件と組み合わせとを発見したことによって、電気エネルギーを無駄にせず、廃液さえも発生せずに、経済的かつ環境に負荷の無い、乳酸の精製方法を提供する。
さらに、本発明方法の好適な実施においては、多段階に行われる逆浸透膜処理によって得られる透過液および/または濃縮液を一連の処理サイクルにおいて有効に再利用する手法が提案されているので、きわめて効率の良い乳酸精製方法として有用性が高い。
本発明による乳酸製造方法において乳酸精製を行うための逆浸透膜としては、架橋ポリアミド系複合膜が好適である。既述したように、架橋ポリアミド系複合膜は、ポリスルホン多孔質膜などの支持体表面に直接界面重縮合法などによって超薄膜の架橋ポリアミド機能層を均一に形成させたものであり、1MPa以下の処理液の加圧でも逆浸透膜法を容易に実行できる利点がある。
本発明者は、架橋ポリアミド系複合膜としてカチオンリッチ膜とアニオンリッチ膜の2通りの膜材を準備して、乳酸発酵液の主成分である乳酸、アンモニア、糖類についてpHを変化させたときの分離性能の変化を確認するために、以下の条件で逆浸透膜処理試験を行った。
(試験例1)
(1)試験装置の説明
この試験例において用いた逆浸透膜実験装置の概略構成を図1に示す。試験液槽1に入れた各試験液Aをポンプ2で逆浸透膜3に定圧供給し、そこで濃縮液Bと透過液Cに分離した。すべての試験は、定圧供給と濃縮水流量を固定した運転条件によって実施し、試験液は全循環方式にて一定の液質を維持したままで膜装置3への供給が継続できるようになっている。図中、符号4a,4bは圧力計、符号5a,5bは流量計を示す。
(2)試験条件
カチオンリッチ膜の代表として東レ株式会社製のSU−210(低圧、架橋ポリアミド系複合合成膜、4インチタイプ)を逆浸透膜3に用いた。供給条件は0.75MPa、濃縮水流量1200リットル/hに固定し、室温において、試験液槽1内の処理液Aを水温22℃にして行なった。供給条件の圧力と流量は圧力計4a,4bおよび流量計5a,5bで検知し、図示しない制御手段により制御した。
また、乳酸の分離試験は、1%の乳酸を供給液としてpHをアンモニア水にて10まで調整し、各pHにて試料を採取し分析した。その際のアンモニア濃度も分析して、結果は乳酸同様に濃縮率にて示した。グルコース(ブドウ糖)、スクロース(ショ糖)についても同様に1%濃度において、pHを高くする際にはアンモニア水を添加、低くする際には乳酸を添加して調整した。
(3)試験結果
この試験結果を表1に示す。
Figure 2008141981
表1に示す結果から、pHが3以下であれば、乳酸はこのカチオンリッチ膜においてほぼ濃縮することが無く、透過側Cにその多くが抜けていき、糖類は94%が濃縮側Bに残ることが分かった。したがって、この膜においてpH3以下に調整すれば被処理液Aから糖の除去が行なわれることが分かった。また、このときの濃縮液Bには糖類が高濃度に含有されていることから、これを発酵原料として再利用可能であることが分かった。
また、この試験においてはpH3以下ではアンモニアは添加していないが、乳酸処理液AのpHを上げるためにアンモニアを添加した場合(pH5以上)には80%程度の濃縮が行われて濃縮液Bに残ることが表1の結果から分かった。このことは、発酵後の粗乳酸のようにそもそも処理液A中にアンモニアイオンが存在する場合はその殆どが膜3を透過できずに濃縮液Bに高濃度で残ることになり、これを発酵液のpH調整(pH3以下への調整)用のアルカリとして再利用が可能になるものである。しかし、一方では、pHが10になるとアンモニアに対する分離性能が低下することも分かった。これは、pHが10になると急激にガス化と水溶性の傾向となって逆浸透膜3を透過して透過液C中に含有されてしまうためである。
さらに、この逆浸透膜3は、乳酸に対する分離性能において、pHが8以上になると、pHが3以下の場合とは全く逆に、92%以上の濃縮が可能になって、濃縮液B側に移行することも分かった。
(試験例2)
(1)試験装置の説明
試験例1と同様、図1に示す構成のものを用いた。
(2)試験条件
この試験例では、アニオンリッチ膜の代表として東レ株式会社製のSU−610(超低圧、架橋ポリアミド系複合合成膜、4インチタイプ)を逆浸透膜3に用いた。供給条件は0.35MPa、濃縮水流量1200リットル/hに固定し、室温において、試験液槽1内の処理液Aを水温22℃にして行なった。供給条件の圧力と流量は圧力計4a,4bおよび流量計5a,5bで検知し、図示しない制御手段により制御した。
また、試験例1と同様に、乳酸の分離試験は、1%の乳酸を供給液としてpHをアンモニア水にて10まで調整し、各pHにて試料を採取し分析した。その際のアンモニア濃度も分析して、結果は乳酸同様に濃縮率にて示した。グルコース(ブドウ糖)、スクロース(ショ糖)についても同様に1%濃度において、pHを高くする際にはアンモニア水を添加、低くする際には乳酸を添加して調整した。
(3)試験結果
この試験結果を表2に示す。
Figure 2008141981
表2に示す結果より、pHが3以下であれば、乳酸はこのアニオンリッチ膜においてほぼ濃縮することが無く、透過側Cにその多くが抜けていき、糖類は88%が濃縮側Bに残ることが分かった。一方、pHが8以上であれば、乳酸はこのアニオンリッチ膜によって94%以上の濃縮が可能になるという、pH3以下のときとは正反対の分離性能を示すことが分かった。
また、アンモニア(イオン)の分離性能については、pHが10になると急激にガス化と水溶性の傾向となり逆浸透膜を透過して透過液C中に含有されるが、pH8程度では91%がイオンとして濃縮側Bに移行することから、濃縮液Bには多くが乳酸アンモニウムの形での乳酸が高濃度で含まれていることになる。
また、その透過液Cはアンモニアが実質的に除去された希薄なアンモニア水となるため、これを発酵槽において希釈水として無駄なく用いることができることも分かった。
(分離性能についての総括)
以上の試験結果から、架橋ポリアミド系複合膜を用いた逆浸透膜処理によって乳酸、糖類およびアンモニアに対する分離性能については、次のように評価することができる。
まず、乳酸の分離性能については、試験液のpHの変化によって大きく変動する。表1および表2から明らかなように、試験例1で用いたカチオンリッチ膜(SU−210)ではpH3〜10で乳酸分離率が35〜96%と大きく変化し、試験例2で用いたアニオンリッチ膜(SU−610)でもpH3〜10で乳酸分離率は22〜95%と大きく変化している。したがって、カチオンリッチ膜/アニオンリッチ膜のいずれにしても、処理液のpHが小さいほど乳酸分離率が小さく(乳酸透過率が大きく)、処理液のpHが高くなるにつれて乳酸分離率が大きく(乳酸透過率が小さく)なるものと理解される。このことは、処理液のpHを調整して二段階の逆浸透膜処理を行うことにより、液中の乳酸を透過液側と濃縮液側に分配処理することが可能であることを意味しており、本発明ではこの二段階処理方式を好適な実施形態として採用する。
なお、通常はpH変動の試験では苛性ソーダなどの安定なイオン類を用いるが、アンモニアのようなアルカリ材としては不安定なイオンを用いても、同様の変動が生じることが発明者の試験によって明らかになっている。
次に、架橋ポリアミド系複合膜はカチオンリッチ膜(SU−210)もアニオンリッチ膜(SU−610)も糖類を分離除去する作用に優れており、pHが3〜10の範囲において安定した分離性能が得られている(表1および表2のブドウ糖阻止率(分離率)を参照のこと)が、特にカチオンリッチ膜においてはpH3〜10の範囲で95%以上ときわめて優れた濃縮性能を安定して示すことが分かった。
アンモニアに関しては、カチオンリッチ膜(SU−210)およびアニオンリッチ膜(SU−610)のいずれについてもpH8まではほぼ安定して80%以上の分離性能を発揮するが、前述のように、pHが10になるとガス化および水溶化して膜を透過してしまう。したがって、アンモニアを濃縮側に残すためには、処理液のpHを10以下に調整することが必要である。
なお、アンモニアは、本発明方法において逆浸透膜処理におけるpH調整剤になるばかりか、前段処理である発酵工程においてもpH調整剤に用いる薬剤なので、ここでの濃縮と分離が可能になれば、発酵槽に戻して再利用することが経済的である。そこで、後述するように、本発明の好適な実施形態においては、第二段階の逆浸透処理においてこの再利用を配慮した処理液の分配までを、膜の種類とpHの変化によって行なう手法を提案している。
以上の試験結果および分析を基にして、発酵粗乳酸にして逆浸透膜処理による乳酸精製を、図2に示す処理フローにしたがって実行した。この処理フローと共に、各処理液の液性分析値を示す表3を参照して、以下に詳述する。
Figure 2008141981
1リットル当たりにして乳酸32.5g、ブドウ糖31.5g、アンモニア19.0gを含有する発酵粗乳酸液に酸を加えてpH3以下に調整した。ここでのpH調整には乳酸を用いた。なお、後述するように、膜3による逆浸透膜処理後の透過液P3を発酵粗乳酸に添加すると、透過液P3に含まれる乳酸が発酵粗乳酸液のpHを下げるように働くので、このときのpH調整に使用する酸の量が少なくて済む(または不要になる)利点がある。
pH3以下に調整された処理液(発酵粗乳酸液)を、供給圧力1MPa、流量800リットル/hにて膜1に供給して逆浸透膜処理を行った。この処理は処理液中の糖類を濃縮側に移行させて分離除去するために行うものであり、したがって、膜1は、この所定pH範囲にあっては処理液中の乳酸を実質的に透過させるが該処理液中の糖類を実質的に分離除去する性質を有する。この実施例では試験例1で用いたカチオンリッチ架橋ポリアミド系複合膜SU−210を使用した。前述のように、架橋ポリアミド系複合膜の中でもとりわけカチオンリッチ膜はpH3〜10の範囲において95%以上ときわめて優れた濃縮性能を示すことが分かっている。
発酵終了時または発酵中に得られる粗製乳酸には糖類が残っていることがあり、この糖類は乳酸誘導体を製造する際、エステル反応や合成反応において反応の妨害をするために除去することが好ましい。膜1による逆浸透膜処理を行うことにより粗製乳酸に残っている糖類が分離除去されるので、上記反応妨害を未然に阻止することができる。また、ここで糖類のみを濃縮・分離できれば発酵槽に戻して再利用することが可能になるので、さらに経済的な手法となる(詳しくは後述)。
膜1は糖類を分離するので、膜1を透過した透過液P1中の糖類含量は大幅に低下し、濃縮液C1には糖類が濃縮される。このことが表3に示されている(処理液中のブドウ糖含量31.5g/lがP1では2.3g/lに低下、C1では39.0g/lに増加)。
膜1を透過した透過液P1に対して、アルカリ添加によってそのpHを8以上に調整した。pH調整のために添加するアルカリとしてはアンモニア水を用いた。
次いで、pHを8以上に調整された透過液P1を膜2で逆浸透膜処理して、透過液P2と濃縮液C2とに分離した。この第二段階の逆浸透膜処理は処理液(透過液P1)を乳酸濃縮するために行うものであり、このpH範囲においてはカチオンリッチ膜/アニオンリッチ膜のいずれもきわめて高い乳酸濃縮率を示すので、いずれのタイプの架橋ポリアミド系複合膜も好適に使用可能であるが、本実施例ではアニオンリッチ架橋ポリアミド系複合膜を膜2として使用した。
膜2による逆浸透膜処理の結果、表3に示すように、透過液P1に含まれていた乳酸のほとんどが濃縮側に移行して濃縮液C2に残るので、透過液P2にはブドウ糖も乳酸もきわめて微量が残存しているにすぎず、希薄なアンモニア水であると言える。このアンモニア水は発酵槽において原料溶液の希釈水として無駄なく用いることができる。
膜2の濃縮液C2は乳酸リッチであり且つ糖類をほとんど含まないがアンモニアを多く含む(表3参照)ので、これをアンモニア除去装置に投入してアンモニアを除去した。アンモニア除去は、加熱処理または真空脱気処理などの物理化学的な手法による気液分離法を用いてアンモニアを分離し、乳酸に変化させるために行うもので、本実施例では真空処理脱気処理に基づくアンモニア分離法を採用し、濃縮液C2に含有されるアンモニアの95%程度を除去した。
一方、膜1の濃縮液C1には粗乳酸液中の糖類が多く含まれるが、膜1を透過しきれなかった乳酸も若干量が残っているので、これを膜3の処理液として逆浸透膜処理を行った。この膜3による逆浸透膜処理は糖類をさらに濃縮して発酵液に用いることを主目的としているので、膜1と同様に、糖類の分離性能にとりわけ優れているカチオンリッチ架橋ポリアミド系複合膜(SU−210)を膜3として用いた。
膜3による処理の結果、表3に示すように、処理液C1中のブドウ糖はほとんど分離除去されて濃縮液C3に残され、乳酸と微量のアンモニアを含む透過液P3が得られた。したがって、この透過液P3を発酵粗乳酸液に混ぜて再処理すれば、残存する乳酸を膜2処理後の濃縮液C2において回収することができ、きわめて効率の良い循環処理が可能となる。また、この乳酸を含有する透過液P3を発酵粗乳酸液に混入して用いることは、発酵粗乳酸液のpHを下げることにもなるので、膜1の処理液のpH調整において有利に働く。
膜3処理後の濃縮液C3には、表3に示すように、乳酸と糖類がかなり濃縮されており、本発明法による処理前と比較すると、糖類の量が乳酸を大きく逆転している。そこで、これを乳酸発酵槽に戻して発酵原料として用いることで、効果的な再処理を行うこととする。こうして、さらに乳酸の回収率を高くして、膜2における濃縮液C2における乳酸濃縮率を高めることができる。
以上に記述したように、この本発明実施例によれば、第二段階の逆浸透膜処理において妨害物質となる糖類を第一段階の逆浸透膜処理で除去し、第二段階の逆浸透膜処理によって効率的に乳酸を精製できるだけでなく、第一段階の逆浸透膜処理で除去した糖類を分離濃縮して乳酸発酵原料として再活用することができる。
さらに、本発明によれば、従来の乳酸精製手法であった電気透析法における電力消費量やイオン交換法における薬品使用量、さらには発生する廃液量などについても、きわめて大きなメリットが得られる。このことを実証するため、下記の試験を行った。
(試験例3)
この試験に当たっては、乳酸アンモニアを乳酸に変換するために2室式のバイポーラ膜電気透析法を定電圧方式にて実施し、基準処理必要電気量として0.83Kwh/kg乳酸、電流効率として0.90を適用した(月刊「フードケミカル」1996年6月号「塩をその酸と塩基に変換するバイポーラ膜電気透析法」参照)。また、イオン交換には陽イオン交換樹脂(ローム&ハース社製、商品名「AmberliteIR-120B」を用い、その交換容量は1.9mgeq/ml、有機酸処理での容量係数を0.700、再生は5%硫酸によるものと考えて算定した。
上記の条件にしたがって粗製乳酸100リットル(乳酸3%) の精製を行なった場合の電力消費量と薬品使用量とその廃液量について、従来法である電気透析法およびイオン交換法との比較検討を行なった。その結果を表4に示す。
Figure 2008141981
表4に示すように、本発明法では、従来法である電気透析法に比較して極めて小さな電力消費量で済み、またイオン交換法のように処理の必要となる多量な廃液も出ることがない。よって、精製の方法としては、環境に対して負荷が小さいばかりか、製造コストの面からも優れた方法であると言えることが実証された。
以上に本発明の好適な実施形態について詳述したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内において多種多様な変形を取り得るものである。
試験例1、2に用いた逆浸透膜試験の実験装置を示す概略構成図。 本発明の実施例の処理フロー図である。
符号の説明
1 試験液槽
2 ポンプ
3 逆浸透膜
4a,4b 圧力計
5a,5b 流量計
A 処理液
B 濃縮液
C 透過液
P1 膜1の透過液
C1 膜1の濃縮液
P2 膜2の透過液
C2 膜2の濃縮液
P3 膜3の透過液
C3 膜3の濃縮液

Claims (12)

  1. 澱粉質と糖類とを含む原料を発酵させ、得られた粗製乳酸を逆浸透膜処理して糖類を分離して乳酸に精製することを特徴とする乳酸製造方法。
  2. 逆浸透処理法に用いる逆浸透膜が架橋ポリアミド系複合膜である、請求項1記載の乳酸製造方法。
  3. 逆浸透膜処理に供する被処理液のpHを3以下に調整する、請求項2記載の乳酸製造方法。
  4. 逆浸透膜処理を段階的に行い、pH3以下に調整された被処理液を第一の逆浸透膜処理により糖類を濃縮側に移行させて分離除去し、この第一の透過液をpH8〜10に調整した後、これを第二の逆浸透膜処理により、主として低濃度アンモニア水からなる第二の透過液と乳酸アンモニウムを主体とする第二の濃縮液とに分離する、請求項1または2記載の乳酸製造方法。
  5. 第二の逆浸透膜処理により得られた第二の濃縮液からアンモニアを除去して乳酸を精製する、請求項4記載の乳酸製造方法。
  6. 第二の逆浸透膜処理により得られた第二の透過液を、発酵処理における希釈水として再利用する、請求項4または5記載の乳酸製造方法。
  7. 第一の逆浸透膜処理により得られた糖類リッチな第一の濃縮液を、第三の逆浸透膜処理により、糖類が実質的に分離除去された第三の透過液と糖類を高濃度で含有する第三の濃縮液とに分離する、請求項3ないし6記載の乳酸製造方法。
  8. 第三の逆浸透膜処理により得られた第三の濃縮液を発酵原料として再利用する、請求項7記載の乳酸製造方法。
  9. 第三の逆浸透膜処理により得られた第三の透過液を第一の逆浸透膜処理に供して、該第三の濃縮液に若干量残存する乳酸を回収するための循環式処理を行うと共に、発酵原料のpH調整にも用いる、請求項7または8記載の乳酸製造方法。
  10. 澱粉質と糖類とを含む原料を発酵させ、得られた粗製乳酸を逆浸透膜処理して糖類を分離して乳酸に精製する方法において、第一の所定pH範囲では処理液中の乳酸を実質的に透過させるが該処理液中の糖類を透過させずに分離濃縮する性質を有すると共に、該第一の所定pH範囲とは異なる第二の所定pH範囲では処理液中の糖類を実質的に透過させるが該処理液中の乳酸を透過させずに分離濃縮する性質を有する逆浸透膜を用いて、粗製乳酸を第一の所定pH範囲に調整した後、この逆浸透膜による第一段階の逆浸透膜処理を行って糖類を分離除去し、この第一の透過液を第二の所定pH範囲に調整した後、この逆浸透膜による第二段階の逆浸透膜処理を行って、主として低濃度アンモニア水からなる第二の透過液と乳酸アンモニウムを主体とする第二の濃縮液とに分離し、得られた第二の濃縮液からアンモニアを除去することを特徴とする乳酸製造方法。
  11. 第一段階および第二段階の逆浸透処理法に用いる逆浸透膜が架橋ポリアミド系複合膜であり、第一の所定pH範囲がpH3以下であり、第二の所定pH範囲がpH8以上である、請求項10記載の乳酸製造方法。
  12. 糖類リッチな第一の濃縮液を発酵原料に戻して再利用する、請求項10または11記載の乳酸製造方法。
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