以下、添付の図面も適宜参照しながら本発明を詳細に説明する。図1は、本発明に係る液晶表示装置のいくつかの例を示す断面模式図である。図2は、本発明に係る防眩性偏光フィルム積層体の例を示す断面模式図である。図3は、本発明に係る防眩性偏光フィルム積層体のもう一つの例を示す断面模式図である。図4は、ボロノイ分割を説明するためのボロノイ図の例である。図5は、防眩層を得るための好ましい形態を工程毎に示す断面模式図である。図6は、エッチングの進行状況を模式的に示す断面図である。
本発明の液晶表示装置は、図1に示すように、液晶セル10と、それを挟んで配置される一対の直線偏光子20,21と、いずれか一方の直線偏光子と液晶セル10の間に配置される第一の位相差板26とを備える。液晶セル10は、2枚のセル基板11,12と、それらの間に挟持された液晶層17とを有し、セル基板11,12の向かい合う面には、それぞれ電極14,15が設けられている。そしてこの液晶セル10における液晶層17は、電圧無印加状態では、基板11,12の近傍で、通常は一方の基板11から他方の基板12に至るまで、ほぼ垂直方向に配向している。このように、本発明で対象とする液晶セル10は、いわゆる垂直配向モードのものである。
第一の位相差板26は、フィルム面内の主屈折率をnx及びny、そして厚さ方向の屈折率をnz としたときに、nx>ny≧nz の関係を有している。ここで、フィルム面内の主屈折率とは、フィルム面内で屈折率が最大となる方向(遅相軸方向)の屈折率と、それに直交する方向、すなわち屈折率が最小となる方向(進相軸方向)の屈折率をいい、前者をnx、後者をnyで表す。このように、第一の位相差板26は、一軸性(nx>ny≒nz )又は二軸性(nx>ny>nz )のものである。そして、第一の位相差板26の遅相軸は、隣接する直線偏光子20又は21の透過軸とほぼ平行関係又はほぼ直交関係になるように配置されている。第一の位相差板26の遅相軸とそれに隣接する直線偏光子の透過軸とをほぼ平行又はほぼ直交にすることで、光漏れを抑制することができる。ここで、ほぼ平行又はほぼ直交というときの「ほぼ」は、完全に平行又は直交の状態が望ましいが、実用上は、その角度を中心に±5°程度までは許容されることを意味する。第一の位相差板26の遅相軸と直線偏光子の透過軸とは、どちらかというと、ほぼ平行関係となるように配置するほうが好ましい。
また、本発明では、第一の位相差板26とは反対側のセル基板とそちら側の直線偏光子21若しくは20との間、又は第一の位相差板26と液晶セル10との間に、第二の位相差板27が配置される。第二の位相差板27は、nx、ny及びnz を上記の意味としたときに、nx≒ny>nz の関係を満たすものであり、これは、負の一軸性を有し、光学軸が法線方向にあるフィルム、又はc−プレートとも呼ばれるものである。ここで、nx≒nyとは、nxとnyとが完全に等しい、すなわち、前記式(1)で示される面内の位相差値がゼロであることが望ましいが、面内の配向が実用上無視できる程度、具体的には、面内の位相差値が10nm以内程度、望ましくは5nm以内程度であればよいことを意味する。
さらに本発明では、一方の直線偏光子20の液晶セル10に面する側と反対側の面、すなわち、表示面(視認)側の表面に、所定の表面形状を有する防眩層30が配置される。この防眩層30は、表面に多数の微細な球面が形成された防眩面を有し、その防眩面を上から観察したときに分割されて観察される各球面のドメインのうち、高さが 0.1〜10μm の範囲にあり、面積が25〜2,500μm2 の範囲にあるドメインが全表面の90%以上を占め、かつ平坦部の占める面積が全表面の10%以下である。防眩層30については、後で詳しく説明する。
そして図1では、この防眩層30と表示面側直線偏光子20との積層体、位相差板26及び/又は27が液晶セル10よりも表示面側に配置される場合はそれらを含めた積層体が、防眩性偏光フィルム積層体40又は41として表示されている。液晶セル10の背面側に直線偏光子21と位相差板26及び/又は27が配置される場合は、それらの積層体が、背面側偏光フィルム積層体50として表示されている。
防眩性偏光フィルム積層体40又は41と液晶セル10との間、また、背面側直線偏光子21又は背面側偏光フィルム積層体50と液晶セル10との間は、通常、粘着剤60で貼着される。粘着剤としては、アクリル系などの透明性に優れるものが、一般に用いられる。背面側直線偏光子21のさらに背面には、通常、液晶セル10へ光を供給するためのバックライト70が設けられる。
直線偏光子20,21は、フィルム面内で直交する一方の向きに振動する直線偏光を透過し、他方の向きに振動する直線偏光を吸収するタイプの、一般に偏光フィルム又は偏光板として知られるものでよい。具体的には、ポリビニルアルコールフィルムに一軸延伸と高二色性色素による染色を施し、さらにホウ酸架橋を施したものを用いることができる。高二色性色素としてヨウ素を用いたヨウ素系偏光子や、高二色性色素として二色性有機染料を用いた染料系偏光子があるが、いずれも用いることができる。また、このようなポリビニルアルコール系の直線偏光子そのものであってもよいし、ポリビニルアルコール系直線偏光子の片面又は両面に、トリアセチルセルロースなどの透明高分子からなる保護フィルムが積層された偏光板であってもよい。
表示面側直線偏光子20の片面には防眩層30が配置されるので、この防眩層30に、直線偏光子20の保護フィルムの役割をもたせることができ、またもう一方の面に位相差板26又は27が配置される場合は、この位相差板26又は27に、直線偏光子20の保護フィルムの役割をもたせることもできる。図1(D)に示されるように、表示面側直線偏光子20の片面に防眩層30が設けられ、他方の面が直接、粘着剤60を介して液晶セル10に貼合される場合は、少なくとも、直線偏光子20の防眩層30と反対側の表面には、上記の如き保護フィルムを設けるのが好ましい。
背面側直線偏光子21については、図1(A)、(B)及び(D)に示されるように、その片面に位相差板26又は27が配置される場合は、この位相差板26又は27に、直線偏光子21の保護フィルムの役割をもたせることができる。この場合、直線偏光子21のもう一方の面には、上記の如き保護フィルムを設けるのが好ましい。一方、図1(C)に示されるように、背面側直線偏光子21に位相差板などが積層されない場合は、その両面に上記の如き保護フィルムを設けるのが好ましい。
第一の位相差板26は、nx、ny及びnz を前記の意味としたときに、nx>ny≧nz の関係を有するものである。その面内位相差値R0 は、30〜300nm程度の範囲から、液晶セル10の特性等に合わせて、適宜選択される。また、面内の位相差値R0 と厚さ方向の位相差値Rthとの比R0/Rth は、0を超え2以下であるのが好ましい。かかる特性を有する位相差板は、正の屈折率異方性を有する透明性樹脂からなるフィルムを、適当な条件下で一軸又は二軸延伸することにより得ることができる。正の屈折率異方性を有する透明性樹脂としては、トリアセチルセルロース等のアシル化セルロースに代表されるセルロース系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネートなどを使用することができる。ここで環状オレフィン系樹脂は、ノルボルネンやジメタノオクタヒドロナフタレンのような環状オレフィンをモノマーとする樹脂であり、市販品としては、JSR株式会社から販売されている“アートン”、日本ゼオン株式会社から販売されている“ゼオノア”や“ゼオネックス”(いずれも商品名)などがある。これらの透明性樹脂の中でも、光弾性係数が小さく、使用条件下における熱歪による面内特性ムラの発生などが少ないことから、トリアセチルセルロースや、環状オレフィン系樹脂が好適に用いられる。
第二の位相差板27は、nx、ny及びnz を前記の意味としたときに、nx≒ny>nz の関係を有するものである。かかる位相差特性は、例えば、ディスコティック液晶の基板上への塗布、コレステリック液晶の短ピッチでの基板上への塗布、マイカ等の無機層状化合物の層を基板上に形成すること、樹脂の逐次又は同時二軸延伸、未延伸の溶剤キャストフィルムなどによって、達成することができる。第二の位相差板27は、前記式(1)に相当する面内の位相差値R0 が0〜10nmの範囲にあり、前記式(2)に相当する厚さ方向の位相差値Rthが50〜300nmの範囲にあるのが好ましい。その材質、あるいは基板の材質は特に限定されないが、製造工程が簡便であり、低コストで前記式(2)に相当するRth値を自由にコントロールできる層状化合物の層を形成したものが好ましい。このような位相差特性を示す市販の位相差板としては、例えば、住友化学工業株式会社から販売されている“VACフィルム”、富士写真フィルム(株)から販売されている“フジタック”フィルム(いずれも商品名)などがある。第二の位相差板27は、nx≒ny、したがって、面内の位相差値R0 がほぼゼロなので、たとえ多少のR0 値を有する場合であっても、その遅相軸の軸角度を特に規定する必要はない。
図1の(A)に示す例は、液晶セル10の片面(表示面側)に、液晶セルより遠い側から防眩層30/直線偏光子20/第一の位相差板26の順で積層された防眩性偏光フィルム積層体40が配置され、液晶セル10のもう一方の面(背面側)には、液晶セル側から第二の位相差板27/直線偏光子21の順で積層された背面側偏光フィルム積層体50が配置されたものである。
図1の(B)に示す例は、液晶セル10の片面(表示面側)に、液晶セルより遠い側から防眩層30/直線偏光子20/第二の位相差板27の順で積層された防眩性偏光フィルム積層体40が配置され、液晶セル10のもう一方の面(背面側)には、液晶セル側から第一の位相差板26/直線偏光子21の順で配置された背面側偏光フィルム積層体50が配置されたものである。図1の(A)と(B)の違いは、第一の位相差板26と第二の位相差板27の位置が逆になっているだけである。
図1の(C)に示す例は、液晶セル10の片面(表示面側)に、液晶セルより遠い側から防眩層30/直線偏光子20/第一の位相差板26/第二の位相差板27の順で積層された防眩性偏光フィルム積層体40が配置され、液晶セル10のもう一方の面(背面側)には、直線偏光子21が配置されたものである。
図1の(D)に示す例は、液晶セル10の片面(表示面側)に、液晶セルより遠い側から防眩層30/直線偏光子20の順で積層された防眩性偏光フィルム積層体41が配置され、液晶セル10のもう一方の面(背面側)には、液晶セル側から第二の位相差板27/第一の位相差板26/直線偏光子21の順で積層された背面側偏光フィルム積層体50が配置されたものである。図1(C)では、直線偏光子20/第一の位相差板26/第二の位相差板27の積層体が液晶セル10の表示面側に配置され、その直線偏光子20の表面に防眩層30が配置されるのに対し、図1(D)では、直線偏光子21/第一の位相差板26/第二の位相差板27の積層体が液晶セル10の背面側に配置され、表示面側には、位相差板が配置されていない。
本発明の防眩性偏光フィルム積層体は、図1の(A)〜(C)に示されるような、防眩層30と直線偏光子20と位相差板26及び/又は27が、この順に積層されたものである。この防眩性偏光フィルム積層体40だけを取り出した状態が、図2に断面模式図で示されている。この図では、図1(A)〜(C)に示される第一の位相差板26及び/又は第二の位相差板27を代表させて、位相差板25の符号を付している。すなわち、図2における位相差板25は、nx、ny及びnz を前記の意味としたときに、nx>ny≧nz の関係を有するもの(上で説明した第一の位相差板)であってもよいし、nx≒ny>nz の関係を有するもの(上で説明した第二の位相差板)であってもよい。
さらに、図3に示されるように、nx>ny≧nz の関係を有する第一の位相差板26とnx≒ny>nz の関係を有する第二の位相差板27が積層された状態でもよい。この場合は、第一の位相差板26が直線偏光子20に面して、かつその位相差板26の遅相軸が直線偏光子20の透過軸とほぼ平行関係又はほぼ直交関係になるように配置される。
防眩層30は、表面に多数の微細な球面が形成された防眩面を有し、その防眩面を上から観察したときに分割されて観察される各球面のドメインのうち、高さが0.1〜10μmの範囲にあり、面積が25〜2,500μm2 の範囲にあるドメインが全表面の90%以上を占め、かつ平坦部の占める面積が全表面の10%以下であるようにする。
防眩層30の防眩面を上から見ると、いわゆるボロノイ分割と同様に観察される。ボロノイ分割について、ボロノイ(Voronoi )図の例を示す図4に基づいて説明する。この図に示すように、平面上にいくつかの点(母点という)が配置されているとき、その平面内の任意の点がどの母点に最も近いかによりその平面を分割してできる図を、ボロノイ図といい、その分割のことをボロノイ分割という。分割によって得られる一つの母点を含む個々の区画をボロノイ領域(又はドメイン)と呼ぶ。図4では、一つのボロノイ領域に対してだけ、斜線を付している。この図に示す例では、母点の数が10であり、ボロノイ領域は10個に分かれている。一般にボロノイ図では、母点の数とボロノイ領域の数は一致する。ボロノイ領域の境界の線はボロノイ境界と呼ばれ、また、ボロノイ境界の交点はボロノイ点と呼ばれる。
そして、本発明による防眩面を上から顕微鏡などで見ると、図4に示したようなボロノイ分割された状態と同様な、多角形のドメインに分割された状態で観察される。ただし、母点を定めてボロノイ分割するわけではない。各ドメインが球面を形成しており、ボロノイ境界に相当する図4で直線となっている部分は、上から見たときは直線で観察されるのであるが、その直線に沿う縦断面で見ると、凸又は凹の曲線となる。
この防眩面は、ほぼ全表面が微細な球面状の凸又は凹で覆い尽くされた形状である。すなわち、その防眩面を構成する微細球面からなる各ドメインのうち、高さが 0.1〜10μmの範囲にあり、面積が25〜2,500μm2の範囲にあるドメインが、全表面の90%以上を占め、かつ平坦部の占める面積が全表面の10%以下となるようにする。なお、上の説明からわかるように、ここでいうドメインの面積は、球面の表面積ではなく、フィルム面への投影面積ないしは、上から見て平面的に観察される状態の多角形の面積である。また、ドメインの面積が25〜2,500μm2 ということは、その平方根を仮にドメインの径とすると、当該径が5〜50μm であることに相当する。
上記のような表面形状を有する防眩面は、いくつかの手法で作製することができるが、例えば、フッ化水素を含む水溶液でエッチングすることにより表面に微細な凹凸が形成されたガラスをエンボス鋳型として用い、その凹凸形状を透明樹脂フィルム上に写し取る方法が、有利に採用される。
エンボス鋳型の原版としては、SiO2 を主成分とする一般的なガラスを用いることができる。ガラスは、青ガラスと呼ばれるソーダ石灰ガラス、白ガラスと呼ばれるホウ珪酸ガラス、また石英ガラスなどであることができる。フッ化水素を含む水溶液によりエッチング可能なガラスであって、この水溶液により等方的に溶解する材料であれば、特に制限なく使用可能であるが、エッチングにより表面に発生した微細凹凸形状を透明樹脂フィルムに転写する工程で、熱プレス又は、電離放射線硬化型樹脂が塗布された透明基材を凹凸表面に密着させた状態で電離放射線の照射を受けるなどの工程にさらされるため、これらの処理に耐える材料であることが望まれる。そこで、ガラスの材質としては、熱や電離放射線に対する耐性が高いこと、機械的な強度が高いことなどが望まれ、そのためには、ホウ珪酸ガラス又は石英ガラスが好ましく用いられる。
また、エンボス鋳型が円筒状であれば、連続した長尺フィルム上にエンボス加工を連続的に行うことができるため、ガラスは円筒形状を有することが好ましく、円筒状又は管状のものの入手が比較的容易であるという点からも、ガラスの材質は、ホウ珪酸ガラス又は石英ガラスであることが好ましい。ホウ珪酸ガラスは、例えば、コーニング(Corning )社(日本では旭テクノグラス株式会社)やショット(Schott)社などから、“パイレックス(Pyrex )”や“テンパックス(Tempax)”などの商品名で販売されており、これらを用いることができる。
ガラスは、フッ化水素を含む水溶液との接触により、エッチングされる。このエッチングにより、表面にほぼ球面からなる凹形状が実質的に隙間なく配置された微細な凹凸形状を形成させる。そのためには、ガラスの表面に予め微細な傷を発生させておくのが好ましい。
背景技術の項でも述べた如く、一般にガラス表面に凹凸形状を発生させる手法として、フッ化水素酸を用いたエッチングが知られており、前記した特許文献6には、かかる方法によって凹凸が形成されたガラスを液晶表示パネル用の反射板とすることが開示されている。具体的には、フッ化水素とフッ化アンモニウムを含有する第一エッチング液で1次エッチングを行い、ガラスの主成分であるSiO2 との反応で生じる不溶性の塩によりガラスの表面に不均質な保護膜を形成させ、これによりフッ化水素酸によるエッチングを不均質に進行させ、表面に微細な凹部を形成させた後、アンモニウム化合物を含まない事実上フッ化水素酸のみからなる第二エッチング液で2次エッチングを行い、上記の凹部をエッチング起点として半球状の凹曲面が形成されることが記載されている。ガラスとして最も一般的なのは、ソーダ石灰ガラスである。このような2段エッチングによってガラス表面に凹凸を形成し、これを防眩層用の鋳型として用いることもできる。
しかしながら、ロール形状の実現が容易なホウ珪酸ガラスや石英ガラスなどでは、ガラス自体のエッチング速度が遅いため、不溶性塩の析出条件とこれによる表面凹凸形成条件のバランスがとれず、フッ化アンモニウムを用いた凹凸形成の安定性があまり高いとはいえない。かかる不具合を避けるためには、エッチング前にガラスの表面に微細な傷(クラック)を発生させておき、この状態でフッ化水素を含む水溶液によりエッチングするのが有効である。ガラスの表面に微細な傷を発生させる方法として、例えば、ブラスト処理を挙げることができる。
そこで、好ましい形態では、表面に微細な傷を形成させた後、フッ化水素を含む水溶液と接触させることにより表面に微細な凹凸形状を形成させたガラスを鋳型として用い、その表面の凹凸形状を透明樹脂フィルムの表面に転写する。この方法について、各工程を模式的な断面図で示す図5に基づいて説明する。
図5の(A)は、ガラス80の表面に傷(クラック)81を発生させる手段としてブラスト処理を採用した場合の例を示すものである。ガラス80の表面に適当な圧力でブラスト剤88を衝突させると、微細な傷81,81が形成される。
次に同図(B)に示すエッチング工程では、フッ化水素を含む水溶液(エッチング液)にこのガラス80を接触させ、エッチングを施す。この際、エッチング液は、ガラス80の表面に接触するとともに、傷81,81の内部に浸透してその先端まで到達し、接触している面を順次溶かしていく。そうすると、傷81,81の先端を中心に、凹部が順次、同心円状に広がっていく。図1の(B)では、当初のガラス面82から出発して、エッチング途中のガラス面83,84へと順次ガラスが溶解していく様子を破線で示している。エッチング終了時には、ほぼ球面からなる多数の凹形状85が実質的に隙間なく配置された微細な凹凸形状が形成されて、ガラス鋳型86となる。
こうして得られるガラス鋳型86を用いて、同図(C)に示すように、その凹凸面85をフィルム31に転写する。フィルム31は、熱可塑性の透明樹脂1枚で構成することができ、この場合は、熱可塑性樹脂フィルム31を加熱状態で鋳型86の凹凸面85に押し当てて、熱プレスにより賦型すればよい。また、フィルム31は、図5の(C)に例示するような、透明な基材フィルム32の表面に電離放射線硬化型樹脂層33を形成したもので構成することもでき、この場合は、その電離放射線硬化型樹脂層33を鋳型86の凹凸面85と接触させ、電離放射線を照射してその樹脂層33を硬化させることにより、鋳型86の凹凸形状が電離放射線硬化型樹脂層33に転写される。これらのフィルムについては、後で詳しく説明する。
鋳型86の凹凸形状を転写した後は、同図(D)に示すように、鋳型86からフィルム31を剥離して、防眩フィルム(防眩層)30が得られる。
図5の(B)に示したエッチングの進行状況について、一つの傷81にだけ着目し、その部分の拡大図である図6を参照しながら、さらに詳しく説明する。この図でも、当初のガラス面は符号82で表されており、エッチングの進行につれてガラス面83,84へと順次ガラスが溶解していき、エッチング終了時には凹凸面85が形成されるように表示されている。
傷81が図6のように形成されているとする。この状態でガラス80をエッチング液に接触させると、エッチング液はガラス表面に接触するとともに、傷81の内部に浸透してその先端81aまで到達する。そしてエッチング液は、接触している部分のガラスを順次溶解していく。すなわち、当初のガラス面82からは平面的に徐々に溶解(エッチング)が進行していくとともに、傷81からは横方向にガラスを溶解していき、その先端81aからは、半球状にガラスを溶解していくことになる。今、当初のガラス面82から傷81の深さとほぼ等しい深さh1 (ガラス面83)までエッチングが進んだとすると、傷81の先端81aから始まったエッチング面は、半径がほぼh1 でほぼ半球状の凹面となる。
さらにエッチングが進むと、この凹面は先の半球と同心円状に広がっていくが、ガラス面も同時に符号83の位置から符号84の位置へと削られていくため、局率半径が大きくてガラス表面に対する傾きの小さい部分球面として残ることになる。図6では、傷81の深さに対して約2倍の深さh2 までエッチングを進行させた状態が、ガラス面84としてやはり破線で示されている。最終的には、球面のごく一部である凹面85が残ることになる。当初のガラス面82からエッチング終了時に残っているガラス面までの高さh3 をエッチング深さとする。
なお図6では、作図の都合上、傷81の深さに対して約3倍の深さまでエッチングが進んだところで終了したように表示しているが、実際にはさらに深いところまでエッチングを進行させるのが好ましい。逆にいうと、傷81の深さは、エッチング深さに比べてごく小さいことが好ましい。また、エッチング終了時にも平坦部が残るような表示になっているが、これは一つの傷81にだけ着目して描画したためであって、実際には、隣接する位置にある傷からも別の凹面が広がってくるので、エッチング終了時には平坦部が事実上残らないようになる。
このように、エッチングでガラスの表面をある程度溶解させ、また好ましい形態では、エッチングに先立ってガラスの表面に微細な傷を形成させることから、用いるガラスはある程度の厚さを有する必要があり、その厚さは1mm以上、とりわけ2mm以上であるのが好ましい。
図5に戻って、ブラスト処理等で微細な傷81を発生させたガラス80の表面を等方的に溶解させるエッチング液で処理することにより、実質的に球面である凹面85がガラス80の表面に多数形成される。エッチングにより形成される凹部のサイズは、ブラスト処理により発生した傷81の深さ及びエッチング深さに依存するため、ブラスト処理は可能な限り均質に行うことが望まれる。エッチングにより形成される多球面の各ドメインは、図4を参照して先に説明したボロノイ分割のボロノイ領域と同様に観察される。各ドメインのサイズは、各ドメインの面積で表される。
ブラスト処理により発生させる微細な傷81の深さは、10μm 以下であるのが好ましく、さらには2μm 以下であるのがより好ましい。防眩層が発現するヘイズは、エッチング深さが浅いほど、またエッチング前に形成される微細な傷81の平均深さが深いほど、高くなる傾向にあるため、微細な傷81の深さが10μm を超えると、防眩層のヘイズが高くなりすぎる。各ドメインの面積は、エッチング深さが深いほど、またエッチング前に形成される微細な傷81の平均深さが深いほど、大きくなる傾向にある。
エッチングにより形成されるガラスの凹凸面を透明樹脂フィルムに転写して得られる防眩層が、25〜2,500μm2 の範囲のドメイン面積を有し、10%以下のヘイズ値を示すようにするためには、エッチング前にブラスト処理によりガラス表面に発生させる微細な傷81の平均的な深さを5μm以下、さらには2μm以下とするのが好ましい。エッチング深さは、ブラスト処理により発生させた微細な傷81の平均深さの10倍以上となるようにするのが好ましく、さらには20倍以上、とりわけ50倍以上となるようにするのが一層好ましく、また300μm以下、さらには100〜200μmとなるようにするのが好ましい。エッチング深さが300μm を超えた場合、ドメインの面積が大きくなりすぎ、その凹凸を透明樹脂フィルムに転写して得られる防眩層において、25〜2,500μm2 の面積範囲にあるドメインの占める割合が全表面の90%を下回る可能性があるため、好ましくない。
ガラスの種類、エッチング液の濃度、エッチング条件などにより、要するエッチング時間は変化するが、いずれのガラス、いずれの条件を採用しても、エッチング深さが一定であれば、ほぼ同様な結果を得ることができる。
エッチングにより形成される多球面形状は、面積が25〜2,500μm2 の範囲にあるドメインが全表面の90%以上を占めるようにする。このため、ブラスト処理は可能な限り均質に行うことが望まれる。ドメイン面積の均質性を高めるためには、ブラスト処理に用いられるブラスト剤の粒径分布はできるだけ単分散に近いことが好ましい。ブラスト剤の粒径分布が広い場合、微細な傷81の深さ分布が広くなり、エッチングにより形成される球面形状の各ドメインに分布を生じ、面積が25〜2,500μm2 であるドメインの占める割合が全表面の90%を下回る可能性があるため、好ましくない。
また、ブラスト剤88の粒子形状は、球形に近いほど好ましい。ブラスト剤が球状であれば、ブラスト処理時のガラスとの衝突形態が単一となるため、微細な傷の深さの均質性を高めるために有効である。
ブラスト剤88の平均粒径は、ブラスト条件により適宜選択することが可能であるが、180μm 以下であるのが好ましく、より好ましくは100μm 以下である。ブラスト粒子の粒径が180μm を超えると、微細な傷81の深さを2μm 以下にしようとした場合に、ブラスト圧力が極端に低くなり、ブラスト操作自体が難しくなる。その結果、ブラスト処理後のガラスをエッチングして得られる凹凸面に存在する平坦部が全表面の10%を超えてしまう可能性があり、これを鋳型として形状を転写することにより得られる防眩面は、防眩性が弱く、映り込みを十分に低減させることが難しくなるため、好ましくない。
この目的に使用できる市販のブラスト剤としては、例えば、東ソー株式会社から販売されているジルコニアビーズ“TZ-B53”(平均粒径53μm )、同じく“TZ-B90”(平均粒径90μm )など、またマテリアルサイエンス株式会社から販売されているマイクロジルコンビーズ“MB-20”(平均粒径20μm )、同じく“MB-40”(平均粒径34μm )などが挙げられる。
ブラスト処理で形成される微細な傷81の深さを2μm 以下とするためには、ブラスト圧力を0.01〜0.05MPa(ゲージ圧、以下同じ) の範囲から、ブラスト剤の粒径などに応じて選択するのが好ましい。すなわち、その後のエッチングによりガラス表面にほぼ球面の凹形状が実質的に隙間なく形成されるような傷が形成される条件が採用される。ブラスト圧力が大きくなると、エッチングの結果として得られる微細凹部のサイズが大きくなりすぎ、柄目が粗くなってしまう。一方、ブラスト圧力が小さすぎると、ブラスト粒子がガラス表面で弾性衝突を起こし、有効な微細クラックの密度が激減する。その結果、ブラスト処理後のガラスをエッチングして得られる凹凸面に存在する平坦部が全表面の10%を超えてしまう可能性があり、これを鋳型として形状を転写することにより得られる防眩面は、防眩性が弱く、映り込みを十分に低減させることが難しくなるため、好ましくない。ブラスト圧力が小さい場合に有効な微細クラックの密度が減る傾向は、ブラスト粒子が50μm を下回るほど小さいときに顕著に現れる。また、ブラスト圧力が0.01MPaを下回ると、ブラスト操作自体の安定性が低下してしまうことからも、好ましくない。ブラスト剤の粒径にもよるが、ブラスト圧力が 0.01〜0.05MPaの範囲内で、ブラスト剤の粒径と適切に組み合わせれば、深さ2μm 以下の微細な傷をガラス表面に高密度に効率よく発生させることができる。
得られる防眩層に十分な防眩性を付与するためには、ブラスト剤はガラス面積4cm2 あたり10g以上使用するべきであり、好ましくは100g以上である。ガラス面積4cm2 あたりのブラスト剤の使用量が10gを下回る場合、有効な微細クラック密度が不足するため、エッチング後に発生する凹部がまばらになりすぎる。この結果、エッチング後に得られる凹凸面に存在する平坦部が全表面の10%を超えてしまう可能性があり、これを鋳型として形状を転写することにより得られる防眩面は、防眩性が弱く、映り込みを十分に低減させることができなくなる可能性があるため、好ましくない。
エッチング液は、フッ化水素を含み、ガラスの主成分であるSiO2 を溶解する能力を有すればよい。このような観点からすれば、フッ化水素(HF)の濃度は、1〜50重量%程度の範囲から適宜選択される。フッ化水素の濃度があまり小さくなると、SiO2 を溶解する能力ないしはエッチング速度が極端に低下し、一方でその濃度があまり高くなると、フッ化水素自体が揮発しやすくなる。エッチング液中のフッ化水素の濃度は、好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上であり、また好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは35重量%以下である。エッチング液には、エッチングの安定性やエッチング速度を上げるために、フッ化アンモニウムなどのアンモニウム塩や、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸などのプロトン酸を添加することもできる。
エッチング温度は、必要なエッチング速度を得るために適宜設定されるべきであるが、10〜60℃の範囲が好ましく、とりわけ20℃以上、また50℃以下がより好ましい。10℃以下では実用的なエッチング速度が得られないことに加え、SiO2 とフッ化水素の反応生成物の結晶化が起こり、ガラス表面に析出するため、得られる微細凹凸表面が粗くなり、また多球面形状以外の表面ができ、その結果、防眩面が白ちゃけやすくなる傾向にある。一方でエッチング温度が60℃を超えた場合、フッ化水素の蒸発によりエッチング中に液組成の変化が起こるため、好ましくない。
エッチングが終了した後、ガラスは直ちに、水、好ましくは純水で十分に洗浄し、次いで乾燥して、エンボス加工の鋳型とされる。
かくして得られる表面に凹凸形状が形成されたガラスは、図5(C)を参照して先に説明したとおり、フィルム31の表面にその形状を転写するための鋳型86として用いられる。この際、任意の方法でフィルム表面に鋳型の形状を転写することができる。例えば、熱可塑性樹脂フィルムの表面に、凹凸形状を有するガラス鋳型86を熱プレスし、熱可塑性樹脂フィルムの表面にガラス鋳型86の凹凸形状を転写する方法や、電離放射線硬化型樹脂を透明樹脂フィルムの表面に塗布し、未硬化状態でその電離放射線硬化型樹脂塗布層をガラス鋳型86の凹凸面に密着させ、フィルム越し又はガラス鋳型越しに電離放射線を照射して硬化させ、ガラス鋳型86の凹凸形状を転写する方法などが採用できる。転写後は、図5の(D)に示すように、鋳型からフィルム31を剥離して、防眩層30が得られる。表面の傷つき防止など、機械的強度の観点からは、電離放射線硬化型樹脂を用いる方法が好ましく採用される。
このときに用いられる透明樹脂は、実質的に光学的な透明性を有するフィルムであればよい。具体的には、トリアセチルセルロースやジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネートのようなセルロース系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリ塩化ビニルなどが例示される。環状オレフィン系樹脂は、ノルボルネンやジメタノオクタヒドロナフタレンの如き環状オレフィンをモノマーとする樹脂であり、市販品としては、JSR株式会社から販売されている“アートン”、日本ゼオン株式会社から販売されている“ゼオノア”や“ゼオネックス”(いずれも商品名)などがある。
これらの中で、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、環状オレフィン系樹脂などからなる熱可塑性を有する透明樹脂フィルムは、凹凸形状を有するガラス鋳型に、適当な温度でプレス又は圧着した後、剥離することにより、ガラス鋳型表面の凹凸形状をフィルム表面に転写するのに用いることができる。また、透明フィルムとして偏光板を用い、直接偏光板表面にガラスの凹凸形状を転写することもできる。
一方、電離放射線硬化型樹脂を使用して形状を転写する場合の電離放射線硬化型樹脂としては、分子内に1個以上のアクリロイルオキシ基を有する化合物が好ましく用いられるが、防眩面の機械的強度を向上させるために、3官能以上のアクリレート、すなわち、分子内に3個以上のアクリロイルオキシ基を有する化合物が、より好ましく用いられる。具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、グリセリントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどが例示される。また、防眩面に可撓性を付与して割れにくくするために、分子内にウレタン結合を有するアクリレート化合物も好ましく用いられる。具体的には、トリメチロールプロパンジアクリレートやペンタエリスリトールトリアクリレートの如き、分子内にアクリロイルオキシ基とともに少なくとも1個の水酸基を有する化合物2分子と、ヘキサメチレンジイソシアネートやトリレンジイソシアネートの如きジイソシアネート化合物との付加体等のウレタンアクリレートが例示される。この他、エーテルアクリレート系、エステルアクリレート系等、電離放射線によりラジカル重合を開始し、硬化するその他のアクリル系樹脂も用いることができる。
また、エポキシ系やオキセタン系等、カチオン重合性の電離放射線硬化型樹脂も、硬化後に凹凸が賦型される樹脂として用いることができる。この場合は例えば、1,4−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼンやビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテルの如きカチオン重合性多官能オキセタン化合物と、(4−メチルフェニル)〔4−(2−メチルプロピル)フェニル〕ヨードニウム ヘキサフルオロフォスフェートの如き光カチオン開始剤との混合物が用いられる。
アクリル系の電離放射線硬化型樹脂を紫外線の照射により硬化させる場合は、紫外線の照射を受けたときにラジカルを発生し、重合・硬化反応を開始させるために、紫外線ラジカル開始剤が添加されて用いられる。紫外線の照射は、ガラス鋳型面側から、又は透明樹脂フィルム面側からなされるが、透明樹脂フィルム面側から紫外線照射を行う場合には、フィルムを透過することが可能な紫外線波長領域でラジカル反応を開始するために、可視域から紫外線域でラジカル反応を開始する開始剤が用いられる。
紫外線照射によりラジカル反応を開始する紫外線ラジカル開始剤としては、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モリフォリノプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンなどのほか、特に紫外線吸収剤を含有する透明樹脂フィルム越しに紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂を硬化させる場合には、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等、可視領域に吸収を持つリン系の光ラジカル開始剤が好適に用いられる。
エッチングにより表面に微細な凹凸が形成されたガラス鋳型が平板状である場合には、鋳型面と、未硬化の電離放射線硬化型樹脂が塗布された透明樹脂フィルムとを、鋳型面が塗布面と接するように密着させた状態で、透明樹脂フィルム面側から、又はガラス鋳型面側から電離放射線を照射し、電離放射線硬化型樹脂を硬化させた後、ガラス鋳型から基材フィルムごと剥離され、鋳型の形状が透明フィルム表面に転写される。
ガラス鋳型がロール状であり、かつ電離放射線硬化型樹脂を用いて鋳型の凹凸形状を転写する場合、透明樹脂フィルムは、未硬化の電離放射線硬化型樹脂が塗工された面をガラスロールに密着させた状態で電離放射線が照射され、硬化の後にロール鋳型から基材フィルムごと剥離することにより、連続的にその形状を透明フィルム表面に転写できる。
電離放射線は、紫外線や電子線でありうるが、取扱いの容易さや安全性の観点から、紫外線が好ましく用いられる。紫外線の光源としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプなどが好ましく用いられるが、紫外線吸収剤を含む透明基材越しに照射される場合は特に、可視光成分を多く含むメタルハライドランプなどが好適に用いられる。また、フュージョン社製の“V−バルブ”や“D−バルブ”(いずれも商品名)なども、好ましく用いられる。照射線量は、紫外線硬化型樹脂が鋳型から離型できるまで固化するために十分な線量であればよいが、表面硬度をさらに向上させるために、離型後、塗工面側から再度照射を行ってもよい。
以上のような方法によれば、得られる防眩層(防眩フィルム)は、そのヘイズ値を一般に20%以下とすることができるが、前述したように、そのヘイズ値を10%以下とするのが特に好ましい。ヘイズ値は、 JIS K 7105 に規定されており、(拡散透過率/全光線透過率)×100(%)で表される値である。
こうして、表面にほぼ球面からなる多数の凹形状が形成されたガラスを鋳型とし、その形状を透明樹脂フィルム上に転写した場合には、得られる透明樹脂フィルムの防眩面はほぼ球面からなる多数の凸形状を有するものとなる。一方、防眩面を、ほぼ球面からなる多数の凹形状を有するものとしたい場合には、例えば、表面にほぼ球面からなる多数の凹形状が形成されたガラスの表面形状を、一旦樹脂表面に写し取った後、その樹脂を鋳型として、上の説明に準じて、別の透明樹脂フィルムの表面に上記樹脂鋳型の表面形状を賦型すればよい。
本発明では、こうして形成される防眩面を上から観察したときに分割されて観察される各球面のドメインのうち、高さが0.1〜10μm の範囲にあり、面積が25〜2,500μm2の範囲にあるドメインが全表面の90%以上を占め、かつ平坦部の占める面積が全表面の10%以下となるようにするのであるが、このときの高さは、ドメインが凸形状であれば、その一番高いところと、そのドメインを画定するボロノイ境界に相当する部分のうちの一番低いところとの標高差で表される。一方、ドメインが凹形状であれば、このときの高さは、その一番低いところと、そのドメインを画定するボロノイ境界に相当する部分のうち一番高いところとの標高差で表される。
防眩面の表面形状の観察・測定には、非接触三次元表面形状・粗さ測定機が有利に用いられる。測定機に要求される水平分解能は、少なくとも5μm 以下、好ましくは2μm 以下であり、また垂直分解能は、少なくとも0.1μm 以下、好ましくは0.01μm 以下である。この観察・測定に好適な非接触三次元表面形状・粗さ測定機としては、米国 Zygo Corporation の製品で、日本ではザイゴ株式会社から入手できる“New View 5000 ”シリーズ等を挙げることができる。測定面積は広いほうが好ましく、少なくとも100μm ×100μm 以上、好ましくは500μm ×500μm 以上である。
こうして得られる防眩層30は、その賦型処理が施された面(防眩面)を外側、すなわち直線偏光子20に面しない側として、先に説明した直線偏光子の片面に積層し、直線偏光子のもう一方の面には、やはり先に説明した、nx、ny及びnz を前記の意味としたときに、nx>ny≧nz の関係を有する第一の位相差フィルム及び/又はnx≒ny>nz の関係を有する第二の位相差フィルムを積層して、図2及び図3に例を示したような防眩性偏光フィルム積層体40とされる。積層には、アクリル系粘着剤など、透明性に優れる接着剤が有利に用いられる。
以下、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%及び部は、特記ない限り重量基準である。
実施例1
旭テクノグラス(株)製のホウ珪酸ガラス板(商品名“Pyrex ”、5cm□、4mm厚み)を、東ソー(株)製のジルコニアビーズ(商品名“TZ-SX17 ”、平均粒径35μm )を用いてブラスト処理した。使用したブラスト剤(ジルコニアビーズ)の量は100ml、ブラスト圧力は0.02MPa、ブラストノズルからガラス板までの距離は40cmとし、ブラストガンは固定とした。ブラスト処理は約5分で終了した。ブラスト処理後のガラス板はほぼ透明なままであったが、キーエンス社製の反射型顕微鏡で観察したところ、表面には、約1〜1.5μmの深さで微細なクラックが多数発生していることが確認された。
ブラスト処理後のガラスを、フッ化水素/フッ化アンモニウム/硫酸/水が重量比で5/1/1/10のエッチング液に40℃の温度で1時間浸漬してエッチングし、その後、純水で洗浄して、ガラス鋳型を作製した。エッチング深さは100μm であった。
別途、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの50%酢酸エチル溶液に、光重合開始剤である“ルシリン TPO”(化学名は2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、BASF社製)を、樹脂成分であるジペンタエリスリトールヘキサアクリレート100部あたり5部添加して、紫外線硬化型樹脂溶液を調製した。この紫外線硬化型樹脂溶液を、富士写真フィルム(株)製のトリアセチルセルロースフィルムに#20バーコーターを用いて塗布し、80℃で5分間乾燥した。この塗布フィルムを、先のエッチングにより表面に凹凸を形成したガラス板に、紫外線硬化型樹脂の塗布面がガラス板のエッチング面側となるよう、ハンドローラーを用いて密着させ、高圧水銀ランプを用いて1分間紫外線照射を行った。その後、トリアセチルセルロースフィルム上に硬化型樹脂が硬化した状態のものをガラス板から剥離し、防眩フィルムを得た。
Zygo Corporation 製の非接触三次元表面形状・粗さ測定機“New View 5010”により、この防眩フィルムの表面形状を観察し、画像処理したところ、全面が微細な球面状の凸部で覆われた形状を有し、平坦部は存在していないことが確認された。また、この画像処理の結果から、各ドメインの面積分布を求めたところ、面積が25〜2,500μm2 の範囲にあり、0.1〜10μmの高さを有する球面のドメインが全領域の100%を占めていることが確認された。この防眩フィルムにつき、スガ試験機(株)製のヘイズコンピュータ“HGM-2DP”型を用いてヘイズ値を測定したところ、7.6%であった。
別途、次の偏光板及び位相差板を用意した。
(A)偏光板
商品名“スミカラン SR-1842A ”(住友化学工業(株)製):ポリビニルアルコール−ヨウ素系直線偏光フィルムの両面にトリアセチルセルロースからなる保護フィルムが貼着されたもの。
(B)一軸延伸位相差板
環状ポリオレフィン系樹脂(商品名“アートン”、JSR(株)製)の一軸延伸品であって、R0=100nm 、Rth=50nmのもの(nx>ny>nz )。
(C)二軸延伸位相差板
環状ポリオレフィン系樹脂(商品名“アートン”、JSR(株)製)の二軸延伸品であって、R0=0nm 、Rth=110nmのもの(nx=ny>nz )。
次に、市販の垂直配向モードの液晶表示素子が搭載されたパーソナルコンピュータ用モニターから表示面側偏光板を剥離し、そのオリジナル偏光板の代わりに、上の偏光板“スミカラン SR-1842A ”及び一軸延伸位相差板を、前者の透過軸及び後者の遅相軸がそれぞれ、オリジナル偏光板の透過軸方向と一致するように、液晶セルのガラス面側から位相差板及び偏光板の順にそれぞれ粘着剤を介して貼合した。さらに、上記モニターの背面側偏光板を剥離し、そのオリジナル偏光板の代わりに、上の偏光板“スミカラン SR-1842A ”及び二軸延伸位相差板を、偏光板の透過軸がオリジナル偏光板の透過軸方向と一致するように、液晶セルのガラス面側から位相差板及び偏光板の順にそれぞれ粘着剤を介して貼合した。こうして得られた液晶表示装置の表示面側偏光板の上に、粘着剤を介して、上で得られた防眩フィルムをその凹凸面が外側となるように貼合して、防眩層付き液晶表示装置を作製した。
暗室内でパーソナルコンピュータを起動し、(株)トプコン製の輝度計“BM7 ”型を使用して、黒表示状態及び白表示状態における液晶表示装置の輝度を測定し、コントラストを算出した。ここでコントラストは、黒表示状態の輝度に対する白表示状態の輝度の比で表される。その結果、暗室内でのコントラストは631であった。次に、同評価系を明室内に移し、黒表示状態として、映り込み状態を目視観察した。その結果、映り込みがほとんど観察されず、この液晶表示装置は防眩性を有していることが確認された。
実施例2
エッチング時間を 1.5時間とした以外は、実施例1と同様に操作して、ガラス鋳型を作製し、さらに防眩フィルムを作製した。ガラス板のエッチング深さは150μm 、得られた防眩フィルムのヘイズ値は 4.7%であった。この防眩フィルムを用いて実施例1と同様の手法で評価したところ、暗室内でのコントラストは642と高く、かつ十分な防眩性を併せ持ち、非常に良好な表示特性を有していることが確認された。
以上の実施例1及び2において、ガラスを管状のものに変更して、ほぼ同様の条件で表面にブラスト処理及びエッチングを施したものを鋳型とすれば、防眩フィルムを連続したロール状で作製することができる。管状のホウ珪酸ガラスは、やはり“Pyrex ”の商品名で、旭テクノグラス(株)から入手することができる。
比較例1
ブラスト粒子を東ソー(株)製のジルコニアビーズ“TZ-B53”(平均粒径53μm )に変更し、ブラスト圧力を0.1MPaとした以外は、実施例1と同様に操作して、ガラス鋳型を作製し、さらに防眩フィルムを作製した。この例におけるブラスト処理後のガラス板を反射型顕微鏡で観察したところ、表面に発生したクラックは、深さが約10〜30μm の間でばらついていた。また、得られた防眩フィルムの表面形状を実施例1と同じ非接触三次元表面形状・粗さ測定機“New View 5010 ”で観察し、画像処理したところ、全面が球面状の凸部により覆われた形状を有していたが、ドメインは2,500μm2 を超える面積のものが大半であった。この防眩フィルムのヘイズ値は55%であった。この防眩フィルムを用いて実施例1と同様の手法で評価したところ、防眩性は十分であったものの、暗室内でのコントラストは490と低く、表示特性は十分でないことが確認された。
比較例2
ブラスト圧力を0.01MPaとした以外は、実施例1と同様に操作してガラス鋳型を作製し、さらに防眩フィルムを作製した。得られた防眩フィルムの表面形状を実施例1と同じ非接触三次元表面形状・粗さ測定機“New View 5010 ”で観察し、画像処理したところ、平坦部が全面積の18%残っていた。この防眩フィルムのヘイズ値は 5.4%であった。この防眩フィルムを用いて実施例1と同様の手法で評価したところ、暗室内でのコントラストは630と高かったものの、防眩性能が極めて不十分であり、視認性に劣ることが確認された。
比較例3
実施例1で用いたのと同じ偏光板“スミカラン SR-1842A ”、一軸延伸位相差板 (R0=100nm、Rth=50nm)、及び二軸延伸位相差板(R0=0nm 、Rth=110nm)のほかに、次の防眩層付き偏光板を用意した。
商品名“スミカラン SR-1842A-AG6 ”(住友化学工業(株)製):ポリビニルアルコール−ヨウ素系直線偏光フィルムの両面にトリアセチルセルロースからなる保護フィルムが貼着され、その片面に防眩層が形成されているもの(ヘイズ値24%)。この防眩面は、凹凸面ではあるが、多球面にはなっていない。
実施例1で用いたのと同じ垂直配向モードの液晶表示素子が搭載されたパーソナルコンピュータ用モニターから表示面側の偏光板を剥離し、そのオリジナル偏光板の代わりに、上の防眩層付き偏光板“スミカラン SR-1842A-AG6 ”及び一軸延伸位相差板を、前者の吸収軸及び後者の遅相軸がそれぞれ、オリジナル偏光板の吸収軸方向と一致するように、液晶セルのガラス面側から位相差板及び偏光板の順にそれぞれ粘着剤を介して、かつ防眩層が最も外側となるように貼合した。さらに、上記モニターの背面側偏光板を剥離し、そのオリジナル偏光板の代わりに、上の偏光板“スミカラン SR-1842A ”及び二軸延伸位相差板を、偏光板の吸収軸がオリジナル偏光板の吸収軸方向と一致するように、液晶セルのガラス面側から位相差板及び偏光板の順でそれぞれ粘着剤を介して貼合して、防眩層付き液晶表示装置を作製した。この液晶表示装置について、実施例1と同様の手法で評価したところ、防眩性は十分であったものの、暗室内でのコントラストは580と低く、表示特性は十分でないことが確認された。
以上の実施例1及び2並びに比較例1〜3の結果を表1にまとめた。
[表1]
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実 施 例 比 較 例
1 2 1 2 3
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防眩面の形状 多球面 多球面 多球面 多球面 非多球
形状 形状 形状 形状 面形状
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面積25〜2,500μm2 、
高さ0.1〜10μmである
凸のドメインの割合 100 % 100 % 10 % 50 % −
平坦部の面積の割合 0 % 0 % 0 % 18 % −
ヘイズ 7.6 % 4.7 % 55 % 5.4 % 24 %
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コントラスト 631 642 490 630 580
防眩性 * ○ ○ ○ × ○
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* 防眩性 ○:十分な防眩性を有する。
×:映り込みが大きい。