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JP2005287498A - 核酸分離精製方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 検体中の核酸を、固相に核酸を吸着させる工程、核酸が吸着した状態で該固相を洗浄する工程及び固相から核酸を脱着させる工程によって核酸を分離精製する方法において、工程中に泡の発生を抑制でき、簡便かつ効率よく核酸の分離精製を行うことができる核酸分離精製方法を提供すること。
【解決手段】 (1)核酸を含む試料溶液を固相に接触させて、該固相に核酸を吸着させる工程、(2)洗浄液を該固相に接触させて、核酸が吸着した状態で該固相を洗浄する工程、及び(3)回収液を該固相に接触させて、該固相から核酸を脱着させる工程を含有する核酸分離精製方法において、核酸を含む試料溶液が消泡剤を含むことを特徴とする核酸分離精製方法。
【選択図】 なし

Description

本発明は、核酸を分離精製する方法に関する。より詳細には、本発明は、核酸を分離精製する方法において使用する固相および核酸を含む試料溶液、並びにこれらを使用して核酸を分離精製する方法に関する。
核酸は様々な分野で種々の形態で使用されている。例えば、組換え核酸技術の領域においては、核酸をプローブ、ゲノム核酸、およびプラスミド核酸の形態で用いることが要求される。
核酸は、診断分野においても、種々の形態で種々の目的に用いられている。例えば、核酸プローブは、ヒトの病原体の検出および診断に日常的に用いられている。また、核酸は遺伝障害の検出や食品汚染物質の検出にも用いられている。さらに、核酸は、遺伝地図の作製やクローニング、遺伝子組換えによる形質発現におよぶ種々の目的のために、所定の核酸に関する位置確認や同定、単離において日常的に用いられている。
しかし、多くの場合、核酸は極めて少量でしか入手できず、そしてその単離と精製との操作が、煩雑であり多くの時間を要する。この時間を要する煩雑な工程は、核酸の損失に結びつきやすいという問題があった。また、血清、尿およびバクテリアのカルチャーから得られた試料から核酸を精製する場合には、コンタミネーションが発生し、疑陽性の結果を招くという問題があった。
上記問題を解決し、簡便かつ効率よく核酸を分離精製する方法の一つとして、固相に核酸を吸着させる溶液及び固相から核酸を脱着させる溶液をそれぞれ用いて、表面に水酸基を有する有機高分子から成る固相に核酸を吸着及び脱着させることによって、核酸を分離精製する方法が、特許文献1に開示されている。
特開2003−128691号公報
しかしながら、これらのような核酸分離精製方法を実施する際、特に検体として、全血を使用した場合に、検体から得られる溶液は、粘度が高くなり泡が起こりやすく、さらに、界面活性剤を検体中の細胞の細胞膜を溶解するために添加した場合には、該界面活性剤の副次的効果によって、固相に核酸を吸着させる工程において、起泡が激しくなるという問題があった。この泡の飛散によるコンタミネーションや、核酸分離精製に要する時間にも影響を及ぼすため、泡の発生の抑制が望まれている。
したがって、本発明の目的は、検体中の核酸を、固相に核酸を吸着させる工程、核酸が吸着した状態で該固相を洗浄する工程及び固相から核酸を脱着させる工程によって核酸を分離精製する方法において、核酸分離精製工程中における泡の発生を抑制でき、または工程中に発生する泡をなくすことができ、簡便かつ効率よく核酸の分離精製を行うことができる核酸分離精製方法を提供することである。また、該核酸分離精製方法を使用するための装置および該核酸分離精製方法に使用するための試薬キットを提供することである。
本発明者らは、研究の結果、核酸を含む試料溶液が消泡剤を含有することによって、核酸分離精製方法を行う際の泡の発生および飛散を有意に抑制できることを見出した。さらには、本発明においては特に、核酸を含む試料溶液がシリコン系消泡剤及びアルコール系消泡剤から選ばれる少なくとも1つを含有することにより核酸分離精製方法を行う際の泡の発生および飛散が劇的に抑制されることを知見した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、以下の構成により前記目的を達成したものである。
1. (1)核酸を含む試料溶液を固相に接触させて、該固相に核酸を吸着させる工程、
(2)洗浄液を該固相に接触させて、核酸が吸着した状態で該固相を洗浄する工程、及び
(3)回収液を該固相に接触させて、該固相から核酸を脱着させる工程
を含有する核酸分離精製方法において、
核酸を含む試料溶液が少なくとも一種の消泡剤を含むことを特徴とする核酸分離精製方法。
2. 核酸を含む試料溶液が、さらに核酸安定化剤、カオトロピック塩、界面活性剤、緩衝剤およびタンパク質分解酵素の中から選ばれる少なくとも一つを含む前処理液を添加、混合して得られる、前記第1項に記載の核酸分離精製方法。
3. 核酸を含む試料溶液が、さらに水溶性有機溶媒を添加して得られる、前記第1または2項に記載の核酸分離精製方法。
4. 消泡剤が、シリコン系消泡剤及びアルコール系消泡剤から選ばれる少なくとも1つを含む、前記第1〜3項の何れかに記載の核酸分離製精方法。
5. 前処理液中、核酸安定化剤が0.1〜20質量%の濃度で使用される、前記第2項に記載の核酸分離精製方法。
6. 核酸安定化剤が、還元剤であることを特徴とする前記第2項に記載の核酸分離精製方法。
7. 還元剤がメルカプト化合物であることを特徴とする前記第6項に記載の核酸分離精製方法。
8. 核酸安定化剤が、キレート剤であることを特徴とする前記第2項に記載の核酸分離精製方法。
9. カオトロピック塩がグアニジウム塩である前記第2項に記載の核酸分離精製方法。
10. 水溶性有機溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、およびブタノールから選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする前記第3項に記載の核酸分離精製方法。
11. 固相がシリカもしくはその誘導体、珪藻土、又はアルミナから成る固相である、前記第1〜10項の何れかに記載の核酸分離精製方法。
12. 固相が有機高分子から成る固相である、前記第1〜10項の何れかに記載の核酸分離精製方法。
13. 有機高分子から成る固相が、多糖構造を有する有機高分子から成る固相である、前記第12項に記載の核酸分離精製方法。
14. 有機高分子が、アセチルセルロースである、前記第12又は13項に記載の核酸分離精製方法。
15. 有機高分子が、アセチルセルロースまたはアセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理した有機高分子である、前記第12又は13項に記載の核酸分離精製方法。
16. アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理した有機高分子の鹸化率が5%以上である、前記第15項に記載の核酸分離精製方法
17. アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理した有機高分子の鹸化率が10%以上である、前記第15項に記載の核酸分離精製方法
18. 有機高分子が、再生セルロースである、前記第12項に記載の核酸分離精製方法。
19. 固相が多孔性膜である、前記第11〜18項の何れかに記載の方法。
20. 多孔性膜が表裏非対称性の多孔性膜である、前記第19項に記載の方法。
21. 多孔性膜が平均孔径0.1〜10.0μmの多孔性膜である、前記第19又は20項に記載の方法。
22. 多孔性膜が厚さ10〜500μmの多孔性膜である、前記第19〜21項の何れかに記載の方法。
23. 固相が非孔性である、前記第11〜18項の何れかに記載の方法。
24. 固相が、コーティングされたビーズである、前記第11〜23項の何れかに記載の方法。
25. ビーズが磁性ビーズである、前記第24項に記載の方法。
26. 少なくとも2個の開口を有する容器内に固相を収容した核酸分離精製カートリッジを用いて核酸の吸着及び脱着を行う、前記第1〜25項の何れかに記載の核酸分離精製方法。
27. (a) 固相、
(b) 前記固相を収容する少なくとも2個の開口を有する容器、及び
(c) 前記容器の一の開口に結合された圧力差発生装置
を含む核酸分離精製ユニットを用いて核酸の吸着及び脱着を行う、前記第1〜26項の何れかに記載の核酸分離精製方法。
28. 圧力差発生装置が加圧の装置である、前記第27項に記載の核酸分離精製方法。
29. 圧力差発生装置が減圧の装置である、前記第27項に記載の核酸分離精製方法。
30. 圧力差発生装置が、容器の一の開口に着脱可能に結合されている、前記第27〜29項の何れかに記載の核酸分離精製方法。
31. (2a) 検体を用いて核酸を含む試料溶液を調製し、固相を収容する少なくとも2個の開口を有する容器の一の開口に前記の核酸を含む試料溶液を注入する工程、
(2b) 前記一の開口に結合された圧力差発生装置を用いて容器内を加圧状態にし、注入した核酸を含む試料溶液を、固相を収容する少なくとも2個の開口を有する容器の他の開口より排出することによって、固相に接触させることで、核酸を固相に吸着させる工程、
(2c) 前記一の開口から圧力差発生装置を外し、前記一の開口に洗浄液を注入する工程、
(2d) 前記一の開口に結合された圧力差発生装置を用いて容器内を加圧状態にし、注入した洗浄液を前記他の開口より排出することによって、固相に接触させることで、固相を洗浄する工程、
(2e) 前記一の開口から圧力差発生装置を外し、前記一の開口に回収液を注入する工程、
(2f) 前記一の開口に結合された圧力差発生装置を用いて容器内を加圧状態にし、注入した回収液を前記他の開口より排出させることによって、固相に吸着された核酸を脱着させ、容器外に排出する工程
を含む、前記第27又は28項に記載の核酸分離精製方法。
32. (2e)の工程の前に、(2d’)固相にDNA分解酵素溶液を接触させた後、洗浄液を用いて固相を洗浄する工程を行うことを含む、前記第31項に記載の核酸分離精製方法。
33. 洗浄液が、メタノール、エタノール、イソプロパノール又はn−プロパノールを20〜100質量%含む溶液である、前記第1〜32に記載の核酸分離精製方法。
34. 固相から核酸を脱着させる回収液が、塩濃度が0.5mol/L以下の溶液である、前記第1〜33項の何れかに記載の核酸分離精製方法。
35. 前記第1〜34項の何れかに記載された方法を行うための試薬キット。
36. 前記第1〜34項の何れかに記載された方法を行うための装置。
本発明の方法により、泡の発生を抑制することができ、これにより核酸を含む試料溶液から純度の高い核酸を簡便かつ効率良く分離することができる。また、該核酸分離精製方法を行うための装置および該核酸分離精製方法に使用するための試薬キットにより、泡の発生を抑制し、より簡便迅速に核酸を回収できる。
本発明の核酸分離精製方法は、
(1)核酸を含む試料溶液を固相に接触させて、該固相に核酸を吸着させる工程、(以下「吸着工程」とも称する)
(2)洗浄液を該固相に接触させて、核酸が吸着した状態で該固相を洗浄する工程、(以下「洗浄工程」とも称する)及び
(3)回収液を該固相に接触させて、該固相から核酸を脱着させる工程(以下「回収工程」とも称する)
を少なくとも含むものである。
すなわち、本発明では、核酸を含む試料溶液を固相に接触させることにより、核酸を含む試料溶液中の核酸を固相に吸着させ、洗浄し、固相に吸着させた核酸を、回収液を用いて固相から脱着させる。
<核酸を含む試料溶液>
核酸を含む試料溶液は、消泡剤を含む。好ましくは、さらに、核酸安定化剤、カオトロピック塩、界面活性剤、緩衝剤およびタンパク質分解酵素の中から選ばれる少なくとも一つを含む前処理液を核酸可溶化試薬として用いて処理することにより得られ、更に好ましくは水溶性有機溶媒を添加して得られた溶液である。
(消泡剤)
消泡剤としては、シリコン系消泡剤(例えば、シリコーンオイル、ジメチルポリシロキサン、シリコーンエマルジョン、変性ポリシロキサン、シリコーンコンパウンドなど)、アルコール系消泡剤(例えば、アセチレングリコール、ヘプタノール、エチルヘキサノール、高級アルコール、ポリオキシアルキレングリコールなど)、エーテル系消泡剤(例えば、ヘプチルセロソルブ、ノニルセロソルブ−3−ヘプチルコルビトールなど)、油脂系消泡剤(例えば、動植物油など)、脂肪酸系消泡剤(例えば、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸など)、金属セッケン系消泡剤(例えば、ステアリン酸アルミ、ステアリン酸カルシウムなど)、脂肪酸エステル系消泡剤(例えば、天然ワックス、トリブチルホスフェートなど)、燐酸エステル系消泡剤(例えば、オクチルリン酸ナトリウムなど)、アミン系消泡剤(例えば、ジアミルアミンなど)、アミド系消泡剤(例えば、ステアリン酸アミドなど)、その他の消泡剤(例えば、硫酸第二鉄、ボーキサイトなど)などが挙げられる。好ましくは、シリコン系消泡剤、アルコール系消泡剤である。これらの消泡剤は、単独または組み合わせて用いてもよい。特に好ましくは、消泡剤として、シリコン系消泡剤とアルコール系消泡剤の2つの成分を組み合わせて使用することである。アルコール系消泡剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤が好ましい。
消泡剤は、検体に直接添加しても、核酸可溶化試薬として用いる前処理液に含有されていてもよい。消泡剤を前処理液に含有しない場合には、消泡剤を添加する時期は、前処理液を使用する前でも後でもよい。
消泡剤の、核酸を含む試料溶液中における濃度は0.1〜10質量%であることが好ましい。
(検体)
本発明において使用できる検体は、核酸を含むものであれば特に制限はなく、例えば診断分野においては、採取された全血、血漿、血清、尿、便、精液、唾液等の体液、又は植物(もしくはその一部)、動物(もしくはその一部)、細菌、ウイルスなどの生物材料が対象となり、これらをそのままあるいはこれらの溶解物もしくはホモジネートなどを試料として用いる。
「試料」とは、核酸を含む任意の試料を意味する。具体的には、上記検体において記載したものが挙げられる。試料溶液中の核酸の種類は1種類でも2種類以上であってもよい。前記核酸分離精製方法に供される個々の核酸の長さは特に限定されず、例えば、数bp〜数Mbpの任意の長さの核酸であってもよい。取り扱い上の観点からは、核酸の長さは一般的には、数bp〜数百kbp程度であることが好ましい。
本発明において「核酸」は一本鎖または二本鎖の、DNAまたはRNAのいずれでもよく、また、分子量の制限も無い。
検体は、細胞膜および核膜等を溶解して核酸を水溶液内に分散して、核酸を含む試料溶液を得ることが好ましい。
例えば、対象となる試料が全血の場合、A.赤血球の除去、B.各種タンパク質の除去、及びC.白血球の溶解及び核膜の溶解を行うことが好ましい。A.赤血球の除去およびB.各種タンパク質の除去は、固相への非特異吸着および固相として多孔性膜を用いる場合の目詰まりを防ぐために、C.白血球の溶解及び核膜の溶解は、抽出の対象である核酸を可溶化させるためにそれぞれ行うことが好ましい。特に、C.白血球の溶解及び核膜の溶解を行うことは好ましい。本発明の核酸分離精製方法は、試料が全血の場合には、これらの工程を行うことにより核酸を可溶化することが好ましい。
本発明で、細胞膜および核膜を溶解して核酸を可溶化するには、核酸可溶化試薬を用いることが好ましい。例えば、塩酸グアニジン、Triton−X100、プロテアーゼK(SIGMA社製)を添加して60℃、10分インキュベートすることによって前記のA,B及びCを同時に達成することができる。
{前処理液}
前述の通り、本発明において用いられる核酸可溶化試薬としては、核酸安定化剤、カオトロピック塩、界面活性剤、緩衝剤およびタンパク質分解酵素の中から選ばれる少なくとも一つを含む前処理液を用いることが好ましい。以下、前処理液に含むことのできる化合物について説明する。
(核酸安定化剤)
核酸安定化剤としては、ヌクレアーゼの活性を不活性化させる作用を有するものが挙げられる。検体によっては、核酸を分解するヌクレアーゼ等が含まれていることがあり、核酸をホモジナイズするとこのヌクレアーゼが核酸に作用し、収量が激減することがある。前記核酸安定化剤は、検体中の核酸を安定に存在させることができ、好ましい。
ヌクレアーゼの活性を不活性化させる作用を有する核酸安定化剤としては、一般的に還元剤として使用される化合物を用いることができる。還元剤としては、水素、ヨウ化水素、硫化水素、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム等の水素化化合物、アルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、亜鉛等の電気的陽性の大きい金属、またはそれのアマルガム、アルデヒド類、糖類、ギ酸、シュウ酸などの有機酸化物、メルカプト化合物等が挙げられる。中でもメルカプト化合物が好ましい。メルカプト化合物としては、N−アセチルシステイン、メルカプトエタノールや、アルキルメルカプタン等が挙げられる。特に、β−メルカプトエタノールが好ましい。メルカプト化合物は単独または複数組み合わせて用いてもよい。
前記核酸安定化剤は、前処理液における濃度は0.1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.3〜15質量%で、用いることができる。メルカプト化合物は、前処理液における濃度は0.1〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.5〜5質量%で、用いることができる。
また、ヌクレアーゼの活性を不活性化させる作用を有する核酸安定化剤として、キレート剤を用いることができる。キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、EGTA等を挙げることができる。キレート剤は単独または複数組み合わせて用いてもよい。キレート剤は、前処理液における濃度は1mmol/L〜1mol/Lであることが好ましく、より好ましくは5mmol/L〜100mmol/Lで、用いることができる。
(カオトロピック塩)
カオトロピック塩としては、グアニジン塩、イソチアン酸ナトリウム、ヨウ化ナト
リウム、ヨウ化カリウム等を使用することができる。中でもグアニジン塩が好ましい。グアニジン塩としては、塩酸グアニジン、イソチオシアン酸グアニジン、チオシアン酸グアニジンが挙げられ、中でも塩酸グアニジンが好ましい。これらの塩は単独でも、複数組み合わせて用いてもよい。前記前処理液中のカオトロピック塩濃度は、0.5mol/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.5mol/L〜4mol/L、さらに好ましくは、1mol/L〜3mol/Lである。
カオトロピック塩の代わりに、カオトロピック物質として尿素を用いることもできる。
(界面活性剤)
界面活性剤としては、例えば、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。
本発明においてはノニオン界面活性剤およびカチオン界面活性剤を好ましく用いることができる。
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤、脂肪酸アルカノールアミドが挙げられ、好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤である。ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤のなかでも、POEデシルエ−テル、POEラウリルエ−テル、POEトリデシルエ−テル、POEアルキレンデシルエ−テル、POEソルビタンモノラウレ−ト、POEソルビタンモノオレエ−ト、POEソルビタンモノステアレ−ト、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、POEアルキルアミン、POEアセチレングリコ−ルがさらに好ましい。
カチオン界面活性剤としては、セチルトリメチルアンモニウムプロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルピリジニウムクロリドが挙げられる。
これらの界面活性剤は、単独または複数組み合わせて用いてもよい。界面活性剤の前記前処理液における濃度は0.1〜20質量%であることが好ましい。
(緩衝剤)
緩衝剤としては、通常用いられるpH緩衝剤(buffer)を挙げることができる。好ましくは、生化学試験に通常用いられるpH緩衝剤が挙げられる。このような緩衝剤としては、クエン酸塩、リン酸塩または酢酸塩からなる緩衝剤、Tris−HCl、TE(Tris−HCl/EDTA)、TBE(Tris−Borate/EDTA)、TAE(Tris−Acetate/EDTA)、グッド緩衝剤が挙げられる。グッド緩衝剤としては、MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid)、Bis−Tris(Bis(2-hydoroxyethyl)iminotris(hydroxymethyl)methane)、HEPES(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic asid)、PIPES(Piperaxine-1,4-bis(2-ethanesulfonic acid))、ACES(N-(2-Acetamino)-2-aminoethanesulfonic acid)、CAPS(N-Cyclohexyl-3-aminopropanesulfonic acid)、TES(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid) が挙げられる。
これらの緩衝剤は、前記前処理液中の濃度は1〜300mmol/Lであることが好ましい。
(タンパク質分解酵素)
タンパク質分解酵素としては、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、金属プロテアーゼが挙げられ、少なくとも1つのタンパク質分解酵素を好ましく用いることができる。また、タンパク質分解酵素は、複数種以上のタンパク質分解酵素の混合物も好ましく用いることができる。
前処理液は、核酸の回収量及び回収効率の向上、必要な核酸を含む検体の微量化及び迅速化の観点から、タンパク質分解酵素を含むことが好ましい。
セリンプロテアーゼとしては、特に限定されず、例えばプロテアーゼKなどを好ましく用いることができる。システインプロテアーゼとしては、特に限定されず、例えばパパイン、カテプシン類などを好ましく用いることができる。金属プロテアーゼとしては、特に限定されず、例えばカルボキシペプチターゼ等を好ましく用いることができる。
タンパク質分解酵素の前記前処理液における濃度は、添加時の全容積1mlあたり好ましくは0.001IU〜10IU、より好ましくは0.01IU〜1IUで用いることができる。
また、タンパク質分解酵素は、核酸分解酵素を含まないタンパク質分解酵素を好ましく用いることができる。また、安定化剤を含んだタンパク質分解酵素を好ましく用いることができる。安定化剤としては、金属イオンを好ましく用いることができる。具体的には、マグネシウムイオンが好ましく、例えば塩化マグネシウムなどの形で添加することができる。タンパク質分解酵素の安定化剤を含ませることにより、核酸の回収に必要なタンパク質分解酵素の微量化が可能となり、核酸の回収に必要なコストを低減することができる。
タンパク質分解酵素の安定化剤の前記前処理液における濃度は、好ましくは1〜1000mmol/L、より好ましくは10〜100mmol/Lで含有することが好ましい。
タンパク質分解酵素は、予めカオトロピック塩、界面活性剤等、緩衝剤等のその他の試薬とともに混合されて前処理液(以下、前処理液Aという。)として核酸の回収に供されても良い。
また、タンパク質分解酵素は、カオトロピック塩、界面活性剤等、緩衝剤等のその他の試薬を含む前処理液(以下、前処理液Bという。)とは個別の2つ以上の試薬として供されても良い。後者の場合、タンパク質分解酵素を含む試薬を先に検体と混合した後に、前処理液Bと混合される。また、前処理液Bを先に検体と混合した後に、タンパク分解酵素を混合してもよい。
また、タンパク質分解酵素を検体または、検体と前処理液Bとの混合液に、タンパク質分解酵素保存容器から直接目薬状に滴下させることもできる。この場合、操作を簡便にすることができる。
前処理液は、乾燥された状態、すなわち前処理剤として供給されることも好ましい。また、凍結乾燥のように乾燥された状態のタンパク質分解酵素を予め含む容器を用いることができる。前記の、前処理剤、および/または乾燥された状態のタンパク質分解酵素を予め含む容器を用いて、核酸を含む試料溶液を得ることもできる。
前記の方法で核酸を含む試料溶液を得る場合、前処理剤および乾燥された状態のタンパク質分解酵素の保存安定性が良く、核酸収量を変えずに操作を簡便にすることができる。
また、試料溶液に含まれる前記化合物の溶解性の向上の観点から、前処理液に水溶性有機溶媒を添加してもよい。水溶性有機溶媒としては、アルコール類、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらの中でも、アルコール類が好ましい。アルコール類としては、1級アルコール、2級アルコール、3級アルコールのいずれでも良い。具体的にはメタノール、エタノール、プロパノール及びその異性体、ブタノール及びその異性体などが挙げられ、中でもエタノールが特に好ましい。これらの水溶性有機溶媒は、単独でも複数組み合わせて用いてもよい。上記の水溶性有機溶媒の濃度は、核酸を含む試料溶液中において、1〜20質量%となるように調製することが好ましい。
{水溶性有機溶媒と吸着工程}
核酸が可溶化し分散した溶液中に、水溶性有機溶媒を添加して、固相と接触させることにより、試料溶液中の核酸を効果的に固相に吸着させるために、核酸を含む試料溶液は、さらに、水溶性有機溶媒を添加して得られた溶液であることが好ましい。すなわち、前記の前処理液により処理されて得られた液に、さらに水溶性有機溶媒を添加して、核酸を含む試料溶液を得ることが好ましい。さらには、得られた核酸を含む試料溶液中に塩が存在することが、可溶化された核酸を、より効果的に、固相に吸着させることができ好ましい。
水溶性有機溶媒と塩の存在により、核酸の周りに存在する水分子の水和構造を破壊され、核酸は不安定な状態で可溶化することになる。この状態の核酸を、固相と接触させると、核酸表面上の極性基と固相表面の極性基間で相互作用し、核酸は固相表面上に吸着するものと考えられる。特に固相として、表面に水酸基を有する有機高分子を用いた場合に顕著に吸着が起こり、好ましい。本発明の方法では、前記のとおり、可溶化した核酸混合液に水溶性有機溶媒を混合することと、得られた核酸混合液中に塩が存在することが、核酸を不安定な状態にさせることができ、好ましい。
この水溶性有機溶媒としては、アルコール、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド等上げられる。これらの中でも、アルコールが好ましい。アルコールとしては、1級アルコール、2級アルコール、3級アルコールのいずれでも良い。中でもメタノール、エタノール、プロパノール及びその異性体、ブタノール及びその異性体を好ましく用いることができる。より好ましくは、エタノールを用いることができる。これらの水溶性有機溶媒は単独でも複数組み合わせて用いてもよい。
これら水溶性有機溶媒の核酸を含む試料溶液における最終濃度は、5〜90質量%であることが好ましい。エタノールの添加濃度は、この範囲内で、擬集物を生じないでできるだけ高くすることが特に好ましい。さらに好ましくは20質量%〜60質量%である。
得られる核酸混合液中に存在することが好ましい塩としては、各種カオトロピック物質(グアニジウム塩、ヨウ化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム)や塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化カルシウム、臭化アンモニウム等が挙げられ、特にグアニジウム塩が、細胞膜の溶解と核酸の可溶化の効果を併有するので特に好ましい。
得られる試料溶液のpHは、好ましくはpH3〜10、より好ましくはpH4〜9、さらに好ましくはpH5〜8のものが用いられる。
また、得られる核酸を含む試料溶液は、表面張力は0.05J/m2以下であることが好ましく、粘度は1〜10000mPaであることが好ましく、比重は0.8〜1.2の範囲であることが好ましい。この範囲の溶液にすることで、吸着工程において、核酸を含む試料溶液を前記固相に接触させて、核酸を吸着させた後に残った溶液を、洗浄工程において除去しやすくする。
<固相および吸着工程>
固相は特に限定されず、核酸を吸着できれば、いずれの素材を用いることもできる。例えば、表面に水酸基を有する有機高分子から成る固相や、あるいは二酸化珪素、シリカポリマー又は珪酸マグネシウムから成る固相など、あるいはシリカもしくはその誘導体、珪藻土、又はアルミナから成る固相などを使用することができる。好ましくは、多糖構造を有する有機高分子から成る固相を使用することである。さらに好ましくは、イオン結合が実質的に関与しない相互作用で核酸が吸着する固相である。これは、固相側の使用条件で「イオン化」していないことを意味し、環境の極性を変化させることで、核酸と固相が引き合うようになると推定される。これにより分離性能に優れ、しかも洗浄効率よく、核酸を単離精製することができる。イオン結合が実質的に関与しない相互作用で核酸が吸着する固相としては、例えば、親水基を有する固相が挙げられ、環境の極性を変化させることで、核酸と固相の親水基同士が引きあうようになると推定される。
親水基とは、水との相互作用を持つことができる有極性の基(原子団)を指し、核酸の吸着に関与する全ての基(原子団)が当てはまる。親水基としては、水との相互作用の強さが中程度のもの(化学大事典、共立出版株式会社発行、「親水基」の項の「あまり親水性の強くない基」参照)が良く、例えば、水酸基、カルボキシ基、シアノ基、オキシエチレン基などを挙げることができる。好ましくは水酸基である。
親水基を有する固相とは、固相を形成する材料自体が親水基を有すること、または固相を形成する材料を処理またはコーティングすることによって親水基を導入した固相を意味する。固相を形成する材料は、有機物、無機物のいずれでも良い。例えば、固相を形成する材料自体が親水基を有する有機材料である固相、親水基を持たない有機材料の固相を処理して親水基を導入した固相、親水基を持たない有機材料の固相に対し親水基を有する材料でコーティングして親水基を導入した固相、固相を形成する材料自体が親水基を有する無機材料である固相、親水基を持たない無機材料の固相を処理して親水基を導入した固相、親水基を持たない無機材料の固相に対し親水基を有する材料でコーティングして親水基を導入した固相などを使用することができる。中でも、加工の容易性から、固相を形成する材料として有機高分子などの有機材料を用いることが好ましい。
{親水基を有する有機材料}
親水基を有する有機材料としては、水酸基を有する有機材料が挙げられる。水酸基を有する有機材料としては、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリオキシエチレン、多糖構造を有する有機材料(多糖構造を有する有機高分子と称することもある。)などを挙げることができる。
多糖構造を有する有機材料としては、セルロース、ヘミセルロース、デキストラン、アガロース、デキストリン、アミロース、アミロペクチン、デンプン、グリコーゲン、プルラン、マンナン、グルコマンナン、リケナン、イソリケナン、ラミナラン、カラギーナン、キシラン、フルクタン、アルギン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン、キチン、キトサン等を挙げることができる。これらの多糖構造の誘導体を用いてもよい。例えば、多糖構造の水酸基が任意の置換度で、エステル化したもの、エーテル化したもの、ハロゲン化したものが挙げられる。多糖構造およびその誘導体の少なくともいずれかであれば前記に挙げた材料に限定されることなく用いることができる。これらの誘導体は、従来公知の方法で製造することができる。
特にエステル誘導体を好ましく用いることができる。また、エステル誘導体の鹸化物も好適なものとして挙げられる。
前記多糖構造のエステル誘導体におけるエステルとしては、カルボン酸エステル、硝酸エステル、硫酸エステル、スルホン酸エステル、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ピロリン酸エステルが挙げられ、エステル誘導体がこれらのエステルから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。また、これらエステル誘導体の鹸化物も好適なものとして挙げられる。
前記カルボン酸エステルとしては、アルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルが挙げられ、エステルとしてカルボン酸エステルを用いる場合には、これらのカルボン酸エステルから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。また、これらカルボン酸エステルの鹸化物も好適なものとして挙げられる。
前記アルキルカルボニルエステルのアルキルカルボニル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチロイル基、バレル基、ペプタノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基が挙げられ、カルボン酸エステルとしてアルキルカルボニルエステルを用いる場合には、これらのアルキルカルボニル基から選ばれる少なくとも1つを有することが好ましい。また、これらアルキルカルボニルエステルの鹸化物も好適なものとして挙げられる。
前記アルケニルカルボニルエステルのアルケニルカルボニル基としては、アクリル基、メタクリル基が挙げられ、カルボン酸エステルとしてアルケニルカルボニルエステルを用いる場合には、これらのアルケニルカルボニル基から選ばれる少なくとも1つを有することが好ましい。また、これらアルケニルカルボニルエステルの鹸化物も好適なものとして挙げられる。
前記芳香族カルボニルエステルの芳香族カルボニル基としては、ベンゾイル基、ナフタロイル基が挙げられ、カルボン酸エステルとして芳香族カルボニルエステルを用いる場合には、これらの芳香族カルボニルエステルから選ばれる少なくとも1つを有することが好ましい。また、これら芳香族カルボニルエステルの鹸化物も好適なものとして挙げられる。
前記硝酸エステルとしては、ニトロセルロース、ニトロヘミセルロース、ニトロデキストラン、ニトロアガロース、ニトロデキストリン、ニトロアミロース、ニトロアミロペクチン、ニトログリコーゲン、ニトロプルラン、ニトロマンナン、ニトログルコマンナン、ニトロリケナン、ニトロイソリケナン、ニトロラミナラン、ニトロカラギーナン、ニトロキシラン、ニトロフルクタン、ニトロアルギン酸、ニトロヒアルロン酸、ニトロコンドロイチン、ニトロキチン、ニトロキトサンなどが挙げられる。また、これら硝酸エステルの鹸化物も好適なものとして挙げられる。
前記硫酸エステルとしては、セルロース硫酸、ヘミセルロース硫酸、デキストラン硫酸、アガロース硫酸、デキストリン硫酸、アミロース硫酸、アミロペクチン硫酸、グリコーゲン硫酸、プルラン硫酸、マンナン硫酸、グルコマンナン硫酸、リケナン硫酸、イソリケナン硫酸、ラミナラン硫酸、カラギーナン硫酸、キシラン硫酸、フルクタン硫酸、アルギン酸硫酸、ヒアルロン酸硫酸、コンドロイチン硫酸、キチン硫酸、キトサン硫酸などが挙げられる。また、これら硫酸エステルの鹸化物も好適なものとして挙げられる。
前記スルホン酸エステルとしては、アルキルスルホン酸エステル、アルケニルスルホン酸エステル、芳香族スルホン酸エステル、芳香族アルキルスルホン酸エステルが挙げられ、エステルとしてスルホン酸エステルを用いる場合には、これらのスルホン酸エステルから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。また、これらスルホン酸エステルの鹸化物も好適なものとして挙げられる。
前記リン酸エステルとしては、セルロースリン酸、ヘミセルロースリン酸、デキストランリン酸、アガロースリン酸、デキストリンリン酸、アミロースリン酸、アミロペクチンリン酸、グリコーゲンリン酸、プルランリン酸、マンナンリン酸、グルコマンナンリン酸、リケナンリン酸、イソリケナンリン酸、ラミナランリン酸、カラギーナンリン酸、キシランリン酸、フルクタンリン酸、アルギン酸リン酸、ヒアルロン酸リン酸、コンドロイチンリン酸、キチンリン酸、キトサンリン酸などが挙げられる。また、これらリン酸エステルの鹸化物も好適なものとして挙げられる。
前記ホスホン酸エステルとしては、セルロースホスホン酸、ヘミセルロースホスホン酸、デキストランホスホン酸、アガロースホスホン酸、デキストリンホスホン酸、アミロースホスホン酸、アミロペクチンホスホン酸、グリコーゲンホスホン酸、プルランホスホン酸、マンナンホスホン酸、グルコマンナンホスホン酸、リケナンホスホン酸、イソリケナンホスホン酸、ラミナランホスホン酸、カラギーナンホスホン酸、キシランホスホン酸、フルクタンホスホン酸、アルギン酸ホスホン酸、ヒアルロン酸ホスホン酸、コンドロイチンホスホン酸、キチンホスホン酸、キトサンホスホン酸などが挙げられる。また、これらホスホン酸エステルの鹸化物も好適なものとして挙げられる。
前記ピロリン酸エステルとしては、セルロースピロリン酸、ヘミセルロースピロリン酸、デキストランピロリン酸、アガロースピロリン酸、デキストリンピロリン酸、アミロースピロリン酸、アミロペクチンピロリン酸、グリコーゲンピロリン酸、プルランピロリン酸、マンナンピロリン酸、グルコマンナンピロリン酸、リケナンピロリン酸、イソリケナンピロリン酸、ラミナランピロリン酸、カラギーナンピロリン酸、キシランピロリン酸、フルクタンピロリン酸、アルギン酸ピロリン酸、ヒアルロン酸ピロリン酸、コンドロイチンピロリン酸、キチンピロリン酸、キトサンピロリン酸などが挙げられる。また、これらピロリン酸エステルの鹸化物も好適なものとして挙げられる。
前記多糖構造のエーテル誘導体におけるエーテルとして、多糖構造がセルロースの場合のエーテルの例を以下に挙げるが、多糖構造の種類、エーテルの種類を含めてこれらに限定されない。
例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシエチル−カルバモイルエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、シアノエチルセルロース、カルバモイルエチルセルロース等が挙げられる。好ましくは、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースである。
多糖構造を有する有機材料として好ましくは、アセチルセルロースが挙げられ、更にアセチル価の異なるアセチルセルロース混合物が挙げられる。アセチル価の異なるアセチルセルロース混合物として、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物、トリアセチルセルロースとモノアセチルセルロース混合物、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースとモノアセチルセルロース混合物、ジアセチルセルロースとモノアセチルセルロース混合物を好ましく使用する事ができる。
特にトリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物が好ましい。トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースの混合比(質量比)は、99:1〜1:99である事が好ましく、90:10〜50:50である事がより好ましい。
多糖構造を有する有機材料として好ましく用いられるアセチルセルロースの中でも、特開2003−128691号公報に記載の、アセチルセルロースの表面鹸化物が特に好ましい。アセチルセルロースの表面鹸化物(以下、単に「鹸化物」ということもある。)としては、アセチル価の異なるアセチルセルロース混合物を鹸化処理したものが挙げられ、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の鹸化物、トリアセチルセルロースとモノアセチルセルロース混合物の鹸化物、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースとモノアセチルセルロース混合物の鹸化物、ジアセチルセルロースとモノアセチルセルロース混合物の鹸化物を好ましく使用することができる。より好ましくは、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の鹸化物を使用することであり、その混合比(質量比)もアセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物に前記したと同じ範囲である。鹸化処理の程度(鹸化率)で固相表面の水酸基の量(密度)をコントロールすることができ、好ましい。核酸の分離効率向上の観点から、水酸基の量(密度)が多い方が好ましい。鹸化処理により得られる固相の鹸化率(表面鹸化率)が5%以上100%以下であることが好ましく、10%以上100%以下であることが更に好ましい。また、固相における水酸基を有する表面積を大きくするという観点から、アセチルセルロースを鹸化処理して固相とすることが好ましい。
前記した鹸化物を得るには、鹸化処理を行う。ここで、鹸化処理とは、エステル基を有する有機材料を鹸化処理液(例えば水酸化ナトリウム水溶液)に接触させることを言う。これにより、鹸化処理液に接触した部分、すなわち、有機材料の表面が鹸化される。アセチルセルロースの場合には、鹸化処理液に接触した部分は、再生セルロースとなり水酸基が導入される。こうして作製された再生セルロースは、本来のセルロースとは、結晶状態等の点で異なっている。本発明において固相として、再生セルロースを含む固相を用いることが特に好ましい。
又、鹸化率を変えるには、水酸化ナトリウムの濃度を変えて鹸化処理を行えば良い。鹸化率は、NMRにより、容易に測定することができる(例えば、カルボニル基のピーク減少の程度で定めることができる)。
{親水基を持たない有機材料}
親水基を持たない有機材料を固相として用いる場合に、有機材料に親水基を導入する方法として、ポリマー鎖内または側鎖に親水基を有すグラフトポリマー鎖を有機材料に結合することができる。
有機材料にグラフトポリマー鎖を結合させる方法としては、有機材料とグラフトポリマー鎖とを化学結合させる方法と、有機材料を起点として重合可能な二重結合を有する化合物を重合させグラフトポリマー鎖とする2つの方法がある。
まず、有機材料とグラフトポリマー鎖とを化学結合させる方法においては、ポリマーの末端または側鎖に有機材料と反応する官能基を有するポリマーを使用し、この官能基と有機材料の官能基とを化学反応させることでグラフトさせることができる。有機材料と反応する官能基としては、有機材料の官能基と反応し得るものであれば特に限定はないが、例えば、アルコキシシランのようなシランカップリング基、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、エポキシ基、アリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基等を挙げることができる。
ポリマーの末端、または側鎖に反応性官能基を有するポリマーとして特に有用な化合物は、トリアルコキシシリル基をポリマー末端に有するポリマー、アミノ基をポリマー末端に有するポリマー、カルボキシ基をポリマー末端に有するポリマー、エポキシ基をポリマー末端に有するポリマー、イソシアネート基をポリマー末端に有するポリマーが挙げられる。この時に使用されるポリマーとしては、核酸の吸着に関与する親水基を有するものであれば特に限定はないが、具体的には、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸及びそれらの塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの塩、ポリオキシエチレンなどを挙げることができる。
有機材料を起点として重合可能な二重結合を有する化合物を重合させ、グラフトポリマー鎖とする方法は、一般的には表面グラフト重合と呼ばれる。表面グラフト重合法とは、プラズマ照射、光照射、加熱などの方法で有機材料表面上に活性種を与え、有機材料と接するように配置された重合可能な二重結合を有する化合物を重合によって有機材料と結合させる方法を指す。
有機材料に結合しているグラフトポリマー鎖を形成するのに有用な化合物は、重合可能な二重結合を有しており、核酸の吸着に関与する親水基を有するという、2つの特性を兼ね備えていることが必要である。これらの化合物としては、分子内に二重結合を有していれば親水基を有するポリマー、オリゴマー、モノマーのいずれの化合物をも用いることができる。特に有用な化合物は親水基を有するモノマーである。
特に有用な親水基を有するモノマーの具体例としては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート等の水酸性基含有モノマーである。また、アクリル酸、メタアクリル酸等のカルボキシ基含有モノマー、もしくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩も好ましく用いることができる。
親水基を持たない有機材料に親水基を導入する別の方法として、親水基を有する材料をコーティングする方法を用いることができる。コーティングに使用する材料は、核酸の吸着に関与する親水基を有するものであれば特に限定はないが、作業の容易さから有機材料のポリマーが好ましい。ポリマーとしては、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸及びそれらの塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの塩、ポリオキシエチレン、アセチルセルロース、アセチル価の異なるアセチルセルロース混合物などを挙げることができ、多糖構造を有するポリマーが好ましい。
また、親水基を持たない有機材料に、アセチルセルロースまたはアセチル価の異なるアセチルセルロース混合物をコーティングした後に、コーティングしたアセチルセルロースまたはアセチル価の異なるアセチルセルロース混合物を鹸化処理することもできる。この場合、鹸化率が5%以上100%以下であることが好ましい。さらには、鹸化率が10%以上100%以下であることが好ましい。
{親水基を有する無機材料}
親水基を有する無機材料としては、シリカ化合物が挙げられる。シリカ化合物を含有する固相としては、ガラスフィルターを挙げることができる。また、特許公報第3058342号に記載されているような、多孔質のシリカ薄膜を挙げることができる。この多孔質のシリカ薄膜とは、二分子膜形成能を有するカチオン型の両親媒性物質の展開液を基板上に展開した後、基板上の液膜から溶媒を除去することによって両親媒性物質の多層二分子膜薄膜を調整し、シリカ化合物を含有する溶液に多層二分子膜薄膜を接触させ、次いで前記多層二分子膜薄膜を抽出除去することで作製することができる。
{親水基を持たない無機材料}
固相として使用できる親水基を持たない無機材料としては、アルミニウム等の金属、ガラス、セメント、陶磁器等のセラミックス、もしくはニューセラミックス、シリコン、活性炭等を挙げることができる。
親水基を持たない無機材料に親水基を導入する方法としては、無機材料と親水基を持つグラフトポリマー鎖とを化学結合させる方法と、分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーを使用して、無機材料を起点として、グラフトポリマー鎖を重合する2つの方法がある。
無機材料と親水基を持つグラフトポリマー鎖とを化学結合させる場合は、グラフトポリマー鎖の末端の官能基と反応する官能基を無機材料に導入し、そこにグラフトポリマーを化学結合させる。また、分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーを使用し、無機材料を起点として、グラフトポリマー鎖を重合する場合は、二重結合を有する化合物を重合する際の起点となる官能基を無機材料に導入する。
親水基を持つグラフトポリマー、および分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーとしては、前記、親水基を持たない有機材料に親水基を導入する方法において、記載した親水基を有するグラフトポリマー、および分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーを好ましく使用することができる。
親水基を持たない無機材料に親水基を導入する別の方法として、親水基を有する材料をコーティングすることができる。コーティングに使用する材料は、核酸の吸着に関与する親水基を有するものであれば特に限定はないが、作業の容易さから有機材料のポリマーが好ましい。該ポリマーとしては、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸及びそれらの塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの塩、ポリオキシエチレン、アセチルセルロース、アセチル価の異なるアセチルセルロース混合物などを挙げることができる。
また、親水基を持たない無機材料に、アセチルセルロースまたはアセチル価の異なるアセチルセルロース混合物をコーティングした後に、コーティングしたアセチルセルロースまたはアセチル価の異なるアセチルセルロース混合物を鹸化処理することもできる。この場合、鹸化率が5%以上100%以下であることが好ましい。さらには、鹸化率が10%以上100%以下であることが好ましい。
{性状}
前記の固相は、溶液が接触することができれば、何れの形状でもよい。例えば、固相がファイバーなど、表面に溶液が接触する形状、また、後記のように溶液が内部を通過可能な形状でもよい。
また、ビーズが前記の材料でコーティングされることにより、固相とされていてもよい。ビーズには、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物がコーティングされていることが好ましい。この場合、ビーズは磁性ビーズを用いてもよい。例えばポリエチレン製のビーズの表面にトリアセチルセルロースの膜を形成してもよい。すなわち、トリアセチルセルロースはビーズにコーティングされることになる。ビーズの素材は、核酸を汚染等しなければよく、ポリエチレンには限定されない。
固相は、溶液が内部を通過可能なフィルター又は膜状の形状(以下、溶液が内部を通過可能な固相とも称する。)で使用することが好ましい。この場合、厚さが10μm〜500μmであることが好ましい。さらに好ましくは、厚さが50μm〜250μmである。この範囲内にあることが、洗浄の観点から好ましい。
前記の溶液が内部を通過可能な固相は、多孔性膜であることが好ましく、孔の平均孔径が0.1μm〜10μmであることが好ましい。さらに好ましくは、平均孔径が1μm〜5μmである。この範囲内にあれば、核酸が吸着するのに十分な表面積が得られるとともに、目詰まりし難く、好ましい。この溶液が内部を通過可能な固相の平均孔径は、バブルポイント法(ASTM F316−86、JIS K−3832に準拠)を用いて決定することができる。
前期の溶液が内部を通過可能な固相は、表裏対称性の多孔性膜であってもよい。また表裏非対称性の多孔性膜であってもよい。ここで、表裏非対称性とは、多孔性膜の一方の面から他方の面へと膜の物理的性質または化学的性質が変化している性質を示す。
膜の物理的性質の例としては、平均孔径が挙げられる。また膜の化学的性質としては鹸化度が挙げられる。
平均孔径が表裏非対称性の多孔性膜を本発明で使用する場合は、液の通過する方向に平均孔径が、大から小に変化するように使用するのが好ましい。ここで、最大孔径と最小孔径の比が2以上である多孔性膜を用いる事が好ましい。さらに好ましくは、最大孔径と最小孔径の比が5以上である。この範囲内にあれば、核酸が吸着するのに十分な表面積が得られるとともに、目詰まりし難く、好ましい。
前記の、溶液が内部を通過可能な固相は、空隙率が50〜95%であることが好ましい。さらに好ましくは、空隙率が65〜80%である。また、バブルポイントが、0.1〜10kgf/cm2である事が好ましい。さらに好ましくは、バブルポイントが、0.2〜4kgf/cm2である。
前記の、溶液が内部を通過可能な固相は、圧力損失が、0.1〜100kPaである事が好ましい。この範囲内にあることで、過圧時に均一な圧力が得られ、好ましい。さらに好ましくは、圧力損失が、0.5〜50kPaである。ここで、圧力損失とは、膜の厚さ100μmあたり、水を通過させるのに必要な最低圧力である。
前記の、溶液が内部を通過可能な固相は、25℃で1kg/cm2の圧力で水を通過させたときの透水量が、膜1cm2あたり1分間で1〜5000mLであることが好ましい。さらに好ましくは、25℃で1kg/cm2の圧力で水を通過させたときの透水量が、膜1cm2あたり1分間で5〜1000mLである。
前記の、溶液が内部を通過可能な固相は、多孔性膜1mgあたりの核酸の吸着量が0.1μg以上である事が好ましい。さらに好ましくは、多孔性膜1mgあたりの核酸の吸着量が0.9μg以上である。
核酸を含む試料溶液を前記固相に接触させる場合の流速は、液の固相への適切な接触時間を得るために、固相の面積1cm2あたり、2〜1500μL/secである事が好ましい。液の固相への接触時間が短すぎると十分な分離精製効果が得られず、長すぎると操作性の点から好ましくない。さらに、前記流速は、固相の面積1cm2あたり、5〜700μL/secである事が好ましい。
また、溶液が内部を通過可能な固相は、1つのみ用いても複数を使用してもよい。複数の固相は、同一の素材であっても、異なるものであって良い。
<洗浄工程>
以下、洗浄工程について説明する。核酸を固相に吸着させた後、固相の洗浄を行うことにより、核酸の回収量及び純度が向上し、必要な核酸を含む検体の量を微量とすることができる。また、洗浄工程や後述する回収工程を自動化することによって、操作が簡便かつ迅速に行うことが可能になり、好ましい。洗浄工程は、迅速化のためには1回の洗浄で済ませてもよく、また純度がより重要な場合には複数回洗浄を繰返すことが好ましい。
洗浄液は、水溶性有機溶媒及び/または水溶性塩を含んでいる溶液であることが好ましい。又、必要に応じて緩衝剤、界面活性剤を含んでも良い。洗浄液は、固相に核酸と共に吸着した試料溶液中の不純物を洗い流す機能を有する必要がある。そのためには、固相から核酸は脱着させないが不純物は脱着させる組成であることが必要である。この目的には、核酸がアルコール等の水溶性有機溶媒に難溶性であるので、核酸を保持したまま核酸以外の成分を脱着させるのに適している。また、水溶性塩を添加することにより、核酸の吸着効果が高まるので、不純物および不要成分の選択的除去作用が向上するので、好ましい。
洗浄液に含まれる水溶性有機溶媒としては、アルコール、アセトンなどを用いることができ、アルコールが好ましい。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、およびブタノールが挙げられる。プロパノールとしては、イソプロパノール、n−プロパノールのいずれでもよく、ブタノールも直鎖状でも分岐状でもよい。これらアルコールは、複数種類を使用することもできる。この中でも、エタノールを用いることが好ましい。洗浄液中に含まれる水溶性有機溶媒の量は、20〜100質量%であることが好ましく、40〜80質量%であることがより好ましい。
一方、洗浄液に含まれる水溶性塩は、ハロゲン化物の塩であることが好ましく、中でも塩化物がより好ましい。また、水溶性塩は、一価または二価のカチオンであることが好ましく、特にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が好ましく、中でもナトリウム塩及びカリウム塩が好ましく、ナトリウム塩が最も好ましい。
水溶性塩が洗浄液中に含まれる場合、その濃度は10mmol/L以上であることが好ましく、その上限は不純物の溶解性を損なわない範囲であれば特に問わないが、1mol/L以下であることが好ましく、0.1mol/L以下であることがより好ましい。よりさらに好ましくは、水溶性塩が塩化ナトリウムであり、とりわけ、塩化ナトリウムが20mmol/L以上含まれていることが好ましい。
緩衝剤、界面活性剤としては、{前処理液}において既述の緩衝剤、界面活性剤が挙げられる。これらの内、洗浄液には、エタノール、Tris及びTriton−X100を含むことが好ましい。Tris及びTriton−X100の好ましい濃度は、それぞれ10〜100mmol/L、及び0.1〜10質量%である。
洗浄液は、カオトロッピック物質を含んでいないことが好ましい。それによって、洗浄工程に引き続く回収工程にカオトロピック物質が混入する可能性を減らすことができる。回収工程時に、カオトロピック物質が混入すると、しばしばPCR反応(ポリメラーゼ連鎖反応)等の酵素反応を阻害するので、後の酵素反応等を考慮すると洗浄液にカオトロッピク物質を含まないことが理想的である。また、カオトロピック物質は、腐食性で有害であるので、この点でもカオトロピック物質を用いないで済むことは、実験者にとっても試験操作の安全上極めて有利である。ここでカオトロピック物質とは、前記した尿素、グアニジン塩、イソチアン酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムなどである。
従来、核酸分離精製方法における洗浄工程の際、洗浄液が核酸分離精製方法に使用する容器に対する濡れ性が高いため、しばしば洗浄液が容器中に残留することになり、洗浄工程に続く回収工程の際、洗浄液が混入して分離する核酸の純度の低下や回収工程後に次の工程(例えば、PCR反応等)を行う場合における反応性の低下などの原因となっている。したがって、容器を用いて核酸の吸着及び脱着を行う場合、吸着、洗浄時に用いる液、特に洗浄液が、回収工程や回収工程後の工程に影響を及ぼさないように、容器内に洗浄残液が残留しないことが望ましい。
したがって、洗浄工程における洗浄液が回収工程の回収液に混入することを防止して、洗浄液の容器内への残留を最小限に留めるため、洗浄液の表面張力を0.035J/m2未満にすることが好ましい。表面張力が低いと、洗浄液と容器の濡れ性が向上し、残留する液量を抑えることができ、好ましい。
洗浄液において水の割合を増やして、洗浄効率を上げることができるが、洗浄液の表面張力が上昇し、これによって残留する液量が増えてしまう。洗浄液の表面張力が0.035J/m2以上の場合は、容器の撥水性を高めることで、残留する液量を抑えることができる。容器の撥水性を高めることで、液滴を形成させ、その液滴が流れ落ちることによって残留する液量が抑制できる。撥水性を高める方法としては、容器表面にシリコン等の撥水剤をコートするか、容器成型時にシリコン等の撥水剤を練り込む等の手段があるが、これに限らない。
洗浄工程における洗浄液の液量は、2μl/mm2以上が好ましい。洗浄液量が多量であれば洗浄効果は向上する。しかし、200μl/mm2以下とすることで、操作性を保ち、試料の流出を抑止することができ好ましい。
洗浄工程において、洗浄液を固相に接触させる場合の流速は、固相の単位面積1cm2あたり、2〜1500μL/secであることが好ましく、5〜700μL/secであることがより好ましい。通過速度を下げて時間を掛ければ洗浄がそれだけ十分に行なわれることになる。しかし、前記の範囲とすることで、洗浄効率を落とすことなく、核酸の分離精製操作を迅速化でき、好ましい。
洗浄工程において、洗浄液の液温は4〜70℃であることが好ましい。さらには、洗浄液の液温を室温とすることがより好ましい。また、洗浄工程において、洗浄工程と同時に核酸分離精製方法に使用する容器に器械的な振動や超音波による攪拌を与えることもできる。または遠心分離を行うことにより洗浄することもできる。
<回収工程(脱着工程)>
洗浄工程の次に、固相に吸着した核酸を脱着せしめうる溶液である回収液に、洗浄後の固相を接触させる。固相と接触した後の溶液(以下、精製後溶液とも称する。)には目的とする核酸が含まれているので、これを後に続く工程、例えばPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)による核酸の増幅に提供する。
核酸を含む試料溶液の体積に対して、回収液の体積を調整して核酸の脱着を行うことができる。使用する回収液量は、そのとき核酸分離精製に供せられる検体量による。一般的によく使われる回収液量は数10から数100μlであるが、検体量が極微量である時や、逆に大量の核酸を分離精製したい場合には回収液量は1μlから数10mlの範囲で変える事ができる。
回収液としては好ましくは精製蒸留水、Tris/EDTAバッファ等が使用できる。回収液のpHは、pH2〜11であることが好ましい。さらには、pH5〜9であることが好ましい。また特にイオン強度と塩濃度は吸着核酸の溶出に効果を及ぼす。回収液は、塩濃度が0.5mol/L以下の溶液であることが好ましい。回収液は、500mol/L以下のイオン強度であることが好ましく、より好ましくは290mmol/L以下のイオン強度であることが好ましく、さらに好ましくは90mmol/L以下のイオン強度であることが好ましい。こうすることで、核酸の回収率が向上し、より多くの核酸を回収できることができる。
回収液の体積を当初の核酸を含む試料溶液の体積と比較して少なくすることによって、濃縮された核酸を含む回収液を得ることができる。好ましくは、(回収液体積):(試料溶液体積)=1:100〜99:100であり、更に好ましくは、(回収液体積):(試料溶液体積)=1:10〜9:10である。これにより核酸分離精製後の工程において濃縮のための操作をすることなく、簡単に核酸を濃縮できる。これらの方法により検体よりも核酸が濃縮されている核酸溶液を得る方法を提供でき、好ましい。
回収液の注入回数は限定されるものではなく、1回でも複数回でもよい。通常、迅速、簡便に核酸を分離精製する場合は、1回の回収で実施するが、大量の核酸を回収する場合等複数回にわたり回収液を注入してもよい。
また、回収工程において、核酸の回収液に回収した核酸の分解を防ぐための安定化剤を添加しておくことも可能である。安定化剤としては、抗菌剤、抗カビ剤や核酸分解抑制剤などを添加することができる。核酸分解抑制剤としては、核酸分解酵素の阻害剤が挙げられ、具体的にはEDTAなどが挙げられる。また別の実施態様として、回収容器にあらかじめ安定化剤を添加しておくこともできる。
<核酸分離精製カートリッジ>
本発明の核酸分離精製方法では、好ましくは、少なくとも2個の開口を有する容器内に前記固相を収容した核酸分離精製カートリッジを用いて核酸の吸着及び脱着を行うことができる。
容器の材料に特別な限定はなく、固相が収容でき、かつ少なくとも2個の開口を設けることができればよい。製造の容易性からプラスチックが好ましい。例えば、ポリスチレン、ポリメタアクリル酸エステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、ポリカーボネート等の透明あるいは不透明のプラスチックを用いるのが好ましい。
前記容器に収容される固相の形状にも特別な限定は無く、円形、正方形、長方形、楕円、膜の場合には筒状、巻物状、あるいは表面に水酸基を有する有機高分子をコーティングしたビーズ等、任意の形状で良いが、製造適性の点からは、円、正方形、円筒状、巻物状等の対称性の高い形状又はビーズが好ましい。
容器の内容積は処理すべき試料溶液の量によって決めることが好ましく、通常、収容される固相の体積で表す。即ち、厚さが約1mm以下(例えば、50〜500μm程度)で、直径が約2mm〜20mmの固相を1枚〜6枚程度収容する大きさとすることが好ましい。
固相の容器に接する側の端面は、試料溶液等が通過しない程度に、容器の内壁面に密着させることが好ましい。
少なくとも2個の開口を有する容器の、固相から見て、試料溶液等の入り口に使用される開口に対する側(容器内の固相から開口側)は、容器の内壁に密着させずに空間を設け、試料溶液等が固相の全面にできるだけ均等に拡散する構造にすることが好ましい。
<核酸分離精製ユニット>
さらに好ましくは、本発明の核酸分離精製方法は、
(a) 固相、
(b) 前記固相を収容する、少なくとも2個の開口を有する容器、及び
(c) 前記容器の一の開口に結合された圧力差発生装置、
を含む核酸分離精製ユニットを使用することが好ましい。
核酸分離精製ユニットのうち、(a)と(b)については、前記の核酸分離精製カートリッジと同様であるので、以下、核酸分離精製ユニットにおける当該個所についても、核酸分離精製カートリッジということがある。以下、この核酸分離精製ユニットについて説明する。
容器は、固相の収容部を持ち、収容部に固相を収容でき、固相が試料液等の吸引及び排出時に収容部の外へは出ることがなく、開口に圧力差発生装置を接合できればよい。このためには、容器が当初は二つの部分に分かれており、固相を収容した後で一体化できることが好ましい。また、固相の上下に核酸を汚染しない材料で作成されたメッシュを置くことができ、これにより固相が収容部から外へ出ることを避けることができ、好ましい。
容器は、通常、固相を収容する本体と、蓋体に分かれた態様で作製され、いずれにも少なくとも1個の開口が設けられている。開口は核酸を含む試料溶液、洗浄液及び回収液(以下、「試料溶液等」と記す。)の入口及び出口として使用され、又、容器内を減圧又は加圧状態にせしめうる圧力差発生装置に接続される。本体の形状に特に限定はないが、製造が容易で、試料溶液等が固相の全面に拡散し易くするには、断面を円形にすることが好ましい。断面を四角形にすることも、固相の裁断屑を発生させないために好ましい。
前記蓋は、圧力差発生装置によって容器内部を減圧及び加圧状態にできるように本体に接合されている必要があるが、この状態が達成できれば、接合方法は任意に選択できる。例えば、接着剤の使用、ねじ込み、はめ込み、ネジ止め、超音波加熱による融着等が挙げられる。
圧力差発生装置としては、注射器、ピペッタ、あるいはペリスタポンプのような吸引及び加圧が可能なポンプ等が挙げられる。これらの内、手動操作には注射器が、自動操作にはポンプが適している。また、ピペッタは片手操作が容易にできるという利点を有する。好ましくは、圧力差発生装置は、前記容器の一の開口に着脱可能に結合されている。
なお、容器に3以上の開口を設けた場合には、減圧及び加圧操作に伴う液の吸引及び排出を可能にすべく、余分の開口を一時的に封鎖する必要があることはいうまでもない。
本発明の核酸分離精製方法の第一実施態様は、以下の工程を含むことができる。
(1a) 検体を用いて核酸を含む試料溶液を調製し、固相を収容する少なくとも2個の開口を有する容器の一の開口を該試料溶液中に挿入する工程、
(1b) 固相を収容する少なくとも2個の開口を有する容器の他の開口に結合された圧力差発生装置を用いて容器内を減圧状態にして核酸を含む試料溶液を吸引し、固相に接触させる工程、
(1c) 前記他の開口に結合された圧力差発生装置を用いて容器内を加圧状態にし、吸引された核酸を含む試料溶液を容器外に排出する工程、
(1d) 前記一の開口を洗浄液に挿入する工程、
(1e) 前記他の開口に結合された圧力差発生装置を用いて容器内を減圧状態にして洗浄液を吸引し、固相に接触させる工程、
(1f) 前記他の開口に結合された圧力差発生装置を用いて容器内を加圧状態にし、吸引された洗浄液を容器外に排出する工程、
(1g) 前記一の開口を、回収液中に挿入する工程、
(1h) 前記他の開口に結合された圧力差発生装置を用いて容器内を減圧状態にして、回収液を吸引し、固相に接触させる工程、及び
(1i) 前記他の開口に結合された圧力差発生装置を用いて容器内を加圧状態にし、回収液を容器外に排出する工程。
(1b)、(1e)、(1h)の際に、固相のほぼ全体と接触する量の溶液を吸引することが好ましいが、圧力差発生装置内に吸引すると装置を汚染するので、適量に調整する。適量の溶液を吸引後、圧力差発生装置を用いて容器内を加圧して、吸引した液を排出する。この操作までに間隔を開ける必要はなく、吸引後直ちに排出してもよい。
上記の第一実施態様を行うための核酸分離精製ユニットの好ましい態様の一つとして、例えば、特開2004−180637号公報に記載されている核酸の分離精製装置が挙げられる。
第一実施態様を行うための核酸分離精製ユニットにおいては、圧力差発生装置に結合される開口に対向する固相の上には、ほぼ中央に穴を穿った部材を設けることが好ましい。この部材は、固相を押さえると共に、試料溶液等を効率よく排出する効果を有するものであり、液が中央の穴に集まる様に、漏斗状あるいはお椀状等の斜面を有する形状にすることが好ましい。この穴の大きさ、斜面の角度、部材の厚さは、処理する試料溶液等の量や固相を収容する容器の大きさ等を考慮して、当業者が適宜定めることができる。この部材と当該開口の間には、オーバーフローした試料溶液等を溜めて、圧力差発生装置内に吸引されることを防ぐための空間を設けることが好ましい。この空間の大きさも当業者が適宜選択することができる。なお、核酸を効率良く集めるためには、固相の全体が浸る以上の量の核酸を含む試料溶液を吸引することが好ましい。
また、吸引している開口の真下の部分にのみ試料溶液等が集中することを防いで、試料溶液等が固相内を比較的均一に通過できるようにするため、固相とこの部材の間にも空間を設けることが好ましい。このためには、当該部材から固相に向けて複数の突起物を設けることが好ましい。突起物の大きさや数は当業者が適宜選択することができるが、空間を保持しながら固相の開口面積をできる限り大きく保つことが好ましい。
本発明の核酸分離精製方法の第二実施態様は、以下の工程を含むことができる。
(2a) 検体を用いて核酸を含む試料溶液を調製し、固相を収容する少なくとも2個の開口を有する容器の一の開口に前記の核酸を含む試料溶液を注入する工程、
(2b) 前記一の開口に圧力差発生装置を結合し、容器内を加圧状態にし、注入した核酸を含む試料溶液を、固相を収容する少なくとも2個の開口を有する容器の他の開口より排出することによって、固相に接触させる工程、
(2c) 前記一の開口から圧力差発生装置を外し、核酸分離精製カートリッジの前記一の開口に洗浄液を注入する工程、
(2d) 前記一の開口に圧力差発生装置を結合し、容器内を加圧状態にし、注入した洗浄液を前記他の開口より排出することによって、固相に接触させる工程、
(2e) 前記一の開口から圧力差発生装置を外し、核酸分離精製カートリッジの前記一の開口に回収液を注入する工程、
(2f) 前記一の開口に圧力差発生装置を結合し、容器内を加圧状態にし、注入した回収液を前記他の開口より排出させることによって、固相に吸着された核酸を脱着させ、容器外に排出する工程。
前記の工程において、試料溶液を容器に添加する方法は、限定はされないが、ピペットやスポイトなどの実験用器具を使用するのが好ましい。これらの器具が、ヌクレアーゼフリーかつパイロジェンフリーであれば、より好ましい。
検体を混合する方法は、特に限定されない。例えば、混合する際、攪拌装置を使用する場合には30から3000rpmで1秒から3分間混合することが好ましい。これにより、分離精製される核酸収量を増加させることができ、好ましい。または、転倒混和の場合には5から30回行うことで混合することが好ましい。また、ピペッティング操作の場合には、10から50回行うことによって混合することが好ましい。
前記(2e)の工程の前に、(2d’)固相にDNA分解酵素溶液を接触させた後、洗浄液を用いて固相を洗浄する工程を行うことで、DNAとRNAを含む核酸混合物溶液からRNAのみを選択的に分離精製することもできる。DNA分解酵素溶液としては、特に限定無く、公知のいずれのDNaseも用いることが出来る。
前記の核酸分離精製方法に使用するための試薬を試薬キットとすることができる。試薬キットには、前記消泡剤、前処理液、洗浄液及び、回収液を含む。
本発明の核酸分離精製方法を行う態様の一例として、自動装置を用いて行うことも可能である。
以下に、固相、該固相を収容した少なくとも2個の開口を有する容器および圧力差発生装置を用いて、核酸を含む検体から核酸を分離精製する工程を自動で行う装置の例を示すが、自動装置はこれに限定されるものではない。
自動装置は、溶液が内部を通過可能な、核酸を吸着する固相を収容した少なくとも2個の開口を有する容器(核酸分離精製カートリッジ)を用い、該核酸分離精製カートリッジに核酸を含む試料液を注入し加圧して該試料液中の核酸を前記固相に吸着させた後、前記核酸分離精製カートリッジに洗浄液を分注し加圧して不純物を除去した後、前記核酸分離精製カートリッジに、回収液を分注し固相に吸着した核酸を脱着して回収液とともに回収する、分離精製動作を自動的に行う核酸分離精製装置であって、前記の核酸分離精製カートリッジ、前記試料液および洗浄液の排出液を収容する廃液容器および前記核酸を含む回収液を収容する回収容器を保持する搭載機構と、前記の核酸分離精製カートリッジに加圧エアを導入する加圧エア供給機構と、前記の核酸分離精製カートリッジに洗浄液および回収液を分注する分注機構とを備えてなることを特徴とするものである。
前記搭載機構は、装置本体に搭載されるスタンドと、該スタンドに上下移動可能に支持され前記の核酸分離精製カートリッジを保持するカートリッジホルダーと、該ホルダーの下方で前記の核酸分離精製カートリッジに対する位置を交換可能に前記廃液容器および前記回収容器を保持する容器ホルダーとを備えてなるものが好適である。
また、前記加圧エア供給機構は、下端部より加圧エアを噴出するエアノズルと、該エアノズルを支持して前記ホルダーに保持された前記の核酸分離精製カートリッジに対し前記エアノズルを昇降移動させる加圧ヘッドと、該加圧ヘッドに設置され前記搭載機構のラックにおける核酸分離精製カートリッジの位置決めをする位置決め手段とを備えてなるものが好適である。
また、前記分注機構は、前記洗浄液を分注する洗浄液分注ノズルと、前記回収液を分注する回収液分注ノズルと、前記洗浄液分注ノズルおよび前記回収液分注ノズルを保持し前記搭載機構においてカートリッジホルダーにより保持された前記の核酸分離精製カートリッジ上を順に移動可能なノズル移動台と、洗浄液を収容した洗浄液ボトルより洗浄液を吸引し前記洗浄液分注ノズルに供給する洗浄液供給ポンプと、回収液を収容した回収液ボトルより回収液を吸引し前記回収液分注ノズルに供給する回収液供給ポンプとを備えてなるものが好適である。
前記のような自動装置によれば、核酸分離精製カートリッジ、廃液容器および回収容器を保持する搭載機構と、核酸分離精製カートリッジに加圧エアを導入する加圧エア供給機構と、核酸分離精製カートリッジに洗浄液および回収液を分注する分注機構とを備え、前記固相部材を備えた核酸分離精製カートリッジに核酸を含む試料液を注入加圧し核酸を該固相部材に吸着させた後、洗浄液を分注して不純物を洗浄排出した後、回収液を分注して該固相膜部材に吸着した核酸を分離して回収する核酸分離精製工程を自動的に行って短時間で効率よく試料液の核酸を自動的に分離精製できる機構をコンパクトに構成することとができる。
また、前記搭載機構を、スタンドと、核酸分離精製カートリッジを保持する上下移動可能なホルダーと、廃液容器および回収容器を交換可能に保持する容器ホルダーとを備えて構成すると、核酸分離精製カートリッジおよび両容器のセット並びに廃液容器と回収容器の交換が簡易に行える。
また、前記加圧エア供給機構を、エアノズルと、該エアノズルを昇降移動させる加圧ヘッドと、核酸分離精製カートリッジの位置決めをする位置決め手段とを備えて構成すると、簡易な機構で確実な加圧エアの供給が行える。
また、前記分注機構を、洗浄液分注ノズルと、回収液分注ノズルと、核酸分離精製カートリッジ上を順に移動可能なノズル移動台と、洗浄液ボトルより洗浄液を吸引し洗浄液分注ノズルに供給する洗浄液供給ポンプと、回収液ボトルより回収液を吸引し回収液分注ノズルに供給する回収液供給ポンプとを備えて構成すると、簡易な機構で順次洗浄液および回収液の分注が行える。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)材料及び試薬
特開2004−180637号公報の図1〜図6に構造を示す核酸分離精製用ユニットを使用し、第2開口部側より試料、洗浄液、蒸留水を順次注入し、そのたびにピストン部材(ブランジャ)を挿入し、押した。また、核酸吸着固相としては、富士ミクロフィルターFR250(富士写真フイルム製)を使用した。前処理液(比較例および本発明)及び洗浄液は以下の通り調製した。
{前処理液(比較例)}
塩酸グアニジン(ライフテクノロジー製) 382g
Tris(ライフテクノロジー製) 12.1g
Triton−X100(ICN製) 10g
蒸留水 1000ml
{前処理液(本発明)}
塩酸グアニジン(ライフテクノロジー製) 382g
Tris(ライフテクノロジー製) 12.1g
Triton−X100(ICN製) 10g
アセチレングリコール(エアープロダクツ製)10g
シリコーンオイル(GE東芝シリコーン製) 2g
蒸留水 1000ml
{洗浄液}
10mmol/LTris−HCl 65%エタノール
(2)核酸分離精製操作
人全血試料200μlに、本発明の前処理液200μlとプロテアーゼK200μlを添加して、60℃で10分間インキュベートした。インキュベート後、エタノール200μlを加え、攪拌した。攪拌後、特開2004−180637号公報の図1〜図6に構造を示す核酸分離精製用ユニットにこの液を注入した。注入後、ピストンにて液を押し出した。
続いて、洗浄液500μlを注入し、ピストンにて液を押し出すことにより、ユニットおよび吸着固相上の不純物を洗浄した。最後に、蒸留水200μlを注入し、ピストンにて液を押し出して、この液をDNA溶液として回収した。
前処理液を比較例用の前処理液を使用した以外は、本発明と同様にして、核酸分離精製操作を行った。
(3)核酸の回収量の定量
(2)の操作により精製されたDNAの収量および泡沫高さ(試料溶液の排出際、開口部から発生する泡沫の長さを測定した数値)を以下の表1に示す。上記核酸分離精製ユニットにより、簡便に核酸分離精製操作ができ、また表1の結果から、得られるDNAの量は維持し、かつ本発明においては泡の発生量を抑制できることが分かった。
(1)核酸分離精製カートリッジの作成
内径7mm、固相として核酸吸着性の多孔性膜を収容する部分を持つ少なくとも2個の開口を有する容器をハイインパクトポリスチレンで作成した。
(2)核酸吸着性の多孔性膜として、トリアセチルセルロースの多孔性膜を鹸化処理した多孔性膜(孔径2.5μm、直径7mm、厚さ100μm、鹸化率95%)を使用し、前記(1)で作成した少なくとも2個の開口を有する容器の多孔性膜収容部に収容した。
(3)前処理液及び洗浄液の調製
以下に示す処方の前処理液及び洗浄液を調製した。
(前処理液)
β−メルカプトエタノール 9g
塩酸グアニジン(ライフテクノロジー社製) 382g
Tris(ライフテクノロジー社製) 12.1g
Triton−X100(ICN製) 10g
アセチレングリコール(エアープロダクツ製) 10g
シリコーンオイル(GE東芝シリコーン製) 2g
蒸留水 1000mlになるよう添加
(洗浄液)
10mM Tris−HCL 30%エタノール
(4)核酸分離精製操作
ガン化ヒト骨髄細胞(HL60)培養液を用意した。この培養液200μl(細胞数5×105個)をヌクレアーゼフリーかつパイロジェンフリーのチップ(プラチナチップBM機器社製)を装着した分注用ピペット(PIPETMAN ギルソン社製)を用いて、ヌクレアーゼフリーかつパイロジェンフリーの1.5mLマイクロチューブ(プラチナチューブ BM機器社製)の容器に注入し、前記前処理液200μlとタンパク質分解酵素のプロテアーゼK(SIGMA製)溶液20μlを添加してVORTEXを15秒かけることによって混合し、60℃で10分間インキュベートした。インキュベート後、エタノール200μlを加え、攪拌した。攪拌後、前記(2)で作成した核酸分離精製カートリッジの一の開口に注入し、続いて前記一の開口に圧力差発生装置(チュウビングポンプ)を結合し、核酸分離精製カートリッジ内を加圧状態(80kpa)にし、注入した核酸を含む試料溶液を、核酸吸着性の多孔性膜に通過させることで、核酸吸着性の多孔性膜に接触させ、核酸分離精製カートリッジの他の開口より排出した。続いて、前記核酸分離精製カートリッジの前記一の開口に洗浄液を注入し、前記一の開口にチュウビングポンプを結合し、核酸分離精製カートリッジ内を加圧状態(80kpa)にし、注入した洗浄液を、核酸吸着性の多孔性膜に通過させ、他の開口より排出した。続いて、前記核酸分離精製カートリッジの前記一の開口に回収液を注入し、核酸分離精製カートリッジの前記一の開口にチュウビングポンプを結合して核酸分離精製カートリッジ内を加圧状態(80kpa)にし、注入した回収液を、核酸吸着性の多孔性膜に通過させ、他の開口より排出し、この液を回収した。核酸分離精製操作(核酸を含む試料溶液を前記の核酸分離精製カートリッジに注入してから回収するまで)に要した時間は2分であった。
(5)核酸の回収量の定量
実施例1の実験を行った。図1に、本発明の方法に従って核酸を含む試料溶液から精製した核酸の電気泳動の結果を示す。
図1の結果から明らかなように、本発明の方法を用いることにより、核酸を極めて効率よく、分離精製できることが分かる。すなわち、本発明の方法は、分離性能に優れ、洗浄効率がよいために、前記した時間で、迅速に収量高く、核酸を得ることができた。
本発明の方法に従って分離精製した核酸および分子量マーカーを電気泳動して得られた図である。

Claims (36)

  1. (1)核酸を含む試料溶液を固相に接触させて、該固相に核酸を吸着させる工程、
    (2)洗浄液を該固相に接触させて、核酸が吸着した状態で該固相を洗浄する工程、及び
    (3)回収液を該固相に接触させて、該固相から核酸を脱着させる工程
    を含有する核酸分離精製方法において、
    核酸を含む試料溶液が少なくとも一種の消泡剤を含むことを特徴とする核酸分離精製方法。
  2. 核酸を含む試料溶液が、さらに核酸安定化剤、カオトロピック塩、界面活性剤、緩衝剤およびタンパク質分解酵素の中から選ばれる少なくとも一つを含む前処理液を添加、混合して得られる、請求項1に記載の核酸分離精製方法。
  3. 核酸を含む試料溶液が、さらに水溶性有機溶媒を添加して得られる、請求項1または2に記載の核酸分離精製方法。
  4. 消泡剤が、シリコン系消泡剤及びアルコール系消泡剤から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1〜3の何れかに記載の核酸分離製精方法。
  5. 前処理液中、核酸安定化剤が0.1〜20質量%の濃度で使用される、請求項2に記載の核酸分離精製方法。
  6. 核酸安定化剤が、還元剤であることを特徴とする請求項2に記載の核酸分離精製方法。
  7. 還元剤がメルカプト化合物であることを特徴とする請求項6に記載の核酸分離精製方法。
  8. 核酸安定化剤が、キレート剤であることを特徴とする請求項2に記載の核酸分離精製方法。
  9. カオトロピック塩がグアニジウム塩である請求項2に記載の核酸分離精製方法。
  10. 水溶性有機溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、およびブタノールから選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項3に記載の核酸分離精製方法。
  11. 固相がシリカもしくはその誘導体、珪藻土、又はアルミナを含有する固相である、請求項1〜10の何れかに記載の核酸分離精製方法。
  12. 固相が有機高分子を含有する固相である、請求項1〜10の何れかに記載の核酸分離精製方法。
  13. 有機高分子が、多糖構造を有する有機高分子である、請求項12に記載の核酸分離精製方法。
  14. 有機高分子が、アセチルセルロースである、請求項12又は13に記載の核酸分離精製方法。
  15. 有機高分子が、アセチルセルロースまたはアセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理した有機高分子である、請求項12又は13に記載の核酸分離精製方法。
  16. アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理した有機高分子の鹸化率が5%以上である、請求項15に記載の核酸分離精製方法
  17. アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理した有機高分子の鹸化率が10%以上である、請求項15に記載の核酸分離精製方法
  18. 有機高分子が、再生セルロースである、請求項12に記載の核酸分離精製方法。
  19. 固相が多孔性膜である、請求項11〜18の何れかに記載の方法。
  20. 多孔性膜が表裏非対称性の多孔性膜である、請求項19に記載の方法。
  21. 多孔性膜が平均孔径0.1〜10.0μmの多孔性膜である、請求項19又は20に記載の方法。
  22. 多孔性膜が厚さ10〜500μmの多孔性膜である、請求項19〜21の何れかに記載の方法。
  23. 固相が非孔性である、請求項11〜18の何れかに記載の方法。
  24. 固相が、コーティングされたビーズである、請求項11〜23の何れかに記載の方法。
  25. ビーズが磁性ビーズである、請求項24に記載の方法。
  26. 少なくとも2個の開口を有する容器内に固相を収容した核酸分離精製カートリッジを用いて核酸の吸着及び脱着を行う、請求項1〜25の何れかに記載の核酸分離精製方法。
  27. (a) 固相、
    (b) 前記固相を収容する少なくとも2個の開口を有する容器、及び
    (c) 前記容器の一の開口に結合された圧力差発生装置
    を含む核酸分離精製ユニットを用いて核酸の吸着及び脱着を行う、請求項1〜26の何れかに記載の核酸分離精製方法。
  28. 圧力差発生装置が加圧の装置である、請求項27に記載の核酸分離精製方法。
  29. 圧力差発生装置が減圧の装置である、請求項27に記載の核酸分離精製方法。
  30. 圧力差発生装置が、容器の一の開口に着脱可能に結合されている、請求項27〜29の何れかに記載の核酸分離精製方法。
  31. (2a) 検体を用いて核酸を含む試料溶液を調製し、固相を収容する少なくとも2個の開口を有する容器の一の開口に前記の核酸を含む試料溶液を注入する工程、
    (2b) 前記一の開口に結合された圧力差発生装置を用いて容器内を加圧状態にし、注入した核酸を含む試料溶液を、固相を収容する少なくとも2個の開口を有する容器の他の開口より排出することによって、固相に接触させることで、核酸を固相に吸着させる工程、
    (2c) 前記一の開口から圧力差発生装置を外し、前記一の開口に洗浄液を注入する工程、
    (2d) 前記一の開口に結合された圧力差発生装置を用いて容器内を加圧状態にし、注入した洗浄液を前記他の開口より排出することによって、固相に接触させることで、固相を洗浄する工程、
    (2e) 前記一の開口から圧力差発生装置を外し、前記一の開口に回収液を注入する工程、
    (2f) 前記一の開口に結合された圧力差発生装置を用いて容器内を加圧状態にし、注入した回収液を前記他の開口より排出させることによって、固相に吸着された核酸を脱着させ、容器外に排出する工程
    を含む、請求項27又は28に記載の核酸分離精製方法。
  32. (2e)の工程の前に、(2d’)固相にDNA分解酵素溶液を接触させた後、洗浄液を用いて固相を洗浄する工程を行うことを含む、請求項31に記載の核酸分離精製方法。
  33. 洗浄液が、メタノール、エタノール、イソプロパノール又はn−プロパノールを20〜100質量%含む溶液である、請求項1〜32に記載の核酸分離精製方法。
  34. 固相から核酸を脱着させる回収液が、塩濃度が0.5mol/L以下の溶液である、請求項1〜33の何れかに記載の核酸分離精製方法。
  35. 請求項1〜34の何れかに記載された方法を行うための試薬キット。
  36. 請求項1〜34の何れかに記載された方法を行うための装置。
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